邦題 『時のみぞ知る』上下
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 Only Time Will Tell(2011)
訳者 戸田裕之
出版社 新潮社
出版年 2013/5/1
面白度 ★★
主人公 サブタイトルが「クリフトン年代記」とあるように、クリフトン家の関係者が主人公だが、しいて挙げればハリー・クリフトン(1920年生まれ)か。
事件 1920年代、港町ブリストルに住む貧しい少年ハリーは、サッカー選手か船乗りを夢見ていた。しかし音楽の優秀な才能が認められ、進学校に進むことになった。そして名家出身の親友もできたが、父の謎の死、母の暗い過去、伯父の許しがたい行動などが明らかに……。
背景 著者の『ケインとアベル』のような作品。1920年から2020年までの百年間の一族を描くとか。壮大な構想はスゴイし、確かに読ませる技術を持っているが、本人が認めているようにストーリー・テラーではあるものの、「人間いかに生くべきか」を問う作家ではないようだ。

邦題 『死もまた我等なり』上下
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 The Sins of the Father(2012)
訳者 戸田裕之
出版社 新潮社
出版年 2013/10/1
面白度 ★★
主人公 特にいない。クリフトン家とバリントン家の複数人が主人公。
事件 1939年、アメリカ上陸と同時にハリー・クリフトンを待ち受けていたのは、突然の逮捕劇と不条理な刑務所暮らしだった。一方ハリーの子を産んだエマ・バリントンは、ハリーを探しにアメリカに乗り込んだ。そこでは『ある囚人の日記』がベストセラーになっていたが、エマは著者がハリーであることを確信した。エマはハリーを探すが……。
背景 クリフトン年代記の第二部。第二次世界大戦中の挿話をいくつか積み重ねた内容だが、戦闘場面は意外に少なく、刑務所での詐欺の話が多いのはやはり著者が経験したためか。平易な文章と気の置けないストーリー展開はさすがだが、まだ謎が解けないのはいただけない。

邦題 『冬のフロスト』上下
原作者 R・D・ウィングフィールド
原題 Winter Frost(1999)
訳者 芹澤恵
出版社 東京創元社
出版年 2013/6/28
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのデントン署の警部ジャック・フロスト。
事件 厳冬の一月のデントン署。8歳の少女行方不明事件に続き、同じ学校に通う7歳の少女も姿を消した。一方未解決の売春婦殺しは連続殺人事件に発展したのだ。フロストは、無能で好色な部下やご都合主義の上司に手を焼きながらも、休みなしの捜査を続けるのだった。
背景 シリーズ第5作。原書でも4年振りの作品らしい長さで、翻訳は上下巻で千頁に近い。フロストを囲む上司や部下の刑事とのユーモラスな会話が冴えているし、多くの事件を抱えて右往左往するプロットも楽しい。ただし今回の物語は主要二大事件が順に解決するだけで、従来のような大小さまざまな事件が将棋倒しのように一気に解決される巧妙さがないのは残念。

邦題 『黒いダイヤモンド』
原作者 マーティン・ウォーカー
原題 Black Diamond(2011)
訳者 山田久美子
出版社 東京創元社
出版年 2013/12/13
面白度 ★★★
主人公 フランスの小村サンドニで唯一の警官で警察署長のブノワ・クレージュ(ブルーノ)。シリーズ探偵で、39歳の独身男性。料理も得意。
事件 ブルーノは狩猟仲間から、最近トリュフ市場に粗悪な中国産トリュフが紛れ込んでいる件の調査を依頼された。だが調査を始めると、その依頼人は何者かに殺害されたのだ! 彼の過去が情報部の秘密警官だったからか、はたまたトリュフ偽装の件が関係しているためか?
背景 シリーズ3作め。今回もブルーノは女性にもてもて。ロマンス部分と食事場面が多く基本的にはコージー・ミステリーだが、ヴェトナムと中国人ギャング団の抗争を扱うなど、意外とハードな面もある。英国人作家が描くフランス人警官の言動は確かに興味深い。

邦題 『遮断地区』
原作者 ミネット・ウォルターズ
原題 Acid Row(2001)
訳者 成川裕子
出版社 東京創元社
出版年 2013/2/28
面白度 ★★★
主人公 群集劇のような設定なので明確な主人公はいない。比較的活躍するのはナイチンゲール医療センターの医師ソフィー・モリスンと団地住人の黒人ジミー・ジェイムズか。警察関係では、ハンプシャー州警察のタイラー警部。
事件 通称アッシド・ロウと呼ばれる低所得者向け団地でデモが起きた。小児性愛者らが引っ越してきたという噂が立ったからだ。同じ頃十歳の少女が行方不明になったため……。
背景 著者としては異色作。バリケードで封鎖した団地内での暴動を扱った一種のパニック小説として楽しめる。現代の英国でこのような団地が実在するのか、多少説得力に欠ける恨みはあるものの、筆力には圧倒される、共感すべき人物が登場しないのが残念だが。

邦題 『ファイナル・ターゲット』
原作者 トム・ウッド
原題 The Enemy(2012)
訳者 熊谷千寿
出版社 早川書房
出版年 2013/3/25
面白度 ★★★★
主人公 プロの殺し屋ヴィクター。今回の依頼はCIAだったが……。
事件 ヴィクターはCIAに借りがあったこともあり、ルーマニアのブカレストで、世界有数の兵器ディーラ、カサコフを狙っていた、殺し屋と思われる人物を射殺した。だがCIAは巧妙で、さらなる大掛かりな陰謀を計画していたのである。ミンクスでの暗殺後、ヴィクターへの最後の指令は意外な人物を暗殺することだった。仕留めれば自由の身になることを条件に!
背景 『パーフェクト・ハンター』に続く著者の第二作。前作と同じヴィクターが主人公だが、話の内容は独立している。同時期に本邦デビューしたグリーニーと比較されるが、こちらはやはり英国冒険小説の伝統を引き継いでいるだけに個人的にはウッドを推薦したい。

