邦題 『追風に帆を上げよ』上下
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 Be Careful What You Wish For(2014)
訳者 戸田裕之
出版社 新潮社
出版年 2015/4/1
面白度 ★★
主人公 年代記なので主人公はいない。ただし今回は経済問題を主として扱っているのでハリーの活躍はなく、敢えて言えばハリーの妻で、バリントン海運の会長エマか。
事件 ハリーとエマの息子セバスティアンは死んでいなかった! しかしバリントン家とクリフトン家の破滅を願うマルティネスの復讐心はさらに過激になっていった。バリントン海運を倒産させるために株の大量放出や役員の辞任を目論んでいたのだ。
背景 年代記の第4部。1957年から1964年までを取り上げているが、主物語は1964年のバリントン海運が命運を掛けた大事業である豪華客船を完成できるのかということ。シリーズ物の典型例のような終わり方には、やはりガッカリする。

邦題 『エイルマー・ヴァンスの心霊事件簿』
原作者 アリス&クロード・アスキュー
原題 Aylmer Vance:Ghost-Seer(1998)
訳者 田村美佐子
出版社 アトリエサード
出版年 2015/12
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『淑女怪盗ジェーンの冒険』
原作者 エドガー・ウォーレス
原題 Four-Squqre Jane and The Great Reward(1929)
訳者 川原あかね
出版社 論創社
出版年 2015/2/28
面白度 ★★
主人公 中編2本からなる日本独自の作品集。
事件 「淑女怪盗ジェーンの冒険」は、怪盗が富豪たちの貴重品を盗んだ際に、真ん中にJとある四角なカードを残していった。そこでついたあだ名が<フォー・スクウェア・ジェーン>。女怪盗は誰なのか? 一方「三人姉妹の大いなる報酬」は、劇作家になるべく励む長女、大物逃亡犯の逮捕を夢見る次女、堅物三女の三人と男性下宿人を巡るユーモア小説。
背景 前者はルパン的な物語だが、誰がジェーンかという謎で読者を引っ張っていく。平凡な出来だが、第三章のみクイーン編『犯罪の中のレディたち』に「盗まれた名画」として訳されている。後者はドタバタ喜劇で単行本未収録。星二つの評価は歴史的興味を入れたもの。

邦題 『真紅の輪』
原作者 エドガー・ウォーレス
原題 The Crimson Circle(1922)
訳者 福森典子
出版社 論創社
出版年 2015/5/30
面白度 ★★
主人公 ロンドン警視庁の警部ジョン・パー。50代。謎の強請屋組織<クリムゾン・サークル>の首謀者発見とその組織の解体という仕事を任命される。
事件 当時のロンドン市民、特に金持ちは、<クリムゾン・サークル>の暗躍に戦々恐々であった。というのもその組織は命と引き換えに多額の金額を要求するからであった。富豪ピアードモアも狙われた一人。要求を拒否して、自分の身を守るためにサイコメトリー探偵を雇ったが……。
背景 著者は20世紀初頭から30年代前半まで活躍したスリラーの巨匠。「キング・コング」原案者としても有名。甲賀三郎が「新青年」に発表した十傑に入れた作品だが、本邦初訳となった。首謀者は誰かという最大の謎は、古い作品だけに読み慣れた読者には容易に分かるだろう。

邦題 『悪魔の羽根』
原作者 ミネット・ウォルターズ
原題 The Devil's Feather(2005)
訳者 成川裕子
出版社 東京創元社
出版年 2015/5/29
面白度 ★★★
主人公 ロイター通信社の女性記者コニー・バーンズ。30代の独身。これまでにシオラレイネやイラクを取材し、そのイラクでは拉致監禁3日後に解放され、イギリスに戻った。
事件 コニーはあいまいな証言をしたまま、結局ドーセット州のバートン・ハウスに隠れ住むことになった。だが犬が縁で、その村に住む農場経営者で、コニーと同年代の女性ジェス・ダービシャーと知り合う。内向的なジェスであったが、二人は次第に心を開くようになり……。
背景 著者の11作目の長編。50代半ばの作家として脂の乗り切った時期の作品だからか、オリジナリティに溢れた登場人物の造形や読者を圧倒させる筆力など、たいしたものである。ミステリーとして問題にしたいのは、信用の置けない主人公の一人称形式の物語作法そのものか。

邦題 『リモート・コントロール』
原作者 ハリー・カーマイケル
原題 Remote Control(1970)
訳者 藤盛千夏
出版社 論創社
出版年 2015/7/30
面白度 ★★
主人公 シリーズ・キャラクターの保険調査員ジョン・パイパーと「モーニング・ポスト」紙の編集員クイン。後者は独身で、Quinnという綴りは、クリスティのQuinよりnが一つ多い。
事件 クインは、飲み友達のヒュー・メルヴィルが自宅近くで犬を避けようとして、その飼い主を轢死させたことを知った。悪いことにヒューには許容以上のアルコールが検出され、裁判の結果刑務所に収容されたのだ。6か月後ヒューの妻という女性からクィンに電話があり……。
背景 本邦初紹介作家だが、1950年年代から70年代後半にかけて活躍した。別名義のハートリー・ハワードの作品(ハードボイルド物)を加えると85作の作品があるそうだ。物語の前半は快調に展開するものの、多作家だけに、プロットに緻密さが不足していて、後半には粗が目立つ。

邦題 『カイコの紡ぐ嘘』上下
原作者 ロバート・ガルブレイス
原題 The Silkworm(2014)
訳者 池田真紀子
出版社 講談社
出版年 2015/11/11
面白度 ★★★★
主人公 私立探偵コーモラン・ストライク。アフガン戦争で負傷し、下腿切断者になっている。彼の秘書ロビン・エラコットも、探偵助手として好印象の活躍をする。
事件 小説家クワインが行方不明になった。クワイン探しを依頼されたストライクが活動を始めると、クワインが悪意ある筆で出版人と知人たちを描いた原稿のあることがわかった。そして腸を抜かれたクワインの悲惨な死体が見つかった! 中傷された人間の仕業なのか?
背景 ハリー・ポッター・シリーズで有名な児童文学作家ローリングが別名義で書いた私立探偵小説シリーズの第二弾。二作目なので慣れたのか、あるいはよく知る出版界を舞台にしたためか、語り口は滑らか。ハードではなく謎解きのあるソフトな私立探偵小説だ。

