邦題 『べヴァリー・クラブ』
原作者 ピーター・アントニイ
原題 How Doth the Little Crocodile?(1952)
訳者 横山啓明
出版社 原書房
出版年 2010/2/18
面白度 ★★★
主人公 素人探偵ヴェリティ。ベヴァリー・クラブの会員から殺人事件を解決したら三百ポンド支払うといわれ、<ひざまずくゴルゴン>のブロンズ像が買えると思い引き受ける。
事件 リヴィングストン卿殺人事件の犯人とされた会員のホープは、鉄壁のアリバイがあり裁判では無罪を勝ち取った。だがホープはその後「犯人はわかった」と書き残し、直後に事故死したのだ。ヴェリティは関係者のアリバイや動機を調べると、全員が容疑者であることがわかり……。
背景 劇作家で有名な双子の兄弟アントニイとピーター・シェーファーが合作したミステリー第二弾。『衣装戸棚の女』と同様の謎解き小説。フーダニットとしての意外性は十分だが、警察がきちんと調べればすぐに解決できる謎(事件)でもあるようだ。

邦題 『エアーズ家の没落』上下
原作者 サラ・ウォーターズ
原題 The Little Stranger(2009)
訳者 中村有希
出版社 東京創元社
出版年 2010/9/24
面白度 ★★★★
主人公 本編の語り手である医師ファラデー。40代前半で独身。
事件 時代は第二次世界大戦が終了して間もない頃。場所は英国中部ウォリックシャーにあるハンドレッズ領主館。ファラデーは子どもの頃からその館に憧憬を抱いていたが、ある日メイドの病気の往診を契機に、エアーズ一家と親しくなった。一家は母と令嬢キャロライン、その弟ロデリックの三人であったが、やがて館に奇怪な現象が起こり始め……。
背景 著者の邦訳4作め。前作『夜愁』でミステリーを離れたと思ったが、本作はゴシック・ロマンス的な舞台で演じられるサスペンス小説。『グロテスク』のパトリック・マグラワを思い出させる。小説作りが巧妙で実力を認めるのは吝かではないが、個人的には好きになれない作家。

邦題 『裏切りの峡谷』
原作者 メグ・ガーディナー
原題 Misson Canyon(2003)
訳者 杉田七重
出版社 集英社
出版年 2010/5/25
面白度 ★★★
主人公 サンタバーバラに住むエヴァン(エヴ)・ディレイニー。三十代の女性。弁護士資格をもつSF作家。恋人のジェシー・ブラックバーンは車いす使用の弁護士。
事件 ジェシーは三年前に自動車にひき逃げされ、胸髄損傷(T-10)となった。そして自動車を運転していたと思われる男は海外に逃亡した。だがその男がサンタバーバラに戻ってきたという。エヴとジェシーは、その男を警察に突き出そうとするが、新たな殺人が起こり……。
背景 『チャイナ・レイク』でデビューした著者の第二弾。良くも悪くも主人公エヴの言動で読ませるスリラー。いかにもヤンキー娘といった明るく無鉄砲なエヴはそれなりに魅力があるものの、これは明らかに英国ミステリーの面白さとは違うようだ。

邦題 『暗闇の岬』
原作者 メグ・ガーディナー
原題 Jericho Point(2004)
訳者 杉田七重
出版社 集英社
出版年 2010/8/25
面白度 ★★
主人公 弁護士資格を持つSF作家のエヴァン(エヴ)・ディレイニー。カリフォルニアのサンタバーバラ在住。恋人は車いすの弁護士ジェシー・ブラックバーン。
事件 女子大生の絞殺死体が浜辺で見つかり、手にはエヴのクレジット・カードがあった。誰かがエヴのカードを偽造して使用していたらしい。謎の人物が使った金を暴力団から請求される始末。だが被害者は恋人ジェシーの弟の元彼女とわかり、その弟に疑惑がかかるが……。
背景 エヴ・シリーズの第三弾。相変わらず、頭を使うより肉体を使って事件を解決するというヤンキー娘が活躍するミステリー。著者が英国在住なので英国ミステリーに入れているが、登場人物の性格や舞台背景からして典型的な米国ミステリーだ。

邦題 『心理検死官ジョー・ベケット』
原作者 メグ・ガーディナー
原題 The Dirty Secrets Club(2008)
訳者 山田久美子
出版社 集英社
出版年 2010/11/25
面白度 ★★★
主人公 精神科医のジョー(ジョアナ)・ベケット。専門は死者を心理分析して死因を解明すること。かつて夫を事故で亡くし、それがトラウマになっている。閉所恐怖症。
事件 その彼女に早急に交通事故現場を見てほしいという依頼があった。やり手の連邦検事補が運転中に事故死したからだった。本当に事故なのか、自殺、他殺ではないのか。遺体には口紅で書かれた「dirty」の文字。調べるうちに、秘密のクラブが浮き上がってきた。
背景 著者はディレイニー・シリーズを書いているが、本書は新シリーズの第一作。典型的なヤンキー娘といったディレイニーに比べると、ジョーは大人の雰囲気があって素人探偵としては好ましい。とはいえサスペンス小説なので、頭脳より肉体を駆使して事件を解決してしまうが。

