邦題 『被告の女性に関しては』
原作者 フランシス・アイルズ
原題 As for the Woman:A Love Story(1939)
訳者 白須清美
出版社 晶文社
出版年 2002/6/10
面白度 ★★
主人公 オックスフォード大学の学生アラン・リトルウッド。21歳。詩人志望の青年。
事件 肺病に罹ったアランは海辺の村で療養することになった。滞在先は医師の家。だが彼は医師の妻イヴリンと親しくなり、一線を超えてしまったのだ。そして二人のロンドンでの密会を村の住人に目撃され、ついに夫の知ることになった。アランはこの苦境をいかに脱出できるか?
背景 アイルズ名義の三冊目。本書だけが長らく翻訳されなかったが、実際に読んでみると、ミステリーとしてはあまり高く買えない作品だと納得した。特に二人の密会がバレてからの展開がドタバタ的で、前半のシリアスな語り口との違和感に戸惑ってしまう。その前半(童貞の主人公がイヴリンに惹かれる物語)は一種の青春小説で、それなりに興味深く読めるのは確かだが。

邦題 『獅子の湖』
原作者 ハモンド・イネス
原題 The Land God Gave to Cain(1958)
訳者 伏見威蕃
出版社 ソニー・マガジンズ
出版年 2002/2/20
面白度 ★★★★
主人公 エンジニアのイアン・ファーガスン。20代の独身。無線マニアだった父の傍受したメッセージの謎解きのために、単身でカナダに渡る。
事件 父親が傍受したメッセージは、カナダの辺境で遭難した調査隊の一員から送られたものだった。父親はそれに驚き、発作を起こして亡くなった。何故なのか。調べると、父親が傍受した日には、すでに調査隊員は死んでいるはずだった。カナダの秘境に眠る秘密とは?
背景 イネス壮年期の一冊。『メリー・ディアの遭難』と『呪われたオアシス』の間に位置するもので、これまで翻訳されなかったのが不思議なくらいの出来栄え。悪人はほとんど登場しないが、カナダの自然描写が圧巻で、スリリングな作品になっている。後味のよい正統派の冒険小説。

邦題 『トロイの木馬』
原作者 ハモンド・イネス
原題 The Trojan Horse(1940)
訳者 伏見威蕃
出版社 ソニー・マガジンズ
出版年 2002/11/20
面白度 ★★★
主人公 ロンドン在住の弁護士アンドリュー・キルマーチン。40代前半の独身男。友人の映画カメラマン、デイヴィッド・シールと殺人事件容疑者の娘フレイアが協力者として活躍する。
事件 第二次大戦中キルマーチンのもとに、シュミットと名乗る男が訪れてきた。ナチスからの亡命ユダヤ人技師で、今では殺人犯として指名手配中なのだが、彼は無罪を主張するとともに、謎の言葉を残して姿を消した。キルマーチンが彼の行方を追うと、その背後にはナチの密謀が!
背景 著者の初期作品で、『海底のUボート基地』に次ぐ6作め。物語は冒頭の謎の人物の訪問から、暗号解読、コーンウォールやロンドン地下下水道での追跡・逃亡劇、そして給兵艦での死闘まで、快調に展開する。だがもう少しそれぞれの山場をじっくり描いて欲しかった。

邦題 『煙突掃除の少年』
原作者 バーバラ・ヴァイン
原題 The Chimney Sweeper's Boy(1998)
訳者 富永和子
出版社 早川書房
出版年 2002/2/28
面白度 ★★★★
主人公 物語の主人公は小説家のジェラルド・キャンドレス。死ぬまでに19冊の小説を発表。ブッカー賞の最終選抜に残ったこともある。謎を解くのは大学の先生をしている長女のサラ。
事件 サラはジェラルドの回想録を執筆するよう要請された。彼女は父の過去を調査すると、なんと「ジェラルドは5歳のとき髄膜炎で死んだ」と証言する老女が現れた。父は誰なのか?
背景 サイコ・サスペンス風の味付けは減っているものの、堂々たる小説になっている。小説家ジェラルドは他人になりすまして生きていたという謎は、ミステリーとしては平凡だが、小説の主題としては魅力的。サラの捜査だけでなく、妻の思い出話なども挿入し、終盤に向けて徐々にサスペンスを高めていく手腕はサスガだ。人生とはなにかを追及する小説の醍醐味も十分味わえる。

邦題 『鷹の城の亡霊』
原作者 ジョン・ウィルソン
原題 Turmfalke(1996)
訳者 水野谷とおる
出版社 東京創元社
出版年 2002/9/13
面白度 ★★★
主人公 デーヴィッド・ルイス。ケンブリッジ大学で機械工学の博士号を修得したエンジニアリング・コンサルタント。50代後半。妻はかつてモデルであった美人のケイト。
事件 デーヴィッドは、欧州赴任が決まってから、悪夢に悩まされ始めた。そこで催眠療法を受けるが、子供のときの記憶まで遡ると、ヒトラーの顔が……。
背景 1980年代に盛んになり、今では下火になったナチ物のミステリー。それもストレートなナチ物である。結論をいってしまえば、最初とラストは非常にいいのだが、ナチとの関係を徐々に調べていく中盤があまりに長過ぎる。謎がそれほど捻ってあるわけでもないので、なおさらそう感じてしまう。脇役としては妻ケイトが出色。男にとっては理想の女性か?

邦題 『囁く谺』
原作者 ミネット・ウォルターズ
原題 The Echo(1997)
訳者 成川裕子
出版社 東京創元社
出版年 2002/4/26
面白度 ★★★
主人公 ≪ストリート≫新聞の記者マイケル・ディーコン。40代だが、離婚を二回経験している。
事件 ある裕福な家のガレージに潜り込んだ浮浪者が、死後5日たって発見されるという事件が起きた。しかも死因は餓死という。この事件に興味を持ったマイケルは、発見者の女性を訪れると、彼女は死んだ男に強い関心を抱いていることがわかったのだ。何故か? 二人の関係は?
背景 ウォルターズらしい巧みな語り口や人物描写は健在。特に脇役のホームレス少年や写真処理係の青年の造形はユニーク。ただプロットが複雑すぎるというか、最初の失踪者の話を広げすぎた関係で、解決部分がイマイチすっきりしない。発見者の家のガレージで、何故浮浪者が餓死したのかという前半の謎は魅力的なのに、後半の展開はその謎を生かしきれなかったようだ。

邦題 『招かれざる客』
原作者 チャールズ・オズボーン
原題 The Unexpected Guest(1999)
訳者 羽田詩津子
出版社 講談社
出版年 2002/12/15
面白度 ★★★
主人公 明確な主人公はいないが、まあローラ・ウォリックか。ウォリック家の当主リチャードの妻。リチャードは猛獣狩りのハンターで、二人は出会ってすぐに結婚した。
事件 リチャードは、結婚2年目にライオンに襲われ、下半身が麻痺し車いす生活を余儀なくされていた。そのリチャード家に、車のタイヤを溝に落とした男が、助けを求めに訪れた。だが彼が目にしたのは、リチャードが射殺されていて、傍らにはローラが拳銃を手に立っていたところだった。
背景 クリスティの同題の戯曲の小説化。ただし戯曲の台詞を生かし、ト書きを地の文に変える程度なので、クリスティの著作と呼んでもいいようだ。クリスティの特徴といえる、誰もが犯人でありうるという設定が巧みに構築されている。元がよければ、どう料理しようと水準作にはなるようだ。

