邦題 『迷宮の暗殺者』
原作者 デイヴィッド・アンブローズ
原題 The Discrete Charm of Charlie Monk(2000)
訳者 鎌田三平
出版社 ソニーマガジンズ
出版年 2004/2/20
面白度 ★★★
主人公 医学博士のスーザン・フレミング。外的要因による記憶喪失患者の治療法を研究している。もう一人はアメリカにある秘密組織の特殊工作員チャーリー・モンク。
事件 スーザンの夫がシベリアでの飛行機事故で死亡した。彼女は現地に飛ぶが、そこで知り合ったジャーナリストは、彼女の夫は殺されたのだと秘密を打ち明けられた。一方チャーリーは超人的な訓練を受けた優秀な暗殺者であったが、初恋の女性との記憶だけが、何故か欠落していた。
背景 この二つの交互に語られる物語が中盤で交わり、話はSF的な展開となる。著者はこれまで脳の記憶をテーマにしたエンタテイメント作品を主に書いているが、本書もその範疇に入る一冊。語り口が滑らかで退屈はしないものの、SF嫌いとしては、もっと冒険小説風味がほしかった。

邦題 『訣別の弔鐘』
原作者 ジョン・ウェルカム
原題 Run for Cover(1958)
訳者 岩佐薫子
出版社 論創社
出版年 2004/12/20
面白度 ★★★
主人公 ロンドンに住むアマチュア騎手のリチャード・グレアム。戦時中、上官のルパート・ロールに恋人を奪われるとともに、背後から撃たれてドイツの捕虜となるが、その後脱出した。
事件 ある日リチャードは、出版社社長の依頼で、新人の原稿をチェックすることになった。驚いたことに著者名は、死んだはずのルパートになっていたのだ。だがその原稿は、わずかな隙に何者かに盗まれてしまった。リチャードは原稿とルパート探しのため、フランスに向かった。
背景 著者は本邦初紹介だが、D・フランシスの友人であったらしい。冒頭部分の語り口やアマチュア騎手が主人公という設定などは、確かにフランシスを彷彿させる。しかし中盤に入ると、東西冷戦を背景にしたスパイ小説に変貌してしまう。スパイ小説としては陰謀がチャチすぎるのが残念。

邦題 『荊の城』上下
原作者 サラ・ウォーターズ
原題 Fingersmith(2002)
訳者 中村有希
出版社 東京創元社
出版年 2004/4/22
面白度 ★★★★
主人公 ロンドンの下町ですりを生業としているスーザン(スウ)・トリンダーとブライア(荊)城に住む令嬢のモード・リリー。二人とも17歳。
事件 時代は19世紀の半ば、主要舞台はロンドン。詐欺師の<紳士>は、モードという令嬢をたぶらかして結婚し、財産をそっくり奪おうという計画をスウに持ちかけた。モードは本好きな伯父と辺鄙な土地の城に住んでおり、スウはモードの侍女になることに成功したものの……。
背景 『半身』で本邦デビューした著者の翻訳第ニ弾。前作同様ヴィクトリア朝時代の話だが、登場人物の多くが下層階級という点が異なっている。ミステリー度は前作ほどではないものの、当時の風俗描写は興味深いし、春本を小道具にしたプロットも巧み。小説作りはより進歩している。脱帽!

邦題 『蛇の形』
原作者 ミネット・ウォルターズ
原題 The Shape of Snakes(2000)
訳者 成川裕子
出版社 東京創元社
出版年 2004/7/30
面白度 ★★★★
主人公 ミセス・M・ラニラ。夫サムと息子が二人いる。職業は先生で、海外生活を二十年経験し、英国に戻ってきた。香港では、一時精神科を受診している。
事件 ある冬の晩、ラニラは隣人の黒人アニー・バッツが側溝で死にかけているのに出くわした。警察は交通事故として処理したが、ラニラはアニーの最期の表情と警察の人種差別的行動から、その結論には納得はできなかった。そして二十年後、帰国したラニラは執念の再調査を始める。
背景 邦訳6冊目(原書は7冊目)。『女彫刻家』を除くと、著者の創造する主人公には、素直に共感できないことが多いが、本書のラニラも例外ではない。ただし他の登場人物の性格描写は秀逸。事件の謎が比較的単純なのが残念なものの、フーダニットとしてそれなりに楽しめる。

邦題 『暗い広場の上で』
原作者 ヒュー・ウォルポール
原題 Above the Dark Circus(1931)
訳者 澄木柚
出版社 早川書房
出版年 2004/8/15
面白度 ★★
主人公 リチャード(ディック)・ガン。本編の語り手だが、現在は失業者。謎の貴族ジョン・オズマンドの妻ヘレンを秘かに愛している。
事件 第一世界大戦後のロンドン。リチャードの手持ちの全財産は半クライン貨一枚であった。だが何故か散髪代に使うことにし、理髪店に入ったところ、14年以上探し求めてきた脅迫者ペンジュリーに出会ったのだ。そしてペンジュリーからオズマンド夫妻とも再会するが……。
背景 短編「銀の仮面」で有名な著者の長編。ジュリアン・シモンズが中心になって選定した<サンデー・タイムズのミステリー・ベスト99>にも選ばれている。同リストに載ったバーディンの『悪魔に食われろ青尾蝿』に似た異常心理スリラーだが、ミステリー度がかなり低くてガッカリ。

邦題 『迷宮の舞踏会 』
原作者 ロス・キング
原題 Domino(1995)
訳者 河野純治
出版社 早川書房
出版年 2004/4/30
面白度 ★★
主人公 1770年を舞台とする話の主人公は画家のジョージ・コートリイ。1720年を舞台とする話の主人公は、稀代の名カストラートと言われたトリスターノ。
事件 ある仮面舞踏会に出ていた老人ジョージ・コートリイは、細密肖像画の美女レディ・ボウクレアについて語りだした。画家志望であった彼は1770年ロンドンに出てボウクレアと出会い、肖像画を依頼されたのだ。そして物語は、彼女が知っている稀代のカストラートのことに移る。
背景 第二作『謎の蔵書票』で本邦デビューした著者の第一作。『謎の蔵書票』には暗号なども登場して、かなりミステリー色が濃かったが、本書は、仮面舞踏会というミステリーに格好な設定ながら、ミステリー味は薄い。個人的に、カストラートや仮面舞踏会に興味がないのも減点材料だ。

邦題 『地獄の世紀』上下
原作者 サイモン・クラーク
原題 Blood Crazy(1995)
訳者 夏来健次
出版社 扶桑社
出版年 2004/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『トフ氏と黒衣の女』
原作者 ジョン・クリーシー
原題 Here Come the Toff(1940)
訳者 田中孜
出版社 論創社
出版年 2004/11/20
面白度 ★★
主人公 リチャード・ローリンソン卿。Toffという言葉は、上流階級のダンディーな紳士一般を指すそうだが、それがいつのまにかローリンソンの呼び名となり、トフ氏と呼ばれている。貴族探偵。
事件 トフ氏は、ある夜、魅力的な女性アンシアとレストランで食事をしていると、黒いドレスを着たアーマに気づいた。なぜロンドンに戻ってきたのだろうか? トフ氏が調査をすると、アーマは資産家レンウェイの財産を狙っているらしい。しかも暗黒街のボスと一緒になって!
背景 ギデオン警視シリーズなどでお馴染みの著者がクリーシー名義で書いたトフ氏シリーズの5冊目の翻訳。通俗的な犯罪小説だが、同じ著者の”暗闇男爵”のような悪人ではなく、あくまで探偵として活躍する。悪女アーマとの対決が読みどころだが、プロットは平板。

