邦題 『屍衣の流行』
原作者 マージェリー・アリンガム
原題 The Fashion in Shrouds(1938)
訳者 小林晋
出版社 国書刊行会
出版年 2006/9/25
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのシリーズ探偵アルバート・キャンピオン。事件当時は37歳。脇役では彼の妹ヴァル・フェリス(ファッション・デザイナー)と彼の婚約者アマンダが活躍する。
事件 キャンピオンが藪の中で見つけたのは、人気女優ジョージアの元婚約者の白骨死体だった。彼は調査のためジョージアに近づくが、彼女の周りの男たちの中には、ヴァルが想いを寄せている航空機会社社長のアラン・デルもいた。そしてジョージアの現在の夫に事故が起き……。
背景 シリーズ11作め。著者の中期の作品で、この時期に多い風俗ミステリーである。背景となるファッション界とキャンピオンやヴァルらの人間関係・恋愛模様が巧みに描かれている。訳者のいう「唯一無二の大トリック」は、まあガッカリするほどではないという程度だ。

邦題 『切り裂かれたミンクコート事件』
原作者 ジェイムズ・アンダースン
原題 The Affair of the Mutilated Mink Coat(1981)
訳者 山本俊子
出版社 扶桑社
出版年 2006/11/30
面白度 ★★★
主人公 ウェストシャー警察の主任警部ウィルキンズ。シリーズ探偵である。
事件 バーフォード伯爵邸のオールダリー荘へ、映画関係者たちが新作の下調べのために来ることになった。オールダリー荘は前作の舞台となったところで、バーフォード伯爵は事件の後遺症ですっかりパーティ嫌いになっていたものの、ご贔屓の人気俳優がいるというので、了承したのだ。娘の男友達や遠い親戚などの飛び入りもあり大賑わいであったが、殺人が起こり……。
背景 『血のついたエッグ・コージ』の続編。原書は6年後に出ているが、訳書は実に18年後に陽の目をみたことになる。前作同様、謎解きミステリーの体裁をしているが、謎解きとしては伏線の張り方が不十分だ。ただし語り口は達者で、サスペンス小説として楽しめる。

邦題 『わたしを離さないで』
原作者 カズオ・イシグロ
原題 Never Let Me Go(2005)
訳者 土屋政雄
出版社 早川書房
出版年 2006/4/30
面白度 ★★★
主人公 優秀な女性介護人のキャシー・H。施設ヘールシャムで生まれ育つ。
事件 キャシーは、かつて過ごした施設での奇妙な体験を思い出していた。図画工作に極端に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちの不思議な態度、そして親友のルースとトミーとの青春の日々などを。そして彼女の回想は驚くべき真実に――。
背景 ミステリー作家ではないのは承知しているが、前作『わたしたちが孤児だったころ』をリストに入れたこともあり、今回も含めた。まあSFが一番妥当なジャンル分けになると思うが、伏線を張り巡らした回想形式の語り口はミステリーの雰囲気は十分だし、サスペンスもある。でもミステリー・ファンとしては、やはり結末のカタルシスがないのは辛いことだ。

邦題 『証拠は語る』
原作者 マイクル・イネス
原題 The Weight of the Evidence(1943)
訳者 今井直子
出版社 長崎出版
出版年 2006/12/6
面白度 ★★★★
主人公 スコットランド・ヤードの警部ジョン・アプルビイ。お馴染みのシリーズ・キャラクターだが、ボロー警察のホブハウス警部補も助手として活躍する。
事件 イングランドの地方大学の中庭で、同大学の生化学教授が殺された。嫌われ者であったが、なんとも奇妙なことに、死因は隕石が頭に落ちたためだった。容疑者となる学内の学者は一癖も二癖もある人間ばかり。何故、犯人は隕石を凶器に使用したのか?
背景 謎解き学園ミステリーだが、通常の謎解き小説とは一味違っていて、イネスらしい独自のスタイルが認められる。たとえば登場人物はすべて個性豊かな人間ばかりで、アプルビイの訊問(または会話)は興趣に富んでいるし、隕石の謎も納得できる。訳文が読みやすいのも嬉しい。

邦題 『アララテのアプルビイ』
原作者 マイクル・イネス
原題 Appleby on Ararat(1941)
訳者 今本渉
出版社 国書刊行会
出版年 2006/12/30
面白度 ★★★
主人公 スコットランド・ヤードの警察官ジョン・アプルビイ。お馴染みのシリーズ探偵。
事件 アプルビイの乗っていた客船が南太平洋上で沈没した。あろうことか、クジラと思っていた物体は実はドイツのUボートで、そこから発射された魚雷にやられたのだ。デッキにいて助かったアプルビイら6人は漂流したあげく孤島に流れ着く。ロビンソン・クルーソーのような生活が始まったが、黒人の人類学者が殺される事件が勃発し――。
背景 イネスの7作め。彼の初期3作は本格的な謎解き小説であったが、4作めの『ストップ・プレス』からファース味の濃い謎解き小説に変わった。本作は同じファース味ながら冒険小説に近く、イネスの幅の広さを実感させてくれる。前半は興味満点だが、後半の展開は平凡。

邦題 『同窓会にて死す』
原作者 クリフォード・ウィッティング
原題 A Bullet for Rhino(1950)
訳者 水野恵
出版社 論創社
出版年 2006/1/20
面白度 ★★★★
主人公 ロンドン警視庁捜査課の警部ハリー・チャールトン。伝統あるパブリック・スクールのメレワース学院の卒業生。
事件 旧友ホランダーの誘いで、ハリーは妻とともにホランダー家に宿泊し、同窓会に出席することにした。クリケットOB戦やダンス・パーティーなど華やかな催しが続く中、同校の英雄でもあるが、アクが強く憎まれ者でもあったガースタング大佐が射殺されたのだ!
背景 本邦初紹介作家の謎解き小説。殺人事件が起きるのは物語が2/3を過ぎた頃で、それまでは関係者の人間関係・心理が、類型的ながらも丁寧に描かれている。謎は小粒だが、結末の処理が印象深い。これまでの論創海外ミステリ・シリーズの中ではトップクラスだ。

邦題 『南海のトレジャーハント』
原作者 パトリック・ウッドロウ
原題 Double Cross(2005)
訳者 熊谷千寿
出版社 早川書房
出版年 2006/8/31
面白度 ★★★★
主人公 プロの水中カメラマン、エド・ストラカン。29歳の独身。大学進学前に2年間マレーシアで生活し、密輸エメラルドの運び屋をしていた経験を持つ。
事件 ストラカンの命を救ったのは鏡だった。知り合ったばかりの女性が彼のグラスに薬を入れるのを、偶然鏡で見たからである。何故か? 調べていくうちに、その女性は彼の片割れのカフスボタンを狙っていたことがわかった。もう一つのボタンと合わせると、宝の隠し場所が……。
背景 本邦初紹介の英国冒険小説作家の第一作。ポット出の新人がこれほどの出来栄えの小説を書くのだから、英国冒険小説界のレベルは高いというべきか。宝探しに関する謎解きはチャチといってもいいが、海中風景やさまざまな戦闘シーンの迫力ある描写は堂に入っている。

邦題 『レディ・モリーの事件簿』
原作者 バロネス・オルツィ
原題 Lady Molly of Scotland Yard(1910)
訳者 鬼頭玲子
出版社 論創社
出版年 2006/3/10
面白度 ★★
主人公 スコットランド・ヤードの女性警察官レディ・モリー・ロバートスン=カーク。語り手はモリーの個人秘書メアリー・グラナード。
事件 12本の短編、すなわち「ナインスコアの謎」「フルーウィンの細密画」「アイリッシュ・ツイードのコート」「フォードウィッチ館の秘密」「とある日の過ち」(面白かった)「ブルターニュの城」「クリスマスの悲劇」「砂嚢」「インバネスの男」(人間消失トリック)「大きな帽子の男」「サー・ジェレマイアの遺言書」「終幕」が収録されている。
背景 ホームズのライヴァルたちの一冊。連作短編小説の形式で、最後の二編でモリーの過去が明らかになる。初期の女性探偵として、風俗ミステリーとして史的観点から興味深い。

邦題 『ヴードゥーの悪魔』
原作者 ジョン・ディクスン・カー
原題 Papa La-bas(1968)
訳者 村上和久
出版社 原書房
出版年 2006/2/20
面白度 ★★
主人公 探偵役は、実在したルイジアナ州のジューダ・ベンジャミン上院議員。ただし物語の主役は、ニューオーリンズで英国領事を務めるディック・マクレイ。30代の独身。
事件 舞台は19世紀半ばのニューオーリンズ。マクレイは、<ヴードゥの悪魔>に魅せられた娘の様子を調べて欲しいと依頼された。監視を始めると、舞踏会帰りの娘が走る馬車から忽然と消えたり、衆人環視の中で二階から老判事が墜落死する不可解な事件が起きたのだ。
背景 晩年のカーはニューオーリンズを舞台にした三部作を書いているが、本書はその一作め(最後の未訳本)。怪奇趣味や不可能犯罪を愛した初期カーの特色は出ているが、それが物語の中で生きているわけではない。ストーリー・テラーとしての冴えも衰えているようだ。