邦題 『壜の中の手記』
原作者 ジェラルド・カーシュ
原題 独自の編集
訳者 西崎憲他
出版社 晶文社
出版年 2002/7/5
面白度 ★★★
主人公 独自の編集になる短編集。12本の短編を集めている。
事件 題名を順に列挙すると、「豚の島の女王」(無人島に流されたサーカス団の人たちのグロ的な話だが、結末はカナシイ)、「黄金の河」(奇談という名にふさわしい話)、「ねじくれた骨」(脱出不可能な刑務所の設定が異様な作品)、「壜の中の手記」(ビアーズの謎の失踪を扱ったもの)、「ブライトンの怪物」(ストレートな怪物ホラー)、「破滅の種子」、「カームジンと『ハムレット』の台本」、「刺繍針」、「時計収集家の王」、「狂える花」、「死こそわが同志」である。
背景 主にアメリカやカナダで活躍した作家で、作品はけばけばしい。英国作家と呼ぶには違和感があるが、生まれは英国で、一般に英国作家と呼ばれているのでリストに含めている。

邦題 『氷の刃』
原作者 ポール・カースン
原題 Cold Steel(1998)
訳者 真野明裕
出版社 二見書房
出版年 2002/7/25
面白度 ★★
主人公 警察の事件担当者は重大犯罪特捜班の警視ジム・クラーク。下肢障害者でアルミ杖を常用している。もう一人の主人公はダブリン、マーシー病院の血液専門医フランク・クランシー。
事件 ジムが担当することになった事件は、著名な心臓外科医の娘が公園で刺殺されたもの。麻薬が関係していることは明らかであった。一方、その心臓外科医か勤務するマーシー病院では、心臓外科を受けた患者に”顆粒球減少症”が急増していた。フランクはこの謎を追うが……。
背景 警察小説と医学スリラーをミックスした作品。狙いは良いのだが、二つの事件の絡み方はうまくいっていない。専門知識(著者はダブリンの小児科医)を生かしたフランクの活躍はまあまあだが、警察小説の方はいたって平凡。もう少し複雑な謎のあるプロットにしてほしかった。

邦題 『ロスト・フレンド』
原作者 ケイティ・ガードナー
原題 Losing Gemm(2002)
訳者 小林浩子
出版社 アーティストハウス
出版年 2002/5/31
面白度 ★★
主人公 エスター・ウェリング。23歳のとき親友のジェンマとインド旅行をする。
事件 エスターとジェンマは幼なじみだが、性格は対照的だった。そしてエスターが大学生になってからはその友情にも亀裂が入り始め、密かにジェンマを裏切ることをしてしまった。罪悪感にかられつつエスターはジェンマを誘ってインド旅行にいくが、謎の女性が現れ、旅の途中でジェンマと喧嘩してしまう。後悔してもとの所に戻ってみると、ジェンマは無残な焼死体になっていたのだ!
背景 ミステリー専門ではない著者が書いたサスペンス豊かな作品。ミステリーとしては単純な仕掛けながら、後半に意外性がある。とはいえこの小説の面白さは、やはり二人の若い女性の友情や反目を描いた青春小説のそれであろう。著者の第一作だそうだ。

邦題 『コナン・ドイル殺人事件』
原作者 ロジャー・ギャリック‐スティール
原題 The House of the Baskervilles(1999)
訳者 嵯峨冬弓
出版社 南雲堂
出版年 2002/10/4
面白度 ★★
主人公 コナン・ドイルが『バスカヴィル家の犬』を執筆する際、ダートムアの伝説に登場する黒い猟犬の話をして、ドイルを助けたジャーナリストのフレッチャー・ロビンソン。
事件 『バスカヴィル家の犬』の刊行には、ロビンソンの助力があったにも関わらず、共著にならなかったのは何故か。またロビンソンが36歳という若さで、8日間程度の病状で死んでしまったのは何故か、という謎をノンフィクション・ノベルの手法で解き明かした作品。
背景 著者は1989年にダートムアのある屋敷に引っ越したが、そこはロビンソンの以前の住居であったという発見から想を得た作品。本来はノンフィクションにすべきなのに、証拠がほとんどないために小説になったが、ドイルを×××にするのは超無理筋だ。

邦題 『無名恐怖』
原作者 ラムゼイ・キャンベル
原題 The Nameless(1981)
訳者 鈴木玲子
出版社 アーティストハウス
出版年 2002/5/31
面白度 ★★★
主人公 有能な出版エージェントのバーバラ・ウォー。夫は一人娘アンジェラが生れる前に死亡。
事件 バーバラは多忙な毎日を送っていたが、過去に大きなトラウマを抱えていた。9年前、4歳のアンジェラが誘拐され、惨殺されたのだ。ところが最近電話が掛かってきて、「ママ、私よ……」との声が! 本当の娘からの電話なのか? バーバラは必死の調査を始めるのだった。
背景 ”英国ホラー作家のなかで頂点に立つ男”と言われているそうだ。『母親を喰った人形』に続く二冊目の邦訳。死んだと思われていた娘からの電話で、一気に物語に引き込まれる。上々の導入部だが、その後の展開はあまりいただけない。バーバラの行動がハーレクィンの主人公のそれと大差ないからだ。ラストは衝撃的ではあるものの、これはミステリーとしての衝撃ではない。

邦題 『メグ・アウル』
原作者 ギャリー・キルワース他
原題 独自の編集The Megowl()
訳者 安藤紀子他
出版社 パロル舎
出版年 2002/11/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『望楼館追想』
原作者 エドワード・ケアリー
原題 Observatory Mansions(2002)
訳者 古屋美登里
出版社 文藝春秋
出版年 2002/10/15
面白度 ★★★
主人公 フランシス・オーム。自称博物館の学芸員。望楼館に両親とともに同居。いつも白い手袋をしている。他人が愛したものを盗み、収集している。37歳。
事件 古い邸宅を改造したマンション≪望楼館≫には、人語を解さぬ犬女、テレビばかり見つづける老女、汗と涙を流し続ける元教師など、奇矯な人たちばかりが住んでいる。彼らの過去は?
背景 厳密にはミステリーではないが、物語に張られた伏線が実にミステリーらしい。この伏線にはマイッタ。登場人物は変わった人間ばかりで、一歩間違えれば見世物小屋の奇人になってしまうところをユーモアを織り込んで、洗練されたものに仕上げている。「」なしで会話を書いているテクニックもスゴイ。もっとも収集付録まですべて載せるのは、ヤリスギだと思うが……。

邦題 『幸福と報復』上下
原作者 ダグラス・ケネディ
原題 The Pursuit of Happiness(2001)
訳者 中川聖
出版社 新潮社
出版年 2002/7
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『不死の怪物』
原作者 ジェシー・ダグラス・ケルーシュ
原題 The Undying Monster(1922)
訳者 野村芳夫
出版社 文藝春秋
出版年 2002/1/10
面白度 ★★★
主人公 ルナ・バーテンデール。美貌の霊能者で、高名な心霊探偵。
事件 深夜の森の中で犬が殺され、美女も瀕死の状態で見つかった。傷痕からみて、先祖代々ハモンド家にとりついている不死の怪物の行為と思われたのだ。領主はルナに調査を頼むことにした。彼女は科学的な観点から謎を解いていくが……。
背景 二十世紀初頭の怪奇小説の雰囲気がわかり、それなりに面白かった。前半は怪異現象で怖がらせる。後半は心霊探偵の謎解きとなるが、5次元を導入するなど現実の科学で説明しているわけではない。とはいえ、物憑き、狐憑きなどによる説明ではなく、心理学、遺伝学などを援用し、堂々とした心霊探偵の謎解き物語になっている。まあ、そこに古さを感じるが。

