邦題 『検屍官の領分』
原作者 マージェリー・アリンガム
原題 Coroner's Pidgin(1945)
訳者 佐々木愛
出版社 論創社
出版年 2005/1/20
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの素人探偵アルバート・キャンピオン。極秘任務の政府の仕事を終え、休暇を取ろうとした矢先に事件が起きる。ロンドン警視庁のオーツ主任警視やヨウ警視も活躍。
事件 浴室でくつろいでいたキャンピオンは驚いた。使用人ラッグと先代のカラドス侯爵夫人が死体を抱えてきたからである。詳しい話を聞くと、その死体は公爵夫人の息子ジョン・カラドス空軍中佐の部屋のベッド上にあったという。自殺なのか他殺なのか? そして死体は誰なのか?
背景 『反逆者の財布』の次に書かれた作品で、冒頭シーンが出色の出来。キャンピオンの所に死体を運び込む際のスラップ・スティック的言動が楽しいからである。前作と同傾向の作品だが、軽いスリラーを書かせてもうまいものだ。中盤のプロットが錯綜していてわかりにくいが……。

邦題 『殺人者の街角』
原作者 マージェリー・アリンガム
原題 Hide My Eyes(1958)
訳者 佐々木愛
出版社 論創社
出版年 2005/6/15
面白度 ★★★
主人公 シリーズ探偵はアルバート・キャンピオンだが、本書では一脇役にすぎない。真の主役は、中盤で明らかとなる某犯罪者。捜査担当はロンドン警視庁のチャールズ・ルーク警視。
事件 ルークは、捜査の行き詰まった4つの未解決事件を相談するためキャンピオンのもとを訪れた。そしてルークは同一犯の仕業と確信し、目撃者らの情報から、ロンドンの「グリーン園」に容疑者が関係していることを突き止める。新たに弁護士射殺という殺人が起きるが……。
背景 本書は犯罪小説風サスペンス。アリンガムといえばまずは風俗ミステリーを思い浮かべるが、初期には冒険スリラー、晩期には本書のような作品を書いている。犯罪者の視点だけから描かれているわけでなく、ちょっと中途半端な構成だが、独特の文体・語り口は確かに魅力がある。

邦題 『ミステリー・マイル』
原作者 マージェリー・アリンガム
原題 Mystery Mile(1930)
訳者 小林晋
出版社 ROM
出版年 2005/7/31
面白度 ★★★
主人公 謎の青年アルバート・キャンピオン。私立探偵業のようなことをしている。1900年生まれで、髪はブロンド。角縁眼鏡をかけている。
事件 塩沢地に囲まれたミステリー・マイル。その寒村にある荘園屋敷に、キャンピオンは、命を狙われているアメリカの老判事ロベットを匿うことにした。だが村の牧師が謎の自殺をし……。
背景 著者の三作めのミステリー。早熟な作家で、17歳で処女作を発表しているが、本書も26歳のときの作品である。一番興味深い点は、本書がシリーズ探偵キャンピオンの実質的な第一作であること。謎解き小説ではなく、E・ウォーレスばりのスリラー小説だが、登場人物(特に女性)の造形や語り口には、独特の魅力を感じる。ミステリー同人誌ROM叢書の2冊め。

邦題 『陶人形の幻影』
原作者 マージェリー・アリンガム
原題 The China Governess(1963)
訳者 佐々木愛
出版社 論創社
出版年 2005/9/20
面白度 ★★
主人公 シリーズ探偵はお馴染みのアルバート・キャンピオンだが、本編では明らかに脇役。事件担当者はロンドン警視庁のチャールズ・ルーク警視とマンディ警部。
事件 名門の青年ティモシー・キニットは富豪の美しい娘ジュリア・ローレルと相思相愛となるが、突然ジュリアの父親から婚約破棄を通告された。ティモシーの父は実は養父なのだが、それが原因なのであろうか? 彼は自分の過去を調べるが、おぞましい秘密が明らかとなり……。
背景 アリンガム晩年(死の4年前)の作品。陶人形を物語の背景にあしらって、キニット家の過去の謎を提示するというプロットは、あい変わらずアリンガムらしさを感じるものの、中盤からの物語展開は、悪いときのアリンガムが出てしまい、どうにもサスペンスが高まらない。

邦題 『偶然のラビリンス』
原作者 デイヴィッド・アンブローズ
原題 Coincidence(2001)
訳者 鎌田三平
出版社 ソニー・マガジンズ
出版年 2005/9/20
面白度 ★★★
主人公 ノンフィクション・ライターのジョージ・デイリー。彼の妻サラはやり手の画廊経営者で、彼よりも収入が多い。子供はいない。
事件 父の遺品を整理していたジョージは、少年時代の自分と見知らぬ男女が写っていた古い写真を見つけた。記憶はまったくないものの、好奇心も手伝って、私立探偵に写っていた男女の調査を依頼した。二人は俳優で、すでに死亡していたが、息子がいたことがわかったのだ。
背景 SFサスペンス・タッチの作品が得意な著者の5冊めの邦訳。今回は偶然をテーマにしている。物語の発端が魅力的である。偶然を利用して物語が意外な展開を見せる。ただし途中から量子コンピュータを登場させたのはいかがなものか。無理を承知で”偶然”で突っ走ってほしかった。

邦題 『アプルビイズ・エンド』
原作者 マイケル・イネス
原題 appleby's End(1945)
訳者 鬼頭玲子
出版社 論創社
出版年 2005/9/20
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのスコットランド・ヤードの警部ジョン・アプルビイ。
事件 大雪で列車は遅れ気味であった。そのためアプルビイは今夜の宿をどうしようかと考えあぐねていると、車内で知り合った事典編纂者エヴァラードから、自分の館に泊まったらどうかと提案された。渡りに舟と彼に従って駅を降りると、駅名は”アプルビイズ・エンド”。その偶然に唖然とするも、もっと驚いたことは、館に向う馬車が川にはまり、車体が流されてしまったのだ!
背景 著者は四作め『ストップ・プレス』からユーモア・ミステリーに本格的に手を付けたようだが、10作めとなる本書もスラップ・スティック的な笑いのあるユーモア・ミステリー。両作のプロットも似ているが、イネスが謎解きだけに縛られている作家でないことがよくわかる。

邦題 『ストップ・プレス』
原作者 マイクル・イネス
原題 Stop Press(1939)
訳者 富塚由美
出版社 国書刊行会
出版年 2005/9/30
面白度 ★★★★
主人公 探偵役はスコットランド・ヤードの警部ジョン・アプルビイ。妹パトリシアも活躍。
事件 探偵作家エリオットは犯罪者ヒーロー<スパイダー>シリーズで人気者になり、その生誕20周記念パーティーが、エリオットの屋敷で開かれた。だが最近、あたかもスパイダーが本から抜け出したかのような事件が近くの屋敷で起き、あげくに構想中のプロットと同じ事件まで発生した!
背景 著者の四作め。評判作『ある詩人への挽歌』(第三作)に比べると、分量は倍近い大作だが、中身は純然たるパズラーではなく、いかにも英国的ユーモアに溢れたミステリー。本の登場人物が実在人物のように振舞うといっても、『文学刑事サーズデイ・ネクスト』のようなSF仕立てではない。第二部が多少中だるみするが、イネス作品としては異常に(?)読みやすい。

邦題 『セビーリャの冷たい目』上下
原作者 ロバート・ウィルスン
原題 The Blind Man of Seville(2003)
訳者 田村義進
出版社 早川書房
出版年 2005/4/30
面白度 ★★★
主人公 セビーリャ管区警察殺人課警部長ハビエル・ファルコン。離婚歴のある45歳の中年男。母も継母も亡くなり、天才画家といわれた父親フランシスコも二年前に死亡。この父親が準主役。
事件 セビーリャで老実業家が殺害された。彼は目蓋を切り取られ、無理やりテレビを見せられていた。傍らには「視覚の授業 第一回目」というカードがあり、連続殺人事件へと発展していく。
背景 リスボンが背景の警察小説が得意の著者が、スペインを舞台にした初の作品。出だしは、他の警察小説と同じといってよいが、途中からファルコンの父親の過去の日記が長々と紹介されたり、彼自身が精神科医にかかって捜査をあまりしないなど、警察小説の雰囲気は少なくなる。一風変わった犯罪小説という方がふさわしいか。冗長な部分もあるが、結末の衝撃度は高い。

