邦題 『遥かなる未踏峰』上下
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 Paths of Glory(2009)
訳者 戸田裕之
出版社 新潮社
出版年 2011/1/1
面白度 ★★★
主人公 チャターハウス・スクール教師のジョージ・マロリー。当時未踏峰であった世界最高峰エヴェレスト(チョモランマ)を目指した登山家。なぜエヴェレストに登るのかと問われて、「そこに山があるから」と答えたことで有名。
事件 1999年5月。マロリーの遺体がエヴェレストの2万7千フィートの地点で発見された。マロリーは世界初の登頂者だったのか?
背景 マロリーの評伝だが、資料を基にした伝記というより、著者の創造力を生かした小説と考えた方がよい。マロリーのエピソードや手紙を多用した物語展開は冒険家の一生を描くのふさわしい設定だが、登頂の謎についの言及がほとんどないのはミステリー・ファンとして残念。

邦題 『15のわけあり小説』
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 And Thereby Hangs a Tale(2010)
訳者 戸田裕之
出版社 新潮社
出版年 2011/5/1
面白度 ★★★
主人公 著者の6冊めの短編集。ミステリー味の短編は全体の1/3程度か。
事件 「きみに首ったけ」(指環の隠し場所はどこ?)「女王陛下からの祝電」「ハイ・ヒール」(保険金詐欺)「ブラインド・デート」「遺書と意志があるところに」(遺言書の裁判)「裏切り」(ダイヤの隠し場所は?)「「私は生き延びる」」(有名人に似ていたので……)「並外れた鑑識眼」「メンバーズ・オンリー」「外交手腕のない外交官」「アイルランド人ならではの幸運」「人は見かけによらず」「迂闊な取引」「カーストを捨てて」の15本。
背景 相変わらずわかりやすい語り口で、一行めから読者の心を掴んでしまう技巧は天性のものか。著者得意の「サーガ」物の短編や艶笑譚もあり、内容も幅広い。

邦題 『フィデリティ・ダヴの大仕事』
原作者 ロイ・ヴィカーズ
原題 The Exploits of Fidelity Dove(1924)
訳者 平山雄一
出版社 国書刊行会
出版年 2011/12/20
面白度 ★★★
主人公 仲間を率いる可憐な淑女怪盗フィデリティ・ダヴ。すみれ色の瞳と銀色がかったブロンドのの髪を持ち、灰色の服装を好む。ロンドンのベイズウォータに屋敷がある。
事件 連作短編集で「顔が命」「宙吊り」「本物の名作」「偽造の定番」「ガリヴァーバリー侯爵のダイアモンド」「貴顕淑商」「1400パーセント」「評判第一」「笑う妖精」「ことわざと利潤」「ヨーロッパで一番ケチな男」「グレート・カブール・ダイヤモンド」の12本を収録。
背景 ダヴは女盗賊だが、義賊的行動もする。女ルパンに近いか。ハウダニット、ホワイダニットの面白さで読ませるので、確かに迷宮課シリーズの前身といえる。背景・プロットは古色蒼然としているが、今読むと、懐かしい時代性に逆に惹かれる部分もある。

邦題 『緋色の十字章』
原作者 マーティン・ウォーカー
原題 Bruno Chief of Police(2008)
訳者 山田久美子
出版社 東京創元社
出版年 2011/11/11
面白度 ★★
主人公 フランスのサンドニ警察署長ブノワ・クレージュ(ブルーノ)。39歳の独身。料理は得意だし、テニスやラクビーのボランティア・コーチもする。野菜の自家栽培もしている。
事件 のどかで平和な村で大事件が発生した。フランスのために戦い、戦功十字章を授与された英雄の老人が殺されたのだ。しかも胸にはナチスの鉤十字が刻まれていた。就任以来となる初の殺人事件だが、捜査の主体は国家警察の手に渡り、ブルーノは閑職に追いやられ……。
背景 サンドニといえばトルシエ・ジャパンの”サンドニの悲劇”を思い出すが、本書のサンドニはフランス南西部の田舎。コージー・ミステリーだが、主人公は立派過ぎるモテモテ男で、男性読者にはいささか気持ちが悪い。犯罪が重くて暗いのも、コージーな気分を害している。

邦題 『破壊者』
原作者 ミネット・ウォルターズ
原題 The Breaker(1998)
訳者 成川裕子
出版社 東京創元社
出版年 2011/12/22
面白度 ★★★
主人公 警察小説か、犯罪小説と考えるかで主人公は変わるが、警察視点の描写が一番多いので、一人挙げれば、ドーセット洲警察署の巡査ニコラス(ニック)・イングラムか。
事件 他殺と思われる裸の女性死体が小石の浜に打ち上げられた。女性はレイプされた跡もあったが、一方発見現場から20キロ以上離れた港町で保護されていた幼女がその女性の娘であることがわかったのだ。なぜ娘は無傷で解放され、母親は殺されたのか?
背景 著者の6作め(翻訳は8作め)の作品。『囁く谺』と『蛇の形』の間に書かれた。ジャンル分けしにくい作品で、謎解き味も犯罪小説味もあるジャンル・ミックス小説。さまざまな要素を入れ過ぎたためか冗長な部分もあり、語りの切れ味が多少鈍くなっているのが残念。