邦題 『ノンストップ!』
原作者 サイモン・カーニック
原題 Relentless(2006)
訳者 松村潔
出版社 文藝春秋
出版年 2010/6/10
面白度 ★★★★
主人公 IT企業の営業マンのトム・メロン。30代後半。妻は大学の講師をしている。二人の子持ちで、ロンドン郊外の一戸建てに住んでいる。
事件 学生時代の親友から突然電話がかかってきた。その電話の最中に親友が殺されたのだ。次は自分だと直感したトムは、子どもを実家に預けて逃げるが、謎の集団が執拗に追ってくる。妻と連絡を取るため大学にいくと、そこには血痕があり、トムは殺人の容疑者に!
背景 新潮文庫から出た『殺す警官』と『覗く銃口』に続く著者の邦訳第三弾。いわゆる巻き込まれ型のサスペンス小説だが、著者得意の悪徳警官物は背景に隠れている。この種の小説の宿命でご都合主義も目に付くが、文字通り”ノンストップ”で読ませる面白さ、迫力がある。

邦題 『アガサ・クリスティーの秘密ノート』上下
原作者 アガサ・クリスティー、ジョン・カラン
原題 Agatha Christie's Secret Notebooks(2009)
訳者 羽田詩津子、山本やよい
出版社 早川書房
出版年 2010/4/15
面白度 ★★
主人公 クリスティの手書きの創作ノート70冊以上を調べて、現在の作品がどのような発想から書かれたかを考察したもの。付録として未発表の短編2本が収録されている。
事件 未収録短編は「ケルベロスの捕獲」(同題の短編は『ヘラクレスの冒険』に含まれているが、内容はまったく異なる)と「犬のボール」(『もの言えぬ証人』の原型となった短編)。
背景 後者の短編の存在は、公式伝記を書いたモーガンらには知られていたが、前者は著者がクリスティの資料を整理していて偶然発見した。ノートの内容は、クリスティの一人娘ロザリンドが解読しようとしたが、あまりに難解な字が多すぎて断念したもの。ほとんどの文章がメモの羅列だけに、学者・研究者向けの内容だが、熱心なファンなら楽しめるかもしれない。

邦題 『空白の一章』
原作者 キャロライン・グレアム
原題 Written in Blood(1994)
訳者 宮脇裕子
出版社 論創社
出版年 2010/9/25
面白度 ★★★
主人公 ミッドサマー州(架空の州)コーストン警察犯罪捜査部の主任警部トム・バーナビーと同署の部長刑事ギャヴィン・トロイのコンビ。
事件 村人の素人作家集団<ライターズ・サークル>は、今年の招待講演者に小説家ジェニングスを選んだ。細かいトラブルはあったものの、会合は無事終了。ジェニングスが最後に事務局長ハドリーの家を出たが、その数時間後ハドリーは殺され、ジェニングスも行方不明に――。
背景 バーナビー・シリーズの第4作だが、翻訳は『蘭の告発』と『うつろな男の死』に続く第三弾。このシリーズの面白さは、ミス・マープルの住むような静かな村に現代的な登場人物が生活しているという不釣合いな関係を盛り込んだプロットにあるが、今回もその特徴は健在だ。

邦題 『フレンチ警部と毒蛇の謎』
原作者 F・W・クロフツ
原題 Antidote to Venom(1938)
訳者 霜島義明
出版社 東京創元社
出版年 2010/3/26
面白度 ★★★
主人公 スコットランドヤードの首席警部ジョーゼフ・フレンチ。お馴染みのシリーズ探偵。
事件 動物園の園長サリッジは、借金に苦しんでいたのに愛人を作ってしまった。頼みは老い先短い伯母の財産。その伯母がやっと他界し遺産が自分のものになったと思ったところ、故伯母の弁護士がその遺産に手を出していたのである。破滅を避けようとサリッジは弁護士のさらなる奸計に引き込まれ、ついにフレンチの疑惑を招くことになった。
背景 クロフツの長編は33冊あるが、唯一の未訳作品であった。円熟期を少し過ぎた22作目の作品だが、出来映えはそれほど悪くはない。倒叙ミステリーだが、共犯者の視点から事件が語られているのが珍しい。結果としてハウダニットの謎解きにもなっている。

邦題 『蔵書まるごと消失事件』
原作者 イアン・サンソム
原題 The Case of the Missing Books(2005)
訳者 玉木亨
出版社 東京創元社
出版年 2010/2/26
面白度 ★★★★
主人公 図書館司書志望の青年イスラエル・アームストロング。図書館こそ、自分の居場所と考えている。16歳で仏と露の大作家の作品をほとんど読破した本大好き人間。
事件 イスラエルが就職先に選んだのは、北アイルランドの田舎町タムドラムの図書館。ところが彼が現地に到着すると図書館分館は閉館になっていて、彼は移動図書館の担当を命じられた。だが肝心の図書館の本1万5千冊がない! 彼は本の在り処を探すことに……。
背景 本こそ命のような青年を主人公にしたシリーズ物の第一作。この主人公の設定が上手い。また主人公と係わる、片田舎で生活している人々が変人・奇人ぞろいなのも興味津々。ディヴィッド・ロッジ作品の通俗版のような面白さを持つユーモア・ミステリー。

