邦題 『剣より強し―クリフトン年代記 第5部―』上下
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 Mightier Than the Sword(2015)
訳者 戸田裕之
出版社 新潮社
出版年 2016/7/1
面白度 ★★
主人公 群像劇なので主人公は一人でない。主な人物は、作家のハリー・クリフトンと彼の妻でバリントン海運会長のエマ、エマの兄で下院議員のジャイルズ・バリントン、そしてハリーとエマの一人息子セバスティアンの4人。
事件 客船爆破事件の後、ハリーはシベリア収容所に幽閉されているロシア人ババコフを救出する決心をし、単身モスクワに向かった。一方エマは名誉棄損訴訟の法廷に立つが……。
背景 <クリフトン年代記>の第5部。主として1970年に起きた二つの事件を扱っている。ストーリー・テラーの名手だけに、上下巻の本作もスラスラ読めてしまうのは利点。とはいえ主事件の解決をぼやかしたまま第6部に続くという物語構成は、厳しく言えば詐欺的行為か?

邦題 『怪盗紳士モンモランシー』
原作者 エレナー・アップデール
原題 Montmorency(2003)
訳者 杉田七重
出版社 東京創元社
出版年 2016/8/12
面白度 ★★
主人公 泥棒のモンモランシー。泥棒をする時の別名はスカーパー。
事件 1875年、モンモランシーは警察から逃げる際に屋根から落ちて重傷。外科医ファーセットの治験の被験者となり、最新治療のおかげで一命をとりとめた。服役中に得た地下下水道の知識を利用し、出所後は昼間は紳士、夜は泥棒として活動するが……。
背景 モンモランシー・シリーズの第一作。ルパン的な話を、21世紀の作者が洗練された筆致で描いた冒険小説。クリスティの『ビッグ4』と同じく、連作短編を長編に書き直したような構成で、短いエピソードを次々と繋げている。したがってモンモランシーが単なる泥棒から怪盗紳士へと進化する成長小説になっている。まあ、シリーズ物の序章編に位置付けられよう。

邦題 『怪盗紳士モンモランシー2』
原作者 エレナー・アップデール
原題 Montmorency on the Rocks()
訳者 杉田七重
出版社 東京創元社
出版年 2016/
面白度
主人公 

事件 


背景 



邦題 『マトリョーシカと消えた死体』
原作者 ケイト・アトキンソン
原題 One Good Turn(2006)
訳者 青木純子
出版社 東京創元社
出版年 2016/7/29
面白度 ★★★★★
主人公 シリーズ物の主人公は私立探偵ジャクソン・ブロディ。本作の実質的な主人公は、ミステリー作家のマーテイン・キャニング。私立学校の教師から転身した中年独身男性。
事件 ブロディは、恋人で女優のジュリアがエディンバラの芸術祭に参加するとかで、フランスから駆け付けた。だがそこでドライヴァー同士の喧嘩を目撃。なんとマーティンは、一人が野球のバットで殴打しているとき、被害者を助けようとPC入りのバッグを投げつけたのだ!
背景 ブロディ・シリーズ第2弾。前作もそうであったが、純文学系作家でありながら、実に達者で読みやすいミステリーに仕上げている。事件の捜査だけに拘るのではなく、事件に係る人物の奥底にある秘密を巧みに暴いていく。その手腕というか話術は実に上手いものである。

邦題 『幻の屋敷』
原作者 マージェリー・アリンガム
原題 Safe as Houses and Other Stories(1938他)
訳者 猪俣 美江子
出版社 東京創元社
出版年 2016/8/19
面白度 ★★★
主人公 1900年生まれの私立探偵アルバート・キャンピオン。つややかな黄色い髪に長身、痩せ細って青白い顔にいつも馬鹿でかい角縁眼鏡をかけている。
事件 日本独自の短編集で、11本の短編と1本のエッセイからなっている。「綴られた名前」「魔法の帽子」「幻の屋敷」「見えないドア」「極秘書類」「キャンピオン氏の幸運な一日」*「面子の問題」*「ママは何でも知っている」*「ある朝、絞首台に」「奇人横丁の怪事件」*「聖夜の言葉」「年老いた探偵をどうすべきか」* 後ろに*印のあるものは初訳。
背景 「キャンピオン氏の事件簿U」という副題。謎の魅力というより、語り口の上手さとキャンピオンの性格の良さで読ませる短編集。いかにも英国女性作家の作品らしい。

邦題 『クリスマスの朝に』
原作者 マージェリー・アリンガム
原題 On Christmas Day in the Morning and Other Writings(1937 1950)
訳者 猪俣美江子
出版社 東京創元社
出版年 2016/11/30
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのアルバート・キャンピオン。中編の事件では36歳になっている。
事件 中編1本「今は亡き豚野郎の事件」(初訳。珍しい点はキャンピオンの一人称で語られていることだが、従者ラッグとの掛け合いが面白い)と短編1本「クリスマスの朝に」(いかにもクリスマス・ストーリーといった心温まる物語)、そしてクリスティの追悼文「マージェリー・アリンガムを偲んで」(彼女の特徴は幻想性と現実感が混在、と指摘)の3本からなる。
背景 日本独自に編集された「キャンピオン氏の事件簿」の第三弾。中・短編はロンドンから80マイル離れた東サフォーク州キープセイク村近辺が舞台になっている。中編は謎解きのある冒険小説で、冒険小説的部分は巧みに作られているだけに、謎解きが凡庸なのは残念。

邦題 『埋葬された夏』
原作者 キャシー・アンズワース
原題 Weirdo(2016)
訳者 三角和代
出版社 東京創元社
出版年 2016/5/20
面白度 ★★★
主人公 現在と過去の物語が交互に進行していく。現在(2003年)の物語の主人公は私立探偵ショーン・ウォードだが、過去(1983-84年)の物語には主人公はいない。
事件 1984年6月、英国の海辺の町アーネマスで16歳の少女が殺人容疑で逮捕された。彼女は町の”異分子”だったこともあり、治療施設に収容された。そして20年後、当時の証拠品から未知のDNAが見つかり、再捜査のためショーンが派遣されたのだった。
背景 本邦初紹介作家の作品。現在の物語は私立探偵小説風な、そして過去の物語はホラー青春ミステリー的な語り口だが、しだいに二つの物語は一つの結末に収束していく。ミステリーとしての意外性は少ないが、丹念な描写で地方都市の犯罪を巧みに描いている。

