邦題 『裁きの鐘は』上下
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 Best Kept Secret(2013)
訳者 戸田裕之
出版社 新潮社
出版年 2014/4/1
面白度 ★★★
主人公 クリフトン家とバリントン家の面々。本作ではハリー・クリフトンと息子のセバスティアン・クリフトンの二人が大活躍する。
事件 バリントン家の正統な後継者問題が決着し、それぞれが新しい生活を始めた矢先、エマ・クリフトンの母が亡くなった。だが母が亡くなる直前に遺言書を変更したこともあり、裁判が起こる。さらにハリーやジャイルズを憎む者がバリントン海運を凋落させるために株を買い……。
背景 クリフトン年代記の第三部。本作では1945年から1957年の12年間を扱っている。遺産相続裁判やナチの残した偽札の移送というプロットはミステリー的でそこそこ楽しめるが、これまでの二番煎じという感じ。作中のクリスティが昼食付き講演会をやることは実際はありえない。

邦題 『ヴァイオリン職人の探求と推理 』
原作者 ポール・アダム
原題 The Rainaldi Quarted(2004)
訳者 青木悦子
出版社 東京創元社
出版年 2014/5/30
面白度 ★★★★
主人公 名ヴァイオリン職人のジョヴァンニ(ジャンニ)・カスティリョーネ。63歳。妻を病気で亡くし、現在は独身である。シリーズ・キャラクター。
事件 同業者で親友のトマソが殺害された。彼は前週一千万ドルは越えるといわれる幻のストラディヴァリを探しにイギリスに行っていた。それが関係しているのか? ジャンニは友人の刑事ガァタフェステに協力し、事件を探り始めるが……。
背景 シリーズ第一弾。ヴァイオリンを巡るミステリー。語り口がソフトで、殺人事件が二件も発生するものの、悲惨さや残酷さを直接的に感じさせない描写力はサスガ。衒学趣味に陥らずヴァイオリンに関する薀蓄もわかりやすく説明していて、コージー・ミステリーとして良く出来ている。

邦題 『ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密』
原作者 ポール・アダム
原題 Paganini's Ghost(2009)
訳者 青木悦子
出版社 東京創元社
出版年 2014/11/14
面白度 ★★★
主人公 イタリアのクレモラに住むヴァイオリン職人のジョヴァンニ(ジャンニ)・カスティリョーネ。妻は他界し、子どもは独立。一人暮らしだが親しい女性がいる。
事件 ジャンニの元に、コンクールの優勝者が弾く予定の、パガニーニ愛用の名器が修理のために持ち込まれた。ジャンニの活躍で修理は間に合い、リサイタルも無事終了。だがリサイタルに来ていた美術品ディーラーが撲殺され、謎の黄金製の箱が残されていた。殺人の手掛かりか?
背景 シリーズ第二作。コージー・ミステリーと歴史ミステリーを巧みに織りなした語り口が秀逸。ただし歴史を勝手に改竄しているような感じのストーリーは都合が良すぎる気がするし、知識をひけらかし過ぎる描写が二作目にもなると、いささか鼻に付く。

邦題 『最後の1分』
原作者 エレナー・アップデール
原題 The Last Minute(2013)
訳者 杉田七重
出版社 東京創元社
出版年 2014/11/14
面白度 ★★
主人公 群像劇なので、主人公はいない。
事件 クリスマス前のある日、ヒースウィック町の中心部ではガス工事が行われており、交通渋滞が発生していた。そこにはクリスマスに娘に会えるのを楽しみにしている老人、次期選挙を控えた不倫中の政治家、いたずらっ子が一杯のバス、奇妙な物乞いなど、多数の人間がいたが……。
背景 著者の初邦訳書。謎の爆発1分前から長編小説が始まるという斬新なプロットのスリラーだが、小説としての面白味に欠ける。登場人物の誰にも感情移入できない内に物語が終わってしまうから。65人の犠牲者を出した謎解きも平凡そのもの。著者はBBCでテレビ番組などの製作に携わったそうだが、テレビ映画のカットバックを多用した実験的な小説か。

邦題 『探偵ブロディの事件ファイル』
原作者 ケイト・アトキンソン
原題 Case Histories(2004)
訳者 青木純子
出版社 東京創元社
出版年 2014/10/24
面白度 ★★★★
主人公 私立探偵ジャクソン・ブロディ。軍隊生活を経て警官を12年務めた後、2年前に私立探偵になった中年男性。現在は離婚しているが、娘が一人いる。
事件 彼の目下の仕事は、34年前に3歳で姿を消した妹の捜索(死んだ父親の家を片づけていたらその少女のネズミのぬいぐるみが見つかったため)や娘を惨殺された弁護士からの殺人犯探し、さらには消えた黒猫探しなど、一風変わった事件ばかりであったが。
背景 『博物館の裏庭で』でデビューした純文学系作家のミステリー。冒頭の風変わりなエピソードを巧みに取り入れて物語が展開し、最後には奇麗にまとめてしまう。この小説技法には感心してしまうが、ミステリーの面白さとは言いにくい。才人なのは間違いないが。

邦題 『怪奇文学大山脈T 西洋近代名作選(19世紀再興篇)』
原作者 荒俣宏編纂
原題 日本独自の編集(2014)
訳者 南条竹則他
出版社 東京創元社
出版年 2014/6/27
面白度 ★★★
主人公 欧米の怪奇文学が近代化する18-19世紀の作品を系統的に14編集めている。その内アイルランド生まれのオブライエンを含めると、7作が英国作家の作品となるのでリストに含めた。
事件 英国作家の作品を挙げると、「フランケンシュタインの古城」(作者不詳?)「イタリア人の話」(キャサリン・クロウ)「人狼」(クレメンス・ハウスマン)「モノスとダイモノス」(エドワード・ブルワー=リットン)「悪魔のディッコン」(レ・ファニュ)「鐘突きシューバル」(フィッツ=ジェイムス・オブライエン)「仮面」(リチャード・マーシュ)の7編。
背景 長いまえがきと詳しい作品解説から編者の意気込みがよくわかるアンソロジー。ただし歴史的視点から作品が選ばれているので、必ずしも面白い作品ばかりではない。

邦題 『怪奇文学大山脈U 西洋近代名作選』
原作者 荒俣宏編纂
原題 日本独自の編集(2014)
訳者 夏来健次他 
出版社 東京創元社
出版年 2014/8/29
面白度 ★★★
主人公 荒俣アンソロジーの第二弾。18作中12作が英国人作家。
事件 「未亡人と物乞い」(ロバート・ヒチェンズ)「ストリックランドの息子の生涯」(J・D・ベリズフォード)「シルヴァ・サーカス」(A・E・コッパード)「島」(L・P・ハートリー)「紙片」(アーサー・マッケン)「遅参の客」(ウォルター・デ・ラ・メア)「ふたつのたあいない話」(オリヴァー・オニオンズ)「アンガーダイン家の信徒席」(W・F・ハーヴィー)「ブレナー提督の息子」(ジョン・メトカーフ)「海辺の恐怖―一瞬の経験」(ヒュー・ウォルポール)「釣りの話」(H・R・ウェイクフィールド)「不死鳥」(シルヴィア・T・ウォーナー)
背景 さすがに20世紀前半は英国作家の怪奇小説が流行ったのがよくわかる。なおVは英国作家はほとんど含まれていないので、本リストには含めていない。