邦題 『アマチュア手品師失踪事件』
原作者 イアン・サンソム
原題 Mr Dixon Disappears(2006)
訳者 玉木亨
出版社 東京創元社
出版年 2010/7/30
面白度 ★★
主人公 北アイルランドのタムドラムで移動図書館の司書をしているイスラエル・アームストロング。シリーズ・キャラクターで、29歳の独身。
事件 地元百貨店が創業百周年を迎えることになった。イスラエルは記念行事の手伝いに百貨店に来ていたが、突然百貨店の経営者が消え、金庫からは大金が盗まれた。ちょうどその現場を目撃していたイスラエルは、警察から容疑者として捕まってしまったのだ!
背景 シリーズ第2弾。本を巡るユーモラスな会話・挿話は前作同様面白いし、イスラエルの性格も好感が持てて、楽しい読物になっている。ただしミステリー的趣向はゼロに近く、失踪事件が物語を引っ張ってはいない。まあ、不条理劇ミステリーのような雰囲気はあるが。

邦題 『秘密』
原作者 P・D・ジェイムズ
原題 The Private Patient(2008)
訳者 青木久恵
出版社 早川書房
出版年 2010/2/15
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのロンドン警視庁のアダム・ダルグリッシュ警視庁。本編の冒頭では婚約者エマ・ラヴェンナムの父親を訪れている。
事件 ジャーナリストのローダは、母の再婚がきっかけで、子ども時代に受けた顔の傷痕を消す手術を受けることにした。場所は高名な形成外科医の所有するドーセットにある荘園。手術は無事終了したが、その翌朝ローダは扼殺死体となって発見されたのだ!
背景 ダルグリッシュ・シリーズの14冊め(チョイ役の『女には向かない職業』は除く)。前作『灯台』と似たような物語設定・展開となっている。すべての登場人物を丁寧に描写して物語に読者を引き込むテクニックは衰えていない。本作を88歳で書いたとは心底驚いた。

邦題 『海賊と刺繍女』
原作者 ジェイン・ジョンソン
原題 The Tenth Gift(2008)
訳者 最所篤子
出版社 集英社
出版年 2010/6/30
面白度 ★★
主人公 現在と中世の物語が併行して語られる。前者の主人公は、ロンドンで手芸品店を営むジュリア・ロヴァト。三十代の独身女性。後者の主人公は、ペンザンスに住む侍女で、『お針子の喜び』という本の持ち主キャサリン(キャット)・アン・トレゲンナ。十代の美少女。
事件 1625年、キャットはババリアの海賊に捕まり、詳細を『お針子の喜び』の中に残した。一方不倫に破れたジュリアは、偶然その本に書かれているキャットの手記に興味を持ち……。
背景 普通の展開ならば、中世に書かれた本を巡ってジュリアが謎の陰謀に巻き込まれて逃げ惑うことになるはずが、この物語は、そうはならない。著者の興味が、女性の恋愛・自立にあり、”芸は身を助ける”にあるからだろう。海賊の話は面白いがミステリー度はかなり低い。

邦題 『傭兵チーム、極寒の地へ』上下
原作者 ジェイムズ・スティール
原題 December(2009)
訳者 公手 成幸
出版社 早川書房
出版年 2010/5/25
面白度
主人公 元イギリス陸軍近衛騎兵第二連隊少佐であったアレックス・デヴァルー。今では傭兵チームの指揮官となっているが、政府から内密の接触を受ける。
事件 その依頼仕事とは、シベリアの強制労働収容所に送られた野党党首ラスコーリニコフを救出し、モスクワでクーデターを起こそうというもの。時はロシアが独裁政治を敷いている201X年の近未来。収容所からの救出には成功したものの、行く手には圧倒的な政府軍が!
背景 邦訳題名には偽りあり、の軍事シミュレーション小説。救出劇はメインではなく、冒険小説的な題名は似合わない。戦闘シーンはそれなりの迫力はあるものの、英国政府の密かな援助で、ロシアの武力革命を成功させようとするプロットに現実性がまったく感じられない。