邦題 『シリウス・ファイル』
原作者 ジョン・クリード
原題 The Sirius Crossing(2002)
訳者 鎌田三平
出版社 新潮社
出版年 2004/8/1
面白度 ★★★
主人公 汚れ仕事をするための闇機関MRUの情報部員ジャック・ヴァレンタイン。中年の独身だが、かつての恋人は、IRAの伝説的な闘士リーアム・メロウズの妹。
事件 MRUの上司から、ジャックは奇妙な任務を頼まれた。1970年代初頭、北アイルランドにパラシュート降下した工作員の死体を見つけ、その所持品を持ち返れというものだった。ジャックは、リーアムとともに自前の船でアイルランドに向かうが、早くも謎の一団に襲われ……。
背景 2002年新設のCWA最優秀スパイ冒険スリラー賞を受賞した作品。冒険小説は初の試みとのことだが、小説はそれ以前から書いていたそうだ。そのせいか、語り口は流暢。優等生の書いた冒険スパイ小説という感じで、小さくまとまっている。最大の不満は、冒頭の謎が平凡なことか。

邦題 『大聖堂は大騒ぎ』
原作者 エドマンド・クリスピン
原題 Holy Disorders(1945)
訳者 滝口達也
出版社 国書刊行会
出版年 2004/5/20
面白度 ★★★
主人公 お馴染みオックスフォード大学教授のジャーヴァス・フェン。
事件 トールンブリッジの大聖堂で、オルガン奏者が何者かに襲撃された。フェンの依頼で作曲家ジェフリイが代役のために現地に向かうが、途中デパートで襲われたりする。そしてどうにか到着してみると、オルガン奏者は病院で毒殺され、聖歌隊長は巨大な石の墓碑で圧死していた!
背景 フェン・シリーズの第ニ作。戦時中に書かれただけにスパイが殺人事件に関係している点が多少珍しいが、それ以外はファースをとり入れた、いつものクリスピン節で物語が語られている。謎の設定(密室状態での殺人)はそれほど感心しなかったが、私が大聖堂に関心がないことも一因であろう。意外な犯人はそこそこ面白い。でも全般的には若書きの欠点の方が目立つ。

邦題 『ブレイン・ドラッグ』
原作者 アラン・グリン
原題 The Dark Fields(2001)
訳者 田村義進
出版社 文藝春秋
出版年 2004/2/10
面白度 ★★★
主人公 フリーランスのコピライターであるエディ・スピノーラ。10年ほど前に離婚し、いまは独身の冴えない中年男。80年代はコカインにはまっていた。
事件 エディはある日、別れた妻の兄から脳を活性化するという薬MDT−48を貰った。試しに飲んでみると効果は抜群。さらにその錠剤を入手しようと兄の家を訪れると、兄は変死しており、天井裏から大量の錠剤と紙幣が見つかったのだ。エディは密かにそれらのブツを持ち出したが……。
背景 訳題からは『トレイン・スポッティング』のような麻薬小説が予想できる。確かにスピード・ドラッグが重要な小道具になっているが、それより平凡な男がデイ・トレーディングなどで浮き沈みするさまを描いた経済スリラーとして楽しめる。短い文章を重ねた語りはかなりの迫力だ。

邦題 『フレンチ警部と漂う死体』
原作者 F・W・クロフツ
原題 Found Floating(1937)
訳者 井伊 順彦
出版社 論創社
出版年 2004/12/20
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのロンドン警視庁主任警部ジョウゼフ・フレンチ。船旅をしつつ事件を解決する。
事件 50代後半で独身の当主ウィリアムは家電会社の経営者であり、姪のキャサリンとともに薄暮館に住んでいた。それなりに豊かな生活であったが、数ヶ月前からウィリアムの体調が衰え、会社の経営を豪州にいる甥マントに譲ると宣言したのだ。そしてマントが到着してから半年ほどたったウィリアムの誕生会で、一族6人が全員毒を盛られた。誰が、何故手を下したのか?
背景 二冊あったクロフツ未訳本の一冊。クロフツの登場は、全体の2/3弱あたりから。そのため、地道な捜査の積み重ねで犯人を追い詰めるというフレンチ得意のパターンが不発なのが不満。犯人の手記で解決というのも安易。ただし前半の人間関係の描写は思いのほか読ませる。

邦題 『売り込み』
原作者 ダグラス・ケネディ
原題 Losing It(2003)
訳者 中川聖
出版社 新潮社
出版年 2004/12
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『顔のない女』上下
原作者 マーティナ・コール
原題 Faceless(2001)
訳者 小津薫
出版社 講談社
出版年 2004/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『プリーストリー氏の問題』
原作者 A・B・コックス
原題 Mr. Priestley's Problem(1927)
訳者 小林晋
出版社 国書刊行会
出版年 2004/12/20
面白度 ★★★
主人公 マシュー・プリーストリー。ロンドンに住む、眼鏡をかけた小太りの36歳の独身男。もてない男の典型だが、性格は心優しく、執事に家事を任せて優雅な生活を楽しんでいる。
事件 プリーストリーの友人ドイルは、知人らとともに、人殺しをしたと思い込んだ男の行動と心理を探求しようという遊びを計画し、その対象者にプリーストリーを選んだ。そのことを知らないプリーストリーはピカデリーを散歩中、見知らぬ美女から助けを求められ、つい拳銃を発射するが……。
背景 アントニー・バークリーが別名義で書いたユーモア・ミステリーというか、スクリューボール・コメディ。確かにプリーストリーが美女と手錠で繋がれたまま逃亡するシーンは笑いを誘うが、全般的にはそれほど楽しめない。つまるところは作者の女性観に馴染めないからか?

邦題 『霧けむる王国』
原作者 ジェイン・ジェイクマン
原題 In the Kingdom of Mists(2002)
訳者 長野きよみ
出版社 新潮社
出版年 2004/2/25
面白度 ★★★★
主人公 ロンドン警視庁のガレティ警部補と外務省の新人官僚オリヴァー・クラストン、実在の画家クロード・モネ、青年医師ニューボルドの四人だが、強いて一人に絞ればクラストンか。
事件 テムズ川から相次いで二人の女性の惨殺死体が見つかった。ガレティはその事件の担当者、クラストンは被害者を発見した一人だった。一方老画家モネはロンドンのサヴォイ・ホテルに滞在し、テムズ川を描いていた。さらにニューボルドは警部補の妻から不妊の相談を密かに受けていた。
背景 19世紀末のロンドンを舞台にしたサスペンス小説。猟奇的な連続殺人を扱っているが、犯人捜しや謎解きといったミステリー特有の面白さはない。だが、訳者の言うようにクラストンの成長小説として、モネを巡る歴史小説として楽しめる。最後のまとめ方が秀逸。モネの絵画12点も収録。

邦題 『夢の破片』
原作者 モーラ・ジョス
原題 Half Broken Things(2003)
訳者 猪俣美江子
出版社 早川書房
出版年 2004/12/31
面白度 ★★★★
主人公 留守番係の老嬢ジェーン・ウェイドと無職の中年男マイクル、未婚の母ステフの三人。
事件 ジェーンは、英国コッツウォルド地方の広大なマナーハウスの留守番係に派遣された。しかし彼女は、秘かに雑誌に実子と連絡がとりたいという広告を載せたのである。その広告に反応したのがマイクル。彼は、偶然知り合ったステフを連れてジェーンのいるマナーハウスを訪れる。そして三人の奇妙な共同生活が始まった。やがてステフは赤ん坊を産むが……。
背景 2003年のCWAシルヴァー・ダガー賞受賞作。レンデル作品ほど暗い気分にならず、P・D・ジャイムズ作品ほど重厚な描写もない。とはいえ、ちょうど二人を足して割ったような雰囲気がある。3/4を超えると急に物語が盛り上がる。ミステリー的な仕掛けもあり、読後の印象は悪くない。

