邦題 『アフリカの百万長者』
原作者 グラント・アレン
原題 An African Millionaire(1897)
訳者 松下祥子
出版社 論創社
出版年 2012/10/31
面白度 ★★
主人公 クレイ大佐。年齢不詳で本名不明。自身を「現代のロビン・フッド」と呼ぶ。被害者は百万長者のサー・チャールズ・ヴァンドリフと義弟(語り手)のシーモア・ウィルブラハム。
事件 12本の短編からなる連作短編集。「メキシコの千里眼」「ダイヤモンドのカフリンクス」(クイーンの『完全犯罪大百科』に収録)「レンブラントの肖像画」「チロルの城」「ドロー・ゲーム」「ドイツ人の教授」「クレイ大佐の逮捕」「セルドン鉱山」「漆塗りの書類箱」「ポーカー勝負」「ベルティヨン法」「中央刑事裁判所(オールド・ベイリー)」
背景 クイーンが「怪盗を主人公にした最初の例」と評した作品。確かにクレイ大佐の登場は、ラッフルズより一年前だった。歴史的価値は高いが、その分プロットに幼稚さも目立つ。

邦題 『ゴースト・ハント』
原作者 H・R・ウェイクフィールド 
原題 日本独自の編集(2012)
訳者 鈴木克昌他
出版社 東京創元社
出版年 2012/6/29
面白度 ★★★
主人公 1996年に出版された『赤い館』の増補・決定版といえる傑作短編集。前作には9本の短編が収められているが、本書は18本を収録している。
事件 「赤い館」*「ボーナル教授の見損じ」*「ケルン」「ゴースト・ハント」*「湿ったシーツ」「”彼の者現れて後去るべし”」*「”彼の者、詩人なれば……”」「目隠し遊び」「見上げてごらん」「中心人物」*「通路(アレイ)」「最初の一束」*「暗黒の場所」「死の勝利」*「悲哀の湖(うみ)」「チャレルの谷」「不死鳥」*「蜂の死」の18本。
背景 *は『赤い館』収録作。「最後のゴースト・ストーリー作家」と言われる著者の実力・特徴がよくわかる短編集。「蜂の死」は著者としては異色作。

邦題 『葡萄色の死』
原作者 マーティン・ウォーカー
原題 Dark Vineyard(2009)
訳者 山田由美子
出版社 東京創元社
出版年 2012/11/30
面白度 ★★★
主人公 フランスの架空の村サンドニの警察署長ブノワ・クレージュ(ブルーノ)。30代の独身。恋人はパリに住む警察官僚のイザベル・ペロー。
事件 サンドニの農業試験場が放火された。遺伝子組み換えの作物を栽培していたので、過激なエコロジストの犯行が疑われた。ブルーノは住人の聞き込みを始めるが、やがてワイン農家の養子になった青年が死体で見つかる。殺人か事故か? 放火との関係は?
背景 ブルーノ・シリーズの第二弾。男性作家の書いたコージー・ミステリーらしく、男性視点から料理やワインに関する薀蓄や恋愛が語られている。第一作ではブルーノはモテ過ぎて嫌味を感じたが、それが少なくなったのは好ましい。謎はイマイチだが。

邦題 『パーフェクト・ハンター』上下
原作者 トム・ウッド
原題 The Hunter(2010)
訳者 熊谷千寿
出版社 早川書房
出版年 2012/1/25
面白度 ★★★★
主人公 プロの暗殺者ヴィクター。本名も年齢も不明。射撃と格闘術については超一流。数々の困難を切り抜けてきた証拠に、肉体には多数の傷が残っている。
事件 ヴィクターは依頼どおりに標的の男を射殺し、男が持っていたフラッシュ・メモリーを奪った。彼は知らなかったが、そのメモリー内にはロシア軍事機密が記録されており、CIAがそれを受け取るはずだったのだ。そして何故か、ヴィクターは謎の殺し屋に狙われ始めた。
背景 著者の第一作。数々の戦闘場面の壮絶さで読ませる犯罪・格闘小説。プロットは単純で意外性はないが、戦闘描写に力点を置いているから当然か。そのうえ各戦闘シーンは変化に富んでいるので、読んでいてもマンネリを感じさせないのは立派。

邦題 『火焔の鎖』
原作者 ジム・ケリー
原題 The Fire Baby(2004)
訳者 玉木亨
出版社 東京創元社
出版年 2012/1/27
面白度 ★★★
主人公 イーリーの週刊新聞「クロウ」の主任記者フィリップ・ドライデン。妻は閉じ込め症候群(LIS)のためにほぼ昏睡状態で長期入院中。
事件 27年前アメリカ空軍の輸送機がマギーの住んでいた農場に墜落した。彼女は乗客の赤ん坊を助け出したが、生後二週間の自分の息子は死んだと語っていた。ところが癌で死の近づいたマギーが「赤ん坊をすり替えていた」とドライデンに告白したのだ。何故か?
背景 ドライデン・シリーズの第二弾。第一作は厳寒のイーリーだったが、今回は猛暑のイーリーが舞台。墜落事故の謎ばかりでなく違法ポルノ写真や不法入国者の謎を絡めて、物語はサスペンス豊かに語られる。ただしすり替え事故は確率的にはあり得ず、少しシラケてしまう。