邦題 『友だち、恋人、チョコレート』
原作者 アレグザンダー・マコール・スミス
原題 Friends, Lovers, Chocolate(2005)
訳者 柳沢由実子
出版社 東京創元社
出版年 2010/1/22
面白度 ★★
主人公 古都エディンバラに住む<応用倫理学レビュー>誌の女性編集長イザベル・ダウハウジー。40代前半か。母親の遺産のおかげで裕福な生活をしている。
事件 イザベルが姪の営むデリカ・テッセンを手伝っていると、心臓移植をした男性から声をかけられ、悩み事を聞くことになった。その悩みとは移殖以来、奇妙なイメージが見えるというもの。細胞記憶や記憶転移といったことはありうるのか?
背景 イザベル・シリーズの第二弾。この作者の作品はミステリーとしての謎は弱く、登場人物の人間関係や性格描写の面白さで読ませるのだが、本作など、事件らしい事件は起きない。友人以上恋人未満の年下男性との関係は、二作めでも進展はなく少々鼻についてきた。

邦題 『ミダスの汚れた手』
原作者 アン・ズルーディ
原題 The Taint of Midas(2008)
訳者 ハーディング祥子
出版社 小学館
出版年 2010/5/12
面白度 ★★★
主人公 アテネから派遣されて来た謎の調査員ヘルメス・ディアクトロス。太り気味の中年男で、白いテニス・シューズを履いていることが多い。
事件 ギリシャ海岸沿いの街アルカディアで、人里離れて一人で暮していたガブリリス老人が轢き逃げ事故で亡くなった。故郷へ戻ってきた友人のヘルメスは、さっそく調査に乗り出す。どうやら老人の土地をヴィラ建設地にしようとした計画が裏で行われていたらしい。
背景 ヘルメス・シリーズ第二弾。第一作『アテネからの使者』より語り口が滑らかになり、ギリシャ人の風俗、人情が巧に活写されている。お話は人情物語に近く、結末はホロリとさせられる。謎はあっけなく解決するが、田舎警察の捜査だから、しかたないか。

邦題 『テッサリアの医師』
原作者 アン・ズルーディ
原題 The doctor of Thessaly(2009)
訳者 ハーディング祥子
出版社 小学館
出版年 2010/12
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『修道女フィデルマの洞察』
原作者 ピーター・トレメイン
原題 Hemlock at Vespers and Other Stories(2000)
訳者 甲斐萬里江
出版社 東京創元社
出版年 2010/6/25
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの修道女フィデルマ。7世紀のアイルランドで活躍する。国王の妹で、古代アイルランドの法典<ブレホン法>を修めた法廷弁護士でもある。
事件 5本の短編が収録されている。「毒殺への誘い」(最後の捻りが秀逸)「まどろみの中の殺人」(フィデルマ初登場の短編作品ということで貴重)「名馬の死」(馬と騎手を殺したのは?)「奇蹟ゆえの死」(これも初期の作品)「晩祷の毒人参」(法の正義か人の正義か?)
背景 第一短編集より選ばれた短編から構成された日本独自の短編集。ミステリー的には「毒殺への誘い」以外は平凡だが、フィデルマの魅力は初短編から上手く描かれている。もともとは古代アイルランドの法律を紹介するつもりだったという著者の意図も意外性がある。

邦題 『ジェネシス・シークレット』
原作者 トム・ノックス
原題 The Genesis Secret(2009)
訳者 山本雅子
出版社 武田ランダムハウス
出版年 2010/10/10 
面白度 ★★
主人公 《タイムズ》紙の中近東担当の記者ロブ・ラトレル。一人娘リジーがいるが、妻とは離婚。事件を通じて骨考古学者クリスティーヌ・メアリーが恋人となる。
事件 トルコ東部の遺跡ギョベクリ・テベで一万二千年前と推定される世界最古の建造物が発見された。しかも約八千年前に人の手で埋められていた。何故、誰がそのような隠蔽したのか? ロブは取材で現地を訪れると、遺跡発掘を指揮していた考古学者が殺された!
背景 本邦初登場作家の第一作。トンデモ本的な突拍子もない謎を巡るサスペンス小説だが、サスペンスを盛り上げるためにカルト集団の誘拐事件が絡まる。原題は「創世記の秘密」という意味で、聖書というかキリスト教に興味があるならば、それなりに楽しめるかもしれない。

邦題 『ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利 』
原作者 ロバート・バー
原題 The Triumphs of Eugène Valmont(1906)
訳者 平山雄一
出版社 国書刊行会
出版年 2010/10/20
面白度 ★★★
主人公 フランスの元刑事局長で、現在はロンドンで私立探偵をしているウジェーヌ・ヴァルモン。フランスがなにごとも世界一と思っている典型的なフランス人。
事件 「ダイヤモンドのネックレスの謎」「シャム双生児の爆弾魔」「銀のスプーンの手がかり」「チゼルリッグ卿の失われた遺産」(既訳あり)「うっかり屋協同組合」(日本で最も知られている短編)「幽霊の足音」「ワイオミング・エドの釈放」「レディ・アリシアのエメラルド」の8本。
背景 ”クイーンの定員”に選ばれた短編集の完訳。江戸川乱歩が「奇妙な味」と評して有名な「うっかり屋協同組合」は、新訳で読んでみるとそれほど奇妙な味はしない。本書の狙いが「英仏両国の警察機構における国家的差異の風刺だった」からか。