邦題 『イーヴリン・ウォー傑作短篇集』
原作者 イーヴリン・ウォー
原題 The Selected Short Stories(日本独自の編纂)
訳者 高儀進
出版社 白水社
出版年 2016/7/25
面白度 ★★★★
主人公 15本の短編からなる日本独自に編纂された短編集。
事件 「良家の人々」「<ザ・クレムリン>の支配人」「不況期の恋」「お人好し」「現実への短い旅」「アザニア島事件」*「ベラ・フリース、パーティーを開く」「ディケンズ好きの男」*「昔の話」「見張り」「ラヴデイ氏のちょっとした遠出」*「勝った者がみな貰う」「イギリス人の家」「気の合う同乗者」*「戦術演習」*の15本。
背景 *印をつけた短編はミステリー的作品。「ラヴデイ氏の――」はあまりに有名か。ウォーの日記に「簡素な生活の喜びと悲しみ……喜びーアガサ・クリスティーの新作の出だしが快調の時……悲しみーミセス・クリスティの小説が三分の一辺りで戯言に堕してしまう時」とある。

邦題 『黄昏の彼女たち』上下
原作者 サラ・ウォーターズ
原題 The Paying Guests(2014)
訳者 中村有希
出版社 東京創元社
出版年 2016/1/19
面白度 ★★★★
主人公 お嬢様と言われる身分の独身女性フランシス・レイと彼女の住む屋敷の下宿人であるバーバー氏の若妻リリアン・バーバー。二人は同性愛者でもある。
事件 時は1922年、所はロンドン近郊のレイ家。母と二人で暮らすフランシスは、大戦後の経済的理由で下宿人をおくことにした。応募してきたのはバーバー夫妻であったが、やがてフランシスとリリアンは「禁断の愛」に陥ると、そこに殺人事件が起こり……。
背景 著者の6冊目(邦訳は5冊目)の作品。終盤に裁判場面が登場したり、一応警察が殺人事件の捜査を行うものの、ミステリー的興味は少ない。狙いはレスビアンの恋の成就と、殺人によりその恋がどうなるかというサスペンス。時代描写や語り口は巧みで、一気に読んでしまう。

邦題 『J・G・リーダー氏の心』
原作者 エドガー・ウォーレス
原題 The Mind of Mr. J.G.Reeder(1925)
訳者 板垣節子
出版社 論創社
出版年 2016/8/30
面白度 ★★★
主人公 公訴局長官事務所に所属のリーダー。52歳の独身。鼻眼鏡と雨傘を常に携帯。自分の中に”犯罪者の心、悪の心”があるために、犯人の考えが分かるという。
事件 8本の短編「詩的な警官」「宝さがし」「一味」「大理石泥棒」「究極のメロドラマ」「緑の毒ヘビ」「珍しいケース」「投資家たち」からなる短編集。
背景 『正義の四人』で知られる著者の短編集。何人かの探偵を創造しているが、本書は、短編集の路標的名作リスト<クイーンの定員>のNo.72に選ばれている(最初の2作には既訳あり)。確かに「詩的な警官」は結末の意外な謎が楽しめるが、その他の作品はリーダーと犯罪者(集団)との緊迫感のある対決で読ませるので、基本的にはスリラーとしての面白さか。

邦題 『死者は語らずとも』
原作者 フィリップ・カー
原題 If the Dead Rise Not(2009)
訳者 柳沢伸洋
出版社 PHP文庫
出版年 2016/9/23
面白度 ★★★★
主人公 第一部(1934年のベルリンが舞台)では、元ベルリン刑事警察殺人課の刑事ベルニー・グンターで、アドロン・ホテルの警備員をしている。第二部(1954年のハバナが舞台)では、カルロス・ハウスナーと名乗り、葉巻販売会社を経営している。
事件 2年後のオリンピック開催を控えたベルリン。グンターの前に米国の女性作家が現れる。彼女は五輪会場建設の不正を追うためにグンターを雇うが、さまざまな殺人にぶつかり……。
背景 「ベルリン三部作」が評判のグンター・シリーズの新シリーズ第三作。新シリーズでは初めて戦前のドイツが舞台となり、解決編は革命前の腐敗したキューバが舞台。このドイツ編が面白く、グンターにはやはり戦前のドイツがよく似合う。強いて欠点を挙げれば長すぎることか。

邦題 『謀略監獄』
原作者 ヘレン・ギルトロウ
原題 The Distance(2014)
訳者 田村義進
出版社 文藝春秋
出版年 2016/1/15
面白度 ★★★
主人公 犯罪のサポートと情報の売買が仕事の女性カーラ。シャーロット・オールトンなどいくつかの別名を持つ。もう一人は殺し屋のサイモン・ジョハンセン。
事件 カーラに持ち込まれた依頼は、頻発する刑務所の暴動に手を焼いた英国政府が作った新しい矯正施設<プログラム>に潜入して、ある人間を抹殺すること。だがこの施設は二重の壁に囲まれ、元ギャングが支配し受刑者による自治が行なわれている街。果たして潜入できるのか?
背景 長らく構想を温めていた著者の待望の第一作。現実離れした設定の<プログラム>がユニーク。さらに主人公の職業が興味深い。色仕掛けなど利用しないのは立派だが、プロットが理解しずらいのと語り口が真面目すぎるのが欠点。もう少し”遊び”が欲しかった。

邦題 『灯火管制』
原作者 アントニー・ギルバート
原題 Death in the Blackout(1943)
訳者 友田葉子
出版社 論創社
出版年 2016/6/30
面白度 ★★★
主人公 探偵役は刑事弁護士のアーサー・クルック。口は悪いが憎めない性格。中年の独身。相棒は元宝石泥棒のビル・パーソンズ。
事件 時はドイツがロンドン市を空襲し始めた1940年代始め。幸いにもクルックの住む建物は被害を免れたが、灯火管制による暗闇の影響か、クルックのフラットの下に住む住人が行方不明になったり、その建物内で彼の叔母の他殺死体が見つかったりしたのだ!
背景 著者(男性名義だが)は、クリスティやロラック同じく英国コリンズ社から多数のミステリーを出している同時代の女性作家。本国の評価は高いものの邦訳は本書で4冊目。クリックの個性や会話は楽しいものの、本書では謎が複雑すぎて、かえって作者の手の内が見えてしまう。

