邦題 『誇りと復讐』上下
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 A Prisoner of Birth(2008)
訳者 永井淳
出版社 新潮社
出版年 2009/6/1
面白度 ★★★
主人公 ロンドン近郊にある自動車修理工場の修理工ダニー・カートライト。幼馴染のベスと婚約中だったが、そのお祝い中に殺人事件に巻き込まれ、無実の罪で刑務所に収監されてしまう。
事件 ダニーの容疑はベスの兄を刺し殺したというもの。裁判では、目撃者らの偽証によってダニーは22年の禁固刑となったのだ。ところが刑務所で同室となった貴族の若者ニックの体格や顔がダニーによく似ていたことから、ダニーの人生は思いもよらぬ展開となる。
背景 2009年に亡くなった訳者永井氏の最後の訳書と思われる。物語は現代版『モンテ・クリフト伯』だが、著者は司法妨害と偽証罪で有罪となったことがあるだけに、その経験を生かした描写が冴えている。冒頭の殺人事件や裁判の展開はかなり杜撰なのだが……。

邦題 『コンラッド・ハーストの正体』
原作者 ケヴィン・ウィグノール
原題 Who is Conrad Hirst ?(2007)
訳者 松本剛史
出版社 新潮社
出版年 2009/2/1
面白度 ★★★
主人公 プロの殺し屋コンラッド・ハースト。冷戦崩壊後のユーゴスラヴィア内戦で過酷な体験を味わって、殺し屋になった。現在はルクセンブルグに住む30代前半の男。
事件 コンラッドはドイツ犯罪組織のボスから指令を受けて、76歳の老人を殺した。だがこの殺人はなぜか彼の心を悲しみで一杯とし、殺し屋を辞める決意を固める。しかしそのためには彼の素性を知っている4人を消さなければならない。行動を開始すると驚くべき事実が!
背景 典型的な犯罪小説のような設定であるが、やがて国際陰謀小説のような展開をする一種のサスペンス小説。謎はコンラッドの正体であるが、作り物めいた従来の謎解き小説の謎とは少し異なっている。その点が新鮮とはいえ、やはり楽しい驚きはない。

邦題 『嘘をつく舌』
原作者 アンドリュー・ウィルソン
原題 The Lying Tongue(2007)
訳者 高山 祥子
出版社 ランダムハウス講談社
出版年 2009/11/10
面白度 ★★★
主人公 作家志望の20代の英国青年アダム・ウッズ。
事件 失恋を契機にヴェネツィアを訪れたアダムは、偶然、老作家ゴードン・クレイスの世話をする仕事を得た。クレイスは40年前に一作だけ大ベストセラーを書いた後、ここで謎の隠遁生活を送っていたのだ。だがクレイスを脅迫するような手紙を盗み見したことから、アダムは当初予定の小説に代わり彼の伝記を書こうする。嘘をいって英国に戻り、彼の過去を探り始めるが……。
背景 『太陽がいっぱい』でお馴染みのパトリシア・ハイスミスの伝記を書いて、2004年度のAWM評伝・評論賞を受賞した著者の小説第一作。いかにもハイスミスが創作したような、主人公の造形や物語展開は楽しめるが、いまいち主人公の行動に納得できかねる部分がある。

邦題 『ブランディングズ城は荒れ模様』
原作者 P・G・ウッドハウス
原題 Heavy Weather(1933)
訳者 森村たまき
出版社 国書刊行会
出版年 2009/2/14
面白度  
主人公 

事件 


背景 


邦題 『静かなる天使の叫び』
原作者 R・J・エロリー
原題 A Quiet Belife in Angels(2007)
訳者 佐々田雅子
出版社 集英社
出版年 2009/6/30
面白度 ★★★★
主人公 アメリカ南部の田舎オーガスタ・フォールズで育った男ジョゼフ・カルヴィン・ヴォーン。小説の冒頭は12歳だが、終わりは78歳。
事件 時は第二次世界大戦の前夜。父親を亡くし、母親と二人暮らしの少年ジョゼフの周囲で、少女が次々と惨殺される事件が起きた。ジョゼフはそれらの事件に異常なほど関心を示すが、犯人は捕まらない。やがてドイツ系の隣人一家が追われ、母親の精神も崩れていった。
背景 本邦初紹介の英国人作家が米国南部の田舎を舞台にして書いたミステリー。サイコ・スリラーの要素が多いものの、犯罪小説としても、成長小説としても楽しめる。様々な要素を詰め込んでいるため冗長な部分があるものの、その筆力には脱帽させられる。

邦題 『チャイナ・レイク』
原作者 メグ・ガーディナー
原題 China Lake(2002)
訳者 山西美都紀
出版社 早川書房
出版年 2009/11/15
面白度 ★★
主人公 カリフォルニア州のサンタバーバラに住む弁護士でSF作家のエヴァン・ディレイニー。恋人は車いす利用の障害者で弁護士のジェシー・ブラックバーン。
事件 親友の母の葬儀で、エヴァンは狂信者集団<レムナント>と対決したが、彼らの真の狙いはエヴァンの6歳の甥ルークを奪回することだった。ルークの母親が<レムナント>に入信していたからだが、その騒動中に、なんとカルト教団の指導者が射殺されてしまったのだ!
背景 著者はロンドン近郊在住の女性で、本書は始め英国で出版されたので、本リストに入れた(その後S・キングに認められ、2009年のMWAペイパーバック賞を受賞)。舞台や主人公の性格設定、プロットには英国らしさはほとんど感じられない。筆力のある新人とはいえるが……。