邦題 『今ふたたびの海』上下
原作者 ロバート・ゴダード
原題 Sea Change(2000)
訳者 加地美知子
出版社 講談社
出版年 2002/9/15
面白度 ★★★★
主人公 地図製作者のウィリアム・スパンドレル。数奇な運命にさらされる。
事件 18世紀初頭。借金に苦しんでいたウィリアムは、その棒引きのために密使の仕事を引き受ける。英国政府や王室の大スキャンダルになる可能性の高い裏帳簿をアムステルダムに運ぶ仕事であったが、思わぬ罠が待ち受けていた。スパンドレルは殺人犯として捕まってしまったのだ。だが彼は脱獄をし、盗まれた帳簿を追って欧州を駆け巡る。
背景 南海会社のバブルが弾け、スチャート王家の再興を図るジャコバイトたちが活動している頃を舞台にした歴史小説。例によって物語が飽きることなく展開していく。宝物を奪い合う逃亡劇+陰謀劇だが、地図制作という主人公の特殊技能が小説に生かされていないのが、少し不満。

邦題 『神学校の死』
原作者 P・D・ジェイムズ
原題 Death in Holy Orders(2001)
訳者 青木久恵
出版社 早川書房
出版年 2002/7/31
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのロンドン警視庁のアダム・ダルグリッシュ警視長。
事件 サフォーク州の海岸に位置する神学校の学生が、近くの砂浜で死体として埋もれているのが見つかった。事故死と判断されたが、学生の義父は納得しなかった。ロンドン警視庁に再捜査を依頼したのだ。たまたまダルグリッシュは、少年時代にその学校で夏季休暇を過したことがあったため、彼が調査をすることになった。ところが次に学校の大執事が殺されたのだ!
背景 80歳を越えた著者の力作。構成力、筆力などはほとんど衰えを感じさせない。驚きである。例によって登場人物のさまざまな人生が丁寧に描かれている。神学校の雰囲気も興味深く描写されている。謎に対する伏線などはないが、徐々に解かれていく過程のサスペンスはかなり高い。

邦題 『キスしたいのはおまえだけ』
原作者 マキシム・ジャクボヴスキー
原題 It's You That I Want to Kiss(1996)
訳者 真崎義博
出版社 扶桑社
出版年 2002/7/30
面白度 ★★★
主人公 取材会社の元経営者ジェイコブ・ジョーンズと高級娼婦のアン・ライアン。
事件 ジェイクとアンは、一目で惹かれ合った。だがアンは組織の麻薬を横領し、ジェイクはアンとともに逃亡を図った。ニューオーリンズからラスベガスへ。だが組織の追跡は執拗だった。そして二人は、最後に破滅が待っていることを知っていたが……。
背景 ”エロティック・スリラーの帝王”と呼ばれる著者の本邦初訳本。なるほど前半はポルノと間違えるほとの濡れ場、ベットシーンの連続。プロットもかなり安易だが、破滅しか考えられない逃避行に一捻りしているのは面白い。舞台はすべてアメリカの都市で、英国的雰囲気を感じるのは主人公の二人が英国人であることぐらいだが、ユーモアが散見されるのが嬉しい。

邦題 『夜の牝馬』
原作者 マンダ・スコット
原題 Night Mares(1998)
訳者 山岡訓子
出版社 講談社
出版年 2002/11/29
面白度 ★★
主人公 ケレン・スチュワート。セラピストでありながら、馬牧場を経営している。レスビアン。
事件 女性獣医ニーナが治療中の馬が次々に死んだ。責任感の強い彼女はそのことで自殺を図り、そのときに服用した薬物の後遺症で悪夢に悩まされていた。ところが再び馬が連続して死亡する事態が起きた。さらにニーナのコテージが不審火で焼失した。ケレンは以前にニーナを治療し、ケレンの馬もニーナの病院に入院したため、再びニーナの悲劇に手を差し伸べるが……。
背景 誤解を与える訳題だが、著者は元獣医であっただけに、その専門性を生かした真面目なサスペンス小説。ただミステリーとしての骨格はあまりに弱すぎる。ある意味で犯人はミエミエなのに、捜査もしなければ推理もしない。馬の匂いは嗅げるものの、D・フランシスを凌ぐとは大袈裟だ。

邦題 『リバー・ゴット』上下
原作者 ウィルバー・スミス
原題 River God(1993)
訳者 大澤晶
出版社 講談社
出版年 2002/4/15
面白度 ★★★
主人公 宦官のタイタ。当初は奴隷。歌・絵画に秀でて、世界屈指の名医となる。兵法にも長け、土木建築術も超一流。古代エジプトのレオナルド・ダヴィンチといった人物。スーパーマン。
事件 タイタは主人の娘ロストリスを密かに愛していたが、彼女は没落貴族の青年タヌスと相思相愛だった。だが運命のいたずらで、ロストリスはファラオの妃となり、タヌスは左遷。やがて異民族の侵入でファラオは戦死し、ロストリスは人々を率いて奥地を目指す苦難の旅へ出る。
背景 古代エジプトを舞台にした通俗時代絵巻小説。タイタの視点からロストリスという女性の一生を描いている。斜め読みでも十分話がわかるというわかりやすい書き方は、それなりに素晴らしい。ミステリー的には馬の感染症を利用する戦術がちょっと目新しい程度。

邦題 『わが名はレッド』
原作者 シェイマス・スミス
原題 Red Dock(2002)
訳者 鈴木恵
出版社 早川書房
出版年 2002/9/15
面白度 ★★★★
主人公 レッド・ドック。現在は犯罪組織のブレーン。
事件 レッドは幼い頃親に捨てられ、彼と弟は修道院で悲惨な少年期を過し、ついに弟は亡くなった。レッドは、復讐を誓い、彼を虐げた人々を破滅させる計画を考え出したのだ。20年後、レッドは警官夫婦の赤子を誘拐し、誰もが考えつかないような復讐の計画を開始した。
背景 『Mr.クイン』で評判になった著者の第ニ作。似たようなワルが主人公ながら、私にはこちらの方が面白かった。心に誓ってから、40年近くの歳月がかかる復讐を実行するとは、いかにもイギリス人らしい発想といえようか。精神異常の犯罪者も登場するが、主人公には独特の魅力がある。著者が孤児院における児童虐待を訴えているのも、読後の印象を忘れ難いものにしている。

邦題 『箱の中の書類』
原作者 ドロシイ・セイヤーズ(+ロバート・ユースタス)
原題 The Documents in the Case(1930)
訳者 松下祥子
出版社 早川書房
出版年 2000/3/15
面白度 ★★★
主人公 特にいない。探偵役となるのは、被害者ハリソンの先妻の息子ポール。
事件 事件の始まりは、電気技師ハリソンが妻と住む家に二人の若い下宿人がやってきたことだった。やがて彼らの人間関係は徐々に緊張を高めていく。そして家政婦は襲われ、ハリソンは奇妙な事故死を遂げた。ポールはその事故死を疑問視し、調査のため当事者の手紙を集めるが……。
背景 セイヤーズ唯一の非シリーズ物のミステリー。全編書簡や書類だけで構成されている。この構成は、19世紀の作品には結構あるはずで、それほどユニークなものではない。メイン・トリックは純粋に科学的なもので、明らかにユースタスが考えたものであろう。逆に資料だけで事件を語る語り口は巧妙。文章はセイヤーズ一人で書いたに違いないし、人間関係の興味で読まされる。

邦題 『スカルピア』
原作者 リンゼイ・タウンゼンド
原題 Voices in the Dark(1995)
訳者 犬飼みずほ
出版社 講談社
出版年 2002/2/15
面白度 ★★
主人公 ジュリア・ロシュフォート。美貌のメゾソプラノ歌手。コンクールのためにボローニャに出かける。母はイタリア人で、義父もイタリア人だが、実の父はイギリス人。
事件 ジュリアはイタリア滞在中、老貴婦人に招かれた。そこで彼女から、ジュリアの祖父母が戦争中に受けた体験と、トスカを口ずさみながら拷問をする男の話を聞いた。その男スカルピアはまだ生きているのか? ジュリアはその男を捜そうと決意する。
背景 基本プロットは、美貌だが頭が少し足りない女性と陰ある魅力的な男との恋愛を主題にしたサスペンス・ロマン。ハーレクィン物に近いはずだが、戦争末期のパルチザンを拷問した戦争犯罪人を扱っている点が、多少社会派的か。そのために物語が長くなりすぎているが。