邦題 『放送中の死』
原作者 ヴァル・ギールグッド&ホルト・マーヴェル
原題 Death at Broadcasing House(1934)
訳者 横山啓明
出版社 原書房
出版年 2015/2/5
面白度 ★★★
主人公 殺人事件を解決するのはスコットランド・ヤードの警部補サイモン・スピアーズだが、前半はドラマ部門ディレクターのジュリアン・ケアードが素人探偵として活躍する。
事件 ラジオ・ドラマ「極悪非道の追いはぎ」が生放送中、殺人の場面で、被害者を演じていた声優が本当に絞殺されてしまったのだ。聴取者多数が聞いている最中の事件で、被害者はスタジオに一人でいたため、犯人は放送局内部に詳しい人間でしかありえない! 
背景 著者の一人ギールグッドはBBCのラジオドラマ部門を長く手掛けた人。4冊あるシリーズ物の第一作。典型的な謎解き小説だが、消去法による真犯人割り出し手法は切れ味が鈍い。当時の放送局では鋼のテープを使って録音をしているといった情報の方が興味深い。

邦題 『弁護士の血』
原作者 スティーヴ・キャヴァナー
原題 The Defence(2015)
訳者 横山啓明
出版社 早川書房
出版年 2015/7/25
面白度 ★★★
主人公 ニューヨークの弁護士エディ・フリン。妻と十歳の一人娘エイミーのいる中年弁護士だが、弁護士になる以前には悪の世界に脚を踏み入れていた。
事件 家庭をかえりみず、酒に溺れていたフリンがやっと立ち直った頃、ロシア・マフィアから驚愕の脅迫を受けた。エイミーを拉致したので、要求を呑まなければ娘を殺すというのだ。そしてその要求とは、マフィアのボスに対する不利な証言者を裁判中に殺害しろというのだ!
背景 舞台はニューヨーク市だが、著者は北アイルランド在住の英国人作家で、本書が第一作。主人公の職業から法廷ミステリーを連想してしまうが、法廷場面はあるものの、そこでのやり取りは平凡。むしろマフィアからの脅威を避けて娘をいかに救い出すかという冒険小説として楽しめる。

邦題 『水の葬送』
原作者 アン・クリーヴス
原題 Dead Water(2013)
訳者 玉木亨
出版社 東京創元社
出版年 2015/7/24
面白度 ★★★
主人公 シェトランド署の警部ジミー・ペレスだが、同署の刑事サンディ・ウィルソンと指揮を執るインヴァネス署の女性警部ウィロー・リーヴズも主人公と同等の活躍をする。
事件 シェトランド諸島の地方検察官は、船に乗せられていた死体を発見した。死体は地元出身の新聞記者で、石油ターミナルがらみの取材をしていたらしい。しかし彼は、以前若い女性を妊娠させたために本土に逃げたという噂もあり、殺人の動機は不明であった。
背景 <シェトランド四重奏>後の新ペレス・シリーズ第一弾。ペレスは完結編『青雷の光る秋』で婚約者を亡くしたこともあり、病気休暇中。リーヴズとペレスの関係は巧みに描かれていて小説として楽しめるし、犯人の意外性は十分だが、不満は謎の面白さが少し足りないことか。

邦題 『グリーンショアの阿房宮』
原作者 アガサ・クリスティー
原題 Hercule Poirot and the Greenshore Folly(2014)
訳者 羽田詩津子
出版社 早川書房
出版年 2015/1/15
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのエルキュール・ポアロ。犯罪の匂いを嗅いだため、未然の捜査をポアロに依頼するアリアドネ・オリヴァ夫人が準主役か。
事件 ポアロはオリヴァ夫人から田舎の屋敷グリーンショアに呼び出された。彼女が企画した、祭りの余興である犯人探しゲームで、何か不穏な事態が起こるようで不安だというのだ。
背景 クリスティの長編『死者のあやまち』の原型である中編ミステリー。当初は近くのチャーストン・フェラーズにある教会のステンドグラス用資金のために書かれたが、中編のため雑誌に売れず、長らく埋もれていた作品。長編の半分程度の長さで、容疑者などの尋問などは大幅に省略されているためか、あっという間に意外な結末に突入していく。

邦題 『欺きの家』上下
原作者 ロバート・ゴダード
原題 Fault Line(2012)
訳者 北田絵里子
出版社 講談社
出版年 2015/7/15
面白度 ★★★
主人公 世界的企業である陶土採掘企業インターコンチネンタル・カリオン社の社員ジョナサン・ケラウェイ。退職目前の60歳。一度離婚している。
事件 そのケラウェイが命じられた最後の仕事は、社史編纂のための記録探し。買収合併を繰り返した会社の記録が一部紛失しているというのだ。彼は1968年、18歳で地元企業でアルバイトを始めた時、創業家の娘に恋をし、息子の死に疑問を持つが……。
背景 著者の23作目。相変わらず巧みな背景描写、物語展開に安心して読めるが、何件もの殺人事件があるものの、捜査の描写はほとんどない。むしろ企業小説、恋愛風俗小説として読んだ方が楽しめる。ゴダードもミステリーを書いている意識は低いのだろう。

邦題 『渚の忘れ物』
原作者 コリン・コッタリル
原題 Grandad There's a Head on the Beach(2012)
訳者 中井京子
出版社 集英社
出版年 2015/2/25
面白度 ★★★★
主人公 失業中の犯罪報道女性記者ジム・ジュリー。34歳の独身。現在は母が経営するリゾート・レストランの料理人兼洗い場担当。他に母や兄(手術でいまでは姉)、弟、祖父も共演する。
事件 ある日砂浜で、ジムは男性の生首を発見した。さっそく村長に連絡し、どうやらミャンマー人の死体の一部とわかったものの、その後の進展はさっぱり。一方プレートのない車を使用し、身分証のない怪しげな母娘がホテルに滞在することになり……。
背景 日本では『老検死官シリ先生がゆく』が一冊のみ紹介されている著者の新シリーズで、著者が住んでいるタイ国が舞台。とはいえ風俗ミステリーではなく、タイの人身売買や官僚汚職を扱った社会派で、硬派の主題をユーモラスに語る饒舌な語り口には脱帽。

邦題 『クローヴィス物語』
原作者 サキ
原題 The Chronicles of Clovis(1911)
訳者 和邇桃子
出版社 白水社
出版年 2015/4/20
面白度 ★★★
主人公 短編集なので主人公はほとんど異なる。でも題名にあるクローヴィスが妥当か。
事件 28の短編が収録されている。クローヴィスが登場する「トバモリー」(人間と話が出来る猫が登場)や「バスタブル夫人の逃げ足」「名画の背景」とクローヴィス非登場の作品「スレドニ・ヴァシュタール」(よく知られた有名な作品)や「丘の上の音楽」に二分される。前者はシニカルなユーモア作品で、後者はホラー味の物が多い。個人的な好みは前者。
背景 サキの第三短編集。日本ではこれまで訳者が選んだ傑作集ばかりが出版されていたが(有名なのは中村能三訳の新潮文庫『サキ短編集』)、今回は初のサキ自身が編んだ短編集の全訳となる。でもこれまで未訳だった作品は、やはりあまり面白くなかった。