邦題 『幻を追う男』
原作者 ジョン・ディクスン・カー
原題 Speak of the Devil(1994)
訳者 森英俊
出版社 論創社
出版年 2006/12/20
面白度 ★★
主人公 独自編集のラジオ・ドラマ集。長編「幻を追う男」と中編「誰がマシュー・コービンを殺したか?」、短編「あずまやの悪魔」(フェル博士登場のオリジナル版)の3本から構成されている。
事件 「幻を追う男」は1941年に8回にわたりBBCから放送された。第二近衛歩兵連隊所属のオースティン大尉は、1815年に開かれたリッチモンドの舞踏会で恋に落ちた。だがその女性から自画像のミニチュールを貰っただけだった。それが気球の不時着で偶然その女性に再会したと思いきや、女性は一年前に衆人環視の中で絞首刑になっていた、というのだ!
背景 なぜ絞首刑から生き延びたか、出入り不可能な屋敷でいかに殺人が行われたかという不可能興味で読ませるドラマで、良く言えば稚気に溢れた(悪く言えば子供騙しの)作品。

邦題 『つきまとう死』
原作者 アントニー・ギルバート
原題 And Death Came Too(1956)
訳者 佐竹寿美子
出版社 論創社
出版年 2006/1/20
面白度 ★★
主人公  謎解きはシリーズ探偵であるアーサー・G・クルック弁護士。「私の依頼人は皆無罪」というキャッチフレーズが口癖の中年男。
事件 アップルヤード夫人は、莫大な財産を持つ女主人レディ・ディングルのコンパニオンとして雇われた。彼女は夫を自動車事故で亡くすという暗い過去を持っていたが、そのディングル家で悲劇が起きた。女主人が遺言書を書き換えた後で脳卒中になり、窒息死させられたのだ!
背景 著者はクリスティやマーシュと同じく、英国コリンズ社の看板作家であったが、日本での翻訳は本書で三冊め。一家の長の遺産相続を巡るフーダニットで、王道を行くような設定だが、クリスティ作品に比べると、探偵にも物語にも華が感じられないのは残念。

邦題 『愚者は怖れず』
原作者 マイケル・ギルバート
原題 Fear to Tread(1953)
訳者 横井敬子
出版社 論創社
出版年 2006/2/20
面白度 ★★★
主人公 サウス・バラ男子中学校の校長ウィルフリード・ウェザロール。正義感溢れる中年男性で、あだ名は<ウェリントン>。妻は妊娠中。シリーズ探偵のロンドン警視庁主任警視へイズルリッグも登場するが、情報提供の仕事しかしておらず、今回は完全な脇役である。
事件 ウェザロールの鉄道貨物が途中で盗まれた。また馴染みの食堂主がいじめに合っていることを知った。理由を探ろうと、彼は自ら首を突っ込んでいった。背後にある組織は?
背景 著者の長編7作め。謎解き小説ではなく、社会派スリラーといった内容の作品。既訳のある『遥かなる復讐の旅』に連なる作品。主役のウェザロールの人物造形が巧み。良い意味の英国紳士として活写されている。背景となる第二次大戦後の経済事情、食料事情も興味深い。

邦題 『トフ氏に敬礼』
原作者 ジョン・クリーシー
原題 Salute the Toff(1941)
訳者 佐々木愛
出版社 論創社
出版年 2006/1/20
面白度 ★★
主人公 ハンサムで腕っ節が強く、貴族でありながらロンドンの貧民街イースト・エンドをこよなく愛するリチャード・ローリンソン卿。トフ氏と通称されるシリーズ・キャラクター。
事件 トフ氏を訪れたのは美人秘書のフェイ。彼女は、雇い主のドレイコートが姿を消してしまったので探してほしいと依頼した。トフ氏らは彼のフラットに押し入ってみると死体が見つかったのだ。ところがドレイコートはマンチェスターのホテルから電話を掛けていたことがわかり……。
背景 トフ氏シリーズは長編だけで58作あるそうだが、本書はシリーズ6作め(邦訳は2冊め)。通俗活劇ミステリーに近く、ロンドンの街中でやたら拳銃が発砲されるのは目障りだが、物語は小気味良く展開していて、まあ暇つぶしとしては合格点か。

邦題 『シャドウ・ゲーム』
原作者 ジョン・クリード
原題 The Day of the Dead(2003)
訳者 鎌田三平
出版社 新潮社
出版年 2006/2/1
面白度 ★★★
主人公 シリーズ・キャラクターの元英国秘密情報部員ジャック・ヴァレンタイン。ただしジャックの友人で元IRAの闘士リーアム・メロウズも、ジャックと同等な活躍をする。
事件 ジャックのもとに友人パオロが訪れ、ジャックは、ニューヨークで麻薬組織のボスに薬漬けにされている娘を救出し、ついでにボスを殺して欲しいと依頼された。殺人の要請は断るも、ニューヨークにいるリーアムや麻薬密売人ジーザスの協力で、ボスの屋敷に侵入するが……。
背景 『シリウス・ファイル』に続く著者の第二弾。前作は陰謀小説というか、プロットの面白さで読ませた作品であったが、本作はアクション小説に近く、プロットは単純で、迫力ある活劇描写でもっている。とはいえ血みどろの凄惨さが控え目なのは、英国作家らしい奥床しさの表れだろう。

邦題 『スリープ村の殺人者』
原作者 ミルワード・ケネディ
原題 The Murderer of Sleep(1932)
訳者 大沢晶
出版社 新樹社
出版年 2006/10/20
面白度 ★★
主人公 特にいないが、強いてあげれば謎の中年男グラント・ニコルソンか。
事件 グラントはスリープ村を目指してボートで川を遡っていた。そして、どうにか村の渡し場に着いてみると、そこには絞殺された司祭の死体があったのだ。なぜ殺人が起こり、どうしてグラントはこのひなびた村に移り住もうとしたのか。さらに隣人の車いすの老人や元大佐との関係は……。
背景 『救いの死』が一冊翻訳されている著者の邦訳二冊目。著者はミステリー黄金時代を担った一人で、フーダニット形式(誰が犯人かを推理する形式)で物語が展開する。著者の狙いは、探偵役が誰かよくわからない設定にしてラストの意外性を高めようとしたことにあろう。だが読者は誰を信用してよいかわからずに戸惑ってしまい、その趣向は成功しているとは言い難い。

邦題 『憑かれた鏡 エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談』
原作者 エドワード・ゴーリー
原題 The Haunted Looking Grass(1959)
訳者 柴田元幸他
出版社 河出書房新社
出版年 2006/8/20
面白度 ★★★★
主人公 独自のモノクローム線画が特徴の画家ゴーリーが編集した怪奇小説アンソロジー。
事件 作品は「空家」(A・ブラックウッド)「八月の炎暑」(W・F・ハーヴィ)「信号手」(C・ディケンズ)「豪州からの客」(L・P・ハートリー)「十三本目の木」(R・H・モールデン)「死体泥棒」(R・L・スティーヴンソン)「大理石のからだ」(E・ネスビット)「判事の家」(B・ストーカー)「亡霊の影」(T・フッド)「猿の手」(W・W・ジェイコブズ)「夢の女」(W・コリンズ)「古代文字の秘法」(M・R・ジェイムズ)の12本。挿画付き。
背景 過去に翻訳されている有名な作品ばかりを集めている。その意味では入門書的な編集で、ゴーリーの挿絵を除いては驚きはないものの、さすがに安心して楽しめる。

邦題 『最期の喝采』
原作者 ロバート・ゴダード
原題 Play to the End(2004)
訳者 加地美知子
出版社 講談社
出版年 2006/1/15
面白度 ★★★
主人公 中年の舞台俳優トビー・フラッド。若い頃は嘱望された俳優だったが、今は落ち目。妻とは離婚訴訟中だが、まだ妻に未練が残っている。妻は別の男と婚約している。
事件 トビーはブライトンで地方巡演を終わろうとしていた。そこに妻から連絡がはいった。妻の店をいつも見張っている不審な男を調べてほしいというものだった。妻に未練のあるトビーは、積極的に調査してみると、男は妻の婚約者が関係していた会社の従業員だったが……。
背景 著者の最新作(16冊め)。ゴダード作品の多くは、歴史が重要な背景となっているミステリーといってよいが、本作は、その歴史部分がごくわずかしかない。現在だけの時点で長い物語が展開するだけに、語りの天才ゴダードをもってしても、平板のそしりは免れない出来だ。

邦題 『レイヤー・ケーキ』
原作者 J・J・コノリー
原題 Layer Cake(2000)
訳者 佐藤耕士
出版社 角川書店
出版年 2006/5/25
面白度 ★★★
主人公 名無しのおれ。ロンドンでコカイン・ディーラーをしている29歳の青年。30歳をしおにこの稼業から足を洗おうと思っている。ストイックな生活で、ひたすら稼いできた。
事件 麻薬ディーラーとして秘かに活躍しているおれは、そろそろ引退を考えていた。そこにボスから、これを最後の仕事と二つの命令があった。一つは「古い友人の娘を探し出せ」で、もう一つは「エクスタシー二百万粒を売りさばけ」である。いずれも気乗りがしなかったが……。
背景 英国犯罪小説の新星の第一作。語り口が冗舌という欠点もあるが、登場人物の性格やコカイン・ディラーの生活をユーモラスに描き出す才能はたいしたもの。物語は後半コンゲームの話に発展し、それなりに面白いのだが、もう少し鋭い切れ味があれば傑作になったのに。

