邦題 『十四の嘘と真実』
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 To Cut a Long Story Short(2000)
訳者 永井淳
出版社 新潮社
出版年 2001/4/1
面白度 ★★★
主人公 著者の第4短編集。標題通り14本の短編が収録されている。
事件 題名を挙げると、「専門家証人」、「終盤戦」(相続人選びの手段として、あるトリックを用いるが……)、「手紙」(ショート・ショート)、「犯罪は引き合う」、「似て非なるもの」(兄弟の人生がまったく異なるという話)、「心(臓)変り」(黒人の心臓を移植すると……)、「偶然が多すぎる」、「ひと目惚れ」(ショート・ショート)、「挟み撃ち」(イングランドとアイルランド国境に立つ家だったため……)、「忘れがたい週末」、「欲の代償」(混戦電話の会話が詐欺とは知らずに……)、「陰の功労者」、「横たわる女」、「隣りの芝生は…」(ホームレスが一番幸せという皮肉)である。
背景 人生の皮肉を数多く描いている。実話から取材しているがフィクションばかりという印象。

邦題 『暗黒街のハリー』
原作者 ジェイク・アーノット
原題 The Long Firm(1999)
訳者 佐藤耕士
出版社 早川書房
出版年 2001/2/28
面白度 ★★★★
主人公 ハリー・スタークス。謎のギャング。ハリーに関係する5人の人間から見たハリーを描いた短・中編の連作集。ハリーを多角的に捕えることに成功している。
事件 ハリーは1960年代から頭角をあらわした。拷問好きで、詐欺、麻薬密売、ポルノ販売から殺人にまで手を染めた。ホモであるが、有名人に弱く、愛した青年や母親には優しいのだ。
背景 最大の謎はハリーそのものだが、ミステリーというより犯罪文学といったほうが適している内容。少なくともノワールとは考えにくい。暗い情念のようなものはなく、そこはかとないユーモアがあり、いかにも英国文学といった雰囲気が感じられる。特筆すべきは、第2部は日記文学のパスティッシュ、第5部は論文調と、各部ごとに文体を変えていることで、その構成も素晴らしい。

邦題 『切り裂き魔ゴーレム』
原作者 ピーター・アクロイド
原題 Dan Leno & the Limehouse Golem(1994)
訳者 池田栄一
出版社 白水社
出版年 2001/9/20
面白度 ★★★
主人公 特にいないが、一人だけあげれば女優だったエリザベス。夫殺しの罪に問われる。
事件 ヴィクトリア朝後期のロンドンのイースト・エンドで、猟奇殺人事件が起き、犯人はライムハウスのゴーレム(人造人間)と呼ばれた。この事件を軸に、エリザベスの夫殺しの公判、その夫の手記と思われるもの、当代一の喜劇役者ダン・リーノの活動、ギッシングの解析エンジン執筆事情などが巧みにミックスされて描かれている。
背景 ポストモダン小説の旗手と言われる著者の小説。いわゆるミステリーとして書かれたわけではないが、サイコ・ミステリーとしても通用するであろう。伏線もいろいろ張られている。手記を生かしたプロットには意外性もある。博覧強記の著者らしく、チャップリンの誕生まで描いている。

邦題 『霧の中の虎』
原作者 マージョリー・アリンガム
原題 The Tiger in the Amoke(1952)
訳者 山本俊子
出版社 早川書房
出版年 2001/11/15
面白度 ★★★
主人公 探偵はアルバート・キャンピオンだが、出番は少ない。捜査の主役は主任警部のチャールズ・ルーク。ただし本書の主人公はジャック・ハボンで、刑務所から脱走した男。
事件 婚約を控えたメグのもとに数枚の写真が送られてきたが、その写真には戦死したはずの夫らしき人物が写っていた。ところがその人物は偽物で、メグを脅すための手段だったのだ。やがて脅迫者はハボンで、三人も殺した脱走者らしい。一方メグの婚約者が誘拐され……。
背景 アリンガムがスリラー小説(悪漢小説?)を書いていたとは知らなかったが、これが彼女の代表作の一冊というから驚きだ。前半はどうしても違和感を持ってしまう。読むうちにコージー・ミステリーからどんどん離れてしまうのだ。オリジナリティはあるが、最後まで読書をガマン出来るか?

邦題 『オウン・ゴール』
原作者 フィル・アンドリュー
原題 Own Goals(1999)
訳者 玉木亨
出版社 角川書店
出版年 2001/7/25
面白度 ★★★
主人公 スティーヴン・ストロング。30代。離婚手続中だが、28時間前から私立探偵業を開始。
事件 さっそく地元のプロサッカー・チームからスティーヴンに仕事の依頼があった。スター選手を痴漢容疑で訴えた人物を調査してほしいというもの。簡単な仕事に思えたが、そうは問屋が卸さなかった。正体不明の人物に殴られ、騙されたりと、散々のデビューとなったのだ。
背景 スポーツ・ジャーナリストである著者の初のミステリー。ジャンルとしては軽ハードボイルドだが、背景にサッカーを使い、軽口がさほど下品でないのが、いかにもイギリス・ミステリーらしい雰囲気を持っている。プロットはそれほどのことはない。個人的にサッカーには興味があるので、さすがにプレミア・リーグの内幕情報は面白い。最後の競技場内での追っかけは迫力十分。

