邦題 『運命の息子』
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 Sons of Fortune(2002)
訳者 永井淳
出版社 新潮社
出版年 2003/12/1
面白度 ★★★
主人公 ナット・カートライトとフレッチャー・ダヴェンポート。実は二人は双子なのだが、病院でのある悲劇により、別々の環境で育てられる。ナットは平凡なサラリーマンの息子であるが、ヴェトナム戦争で戦功を立てて地方の銀行に入り、コンピュータの天才女性と結婚する。フレッチャーは富豪に育てられ、著名な法律事務所に入り、上院議員の娘と結婚する。
事件 学校時代の話から二人の人生が併行して語られ、殺人事件の裁判などいろいろあって、最後にコネチカット州知事選で、二人が火花を散らすことになる。勝者はどちらだ?
背景 『メディア買収の野望』のように、著者がサーガと呼ぶジャンルの作品。ただし実録物ではなく、いかにも作り物といった作品。前半は平板だが、終盤はさすがに実力の片鱗を見せている。

邦題 『閉じた本』
原作者 ギルバート・アデア
原題 A Closed Book(1999)
訳者 青木純子
出版社 東京創元社
出版年 2003/9/25
面白度 ★★★
主人公 二人の会話だけでほとんど成り立っている小説なので、主人公は二人。一人はサー・ポールで、ブッカー賞を受賞したこともある有名な作家。交通事故がもとで盲人になっている。もう一人は、ポールの助手となるジョン・ライダー。33歳で、それまでは自宅で株の売買をしていた。
事件 ポールは回想録を書くために、口述筆記用助手の応募を新聞に出した。それを見て応募したのがライダー。彼はポールの無残な容貌にも驚かず、仕事は順調にいくようにみえたが……。
背景 純文学系作家のサスペンス小説。もともとクリスティーなどのミステリーが好きだったそうだが、二人の会話だけで、冒頭から物語を巧みに展開していく。メタ・ミステリー的な雰囲気もあるが、ラストの処理は、やはり専門のミステリー作家ほどの切れ味はない。

邦題 『無邪気な人求む』
原作者 マージェリー・アリンガム
原題 Wanted:Someone Innocent(1946)
訳者 越智めぐみ
出版社 早川書房(早川ミステリ・マガジンの連載)
出版年 2002/11/1―2003/1/1
面白度 ★★★
主人公 ギリアン・ブレイトン。トタム修道院女学校を卒業し、帽子屋の店員をしていた。20歳で、孤独な生活をしている。ただし事件の謎を解くのはマクノート警視。
事件 かつて通っていた学校のパーティに参加したギリアンは、富豪の夫人リタに呼びかけられ、泊まり込みでリタの夫に薬を与える仕事を依頼された。高給すぎる仕事に疑問をもったギリアンだったが、しだいにリタの夫に好意を抱き始めた。ところがリタが変死してしまい……。
背景 220枚弱の中編。風俗ミステリーのようでありながら、結構大胆なトリック小説にもなっている。何故ギリアンを雇ったのかという謎が面白い。中編なので細かい描写は省かれているが、このためにアリンガムの欠点とも言えるサスペンス不足が解消されている。いささか皮肉だが。

邦題 『幻のハリウッド』
原作者 デイヴィッド・アンブローズ
原題 Hollywood Lies(1996)
訳者 渡辺庸子
出版社 東京創元社
出版年 2003/11/21
面白度 ★★★★
主人公 ハリウッドに関連する都市伝説、職業などを題材とした中・短編集。
事件 7つの作品からなる。「生きる伝説」(M・モンローを下敷きにしている)、「ハリウッドの嘘」(誤診が主題)、「リメンバー・ミー?」(E・プレスリー伝説を取り込んでいる)、「へぼ作家」(SFホラー)、「名前の出せない有名人」(ポルノ俳優の恋愛)、「ぼくの幽霊が歌っている」(M・ジャクソンを連想させる)、「ハリウッド貴族」(年代記的な面白さ)である。
背景 長編が二冊紹介されている著者の初めての短編集。『そして人類は沈黙する』などの作風からSFホラーの短編集と思っていたが、そのような短編「へぼ作家」もあるものの、心温まる恋愛小説、J・アーチャーばりの短編「ハリウッド貴族」もあり、バラエティに富んでいる。

邦題 『スパイは異邦に眠る』上下
原作者 ロバート・ウィルスン
原題 The Company of Strangers(2001)
訳者 田村義進
出版社 早川書房
出版年 2003/3/31
面白度 ★★★★
主人公 イギリス情報部(通称カンパニー)の情報員アンドリア・アスピヌル(アン・アシュワース)とドイツ陸軍情報将校カール・フォス。
事件 1944年、アンは密命を帯びてリスボンに赴いた。同じ頃フォスもリスボンに向かった。そして二人は偶然出会い、あろうことか恋に落ちてしまったのだ。だが密告されてすべてが終る。1971年アンは共産主義に共鳴し、ロシアのために二重スパイになることを決意するが……。
背景 ル・カレやフリーマントルのような、組織の細部描写にこだわったスパイ小説とは異なっている。プロットも、騙し騙されるという複雑なものではない。主として各時代(二十代、四、五十代、七十代)の二人の恋愛模様が語られている。第三部の鮮やかなまとめ方が秀逸。

邦題 『塩沢地の霧』
原作者 ヘンリー・ウェイド
原題 Mist on the Saltings(1933)
訳者 駒月雅子
出版社 国書刊行会
出版年 2003/2/20
面白度 ★★★
主人公 特にいない。警察活動のトップは州警察本部長のジェフリー・フェンル少佐。
事件 北海沿岸の海辺の村ブライド・バイ・ザ・シーが舞台。そこで質素な生活をしている画家パンセル夫妻は人気作家ファインズと知り合った。彼は執筆に専念するためこの地に来たのであるが、名うてな女たらしでもあった。そしてファインズは泥の穴の中で死体として発見されたのだ。
背景 前半は犯罪にいたるまでの過程が詳細に描かれ、後半は犯人探しという設定。有力容疑者は二人しかいないので、半倒叙物と定義されている作品である。だが倒叙物ともフーダニットともいえる中途半端な展開で、やはりプロットに問題があると思われる。犯罪動機もあまり説得力はない。一番よいのは塩沢地の風景描写で、そこを舞台にしたのは成功であった。

邦題 『カッティング・ルーム』
原作者 ルイーズ・ウェルシュ
原題 The Cutting Room(2002)
訳者 大槻 寿美枝
出版社 早川書房
出版年 2003/7/15
面白度 ★★★
主人公 競売人リルケ。43歳でゲイである。
事件 老富豪が亡くなり、リルケはその遺品の売り出しを依頼された。彼が遺品を調べてみると、ポルノ本が見つかり、その中に修道女が拷問具で責めたてられているスナッフ写真が挟まれていたのだ。だが、なぜかリルケはその妖しい写真に惹かれ、深みにはまっていった。
背景 2002年のCWA新人賞受賞作。冒頭の謎は面白いのだが、中盤になるとリルケの捜査活動は活発ではなくなり、リルケのユニークな個性で読ませる作品であることがわかる。ゲイの性生活を活写する著者の筆力はそうとうなものだし、ゴッシク文学に影響を受けたという風景描写も確か。ミステリーとしては平凡だが、リルケの個性と競売の内幕暴露だけでも楽しめる。