邦題 『美しき囮』
原作者 トニー・ストロング
原題 The Decoy(2001)
訳者 橋本夕子
出版社 角川書店
出版年 2004/1/25
面白度 ★★
主人公 英国出身の女優の卵であるクレア・ローデンバーグ。グリーンカードを持っていないため、米国では正規の職業にはつけず、私立探偵事務所での囮捜査を担当している。腕は一流。
事件 クレアに囮捜査を依頼した人妻がホテルで殺された。警察は被害者の夫を疑い、成功の場合はグリーンカードを提供するからと、クレアに捜査協力を要請してきたのだ。クレアはボードレールの翻訳者であるその夫に接触を図るが、教養豊かなその夫に惹かれ始めたのだった。
背景 ハーリクィン・ロマンスのサスペンス小説版だが、ネット社会が犯罪の舞台になっている点や犯罪者が性格異常者という点が現代的である。クレアが捜査に参加する設定は安易だし、主人公が容疑者に惹かれていく過程もさほど説得力はない。ただし語り口は達者で飽きることはない。

邦題 『キリンの涙』
原作者 アレグザンダー・マコール・スミス
原題 Tears of the Giraffe(2000)
訳者 小林浩子
出版社 ソニー・マガジンズ
出版年 2004/8/20
面白度 ★★★
主人公 アフリカ、ボツワナ共和国唯一の女私立探偵プレシャス・ラモツエ。シリーズ第二弾だが、本作では冒頭でモーター・ガレージ経営者J・L・B・マテコニと婚約する。
事件 いそいそと結婚準備を始めたラモツエのところに、アメリカから女性の依頼人が来た。十年前にこの地で消息を絶った息子の実情を知りたいというのだ。一方婚約者は無断で養子をとったり、優秀な秘書は探偵助手をしたいと言い出したり、ラモツエは大忙しとなるが……。
背景 第一作では主要登場人物の紹介に筆を費やしすぎ、事件はコント程度のものにすぎなかったが、本作では短編小説を支える程度の事件になってきた。つまりミステリーとしてのバランスは前作より良くなっている。もちろん本作の面白さは人情話的な小説部分にあるが。

邦題 『ネプチューンの剣』
原作者 ウィルバー・スミス
原題 Birds of Prey(1997)
訳者 上野元美
出版社 ソニーマガジンズ
出版年 2004/1/20
面白度 ★★
主人公  ヘンリー(ハル)・コートニー。英国貴族サー・フランシス・コートニーの息子。登場時は17歳。父と一緒に<レディ・エドウィナ>という私掠船に乗り込んでいる。
事件 時は17世紀。オランダ船を狙って、ハルらはアフリカ大陸の南端にやってきた。首尾よく船を捕獲したものの、仲間の裏切りで父は拷問死し、ハルも捕えられてしまった。
背景 訳者あとがきによれば、コートニー・シリーズは17−18世紀を舞台にした三部作と19世紀を舞台にした三部作、さらに20世紀を舞台にしたものがあるそうだ。本書はその大河小説の第一作となる作品。問題はリーダーズ・ダイジェスト社の短縮版を基に翻訳されていることで(約六割?)、スミスの特徴といってよい、コレデモカという描写がなく、物語が表面的に語られているのが残念。

邦題 『名無しのヒル』
原作者 シェイマス・スミス
原題 The Moles' Cage(2004)
訳者 鈴木恵
出版社 早川書房
出版年 2004/9/30
面白度 ★★★★
主人公 マイケル・ヒル。17歳のアイルランド人で、共和国へ入ろうとして捕まる。最初の尋問で名前を言わなかったため、予防拘禁で収容所に入れられる。IRAのメンバーではない。
事件 友達とともに送られた収容所では、陰険な看守に暴行を受ける。祖母から差し入れられた食料も踏み潰された。そのうえカマボコ宿舎は夏は暑く、冬は寒い。ベッドは固く食事は粗末という悪環境だが、マイケルは怯まなかった。秘かにトンネルを掘って脱走する計画を編み出したのだ。
背景 著者の第3作。前2作と比べるとミステリー度はもっとも低いが、M・スミスの『ストーン・シティ』がミステリーならば、脱走計画の扱いが単純とはいえ、本書をミステリーに入れても問題ないだろう。IRA問題に対する主人公(ということは著者)の立場には、大いなる共感を持ってしまう。

邦題 『鷲の巣を撃て』
原作者 マリ・デイヴィス
原題 The Devil's Handshake(2002)
訳者 真野明裕
出版社 二見書房
出版年 2004/6/25
面白度 ★★
主人公 英国特殊工作部欧州課の中尉ロビン・ラスティ。ドイツ人の血が1/4混じっている。
事件 1943年初頭。英国特殊工作部は、秘かにヒトラー暗殺を計画し、最終的にラスティを候補者とした。彼は以前ドイツに住んでいて、ドイツ語は完璧であった。偽装身分はアフリカ戦線で負傷したドイツ軍将校とし、ミュンヘン郊外に単身で落下傘降下を行なったのだ。そして首尾よくヒトラーの山荘近くのナチ党員の宿屋に潜り込むことに成功するが、その党員の若妻を好きになり……。
背景 ナチ物の冒険スパイ小説。文庫本で六百頁を越す大作だが、語り口は滑らかで飽きることはない。問題は暗殺計画そのもので、ドイツ国内での協力者がゼロなうえに、潜入期間も長い。どうみても戦争中の秘密機関が考える計画にしてはお粗末なものだからだ。ただし読後感は悪くない。

邦題 『オリーブの真実』
原作者 リンゼイ・デイヴィス
原題 A Dying Light in Corduba(1996)
訳者 田代泰子
出版社 光文社
出版年 2004/6/20
面白度 ★★★
主人公 お馴染みとなったローマの密偵マルクス・ディディウス・ファルコ。
事件 ファルコの生きていたローマ時代、オリーブ油は、料理だけでなく、照明・化粧・医療などにも利用された重要な資源であった。その生産地ヒスパニアの生産者たちのパーティがローマであり、ファルコも出席したのだが、その後で密偵頭が重症を負い、密偵が殺される事件が起きた。裏にはオリーブ油の談合疑惑があるらしい。ファルコは謎のダンサーを追ってスペインへ赴く。
背景 ファルコ・シリーズの8作目。ファルコの妻ヘレナは身重となっているが、そのヘレナを連れての冒険である。ミステリーとしては謎は平凡で、犯人の設定にも意外性はない。とはいえ属州ヒスパニアの描写は興味深いし、ファルコの軽口も錆付いていない。時代小説として楽しむべきか。

邦題 『水路の連続殺人』
原作者 リンゼイ・デイヴィス
原題 Three Hands in the Fountain(1996)
訳者 矢沢聖子
出版社 光文社
出版年 2004/10/20
面白度 ★★★
主人公 ローマの密偵マルクス・ディディウス・ファルコ。お馴染みの人物だが、今回は、休職中のファルコの親友、第十三地区警備隊長ペトロニウス・ロングズも一緒に活躍する。ペトロは、暗黒街のボスの娘に手を出したため妻から愛想をつかされて、一人で生活している。
事件 ローマ市民の誇りである水道網から、腐敗した人間の手が次々に見つかった。元執政官ユリウスの依頼で、ファルコとペトロは被害者の身元と犯人探しを始めたのだ。
背景 ファルコ・シリーズの9冊目。舞台は久しぶりに本拠地のローマ。一種の猟奇的な連続殺人の話だが、そこはディヴスの手になるだけに、あまり猟奇的な雰囲気はない。妻へレナがプロファイリングのようなことをするのが微笑ましい。意外性が少ないのが残念だが、安心して楽しめる。