邦題 『変わらざるもの』
原作者 フィリップ・カー
原題 The One From the Other(2006)
訳者 柳沢伸洋
出版社 PHP文芸文庫
出版年 2011/9/29
面白度 ★★★
主人公 第二次世界大戦後のドイツに住む私立探偵ベルンハルト(ベルニー)・グンター。シリーズ探偵。妻キルシュテンは精神病を病み、インフルエンザに罹って冒頭で亡くなる。
事件 1949年のミュンヘン。グンターはホテル経営を諦め、私立探偵業を再開した。さっそく夫の安否確認をお願いしたいという女性が現れた。自分が再婚したいという理由からで、簡単な失踪人探しに思えたが、その直後グンターは何者かに拉致されてしまったのだ!
背景 グンター・シリーズは、1989〜91年にかけて初期三部作が書かれたが、本書は久しぶりのグンター・シリーズ第4弾。戦後のドイツの現状を精緻に描いている点には圧倒されるが、プロットは”オデッサ・ファイル”の焼き直し。ちょっと自己の筆力に溺れているようだ。

邦題 『死の同窓会』
原作者 メグ・ガーディナー
原題 Crosscut(2005)
訳者 杉田七重
出版社 集英社
出版年 2011/5/25
面白度 ★★
主人公 弁護士資格を持つSF作家のエヴァン(エヴ)・ディレイニー。脊髄損傷で車いす使用の弁護士ジェシーは恋人だが、本事件の渦中でエヴァンは妊娠する。
事件 ハイスクールの同窓会出席のため、故郷チャイナ・レイクに戻ってきたエヴァンは、そこで衝撃的な事実を知る。ここ数年の間に同窓生が次々と死んでいたのだ。そこに新たに二件の殺人事件が起きた。それらの死に共通する原因は? 犯人は?
背景 お馴染みディレイニー・シリーズの第四弾。ディレイニーのヤンキー娘的活躍はこれまでのシリーズと同じだが、ミッシング・リンクの謎と犯人は早々に明かされる。謎の興味で読ませる構成ではないからだが、著者の筆力には(多少しつこいが)、いつものように脱帽だ。

邦題 『メモリー・コレクター』
原作者 メグ・ガーディナー
原題 The Memory Collector(2009)
訳者 山田 久美子
出版社 集英社
出版年 2011/11/25
面白度 ★★★
主人公 死者の心理学的剖検を専門とする精神科医師のジョー(ジョアナ)・ベケット。
事件 飛行機内で暴れる男の対応を求められたジョーがその男を調べると、男は前向性健忘という記憶喪失症にかかっていた。つまり過去の記憶はしっかりしているのに、現在の記憶は5分間ほどしか持たないのだ。南アフリカからの出張帰りであったが、その後その飛行機の乗客に同じような症状が出て、死亡するまでに至った。原因はウィルスかそれ以外の理由か?
背景 著者にはジョー・シリーズとディレイニー・シリーズがあるが、本書はジョー・シリーズの第2作。典型的なジェットコースター小説といってよく、プロットは単純な一本道ながら、山あり谷ありの豊かなサスペンスに彩られている。弱点は謎の物体に関するご都合主義か。

邦題 『野兎を悼む春』
原作者 アン・クリーヴス
原題 Red Bones(2009)
訳者 玉木享
出版社 東京創元社
出版年 2011/7/29
面白度 ★★★
主人公 シェトランド署の警部ジェームズ(ジミー)・ペレスと刑事のサンディ・ウィルソンの二人。前者には子持ちの恋人がいるが、後者は独り身。
事件 シェトランド諸島の一つウォルセイ島が舞台。その島出身のサンディは、祖母ミマの射殺死体を発見した。本島からペレスが呼ばれ捜査が始まる。従弟が猟銃で野兎を狙った誤発射と考えられたが、やがてミマの土地で発掘していた女性大学院生の死体が見つかり……。
背景 <シェトランド四重奏>となるシリーズの第三弾。本シリーズは、シェトランド諸島の風景やそこに住む人々の風俗・人間が丁寧に描写されている点に特徴があるが、本書もその特徴が生きている。ただし警察の科学的捜査はほとんどなく、警察捜査小説としては見劣りする。