邦題 『わたしたちが孤児だったころ』
原作者 カズオ・イシグロ
原題 When We Were Orphans(2000)
訳者 入江真佐子
出版社 早川書房
出版年 2001/4/15
面白度 ★★★
主人公 私立探偵のクリストファー・バンクス。1900年代の初めに上海の租界で暮らす。貿易会社に勤めていた父と美しい母が相次いで失踪し、10歳で孤児となる。
事件 両親の失踪は、当時問題になっていた阿片貿易絡みの事件に巻き込まれたためと考えられた。イギリスに帰国したクリストファーは名門大学を出て、念願の私立探偵となり、両親を探しに上海に再び戻ってきた。すでに日中戦争が勃発していたが……。
背景 両親失踪の謎を解くという話で、プロットは十分ミステリーといえる。小説としては、日本人アキラや大人になってからのサラとの係わりが興味深い。上海に戻ってからの幻想的な描写は私の趣味ではないが、ミステリーを書いているわけではないので、しかたないか。

邦題 『ソロモン王の絨毯』
原作者 バーバラ・ヴァイン
原題 King Solomon's Carpet(1991)
訳者 羽田詩津子
出版社 角川書店
出版年 2001/10/25
面白度 ★★★
主人公 特に一人には絞れない。地下鉄マニアのジャーヴィスやカメラマンのアクセルか。
事件 ジャーヴィスは祖父が残してくれた学校をアパートに変えた。そこには出戻りの親戚の女性とその子供、地下鉄構内でフルートを吹く男、ヴァイオリニストを目指す女性、アクセルなどさまざまな人間が生活している。なにが起こるかわからないまま、物語は、混んだ地下鉄でペルーの花嫁衣装を握ったまま圧死した女性の事件と結びついていく。
背景 ヴァインの作品は、過去と現在の話が交互に語られるものが多かったが、これはプロローグのみ過去の事件で、あとはほぼ時間通りに進行する。何が起こるかわからない展開がミソ。毎度のことながら奇妙な住人を巧みに描き分けている。でも動機の説得力はイマイチかな。

邦題 『夜のフロスト』
原作者 R・D・ウィングフィールド
原題 Night Frost(1992)
訳者 芹澤恵
出版社 東京創元社
出版年 2001/6/15
面白度 ★★★★★
主人公 お馴染みのデントン市警察署の警部ジャック・フロスト。シリーズの第3弾。
事件 今回のフロストの相棒は新任部長刑事のギルモア。上昇志向の強い男だが、署に出勤してみて驚いた。流感のため署員が大幅にダウンしているうえに、中傷の手紙がばら撒かれる事件、老女ばかりを狙う事件が起きていて、大忙し。フロストは相変わらずの仕事熱心で……。
背景 文庫本で750頁を越える大作。これほどの長い作品では、普通はプロットを複雑にするのではなく、各シーンの描写量を増やすのが普通だが、本作では並行する事件(プロット)をより巧妙に組合せて、全体の話を長くしている。このため水増し感はなくて、クイクイ読める。これまでの作品の中ではサブ・プロットが一番上手く絡み合っている。5年も掛けて書いた作者もエライ!

邦題 『警察官よ汝を守れ』
原作者 ヘンリー・ウエイド
原題 Constable Guard Thyself!(1934)
訳者 鈴木絵美
出版社 国書刊行会
出版年 2001/5/10
面白度 ★★★
主人公 スコットランド・ヤード所属のプール警部。優秀だが偉ぶったところがない。33歳。
事件 20年前、森番殺しの罪で服役した男が、ブロドシャー州警察本部長スコール大尉を脅迫していた。スコールの証言によって重罪になったからだ。そして警察本部内で銃声が響き、スコール大尉が射殺されてしまった。犯人は消えていた。捜査は行き詰まり、プールの登場となる。
背景 著者には、本格ミステリーとサプライズ・エンディングを狙った犯罪小説(倒叙物の設定)のニ系列の作品があるが、本書は前者に属するもので、欧米では評価が高い。確かに仮説が次々と変わるにつれて事件の様相も変化するプロットは意外性もあり、本格物の欠点である中盤がダレ気味になることはない。だが重要なラストは尻すぼみになっているし、動機にも古さを感じる。

邦題 『銀の仮面』
原作者 ヒュー・ウォルポール
原題 The Silver Masks and Other Stories(1928、1933、1938)
訳者 倉阪鬼一郎
出版社 国書刊行会
出版年 2001/10/20
面白度 ★★★
主人公 独自の編集による傑作集。3冊の短編集から11本が収録されている。最初の6本がノン・スーパーナチュラルな作品で、残りの6本がスーパーナチュラルな作品。
事件 題名を挙げると、江戸川乱歩のいう”奇妙な味”の代表作といってよい「銀の仮面」、「敵」、「死の恐怖」、「中国の馬」(オールド・ミスが自分の家に執着する狂気を描いている)、「ルビー色のグラス」、「トーランド家の長老」、「みずうみ」(劣等感から友人をみずうみに沈めるが、夜水攻めにあって死んでしまう)、「海辺の不気味な出来事」、「虎」、「雪」、「ちいさな幽霊」。
背景 やはり「銀の仮面」が突出した出来で、あとは「中国の馬」と「みずうみ」が印象に残る程度。その他は、そう悪い出来ではないものの平凡。