邦題 『ゴースト・ストーリー傑作選』
原作者 川本静子・佐藤宏子編訳
原題 日本独自の編集(2009)
訳者 川本静子・佐藤宏子
出版社 みすず書房
出版年 2009/5/22
面白度 ★★★
主人公 英米女性作家のゴースト・ストーリーを8本収録している。前半の4本は英作家の作品で、後半の4本が米作家の作品。
事件 収録作は「おいた子守り女の話」(エリザベス・ギャスケル)「冷たい抱擁」(メアリー・ブラッドン)「ヴォクスホール通りの古家」(シャーロット・リデル)「祈り」(ヴァイオレット・ハント)「藤の大樹」(シャーロット・ギルマン)「手紙」(ケイト・ショパン)「ルエラ・ミラー」(メアリ・フリーマン)「呼び鈴」(イーディス・ウォートン)の8本。
背景 19世紀半ばから20世紀初頭にかけて書かれた幽霊物語の7割は、有名無名の女性作家の手になるものだそうだ。個人的には古めかしい英作家の作品の方が好ましい。

邦題 『アトランティスを探せ』上下
原作者 デイヴィッド・ギビンズ
原題 Atlantis(2005)
訳者 遠藤宏昭
出版社 扶桑社
出版年 2009/7/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『イスタンブールの毒蛇』
原作者 ジェイソン・グッドウィン
原題 The Snake Stone(2007)
訳者 和爾桃子
出版社 早川書房
出版年 2009/4/25
面白度 ★★
主人公 オスマントルコの白人宦官ヤシム・トアル。40歳。趣味は料理。かつてはトプカプ宮殿中奥つき機密担当だったが、今は半嘱託。スルタンや母后の信頼は厚い。
事件 時はスルタンの病床が悪化し、イスタンブールには不安が渦巻いている19世紀中葉。ヤシムの友人の八百屋が何者かに襲撃された。一方フランス人考古学者が何者かに追われ、ヤシムの元に逃げ込んできた。どうやら背後にギリシャ独立運動が関係しているようだが……。
背景 ヤシム・シリーズの第二弾。本シリーズは19世紀のイスタンブールという都市が主役の歴史風俗ミステリー。事件の面白さで読ませるというより、当時の料理や風俗などの描写で興味を惹かせている。中近東、とりわけトルコに関心あるミステリー・ファンなら飛びつくだろう。

邦題 『白夜に惑う夏』
原作者 アン・クリーヴス
原題 White Nights(2008)
訳者 玉木享
出版社 東京創元社
出版年 2009/7/31
面白度 ★★★
主人公 シェトランド島にあるシェトランド署の警部ジミー・ペレスとスコットランドのインヴァネス署所属の主任警部ロイ・テイラーだが、陰の主役はシェトランド島そのものか。
事件 シェトランド島は観光客で賑わう白夜の季節(夏)。ペレスはとある絵画展を訪れるが、そこで嗚咽する男を見つけ介抱した。だがその男は翌日、仮面をつけた首吊り死体で見つかったのだ。検死の結果は他殺。ペレスは再びテイラーと組んで捜査を開始したが……。
背景 『大鴉の啼く冬』に続く<シェトランド四重奏>の第二章。前回が冬で、今回が夏と季節は変われど、舞台は同じ島。物語の設定も似ており、島民の人間関係・生活をきめ細かく描写して、上品なミステリーに仕上げている。まあ島の風景と同じく、地味すぎるが。

邦題 『水時計』
原作者 ジム・ケリー
原題 The Water Clock(2002)
訳者 玉木享
出版社 東京創元社
出版年 2009/9/11
面白度 ★★★
主人公 ロンドン東部の町イーリーの週刊新聞「クロウ」の上級記者フィリップ・ドライデン。ロンドンの「ニュース」紙の腕利きだったが、植物人間となった妻の介護で戻っていた。
事件 この町の凍った川から車が引き上げられ、トランクの中には銃撃された死体が残されていた。さらに翌日、大聖堂の屋根から他殺とおぼしき白骨死体が発見された。こんな小さな町に殺人事件が相次いで見つかるのは偶然か? ドライデンは粘り強い調査・取材を始める。
背景 新人のシリーズ第一作。ジャーナリストとして活躍していた著者だけに、文章や人物造形はもちろん、舞台となるイーリーや沼沢地の描写なども手堅くまとめている。ただし二事件を結びつけるプロットや主人公に華というか、魅力が不足しているのが残念だ。

邦題 『遠き面影』上下
原作者 ロバート・ゴダード
原題 Name to a Face(2007)
訳者 北田絵里子
出版社 講談社
出版年 2009/10/15
面白度 ★★★
主人公 モナコで造園業を営むティム・ハーディング。7年前に妻を亡くして、現在は独身。友人の会社社長の依頼で、競売の指輪を落札するためにコーンウォールへ赴く。
事件 ハーディングはその地で謎めいた美女ヘイリーに出会った。彼女は事故死した女性に酷似し、見覚えのある顔だったが、どこで会ったか思い出せなかった。ところが目的の指輪が競売直前に盗まれ、ヘイリーも突然国外に消えてしまったのだ。何故か?
背景 著者の第19作。歴史的事実を巧みにプロットに取り入れているのはいつもの通りだが、今回の目新しい点はハーディングがダメ男ではなく、冒険小説の主人公に適していること。ただし目まぐるしい展開のわりには、緊張感はさほど高まってはいない。