邦題 『半身』
原作者 サラ・ウォーターズ
原題 Affinity(1999)
訳者 中村有希
出版社 東京創元社
出版年 2003/5/23
面白度 ★★★★
主人公 裕福な家の令嬢マーガレット・プライア(29歳)。弟は既婚で妹も結婚間近か。
事件 1874年の秋、マーガレットは、テムズ河畔にそびえるミルバンク監獄を慰問のために訪れ、霊媒であったという19歳の娘シライナと出会った。こんなにも気品のある娘が、なぜこの獄にいるのか? この好奇心がやがてマーガレットを不思議な世界へ導いていく――。
背景 1999年のサマセット・モーム賞受賞作。筆力というか、描写力に圧倒される。このことは、冒頭の監獄の描写を読むだけで、誰もが納得するであろう。ミステリーとしての謎は、シライナがどんな犯罪を犯したのかというもので、マーガレットの手記と2年前のシライナの日記とで交互に語られていく。中盤のサスペンスが少し欠けているのが欠点だが、ラストで一気に盛り上がる。

邦題 『反逆部隊』上下
原作者 ガイ・ウォルターズ
原題 The Traitor(2002)
訳者 横山啓明
出版社 早川書房
出版年 2003/11/30
面白度 ★★★
主人公 ジョン・ロックハート。英国陸軍大尉。
事件 ジョンは1943年秋クレタ島に潜入した。しかしドイツ軍に捕まってしまい、拷問されたジョンは、開戦時にオランダで捕まりドイツに囚われている妻の命を保証してもらう代わりに、ドイツ軍に協力することになった。やがて武装親衛隊のイギリス人部隊<イギリス自由軍>の指揮をまかされる。だがドイツがサリンを搭載したロケットを開発中であることを知ると……。
背景 著者の第一作で、ナチ物の戦争冒険小説。数多く書かれた1980年代のそれとは少し雰囲気が違っている。史実ではナチに協力した<イギリス自由軍>を、英国のために戦った良心的な部隊に変えたところが読みどころ。そこそこ迫力はあるが、プロットに物足りなさを感じる。

邦題 『フリント』
原作者 ポール・エディ
原題 Flint(2000)
訳者 芹澤恵
出版社 新潮社
出版年 2003/2/1
面白度 ★★
主人公 ロンドン警視庁の女性警部グレイス・フリント。覆面捜査官として活躍するスーパー・ウーマン。失踪したフリントを追う元MI5主席法律顧問で弁護士のハリー・コーエンも活躍する。
事件 フリントは金融犯罪の大物ハーリングの逮捕に失敗し、再建手術が1年にもおよぶ瀕死の重傷を負った。だが、めげない彼女はマイアミでハーリングの手掛かりを見つけ、単独で追跡を始めたのだ。一方ハリーはハーリングの背後にある組織に気づき、フリントを助けようとするが……。
背景 見掛けは警察小説だが、実際は国際陰謀小説に近い。フリントがハーリングを追う話とハリーがフリントを追う話がほぼ交互に語られるのだが、二つの話にはある程度の時間差があるので、物語の筋書きがわかりにくい。著者の第一作なので、書き慣れていないことも一因か。

邦題 『廃墟の歌声』
原作者 ジェラルド・カーシュ
原題 独自の編集
訳者 西崎憲他
出版社 晶文社
出版年 2003/11/25
面白度 ★★★
主人公 日本で独自に編集された短編集。13本が収録されているが、そのうち4本には稀代の詐欺師か大盗賊といわれるカームジンが登場する。
事件 ミステリー・ファンにとってはカームジンの短編が気になるところ。巻末の解説によれば、カームジンの登場する作品は全部で17本、既訳は本書の4本を含めて8本となるそうだ。自称「犯罪の天才」のカームジンは太鼓腹の堂々たる体格で、自信に満ちた態度から人は彼の言うことを信じてしまう。標題作は神の怒りで滅んだ都市の廃墟に出没する無気味な生物の話。
背景 一言でいってしまうとアメリカ風ホラ話といった内容で、「そんな話はないだろう?」という発端で読者の興味を惹いてしまうという趣向。派手好きなアメリカ人好みの短編が多い。

邦題 『殺す警官』
原作者 サイモン・カーニック
原題 The Business of Dying(2002)
訳者 佐藤耕士
出版社 新潮社
出版年 2003/9/1
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁刑事部の巡査部長デニス・ミルン。しかしそれは表の顔であって、裏では殺しを請け負っている。37歳の独身。
事件 デニスの殺しの標的は、3人の麻薬ディーラーであった。ところが翌日の報道で被害者は一般人であることを知った。そのうえ殺しの現場を目撃され、自分のモンタージュ写真まで新聞に載ってしまったのだ。デニスは依頼が罠だったのではないかと疑うが……。
背景 アンチ・ヒーロー型の悪漢小説。ただし『Mr.クィン』などのシェイマス・スミス作品ほどの衝撃はなかった。不満な点は主人公の造形にあろう。表の顔(正義感の顔)が出過ぎていて、いまいち迫力に欠けているからだ。ただしユーモアのある語り口は結構楽しめる。

邦題 『アイリッシュ・ヴァンパイア』
原作者 ボブ・カラン
原題 Bloody Irish Celtic Vampire Legends(2002)
訳者 下楠昌哉
出版社 早川書房
出版年 2003/11/30
面白度 ★★★
主人公 吸血鬼を扱ったケルト伝説を元にしたホラー中編集。4本収録されている。『吸血鬼ドラキュラ』の作者ブラム・ストーカーをアイルランドの作家として再評価する運動の一環として生まれた。
事件 4本の中編は以下のとおり。『炉辺にて』(アイルランドの田舎を旅する男が、不吉な村を訪れ、そこで手を傷付けたが……)、『森を行く道』(かつて三人の少女が行方不明になった森に、主人公の女性も迷い込み……)、『乾涸びた手』(幽霊が出ると言われる無垢の家に移った男が、女性の手を見つけ……)、『仕えた女』(妖しい家を探検したため、兄や弟が亡くなるが……)。
背景 いずれも19世紀の怪談のスタイルを踏襲した作品。ストーカー再評価のためなので当然だが、語り口はそれなりに親しみやすい。ただ学者の作品だけに型に嵌り過ぎているようだ。

邦題 『捕虜収容所の死』
原作者 マイケル・ギルバート
原題 Death in Captivity(1952)
訳者 石田善彦
出版社 東京創元社
出版年 2003/5/16
面白度 ★★★★
主人公 明確な主人公はいない。事件の謎を解くのはC収容棟の捕虜ヘンリー・ゴイルズ大尉。脱走作戦を指揮するのは英国軍最高指揮官のレイヴァリー大佐。
事件 1943年、イタリアの捕虜収容所では脱走用のトンネルがひそかに掘られていた。だがあと少しで貫通という朝、トンネル天井の一部が落ちて、スパイ容疑がかかっていた捕虜の死体が見つかったのだ。侵入不可能なトンネルにどのようにして入り、どのような手段で殺されたのか?
背景 本格物+スリラーという著者得意のプロットが使われている。高く評価できるのは、特異な事件舞台の設定。ここには独創性があるし、魅力的な謎がある。したがって前半はかなり面白いのだが、誰が犯人でもかまわない後半の展開が減点になっている。評価は多少おまけ付き。

邦題 『スモールボーン氏は不在』
原作者 マイケル・ギルバート
原題 Smallbone Deceased(1950)
訳者 浅羽莢子
出版社 小学館
出版年 2003/9/20
面白度 ★★★
主人公 スコットランド・ヤードの主席警部ヘイズルリグがシリーズ探偵だが、本事件の動機などを調べるのは新米弁護士ヘンリー・ブーン。二人はほぼ同等の活躍をする。
事件 ロンドンの法律事務所の書類金庫から、スモールボーンの死体が見つかった。彼は、亡くなった前任の事務所所長と共同管財人になっていたが、嫌われ者でもあった。人目を引く事務所での死体隠しであったため、容疑者として前所長も疑われるが……。
背景 欧米では評価の高い著者の初期作品。『ひらけ胡麻!』と『死は深い根を持つ』の間に位置する第四作。冒険小説+謎解きという前後作とは異なり、英国流ユーモアが横溢している謎解きミステリー。万人向けではなく、なかなか訳出されなかった理由がわかる。個人的には好きだが。