邦題 『レジナルド』
原作者 サキ
原題 Reginald()
訳者 井伊順彦他
出版社 風濤社
出版年 2015/4/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『四角い卵』
原作者 サキ
原題 The Square Egg()
訳者 井伊順彦他
出版社 風濤社
出版年 2015/10/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『闇からの贈り物』上下
原作者 V・M・ジャンバンコ
原題 The Gift of Darkness(2013)
訳者 谷垣暁美
出版社 集英社
出版年 2015/5/25
面白度 ★★
主人公 シアトル市殺人課の刑事アリス・マディスン。殺人課に配属されて4週間しかたっていない新人刑事。独身。相棒は部長刑事のケヴィン・ブラウン。
事件 シアトル郊外の高級住宅地でシンクレア一家が惨殺された。遺体には十字架が描かれ、殺人現場には「13日」の文字があった。マディスンらが捜査を開始すると、かつて被害者と悲惨な過去を共有する仲間であった男キャメロンが容疑者として浮かび上がったが……。
背景 イタリア生まれで、現在はロンドン在住の著者の第一作。警察小説になりきれず、心理スリラーとしても中途半端な印象のミステリー。「犯罪は長い影を引く」というプロットの作品だが、視点がマディスンだけでないので安易な展開を許している。マディスンの魅力も不足気味。

邦題 『七つ星の宝石』
原作者 ブラム・ストーカー
原題 The Jewel of Seven Stars(1903)
訳者 森沢くみ子
出版社 アトリエサード
出版年 2015/9/28
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『寝ても覚めても夢』
原作者 ミュリエル・スパーク
原題 Reality and Dreams(1996)
訳者 木村政則
出版社 河出書房新社
出版年 2015/1/30
面白度 ★★★
主人公 大物映画監督のトム・リチャーズとその妻クレア・リチャーズ。ウィンブルドンの大邸宅に住む。妻の実家はアメリカのビスケット会社の創業一族なので、妻は大金持ち。クレアとの間には次女マリゴールドがいる。長女コーラは前妻の娘。
事件 トムは撮影中の大事故で瀕死の重傷を負った。リハビリの後に、なんとか映画を完成させたものの、マリゴールドが失踪した。誘拐か、単なる蒸発か?
背景 スパークの邦訳長編10作目。昨年出た短編集『バン、バン! はい死んだ』が好評で、久しぶりの訳出になった。訳者の言うとおり、ネジの外れた登場人物や独特のユーモア、噴出する毒気などが面白いし、興味深い。ミステリー度の低いことだけが残念だ。

邦題 『偽りの楽園』上下
原作者 トム・ロブ・スミス
原題 The Farm(2014)
訳者 田口俊樹
出版社 新潮社
出版年 2015/9/1
面白度 ★★★
主人公 ロンドンでフリーランスのガーデン・デザイナーをしているダニエル。両親はスウェーデンで老後を送っていて、彼自身は年上の男性と同棲している。
事件 スウェーデンで安楽に暮らしていると思っていた父から電話が入った。「母は精神病院に入院したが直後に脱走した」と。ところが母からも電話があり、結局母はロンドン・ヒースロー空港に到着した。そしてダニエルの部屋で母は驚くべき告白を始めたのだ!
背景 『チャイルド44』から始まるレオ・デミドフ三部作で評判の著者の4作め。物語の舞台はスウェーデンの田舎で、まだまだ保守的な考えが支配している。母の一人称とダニエルの一人称で語られる話は迫力十分だが、下巻になるとテンションが多少下がる。家族愛が主題か?

邦題 『ウィスキー&ジョーキンズ:ダンセイニの幻想法螺話』
原作者 ロード・ダンセイニ
原題  
訳者 中野善夫
出版社 国書刊行会
出版年 2015/12/25
面白度  
主人公 

事件 



背景 


邦題 『そして医師も死す』
原作者 D・M・ディヴァイン
原題 Doctors also Die(1962)
訳者 山田欄
出版社 東京創元社
出版年 2015/1/23
面白度 ★★★
主人公 本書の語り手である開業医のアラン・ターナー。独身だが婚約者がいる。
事件 診療所の共同経営者ヘンダーソン医師が死んで2カ月後、患者の一人であった市長から、彼の死には他殺の疑いがあると指摘された。ヘンダーソンに恨みや嫌悪を抱くものが多かったが、もし彼の死が過失ではなく本当に他殺であるなら、機会と動機のある最有力容疑者はヘンダーソンの妻と共同経営者の自分になってしまう。アランは独自の調査を始めるが……。
背景 D・D・ディヴァイン名義の全6冊中唯一の未訳作品。例によって信頼のおけない語り手が語る謎解きミステリーなので、物語はあいまいに展開し、最後まで犯人は分からない。しかしこの書き方では読者が感情移入できる登場人物は絶無で、カタルシスにも乏しい欠点も露呈している。

邦題 『消えた修道士』上下
原作者 ピーター・トレメイン
原題 The Monk Who Vanished(1999)
訳者 甲斐萬里江
出版社 東京創元社
出版年 2015/11/30
面白度 ★★★
主人公 修道女の法廷弁護士(ドーリィ)で、モアン王国の王の妹でもあるフィデルマとサクソン人修道士エイダルフというお馴染みの二人。
事件 国内の大族長が和平協定締結のためモアン王国を訪れた。だが何者かが王と大族長を矢で襲ったのだ。二人とも命に別状はなかったものの、一触即発状態に! フィデルマは事件解明に乗り出すが、やがて大修道院の聖遺物と担当修道士の失踪事件も引き受けることに……。
背景 フィデルマ・シリーズの第7作め。舞台は馴染みのない古代アイルランドだが、当時の世態風俗や法律、フィデルマの人間的魅力をわかりやすく語る手腕は冴えている。謎解き小説としては、陰謀も犯人にも意外性がないが、冒険小説としては、これまで同様楽しめる。