邦題 『シャーロック・ホームズ対切り裂きジャック』
原作者 マイケル・ディブディン
原題 The Last Sherlock Holmes Story(1978)
訳者 日暮雅通
出版社 河出書房新社
出版年 2004/2/20
面白度 ★★★
主人公 語り手はジョン・ハーバート・ワトスン医師。シャーロック・ホームズ物語のあのワトスン博士である。1926年2月に享年73歳で亡くなったが、密かに手記が残されていた。
事件 ワトスンの遺言状には、銀行に保管されていた書類を50年後に公表するようにと記されていた。そしてその手記には、ホームズが切り裂きジャック事件を扱った詳細が書かれていたのだ!
背景 「ホームズはなぜ切り裂きジャックについてまったく言及していないのか?」というホームズ物語の謎に、一つの解釈を与えたパロディ。ディブディンの第一作。核心のアイディアは前例があるそうだし、クイーンの『恐怖の研究』といったパロディも書かれているが、文章力のある作家だけに、アイディア倒れになっていない。ドイルの文体通りでないという逃げの設定も巧みだ。

邦題 『天使の遊戯』
原作者 アンドリュー・テイラー
原題 The Four Last Things(1997)
訳者 越前敏弥
出版社 講談社
出版年 2004/2/15
面白度 ★★★
主人公 明確な主人公はいないが、強いて挙げればセント・ジョージ教会の女性副牧師サリー・アップルヤードとその夫で部長刑事のマイケルか。
事件 晩秋のロンドンで、アップルヤード夫妻の四歳の娘ルーシーが誘拐された。だが捜査開始後も犯人側の接触はなく、やがて切断された手だけが墓地で見つかり、夫妻はパニックに――。
背景 久しぶりのテイラーの翻訳本。三部作となる大河小説の第一作だそうだが、内容は一種のサイコ・ホラーで、捜査側と犯人側の視点から交互に物語が語られる。犯人たちは冒頭から明らかで、特に暴力をふるうわけではないものの、サスペンスや無気味さは十分に漂っている。欠点は、サリーは国教会の女性副牧師という珍しい設定ながら、イマイチ魅力に乏しい点か。

邦題 『北極星号の船長』
原作者 コナン・ドイル
原題 日本独自の編集(2004)
訳者 北原尚彦・西崎憲編
出版社 東京創元社
出版年 2004/12/10
面白度 ★★★
主人公 シャーロック・ホームズでお馴染みのドイルの怪奇小説的な短編12本を集めた日本独自の短編集。題名の後に*印のあるものは『ドイル傑作選T・U』(翔泳社)からの再録。
事件 「大空の恐怖」*「北極星号の船長」*「樽工場の怪」*「青の洞窟の恐怖」「革の漏斗」「銀の斧」*「ヴェールの向こう」*「深き淵より(デ・プロフンディス)」*「いかにしてそれは起こったか」*「火あそび」*「ジョン・バリントン・カウルズ」*「寄生体」
背景 最後の「寄生体」は『筋肉男のハロウィーン』(文春文庫、1996)に収録されており、残りの無印の二本も『ドイル傑作集X−恐怖編』(新潮社、1960)に収録されている。したがってこれまで未訳であった短編は含まれていない。

邦題 『閘門の足跡』
原作者 ロナルド・A・ノックス
原題 The Footsteps at the Lock(1928)
訳者 門野集
出版社 新樹社
出版年 2004/9/24
面白度 ★★
主人公 お馴染みのシリーズ探偵マイルズ・ブリードン。保険会社インディスクライバブルの調査員で、カードのペイシャンスが大好き。捜査担当の警官はスコットランド・ヤードのリーランド警部。
事件 デレックとナイジェルは従兄弟同士だが、祖父の遺産は、デレックが25歳になればすべて彼のものとなる。しかしデレックは自堕落な生活のため、医者から余命はわずかと宣告されたのだ。静かな生活を求めて、二人はテムズ川遊びを始めるが、ナイジェルがオックスフォードに戻った時、デレックは行方不明、船は沈没状態で発見された。近くではフィルムや財布、足跡が見つかるが……。
背景 ノックスの第3作で、遺産を巡るミステリー。テムズ川遊びの描写などやユーモラスな語り口には興味を惹かれるが、デレックという人物の設定があまりにご都合主義でしらけてしまう。

邦題 『絹靴下殺人事件』
原作者 アントニイ・バークリー
原題 The Silk Stocking Murders(1928)
訳者 富塚由美
出版社 晶文社
出版年 2004/2/29
面白度 ★★
主人公 小説家のロジャー・シェリンガム。≪デイリー・クーリア≫のコラム寄稿者でもある。
事件 シェリンガムのもとに、ロンドンで消息を絶った娘を探してほしいという手紙が届いた。彼が新聞社内で調査してみると、その娘は劇場のコーラスガールであったが、1ヶ月ほど前に絹のストッキングで首吊り死をしていた。ところが同じような事件が続発して、彼は疑問を持ち始めた。
背景 著者の四作目で、傑作『毒入りチョコレート事件』の前作にあたる。謎解き小説というより、連続殺人を扱った通俗スリラーに近い。犯罪の動機や犯人を炙り出す方法などはガッカリだが、1920年代にはエドガー・ウォーレスの作品を始めとして、この種のスリラーがよく読まれていたのであろう。クリスティも『ビッグ4』のような愚作を書いているし――。

邦題 『1983 ゴースト』
原作者 デイヴィッド・ピース
原題 Nineteen Eighty Three(2002)
訳者 酒井武志
出版社 早川書房
出版年 2004/5/31
面白度 ★★
主人公 特にいないが、強いて挙げれば、リーズ警察の刑事モーリス・ジョブスン。巨大な眼鏡をかけているので”フクロウ”と呼ばれている。
事件 1983年、モーリスは小学生女子の失踪事件を捜査することになった。だが一向に捜査は進まない。やがて葬られたはずの過去の悪夢が次々とよみがえり……。
背景 著者のヨークシャー四部作の最終作。実に文庫本で820頁を越える大作。ただし一文一行という短文を駆使して物語を語っているので(つまり頁には余白がやたら多いので)、実質的な長さはその1/2くらいか。プロットもそう複雑ではない。本作の特徴は文体にあるといってよいが、個人的にはあまり好きになれない。第一、二作の方が楽しめた。

邦題 『白い恐怖』
原作者 フランシス・ビーディング
原題 The House of Dr.Edwardes(1927 28)
訳者 山本俊子
出版社 早川書房
出版年 2004/2/15
面白度 ★★★
主人公 コンスタンス・セッジウィック。医学校を卒業したばかりの26歳の女医。
事件 コンスタンスは、スイスの山中にある古城を改装した精神病院に赴任した。だが赴任直前に高名な院長は長期休暇をとってしまい、代わりに若い医師マーチスンが病院を管理していた。そこには入院移送中に殺人を犯した患者がいるうえ、病院周辺の森では怪しげな事件が頻発し……。
背景 A・ヒッチコック監督が1945年に製作した映画「白い恐怖」の原作本。ただし本は、映画の脚本とは大幅に異なっている。若い未婚の女性が主人公、舞台は人里離れた精神病院というので、ゴシック・ロマンスを予想する読者が多いはずだが、恋愛描写は少なく、ヒロインが理性的に行動するなど、通俗的なゴシック・ロマンスとも違っている。プロットそのものは単純であるが。