邦題 『天来の美酒/消えちゃった』
原作者 A・E・コッパード
原題 日本独自の編集(2009)
訳者 南條竹則
出版社 光文社
出版年 2009/12/20
面白度 ★★★
主人公 11本の作品(最後の一本は中編)が収録されている短編集。*印は既訳あり。
事件 作品は*「消えちゃった」(妻と友人の三人でフランスを自動車旅行するが……)「天来の美酒」(美食ミステリーの佳作)*「ロッキーと差配人」「マーティンじいさん」「ダンキー・フィットロウ」「暦博士」*「去りし王国の姫君」「ソロモンの受難」「レイヴン牧師」「おそろしい料理人」(奇妙な味がある)「天国の鐘を鳴らせ」の11本。
背景 著者は怪奇小説作家に分類されるが、ホラー味は少なくファンタジーに近い(最後の作品は宗教をテーマにした普通の小説)。本国では「英語の散文に抒情詩特有の性質を持ち込んだ」と評されているようだ。ミステリー・ファンとしては、やはり標題の二編が楽しめる。

邦題 『非実体主義殺人事件』
原作者 ジュリアン・シモンズ
原題 The Immaterial Murder Case(1945)
訳者 多田昌子
出版社 論創社
出版年 2009/5/25
面白度 ★★
主人公 ロンドン警視庁の捜査官ブランド警部。初期三作のシリーズ・キャラクター。
事件 非実体主義を掲げる美術家たちの展示があり、招待客が画廊に集まっている最中に、あろうことか彫刻家レドメインの製作した彫刻の中から美術評論家の死体が見つかったのだ!
背景 未来のミステリーのあり方として犯罪小説を提唱したシモンズの第一作。分類すればユーモア(ファルス)本格ミステリーか。第4作『二月三十一日』から作風が変わったようだ。知的人間の集団内で起きた殺人を扱っていて、解説者の言うとおりM・イネスやE・クリスピン流の作風。アリバイ捜査の冗長さや登場人物のスノッブには辟易するものの、シモンズ・ファンとしては、こんな作品でデビューしたのかとわかっただけでも本書を評価したい。

邦題 『日曜哲学クラブ』
原作者 アレグザンダー・マコール・スミス
原題 The Sunday Philosophy Club(2004)
訳者 柳沢由美子
出版社 東京創元社
出版年 2009/8/14
面白度 ★★★
主人公 スコットランドの古都エディンバラに住むイザベル・ダルハウジー。<応用倫理学レビュー>誌の編集長で、四十代前半のバツイチ独身女性。
事件 イザベルは、ある日劇場の天井桟敷から若い男が墜落するのを目撃し、持ち前の社会的責任感から素人捜査を始めた。墜落した男は、男女二人のフラットメートと共同生活をしており、仕事のことで悩んでいたという。事故か自殺か、はたまた他殺なのか?
背景 ”No.1レディーズ探偵社”シリーズで評判の著者の新シリーズ第一弾。捜査に素人の中年女性が活躍する作品なので、ジャンルとしてはコージー・ミステリーだが、知的で上品な仕上がりは、米国産のコージーとは一味違っている。ただ謎解きはつけたし程度だ。

邦題 『新参探偵、ボツワナを騒がす』
原作者 アレグザンダー・マコール・スミス
原題 The Kalahari Typing School for Men(2002)
訳者 小林浩子
出版社 ヴィレッジブックス
出版年 2009/8/20
面白度 ★★
主人公 ボツワナで<No.1レディーズ探偵社>を経営する私立探偵プレシャス・ラモツエ。脇役としては彼女の婚約者で<トロクェン・ロード・スピーディ・モーターズ>の経営者J・L・B・マテコニと彼女の秘書兼探偵助手でマテコニの社長補佐でもあるマ・マクチの二人。
事件 <No.1レディーズ探偵社>のすぐそばに<100%満足保証探偵社>が出来た。しかも経営者はNY帰りで捜査経験も豊富な男性だ。強力なライバル出現だが、一方マクチは増収確保のため、男子専用タイピスト学校を開くことにしたところ……。
背景 シリーズ第4弾。これまでと同じボツワナの人情話。謎といえるものは、関係者全員をいかに傷付けないで丸く収めるかという程度だが、結果として心暖まる物語になっている。

邦題 『グラーグ57』 上下
原作者 トム・ロブ・スミス
原題 The Secret Speech(2009)
訳者 田口俊樹
出版社 新潮社
出版年 2009/9/1
面白度 ★★★★
主人公 モスクワ殺人課責任者(物語の途中でKGB部員となる)レオ・デモドフ。妻ライーサと二人の養女がいる。ただし本書では悪役フラエラが異彩をはなっている。
事件 ソ連のフルシチョフ首相が激烈なスターリン批判を展開しているとき、レオは念願のモスクワ殺人課を創設した。だが投獄者が釈放されると、彼らは捜査官や密告者に反撃を始めたのだ。レオの養女もそのような一味に誘拐され、レオは家族を救うため強制収容所に潜り込む。
背景 『チャイルド44』の続編(全三部作となるようだ)。前作は、子供を狙うシリアル・キラー事件がメインの警察小説と言えたが、本書は、政治的背景がたっぷりの冒険小説や犯罪小説として楽しめる。著者の語り口は達者の一言!