邦題 『夏の沈黙』
原作者 ルネ・ナイト
原題 Disclaimer(2015)
訳者 古賀弥生
出版社 東京創元社
出版年 2015/5/29
面白度 ★★★
主人公 TVのドキュメンタリー制作者のキャサリン・レーヴンズクロフト。49歳で、夫と一人息子がいる。もう一人の主人公は、退職教師のスティーヴン・ブリグストック。
事件 順風満帆といった人生を歩んできたキャサリンは最近新居に引っ越した。だがそこで手にした、見知らぬ著者の本を開いた瞬間、彼女の人生は暗転した。主人公はまさに自分自身であり、彼女が夫にも隠していた昔の秘密が暴かれているような内容だったからだ。
背景 著者の第一作。世界同時発売されるほど注目されている作品。確かに新人としては筆力があるし、二人の視点からの物語が交わり、意外な終盤に突入する物語はサスペンスフルで、オリジナリティも高い。ただしミステリー的趣向は少なく、将来ミステリーを離れるのでないか。

邦題 『エンジェルメイカー』
原作者 ニック・ハーカウェイ
原題 Angelmaker(2012)
訳者 黒原敏行
出版社 早川書房
出版年 2015/6/15
面白度 ★★★★
主人公 時計仕掛けを専門とする機械職人のジョシュア・ジョゼフ・スポーク(ジョー)。中年の独身。父親は大物ギャングのマシュー。祖父はジョーと同じ時計職人だった。
事件 ジョーは友人から謎めいた依頼を受けた。特殊な装飾本の修理で、すっかりその本に魅せられたが、やがてそれが驚異の世界への出発点となったのだ。そしてその友人は殺され、さまざまな思惑を持つ人々がジョーの周囲で暗躍し始めたのである。
背景 第一作『世界が終ってしまったあとの世界で』に続く作品。ハチャメチャ振りの展開・会話などは前作同様だが、今回の舞台はほぼ現実世界に設定されているので(前作はSF的な終末後の世界)、ミステリー・ファンには圧倒的に読みやすい。奇想冒険小説的展開で会話も楽しい。

邦題 『生と死にまつわるいくつかの現実』
原作者 ベリンダ・バウアー
原題 The Facts of Life and Death(2014)
訳者 吉井智津
出版社 小学館
出版年 2015/7/12
面白度 ★★★
主人公 明らかな主人公はいないが、一番光っているのは、デヴォン州北部のライムバーン村に両親と住む10歳の少女ルビー・トリックか。
事件 森と海に挟まれたライムバーンの近辺で、一人歩きの女性を狙った連続暴行殺人事件が発生した。地元の父親たちは民警団を立ち上げて犯人を捕まえようとし、ルビーの父親はその組織に参加したので、ルビーも片腕として役に立とうとしたが……。
背景 『ブラックランズ』でCWA賞を受賞した著者の第5作。相変わらず荒野のエクスムアを舞台とし、子どもが重要な役割を演ずるという物語設定は同じだが、今回はサイコ・スリラー的色彩が強い。村人や子どもの描写の上手さが内容のダークさを見事に緩和している。

邦題 『クロニクル1 トルコの逃避行』
原作者 リチャード・ハウス
原題 Sutler(2013)
訳者 武藤陽生
出版社 早川書房
出版年 2015/4/15
面白度
主人公 イラク砂漠の大規模な建設計画に係る企業HOSCOの請負人で、マッシヴ・プロジェクトの責任者ジョン・ジェイコブ・フォード。別名スティーブン・ローレンス・サトラー。
事件 ある日サトラーは、HOCCOの幹部から、現地を急遽去るように指示される。そして数時間後に爆発が起き、大金が消えていた。サトラーは自分が罠に掛けられたとは露とも知らず、トルコへの逃亡を続けるが……。
背景 クロニクル四部作の第一作。冒頭の謎に満ちた設定は、いかにも冒険陰謀小説らしいもので期待を持たせてくれるが、百頁を過ぎると逃亡小説としてのサスペンスはほとんどなくなり、陰謀小説の謎もさっぱり。真面目に書かれているので、かえって混乱してしまう。

邦題 『クロニクル2 砂漠の陰謀』
原作者 リチャード・ハウス
原題 The Massive(2013)
訳者 濱野大道
出版社 早川書房
出版年 2015/5/15
面白度 ★★
主人公 HOSCOの請負人で、イラクにおける軍事基地キャンプ・リバティの作業員のリーダー、レム・ガナーセン。アメリカではレムの妻キャシーも活躍する。
事件 借金を背負ったレムは、高い報酬につられて、イラクの基地で、戦争廃棄物を焼却坑で焼く仕事のリーダーとなった。レムと6人の民間人が作業に掛かり始めると、マッシヴ・プロジェクトの責任者という謎の男サトラーが現れたのだ。何か陰謀があるのか?
背景 クロニクル・シリーズの第二作。第一作『トルコの逃避行』の前日譚になっていて、第一作の主人公が逃亡する理由がわかる内容。イラク戦争に対するメッセージ性の強い小説で、単なる戦争冒険小説との違いはわかるものの、やはり娯楽小説としての読みやすさが欠けている。

邦題 『クロニクル3 ある殺人の記録』
原作者 リチャード・ハウス
原題 The Kill()
訳者 武藤陽生
出版社 早川書房
出版年 2015/6/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『クロニクル4 最後の罠』
原作者 リチャード・ハウス
原題 The Hit()
訳者 濱野大道
出版社 早川書房
出版年 2015/6/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『その罪のゆくえ』
原作者 リサ・バランタイン
原題 The Guilty One(2012)
訳者 高山真由美
出版社 早川書房
出版年 2015/7/15
面白度 ★★★★
主人公 事務弁護士のダニエル(ダニー)・ハンター。11歳の時、母親の病気の関係で農場経営の女性ミニーの里子となる。のちに養子に入る。
事件 ロンドンの公園で8歳の少年が撲殺された。容疑者は11歳の少年セバスチャン。弁護を依頼されたダニーは、自分の少年時代を思い出しながら、引き受けることにした。だが警察はセバスチャンを起訴し、陪審制度による裁判が始まった。
背景 新人の第一作。ダニーの若き日の行動と、ショッキングな少年犯罪の裁判とが併行して語られる。抑えた筆致ながら、実にスムーズに物語が展開していく。ただしミステリーとしては、捻りなどの芸があまりない。ノンフィクション的小説を目指したのであろうが……。

邦題 『アガサ・レーズンの結婚式』
原作者 M・C・ビートン
原題 Agatha Raisin and the Murderous Marrige(1996)
訳者 羽田詩津子
出版社 原書房
出版年 2015/1/20
面白度 ★★
主人公 元PR会社経営者で現在はコッツウォルド村に住んでいるアガサ・レーズンとアガサの隣人ジェームズ・レイシー。夫婦探偵物のような雰囲気がある。
事件 念願かなってアガサはレイシーと結婚することになった。だが式の最中に「中止しろ!」と叫ぶ男が出現。なんと昔死んだと思われていたアガサの夫だったのだ。アガサはレイシーにそのことを話していなかったから大変。結婚は挫折し、あろうことかアガサの夫が殺された!
背景 お馴染みシリーズの第5弾。冒頭で二人が結婚式を挙げてしまうと、ある意味シリーズは完結してしまうと心配したが、そこはシリーズ物作者らしく、簡単に二人の仲を裂き、とはいえ再び二人が協力して殺人事件を解決するという巧みな物語展開をしている。