邦題 『堆塵館』
原作者 エドワード・ケアリー
原題 Heap House(1914)
訳者 古屋美登里
出版社 東京創元社
出版年 2016/9/30
面白度 ★★
主人公 堆塵館に住む15歳のクロッド・アイアマンガーと16歳のルーシー・ペナント。前者は物が発する声が聞こえる超能力者で、後者はアイアマンガー家の遠縁にあたる召使い。
事件 時は1875年11月、舞台はロンドン郊外の巨大なゴミ山に建つ地上7階、地下6階の堆塵館。そこには何代ものアイアマンガーたちが純血な者は地上で、そうでない者は地下で暮らしている。ある日クロッドの叔母が大切にしている「ドアの把手」が紛失したために……。
背景 デビュー作『望楼館追想』(2002)を英国ミステリーに入れたので、邦訳第3弾の本書も取り上げてみた。登場人物たちの挿絵入りで、十代の読者を対象としたようだが、大人が読んでも、まあ楽しめないことはない。ヘンな小説(冒険小説というよりファンタジーに近いか)。

邦題 『パンドラの少女』
原作者 M・R・ケアリー
原題 The Girl with All the Gifts(2014)
訳者 茂木健
出版社 東京創元社
出版年 2016/4/28
面白度 ★★★
主人公 メラニーという名の十歳の少女。ヒトの脳に寄生するキノコを病原体とする奇病に罹っているが、同じ奇病に罹っている<餓えた奴ら>とは異なり、脳は正常である。
事件 舞台は奇病が爆発的に蔓延し、世界が<大崩壊>してから20年後。ロンドン北の軍事基地では、この奇病を解明するため、奇跡の少女メラニーらを含む子供たちが研究対象となっていた。しかし<餓えた奴ら>が襲撃、メラニーは教師や兵士らと逃げるが……。
背景 世界の終末を舞台にしたSFホラー。今年は英国ミステリー作品が少ないので、ついついリストに入れてしまった。ミステリーとしての謎解きはラフなもので、著者のご都合主義が透けて見えるが、ラストの処理はいかにもSF的な印象深いものになっている。

邦題 『ウィルソン警視の休日』
原作者 G・D・H&M・コール
原題 Superintendent Wilson's Holiday(1928)
訳者 板垣節子
出版社 論創社
出版年 2016/1/30
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁警視のヘンリー・ウィルソンだが、のちに私立探偵となる。私生活については、30年近く警察に務めていた程度しかわからない。
事件 8本の短編が収録されている。「電話室にて」*(『世界短編傑作集2』に既訳あり)「ウィルソンの休日」*(『クイーンの定員U』に既訳あり)「国際的社会主義者」「フィリップ・マンスフィールドの失踪」「ボーデンの強盗」「オックスフォードのミステリー」「キャムデン・タウンの火事」*「消えた准男爵」。なお*印は警視時代の事件。
背景 著者名は夫婦合作だが、本当に共同で執筆したかは不明。ウィルソンは実に地味な探偵だが、好感の持てる人物。切れ味は鋭くないもののそこそこ楽しめる。

邦題 『蛇の書』
原作者 ジェシカ・コーンウェル
原題 The Serpent Papers(2015)
訳者 宇佐川晶子
出版社 早川書房
出版年 2016/8/15
面白度 ★★★★
主人公 物語は現在から過去へたびたび飛ぶが、現在の事件解明に携わるのは若き古書学者の英国人女性アナ・ヴェルコールと元カタルーニャ自治州警察警部マネル・ファブレガード。
事件 2003年6月、バルセロナで若い女性が次々と殺された。死体が見つかる前に警部に不可解な手紙が送られ、死体には謎の文字や絵が刻まれ、舌が切り取られていた。10年後、アナは偶然古書の中に連続殺人事件との接点を発見し、元警部と再捜査を始めるが……。
背景 ル・カレの孫娘の一人が書いたそうだ。物語の背景には錬金術や羊皮紙の古書の話があり、前半は興味のない人間には退屈だが、現在の事件の謎を解明する過程はサスペンスに富んでいる。欠点はあるものの、新人の意欲と創造性はそれなりに評価できる。

邦題 『九つの解決』
原作者 J・J・コニントン
原題 The Case with Nine Solutions(1928)
訳者 渕上痩平
出版社 論創社
出版年 2016/7/30
面白度 ★★
主人公 ウェスターヘイブンの警察本部長クリントン・ドリフィールド。事件の直接の担当はフランボロー警部。
事件 深い霧の夜、往診中の代診医は誤って隣家に入りこみ、瀕死の男を見つけた。男は胸を銃で撃たれていて、間もなく死亡。だが正しい往診先でも女中が殺されていた。さらに往診先の家人の妻が毒殺されているのが見つかった。二人は不倫中だったという噂もあり……。
背景 戦前の雑誌「新青年」に抄訳が載ったが、今回が完訳。推理作家鮎川哲也が1985年の「文春翻訳ベストテン」に選んでいた。著者は大学の化学の教授で、典型的なパズル小説といってよい。どうしても「人間が描けていない」と批判したくなる。三角関係の描写などは下手。

邦題 『ウィルキー・コリンズ短編選集』
原作者 ウィルキー・コリンズ
原題 Selected Short Stories of Wilkie Collins(日本独自の編纂)
訳者 北村みちよ
出版社 彩流社
出版年 2016/2/29
面白度 ★★★
主人公 日本独自の編纂による短編集。
事件 長めの短編5本「アン・ロッドウェイの日記」(被害者の手の中にあった切れ端から……)*「運命の揺りかごーヘビーサイズ氏の切ない物語ー」「巡査と料理番」(短剣の銘から犯人が……)*「ミス・モリスと旅の人」「ミスター・レペルと家政婦長」よりなる。後に*印のある短編はミステリーと考えてよい。
背景 コリンズのストーリー・テラーとしての才能がよくわかる短編集。女性が主人公で活躍する話が多いし、心温まる結末の作品も多い。クリスマス・ストーリーとして創作されたからだが、『白衣の女』の著者は、女性にかなりな人気があったことをうかがわせる。