邦題 『剥がされた皮膚』
原作者 クリス・シムズ
原題 Shifting Skin(2005)
訳者 延原泰子
出版社 小学館
出版年 2006/12/1
面白度 ★★★
主人公 グレイター・マンチェスター警察殺人課警部のジョン・スパイサー。妊娠している恋人がいる。準主役はジョンの新しい同僚となった部長刑事のリック・サヴィル。
事件 マンチェスターでは、孤独な女性が殺され、剥がされた皮膚が被害者のそばに置かれているという猟奇殺人事件が起きていた。最初は胸と上腕の皮膚だけであったが、次は喉や大腿の皮膚までも剥ぎ取られていた。ジョンとリックはある営業マンに注目するが……。
背景 本邦初紹介となる警察小説だが、本書がシリーズ第二作というのが残念なところ。猟奇殺人を扱っているとはいえ、サイコ・サスペンスではないので読後感は悪くない。また主人公も作者も若いので、リーバス物ほど暗くないのも良い。ミステリーとしてのプロットはイマイチ。

邦題 『自分を殺した男』
原作者 ジュリアン・シモンズ
原題 The Man Who Killed Himself(1967)
訳者 伊藤星江
出版社 論創社
出版年 2006/7/20
面白度 ★★★★
主人公 零細企業の経営者アーサー・ブラウンジョンと結婚アシスタント社の経営者イースンビー・メロン。二人とも妻がいる。事件担当者は犯罪捜査部の警部カバデール。
事件 物語は、二人の男の生活が併行して語られる。ブラウンジョンは女房の尻に敷かれて頭が上がらない。一方メロンは、精力的ながら運まかせに生きているが、美人局に引っかかり窮地に陥った。ある日妻に腹を立てたブラウンジョンは、メロンに妻を殺させようとするが……。
背景 作家・評論家であるキーティングの『海外ミステリ名作100選』には、シモンズ作品は二冊採り上げられているが、本書はその中の一冊。アイルズ『殺意』のような倒叙ミステリー。無理な設定ながら、冒頭から皮肉な結末まで、飽きさせずに読ませるテクニックは冴えている。

邦題 『世界同時中継!朝まで生テロリスト?』
原作者 ボリス・ジョンソン
原題 Seventy-Two Virgins(2004)
訳者 高月園子
出版社 扶桑社
出版年 2006/10/30
面白度 ★★★
主人公 特にいない。強いて挙げれば自爆テロリスト側では首謀者のジョーンズ、人質側では保守党下院議員のロジャー・バーロウか。
事件 英国訪問中の米国大統領は本会議場でスピーチをすることになっていた。それに対してテロリストたちは自爆用の爆薬を身に付け、救急車に乗り込んで国会議事堂に向かい、大統領を人質にとろうとした。彼らは幸運に助けられ、警備の厳しい場内進入に成功するが……。
背景 保守党議員の書いたユーモア陰謀小説(政治風刺小説?)。ジャーナリスト出身のようだが、達者な筆使いにはビックリ。ミステリー的にはスイスイ議事堂内に入れてしまうのが難点だが、それでも最後は捻り業が見事に決まっている。保守党の単なる宣伝小説ではない。

邦題 『No.1レディーズ探偵社、引っ越しす』
原作者 アレグザンダー・マコール・スミス
原題 Morality for Beautiful Girls(2001)
訳者 小林浩子
出版社 ソニー・マガジンズ
出版年 2006/8/19
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『六つの奇妙なもの』
原作者 クリストファー・セント・ジョン・スプリッグ
原題 The Six Queer Things(1937)
訳者 水野恵
出版社 論創社
出版年 2006/10/20
面白度 ★★★
主人公 物語の主人公は元タイピストで20歳のマージョリー・イーストンだが、謎を解くのはスコットランド・ヤード犯罪捜査部の警部チャールズ・モーガン。
事件 マージョリーは現在の境遇に飽き足らず、霊媒師マイケルの家に住み込み、降霊会を手伝うことになった。すぐに霊媒としての能力に気づき始めるも、やがて幻覚を憶える。彼女の元婚約者は彼女を助けようと降霊会に紛れ込むが、なんとマイケルは毒殺されてしまったのだ。
背景 発表当時は確かに異色作として評価されたのではないかと思われるが、今読むとそれほどの目新しさはない。著者はスペイン内戦に参加して30歳で亡くなった”夭折の天才”のようだが、謎解きミステリーというよりは、サスペンス小説として楽しめた。

邦題 『元気なぼくらの元気なおもちゃ』
原作者 ウィル・セルフ
原題 Tough Tough Toys for Tough Tough Boys(1998)
訳者 安原和見
出版社 河出書房新社
出版年 2006/5/30
面白度 ★★★
主人公 風刺作家と言われる著者の短編集。奇想コレクションの一冊。
事件 収録作は「リッツ・ホテルよりでっかいクラック」(家の壁からクラックが続々出てきて……)「虫の園」(虫と対話する話)「ヨーロッパに捧げる物語」(集中一番ヘンナ話)「やっぱりデイブ」「愛情と共感」(これもかなりヘンナ話)「元気なぼくらの元気なおもちゃ」(精神分析医がヒッチハイカーを乗せるというまともな話)「ボルボ760ターボ設計上の欠陥について」「ザ・ノンス・プライズ」(幼児強姦魔と間違えられた主人公が刑務所内の創作教室で学ぶが……)の8本。
背景 ミステリー度は低いが、著者の短編「北ロンドン死者名簿」がHMM誌に載ったこともあり、リストに加えた。突飛な設定や意外性のある展開など、ヘンナ作家がいるものだ。

邦題 『ベイビー・ラブ』
原作者 デニーズ・ダンクス
原題 Baby Love(2001)
訳者 松本依子
出版社 早川書房
出版年 2006/7/15
面白度 ★★
主人公 フリーランスの記者ジョージーナ・パワーズ。30代。不審な自動車にはねられるも、元上司で現恋人に助けられる。だがそのトラウマで怖くてフラットから外に出られない。
事件 車に狙われたジョージーナの元に脅迫状が届いた。そして同僚の女性記者が爆破事件に巻き込まれて死亡した。なにか関係があるのか? ジョージーナは死亡記者が残したメモを調べると、そこには13人の女性の名があり、はやり脅迫状が送られていたのだ。事件の鍵は……。
背景 ミッシング・リンクが主題のサスペンス小説。人工中絶問題やデータベースからの個人情報漏洩といった今日的テーマを取り入れていて、それなりに読ませるが、欠点は、ちょっと変わった主人公に魅力がないこと。謎が安易に割れてしまうのも残念な点であるが。

邦題 『マンアライヴ』
原作者 G・K・チェスタトン
原題 Manalive(1912)
訳者 つずみ綾
出版社 論創社
出版年 2006/9/20
面白度 ★★
主人公 特にいない。強いて挙げれば謎の男イノセント・スミスか。
事件 ロンドン北部の丘陵地帯にある下宿屋ビーコンに、謎の男スミスが旧友を訪ねてきた。だがスミスには殺人未遂、強盗、重婚の嫌疑がかけられており、この下宿屋で私設法廷が開かれることになったのだ。過去の関係者の手紙などの証拠が開示され、意外な真相が……。
背景 チェスタトンの長編ミステリー。彼の長編ミステリーは『木曜日の男』と本書の二編らしい。私設法廷が舞台という設定は興味深いし、確かに逆説的な面白さもないことはないが、物語にサスペンスがほとんど感じられない。翻訳にも問題がありそうだが、私はごく一部の短編を除くとチェスタトン作品を楽しんだ記憶がない。どうも彼の作品は私の肌に合わないようだ。

邦題 『警鐘』上下
原作者 リー・チャイルド
原題 Tripwire(1999)
訳者 小林宏明
出版社 講談社
出版年 2006/2/15
面白度 ★★★
主人公 米軍憲兵隊の元少佐ジャック・リーチャー。家族も友人もなく、住所不定で車すら持っていない39歳の自由人。今回は元上司の娘で弁護士のジョディ・ガーバーも脇役で活躍する。
事件 フロリダでプール掘りをしていたリーチャーを私立探偵が探しにきた。何のため、誰の依頼なのか? ところが私立探偵が何者かに殺され、リーチャーは真相を探るためにニューヨークへ向う。義手の謎の人物が待っているのも知らず……。
背景 リーチャー・シリーズの第三弾。イギリス人の著者が書いたアメリカ流アクション小説というのが珍しい。冒頭から一気に物語に引き込まれるし、ラストの活劇も迫力がある。アクション小説としては及第点が与えられるが、敵側の人物はもう少し知的であってほしい。