邦題 『夜明けのメイジー』
原作者 ジャクリーン・ウィンスピア
原題 Maisie Dobbs(2003)
訳者 長野きよみ
出版社 早川書房
出版年 2005/3/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ブレイディング・コレクション』
原作者 パトリシア・ウェントワース
原題 The Brading Collection(1950)
訳者 中島なすか
出版社 論創社
出版年 2005/6/15
面白度 ★★★
主人公 ミス・モード・シルヴァー。元は家庭教師で、今は私立探偵。その報酬と年金で生活している。かつての彼女の教え子で、捜査を担当するのがランダル・マーチ州警察本部長。
事件 3年前に離婚したステイシーは、引退した舞台女優の細密画を描くために、ロンドン郊外のカントリー・クラブを訪れた。そこには数々の宝石を収集しているブレイディング・コレクションも併設されているが、その主が射殺され、最新の彼の遺書が焼かれたのだ。遺産相続を巡る殺人か?
背景 ミス・マープルと並ぶ有名な老嬢探偵の本邦初登場作品。編物をしながら質問するスタイルは似ているものの、有料で働くプロという設定には違和感を持ってしまう。ロマンス+謎解きというスタイルはそれなりに読ませるが、準主役ステイシーにもう少し魅力が欲しいところ。

邦題 『エムズワース卿の受難録』(日本独自の編集)
原作者 P・G・ウッドハウス
原題 The Misgivings of Lord Emsworth(1935,1936,1937,1950,1966))
訳者 岩永正勝・小山太一
出版社 文藝春秋
出版年 2005/12/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 


邦題 『覗く銃口』
原作者 サイモン・カーニック
原題 The Murder Exchange(2003)
訳者 佐藤耕士
出版社 新潮社
出版年 2005/10/1
面白度 ★★★★
主人公 一人はロンドン警視庁刑事部の巡査部長ジョン・ギャラン。中年の有能な人物だが、勤務中の不祥事がばれて降格処分となり、そのことから離婚までした。もう一人は元兵士・元傭兵のマックス・アイバーソン。現在はボディガード専門の警備会社を友人と共同で経営している。
事件 アイバーソンはクラブの経営者から権利書の取引現場までの護衛を依頼された。だがその現場で経営者は射殺され、ギャランも危機に陥ったのだ。一方ギャランは、そのクラブのドアマンの毒殺事件を追っていたが、やがてギャランはアイバーソンに注目することになり……。
背景 著者の第二作。主人公の交互の視点から物語が語られる。よくあるプロットだが、スピーディな展開で、終盤は圧倒的な迫力に満ちている。ギャランの魅力がイマイチなのが残念。

邦題 『溶ける男』
原作者 ヴィクター・カニング
原題 The Melting Man(1968)
訳者 水野恵
出版社 論創社
出版年 2005/10/20
面白度 ★★★★
主人公 私立探偵レックス・カーヴァー。カーヴァー&ウィルキンス探偵事務所を経営している。
事件 大富豪オドウダから、カーヴァーは盗まれたメルセデス250SLの捜索を依頼された。単純な仕事と思われたが、彼がオドウダ邸を訪問すると何者かの襲撃を受ける。警察の助けを受けて調べると、謎のアフリカ人エージェントが浮かび上がった。さらにインターポールも加わり……。
背景 久しぶりのカニング作品。カーヴァーはシリーズ物の私立探偵ということもあり、前半は典型的なB級ハードボイル物といってよい。語り口や物語展開はハドリー・チェイスに似ている。好感を持ってしまったのは、後半になって三つ巴の抗争に展開するプロットとカーヴァーが安易に女性とベットインしないこと。これは、まあカーヴァーが冒険小説の主人公に近いからか。

邦題 『JJをさがして』
原作者 アン・キャシディ
原題 Looking for JJ(2004)
訳者 子安亜弥
出版社 ランダムハウス講談社
出版年 2005/10/13
面白度 ★★★
主人公 ジェニファー・ジョーンズ(通称JJ)。10歳のとき親友を撲殺し、6年の収容所暮らしを終えて出所。母親は元ファッション・モデル。母娘の二人で生活していた。
事件 10歳のJJはバットで親友を殺してしまった。それから6年。JJは更生し、秘かに社会復帰し、恋人もでき、大学への入学も決まっていた。だが母親に出したクリスマス・カードから足がつき、マスコミの執拗な追跡が始まったのだ。別名で生活しているJJは見つかってしまうのか?
背景 本邦初紹介作家の作品。ヤング・アダルト向けに書かれているが、少年犯罪者の更生という重いテーマを扱っていて読み応えがある。ソーシャル・ワーカなどの脇役陣も魅力的に描かれている。ただし伏線がほとんど張られていないなど、ミステリー度は低い。

邦題 『巨石神殿ストーンヘンジ』上下
原作者 バーナード・コーンウェル
原題 Stonehenge(2000)
訳者 井口智子
出版社 ソニー・マガジンズ
出版年 2005/8/20
面白度 ★★★
主人公 ラサリンという部族の長ヘンガルの三男サバン。奴隷になったりもするが、人生の目標は神殿の建造である。脇役として長男のレンガー、次男で呪術師のカマバンが活躍する。
事件 時は紀元前数千年。レンガーは異民族の男を射殺し、菱形の黄金を奪い取る。だがそれが原因でさまざまな事件が起きる。一時姿を消していたレンガーは異民族の兵を引き連れて帰還し、ヘンガルを殺して、ラサリンの長になる。しかしそのレンガーもカマバンに斃され……。
背景 巨大ストーンヘンジ建造を巡る一大歴史冒険小説。考古学的資料しかない紀元前三千年頃の宗教・世態風俗を調べて、このような長編をよく書いたものである。前半は多少かったるい部分もあるが、下巻に入ると物語の興趣が一気に高まる。やはり作者の語る力は相当なものだ。

邦題 『悠久の窓』上下
原作者 ロバート・ゴダード
原題 Days Without Number(2003)
訳者 加地美知子
出版社 講談社
出版年 2005/3/15
面白度 ★★★★
主人公 ニコラス(ニック)・パレオロゴス。考古学者マイケル・パレオロゴスの三男。16歳でケンブリッジに進学するほどの”学問の天才”であったが、精神病のため挫折。現在は30代後半。
事件 ニックは長兄の50歳を祝うため、父親が一人で住む実家に戻ってきた。その家には伝説のステンドグラスが隠されていると思ったらしい大富豪が、家を買い取りたいと提案しているところだった。だが頑固な父は、皆の説得にもかかわらず、反対する。なぜなのか?
背景 15冊めのゴダード作品。相変わらずの面白いプロットと巧みな語り口の作品。特に前半が秀逸で、一つの謎から新しい別の謎が生まれるというプロットが素晴らしい。ただし謎か解かれる後半は尻すぼみのまま終わってしまう。未解決の謎もある。まあ前半傑作小説の好例か。

邦題 『奇怪な果実』上下
原作者 ジョン・コナリー
原題 Dark Hollow(2002)
訳者 北澤和彦
出版社 講談社
出版年 2005/10/15
面白度 ★★
主人公 元NY市警刑事で、現在はメイン州ポートランドで私立探偵業を営んでいるチャーリー・”バード”・パーカー。妻子とは死別して、本作では35歳の独身。
事件 バードの幼馴染みの女性リタとその息子が殺され、前夫ビリーは失踪した。ビリーの犯行だろうか? 一方付近ではギャングの抗争があり、FBI捜査官やカンボジア人が殺される事件が起きたが、事件に関係したお金の一部をリタが使っていたのだ。バードは背後を調べるが……。
背景 <アイルランド人というアウトサイダーがアメリカを舞台に綴るハードボイルド>の第二弾。著者紹介がなければアメリカ産私立探偵小説と見間違う作品。終盤の銃撃シーンの描写はサスガだが、前半はカッタルイ。ゴシックの雰囲気がある辺りが英国ミステリーらしいか。