邦題 『三十三本の歯』
原作者 コリン・コッタリル
原題 Thirty-Three Teeth(2005)
訳者 雨沢泰
出版社 ヴィレッジブックス
出版年 2012/5/19
面白度 ★★★
主人公 ラオスで唯一の検死官シリ・パイブーン。72歳という高齢者。検死事務所の看護婦ドゥーイとダウン症の助手グンがシリを助けて活躍する。
事件 時は1977年。舞台は王政が廃止され、共産主義政権が樹立したラオス。事務所には猛獣に首を噛みつかれて死亡した女性の死体や、自転車に相乗りした二人組の謎の死体が運び込まれた。大忙しのシリだが、さらに古都で見つかった黒焦げ死体の検死まで頼まれたのだ。
背景 シリーズ第二弾(4年ぶりの翻訳)。ラオス舞台にした珍しいユーモア・ミステリー。前作よりサスペンスフルだが、霊が前面に出てくる展開なので、個人的には前作の方が楽しめた。「三十三本の歯」を持つ人間とは、釈迦のように霊を宿している人間を意味するそうだ。

邦題 『チューダー王朝弁護士シャードレイク』
原作者 C・J・サンソム
原題 Dissolution(2003)
訳者 越前敏弥
出版社 集英社
出版年 2012/8/25
面白度 ★★★
主人公 チューダー王朝時代の弁護士マシュー・シャードレイク。5歳の時から亀背(胸椎後湾症)になった一種の障害者探偵。30代半ばの独身。クロムウェル卿配下の一員となっている。同郷のマーク・ポアが秘書兼助手として、マシューを助ける。
事件 1537年初冬のイングランド。マシューは修道院内で起きた殺人事件の真相究明のためスカーンシアの修道院に向かった。だがさらに三件の殺人事件が起き……。
背景 シリーズの第一作。シャードレイクの人間的魅力ばかりでなく、当時の修道院やそこに住む修道士の描写もリアリティがあって楽しめる。結末は意外な展開となるが、謎解き小説ではない。歴史風俗ミステリーとしてじっくり楽しむ作品のようだ。

邦題 『高慢と偏見、そして殺人』
原作者 P・D・ジェイムズ
原題 Death Comes to Pemberley(2011)
訳者 羽田詩津子
出版社 早川書房
出版年 2012/11/15
面白度 ★★★
主人公 しいて挙げれば、ペンバリー館の当主フィッツウィリアム・ダーシーとその妻で女主人のエリザベス・ダーシーか。
事件 二人が結婚してから6年。平穏な日々が続いていたが、舞踏会を準備中の嵐の夜、一台の馬車が森から屋敷に暴走してきた。乗っていたのはエリザベスの妹リディア。彼女の言葉を頼りに家人らが森に入ると、そこには死体と放心状態の義弟ウィッカムが!
背景 ジェーン・オースティン『高慢と偏見』の続編をミステリー仕立てに書いたもの。昔からオースティンを敬愛していたので実現したのであろう。謎は単純だが、当時の警察・裁判の様子は興味深い。続編としての違和感も少なく、91歳で書いたという著者の作家魂には恐れ入る。

邦題 『月に歪む夜』
原作者 ダイアン・ジェーンズ
原題 The Pull of the Moon(2010)
訳者 横山啓明
出版社 東京創元社
出版年 2012/9/14
面白度 ★★★
主人公 本書の語り手であるケイト(ケイティー)・メーフィールド。現在は50代後半の独身だが、事件当時は教職課程を学ぶ大学生。事件後は教師になる。
事件 1972年の夏。私と恋人のダニー、そしてダニーの友人サイモンの三人は、サイモンの叔父の家で過ごすことになった。だが海で出会った、霊感があるという少女を家に連れ帰ったことで、すべての歯車が少しずつ狂っていく。その夏の四人の男女に起こったこととは?
背景 新人女性作家の第一作。そのような設定だとドロドロした憎愛劇になりがちだが、そこを避けている語り口が新鮮だし、巧妙でもある。ルース・レンデルの作風を少し穏やかにしたサスペンス小説といってよい。警察がほとんど捜査をしないのが、ミステリーとしての最大の欠点か。

邦題 『闇と影』上下
原作者 ロイド・シェパード
原題 The English Monster(2012)
訳者 林香織
出版社 早川書房
出版年 2012/7/25
面白度 ★★
主人公 いない。しいて挙げればテムズ河川警察署の警官チャールズ・ホートンか。
事件 1811年12月7日。ロンドン郊外のラドクリフ街道沿いで服地商を営むティモシー・マー一家に悲劇が襲った。マー夫妻と赤ん坊、そして住み込み徒弟の四人が惨殺されたのだ。警察組織が未発達であったこともあり捜査は進展しなかったが、ホートンは独自の調査を開始した。だが第二の殺人事件が起こり、捜査は泥沼化するばかりであった。
背景 実際の事件「ラドクリフ街道の殺人」を主題にしたノンフィクション・ノベル。歴史ミステリーとしても読めるが、著者の狙いは、事件の謎の推理より、事件の背景に奴隷制があったことを示しかったようで、ミステリーとしてはさほど評価できない。