邦題 『メイフェアの不運な花嫁 英国貴族の結婚騒動』
原作者 M・C・ビートン
原題 The miser of Mayfair(1986)
訳者 桐谷知未
出版社 竹書房
出版年 2015/4/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『アガサ・レーズンの幻の新婚旅行』
原作者 M・C・ビートン
原題 Agatha Raisin and the Terrible Tourist(1997)
訳者 羽田詩津子
出版社 原書房
出版年 2015/6/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『調教部屋』
原作者 ポール・フィンチ
原題 Stalkers(2013)
訳者 対馬妙
出版社 早川書房
出版年 2015/9/25
面白度 ★★★★
主人公 国家犯罪局連続犯罪捜査班の部長刑事マーク・ヘッケンバーグ(通称ヘック)。30代後半で独身。本事件ではヘックが知り合ったローレン・ラクスフォードも活躍する。
事件 肉体的魅力で男を惹きつける一流会社の秘書が突然行方不明に。このような若い女性の不可解な失踪がすでに40件近く発生していた。ヘックは覆面捜査で手掛かりを得て、マンチェスターに行く。そこで姉が失踪したというローレンとともに、目立った謎の男を追い始めた。
背景 ヘック・シリーズ第一弾。著者はホラー系の作家だが、本書はホラー・サスペンス小説ではなく、刑事のヘックが単独で活躍する冒険小説といってよい。題名はいただけないが、ドジも多いヘックの人間性は魅力的で、すぐに物語に惹き込まれてしまう面白さがある。

邦題 『中国銅鑼の謎』
原作者 クリストファー・ブッシュ
原題 The Case of the Chinese Gong(1935)
訳者 藤盛千夏
出版社 論創社
出版年 2015/11/30
面白度 ★★
主人公 叙述家で、私立探偵のルドヴィック・トラヴァーズ。シリーズ探偵でもある。
事件 第一次大戦後の不況を受けて、4人の甥はそれぞれ経済的に苦境に立たされていた。そこで財産家で唯一の叔父であるペイリングス荘の主人ヒューバード・グリーヴに相談することに。全員が集まり、銅鑼が鳴って夕食が始まる瞬間に、なんと叔父が射殺されてしまったのだ!
背景 ミステリー黄金時代から1960年代末まで、70冊以上の謎解き小説を書き続けた著者の初期の作品。アリバイ・トリック物が多いと言われるが、本書は、ほほ衆人環視の元に被害者が射殺されるという不可能興味物。途中の展開はサスペンス不足だし、トリックもつまらない。謎解き場面しか盛り上がらない。残念ながら、ブッシュはもういいかなと考えてしまった。

邦題 『強襲』
原作者 フェリックス・フランシス
原題 Gamble(2011)
訳者 北野寿美枝
出版社 イースト・プレス
出版年 2015/2/1
面白度 ★★★
主人公 独立ファイナンシャル・アドバイザーのニコラス・フォクストン(フォクシー)。かつてはグランドナショナルで勝利した騎手。落馬事故で転身。画家の恋人と同棲中の29歳の独身。
事件 グランドナショナル観戦に出かけたニコラスは、真横にいた同僚の射殺に直面した。プロの手口だが、理由が見つからない。しかし遺言執行者に指名されていたこともあり、財政状況を調べると、ネット・ギャンブルで借金をしているらしいとわかったのだ!
背景 ディック・フランシス亡き後に、息子が単独で書き出した新競馬ミステリー・シリーズの第一弾。主人公の性格設定や舞台背景、語り口などは、それまでのシリーズ物とほぼ同じで、プロットもしっかりしている。安心して読めるが、文章力ではまだ少し父に及ばないか。

邦題 『薔薇の輪』
原作者 クリスチアナ・ブランド
原題 A Ring of Roses(1977)
訳者 猪俣美江子
出版社 東京創元社
出版年 2015/6/30
面白度 ★★
主人公 トゥム・チャッキー警部。『猫とねずみ』(1950)に続く2度目の登場。
事件 女優エステラの人気は、障害者の娘ドロレスとの交流を語る新聞の連載エッセイに支えられていた。ドロレスは、シカゴの大物ギャングで今では服役中の夫アルとの子どもであるが、そのアルが病気のおかげで特赦。なんと娘に会いたいと、部下を連れて英国まで出向いてきたのだ。ところが会う直前にアルは病死し、部下は銃殺され、娘は行方不明となってしまったのだ!
背景 著者がメアリ・アン・アッシュ名義で発表した第2作。前半はユーモア・ミステリの筆致で物語が語られるが、後半は典型的な謎解き小説になっている。謎が複雑なわりには答えは単純で、驚きはない。ブランド衰えたりを印象付ける作品になっているのは残念。

邦題 『暗号名ナイトヘロン』
原作者 アダム・ブルックス
原題 Night Heron(2014)
訳者 漆原敦子
出版社 早川書房
出版年 2015/7/25
面白度 ★★★
主人公 英国秘密情報局がいかに中国から情報を得るかという話なので、主人公を絞りにくいが、強いて挙げれば脱走囚人リー・ファションとジャーナリストのフィリップ・マンガン。
事件 砂漠の収容所を脱走したリーは、その後北京まで逃げ延びた。そしてマンガンに「英国大使館に伝えてくれ、ナイトヘロンが狩りをしていると」と謎めいた言葉をかけたのである。マンガンは困惑するものの、英国情報部はマンガンを使った作戦を立て……。
背景 著者の第一作。BBCの関係会社で北京などに特派員として駐在した経験を元に書かれているようだ。マンガンの行動・思考などの描写はリアリティがあって興味深いが、情報部の計画は平凡。二人の迫力ある最後の逃亡劇までに至る展開が長すぎるのも欠点か。