邦題 『殺人展示室』
原作者 P・D・ジェイムズ
原題 The Murder Room(2003)
訳者 青木久惠
出版社 早川書房
出版年 2005/2/28
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのロンドン警視庁のアダム・ダルグリッシュ警視長。今回はケンブリッジ大学の英文学講師エマ・ラヴェンナムとの恋の行方が注目される。
事件 事件の舞台は二つの大戦間の時代をテーマにしたデュペイン博物館。有名な殺人事件を扱った展示がユニークと評判だが、小さな私設の博物館のため存続か廃止が検討されていた。そして廃止を主張していた創立者の息子が博物館で殺され、展示室には第二の死体も!
背景 ダルグリッシュ・シリーズの12作め(『女には向かない職業』は除く)。著者が84歳で出版したことになるが、プロット構成力や筆力などはほとんど衰えていない。探偵の恋愛を小説の薬味に加えているところなど、ジェイムズは、尊敬するセイヤーズにますます似てきたようである。

邦題 『七月の暗殺者』上下
原作者 ゴードン・スティーヴンズ
原題 Provo(1993)
訳者 藤倉秀彦
出版社 東京創元社
出版年 2005/11/30
面白度 ★★★
主人公 集団劇のように登場人物が多い。正義の側はIRAの動きを阻止しようとするMI5やSAS、ロンドン警視庁らの人々、犯罪者側はIRA暫定派やその軍事評議会の人々。ただし絞るなら、一人はMI5の覆面捜査官キャシー・ノーランで、もう一人はIRA側の<スリーパー>。
事件 7月12日オレンジ・デイのIRA暫定派による陰謀は失敗した。軍事評議会メンバーは新たな作戦を開始する。場所はロンドンで、標的は<ピンマン>、実行者は<スリーパー>だ!
背景 『カーラのゲーム』に続く著者の邦訳第二弾。北アイルランド紛争を背景にした要人襲撃物だが、この手の代表作である『ジャッカルの日』とは雰囲気が多少異なる。一種の集団劇で、冒険小説というよりは陰謀小説に近い。丁寧に書かれているが、語り口が少し一本調子だ。

邦題 『難破船』
原作者 ロバート・ルイス・スティーヴンスン&ロイド・オズボーン
原題 The Wrecker(1882)
訳者 駒月雅子
出版社 早川書房
出版年 2005/6/15
面白度 ★★★
主人公 本編の語り手であるラウドン・ドッド。彫刻家を目指してパリで修行するも大成せず。実業家のジム・ピンカートンに乞われてアメリカに戻り、事件に巻き込まれる。
事件 イギリスの軍艦が、ミッドウェイ沖で座礁した帆船の生存者たちを救助してサンフランシスコ港に寄港した。ラウドンとジムは、残された難破船の権利を競売で落札することに成功した。大金を投入しての競売であったが、難破船には財宝や麻薬は見つからず、二人は窮地に立つが……。
背景 スティーヴンスンが息子と共作した『箱ちがい』に続く第2弾。ただし第一作とは異なり、語り口や一人称形式の物語構成は、『誘拐されて』のような従来のスティーブンスン作品によく似ていている。ほとんど一人で書いて、プロローグとエピローグのみが共作の部分ではないか?

邦題 『判事とペテン師』
原作者 ヘンリー・セシル
原題 The Painswick Line(1951)
訳者 中村美穂
出版社 論創社
出版年 2005/12/20
面白度 ★★★
主人公 イギリス高等法院判事のチャールズ・ペインズウィックとその息子で詐欺師のマーティン。イギリス国教会の教区牧師ウェルズビイ・メイソン=スミスとその娘ルーシーも活躍。
事件 ルーシーは賭け屋に勤めながら、勝ち馬ばかりに賭けていたとして裁判になった。結果は彼女の父の予想に従っただけというのだが、その事は裁判中に確かめられた。このためチャールズは、牧師の勝ち馬予想を秘かに聞きだし、息子の借金返済にあてようとするが……。
背景 『メルトン先生の犯罪学演習』などの法廷ミステリーを得意とする著者の、実に久しぶりの翻訳である。詐欺事件や勝ち馬予想事件そのものはそう面白くないが、事件に関係する人物の造形がいずれもユニークで、そのドタバタ、ユーモアが結構楽しめる。

邦題 『裁かれる花園』
原作者 ジョセフィン・テイ
原題 Miss Pym Disposes(1946)
訳者 中島なすか
出版社 論創社
出版年 2005/2/20
面白度 ★★
主人公 心理学書でベストセラーを出した作家ルーシー・ピム。フランス語会話の先生であったが、片親を亡くしたこともあり4年後に辞職。深層心理について書いた文章が偶然出版社社員の目に留まり、出版される。レイズ体育大学の学長ヘンリエッタの2年後輩。40代後半と思われる。
事件 ピムは、ヘンリエッタの依頼で体育大学で講演することになった。若い学生たちに囲まれ、楽しいときを過ごしていたが、ここにも奇妙な不協和音があることに気づいたのである。
背景 著者の二作めの作品で、ノン・シリーズ物。典型的な学園ミステリーといってよい。事件は2/3を過ぎないと起こらないが、徐々にサスペンスを高める語り口は、いかにも英国ミステリーらしい。ただし重大なことで腑に落ちない点があるので(私の誤読?)、評価を低くした。

邦題 『歌う砂―グラント警部最後の事件』
原作者 ジョセフィン・テイ
原題 The Singing Sands(1962)
訳者 鹽野佐和子
出版社 論創社
出版年 2005/6/15
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁のアラン・グラント警部。前作『時の娘』のときの怪我は治ったものの、極度の神経症にかかり、療養のためにスコットランドに旅立つ。50代の独身男。
事件 アランの乗った列車が終着駅に着いたとき、寝台車Bの7番にいた乗客が死んでいた。アランはそばにあった新聞を何気なく拾って後で見てみると、その余白に謎の詩が書かれている。乗客の死は事故死と断定されたが、納得のいかないアランは単独で調査を開始した。
背景 本書の完成後、急死してしまったティの遺作。本書や『魔性の馬』を読むと、ティは、脇役を含めた登場人物の人物造形に優れた手腕を持っていることがよくわかる。例えば本書ではグラントの従姉妹ローラや彼女の友人ゾーイなど。後半のプロットが破綻しているのが残念だ。

邦題 『英国占領』上下
原作者 マリ・デイヴィス
原題 Collaborator(2003)
訳者 真野明裕
出版社 二見書房
出版年 2005/7/25
面白度 ★★★
主人公 英独友好同盟の大尉ニコラス(ニック)・ペニー。23歳。本編の語り手である。
事件 史実とは異なるが、本書では第二次世界大戦が勃発すると、英国はナチスに占領された。ニックは捕虜となったが、ドイツ語ができるため英国西部を支配するドイツ人司令官の通訳となる。周囲からは白い目で見られるものの、やがて幼馴染の誘いで、レジスタンス運動に参加し……。
背景 SFまがいの設定だが、著者の狙いはSF的な面白さを追及することではなく、あくまでナチ物のレジスタンス運動をサスペンス豊かに描くことにあるようだ。このような設定の利点は、史実に縛られる必要はなく、ラストは何でもありに出来ることで、確かに終盤はかなりの盛り上がりを見せる。ただし、リアリティを出すためか描写がくどく、物語がいささか長すぎる怨みがある。

邦題 『獅子の目覚め』
原作者 リンゼイ・デイヴィス
原題 Two for the Lions(1998)
訳者 田代泰子
出版社 光文社
出版年 2005/4/20
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのローマの密偵マルクス・ディディウス・ファルコ。一人娘はもうすぐ一歳。
事件 時は紀元73年12月から翌年5月まで。舞台は、前半はローマ、後半は地中海を挟んだ対岸の北アフリカ。密偵頭で今はファルコのパートナーになっているアナクリテスとファルコは国勢調査員の仕事を得た。そして目をつけたのが評判になっている剣闘士の興行界である。だが二人が調査を始めると、人気の高いライオンが槍で殺され、剣闘士が刺し殺されたのである。
背景 シリーズ10冊め。我々には珍しいローマ時代の剣闘士や闘技場、それらの見世物を行なう興行師を詳しく扱っていて、それはそれで興味深いし、面白い。歴史風俗ミステリーとして一定の水準を保っているが(つまり読んで損はないが)、ミステリーとしてのプロットは平凡だ。