邦題 『死の連鎖』
原作者 ポーラ・ゴズリング
原題 Ricochet(2002)
訳者 山本俊子
出版社 早川書房
出版年 2003/5/16
面白度 ★★★
主人公 シリーズ・キャラクターはグランサム警察の警部補ジャック・ストライカーだが、今回は彼の恋人ケイト・トレボーン(グランサム州立大学助教授)も活躍する。
事件 ケイトは執拗ないやがらせの電話に悩まされていた。そこで単独で犯人を捜し出そうとした。一方ジャックは女性助教授が自宅で射殺された事件と医学生が路上で惨殺された事件を担当していた。ジャックが担当する事件とケイトの事件とはなんの関係もないと思われたが……。
背景 著者あとがきで、ゴズリングは本書を”コージー”クライムと呼ばれたくないと書いている。確かに警察小説のような物語設定になっているが、やはりコージー・ミステリーという方が適していよう。読者を心地よく物語にのせるテクニックは健在で、安心して付き合える。

邦題 『石に刻まれた時間』
原作者 ロバート・ゴダード
原題 Set in Stone(1999)
訳者 越前敏哉
出版社 東京創元社
出版年 2003/1/31
面白度 ★★★
主人公 人材スカウトのアントニー(トニー)・シェリダン。妻は事務弁護士。
事件 シェリダン夫妻は、ロンドンからコーンウォールの田園地帯に引っ越してきた。妻の希望であったが、その妻が崖から転落死したのだ。そのため親友と義妹の夫婦から誘われ、トニーは彼らの異形の家に移る。ところが妻によく似た義妹と不倫関係になるとともに、悪夢を見始めて――。
背景 やはりゴダード、いかにもゴダードといった出来の作品。ゴダードの作品は、まず例外なく前半が面白いが、本書も前半が良い。ドメスティックな物語展開の中に徐々にサスペンスが高まっていく。つまりこの家の前々代の持ち主が妻殺しで死刑になったことが判明するのだ。ところが後半になると、国際陰謀小説めいた展開になり、前半とのミス・マッチがどうも気になってしまった。

邦題 『秘められた伝言』
原作者 ロバート・ゴダード
原題 Dying to Tell(2001)
訳者 加地美知子
出版社 講談社
出版年 2003/9/15
面白度 ★★
主人公 ランス・ブラッドリー。37歳直前。幼馴染みで、大学時代に命を救ってもらった恩人であるループ・オールダーの捜索を彼の姉から依頼される。
事件 ループが失踪した。ランスはロンドンでの調査で、ループが1963年に英国で起きた大列車強盗事件を調べていたことを知る。そして40年前の事件の黒幕がループ失踪に関係していると考えたのだ。ランスはロンドンからベルリン→東京→京都→サンフランシスコと飛びまわるが……。
背景 日本が舞台で日本人が何人も登場するので、日本では話題になるかもしれないが、主プロットは日本に関係があるわけではない。語り口が巧みなのでそれなりに楽しめるが、サスペンスは思ったほどない。謎の構成が重層的なものではなく、直線的なものになっているのが一因か。

邦題 『死せるものすべてに』上下
原作者 ジョン・コナリー
原題 Every Dead Thing(1999)
訳者 北澤和彦
出版社 講談社
出版年 2003/9
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ロンドン・ノワール』
原作者 マキシム・ジャクボヴスキー編
原題 London Noir(1994)
訳者 田口俊樹
出版社 扶桑社
出版年 2003/10/31
面白度 ★★★
主人公 ロンドンを舞台にした犯罪小説アンソロジー。13本収録されている。執筆者が全員英国在住の現役作家というのが特徴である。
事件 大別すれば、ノワール専門(?)の作家とリザ・コディようにノワールというジャンルが隆盛になる前から作品を書いている作家の短編に分けられるが、個人的にはやはり後者の方が好みである。L・コディの「再現捜査」は平凡だが、「二十日鼠と男とふたりの女」(J・ラズボーン)や「強欲者たち」(M・Z・リューイン)はやはり上手いものだ。前者では『黒く塗れ!』が紹介されているM・ティムリンの「クリスマス(ベイビー・プリーズ・カム・ホーム)」が、単純なプロットながら迫力がある。
背景 十年前の短編集だが、当時の英国ノワールの現状を理解するには便利な短編集。

邦題 『睡蓮が散るとき』
原作者 スザンナ・ジョーンズ
原題 Water Lily(2003)
訳者 阿尾正子
出版社 早川書房
出版年 2003/11/30
面白度 ★★★
主人公 イギリス人の画材店主ラルフ・ターンパイク。40代の独身。もう一人は私立校で英語を教える和田留奈。20代の独身女性だが、教え子との関係が何者かによってばらされてしまう。
事件 ラルフは理想の東洋人女性を求めてアジアにやってきた。すでにタイの女性とは破局し、日本人女性ともうまくいかず、中国人女性に会うため神戸からフェリーに乗り込んだ。一方留奈も、スキャンダルを逃げるようにフェリーに乗り、二人はそこで運命的な出会いをする――。
背景 『アースクエイク・バード』に続く第二作。第一作とは逆の発想で(つまり英国人女性と日本人男性ではなく、英国人男性と日本人女性の葛藤を)書いたそうだ。ラルフはともかく、留奈の造形にリアリティが感じられないのが残念。外国人作家が日本人を描くことの難しさか。

邦題 『No.1レディーズ探偵社、本日開業』
原作者 アレグザンダー・マコール・スミス
原題 The No.1 Ladies' Detective Agency(1998)
訳者 小林浩子
出版社 ソニー・マガジンズ
出版年 2003/9/20
面白度 ★★
主人公 アフリカのボツワナ共和国に住む34歳の女性プレシャス・ラモツエ。父の死後、遺産の牛を売って、首都ハボローネでNo.1レディーズ探偵社を開く。バツイチ。同国では唯一の女性私立探偵で、ひとよんで「サバンナのミス・マープル」。
事件 のどかな地で探偵業が成り立つか不安一杯であったが、依頼は浮気の調査から失踪人探しまで、盛りだくさん。白の小型バンを運転してサバンナを駆け巡る。
背景 コージー・ミステリーだが、著者は男性大学教授で医療法の専門家。専門書・児童書を書きながらミステリーも書くという才人。連作短編集のような構成で、ミステリーとしてはコント程度の出来。つまり推理小説としてはつまらないが、小説としてはかなり面白いという作品。

邦題 『あやつられた魂』
原作者 ステラ・ダフィ
原題 Wave Walker(1996)
訳者 柿沼瑛子
出版社 新潮社
出版年 2003/5/1
面白度 ★★★
主人公 レスビアンの私立探偵サズ・マーティン。シリーズ探偵で、30代の自立した女性。恋人は小児科医のモリー・スティールで、姉の娘の入院をきっかけに知り合う。
事件 サズのもとに、特殊な精神療法でカリスマ的な人気を誇るノース博士を調べてほしいという手紙が送られてきた。差出人不明であったが、ノース博士の身辺には謎の死が多いことがわかり、サズは興味をもった。サズは急遽サンフランシスコに飛び、ノースの過去を洗い始めた。
背景 タルト・ノワール・シリーズの一冊で、『カレンダー・ガール』に続く著者の第二作。レスビアンを扱った風俗ミステリーとしかいいようがない。事件というかミステリーのプロットは陳腐の一言。たいした謎もないが、それでも最後まで読者を引っ張っていく筆力はかなりのものがある。