邦題 『列のなかの男』
原作者 ジョセフィン・テイ
原題 The Man in the Queue(1929)
訳者 中島なすか
出版社 論創社
出版年 2006/3/20
面白度 ★★★
主人公 スコットランド・ヤードの警部アラン・グラント。シリーズ探偵の初登場作品である。脇役は、同巡査ウィリアムズと上司の同警視バーカー。
事件 評判のミュージカルの最終公演に並んでいた若い男が短剣で刺し殺された! 彼の前後にいた人を訊問すれば簡単に事件は解決する、とグラントは考えたが、被害者の身元も簡単にはわからなかった。でも、容疑者を特定したグラントはスコットランドに向うが……。
背景 テイがゴードン・ダヴィオット名義でコンテストに応募して受賞した作品。テイ名義で再版された。グラントの性格設定などは後年と同じで、当時のテイがすでに人物造形に優れた手腕を持っていたことがわかるが、犯人を指摘する際のミステリー的手腕には見劣りを感じる。

邦題 『密偵ファルコ 亡者を哀れむ詩』
原作者 リンゼイ・デイヴィス
原題 Ode to a Banker(2000)
訳者 田代泰子
出版社 光文社
出版年 2006/4/20
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのマルクス・ディディウス・ファルコ。騎士階級に昇格した元密偵。一人娘は歩行器を使って歩き始めた。
事件 ファルコに風刺詩集の出版話が持ち上がった。その気になって出版工房「黄金の馬」と交渉するも、工房のパトロンが殺されたのだ。行き掛かり上ファルコは捜査を担当するが、パトロンは銀行業も兼ねていた。犯人は金を借りた人物か、作家たちの中の一人か?
背景 シリーズ12作め。舞台は慣れ親しんでいるローマ。今回の舞台背景は出版業界と銀行業というわけで、時代風俗ミステリーの面白さに満ちている。典型的なフーダニット形式の語り口だが、まあ誰が犯人でも納得できるような作品だ。

邦題 『密偵ファルコ 疑惑の王宮建設』
原作者 リンゼイ・デイヴィス
原題 A Body in the Bath House(2001)
訳者 矢沢聖子
出版社 光文社
出版年 2006/11/20
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの密偵マルクス・ディディウス・ファルコだが、本書では家族(妻ヘレンや二人の義弟アエリアヌスとユスティヌス、ファルコの妹マイア、甥ラリウス)も活躍する。
事件 今回皇帝から命じられた仕事は、ブリタニアで建設中の新王宮の建設に関して、不正があるらしいので調査し、問題を見つけたら即刻に解決を図れ、というもの。ブリタニアには二度と行きたくないが、皇帝の命令とあればしかたない。家族を連れて建設現場に着いたが……。
背景 シリーズ12冊め。ヘレナに次女ソシアが生れて数ヵ月後の事件。物語の主舞台は第一作以来のブリタニアだが、第一作と比べるとファルコの境遇は大幅に変わっている。それは、ファルコが一匹狼ではなくファルコ・ファミリーとして活躍していることからも明らかだろう。

邦題 『封印の島』
原作者 ピーター・ディキンソン
原題 The Seals(1970)
訳者 井伊順彦
出版社 論創社
出版年 2006/6/20
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのロンドン警視庁警視のジェイムズ・ピブル。50代の警視だが、父親がノーベル賞受賞の科学者フランシスの助手をしていたり、妻メアリーがいるなどが本書でわかる
事件 ピブル警視のもとに、彼の父親の元上司で、老科学者であるフランシスから手紙が届いた。内容は、フランシスが滞在している、スコットランドの海に浮かぶ孤島に来て欲しいというもの。だがそこはカルト教団のような集団が運営している施設なのであった。
背景 ピブル・シリーズは全6作だが、本書はその3作め(6作めのみ未訳)。本書は既訳作品とは多少異なり、プロットは海洋冒険小説風なので、著者の作品にしては、比較的読みやすい。ただキリスト教に興味のない人間(私)には、やはり思想小説的展開の前半はかったるい。

邦題 『天使の鬱屈』
原作者 アンドリュー・テイラー
原題 The Office of the Dead(2000)
訳者 越前敏弥
出版社 講談社
出版年 2006/2/15
面白度 ★★★★
主人公 ウェンディ・アップルヤード。名前は”ピーターパン”より付けられた。親友ジャネットの紹介でヘンリーと結婚。しかし夫が浮気している現場を目撃してしまったため、ジャネット夫妻が住んでいる大聖堂のあるロシントンの館に居候する。20代後半の女性で、本編の語り手。
事件 ウェンディは、教会付属の図書館で働き始め、ふとしたきっかけで、半世紀前の謎の詩人に興味を持った。一方ジャネットの父親は認知症にかかり……。
背景 2000年のCWA最優秀歴史ミステリ受賞作。三部作"Requiem for an Angel"の第三作になる。前二作の内容をきちんと記憶していれば、本作終盤の落としどころはある程度予測がつくと思われるが、そうでなければラストの衝撃に驚くはずだ。語り口の上手さは特筆ものだ。

邦題 『チベットの薔薇』
原作者 ライオネル・デヴィッドスン
原題 The Rose of Tibet(1962)
訳者 小田川佳子
出版社 扶桑社
出版年 2006/10/30
面白度 ★★★★
主人公 画家を諦めて美術教師になったチャールズ・ヒューストン(当時27歳)。弟がインドで雪崩に合い生死不明となったため、調査のためにインドからチベットへ不法入国する。
事件 弟の生死が不明では保険が当面はおりない。チャールズは二人の女性との関係を逃避するためもあり、インドからチベットに向った。チベットでイギリス人に会ったという当地の若者を雇って苦心の末、チベットの尼僧院に辿り着いたが、やがて中国軍がチベットに進攻してきて……。
背景 久しぶりの翻訳となる著者の第二作。デュ・モーリアが「現代のライダー・ハガードか」と評したようだが、チベットへの潜入と脱出の描写など、まさに同感といったところ。ぐうたら男という、英国冒険小説の典型的な主人公の造形が秀逸。中盤のサスペンスがやや不足か。

邦題 『白薔薇と鎖』
原作者 ポール・ドハティ
原題 The White Rose Murders(1991)
訳者 和爾桃子
出版社 早川書房
出版年 2006/3/15
面白度 ★★★
主人公 本編の語り手であるロジャー・シャロット。盗みなどで絞首刑を宣告されたが、枢機卿の甥ベンジャミン・ドーンビーに助けられて部下になる。
事件 時代は16世紀前半、故スコットランド王ジェームズの元侍医セルカークはロンドン塔に幽閉されていた。枢機卿の要請でロジャーとベンジャミンはセルカークに会いにいくが、セルカークは密室状態の部屋で毒殺されていた。室内からは謎の詩が書かれた羊皮紙が見つかり――。
背景 歴史ミステリーが得意な著者の本邦初紹介作品。日本では不可能興味派の作家として紹介されることが多い。毒殺方法や暗号を扱った部分にはその片鱗があるが、歴史ミステリーとして読んだ方が楽しめる。ただ15-6世紀の英国歴史を知らないと(私のように)損するようだ。

邦題 『毒杯の囀り』
原作者 ポール・ドハティ
原題 The Nightingale Gallery(1991)
訳者 古賀弥生
出版社 東京創元社
出版年 2006/9/29
面白度 ★★★
主人公 酒好きで大食漢の検死官ジョン・クランストン卿と彼の書記を勤める天文学の好きなアセルスタン修道士。
事件 1377年のロンドン。幼いリチャード三世が即位したものの、政情は不安であった。そのような時、金貸しも営む貿易商のスプリング卿が自室で毒殺された。卿の部屋の外は、人が通れば必ずわかる鳴き廊下で、執事以外はそこを通った者はいないという。だが執事は縊死していたのだ。
背景 歴史ミステリーの第一人者ドハティがポール・ハーディング名義で発表したシリーズ物の第一作。時代設定に相応しい物語となっているものの、期待していた不可能興味溢れる謎の設定と解決はいずれも平凡。主人公らの魅力も、カドフェルと比べるとまだまだ不足気味だ。

邦題 『蜘蛛の巣』上下
原作者 ピーター・トレメイン
原題 The Spider's Web(1997)
訳者 甲斐萬里江
出版社 東京創元社
出版年 2006/10/27
面白度 ★★★★
主人公 7世紀のアイルランドで、法廷弁護士や裁判官として活躍する美貌の修道士フィデルマ。マンスター王の妹でもある。ブリテン島出身のエイダルフ修道士が助手を勤める。
事件 時は紀元666年(日本では天智天皇末期)、舞台は南アイルランド。その地の氏族の族長が殺され、現場には三重苦の障害者が血まみれの刃物を持っていた。誰もが、犯人はその若者と信じたが、派遣されたフィデルマは関係者の話を聞いていくうちに疑問を持ち……。
背景 『アイルランド幻想』で本邦初紹介された著者のフィデルマ・シリーズ初紹介作品(原書のシリーズ第5作)。フィデルマは魅力的な女性に創造されているし、当時の風俗・風景描写も興味深い。カドフェル・シリーズの再来という期待を抱かせるが、物語りが少し長過ぎるか。