邦題 『聖なる灯を守れ』
原作者 リンゼイ・デイヴィス
原題 One Virgin Too Many(1999)
訳者 矢沢聖子
出版社 光文社
出版年 2005/10/20
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのローマの密偵マルクス・ディディウス・ファルコ。前回のお手柄で家禽長官に新任されている。一人娘ユリアは一歳ちょっとになった。
事件 ウェスタ神殿の聖火を守る巫女は十歳未満の少女から選ばれる。その最有力候補の少女がファルコの仕事場を訪ねて、「家族に殺される」と相談にきた。もちろんファルコはとりあわなかったが、聖なる森では神官が殺される事件が発生し、その少女も行方不明になったのだ。
背景 シリーズ11作め。9〜11巻はファルコの相棒が毎回変わる設定で「パートナー三部作」と呼ばれているそうだが、今回の相棒は、妻へレナの上の弟アエリアヌス。下の弟に婚約者を取られるなどこれまでは冴えなかった。メイン・プロットは単純だが、読者を楽しませる筆力はスゴイの一言。

邦題 『忌まわしき絆』
原作者 L・P・デイビス
原題 The Paper Dolls(1964)
訳者 板垣節子
出版社 論創社
出版年 2005/2/20
面白度 ★★★
主人公 クックリー新中等学校の英語・歴史教師のゴードン・シーコム。32歳で、この学校に勤めて5年。謎解きに協力するのが同校の美術教師ジョーン・グレイ。二人は恋仲となる。
事件 学校では生徒が屋根から転落するという不可解な事件が起きたが、事件の鍵を握る少年ロドニーはすでに姿を消していた。このためゴードンは、休暇を利用してジョーンとともに謎を解く旅に出ることにした。家庭の調査をすると、ロドニーは養子であり、彼には双生児がいるらしい。
背景 厳密にいうと著者の作品は、すでにジュブナイル向けSFが翻訳されているそうだが、実質的には本邦初紹介といえよう。ジャンルとしてはサイコ・ホラーだが、80年代以降に流行ったオドロオドロしさはなく、ミステリー・タッチの語り口はかなりの迫力で楽しめる。

邦題 『天使の背徳』
原作者 アンドリュー・テイラー
原題 The Judgement of Strangers(1998)
訳者 越前敏弥
出版社 講談社
出版年 2005/1/15
面白度 ★★★★
主人公 セント・メアリー・マグダリーン教会の牧師デイヴィッド・バイフィールド。10年前に妻を亡くし、出版社社長のヴァネッサと再婚。17歳の一人娘がいる。
事件 物語の舞台はロンドン近郊のロス、主な時代は1970年8月。デイヴィッドは再婚し、幸せな生活をしていたが、牧師館の隣に謎に満ちた兄妹が引っ越してきた。以来、信者の愛猫が惨殺されるやロスに住んでいた詩人の子孫の老嬢が死んだりと、不穏な事件が起き始めたのだ。
背景 『天使の遊戯』に続く三部作の第二作。時代は20年ほど遡り、第一作の事件の遠因を説明する内容だが、もちろん本作だけでも楽しめる。主事件は終盤にならないと起きないものの、牧師の一人称形式で、中年男性の心理を細かく描写し、サスペンスを高める語り口はさすがだ。

邦題 『地上のヴィーナス』
原作者 サラ・デュナント
原題 The Birth Of Venus(2003)
訳者 小西敦子
出版社 河出書房新社
出版年 2005/5/30
面白度 ★★
主人公 アレッサンドラ。14歳から死ぬまでの一生が語られている。
事件 時は15、6世紀(ルネッサンスの時期)、舞台は、メディチ家が支配し、文芸・芸術が盛んであったフィレンツェ。その街の裕福な織物商の娘で、絵の好きなアレッサンドラは画家を目指していたが、かなり年上の男との便宜的結婚を強要されて、謎の画家と不倫をするが……。
背景 女性私立探偵小説を書いていた著者の初めての歴史風俗小説。プロローグを除いてはアレッサンドラの一人称で記述されている。猟奇殺人なども登場するが、第4部以外はミステリー度はいたって少ない。これまでミステリーを書いていた作者の作品なので、一応ミステリーの範疇には入れたが……。特異な生き方をした女性の一生にはそれなりに興味深いものがある。

邦題 『アイルランド幻想』
原作者 ピーター・トレメイン
原題 Aisling and Other Irish Tales of Terror(1992)
訳者 甲斐萬里江
出版社 光文社
出版年 2005/8/20
面白度 ★★★★
主人公 アイルランドの民話や伝説から着想された怪奇小説11本からなる短編集。
事件 収録作品は「石柱」(盲目の作曲家が主人公の作品だが傑作)「幻の島ハイ・ブラジル」「冬迎えの祭り」(ハローウィンを扱った佳作)「髪白きもの」「悪戯妖精プーカ」「メビウスの館」「大飢饉」(ミステリー好きには面白かった)「妖術師」(これも飢饉を背景にしている)「深きに棲まうもの」「恋歌」「幻影」(作者自身のベスト1)の11本。
背景 表題には幻想という言葉が入っているが、ファンタジーではなく怪奇小説ないしは恐怖物語の短編を集めている。いずれも読みやすく、レベルが高いのにはビックリ。アイルランドが小説の国であるのが納得できる。ミステリー・ファンとしては、やはり冒頭の「石柱」が一番好きだ。

邦題 『贖罪の終止符』
原作者 サイモン・トロイ
原題 Case upon the Midnight(1964)
訳者 水野恵
出版社 論創社
出版年 2005/3/20
面白度 ★★★
主人公 シリーズ探偵は、イギリス南西部のシルストーン(名もない漁村であったが、今ではしゃれた高級リゾート地)の警察に勤めるスミス警部。飾り気のない中年男だが、たゆみない探究心と柔軟な知性の持ち主。ただし今回の主役は、ガーンジー島で学校を経営するロバート・ニール。
事件 村の医師が睡眠薬を飲み過ぎて死んだ。検死審問で事故死となったが、スミスは納得しなかった。二ールが医師の婚約者を学校の先生に招聘したこともあり、スミスもその島を訪れるが……。
背景 論創海外ミステリーの特色は、60年代の知られざる作品を多数発掘していることだが、本書もそのような一冊。サスペンス小説といってよいが、毒殺については気の利いたトリックが考案されている。語り口も安定していて、小粒ながら楽しめる。

邦題 『サルバドールの復活』上下
原作者 ジェレミー・ドロンフィールド
原題 Resurrecting Salvador(1999)
訳者 越前敏弥
出版社 東京創元社
出版年 2005/10/14
面白度 ★★★
主人公 一人には絞れない。天才ギタリストのサルバドール・ド・ラ・シマルドと彼の妻で未亡人となったリディア・ハットン、リディアのケンブリッジ大学時代の友人三人、ベス・グレイス、オードリー・クインタード、レイチェル・バトラーの5人か。
事件 リディアの葬儀で、彼女の友人三人が再会した。リディアはなぜ死んだのか? ベスとオードリーは、サルバドールの母に招かれ、彼らがかつて住んでいたデボンにある城へ足を踏み入れた。だが外は雪となり彼女らは城に閉じ込められてしまう……。
背景 『飛蝗の農場』に続く第二弾。現代版ゴシック・ロマンスで、力強い語り口は健在だが、基本プロットはバカミス基準。どんなに細部の処理がうまくても、そう高い評価は出来ない。

邦題 『イギリス恐怖小説傑作選』
原作者  
原題 独自の編集
訳者 南條竹則編
出版社 筑摩書房
出版年 2005/11/10
面白度 ★★★
主人公 表題どおり(ただし仏人作家の作品を一本だけ重訳)の短編を14本集めている。
事件 収録作は「林檎の谷」(ロセッティ)「目隠し遊び」(H・R・ウェイクフィールド。さすがに怖い)「小さな幽霊」(H・ウォルポール)「蜂の巣箱」(A・キラ=クーチ)「ブリケット窪地」(E・ノースコット。好印象)「不案内な幽霊」(H・G・ウェルズ。気弱な幽霊の話)「人殺しのヴァイオリン」エルクマン=シャトリアン。仏人)「地より出でたる」(A・マッケン)「断章」(バイロン)「ヘンリーとロウィーナの物語」(M・P・シール)「見た男」(E・エクス。これがもっとも気に入った)「窃盗の意図をもって」(A・ブラックウッド)「罌粟の香り」(M・ボウエン)「闇の桂冠」(F・トムソン)の14本。
背景 宗教色もゴシック色もない、単純な幽霊物語の方が個人的には好きだ。