邦題 『スパイの忠義』
原作者 サイモン・コンウェイ
原題 A Loyal Spy(2010)
訳者 熊谷千寿
出版社 早川書房
出版年 2016/11/25
面白度 ★★★
主人公 ”局(ザ・デパートメント)”と呼ばれる英国秘密情報機関の諜報員ジョーナ・サイードと彼の恋人ミランダ。サイードはアラブ系英国人。
事件 サイードはテロ組織に殺されそうになったが、彼を救ったのはノアだった。実はノアはサイードの情報源として働いていたが、アフガン情勢の変化で、ノアが局にとって危険な存在となっていたため、彼を殺したはずだったのだ。その過程でミランダと恋に落ちたが……。
背景 『北海の女豹』に続く邦訳第二弾で、2010年のCWAイアン・フレミング賞受賞作。アフガニスタンやイラク情勢を背景にしたスパイ小説。過去と現在の事件が交錯する前半は読みにくいが、ロンドンにテロが迫る後半はサスペンスが盛り上がる。英国スパイ小説の伝統を感じる。

邦題 『人形つくり 』
原作者 サーバン
原題 Ringstones and The Dollmaker(1951 1953)
訳者 館野 浩美
出版社 国書刊行会
出版年 2016/5/25
面白度 ★★★
主人公 「リングストーンズ」では、女子大生で家庭教師として雇われる語り手のダフニ。「人形つくり」では、女子寄宿学校生の18歳の少女クレアと近くの森に住む地主の息子で、趣味が人形つくりという若者ニール。
事件 2本の中編からなる日本独自の作品集。前者は一種の枠物語の形式を踏襲している。両作品ともホラー小説といえなくもないが、端正な文章はいかにも英国文学らしい雰囲気を持つ。
背景 著者は長い間謎の作家だったらしい(実際は外交官)。筆名はペルシャ語で「語り部」を意味するそうだ。支配や束縛といったモチーフへの関心度は、確かにエンタメ・ホラーとは一線を画していることがわかる。「人形つくり」だけなら★4つか。

邦題 『けだものと超けだもの』
原作者 サキ
原題 Beasts and Super-Beasts(1914)
訳者 和爾桃子
出版社 白水社
出版年 2016/1/20
面白度 ★★★★
主人公 著者の第4短編集で、36本の短編を収録。クローヴィスも少し登場する。
事件 題名のみ。「女人狼」「ローラ」「大豚と私」「荒ぶる愛馬」「雌鶏」「開けっぱなしの窓」「沈没船の秘宝」「蜘蛛の巣」「休養にどうぞ」「冷徹無比の手」「出たとこ勝負」「シャルツーメッテルクルーメ方式」「七羽めの雌鶏」「盲点」「黄昏」「迫真の演出」「テリーザちゃん」「ヤルカンド方式」「ビザンチン風オムレツ」「復讐記念日」「夢みる人」「マルメロの木」「禁断の鳥」「賭け」「クローヴィスの教育論」「休日の仕事」「雄牛の家」「お話上手」「鉄壁の煙幕」「ヘラジカ」「はい、ペンを置いて」「守護聖人日」「納戸部屋」「毛皮」「事前志願者と満足した猫」「お買い上げは自己責任で」。
背景 登場人物には嘘つきが圧倒的に多い。

邦題 『ガール・セヴン』
原作者 ハンナ・ジェイミスン
原題 Girl Seven(2013)
訳者 高山真由美
出版社 文藝春秋
出版年 2016/8/10
面白度 ★★
主人公 語り手の私である石田清美。21歳。父が日本人で母がイギリス人のハーフで、通称セヴン。ロンドンのストリップ・クラブ<アンダーグラウンド>のホステス。殺し屋マーク・チェスターやクラブ経営者に気に入られている。
事件 セヴンの家族は何者かに惨殺された。ホステス業についた時、マークから家族を殺した人間を探してみると提案される。ずるずると暗黒街の闇に引き込まれるが……。
背景 女性が女性のために書いたようなノワール。文体は読みやすく惹き込まれるものの、いかんせん主人公の行動が男性には理解しがたく、感情移入できない。ミステリーのプロットがご都合主義で、犯人探しという魅力的な謎が生かされていないこととも関係しているはずだ。

邦題 『10の奇妙な話』
原作者 ミック・ジャクソン
原題 Ten Sorry Tales(2005)
訳者 田内志文
出版社 東京創元社
出版年 2016/2/12
面白度 ★★★
主人公 10本の短編を集めた短編集。乱歩の言う「奇妙な味」の短編とは一味違う。
事件 「ピアース姉妹」「眠れる少年」「地下をゆく舟」「蝶の修理屋」「隠者求む」「宇宙人にさらわれた」「骨集めの娘」「もはや跡形もなく」「川を渡る」「ボタン泥棒」の10本。
背景 原題どおりの奇妙な話より、哀れな話の方が多い。これは訳者あとがきにあるように、著者が「読めば分かるし、楽しめる」本が溢れていることに反発しているからであるかもしれない。ラストのあざやかな切れ味で勝負する作品は少なく、むしろ鈍い切れ味で、平凡な終わり方の短編が多い。とはいえ「ピアース姉妹」はミステリー・ファンには多いに楽しめるし、「蝶の修理屋」の詩情や「ボタン泥棒」のユーモアには感心した。

邦題 『61時間』上下
原作者 リー・チャイルド
原題 61 Hours(2010)
訳者 小林宏明
出版社 講談社
出版年 2016/7/15
面白度 ★★★
主人公 家も車も持たず米国中放浪の旅を続ける元軍警察捜査官ジャック・リーチャー。
事件 米国中西部サウスダコタの豪雪の町ボルトンで、リーチャーはバス事故に巻き込まれた。地図では小さな町だが、その事故で副署長の家に宿泊したリーチャーは、国際的な覚醒剤密売組織を殲滅できる証人を保護して欲しいと要請されたのだ。確かにこの町には覚醒剤を密造する隠された場所があるようだ。組織の黒幕がボルトンへ着くまでに見つけなければならない!
背景 リーチャー・シリーズの原書は21作あり、邦訳は7冊目となる(全体の1/3が訳出)。謎は、証人を狙う刺客は誰であり、覚醒剤が何処に隠されているかだが、両者とも単純。とはいえ冒険小説としては簡潔な語り口がサスペンスを高め、相変わらず安心して楽しめる。