邦題 『審判の日』
原作者 ジャック・ヒギンズ
原題 Day of Reckning(2000)
訳者 黒原敏行
出版社 角川書店
出版年 2004/9/25
面白度 ★★
主人公 アメリカ大統領直属捜査機関<ベイスメント>の責任者ブレイク・ジョンスンと英国対テロ専門組織の責任者チャールズ・ファーガスン准将の一派。一派のなかには、元IRAテロリストのショーン・ディロン、ロンドン警視庁主任警部ハンナ・バーンスタイン。車いす使用のローパーなど。
事件 ブレイクの元妻ケイトの死体がニューヨークの川から見つかった。ジャーナリストの彼女がマフィア幹部の取材で深入りし過ぎたためであった。ブレイクは盟友ディロンらの助けを借りて、マフィア<ソラッツォ・ファミリー>の幹部に血の復讐をする目的でロンドンに向かった。
背景 もはや期待していないヒギンズ作品だが、それでも翻訳されるとつい手を出してしまう。薄くて読みやすいのが利点だが、機密情報がすぐ入手できるなど、ご都合主義は相変わらずである。

邦題 『死の笑話集』
原作者 レジナルド・ヒル
原題 Death's Jest-Book(2002)
訳者 松下祥子
出版社 早川書房
出版年 2004/11/30
面白度 ★★★
主人公 ダルジール・シリーズの一冊だが、中部ヨークシャー警察のダルジール警視だけでなく、パスコー主任警部とその妻エリー、ウィールド部長刑事、ボウラー刑事が活躍する。
事件 前科者から研究者になった青年から、パスコーに長い手紙が何回も送られてきた。狙いは何なのか? 一方ウィールドは偶然、少年男娼から大きな犯罪計画をキャッチした。さらにダルジールは前作ワードマン事件の後遺症に悩んでいた。三つの事件は意外な絡まり方で展開していく。
背景 前作『死者との対話』の続編。プロットはほぼ独立しているが、なにしろ前作の犯人などを堂々と書いているので、やはり前作から読むべきだろう。650頁近い(定価2000円の)ポケミスという大作。長すぎるのはやはり欠点だが、終盤三つの事件が一気に解明されるあたりは圧巻!

邦題 『アヴェンジャー』上下
原作者 フレデリック・フォーサイス
原題 Avenger(2003)
訳者 篠原慎
出版社 角川書店
出版年 2004/8/30
面白度 ★★★
主人公 弁護士のキャル・デクスター。裏稼業として「人狩り」を請負う。コードネームはアヴェンジャー。ベトナム戦争に参加し、”ねずみ”としてトンネル内でベトコンと戦う。
事件 ボスニア紛争時にアメリカ人学生がなぶり殺された。犯人はジリチというセルビア人で、すでに南米に高飛びしてしまったらしい。”アヴェンジャー”が依頼された仕事とは、ジリチを捕まえて米司法当局に引き渡してほしいというものであった。一方CIAテロ対策本部はジリチを利用し、間近に迫ったテロ攻撃を阻止しようとしていた。どちらが先に成功するのか?
背景 隠退したと思っていたフォーサイスの最新作。背景に9.11をもってきたのがミソ。全般的に(特に前半は)説明的文章が多いのが弱点だが、腐っても鯛らしく、そこそこ楽しめる。

邦題 『サーズデイ・ネクスト2さらば、大鴉』
原作者 ジャスパー・フォード
原題 Lost in Good Book(2002)
訳者 田村源二
出版社 ソニーマガジンズ
出版年 2004/9/20
面白度 ★★★
主人公 文学刑事局スウィンドン支局に勤める若い女刑事サーズデイ・ネクスト。本の中に入り込む能力があり、前作では『ジェイン・エア』の危機を救っている。
事件 ネクストの夫で作家のランデンが、突然消えてしまった。軍事産業と遺伝子ビジネスを牛耳るゴライアス社の仕業であった。助けるための交換条件は、ポーの『大鴉』の中に閉じ込められた幹部を連れ出すこと。一方「タイムトラベラー」の父からは地球生命体が絶滅するという警告が……。
背景 本が異常なほど重要なものとなっているパラレル・ワールドでサーズデイが活躍するシリーズ第2弾。さまざまなSF的設定が面白いといえば面白いし、生きのいい会話も楽しめるが、ミステリー・ファンとしては、そのハチャメチャなプロットにイマイチ乗り切れなかった。

邦題 『終わりなき負債』
原作者 C・S・フォレスター
原題 Payment Deferred(1926)
訳者 村上和久
出版社 小学館
出版年 2004/1/20
面白度 ★★★
主人公 ウィリアム・マーブル。ナショナル・カウンティ銀行の行員だったとき、銀行の内部情報を利用して大儲けをしたものの、それが原因で銀行を辞める。息子と娘が一人ずついる。
事件 マーブルは借金で苦境に陥っていたが、海外で成功した遠い親戚を密かに殺害して大金を入手した。そしてそれを元手に誰も注目していなかったフランを購入し、大金を手にした。だが犯罪の発覚に怯え、酒に溺れ始めたのだ。貞淑な妻は、夫の犯罪にまったく気づかなかったが……。
背景 海洋冒険小説ホーンブロワー・シリーズで有名な著者の珍しい犯罪小説。サンデー・タイムズのベスト100にも選ばれている。バークリーの『殺意』の先駆けと言われる作品でもある。ただし犯罪者の心理を淡々と描いている(完全犯罪が崩れる過程の面白さがない)ので、不満は多少残る。

邦題 『ホーネット、飛翔せよ』上・下
原作者 ケン・フォレット
原題 Hornet Flight(2002)
訳者 戸田裕之
出版社 ソニーマガジンズ
出版年 2004/12/20
面白度 ★★★★
主人公 デンマーク、サンデ島出身の18歳の若者ハラルド・オルセン。父は牧師、兄は陸軍航空隊の飛行教官。大学進学を目前にした学生であったが、警察に睨まれて卒業直前に退学する。
事件 第二次世界大戦中、英国空軍機は、ドイツ空軍機の待ち伏せで撃墜されることが多かった。デンマークの小島にドイツが最新型のレーダを設置したためだった。ハラルドは偶然その事実を知るが、抵抗組織を作り上げた英国MI6の女性分析官の婚約者、ハラルドの兄が殺されて……。
背景 いろいろ欠点もあるが、久しぶりのフォレットの快作。興味深いのはデンマークのレジスタンスをテーマにしていること。相手側の公安部の警部補が丁寧に描かれている点も、話を面白くしている。18歳の主人公の行動はご都合主義一杯だが、山また山のプロットはたいしたものである。

邦題 『奇術師』
原作者 クリストファー・プリースト
原題 The Prestige(1995)
訳者 古沢嘉通
出版社 早川書房
出版年 2004/4/30
面白度 ★★★
主人公 特にいないが、挙げるとすれば、物語の語り手といってよい次の四人。ジャーナリストのアンドルー・ウェストリー、彼の曽祖父で奇術師のアルフレッド・ボーデン、レディの称号を持つケイト・エンジャ、彼女の曽祖父で奇術師のルパート・エンジャである。
事件 アンドルーは、彼を呼び寄せたケイトから、興味深い話を聞かされた。二人の曽祖父は、20世紀初頭にはそれぞれ優秀な奇術師で、お互いライバル関係にあったというのだが……。
背景 1995年の世界幻想文学大賞受賞作。著者はSF作家だそうだが、なぜか「このミス」の投票では、本書が『犬は勘定に入れません』(紛れのないSF!)とともにベストテン入りしていたのでリストに加えた。リアリスティックな設定・描写は確かにミステリー・ファンでも楽しめる。