邦題 『アテネからの使者』
原作者 アン・ズルーディ
原題 The Messenger of Athens(2007)
訳者 ハーディング祥子
出版社 小学館
出版年 2009/2/11
面白度 ★★
主人公 アテネから派遣されて来たという謎の調査員ヘルメス・ディアクトロス(自称)。でっぷりと太った体に白いスーツを着て、白いスニーカーを履いている。
事件 舞台はエーゲ海に浮かぶ小さなティミノス島。地元漁師の妻の死体が崖下の海で見つかるが、警察は早々に自殺と断定した。そして数ヵ月後、再捜査を依頼されたヘルメスが島に上陸したのだ。閉鎖社会で古い因習が蔓延るこの島では、聞き込み捜査は進まないが……。
背景 新人の第一作。漁師夫妻の過去の生活と探偵の現在の捜査が併行して語られ、最後に一つに結びつく構成。捜査部分のプロットは脆弱で、ミステリー的な面白味はないのだが、何故漁師の妻が死んだのかという犯罪小説的な展開はそこそこ読ませる。

邦題 『二壜の調味料』
原作者 ロード・ダンセイニ
原題 The Little Tales of Smethers(1952)
訳者 小林晋
出版社 早川書房
出版年 2009/3/15
面白度 ★★★
主人公 リンリー(探偵)とスメザーズ(ワトスン役)物12本を含む26本収録の短編集。
事件 収録作品は、二壜の調味料、スラッガー巡査の射殺、スコットランド・ヤードの敵、第二戦線、二人の暗殺者、クリークブルートの変装、賭博場のカモ、手ががり、一度でたくさん、疑惑の殺人、給仕の物語、労働争議、ラウンド・ポンドの海賊、不運な犠牲者、新しい名人、新しい殺人法、復讐の物語、演説(面白い)、消えた科学者、書かれざるスリラー、ラヴァンコアにて、豆畑にて、死番虫、稲妻の殺人、ネザビー・ガーデンズの殺人(面白い)、アテーナーの楯。
背景 奇妙な味の代表作といってよい「二壜の調味料」がやはりダントツで面白いが、短いながら楽しめる作品も多い。ダンセニイがこれほどミステリーを書いているとは知らなかった。

邦題 『前夜』上下
原作者 リー・チャイルド
原題 The Enemy(2004)
訳者 小林宏明
出版社 講談社
出版年 2009/5/15
面白度 ★★★★
主人公 シリーズ・キャラクターのジャック・リーチャー。本事件でのリーチャーは29歳の少佐で、フォート・バード基地の陸軍警察現場指揮者(MP)であった。
事件 ベルリンの壁が崩壊した1989年の暮れ、ノース・カロライナの基地近くのうらぶれたモーテルで、ヨーロッパ機甲師団司令官の死体が見つかった。心臓発作のためだが、重要な会議に向う途中で、何故死んだのか? 続いて彼の妻や基地の隊員も殺された。関係あるのか?
背景 4冊目の訳書(原書ではシリーズ8作目)。前作までのリーチャーはフリーター的人間であったが、本作ではまだ現役の軍人。シリーズの番外編といってよいだろう。前半は謎解き、後半は冒険小説となる展開が巧妙だし、迫力ある語り口には圧倒される。

邦題 『災厄の紳士』
原作者 D・M・ディヴァイン
原題 Dead Trouble(1971)
訳者 中村有希
出版社 東京創元社
出版年 2009/9/30
面白度 ★★★
主人公 明確な主人公はいないが、強いて挙げれば事件を調査し謎を解く、著名な作家エリック・ヴァランスの長女サラ・ケインとカトリング署首席警部のヒュー・ボグか。
事件 失恋の傷を癒すためパリを訪問していたサラの妹アルマは、そこで美男のネヴィルと知りあった。彼は怠け者でジゴロを稼業としている男。実際、アルマの実家があるカドリングに住む”共犯者”の指示で、アルマに近づいていたからだ。その目的は?
背景 邦訳7冊め。作風は一貫して同じ。つまり長所としてはサスペンスフルな語り口、赤鰊の巧みな配置、意外性十分な犯人設定などだが、逆に短所としては、感情移入できる登場人物がほとんどおらず、無理なプロットが目立つこと。まあ、本格ファンなら楽しめるだろうが。

邦題 『最後の神託』
原作者 リンゼイ・ディヴィス
原題 See Delphi and Die(2005)
訳者 矢沢聖子
出版社 光文社
出版年 2009/7/20
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの密偵マルクス・ディディウス・ファルコと彼の妻ヘレナ。ユスティナ。
事件 ローマの七名所旅行社が主催するギリシャ「神殿巡り」の団体旅行中に、新婚の若妻が変死体で発見された。過去にも似たような事件が起きている。若妻の父親の依頼で真相究明を頼まれたファルコは、ヘレンや彼の親戚を引き連れて現地に向った。オリュンピア、コリントス、デルポイ、アテナイを巡るのだが、その途中で若妻の夫も行方不明になったのだ!
背景 シリーズ17作め。達者な語り口は健在で、これまでと同様に安心して楽しめる。今回の特徴はローマ時代のギリシャ旅行案内書といった内容で、舞台となるギリシャの風俗・風景が細かく描写されている。まあ、犯人は誰であっても成り立ちそうなプロットであるが……。

邦題 『修道女フィデルマの叡智』
原作者 ピーター・トレメイン
原題 The Poisoned Chalice and Other Stories(2000)
訳者 甲斐萬里江
出版社 東京創元社
出版年 2009/6/26
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのシリーズ・キャラクターで、法廷弁護士であるとともに上位弁護士のフィデルマ。7世紀のアイルランドが舞台。
事件 5本の短編が収録されている。「聖餐式の毒杯」「ホロフェルネスの幕舎」(フィデルマが殺人容疑者の幼馴染を助けようとするが……。もっとも意外性のある本格ミステリー)「旅籠の幽霊」「大王の剣」「大王廟の悲鳴」
背景 著者初の短編集。原書には15本の短編があるそうだが、本書はその1/3の分量。続編を期待したい。内容はいずれもフィデルマの良さが出ている好短編だが、長編に比べると、謎解き一直線的なプロットが目立つ。この著者は長編向きだと思う。