邦題 『封印された系譜』上下
原作者 ロバート・ゴダード
原題 Found Wanting(2008)
訳者 北田絵里子
出版社 講談社
出版年 2011/4/15
面白度 ★★★
主人公 外務省職員リチャード・ユーズデン。50代始め。離婚歴ありで、現在は独身。
事件 リチャードの元妻から突然の依頼があった。リチャードの少年時代の親友で、元妻の再婚相手の男が死に掛かっているので、彼の祖父の古いアタッシュケースをベルギーにいる彼に届けて欲しいというもの。簡単な仕事に思えたが、アタッシュケースの中味は、ロシア皇女やデンマークの巨大企業の秘密に係わるもので、ユーズデンは大きな陰謀に巻き込まれていく。
背景 ゴダードの20作目。大風呂敷を広げた意外性に富むプロットと、いつも以上に展開の早い語り口はまさにB級冒険小説のノリである。まあ、そこそこ面白いのは事実だが、初期作品のしっとりした味は消えうせてしまったのは残念。

邦題 『夜の真義を』
原作者 マイケル・コックス
原題 The Meaning of Night(2006)
訳者 越前敏弥
出版社 文藝春秋
出版年 2011/3/10
面白度 ★★★★★
主人公 本手記の語り手エドワード・グラプソン。作家であった義母に育てられる。イートン校を中退し、ドイツに遊学後、ロンドンの法律事務所に勤める。ふとしたことから自分の実親が誰であるかを調べ始めた。
事件 エドワードはロンドンで縁もゆかりもない男を殺したが、この殺しは仇敵を葬るための練習にすぎなかった。その仇敵とは、タンザー男爵に寵愛されている詩人ドーントだ。
背景 典型的な擬ヴィクトリア朝小説。サラ・ウォーターズの『半身』や『荊の城』が小物に感じてしまうほど優れた作品。これが第一作というから驚き以外のなにものでもない。犯罪者エドワードの知性と魅力が共感を呼ぶように描かれており、ノワールといえども読後の印象は快い。

邦題 『ハニー・トラップ探偵社』
原作者 ラナ・シトロン
原題 The Honey Trap(2004)
訳者 田栗美奈子
出版社 作品社
出版年 2011/10/30
面白度 ★★★
主人公 イシー(イザベル)・ブロツキー。三十歳のシングルマザーで、酒といい男にめっぽうヨワイ。三歳半の息子マックスがいる。浮気調査専門のハニー・トラップ探偵社の捜査官。
事件 イシーは同僚に代わって浮気夫の調査を始め、あろうことかその男と一線を越えてしまった。一方マックスは自宅の庭で、切断された指を見つけた。イシーはそのことを警察に通報し、同じマンションで死亡していた老婦人の小指であることがわかったが……。
背景 ミステリー的な設定の物語だが、主人公の明るくメゲナイ言動で読ませるエンタテイメント。いわばミステリー版の『ブリジット・ジョーンズの日記』か。著者の分身と思われるイシーの泣き笑いが楽しく、心暖まる結末もグッド。もう少し謎があればと惜しまれる。

邦題 『ミスター・クラリネット』上下
原作者 ニック・ストーン
原題 Mr. Clarinet(2006)
訳者 熊谷千寿
出版社 武田ランダム・ハウス
出版年 2011/11/10
面白度 ★★★★
主人公 元警官・元私立探偵で、殺人罪で服役していたマックス・ミンガス。
事件 そのマックスに仕事の依頼があった。依頼人はハイチの実業界を牛耳るカーヴァー一族の一人。孫息子が行方不明になって2年ほどたつが、生きて連れ帰れば一千万ドル、死体でも五百万ドルの報奨を出すというのだ。出所直後のマックスにとっては喉から手が出るほど欲しい大金だ。彼はヴードゥー教が力をふるう法なきハイチに単身乗り込むことにした。
背景 ハイチを舞台にした新人の作品。その年のCWA賞イアンフレミング・スティールダガー賞を受賞している。英国流ハードボイルドだが、ハイチの政治的・経済的・社会的現状を鋭く告発していることが最大の特徴。表題の意味は子供をさらうハイチ版ハーメルンの笛吹き男のこと。

邦題 『暁に走れ』
原作者 ジョン・ストック
原題 Dead Spy Running(2009)
訳者 村井 智之
出版社 小学館
出版年 2011/12/11
面白度
主人公 

事件 


背景 



邦題 『エージェント6』上下
原作者 トム・ロブ・スミス
原題 Agent 6(2011)
訳者 田口俊樹
出版社 新潮社
出版年 2011/9/1
面白度 ★★★★
主人公 レオ・デミドフ。長期間の物語なのでは様々な職業に就いているが、現在はアフガニスタン秘密警察の教官である。亡くなった妻ライーサは教育者。
事件 1965年ライーサは養女らを含むソ連の友好使節団を率いてニューヨークでコンサートを披露した。だが終了後に会場を出た途端、共産主義礼賛の演説をしていた黒人歌手が射殺された現場に遭遇。ライーサは犯人扱いされ射殺されてしまった。真相は闇に包まれたが……。
背景 レオ・シリーズの第三弾で、シリーズ最終作と思われる作品。前二作に比べて伏線が巧みに張られているし、日記といった小道具の使い方も巧妙で、プロットに綻びは見られない。完成度は一番。瑕疵を探せば、優れた冒険小説には必須と言ってよいユーモアがないことか。