邦題 『カレンダー・ガール』
原作者 ステラ・ダフィ
原題 Calendar Girl(1999)
訳者 柿沼瑛子
出版社 新潮社
出版年 2002/11/1
面白度 ★★★
主人公 レスビアンの私立探偵サズ・マーティン。
事件 物語は、付き合っていた女にお金を貸したが、そのまま行方不明になったので探してほしいという話と、レズのスタンダップ・コメディアンが新しいレズの恋人と共同生活を始める話が交互に語られる。そして二つの話の接点がニューヨークにあり、謎の女”セプテンバー”を探すことに。
背景 ”タルト・ノワール”というシリーズ物の一冊。女性作家の書くハードボイルド、犯罪小説の類だが、従来の女性作家のハードボイルド物との違いは、主人公が男性にも好まれる生き生きとした女性というより、レズを堂々と宣言している女性好みの探偵だということか。麻薬密輸というプロットは平板で、ミステリーとしての見所は少ないが、サズの言動には新鮮な印象を受ける。

邦題 『黒く塗れ!』
原作者 マーク・ティムリン
原題 Paint It Black(1995)
訳者 北沢あかね
出版社 講談社
出版年 2002/1/15
面白度 ★★★
主人公 ニック・シャーマン。ロンドン警視庁をクビになった私立探偵。前妻との間に15歳の娘ジュディスがいる。現在の妻はドーンで、彼の助手をしている。
事件 中編3本で構成したような作品。第一部は私立探偵小説風の設定で、麻薬絡みの理由で家出したジュディスを無事見つけだす話。第ニ部は、麻薬で命を落とした娘の友人のために麻薬ディーラーへ復讐する話。第三部は、第ニ部の行動が原因で妻を殺された主人公がマシンガンを携え、麻薬の元締めを追う復讐話で、ほとんど銃撃戦の描写ばかりである。
背景 英国ミステリーも様変わりで、犯罪小説が増えているが、これもそのような一冊。とはいえ女性や悪に対する主人公の姿勢には、なんとなくイギリス人らしい雰囲気があるのが好ましい。

邦題 『ストーン・ベイビー』
原作者 ジュールズ・デンビー
原題 Stone Baby(2000)
訳者 古賀弥生
出版社 早川書房
出版年 2002/8/30
面白度 ★★★
主人公 コメディアンのジェイミー・ジー。ただし物語の語り手は、ジェイミーのマネージャー(混血の21歳)のリリー・カールソン。
事件 ジェイミーは一目見て、美男子のショーンに夢中になってしまった。しかしリリーは、彼に生理的な嫌悪感をもっていた。はたせるかな、彼女らと同居するようになったショーンは徐々に暴力的な体質を現し始めたのだ。ショーンはどんな男なのか?
背景 語り口がうまい。幼児虐待、連続殺人、ホモや麻薬といった、書き方によってはいくらでも汚くなる題材を用いながらも、それほど読者に嫌悪感を与えない話にしている。スタンダップ・コメディ界の内幕がわかるという点でも興味深い。謎解きの面白さはゼロに近いが……。

邦題 『飛蝗の農場』
原作者 ジェレミー・ドンフィールド
原題 The Locust Farm(1998)
訳者 越前敏弥
出版社 東京創元社
出版年 2002/3/22
面白度 ★★★
主人公 感情移入できるような人物はいない。強いて挙げるなら農場主のキャロル・パーシヴァル。30代後半で独身。看護婦をしていた。
事件 嵐の夜、ヨークシャーで農場を営むキャロルのところに、謎の男が転がり込んできた。キャロルは猟銃で男に怪我を負わせるが、応急処置を施し、宿を提供することにした。ところが意識を取り戻したその男は過去の記憶がないという。男の背後にはなにがあるのか?
背景 ”このミステリーがすごい”の翻訳部門でトップになった作品。ケッタイナ小説というのが第一印象。内容的には異常心理物に分類されようか。従来のミステリーの技法を無視した作り方で、私はあまりかわないが、異様な雰囲気を醸し出す文章はサスガといったところだ。

邦題 『レイトン・コートの謎』
原作者 アントニイ・バークリー
原題 The Layton Court Mystery(1925)
訳者 巴妙子
出版社 国書刊行会
出版年 2002/9/20
面白度 ★★★
主人公 小説家のロジャー・シェリンガム。30代半ば。趣味は犯罪学。初登場である。
事件 レイトン・コートの主人が密室状態の部屋で、額を撃ち抜かれて死んでいた。タイプで打たれた遺書も見つかり、警察は自殺と判断した。しかし滞在客の中に不審な客がいたことなどから、ロジャーは自殺説に疑問を持ち、密室の謎は簡単に解けたことで、犯人探しを始めるが……。
背景 バークリーが”?”という筆名で出版した第一作。密室トリックは平凡で、謎解き小説としては意外な犯人がまあ面白い程度。本書の良さは、時には間違えながらも真実を追究する好奇心旺盛な素人探偵ロジャーを創造したことであろう。ただE・クリスピンやC・ヘアーのユーモアほどにはバークリーのユーモアは楽しめない。ファルス的笑いは私には不向きということか。

邦題 『ウィッチフォード毒殺事件』
原作者 アントニイ・バークリー
原題 The Wychford Poisoning Case(1926)
訳者 藤村裕美
出版社 晶文社
出版年 2002/9/30
面白度 ★★★
主人公 小説家のロジャー・シェリンガム。世界一おしゃべりでお節介な素人探偵。
事件 ロンドン近郊の町ウィッチフォードで、妻が実業家の夫を砒素で毒殺したのではないかという事件が起きた。状況証拠は圧倒的に妻に不利で、有罪は間違いないと思われていた。だがこれに疑問をもったシェリンガムは、友人らとアマチュア探偵団を結成して捜査を始めたのだ。
背景 バークリーの第ニ作。献辞には、心理的探偵小説を目指すと書かれており、その心意気は頼もしいし、確かにそれを実践している。毒殺、自然死、事故死のいずれかを物的証拠ではなく、心理学的推理で追いつめて行くからである。ただし心理学的推理には常に100%正しいと言えないもどかしさがつきまとうが、本書にもその欠点がある。著者のユーモアもピント外れが多い。

邦題 『堕天使の報復』
原作者 マーク・バーネル
原題 The Rhythm Section(1999)
訳者 中井京子
出版社 二見書房
出版年 2002/12/30
面白度 ★★
主人公 飛行機事故で家族を失ったステファニー・パトリック。リサの名前で娼婦として働く。
事件 ところが飛行機事故は実際は爆破テロだったと教えられたのだ。復讐のためステファニーは犯人を射殺しようとするが、謎の組織に拉致され、対テロ要員として訓練を受けることになった。そしてペトラ・ロイターという名のドイツテロリストになりすまして、相手の組織に入り込む。テロの黒幕を見つけ出すのが任務だ。そこではマリーナという偽名も使うことになったが……。
背景 英国ミステリーと思わせるものは、悪役のテロリスト組織にある程度の理解を示していることだろう。ちょっと『リトル・ドラマー・ガール』を書いたル・カレの態度に似ているか。それが長所だが、欠点はご都合主義が多過ぎることと、文庫本で六百頁を越える長さか。半分で十分なはずだ。