邦題 『シシリーは消えた』
原作者 アントニイ・バークリー
原題 Cicely Disappears(1927)
訳者 森英俊
出版社 原書房
出版年 2005/2/18
面白度 ★★
主人公 27歳の青年スティーヴン(スティーヴ)・マンロー。6年ほど人生を満喫したため遺産を食い潰し、ケアリー家の従僕となる。かつての恋人ポーリーンが謎解きに協力する。
事件 スティーヴが従僕として働き出した屋敷では、レディ・スーザンとその近親者、招待客とで、夕食会が開かれていた。その席上、ある男が呪文で人を消せると言い、食後の気晴らしで始まった降霊会で、なんと若き女性シシリーが消えてしまったのだ。なぜ、どのようにして?
背景 バークリーがプラッツ名義で書いたミステリー。解説よると、実在部数の少なさで”幻の”作品になっていた。新聞連載の懸賞小説として書かれた謎解き小説なので、万人向きで著者独特のアイロニーは控えめ。謎は複雑だが面白味が不足しているのは、やはり懸賞小説のためか。

邦題 『ポンペイの四日間』
原作者 ロバート・ハリス
原題 Pompeii(2003)
訳者 菊地よしみ
出版社 早川書房
出版年 2005/3/31
面白度 ★★★
主人公 マルクス・アッティリウス・プリムス。ポンペイやナポリへ水を供給するローマ帝国最長のアウグスタ水道の管理者。27歳。何代も水道技官をしているが、この仕事には就いたばかり。
事件 アッティリウスは、謎の失踪をとげた前任者の後を継いだ。だが就任早々、断水が発生し、その修理のためポンペイに向かった。そこでは大富豪が秘かに悪事を行なっており、またヴェスヴィオ山の噴火の予兆ともいうべき、こまかな地震などが起こっていたが……。
背景 古代都市ポンペイの壊滅を背景にした歴史パニック小説。ファルコ・シリーズの一編にもそのような作品があったが、本書には噴火前後の様子が、最新科学の解析から得られた情報の恩恵もあってか、リアリティを持って描かれている。物語展開がストレート過ぎるのが弱点。

邦題 『復讐の血族』
原作者 ジャック・ヒギンズ
原題 Edge of Danger(2001)
訳者 黒原敏行
出版社 角川書店
出版年 2005/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『患者の眼 シャーロック・ホームズ誕生秘史1』
原作者 デイヴィッド・ピリー
原題 The Patient's Eyes(2001)
訳者 日暮雅通
出版社 文藝春秋
出版年 2005/7/10
面白度 ★★★
主人公 医師時代の若きコナン・ドイル。事件に巻き込まれたドイルは、本編の語り手として活躍するが、探偵役はエディンバラ大学臨床外科教授で、犯罪研究の権威ジョゼフ・ベル博士。
事件 ドイルは医学校の退学を決心したが、碩学ベル博士の講義を聴き、思い留まる。そしてドイルは南イングランドで診療所の下っ端医師として勤めると、そこに女性患者ヘザーが相談にきた。彼女が自転車に乗って森の近くを通ると、自転車乗りの人影にいつも追われると……。
背景 ドイルの伝記とホームズ物のいくつかのプロットを合成して語られるホームズ外伝。「美しき自転車乗り」を思い出す設定や密室殺人、暗号などを扱っているものの、ホームズ物のパロディというより、ヴィクトリア朝後期を舞台にした歴史ミステリーという方がふさわしいか。

邦題 『シャーロック・ホームズの息子』上下
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 The Holmes Inheritance(2004)
訳者 日暮雅通
出版社 新潮社
出版年 2005/10/1
面白度 ★★
主人公 シャーロック・ホームズの一人息子セバスチャン。父シャーロックはライヘンバッハの滝でモリアーティ教授と対決して大怪我をしたものの、マティルデという女性の看護で一命を取り留める。二人の間に生まれた息子がセバスチャンで、伯父マイクロフトに育てられた。事件当時24歳。
事件 第一次世界大戦直前のロンドン。セバスチャンは、米国でドイツと接触を図る秘密結社の捜査を依頼される。ただし英国政府は一切の責任を持たないという。彼は青年実業家を装い、ルシタニア号で米国へ向い、途中でロシアの皇子やオーストリアのプリンセスと知り合うが……。
背景 スパイ小説の大家が書いたホームズ物。腐っても鯛なので、そこそこ読ませることは間違いないが、パスティーシュの楽しさは感じられない。

邦題 『酔いどれに悪人なし』
原作者 ケン・ブルーウン
原題 The Guards(2001)
訳者 東野さやか
出版社 早川書房
出版年 2005/1/31
面白度 ★★★
主人公 酒のせいで警察を辞職し、アイルランド西部の中心都市ゴールウェイで私立探偵をしているジャック・テイラー。40代の独身。アルコール依存症で、一時入院するほどの酔いどれだが、読書大好き人間でもある。
事件 ジャックが行きつけの店で飲んでいると、自殺した娘の死の真相を調査してほしいと、その娘の母親から依頼された。母親に惹かれたこともあり、調査を引き受けたが……。
背景 アイルランド人作家の書いた一種のハードボイルド物。酔いどれ探偵は多いものの、これほど捜査をしない探偵は異色だろう。事件の面白さではなく、探偵の個性で読ませる作品。探偵の軽口は楽しいが、冷酷なシーンもある。悪漢小説の雰囲気も持っている。

邦題 『酔いどれ故郷にかえる』
原作者 ケン・ブルーウン
原題 The Killing of the Tinkers(2002)
訳者 東野さやか
出版社 早川書房
出版年 2005/5/15
面白度 ★★★
主人公 元警官の私立探偵ジャック・テイラー。シリーズ探偵の第二作。今回は、ロンドンに出て夜間大学で文学を勉強し、あろうことか同じ生徒の一人キキと結婚する。だが彼がアイルランドに戻ってしまったため、キキから一方的に離婚されてしまう。年齢は49歳か。
事件 故郷に戻ったジャックに、早速仕事の依頼があった。シプシーを狙う連続殺人が起きているが、警察はジプシー同士の抗争と見て動かない。代わりに捜査をしてほしいというものだった。
背景 『酔いどれに悪人なし』に続く第二弾。事件は異なるとはいえ、本書の魅力は、前作同様、小気味良い文体と登場人物たちの個性的な造形にあろう。今回は、特にジャックを巡る女性たちとの関係が興味深く描かれている。酒とヤクのためか、捜査も推理もあまりしないが……。

邦題 『骨と髪』
原作者 レオ・ブルース
原題 A Bone and a Hank of Hair(1961)
訳者 小林晋
出版社 原書房
出版年 2005/9/5
面白度 ★★
主人公 シリーズ探偵のキャロラス・ディーン。ニューミンスター・クィーンズ・スクールの上級歴史教師。40代の独身。莫大な私的収入がある。
事件 従妹の行方不明を調べてほしい、と校長夫人の知人から依頼されたディーン。クリスマス休暇を利用して調査を始めると、従妹の夫も失踪していた。どうやら財産問題が関係しているようだったが、夫の元妻たちは、”青ひげ”事件のように失踪したり、不可解な死にあっていた。
背景 ディーン物の9作め(邦訳は3作め)。最初はレオ・ブルース・ファンクラブの機関誌(Aunt Aurora Vo.7)に掲載された。細部には感心するところもあるが、全体の構成は荒っぽい。ラストでディーン自身が驚きがないと言っているように、本シリーズの特徴である意外性も少ない。

邦題 『醜聞の館ーゴア大佐第三の事件』
原作者 リン・ブロック
原題 Colonel Gore's Third Case:The Kink(1925)
訳者 田中孜
出版社 論創社
出版年 2005/7/20
面白度 ★★
主人公 ゴア&トリー商会の私立探偵ウィッカム・ゴア(ジェニングス)。商会はストランド街ノーフォーク通りにある。退役軍人で、訳語は”大佐”だが、原文は”中佐”であるそうだ。
事件 元首相ハビランド卿の邸宅から、私信とフィルムが盗まれた。ゴア大佐はその調査を依頼される。ハビランド卿は人格者と思われていたが、調べると一家には暗い影のあることがわかってきた。犯人は内部者と考えられたが、そのときハビランド卿の全裸死体が見つかったのだ。
背景 本シリーズの第一作『ゴア大佐の推理』は一種の”幻の名作”と言えるが、本書はその三作め。貴族階級の腐敗というテーマは今読むと陳腐だし、謎解き小説としても平凡な出来だが、当時としては新鮮だったのでないか。つまりミステリー史を考慮すれば評価が高くなるということか。