邦題 『三本の緑の小壜』
原作者 D・M・ディヴァイン
原題 The Three Green Bottle(1972)
訳者 山田蘭
出版社 東京創元社
出版年 2011/10/31
面白度 ★★★
主人公 五部構成の作品だが、話者が毎回変わるので主人公はいない。もっとも素人探偵的活躍をするのは転落死した医師の弟マーク・ケンダルか。兄と同じ医師で、20代の独身。
事件 夏休みの直前、友達と海水浴に出かけた少女は、その夜ゴルフ場で全裸死体となって見つかった。やがて有力容疑者の一人、町の診療所の医師テリー・ケンダルが転落死し、自殺とされてしまった。だが第二の少女殺人が起こり、マークは個人的に真犯人探しを開始した。
背景 三人の登場人物が、それぞれ一人称で語るという凝ったプロット。著者晩年(13冊中の11作め)の作品だが、新しい試みへの挑戦には頭が下がる。結果として技巧を凝らしたサスペンス小説になっているものの、犯人の動機がお粗末なので、謎解き小説としての評価は低い。

邦題 『ラッフルズ・ホーの奇蹟』
原作者 コナン・ドイル
原題 Arthur Conan Doyle Collection Vol.5(2011)
訳者 北原尚彦・西崎憲編
出版社 東京創元社
出版年 2011/12/22
面白度 ★★
主人公 SFというか科学ロマンスの物語を集めた短編集(中編1本と短編7本)。後ろに*印のついた作品は『ドイル傑作選T、U』(翔泳社)からの再録。
事件 「ラッフルズ・ホーの奇蹟」(唯一の中編で、現代版錬金術を背景にしている)「体外遊離実験」「ロスアミゴスの大失策」*「ブラウン・ペリコード発動機」「昇降機」*「シニョール・ランベルトの引退」*「新発見の地下墓地」「危険!」*(架空戦記物)。
背景 創元推理文庫のドイル傑作集の第5巻。科学技術を背景に使った物語が多い。ドイルが理系の優れた物語作家であることはよくわかるが、盛り込まれている考え方は古臭い(「ラッフルズ・ホーの奇蹟」の大金が手に入るようになると人間は怠惰になるなどは典型か)。

邦題 『死をもちて赦されん』
原作者 ピーター・トレメイン
原題 Absolution by Murder(1994)
訳者 甲斐萬里江
出版社 東京創元社
出版年 2011/1/28
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの”キルデアのフィデルマ”。修道女だが7世紀アイルランドのドーリィー(法廷弁護士)。修道士”サックスムンド・ハムのエイダルフ”が助手として活躍する。
事件 ノーサンブリア王のもと、歴史的な教会会議が開かれようとしていた。だがアイルランド系アイオナ派の有力な修道院長が殺害された。フィデルマ(アイオナ派)とエイダルフ(ローマ派)は国王から調査を命じられた。犯人は対立するローマ派の人間なのか?
背景 フィデルマ・シリーズの長編第一作。翻訳書としては4冊め。翻訳が遅れたのは教会会議が日本の読者には煩わしいという配慮からのようだ。確かにカトリック内部の教義論争など面白くないが、フィデルマとエイダルフの初登場作品として興味深い。

邦題 『装飾庭園殺人事件』
原作者 ジェフ・ニコルスン
原題 The Knot Garden(1989)
訳者 風間賢二
出版社 扶桑社
出版年 2011/10/10
面白度 ★★★
主人公 語り手が次々に代わる長編。したがって主人公はいないが、強いて挙げれば事件の被害者で造園家のリチャード・ウィズデンか。著作もありTVでも人気者であった。
事件 ロンドンのホテルでリチャードと思われる死体が見つかった。睡眠薬自殺だと考えられたが、美しい未亡人はそれを否定した。そして未亡人は、ホテルの警備責任者や友人の医師、さらには英文学教授にさまざまな調査を依頼したのだ。その結果は……。
背景 一種のアンチ・ミステリー。名探偵は登場しないし、物語の語り手も次々に代わる風変わりな展開。どうなるかと思ってしまうが、関係者一堂を集めてラストで謎解きをするといった伝統的なミステリーの面白さは残している。多少中途半端な印象を持ってしまうが。