邦題 『夜の闇を待ちながら』
原作者 レニー・エアース
原題 River of Darkness(1999)
訳者 田中靖
出版社 講談社
出版年 2001/10/15
面白度 ★★★★
主人公 ロンドン警視庁警部補のジョン・マッデン。妻子をインフルエンザで一挙に失い、なおかつ戦争後遺症で悩まされている。
事件 1921年、イングランドの田園サウス・ダウンの屋敷で、銃剣で刺し殺された4つの死体が発見された。マッデンが担当となり、近くに塹壕らしきものがあったことから、兵役のある精神障害者ではないかと考えるが、似たような事件は戦争中のベルギーでも起きていたのだ。
背景 『赤ちゃんはプロフェッショナル!』以来の実に久しぶりの紹介。第一次大戦が尾を引く猟奇事件が起こる。現在のような生々しい描写はないが、初歩的なプロファイリングや自立した女性を登場させて、ノスタルジーの中に新鮮さを巧みに入れている。ユーモアも魅力。

邦題 『地獄の静かな夜』
原作者 A・J・クィネル
原題 Quiet Night in Hell(2001)
訳者 大熊栄
出版社 集英社
出版年 2001/4/10
面白度 ★★★★
主人公 クィネルの初短編集。7本が収録されている。
事件 題名を挙げると、「手錠」(手錠を付けて移送中にハイジャックにあい……、ラストが微笑ましい)、「愛馬グラディエータ」(クリーシィが登場)、「バッファロー」、「ヴィーナス・カプセル」(SFお色気話)、「六十四時間」(オチが秀逸)、「ニューヨーク、ニューイヤー」(反ブッシュ的な話。こういう話が書けるとはスゴイ)、「地獄の静かな夜」(戦争犯罪人への復讐話)。
背景 クィネルが、これほどの短編が書けるとは驚きだ。この程度の切れ味、スマートさがあれば十分及第点が与えられるだろう。「愛馬グラディエータ」や「バッファロー」は冒険小説家としての特性が生きている。それほど保守的な考えの持ち主ではないというのも新しい発見だ。

邦題 『看護婦探偵ケイト』
原作者 クリスティン・グリーン
原題 Deadly Errand(1991)
訳者 浅羽莢子
出版社 扶桑社
出版年 2001/8/30
面白度 ★★
主人公 私立探偵兼看護婦のケイト・キンセラ。国家資格を持っている。恋人の死をきっかけに、葬儀屋から部屋を借りて探偵事務所を開く。29歳。
事件 そこへ突然、事件が持ち込まれた。ある病院の敷地内で、信仰心が篤く、ボランティアに熱心な看護婦が殺されたのだ。ケイトは看護婦資格を持っていたため、事件の起きた病院に就職し、病院内の複雑な人間関係を調べ始めた。
背景 分類すればコージー派ミステリーだが、人物の造形が楽しめる。ケイトはスーパー・ウーマンではないものの、粘り強い捜査をする性格は好ましい。ケイトの大家の個性もユニーク。プロットは平板でサスペンスはないが、犯人が明らかになる最後は少し盛り上がる。

邦題 『床に舞う渦』
原作者 バーナード・ケイプス
原題 ()
訳者 梅田正彦
出版社 鳥影社
出版年 2001/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『どんづまり』
原作者 ダグラス・ケネディ
原題 The Dead Heart(1994)
訳者 玉木亨
出版社 講談社
出版年 2001/12/15
面白度 ★★★
主人公 元新聞記者のニック・ホーソン。38歳の独身アメリカ人。大学を卒業後、自ら望んで地方の新聞社を転々とし、ついには二流の地方新聞社を辞めてしまった。
事件 そこでニックが考えついたことは40歳を前に、オーストラリアの砂漠地帯を横断しようという冒険であった。ダーウィンからパースを目指して車で出発する。途中でヒッチハイクをしていた若い女性と出会い、ついスケベ心で、その女性に手を出してしまうが……。
背景 紹介は遅れたが、『ビッグ・ピクチャー』の著者の第一作。独身男が何者かに拉致されるという展開の第一部は典型的なスリラーだが、第二部からは少し変わった脱出劇となる。地図から抹殺された町という設定は面白いが、主人公にイマイチ感情移入できないのが弱点か。

邦題 『クライム・ゼロ』
原作者 マイクル・コーディ
原題 Crime Zero(1999)
訳者 内田昌之
出版社 徳間書店
出版年 2001/3/31
面白度 ★★★
主人公 FBI特別捜査官ルーク・デッカーと行動遺伝学者キャスリン・カー。
事件 物語は2008年。男性のみが有する犯罪誘発遺伝子を破壊する特殊なウイルスを開発するという<良心>プロジェクトが始まった。暴力犯罪を劇的に減らそうとするためだが、デッカーはそのプロジェクトに疑問点があることに気づいた。やがてプロジェクトの被験者が次々と変死していった。事件の裏では<クライム・ゼロ>という恐るべき計画が進められていたのだ。
背景 表紙のトビラには「ユートピアの悪夢を描いた傑作冒険ミステリー」とあるが、むしろDNAを巡るパニック小説といった内容である。R・クックが得意とする医学ミステリーにも近い。近未来が舞台だが、十分ミステリーといえる。悪役がすべて女性というのは珍しい。