邦題 『シティ・オブ・タイニー・ライツ』
原作者 パトリック・ニート
原題 City of Tiny Lights(2005)
訳者 東野さやか
出版社 早川書房
出版年 2006/1/31
面白度 ★★★★
主人公 ロンドンで私立探偵を営むトミー・アクタル。パキスタン人の父とインド人の母を持ち、ウガンダで育ったもののイギリスへ移住。その後アフガニスタンで聖戦士としてソ連軍と戦った、という経験の持ち主。父の現職は画家で、弟はタクシー会社を経営している。
事件 ある日、トミーの事務所に黒人の娼婦が訪ねてきて、行方不明となった同僚を探して欲しいと頼まれた。調査してみると、なんと下院議員殺害事件に関係していることがわかったのだ。
背景 ミステリー非専門作家のハードボイルド小説。ロンドンの移民社会を主舞台にして、変人・奇人が数多く登場するが、なんといっても主人公の生き方、考え方が面白い。この種の探偵は酒やヤクに耽り、捜査をしない人物が多いが、本書はきちんとミステリーになっているから驚きだ。

邦題 『血と肉を分けた者』
原作者 ジョン・ハーヴェイ
原題 Flesh and Blood(2004)
訳者 日暮雅通
出版社 講談社
出版年 2006/5/15
面白度 ★★★
主人公 ノッティンガムシャー警察の元警部フランク・エルダー。50代前半。妻や娘(16歳)とは離れて一人コーンウォールに住んでいる。
事件 エルダーは引退したものの、14年前に失踪して行方不明になった少女スーザンの悪夢に悩まされていた。そんな折、スーザン失踪の直前に起きた少女強姦殺人の犯人の一人が仮釈放された、という話をエルダーは聞いた。そこでエルダーはスーザン失踪を再調査するが……。
背景 2004年のCWAシルバーダガー賞受賞作。この著者の作品は、すでにレズニック警部シリーズが4冊訳出されている。警察小説とサイコ・サスペンスをミックスしたような作品だが、親子や夫婦の関係といった普通小説的な部分に力を入れていて、警察捜査小説としては物足りない。

邦題 『楽園への疾走』
原作者 J・G・バラード
原題 Rushing to Paradise(1994)
訳者 増田まもる
出版社 東京創元社
出版年 2006/4/25
面白度 ★★
主人公 一人は16歳の少年ニール・デンプシー。継父の勤務の関係でハワイに来た。もう一人は元医者の40代の女性バーバラ・ラファティ。アホウドリ救済運動を立ち上げる。
事件 ニールは、どういうわけかバーバラに無性に惹きつけられ、彼女が主宰した、タヒチ沖に浮かぶサン・エスプリ島でのデモに参加した。そしてフランス軍によって負傷させられたが、その環境保護運動は世界的な注目を集めたのである。だがなにかが少しづつ狂い始め……。
背景 ミステリー的作品(『コカイン・ナイト』など)を書いているSF作家の作品。確かにSF的な舞台設定は皆無だし、殺人も起こるので、人間の狂気を扱ったサスペンス小説として読めないこともない。とはいえミステリー・ファンが期待する謎解き的物語展開はほとんど無い。

邦題 『ロシア軍 殺戮指令』上下
原作者 ジェイムズ・バリントン
原題 Overkill(2004)
訳者 鎌田三平
出版社 二見書房
出版年 2006/6/25
面白度 ★★
主人公 さまざまな人物が登場するが、一人だけ挙げるとすれば、イギリス秘密情報局(SIS)工作員のポール・リフター。
事件 ロシア領空を侵犯したアメリカの偵察機がロシアの迎撃を受けてイギリスの基地に緊急着陸した。何を偵察していたのか? 一方同時期にロシアのイギリス大使館書記官が拉致されて惨殺された。調査を始めたリフターは、二つの事件に関係のあることに気づき……。
背景 訳題や装丁からは軍事シミュレーション小説を想像してしまうが、中味は国際陰謀小説といった方が妥当だ。ただし陰謀小説としてはプロットが安易すぎるし、ロシアとアメリカの大統領の無能さには呆れてしまう。リフターの活躍はそこそこ楽しめるが。

邦題 『善意の殺人』
原作者 リチャード・ハル
原題 Excellent Intentions(1938)
訳者 森英俊
出版社 原書房
出版年 2006/8/1
面白度 ★★
主人公 法廷ミステリーなので、強いてあげれば追訴側弁護士ブレントンと被告側弁護士ヴァーノン、判事スミス卿となるが、目立った活躍はしていない。ただし捜査を担当するスコットランド・ヤードの警部フェンビーはシリーズ探偵らしい。
事件 嫌われ者の富豪が、嗅ぎ煙草に仕込まれていた青酸カリで殺された。誰がどのタイミングで毒を仕込んだのか。被告の名前を読者に示さずに、裁判物語は判決まで進んでいく。
背景 著者が読者に仕掛けるという一種の叙述ミステリー。「被告」が誰かを明らかにしない手法は珍しいが、でもこれはフーダニット・スタイルとほとんど変わらない。途中のサスペンス不足が残念だが、これは名探偵を登場させなかったためか。ラストの捻りは驚きだが……。

邦題 『死者の季節』上下
原作者 デヴィット・ヒューソン
原題 A Season for the Dead(2003)
訳者 山本やよい
出版社 ランダムハウス講談社
出版年 2006/10/1
面白度 ★★
主人公 ローマ市警の刑事ニック・コスタ(27歳)。脇役は彼のパートナーであるベテラン刑事ルカ・ロッシと彼らの上司レオ・ファルコーネ警部。ニックの父親は共産党員である。
事件 ヴァチカン図書館に一人の男が乱入し、若い女性の前で人間の生皮を広げ「聖バルトロメオ」と叫んだ。男は衛兵に射殺されたが、事件を知ったコスタとロッシは男の言葉に従いサン・バルトロメオ教会に向った。そしてそこで二人が見たものは、残虐な二つの他殺死体であった」。
背景 舞台はローマ、冒頭にショッキングな事件が起きる。『ダ・ヴィンチ・コード』のような陰謀小説を予想するが、1/3を過ぎると警察小説のような展開となり、残り1/3はロマンス小説ような雰囲気で終る。小説の軸足がきちんとしていないのが弱く、長い割には散漫な印象を持つ。

邦題 『真夜中への挨拶』
原作者 レジナルド・ヒル
原題 Good Morning Midnight(2004)
訳者 松下祥子
出版社 早川書房
出版年 2006/2/15
面白度 ★★★★
主人公 中部ヨークシャ警察のアンディ・ダルジール警視が率いるチームの面々だが、今回一番活躍するのは、やはり同警察の主任警部ピーター・パスコーだ。
事件 内側から鍵の掛かった書斎で、頭を銃で吹き飛ばされた死体が見つかった。自殺と思われたが、普段現場に足を運びたがらないダルジールが来て、強く自殺を示唆したのだ。だが被害者の父も十年前に似た状態で自殺していたため、疑念をもったパスコーは調査をすると……。
背景 ヒルの最新作。前ニ作で大活躍したハット・ボウラー刑事の後日談として読めないこともないが、本作は、ボウラー三部作の三作めというよりは独立した作品だろう。謎はダルジールの消極的な態度と密室であるが、なんといっても著者の語り口の魅力で読まされてしまう。

邦題 『白昼の闇』
原作者 クリストファー・ファウラー
原題 City Jitters(1986)
訳者 高橋恭美子・豊田成子・山田久美子
出版社 東京創元社
出版年 2006/6/20
面白度 ★★★
主人公 ショート・ショート風短編10本(ただし10本は主人公が同じで、一つの短編としても読める)と10本のホラー短編から構成されている。
事件 ショート・ショートは「シティリンク○」(○には1から10までの番号)というもので、そこで扱ったテーマを基にして、新たに10編の短編が書かれた。それらの短編は「左の道」(ビルの駐車場から出られない!)「もうまもなく」「スカイ・マスター」「ナイトクラブ」「虎の牙」「友が消えた夜」「彼女の至福のひととき」「浄化」「なにかがおかしい」「むなしさが募るとき」である。
背景 墓地に立ち込める霧の中ではなく、今日的な都会の恐怖を見つけているのが面白い。ホラーの定義を拡大するという意図はよくわかるが、後半の短編はいささか息切れしている。

邦題 『停まった足音』
原作者 アーサー・フィールディング
原題 The Footsteps That Stopped(1926)
訳者 岩佐薫子
出版社 論創社
出版年 2006/7/20
面白度 ★★
主人公 捜査担当はロンドン警視庁の主任警部ポインターと「デイリー・クーリア」紙特派員ウィルモット、トウィッケナム警察署長ハヴィランドの三人だが、謎を解くのはポインター。
事件 タンジー夫人という中年の人妻が、椅子に座ったまま心臓を撃ち抜いて死んでいた。近くには夫人の指紋がついた拳銃があり、争そった形跡はなし。自殺か事故か、はたまた他殺か? 散歩中の夫人の背後に、誰かの足音がしたというメイドの証言は何を意味するのか?
背景 戦前より何回も出版予告されながら、出版されずに<幻の傑作>と言われた作品。乱歩が「ヴァン・ダインが推奨した英国の九傑作」と書いたことも<幻の傑作>の一因となった。結論からいえば、中盤のサスペンス不足が致命的で、幻のままで終った方が良かった作品。