邦題 『グレイストーンズ屋敷殺人事件』
原作者 ジョージェット・ヘイヤー
原題 A Blunt Instrument(1938)
訳者 中島なすか
出版社 論創社
出版年 2015/1/30
面白度 ★★
主人公 スコットランド・ヤードの警視ハナサイドと巡査部長ヘミングウェイ。
事件 1937年の初夏の夜、ロンドン郊外のグレイストーンズ屋敷で主人のアーニー・フレッチャーが鈍器で撲殺された。発見者は地元の巡査。容疑者には、遺産相続者となるアーニーの甥や借金のために脅迫されていた近くの主婦とその夫、取引を依頼されていた金融ブローカーなどがすぐに浮かんだが、決め手がなく捜査は難航。すると第二の殺人事件が……。
背景 著者の邦訳三冊め。前二冊と同様、ユーモラスな会話を多用して物語を展開させていて読みやすいが、謎解きミステリーとしては早い段階で仕掛けがわかってしまうのが難点。1920年代に発表されていたら、評価はもう少し高くなるはずだが。

邦題 『出口のない農場』
原作者 サイモン・ベケット
原題 Stone Bruises(2014)
訳者 坂本 あおい
出版社 早川書房
出版年 2015/7/15
面白度 ★★★★
主人公 フランスのとある田舎町の農場に逃亡して紛れ込んだ英国青年ショーン。
事件 ショーンは紛れ込んだ森のなかで罠にかかり、足に重傷を負った。意識が回復すると、その農場の娘マティルドが彼を必死に介抱してくれていたのだ。だがマティルドは何かを隠そうとしている。この農場には持ち主の父親と彼女の子どもと彼女の妹の4人が住んでいたが、ショーンは何かが隠されているとの不安を抱き始め……。
背景 <法人類学者デイヴィッド・ハンター>シリーズで人気を集める著者の初めてのノン・シリーズ作品。主人公は当初信用のおけない男として登場するが、次第に感情移入してしまう。それを可能にする語り口と登場人物の造形力にはやはり脱帽だが、プロットはイマイチ説得力を欠く。

邦題 『皇帝ネロの密使』上下
原作者 ジェームズ・ベッカー
原題 The First Apostle(2008)
訳者 萩野融
出版社 竹書房
出版年 2015/2/5
面白度 ★★
主人公 ロンドン近郊ケント州の警察官クリス・ブロンソン。離婚歴のある独身者で、元妻アンジェラ・ルイスは大英博物館の歴史学者。
事件 クリスの親友の妻ジャッキーがイタリアの古い邸宅で事故死したという。彼女は、クリスがかつて想いを寄せた女性であったため、急遽現地に向かった。調査をすると、≪嘘つきたち、ここに眠る≫という謎の言葉が一因で、殺されていることが分かったのだ。やがてクリスらにも……。
背景 動機というか物語の背景が、突拍子もないもので唖然としてしまう。これ以上は触れないが、なにはともあれ、ダン・ブラウンのようなスケールの大きな物語が好きな読者向けの内容。歴史的な真実性はほとんど感じないが、この手の作品でベッドシーンが全くないのは珍しい!

邦題 『偽証裁判』上下
原作者 アン・ペリー
原題 The Sins of the Wolf(1994)
訳者 吉澤康子
出版社 東京創元社
出版年 2015/1/30
面白度 ★★★
主人公 シリーズ・キャラクターの私立探偵ウィリアム・モンクと看護婦ヘスター・ラターリィ。もう一人のレギュラー、弁護士のオリヴァー・ラスボーンは今回はチョイ役。
事件 ヘスターは、1857年10月新たな仕事を得た。エディンバラの名家の女主人が夜行列車で上京するのに付き添い、指示通りに薬を飲ませるというものだった。経験豊富なヘスターには簡単な仕事であったが、列車がロンドンに着いてみると女主人は毒殺され、容疑はヘスターに!
背景 モンク・シリーズの邦訳第4弾(原シリーズの5作目)。訳題からは法廷ミステリーを連想してしまうが、少なくとも裁判劇が本書のクライマックスではない。またヴィクトリア朝期の法廷での検事と弁護士のやり取りよりも、当時の風俗・人間描写の方が面白い。

邦題 『貧乏お嬢さま、吸血鬼の城へ』
原作者 リース・ボウエン
原題 Royal blood()
訳者 田辺千幸
出版社 原書房
出版年 2015/4/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『貧乏お嬢さまと王妃の首飾り』
原作者 リース・ボウエン
原題 Naughty in Nice()
訳者 田辺千幸
出版社 原書房
出版年 2015/12/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『見張る男』
原作者 フィル・ホーガン
原題 A Pleasure and Calling(2014)
訳者 羽田詩津子
出版社 KADOKAWA
出版年 2015/9/25
面白度 ★★★
主人公 英国の小さな町で不動産仲介業を営んでいるウィリアム・ヘミング。異常なのは、今までに売った家の合鍵をすべて持っていること。30代の独身男性。
事件 ヘミングは、家主が不在の間に勝手に家に上がり込み、彼らの生活を観察するのが楽しみという変人。そして図書館に勤める女性に一目惚れしたことから事件が発生。なんと彼女が付き合っている既婚男性の家に潜入し、殺人にまで発展してしまったのだ!
背景 本邦初紹介作家の不思議なミステリー。物語は、ヘンな主人公の一人称で語られる。サイコ・サスペンスというより、悪漢小説に近い。というのもこの主人公は、平然と嘘を付いたりするわりには、女性にもてるしユーモアもある。ワルの魅力か?

邦題 『ガール・オン・ザ・トレイン』上下
原作者 ポーラ・ホーキンズ
原題 The Girl on the Train(2015)
訳者 池田真紀子
出版社 講談社
出版年 2015/10/15
面白度 ★★★★
主人公 3人の語り手。中心は失業中の離婚女性レイチェル・ワトソンだが、レイチェルの元夫と結婚したアナ・ワトスンと近隣に住む女性メガン・ヒップウェルの二人も準主役。
事件 酒浸りの日々を送るレイチェルは、通勤電車の窓から、幸せそうなヒップウェル夫婦に注目していた。その夫婦の家は、レイチェルの元夫が再婚して住んでいる家のごく近くにあった。だがある朝、メガンが行方不明になった。失踪か殺人か?
背景 今年全米でベストセラーとなった作品。著者の第一作というのだから驚きだ。登場人物が少ないうえに語り口が滑らかなので、すぐに物語に入っていけるサイコ・スリラー。米英でベストセラーになるのも納得だが、結末に捻りが少ない点がミステリー的には減点か。