邦題 『窓辺の老人』
原作者 マージョリー・アリンガム
原題 日本独自の編集(1937)
訳者 猪俣美江子
出版社 東京創元社
出版年 2014/10/17
面白度 ★★★
主人公 私立探偵アルバート・キャンピオン。角縁眼鏡をかけた黄色い髪の長身・青白い若者として登場。趣味はワインや美術蒐集。相棒はロンドン警視庁CIDのスタニスラウス・オーツ警部。
事件 7つの短編「ボーダーライン事件」(不可能犯罪物だが、最後の一行がスゴイ)「窓辺の老人」「懐かしの我が家」「怪盗<疑問符>」「未亡人」「行動の意味」「犬の日」(最後の一行がこの作者らしいオチ)と一本のエッセイ「我が友、キャンピオン」からなる短編集。
背景 日本独自に編集された短編集。冒頭の一編「ボーダーライン事件」は江戸川乱歩の『世界短編傑作集3』にも採られている秀作。いずれの短編もサスペンスはそう豊かではないが、ほのかなユーモアのある著者独特の語り口が楽しめる。

邦題 『自分の同類を愛した男』
原作者 井伊順彦編
原題 日本独自の編集(2014)
訳者 井伊順彦他
出版社 風濤社
出版年 2014/2/28
面白度 ★★
主人公 20世紀英国モダニズム小説集成の一冊として出た短編集。収録作品は全15本。
事件 「ミス・ウィンチェルシーの心」(H・G・ウェルズ)「エイドリアン」(サキ)「捜す」(同左)「フィルボイド・スタッジー――ネズミの恩返しのお話」(同左)「遠き日の出来事」(J・ゴールズワージー)「人類学講座」(R・A・フリーマン)「謎の訪問者」(同左)「主として店主について」(G・K・チェスタトン)「クラリベル」(A・ベネット)「自分の同類を愛した男」(V・ウルフ)「遺産」(同左)「まとめてみれば」(同左)「朝の殺人」(D・L・セイヤーズ)「一人だけ多すぎる」(同左)「家屋敷にご用心」(M・アリンガム、これは面白い)の15本。
背景 ミステリー作家の短編が5本含まれているので、つい取り上げてしまった。

邦題 『世を騒がす嘘つき男 英国モダニズム短篇集2 』
原作者 井伊順彦編
原題 日本独自の編集(2014)
訳者 井伊順彦他
出版社 風濤社
出版年  
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『養鶏場の殺人/火口箱』
原作者 ミネット・ウォルターズ
原題 Chickenfeed/The Tinder Box(2013)
訳者 成川裕子
出版社 東京創元社
出版年 2014/3/14
面白度 ★★★★
主人公 中編2本からなる中編集。主人公は特にいない。
事件 「養鶏場の殺人」は1920年代に英国で実際にあった事件を元に執筆されたノンフィクション的ミステリー。4歳下の青年が年上の女性との婚約から結婚に至る過程で、その女性を殺害してしまうというもの。コナン・ドイルも異議を表明した事件だが、最後の「著者のノート」がいかにもミステリー作家に相応しい内容だ。「火口箱」は偏見に満ちた小村で起きた老女二人の強盗殺人事件を扱ったもので、時間を行きつ戻りつする語り口は見事な技巧の実例といえようか。
背景 前者は「クイック・リード・シリーズ」の一編として書かれただけに実に読みやすい。後者は読書巧者向けのミステリー作品だけに、プロットも結末も意外性に満ちている。

邦題 『隅の老人[完全版]』
原作者 バロネス・オルツィ
原題 The Old Man in the Corner(19051909-1925)
訳者 平山雄一
出版社 作品社
出版年 2014/1/31
面白度 ★★
主人公 隅の老人の全短編(短編集3冊+未収録の1本)を訳したもの。特に『隅の老人』と『ミス・エリオット事件』の短編は雑誌初出時のものを訳している。
事件 38本すべての題名は書ききれない。第一、第二短編集のうち、戦後訳出されなかった作品は「グラスゴーの謎」「バーミンガムの謎」「シガレット号事件」「誰が黒ダイヤモンドを盗んだのか?」「<ノヴェルティ劇場>事件」の4本。私家版を除くと第3短編集『解かれた結び目』は1本(「タイサートン事件」)しか訳されていない。未訳は全17本。
背景 解説を含む総頁は600頁を越え、定価は6800円という枕頭の書。似たような語り口の作品ばかりなので、途中で飽きてしまう。明らかに古典ミステリー・マニア向きの本。

邦題 『静かなる炎』
原作者 フィリップ・カー
原題 A Quiet Flame(2008)
訳者 柳沢伸洋
出版社 PHP
出版年 2014/1/22
面白度 ★★★
主人公 元ベルリン警察殺人課警察官ベルンハルト(ベルニー)・グンター。ナチ時代には私立探偵として活躍したが、敗戦後は偽名でアルゼンチンに亡命。共演は、グンターが愛してしまう法務担当者でロシア系移民の美女アンナ・ヤグブスキー。
事件 1950年、アルゼンチンのペロン大統領は、元ナチを大量に受け入れていた。ベルリンでのかつての事件に似ていたため、グンターは忌まわしい女性惨殺事件の捜査を依頼される。
背景 グンター・シリーズの第5作(復活してからの第2作)。過去の事件はベルリン、現在の事件はアルゼンチンが舞台で、それが並行して語られる。このため物語は長すぎるが、相変わらず会話や警句の面白さで読ませる。ミステリーよりも恋愛風俗小説として興味深い。

邦題 『運河の追跡』
原作者 アンドリュー・ガーヴ
原題 The Narrow Search(1957)
訳者 菱山美穂
出版社 論創社
出版年 2014/7/30
面白度 ★★
主人公 モデルのクレア・ハンター(既婚で一歳の娘がいる)とクレアの友人(仕事仲間)でカメラマンのヒュー・キャメロン。
事件 離婚を決意したクレアは、一人娘を連れて友人宅に移った。しかし納得のいかない夫は娘を拉致し、離婚の撤回を主張する。クレアは友人のヒューの手を借りて娘を探し出そうとし、家に残されていた謎の手紙から、ナローボートに幽閉されていると推理したのだった。
背景 『メグストン計画』と『ギャラウェイ事件』の間に書かれた作品。著者の絶頂期に出た作品ということで期待大だが、結果は当時の編集者の判断が正しかったようで、これまで未訳なのも納得。運河に関する記述は面白いものの、話が短かすぎて盛り上がらない。

邦題 『ハイスピード』
原作者 サイモン・カーニック
原題 Seveered(2007)
訳者 佐藤耕士
出版社 新潮社
出版年 2014/5/10
面白度 ★★★★
主人公 15年間軍にいた元兵士のタイラー。現在は独身で、車販売所を経営している。物語の語り手の「おれ」でもある。元妻のアディーンは弁護士。
事件 金曜の朝、不快な眠りから目を覚ましたおれは驚いた。血染めのベッドで寝ていたうえに、隣には女性の首なし死体があったのだ。殺しの濡れ衣を着せられたおれは、不審な鞄の受け渡しを強要された。ところがその受け渡し現場で殺人が起き……。
背景 『殺す警官』でデビューした著者の邦訳4冊め。前作『ノンストップ!』は普通人が事件に巻き込まれて逃げ惑うスリラーであったが、今回はプロが事件に巻き込まれる冒険活劇小説。プロットには謎も捻りもあるうえに、冒頭から最後までサスペンスは衰えていない。天晴れ!