邦題 『城壁に手をかけた男』上下
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 Kings of Many Castles(2002)
訳者 戸田裕之
出版社 新潮社
出版年 2004/5/1
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの英国情報部員チャーリー・マフィン。ロシア内務省上級職員ナターリアと一緒にモスクワで生活している。本事件の捜査協力者はFBIモスクワ支局長のジョン・ケリー。
事件 ロシアを訪問した米国大統領夫妻がロシア大統領夫妻とパレードしている最中に銃撃を受けた。ロシアの大統領は重傷、米大統領の妻も負傷という大事件。ところが取り押さえられた犯人は亡命イギリス人の息子であったため、三国合同の捜査にチャーリーも参加することになったのだ。
背景 ベルリンの壁が無くなり、ソ連邦が崩壊したら本シリーズは終了すると思っていたが、チャーリーと同じくしぶとく続いているのは立派。チャーリーが手掛けるには派手過ぎる事件が欠点で、かえって物語が嘘っぽく感じられる。陰謀より、チャーリーの女性関係の方に興味がいってしまう。

邦題 『爆魔』上下
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 The Watchmen(2002)
訳者 松本剛史
出版社 新潮社
出版年 2004/12/1
面白度 ★★
主人公 FBI本部ロシア課の課長ウィリアム・カウリーとモスクワ民警の上級警官ディミトリー・ダニーロフ。ただし今回の事件では、カウリーの部下、FBI捜査官のパメラ・ダーンリーも活躍。
事件 サリンと炭疽菌を積んだミサイルが国連本部ビルに撃ち込まれた。幸い不発に終わったが、ワシントンでも爆弾テロが起こり、それらの爆弾はロシア製と判明した。カウリーは早速ダニーロフに協力を依頼するが、さらに国防総省のコンピューターがサイバー・テロに襲われたのだ!
背景 ダニーロフとカウリー・シリーズの第3弾。一、二作ではダニーロフの活躍が印象に残っているが、今回は米国が主舞台なのでカウリーの方が主役。著者自身が「本書は決して九月十一日の凶行を予言したもの」ではないと述べているが、中身を読めば、当然と思える。出来は平凡。

邦題 『十六歳の闇』
原作者 アン・ペリー
原題 Bluegate Fields(1984)
訳者 富永和子
出版社 集英社
出版年 2004/1/25
面白度 ★★★★
主人公 首都警察のトーマス・ピット警部とその妻のシャーロット・ピット。
事件 ロンドンの貧民街ブルーゲイト・フィールズの下水道から、金髪少年の全裸死体が見つかり、検死の結果は溺死殺人であった。ピットは被害者の身元を調査するが、被害者は16歳の貴族の子供で、梅毒に罹っていることがわかったのだ。そして子供の家庭教師が逮捕されるが……。
背景 シリーズ物の邦訳第二弾。電話が使われ始めたという記述からもわかるように、1880年代のロンドンを背景にした歴史警察小説。ただし著者が女性だからであろうが、トーマスだけではなく、シャーロットもトーマス以上に活躍することが本シリーズの特徴か。謎は平凡だが、素人(シャーロット)の行動が普通の警察活動と異なるために、少し変わった物語展開が興味深い。

邦題 『怪奇礼讃』
原作者 E・F・ベンスン 他
原題 (2004)
訳者 中野善夫・吉村満美子 編訳
出版社 東京創元社
出版年 2004/7/30
面白度 ★★★
主人公 19世紀末から20世紀半ばに書かれた英国怪奇短編22本を集めたアンソロジー。
事件 面白かった短編のみを挙げると「塔」マーガニタ・ラスキ、「よそ者」ヒュー・マクダーミッド、「跫音」E.F.ベンスン、「祖父さんの家で」ダイラン・トマス、「メアリー・アンセル」マーティン・アームストロング、「二時半ちょうどに」マージョリー・ボウエン、「今日と明日のはざまで」A.M.バレイジ、「死は素敵な別れ」S.ベアリング=グールド、「死は共に在り」メアリ・コルモンダリー、「のど斬り農場」J.D.ベリスフォードと、かなりの高ヒットとなった。
背景 最大の特徴は幻想的な(言葉を変えれば、それほど怖くない)怪奇小説が多いことか。最後の「のど斬り農場」は奇妙な味の短編としても楽しめる。初訳が多いのも嬉しい。

邦題 『あの薔薇を見てよ:ボウエン・ミステリー短編集』
原作者 エリザベス・ボウエン
原題 (2004)
訳者 大田良子
出版社 ミネルヴァ書房
出版年 2004/10/10
面白度 ★★★
主人公 グレアム・グリーンと同世代の作家のミステりー的な短編を20本集めた短編集。
事件 「あの薔薇を見てよ」(傑作)「アン・リーの店」「針箱」「泪よ、むなしい泪よ」(まあまま)「火喰い鳥」「マリア」「チャリティー」「ザ・ジャングル」「告げ口」「割引き品」「古い家の最後の夜」「父がうたった歌」「猫が跳ぶとき」(佳作)「死せるメイベル」「少女の部屋」「段取り」「カミング・ホーム」「手と手袋」「林檎の木」(まあまあ)「幻のコー」の20本。
背景 いわゆるエンタテイメントとしてのミステリーを意識して書かれた短編ではないが、結果としてミステリーとしても読める短編を集めたもの。冒頭の「あの薔薇を見てよ」がダントツに面白い。その他で楽しめたものはカッコ書きのある数作のみ。日常生活の陰にある怖さを描いている。

邦題 『二人で泥棒を ラッフルズとバニー』
原作者 E・W・ホーナング
原題 The Amateur Cracksman(1899)
訳者 藤松忠夫
出版社 論創社
出版年 2004/11/20
面白度 ★★
主人公 A・J・ラッフルズ。クリケットの有望な選手であるとともに、アマチュアの泥棒紳士。ルパンの先輩。語り手はバニーで、作家・詩人でもある。
事件 ラッフルズ物の第一短編集。8編の短編が収録されている。「三月十五日」(バニーを助ける話で、ラッフルズ物の最初の短編)「衣装のおかげ」「ジェントルメン対プレイヤーズ」「ラッフルズ、最初の事件」(オーストラリアでラッフルズが初めて盗みをする)「意図的な殺人」「合法と非合法の境目」(絵画の盗みを依頼される)「リターン・マッチ」「皇帝への贈り物」(前半のみか?)
背景 各種のアンソロジーで何編かは読んだ記憶があるが、完訳は今回が初めて。謎解き小説としては見るべきものはないが、19世紀末の風俗小説としてそこそこ楽しめる。

邦題 『容疑者たちの事情』
原作者 ジェイニー・ボライソー
原題 Snapped in Cornwall(1997)
訳者 山田順子
出版社 東京創元社
出版年 2004/11/26
面白度 ★★★
主人公 画家兼写真家のローズ・トレヴェリアン。40代半ばの未亡人。英国西部コーンウォールに魅せられてニューリンに移住する。シリーズ・キャラクター。
事件 物語の舞台は、芸術家が多く住むコーンウォール地方。ローズは、この地に住み始めた女性から仕事を受け、それが契機となってパーティの誘いを受けた。だがそのパーティの最中、主宰の女主人が墜落死した。他殺か? ローズは第一発見者として容疑者の一人になったのだ。
背景 ローズ・シリーズの第一作。夫を癌で四年前に亡くした中年女性ローズの生活が生き生きと描かれている。コーンウォールの風景描写も魅力的である。コージー物として楽しめるが、素人探偵としてのローズの活躍は中途半端で、謎解き小説としては不満も多い。

邦題 『パンプルムース氏対ハッカー』
原作者 マイケル・ボンド
原題 Monsieur Pamplemousse Investigates(1990)
訳者 木村博江
出版社 東京創元社
出版年 2004/1/22
面白度 ★★
主人公 お馴染みの元パリ警視庁刑事で、現在はグルメ・ガイドブック『ル・ギード』の覆面調査員をしているアリスティード・パンプルムース。お供は元警察犬のポムフリット。
事件 突然、編集長の訃報が飛び込んできた。驚いてパンプルムースが社に駆けつけると、編集長はピンピンしている。どうやら新しいコンピュータ・システムのデータが改竄された結果らしい。レストランの格付けにしても、悪名高きテイクアウト専門店がトップになるようデータが変更されていた!
背景 シリーズ第6作。今回はコンピュータ・システムのデータ書き換え事件というハイテク犯罪を捜査するもの。本シリーズの特徴の一つであるお色気場面は少なく、代わりにコンピュータのやさしい説明が含まれているが、その点は、エンジニアには”無くもなが”の部分だ。