邦題 『黒い壁の秘密』
原作者 グリン・カー
原題 The Youth Hostel Murders(1952)
訳者 堀内瑛司
出版社 東京創元社
出版年 2013/4/26
面白度 ★★
主人公 シェイクスピア俳優兼舞台監督のアバークロンビー・リューカー。第二次大戦下に諜報部員として活躍。登山家としても著名。現在は禿げ頭、太鼓腹で二重あごの中年。
事件 湖水地方を訪れたリューカー夫妻は、数ヶ月前クライミング中に死亡した若者の話を聞いていると、行方不明者の捜査を頼まれた。早速協力すると遺体が見つかったのだが、その死体状況は話に聞いた若者のそれに酷似していた。事故ではなく、事件ではないか?
背景 『マッターホルンの殺人』が翻訳されているリューカー・シリーズの第3作(スタイルズ名義の3作品を含めると第6作)。謎解き山岳ミステリーという特徴があるが、本書の魅力は湖水地方や登山の描写。肝心のアリバイ・トリックは不出来で、不満が残る。

邦題 『殺人者の湿地』
原作者 アンドリュー・ガーヴ
原題 Murderer's Fen(1966)
訳者 水野恵
出版社 論創社
出版年 2013/9/20
面白度 ★★
主人公 ケンブリッジ州のトレーラー販売所に勤めるアラン・ハント。30歳の独身。捜査陣は犯罪捜査課のジョン・ニールド警部とトム・ダイソン巡査部長。
事件 アラントは、ノルウェー旅行中にホテルで出会った美女グウェンダを籠絡させることに成功した。婚約者がいたため、グウェンダには嘘の住所を教え、火遊びはそれで終わったと思っていた。ところが妊娠したというグウェンダが突然アラントの前に現れた。彼は一計を案じ……。
背景 実に42年ぶりの著者の翻訳。ポール・ソマーズなどの別名義作品を含めるとガーヴの未訳作品は20冊ほどあるらしい。登場人物の少ない短い長編で、サスペンス豊かな語り口は確かだが、犯人の策略は単純だし、なにより若い女性の造形が陳腐なのでガッカリする。

邦題 『嘘つきのララバイ』
原作者 メグ・ガーディナー
原題 The Liar's Lullaby(2010)
訳者 山田 久美子
出版社 集英社
出版年 2013/3/25
面白度 ★★
主人公 心理検死官を務める精神科医ジョー(ジョアナ)・ベケット。空軍州兵の降下救難隊員ゲイブ(ゲイブリエル)・キンタナが恋人。
事件 カントリー・ロックのカリスマ歌手、テイジャ・マクファーランドがライブ公演中に銃弾に倒れた。自殺か他殺か? テイジャは大統領元夫人で、ストーカーに狙われていたらしい。たまたま居合わせたジョーが調査を始めると、ジョーの動きを封じようとする力が……。
背景 シリーズ3作め。現役大統領元夫人の死の謎を解き明かそうとしたジョーが、大統領暗殺事件に巻き込まれるという派手な展開のうえ、舞台はサンフランシスコ。アメリカ読者向けの設定で、英国ミステリーらしい雰囲気はあまり漂っていない。

邦題 『ケンブリッジ・シックス』
原作者 チャールズ・カミング
原題 The Trinity Six(2011)
訳者 熊谷千寿
出版社 早川書房
出版年 2013/1/15
面白度 ★★★
主人公 歴史学者(UCLのロシア史の上級講師)のサム・キャディス。離婚し現在は独身。SIS部員ターニャ・アコチェラがサムを助けるために活躍する。
事件 キム・フィルビーら5人のケンブリッジ大学卒業生がソ連のスパイだったことが発覚し、英国は過去に大打撃を受けていた。ところがサムは、親友シャーロットから同時期に大物スパイがもう一人いたという話を聞いたのだ。急死したシャーロットの後を継いで調査を始めると……。
背景 本邦初紹介の著者のスパイ小説。いかにもスパイ小説の大国らしい物語設定で、この点だけでも合格点。ただし頭が良いはずの主人公が、自分の命を顧みずに事件に突入してしまい、単に幸運で生き延びるという展開はお手軽で、それまでの重厚な語り口と噛み合わない。

邦題 『甦ったスパイ』
原作者 チャールズ・カミング
原題 A Foreign Country(2012)
訳者 横山啓明
出版社 早川書房
出版年 2013/8/25
面白度 ★★★★
主人公 元SIS部員のトーマス(トム)・ケル。40代の男。妻とは離婚の危機にある。
事件 故あって英国秘密情報部を追われたトムに、昔の同僚から意外な依頼があった。SIS初の女性長官に就任するアメリア・リーヴェンが突如消息を絶ったが、アメリアをよく知るトムに彼女を探し出して欲しいというのだ。調査を始めると、休暇で滞在中のイタリアから秘かに出国していて、さらに国際的陰謀に巻き込まれたことがわかってきた!
背景 CWAのスティール・ダガー賞受賞作。受賞にふさわしい傑作スパイ小説だ。物語は、冒頭からサスペンスが横溢し、次から次へと意外な展開の連続となる。安易なアクション・シーンに頼らず、それを最小限に抑えている構成も独創性があって素晴らしい。

邦題 『青雷の光る秋』
原作者 アン・クリーヴス
原題 Blue Lighting(2010)
訳者 玉木亨
出版社 東京創元社
出版年 2013/3/22
面白度 ★★★
主人公 シェトランド署の警部ジミー・ペレス。画家のフラン・ハンターと婚約している。二人ともバツイチで、フランには一人娘がいる。
事件 ペレスは婚約者を両親に紹介するため、両親の住むフェア島を訪れていた。だが、島のフィールドセンターで二人の婚約祝いパーティーが開かれた直後、センター長の妻で、有名人のアンジェラが殺された。ペレスは、嵐の孤島と化した島内に潜む犯人を単独で捜すが……。
背景 ≪シェトランド四重奏≫となるシリーズの第4作。本作で一段落するも、最終作ではないのは、すでにペレス・シリーズの第5作が発表されているから。意外な結末だが、私のような男性読者には著者の計算違いと感じてしまう。ペレスは凡庸な警察官だし……。

邦題 『列車に御用心』
原作者 エドマンド・クリスピン
原題 Beware of the Trains(1953)
訳者 冨田 ひろみ
出版社 論創社
出版年 2013/3/25
面白度 ★★★★
主人公 多くの短編ではオックスフォード大学英語英文学教授のジャーヴァス・フェン。
事件 「列車に御用心」*「苦悩するハンブルビー」「エドガー・フォーリーの水難」「人生に涙あり」*「門にいた人々」「三人の親族」「小さな部屋」「高速発射」*「ペンキ缶」「すばしこい茶色の狐」*「喪には黒」「窓の名前」*「金の純度」「ここではないどこかで」*「決めて」*「デッドロック」*の16本を収録。後に*印の付いている作品は既訳あり。
背景 <クイーンの定員>に選ばれている著者の第一短編集。クイズやコントにしかならないネタでも、きちんとしたミステリー短編に仕上げているのはさすがに素晴らしい。「列車に御用心」や「窓の名前」はパズラー・ファンには好まれそうだ。