邦題 『幽霊海賊』
原作者 ウィリアム・ホープ・ホジスン
原題 The Ghost Pirates(1909)
訳者 夏来健次
出版社 書苑新社
出版年 2015/7/22
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『カルニヴィア3 密謀』
原作者 ジョナサン・ホルト
原題 The Traitor(2015)
訳者 奥村章子
出版社 早川書房
出版年 2015/9/15
面白度 ★★★★
主人公 イタリア憲兵隊刑事部大尉カテリーナ・ターポとイタリア駐留米軍少尉ホリー・ボランド、そしてSNS「カルニヴィア」の創設者ダニエーレ・バルボの三人。
事件 ヴェネツィアの海岸で、喉を掻き切られ舌を抜かれた男性の遺体が見つかった。カテリーナが捜査を始めると、秘密結社が関係していることがわかった。一方ダニエーレは「カルニヴィア」を引退しようとし、ホリーは父親を陥れた陰謀を暴こうと……。
背景 カルニヴィア三部作の最終作。イタリア国民を驚かす大規模な政治的陰謀や9・11を越えるサイバー・テロなどを扱っていて、最終作に相応しいプロット。一歩間違えれば単なる大法螺話になるところをリアリティある描写で最後まで読ませてしまう。筆力もたいしたものだ。

邦題 『モリアーティ』
原作者 アンソニー・ホロヴィッツ
原題 Moriarty(2014)
訳者 駒月雅子
出版社 KADOKAWA
出版年 2015/11/30
面白度 ★★★
主人公 語り手はピンカートン探偵社に所属する調査員のフレデリック・チェイス。チェイスと共同で仕事をするのがスコットランド・ヤードのアセルニー・ジョーンズ警部。
事件 ホームズと彼の宿敵モリアーティが、ライヘンバッハの滝で姿を消した。現場を訪れたのは、チェイスとジョーンズ警部。二人は情報交換の末、モリアーティに接触しようとしていたアメリカ犯罪組織の首領デヴァルーを捕らえるために協力し、暗号の手紙の解読に成功したが……。
背景 『絹の家』に続く著者のホームズ贋作シリーズの第2弾。とはいえホームズとワトソンはほとんど登場せず、一人称で事件の手記を書いているのがチェイスという設定。したがって贋作ながら縛りは少なく結末の意外性は十分だが、通俗活劇の部分はやはり退屈だ。

邦題 『髭殺人事件』
原作者 キリル・ボンフィリオリ
原題 The Great Mortdecai Moustache Mystery(1997)
訳者 三角和代
出版社 角川書房
出版年 2015/1/25
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの画商のチャーリー・モルデカイ。ただし本作では画商としての活動はせず、純粋に素人探偵として活躍する。また妻や用心棒にはほとんど助けてもらわない。
事件 ポアロばりの口髭を生やしたモルデカイの元に、大学時代の恩師が訪ねてきた。カレッジの女性研究者が自動車と対面衝突して事故死したが、不審な点があるので調べてほしいというのだ。調査を始めると、あやしい男や不審な金の流れが明らかとなり……。
背景 モルデカイ・シリーズ第4弾。著者は1985年に亡くなったが、ほほ完成していた原稿を1979年に編集者に渡していたため、最後の二章をクレイグ・ブラウンが書き足して完成。例によって言葉遊びなどの細部の面白さで読ませるが、結末がきちんと解決しているのは別著者のおかげか。

邦題 『未成年』
原作者 イアン・マキューアン
原題 The Children Act(2014)
訳者 村松潔
出版社 新潮社
出版年 2015/11/25
面白度 ★★★★
主人公 高等法院の裁判官であるフィオーナ・ネイ。50代後半の女性。ピアノ演奏はセミプロ級の腕前。個人的には、夫から若い女との情事を認めろと迫られて、悩んでいる。
事件 そのフィオーネに緊急案件が廻ってきた。「エホバの証人」の信仰を理由に、輸血を拒んでいる白血病の少年に対して、病院側は本人の意思に反して輸血を求めてきたのだ。輸血をしなければ少年は死ぬという。彼女は病院にまで足を運び、最終的にOKをだすが……。
背景 英国を代表する作家の最新作。狭義のミステリーに入るわけではないが、主人公が女性裁判官で、輸血の是非を巡る論争や、後半のプロットは意外性に富んでいるので、ミステリーとして読んでも楽しめる。もちろん簡潔な文体による語り口も、相変わらず素晴らしいが。

邦題 『獣狩り』
原作者 スチュアート・マクブライド
原題 Birthdays for the Dead(2012)
訳者 山本やよい
出版社 ハーパーコリンズ・ジャパン
出版年 2015/11/25
面白度 ★★
主人公 スコットランドのオールドカースル警察(架空都市の警察)の巡査アッシュ・ヘンダーソン。離婚歴があり、現在は独身で娘二人のうち、一人は誘拐犯に殺害された。
事件 13歳の少女を誕生日直前に誘拐して殺害する連続殺人犯バースデイ・ボーイ。英国中を震撼させている事件だが、この事件の担当者の一人アッシュの娘も被害者だが、明らかにすると担当を外されてしまう。アッシュは情報を隠したまま仇討ちを誓うが、今年もまた一人が!
背景 警察組織より、警察官個人の活動を描いた警察官小説。少女連続殺人犯のサイコ・パスを追うプロットは興味深いが、十年以上かけても犯人を逮捕出来ないとは情けない。またアッシュに魅力が不足しているのも弱点。著者の筆力のおかげで、スイスイ読めるのが取り柄か。

邦題 『忘れゆく男』
原作者 ピーター・メイ
原題 The Lewis Man(2011)
訳者 青木創
出版社 早川書房
出版年 2015/3/25
面白度 ★★★★
主人公 エディンバラ市警の元刑事フィン・マクラウド。警察を辞めて故郷のルイス島に戻った。もう一人の影の主役は、フィンの初恋相手の父親トーモッド・マクドナルド。
事件 島の泥炭地から身元不明の遺体が見つかった。検死の結果、遺体の入れ墨から1950年代に殺され、さらにDNAの分析からトーモッドの血縁関係者であることが判ったのだ。しかしトーモッドはすでに認知症。フィンはトーモッドの過去の秘密を調べる決心をした。
背景 青春ミステリーの佳作『さよなら、ブラックハウス』から始まったルイス島三部作の第二弾。今回は、フィンの初恋女性の父親(すでに認知症患者となっている男)の暗い過去を掘り下げる話。重い内容だけに前半は物語に乗りにくいが、謎が解ける終盤の緊迫感はさすがに素晴らしい。