邦題 『パニック・パーティ』
原作者 アントニイ・バークリー
原題 Panic Party(1934)
訳者 武藤崇恵
出版社 原書房
出版年 2010/10/22
面白度 ★★
主人公 お馴染みの小説家ロジャー・シェリンガム。
事件 ロジャーは、元指導教授でクルーザーの持ち主ガイから旅行に招待された。客はガイのいとこ夫妻を含む15人。だが大西洋に出るとクルーザーは故障し、乗客や使用人は無人島に取り残された。そのような状況下でガイは爆弾宣言をしたのだ。「この中に殺人者がいる」と。そしてなんとガイは翌朝浜辺で死体で見つかった。事故死か他殺か?
背景 シェリンガムの登場する作品は10冊あるが、本書は最後となる10冊めの作品。孤島での事件という、いかにも本格謎解きミステリーらしい設定だが、きちんとした捜査は行われず、サスペンス小説風の展開。このミスマッチが大減点で、エピローグの皮肉も生きなかった。

邦題 『ブラックランズ』
原作者 ベリンダ・バウアー
原題 Blacklands(2010)
訳者 杉本葉子
出版社 小学館
出版年 2010/10/11
面白度 ★★★★
主人公 英国南西部エクスムーアに隣接したシップコット村に住む12歳の少年スティーヴ・ラム。5歳の弟と祖母、シングルマザーの母レティの4人家族で生活している。
事件 祖母は19年前に起きた連続児童殺害事件でレティの弟(つまり自分の息子)を失った。死体は見つからず、この事件で祖母は深い精神的トラウマを負い、一家は崩壊状態となった。スティーヴは刑務所にいる犯人と秘かに文通し、死体の在り処を探リ始めたのだ。
背景 2010年のCWAゴールドダガー賞受賞作。新人の第一作で、しかも受賞決定以前に翻訳されたのは、編集担当者の熱意の表れか。児童文学的な雰囲気はあるものの、そこに小児性愛者を絡ませ、小品ながら大人も楽しめる独創的な犯罪小説に仕上がっている。

邦題 『カマフォード村の哀惜』
原作者 エリス・ピーターズ
原題 Fallen into the Pit(1951)
訳者 土屋元子
出版社 長崎出版
出版年 2010/6/15
面白度 ★★★
主人公 13歳のドミニク(ドム)・フェルス。事件の捜査担当者はドミニクの父で、巡査部長のジョージ・フェルス。脇役として母のバンディーや友人キャサリン・ハートも活躍。
事件 カマフォード村には炭鉱が隣接しており、立坑の残骸もそのまま残っていた。戦後、元ドイツ兵捕虜も、元帰還兵士もそのような村で働いていたが、ある日元ドイツ兵が殺されているのが見つかった。発見者はドミニク。父が捜査を始めるが、第二の殺人が……。
背景 著者が本名エリス・パージェターで発表したフェルス・シリーズの第一作。このシリーズは全13作で、一種のドミニク(あるいはフェルス家)の年代記になっているそうだ。本作はドムが13歳なので、児童文学の探偵物に近いが、戦後の田舎の風俗描写は興味深い。

邦題 『蜥蜴の牙』
原作者 デヴィッド・ヒューソン
原題 The Lizard's Bite(2006)
訳者 山本やよい
出版社 武田ランダムハウス
出版年 2010/6/10
面白度 ★★
主人公 ローマ市警の刑事ニック・コスタとその相棒ジャンニ・ペローニ、そして二人の上司である警部のレオ・ファルコーネ。ただし本作ではニックの恋人で元FBI捜査官のエミリー・ディーコンとジャンニの恋人で病理学者のテレサ・ルポも活躍する。
事件 ヴェネチア近郊の小さな島のガラス工房で火災が起き、二人の焼死体が見つかった。検死の結果、一人は他殺、一人は自然発火による事故死というのだ。左遷されて当地に来たニックらには、事件報告書を穏便に書くように要請されたが、彼らが独自の調査を始めると……。
背景 本シリーズは、これまでニックの活躍する警察官小説であったが、4冊めの本作はチームプレイに徹した警察小説。この方が書き易いのであろうが、迫力は少し衰えたようだ。

邦題 『乱気流』上下
原作者 ジャイルズ・フォーデン
原題 Turbulence(2009)
訳者 村上和久
出版社 新潮社
出版年 2010/11/1
面白度 ★★
主人公 英国気象庁の予報官ヘンリー・メドウズ。若手で独身。
事件 ノルマンディー上陸作戦に関して、連合軍の科学者に重要な指令が発せられた。上陸5日前に当日(Dデイ)の正しい天候を割り出せというもの。そのためには乱気流の予測が必要となる。メドウズは乱気流の解析に有効と思われるライマン数の創設者ライマンに接触するよう命じられた。だがライマンは平和主義者で、軍への協力を拒否していたのだ。
背景 事件の梗概からは戦争冒険小説やスパイ小説を予想しがちだが、実際の印象はかなり異なる。物語にとって重要な作戦はさほど語られず、予報官の人間的な悩みやアフリカへの思い入れなどに多くの筆を費やしているからだ。限りなくミステリーとは言いがたいが……。