邦題 『孤独の部屋』
原作者 パトリック・ハミルトン
原題 The Slaves of Solitude(1947)
訳者 北川依子
出版社 新人物往来社
出版年 2011/4/7
面白度 ★★★
主人公 ロンドンの出版社に勤める39歳の独身女性ミス・ローチ。
事件 時は1943年、舞台はロンドン近郊の田舎町テムズ・ロックドン。ミス・ローチはロンドン空襲で焼け出されて疎開し、この町の下宿屋に移住した。だがこの下宿屋の住人は冴えない老人ばかり。退屈な日常が続いていたが、ミス・ローチと同年代のドイツ人女性ヴィッキーや中年の米国軍人パイク中尉らが闖入するにおよんで、事態は思いもよらぬ方向に曲がり始め……。
背景 『二つの脳を持つ男』に続く二冊めの翻訳。「20世紀イギリス小説個性派セレクション」の一冊として出版されたが、ルース・レンデルばりの心理スリラーとして楽しめる。その上レンデル得意の人間性が壊れていく話ではない点も、かえって新鮮な意外性を感じる。

邦題 『午前零時のフーガ』
原作者 レジナルド・ヒル
原題 Midnight Fugue(2009)
訳者 松下祥子
出版社 早川書房
出版年 2011/1/15
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みの中部ヨークシャー警察の警視アンディ・ダルジール。常連のピーター・パスコー主任警部やエドガー・ウィールド部長刑事なども脇役として活躍する。
事件 ダルジールが職場復帰して一週間後、古い知り合いの警視長パーディーから私的な依頼を受けた。パーディーは元部下の妻と再婚したいのだが、7年前に失踪した元部下がヨークシャーで生活している証拠が見つかったので、その安否を調べて欲しいという奇妙なものだった。
背景 <ダルジール&パスコー>シリーズの第22作。ほぼ24時間以内に事件が解決してしまうため、御都合主義的な展開があるのは否めないが、ヒルの欠点である冗長性は少なくサスペンスは豊か。偶然が多いわりにはプロットは破綻しておらず、読後の印象もさわやかだ。

邦題 『探偵稼業は運しだい』
原作者 レジナルド・ヒル
原題 The Roar of the Butterflies(2008)
訳者 羽田詩津子
出版社 PHP研究所
出版年 2011/7/29
面白度 ★★★
主人公 ジョー・シックススミス。ルートン市に住む中年黒人の私立探偵。ガールフレンドは看護師のベリル・ボディントン。
事件 ルートンの名門ゴルフ・クラブの跡継ぎクリスチャン・ポーフィリがジョーの事務所を訪ねてきた。ゴルフ場で不正を働いたというあらぬ疑いを晴らしてほしいと。この純真な青年を貶める理由はなにかとジョーが捜査を始めると、ジョーは危機一髪の事件に巻き込まれ……。
背景 本シリーズは原書では5冊でているが、翻訳は本書で3冊め(シリーズ5作めの最新作)。久し振りの翻訳出版だが、作風はこれまで同様、プロットよりユーモラスな語り口とジョーの人間的魅力で読ませるミステリー。犯人設定が安易過ぎるのが少し残念。

邦題 『巨人たちの落日』上中下
原作者 ケン・フォレット
原題 The Century Triology #1 Fall of Giants(2010)
訳者 戸田裕之
出版社 ソフトバンククリエイティブ
出版年 2011/3/25
面白度 ★★★
主人公 大長編の群像劇なので、主人公は一人ではない。主な登場人物はウェールズの炭鉱町に住むエセルとビリーの姉弟、炭鉱所有のフィッツ伯爵と妹モード、ドイツ大使館員のワルター、アメリカ大統領補佐官ガス、そして革命前夜のロシアで生活にあえぐグリゴーリイとレフの兄弟。
事件 物語は1911年6月から1924年1月まで。主要な話は欧州で起こった第一次世界大戦の中で、5組の主人公らがどのような行動をし、歴史はどのように動いたかを描いた歴史冒険小説。
背景 原書で千頁を越える(翻訳は上中下の文庫で1700頁に近い)大長編小説。読者を飽きさせず読ませる筆力にはさすがに感心してしまう。主要登場人物は誰も亡くなっていないので、三部作構想の第二作の主人公らも、本作と同じだろう。本作が長い助走に過ぎないとは驚きだ。

邦題 『溺れる白鳥』
原作者 ベンジャミン・ブラック
原題 The Silver Swan(2007)
訳者 松本剛史
出版社 武田ランダム・ハウス
出版年 2011/7/10
面白度 ★★
主人公 <聖家族病院>病理科医長クワーク。クワークは苗字で、名前は不明。検死官でもある。妻とは死別し、一人娘フィービ・グリフィンがいる。
事件 ダブリン湾から引き揚げられた学友クラークの妻の全裸死体の腕には不審な注射痕があった。だが「妻の遺体を解剖しないてくれ」というクラークの依頼により、クワークは嘘の証言をしてしてしまう。それを思い直したクワークは秘かに彼の妻の身辺を調べるが……。
背景 『ダブリンで死んだ娘』に続くクワーク・シリーズの第2弾。純文系作家の書いた犯罪小説で、さすがに登場人物の造形・描写には手慣れたものを感じるが、前作を読んでいないと人物関係が少しわかりにくいのと、プロットが平板なのが残念。