邦題 『隠し絵の囚人』上下
原作者 ロバート・ゴダード
原題 Long Time Coming(2010)
訳者 北田絵里子
出版社 講談社
出版年 2013/3/15
面白度 ★★★★
主人公 1976年の事件では地質学者のスティーヴン・スワンと彼の伯父エルドリッチ、彼の恋人になる国連職員のレイチェル・バナーの三人。1940年の事件ではエルドリッチのみ。
事件 1976年の春スティーヴンは、亡くなったはずの伯父がアイルランドの監獄に36年間も収録されていたことを知る。そのエルドリッジに、さる実業家所蔵のピカソ絵が盗品である証拠を見つけてほしいという不思議な依頼がきた。1940年の彼の行動が明らかになるにつれ……。
背景 著者21作目の長編。2011年MWAの最優秀ペイパーバック賞を受賞している。ゴダードがペイパーバック・オリジナルを書いたとは驚きだが、確かにペイパーバック臭のようなものを感じる。とはいえ腐っても鯛らしく、歴史を組み込んだ巧みなプロットは健在だ。

邦題 『予期せぬ結末1』
原作者 ジョン・コリア
原題 日本独自の編集(2013)
訳者 植草昌実他
出版社 扶桑社
出版年 2013/5/
面白度 ★★★
主人公 16本の短編を集めた日本独自のアンソロジー。単行本未収録作品が多い。
事件 「またのお越しを」「ミッドナイト・ブルー」「黒い犬」*「不信」*「よからぬ閃き」*「大いなる可能性」「つい先ほど、すぐそばで」「完全犯罪」(「黒後家蜘蛛の会」のパロディのような作品)「ボタンの謎」*「メアリー」「眠れる美女」「多言無用」「蛙のプリンス」「木鼠の目は輝く」「恋人たちの夜」「夜、青春、パリそして月」の16本。
背景 初訳は後に*印。著者の短編集は4冊訳出されているが、本書の収録作はほとんど重複していないのはサスガ。「予期せぬ結末」という表題とは異なり、明るいオチやユーモラスな作品もある。怪奇物や幻想物が得意と思っていただけに、著者の守備範囲の広さに驚かされる。

邦題 『暗き炎』」上下
原作者 C・J・サンソム
原題 Dark Fire(2004)
訳者 越前敏弥
出版社 集英社
出版年 2013/8/25
面白度 ★★★
主人公 16世紀のロンドンで法廷弁護士として活躍するシリーズ・キャラクターのマシュー・シャードレイク。亀背。彼を助けるのがクロムウェル臣下のジャック・バラク。
事件 シャードレイクは、従弟殺害の罪を問われている少女エリザベスの弁護を依頼された。だが少女は黙秘。このままでは拷問死がまぬがれない。一方クロムウェルからは少女の審議期間延長と引き換えに「ギリシャ火薬」の謎の究明を命じられた。彼は命を狙われながら……。
背景 16世紀中葉を舞台にした歴史物のシリーズ第二弾。第一作より語り口が巧みになった印象。こちらは英国の歴史に疎いので1540年夏の出来事には驚いたが、これはミステリーとしての意外性ではない。ミステリーの謎(少女の黙秘の謎)などは小さな驚きだ。

邦題 『バン、バン! はい死んだ』
原作者 ミュリエル・スパーク
原題 日本独自の編集(2013)
訳者 木村政則編訳
出版社 河出書房新社
出版年 2013/11/30
面白度 ★★★★
主人公 日本独自で編まれたスパークの傑作短編集。15本の短編が収録されている。
事件 「ポートペロー・ロード」「遺言執行者」「捨ててきた娘」「警官なんか嫌い」(不条理劇)「首吊り判事」「双子」「ハーパーとウィルトン」「鐘の音」(純粋のミステリー)「バン、バン! はい死んだ」「占い師」「人生の秘密を知った青年」(幽霊物)「上がったり、下がったり」「ミス・ピンカートンの啓示」「黒い眼鏡」(ミステリ的作品)「クリスマス遁走曲」。
背景 G・グリーンから高い評価を受けたスパークの短編集。喜劇や悲劇ばかりでなく、実にバラエティに富んでいる。「捨ててきた娘」(『異色短編作家集』では(棄ててきた女」)の衝撃度はスゴイし、「双子」の皮肉も面白い。ミステリーは少ないが、やはり大いに楽しめる。

邦題 『悲しみの聖母』
原作者 アン・スルーディ
原題 (2013)
訳者 ハーディング祥子
出版社 小学館
出版年 2013/
面白度  
主人公 

事件 


背景 


邦題 『アウトロー』上下
原作者 リー・チャイルド
原題 One Shot(2005)
訳者 小林宏明
出版社 講談社
出版年 2013/1/16
面白度 ★★★★
主人公 元陸軍犯罪捜査官のジャック・リーチャー。身長195cm、体重100〜113Kg、胸囲127cm、目の色はブルー。小火器の専門家で、すべての銃器に精熟。格闘にも長けている。
事件 ダウンタウンでライフル狙撃による無差別殺人が起きた。容疑者は6時間後に特定されたが、容疑者は黙したまま、たった一言「ジャック・リーチャーを呼んでくれ」と。リーチャーは報道でこの事件を知り、容疑者の弁護士に接触するが、彼を罠にかけようとする事件が……。
背景 お馴染みシリーズの9冊め。現在原書は17冊出ている。本邦では本書を含めて5冊しか翻訳されていないが、英米ではベストセラー作家の一人で、2013年度のCWAダイアモンド・ダガー賞を受賞している。一気読みしてしまう冒険小説だが、謎解き小説としても面白い。

邦題 『跡形なく沈む』
原作者 D・M・ディヴァイン
原題 Sunk Without Trace(1978)
訳者 中村有里
出版社 東京創元社
出版年 2013/2/28
面白度 ★★
主人公 多くの事件関係者の視点から物語が語られるので主人公はいない。事件解決に係るのはシルブリッジ警察の部長刑事ハリー・マンロー。
事件 ルースはジャージ島で父を知らずに育った。母の死後、彼女はスコットランドの小都市(かつて母が勤めていた土地)に渡り、父親を探すとともに数年前の選挙の不正を追及し始めた。議会関係者の間には不安が広がり、ついには殺人事件が発生したのだ。
背景 著者の12冊めの作品(全13作)で、生前に出版された最後の作品。一言で言ってしまえば、複雑な人間関係を巧みに描いたサスペンス小説だが、作者に期待した巧妙なアリバイ・トリックや伏線張りはなく、謎解き小説としては平凡な出来栄えになっている。