邦題 『拮抗』
原作者 ディック・フランシス&フェリックス・フランシス
原題 Even Money(2009)
訳者 北野寿美枝
出版社 早川書房
出版年 2010/1/15
面白度 ★★★★
主人公 競馬専門ブック・メーカーのネッド(エドワード)・タルボット。37歳。妻ソフィは躁鬱病を罹っている。両親は彼が一歳のときに交通事故で死んだと言われていた。
事件 ロイヤル・アスコットの初日、ネッドの前に、父親を名乗るピーターという男が現れた。俄かに信用できなかったが、男は36年前に豪州に渡ったという。だがその告白直後に暴漢が出現し、ピーターは刺し殺されてしまった。また彼の荷物を狙う別の男も現れ……。
背景 父子共作の競馬シリーズの三作め。例によって競馬界周辺を背景にした物語なので、安心して楽しめる。インターネット関連の謎は単純で面白さが不足しているものの、暴漢襲撃やカーチェイスの描写はサスペンス豊かで、衰えは認められない。

邦題 『オスカー・ワイルドとキャンドルライト殺人事件』
原作者 ジャイルズ・ブランドレス
原題 OSCAR WILDE and the Candlelight Murders(2007)
訳者 河内恵子
出版社 国書刊行会
出版年 2010/6/25
面白度 ★★★
主人公 『ドリアン・グレイの肖像』などで有名な作家オスカー・ワイルド。物語を語るワトスン役も実在の作家ロバート・ジュラード。
事件 1889年の8月ロンドンのとある建物の一室で、喉を掻き切られた美少年の惨殺死体が見つかった。発見者はワイルドだったが、ロバートやコナン・ドイルらと現場に戻ると死体はなく、床にも血痕は見当たらなかった。ワイルドは真相を探りだそうとするが……。
背景 ワイルドとドイルは実際には一度しか会っていなかったそうだが、本書ではワイルドの親友としてドイルが事件解決を助けることになる。世紀末の世態風俗やワイルドの言動などは、興味のない人間(私も含まれる)には退屈だったが、意外性のある犯人設定には驚いた。

邦題 『道化の館』上下
原作者 タナ・フレンチ
原題 The Likeness(2008)
訳者 安藤由紀子
出版社 集英社 
出版年 2010/12/20
面白度 ★★★★
主人公 アイルランド警察DV対策課刑事キャシー(カサンドラ)・マドックス。30代前半の独身。潜入捜査課刑事フランクの頼みで潜入捜査官となる。
事件 廃屋で見つかった若い女性の絞殺死体はキャシーに瓜二つだった。フランクは被害者が一命を取り留めたという設定で、被害者が暮していた館へキャシーを送り込んだ。その館では大学院生4人が共同生活していたが、屋敷の暗い歴史や住民との摩擦が浮かび上がり……。
背景 第一作『悪意の森』で脚光を浴びた著者の第二作。第一作で準主役を演じたキャシーが大活躍する。冒頭の偶然性には違和感を覚えたり、犯人像などには不満もあるが、それらの欠点を著者の圧倒的な筆力でカバーしている。青春小説的な幕切れが印象的である。

邦題 『ロールシャッハの鮫』
原作者 スティーヴン・ホール
原題 The Raw Shark Texts(2007)
訳者 池田真紀子
出版社 角川書店
出版年 2010/12/31
面白度 ★★★
主人公 若者エリック・サンダーソン。ギリシャの小島で恋人を亡くしたショックもあり、初めて記憶喪失になり、この2年ほどで11回も記憶喪失を経験する。
事件 記憶喪失中のエリックに、初代エリックから手紙が届き始めた。人間の思考や言葉を食うという”概念魚”から身の守り方を伝授させる内容だったが、サメの形をしたその魚が襲ってきたのだ。完全に退治するには”非空間”にいるドクター・フィドラーズに援助を請う必要がある!
背景 狭義のミステリーとはいえない作品。もちろんミステリー的要素はあり、それにSFや青春小説、漫画の要素が絡み合う。いわばゴッタ煮のヘンな小説。ミステリー的には『ジョーズ』のパロディであり、暗号解読の興味がある。2007年のサマセット・モーム賞を受賞。