邦題 『法螺吹き友の会』
原作者 G・K・チェスタトン
原題 Tales of the Long Bow and Other Stories(1925)
訳者 井伊順彦
出版社 論創社
出版年 2012/9/30
面白度 ★★
主人公 表題の連作短編集と単行本未収録であった短編3本からなる短編集。
事件 「クレイン大佐のみっともない見た目」「オーウェン・フッド氏の信じがたい成功」「ピアース大尉の控え目な道行」「ホワイト牧師の捉えどころなき相棒」「イノック・オーツだけのぜいたく品」「グリーン教授の考えもつかぬ理論」「ブレア司令官の比べる物なき建物」「<法螺吹き友の会>の究極的根本原理」「キツネを撃った男」「白柱荘の殺人」「ミダスの仮面」の11本。
背景 最初の8本が連作集の短編。チェスタトンの独特な言語感覚によって書かれた摩訶不思議な作品群だが、ミステリーとはいえない。最後の短編は著者の秘書の死後に見つかった最後のブラウン神父物。独自に収録した短編3本のおかげで辛うじて★2になった作品。

邦題 『サクソンの司教冠(ミトラ)』
原作者 ピーター・トレメイン
原題 Shroud for the Archbishop(1995)
訳者 甲斐萬里江
出版社 東京創元社
出版年 2012/3/16
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの”キルデアのフィデルマ”。修道女だが、アイルランドのドーリィー(法廷弁護士)でもある。ワトソン役は”カンタベリーのエイダルフ”修道士。
事件 7世紀の中葉、フィデルマはローマにいた。所属する修道院の「宗規」に、教皇の認可と祝福をいただくためだった。ところが肝心のカンタベリー大司教指名者が殺され、そのうえ教皇への貢物が盗まれたのだ。フィデルマとエイダルフは事件の解決を頼まれたが……。
背景 フィデルマ・シリーズの二冊め。本書の出版で、シリーズ長編第一作から第五作までがすべて翻訳されたことになる。尋問をとおして事件を解決するのは、いつものシリーズと同じだが、珍しいのは異国のローマが舞台になっていること。プロットは多少強引すぎるが。

邦題 『修道女フィデルマの探求』
原作者 ピーター・トレメイン
原題 A Canticle for Wulfstanand Other Stories(2000)
訳者 甲斐萬里江
出版社 東京創元社
出版年 2012/12/14
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのフィデルマ。七世紀アイルランドのドーリィ(法廷弁護士)で修道女。
事件 比較的長い短編5本が収録されている短編集。収録作は「ゲルトルーディスの聖なる血」(聖女の血が入った小瓶を携えた修道女が森で殺された)「汚れた光輪」(聖者のような若者の殺人事件)「不吉なる僧院」(孤島の僧院での院長殺害事件)「道に惑いて」(僧院の宝を盗んだ神父が首つり状態で発見されたが……)「ウルフスタンへの頌歌(カンティクル)」(修道院へ留学していた南サクソンの王子が密室で殺された!)の5本。
背景 原書("Hemlock at Vespers")は一冊だが、訳書は三分冊され、その三冊め。正統的な謎解き短編ばかりだが、短編ではフィデルマの魅力が十分に伝わっていないのが少し残念。

邦題 『修道院の第二の殺人』
原作者 アランナ・ナイト
原題 Enter Second Murderer(1988)
訳者 法村里絵
出版社 東京創元社
出版年 2012/3/16
面白度 ★★
主人公 エジンバラ市警察警部補ジェレミー・ファロ。妻とは死別し、現在は独身で40歳直前。義理の息子ヴィンス(新米医師)と実の娘二人がいる。ヴィンスは脇役として活躍する。
事件 1870年、エジンバラの修道院で下働きをしていた女性と付属学校の女性教師が殺された。数日後下働きの女の夫が自首してきたが、第二の殺人は頑なに否定した。事件当時ファロは病気で休んでいたが、絞首刑前日に犯人の訴えを聞いて再捜査を個人的に手掛けることに。
背景 ファロ・シリーズ第一作。二作めが話題作のようだ(現在まで17作も出ている)。ヴィクトリア朝を背景にした時代ミステリー。フーダニット形式で物語は展開するが、動機はともかく、犯人は容易に見当がつくのは残念。ヴィンスはキャラが立っていて楽しめる。

邦題 『エジンバラの古い柩』
原作者 アランナ・ナイト
原題 Blood Line(1989)
訳者 法村里絵
出版社 東京創元社
出版年 2012/7/27
面白度 ★★
主人公 エジンバラ市警警部補のジェレミー・ファロ。父親も市警の巡査であったが殉死。妻を亡くし、義理の息子で新米医師のヴィンスと母、二人の娘とともに生活している。
事件 1870年夏、エジンバラ城の崖下で男の遺体が見つかった。ファロが現場付近を調べると、男の肖像が描かれたカメオが落ちていた。さらに亡父の行李から、対となるカメオと重大な記録(40年前に城の壁の中から赤ん坊の遺体を納めた棺が発見されたという記録)を見つけたのだ。
背景 歴史ミステリーであるファロ・シリーズの第二弾。謎解きミステリーというより、登場人物の言動の面白さで読ませる時代風俗・人情小説といった雰囲気を持っている。本書の大胆な仮説は本国では評判のようだが、日本人の私はそれほどの驚きを受けなかった。