邦題 『ようこそグリニッジ警察へ』
原作者 マレー・デイヴィス
原題 Welcome to Meantime(2013)
訳者 林香織
出版社 早川書房
出版年 2013/2/15
面白度 ★★★
主人公 グリニッジ警察の主任警部パツィ・チョークと同部長刑事のボビー・レイデン。前者は、オックスフォード大学からカナダの大学院に留学。25歳で英国に戻りロンドン警視庁に入る。金に不自由しない30代の独身女性。後者はたたき上げの40代男性。
事件 パツィは問題刑事としてグリニッジ警察に飛ばされたが、着任早々火葬される死体が別人のものにすり替えられて灰になる事件が起きた。近くのクリーニング店主も殺され……。
背景 邦訳書(マリ表記)が二冊ある著者の三冊め。前二冊とは異なる警察小説で、主人公の秀逸な造形、ユーモラスな会話、軽快な物語展開などで読ませる。結末のまとめ方も鮮やかだが、ただ事件が多少複雑すぎて、物語が長すぎるのは欠点だ。

邦題 『翳深き谷』上下
原作者 ピーター・トレメイン
原題 Valley of the Shadow(1998)
訳者 甲斐萬里江
出版社 東京創元社
出版年 2013/12/27
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのキャシェルのフィデルマ。修道女で法廷弁護士(ドーリィー)でもある。
事件 7世紀アイルランドのモアン王国の王から、フィデルマは一つの任務を与えられた。古の神々を信奉する”禁忌の谷”に赴き、王の代理として族長ラズラと、キリスト教の教会などを設立するための折衝をして欲しいというのだ。彼女が城塞に向かうと途中には若者33人の惨殺死体が見つかり、到着後には滞在中の修道士が殺され、彼女は容疑者になってしまったのだ!
背景 シリーズ6作め。本シリーズは現在(2013年)までに24冊も刊行されている。年2冊のペースで翻訳されたとしても、残念ながらすべては読めそうもない。馴染みのない国を舞台にした歴史ミステリーでありながら、平易な語り口で読者を虜にしてしまう手腕は衰えていない。

邦題 『蒸気機関車と血染めの外套』
原作者 アランナ・ナイト
原題 Deadly Beloved(1989)
訳者 法村里絵
出版社 東京創元社
出版年 2013/4/26
面白度 ★★
主人公 エジンバラ警察警部補のジェレミー・ファロとファロの義理の息子で新米医師のヴィンセント(ヴィンス)・ボーマーチャー・ローリィ。二人はシリーズ探偵。
事件 ヴィンスの上司である警察医ケラーの妻、メイベルが忽然と姿を消した。彼女はエジンバラから列車で妹のもとへ向かったものの、二週間後に線路脇の雪の中から血染めの外套と肉切り庖丁が見つかったのである。二週間前のケラー家の晩餐会に原因が潜んでいたのか?
背景 ファロ・シリーズの第3弾。事件は1871年1月に設定されている。ヴィクトリア朝の探偵譚なので、大胆なトリックは捜査がいい加減なことを前提になりたっているようだ。解決はクリスティの謎の失踪事件を暗示しているようでもあり、個人的には好みではない。

邦題 『短篇小説日和』
原作者 ミュリエル・スパーク他
原題 日本独自の編集(2013)
訳者 西崎憲編訳
出版社 筑摩書房
出版年 2013/3/10
面白度 ★★★
主人公 副題は「英国異色傑作選」。1989年から90年にかけて刊行された『英国短篇小説の愉しみ』全三巻から17本を選び、新たに3本の新訳を加えた短編集。
事件 「後に残してきた少女」*(M・スパーク)「ミセス・ヴォードレーの旅行」*(M・アームストロング)「羊歯」(W・ハーヴィー)(以下興味を持った作品のみ)「八人の見えない日本人}(G・グリーン)「豚の島の女王」(G・カーシュ)「羊飼いとその恋人」(E・グージ)「写真」(N・ニール)「殺人大将」(C・ディケンズ)「河の音」*(J・ハリス)など。
背景 *印が新たに加わった短編。『英国短篇小説の愉しみ』全三巻は本リストには含めていないが、スパークの「後に残してきた少女」が加わった限り、やはり入れるべきと判断。

邦題 『怪奇小説日和』
原作者 フィッツ=ジェイムズ・オブライエン他
原題 日本独自の編集(2013)
訳者 西崎憲編訳
出版社 筑摩書房
出版年 2013/11/10
面白度 ★★★
主人公 副題は「黄金時代傑作選」。1992-93年にかけて刊行された『怪奇小説の世紀』(国書刊行会)全三巻から13本と『書物の王国』から1本を選び、4本の新訳を加えた短編集。
事件 新訳は「墓を愛した少年」(F・オブライエン)「喉切り農場」(J・D・ベリズフォード)「マーマレードの酒」(J・エイケン)「真ん中のひきだし」(H・R・ウェイクフィールド)で、前2作には既訳がある。その他「陽気なる魂」(E・ボウエン)、「茶色の手」(C・ドイル)「がらんどうの男」(T・バーク)「失われた船」(W・W・ジェイコブズ)など。
背景 「怪奇小説の黄金時代」の定義ははっきりしないが、ゴシック・ロマンスとモダン・ホラーの間(19世紀半ばから20世紀半ば)に書かれた数多くの怪奇小説が収録されている。

邦題 『ハンティング 』
原作者 べリング・バウアー
原題 Finders Keepers(2012)
訳者 杉本葉子
出版社 小学館
出版年 2013/9/11
面白度 ★★★
主人公 特にいないが、シリーズ・キャラクター的人物、シップロット村の巡査ジョーナス・ホリーと同じ村在住の17歳の少年スティーヴ・ラムを挙げるべきか。
事件 前作『ダークサイド』で6人の連続殺人事件が起きたシップコットで、1年半後に、またも子ども連続誘拐事件が起きた。いずれのケースにも現場には「おまえは彼(彼女)を愛していない」というメモがあった。やがてホリーやラムもこの事件に巻き込まれ……。
背景 エクスムーアを舞台にした三部作の最終巻。第一作(CWAのゴールド・ダガー賞)の良さと第二作の拙さが同居している。良い点は青少年の心理描写が的確で読ませることだが、悪い点は警察の捜査が杜撰すぎること。捜査陣に対しては読みながらイライラしっ放しだった。