邦題 『ネバー・ゴー・バック』上下
原作者 リー・チャイルド
原題 Never Go Back(2013)
訳者 小林宏明
出版社 講談社
出版年 2016/11/15
面白度 ★★★
主人公 家も車も持たず米国中放浪の旅を続ける元軍警察捜査官ジャック・リーチャー。今回は『61時間』に初登場した第110特別部隊の前部隊長スーザン・ターナーも活躍する。
事件 ターナーに会うため、サウス・ダコタからワシントンDCに入ったリーチャーは、第110特別部隊に戻ったものの、16年前の傷害致死と不貞行為の嫌疑で拘束された。一方ターナーも資金流用で拘留されていた。身に覚えのない罪を背負った二人は営倉を脱出し……。
背景 リーチャー・シリーズの邦訳8冊目。相変わらず謎を絡めた冒険小説は、スラスラ読めて楽しめる。ただし今回の冒頭の謎はあまりに奇抜すぎて、さすがの著者も収束に苦労したようだ。終わってみればあっけない結末で、頭でっかちなプロットと言えそうだ。

邦題 『虚構の男』
原作者 L・P・デイヴィス
原題 The Artificial Man(1965)
訳者 矢口誠
出版社 国書刊行会
出版年 2016/5/25
面白度 ★★★
主人公 いないが、前半は、小説家のアラン・フレイザーといえようか。
事件 時は1966年。アランは50年後(2016年!)を舞台にしたSF小説を書き始めた。生活費を稼ぐためだが、隣人のアイディアに乗ったためでもあった。だが執筆に疲れたある日、村を散策していると一人の女に出会った。この村をまったく別名の村と勘違いしているのだが……。
背景 『忌まわしき絆』に続く大人向け訳書の第二弾。いかにも英国ミステリーらしく、最初は谷間の小村にすむ独身小説家の日常生活が淡々と描かれている。だが女に出会ったことから物語は唖然とする展開になる。SF、ミステリー、ホラーのジャンル混沌小説。著者は「一見解決不可能な謎を読者に差し出すとき、いつもフェアプレイ」だそうだが、こんな謎は絶対に解けない!

邦題 『緑の髪の娘』
原作者 スタンリー・ハイランド
原題 Green Grow the Tresses-O(1965)
訳者 松下祥子
出版社 論創社
出版年 2016/10/30
面白度 ★★★
主人公 西ヨークシャー州ラッデン警察の警部アーサー・サグデンと刑事シドニー・トードフ。レジナルド・ヒルのダルジールとパスコーの先輩にあたるようなコンビ。
事件 ラッデンの手織物工場で、イタリア人女性の工員の死体が見つかった。驚いたことに、自慢の豊かな金髪は切り落とされ、その束ねられた髪と遺体は染色桶に入れられて茹でられ、緑色に染まっていた。遺品の中からは暗号メッセージが出て来て……。
背景 『国会議事堂の死体』(1958年)でデビューした著者の第二弾。専業作家ではないので、生涯で3作しか刊行していない。クリスピン流のユーモア・ミステリーだが、古本の知識がプロットに巧みに組み入れられている。人物描写の描き分けが不十分なのは、非専業作家の限界か?

邦題 『視える女』
原作者 ベリンダ・バウアー
原題 The Shut Eye(2015)
訳者 満園真木
出版社 小学館
出版年 2016/8/10
面白度 ★★★
主人公 ルイシャム署殺人課の警部ジョン・マーヴェル。本事件後にトーントン警察に移動し、『ダークサイド』(著者の第2作)の事件を担当した。
事件 ロンドン南東部の下町で、4歳の少年が突然姿を消した。心を病んだ母親を助けたのはジョンだが、彼も一年前に消えた少女の事件に苦闘していた。霊能者の手を借りたものの、役に立たなかったからだ。しかしその母親が交霊会に参加すると、その後不思議な声や光景が……。
背景 第一作『ブラックランズ』でCWA賞を取った著者の第6作。本書もCWA賞の候補作になった。第一作より語り口はサスペンスフルで、読みやすくなっている。ただし主人公はオヤジ的性格が出過ぎていて、全面的に共感できないのが欠点か。幻想的な結末も賛否がありそう。

邦題 『誰がわたしを殺したか』
原作者 デビー・ハウエルズ
原題 The Bones of You(2015)
訳者 真崎義博
出版社 早川書房
出版年 2016/10/15
面白度 ★★★
主人公 英国の小さな村に住む庭園デザイナーのケイト・マッケイ。夫アンガスと18歳の一人娘グレイスがいる中年女性。グレイスの友人ロージー殺しの犯人を調べ始める。
事件 小さな村に隣接する森の奥で、全身をナイフで切り裂かれたロージーの死体が見つかった。ケイトは学校を介してロージーの母とは知り合いで、ロージーもケイトの家に遊びに来ていた。さらに森の中で乗馬中のケイトには、ロージーの不吉なイメージが浮かび上がり……。
背景 電子書籍を自費出版していた著者の初の商業出版。特徴は、訳者後書きで指摘されている通り、全編が現在形で描写されていること。このためサイコ・スリラーとして一定のサスペンスは維持されているものの、やはり読みにくい。訳題はもう一工夫ほしいところだ。

邦題 『アガサ・レーズンと死を呼ぶ泉』
原作者 M・C・ビートン
原題 Agatha Raisin and the Wellspring of Death(1998)
訳者 羽田詩津子
出版社 原書房
出版年 2016/2/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 


邦題 『メイフェアのおかしな後見人あるいは侯爵の結婚騒動』
原作者 M・C・ビートン
原題 The Wicked Godmother(1987)
訳者 桐谷知未
出版社 竹書房
出版年 2016/10/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 


邦題 『アガサ・レーズンとカリスマ美容師』
原作者 M・C・ビートン
原題 Agatha Raisin and the Wizard of Evesham(1999)
訳者 羽田詩津子
出版社 原書房
出版年 2016/10/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 