邦題 『反撃』上下
原作者 リー・チャイルド
原題 Die Trying(1998)
訳者 小林宏明
出版社 講談社
出版年 2003/2/15
面白度 ★★
主人公 ジャック・リーチャー。元陸軍軍人で、少佐で除隊。恋人もいない独身で天涯孤独。素手の格闘に秀で、射撃の腕も非凡。身長6フィート5インチで、体重210ポンド。
事件 リーチャーはシカゴで女性に手を貸したところを急襲され、二人とも拉致された。その女性はFBIの内勤捜査官であったが、実は軍の要職将軍の娘だった。明らかに女性を狙った誘拐であったのだ。そして誘拐した相手は、米国からの独立を目指す民兵組織だったことがわかった。
背景 『キリング・フロア』に続くシリーズの第2弾。冒頭から1/4くらいまでは楽しめるが、以後のプロットは荒っぽく、ミステリー的な面白さは少ない。アクションと銃好きな人向き。英国人作家だが、米国が舞台で米国人が活躍する作品で、英国ミステリーの雰囲気はほとんどない。

邦題 『魔性の馬』
原作者 ジョセフィン・テイ
原題 Brat Farrar(1949)
訳者 堀田碧
出版社 小学館
出版年 2003/3/20
面白度 ★★★★
主人公 ブラット・ファラー。孤児だが、アシュビイ家のサイモンにそっくりの容姿を持つ。
事件 金に困っていた役者のロディングは、ファラーがサイモンにそっくりであることに気づいた。サイモンとは行方不明のアシュビイ家の長男で、偽サイモンが遺産を相続すれば、ロディングも大金にありつける。そこで彼は情報を教えてアシュビイ家にファラーを送り込んだが、すでに家督相続者に決まっていた双子の弟サイモンは、かえって安心した表情になったのだ。なぜなのか?
背景 『時の娘』で有名なテイの旧作。古い作品だが、双子かどうかの鑑定部分を除いては、ほとんど古さを感じさせない。ファラーは単純な悪人ではなく、家族に温かく迎えられて悩む青年に設定されている。これが独創性のある点で、周りの人物造形も上手い。馬の描写もたいしたものだ。

邦題 『密偵ファルコ 砂漠の守護神』
原作者 リンゼイ・デイヴィス
原題 Last Act in Palmyra(1994)
訳者 田代泰子
出版社 光文社
出版年 2003/2/20
面白度 ★★★
主人公 マルクス・ディディウス・ファルコ。古代ローマの密偵で、お馴染みのシリーズ探偵。元老院議員の娘ヘレナ・ユスティナが恋人。
事件 紀元72年。皇帝ウェスパシアヌスは、東方の大交易ルートの情勢調査をファルコに依頼した。ファルコはヘレナとともに物見高い旅行者にばけてペトラを訪れるが、そこで三文台本作家が殺される事件に遭遇した。そして座長の要請で、ファルコはその身代りとなったのだ。
背景 シリーズ第6弾。これまでの作品には”白銀”とか”黄金”といった鉱物名が入った題名が付いていたが、本書からそれはなくなった。シリーズが第ニクールに入った証拠であろう。舞台も、これまでとは異なる砂漠の国。とはいえファルコの軽口は相変わらずで、そのあたりは高値安定。

邦題 『密偵ファルコ 新たな旅立ち』
原作者 リンゼイ・デイヴィス
原題 Time to Depart(1995)
訳者 矢沢聖子
出版社 光文社
出版年 2003/6/20
面白度 ★★★
主人公 マルクス・ディディウス・ファルコ。古代ローマの密偵で、お馴染みのシリーズ探偵。元老院議員の娘ヘレナ・ユスティナが恋人だが、ヘレナは身ごもってしまい、出産を決意する。
事件 ローマの暗黒街を牛耳っていた男が裁判にかけられ、国外追放になった。ファルコの親友、警備隊長ペテロの手柄であったが、犯罪は一向に減らなかった。一方皇帝からは警備隊の腐敗を暴く密命を受けたファルコは、ペトロとの友情の板ばさみになりながらも……。
背景 大河小説の様相を示しはじめたファルコ・シリーズの第7作。今回の舞台はローマということで、安心して楽しめる。もはや事件の解決よりも、妊娠したヘレンとファルコの行方がどうなるかということの方が興味深い。時代ミステリーというより、どんどん時代風俗小説になっていく。

邦題 『フィレンツェに消えた女』
原作者 サラ・デュナント
原題 Mapping the Edge(1999)
訳者 小西敦子
出版社 講談社
出版年 2003/6/15
面白度 ★★
主人公 ロンドン在住の敏腕フリー・ジャーナリストのアンナ・フランクリン。未婚の母で、6歳の一人娘リリーがいる。
事件 締切と育児に追われる生活に疲れたアンナは、イタリアに旅立った。ところが予定を過ぎても戻ってこない。家出か誘拐か? 彼女の親友は警察に捜索を依頼するが……。
背景 これまでの女性私立探偵ハンナのシリーズとは異なり、サイコ・サスペンス風な物語。興味深い点は、旅先のアンナの視点と捜査側のアンナの親友の視点からの描写だけではなく、もう一人のアンナの視点から物語が展開されること。このもう一人のアンナと拉致されたアンナとどのような関係にあるかが読書を推し進める原動力になっている。でも成功したプロットとは言い難い。

邦題 『女被告人』
原作者 サイモン・トールキン
原題 Final Witness(2002)
訳者 伏見威蕃
出版社 ランダムハウス講談社
出版年 2003/11/25
面白度 ★★
主人公 グレタ・グレアム。地方紙の新聞記者から、政界の重鎮サー・ピーター・ロビンソンの秘書となった。ピーターの妻の死後は、彼の後妻となる。20代後半。
事件 ピーターの妻が、侵入してきた二人組みの男たちに殺された。たまたま本棚の裏の秘密の場所に隠れた一人息子トマスはその事件を目撃したのだ。そして彼はグレタを犯人として告発した。妖艶な美女グレタが犯罪を計画したのか? トマスの妄想か? 決着は法廷へ!
背景 著者の祖父は『指輪物語』で有名なJ・R・R・トールキン。自身は法廷弁護士だそうだ。また本書は新会社から出版された最初期作品の一冊。2/3ぐらいまでは悪女物として結構面白いのだが、法廷ミステリーとしてはガッカリという作品。小型グリシャムといえるほどの筆力はある。

邦題 『美しい足に踏まれて』
原作者 ジェフ・ニコルソン
原題 Footsucker(1995)
訳者 雨海弘美
出版社 扶桑社
出版年 2003/8/30
面白度 ★★
主人公 30代前半のファイナンシャル・アドバイザーの<ぼく>。一見ごく普通のサラリーマンだが、裏の顔は”足と靴のフェティシスト”。完璧な足を求めて街中の見知らぬ女を追いかける。
事件 <ぼく>が見つけた完璧な足の持ち主はキャサリンだった。すぐ蜜月の関係になったものの、ある日彼女の一言で終りになってしまった。新しい恋人が出来たらしい。<ぼく>は、かつてキャサリンのために優れた靴を作った靴職人に相談するが、するとその恋人が殺されたのだ。
背景 『食物連鎖』が初紹介の著者の邦訳二作目。扶桑社ミステリーの一冊として刊行されているが、ミステリーと言えるのは最後の一頁のみ。残り(約300頁)はすべて足フェチの告白なのだ。キワドイ挿話もあるものの、これが面白い。ミステリー度が極端に低いのが星二つの理由。

邦題 『冷たい心の谷』上下
原作者 クライブ・パーカー
原題 Coldheart Canyon(2001)
訳者 嶋田洋一
出版社 ソニー・マガジンズ
出版年 2003/10/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎』
原作者 アントニイ・バークリー
原題 Roger Sheringham and the Vane Mystery(1927)
訳者 武藤崇恵
出版社 晶文社
出版年 2003/4/20
面白度 ★★
主人公 小説家のロジャー・シェリンガム。ワトスン役(ただし語り手ではない)はその従弟のアントニイ・ウォルトン。捜査はスコットランド・ヤードのモーズビー警部。
事件 シェリンガムは、<クーリア>紙の編集長から、ラドマス湾で起きた転落死事件の取材を依頼された。当初は散歩中の単純な転落と思われていたが、被害者の手の中にボタンが見つかり、がぜん殺人事件の疑いが強まったのだ。シェリンガムはモーズビーと推理合戦をするが……。
背景 著者の第3作。前ニ作より出来は悪い。きちんとした謎解きミステリーというより、典型的なミステリーを茶化した内容の作品。そのパロディ化が作者自身に向けられているのではなく、読者をバカにしたものになっているのがいただけない。このユーモアはどうも私の肌に合わないようだ。