邦題 『女占い師はなぜ死んでゆく』
原作者 サラ・コードウェル
原題 The Sibyl in Her Grave(2000)
訳者 羽地和世
出版社 早川書房
出版年 2001/5/15
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの大学教授ヒラリー・テイマー。性別不明。
事件 静かな村に予言者イザベラが突然引っ越してきた。ある老婦人が彼女の予言をもとに株取引をして大儲けをした。だがその夫人の姪ジュリアはそれがインサイダー取引であることに気づいたのだ。ジュリアはテイマー教授に相談するが、イザベラは不可解な死をとげていた。
背景 2000年1月に急逝した著者の4作目で遺作となったミステリー。例によって手紙を多用して物語を語るという構成は、これまでの作品と同じ。遺作とはいっても、完全に出来上がっていた作品のようだ。占いとインサイダー取引という新旧テーマの組合せが面白い。女占い師の死までは快調。このような構成の構造的欠陥か、やはり中盤がダレルのが残念。結末はまあまあ。

邦題 『すべての石の下に』
原作者 ポーラ・ゴズリング
原題 Underneath Every Stone(2000)
訳者 山本俊子
出版社 早川書房
出版年 2001/1/31
面白度 ★★★
主人公 マット・ゲイブリエル(ブラックウォーター・ベイの保安官)だが、途中で容疑者になってしまう。このため保安官助手のジョージ・パトナムとスージー・ブロックが活躍する。
事件 ブラックウオーター・ベイの町では保安官の選挙が始まっていたが、現職のマットは強力な対立候補が現れて苦戦していた。そして選挙戦は過熱する一方で、候補者の討論会では乱闘まで起きてしまったのだ。ところが翌朝、対立候補が射殺され、現場にはマットの拳銃が!
背景 シリーズ物の5冊目。すっかりコージー派の作品になっている。作者は60歳を越えたし、英国生活が長くなった結果か。語り口も会話を多用して読みやすくなった。プロットは平凡だが、そこそこの工夫は施されていて、読んでも損することはない。円熟した一作。

邦題 『永久に去りぬ』
原作者 ロバート・ゴダード
原題 Borrowed Time(1995)
訳者 伏見威蕃
出版社 東京創元社
出版年 2001/2/23
面白度 ★★★
主人公 ロビン・ティマリオット。欧州共同体の官僚であったが、辞めて会社の業務部長となる。
事件 3年前、ロビンは将来を見つめ直すため、ウェールズ国境へ山歩きに出かけた。そして初日の夕方、40代の一人の美しい女性に出会った。10分間程度の会話で終ったが、ロビンには記憶に残る女性であった。だが旅を終えたロビンは、その女性があっさり殺されたのを知った。
背景 巻末の解説者によると、小説には「プロットの小説」と「キャラクターの小説」があるそうだ。そしてゴダードは「プロットの小説」作りの名手。でも彼の小説のキャラクターには魅力が不足している者が多い。本作も然りで、ロビンにはあまり惹かれない。プロットの面白さを重視すれば、まあ主人公は少しドジでなければならないが、その二つは二律背反ではないと思うのだが……。

邦題 『アーマデイル』上中下
原作者 ウィルキー・コリンズ
原題 Armadale(1866)
訳者 横山茂雄・佐々木徹・甲斐清高
出版社 臨川書店
出版年 2001/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『囮』上下
原作者 ジェラルド・シーモア
原題 Killing Ground(1997)
訳者 長野きよみ
出版社 講談社
出版年 2001/4/15
面白度 ★★★
主人公 英国の女性教師シャーリー・パーソンズ。そして計画の立案者がアクセル・モーエン。
事件 米国麻薬取締局員のモーエンは、マフィアの本拠地シチリアに送り込む囮工作員としてシャーリーをリクルートした。狙いはマフィアのドンの正体を探ることである。シャーリーはベビー・シッターになって家族とともに生活するようになる。そしてファミリーの晩餐会にドンが出席することがわかったのだ。危険を感じたら、腕時計型の通信機で連絡する予定であったが……。
背景 シーモアの作品はあまり読んでいないが、プロットは単純なものが多い。本書もしかりで、この程度のプロットで上下巻をもたせてしまうのだから、著者のシーン描写力はたいしたものである。シャーリーの造形もうまい。これで魅惑的なプロットがあれば鬼に金棒だったのに。

邦題 『凶運を語る女 ムルマンクス2017年』
原作者 ドナルド・ジェイムズ
原題 The Foutune Teller(1999)
訳者 棚橋志行
出版社 扶桑社
出版年 2001/7/30
面白度 ★★★★
主人公 ムルマンスク第18管区警察署上級捜査官のコンスタンチン・ヴァジム。
事件 2015年の内乱が終ったあとのロシア。ヴァジムは医師の妻ナターリアとともに故郷のムルマンスクに戻った。だがある日、占いの老婆から、妻に不幸がもたらされるといわれた。そして妻は病院に向かう途中で失踪し、死体となって発見されたのだ!
背景 『モスクワ2015年』の続編だが、ほとんど独立した作品と考えても問題ない。ユニークなのは、前作もそうだったが、近未来のロシアがリアリティをもって描かれていること。前作よりよい点は、プロット作りが巧妙になり、語り口も滑らかになっている。サイコ・スリラーもどきで人を驚かせようとはしていない。つまりは小説作りに慣れたということか。