邦題 『バッドタイム・ブルース』
原作者 オリヴァー・ハリス
原題 The Hollow Man(2011)
訳者 府川由美恵
出版社 早川書房
出版年 2013/7/15
面白度 ★★
主人公 ハムステッド署犯罪捜査課の刑事ニック・ベルシー。多額の借金を抱えて破産寸前。住む場所も追い出され、酒浸りでギャンブル中毒という人間。
事件 もはやこれまでと覚悟したニックに、高級住宅地に一人住まいの金持ちが行方不明になった事件が舞い込んできた。要領よく金持ちの留守邸で寝泊まりし、捜査を始めると、彼には隠し財産があることを嗅ぎ付けたのである。横領できるのではないか?
背景 著者の第一作。主人公の造形の面白さで読ませるミステリーだが(訳者は「ビバリーヒルズ・コップ」のエディ・マーフィーと刑事コロンボを足して二で割ったようなと評しているが)、個人的にはあまりニックに共感できなかった。事件が複雑で物語が長すぎるのも欠点。

邦題 『アガサ・レーズンの完璧な裏庭』
原作者 M・C・ビートン
原題 Agatha Raisin and the Potted Gardener(1994)
訳者 羽田詩津子
出版社 原書房
出版年 2013/7/20
面白度 ★★★
主人公 コッツウォルドのカースリー村に住むアガサ・レーズン。シリーズ素人探偵。元PR会社経営者で、体形を常に気にしている。離婚歴のある独身中年女性。
事件 容姿や家事は完璧。ガーデニングまで得意な未亡人メアリーが村に引っ越してきた。アガサの闘争心に火が付いたが、そこにガーデニングのコンテストが開催されることに。だが村人の庭が次々と荒らされ、なんとメアリーの逆さ釣りの死体まで見つかったのだ!
背景 シリーズ3作目。アガサはコージー・ミステリーの主人公らしく、明るく活発な中年女性だが、3作目ともなるとお馴染みさんになってしまった。事件そのものは単純。当然予想されることだが、訳者後書きから著者はクリスティ好きということなので、★を一つプラスした。

邦題 『キリング』(1事件、2捜査、3逆転、4解決)
原作者 デイヴィッド・ヒューソン(原作ソーラン・スヴァイストロップ)
原題 The Killing(2012)
訳者 山本やよい
出版社 早川書房
出版年 2013/1/15  2/15  3/15  4/15
面白度 ★★★
主人公 コペンハーゲン警察殺人捜査課の刑事サラ・ルンド。30代後半の独身女性だが一人息子がいる。彼女の後任になる予定のマッチョ型刑事イエン・マイヤが捜査に協力する。
事件 郊外の森で血の付いたブラウスとレンタル店のカードが見つかった。その日、恋人とスウェーデンに移住し、ストックホルム警察に転勤する予定であったサラは、一日だけの予定で捜査に加わる。だが翌日には少女の死体が自動車の中から見つかり、レイプされていたのだ!
背景 原作はデンマークで大ヒットしたTVドラマ。英国の放送でも人気を得て、晴れて英国で小説化された。原作ドラマは20話だそうだが、翻訳ではそれを全4巻とし、一か月おきに刊行された。さすがに長いが犯人をぼかすテクニックは健在で、3巻以降はまあ楽しめる。

邦題 『人間和声』
原作者 ブラックウッド
原題 The Human Chord(1910)
訳者 南條竹則
出版社 光文社
出版年 2013/5/20
面白度 ★★
主人公 秘書のスピンロビン。28歳。身体つきは細いが優雅で、全体に機敏である。脇役は、隠退した聖職者スケールとその娘ミリアム、家政婦モール夫人の3人。
事件 失職したスピンロビンは、ある日「勇気と想像力のある秘書求む。テノールの声とヘブライ語の多少の知識を必須とす。独身者。浮世離れした人間であること」という新聞広告を目にした。さっそく応募し、一ヶ月の試用期間の間、人里離れた屋敷に住むことになったが……。
背景 怪奇小説の大家が書いた長編の怪奇・幻想小説。訳者解説によれば「荘厳な神秘主義とお化け屋敷を訪れるような怪奇趣味が適度に」混ざり合った傑作となる。確かに「愛は勝つ」的展開は予想外に読みやすかったが、一般向けでないことは断言できる。

邦題 『神の起源』上下
原作者 J・T・ブラナン
原題 Origin(2012)
訳者 棚橋志行
出版社 ソフトバンククリエイティブ
出版年 2013/7/25
面白度
主人公 NASAの科学者で南極調査チームのリーダー、イヴリン(リン)・エドワーズとリンの元夫マット・アダムズ。マットはアメリカ先住民の血を引いている。
事件 南極で気候調査をしていたリンのチームが、氷の中から男の遺体を見つけた。見かけは現代人に似て、特殊な繊維の防寒服を着ていたものの、埋もれていた地層は4万年前のものだったのだ。さらにリンを除く全員が殺されてしまった。謎の組織が守ろうとする秘密とは?
背景 新人の第一作。『ダ・ヴィンチ・コード』と『Xファイル』を髣髴させるという触れ込みの作品。確かに冒頭の謎は『星を継ぐもの』に似た魅力があるが、下巻に入ると謎は一気に解けて、奇想天外な物語に変質してしまう。ミステリー愛好者としてはこの展開は楽しめない。

邦題 『アーサー王の墓所の夢』
原作者 アリアナ・フランクリン
原題 Relics of the Dead(2009)
訳者 吉澤康子
出版社 東京創元社
出版年 2013/7/31
面白度 ★★★
主人公 女医のヴェスーヴィア・アデリア・レイチェル・オルテーゼ・アギラール。捨て子であったが、イタリアのサレルノ医科大学で解剖学などの知識を持つシリーズ・キャラクター。
事件 1176年、イングランド国王ヘンリー二世は、大火で焼失したグラストンベリーの大修道院の墓から二体の遺骨が見つかった情報を得た。アーサー王とその妃の遺骨ではないか。ヘンリー二世はアデリアに鑑定を求めたのだ。その調査中、友人エマが行方不明になったり……。
背景 シリーズ第三弾。12世紀のヘンリー二世のイングランドについては馴染みがないので、物語に入るまでは多少戸惑いはあるものの、それを越えてしまえば歴史ミステリー小説として楽しめる。現代的すぎるとはいえ、アデリアの言動は頼もしく、魅力的である。