邦題 『押しかけ探偵』
原作者 リース・ボウエン
原題 Death of Riley()
訳者 羽田詩津子
出版社 講談社
出版年 2010/6/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『消えた錬金術師』
原作者 スコット・マリアーニ
原題 The Alchemist's Secret(2007)
訳者 高野由美
出版社 エンジンルーム
出版年 2010/5/30
面白度 ★★
主人公 ベン(ベネディクト)・ホープ。オックスフォード大学を退学し、SASの隊員となったが、今は誘拐された子どもたちを救出する仕事に従事。37歳の独身。
事件 アイルランドの海辺にある邸宅で静かに暮らしていたベンのもとに、ある富豪から、死にかけている子どもを救う伝説の錬金術師フルカネリの手稿を探して欲しいと依頼された。彼はパリに飛び、米国人の生物学者ロベルタを訪ねる。だが次々に恐ろしい事件が勃発し……。
背景 初紹介のシリーズ物(全5作)の第一弾。冒険小説なのだが、重要な小道具として錬金術師の手稿を登場させているので、『ダ・ヴィンチ・コード』のような歴史ミステリーの雰囲気もある。翳のある屈強な主人公の設定は面白いが、しょせんはB級アクション小説か。

邦題 『モーツァルトの陰謀』
原作者 スコット・マリアーニ
原題 The Mozart Conspiracy(2008)
訳者 高野由美
出版社 河出書房新社
出版年 2010/10/30
面白度 ★★★
主人公 元英国陸軍特殊空挺部隊(SAS)の隊員ベン(ベネディクト)・ホープ。現在はアイルランドに住み誘拐児童を救出する仕事を秘かに行っている。
事件 ベンの軍隊時代の旧友オリバーが不慮の死を遂げた。事故と思われたが、死の直前に妹(世界的に有名なオペラ歌手リー・ルエリン)にDVDを送っていたことがわかった。そしてリーはそのことで何者かに狙われ始め、ベンに調査を依頼したのだった。
背景 ベン・ホープ・シリーズの第二弾。典型的なB級アクション小説だが、まさに映画を見ているような描写、物語展開でそれなりに読ませる。シナリオを小説化したと錯覚してしまうほどだが、モーツァルトの死を巡る謎は予想外に平板なのが残念なことか。

邦題 『レッドライト・ランナー抹殺任務』
原作者 クリス・ライアン
原題 Who Dares Wins(2009)
訳者 伏見威蕃
出版社 早川書房
出版年 2010/9/25
面白度 ★★★★
主人公 現役SAS隊員のサム・レッドマン。兄ジェイコブと父マックスは元SAS隊員であった。
事件 サムはアフガニスタンから帰還すると、早速新たな任務が待ち受けていた。カザフスタンの訓練キャンプにいる英国人レッドライト・ランナー(ひたすらスリルを求める若者たち)を抹殺せよ、というものであったが、詳細を聞いたサムは愕然とした。説明を受けた際の写真の中に兄がいたからだ。しかしサムはその事実を上官に申告せず、カザフに向ったが……。
背景 現役または元SAS隊員が主人公の作品ばかり書いている著者の最新作。軍事アクション小説という基本は同じだが、少し珍しいのはスパイ小説としての謎が含まれていること。この謎が読者の興味を引っ張る役割を果たしている。もちろん簡潔な文章も読みやすいが。

邦題 『死者の名を読み上げよ』
原作者 イアン・ランキン
原題 The Naming of the Dead(2006)
訳者 延原泰子
出版社 早川書房
出版年 2010/3/15
面白度 ★★★★
主人公 エジンバラ警察の警部ジョン・リーバスと同部長刑事シボーン・クラークの二人。リーバスは定年退職を一年後に控えた年齢になっている。
事件 スコットランドのエジンバラ市街は、世界の首脳が集まるG8会議直前のため騒然としていた。そこに連続殺人らしき事件が見つかった。警備に多くの警官が必要になるため上層部は極力その事件を隠蔽しようとしたが、リーバスはひたすら事件解決に取り組む。
背景 リーバス・シリーズの第17作。最大の特徴は、2005年7月上旬の英国が舞台背景となっていること。つまりスコットランドでG8が催され、シンガポールのIOC総会でロンドンが五輪決定し、ロンドンでは地下鉄テロが発生している。殺人事件と時代が巧に絡み合っている。

邦題 『最後の音楽』
原作者 イアン・ランキン
原題 Exit Music(2007)
訳者 延原泰子
出版社 早川書房
出版年 2010/11/15
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのエジンバラ警察犯罪捜査部の警部ジョン・リーバスと同部長刑事シボーン・クラークのコンビ。ジョンはあと一週間ほどで定年退職となる60歳。
事件 クリスマスが近いある夜、エジンバラ城近くの寂しい道で、ロシアから逃れてきた亡命詩人トドロフが撲殺された。ノーベル文学賞の候補とも噂される大物だけに、ジョンは事件解決を誓うが、トドロフの詩の朗読を録音していた録音技師も謎の死を遂げたことがわかった。
背景 シリーズ18作目。本書でリーバスは定年を迎えるため、一応シリーズは終了らしい。ただし”最後の事件”とはいえ、ポアロのような文字通りの最後というわけではない。フロスト物のような複雑なプロットは楽しめるものの、無理筋な展開も目に付く。