邦題 『アースクエイク・バード』
原作者 スザンナ・ジョーンズ
原題 The Earthquake Bird(2001)
訳者 阿尾正子
出版社 早川書房
出版年 2001/12/15
面白度 ★★★★
主人公 語り手の<あたし>ルーシー・フライ。30代後半。故郷のイギリスを捨てて日本に来て10年になる。現在は渋谷にある会社で翻訳の仕事をしている。
事件 イギリス人女性リリーと思われる遺体の一部が東京湾で見つかり、ルーシーは容疑者になった。リリーと最後に会ったのがルーシーだったからである。そのうえルーシーには禎司という日本人の恋人がいたが、リリーと禎司の間にもなにか関係があったと予想されたからである。
背景 ルーシーとリリーと禎司の三角関係の単純な物語だが、「語り」で読ませる。とはいえ「語り」のトリックで読ませるわけではなく、<あたし>が語る心の動きなどである。その意味では普通小説に近い。本作がCWAの最優秀新人賞をとった点に英国ミステリーの幅広さを実感できる。

邦題 『ボディ・ポリティック』
原作者 ポール・ジョンストン
原題 Body Politic(1997)
訳者 森下賢一
出版社 徳間書店
出版年 2001/7/15
面白度 ★★
主人公 元公安局の上級刑事クインティリアン・ダルリンプル。敏腕刑事であったが、体制に反対したため一般市民に降格され、現在は公園部に勤務。
事件 舞台は21世紀初頭。イギリスは内乱で分裂し、エディンバラには理想主義的独立都市国家が誕生した。そこでは議会が一般市民を完全に管理する「ボディ・ポリティック」(肉体政策)が実施されていた。だが連続殺人事件が起き、ダルリンブルが捜査をするよう指令を受けたのだ。
背景 1997年のCWA新人賞を受賞。近未来を舞台にしたサイコ犯罪小説。光るのは、なんといっても肉体政策という舞台設定であろう。テレビや車の私有は禁止で、暴力犯罪は根絶され、殺人事件はなかったのが……、という展開。これはいいのだが、主人公が平凡で、ガッカリ。

邦題 『アイスキャップ作戦』
原作者 スタンレー・ジョンソン
原題 Icecap(1999)
訳者 京兼玲子
出版社 文藝春秋
出版年 2001/4/10
面白度 ★★
主人公 ロイター通信記者のチャールス・ハドソン。35歳の独身。双子の弟に婚約者を取られる。
事件 かつての婚約者からチャールスに電話が掛かってきた。弟が行方不明になったので見つけてほしいという話であった。調べてみると、ファルコナイトという鉱物が関係していることがわかった。最近ファルコナイトは、地球温暖化を阻止する特効薬として有望というので注目されていた。チャールスは、ファルコナイトが埋蔵されているらしい南極大陸に、弟を探しに向かった。
背景 国際陰謀小説。出だしは面白い。ファルコナイトを巡って話が快調に進む。これまでの著者の作品では、情報の扱いは無難なものの小説部分の下手さにはマイッタが、本作ではその欠点がそれほど目立たない。しかし後半になると元の木阿弥で、尻すぼみになってしまった。

邦題 『ストーム』
原作者 ボリス・スターリング
原題 Storm(2000)
訳者 野沢佳織
出版社 アーティストハウス
出版年 2001/6/27
面白度 ★★★★
主人公 スコットランド、アバディーンの警察署主任警部のケイト・ビーチャム。息子が一人いる。アマチュア劇団に入っている。恋人はいる。
事件 ノルウェーでのアマチュア劇団の公演から帰国中のケイトは、乗っていた大型フェリーが遭難し、かろうじて救出された。しかし翌日には仕事に復帰した。だが折りしも猟奇事件が発生した。ナイフでめった刺しにされたうえに手足が切断され、喉元には真っ黒な蛇が……。
背景 『羊たちの沈黙』のイギリス版といった小説『メサイア』を書いた著者の二冊目。こちらの方がスマートに仕上がっている。ジェット・コースター的ストーリーで、イギリス作家にしては語り口が上手い。フェリーの事故と連続殺人との絡みも巧みで、読み応えがある。

邦題 『秘宝』上下
原作者 ウィルバー・スミス
原題 The Seventh Scroll(1995)
訳者 大澤晶
出版社 講談社
出版年 2001/2/15
面白度 ★★★★
主人公 英国貴族(准男爵)ニコラス・クエントン=ハーパー。かつては英国陸軍の一員としてアフリカで任務。個人の博物館を持つ。中年だが、すでに妻を亡くす。
事件 エジプトの考古学者が、4千年前のパピルス解読中に殺害された。彼の妻がニコラスに助けを求め、二人は残されたデータをもとに、隠された秘宝探しにアフリカに向かった。しかし悪辣なコレクターが彼らの後を追ってきた。また現地ではゲリラ集団との戦いに巻き込まれる。
背景 典型的な宝捜し物の冒険小説。目新しさはないものの、さすがにベテラン作家の手になるだけに、プロットは次から次へと山場を作っていて飽きさせない。上下巻の長大な物語を書き上げたパワーには恐れいる。本作の前編にあたる4千年前の冒険小説も読んでみたいものだ。

邦題 『もう一人の相続人』
原作者 マレー・スミス
原題 Legacy(1998)
訳者 広瀬順弘
出版社 文藝春秋
出版年 2001/2/10
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『顔のない男 ピーター卿の事件簿U』
原作者 ドロシー・L・セイヤーズ
原題 More Tales of Lord Peter(独自の編集)
訳者 宮脇孝雄
出版社 東京創元社
出版年 2001/4/27
面白度 ★★★
主人公 東京創元社が独自に編集したセイヤーズの第2短編集。7本の短編と1本の実話と1本の評論を収録している。
事件 題名を列挙すると、「顔のない男」(プロットは『死体をどうぞ』に似ているが、動機が面白い)、「因業じじいの遺言」、「ジョーカーの使い道」、「趣味の問題」(二人のピーターが登場するという有名な短編)、「白のクイーン」(本格物で、光を用いた物理的なトリック)、「証拠に歯向かって」、「歩く塔」(幻想的な話)、「ジュリア・ウォレス殺し」、「探偵小説論」。
背景 「ジュリア・ウォレス殺し」は実際の事件を検討するもので、著者が知的で論理的な人間であることがよくわかる。異色作と呼ぶべき作品の出来はあまりよくない。