邦題 『キャッツ・アイ』
原作者 R・オースティン・フリーマン
原題 The Cat's Eye(1923)
訳者 渕上痩平
出版社 ROM叢書
出版年 2013/2/15
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの法医学者ジョン・イヴリン・ソーンダイク。語り手(私)は弁護士のロバート・アンスティで、何本かのシリーズに登場する。
事件 夏季休暇末期のある晩、私がハムステッド・ヒースを歩いていると、女性の叫び声が! 駆けつけると血を流している若い女性がいた。彼女の説明によるとローワンス荘で主人のドレイトンが射殺され、犯人を追ってきたが……。
背景 フリーマン6作めの長編。戦前に『猫目石』という題で抄訳されている。今回は初の完訳。新聞連載小説らしく、宝探しを中心とした冒険小説的なプロットで、読みやすいのはありがたい。とはいえ英国歴史に疎いと面白さは減じるが、詳細な解説がその欠点を救っている(2019年1月、ちくま文庫より刊行)。

邦題 『短刀を忍ばせ微笑む者』
原作者 ニコラス・ブレイク
原題 The Smiler with the Knife(1939)
訳者 井伊順彦
出版社 論創社
出版年 2013/7/25
面白度 ★★★
主人公 私立探偵ナイジェル・ストレンジウェイズの妻ジョージア。名の知れた探検家として世界を渡り歩いてきた。事件当時は37歳。
事件 デボンシャーの村に越してきたストレンジウェイズ夫妻は、自宅の生垣で小さな金属製のロケットを見つけた。中には若い女性の古い銀板写真などが入っていたが、ファシスト組織がそのロケットを狙っていることがわかった。ジョージアはその組織に潜り込むが……。
背景 ナイジェル・シリーズの第5弾だが、妻が主人公で、内容は冒険スパイ小説という異色作。物語にはアンブラーの『あるスパイへの墓碑銘』のような緊迫感がないのが残念だが、文章が気障で文学的すぎることも一因か。

邦題 『葬送の庭』上下
原作者 タナ・フレンチ
原題 Faithful Place(2010)
訳者 安藤由紀子
出版社 集英社
出版年 2013/9/25
面白度 ★★★
主人公 アイルランド警察潜入捜査課のフランシス(フランク)・マッキー。40代の離婚歴ある男で、現在は9歳の一人娘に会うことを楽しみにしている。
事件 22年前にフランクとの約束で、駆け落ちすると決めていたロージーのスーツケースが実家の隣りで22年振りに見つかった。フランクが実家に戻って調査をすると、その近くでロージーの死体も発見されたのである。ロージーは失踪ではなく他殺だったのだ!
背景 第一作『悪意の森』で数々の新人賞を取った期待の若手による第三作。相変わらず物語を語る力は素晴らしい。ただし事件が狭い地域に限定されていて動きに乏しいし、犯人の意外性も少ない。また9歳の少女を証人にする設定には違和感を覚えてしまう。

邦題 『もっとも暗い場所へ』
原作者 エリザベス・ヘインズ
原題 Into the Darkest Corner(2011)
訳者 小田川佳子
出版社 早川書房
出版年 2013/5/15
面白度 ★★★
主人公 キャサリン(キャシー・ベイカー)。独身の魅力的な若いキャリア・ウーマンだが、現在は強迫神経症に罹っている。彼女を助けるのが精神科医のスチュアート・リチャードソン。
事件 ある日キャサリンは青い目を持つハンサムな男性リーと知り合い、たちまち熱烈な恋に落ちた。だがリーは次第に暴力的な本性を現わし始める。裁判でリーは3年の刑を受け、キャシーはロンドンで新しい生活を始めるが、やがて3年が経過し……。
背景 英国新人女性作家のサスペンス小説。過去の事件と現在の様子が交互に淡々と語られていく。過去の暴力事件は新鮮味に欠ける内容だが、現在の物語、強迫神経症に罹ったキャシーが精神科医の助けで再生していく話はリアルで興味深い。もう少しミステリー的捻りも欲しいが。

邦題 『警官の騎士道 』
原作者 ルーパート・ペニー
原題 Policeman in Armour(1937)
訳者 熊井ひろ美
出版社 論創社
出版年 2013/10/15
面白度 ★★★
主人公 スコットランド・ヤードの主任警部エドワード・ビール。ワトソン役は「ストークブローカー」副編集長のアントニー・バートン。
事件 エヴェレット判事が裁いたカルーの罪は、その後冤罪であることが分かった。そして引退していたエヴェレットに謎の脅迫状が届き、心臓病の悪化などで寝たきり状態のエヴェレットは自宅で刺殺されてしまったのだ。動機は? そしてカルーを含む関係者のアリバイは?
背景 経歴などが一切不明な謎の著者の邦訳三冊め。典型的な謎解き小説のスタイルを踏襲していて、最初に殺人があり、長々とした尋問が続く。現場地図や読者への挑戦もある。前半の尋問はさすがに退屈だが、バートンの性格設定には好感が持てる。

邦題 『護りと裏切り』上下
原作者 アン・ペリー
原題 Defend and Betray(1992)
訳者 吉澤康子
出版社 東京創元社
出版年 2013/1/31
面白度 ★★★
主人公 謎解きに参加するのは、法廷弁護士のオリヴァー・ラスボーンと私立探偵(元警官)のウィリアム・モンク、そして看護婦のヘスター・ラターリィの三人だが、本書は法廷ミステリーなので、一人挙げるならラスボーンか。
事件 数々の武功を立てたカーライアン将軍が、置物の甲冑の鉾槍で刺殺された。犯人は妻で、自白もあるし、状況からも彼女しか考えられなかった。しかし動機が不明であったため、将軍の妹の依頼で、三人は困難な事件の調査を引き受けるが……。
背景 モンク・シリーズの第三弾。14年振りの邦訳。著者の筆力には圧倒されるし、動機の意外性にも驚くが、重複した語りも多く、もう少し整理した展開にしてほしかった。