邦題 『終りの感覚』
原作者 ジュリアン・バーンズ
原題 The Sense of an Ending(2011)
訳者 土屋政雄
出版社 新潮社
出版年 2012/12/20
面白度 ★★★★
主人公 アントニー・ウェブスター。学生時代の恋人はベロニカ。ベロニカと別れた後、穏健な人生を歩み結婚する。やがて納得のいく離婚後、現在は独身生活を楽しんでいる。
事件 引退生活を送っているアントニーのもとに、見知らぬ弁護士から手紙が届いた。ベロニカの母親が遺産として彼に日記と500ポンドを残したというのだ。日記は、高校時代の親友で、後にベロニカの恋人になり自殺したエイドリアンのもの。それがなぜ母親の手に?
背景 明らかにミステリーを意図して書かれた作品ではないが、サスペンスフルな展開、二捻りした終わりが極めて印象的なので、番外作品として挙げてしまった。2011年のブッカー賞受賞作。1960年代の英国の学生生活が活写されているのも興味深い。

邦題 『殺す鳥』
原作者 ジョアンナ・ハインズ
原題 The Murder Bird(2006)
訳者 神林美和
出版社 東京創元社
出版年 2012/4/27
面白度 ★★★
主人公 音楽家の卵であるサム・ボズウィン。高名な詩人であった母キルスティン・ウォラーの前夫との間に生まれた一人娘。
事件 キルスティンの死は、検死審問では自殺となったが、サムは疑問を持っていた。彼女がつけていた日記と詩集の表題作になるはずだった詩「殺す鳥」が、どこからも見つからなかったからだ。サムは現父親の部下である弁護士ミックの手を借りながら、その答えを探し続ける。
背景 本邦では1997年に『五番目の秘密』が唯一訳出されている著者の翻訳第二弾。いかにも女性作家らしく、登場人物の心理・行動を執拗に描写して事件の真相に迫るという前作と同じ書き方をしている。逆に警察の捜査はまったくのお座なりで、このアンバランスが弱点。

邦題 『ダークサイド』
原作者 ベリンダ・バウアー
原題 Darkside(2011)
訳者 杉本葉子
出版社 小学館
出版年 2012/7/11
面白度 ★★
主人公 シップコット村の巡査ジョーナス・ホリー。妻ルーシーは多発性硬化症に罹っている障害者。村はロンドンの西300キロに位置するエクスムーア国立公園内にある。
事件 その寒村で寝たきりの老女が殺害された。ホリーは、州都から来た警部マーヴェルの指揮下に入って捜査に加わるものの、いびられ続ける。捜査は進展せず、「それでも警察か?」というメモを受け取る始末。そして次々と障害者・高齢者が殺人鬼の手に落ちたのだった。
背景 第一作『ブラックランズ』でいきなりCWA賞を受賞した著者の第二作。前作と同じ村が舞台で、前回の主役もチョイ役で出てくるが、物語は前作とは無関係。性格異常者の連続殺人事件の話だが、嫌味な人間が多すぎて、サスペンスはあるものの楽しめない。

邦題 『占領都市』
原作者 デイヴィッド・ピース
原題 Occupied City(2009)
訳者 酒井武志
出版社 文藝春秋
出版年 2012/8/25
面白度 ★★★
主人公 いない。というのも本作は、12人の登場人物が12の短い物語を12人の文体で語っており、それによって一つの物語を完成させるというスタイルを取っているからである。
事件 1948年1月26日の午後。帝国銀行椎名町支店に白衣の男が現われた。男は言葉巧みに猛毒の青酸化合物を行員らに飲ませ、12名が死亡、4名が生き残った。戦後史に名高い<帝銀事件>である。陸軍731部隊の深層を暴こうとするアメリカとソヴィエト調査官なども登場し――。
背景 著者が構想している"TOKYO YEAR ZERO"三部作の第二弾。<帝銀事件>の闇はあまりに深いということで、芥川の「藪の中」と「羅生門」からヒントを得て、多視点の物語構成にしている。12の文体を駆使する技巧は確かで、本人はアンチ・クライム・ノヴェルと評している。

邦題 『アガサ・レーズンの困った料理』
原作者 M・C・ビートン
原題 Agatha Raisin and the Quiche of Death(1992)
訳者 羽田詩津子
出版社 原書房
出版年 2012/5/20
面白度 ★★
主人公 ロンドンでPR会社を経営していたアガサ・レーズン。結婚に失敗し、現在は53歳の独身。コッツウォルズ村に憧れて早期に引退した。平凡な容姿で、色気はゼロに近い。
事件 憧れのコッツウォルドに引っ越したものの、よそ者扱いが続き、なかなか村人に馴染めない。そこで目をつけたのが地元開催のキッシュ・コンテスト。優勝すれば村の人気者になれると考え、秘かに人気店のキッシュを買って応募したが、そのキッシュが原因で死者が!
背景 アガサ・シリーズの第一弾(原書では22冊も出版されている)。美人ではないが活発な中年女性が主人公で、数多くの料理が登場する。典型的なコージー・ミステリーだが、アガサの言動は大げさというか派手すぎて、イギリス中年女性のイメージに戸惑いを感じる。