邦題 『学寮祭の夜』
原作者 ドロシー・L・セイヤーズ
原題 Gaudy Night(1935)
訳者 浅羽莢子
出版社 東京創元社
出版年 2001/8/31
面白度 ★★★
主人公 ピーター・ウィムジイ卿。1890年生れ。オックスフォード卒。ピカデリーにフラットを持つ。
事件 探偵作家のハリエットは、久しぶりに母校オックスフォード大の学寮祭に出席した。かつての級友の依頼であったが、あまり楽しくない経験をしただけに終ってしまった。だが数ヶ月後、恩師から助けを求める手紙を貰った。学寮には匿名の手紙や悪戯が横行しているというのだ。
背景 シリーズ物の10作目。文庫本で7百頁を越える大作。風俗ミステリーらしい構成、語り口で、出来は悪くはないものの、やはり緊迫感に欠ける。小説としてもっと刈り込めるところはあるはずだ。ピーター卿の登場は後半から。ハリエットが結婚に同意するという重要な作品だが、恋愛が前面に出ているわけでない。高貴な人(?)の恋愛が覗けるオマケ付き。

邦題 『四人の申し分なき重罪人』
原作者 G・K・チェスタトン
原題 Four Faultless Felons(1930)
訳者 西崎憲
出版社 国書刊行会
出版年 2001/8/20
面白度 ★★
主人公 著者の最晩年の連作短編集。特種を追って世界中を駆け巡る新聞記者ピニオンが、ロンドンで不思議な人物4人に会うという設定である。
事件 「温和な殺人者」(エジプト近隣の植民地で起きた総督狙撃事件)、「頼もしい藪医者」(奇怪な樹を巡る恐ろしい話)、「不注意な泥棒」(大実業家の息子はなぜ不手際な盗みをするのか?)、「忠義な叛逆者」(ある王国で起きた革命騒ぎの皮肉な話)の4本。
背景 「単純な者の動機は複雑な者の動機より複雑である。単純な者というのは、自分の感情を整理しないし、その結果行動の動機はさらに謎めいたものになる」といった逆説に満ちている。これを楽しめるかどうかだが、”知”が不足している私には、ミステリーとしては楽しめなかった。

邦題 『死のさだめ』
原作者 ケイト・チャールズ
原題 Appointed to Die(1993)
訳者 中村有希
出版社 東京創元社
出版年 2001/4/13
面白度 ★★★★
主人公 事務弁護士のデイヴィッド・ミドルトンブラウンと画家のルーシー・キングズリー。
事件 マルベリーの大聖堂に新しくやってきた首席司祭は、ロンドンの権力者たちの顔色ばかりをうかがい、地元の人々の意向を軽視していた。したがって彼が提案した改革案は、信者や古参の司祭らには受け入れがたいものだった。ルーシーの父が聖堂参事であったこともあり、彼女は音楽祭の仕事を助けるが、いつしか事件に巻き込まれ、副司祭が毒死したのだった。
背景 シリーズ物の3作目。クリスティの『ゼロ時間へ』ではないが、メインの事件が発生するまでの複雑な人間関係を手際よく描いている。適度に類型的な人物を配しているので、登場人物が多いとはいえ、混乱することもない。そのあたりが上手いところ。トリックは平凡だが。

邦題 『ローソクのために一シリングを』
原作者 ジョセフィン・テイ
原題 A Shilling for Candles(1936)
訳者 直良和美
出版社 早川書房
出版年 2001/7/15
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁のアラン・グラント警部。
事件 映画俳優のクリスティーン・クレイが溺死体で発見された。事故死と考えられたが、グラントは殺人の臭いを嗅ぎ取った。容疑者は多かったが、グラントは女優の別荘に滞在していた青年に疑いの目を向けた。証拠も見つかり逮捕しようとした直前、青年は逃亡する。そしてクリスティーンの遺言が開示され、”ローソクのために一シリングを”を含む奇妙な遺言が明らかになったのだ。
背景 グラントは控え目な警部で、本作でも脇役的存在でしかない。本当の名探偵振りを発揮したのは『時の娘』だけではないか? ヒッチコックの映画「第三逃亡者」の原作。一読した印象は映画とはかなり違っていたが、やはり容疑者の人物造形は面白し、サスペンスも結構ある。

邦題 『デッドリミット』
原作者 ランキン・デイヴィス
原題 Hung Jury(1997)
訳者 白石朗
出版社 文藝春秋
出版年 2001/5/10
面白度 ★★★
主人公 特にいない。強いて挙げれば陪審制度そのものか。
事件 英国首相の兄である法務総裁が誘拐された。犯人の要求は身代金ではなく、総裁が追訴した殺人事件の真犯人を探し、被告を無罪にすることであった。だが裁判は結審し、陪審員はすでに評議に入っていた。判決が出るというデッドリミットまでに真犯人を探す必要がある!
背景 最初の50頁ほどは物語は快調に進む。誘拐者の要求が明らかになり、これが評議中の陪審員にどのような影響を与えるのか、非常に興味深い展開が予想されるからである。だが二つの物語はうまく噛み合わないのが残念なところ。サスペンスもあまり盛り上がらない。この作者は、前作もそうだったが、メッセージ性が強過ぎるようだ。わからないでもないが。