邦題 『カッコウの呼び声』
原作者 ロバート・ガルブレイス
原題 The Cuckoo's Calling(2013)
訳者 池田真紀子
出版社 講談社
出版年 2014/6/26
面白度 ★★★★
主人公 アフガニスタンに従軍して負傷し、下腿切断者となった私立探偵コーモラン・ストライク。同棲相手に追い出され事務所に寝泊まりしている30代の独身。彼を助けて活躍するのが派遣秘書のロビン・エラコット。婚約したばかりの25歳の美人女性。
事件 スーパーモデルが最上階から転落死した。警察は自殺と断定し、一件落着。しかしモデルの兄で弁護士のブリストウが疑問を持ち、コーモランに再調査を依頼したのだ。
背景 ハリー・ポッター物語で超有名なローリングが別名で書いた初めてのミステリー。謎解き小説としては無難なまとめ方をしているが(一部納得しがたい点もあるが)、主人公二人の言動が思いの外楽しめる。義足探偵としての特徴も生かされているので★を一つプラス。

邦題 『エドウィン・ドルードのエピローグ 』
原作者 ブルース・グレアム
原題 Epilogue(1933)
訳者 森沢くみ子
出版社 原書房
出版年 2014/10/28
面白度 ★★★
主人公 謎を解くのは1930年代から1870年代にタイムスリップしたロンドン警視庁警視のウィリアム・スティーヴンズと同部長刑事のヒュー・アーノルド。
事件 未完のチャールズ・ディケンズ『エドウィン・ドルードの謎』の解決篇を書いた作品。ということで事件そのものはディケンズが創作した。大聖堂のある町でドルードがクリスマスイヴに謎の失踪をしたが、死体は見つからず、代わりに彼の時計などが川で発見され……。
背景 スティーヴンズ・シリーズの第三作。冒頭はSF的で、内容は未完の大作を引き継ぐという異色作。ただし解決部はディケンズが考えたと予想できるものと同じで意外性は少ない。ミステリー的な面白味はあまりないが、ユーモラスな語り口は読みやすい。

邦題 『震える業火』
原作者 ジェーン・ケーシー
原題 The Burning()
訳者 中井京子
出版社 ヴィレッジブックス
出版年  
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『霧に包まれた骸』
原作者 ミルワード・ケネディ
原題 Corpse Guards Parade(1929)
訳者 西川直子
出版社 論創社
出版年 2014/10/25
面白度 ★★
主人公 事件の捜査で一番活躍するのはスコットランド・ヤードの警部コーンフォードだが、最終的に謎を解くのは、有閑紳士ジョン・メリマンの妻ジョアン。
事件 濃い霧に包まれていた夜中のロンドン。ジョンはホースガード・パレードを歩いていてつまずいた。なんと、パジャマを着た、額に穴の空いた白髪まじりの老人の死体が転がっていたのだ。コンフォードが捜査を開始すると、被害者は南米から帰国した人間とわかったが……。
背景 戦前の雑誌に抄訳された作品の完訳版。著者の単独の訳書としては3冊め。デテクション・クラブの中心メンバーの一人で、連作作品も何冊か手掛けている。会話が多く読みやすいが、単純な事件をわざと複雑かつ曖昧にして語るので、謎を楽しむという気分にはなれない。

邦題 『逆さの骨』
原作者 ジム・ケリー
原題 Moon Tunnel(2005)
訳者 玉木亨
出版社 東京創元社
出版年 2014/2/28
面白度 ★★★★
主人公 週刊新聞「クロウ」の主任記者フィリップ・ドライデン。妻ローラは一時植物人間状態になったが、視線制御装置をパソコンに接続し、コミュニケーションが可能となっている。
事件 イーリーの遺跡発掘現場で男の骸骨が発見された。人骨は、第二次大戦中に捕虜収容所だった場所の脱出用トンネルにあったため脱走兵のものと思われたが、奇妙な点は、外から中に向かっていた上に、額を拳銃で射ぬかれていたのだ!
背景 ドライデン・シリーズの第3作。前2冊は暗いという印象が強かったが、妻を始めとしてドライデンの周りの人々に多少明るさが出てきているのは好印象。謎解き小説としてはそう意外性のあるものではなかったが、人間ドラマの描き方が巧みで後味も悪くない。

邦題 『血の裁き』上下
原作者 ロバート・ゴダード
原題 Blood Count(2011)
訳者 北田絵里子
出版社 講談社
出版年 2014/6/13
面白度 ★★★★
主人公 英国人の外科医エドワード・ハモンド。13年前にセルビアの民兵組織のリーダー、ドラゴン・カジの肝移植手術を成功させた。現在は独身で、一人娘がいる。
事件 突然ハモンドの前にカジの娘が現れ、離婚を希望していた彼の妻を射殺したのは、手術成功のお礼としてカジが命じたと告白したのだ。そしてこの事実を秘密にしたいなら、カジの財産の隠し場所を知る男を探してほしいと脅迫された。彼はハーグに向かうも……。
背景 ゴダードの最新作(長編22作め)。ハモンドが事件に介入せざるを得なくなる導入部の設定がうまく、一気に物語に引き込まれる。ハードボイルド小説のような展開で、終盤でもサスペンスは落ちていない。さらに一段落後のもう一捻りもきちんと決めているのはサスガ。

邦題 『レイナムパーヴァの災厄』
原作者 J・J・コニントン
原題 Nemesis at Raynham Parva(1929)
訳者 板垣節子
出版社 論創社
出版年 2014/11/30
面白度 ★★★
主人公 前警察本部長のクリントン・ドリフィールド卿。かつては南アフリカ連邦の警察に勤務していた。シリーズ・キャラクターである。
事件 レイナムパーヴァに住む姉の家を訪問しようとしていたクリントンは、夜の道路端で男女3人の痴話喧嘩を目撃した。たいした事件とは思えなかったが、彼が可愛がっていた姪エルジーがアルゼンチン男性と結婚していたことから、意外な事実が浮かび上がってきた。
背景 シリーズ第5弾。著者は本作でシリーズを終了させたかったようだ。異色作であることは間違いないが、スリラー小説としても謎解き小説としても中途半端な出来栄え。ただし物語の発想がいろいろな点でクリスティと似ていて、そのため★を一つ追加した。

邦題 『恐怖の島』
原作者 サッパー
原題 The Island of Terror(1930)
訳者 松下祥子
出版社 論創社
出版年 2014/6/30
面白度 ★★
主人公 冒険家のジェイムズ(ジム)・メイランド。彼の従弟パーシー・メイランドと友人のジュディ・ドレイコットがジムを助ける。
事件 気の向くまま世界を旅して久しぶりにロンドンに戻ったジムは、あるパーティでジュディに出会った。彼女の弟が南米滞在中、ある小島に隠された宝の在り処を教わったというのだが、そのパーティの帰り道、弟は殺され、島の地図の半分が盗まれたのだ。三人はその島に向かう。
背景 ブルドッグ・ドラモンドの創造者として有名な著者の新シリーズの第二作。作風はジョン・バカンの小説を通俗仕立てにしたものに近い。物語は前半が宝探し物、後半が秘境冒険物。どちらも独創性には欠けるものの、まあ後半の方が楽しめるか。

邦題 『支配者』上下
原作者 C・J・サンソム
原題 Sovereign(2006)
訳者 越前敏弥
出版社 集英社
出版年 2014/11/25
面白度 ★★★
主人公 法廷弁護士マシュー・シャードレイク。亀背の障害者で39歳の独身。助手のジャック・バランスは準主役。
事件 1514年夏、シャードレイクは国王ヘンリー8世の巡幸に伴う弁護士業務と、北部で捕らえられた謀反人のロンドンへの連行を命じられた。ところがヨークに着いてみると、その町のガラス職人の殺害を目撃したり、自分が狙われたりと、不穏な雰囲気が漂っていた。
背景 シャードレイク・シリーズの第三弾。今回は国王のヨーク巡幸が背景になっており、相変わらず当時の人間・風俗・時代が活写されている。その筆力には感心してしまうし、ミステリー的興味もそれなりに充実しているが、歴史に関心の薄い私のようなファンにはやはり長すぎる。