邦題 『蛇、もっとも禍し』上下
原作者 ピーター・トレメイン
原題 The Subtle Serpent(1996)
訳者 甲斐萬里江
出版社 東京創元社
出版年 2009/11/13
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのシリーズ・キャラクター、”ギルデアのフィデルマ”。7世紀のアイルランドで活躍した若き美貌の女性で、法廷弁護士であるとともに上位弁護士でもある。
事件 ”三つの泉の鮭”女子修道院で、頭部のない若い女性の死体が見つかった。修道院長の要請でフィデルマは海路現地へ向ったが、その途中で乗組員全員が消え失せた無人の大型船を発見した。船中にはフィデルマの知人の持ち物が! 二つの事件は関係あるのか?
背景 原シリーズの第4作めで、邦訳長編は三冊め。『幼き子らよ、我がもとへ』と『蜘蛛の巣』の間に位置する作品。順に訳された方がよかったが、これはこれで楽しめる。二つの事件の係わりや裁判で締めくくるプロットは巧妙だ。多少甘いがフィデルマの魅力で★4つ。

邦題 『祖国なき男』
原作者 ジェフリー・ハウスホールド
原題 Rogue Justice(1982)
訳者 村上博基
出版社 東京創元社
出版年 2009/11/10
面白度 ★★★
主人公 語り手である名無しの<わたし>。ただしラストで、レイモンド・インジェルラムという名前であることが明かされる。1909年10月に聖ジョージ教会で洗礼を受けた。
事件 ドイツでの要人暗殺に失敗してから三年。再びドイツに入国し暗殺を狙ったが、目的を果たす前に第二次世界大戦が勃発し、ドイツ国家保安本部に拘束されてしまった。だが英空軍による爆撃で奇跡的に建物から脱出に成功。<わたし>は単身参戦を決意する。
背景 『追われた男』の続編。原書は前作から43年後に書かれた。前作は英国内での逃亡・追跡劇を扱った冒険小説だったが、本作も同じ逃亡劇ながら、舞台が東欧からギリシャまでというのが異なる。各国で主人公を助ける個性豊かな協力者が魅力的だ。

邦題 『ゴーストライター』
原作者 ロバート・ハリス
原題 The Ghost(2007)
訳者 熊谷千寿
出版社 講談社
出版年 2009/9/15
面白度 ★★★★
主人公 ゴーストライターの私。名無しの語り手である。
事件 華やかさで人気を博した元英国首相アダム・ラングは、ボストンに近い孤島に滞在して回顧録を作っていた。だが完成を前に回顧録のゴーストライターが不審な事故死を起し、急遽私にその依頼が来たのだ。しかも1ヶ月で完成させろという。早速ボストンに飛んで取材を開始するが、執筆途中で、水死体となった前任者の死因に疑問を持ち……。
背景 『ファザーランド』(併行世界を舞台にしたミステリー)でデビューした著者の邦訳5冊め。本書は謀略小説だが、丁寧な描写で物語にリアリティを与えているとともに、結末の意外性を作り出すことに成功している。ブレア首相と昵懇だったらしい著者ならではの異色作。

邦題 『死は万病を癒す薬』
原作者 レジナルド・ヒル
原題 A Cure for All Diseases(2008)
訳者 松下祥子
出版社 早川書房
出版年 2009/11/15
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのダルジール警視とパスコー主任警部、そして彼らの部下の面々。
事件 前作『ダルジールの死』で瀕死の重傷を負ったダルジールだが、本作では健康はかなり回復したものの、ヨークシャー州のサンディ・タウンにあるアメリカ式の大規模な療養所でさらなる療養生活に入っていた。ところがこの町の名士で、健康タウンの計画者の一人である未亡人のレイディ・デナムが、パーティの席上惨殺されたのだ!
背景 原書のシリーズ21冊め(邦訳は18冊め)。著者が敬愛するジェーン・オースティンの未完作品『サンディトン』を下敷きにしている。本格ミステリー仕立てで、語りの巧みさで読ませきってしまうが、前半は多少かったるい。個人的にはパスコーがもっと活躍してほしかった。

邦題 『石が流す血』
原作者 フランセス・ファイフィールド
原題 Blood from Stone(2008)
訳者 喜須海理子
出版社 ランダムハウス講談社
出版年 2009/10/10
面白度 ★★★★
主人公 主人公に相応しい活躍をする人物はいないが、強いて挙げれば、自殺女性の姉で服飾店経営のヘンリエッタ(ヘン)・ジョイスと法廷弁護士のピーター・フリエルか。
事件 ロンドンの高級ホテルの6階から、勅選弁護士のマリアン・シアラーが飛び降りた。彼女は有能な弁護士で、死の直前にも、証言台に立った被害者を自殺に追い込み、容疑者の無罪を勝ち取っていたのだ。自殺の理由はあったのか? はたまた事故死や他殺か?
背景 著者の久しぶりの翻訳書。これまでの作品と作風が大きく違ったわけではないものの、主人公らは、読者がより共感できるように造形されている。ミステリーとしては、捜査にあまり筆を費やしていないのが残念なところだが、ラストの意外性には驚かされる。