邦題 『殺人者は蜜蜂をおくる』
原作者 ジュリー・パーソンズ
原題 The Courtship Gift(1999)
訳者 大嶌双恵
出版社 扶桑社
出版年 2002/2/28
面白度
主人公 昆虫学者のアンナ・ニール。夫が死に、家を売る際に知り合った男に惹かれる。
事件 アンナの夫は、ある日突然、郵便物に入っていた大量の蜜蜂に刺されて死亡した。ところが弁護士の夫には、多額の借金やら愛人がいることがわかったのだ。落ち込んだアンナだったが、そこに男が現れた。その男は以前から彼女を観察していたが、彼女はそのことを知らずに……。
背景 この作品の主題は、原題”コートシップ・ギフト”(婚姻贈呈)そのもの。解説によると、虫の一部には雄が雌にプレゼントを贈る習性があり、その贈物に夢中になっている内に交尾をするが、その求愛行動を婚姻贈呈というそうだ。それを人間に置き換えたサスペンス小説。狙いはまあ悪くはないが、アンナに魅力が欠けているのが致命傷で、読後のカタルシスもない。

邦題 『人生を盗む男』
原作者 マイケル・パイ
原題 Taking Lives(1999)
訳者 広津倫子
出版社 徳間書店
出版年 2002/2/28
面白度  
主人公 

事件 


背景 

2004年に『テイキング・ライブス』と改題されて文庫として出版された。

邦題 『スーパー・カンヌ』
原作者 J・G・バラード
原題 Super-Cannes(2000)
訳者 小山太一
出版社 新潮社
出版年 2002/11/30
面白度 ★★★
主人公 航空機関係の雑誌の編集長ポール・シンクレア。妻は若い小児科医。
事件 スーパー・カンヌとは、ヴァール平原の高地に広がるサイエンス・パークと高速道路の一地域全体のこと。ポールの妻がそこに向かったのは、そこにある大企業の小児科医に雇われたからである。そこでは仕事熱心な小児科医が高級幹部を7人殺して自殺する事件が起きていた。妻はその後任であったが、ポールは、病気療養を兼ねていたこともあり、事件を調べることにした。
背景 一言でいえばビジネスパークで起きた大量虐殺事件の謎を追う小説。SF的なのは殺人現場が、近未来のハイテク工業地帯というだけで、あとは素人探偵が活躍するミステリーといってよい。導入部が特にうまいが、さすがに後半の物語処理はミステリー作家の扱い方ではないようだ。

邦題 『1980ハンター』
原作者 デイヴィッド・ピース
原題 Nineteen Eighty(2001)
訳者 酒井武志
出版社 早川書房
出版年 2002/5/31
面白度 ★★★
主人公 マンチェスター警察の副本部長ピーター・ハンター。妻ジョウンがいる。ヨークシャー・リッパー特別捜査班を組織し、これまでの捜査の再調査を行なう。
事件 1980年、ヨークシャー・リッパーに殺された13人目の女性が発見された。頭を砕かれ、腹は何十回も刺されていた。ハンターはリッパー事件の再捜査を指示されたが……。
背景 いわゆる”ヨークシャー四部作”の第3作。このシリーズは、時代の裏に埋もれたヨークシャーの悪夢を描き出す試みだそうだが、それにはヨークシャー・リッパーは必須の舞台設定で、作者の意気込みは確かに感じられる。この作者の文章は、短文で会話の多いため読みやすいし、迫力はあるが、ただプロットの面白さはほとんどないので、小説としてはイマイチ楽しめない。

邦題 『その死者の名は』
原作者 エリザベス・フェラーズ
原題 Give a Corpse a Bad Name(1940)
訳者 中村有希
出版社 東京創元社
出版年 2002/8/30
面白度 ★★
主人公 犯罪ジャーナリストのトビー・ダイクとその相棒のジョージ。お馴染みのシリーズ探偵だが、本書がシリーズ第一作であるとともに、著者の第一作でもある。
事件 舞台はダートムアの一角にある小村。そこに住む未亡人が人を轢いてしまったと警察に飛び込んできた。被害者は泥酔して道の真ん中に寝込んでいたらしい。だが顔は潰れていて被害者の特定が難しいうえに、近くに酒壜は見つからない。どこで酒を飲んだのか?
背景 本シリーズの特徴である突飛な謎は設定されていないが、ラストはそれなりの驚きがある。ジョージがワトソン役ではなく、実はホームズ役であるという性格設定は第一作から始まっていることがわかる。ただし語り口は、相変わらず個人的には好きになれない。

邦題 『戦士たちの挽歌』
原作者 フレデリック・フォーサイス
原題 The Veteran(2001)
訳者 篠原慎
出版社 角川書店
出版年 2002/1/30
面白度 ★★★
主人公 中編1本と長めの短編4本から構成された作品集。
事件 トップは標題になっている「戦士たちの挽歌」。団地の商店街で暴行されて死亡した男は、実はSASの元隊員で、同僚たちが復讐する話。泣かせる物語で、男を描くのが上手いフォーサイスらしい佳作。ついで「競売者のゲーム」(インターネットのメールを使ったコン・ゲーム小説)、「奇蹟の値段」(奇蹟話に引っかかるアメリカ人の話)、「囮たちの掟」(麻薬運び人についての話)、「時をこえる風」(インディアン娘との恋愛を描いたファンタジー・ロマン)を含む。
背景 標題の「戦士たちの挽歌」は意外性もあるし、男の友情を巧みに取り入れていて、やはり一番面白い。最後の「時をこえる風」は異色作だが、女性の描き方がやや通俗的か。

邦題 『コードトゥゼロ』
原作者 ケン・フォレット
原題 Code to Zero(2000)
訳者 戸田裕之
出版社 小学館
出版年 2002/1/10
面白度 ★★★
主人公 ルーク。ハーヴァードを卒業して軍隊に入り、宇宙開発プロジェクトチームの一員となる。
事件 宇宙開発で遅れをとったアメリカは、二回目のロケット発射を試みていた。だがソ連は密かにその計画を阻止しようとしていたのだ。そして打ち上げチームの一員であるルークは、何者かによって記憶を消されてしまったが、その後CIAから狙われるようになったのだ。
背景 米国初の衛星<エクスプローラーT>は1958年1月29日に予定されていたが、天候を理由に2日遅れて発射された。この小説は、その歴史的事実を核にして作られたフィクション。ちょっとした事実を想像でふくらますというフォレト得意の小説作法で作られたスパイ・サスペンス小説。途中に含まれる青春時代のエピソードが物語にうまく溶け込んでいて、青春小説としても楽しめる。

邦題 『殺し屋とポストマン』
原作者 マシュー・ブラントン
原題 The Hired Gun(2001)
訳者 佐和誠
出版社 早川書房
出版年 2002/4/30
面白度
主人公 プロの殺し屋ジョン・デッカー。40代半ば。
事件 デッカーの所属する組織には厳格な掟があった。指令を下すポストマンと殺し屋は一体で、ポストマンがいなくなれば殺し屋も存在しなくなるというもの。そしてデッカーが殺した男は、オルセンという男のポストマンだった。ところがデッカーのポストマンも何者かに殺されたのだ。デッカーはなにかあると感じて、オルセンとともに陰謀を探り始めるが……。
背景 著者の狙いは、歳をとった殺し屋、ポストマンを失った殺し屋の悲哀を「クールで、ハードに」描くことであったようだ。だが主人公や相棒となる若き殺し屋が魅力的に描かれておらず、共感できなかった。プロットが単純で、ミステリー的興味がほとんどないのも、私には残念なこと。