邦題 『胸の火は消えず』
原作者 メイ・シンクレア
原題 Where Their Fire is not Quenched and Other Uncanny Stories(1923 1931)
訳者 南條竹則編訳
出版社 東京創元社
出版年 2014/2/28
面白度 ★★★★
主人公 著者の二冊の怪奇小説短編集の全11作を訳出した短編集。*印は既訳あり。
事件 「胸の火は消えず」*「形見の品」「水晶の瑕」(中編)*「証拠の性質」*「死者がしっていたら」「被害者」「絶対者の発見」「マハトマの物語」「ジョーンズのカルマ」「仲介者」(中編)*「希望荘」*の11本。
背景 著者はヴィクトリア朝から1920年代まで活躍した女性。フェミニズム運動に参加していたが、心霊研究協会にも入っていたようだ。十代のクリスティが愛読していて、「翼の呼ぶ声」や「Illusion」(習作)などはシンクレアの小説に触発されて書かれた。なお「天国」のみ『怪談の悦び』(東京創元社)に収録されているので、含まれてはいない。

邦題 『終わりのない事件』
原作者 L・A・G・ストロング
原題 Which I Never(1950)
訳者 川口康子
出版社 論創社
出版年 2014/3/25
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁の主任警部エリス・マッケイ。プロの作曲家でもある。既婚者で幼児が一人いる。地元警察の警部ブラッドストリートも活躍。
事件 舞台はデヴォン州の小さな村。エリスは、この村に滞在中の悪徳出版業者を調べるために来村した。ブラッドストリートとともに活動し始めると、エリスの元に奇妙な手紙が届く。さらに古い炭鉱の穴から女性の遺体が見つかったのだ。村から行方不明になった女性か?
背景 短編は3本訳されているが、長編は初紹介の作家の作品。エリス・シリーズ(全4作)の3作め。一言でいえば、ミステリーのプロットや謎(暗号)は平凡で、謎解き小説としては駄作だが、主人公エリスの性格設定が魅力的で、つまりはキャラクターで読ませる作品だ。

邦題 『パディントン・フェアへようこそ』
原作者 デレック・スミス
原題 Come to Paddington Fair(1997)
訳者 宇佐美崇之
出版社 ROM
出版年 2014/8/31
面白度 ★★★
主人公 素人探偵で独身のアルジー・ローレンス。彼を助けるのがスコットランド・ヤードの主任警部スティーヴン・キャッスル。
事件 キャッスルの元に「パディントン・フェアへようこそ」というメッセージとともに二枚の入場券が送られてきた。彼はアルジーを連れて劇場に行ったが、その公演中、主役男性が主役女性を撃つクライマックスで、なんと拳銃には実弾が入っていて、女優は亡くなったのだ!
背景 『悪魔を呼び起こせ』に続く第二作。著者はカーを崇敬している作家で、本作も不可能興味に溢れている。ただし少部数の原書が日本で出版され、その訳書(本書)がROM叢書から刊行されたことからも判るように、謎解き小説マニア向けの内容。マニアなら★4つくらい?

邦題 『ネメシスのささやき』
原作者 アン・ズルーディ
原題 The Whispers of Nemesis()
訳者 ハーディング祥子
出版社 小学館
出版年 2014/3/
面白度  
主人公 

事件 


背景 

邦題 『最重要容疑者』上下
原作者 リー・チャイルド
原題 A Wanted Man(2012)
訳者 小林宏明
出版社 講談社
出版年 2014/9/12
面白度 ★★★
主人公 ジャック・リーチャー。元米国陸軍警察少佐で、除隊後は各地を巡り歩いて、様々な事件を解決している。195cm、110Kgの巨漢。
事件 ネブラスカでリーチャーはやっと車に拾われた。車には男二人と女一人が乗っていたが、殺人事件発生の報を受けた警察は警備線を張っていた。男らはなにやら嘘を語っているし、女は不安げに黙っている。しかし女の思わせぶりな首の振り方から情報を得たところ……。
背景 シリーズ17作で、邦訳は6冊め。短い文章、やさしい言葉で語られる物語は、いつものようにサスペンス豊かなうえに、意外性にも富んでいる。特に最初の百頁ほどの語り口の上手さには圧倒されるが、最後はマッチョな活劇で終わっているのが個人的には残念。

邦題 『冷酷』
原作者 ルーク・デラニー
原題 Cold Killing(2013)
訳者 堤朝子
出版社 ヴィレッジブックス
出版年 2014/3/20
面白度 ★★★★
主人公 ロンドン警視庁ベッカム署の警部補ショーン・コリガン。妻子持ちの中年男。部下の巡査部長の二人デイヴ・ドネリーとサリー・ジョーンズがショーンを助ける。
事件 ロンドン南部のスラム街で若い男娼の他殺死体が見つかった。被害者は頭部を鈍器で殴られたのちメッタ刺しされていた。第一容疑者はすぐに浮かんだが、決定的証拠を掴む前に、第二、第三の殺人が起こり、無差別連続殺人事件に発展してしまったのだ。
背景 元ロンドン警視庁の刑事であった著者の第一作。典型的な警察小説といってよいが、一部は殺人者の一人称視点で語られるので、サスペンス小説としても楽しめる。さらに著者の経験を生かした警察活動がリアリティを持って描かれている。少し長すぎるのが欠点だが。

邦題 『世界が終わってしまったあとの世界で』上下
原作者 ニック・ハーカウェイ
原題 The Gone-Away World(2008)
訳者 黒原敏行
出版社 早川書房
出版年 2014/4/25
面白度 ★★
主人公 語り手の”ぼく”。親友ゴンゾー・ルビッチは準主役。
事件 舞台は最終戦争後の世界。ぼくとゴンゾーはトラブルシューターとして活動しているが、ある日、戦後世界の秩序を維持している装置の大火災を消し止めることを依頼された。ぼくらは大量破壊兵器によってもたらされた混沌の中に乗り込むが、そこには奇怪な陰謀が待ち受けていて、予想もしていなかった黒幕に立ち向かうことになったのだ。
背景 設定は破滅型SFだが、内容はハチャメチャな冒険活劇。細部に拘り過ぎだが、筆力はかなりのものがある。とはいえ上下巻では長すぎる。ごく一部の人の評価は高そうだが、普通の読者には読み通すのがキツイ。なお著者はジョン・ル・カレの息子だそうだ。

邦題 『服用禁止』
原作者 アントニイ・バークリー
原題 Not to Be Taken(1938)
訳者 白須清美
出版社 原書房
出版年 2014/4/10
面白度 ★★★
主人公 事件の謎解きに挑む果樹栽培者のダグラス・シーウェル。物語の語り手でもある。
事件 ドーセット州の田舎。私たち夫妻に、隣人ジョンの体調が思わしくないという連絡が入った。ジョンは世界を股にかけた電気技師であったが、今では病弱な妻とともに平穏な引退生活を楽しんでいる男。医者の見立ては単なる胃腸炎と思われたが、その夜彼は亡くなった。死因は伝染性下痢となったが、不審を抱いた弟が検死を要求すると、ジョンの臓器からは砒素が!
背景 著者の非シリーズ物の三冊め(前二冊は『プリーストリー氏の問題』と『シシリーは消えた』)。既訳作品と比較するとガチガチの謎解き小説で、読者への挑戦状まで入っている。週刊誌連載の作品だけに読みやすいものの、ラストの切れ味は鈍く、後味も悪くて楽しめない。