邦題 『質屋探偵ヘイガー・スタンリーの事件簿』
原作者 ファーガス・ヒューム
原題 Hagar of the Pawn-Shop(1898)
訳者 平山雄一
出版社 論創社
出版年 2016/12/10
面白度 ★★
主人公 ロマ族の少女ヘイガー・スタンリー。ロンドン下町の質屋に逃げ込み、女主人となる。頭がよいばかりでなく、正義感も持っている。
事件 連作短編集。「ヘイガー登場」「一人目の客とフィレンツェ版ダンテ」(以下”〇目の客と”は省略)「琥珀のネックレス」「翡翠の偶像」「謎の十字架」「銅の鍵」「銀のティーポット」「首振りに人形」「一足のブーツ」「秘密の小箱」「ペルシャの指輪」「ヘイガー退場」の12本。
背景 『二輪馬車の秘密』のみが知られている著者の邦訳2冊目。シャーロック・ホームズの姉妹シリーズの1冊として刊行。質入れされた物を巡る冒険小説、人情小説といった話で、謎解きの面白さはない。主人公の魅力と当時の下町風情の興味で読ませる小説か。

邦題 『極悪人の肖像』
原作者 イーデン・フィルポッツ
原題 Portraited of a Scoundrel(1938)
訳者 熊木信太郎
出版社 論創社
出版年 2016/2/29
面白度 ★★
主人公 本編の語り手であるアーウィン・テンプル=フォーチュン。由緒あるテンプル=フォーチュン準男爵の三男。リウマチの専門医で、生涯独身を通した。
事件 アーウィンはケンブリッジ大学を首席で卒業し、ハーレー街で開業した。しかし彼は一方でテンプル=フォーチュン準男爵の宏大な土地・財産の相続を目指した。まずは長兄の息子とその乳母を刺殺し、長兄を精神的ショックで死に至らしめた。残りは次兄というわけで……。
背景 江戸川乱歩が倒叙探偵小説の代表的作例として『殺意』『クロイドン発12時30分』『叔母殺し』と共に挙げている著者晩年の一作。とはいえ乱歩は最も劣るとも言っている。トリック的な面白味はほぼゼロの犯罪小説なので、しかたないか。悪の魅力も不足している。

邦題 『カクテルパーティー』
原作者 エリザベス・フェラーズ
原題 Enough to Kill a Horse(1955)
訳者 友田葉子
出版社 論創社
出版年 2016/2/29
面白度 ★★★★
主人公 いない。登場時間が一番長いのは、村でアンティーク・ショップを営む元女優のファニー・ライナムだが、探偵役を演じるのは彼女の夫で大学講師のバルジ。
事件 ロンドン近郊の村に住むファニーは頭を痛めていた。同居している彼女の異母弟キットが婚約したので、カクテルパーティを開こうとしているものの、参加予定者はお互いにギクシャクした関係にあったからだ。そして開いてみると、パイを食べた元新聞社社主が倒れて……。
背景 著者の非シリーズ物の一冊。毒殺事件だが警察は活躍しない。とはいえサスペンス小説というよりは、ミス・マープル物のような設定の謎解き小説。会話を介して巧みに登場人物を紹介する導入部が上手い。結末の意外性も十分だが、偶然が多いのはやはり減点か。

邦題 『灯火が消える前に』
原作者 エリザベス・フェラーズ
原題 Murder Among Friends(1946)
訳者 清水裕子
出版社 論創社
出版年 2016/4/30
面白度 ★★
主人公 市民助言局の職員アリス・チャーチ。友人に招待されたパーティーでの殺人事件解決のための素人探偵に乗り出す。夫は大学教授のオリバーで謎解きを担当。
事件 刺繍作家ライトウッドは、妻に自殺されたために鬱状態の同じフラットに住む劇作家リッターを元気づけるけるためにパーティを開いた。だがその最中フラットにいたリッターが火かき棒で撲殺。付着の指紋から著作権代理人の女性が捕まったのだ。アリスが捜査をすると……。
背景 第二次世界大戦下のロンドンが舞台。戦時下の状況を上手く取り入れたミステリー。一人の男を巡る女性陣の心理も巧みに描かれているが、物理的トリックがあまりに貧弱。警察の捜査がほとんど描写されていないのも不満。心理ミステリーとしてはそれなりに読ませるが。

邦題 『永遠の始まりT・U』
原作者 ケン・フォレット
原題 Edge of Eternity(2014)
訳者 戸田裕之
出版社 SBクリエイティブ
出版年 2016/1/25
面白度 ★★
主人公 群像劇なので1人には絞れない。各都市の主人公を挙げれば、ベルリンはレベッカ・ベルド(教師)、モスクワがディムカ(フルシチョフの補佐官)とターニァ・ドヴォルキナ(タス通信記者)の双子、ワシントンがジョージ・ジェイクス(ボビー・ケネディの補佐官)。
事件 1961年、レベッカは夫が秘密警察官であることを知り、西ベルリンへ脱出する。アメリカではジョージが黒人解放運動に参加していた。さらに双子の兄妹はキューバ危機の解決のために奔走していた。そして1963年ケネディ大統領がダラスで暗殺されてしまったのだ。
背景 ベルリンの壁構築から、ケネディ暗殺までの1961-1963年を時代背景にして執筆された壮大な歴史小説。セックス場面を適度に入れてそれなりに読ませるが、ミステリーではない。

邦題 『永遠の始まり III・IV』
原作者 ケン・フォレット
原題 ()
訳者 戸田裕之
出版社 SBクリエイティブ
出版年
面白度
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ウェンディゴ』
原作者 アルジャーノン・ブラックウッド
原題 ()
訳者 夏来健次
出版社 アトリエサード
出版年
面白度
主人公 