邦題 『死と踊る乙女』上下
原作者 スティーヴン・ブース
原題 Dancing with the Virgins(2001)
訳者 宮脇裕子
出版社 東京創元社
出版年 2006/7/28
面白度 ★★★★
主人公 ピーク地方の架空の町イードゥンデイルのE地区警察本部に勤める地元出身の刑事ベン・クーパーとクーパーを飛び越えて臨時部長刑事となったダイアン・フライ。
事件 リンガム荒野にそびえたつ遺跡<九人の乙女岩>で、サイクリングをしていた女性の惨殺死体が発見された。6週間前にはナイフで重傷を負った女性も見つかっている。女性連続殺人事件なのか? 発見者の自然保護官や近くの住民から聞き込み捜査が始まるが……。
背景 クーパー&フライ・シリーズの第二作。第二作なので、第一作『黒い犬』ほどの強い印象は受けないが、フーダニットの複雑なプロットも、巧みな風景・風俗描写も楽しめる。前半の展開がいささか緊張感に欠けているのが惜しまれる。主人公の二人の関係も進展していない。

邦題 『ひよこはなぜ道を渡る』
原作者 エリザベス・フェラーズ
原題 Your Neck in a Noose(1942)
訳者 中村有希
出版社 東京創元社
出版年 2006/2/24
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのトビー・ダイク(犯罪ジャーナリスト)とジョージのコンビ。ただし本書では、主役はトビーで、ジョージは最後の方でしか活躍しない。
事件 旧友ジョンの誘いで、マロウビー村にある彼の家を訪ねたトビーは、書斎で死んでいるジョンを見つけた。格闘の痕や血痕・弾痕まであるのに、ジョンは心臓の病死であることがわかったのだ。被害者は誰なのか? ジョンは加害者なのか?
背景 シリーズ第5作にしてラストとなる作品。<死体なしの殺人>と<殺人なしの死体>というプロットは面白いが、これほどの複雑な設定では、やはり無理な解決が目立ってしまう。3年後の次作では謎解き小説からサスペンス小説作家に転向しているが、それは正解というべきだろう。

邦題 『失われた時間』
原作者 クリストファー・ブッシュ
原題 The Case of the Missing Minutes(1937)
訳者 青柳伸子
出版社 論創社
出版年 2006/11/30
面白度 ★★★
主人公  会社の財務担当重役だが、著述家で私立探偵もするというルドヴィック・トラヴァース。シリーズ探偵である。協力者は親友でロンドン警視庁の警視ジョージ・ウォートン。
事件 ルドヴィックは姉から、元召使の変事を調査してほしいと頼まれた。元召使が仕えているお屋敷は老人と孫娘の二人で生活しているが、夜になると何者かの悲鳴のようなものが聞こえるというのだ。ところが彼がその屋敷を訪ねてみると、老人が殺された直後で……。
背景 久しぶりのブッシュの邦訳(5冊め)。これまでの訳書はすべてアリバイ崩しの地味な作品であったが、本書も同趣向の作品(後年の作品はアリバイ・トリック一辺倒ではないらしいが)。本作では心理的トリックを巧みに使っているものの、偶然の作用が強すぎないか?

邦題 『闇に葬れ』
原作者 ジョン・ブラックバーン
原題 Bury Him Darkly(1969)
訳者 立樹真理子
出版社 論創社
出版年 2006/10/20
面白度 ★★★
主人公 特にいない。謎の解明を手掛けるのは、デイリー・グローブ紙の記者ジョン・ワイルドと歴史家で大学講師メアリー・カーリン、東ドイツの細菌学者エリック・ベックの三人。
事件 キャス渓谷でのダム建設が実行されてしまうと、18世紀の芸術家で、一部では奇人とも天才とも評されるレイルストーンの墓はダムの底に沈んでしまう。墓のある納骨室には未発表の作品も埋められている。そこで関係者が納骨室に潜入したが、不気味な笑い声が聞こえ……。
背景 実に久しぶりの著者の邦訳4作め。既訳作品はサスペンス+ホラー仕立ての作品ばかりだが、本書も同じような語り口、似たようなプロットになっている。巻末の解説で宮脇氏が「ジャンルが混じり合っているが、溶け合っているのではない」と述べているのが示唆に富んでいる。

邦題 『再起』
原作者 ディック・フランシス
原題 Under Orders(2006)
訳者 北野寿美枝
出版社 早川書房
出版年 2006/12/15
面白度 ★★★★
主人公 隻腕(筋電義手を装着)の調査員シッド・ハレー。四度めの登場。現在は38歳で、英国癌研究センターの研究員でオランダ人のマリーナ・ファン・デル・メールが恋人。
事件 ハレーは、上院議員から持ち馬が八百長に利用されていないか調査を依頼される。一方その持ち馬に乗っていた騎手が射殺され、その騎手と諍いのあった調教師が自殺死らしき状態で見つかった。ハレーは自殺説に疑問をもったが、ハレーの恋人が脅迫されて……。
背景  断筆を宣言したフランシスの「再起」作品。妻との共作という噂を否定するために書かれたらしいが、これまでの高レベルの作品群と遜色の無い出来栄え。緊迫感、巧みな語り口があり、安心して読書の楽しみが得られる。85歳でこれほどの作品が書けるとは脱帽だ。

邦題 『証拠は眠る』
原作者 R・オースティン・フリーマン
原題 As a Thief of the Night(1928)
訳者 武藤崇恵
出版社 原書房
出版年 2006/3/16
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの科学者探偵ジョン・イヴリン・ソーンダイク博士。法医学分野の第一人者だが、弁護士の資格もある。ただし物語の主人公は、語り手の弁護士ルパート。
事件 ルパートの幼馴染バーバラの夫が急死した。元々病弱な体質で長らく療養していたが、急死は不自然である。警察の調査が始まり、砒素による毒殺と結論付けられた。容疑者は家族や友人に限られたが、毒殺方法は不明。ルパートは真相究明をソーンダイクに依頼した。
背景 ソーンダイク・シリーズの11作め。欧米ではこぞってフリーマンの代表作に挙げられている作品。科学捜査から思い浮かぶ技術的で退屈な描写は少なく、サスペンスフルな語り口にビックリ。毒殺方法は当時(1920年代)なら可能なものだけに、今読むと一種の盲点をついている。

邦題 『知りすぎた女』
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 Two Women(2003)
訳者 松本剛史
出版社 新潮社
出版年 2006/3/1
面白度 ★★
主人公 二人の女性。一人は国際会計事務所の重役ジョン・カーヴァーの妻ジェーン・カーヴァーで、もう一人はジョンの愛人である経済記者アリス・ベリング。
事件 ジョンの義父が経営する国際会計事務所で、ジョンは、義父がマフィアのために不正を行なっていることを突き止めた。だがその直後義父は疑問の多い事故で亡くなり、ジョンも謎の交通事故で死亡した。ジョンの謎解きを手伝ったアリスは、ジェーンにも協力を頼むが……。
背景 著者の非シリーズ物の一冊。基本は経済サスペンス小説だが、後半は二人の女性の闘いがメインになる。”腐っても鯛”の好例のような作品で、なんとなく読まされてしまうが、これまでの著者の作品に比べると、細部のリアリティが希薄になっている点が気になる。

邦題 『ホームズ二世のロシア秘録』
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 The Holmes Factor(2005)
訳者 日暮雅通
出版社 新潮社
出版年 2006/10/1
面白度 ★★
主人公 シャーロック・ホームズの息子であるセバスチャン・ホームズ。本事件当時(1913年)に24歳という設定。チャーチルの依頼を受けてロシア情勢を探ることになる。
事件 セバスチャンは新聞記者を装い、単身ロシアに潜入した。すぐに皇帝の秘密警察に捕まってしまうが、ペテルスブルグの英国大使館付き陸軍武官ブラックの助けで釈放される。やがてスターリンと接触し、ロマノフ王朝の崩壊に関する情報を得ようとするが……。
背景 ホームズの息子が活躍する作品の第二弾。前作の舞台ははアメリカだったが、今回は帝政末期のロシア。歴史上の人物が数多く登場するので、”外套と短剣”型の古いスパイ小説であるとともに、歴史ミステリーの雰囲気もある。アイディアはともかく、プロットはつまらない。