邦題 『ラバーネッカー』
原作者 ベリンダ・バウアー
原題 Rubbernecker(2013)
訳者 満園真木
出版社 小学館
出版年 2014/6/11
面白度 ★★★
主人公 カーディフ大学の生物学部に障害者枠で入学した18歳の若者パトリック・フォート。アスペルガー症候群。8歳のとき交通事故で父親を亡くしている。
事件 人とのコミュニケーションは苦手なパトリックだが、父の死に対する飽くなき探求の結果、大学に入学して解剖学を学ぶことになった。だが、その実習中にパトリックは死体から不審物を見つけたのだ。それはアレルギー反応を呼ぶ食物で、ひょっとして殺人ではないのか?
背景 著者の長編4作めで、初めて著者の地元ウェールズのカーディフを舞台にした作品。もともと十代の若者を描くのに長けていたが、本書の成功の大部分はアスペルガー症候群の主人公を魅力的な人物に仕上げた点にある。ミステリーとしてのプロットには弱点も見られるが。

邦題 『モノグラム殺人事件』
原作者 ソフィー・ハナ
原題 The Monogram Murders(2013)
訳者 山本博・大野尚江
出版社 早川書房
出版年 2014/10/25
面白度 ★★★
主人公 エルキュール・ポアロと、彼と同じ下宿に住むロンドン警視庁の刑事エドワード・キャッチプール(独身の32歳)の二人。時代は1929年に設定されている。
事件 お気に入りの珈琲館にいたポアロの前に、一人の半狂乱の女が駆け込んできた。事情を訊いてみると、「彼は殺される予定だが、捜査はしないで」と言い残して夜の街に消えた。そして同じ頃、高級ホテルで三人の人間が毒殺される事件が発生した。関連はあるのか?
背景 著作権会社公認の新ポアロ物。ポアロ物としては39年振りである。著者はサイコ・スリラーを6冊出している中堅作家。”過去の罪は長い尾を引く”という物語がサスペンス豊かに語られているが、謎やプロットが複雑すぎて、無理の目立つ結末になっている。

邦題 『摩天楼の密室』
原作者 ジョー・バニスター
原題 The Lazarus Hotel(1996)
訳者 塩川優
出版社 扶桑社
出版年 2014/3/10
面白度 ★★
主人公 クリスティの『そして誰もいなくなった』のように、参加者が孤立した建物に集まるという集団劇なので、主人公というべき人間はいない。
事件 ロンドンに建設中の高層ホテルの最上階にあるペントハウスに7人の人間が集められた。集団心理カウンセリングのためである。ところがその意図に疑問が生じたとき、エレベーターは停止し、密室化したペントハウスでは謎の人物が……。
背景 著者は北アイルランド在住の女性作家で、本邦初紹介の作品。設定自体は興味深いものの、人物の描き分けが十分ではなく、話に入りにくい。参加者の共通項が明らかになるころから面白くなるが、謎解きとスリラー的物語展開とがあまりマッチしていない。

邦題 『アガサ・レーズンと貴族館の死』
原作者 M・C・ビートン
原題 Agatha Raisin and the Walkers of Dembley(1995)
訳者 羽田詩津子
出版社 原書房
出版年 2014/5/20
面白度 ★★
主人公 元PR会社経営者のアガサ・レーズン。半年間のロンドンでの仕事を終えて、再びコッツウォルドのカースリー村に戻ってきた。
事件 そのアガサに探偵仕事が舞い込んだ。依頼人はハイキング・クラブの女性。クラブの主導者が貴族の領地で撲殺されたというもの。その貴族やクラブ仲間が容疑者という。アガサは隣人ジェームズの手を借り、二人は夫婦と偽ってクラブに入れてもらうが……。
背景 シリーズ4冊め(英国では25冊も出ているとか)。相変わらずアガサの言動は楽しいが、本書の最大の意外性は、事件の犯人と言うよりは、隣人ジェームズとアガサの進展具合であろう。前三冊とは異なり、一気に前進しそうだが、新たな障壁が!

邦題 『丘』上下
原作者 スーザン・ヒル
原題 The Various Haunts of Men(2004)
訳者 加藤洋子
出版社 ヴィレッジブックス
出版年 2014/1/20
面白度 ★★★
主人公 本作ではロンドン警視庁からラファトン警察に移動した女性巡査部長フレヤ・グラファムだが、シリーズ探偵は同署の警部サイモン・セレイラー(三つ子の末弟)。
事件 舞台は大聖堂がある田園地方の架空の町ラファトン。古代の立石と霧深い丘で知られるこの町で、介護職の独身女性が姿を消した。フレヤが調べると、それ以前にも丘で男が失踪しており、さらには怪しいセラピーに通っていた若い娘が行方不明となる事件が発生したのだ。
背景 サマセット・モーム賞受賞者で、『黒衣の女』で有名な著者の初の警察小説シリーズの第一弾。ベテラン小説家らしく、登場人物の造形や風俗描写などはさすがに安心して読めるものの、ミステリーのプロットは平凡。シリーズ一作めのためか、サイモンの活躍もイマイチ。

邦題 『キル・リスト』
原作者 フレデリック・フォーサイス
原題 The Kill List(2013)
訳者 黒原敏行
出版社 角川書店
出版年 2014/5/30
面白度 ★★★
主人公 米海兵隊中佐キット・カーソン。テロリスト・ハンターの主任で45歳。<追跡者>の異名を持ち、米政府の秘密組織TOSAの一員として活躍する。
事件 過激なイスラム聖戦主義の信奉者による殺人事件が英米で勃発した。彼らはみなインターネットを介して、個々人でテロを実行して殉教者となれと呼びかける謎の人物<説教者>に先導されていた。この<説教者>が暗殺リストに挙げられ、マンハントが開始されたのだ。
背景 『コブラ』に次ぐ著者の最新作。<説教者>をいかにあぶり出して暗殺するかという単純なプロットだが、それにソマリアの海賊が絡んで意外な展開をする。軍事情報小説的面白さで読ませる作品とはいえ小説的興趣が少なく、やはり著者の限界を感じてしまう。

邦題 『凍てつく世界』1234
原作者 ケン・フォレット
原題 Winter of the World(2012)
訳者 戸田裕之
出版社 ソフトバンク
出版年 2014/2/25
面白度 ★★★
主人公 『巨人たちの落日』に続く”百年三部作”の第二作であるため、当然群像劇になっており、明確な主人公はいない。英米独ソの政治家の息子・娘たちが活躍する。
事件 1933年から1949年までの第二次世界大戦直前から、大戦そして戦後の冷戦の開始までの16年間を扱っている。したがって一つの事件を扱っている物語ではないので、簡単に内容をまとめることができないが、中心にナチ問題があることは確か。
背景 第二部はなんと文庫四分冊として出版された(頁数としては二千頁弱)。最初はビビッてしまうが、読み始めると、そこはストーリー・テラーの名手だけに、途中で投げ出したりは出来ない出来栄え。著者は労働党びいきと思われ、アーチャーの大河小説と比較すると興味深い。

邦題 『黒い瞳のブロンド』
原作者 ベンジャミン・ブラック
原題 The Black-eyed Blonde(2014)
訳者 小鷹信光
出版社 早川書房
出版年 2014/10/15
面白度 ★★★
主人公 私立探偵フィリップ・マーロウ(ただしチャンドラーのマーロウではない)。
事件 マーロウのオフィスに優美な女が訪れた。髪はブロンドだが、瞳は黒色という珍しい取り合わせ。香水会社を営む裕福な一族の出だというクレアの依頼は、突然姿を消したかつての愛人を探して欲しいというもの。なぜ自分にと訝りながらも、捜査を始めると……。
背景 英国ブッカー賞受賞作家ジョン・バンヴィルが別名で書いた贋作マーロウ物。著者はすでにクワーク検視官を主人公にしたシリーズを6作も書いており(翻訳は2冊ある)、ミステリー書くのに慣れているのか、読書中にはそれほど違和感を覚えなかった。チャンドラーはアイルランド移民の子だが、著者はアイルランド人ということで、親近感があったのだろう。