邦題 『海神の黄金』
原作者 リンゼイ・デイヴィス
原題 Poseidon's Gold(1993)
訳者 矢沢聖子
出版社 光文社
出版年 2001/4/20
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの密偵マルクス・ディディウス・ファルコ。本事件中に31歳となる。
事件 紀元72年の冬。前作の冒険からローマへ帰ってきたファルコがお袋の家に立ち寄ると、兄の戦友と名乗る兵士がいた。どうやら兄と父が絡んだポセイドン像を巡る儲け話がこじれて、その借金を返せと居直っていたのだ。父母から寵愛を受けていた兄はすでに戦死しているが、兄はそのような山師だったのか? 名誉回復を求めてファルコは調査を始めるのだった。
背景 最大の特徴は、ファルコ一家の全員が登場すること。読書の興味は、事件の謎よりも、ファルコ一族の方へ関心がいく。特に父親が興味深い。やり手で、ファルコのような正義感はないものの、魅力を秘めている。大伯母も特異な女性。彫刻発見のプロットが安易なのが惜しまれる。

邦題 『第三の銃弾[完全版]』
原作者 カーター・ディクスン
原題 The Third Bullet(1937)
訳者 田口俊樹
出版社 早川書房
出版年 2001/9/15
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁警視監のマーキス大佐。足を引きずって歩き、杖を使用。
事件 退官したモートレイク判事が密室状態の部屋で射殺されていた。部屋には、判事の裁判で有罪を受けて出所した男が銃を持っていた。銃声は二発聞こえたが、男の拳銃は一発しか発射されておらず、調べたら判事は空気銃の弾で殺され、壁から見つかった弾は、男の銃から発射されたものではなかった。判事は第三の銃弾で殺されたが、その方法は? そして犯人は?
背景 同題の中編の完全版。EQMMに掲載時にクイーンがカーの了承を得て、20%ぐらいをカットしたのだそうだ。とはいえ300枚ちょっとの短めの長編。設定は不可能興味十分なうえに、描写も簡潔なので一気に読める。典型的なトリック小説といってよいか。

邦題 『闇にとけこめ』上下
原作者 クレイグ・トーマス
原題 Slipping Shadow(1999)
訳者 田村源二
出版社 新潮社
出版年 2001/6/1
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ジャンピング・ジェニイ』
原作者 アントニイ・バークリー
原題 Jumping Jenny(1933)
訳者 狩野一郎
出版社 国書刊行会
出版年 2001/7/20
面白度 ★★★★
主人公 作家のロジャー・シャリンガム。お馴染みのシリーズ探偵。1891年生れ。オックスフォード大ではラクビー選手でもあったらしい。
事件 小説家ロナルド・ストラットンの屋敷では奇妙なパーティが開かれていた。出席者は、過去の殺人者の犠牲者に扮装するというものだった。そこでロジャーは、皆の嫌われ者らしいロナルドの義妹イーナに注目した。ところがそのイーナが余興の絞首台に、本当にぶら下っていたのだ。
背景 見掛けのプロットは少し変わっているが、それほど複雑というわけではない。変わっている点は、フーダニットという謎を追うのではなく、自殺か他殺か? そして自殺に見せようとするロジャーらの行為を丹念に描いていること。ラストの捻りは、皮肉屋バークリーの本領発揮だ。

邦題 『最上階の殺人』
原作者 アントニイ・バークリー
原題 Top Storey Murder(1931)
訳者 大澤晶
出版社 新樹社
出版年 2001/8/10
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの作家のロジャー・シェリンガム。シリーズ7作目。
事件 マンション最上階のフラットに独りで住んでいた老嬢が絞殺された。裏庭に面した窓には、犯人が使ったと思われるロープが下がっていた。室内が荒らされ現金がなくなっていたため、警察は外部のプロの仕業と考えたが、同行したロジャーは違う考えを持った。そしてひょんなことから被害者の姪を特別の秘書に雇い、事件を調査することになったのだ。
背景 アリバイ・トリックをメインに置いた作品だが、トリック小説としては、それほど特徴のあるものではない。一番面白いのは、ロジャーと被害者の姪との掛け合い漫才的会話で、シチュエーション・コメディーとして楽しめる。パンチ誌で鍛えたユーモア作家としての片鱗を見せている。

邦題 『コカイン・ナイト』
原作者 J・G・バラード
原題 Cocaine Nights(1996)
訳者 山田和子
出版社 新潮社
出版年 2001/12/20
面白度 ★★★
主人公 イギリス人のチャールズ・プレンティス。
事件 地中海沿岸のスペインの魅惑的な街エストレージャ・デ・マル(海の星)で凶悪な事件が起きた。家にいた5人をエーテルとガソリンで焼殺したというもの。その殺人事件の犯人としてチャールズの弟が自首したが、チャールズには納得できなかった。彼は弟の仕事場や殺人現場を見て、無実を確信するのだった。というのも現場には、レイプを写したVTRが残っていたからだ。
背景 SF作家であるバラードのミステリー風味の作品。冒頭に事件があり、容疑者の兄が真犯人を探し始め、何者かに襲われたり、謎のVTRを見つけたりして、徐々に全貌が明らかになっていく。その語り口は一級品だが、結末は、いかにもSF作家らしい解決の仕方だ。