邦題 『二つの脳を持つ男』
原作者 パトリック・ハミルトン
原題 Hangover Square(1941)
訳者 大石健太郎
出版社 小学館
出版年 2003/11/20
面白度 ★★★
主人公 ジョージ・ハーヴェイ・ボーン。アルコール依存症で失業中の男。
事件 ジョージは、売れない女優ネッタ・ロングトンに惹かれていた。失業中にもかかわらず、ジョージはネッタのために自分の財産を注ぎ込んでいた。だが金目当てのネッタは、ジョージを馬鹿にしつつも離さなかった。やがてジョージはブライトンのホテルにネッタを誘うことに成功したが……。
背景 著者はA・ヒッチコックの映画「ロープ」やイングリッド・バーグマン主演の「ガス燈」の原作者で、破滅型作家。『首吊り判事』を書いたブルース・ハミルトンは著者の兄。本書はサンデー・タイムズのベスト100に選ばれているが、完全な”アル中文学”といった内容。狭義のミステリーとは言い難いが、アルコール依存症の男の心理をリアリティを持って描き切っている手腕は非凡。

邦題 『ホワイトハウス・コネクション』
原作者 ジャック・ヒギンズ
原題 White House Connection(1999)
訳者 黒原敏行
出版社 角川書店
出版年 2003/9/25
面白度
主人公 ディロン・シリーズの一冊。主人公は、元IRAテロリストのディロンとイギリス対テロ専門組織の責任者ファーガスン准将、ロンドン警視庁主任警部のバーンスタインの三人だが、今回は、IRA過激派に息子を殺されたレディ・ヘレン・ラングという老嬢が殺し屋として活躍する。
事件 <エリンの息子たち>というIRA過激派組織の幹部が次々に殺されていた。一方、ホワイトハウスから過激派へ情報が漏れていることがわかった。ディロンらには犯人がわからない。
背景 ディロンは、今回は脇役にすぎない。強い男たちがチームを組んで事件に取り組むので、情報入手は容易で、謎は簡単に解けて戦いには負けず、予定調和通りの展開と結末を向かえる。興味深いのはレディ・ヘレンという人物くらい。昔の作品には結構記憶に残る人間がいたが。

邦題 『死者との対話』
原作者 レジナルド・ヒル
原題 Dialogues of the Dead(2001)
訳者 秋津知子
出版社 早川書房
出版年 2003/9/30
面白度 ★★★★
主人公 ダルジール警視シリーズの一冊。当然ダルジール警視とパスコー主任警部、ウィールド部長刑事の三人は登場するが、今回は新人刑事のハット・ボウラーが活躍する。若い頃のパスコーのような青年で、大学卒。ただ物語の本当の主役は”言葉”そのものかもしれない。
事件 発端は図書館に届いた短編コンクールの応募原稿だった。原稿に書かれている事故がその後実際に起きたからだ。そして第ニの原稿も同じであった。ハットが捜査を始めると第三の原稿が届き、今度は殺人事件とわかったのだ。ハットは犯人をワードマンと名付けるが……。
背景 ハットと図書館の女性職員との恋愛が巧みに語られているし、事件とうまく絡み合っている。言葉にこだわる犯人の造形もよいのだが、あまりに被害者が多過ぎるのが欠点か。

邦題 『VS』
原作者 ハリー・ビンガム
原題 Sweet Talking Money(2001)
訳者 山本光伸
出版社 産業編集センター
出版年 2003/2/22
面白度 ★★★
主人公 元投資銀行家のブライアンと免疫治療の研究に一途に取り組む女性科学者キャメロン。二人は協力して免疫治療のベンチャー企業を起こす。
事件 ブライアンは職場では左遷され、妻にも逃げられた。一方キャメロンは論文が不採用になり落ち込んでいた。ところがブライアンが調べると、それは大手製薬会社による妨害のためだったのだ。二人は会社を立ち上げ、大企業に対して特許戦争を仕掛ける。勝ち目はあるのか?
背景 経済スリラー小説。優秀な企業家とノーベル賞級の科学者が手を組んで大企業と対決するプロットはマンガチックだが、適当にユーモアと恋愛を入れることによって、水準作にはなっている。製薬業界の内幕はそれほど詳しくは書かれていないのが残念なところ。著者の邦訳第2弾。

邦題 『黒い犬』
原作者 スティーヴン・ブース
原題 Black Dog(2000)
訳者 宮脇裕子
出版社 東京創元社
出版年 2003/8/22
面白度 ★★★★
主人公 ピーク地方の架空の町イードゥンデイルのE地区警察本部に勤める刑事のベン・クーパーと最近転勤してきた女性刑事ダイアン・フライ。二人とも二十代の独身で、部長刑事への昇任を争うライバルでもある。それぞれに優秀だが、過去に悩みを持っている。
事件 モーへイ村の大邸宅に住む15歳の少女が行方不明となった。しかし犬が失踪少女の靴を見つけ、やがて死体をベンが発見した。付き合っていた元庭師の若者に容疑が掛かるが……。
背景 著者の第一作。警察小説だけに、さまざまな警察官が登場し、主人公二人だけが活躍する話ではないが、新人らしからぬ巧みな語り口と適確な人間描写で読ませる。謎解きとしても、小粒ながら伏線があちこちに張ってある。二人の関係が今後どう進展するかも興味深い。

邦題 『ジェイン・エアを探せ! 文学刑事サーズデイ・ネクスト1』
原作者 ジャスパー・フォード
原題 The Eyre Affair(2001)
訳者 田村源二
出版社 ソニー・マガジンズ
出版年 2003/10/20
面白度 ★★★
主人公 文学刑事局ロンドン本局に勤める女性刑事サーズデイ・ネクスト。文学刑事とは不思議な職業だが、これは文学が異様な力を持ってしまったもう一つの世界において、原稿紛失や盗作などを取り締まる人間。彼女は恋には不器用だが、古典文学をこよなく愛する36歳。
事件 舞台は1985年のパラレル・ワールドのイギリス。そこでは文学が熱愛されているのだが、ディケンズの直筆原稿が盗まれるという事件が起こり、サーズデイの担当になったのだ。
背景 この小説の面白さは、なんといってもSF的な舞台設定にある。でも時間警備隊が出て来たり、本の中に入って登場人物と対話したりするというのは、ミステリー・ファンとしてはたいして楽しめない。パラレル・ワールド物でも『ファザーランド』のようなリアリティが欲しい。

邦題 『ボンベイ・アイス』
原作者 レスリー・フォーブス
原題 Bombay Ice(1998)
訳者 池田真紀子
出版社 角川書店
出版年 2003/8/30
面白度 ★★
主人公 フリーランスのジャーナリストであるロザリンド(ロズ)・ベネガル。歳は30代。父はインド人の気象学者で、母はスコットランド人だった。異母妹はインド映画界の重鎮の妻。
事件 妹からの手紙には「私はヒジュラ(去勢男子)に尾行されています」と書かれていた。このことに不安を感じたロズはボンベイへ飛んだ。だがその海岸でヒジュラの死体が発見された。溺死として処理されていたが、ロズが調査をすると、映画監督の義弟が容疑者として浮かび上がった。
背景 ボンベイは、ハリウッドのように、インドの映画の都であるそうだ。そこを舞台にした女性作家の第一作。極彩色のインドや猥雑なボンベイはそれなりに描かれている。したがって風俗ミステリーとしては水準作だが、ミステリーとしてのプロットは平凡で、物語は盛り上がらない。