邦題 『ロザムンドの死の迷宮』
原作者 アリアナ・フランクリン
原題 The Death Maze(2008)
訳者 吉澤康子
出版社 東京創元社
出版年 2011/5/31
面白度 ★★★
主人公 女性医師アデリア。シチリア王国サレルノ医科大学出身。一人娘アリーはハイハイ出来る年頃。父親はセントオールバンズの司教ロウリー・ピコウ。
事件 ヘンリー二世の愛妾ロザムンドが迷路に囲まれた塔で毒殺された。最大の容疑者は王妃のエレアノールだが、事件が解決されなければ内戦になりかねない。アデリアは国王やロウリー司教の依頼で真相を見つけるため、凍てつくオックスフォードシャーに向った。
背景 アリシア・シリーズの第2弾。残念ながら著者は2011年に77歳で亡くなったので、4冊で中断だそうだ。謎解きの魅力ではなく、自立するアリシアの言動で読ませる作品。凍てついたテームズ川などの風景描写も迫力があり、歴史冒険小説と呼ぶべきか。

邦題 『矜持』
原作者 ディック・フランシス&フェリックス・フランシス
原題 Crossfire(2010)
訳者 北野寿美枝
出版社 早川書房
出版年 2011/1/15
面白度 ★★★
主人公 英国陸軍近衛歩兵グレナディア連隊大尉トマス(トム)・フォーサイス。アフガニスタンでの勤務中に右足を吹き飛ばされた。下腿義足を装着。32歳の独身。
事件 負傷のため6ヶ月の帰宅休暇を命じられたトマスは、ニューベリーの母の実家へ戻った。母は厩舎を経営しているが、最近厩舎の馬が不審な負け方をしていた。さらに家計が逼迫し、あろうことか、母は脅迫者に金を支払っていたことを知る。脅迫者は誰なのか?
背景 競馬シリーズの43冊目。ディック・フランシスと息子との共作は4作めになるが、2010年2月に父が亡くなったので、本作は最後の共作。相変わらず主人公の人物造形は巧みだが、犯人側の悪人度(?)は高くないため、物語はイマイチ盛り上りを欠いている。

邦題 『ワンダーランドの悪意』
原作者 ニコラス・ブレイク
原題 Malice in Wonderland(1940)
訳者 白須清美
出版社 論創社
出版年 2011/11/25
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの探偵ナイジェル・ストレンジウェイズ。彼のおじはロンドン警視庁警視監のサー・ジョン・ストレンジウェイズ。
事件 英国の保養地にある休暇用キャンプ<ワンダーランド>で、悪意のあるいたずらが次々に起きた。テニスボールに糖蜜がかけられ、ベッドに動物の死骸が置かれたりと。犯人は『不思議の国のアリス』の登場人物であるマッド・ハッタ―と名乗ったが、その動機は?
背景 著者の第6作。明らかに『不思議の……』の設定を借用しているが、笑いを誘う部分は少なく、ファルス・ミステリーというより伝統的な探偵小説と呼ぶのがふさわしいか。警察案件ではないため明確な証拠がない事件だが、いたずら犯を指摘する探偵の推理は冴えている。

邦題 『生還』
原作者 ニッキ・フレンチ
原題 Land of the Living(2003)
訳者 務台夏子
出版社 角川書店
出版年 2011/4/25
面白度 ★★★
主人公 デザイン会社に勤める25歳の女性アビー・デヴェロー。
事件 アビーは何者かに拉致・監禁された。どのようにして囚われたかの記憶は一切なかったが、手足を縛っていた縄を解き、脱出に成功する。だが記憶はある程度戻ったものの、肝心な記憶は取り戻せず、悪夢は終わっていなかった。どうにか拉致の数日前に、アビーは同棲していた男と喧嘩し、女性友達の家を何軒も掛け持ちして隠れて生活していたことが判明したが……。
背景 著者の久し振りの訳書(五冊め)。これまでの作品と同じサスペンス小説だが、サスペンス度は一段と上がっている。この筆力には脱帽だが、重要な謎は完全には解かれていない。難度の高い演技を披露しつつも着地に躓いた体操選手のようだ。

邦題 『紳士と月夜の晒し台』
原作者 ジョージェット・ヘイヤー
原題 Death in the Stocks(1935)
訳者 猪俣美江子
出版社 東京創元社
出版年 2011/5/31
面白度 ★★★
主人公 謎解き捜査に公式に関わるのはスコットランド・ヤードのハナサイド警視だが、非公式に関与するのは弁護士のジャイルズ・キャリントン。
事件 ロンドン近郊の小さな村の広場においてある晒し台に両足を突っ込んだ紳士の刺殺死体が見つかった。遺産相続を巡る動機を持つ容疑者は、被害者の腹違いの弟妹を始めとして多数。そのうえ死亡したと思われていた被害者の実の弟が帰国したからさあ大変!
背景 「ヒストリカル・ロマンスの始祖」として有名な著者の本邦初の翻訳ミステリー(1930〜50年代にかけて長編を12冊上梓している)。特徴を一言でいえば、容疑者たちのエキセントリックな会話・態度が抜群に面白いものの、本格ミステリーとしては小味過ぎることか。