邦題 『いつ死んだのか』
原作者 シリル・ヘアー
原題 Untimely Death(He Should Have Died Hereafter)(1958)
訳者 矢田智佳子
出版社 論創社
出版年 2005/11/20
面白度 ★★★★
主人公 元弁護士のフランシス・ペティグルー。もう一人のシリーズ・キャラクター、元警部でぺティグルーの旧友でもあるマレットも活躍する。
事件 ペティグルーの妻エリナーは休暇旅行を計画した。旅行先は、彼の少年時代に過ごしたエクスムーア。そして近くで牡鹿狩が行なわれているとき、ピクニックに出かけたぺディグルーは、<暴走馬の茂み>で死体を見つけた。だが30分後に戻ってみると、それが消えていたのだ!
背景 著者の最後の作品。200頁たらずの小品だが、細かい伏線が数多く張られていて、じっくり読むと面白さが倍増するはずだ。死亡時間をごまかすトリックや凶器の謎は陳腐だが、それらの使い方、組み合わせ方が上手く、私好みの作品に仕上がっている。

邦題 『断崖は見ていた』
原作者 ジョセフィン・ベル
原題 Fall over Cliff(1938)
訳者 上杉真理
出版社 論創社
出版年 2005/3/20
面白度 ★★★★
主人公 二人のシリーズ探偵。一人はロンドンの研究病院に勤める内科医デーヴィッド・ウィントリンガム。妻と息子一人がいる。もう一人はスコットランド・ヤードの警部スティーヴン・ミッチェル。今回はウィントリンガムが活躍し、最後の詰めだけにミッチェルが登場する。
事件 サセックスにある断崖から一人の男が転落した。警察は、兎を捕らえる針金に足を引っ掛けた事故死と判断したが、ウィントリンガムは疑問を持ち、被害者の親戚の依頼で調査を始める。
背景 半世紀ほど前に『ロンドン港の殺人』が紹介されただけの著者の邦訳二冊め。遺産相続を巡る一族の連続殺人事件を扱っている。過去の事件を捜査するだけに、中盤のサスペンスが不足しているのが難点だが、ラストの捻りはさすが。著者の代表作と評されていることも納得。

邦題 『北朝鮮最終決戦』上下
原作者 ハンフリー・ホークスリー
原題 The Third World War(2003)
訳者 棚橋志行
出版社 二見書房
出版年 2005/5/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『スパイズ・ライフ』
原作者 ヘンリー・ポーター
原題 A Spy's Life(2001)
訳者 二宮磬
出版社 新潮社
出版年 2005/2/1
面白度 ★★★★
主人公 元MI6工作員で現在は国連職員のロバート・ハーランド。飛行機が着陸寸前に墜落して自分だけ助かる。離婚歴のある50代の男だが、若いときに女スパイを愛したことがある。
事件 事故機にはハーランドの友人で、元CIA工作員も搭乗していた。FBIやMI6は何故か、その事故に異常な関心を持っていた。また謎の青年がハーランドを訪ねてきた。ハーランドは、死亡の元CIA工作員がボスニアで集団殺害があったことを突きとめていたと考えたが……。
背景 一種の巻き込まれ型冒険小説。旧ユーゴスラヴィアの政治情勢を背景にしているのでスパイ小説としても読めるが、結末の処理などを考えるとやはり冒険小説か。冒頭の飛行機事故から謎の青年の出現まではワクワクさせる語り口だが、プロットが複雑で、中弛みしているのが残念。

邦題 『またまた二人で泥棒を』
原作者 E・W・ホーナング
原題 The Black Mask(1901)
訳者 藤松忠夫
出版社 論創社
出版年 2005/1/20
面白度 ★★
主人公 アマチュア泥棒紳士A・J・ラッフルズと彼の活躍を記述する相棒のバニー。ラッフルズは前作のラストで、海の藻屑になったと思われたが、二年後に秘かにロンドンに戻って来た。
事件 ラッフルズ・シリーズの二冊め。8本の短編が収録されている。「手間のかかる病人」(二人が再会した話)「女王陛下への贈り物」(大英博物館から黄金の杯を盗む)「ファウスティーナの運命」(イタリア滞在時の話)「最後の笑い」(宿敵コルブッチ伯爵との対決)「泥棒が泥棒を捕まえる」「焼けぽっくいに――」(かつての愛人についての話)「間違えた家」(ラッフルズがバニーの兄にばけて……)「神々の膝に」(二人はボーア戦争に参加するが……)。
背景 最後の短編は国威高揚作品。二人のキャラの奇妙な関係を楽しむべき連作集。

邦題 『最後に二人で泥棒を〜ラッフルズとバニー3』
原作者 E・W・ホーナング
原題 A Thief in the Night(1905)
訳者 藤松忠夫
出版社 論創社
出版年 2005/3/20
面白度 ★★
主人公 お馴染みの泥棒紳士A・J・ラッフルズとその相棒の作家バニー(ハリー)。
事件 ラッフルズ物の第三にして、最後の短編集。10編+「はじめに」から構成されている。「楽園からの追放」(バニーの恋の話)「銀器の大箱」(銀行から宝石を盗む話で、大トリックが使われている)「休暇療法」「犯罪学者クラブ」「効きすぎた薬」「散々な夜」(ラッフルズに代わって盗みをするが……)「ラッフルズ、罠におちる」(ラッフルズが危機一髪!)「バニーの聖域」「ラッフルズの遺品」(犯罪博物館でラッフルズ遺品展が開かれるというので……)「最後のことば」
背景 これまでの短編集には入れられなかった短編を集めた拾遺集のような内容。バニーが主人公のように活躍する作品もある。ミステリー的には「銀器の大箱」が少し面白い程度。

邦題 『幸せな秋の野原』
原作者 エリザベス・ボウエン
原題 独自の編集
訳者 太田良子
出版社 ミネルヴァ書房
出版年 2005/4/30
面白度
主人公 『あの薔薇を見てよ』に続く、独自の編集による第2短編集。一応「ミステリー短編集」という副題が付いているが、第1集に比べると、ミステリー度ははなり低い。
事件 収録作品は、「親友」(まあまあ)「脱落」「そしてチャールズと暮した」「バレエの先生」「ワーキング・パーティ」「相続ならず」(比較的長い短編)「彼女の大盤振舞い」「ラヴ・ストーリー1939」「夏の夜」「悪魔の恋人」「幸せな秋の野原」(表題作だが、面白さがわからない)「蔦がとらえた階段」「あの一日が闇の中に」の13本。
背景 第1作が好評だったために編まれたのであろうが、ミステリーとしての出来は最低(ただし普通小説の評価ではない。念のため)。副題は単に「ボウエン短編集」とすべきであろう。

邦題 『看護婦への墓碑銘』
原作者 アン・ホッキング
原題 Epitaph for a Nurse(1958)
訳者 鬼頭玲子
出版社 論創社
出版年 2005/12/20
面白度 ★★★
主人公 前半は、結局は被害者となるセント・ヒラリー病院の主任看護婦ジェシカ・ビッグズだが、事件の担当者はスコットランド・ヤードのウィリアム・オーステン警視。
事件 ジェシカは有能な看護婦だが、学歴もなく、40歳近くまで未婚であった。若く美しい女性に嫉妬もしていた。だが独身男が入院した。彼女は莫大な資金を提供することで、その男と結婚しようと決心したのだ。資金源は秘密情報をもとに患者らを強請った結果であったが、逆に……。
背景 本邦初紹介作家の作品。前半は倒叙物のような展開だが、後半は完全な”フーダニット”となる。殺人事件が起きる前がじっくり書かれており、リーダビリティは高いが、後半のための伏線はあまり張られていないのが残念。謎解きというよりサスペンス系の作家のようだ。