邦題 『鴉よ闇へ翔べ』
原作者 ケン・フォレット
原題 Jackdaws(2001)
訳者 戸田裕之
出版社 小学館
出版年 2003/5/1
面白度 ★★★
主人公 フェリシティ・クレア。28歳。1941年にスペシャル・オペレーションズ・エグゼクティブ本部(SOE)に採用される。ドイツ側の敵役はロンメル将軍直属情報将校少佐のディーター・フランク。
事件 1944年6月、連合軍は欧州への侵攻作戦を計画していたが、ロンメル将軍は迅速な通信網を整備して対応していた。作戦の成否はその通信網の破壊にかかっていると判断した連合軍側は、女性だけの部隊を作り、フランスにある最も重要な電話交換所を爆破する計画を立てたのだ。
背景 第二次大戦を背景にした久しぶりの作品。プロットには相変わらずご都合主義が目につくが、これまでより抑えた書き方をしているのが好印象に繋がっている。レジスタンス組織や作戦の描き方が表面的で軽いのが難点だが、地味なヒロインの設定はそれなりに楽しめる。

邦題 『原潜を救助せよ』
原作者 ジェイムス・フランシス
原題 Dander's Hour(2001)
訳者 村上和久
出版社 二見書房
出版年 2003/11/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『シャングリラ病原体』上下
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 Ice Age(2002)
訳者 松本剛史
出版社 新潮社
出版年 2003/3/1
面白度 ★★
主人公 特にいないが、比較的出番が多いのはアメリカ人の気候学者ジャック・ストッダート。
事件 南極のアメリカ観測基地から連絡が途絶えた。現地に向かった救助隊が見つけたのは、驚いたことに無残に老衰死した4人の遺体だった。なぜ30代の科学者が5日間で90歳の老人になったのか? 一方北極でも同様な事態が発生した。そのうえシベリアのバイカル湖周辺の洞穴から見つかった新石器時代の人間の死体も、似たような特徴を呈していたのだ!
背景 著者にしては珍しい近未来を舞台にした医学サスペンス。普通ならパニック小説になるところを、政治家などを登場させて国際陰謀小説的な展開にしている。著者の得意分野で勝負しようとしたのであろうが、サスペンスは高まっていない。狙いは悪くないものの中途半端な印象だ。

邦題 『ラリパッパ・レストラン』
原作者 ニコラス・ブリンコウ
原題 Jello Salad(1997)
訳者 玉木亨
出版社 文藝春秋
出版年 2003/11/10
面白度 ★★
主人公 一人には絞れない。レストラン<ラ・ジョルジュ>のシェフであるホギー、同ボーイ長のチェブ、同経営者のスーザン・ボール、スーザンの夫でギャングのフランク・ボールなど。
事件 スーザンはフランクの金を持ち逃げし、ロンドンにレストラン<ラ・ジョルジュ>を開業しようとしていた。一方、雇われたホギーとシェブは麻薬漬けのうえに、クレジットカード詐欺の常習犯というワルだが、開業準備は順調であった。ところが開業前日、キッチンに男の死体が見つかり……。
背景 著者の第二作(翻訳は三冊目)。シリーズ物ではないが、いずれも麻薬常習者やギャングが登場する。いってみればウェルシュの『トレイン・スポッティング』をもっとミステリー的にした内容。登場人物は個性的で、シーン描写は面白いのだが、プロットがこれではガッカリ。

邦題 『楽園占拠』
原作者 クリストファー・ブルックマイア
原題 One Fine Day in the Middle of the Night(1999)
訳者 玉木亨
出版社 ソニー・マガジンズ
出版年 2003/7/19
面白度 ★★★
主人公 セント・マイクルズ校の同窓生十人前後と元警察官。誰か一人が大活躍するというのではなく、皆それぞれが特徴を生かして行動する。まあ比較的出番の多い人物は、アメリカに渡って成功したコメディアンのマシュー・ブラックとリゾートの仕掛け人ギャビン・ハチソンか。
事件 スコットランド沖に浮かぶ巨大な石油掘削装置が一大リゾートとして生まれ変ろうとしていた。ハチソンはオープンを目前に同窓会パーティを企画したが、武装集団がそこを襲ったのだ。
背景 本邦初紹介の著者による犯罪小説。さまざまな同窓生の過去・現在の心理などが巧みに描き分けられていて、かなりの筆力の持ち主であることがわかる。最大の不満は、感情移入できる物語の中心人物がいないことか。ラストの捻りは、そこそこ面白い。

邦題 『スパイたちの夏』
原作者 マイケル・フレイン
原題 Spies(2002)
訳者 高儀進
出版社 白水社
出版年 2003/3/25
面白度 ★★★★
主人公 スティーヴン・ウィートリー。事件当時は10歳前後。50年後に思い出の地を訪れて回想する。当時の友達はキース・ヘイワード。
事件 第二次世界大戦中のロンドン郊外のある夏、スティーヴンとキースは「スパイごっこ」を考え出した。ドイツの焼夷弾で消失した家の庭の茂みを隠れ場所にして、ドイツのスパイと言われた人物の監視を始めたのだ。二人とも単なる遊びとして始めたが、やがて意外な事態に発展した。
背景 『墜落のある風景』で本邦デビューした著者の邦訳第2弾。もともと純文学系の作家だそうで、本作もミステリー的雰囲気に溢れているものの、スパイ小説ではない。50年後と当時のスティーヴンの心境を混ぜん一体にして語る技術が素晴らしい。ユーモアが少ないのが残念なところ。

邦題 『悪鬼(トロール)の檻』
原作者 モー・ヘイダー
原題 The Treatment(2001)
訳者 小林宏明
出版社 角川春樹事務所
出版年 2003/7/18
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁圏内重要犯罪捜査隊Bチーム所属のジャック・キャフェリー。『死を啼く鳥』に続く登場。恋人は女流芸術家のレベッカ・モラント。
事件 ピーチ夫妻が自宅で監禁されているのが発見され、連れ去られた一人息子は死体で見つかった。小児性愛者の犯罪と考えられたが、キャフェリーの兄は、27年前の子供のときに謎の失踪事件を起こしていたのだ。彼は兄の事件も小児性愛者の犯罪と考え、二つの事件を追う。
背景 前作は暗いサイコ・スリラーだったが、今回も、死者は少ないものの、前作に輪をかけたような気味悪い作品。主人公と恋人の性格設定はイアン・ランキンのジョン・リーバスに似ているものの、リーバスほどの魅力はない。伏線の張り方もイマイチだが、語り口は達者だ。

邦題 『テンプラー家の惨劇』
原作者 ハリントン・ヘクスト
原題 The Thing at Their Heels(1923)
訳者 高田朔
出版社 国書刊行会
出版年 2003/5/20
面白度 ★★★
主人公 事件の担当者(ただし解決はしない)はロンドン警視庁のバートラム・ミッドウィンター。
事件 名門テンプラー家は英国南部の丘陵地帯に広大な屋敷を構えていたが、そのテンプラー家の一族が狙われた。連続事件の発生で、現場付近には黒衣の男が目撃されたものの、警察はまったくなす術がなかった。犯人の正体は? そして犯人の目的は何なのか?
背景 バーザン&テイラーの『犯罪カタログ』や森英俊氏の『世界ミステリ作家事典』の中で絶賛されている作品。でも「類例のない傑作」というほどの作品ではない。ちょっと毛色の変わった作品という程度だ。凡庸な探偵にもガッカリ。もっとも楽しめたのは、なにかといえばメナンドロス(ギリシャの喜劇作家)の言葉を引用する登場人物で、この巧まざるユーモアには思わずニヤリ。