邦題 『大聖堂 果てしなき世界』 上・中・下
原作者 ケン・フォレット
原題 World Without End(2007)
訳者 戸田 裕之
出版社 ソフトバンク・クリエイティブ
出版年 2009/3/31
面白度 ★★★
主人公 中世イングランドを舞台にした群像劇だが、強いて主人公を挙げれば以下の四人。建築職人のマーティンと彼の恋人である女子修道院院長カリス、マーティンの弟で領主になるラルフ、三人の幼なじみである女性労働者グウェンダ。
事件 時は14世紀中葉、舞台は大聖堂のあるキングズブリッジ。ある日、木の橋が崩壊し多数の死者が出た。マーティンは石橋を計画し、カリスは市を自由都市にしようと動くが……。
背景 大長編『大聖堂』の続編のようだが、継続しているのは二百年後の同じ土地を舞台にしていることだけ。登場人物は全員異なっている。メインの物語は貧弱で、ミステリー的謎も小粒だが、主人公らの造形には好感が持てる。もちろん筆力には脱帽。

邦題 『ダブリンで死んだ娘』
原作者 ベンジャミン・ブラック
原題 Christine Falls(2006)
訳者 松本 剛史
出版社 ランダムハウス講談社
出版年 2009/4/10
面白度 ★★★
主人公 ダブリンの<聖家族病院>病理科医長で検死官のクワーク。妻は出産で死亡。
事件 クワークは、救急車で運び込まれたクリスティーン・フォールズ(原題)という美しい女性の遺体に目を止めた。義兄の書いた死亡診断書では肺塞栓となっていたが、明らかに問題があったからだ。だがクワークが再び遺体安置室を訪れると、遺体はすでに運び出されていた!
背景 2005年にブッカー賞を受賞したベテランの純文学系作家(ジョン・バンヴィル)が別名で発表した犯罪小説の第一作。シムノンの『雪は汚れていた』などの作品に触発されて書かれたそうだ。1950年代のアイルランドのダブリンとアメリカのボストンを舞台にしているが、前半(ダブリンが舞台)は読み応えがある。ミステリー度は低いが……。

邦題 『壊れた偶像』
原作者 ジョン・ブラックバーン
原題 Broken Boy(1959)
訳者 松本真一
出版社 論創社
出版年 2009/3/25
面白度 ★★
主人公 シリーズ・キャラクターである英国外務省情報局長チャールズ・カーク将軍と部下のマイケル・ハワードとペニー・ワイズの三人。マイケルとペニーは恋人関係にある。
事件 マンチェスター郊外の川で、売春婦と見られる女性の死体が見つかった。顔面はつぶれ、致命傷となるナイフ傷が全身に何ヶ所もついた無残な死体たっだ。死体にあった指環などから被害者はロシアの女スパイらしいことがわかり、カーク将軍の出番となるが……。
背景 ミステリーにSFやホラー、オカルトを取り入れた独自の作風を持つ著者(著作は30冊ほど)の第3作で、邦訳は6作目。今回の設定は、得体のしれない生命体が人間を襲うといったものではなく、発表当時はともかく現在ではありふれたものに過ぎないのが残念だ。

邦題 『エルサレムから来た悪魔』上下
原作者 アリアナ・フランクリン
原題 Mistress of the Art of Death(2007)
訳者 吉澤康子
出版社 東京創元社
出版年 2009/9/30
面白度 ★★★
主人公 若い女性医師ヴェスーヴィア・アデリア・レイチェル・オルテーゼ・アギラール。赤ん坊の頃ヴェスヴィアス山で拾われ養父母に育てられる。シチリア王国サレルノ医科大学出身。
事件 1171年ケンブリッジで子どもの連続失踪事件が発生した。民衆はユダヤ人の犯行としてユダヤ人排斥運動を起した。国王ヘンリー二世は、裕福なユダヤを追放すれば国の財政が悪化し、逆にかばえば教会から破門される。困った国王はアデリアに事件解決を依頼したのだ。
背景 新人のシリーズ第一作だが、2007年度のCWA歴史ミステリ賞を受賞。美人聡明で自立心にも富んでいる主人公の人物造形がユニーク。ただしミステリーとしては犯人設定もプロットも弱く、歴史ロマン小説的な味わい。七世紀のフィデルマの方がより現代人に近いか。

邦題 『片腕をなくした男』上下
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 Red star rising(2009)
訳者 戸田裕之
出版社 新潮社
出版年 2009/12/1
面白度 ★★
主人公 お馴染みの英国情報部員(MI5)のチャーリー・マフィン。ロシア連邦保安局員のナターリヤは実質的な妻。二人の間には一人娘サーシャがいる。
事件 モスクワの英国大使館内で、左腕のない男の銃殺死体が見つかった。館内で殺されたのなら捜査は英国側にある。早速チャーリーが派遣されるが、ロシア側はマフィアの抗争として幕引きをはかる。だが大使館内で盗聴器がみつかり、二重スパイの疑いが出てきたのだ。
背景 マフィン・シリーズの第13作。前作『城壁に手をかけた男』から5年ぶりの翻訳である。前作もそうであったが、プロットにリアリティがさほど認められず(ファンタジーのよう?)、結末の意外性にも驚きは少ない。なお本作は、三部作となるシリーズの第一作になるようだ。

邦題 『ロンドン・ブールヴァード』
原作者 ケン・ブルーエン
原題 London Boulevard(2001)
訳者 鈴木恵
出版社 新潮社
出版年 2009/11/1
面白度 ★★★★
主人公 3年の刑期を終えて出所したばかりのミッチェル。40代半ば。かつての大女優リリアンの執事ジョーダンは助役ながら怪演している。
事件 出所直後のミッチェルは、ふとしたことからリリアンの屋敷の雑用係に雇われた。そして執事のさまざまな策略が功を奏し、ミッチェルはリリアンを独占できるようになったのである。だがミッチェルは別のアイルランド人女性アイリンを愛してしまったために……。
背景 著者の邦訳4冊め(版元変更で著者表記はブルーワンからブルーエンへ)。プロットは、映画「サンセット大通り」(ビリー・ワイルダー監督、1950年製作)を下敷きにしているが、主人公の造形には著者の独自性が出ている。主物語と単なる駄弁とのバランスも絶妙。