邦題 『アガサ・レーズンと猫泥棒』
原作者 M・C・ビートン
原題 Agatha Raisin and bthe Vicious Vet(1993)
訳者 羽田詩津子
出版社 原書房
出版年 2012/12/20
面白度 ★★
主人公 素人探偵は、元PR会社経営者のアガサ・レーズンとアガサの隣人(元軍人で独身)のジェームズ・レイシーの二人。公的探偵は地元警察の刑事ビル・ウォン。
事件 村にやってきた獣医はハンサムな独身男。アガサは飼い猫ホッジをつれて診療所へいき、どうにかデートに誘われることに成功した。だがそのデートはすっぽかされ、お詫びのデートではアガサは大失態を演じ、なんとその翌朝獣医は不運な死! 事故死か他殺か?
背景 アガサ・シリーズの第2弾。本書ではアガサは目ぼしい捜査・推理はしておらず、素人探偵としてはジェームズの方が活躍する。言うのもバカバカしいが、ミステリーとしてはご都合主義に満ちていて、楽しめるのは結婚やセックスを妄想する明るいアガサの言動だ。

邦題 『キラー・エリート』
原作者 ラヌルフ・ファインズ
原題 Killer Elite(The Feather Men)(1991)
訳者 横山啓明
出版社 早川書房
出版年 2012/4/15
面白度 ★★
主人公 しいて挙げれば殺し屋の主犯ダニエル・デヴィリャーズと警察が手を付けない犯罪に対処する秘密組織<フェザーメン>の監視役スパイク・アレンか。
事件 デヴィリャーズは、オマーンの山岳部族の元族長から驚くべき依頼を受けた。四人の息子の命を奪った犯人全員を抹殺してほしいというのだ。調べると、該当者はほぼSAS隊員の関係者であることがわかった。しかし<フェザーメン>も遅まきながらその動きを察知し……。
背景 一種のSAS物の冒険小説といってよいが、クリス・ライアンのようなエンタテイメント指向の小説ではなく、ノンフィクションに近いプロット・描写を採用している。これは、著者が冒険家兼ノンフィクション作家であるからだろう。登場人物に感情移入しにくいのが難点だ。

邦題 『水の血脈』
原作者 マリーナ・フィオラート
原題 The Glassblower of Murano(2008)
訳者 酒井裕美
出版社 ヴィレッジブックス
出版年 2012/1/20
面白度 ★★
主人公 イギリス在住の芸術家レオノーラ(ノラ)・マニン。離婚歴のある30代の女性。
事件 レオノーラは離婚を機に、亡き父の故郷ヴェネツィアでガラス職人として生きようとしていた。なぜなら彼女の祖先コラディーノ・マニンは今も語り継がれるムラーノ島屈指の名匠で、彼女もガラス工芸に魅力を感じていたからである。だが仕事仲間は彼女を拒絶するようになった。何故か? 彼女は現地の警察官アレッサンドロとともに、自分のルーツを探り始めた。
背景 本邦初紹介作家の第一作。家族を主題にしたロマンス小説に近いが、イタリアのヴェネツィアを背景にした歴史ミステリーといえなくもない。現在と過去の事件との絡みは、もう少し複雑さが欲しいところだが、ガラス工芸の世界を興味深く描いている。

邦題 『コブラ』上下
原作者 フレデリック・フォーサイス
原題 The Cobra(2010)
訳者 黒原敏行
出版社 角川書店
出版年 2012/12/3
面白度 ★★★
主人公 元CIA高官にして工作員のポール・デヴローと彼を助ける弁護士のキャルヴィン(キャル)・デクスター。前者は通称「コブラ」、後者は通称「復讐者(アヴェンジャー)」。
事件 米国大統領が一人の少年の悲惨な死をきっかけに、コカイン産業の撲滅を決意した。作戦実行者には凄腕のデヴローに白羽の矢が立てられたのだ。彼は極秘作戦<プロジェクト・コブラ>を始動させる。相手はコロンビアでコカイン製造を一手に引受けている組織<兄弟団>だ!
背景 『アフガンの男』に次ぐフォーサイスの最新作。コロンビアのコカイン生産・密輸・密売の実態や各国の取締法制度、さらには作戦に使用する装備・装置・武器などがリアルに描かれている。情報小説としては楽しめるものの、小説として平板なのは否めない。