邦題 『待たれていた男』
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 Dead Men Living(2000)
訳者 戸田裕之
出版社 新潮社
出版年 2002/2/1
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのチャーリー・マフィン。今回はロシア内務省内部保安連絡局長ナターリアとその娘サーシャ(チャーリーが実父)とともにモスクワで生活している。
事件 シベリアのツンドラの下から、後頭部を撃ち抜かれた男女の死体が見つかった。男二名は大戦当時の英米の軍服を着ていて、女性はロシア人らしかった。英米露の合同調査が開始され、英国の担当はマフィンになった。彼は他国の組織と駆け引きしながら真相に迫って行く。
背景 冷戦は終り、ベルリンの壁は崩壊したというのに、相変わらずマフィン物を書いている。たいしたものだ。本書でもっとも魅力的なのは冒頭の謎。だが中盤はチャーリーの私生活や組織内の葛藤や駆け引きなどを延々と描写していて、さすがに長すぎる。ラストが良いだけに残念。

邦題 『アシッド・カジュアルズ』
原作者 ニコラス・ブリンコウ
原題 Acid Casuals(1995)
訳者 玉木亨
出版社 文藝春秋
出版年 2002/2/10
面白度 ★★
主人公 エステラ・サントス。最初は男性であったが、性転換手術を受けて女性になった。30代後半。男を惹き付ける美人。実際は殺し屋である。
事件 エステラが、マンチェスターの暗黒街に戻ってきた。彼女の仕事は、かつては仲間であったが、いまは袂を別っているクラブ経営者を消すこと。だが使用するはずの拳銃が盗まれ、その拳銃が使われた別の殺人事件が起きてしまったのだ。エステラは困惑するが……。
背景 著者の第一作。主人公を含む個性的な登場人物の面白さで読ませる。麻薬を扱った犯罪小説で、いわば『トレイン・スポッティング』のきちんとしたミステリー版のような内容。それでも伝統的なミステリーからはかなり外れているが。マンチェスターの雰囲気はそれなりに出ている。

邦題 『素顔の裏まで』
原作者 ニッキ・フレンチ
原題 Beneath the Skin(2000)
訳者 務台夏子
出版社 角川書店
出版年 2002/1/25
面白度 ★★★★
主人公 3人の女性。若い小学校教諭ズーイ・ハラトニアンと裕福な家庭の主婦ジェニファー・ヒントルシャム、エンタテイナーのナディア・ブレイク。前の二人は殺され、ナディアが謎を解く。
事件 ズーイはある男と愛し合った。だが男はしだいにストーカーとしての本性を現し始めた。そして次は三人の息子の母親ジェニファーが狙いだった。やがて三人目のナディアが対象になり……。
背景 サイコ・スリラーにミッシング・リンクの本格味を混ぜたミステリー。本格味だけを味わおうとすると物足りなさを感じるかもしれないが、サスペンス小説の中に謎解き部分がうまく溶け込んでいる。1+1が2以上の結果になっている。三番目の事件でスリラーから謎解き小説に転換しているが、それまでにさりげなく伏線を張っている。このため意外な犯人の設定が生きている。

邦題 『死を啼く鳥』
原作者 モー・ヘイダー
原題 Birdman(1999)
訳者 小林宏明
出版社 角川春樹事務所
出版年 2002/4/18
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁の警部ジャック・キャフェリー。圏内重要犯罪捜査隊所属。34歳。難病の恋人がいるが、本当に愛しているのか疑問を持っている。
事件 ロンドンのノース・グリニッジの廃材置場で腐乱死体が5体も見つかった。いずれも娼婦の死体と思われたが、驚くべきことは、被害者の胸には解剖の痕があり、心臓には小鳥が縫い付けられていたのだ。この猟奇連続殺人事件はジャックの担当になったが……。
背景 サイコ・スリラーの一種といってよい。女性作家の第一作。犯人が死体愛好家という気持の悪い作品だが、犯人が何故生きた小鳥を死体に埋め込んだかという理由付けには説得力がある。ただサイコ物でも、イギリス作家ならもう少しキレイな話に出来たのではないか?

邦題 『ジャックと離婚』
原作者 コリン・ベイトマン
原題 Divorcing Jack(1995)
訳者 金原瑞人+橋本知香
出版社 東京創元社
出版年 2002/7/5
面白度 ★★★★
主人公 フリーの新聞記者ダン(ダニエル)・スターキー。妻はパトリシアで、28歳。夫婦ともに大の酒好きで、パーティ好き。
事件 ダンは酔った勢いで女子大生とキスしているところを妻に見つかり、家を追い出された。ところが数日後、その娘が銃弾に撃たれて瀕死の状態でいるのをダンが見つけた。彼女は「ジャックと離婚……」との謎の言葉を残して死んだが、実は次期首相候補の側近の娘だったのだ。
背景 ”創元コンテンポラリ”という新シリーズの一冊。著者は、軽口が達者なうえに結構なブラック・ユーモアの使い手でもある。謎は割り切れていない(女子大生殺しは完全には解決されない)など、ミステリーとしてはイイカゲンだが、ダイイング・メッセージは納得! 私の好みの作風だ。

邦題 『フランス革命夜話』
原作者 アン・ペリー
原題 A Dish Taken Cold(2000)
訳者 大倉貴子
出版社 ソニー・マガジンズ
出版年 2002/8/20
面白度 ★★★
主人公 セリー・デュラール。パリ社交界で有名なロマンス派の作家スタール夫人に仕えている。友人に面倒を見てもらっていた息子が突然死する。
事件 時はフランス革命の最中。セリーは息子を亡くした。息子を預けていた友人アマンディーヌが実は男とデートを楽しんでいたためということが、噂ながら耳に聞こえてきたのだ。セリーは二人の行為を許せないと考え、復讐を近い、あることを思い付いたが……。
背景 フランス革命を物語の背景にした中編の歴史ミステリー。元々はカセットブックとして出たものを書籍化したもの。実在の人物はスタール夫人だけだが、セリーとスタール夫人はそこそこ魅力がある。平凡な出だしだが、後半からペリーらしいちょっと変わった展開となる。

邦題 『死美人』
原作者 ローレン・ヘンダースン
原題 Dead White Female(2002)
訳者 池田真紀子
出版社 新潮社
出版年 2002/11/1
面白度 ★★
主人公 彫刻家のサム(サマンサ)・ジョーンズ。パートタイムでスポーツ・ジムのインストラクターをしている。住居はロンドンの倉庫を改装したアトリエ。よくダッチワイフにサマンサという名前がついているので、サムと名乗る。勇気と行動力に溢れる好奇心の強い女性。
事件 久しぶりにパーティで会った恩師リーが亡くなった。事故死という死因に疑問を感じたサムは、持ち前の好奇心から独自の調査を始めた。やがてリーに秘密の恋人がいたことを知る。
背景 「タルト・ノワール」商標の一冊。二冊読んだだけでの感想では、これまでのコージー派ミステリーの探偵が若く、行動的な女性に変わり、内容はより都会的なものになったということか。読者対象はキャリア・ウーマンのようだ。でもイギリスの雰囲気はほとんど感じられない。

邦題 『パンプルムース家の犬』
原作者 マイケル・ボンド
原題 Monsieur Pamplemousse on the Spot(1986)
訳者 木村博江
出版社 東京創元社
出版年 2002/4/12
面白度 ★★
主人公  お馴染みのグルメ・ガイドブックの覆面調査員アリスティード・パンプルムース。元警察犬ポムフリットも一緒に活躍する。今回は『バスカヴィル家の犬』を多少参考にしている。
事件 休暇とはいえ、パンプルムースは高級レストラン≪レ・サンク・パルフェ≫に来ていた。ここのデザートは超一流なのだが、そのデザート・シェフが失踪したのだ。彼を目当てに訪れるアラブ石油王の機嫌を損ねると国家的な問題になる。パンプルムースと愛犬は調査を開始する。
背景 シリーズ物の三作目。ホームズを引用する割にはパロディにはなっていない中途半端が弱点。またお色気場面もこれまでの作品より控え目で特徴は生きていない。とはいえ逆に料理の名前はかなり出てくるので、私は興味がないものの、料理好きはもう少し高い評価になるだろう。