邦題 『バルカン超特急――消えた女』
原作者 エセル・リナ・ホワイト
原題 The Wheel Spins(1936)
訳者 近藤三峰
出版社 小学館
出版年 2003/1/10
面白度 ★★★
主人公 美しく魅力的な女性のアイリス・カー。両親はすでに他界しているが、働かなくても暮らせる資産がある。そのためバカンスを海外で楽しんでいたが、帰国途中で事件に巻き込まれる。
事件 アイリスは帰国中の特急列車内でミス・フロイと知り合ったが、フロイは忽然と消えてしまった。だが乗客は全員知らん振り。アイリスはフロイの存在を証明しようとするが、孤立し――。
背景 ヒッチコック映画「バルカン超特急」の原作。主人公が働かなくてもいいという設定からも、女性を主人公にした冒険小説といってよい。お嬢さんだが、結構鼻っぱしが強い女性に設定されているのが興味深い。舞台を走っている列車に設定したのが上手い手で、物語に躍動感があり、終盤に向かってサスペンスが高まっていく。映画の方がより巧妙でスリルがあるが。

邦題 『らせん階段』
原作者 エセル・リナ・ホワイト
原題 Some Must Watch(The Special Staircase)(1933)
訳者 山本俊子
出版社 早川書房
出版年 2003/9/30
面白度 ★★
主人公 ヘレン・ケイペル。20代前半の女性。両親はすでに亡くなっていて、14歳から働き出した。現在は、荒涼とした田園地帯にある<サミット>邸のメイドとなっている。
事件 雇われたばかりのヘレンは、この屋敷に不気味さを感じていた。近隣の町では若い女性が連続して殺されており、この屋敷にも殺人鬼の影を感じたからだ。屋敷に住む人々は、主人ウォレン教授や病身の彼の継母など、頼りない人物が多かった。やがて嵐の夜になり……。
背景 ロバート・シオドマク監督で有名な映画の原作。典型的なゴシック・ロマンスだが、ラインハートを代表とする"Had-I-But-Known"派の作品ともいえる。ヘレンの魅力はそれなりにあるものの、欠点は、殺人の動機が安易すぎるのと、伏線なしに犯人が暴露されるというプロットにあろう。

邦題 『パンプルムース氏と飛行船』
原作者 マイケル・ボンド
原題 Monsieur Pamplemousse Aloft(1989)
訳者 木村博江
出版社 東京創元社
出版年 2003/6/27
面白度 ★★
主人公 お馴染みの二人(?)。元パリ警視庁刑事で、いまはグルメ・ガイドブック『ル・ギード』の覆面調査員をしているアリスティード・パンプルムースと彼の愛犬ポムフリット。
事件 パンプルムースに与えられた課題は、英仏間を結ぶ飛行船の就航記念飛行で、どのような機内食メニューがベストかというもの。二人は飛行船試乗のためブルターニュ地方へ出かけるが、自動車事故を起こし、その地で興行していたサーカスで発生した悲劇に巻き込まれたのだ。
背景 シリーズ物の第5作。シリーズも5冊めになると、登場人物の活躍や事件の様相もだいたい見当がついてしまうことが多い。これまでと比べると、お色気度が減り、グルメ度やサスペンス度は多少高まっているものの、基本路線は不変。その意味では確かに安心して読めるが……。

邦題 『ファイアウォール』
原作者 アンディ・マクナブ
原題 Firewall(2000)
訳者 伏見威蕃
出版社 角川書店
出版年 2003/4/25
面白度 ★★★
主人公 ニック・ストーン。元SAS隊員で、現在は英国秘密情報部の工作員。
事件 娘の治療費に苦慮していたニックは、大金を稼ごうと、フリーランスでロシア・マフィアの親玉を誘拐する作戦に加わった。だが誘拐は失敗。逆にロシア・マフィアから、ある組織のハッキングを依頼されたのだ。ニックはエンジニアを連れて再び厳冬のフィンランドに飛び立つが……。
背景 シリーズ三冊目。今回は特にディテイルの描写で読ませる冒険小説になっている。例えば電気歯ブラシを改造した錠前破り、板と釘を使った金網登りの方法、地雷からプラスチック爆薬を抜き出す方法、尾行の撒き方、投函所と呼ばれるスパイ情報の受け渡し方法、などなど。これはこれで面白いのだが、物語の基本となる陰謀プロットがどうもわかりにくいのが残念。

邦題 『愛という名の病』
原作者 パトリック・マグラア
原題 Dr.Haggard's Disease(1993)
訳者 宮脇孝雄
出版社 河出書房新社
出版年 2003/10/30
面白度 ★★★
主人公 エドワード・ハガード。ロンドンの病院の外科研修医から、田舎の開業医となる。
事件 エルギンの開業医となった私に、かつて愛した人妻の息子が会いに来た。彼はパイロットになっていた。私が彼女に初めて会ったのは1937年10月のある葬儀の席だった。彼女は同じ病院の病理医の妻であったが、私は一目惚れしてしまったのだ。すぐに二人は深い関係になるが、それは彼女の夫の知ることになり、やがて悲劇的な結末を向かえることになる――。
背景 これまでの作品と同じく一人称で語られる。マグラアの語り手は「信頼できない語り手」であるため、これだけでミステリー的な雰囲気の作品になっている。本書も全280頁中250頁までは普通の不倫小説なのだが、その雰囲気が楽しめる。愛人の息子に語るという設定もユニーク。

邦題 『亡国のゲーム』上下
原作者 グレン・ミード
原題 Resurrection Day(2002)
訳者 戸田裕之
出版社 二見書房
出版年 2003/12/25
面白度 ★★★
主人公 数多くの人物が登場する国際陰謀小説。主人公は特にいないが、強いて挙げれば、FBI捜査官のジャック・コリンズとロシア連邦保安局捜査課の少佐アレクセイ・クルスク。
事件 アル・カーイダに属するテロリストがワシントンDCに致死性神経ガスを密かに持ち込み、米大統領に脅迫状を送った。湾岸の米軍完全撤退と仲間の釈放の実現で、駄目な場合は市民全員の殺戮であった。米政府は秘密裏に捜査を行なうが、内部にスパイがいるために……。
背景 2001.9.11以前に初稿を完成させていたそうだ。アル・カーイダの米国テロを予想していることからも、フォーサイスばりの未来予測力のある作家なのがわかる。ただしテロの手段であるVXガスが簡単に製造できるなどご都合主義も目につく。冒険小説として楽しむべきなのであろう。

邦題 『オリエント急行戦線異状なし』
原作者 マグナス・ミルズ
原題 All Quiet on the Orient Express(1999)
訳者 風間賢二
出版社 DHC
出版年 2003/5/26
面白度 ★★★
主人公 名無しの<ぼく>。都会から湖畔のキャンプ場にやってきた青年。お人好しで、ついつい種々の仕事を引き受けてしまう。ダーツは結構上手い。
事件 そろそろアジア旅行に出発しようとしていた<ぼく>に、キャンプ場の所有者がペンキ塗りの仕事をもってきた。なぜか引き受けてしまうと、次々に仕事が舞い込んできた。さらに気を引く女子高生も登場する。だがクリスマスが近づくと、思わぬ事故が起きて……。
背景 第一作『フェンス』が評判になった著者の第二作。狭い意味のミステリーではないが、原題が"Murder on the Orient Express"(『オリエントの殺人』)のもじりであることや、緑色のペンキばかりを使うのは何故かという謎もある。奇妙な田舎人がたくさん登場するのがウレシイ。