邦題 『しっかりものの老女の死』
原作者 ジェイニー・ボライソー
原題 Framed inCornwall(1998)
訳者 安野玲
出版社 東京創元社
出版年 2005/4/15
面白度 ★★
主人公 コーンウォールに住む画家・写真家のローズ・トレヴェリアン。夫を5年前に亡くした中年女性。子供はいない。親しい友人の一人がキャンボーン署のジャック・ピアース。
事件 ローズの友人の一人、しっかりものの老女ドロシーが亡くなった。警察は自殺と判断していたが、ローズはドロシーの性格から、納得していなかった。彼女の周りには、財産を狙っている長男夫妻、独身で気弱な次男、怪しげな骨董屋など容疑者はたくさんいたのだ。
背景 英国西南の地コーンウォールを舞台にしたシリーズ物の第二弾。地方を舞台にした風俗ミステリー。コージー・ミステリーと呼ぶには軽いユーモアが不足している。ミステリーとしては捜査活動の描写が少な過ぎるが、コーンウォール地方の人々や風景描写は興味深い。

邦題 『パンプルムース氏の晩餐会』
原作者 マイケル・ボンド
原題 Monsieur Pamplemousse Rests His Case(1991)
訳者 木村博江
出版社 東京創元社
出版年 2005/5/31
面白度 ★★★
主人公 グルメ・ガイドブック『ル・ギード』の覆面調査員アリスティード・パンプルムース。元はパリ警視庁の刑事で、お馴染みのシリーズ探偵。愛犬ポムフリットが相棒。
事件 食にうるさいアメリカのミステリー作家6人が、鉱泉の町ヴィシーにやってきた。企画者の女性ドーマンを手助けするため、パンプルムースも同行したが、作家の一人が水を飲んだ後に心臓発作で急死したのである。最後の言葉は高級ワイン名「バタール・モンラッシュ」と「魚」だった。
背景 シリーズ7作め。このシリーズにしては珍しい本格的謎解き小説で、ダイイング・メッセージと毒殺方法を扱っている。解決も意外性がありながら納得できるもので(もちろん料理とユーモアも盛りだくさんで)、本書は、シリーズ既訳書の中では一、二を競う出来ばえといってよいだろう。

邦題 『アレン警部登場』
原作者 ナイオ・マーシュ
原題 A Man Lay Dead(1934)
訳者 岩佐薫子
出版社 論創社
出版年 2005/4/20
面白度 ★★
主人公 ロンドン警視庁の主任警部ロデリック・アレン。背が高く、痩せ型で、髪は黒っぽく、目は灰色。準主役として新聞記者のナイジェル・バスゲイトも活躍する。
事件 ヒューバート卿の屋敷で、余興に「殺人ゲーム」が行なわれることになった。犯人役の人間は、誰かの肩を叩いて「君は死体だ」といって、家の明かりを消し、銅鑼を鳴らす。残りの参加者は二分後に明かりをつけて、犯人を当てるというもの。ところが本当の殺人が起きたのだ!
背景 マーシュのデビュー作。デビュー当時が黄金時代の真っ盛りということもあり、本書は、閉ざされた屋敷内で起きた殺人事件を扱った典型的な謎解き小説。トリックは平凡だが、アレンには好印象を持った。作風はちょうどクリスティとアリンガムを混ぜたようなものといえそうだ。

邦題 『ヴィンテージ・マーダー』
原作者 ナイオ・マーシュ
原題 Vintage Murder(1937)
訳者 岩佐薫子
出版社 論創社
出版年 2005/10/20
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのロンドン警視庁犯罪捜査課主任警部ロデリック・アレン。本事件時は42歳。明らかになった経歴は、オックスフォード大→兵役3年→外務省→一般採用で警視庁のようだ。
事件 アレンは休暇でニュージーランドへ向かい、途中で劇団マイヤー一座と親しくなる。そしてミドルトンでの公演に招待された。だが公演後に行なわれた、マイヤーの妻で主演女優のキャロリンの誕生会で、彼女の夫は天井から落下したワイン壜の直撃を受けて死んでしまったのだ!
背景 著者の5冊めの作品。得意の劇場を舞台にしている。序盤に殺人、中盤には退屈な訊問(現場の見取り図やアリバイ検討表などもある)、そして最後に意外な犯人の指摘と、典型的な謎解き小説。驚きは少ないが、本格ファンや演劇ファンなら、そこそこ楽しめるはずだ。

邦題 『過去からの殺意』
原作者 ヴァル・マクダーミド
原題 The Distant Echo(2003)
訳者 宮内もと子
出版社 集英社
出版年 2005/3/25
面白度 ★★★★
主人公 明らかな探偵役はいないが、強いてあげれば、殺人の容疑を晴らそうとする四人組か。セントアンドルーズ大学の学生で、音楽バンドを組むシグムンド・マーキウィック(後に医者となる)、アレックス・ギルビー(後にカード会社の経営者)、デイヴィッド・カー(後にフランス語の大学教授)、トム・マッキー(後に牧師)。
事件 1978年12月のパーティ帰りに、4人は瀕死の若い女性を見つけた。女性は死亡し、警察の調査で4人は容疑者になったが、真犯人はあがらなかった。そして25年後再調査が始まり……。
背景 著者の単発物の一冊。4人の青春時代とその後の状況は巧みに語られているものの、犯人捜しの語り口にはもどかしさを感じてしまう。まあ、この結末ならば、しかたないか。

邦題 『フライアーズ・パードン館の謎』
原作者 フィリップ・マクドナルド
原題 Mystery at Friar's Pardon(1931)
訳者 白須清美
出版社 原書房
出版年 2005/3/22
面白度 ★★
主人公 チャールズ・フォックス=ブラウン。35歳の独身。除隊後、戦争後遺症で健康状態が悪化していたこともあり、フライアーズ・パードン館の財産管理人となる。
事件 富豪の女性作家イーニッドが住むフライアーズ・パードン館では、不可解な出来事が続発していたが、ついに密室状態の部屋でイーニッドが溺死状態で見つかったのである。だが部屋には水は一滴もなく、床は乾いていた。しかも数分前には助けを求める電話があったのだ。
背景 著者がマーティン・ポアロック名義で書いた第一作。奇想天外な殺人事件の設定はさすがに面白いが、解決はある程度予測がつく。謎解きよりも、サスペンス豊かな語り口に魅力を感じた。後年、著者が米国映画界で成功したことを考えると、それも当然な気もするが……。

邦題 『ラスト・ライト』
原作者 アンディ・マクナブ
原題 Last Light(2001)
訳者 伏見威蕃
出版社 角川書店
出版年 2005/4/25
面白度 ★★★
主人公 英国秘密情報部の工作員ニック・ストーン。汚れ仕事を請け負っている。
事件 ニックは、国会議事堂のテラスで上司の指示する人間を狙撃しようとしていた。だが確認した標的の姿に疑問を持ち、狙撃を中止してしまう。怒った上司はニックにさらなる任務を命じた。それはパナマに飛んで、コロンビア革命軍が企てているミサイル発射管制システムの入手を阻止すること。そのためには、まずある人物を狙撃する必要があったのだ!
背景 シリーズの四作め。著者が元SAS隊員であるだけに、リアリティのある細部描写が優れている。例えば本作では狙撃に関する薀蓄が興味深く語られている。それに比べると人物造形とプロットは、まあ及第点には達しているものの、面白いというレベルには届いていないのが残念。

邦題 『すべてが罠』上下
原作者 グレン・ミード
原題 Web of Deceit(2004)
訳者 戸田裕之
出版社 二見書房
出版年 2005/11/25
面白度 ★★★★
主人公 若き女性弁護士ジェニファー・マーチ。母親は自宅で惨殺され、弟も不治の重傷を負う。父親は二年前から行方不明。もう一人の主役はニューヨーク23分署の刑事マーク・ライアン。
事件 行方不明の父親の死体がスイスの氷河で見つかったというニュースが飛び込んできた。ジェニファーは現場に赴くが、それは母親の死の謎と父親の隠されていた過去を暴こうとする旅でもあった。CIAは秘かにジェニファーを守るため、馴染みのマークに護衛を依頼するが……。
背景 著者の邦訳5作め。これまでの冒険小説とは多少異なり、本作では主人公の活躍は平凡で、むしろ紆余屈折するプロットの面白さで読ませるスリラーになっている。ご都合主義や死体の出現が多すぎるものの、思わず一気読みしてしまうプロットと筆力はサスガだ。