邦題 『パンプルムース氏のダイエット』
原作者 マイケル・ボンド
原題 Monsieur Pamplemousse Takes the Cure(1987)
訳者 木村博江
出版社 東京創元社
出版年 2002/11/29
面白度 ★★
主人公 お馴染みのグルメ・ガイドブックの覆面調査員アリスティード・パンプルムース。本書では59歳。愛用のペンはクロス製。元警察犬ポムフリットが一緒に活躍する。
事件 シリーズの四作目。今回の任務は、ピレネー東部にある≪シャトーモルグ≫というヘルスクラブに潜入し、そこにある秘密を探るとともに、自らもダイエットせよというもの。しかしパンプルムースと瓜二つのTVパーソナリティーのアナナが登場したりして、最初から波乱含みだった。
背景 まあ安心して読めるが、目新しさは少ない。ヘルスクラブの陰謀はありきたりの物だし、それを暴く方法も平凡。アナナも事件との係わりは少ない。ただ登場するマニキュア担当の女性は出色の脇役。本シリーズの特徴である色っぽい部分、食事の場面で大活躍する。

邦題 『スパイダー』
原作者 パトリック・マグラア
原題 Spider(1990)
訳者 富永和子
出版社 早川書房
出版年 2002/9/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『踊り子の死』
原作者 ジル・マゴーン
原題 Death of a Dancer(1989)
訳者 高橋なお子
出版社 東京創元社
出版年 2002/9/27
面白度 ★★★
主人公 首席警部のロイドと部長刑事のジュディ・ヒル。二人は恋仲となり、ラストで同棲する
事件 全寮制パブリック・スクールの副校長の妻が、舞踏会の夜に殺された。それも男と見れば見境のない色情狂と陰で言われていた彼女がレイプされたというのだ。さまざまな情況から、犯人は学校内部の人間と考えられた。何故レイプした後で殺したのか?
背景 ロイドとジュディのシリーズ物の三作目。フーダニットの本格物。ある意味、犯人はあの人間でしかありえないのだが、それを巧みなミスディレクションで、疑惑を他所に向けてしまう。そのテクニックは、現代の本格派の旗手らしく上手いものである。容疑者となる学校教師たちも巧みに描写しているが、職場恋愛といってよい主人公らの私生活の描き方は少しクドイ気がする。

邦題 『ソルトマーシュの殺人』
原作者 グラディス・ミッチェル
原題 The Saltmarsh Murders(1932)
訳者 宮脇孝雄
出版社 国書刊行会
出版年 2002/7/25
面白度 ★★★★
主人公 精神分析医・心理学者のミセス・バラッドリー。二度結婚し、いずれも夫に先立たれている。目の光具合などから爬虫類を思わせる老嬢。息子は弁護士。語り手はソルトマーシュ村の副牧師を務めているノエル・ウェルズ。
事件 平和なソルトマーシュ村に奇妙な事件が起き始めた。牧師館のメイドが妊娠したり、牧師が村祭の夜に襲われたりしたのだ。そしてついに殺人事件の知らせが――。
背景 クリスティの『牧師館の殺人』を意識して書かれたと思われるミステリー。とはいえ印象はかなり異なる。読者の関心をハズしながら物語を展開していく。それがわかりにくいと言えばわかりにくいが、丁寧に読むと(訳もうまいので)、混乱することはない。ユーモアも楽しめる。

邦題 『誇り高き男たち』
原作者 ギャビン・ライアル
原題 All Honourable Men(1997)
訳者 遠藤宏昭
出版社 早川書房
出版年 2002/6/15
面白度 ★★
主人公 英国情報局のエージェントであるマシュー・ランクリン大尉。
事件 舞台は1914年のイラク。オスマントルコと手を結んだドイツは、バクダッドへの鉄道建設をすすめていた。だが英国の属国といってよいクウェートにはそれが脅威となる。ところが鉄道建設にあたっていた鉄道技師が山賊に誘拐された。英国外務省は見掛けは事件解決のため、本音は工事を妨害するため、ランクリンに秘密命令を発したのだ。
背景 本シリーズは四部作になるそうだが、その三作目。当時のスパイは日陰者と考えられていたが、実は”誇り高き男たち”だったというのが著者の考え。このような考えは確かにイギリス人には受けるであろうが、イギリス的スノッブを感じる。個人的にはどうも好きになれない設定だ。

邦題 『特別執行機関カーダ』
原作者 クリス・ライアン
原題 The Hit List(2000)
訳者 伏見威蕃
出版社 早川書房
出版年 2002/5/31
面白度 ★★★
主人公 元SAS隊員のニール・スレイター。SASの任務でトラウマを負い、私立学校の教師になるも、そこでも問題が発生し、ボディー・ガードを経て、秘密機関カーダにリクルートされる。
事件 カーダとはMI6直属の特殊秘密機関で、殺人も可能である。ニールの最初の任務は、英国を揺るがす情報を持つ武器商人を暗殺し、CDを奪い取ることだった。そのCDには、カンボジアでの虐殺行為にSASが関与している証拠写真が入っていると言われたが……。
背景 これまでSASのシャープ・シリーズを書いていた著者の初めての非シリーズ物。とはいえ、主人公の性格設定などは似ているし、SASに関する細部描写で読者の興味を引くスタイルも同じなので、変わったという印象はない。国際陰謀小説的な雰囲気が多少加わっているが。

邦題 『死神の戯れ』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 The Reaper(2000)
訳者 山本やよい
出版社 早川書房
出版年 2002/1/31
面白度 ★★★★
主人公 聖バーソロミュー教会の牧師オーティス・ジョイ。妻を亡くし、現在は独身。男性信徒には熱狂的に支持され、女性信徒にも絶大な人気があるが、実は殺人も辞さないワル。
事件 オーティスが属している教会の会計士が急死し、使途不明金のあることがわかってきた。ところがオーティスの周囲でさらに失踪者が出て、彼の仕業であることが明らかになり……。
背景 倒叙ミステリーだが、結末を読むと、むしろ悪漢小説というべきだろう。前半オーティスは冷酷な殺人鬼という印象を与えるものの、見境なく人を殺すというわけではない。中盤過ぎからは、いかに逃げ延びるかというまともな展開となる。そして終盤にはついついオーティスに感情移入してしまうほど好感度は上がっていく。ユーモアを巧みに混ぜているのが上手いところ。

邦題 『降霊会の怪事件』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 A Case of Spirits(1975)
訳者 谷田貝常夫
出版社 早川書房
出版年 2002/6/15
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのスコットランド・ヤードのクリッブ部長刑事とサッカレイ巡査。
事件 19世紀末のロンドン。クリッブはひょんなことから人気霊媒師の降霊会に参加することになった。霊媒師は詐欺ではないことを示すために電気椅子に坐ることになったが、降霊会が始まると、青白い手が闇の中を飛び回った。だが霊媒師は不可解な感電で死んでしまったのだ。
背景 シリーズ6冊目。残りの未訳は一冊のみとなった。このシリーズではさまざまなスタイルのミステリーが書かれているが、本書は謎解きミステリー。降霊会での感電死の謎に挑戦する。電気椅子に坐るという設定は多少理解しにくいが(手を使おうとすると電気が切れてわかるため?)、トリックはまあまあ。ただ「20ボルト以下の電流が流れる」というような訳はいただけない。

邦題 『黒衣の天使』
原作者 シャーロット・ラム
原題 Angel of Death(2000)
訳者 三木基子
出版社 二見書房
出版年 2002/4/25
面白度
主人公 ミランダ・グレイ。最愛の夫をヨット事故で亡くす。その後IT企業の広報部員になるが、その会社の社長の息子の秘密を知ったことから、命を狙われる。
事件 ミランダの前に、黒衣に身を包んだ謎のギリシャ人が現れた。夫の死以来、なぜか記憶に焼き付いていた男だった。だがその男との再会後、ミランダは殺人事件を目撃することになった。その男は不吉を呼ぶのか? 物語はロンドンから風光明媚なギリシャの島へと展開する。
背景 著者の遺作と言われる作品。作品数が多いから、死後に新しい作品が見つかる可能性もあるが、本書は遺作という価値しかない作品。ミステリーとしての内容はヒドイの一言。結末が安易すぎるのは、著者の突然の死で、推敲が不足していたから?