邦題 『レイディ・オードリーの秘密』
原作者 メアリ・エリザベス・ブラッドン
原題 Lady Audley's Secret(1862)
訳者 三馬志伸
出版社 近代文藝社
出版年  
面白度  
主人公 

事件 


背景 

邦題 『領主館の花嫁たち』
原作者 クリスチアナ・ブランド
原題 The Brides of Aberdar(1982)
訳者 猪俣美江子
出版社 東京創元社
出版年 2014/1/30
面白度 ★★
主人公 前半はアバダール館に雇われた家庭教師のテターマン(テティ)。後半は双子のクリスティーンとリネスのヒルボーン姉妹。
事件 1840年、若い妻を亡くしたヒルボーン卿は悲しみに沈んでいた。双子の姉妹はテティにはよくなつき、過去に傷を負っていたテティは立ち直るものの、呪われたヒルボーン一族の掟には逆らえず、ヒルボーン卿は日々衰えていく……。
背景 ブランドが書いた唯一の正統的なゴシック小説で、彼女の最後の作品。前半は不気味な雰囲気が漂っているが、後半亡霊が登場して呪いの正体が分かってしまうとサスペンスが不足してしまう。ゴシック小説としては、”情”より少し”理”に走り過ぎてしまったか。

邦題 『魂をなくした男』上下
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 Red Star Falling(2013)
訳者 戸田裕之
出版社 新潮社
出版年 2014/12/1
面白度 ★★★
主人公 本書はチャーリー・マフィン・シリーズの一冊だが、チャーリーは主人公というわけではない。MI5やMI6といった情報機関が主人公か。
事件 マフィンは、妻ナターリヤと娘を英国に逃がすも、自身は銃撃で負傷し、ロシア当局に捕まった。一方MI5の保護下に置かれたナターリヤは、チャーリーを連れ戻すまでは、と協力を拒否。MI6がチャーリーの暗殺計画を行った疑惑が浮かび上がり……。
背景 『片腕をなくした男』『顔をなくした男』に続く壮大な三部作の最終作。ほぼ謎は解明して終わるものの、正直言って長すぎる。3/4までは組織の腹の探り合い的な描写がほとんどで退屈。ただし”腐っても鯛”のフリーマントルか、結末はさすがに上手くまとめている。

邦題 『 ミンコット荘に死す』
原作者 レオ・ブルース
原題 Dead for a Ducat(1956)
訳者 小林晋
出版社 扶桑社
出版年 2014/10/10
面白度 ★★★★
主人公 ニューミンスター・クィーンズ・スクール上級歴史教師キャロラス・ディーン。
事件 深夜ディーンのもとに、ミンコット荘に住むレディ・ピップフォードから電話が掛かってきた。義理の息子が自殺したらしいので来てほしい、というもの。現場に着いたディーンは自殺に疑問を持った。捜査を続けると、使用人がチョコレートで毒殺され、ついにディーンは容疑者を集めた晩餐会を開くことにしたが……。
背景 いわゆるフーダニットの謎解き小説で、意外な犯人には驚いた(先例はあると思うが)。だがこの趣向を実現するために、かなり強引な人物設定を行なっている。これまで読んだブルースの中では一番面白かった。なお本書は1990年にブルース・ファンクラブの機関誌に掲載されたもの(『ミンコット・ハウスの死』)の改訳版である。

邦題 『死の翌朝』
原作者 ニコラス・ブレイク
原題 The Morning After Death(1966)
訳者 熊木信太郎
出版社 論創社
出版年 2014/10/25
面白度 ★★
主人公 お馴染みの素人探偵のナイジェル・ストレンジウェイズ。
事件 ナイジェルは、アメリカ東部のカボット大学(ハーバード大学がモデルと思われる)の図書館で調査をするために旧友の寮長を訪れた。そして彼は、大学文学部の教授ジョシュやその異母兄弟のチェスターやマークと知り合うが、なにやら不穏な雰囲気が感じられた。そしてジョシュが行方不明となり、数日後に大学の地下室ロッカーから射殺死体で発見されたのだ!
背景 シリーズ第16作で最後の作品。著者のミステリー作品の最後の翻訳書でもある。本作が最後まで未訳であった理由は簡単で、おそらくアリバイ・トリックが陳腐で、犯人の意外性も無いためだろう。大学を舞台にしたハイブロウな人達の会話はそれなりに楽しめるが。

邦題 『今日から地球人』
原作者 マット・ヘイグ
原題 The Humans(2013)
訳者 鈴木恵
出版社 早川書房
出版年 2014/11/25
面白度 ★★★
主人公 43歳の数学者アンドルー・マーティンをのっとった異星人。アンドルーには妻イゾベルと一人息子ガリヴァー、愛犬ニュートンがいる。
事件 アンドルーは全裸でぶらぶら歩いていて、車にはねられる。この奇行は異星人にのっとられたからであったが、異星人の目的はリーマン予想を証明する者を暗殺すること。しかし妻や息子、飼い犬の純粋さや優しさに負けて、異星人本部の意に反旗を翻すが……。
背景 物語の設定はSF的、語り口はサスペンス小説的、主題は人間とは何かといった小説そのもの。ジャンル分けが難しい作品だが、MWAの最優秀長編賞にノミネートされたので本欄に含めた。ただしトリックとか意外性といったミステリー固有な面白さは少ないのが残念。

邦題 『骨と翅』
原作者 サイモン・ベケット
原題 Whispers of the Dead(2009)
訳者 坂本あおい
出版社 ヴィレッジブックス
出版年 2014/2/20
面白度 ★★★
主人公 法人類学専門家のデイヴィッド・ハンター。事件で重傷を負い、恋人と別れたりしたので、今後の身の振り方を考えるため米国テネシー大学法人類学センターに出向した。
事件 テネシー大学の「死体農場」を再訪したハンターは、その所長トム・リーバーマンとともに、蛆に覆われ、腐敗臭に満ちた身元不明の腐乱死体の調査を依頼された。指紋などを辿ると、第二、第三の死体が見つかり、連続殺人事件ではないかと……。
背景 ハンター・シリーズの第三弾。エルキンズの”スケルトン探偵”のような法人類学の証拠から事件を解決する作品だが、今回はハンターを巡る人間関係の描写が多く、英米の制度や文化の「衝突」で読ませる。ただし後半はスリラーとなり、プロットに一貫性を欠いている。

邦題 『窓際のスパイ』
原作者 ミック・ヘロン
原題 Slow Horses(2010)
訳者 田村義進
出版社 早川書房
出版年 2014/10/15
面白度 ★★★
主人公 実質的には<泥沼の家>のリーダー、ジャクソン・ラム。人前で屁をこいだりする野人だが、頭脳は鋭い。本書では新入りのリヴァー・カートライトが準主役。
事件 カートライトは訓練中のミスで、<泥沼の家>に配置転換された。そこは英国情報部の最下層に属し、不祥事を起こした部員は<泥沼の家>で飼い殺しにされる。彼は連日ゴミ漁りの仕事を与えられていたが、部員の中に彼を監視する人間がいるようで……。
背景 シリーズ化を予定して創作された第一弾。<泥沼の家>という設定は興味深い。組織内の本流派と脱落派の対立という面白さもある。リーダーのラムはフロスト警部のように個性的だが、魅力はイマイチ。ただしオールスンの「特捜部Q」のような雰囲気もある。