邦題 『溺愛』
原作者 シーリア・フレムリン
原題 Possession(1969)
訳者 上杉真理
出版社 論創社
出版年 2006/2/20
面白度 ★★★
主人公 ロンドンに住む主婦クレア・アースキン。本編の語り手の中年女性。長女サラと次女ジャニス、夫ラルフの四人家族で生活している。
事件 クレアは、長女が婚約したとの手紙を貰った。相手は31歳の会計士マーヴィン・レドメインで、サラとは十歳以上も年が離れている。一抹の不安はあったが、マーヴィンの母親は何故か息子を溺愛していた。そして母親の干渉で一度は婚約が破棄されたのだが……。
背景 ドメスティック・サスペンス小説が得意な著者の第7作。身近にある恐怖を巧みに取り上げているが、レンデル作品を知ってしまった今となっては、怖さが不足している。やはり病的なサスペンスが欲しいところだ。まあ、そこが著者の独自性でもあるのだが。

邦題 『鼻のある男 イギリス女流作家怪奇小説選』
原作者 ローダ・ブロートン他
原題 日本独自の編集(2006)
編訳者 梅田正彦
出版社 鳥影社
出版年 2006/12/20
面白度 ★★★
主人公 19世紀後半から20世紀前半の、いわゆる「怪奇小説の世紀」に活躍した英国女性作家の怪奇小説を集めた短編集。中編1本と短編7本から構成されている。
事件  収録作品はR・ブロートンの「鼻のある男」(表題作だが、そう特徴のある作品ではない)、E・ネズビットの「すみれ色の車」、L・ボールドウィンの「このホテルには居られない」、D・K・ブロスターの「超能力」、H・D・エヴェレットの「赤いブラインド」、A・エドワーズの「第三の窯」、C・ウェルズの「幽霊」、M・シンクレアの「仲介者」(本作のみ中編)の8本。
背景 怪奇小説としては古く正統的なものが多い。とはいえミステリーとは異なり、古さを感じてもそれが大きな欠点にならないのは、まさに怪奇小説だからであろう。

邦題 『フォーチュン氏を呼べ』
原作者 H・C・ベイリー
原題 Call MR. Fortune(1920)
訳者 文月なな
出版社 論創社
出版年 2006/5/20
面白度 ★★
主人公 レジナルド・フォーチュン。文学修士と医学学士、化学学士の肩書きを持ち、現在はロンドン郊外のウェストハンプトンにある父親の診療所で外科医として働いている。病理学にも造詣が深い。初登場時は35歳か。丸顔。ワトスン役はCIDのローマス部長やベル警視。
事件 6本の短編より構成されている。「大公殿下の紅茶」「付き人は眠っていた」「気立てのいい娘」「ある賭け」「ホッテントット・ヴィーナス」「几帳面な殺人」の6本。
背景 フォーチュン氏物の第一短編集。最後の短編には、後年レジナルドの妻となる舞台俳優のミス・ジョーンズが出てくる。ミステリー黄金時代の幕開けである1920年に出版されたという歴史的観点からは注目すべき短編集だが、いずれの短編も完成度は高くない。

邦題 『魔王の足跡』
原作者 ノーマン・ベロウ
原題 The Footprints of Satan(1950)
訳者 武藤崇恵
出版社 国書刊行会
出版年 2006/1/20
面白度 ★★★
主人公 謎を解くのは、ウィンチャム警察の警部ランスロット・カロラス・スミスと同警察の警視ブラックラー、巡査部長ビル・ポインター、州警察本部長ゴームズビー大佐の四人。
事件 デヴォン州の田舎町のある雪の朝、不可思議な蹄の足跡が多数見つかった。それは百年ほど前に大騒ぎとなった悪魔の足跡のようだった。町民がその足跡をたどると、野原の真ん中に聳える木へと続いていたが、その木には男の死体がぶら下がり、蹄の足跡は忽然と消えていた!
背景 不可能犯罪派の著者の本邦初紹介作品。生まれはイギリス人だが、長年ニュージーランドなどで生活していたそうだ。雰囲気は英国ミステリーそのものなので、リストに含めた。語り口は悪くないが、足跡の謎は平凡。時代を19世紀に設定すれば、動機などは納得したのだが。

邦題 『紳士同盟』
原作者 ジョン・ボーランド
原題 The League of Gentlemen(1958)
訳者 松下祥子
出版社 早川書房
出版年 2006/6/15
面白度 ★★
主人公 退役した元少佐のグレゴリー・ヘムリングソン。銀行強盗チームのリーダー。
事件 ヘムリングソンは、不名誉な事情で退役したスペシャリストの元軍人を9人召集した。銀行を襲撃し、一人最低でも十万ポンドを獲得しようと提案したのだ。最初は半信半疑だった男たちも緻密な計画に納得し、まずは軍隊の訓練学校から武器を盗むことから始まった――。
背景 1960年に制作された映画(B・ディアデン監督、主演J・ホーキンズ)の原作本。映画の詳細は覚えていないが、ユーモラスな集団犯罪映画と記憶している。本書も集団犯罪小説で、基本的プロットは同じようだが、英国流ユーモアはずっと控え目で、映画とは雰囲気が異なっている(特に結末部分)。まあ、原作の欠点を修正した映画脚本の方が面白いのは当然か。

邦題 『シリアル・キラーズ・クラブ』
原作者 ジェフ・ポヴェイ
原題 The Serial Killers Club(2006)
訳者 佐藤絵里
出版社 柏艪舎
出版年 2006/9/10
面白度 ★★
主人公 連続殺人者「バーニーの孫息子」になりすまった名無しのおれ。連続殺人者ばかりが集まるシリアル・キラーズ・クラブ内では、ダグラス・フェアバンクス・ジュニアを名乗る。
事件 おれはシカゴにあるシリアル・キラーズ・クラブに潜り込んだ。ところがFIB捜査官に簡単におれの正体がばれて、彼の協力者となってある仕事をすることになった。仕事は順調に進んでいたが、三百人近くを殺しているという殺人者ケンタッキー・キラーが現れ……。
背景 連続殺人者ばかりが登場するヘンな犯罪小説。ブラック・ユーモアの味付けをしているので、そこそこ楽しめるが、ミステリー・ファンとしては、ケンタッキーが誰かという謎がチャチすぎるのが残念なところ。著者がフーダニットを書く気がないのだから、文句を言ってもしかたないが。

邦題 『クリスマスに死体がふたつ』
原作者 ジェイニー・ボライソー
原題 Buried in Cornwall(1999)
訳者 山田順子
出版社 東京創元社
出版年 2006/5/12
面白度 ★★★
主人公 コーンウォールのマーゾルに住む画家ローズ・トレヴェリアン。最愛の夫を亡くして一人暮らし。キャンボーン署の警部ジャック・ピアースは元恋人だが、いまだに未練があるらしい。
事件 廃坑でスケッチをしていたローズは女性の悲鳴を聞いた。驚いて警察に通報するも、捜索は空振りに終った。ところがローズが付き合って間もない芸術家の元恋人が死体で発見される。さらにジャックが廃坑を再調査すると、白骨死体が見つかったのだ。二つの死体の関係は?
背景 ローズ・シリーズの第三作。本シリーズの特色は、コーンウォール地方の風物・人間が巧みに描かれていることだが、本作も例外ではない。とはいえ本作ではローズを始めとする中年男女の恋愛問題が興味の中心で、それはそれで面白いのだが、謎解きはやはり平凡だ。

邦題 『殺しの仮面』上下
原作者 ヴァル・マクダーミド
原題 The Torment of Others(2004)
訳者 宮内もと子
出版社 集英社
出版年 2006/4/25
面白度 ★★★★
主人公 架空の都市ブラッドフィールド市警の女性警部キャロル・ジョーダン。保安精神科病院の医師で心理分析官のトニー・ヒルがキャロルを助ける。
事件 ドイツでの辛い任務を終えたキャロルは、新たに重犯罪専門の特捜班チーフに命じられた。さっそく児童誘拐事件の見直しを始めるが、そこに娼婦殺人が起きたのだ。その殺し方は、保安精神科病院に入院中の男のそれによく似ていた。どんな関係があるのか?
背景 キャロル&トニー・シリーズの第4作。舞台や扱う事件などは第1作に似ている。根本のアイディアは、本書の中にも書かれているように、ジョン・バカンの『三人の人質』からの借用であるが、まあ許そう。問題があるとすれば、囮捜査がかなり杜撰なことだが……。

邦題 『花崗岩の街』
原作者 スチュアート・マクブライド
原題 Cold Granite(2005)
訳者 北野寿美枝
出版社 早川書房
出版年 2006/3/15
面白度 ★★★
主人公 スコットランドのアバディーンにあるグランビアン警察本部の部長刑事ローガン・マクレイ。助手役として同婦警のジャッキー・ワトスンも活躍する。
事件 職務中の怪我で一年間休職したローガンが復帰した最初の仕事は、3ヶ月前に行方不明になっていた幼児が水路で見つかった事件。ところが、それが引き金となり、他の幼児が行方不明となったり、新たな死体が見つかったのだ。同一犯人の仕業なのか?
背景 スコットランドを舞台にした警察小説。同じくスコットランドを舞台にした、ランキンの描くリーバス物に雰囲気は似ているが、人間的な魅力ではリーバスに一日の長がある。緻密な捜査活動の描写が少ないのも残念だが、マクレイのスーパーマン的活躍はかなり楽しめる。