邦題 『誇りは永遠に』
原作者 ギャビン・ライアル
原題 Honourable Intentions(1999)
訳者 遠藤宏昭
出版社 早川書房
出版年 2003/1/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『暗殺工作員ウォッチマン』
原作者 クリス・ライアン
原題 The Watchman(2001)
訳者 伏見威蕃
出版社 早川書房
出版年 2003/7/31
面白度 ★★★★
主人公 SAS大尉のアレックス・テンプル。恋人はソフィー・ウェルズ。
事件 アフリカでの作戦を終えたアレックスに、MI5副長官から極秘の任務が下った。それは、かつてIRA内部に送り込んだ長期潜入工作員ウォッチマンが裏切り、MI5の幹部を次々に暗殺しているので抹殺しろ、というものであった。アレックスはMI5の女性部員とともに活動を始める。
背景 SAS物を得意とする著者の6冊目。6冊の中では一番面白かった。これまではプロットは荒唐無稽だが、細部(SAS関係のこと)にはリアリティがあるという物語の組み立てが、本作ではプロットが一工夫されている(なぜウォッチマンがアレックスを途中で殺さなかったのかという謎がある)から。国際陰謀小説としてもそこそこの出来で、語り口もかなり達者になっている。

邦題 『硝煙のトランザム』
原作者 ロブ・ライアン
原題 Transam(2001)
訳者 鈴木恵
出版社 文藝春秋
出版年 2003/8/10
面白度 ★★★
主人公 はっきりした主人公はいないが、結末から考えると、シングル・マザーのウェンディ・ブラタンドとそのウェンディの隣人で元レインジャー部隊員のジョージ・クーガン。
事件 野球好きな男ジムは練習中に誤って一人の子供を死なせてしまった。もともと頭蓋骨が異常な子供であったが、その親の要求は驚くべきものだった。死んだ息子に代わってジムの息子をくれというのだ。困り果てたジム夫妻は、ウェンディの息子を誘拐し、身代りにしたてるが……。
背景 ライアンの第三作。前作よりわかりやすかったが、それでも前半は読みにくい。登場人物が多いこともあるが、最初のうち主人公がわかりにくくて、誰に感情移入すればよいか、わからないからである。プロットも少し無理がある。筆力があるだけに、後半でかなり挽回しているが。

邦題 『甦る男』
原作者 イアン・ランキン
原題 Resurrection Men(2001)
訳者 延原泰子
出版社 早川書房
出版年 2003/4/15
面白度 ★★★★
主人公 シリーズ探偵はセント・レナーズ署の警部ジョン・リーバスだが、本書では同署の部長女性刑事シボーン・クラークがリーバスと同じように活躍する。
事件 リーバスは美術商殺害事件の捜査をめぐって上司に暴力をふるい、警察官再教育施設に送られた。そこでリーバスらは過去の未解決事件を追う課題を与えられたが、その事件は彼にとっては悪夢だったのだ。一方シボーンはリーバスに代わり美術商殺害事件を担当するが……。
背景 リーバスが担当する事件とシボーンの担当する事件が並行して語られる警察小説。二つの事件が無理なく結び付いている点が、ランキンの特徴であり、モジュラー型の警察小説より優れているところだ。ただ500頁を越える大長編にふさわしい複雑で雄大なプロットとはいえないが。

邦題 『姿なき殺人』
原作者 ギリアン・リンスコット
原題 Absent Friends(1999)
訳者 加地美知子
出版社 講談社
出版年 2003/6/15
面白度 ★★★★
主人公 女性人権活動家のネル・ブレイ。本事件のときは42歳。陸軍大尉のビル・マスグレーヴはネルの元恋人で、ネルの活躍を助ける。
事件 英国で女性参政権が初めて認められた1918年に、ネルは議員選挙に立候補した。ところがその選挙区の有力候補者が謎の爆死を遂げたのだ。そしてその妻がネルに事件の捜査を依頼してきたのだ。ネルは了承するも、ネルを含む他の候補も何者かに狙われ……。
背景 今でいうフェミニズム思想を持つ主人公の造形がいい。またその頃の選挙運動が興味深く描かれている。結末も清々しい。ミステリーとしては比較的単純なプロットであるが、無理に意外性を作っていないのは好感が持てる。1999年のCWA歴史ミステリ賞受賞作。

邦題 『ナイロビの蜂』上下
原作者 ジョン・ル・カレ
原題 The Constant Gardener(2001)
訳者 加賀山卓朗
出版社 集英社
出版年 2003/12/21
面白度 ★★★
主人公 ナイロビの英国高等弁務官事務所に勤める英国外務省一等書記官のジャスティン・クエイル。庭いじりの好きな中年男性だが、ニ十歳近くも歳の離れた若妻テッサがいる。
事件 そのテッサが咽喉を切られるという殺人事件が発生した。運転手も首を切り取られていたが、同乗していた黒人の医者アーノルドは行方不明であった。アーノルドが犯人なのか? ジャスティンはテッサのPCのファイルや彼女が集めていた資料を調べ、事件の真相を追ったが……。
背景 ル・カレの作品としてはかなり読みやすい。冒頭に美人若妻の殺人事件を配して、読者を一気に物語に引き込んでいる。ジャスティンや妻などの造形はさすがに巨匠にふさわしい出来。ただし国際陰謀小説としてはプロットに妙味が乏しいし、結末のカタルシスもいまいち。

邦題 『心地よい眺め』
原作者 ルース・レンデル
原題 A Sight for Sore Eyes(1998)
訳者 茅律子
出版社 早川書房
出版年 2003/8/15
面白度 ★★★★
主人公 工芸大学の学生テディ・グレックス。愛のない結婚をした両親のもとで生まれたためか、愛情とは無縁のまま育つ。ある時美しい娘フランシーンに出会い、愛するようになる。
事件 テディは、放置されたまま一人勝手に成長したような青年。両親の死をきっかけに、徐々に狂気が前面に出ていく。一方フランシーンも子供時代に異常な体験をし、心に傷を負っていた。その二人が出会い、新たな悲劇が起き始めるが……。
背景 最初はサイコー・スリラーのような展開をする。テディの両親の話から始まり、二人の出会いまでを一気に語っていく。上手いものである。だがテディが殺人を犯すほどの異常者とわかるところからは、逆にミステリーの王道を行くような展開となり、さすがはレンデルと納得してしまう。

邦題 『原潜シャークの叛乱』
原作者 パトリック・ロビンソン
原題 The Shark Mutiny(2001)
訳者 山本光伸
出版社 二見書房
出版年 2003/7/25
面白度 ★★
主人公 特にいないが、国家安全保障問題担当大統領補佐官アーノルド・モーガン提督と原潜<シャーク>の副長ダン・ヘッドリー、SEAL第ニ攻撃隊長リック・ハンターの三人か。
事件 2007年、中国はイランと結託してホルムズ海峡に魚雷を敷設した。このため大型タンカー三隻が炎上し、中国の狙い通り石油価格が暴騰した。米国は反撃のため特殊部隊SEALがイランの中国石油精製工場を攻撃した。成功するも、原潜艦長の不可解な命令に乗員が叛乱し……。
背景 戦争シミュレーション小説。米国産のトム・クランシーらの作品とどの程度違うのかという興味で読んでみた。中国を敵対視する安易なプロットや、登場人物がすべて米国人という設定など、英国産小説の雰囲気はほとんど感じられなかったが、ラストの裁判で多少持ち直したか。

邦題 『特命航海、嵐のインド洋』上下
原作者 パトリック・オブライアン
原題 H.M.S.Surprise(1973)
訳者 高橋泰邦・高津幸枝
出版社 早川書房
出版年 2003/9/15
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邦題 『難攻不落、アルジェの要塞』
原作者 アレグザンダー・ケント
原題 Relentless Pursuit(2001)
訳者 高橋泰邦
出版社 早川書房
出版年 2003/2/28
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邦題 『蒼海に舵をとれ』
原作者 ジュリアン・ストックウィン
原題 Artemis(2002)
訳者 大森洋子
出版社 早川書房
出版年 2003/8/15
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邦題 『輸送船団を死守せよ』
原作者 ダグラス・リーマン
原題 Far Valour(2000)
訳者 高津幸枝
出版社 早川書房
出版年 2003/1/31
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