邦題 『戦場の支配者 SAS部隊シリア特命作戦』上下
原作者 クリス・ライアン
原題 Masters of War(2013)
訳者 石田享
出版社 竹書房
出版年 2015/7/23
面白度 ★★★
主人公 イギリス陸軍特殊空挺部隊(SAS)パトロール隊員のダニー・ブラウン。二十代前半の若者。母がIRAに殺される直前に誕生。父はその時の襲撃で廃人同様の身になっている。
事件 シリア反政府部族の長老がパリで暗殺された。英政府は長老の次男に政権を取らせようと、情報部員をシリアに送り込むことにし、そのミッションのリーダーとしてダニーが命じられたのだ。シリアの海岸までは潜水艦で問題なく辿り着いたが、上陸するとたちまち何者かに襲撃され……。
背景 SAS隊員が主人公の戦争冒険小説を書き続けている著者の邦訳16冊目の作品。これまで同様、戦闘場面や銃器の描写に多くの筆を費やしている。著者の一つの特徴である意外性のあるプロットが少なくなっているのは残念だが、一気読み出来る筆力は相変わらずだ。

邦題 『偽りの果実―警部補マルコム・フォックス―』
原作者 イアン・ランキン
原題 The Impossible Dead(2011)
訳者 熊谷千寿
出版社 新潮社
出版年 2015/5/1
面白度 ★★★
主人公 ロジアン&ボーダーズ州警察、汚職調査室”監察室”所属の警部補マルコム・フォックス。離婚し、妹とともに父を介護。巡査部長トニー・ケイと巡査ジョー・ネイスミスが助演。
事件 不良巡査カーターについてフォックスらが調査を始めると、その彼を告発した叔父アランが不審死を遂げた。自殺のようであったが、アランは25年前に事故死した民族主義活動家の死を再調査していたのだ。アランの死と古い事故死とは関係があるのか?
背景 フォックス・シリーズの第2弾。文庫で700頁を越える大著だが、事件そのものは比較的単純。したがって正直長すぎるものの、筆力のあるベテラン作家らしく、退屈することはない。ただし、本業を離れたフォックスの捜査はかなり安易で、ミステリー的らしい仕掛けが欲しい。

邦題 『他人の墓の中に立ち』
原作者 イアン・ランキン
原題 Standing in Another Man's Grave(2012)
訳者 延原泰子
出版社 早川書房
出版年 2015/4/15
面白度 ★★★
主人公 ロウジアン&ボーダーズ州警察の重大犯罪事件再調査班所属の元刑事ジョン・リーバス。彼を助けるのが犯罪捜査部の部長刑事シボーン・クラーク。
事件 定年退職したリーバスは、民間人として再調査班に戻った。単なる「手伝い」の身になったが、その彼の前に未解決事件が転がり込んできた。1999年から2008年の間に3人の女性が失踪し、いまだ行方不明だという。事件現場のA9号道路を調べ始めると……。
背景 『最後の音楽』で引退したリーバスの5年ぶりの新作(シリーズ19作目)。相変わらず長い警察小説だが(そして前半はいささか退屈だが)、さすがに終盤は巧みにまとめている。残念なのは別シリーズの主役フォックスが嫌味な男として描かれていることだろう。

邦題 『神さまがぼやく夜』
原作者 マイケル・Z・リューイン
原題 Lonfessions of a Discontented Deity(2012)
訳者 田口俊樹
出版社 ヴィレッジブックス
出版年 2015/1/20
面白度 ★★
主人公 驚くなかれ、神。
事件 万物の創世主たる神は悶々としていた。百年ぶりに下界に降りてみると、その世界は大きく変化していたからだ。人間たちはスマートフォンにタトゥーなどなど。そこで神は人間をより詳しく理解するために酒場巡りを始めて、様々な男女に接触するが……。
背景 著者が電子書籍オリジナルで出版した作品。物語の設定からSFやファンタジーに近く、ミステリーとは言い難いが、著者がミステリー作家なので本欄に含めた。ダジャレや言葉遊びが多く、ユーモア小説としてはそこそこ楽しめる。無いものねだりになるが、パズル的興味のある設定を少しは入れて欲しかった。

邦題 『街への鍵』
原作者 ルース・レンデル
原題 The Keys to the Street(1996)
訳者 山本やよい
出版社 早川書房
出版年 2015/8/15
面白度 ★★★★
主人公 物語は主に4人の視点から語られる。したがって骨髄提供者の若い女性メアリとホームレスの男性2名、犬を散歩させる老人の4人が主人公といえようが、正確に言えばロンドンのリージェント・パーク地区に住む住民そのものか。ロンドンの街が巧みに描かれているから。
事件 メアリは同居していた男と別れ、彼女の骨髄提供のおかげで健康が戻った男レオに惹かれ始める。一方メアリの住む街では、ホームレスの連続殺人事件が発生していた。
背景 20世紀に出版された未訳本の一冊。訳出は著者が今年亡くなったためと思われるが、レンデル・ファンには嬉しい贈り物だ。街の風景や登場人物の行動・心理を描く描写力は相変わらず確かなものだ。その上ミステリー作家らしいプロットがあるのも嬉しい。

邦題 『ラリーレースの惨劇』
原作者 ジョン・ロード
原題 The Motor Rally Mystery(1933)
訳者 熊木信太郎
出版社 論創社
出版年 2015/10/30
面白度 ★★
主人公 数学者で素人探偵のプリーストリー博士。事件解決に協力するのはスコットランド・ヤードのハンスリット警視と博士の秘書ハロルド・メリフィールド。
事件 王立自動車クラブ主宰の英国ラリー大会でハロルドらのチームは、最終日トーキーを目指して出発直後、大会参加車が事故で側溝に嵌っているのを見つけた。運転手らはすでに死亡していて、当初は事故と考えられたが、なんとその参加車が盗難車にすり変わっていたのだ!
背景 多作謎解き作家として有名なロードの初期作品。風景・風俗描写は少なく、ひたすら謎解きに徹している姿勢はまあ好ましいが、正直言って説明文も会話も、すんなり頭に入ってこないのはこの著者の弱点か。動機の意外性が面白かったものの、トリックはつまらない。

邦題 『曲がり角の死体』
原作者 E・C・R・ロラック
原題 Daeth at Dyke's Corner(1940)
訳者 藤村裕美
出版社 東京創元社
出版年 2015/9/11
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁の首席警部ロバート・マクドナルド。
事件 豪雨の夜、ダイクス・コーナーと呼ばれる危険なカーブで衝突事故が発生した。大破したダイムラーの運転席には男の死体が見つかるが、検死の結果、なんと一酸化炭素中毒が死亡原因で、事故の二時間以上前に死んでいたというのだ!
背景 探偵小説の黄金期にコリンズ社から多くの作品を発表し、クリスティと比肩されることがある著者の中期の作品。冒頭の語り口・設定が巧みで、20頁足らずで物語に引き込まれるが、容疑者の尋問が長々と続くそれ以降は平凡。謎解き小説としてより、田舎に進出することになるチェーンストア―と旧来の商店街の対立を描いた風俗ミステリーとして楽しめる。

戻る