邦題 『殺しの迷路』
原作者 ヴァル・マクダーミド
原題 The Last Temptation(2002)
訳者 森沢麻里
出版社 集英社
出版年 2004/7/25
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁の女性警部キャロル・ジョーダンと心理分析官(現在はセント・アンドルーズの大学で行動心理学を教える上級講師)のトニー・ヒル。
事件 キャロルは欧州刑事警察機構の試験を受けて合格した。だが彼女の仕事は、ドイツ犯罪組織のボスの亡き愛人に彼女が瓜二つであったため、囮捜査をすることだった。一方欧州では心理学者ばかりを狙う連続殺人が起きていた。キャロルはトニーに応援を頼み、二人は再会を果たすが。
背景 キャロルとトニー・シリーズの第三作。舞台は欧州に代わったものの、連続猟奇殺人を扱っている点は以前の作品と同じ。筆力のある著者だけに、同じ人物、同じ素材を用いても、それなりに読ませることは確かだが、囮捜査にしろ連続殺人にしろ、意外性がなくミステリーとして平凡。

邦題 『月が昇るとき』
原作者 グラディス・ミッチェル
原題 The Rising of the Moon(1945)
訳者 好野理恵
出版社 晶文社
出版年 2004/9/30
面白度 ★★★★
主人公 シリーズ探偵は心理学者のミセス・ブラッドリーだが、本書の主人公は、物語の語り手サイモン・イネス(13歳)とその弟キース・イネス(11歳)。サイモンはどちらかというとワトスン役で、キースの方が探偵にふさわしい直感力をもっている。
事件 復活祭の祝日サイモンとキースは、夜中に運河の橋で怪しい人物を目撃した。翌日サーカスの女綱渡り師がナイフで殺されているのが発見され、その後も若い女性の刺殺事件が続いた。
背景 著者のお気に入りの一冊。若い頃の著者自身がサイモンに投影されていて、青春小説として読ませる。特にサイモンと若い女性の下宿人クリスティーナとの微妙な関係を巧みに描いているのには感心した。猟奇連続殺人にしなかったのも、オフビートな面白さが特徴のミッチェルらしい。

邦題 『四日間の不思議』
原作者 A・A・ミルン
原題 Four Day's Wonder(1933)
訳者 武藤崇恵
出版社 原書房
出版年 2004/6/21
面白度 ★★★
主人公 純然たる謎解きミステリーではないので名探偵は登場しない。このため主人公にふさわしい人物はいないが、登場場面が多いのはジェニー・ウィンデルか。18歳の女性。
事件 ジェニーは、ふとした出来心から、かつて暮していた叔母の家に入ってみた。ところが叔母は死体となっていたのだ。驚いたジェニーは、自分のイニシャルの入ったハンカチを落とし、指紋を消し忘れ、足跡を残こして逃亡してしまった。警察はジェニーを被害と加害の両面から捜すが……。
背景 ”熊のプーさん”や『赤い館の秘密』で有名な著者のミステリー第二作にして最後の作品。ただしオーソドックスな謎解き小説だった前作とは性格が異なる。殺人を扱ったシチュエーション・コメディのような作品。ユーモアは楽しめるものの、ミステリーを期待するとガッカリするだろう。

邦題 『独房の修道女』
原作者 ポール・L・ムーアクラフト
原題 Anchoress of Share(2000)
訳者 野口百合子
出版社 扶桑社
出版年 2004/6/30
面白度 ★★★
主人公 サリー州の小村シアに住む聖職者マイクル・デュヴァル。16歳のとき英国国教会からカトリックに改宗。運動家タイプで、リチャード・バートンに似ていると言われるほどのハンサムな中年男。彼に監禁される女性は、シアに移り住んだ23歳のマーダ・スチュアート。
事件 デュヴァルは、中世英国に実在した「隠修女」(独房で暮らし、祈りと観想の禁欲的な生活を送る修道女)にとりつかれ、彼女の伝記を執筆し始めた。やがて実際の女性を隠修女に仕立て上げようとして、マーダを拘束し、地下墓所に監禁したが……。
背景 『コレクター』と『羊たちの沈黙』を彷彿させると評されたサイコ・ホラー物。デュヴァルの行動と彼の書く伝記が交互に配される構成だが、物語は単純。エピローグがよく、★一つプラス。

邦題 『SAS特命潜入隊』
原作者 クリス・ライアン
原題 Land of Fire(2002)
訳者 伏見威蕃
出版社 早川書房
出版年 2004/8/31
面白度 ★★★★
主人公 SAS隊員マーク・ブラック軍曹。39歳で今回が最後の仕事と考えている。20年前のフォークランド紛争時にも、フエゴ島の偵察を行ない、悲惨な経験をしている。
事件 ブラックに命じられた任務は、最近アルゼンチンの軍部が台頭し、フォークランド諸島の奪取を再び考えているらしいので、フエゴ島の巨大な基地を偵察してほしいというものだった。ブラックは20年前の事件を思いだしながらも、潜水艦で島に上陸し、下水管を通って基地に潜入するが……。
背景 著者の7冊目。最初の4冊はSAS隊員シャープの活躍するシリーズ物だが、本書の主人公は名前は変われど、性格や考え方などは双子のようによく似ている。大きく異なるのは恋人の設定くらいか。語り口は巧みで、戦争冒険小説として迫力は十分。裏切り者がミエミエなのが欠点。

邦題 『最期の声』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 Diamond Dust(2002)
訳者 山本やよい
出版社 早川書房
出版年 2004/1/15
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのピーター・ダイアモンド警視。この事件時、ピーターは49歳で、妻ステファニーは43歳。ステファニーは再婚であることがわかる。二人は結婚して19年にもなるが……。
事件 ステファニーが公園で射殺された。突然の悲劇に絶句したダイアモンドだが、犯人逮捕を決意する。しかし被害者の夫が捜査を正式に指揮することは不可能。彼は一人で勝手に調査を始めるが、警察の捜査ではダイアモンドに不利な証拠が次々と見つかり、彼は重要な容疑者になった!
背景 ダイアモンド・シリーズの7冊目。7冊目ともなるとマンネリ化しがちだが、ここではダイアモンドの妻を殺すという意外性十分のプロットを考え出した。これには驚いたが、成功といってよいだろう。妻の死を扱いながらもユーモアは失われておらず、伏線も巧みに張られている。

邦題 『絞首台までご一緒に』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 Swing Swing Together(1976)
訳者 三好一美
出版社 早川書房
出版年 2004/10/31
面白度 ★★★
主人公 スコットランド・ヤードの部長刑事クリッブと同巡査エドワード・サッカレイのコンビ。シリーズ探偵のこの二人のほか、準主役として<エルフリーダ・カレッジ>の学生ハリエット・ショウとバッキンガムシャー署の巡査ロジャー・ハーディーが活躍。
事件 ハリエットは秘かにデムズ川で水遊びをしていて、三人の男と犬を乗せたボートを目撃した。翌日他殺死体が見つかり、彼らが容疑者となった。彼らは『ボートの三人男』と同じように移動しているらしく、クリッブやハリエットは彼らを追うが、新たに他殺死体が見つかり……。
背景 初期シリーズ物の7冊目。これで現在までのラヴゼイ作品(別名義は除く)はすべて訳されたことになる。『ボートの三人男』を下敷きにしたプロットは魅力だが、動機はちょっと無理か。