邦題 『滝』
原作者 イアン・ランキン
原題 The Falls(2001)
訳者 延原泰子
出版社 早川書房
出版年 2002/3/31
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのセント・レナーズ署の警部ジョン・リーバス。主任警視ファーマー・ワトソンは退職し、後任はジル・テンプラー。本書では同署の刑事シボーン・クラークが活躍する。
事件 銀行家の娘フィリップが失踪した。クイズマスターと名乗る人物が関係しているらしい。警察はEメールで彼から届くクイズを解いて、正体に近づいた。一方フィリップの実家近くでは人形が封印された棺が見つかった。フィリップの生贄を意味するのか? クイズ狂との関係は?
背景 ポケミス最大頁数を誇る作品。でも破綻なく語りきっているのはサスガ。初期作品のようにリーバスの行動が中心でなく、複数警官の活躍を描いている。つまり警官小説から警察小説に移行している。フロスト警部物に比べると、各事件の繋がりに意外性のないのがちょっと残念。

邦題 『感染者』上下
原作者 パトリック・リンチ
原題 Omega(1997)
訳者 高見浩
出版社 飛鳥新社
出版年 2002/5/9
面白度 ★★★
主人公 カリフォルニア州ロスアンジェルスのウィロウブルック医療センター外傷外科主任マーカス・フォード。13歳の娘と二人で暮している独身中年医師。
事件 ある日、首に弾創を負った黒人のやくざが医療センターに運び込まれた。マーカスが摘出手術を担当し、手術は成功した。だが患者が喉の感染症に罹っていたことから体調が急変し、亡くなった。さらに同様な傷の白人警官も死亡し、マーカスの医療処置に疑問が生じたのだ。
背景 『キャリアーズ』に続く翻訳第二弾。前作同様、病原体を巡る医学ミステリー。ブロックバスター狙いの作品らしく、それなりの筆力、迫力は認められる。特に2/3くらいまでは物語が快調に展開するが、拡げた風呂敷をたたみきれずに安易な結末になっているのが残念。

邦題 『ナヴァロンの雷鳴』
原作者 サム・ルウェリン
原題 Thunderbolt from Navarone(1998)
訳者 平井イサク
出版社 早川書房
出版年 2002/7/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『天球の調べ』
原作者 エリザベス・レッドファーン
原題 The Music of the Spheres(2001)
訳者 山本やよい
出版社 新潮社
出版年 2002/10/30
面白度 ★★★★
主人公 さまざまな人物が活躍する歴史小説なので、明確な主人公はいないが、殺人事件の謎を解くのは内務省の役人ジョナサン・アプシー。愛娘を殺されたため、その捜査に熱中する。
事件 フランス革命から6年を経た1795年のロンドン。そこには王政復古を目指す貴族やそれを阻止する共和国のスパイが暗躍していたが、そこに赤毛の娼婦ばかりを狙う連続殺人が起きた。ジョナサンはその手口から、愛娘殺しの犯人と同じと確信し、異父兄の手を借りることにした。
背景 亡命中の王党派貴族がフランス本土を奪回しようとした戦いとティティウス=ボ・デの法則(火星と木星の間には失われた惑星があるはずという推測)という歴史的事実を利用した小説。ミステリー的にはイマイチ感もあるが、新人の第一作でこれだけの筆力には、やはり驚かされる。

邦題 『悪意の傷跡』
原作者 ルース・レンデル
原題 Harm Done(1999)
訳者 吉野美恵子
出版社 早川書房
出版年 2002/12/15
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのキングズマーカム警察主任警部レジナルド・ウェクスフォード。今回は彼の長女、ソーシャルワーカーのシルヴィア・フェアファックスが事件に絡むことになる。
事件 二人の少女が相次いで誘拐されたが、少女たちは無事に戻ってきた。だが、その間の出来事についてはあまり語ろうとしなかった。そして航空会社社長の幼児が誘拐されたのだ。同じ犯人の仕業なのか。時を同じくして小児性愛者の老人が刑を終えて町に帰ってきた。関係は?
背景 複数の事件を扱い、それらの事件に家庭内暴力を絡めて物語は展開していく。登場人物表には60人以上の名前があるし、頁数も五百頁弱もある。購入したものの積読であったが、読み始めたら、そこはレンデル。飽きることはないし、ミステリー的にも洒落た結末になっている。

邦題 『トンネル・ヴィジョン』
原作者 キース・ロウ
原題 Tunnel Vision(2001)
訳者 雨海弘美
出版社 ソニー・マガジン
出版年 2002/7/25
面白度 ★★★
主人公 書店員のアンディ。地下鉄オタクの29歳。レイチェル(27歳)というフィアンセがいる。
事件 レイチェルとのパリでの結婚を2日後に控えたアンディは、酔った勢いで、始発から終電までの間にロンドン地下鉄267駅すべてを回りきることの賭けをした。負ければユーロスターと航空券の切符やパスポートなどは取り上げられ、レイチェルとの結婚は不可能になる!
背景 面白い。一日でロンドンの地下鉄のすべての駅を回ることを賭けの対象にするアイディアがいい。デッドラインが決められ、そこにサスペンスが生じる。その上ロンドンの地下鉄なので、事故あり、遅れありとさまざまな障害が発生する。いかに障害を突破できるかという毛色の変わった冒険小説ともいえる。地下鉄に関する薀蓄も興味深いし、軽い青春小説としても楽しめる。

邦題 『最新鋭原潜シーウルフ奪還』上下
原作者 パトリック・ロビンソン
原題 U.S.S.Seawolf(2000)
訳者 上野元美
出版社 二見書房
出版年 2002/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『決然たる出撃』
原作者 アレグザンダー・ケント
原題 Second to None(1999)
訳者 高橋泰邦
出版社 早川書房
出版年 2002/3/31
面白度  
主人公 

事件 


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邦題 『風雲の出帆』
原作者 ジュリアン・ストックウィン
原題 Kydd(2001)
訳者 大森洋子
出版社 早川書房
出版年 2002/1/31
面白度 ★★
主人公 トマス・ペイン・キッド。ギルフォードの町のカツラ職人であったが、強制徴募隊に捕まり、英国海軍戦列艦の乗員となる。乗り込んだ船は三層甲板戦列艦デューク・ウィリアム号。
事件 1793年、英国はフランス革命政府に宣戦を布告した。二十歳のキッドが乗る艦も、ブルターニュでの王党派の反乱を支援するため、一路フランスに向かったが……。
背景 ホーンブロワー・シリーズと同じように18−19世紀を背景にした歴史海洋冒険小説シリーズの第一作。本邦への紹介の違いは、本シリーズはほぼリアルタイムで紹介されること。したがって本当に面白いシリーズになるかは未知数であるが、本書を読んだ限りではオーソドックスな書き方で、従来の路線を継承している。独自のものをいかに出せるかが今後の勝負になろう。

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