事件 


背景 



邦題 『アンジェリーナ・フルードの謎』
原作者 オースティン・フリーマン
原題 The Mystery of Angelina Frood(1924)
訳者 西川直子
出版社 論創社
出版年 2016/9/30
面白度 ★★
主人公 物語の語り手は若手の医師ジョン・ストレンジウェイズだが、謎を解くのはお馴染みのジョン・ソーンダイク博士。
事件 ある日の深夜、ストレンジウェイズは女性を診てもらいたいと頼まれた。現地にいくと、その女性は顔色が悪く、首にはひも状のもので絞められた痕があった。その後彼はロチェスターの診療所を引き継ぐと、その隣には彼女が住んでいて、さらに行方不明になり……。
背景 ソーンダイク博士シリーズの第7弾。ディケンズの未完の小説『エドウィン・ドルードの謎』に触発されて書かれている。題名も似ているし、実際行方不明者の謎を扱っているが、必ずしも同じプロットではない。物語は尻すぼみで、結末の謎解きにはガッカリだ。

邦題 『ハイキャッスル屋敷の死』
原作者 レオ・ブルース
原題 A Louse for the Hangman(1958)
訳者 小林晋
出版社 扶桑社
出版年 2016/9/10
面白度 ★★★
主人公 ニューミンスター・クィーンズ・スクールの上級歴史教師キャロラス・ディーン。
事件 校長のゴリンジャーは、知り合いのロード・ペンジから手紙を貰った。自分宛てに脅迫状が届いたが、警察は真剣には考えてくれない。ディーンに調査をお願いできないか、というものであった。ディーンは断わるが、やがてペンジの秘書がペンジの外套を着てハイキャッスル屋敷の外にいたときに射殺された事件が起きた。秘書はペンジに間違えられたらしい!
背景 原シリーズ5作目の作品。前作『ミンコット・ハウスの死』よりは落ちる。落ちる理由は、この種の謎解き小説としては、メイン・トリックが比較的わかりやすいからである。ただしこのトリックにひっかかれば、評価は高くなるであろう(初出は1990年の機関誌Aunt Aurora Vo.4)。

邦題 『亡者の金』
原作者 J・S・フレッチャー
原題 Dead Men's Money(1920)
訳者 水野恵
出版社 論創社
出版年 2016/1/30
面白度 ★★
主人公 本編の語り手、弁護士事務所事務員のヒュー・マネーローズ。事件当時は21歳で、婚約者がいる。ただし最も探偵らしい活躍をするのは雇い主である弁護士のリンゼー。
事件 舞台は北海に面したイングランド最北端の町アポン・ツィード。ヒューの母親が営む下宿屋に片目の老人が滞在することになったが、ある日病弱な自分に代わって友人に深夜会ってくれと頼まれた。不審な頼みであったが、大金に目がくらみその場所に行くと、男の死体が!
背景 第二次大戦以前はよく翻訳されたものの戦後には忘れられ、本書は1962年の『ミドル・テンプルの殺人』以来の新訳。クリスティの『スタイルズ荘の怪事件』と同じ年の出版ながら、プロットの面白さだけで読ませる冒険スリラーなので、どうしても古臭さを感じてしまう。

邦題 『人形(ひとがた)』
原作者 モー・ヘイダー
原題 Poppet(2013)
訳者 北野寿美枝
出版社 早川書房
出版年 2016/2/15
面白度 ★★★
主人公 重大犯罪捜査隊警部ジャック・キャフェリーのシリーズ物の一冊だが、本作の主人公は重警備精神科医療施設の上級コーディネーター、A・J・ルグランデ。40代の独身。
事件 犯罪歴のある精神疾患患者を収容するこの医療施設では、昔の職員の亡霊が出るという噂があった。そこへ自傷行為の絶えなかった患者が死亡した。関係があるのか?A・Jは院長に相談するも、対応を渋るだけ。悩んだ末にキャフェリーに独断で相談することにしたが……。
背景 MWA賞受賞の『喪失』に続くキャフェリー警部シリーズの第6作。犯罪歴のある精神病患者を収容する施設自体が珍しく、その描写だけでも興味深い。前半はニューロチックなホラーとして展開するも、終盤のまとめ方は上手く、読後の印象は悪くない。

邦題 『虎狼』
原作者 モー・ヘイダー
原題 Wolf(2014)
訳者 北野寿美枝
出版社 早川書房
出版年 2016/11/15
面白度 ★★★★
主人公 重大犯罪捜査隊の警部ジャック・キャフェリー。今回の事件の捜査は休職中の私的な行為だが、ほとんど勤務中の捜査と同じように行動している。
事件 サマセット州の村から離れた別荘に住むフェラーズ一家に、突然二人の男が侵入し、両親とその娘を拘禁した。目的はわからないまま、家族は恐怖と絶望に支配されることになる。だが逃げ出した一家の飼い犬を、偶然キャフェリーが保護したことから、事件が綻び始めた。
背景 キャフェリー・シリーズの第7作で、2015年のMWA賞の候補作になった。ただしキャフェリー・シリーズとはいえ警察小説ではなく、あくまでもサイコ・サスペンス小説として書かれている。なんでもありといえるサイコ物をミステリーの枠内に収めた構成・筆力はさすが。

邦題 『預言者モーゼの秘宝』上下
原作者 ジェームズ・ベッカー
原題 The Moses Stone(2009)
訳者 萩野融
出版社 竹書房
出版年 2016/2/19
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『聖なるメシアの遺産』上下
原作者 ジェームズ・ベッカー
原題 The Messiah Secret(2010)
訳者 萩野融
出版社 竹書房
出版年 2016/12/19
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『消えたボランド氏』
原作者 ノーマン・ベロウ
原題 Don't Jump Mr. Boland!(1954)
訳者 福森典子
出版社 論創社
出版年 2016/9/30
面白度 ★★★★
主人公 謎を解くのは素人探偵を演ずるラジオドラマのベテラン俳優J・モンタギュー・ベルモア。捜査をするのは豪州警察犯罪捜査局のタイソン警部。
事件 ヤルーガに住んでいるキャリー・ボランドは、ある日崖から飛び降りた。煙霧の濃い日であったが、目撃者もいたし、崖上には彼のレインコートも残されていた。ところが崖下には人間が墜落した痕跡はなく、崖の途中には穴や裂け目もない。どこへ消えたのか?
背景 ニュージーランドの作家だが、生まれは英国。不可能犯罪を得意とするカー派の一人。本邦での翻訳は『魔王の足跡』に続く2冊目。今回の謎は比較的簡単だが、それ以上に、プロットや登場人物に魅力があって面白く読める。最近の本シリーズではベストに近い作品だ。