邦題 『幽』百年文庫84
原作者  
原題 日本独自の編集(2011)
訳者 編集部選
出版社 ポプラ社
出版年 2011/7/11
面白度 ★★★
主人公 古典的な怪奇小説(うち2本は幽霊物語)を集めたアンソロジー。
事件 オスカー・ワイルドの「カンタヴィルの幽霊」(小野協一訳)(アメリカ公使はカンタヴィル屋敷を幽霊が住んでいるのを知って購入するが、家族は幽霊が出現しても一向に驚かないので……、というユーモラスな物語)、サキの「ガブリエル・アーネスト」(浅尾敦則訳)(典型的な人狼物語で、怖い)、ヒュー・ウォルポールの「ラント夫人」(平井呈一訳)(ラシンマンという作家に招待された主人公が屋敷に一泊すると……)の3本。
背景 日本独自の編集。百年文庫というシリーズの一冊。収録作品は怪奇小説の中で定評のあるものばかり。活字も大きく入門書として編集されたものだろう。

邦題 『アサシン クリード 預言』
原作者 オリヴァー・ボーデン
原題 Assassin's Creed Renaissance(2011)
訳者 阿部清美
出版社 ヴィレッジブックス
出版年 2011/12/20
面白度 ★★
主人公 フィレンツェの名門アウディトーレ家に生まれた青年エツィオ・アウディトーレ。少ししか出番はないが、若き日のレオナルド・ダ・ヴィンチが助役として活躍する。
事件 ルネッサンスが花開いた15世紀のフィレンツェが主舞台。だがアウディトーレ家に突然の悲劇が襲い、エツィオは家族・恋人・地位を奪われた。彼は復讐を誓うが、彼の一族は”アサシン”(暗殺者)であることを知り、陰謀の背後にテンプル騎士団の存在が浮かび上がったのだ。
背景 UBIソフトで開発されたゲーム・ソフト「アサシン クリードU」の小説化。映画の小説化は当り前となっているが、ゲームの小説化を読んだのは初体験。文庫本で六百頁近い長編で、次から次へと山場はあるが、戦闘場面が多いのはやはりゲームだからか。

邦題 『夏の夜のわるい夢』
原作者 ジェイニー・ボライソー
原題 Kill in Cornwall(2002)
訳者 安野玲
出版社 東京創元社
出版年 2011/12/6
面白度 ★★
主人公 コーンウォールに住む画家のローズ・トレヴェリアン。夫を亡くし独身。
事件 コーンウォールで若い女性のレイプ事件が起きた。被害者は、ローズが開いている絵画教室の生徒(母親)の親友の娘だった。誰もが打ちあけ話をしたがるという性格を持つローズは、さっそくさまざまな情報を得て、恋人のジャック・ピアース警部とともに事件にかかわり始めた。だが第二、第三のレイプ事件が発生し……。
背景 ローズ・シリーズの第6作。次作がシリーズ最終作。一言でいってしまえば、風俗ミステリー(特に英国南西部のコーンウォール地方)好きには楽しめるが、警察小説や素人探偵小説を期待した読者はがっかりするだろう。伏線が単純で犯人がすぐに推察できてしまうので。

邦題 『霧に包まれた恋人』
原作者 ヴィクトリア・ホルト
原題 On the Night of the Seventh Moon(1972)
訳者 松本都
出版社 幻冬舎
出版年 2011/5/25
面白度 ★★
主人公 書店主の娘であったヘレナ・トラント。十代後半にドイツに留学する。
事件 18歳のヘレナは森に迷い込み、白馬に乗った美しい男性に助けられた。以来その男性が忘れられなかったが、「第七月の夜」という祭りに出かけたヘレナは、思いがけずその男性と再会。彼は自分が伯爵マクシミリアンと名乗り、彼もヘレナを思い続けていたと語って、すぐにプロポーズから結婚。ところがこれは全て夢だったのか? ヘレナが目を覚ますと……。
背景 久し振りの著者の翻訳。原書は傑作『流砂』の二年後に発表された。今回はラベンダー・ブックというロマンス小説枠で出版されたが、ゴシック・ロマンスとして読んだ方が楽しめよう。夢のような謎は単純とはいえ、終盤までサスペンスは衰えない。