邦題 『悪意の森』上下
原作者 タナ・フレンチ
原題 In the Woods(2007)
訳者 安藤由紀子
出版社 集英社
出版年 2009/9/25
面白度 ★★★★
主人公 ダブリン市の殺人課刑事アダム・ロバート(ロブ)・ライアンと相棒の女性刑事キャシー・マドックス。二人とも30代の独身。
事件 1984年、ダブリン郊外の森の中で少年と少女が忽然と姿を消した。20年後、同じ森の近くの遺跡発掘現場で少女の他殺死体が発見された。事件の担当者ロブは、実は20年前の事件に関係していたのだ。二事件に関連はあるのか? 少女の家族には隠し事があるようだが……。
背景 アイルランド在住作家の第一作。心理小説的色彩の強い警察小説といえようか。語り手ロブが、完璧には信頼できない刑事に創造されている点がサスペンスを高めているが、逆に結末のカタルシスを弱めている。キャシーの方が魅力的である。

邦題 『法人類学者デイヴィッド・ハンター』
原作者 サイモン・ベケット
原題 The Chemistry of Death(2006)
訳者 坂本あおい
出版社 ヴィレッジブックス
出版年 2009/2/20
面白度 ★★★
主人公 法人類学の専門家デイヴィッド・ハンター。妻子を交通事故で亡くしたことから過去を捨て、ノーフォーク州の静かな村マナムの診療所で雇われ医師になっている。
事件 この村に住む女性作家が腐乱死体で見つかった。ハンターは、その作家の行方不明を警察に知らせたこともあり、警察に協力することにした。やがて若い主婦の死体が同じような状況で発見され、さらにハンターがよく知る小学校の女性教諭が拉致され……。
背景 本邦初紹介作家の作品。法人類学とは何かをわかりやすく解説しているが、”スケルトン探偵”のように専門知識が事件解決に役立つという謎解き小説ではなく、サスペンス小説仕立て。弱点は、ゴシック・ロマンスのように右往左往している主人公たちの行動か。

邦題 『警官の証言』
原作者 ルーパート・ペニー
原題 Policema's Evidence(1938)
訳者 熊井ひろ美
出版社 創論社
出版年 2009/12/25
面白度 ★★★
主人公 スコットランド・ヤードの主任警部エドワード・ビール。43歳。第二部の語り手でもある。第一部の語り手は、友人の「ストックブローカー」副編集長アントニー・パードン。
事件 アデア少佐は、競売会で競り落とした古書から、ある屋敷に財宝が隠されていることを知った。少佐は、実娘や養女、パードンらの仲間とともにその屋敷に住込み、宝探しを始めた。ほぼ暗号が解かれ、財宝の一部が見つかったとき、少佐は密室で死んでいるのが見つかったのだ!
背景 著者の二冊めの翻訳。宝探しと密室殺人を扱った正統的な(読者への挑戦状付きの)謎解き小説。宝探しの暗号は日本人には難しすぎるものの、密室殺人のトリックはそれなりに納得できる出来映えだ。英国ミステリらしい地味な語り口で、切れ味はいまひとつだが。

邦題 『ムーアに住む姉妹』
原作者 ジェイニー・ボライソー
原題 Plotted in Cornwall(2001)
訳者 山田順子
出版社 東京創元社
出版年 2009/10/16
面白度 ★★
主人公 お馴染みのシリーズ・キャラクターであるコーンウォールのニューリンに住む画家のローズ・トレヴェリアン。夫を癌で亡くし、現在独身の中年女性。
事件 ローズは、ボトミン・ムーアに住む姉妹から二人の肖像画を依頼された。何故頼まれたのか裏がありそうだったが、ローズは新たな挑戦と考えていた。一方、ローズの絵画教室の有望な教え子がその姉妹の甥で、妹の夫も娘も行方不明になっていることがわかったのだ。
背景 シリーズ第5作。相変わらずコーンウォール地方の潮の香りが嗅げるような描写は健在だが、今回は警察が関与する事件とはいえず、警察捜査による謎の追求が少ない。つまり風俗小説の顔が前面に出ていて、ミステリーとしてのバランスが悪いのが残念なところ。

邦題 『メディチ家の暗号』
原作者 マイケル・ホワイト
原題 The Medici Secret(2008)
訳者 横山啓明
出版社 早川書房
出版年 2009/7/25
面白度 ★★
主人公 一人には絞れない。古病理学者イーディー・グレインジャーと歴史学者ジェフ・マーティン(バツイチで娘一人あり)、音楽学者ロベルト・アルマトヴァニの三人か。
事件 イーディーらの調べで、メディチ家礼拝堂に眠るミイラの内部から石板が見つかった。詩のような暗号が刻まれている。だが彼女の伯父が絞殺されると、彼女の周りには不審な事件が相次ぎ、ついにはその石板は盗まれ、ジェフやその娘も何者かに狙われだしたのだ。
背景 『五つの星が列なる時』に続く著者の第2弾。前作同様、伝奇小説的背景を持った冒険小説。わかりやすく言えば『ダヴィンチ・コード』の亜流といった内容。メディチ家の歴史を巧みに取り込んでいるものの、ヴェネツィアで銃撃戦が展開されるプロットは幼稚じみている。