邦題 『死んだライオン』
原作者 ミック・ヘロン
原題 Dead Lions(2013)
訳者 田村義進
出版社 早川書房
出版年 2016/4/15
面白度 ★★★★
主人公 <泥沼の家>のリーダー、シャクソン・ラムとリヴァー・カートライトを始めとする<泥沼の家>のメンバー達。
事件 元スパイが心臓発作で死んだ。誰もその死に疑惑を抱かなかったが、ラムは違った。死んだスパイの直前の行動を調べると、バスのシート・クッションの間に携帯電話が見つかり、中にはメッセージが一言<蝉>と。それは旧ソ連の幻のスパイに関係する暗号名だった!
背景 『窓際のスパイ』に続く、落第スパイ達の活躍を描く第2作。2013年のCWAゴールド・ダガー賞受賞作。最近のスパイ小説は単純なプロットでは通用しなくなっているが、本書は課員の個性の面白さと英国の小村にいるスリーパーという奇抜なプロットで読ませる。

邦題 『塔の中の部屋』
原作者 E・F・ベンスン
原題 The Room in the Tower and Other Stories(1912)
訳者 中野善夫・圷香織・山田蘭・金子浩
出版社 アトリエサード
出版年 2016/8/7
面白度 ★★★★
主人公 著者初の怪奇小説短編集の完訳。17本の短編が収録されている。
事件 「塔の中の部屋」*「アブドゥル・アリの墓」「光の間で」「霊柩馬車」「猫」*「芋虫」*「チャールズ・リンクワースの懺悔」*「土煙」*「カヴォンの夜」「レンガ窯のある屋敷」「かくて恐怖は歩廊を去りぬ」*「遠くへ行き過ぎた男」「もう片方のベッド」「扉の外」*「ノウサギ狩り」「夜の恐怖」「広間のあいつ」の17本。
背景 さまざまなアイディアの怪奇小説が集まっている。カッコの後の*印は面白いと感じた短編。著者はユーモア小説やノンフィクションが本業だそうだが、理知的な書き方であるにも関わらず怖い話ばかりだし、結末の処理も上手い。「芋虫」は生理的にゾクゾクしてしまう。

邦題 『貧乏お嬢さまのクリスマス』
原作者 リース・ボウエン
原題 The Twelve Clues of Christmas()
訳者 田辺千幸
出版社 原書房
出版年 2016/11/20
面白度
主人公 

事件 


背景 



邦題 『〈グレン・キャリグ号〉のボート』
原作者 ウィリアム・ホープ・ホジスン
原題 The Boats of the Glen Carrig(1907)
訳者 野村芳夫
出版社 アトリエサード
出版年 2016/3/25
面白度
主人公 

事件 


背景 



邦題 『生ける死者に眠りを』
原作者 フィリップ・マクドナルド
原題 R.I.P(1933)
訳者 鈴木景子
出版社 論創社
出版年 2016/9/30
面白度 ★★★
主人公 登場人物は容疑者か被害者ばかり。主人公にふさわしい探偵は不在。
事件 レディ・デストリアは、英国の僻地にある彼女の屋敷に二人の軍人を招いた。彼女と二人の軍人は、大戦中のある大量死事件に関与しながらも責任を免れていたのだが、その秘密を知る人物から脅迫状が届いたからである。さらに邸内からも復讐決行を告げる手紙が見つかるとともに、電話線は切られ、車は故障となり、屋敷は陸の孤島になってしまったのだ!
背景 1924年に『鑢』でデビューした著者の最も脂の乗り切った1930年代始めに書かれた作品。『そして誰もいなくなった』に先んじた、いかにも才人らしいプロットが魅力だが、結末はとうていクリスティには及ばない。原題は「安らかに眠れ」のラテン語省略形だそうだ。

邦題 『裏切りの戦場 SAS部隊イエメン暗殺作戦』
原作者 クリス・ライアン
原題 Hunter Killer()
訳者 石田享
出版社 竹書房
出版年 2016/
面白度  
主人公 

事件 


背景 


邦題 『断頭島』
原作者 フレイザー・リー
原題 The Lamplighters()
訳者 野中誠吾
出版社 竹書房
出版年 2016/
面白度  
主人公 

事件 


背景 


邦題 『愚者たちの棺』
原作者 コリン・ワトスン
原題 Coffin Scarcely Used(1958)
訳者 相良和美
出版社 東京創元社
出版年 2016/3/11
面白度 ★★★
主人公 フラックスボロー警察の犯罪捜査課のパーブライト警部と部下のシドニー(シド)・ラブ巡査部長、マレー巡査部長。
事件 港町フラックスボローの海運貨物仲介業者キャロブリートの葬儀は、参列者が数人という寂しいものだった。それから数か月後、その参列者の1人、新聞社社主が送電用鉄塔の下で感電死しているのが発見された。スリッパ履きで、口にはマシュマロを入れた状態で!
背景 これまで短編3本の訳出しかなかった著者の初の訳本。著者の第一作でもある(全部で12作の長編)。冒頭の謎やユーモラスな語り口は、確かに英国ミステリーの伝統を感じさせる。エドマンド・クリスピンを少し俗っぽくした作風。紹介が遅すぎたのが残念だ。

邦題 『浴室には誰もいない』
原作者 コリン・ワトスン
原題 Hopjoy Was Here(1962)
訳者 直良和美
出版社 東京創元社
出版年 2016/10/21
面白度 ★★★
主人公 架空の町フラックスボローの警察署警部のウォルター・パーブライトとその部下たち。警察署長ハーコート・チャブは活躍はしないが、ユーモアの源泉のような凡人。
事件 匿名手紙の告発を受けてバーブライトが捜査した結果、浴室からは死体を硫酸で溶かして下水に流した痕跡が確認された。だがこの家に住んでいた二人の男は、そろって行方をくらましていた。しかもその中の一人は、セールスマンを装った情報部員だったのだ!
背景 邦訳は『愚者たちの棺』に続く第2弾。フラックスボロー・シリーズは全12作あるそうだが、その3作目。クリスピンの伝統を継ぐファルス・ミステリで、英国人作家でなければ書けないミステリー。伏線もそれなりに張られているが、ユーモアの切れ味がイマイチなのが惜しい。

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