邦題 『貧乏お嬢さま、空を舞う』
原作者 リース・ボウエン
原題 Royal Flush(2009)
訳者 田辺千幸
出版社 原書房
出版年 2014/6/20
面白度 ★★★
主人公 ジョージアナ(ジョージー)・ラクノ。ヴィクトリア女王の曾孫にして王位継承順位34番の女性。現ラクノ公爵の妹。
事件 経済的に苦しい兄の家からロンドンに来たジョージーだが、メイド仕事は激減。怪しげな仕事はロンドン警視庁からストップをかけられた。スキャンダルを恐れ故郷に戻ったものの、そこでは王位継承者があいついで不審な事故に合い、ジョージーも下山中にロープが切れ……。
背景 英国王妃の事件ファイル・シリーズの第三弾。訳題とは異なりジョージーが空を飛ぶシーンは少ないが、コージー・ミステリーとしては主人公の設定や語り口が上手く、読んでも損はない。とはいえ後半に入ると犯行の場面や犯人の動機などで無理が目に付いてしまうが。

邦題 『カルニヴィア2誘拐』
原作者 ジョナサン・ホルト
原題 The Abduction(2014)
訳者 奥村章子
出版社 早川書房
出版年 2014/9/15
面白度 ★★★★
主人公 イタリア憲兵隊刑事部大尉カテリーナ・ターポとイタリア駐留米軍少尉ホリー・ボランド、そしてSNS「カルニヴィア」の創設者ダニエーレ・バルボの三人。いずれも独身。
事件 イタリア駐留米軍基地の建設現場で発見された人骨は、パルチザンのものだった。一方、米軍少佐の娘が誘拐される事件が発生。犯人は、基地建設反対を訴えて、その娘を責め苛む映像をインターネットで全世界に配信した。二人はバルボに協力を頼むが……。
背景 「カルニヴィア」三部作の第二弾。米国軍人の娘の誘拐事件がメインだが、その他にもSNSに関する深い知識や戦後処理におけるCIAの陰謀など、スケールの大きなプロットを展開させている。大きな綻びを出さずにこれを書き切ってしまう筆力はやはり大したものだ。

邦題 『緋の収穫祭』
原作者 S・J・ボルトン
原題 Blood Harvest(2010)
訳者 法村里絵
出版社 東京創元社
出版年 2014/4/11
面白度 ★★★★
主人公 ヘプトンクラフという田舎町に赴任してきた司祭ハリー・レイコックと当地方で活躍する女性精神科医エヴィ・オリバー。いずれも独身である。
事件 教会墓地と隣家を隔てていた塀が崩れ、そばにあった少女の墓が壊れた。だが墓からは、そこに眠っていた子どもと一緒に別に二つの遺体が見つかったのだ。しかも最近埋められた死体らしい。一方隣家の子どもたちは教会や自宅で不審な人間を目撃していたのだが……。
背景 英国の田舎町を舞台にした土俗的なスリラーを書いている著者の第三作。「血の収穫祭」というオドロオドロしい設定や、子どもが襲われたり誘拐されたりするプロットは、この手の話としては常套手段だが、著者の筆力には相変わらず圧倒されてしまう。

邦題 『チャーリー・モルデカイ1 英国紳士の名画大作戦』
原作者 キリル・ボンフィリオリ
原題 Don't Point That Thing at Me(1973)
訳者 三角和代
出版社 角川書店
出版年 2014/12/25
面白度 ★★★
主人公 画商のチャーリー・モルデカイ。貴族の子弟で、ロンドンの高級街に住む中年紳士。執事兼用の用心棒ジョックが準主役。
事件 チャーリーは学友で警視のマーランドに頼み込み、アメリカの石油王クランプフのビンテージ・カーを外交封印のもとにアメリカに運ぶことにした。だがその裏にはマドリードで盗まれたゴヤの名画が絡んでおり、チャーリーは窮地に陥ることに……。
背景 チャーリー・シリーズ第一弾(CWA新人賞を受賞)。驚異の怪作ミステリーで、キャラクターの異色さ、語りの面白さで読ませるが、ミステリーのプロットはあって無きがもの。局所的には興味を惹かれることが多いが、全体としてはつまらない。訳者の苦労を考慮し★一つプラス。

邦題 『チャーリー・モルデカイ2 閣下のスパイ教育』
原作者 キリル・ボンフィリオリ
原題 After You with the Pistol(1979)
訳者 三角和代
出版社 角川書店
出版年 2014/12/25
面白度 ★★
主人公 第一作と同じく、画商のチャーリー・モルデカイが主人公で。執事兼用の用心棒ジョックが準主役だが、石油王の未亡人でチャーリーの妻となるジョイナも活躍する。
事件 アメリカでのやばい仕事で英国に逃げ帰ってきたチャーリーは鉱山の洞窟に身を潜め、もはや絶体絶命! ところがアメリカ大使館のブルーチャー大佐の助けで、石油王の前妻で美女のジョイスと結婚し、金の流れを突きとめることになる。だが妻からは暗殺の依頼を受けたのだ!
背景 怪作ミステリーの翻訳第二弾。原書では第三作だが(第二作はサンリオから『深き森は悪魔のにおい』として邦訳)、時系列的には第一作の続編に当たる。相変わらずダジャレ、下ネタ連発の局所的な面白さで読ませるものの、どうにも物語には乗り切れなかった。

邦題 『邪悪な少女たち』
原作者 アレックス・マーウッド
原題 The Wicked Girls(2012)
訳者 長島 水際
出版社 早川書房
出版年 2014/11/15
面白度 ★★★
主人公 物語の性格上、主人公はいないが、強いて挙げれば遊園地清掃部の責任者アンバー・ゴードンとフリー・ジャーナリストのカースティ・リンゼイ。二人とも30代後半の女性。
事件 1986年、11歳の少女二人は、偶然という状況下で4歳の少女を殺した。そして二人は別々の矯正施設に送られた。それから25年後、英国のリゾート地ホイットマスで連続女性殺人事件が発生。アンバーとカースティは運命の再会をし、二人は泥沼に引き込まれていく。
背景 2012年のMWA最優秀ペイパーバック賞を受賞している。別名での翻訳は一冊あるが、ミステリーとしては初の邦訳となる。サイコ・スリラー的展開・語り口は達者で一気に読まされてしまうが、単なるイヤミスではなく、ミステリーとしては結構重いテーマを扱っている。

邦題 『甘美なる作戦』
原作者 イアン・マキューアン
原題 Sweet Tooth(2012)
訳者 村松潔
出版社 新潮社
出版年 2014/9/30
面白度 ★★★
主人公 ケンブリッジ大学数学科出身でMI5の職員セリーナ・フルーム。大衆小説を手当たり次第に読みあさり、その主人公の中に入りこんで、人生の疑似体験を楽しんでいる。
事件 セリーナは大学時代に恋仲になった教授の勧めで諜報機関に入所した。当初は地味な事務仕事を与えられたが、ある日「スウィート・トゥース作戦」への参加を命じられた。それは文化工作のために作家を支援するものだったが、いつしか彼と愛し合うようになって……。
背景 ヒロインがスパイ工作員なので、スパイ小説として読んだが、騙す相手が作家ということで、作家業界の内幕物としても、普通の恋愛小説としても楽しめる。数々の要素を含んだ小説だが、ミステリー的な楽しみの少なさが、ミステリー・ファンとしては残念だ。

邦題 『ヘラクレスの墓を探せ!』
原作者 アンディ・マクダーモット
原題 The Tomb of Hercules(2008)
訳者 棚橋志行
出版社 ソフトバンク
出版年 2014/4/25
面白度 ★★
主人公 考古学者で国連国際歴史遺産局(IHA)の事業本部長ニーナ・ワイルドとニーナのボディガードのエディ・チェイスの二人。エディは元SASで、物語の最後で二人は結婚する。
事件 水中遺跡の引き揚げ作業を行っていたIHAの作業場が謎の集団に襲われた。一方ニーナはプラトンの著書からヘラクレスの墓の存在を確信した。エディは情報を求め上海に行くが、ニーナは地図らしきものを見つけ、墓を見つけるためにボツワナへ乗り込む。
背景 『アトランティス殲滅計画を阻め!』に続く著者の第二弾。第一作と同じく、アドヴェンチャー・ゲームのような内容・展開で、さらに不死身な二人の活躍はアクション・ノベルそのもの。読みやすく時間潰しには好適な作品だが、それ以上の何ものでも無い。