邦題 『貧者の晩餐会』
原作者 イアン・ランキン
原題 Beggers Banquet(2002)
訳者 延原泰子
出版社 早川書房
出版年 2004/3/15
面白度 ★★★★
主人公 ここ十年程の間に書かれた短編を集めた短編集。全部で21本の短編を収録している。このうちセント・レナーズ署の警部ジョン・リーバスが活躍するリーバス物は7本。
事件 リーバス物は「一人遊び」(クロスワードを巧みに利用)「音楽との対決」(カセット・デッキが小道具)「聴取者参加番組」「キャッスル・デンジャラス」「イン・ザ・フレイム」(脅迫の手紙が発端)「機会の窓辺」「サンタクロースなんていない」(クリスマス・ストーリー)の7本。
背景 序文に「私は短編作家だった」と書くほど、ランキンは短編も好きだそうだ。大部な長編が多い作家にしては、確かに収録作品は変化に富んでいるし、切れ味も鋭い。リーバス物も悪くはないが、やはりCWAの短編賞を受賞した「動くハーバート」や「深い穴」は楽しめる。

邦題 『血に問えば』
原作者 イアン・ランキン
原題 A Question of Blood(2003)
訳者 延原康子
出版社 早川書房
出版年 2004/10/31
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのセント・レナーズ署の警部ジョン・リーバス。50代後半になり、定年まであと数年という身。部長刑事シボーン・クラークがリーバスを助けて活躍する。
事件 元英国陸軍特殊部隊(SAS)に所属していた男が学校に押し入り、生徒二人を射殺し、一人に重症を負わせて自殺した事件が起きた。男は有能な人物で、重大な犯罪歴もなかった。なぜ事件を起こしたのか? ジョンはかつてSASにいたこともあり、捜査に駆り出された。
背景 シリーズ14作目(翻訳は8作目)。初めてハードカバーで出版された。相変わらず語り口が秀逸。メインの事件に、シボーンのストーカーが焼死した事件(リーバスも容疑者になる)を巧みに絡ませている。欠点は、鑑識結果が出てしまうと事件が一気に解決してしまうプロットか。

邦題 『リリーからの最後の電話』
原作者 トビー・リット
原題 Corpsing(2000)
訳者 雨海弘美
出版社 ソニーマガジンズ
出版年 2004/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『探偵学入門』
原作者 マイクル・Z・リューイン
原題 The Reluctant Detective and Other Stories(2001)
訳者 田口俊樹
出版社 早川書房
出版年 2004/7/15
面白度 ★★★
主人公 著者初の短篇集。21本を収録。ショート・ショートも数篇含まれているが、一番多いのはルンギ一家の<探偵家族>シリーズの6本。その他パウダー物やのら犬ローヴァー物もある。
事件 「探偵をやってみたら」「イギリスは嫌だ」「ダニーのお手柄」「ダニー、職分を果たす」「旅行者」「夜勤」「女が望むもの」「ボス」「まちがい電話」「黒人の手」「ヒット」「偶然が重なるとき」「少女と老人のおはなし」「風変わりな遺言」「ファミリー・ビジネス」「ウェディング・ベル」「利益と損失」「旅行計画」「共用電話」「銃で脅されて」「ミスター・ハード・マン」の21本。
背景 訳者あとがきに書かれているように、共通しているのは著者一流の知的なユーモアがあること。わかりにくいものもあるが。個人的にもっとも気にいったのは「ヒット」だった。

邦題 『探偵家族/冬の事件簿』
原作者 マイクル・Z・リューイン
原題 Family Planning(1999)
訳者 田口俊樹
出版社 早川書房
出版年 2004/1/15
面白度 ★★★
主人公 ルンギ一家。一族で探偵業を営む。創始者は親爺だが、その他ママ、長男で画家のサルヴァトーレ、次男の探偵アンジェロ、その妻ジーナ、経理担当の長女ロゼッタ、アンジェロ夫妻の長女マリーと長男デイヴィッドの8人。サルヴァトーレの恋人とロゼッタの恋人も加わりそう。
事件 ルンギ探偵事務所に持ち込まれた事件は、ポケベルを使って脅迫されている事件と、お洒落なブティックの店先に立つ謎の女性たちの事件であった。ところがマリーが警察に捕まったり、十年前の白骨死体に絡む容疑者の弁護士から事件の捜査を依頼されたりと、事件の連続であった。
背景 シリーズ物二冊目。ソフトボイルドというより完全なコージー・ミステリー。さまざまな事件はたわいないものばかりだが、ほのぼのとしたルンギ一家の会話・行動は、読んで損することはない。

邦題 『怪人フー・マンチュー』
原作者 サックス・ローマー
原題 The mystery of Dr. Fu Manchu(1913)
訳者 嵯峨静江
出版社 早川書房
出版年 2004/9/15
面白度 ★★
主人公 事件の語り手でワトスン的人物が開業医のピートリー。ホームズほどではないものの探偵役を演じるのが、英国政府高等弁務官のネイランド・スミス。モリアーティ教授以上の悪の権化がフー・マンチューというわけである。フー・マンチューは爬虫類のような視線をもつ中国人。
事件 ビルマから密かに帰国したネイランドはピーターの家を訪れた。二人はクライトン卿を救うため卿の屋敷に向かうが、密室状態の部屋で卿は謎の言葉「赤い手!」を残して死んでいた。
背景 通俗的な冒険スリラーの典型のような作品。映画化されて評判になったようだが、黄禍論の元祖といってよい。いくつかの短篇を集めて長篇化したような構成で、クリスティの『ビッグ4』はその構成を真似していることがわかる。歴史的価値はそれなりに高いと思うが……。

邦題 『リジー・ボーデン事件』
原作者 ベロック・ローンズ
原題 Lizzie Borden:A Study in Conjecture(1939)
訳者 仁賀克雄
出版社 早川書房
出版年 2004/3/15
面白度 ★★
主人公 ”リジー・ボーデン 斧にぎり/母を殴って四十回/毒を食らわば皿までと/父を四十一撲ったとさ”と俗謡に唄われた素封家の娘リージー・アンドルー・ボーデン。
事件 1892年8月4日、マサチューセッツ州フォール・リヴァーに住むボーデン夫妻が何者かによって手斧で惨殺された。三女のリジーが逮捕されるも、裁判では無罪。その後俗謡が作られるほど評判になった事件だが、その事件をフィクションとして語ったのが本書である。
背景 つまりファクション(ファクト+フィクション)として発表したもの。リジーがパリに遊学中に恋人を作るあたりは完全なフィクションのようだ。リジーが犯罪を犯すまでの心理・行動は説得力をもって描かれているが、リジーを実名で小説に登場させて名誉毀損にならないのか不思議だ。

邦題 『渇いた季節』
原作者 ピーター・ロビンスン
原題 In a Dry Season(1999)
訳者 野の水生
出版社 講談社
出版年 2004/7
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邦題 『南太平洋、波瀾の追撃戦』上下
原作者 パトリック・オブライアン
原題 The Far Side of the World(1984)
訳者 高橋泰邦・高津幸枝
出版社 早川書房
出版年 2004/
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邦題 『攻略せよ、要衝モーリシャス』上下
原作者 パトリック・オブライアン
原題 The Mauritius Command(1977)
訳者 高津幸枝
出版社 早川書房
出版年 2004/
面白度  
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邦題 『快速カッター発進』
原作者 ジュリアン・ストックウィン
原題 Seaflower(2003)
訳者 大森洋子
出版社 早川書房
出版年 2004/
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邦題 『起爆阻止』
原作者 ダグラス・リーマン
原題 Twelve Seconds to Live(2002)
訳者 高沢次郎
出版社 早川書房
出版年 2004/4/30
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