邦題 『貧乏お嬢さま、メイドになる』
原作者 リース・ボウエン
原題 Her Royal Spyness(2008)
訳者 古川奈々子
出版社 原書房
出版年 2013/5/20
面白度 ★★★
主人公 21歳のラノク公爵令嬢ジョージー。フルネームはヴィクトリア・ジョージアナ・シャーロット・ユージーニー。英国王室の王位継承34番目の女性。
事件 舞台は1930年代のロンドン。貴族とは名ばかりのジョージーは、スコットランドの貧乏生活を逃げ出した。ロンドンでは、いろいろあって生活のために始めた仕事がなんとメイド。ところが仕事帰りに見たのは、浴槽に浮かぶ、義兄を脅迫していたフランス人の死体だった!
背景 すでに1900年代のニューヨーク市を舞台にしたモリー・マフィー・シリーズが紹介されている著者の新シリーズ。こちらの方がより英国ミステリーらしい(著者は現在は北カルフォルニア在住)。主人公の言動が楽しく、コージー・ミステリーとして成功している。

邦題 『貧乏お嬢さま、古書店へ行く』
原作者 リース・ボウエン
原題 A Royal Pain()
訳者 古川奈々子
出版社 原書房
出版年 2013/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『カルニヴィア1禁忌』
原作者 ジョナサン・ホルト
原題 The Abomination(2013)
訳者 奥村章子
出版社 早川書房
出版年 2013/9/15
面白度 ★★★★
主人公 イタリア憲兵隊刑事部大尉カテリーナ・ターポとイタリア駐留米軍少尉ホリー・ボランド、そしてSNS「カルニヴィア」の創設者ダニエーレ・バルボの三人。いずれも独身。
事件 ヴェネツィアの教会の石段で、司祭の祭服を着て、腕に奇妙なタトゥーをした女性の死体が見つかった。事件担当はカテリーナ。一方ホリーは、旧ユーゴ内線時の情報公開を申請した女性の死を知る。二人の死に潜む陰謀解明に、ダニエーレも参加し……。
背景 三部作の第一作。ラーソンの『ミレニアム』の影響を受けているようだが、軽快で、巧みなプロットには驚かされる。また腕力も、美貌も頭も良い女性主人公二人も魅力的に描かれている。物語の展開が調子良すぎるのが欠点に覚えるほどだが、達者な新人が現れたものだ。

邦題 『琥珀色の瞳の家庭教師』
原作者 ヴィクトリア・ホルト
原題 Mistress of Mellyn(1960)
訳者 出水純
出版社 オークラ出版
出版年 2013/11/9
面白度 ★★★
主人公 コーンウォールのマウント・メルン館で家庭教師をするマーサ・リー。24歳。母親を亡くしたばかりの8歳の娘アルヴィーン・トレメリンを教えることになった。
事件 時は後期ヴィクトリア朝。館の主人コナンは優雅な雰囲気があるものの、裏の顔があるようにマーサには感じられた。また先妻は列車事故で焼死体で見つかったものの、顔では身元を判断できなかった。マーサは館の中で亡霊を感じた。はたして本当に亡くなったのか?
背景 本名エリナー・ヒバートで数多くの歴史小説を書いていた著者のホルト名義の第一作。後年「ゴシック・ロマンスの女王」とも呼ばれたが、ミステリー・ファンには『流砂』が評判。本書は若い女性の恋物語が中心だが、終盤の意外性はミステリー・ファンでも楽しめるだろう。

邦題 『絹の家』
原作者 アンソニー・ホロヴィッツ
原題 The House of Silk(2011)
訳者 駒月雅子
出版社 角川書店
出版年 2013/4/30
面白度 ★★★
主人公 世界一有名な諮問探偵シャーロック・ホームズ。正確に言えば、ドイルが創造したホームズ以外では、世界で初めてドイル財団が公式認定したホームズである。
事件 1890年11月。妻が長期不在のため、ワトスンは久しぶりにベイカー街の下宿でホームズと共同生活を始めたが、そこに美術商の依頼人が現れた。不審人物に見張られているという。そして翌日その人物は刺殺され、二人は謎の言葉”絹の家”を解明すべく、泥沼に引き込まれる。
背景 あまたあるホームズ物の贋作の一冊だが、ホームズ譚が冒険小説でもあるという特徴を上手く生かした物語に仕上がっている。古典的なトリックは平凡だが、語り口は本家ドイルよりも滑らかで読みやすく、財団が公認するだけの出来栄えを感じさせる面白さだ。

邦題 『命取りの追伸』
原作者 ドロシー・ボワーズ
原題 Postscript to Poison(1938)
訳者 松本真一
出版社 論創社
出版年 2013/12/25
面白度 ★★
主人公 ロンドン警視庁のダン・パードウ警部と巡査部長のソルトの二人。
事件 ロンドン郊外にある大きな屋敷。そこには大金持ちの故ラックランドの後妻コーネリアが、多くの召使いや孫娘二人と一緒に暮らしている。だが彼女は夫の遺言を盾に孫娘を自由に結婚させないなど、孫娘の生活を縛っていた。一方コーネリアの主治医の元には「あなたはコーネリアを毒殺しようとしている」という匿名の手紙が送られてきた。その狙いは?
背景 森氏の労作『世界ミステリ作家辞典』にも載っていない黄金時代の隠れたる謎解き作家の第一作。一族の遺産を巡る殺人話で、英国ミステリーの王道をいく設定。そこそこ楽しめるが、D・L・セイヤーズの後継者という評価は大げさ。単に名が同じだけのシャレだろう。

邦題 『ソープ・ヘイズルの事件簿』
原作者 V・L・ホワイトチャーチ
原題 Thrilling Stories of the Railway(1912)
訳者 小池滋・白須清美
出版社 論創社
出版年 2013/4/25
面白度 ★★★
主人公 書籍収集家・鉄道愛好家で、菜食主義者のソープ・へイズル。本書は鉄道ミステリーの短編集だが、15本の内、前半の9本に登場する。
事件 「ピーター・クレーンの葉巻」「ロンドン・アンド・ミッドノーザン鉄道の惨劇」「側廊列車の事件」「サー・ギルバート・マレルの絵」(有名な作品)「いかにして銀行は救われたか」「ドイツ公文書箱事件」「主教の約束」「先行機関車の危機」「臨港列車の謎」「「急行列車を救え」「鉄道員の恋人」「時間との闘い」「ストの顛末」「策略の成功」の15本。
背景 特徴のある短編集で、<クイーンの定員>にも選ばれている。単純なトリックが多いが、鉄道普及時代の鉄道に関するハード・ソフトを知る面白さもあり楽しめる。

邦題 『ヴィクトリア朝幽霊物語』
原作者 イーディス・ネズビット他
原題 日本独自の編集(2013)
訳者 松岡光治編訳
出版社 アティーナ・プレス
出版年 2013/
面白度
主人公 