邦題 『新幹線大爆破』
原作者 ジョゼフ・ランス&加藤阿礼
原題 Bullen Train(1980)
訳者 駒月雅子
出版社 論創社
出版年 2010/7/25
面白度 ★★★
主人公 群像劇のような物語なので、主人公はいない。強いて挙げれば主犯の沖田か。
事件 乗客1500人を乗せた東京発博多行きの新幹線<ひかり109号>に爆弾が仕掛けられたという電話が入った。爆弾は時速80キロ以下になると自動的に爆発するという。犯人からの要求は身代金500万ドル。はたして博多到着までに爆弾を見つけ、除去できるのか?
背景 1975年公開の映画「新幹線大爆破」(佐藤純彌監督、高倉健主演)の小説化。日本映画が英国で小説化されるとは珍しい。著者の一人加藤阿礼は本映画の企画を担当した坂上順の別名で、映画クレジットには原案として名前が載っている。この基本アイディアは面白く、物語もサスペンスに富んでいるが、紋切り型の登場人物も多く、小説の出来は平凡。

邦題 『アフガン、死の特殊部隊』
原作者 マット・リン
原題 Death Force(2008)
訳者 熊谷千寿
出版社 ソフトバンククリエイティブ
出版年 2010/3/25
面白度 ★★
主人公 チームプレイで活躍する物語なので主人公はいないが、強いて挙げれば、チームの責任者スティーヴ・ウェスト。元SAS隊員で、今は民間軍事会社の契約社員をしている。
事件 スティーヴは、所属会社の社長の要請で秘密作戦に従事することになった。チームは十人とし、報酬は一人300万ドル。その仕事はアフガニスタンでタリバンの資金源を潰し、資産を奪い取れというもの。ただし英国軍は作戦に関与しないと言うのだが……。
背景 著者の第一作。軍事スリラーの第一人者クリス・ライアンが序文を書いているが、内容はライアン流の典型的な軍事スリラー。記者上がりでゴースト・ライターも経験しているだけに、第一作にも係わらず手慣れた作品に仕上がっている。とはいえ亜流の域を超えていないが。

邦題 『黒竜江から来た警部』
原作者 サイモン・ルイス
原題 Bad Traffic(2008)
訳者 堀川志野舞
出版社 武田ランダムハウス
出版年 2010/7/10
面白度 ★★★★
主人公 中国七台河市公安局の警部マー・ジエン。妻を早くに亡くし、一人娘ウェイウェイは英国に留学中。密入国した福建省出身の出稼ぎ労働者ディン・ミンも活躍をする。
事件 留学中のウェイウェイから突然、助けてくれという電話。英語はまったく出来ないのにジエンは単身英国に乗り込んだ。娘は大学を辞め、中華料理店で働いていたことを突き止める。だが娘の携帯電話には思いがけない残酷な動画が残っていたのだ。
背景 本邦初紹介作家の作品。内容は冒険小説より犯罪小説に近い。主人公が異色の中国人で、ガサツだがそれなりに魅力がある。ナイーブ過ぎるディン・ミンも物語を複雑にする役割に徹していて、終盤は大いに盛り上がる。ミステリ的な捻りは不足しているが……。

邦題 『ノストラダムス 封印された予言詩』
原作者 マリオ・レディング
原題 The Nostradamus Prophecies(2009)
訳者 務台夏子
出版社 新潮社
出版年 2010/3/1
面白度 ★★
主人公 ノストラダムス研究家の米国人アダム・サビア。サビアを助けるのがジプシーの男女(ヨーラとアレクシ)。事件担当者はフランス国家警察の警部ジョリ・カルク。
事件 ノストラダムスは1000篇の4行詩を残したと言われるが、現存しているのは942篇で、58篇は不明のまま。それが、パリのフリー・ペーパーの広告で売り出されたのだ。詐欺か? だがサビアと仏外人部隊の元兵士とがその詩篇の争奪戦を演じ、サビアは警察にも追われる。
背景 ノストラダムスの予言詩を巡る冒険アクション。いわば『ダ・ヴィンチ・コード』の亜流のような作品。ノストラダムスやキリスト教、ジプシーについての情報が満載され、テンポの早い語り口なので、まあ退屈することはないが、しょせんは絵空事といった内容。

邦題 『ベイツ教授の受難』
原作者 デイヴィッド・ロッジ
原題 Deaf Sentence(2008)
訳者 高儀進
出版社 白水社
出版年 2010/4/5
面白度 ★★★★
主人公 イングランド北部の大学の言語学教授だったデスモンド・ベイツ。60代半ば。難聴の悪化と学部の再編とのために定年の数年前に引退した。
事件 引退後の単調な生活に飽き始めたベイツは、彼が以前勤めていた大学の大学院生から論文執筆の指導をしてほしいと頼まれた。院生はアメリカ人で蠱惑的な女性アレックス。テーマは「遺書の文体分析」という薄気味悪いもので、なんとなく不安を感じたが……。
背景 『交換教授』などで高名な著者の最新作。著者の書きたいことは老人介護や難聴、アウシュビッツのことでミステリーではないが、アレックスの謎の言動が物語のサスペンスを高めるために有効に作用している。ミステリーが少ないので敢えてリストに入れた。

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