邦題 『ねこ捜査官ゴルゴンゾーラとハギス缶の謎』
原作者 ヘレン&モーナ・マルグレイ
原題 No Suspicious Circumstances(2007)
訳者 羽田詩津子
出版社 ヴィレッジブックス
出版年 2009/2/20
面白度 ★★
主人公 英国歳入税関庁の麻薬密輸捜査官デボラ・J・スミスと麻薬探知猫ゴルゴンゾーラのコンビ。前者は30代前半の独身女性で、後者はレッド・ペルシャの雑種で元野良猫であったが、鋭い嗅覚があることがわかり、麻薬探知猫に抜擢された。この猫は簡単な絵も描く。
事件 スミスと猫は、エディンバラ近くのホテルをアジトに麻薬取引が行なわれている、という内部情報を調査するため当地に赴いた。滞在客はみな怪しかったが、やがて殺人事件が!
背景 双子の姉妹作家の第一作。麻薬探知猫という設定はユニークだが、スミスは探偵なのだから、もう少し頭を使って行動してほしいところ。コージー・ミステリーとはいえ、若い女性が右往左往、ハラハラ・ドキドキする様子は現代版ゴシック・ロマンスに近い。

邦題 『悪魔の調べ』上下
原作者 ケイト・モス
原題 Sepuchre(2007)
訳者 森嶋マリ
出版社 ソフトバンク・クリエイティブ
出版年 2009/5/30
面白度 ★★★
主人公 19世紀末の物語の主人公は若い女性レオニー・ヴェルニエで、2007年の物語の主人公は音楽家ドビュッシーの伝記を書くために訪仏した米国女性メレディス・マーティン。
事件 17歳のレオニーは南仏の伯母の屋敷を訪れ、そこでタロットを扱った伯父の本を見つけた。謎の霊廟について記している。一方メレディスはほぼ一世紀後に同じ村を訪ねた。母の形見の中に、そこで撮られた写真と「霊廟、1891年」と記された楽譜があったからだ。
背景 『ラビリンス』に続く著者の第二弾。前作同様、過去の物語と現在の物語が交互に語られ、最終章で二つの物語が合体するという構成。SF的要素が含まれているものの、基本的には現代のゴシック・ロマンスか。二人の女性にはもう少し自立心が欲しいところだが。

邦題 『ファイアファイト偽装作戦』
原作者 クリス・ライアン
原題 Firefight(2008)
訳者 伏見威蕃
出版社 早川書房
出版年 2009/5/25
面白度 ★★★
主人公 元SAS隊員のウィル・ジャクソン。二年前に起きたロンドンのデパートでのテロで、妻と娘を失い、SASを辞めた。
事件 突然ウィルはMI5から極秘任務を依頼された。CIA最高のスパイ、アフガニスタン人のファイサルが裏切って大規模なテロを計画しているので、ファイサルの姉から彼の居場所を聞き出して欲しいというもの。ファイサルがウィルの妻と娘を殺した犯人とわかったため……。
背景 現・元SAS隊員ばかりを主人公にした著者の第十三作。本書ではタリバーンが当面の敵となっている。弱点は、CIAの陰謀が貧弱すぎること。このため、これまでの作品群と比べると結末の捻りが小さく、驚きが不足している。筆力は衰えていないが。

邦題 『ベツレヘムの密告者』
原作者 マット・ベイノン・リース
原題 The Collaborator of Bethlehem(2007)
訳者 小林 淳子
出版社 ランダムハウス講談社
出版年 2009/6/10
面白度 ★★★★
主人公 パレスチナの難民キャンプにある国連学校の歴史教師オマー・ユセフ・シルハン。50代後半のキリスト教徒。すでに孫もいる。
事件 オマーの教え子サバがイスラエルへの内通者と名指しされ、テロリスト射殺幇助の容疑で逮捕された。優秀なサバがそのような馬鹿げた行動に出るとは考えられない。警察が動かないことに業を煮やしたオマーは独自に調査を始めると、別の教え子も殺され……。
背景 エルサレム在住の英国人によるミステリー第一作で、2007年度のCWA新人賞受賞作。パレスチナ人の風俗・心理が的確に描写されている。また主人公の造形は秀逸で、共感を呼ぼう。謎解きは小味なものだが、サスペンスの盛り上げ方は新人離れの出来か。

邦題 『ミスター・ディアボロ』
原作者 アントニー・レジューン
原題 Mr. Diabolo(1960)
訳者 小林晋
出版社 扶桑社
出版年 2009/8/30
面白度 ★★★
主人公 探偵役は陸軍省所属のアーサー・ブレーズ(シリーズ探偵)で、ワトスン役(物語の語り手)は外務省所属で独身のアリステア・バーク。
事件 西洋学研究部で開催された学会の夕食会。伝説の怪人”ミスター・ディアボロ”の逸話が披露された直後、ディアボロらしき人物が現れ、<悪魔の小道>の途中で消えうせてしまった。そして目撃者の一人が、その後密室状態の部屋で絞殺されているのが見つかり……。
背景 冒険スパイ小説が得意な著者の唯一の謎解き小説。出口が見張られている小道での人間消失と密室殺人を扱っている。どちらも前例があるので驚きは少ないが、巧みな伏線には脱帽。カーばりのハッタリがない書き方は、控え目な英国人作家らしく好ましい。

邦題 『余波』上下
原作者 ピーター・ロビンスン
原題 Aftermath(2001)
訳者 野の水生
出版社 講談社
出版年 2009/7/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『新艦長、孤高の海路』
原作者 ジュリアン・ストックウィン
原題 Command(2006)
訳者 大森洋子
出版社 早川書房
出版年 2009/4/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 


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