邦題 『ラビリンス』
原作者 ケイト・モス
原題 Labyrinth(2005)
訳者 森嶋マリ
出版社 ソフトバンククリエイティブ
出版年 2006/9/15
面白度 ★★★
主人公 二つの物語が数章おきに交互に語られる。現代の物語の主人公は発掘作業ボランティアのアリス・タナーで、13世紀の物語の主人公は家令の娘アレース。
事件 2005年フランス南部の山で作業していたアリスは、洞窟の中で骸骨2体を発見した。そこには迷路の模様が刻まれた指輪が残っていた。何を意味するのか? 一方1209年フランス南部の町で、アレースは父親から指輪と3つの書に関する秘密を聞いた。二つの物語の行方は?
背景 現代の物語は秘宝を探す冒険小説で、過去の物語は十字軍とカタリ派の宗教戦争を扱った歴史小説。前者にはミステリー的な謎もある。時間を隔てた二つの物語がいかに交わるかというのが最大の興味だが、これをファンタジーで解決しようとしたのはいただけない。

邦題 『暁への疾走』
原作者 ロブ・ライアン
原題 Early One Morning(2002)
訳者 鈴木恵
出版社 文藝春秋
出版年 2006/7/10
面白度 ★★★
主人公 主な主人公は三人。一人目は英国人のウィリアムズで、高名な英国人画家のお抱え運転手兼レーサーである。二人目はその画家の愛人で、後にウィリアムの恋人となるフランス人イヴ・オービク、三人目はフランス人レーサーのロベール・ブノワ。
事件 ウィリアムズとロベールは実在のレーサー。その彼らがイギリス情報部に協力してナチ支配下のフランスで、レジスタンス組織の一員として活躍するが、仲間の裏切りに会い……。
背景 著者は童話をモチーフにした犯罪小説を3冊書いているが、方向転換したのか本書は冒険スパイ小説。一つのレジスタンスを描くという冒険小説スタイル(マクリーンのような冒険小説)とは異なるが、細かなシーンの積み重ねで当時の抵抗運動を語るスタイルはそれなりに興味深い。

邦題 『抹殺部隊インクレメント』
原作者 クリス・ライアン
原題 The Increment(2004)
訳者 伏見威蕃
出版社 早川書房
出版年 2006/7/31
面白度 ★★★★
主人公 元SAS隊員のマット・ブラウニング。現在はスペイン南部でレストラン兼バーを経営している。マットの恋人は元隊員で友人の妹ギル。
事件 マットは、英国情報部SISから、英国の製薬会社の薬品を密造しているベラルーシの工場を破壊せよという極秘任務を示された。マットの銀行口座は、すでにSISが凍結していたから受けざるをえない。彼は製薬会社の女性セキュリティ責任者とともに、ベラルーシに赴くが……。
背景 前作『テロ資金根絶作戦』に続くマットが主人公の作品。本書の結末を読むと、どうやらシリーズ化されそうだ。ご都合主義の多い冒険小説だが、政府組織の「インクレメント」に一匹狼としてどう戦うかという展開は面白いし、二転、三転する終盤の迫力はなかなかのものだ。

邦題 『逃亡のSAS特務員』
原作者 クリス・ライアン
原題 Blackout(2005)
訳者 伏見威蕃
出版社 早川書房
出版年 2006/12/15
面白度 ★★★
主人公 SAS隊員のジョシュ・ハーディング。冒頭より記憶喪失者として登場するので、アフガニスタンでアルカイダ掃討作戦に従事していたという経歴以外は不明である。
事件 そのジョシュは、アリゾナの砂漠で瀕死の重傷で見つかった。そばには射殺された少年の死体があった。ジョシュが撃ったのか? からくも女医に助けられたジョシュだが、記憶喪失のため真相がわからない。だが次々にジョシュは襲われて……。
背景 著者の10冊め。SAS隊員が主人公という従来の作品と同工異曲の内容だが、主人公を記憶喪失者にしたのが前半の展開を意外性溢れるものにしている。前例(バグリイの『原生林の追撃』など)はあるものの、上手い設定だ。前半傑作! という典型的な作品か。

邦題 『血まみれの鷲』
原作者 クレイグ・ラッセル
原題 Blood Eagle(2005)
訳者 北野寿美枝
出版社 早川書房
出版年 2006/11/30
面白度 ★★★
主人公 ドイツ・ハンブルク州警察の第一警視ヤン・ファーベルと彼の部下4人。ヤンは離婚して独り身だが、犯罪心理学者ズザンネ・エックハルトに惹かれていく。
事件 鷲の翼を模したように、抉り出された肺が両肩に置かれていた女性の死体が見つかった。同時に”シュフェンの息子”と名乗る犯人から挑戦状といえるメールがファーベル宛に届く。明らかに連続猟奇殺人だ。やがてトルコ系マフィアや謎の集団が浮かび上がるが……。
背景 ジャンルとしては警察小説だが、犯罪小説の要素もかなり含まれている。例を挙げれば、スペインなどを舞台にしているロバート・ウィルスンの警察小説に近いか。迫力ある語り口は新人らしからぬ出来だが、主人公の推理の切れ味がいささか鈍いのが残念だ。

邦題 『影と陰』
原作者 イアン・ランキン
原題 Hide & Seek(1990)
訳者 延原泰子
出版社 早川書房
出版年 2006/4/30
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのグレイト・ロンドン・ロード署の警部ジョン・リーバス。妻子と別れて孤独な生活を送っている。助手として同刑事ブライアン・ホームズが活躍する。
事件 不法占拠された住宅で若い男が怪死した。解剖の結果、殺鼠剤の入った麻薬を注射したためであったが、死体の傍には蝋燭が溶けかけ、近くの壁には五芒星が描かれていた。黒魔術の生贄なのか? やがて被害者は写真に凝っていることが明らかとなり……。
背景 シリーズ第二作。本書と既訳書との間には、あと4冊の未訳書があることになる。第1作と同様に『ジーキル博士とハイド氏』が物語に絡まっているが、本作の方が本格的な警察小説なっている。ただしリーバスはまだ一匹狼的な人物に成長(?)していないので、魅力はイマイチ。

邦題 『カッティングルース』
原作者 マイクル・Z・リューイン
原題 Cutting Loose(1999)
訳者 田口俊樹
出版社 理論社
出版年 2006/5/
面白度 ★★★
主人公 ジャック(ジャッキー)・クロス。女性であることを隠し、一時プロ野球選手として活躍。誕生直後に母は死亡し、父もバットで殺された。親友ナンスの殺害犯人を追って英国に向う。
事件 奇数章では、ナンス殺害犯人を追うジャックの活躍が描かれている。ジャックはロンドン到着後、身ぐるみはがされてしまうが……。一方偶数章ではジャッキーの祖母と息子(プロ野球選手)、孫娘ジャッキーの家族三代の歴史が語られる。
背景 著者の初のヤングアダルト物。奇数章はミステリー(冒険小説)らしい展開、偶数章は19世紀後半から末期にかけての風俗・歴史小説になっている。ミステリーとしては弱いが、当時の黒人や米英のプロ野球黎明期の描写は興味深い。表題は「自由になること」を意味している。

邦題 『眼を開く』
原作者 マイクル・Z・リューイン
原題 Eye Opener(2004)
訳者 石田善彦
出版社 早川書房
出版年 2006/10/15
面白度 ★★★
主人公 インディアナポリスの私立探偵アルバート・サムスン。お馴染みのシリーズ探偵だが、『豹の呼ぶ声』(1991)以来の実に13年ぶりの登場である。
事件 停止中のサムソンの私立探偵免許が戻ってきた。家族や友人たちが祝ってくれたが、さっそく大手弁護士事務所から仕事が舞い込む。連続殺人容疑者のアリバイ調査であった。だがこの仕事が、かつての親友ミラー警部の身辺調査を行うことにも結びついてしまったのだ。
背景 なんだか”探偵家族”化したサムスン・シリーズといった雰囲気のミステリー。ソフトボイルドよりもさらに軟化し、ユーモア・ミステリーに近い。事件そのものは魅力に乏しく、会話の面白さで持っている。まあ、このシリーズのファンなので、★をひとつオマケした。

邦題 『エミリーの不在』上下
原作者 ピーター・ロビンスン
原題 Cold is the Ggrave(2000)
訳者 野の水生
出版社 講談社
出版年 2006/6
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『風雲のバルト海、要塞島攻略』上下
原作者 パトリック・オブライアン
原題 The Surgeon’s Mate(1981)
訳者 高沢次郎
出版社 早川書房
出版年 2006/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『封鎖艦、イオニア海へ』上下
原作者 パトリック・オブライアン
原題 The Ionian Mission(1981)
訳者 高山祥子
出版社 早川書房
出版年 2006/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『若き獅子の凱歌』
原作者 アレグザンダー・ケント
原題 Band of Brothers(2005)
訳者 高橋泰邦
出版社 早川書房
出版年 2006/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『新任海尉、出港せよ』
原作者 ジュリアン・ストックウィン
原題 Quarterdeck(2004)
訳者 大森洋子
出版社 早川書房
出版年 2006/
面白度  
主人公 

事件 


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