邦題 『三つの秘文字』上下
原作者 S・J・ボルトン
原題 Sacrifice(2008)
訳者 法村里絵
出版社 東京創元社
出版年 2011/9/23
面白度 ★★★★
主人公 シェトランド諸島に移住した産科医のトーラ・ガスリー(旧姓ハミルトン)。33歳。乗馬が趣味。夫は船舶仲買人で、子供はいない。
事件 トーラは愛馬の死体を自宅の裏庭に埋めようとした際、女性の死体を掘り当ててしまった。心臓がえぐられ、背中には三つのルーン文字が刻まれていた。調査の結果、なんと遺体から推定される死亡年月より、一年前に死んでいた女性の遺体だったのだ!
背景 女性が主人公の冒険小説というより、21世紀版のゴシック・ロマンスと評した方がよい女性新人作家の作品。プロットが安易と思える部分はあるものの、知的な主人公の造形やサスペンス豊かな語り口などは新人離れした出来映えで、今後も期待できそうだ。

邦題 『マウントドレイゴ卿/パーティの前に』
原作者 サマセット・モーム
原題 日本独自の編集(2011)
訳者 木村政則
出版社 光文社
出版年 2011/4/20
面白度 ★★★★
主人公 訳者が「広義の推理小説(ミステリ)に分類可能なものばかり」という短編6本を集めた日本独自の傑作短編集。
事件 6本の短編は、「ジェイン」(野暮な女性が結婚したことで……、ユーモラスな作品)「マウントドレイゴ卿」(家柄と知性、すべてに恵まれた外務大臣の見る夢は……)「パーティの前に」(南方駐在員の夫を亡くした長女の話は……、もっともミステリーらしい作品)「幸せな二人」「雨」(モームの中でもよく知られた短編)「掘り出しもの」(ユーモラスな佳品)。
背景 『アシェンデン』を除くすべての短編から選ばれた傑作集。6本はいずれも既訳があるが、さすがはモーム。起承転結のあるストーリーの面白さは今読んでもまったく色褪せていない。

邦題 『すべては雪に消える』
原作者 A・D・ミラー
原題 Snowdrops(2011)
訳者 北野寿美枝
出版社 早川書房
出版年 2011/7/25
面白度 ★★★
主人公 英国の弁護士ニコラス(ニック)・プラット。赴任先のモスクワにおいて、原油ターミナル建設の融資に関する仕事で、銀行側の代理人として係っている。
事件 モスクワの地下鉄駅で、ニックはハンドバックを奪われそうになった魅力的な女性マーシャを助けた。二人はやがて深い関係になり、ニックは彼女のオバといわれた女性のアパートを新築のものと交換する仕事を手伝うことになるが……。
背景 モスクワを舞台にしたサスペンス小説。ユニークな点は、登場する犯罪者集団がマフィアのような暴力団ではないことと、不動産詐欺という当時のロシアに特有な犯罪にあること。ただしその面白さが、サスペンスを豊かにすることに成功していないのがこの作品の限界でもある。

邦題 『暗黒の特殊作戦』
原作者 マット・リン
原題 Fire Force(2010)
訳者 熊谷千寿
出版社 ソフトバンククリエイティブ
出版年 2011/2/25
面白度 ★★
主人公 元SAS隊員で、現ダドリー・イマージェンシー・フォーシズ社の契約社員スティーヴ・ウェスト。実際の主人公は、スティーヴが中心となる傭兵チーム。
事件 アフリカで最も残忍な政治家、バトタ大統領を暗殺して欲しい。富裕な実業家からスティーヴに依頼された仕事である。まず大統領の反対勢力のリーダーを生け捕りにし、その処刑に現れる大統領を暗殺するという計画を立て、順調に進んでいると思ったが……。
背景 シリーズ第二弾。前作はアフガニスタンが舞台だったが、今回は南アフリカの隣国で架空の国バトタが舞台。傭兵チームが要人を暗殺・拉致したり、味方を救出したりする展開はどちらも同じ。銃器マニアが楽しめる戦闘場面は多いが、ミステリー的面白味には欠ける。

邦題 『ミッション・ソング』
原作者 ジョン・ル・カレ
原題 The Mission Song(2006)
訳者 加賀山卓朗
出版社 光文社
出版年 2011/12/20
面白度 ★★★
主人公 スワヒリ語やアフリカ諸言語に精通している通訳者のブルーノ・サルヴァドール(通称サルヴォ)。アイルランド系宣教師とコンゴ人女性を両親に持つ。イギリス国籍。妻ペネイロは大手タブロイド紙記者。結婚5年だが、隙間風が吹いている。
事件 ある日、英国政府情報部の依頼で秘密会議の通訳を依頼された。表面上はコンゴ民主共和国の平和を目指す各勢力の代表者会議だったのだが……。
背景 アフリカを背景にした国際陰謀小説。だが陰謀そのものの面白さで読ませるミステリーではない。登場人物の素晴らしい造形・描写に堪能すべき小説ということだろう。筆力は衰えておらず、中盤はディスカッション小説にもなっているが、さすがにその辺りは読むのが辛い。

戻る