邦題 『テロ資金根絶作戦』
原作者 クリス・ライアン
原題 Greed(2003)
訳者 伏見威蕃
出版社 早川書房
出版年 2005/7/31
面白度 ★★★★
主人公 元SAS隊員のマット・ブラウニング。30代後半。恋人ギルがいるが、株取引に失敗し、50万ポンドの借金を抱えている。
事件 マットは借金を返済しないと恋人を殺すと脅かされていた。そこにMI5から、アルカイダに大打撃を与えるために彼らの資金となる金塊やダイヤモンドを強奪してほしいと依頼された。報酬は強奪品そのもの。計画は成功したが、敵は強奪品を奪い返そうとマットの仲間らを狙い……。
背景 初期三作を除くと、名前の異なる(元)SAS隊員が毎回登場するが、似たような性格付けであり、一種のシリーズ作品と考えてもよい。物語は適度なサスペンスを保ちながらテンポよく語られるうえに、B級謎解き小説のような意外性もあり、個人的には好みのシリーズである。

邦題 『漂う殺人鬼』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 The House Sitter(2003)
訳者 山本やよい
出版社 早川書房
出版年 2005/1/31
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのバース警察署警視のピーター・ダイヤモンドだが、今回の殺人現場は、バース近辺ではなくワイト島を沖合いに望むワイトヴュー・サンズの海岸なので、ボクナー・リージス警察署の主任警部ヘンリエッタ(ヘン)・マリンも活躍する。
事件 ワイトヴュー・サンズ海岸で、赤毛の女性が絞殺されていた。潮が満ちて手がかりは失われ、捜査は困難を極めるが、被害者は犯罪心理分析官で、バースに住んでいることがわかった。彼女は殺人鬼<古老の舟乗り>のプロファイリングを担当していたのである。
背景 前作で妻を亡くしたダイヤモンドの再起第一弾。見かけはサイコ・スリラーだが、雰囲気はいつものダイヤモンド・シリーズと同じで、安心して楽しめる。ご都合主義が少し強いが。

邦題 『紐と十字架』
原作者 イアン・ランキン
原題 Knots & Crosses(1987)
訳者 延原泰子
出版社 早川書房
出版年 2005/4/15
面白度 ★★★
主人公 グレイト・ロンドン・ロード署の部長刑事ジョン・リーバス。本事件時は41歳で、一人娘サミーは12歳。すでに妻ローナとは別居し、同署の広報担当警官ジル・テンプラーと恋仲になる。ジョンの父親と弟は、催眠術師である。
事件 エジンバラの街では、少女誘拐殺人事件が起きていた。一方リーバスのもとには、結び目のついた紐とマッチ棒で作られた十字架が送られてきた。事件と関係があるのか?
背景 紹介が遅れたが、リーバス物の第一作。著者によれば、『ジキル博士とハイド氏』の現代版を意図した作品で、ミステリーを狙ったものではないそうだ。確かに捜査場面の描写は少なく、ミステリーとしてはプロットに欠点も目立つ。ただし語る力はすでに一流であることがよくわかった。

邦題 『獣と肉』
原作者 イアン・ランキン
原題 Fleshmarket Close(2004)
訳者 延原泰子
出版社 早川書房
出版年 2005/11/30
面白度 ★★★★
主人公 シリーズ探偵はお馴染みのジョン・リーバス警部だが、シボーン・クラーク部長刑事もリーバスと同様に活躍する。本作では二人ともゲイフィールド・スクエア署に配置転換されている。
事件 難民らしき男の刺殺事件について、匿名の女性から情報がリーバスに寄せられた。時を同じくして、大学の研究室から盗まれた古い骨がパブの地下で発見された。さらにある強姦魔が出所し、被害者の妹が行方不明となる事件が起きた。三つの事件にはどんな関係があるのか?
背景 シリーズ15作め。難民・移民問題を取り上げた警察小説。リーバスとシボーンは、男と女の関係というよりは、完璧に息の合う仕事仲間としての関係に近く、清々しい。プロットは平板だが、三事件の繋がりで興味を持たせてしまう語り口は、あいかわらず達者そのものだ。

邦題 『ロンドン爆破まで九日間』上下
原作者 スティーブン・レザー
原題 The Bombmaker(1999)
訳者 田辺千幸
出版社 ランダムハウス講談社
出版年 2005/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『復讐の子』
原作者 パトリック・レドモンド
原題 Apple of My Eye(2003)
訳者 高山祥子
出版社 新潮社
出版年 2005/3/1
面白度 ★★★
主人公 ヘプトン在住の少年ロニー・シドニーとケンドルトン在住の少女スーザン・ラムジー。ロニーは私生児で、母親の手により聡明で美しい少年に育てられるが、後年母親は顔に傷跡のある大学教授チャールズ・ペンブルックと結婚する。スーザンは豊かな幼少期を過ごすものの、父の死後、母親が弁護士のアンドリュー・ビショップと再婚したことにより不穏な生活を強いられる。
事件 そのロニーとスーザンが16歳になって学校で知り合い、強く惹かれあう。ロニーはある秘密を打ち明け、二人はある秘密を実行に移すが……。
背景 『霊応ゲーム』でデビューした著者の二作めの邦訳。デビュー作はサイコ・ホラーとしての面白さがあったが、こちらはミステリーとしての骨格は弱く、むしろ青春小説として楽しめる。

邦題 『原潜バラクーダ奇襲』
原作者 パトリック・ロビンソン
原題 Barracuda 945(2003)
訳者 山本光伸
出版社 二見書房
出版年 2005/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『迷い子たちの長い夜』
原作者 フランセスカ・ワイズマン
原題 Nowhere's Child(2003)
訳者 猪俣美江子
出版社 ランダムハウス講談社
出版年 2005/10/13
面白度
主人公 特にいないが、比較的重要な人物は、事件担当のロンドン警視庁刑事ジャック・スモールボーンと彼を20年後に訪ねることになる母子家庭で育ったキット、キットの母の三人。
事件 1980年のロンドン。片目をえぐられたスーパーモデルの惨殺死体が見つかった。スモールボーンが捜査を担当するが、被害者の経歴も把握できない。事件は迷宮入りの様相を見せたが、ある自白から一件落着。そして20年後キットはスモールボーンを訪れ、物語は意外な展開をする。
背景 刑事弁護士である著者の第一作。裏表紙の紹介には「哀切なるミステリ」とあるが、ミステリー的趣向は少なく(殺人事件を主題にして、多少叙述トリック的な手法を用いているが)、ガッカリ。スモールボーンはほとんど捜査しないし、読者が推理する楽しみもまったくない。

邦題 『囚人護送艦、流刑大陸へ』
原作者 パトリック・オブライアン
原題 Desolation Island(1978)
訳者 大森洋子
出版社 早川書房
出版年 2005/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ボストン沖、決死の脱出行』上下
原作者 パトリック・オブライアン
原題 The Fortune of War(1979)
訳者 高沢次郎
出版社 早川書房
出版年 2005/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『無法のカリブ海』
原作者 アレグザンダー・ケント
原題 Man of War(2003)
訳者 高橋泰邦
出版社 早川書房
出版年 2005/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『愛国の旗を掲げろ 』
原作者 ジュリアン・ストックウィン
原題 Mutiny(2003)
訳者 大森洋子
出版社 早川書房
出版年 2005/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ドーバーの伏兵』
原作者 エドウィン・トーマス
原題 The Blighted Cliffs(2003)
訳者 高津幸枝
出版社 早川書房
出版年 2005/4/30
面白度 ★★★
主人公 英国海軍海尉のマーティン・ジェラルド。26歳。牧師の息子に生まれるも、叔父に強制されて海軍に入った。軍人としての適性に欠けていると自覚している。
事件 時はトラファルガー海戦の直後。海戦でなんの手柄もたてられなかったジェラルドは、密輸監視艦勤務を命じられた。ところがドーバーの浜辺で死体を見つけ、あろうことか殺人容疑者に! 叔父のおかげで釈放されたが、二週間以内に真犯人を見つけ出さなければならなかった。
背景 酒にも女にも弱く、戦闘もさほど強くない主人公が、それでも大事件を解決してしまうというアンチ・ヒーロー物語。海洋冒険小説というより時代冒険小説の風味が強い。ユーモアのある語り口は、新人にしては堂に入っており、サブストーリーの恋愛も無難に処理している。

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