邦題 『秘書綺譚 ブラックウッド幻想怪奇傑作集』
原作者 アルジャノン・ブラックウッド
原題 日本独自の編集(2012)
訳者 南條竹則
出版社 光文社
出版年 2012/1/20
面白度 ★★★
主人公 怪奇小説界の巨匠ブラックウッドの日本で独自に編まれた短編集。
事件 「空家」*(典型的な幽霊屋敷譚のショートハウス物:以下Sと略す)「壁に耳あり」(S)「スミス――下宿屋の出来事」「約束」*「秘書綺譚」*(有名な人狼物、S)「窃盗の意図をもって」*(S)「炎の下」*「小鬼のコレクション」「野火」*「スミスの滅亡」「転移」*(吸血鬼譚の一種で、怖い話)の11本の短編が収録されている(題名の後に*印のあるものは既訳あり)。
背景 ブラックウッドの傑作集にはすでに紀田順一郎や中西秀男のものがあり、本書は3冊めの傑作集。幽霊譚だけでなく、幅広い内容のものが集められている。最大の特徴はジョン・ショートハウスが主人公の短編4本がすべて収録されていることか。

邦題 『顔をなくした男』上下
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 Red Star Eclipse(2012)
訳者 戸田裕之
出版社 新潮社
出版年 2012/3/1
面白度 ★★
主人公 お馴染みの英国情報部員(MI5)のチャーリー・マフィン。
事件 前作でチャーリーはロシアの陰謀を暴いたものの、祖国に戻った彼を待っていたのは政府からの引退勧告だった。だがそのような折、MI6はロシア高官の亡命話に乗り出し、MI6と5が内部抗争の様相を呈し始めた。そのことを察知したチャーリーは、モスクワに残した妻子の安否に危機感を募らせ、密かにモスクワに向かうのだが……。
背景 『片腕をなくした男』に始まる三部作の第二作。中間の作品だけに、興味深い伏線は張られているものの、物語は宙ぶらりんのまま。つまり謎の解決は第三作に持ち越されてしまった。MI5と6の内部抗争話などは面白いが、この作品だけで独立していないのは致命的な欠点だ。

邦題 『喪失』
原作者 モー・ヘイダー
原題 Gone(2010)
訳者 北野寿美枝
出版社 早川書房
出版年 2012/12/15
面白度 ★★★
主人公 エイボン・アンド・サマセット警察の重大犯罪捜査隊警部ジャック・キャフェリー。ロンドン警視庁より転職。脇役は潜水捜索隊隊長の巡査部長フリー・マリー。
事件 後部座席に少女が乗っていた車が盗まれた。当初は単なるカージャック事件と思われたが、少女は解放されないうえに、今回の手口に似た事件が過去にも発生していたことがわかった。少女が目的か? 警察の捜査は遅れ、第二、第三の誘拐事件が起こったのだ。
背景 『死を啼く鳥』と『悪鬼の檻』が翻訳されている著者の最新作。2012年度のMWA賞を受賞している(あの『容疑者Xの献身』がノミネートされた年)。ホラー味が薄くなり、警察小説として楽しめるが、私には廃運河のトンネル内の落盤状態がきちんと理解できなかったのが残念。

邦題 『マシューズ家の毒』
原作者 ジョージェット・ヘイヤー
原題 Behold Here's Poison(1936)
訳者 猪俣美江子
出版社 東京創元社
出版年 2012/3/23
面白度 ★★★
主人公 公式捜査担当者はスコットランド・ヤードのハナサイト警部とヘミングウェイ部長刑事だが、実質的な探偵は、重要容疑者でもある被害者の甥ランドール・マシューズか。
事件 マシューズ一家の長グレゴリーが突然亡くなった。自然死とも思われたが、検死の結果はニコチン中毒で他殺だった。だが故人の部屋はすでに掃除され、証拠はほとんど残っていない。ハナサイドは遺産を巡る事件と考え、故人の近辺を洗い出すが……。
背景 著者の翻訳第二弾。本国ではロマンス作家として著名なだけに、ミステリーとしてはプロットにしろトリックにしろ、大いに不満はあるものの(警察の捜査も、昔とはいえ杜撰すぎるが)、各登場人物の造形は個性的だし、会話もうまい。特に後半に入ると面白くなる。

邦題 『骨の刻印』
原作者 サイモン・ベケット
原題 Written in Bone(2007)
訳者 坂本あおい
出版社 ヴィレッジブックス
出版年 2012/3/19
面白度 ★★★
主人公 法人類学の専門家デイヴィッド・ハンター。
事件 舞台はスコットランド北西部に位置するルナ小島。人口は二百人に満たない。そこで異常な焼死体が発見され、彼が死体検証のために派遣されたのだ。だが生憎天候が悪化し、本土との連絡は出来なくなった。デイヴィッドが検証すると、死体はろうそく効果で燃えており、他殺であることが判明したが、デイビッドにも危険が迫りつつあった。
背景 シリーズ二作め。デイビッドは”スケルトン探偵”ほどの専門性はないため、骨の観察から意外な謎が解かれるというカタルシスはないが、二転、三転する終盤は迫力がある。男が主人公の現代版ゴシック・ロマンスといってよく、ミステリー的面白さの限界もそこにある。