事件 


背景 



邦題 『背教のファラオ』
原作者 スコット・マリアーニ
原題 The Heretic's Treasure(2009)
訳者 船山睦美
出版社 河出書房新社
出版年 2013/11/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『孤高のSAS戦士』
原作者 クリス・ライアン
原題 Killing for the Company(2011)
訳者 伏見威蕃
出版社 ソフトバンククリエイティブ
出版年 2013/1/25
面白度 ★★★
主人公 SAS隊員のルーク・マーサー。ルークの命の恩人といってよい同僚のチェット・ファーマンは第二部までの主人公。
事件 セルビアでの行動で負傷し片足を失ったチェットは、現在働いている警備会社から危険な情報を掴んだ。英国首相が軍需産業と手を結んでいるらしい。平和運動家の女性とともに真相を探り始めるが、二人の前には謎の女暗殺者が! ルークも後半には孤高の戦いを始める。
背景 SAS隊員を主人公にした作品を数多く書いている著者の最新作。ただし版元が早川書房よりソフトバンクに代わった。物語の骨格は同じだが、英国首相が黒幕ではマズイからか、近未来小説となった。ブレアを想起させるが、日本人の私にはブッシュを思い出す。

邦題 『北極の白魔』
原作者 マット・リン
原題 Ice Force(2012)
訳者 熊谷千寿
出版社 ソフトバンククリエイティブ
出版年 2013/10/25
面白度 ★★
主人公 傭兵会社の社長と契約社員がチームとして活躍するので主人公はいないが、強いて挙げれば社員のスティーブ・ウェストと社長のブルース・ダドリーか。
事件 ロシア人石油王からDEF(ダドリー・イマージェンス・フォーシズ)社に依頼された緊急仕事は、北極圏に落ちた機体のブラック・ボックスを回収してほしいというもの。ウェストらは苦労の末にターゲット・エリアに到着するが、そこにはロシア製のヘリコプターが舞い……。
背景 DEFシリーズの第4弾。所を変えて北極を舞台にした冒険小説。軽口の面白さと武器の情報、派手な戦闘場面などで読ませるエンタテインメントだが、突然ナチの遺物が現われるなどプロットがあまりに安易なので、サスペンスが盛り上がらない。

邦題 『誰よりも狙われた男』
原作者 ジョン・ル・カレ
原題 A Most Wanted Man(2008)
訳者 加賀山卓朗
出版社 早川書房
出版年 2013/12/15
面白度 ★★★★
主人公 テロに関する諜報戦を描いた作品なので、明確な主人公はいないが、挙げればプライベート銀行の経営者トミー・ブルーと慈善団体の女性弁護士アナベル・リヒターか。
事件 ハンブルグへ密入国してきたチェチェン人のイッサは慈善団体に助けを求め、その団体の弁護士アナベルはトミーに面会を求めた。彼女は、イッサがブルーに救って貰えると思っているという。ブルーの銀行には、ある人物の秘密口座が存在していたからである。
背景 著者21冊目の作品。『われらが背きし者』の前に書かれている。なんといっても素晴らしいのは登場人物の造形。主人公二人以外にも、イッサやドイツの役人バッハマンなど、皆存在感がある。独特な語り口も大いなる魅力。結果に驚きが少ないのが瑕瑾か。

邦題 『骨董屋探偵の事件簿』
原作者 サックス・ローマー
原題 The Dream Detective(1920)
訳者 近藤麻里子
出版社 東京創元社
出版年 2013/5/24
面白度 ★★
主人公 一応骨董屋をしているモリス・クロウ。年齢不詳だが、娘は絶世の美女。「思念は実体である」「事件は<周期の科学>」という考えの持ち主。サイコメトリー探偵。
事件 10本の短編「ギリシャの間の悲劇「アヌビスの陶片」「十字軍の斧」「象牙の彫像」「ブルー・ラージャ」「囁くポプラ」「ト短調の和音」「頭のないミイラ」「グレンジ館の呪い」(蓄音機が登場する!)「イシスのヴェール」から構成されている。
背景 フー・マンチュー物語で有名な著者の短編集。奇人探偵の一人だが、<クイーンの定員>にも選ばれている。オカルト的な雰囲気の語り口ながら、最後の一編を除いて、最後は合理的な解決を示しているところがクイーンに認められた所以か。

邦題 『亡国の薔薇』上下
原作者 イモジェン・ロバートスン
原題 Anatomy of Murder(2010)
訳者 茂木健
出版社 東京創元社
出版年 2013/9/30
面白度 ★★★
主人公 解剖学の研究者ゲイブリエル・クラウザーと提督夫人ハリエット・ウェスターマン。
事件 時は1781年、英国は米国独立を巡り米仏と戦っている最中であったが、仏の密偵がロンドンに潜入しているとの情報がもたらされた。海軍本部の情報担当官は、スパイ事件に関連する殺人事件の捜査を二人に依頼したのだ。一方、ロンドンの女性占い師は、海軍本部事務員の妻を襲った悲劇を解き明かそうとして、事件に巻き込まれた。二つの事件の接点は?
背景 ゲイブリエルとハリエットのコンビが活躍するシリーズ物第二弾。典型的な歴史ミステリーといってよいが、今回はゲイブリエルの活躍は少なく、歴史小説の面白さ(オペラ・ハウスの内幕や当時の庶民生活が活写)が強調されている。二人の関係がどう変わるかは興味深い。

邦題 『悪魔と警視庁』
原作者 E・C・R・ロラック
原題 The Devil and The C.I.D(1938)
訳者 藤村裕美
出版社 東京創元社
出版年 2013/3/22
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁の首席警部マクドナルド。シリーズ・キャラクターである。
事件 濃霧に包まれた11月の夜、ひったくりにあった女性を目撃した帰庁途中のマクドナルドは、犯人を追いかけるため車から一時降りた。だが警視庁に戻って帰宅した彼は、翌朝その車の後部で、悪魔メフィストフェレスの扮装をした男の刺殺死体を見つけたのだ。すぐに、前夜近くで開かれた仮装舞踏会にいた人間らしいということはわかったが……。
背景 『ジョン・ブラウンの死体』など3冊の既訳がある著者の代表作と呼ばれる作品。現役当時は男性作家と思われていたが、クリスティに比すべき人気があったそうだ。確かにこの冒頭の設定や個性的な登場人物は魅力的だが、願わくば中盤のサスペンスも欲しかった。

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