邦題 『狂った殺人』
原作者 フィリップ・マクドナルド
原題 Murder Gone Mad(1931)
訳者 鈴木景子
出版社 論創社
出版年 2014/4/25
面白度 ★★
主人公 殺人鬼ブッチャーと言いたいところだが、やはり事件を担当するロンドン警視庁犯罪捜査課の警視アーノルド・パイクだろう。たいした活躍はしないが。
事件 田園都市ホームデイルで、ボクサーとして将来を期待されていた少年が、住宅街の道路で刺殺された。ブッチャーと名乗る人物からの犯行声明が新聞社や警察に送られてきたが、これが連続殺人事件に発展したのだ。警察はホームデイルの住人に犯人の的を絞るが……。
背景 『ライノクス殺人事件』や『迷路』といった、趣向を凝らした作品で有名な著者の久しぶりの翻訳。連続殺人事件を謎解き小説風に扱ったスリラーだが、これは無理なプロットで失敗している。カーが「地上最高のゲーム」に選びながらも、最終的には変更したのも頷ける。

邦題 『13番目の石版』上下
原作者 アレックス・ミッチェル
原題 The 13th Tablet(2012)
訳者 森野そら
出版社 竹書房
出版年 2014/5/29
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『さよなら、ブラックハウス』
原作者 ピーター・メイ
原題 The Blackhouse(2009)
訳者 青木創
出版社 早川書房
出版年 2014/9/15
面白度 ★★★★
主人公 エディンバラ市警の警部フィン・マクラウズ。スコットランドのルイス島で育ち、エディンバラ大学に入学するために島を離れた。
事件 エディンバラ市で起きた猟奇殺人に似た殺人事件がルイス島で発生した。関連性を調べることもあり、フィンは知人の多いルイス島に派遣された。被害者はかつての悪友で、容疑者もよく知っている人物ばかり。調べるうちに苦い青春時代の記憶が甦り……。
背景 著者は英国人だが、50代後半に本書をフランスで出版して評判になり、本国でも刊行されたという。ルイス島の風景や鳥を殺す「グーガ狩り」の様子が魅力的に描かれている。現在と過去の事件を三人称と一人称で語っているが、その物語構成も優れている青春ミステリー。

邦題 『被告側の証人』
原作者 A・E・W・メイスン
原題 The Witness for the Defence(1914)
訳者 寺坂由美子
出版社 論創社
出版年 2014/5/25
面白度 ★★
主人公 ヒロインは20代のステラ・バランタイン(旧制デリック)、男性主人公は法廷弁護士で、後に国会議員にもなるヘンリー・スレスク。
事件 父の死亡後、ヘンリーはサセックス州のビッグナールで休暇をとることにした。そこで出会ったのが美貌のステラ。二人は互いに惹かれあうものの、エリート・コースを外れることに臆病になった彼はステラの愛を拒む。そして数年後インドで結婚しているステラに出会うが……。
背景 『矢の家』で有名な著者の恋愛ミステリー。純然たる謎解き小説ではなく、『モンブランの乙女』に連なる作品。主人公二人の古風な生き方に現代の読者がどの程度共感するか疑問だが、ヴィクトリア朝期の作品が好きな人は楽しめるだろう。

邦題 『コーディネーター』
原作者 アンドリュー・ヨーク
原題 The Co-Ordinator(1967)
訳者 南沢篤花
出版社 論創社
出版年 2014/3/25
面白度 ★★
主人公 殺しを専門とする英国情報部員ジョナス・ワイルド。コードネームは<掃除屋>(エリミネーター)。ジェームズ・ボンド・チルドレンのひとり。
事件 ワイルドが依頼された仕事は、スカンジナビアで手広く衣料品チェーンストアを経営しているモエルを抹殺してほしいというもの。デンマーク人夫妻の工作員の手引きでデンマークに入国し、モエルに面会できたが、彼はなんと盲人だったのだ!
背景 シリーズ物第二作。典型的な007亜流シリーズで、それ以上の説明は不要だろう。悪役の設定やブリッジ描写などは007シリーズと間違えそうだ。なお著者にはクリストファ・ニコール名義で5冊、マックス・マーロウ名義で4冊の翻訳書があるという多作家だ。

邦題 『監視対象 警部補マルコム・フォックス』
原作者 イアン・ランキン
原題 The Complaints(2009)
訳者 熊谷千寿
出版社 新潮社
出版年 2014/5/1
面白度 ★★★
主人公 ロジアン&ボーダーズ州警察の職業倫理班所属の警部補マルコム・フォックス。離婚歴のある独身。父親は介護施設に入所している。
事件 マルコムの仕事は、警官の不正をチェックすること。一種の嫌われ仕事だが、今回の指令は、児童ポルノサイトに関与している警官を調査することだった。だが時をおかず、妹と同棲していた男が殺されたのだ。その疑惑の警官が殺人捜査を担当し、逆にマルコムは容疑者に……。
背景 リーバス警部シリーズでお馴染みの著者の新シリーズ第一作。舞台はリーバス物と同じエディンバラ。監査担当警部補という設定が興味深く、それだけで半分以上成功したといってよい。とはいえ文庫750頁という大作だけに、後半は読むほうも息切れしてしまった。

邦題 『繊細な真実』
原作者 ジョン・ル・カレ
原題 A Delicate Truth(2013)
訳者 加賀山卓朗
出版社 早川書房
出版年 2014/11/25
面白度 ★★★★
主人公 一時は外務閣外大臣の秘書官であった外交官のトビー・ベル。30代の独身。
事件 ポールの偽名を与えられた外務省職員は、英領ジブラルタルで秘かに実行されていた、テロリスト捕獲作戦<ワイルドライフ作戦>に顧問として参加していた。閣外大臣の代理としての参加であったが、作戦は成功裏に終わった。一方大臣の不審な行動を監視していたトビーは、その作戦には胡散臭い民間防衛企業が関係していることに気付く。告発すべきなのか?
背景 著者23作めの長編。英国の公職守秘法で守られた”秘密”を扱っている。まさに日本の秘密保護法の未来を占っていて恐ろしくなる内容である。<ワイルドライフ作戦>を謎して扱う小説作りの上手さにも、現在形を多用する語り口の斬新さにも驚かされる。すごい作家だ。

邦題 『鐘楼の蝙蝠』
原作者 E・C・R・ロラック
原題 Bats in the Belfry(1937)
訳者 藤村裕美
出版社 東京創元社
出版年 2014/3/20
面白度 ★★★
主人公 スコットランド・ヤードの首席警部マクドナルド。結婚歴なしの独身。料理などは上手にこなす。本書では43歳。顔は細長く、目は灰色。
事件 作家のブルースはドブレットと名乗る怪人物に付きまとわれていた。記者のグレンヴィルは、その怪人が住む建物<鐘楼>を見つけ、翌日無人の建物に入ると、パリに旅立ったはずのブルースのスーツケースが見つかったのだ。マクドナルドらが調べるとさらに……。
背景 著者の5冊目の翻訳書。ロラックは別名義の作品を含めると70冊を超える作品があり、よくクリスティと比較されるが、当時は男性作家と思われていたようだ。本作は謎解き小説というよりスリラーに近いが、最後まで犯人がわからない巧妙なプロットで読ませる。

邦題 『ノルマンディ沖の陰謀』
原作者 ジュリアン・ストックウィン
原題 Treachery()
訳者 大森洋子
出版社 早川書房
出版年 2014/3/
面白度  
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