邦題 『雨の浜辺で見たものは』
原作者 ジェイニー・ボライソー
原題 Caught Out in Cornwall(2003)
訳者 山田順子
出版社 東京創元社
出版年 2012/8/31
面白度 ★★★
主人公 コーンウォールのペンザンスに住む画家・写真家の独身中年女性ローズ・トレヴェリアン。シリーズ・キャラクターで、恋人はキャンボーン署の警部ジャック・ピアース。
事件 マラザイアンの浜で、少女が連れ去られた。まったくの偶然ながら、ローズはその場に居合わせていた。画家としての性質からか、ローズは連れ去られた少女の容貌を覚えており、事件に鼻を突っ込み始める。少女の母親や親戚には複雑な事情があることがわかってきたが……。
背景 シリーズ6冊め。本書を書いた後著者は癌のために他界したため、シリーズは未完のまま終了した。ローズとジャックの関係などは中途半端なままだが、本書の最大の魅力であるコーンウォール地方の世態風俗はたっぷり描かれていて、その点では十分満足出来る。

邦題 『ゴシック短編小説集』
原作者 クリス・ボルディック選
原題 The Oxford Book of Gothic Tales(1992)
訳者 石塚則子・下楠昌哉他
出版社 春風社
出版年 2012/1/27
面白度 ★★★
主人公 ゴシック小説の系譜を一望できる目的で、18世紀から20世紀に発表された膨大な作品数から26本を訳出した短編集。ただし「まだらの紐」のような有名作品は除外している。
事件 26編の題名と著者名を挙げるだけで、本欄のスペースは全くなくなってしまう。このためすべてカットしたが、バラエティに富む作品が集まっている。
背景 問題はゴシック小説の定義。オックスフォード大教授の編者の要約によれば、「腐敗する場所としての古い建物に対しての人間の執着を特徴としている」作品となる。したがって英国作家の作品ばかりでなく、米国南部ゴシック小説やラテンアメリカの小説も結構含まれている。個人的には、古い修道院で女性が逃げ回るような古風な作品がやはり好みだ。

邦題 『毒の目覚め』上下
原作者 S・J・ボルトン
原題 Awakening(2009)
訳者 法村里絵
出版社 東京創元社
出版年 2012/8/31
面白度 ★★★★
主人公 野生動物病院の獣医クララ・ベニング。顔に傷痕が残る三十代の独身女性。
事件 英国南部の小さな村で蛇が異常発生していた。クララが住む村の近所の家からも悲鳴があがり、クララが駆けつけると40匹近い蛇と、危険な毒蛇1匹が見つかったのだ。さらに別の日に咬まれて死亡した老人がいることを知り、その謎を解こうとする。たまたま知り合った老女から、50年前に起きた教会の火事に蛇が関わっていると聞いて……。
背景 現代的なゴシック・ロマンス『三つの秘文字』でデビューした著者の第二作。前作同様、専門職を持つ女性が主人公のサスペンス小説だが、クララの人物造形が素晴らしく、冒険小説としても大いに楽しめる。イングランドにもこれほど蛇がいるとは知らなかった。

邦題 『迷宮の淵から』
原作者 ヴァル・マクダーミド
原題 A Darker Domain(2009)
訳者 横山啓明
出版社 集英社
出版年 2012/6/30
面白度 ★★★
主人公 スコットランド、ファイフの州都グレンロセスにある警察の警部補カレン・ピーリー。未解決事件再捜査班に所属の独身女性だが、同僚のフィル巡査部長に好意を寄せている。
事件 イタリア、トスカーナのヴィラで人形劇団のポスターが発見された。それは、1984年に起きて未解決だった大富豪の娘と孫の誘拐事件の重要な証拠であった。カレンは、その事件と同じ年に起きた炭鉱労働者の行方不明事件を捜査すると、不思議な接点が……。
背景 著者の非シリーズ物の一冊。献辞や謝辞からわかるように、マクダーミドは自分の生まれ育った炭鉱町を舞台にした作品を書きたかったようだ。当時の炭鉱ストを巧みに事件に絡ませているものの、誘拐事件の設定は無理筋で、二つの事件の結び付きは成功とは言い難い。

邦題 『アトランティス殲滅計画を阻め!』
原作者 アンディ・マクダーモット
原題 The Hunt for Atlantis(2007)
訳者 棚橋志行
出版社 ソフトバンククリエイティブ
出版年 2012/9/25
面白度 ★★
主人公 アメリカの女性考古学者ニーナ・ワイルドとフロスト財団のボディガードであるイギリス人の元SAS隊員エディ・チェイス。
事件 アトランティスの捜索をしていたニーナの両親は、謎の組織<ブラザーフッド>に射殺された。10年後両親のあとを継いだニーナは、フロスト財団の資金援助で、アトランティス人の末裔と思われる先住民が厳重に守っていた「ポセイドンの神殿」をアマゾンの奥地で発見した!
背景 ニーナとチェイスのシリーズ第一弾。「インディー・ジョーンズ」の亜流といった内容の小説。アドベンチャー・ゲームを小説化したような本でもある。荒唐無稽な展開で、4度の活劇があるものの、主人公らは不死身。まあ、アクション・シーンは退屈せずに読めるが。

邦題 『シスター』
原作者 ロザムンド・ラプトン
原題 Sister(2010)
訳者 篠山裕子
出版社 河出書房新社
出版年 2012/9/30
面白度 ★★★
主人公 ニューヨーク市でコーポレート・アイデンティーの仕事をしているアラベラ・ビアトリス・ヘミング(語り手)。ケンブリッジ大学を卒業。20代後半で、妹ラスがいる。
事件 そのラスが行方不明になったという知らせが突然入った。私はロンドンに駆けつけるが、見つかった妹は両手からの失血で死亡していた。警察は自殺と断定し、母も私の婚約者もそれで納得してしまったが、私は妹の生活をなにも知らないことに愕然とし、調査に乗り出した。
背景 新人の第一作。「あなた」つまり妹に語りかけるという独特の語り口で、サスペンスを高めている。ただし後半は医学ミステリーのような展開になるので、素人探偵の姉が妹の死の原因を一人で調べるのは少し無理な設定だ。ラストの意外性もアンフェア感が強い。

邦題 『無法海域掃討作戦』
原作者 マット・リン
原題 Shadow Force(2011)
訳者 熊谷千寿
出版社 ソフトバンククリエイティブ
出版年 2012/2/25
面白度 ★★★
主人公 一人ではなくグループ。つまり、ダドリー・イマージェンシー・フォーシズの契約社員である元SAS隊員スティーヴ・ウェストを中心とした傭兵部隊。
事件 中米の小国で軍に拘束されていたウェストらは、突如現れたMI6のエージェントから、釈放を条件に、ソマリア海を根城にする海賊の首領を生け捕りしてほしいと命令された。作戦は、仲間の一人が発信器を付けて捕虜になり、アジトを突き止めるというものであった。
背景 ウェスト・シリーズ三作め。主舞台が中米やアフガンからソマリア海域に移ったことが大きな変更点だが、派手な戦闘シーンや詳細な武器解説が物語の中心となるのはこれまでと同様。ただし語り口がより巧妙になり、ユーモアも多く含まれるようになったのは進歩か。

邦題 『われらが背きし者』
原作者 ジョン・ル・カレ
原題 Our Kind of Traitor(2010)
訳者 上岡伸雄・上杉隼人
出版社 岩波書店
出版年 2012/11/7
面白度 ★★★★
主人公 アマチュア側はオックスフォード大学元チューターのペリー・メイクピースと彼の恋人で弁護士のゲイル・パーキンズの二人。プロ側は英国情報部部員のルーク・ウィーヴァーと彼の上司ヘクター・メレディスで、二人とも体制派からは外れている。
事件 ペリーとゲイルはカリブ海の小島でロシアの富豪ディマ一家と知りあった。ところがディマは情報提供の代わりに亡命を希望した。二人は情報部に話を持ち掛けたが……。
背景 著者20冊めの訳書。直近の3冊は文庫で出ていたが、本書は版元を替えて出版された単行本の大作。特筆すべきは、会話を多用した物語展開の巧みさで、読みにくいというル・カレの中期までの弱点を完全に克服している。ミステリー的にもラストの衝撃度は強烈だ。

邦題 『闇のしもべ』上下
原作者 イモジェン・ロバートスン
原題 Instrument of Darkness(2009)
訳者 茂木健
出版社 東京創元社
出版年 2012/9/21
面白度 ★★★★
主人公 解剖学の研究者ゲイブリエル・クラウザーと海軍提督夫人ハリエット・ウェスターマンの二人。前者は独身だが、後者は二人の子どもを持つ既婚女性。
事件 1780年、英国南部のウエスト・サセックスにある村で、男の死体が見つかった。ハリエットとゲイブリエルが調べると、被害者が所持していた指輪の紋章は、広大な領地を持つソーンリー家のものだった。一方ロンドンでは楽譜店の店主が殺された。二つの事件の繋がりは?
背景 新人のシリーズ第一作で、18世紀後半のイングランドを舞台にした歴史ミステリー。謎解き重視の狭義のミステリーとして見ると評価は低くなるが、物語の面白さを重視した広義のミステリーと考えると評価はかなり高くなる。ハリエットの人物造形も魅力的だ。

邦題 『わたしが眠りにつく前に』
原作者 SJ・ワトソン
原題 Before I Go to Sleep(2011)
訳者 棚橋志行
出版社 ヴィレッジブックス
出版年 2012/7/20
面白度 ★★★
主人公 既婚中年女性のクリスティーン・ルーカス。事故が元で、一日前の記憶が残らないという特殊な記憶障害を負っている。
事件 その障害のため、毎朝目覚める度、クリスティーンは夫が誰かすらわからない。毎日がリセット状態で始まるのだが、少し前に夫に内緒で診察を受けた医師から、日誌を書くことを勧められた。それを最初から読み直すことで徐々に過去の記憶を思い出し始めたが……。
背景 2011年のCWA賞最優秀新人賞を受賞したサスペンス小説。特殊な記憶障害の設定は珍しく物語にすぐ入れるものの、その縛りが強すぎて、中盤以後の展開は窮屈になっているし、結末の意外性も少ない。最も驚いたのは、女性心理を巧みに描いている著者が男性ということだ。

邦題 『謎の私掠船を追え』
原作者 ジュリアン・ストックウィン
原題 The Admiral’s Daughter()
訳者 大森洋子
出版社 早川書房
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