邦題 『囚人部隊誕生』
原作者 リチャード・ハワード
原題 Bonaparte's Sons(1997)
訳者 佐和誠
出版社 早川書房
出版年 2001/4/15
面白度 ★★
主人公 元騎兵士官候補生のアラン・ローザール。貴族だった彼の一家は、ギロチンで全員落命した。アランだけ身分を隠し、パリの路地でパンを盗むなどして生き延びる。
事件 18世紀末のフランス。彗星のごとく登場したナポレオンは、兵員不足を補うため、服役中の囚人を兵隊に利用する囚人部隊の結成を許可した。アランはその部隊の一員に選ばれ、ならず者たちと過酷な戦場へ向かうのだった。監獄よりはいいのではないかと考えながら。
背景 ホラー作家ショーン・ハトスンが別名義で書いた歴史冒険小説の第一作。戦闘場面の血みどろ描写は冴えているが(ホラー作家だけに当然?)、それ以外は平凡な出来。アランに魅力が感じられないのが致命的。オーストリアから金貨を奪うプロットが多少楽しめるか。

邦題 『激戦!エジプト遠征 ナポレオンの勇者たち』
原作者 リチャード・ハワード
原題 Bonaparte's Invaders(1998)
訳者 佐和誠
出版社 早川書房
出版年 2001/7/31
面白度
主人公 アラン・ローザール。シリーズ第2弾。ナポレオンと同じ歳の元騎兵士官候補生。
事件 第一次イタリア遠征に勝利したナポレオンは、次にはエジプト遠征を決行した。ローザールが所属する竜騎兵部隊もその遠征に参加した。灼熱の砂漠に苦しみ、ベドウィンの襲撃を撃退しながら、カイロを目指したが、そこには勇猛な敵の大軍が待ち構えていたのだ。
背景 第一弾は、なぜ囚人竜騎兵部隊が誕生したかという秘話のような話であったが、<ナポレオンの勇者たち>シリーズの第2弾は、そのようなエピソードはあまり挿入しないで、ひたすら戦闘場面の繰り返しで終ってしまう。プロットはいたって単純。戦闘場面の血飛沫一杯の残虐さが読みどころ。アランは第一作より好感が持てるが、冒険小説的雰囲気は少ない。

邦題 『復讐の天使』
原作者 ロビン・ハンター
原題 The Fourth Angel(1985)
訳者 鎌田三平
出版社 角川書店
出版年 2001/12/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 


邦題 『1974 ジョーカー』
原作者 デイヴィッド・ピース
原題 Nineteen Seventy-four(1999)
訳者 酒井武志
出版社 早川書房
出版年 2001/7/15
面白度 ★★★
主人公 ヨークシャー・ポスト紙の記者エディー・ダンフォード。ロンドンで記者をしていたが、父親がガンに罹ったため、故郷へ戻ってきた。
事件 1974年の英国。IRAの大規模なテロが起きていた。あのヨークシャー・リッパーが登場した前年でもある。そんな時代のある日、エディーはモーテルで暴行を受け、凄惨な写真を押し付けられた。驚いたことにその写真には、彼が調査中の殺人事件の犠牲者が写っていたのだ!
背景 話題の暗黒小説。著者は日本在住の英国人。エルロイに惹かれて本作を書き上げたそうだ。四部作の第一作。従来の犯罪小説と大きく異なるのは文体。エルロイの影響が大きいのはわかるが、エルロイより文章が滑らかで読みやすい。ただ主人公に共感できないのは欠点だが。

邦題 『1977 リッパー』
原作者 デイヴィッド・ピース
原題 Nineteen Seventy-Seven(2000)
訳者 酒井武志
出版社 早川書房
出版年 2001/9/30
面白度 ★★
主人公 ミルガース署の部長刑事ボブ・フレイザーと≪ヨークシャー・ポスト≫紙の記者ジャック・ホワイトヘッド。二人の愛人、恋人はいずれも暗い性格である。
事件 ヨークシャー・リッパーが売春婦を次々と狙っていた。売春婦ジャニスを愛人に持つボブは、彼女を護るべく捜査を開始した。だが同僚の刑事にジャニスがレイプされてしまったのだ。しだいに狂気に追い込まれたボブだが、必死になって殺人鬼を追いつめる。
背景 エルロイに感銘した著者のノワール第2弾。文体は確かにエルロイの影響を受けているが、物語はエルロイほどの迫力はない。ただしあまりに下品と感じることもない。中庸を旨とするイギリス文化のなせる業か。二人の<私>の視点と現在と過去が交錯するプロットは少しわかり難い。

邦題 『武器と女たち』
原作者 レジナルド・ヒル
原題 Arms and the Women(2000)
訳者 松下祥子
出版社 早川書房
出版年 2001/12/31
面白度 ★★★
主人公 シリーズの主人公は”聖三位一体”の男たち(ダルジール警視、パスコー主任警部、ウィールド部長刑事)だが、今回はパスコーの妻エリーが活躍。現在小説を書いている。
事件 エリーが正体不明の男女に襲われた。拉致されそうになった直前、とっさの判断で二人の相手を倒しての逃亡だったが、さらにパスコー家を見張っていた人物がエリーの友人を襲うという事件も起きた。ダルジールたちは、パスコーが過去に担当した事件を中心に調べを進めるが……。
背景 プロットは複雑で、エリーが書いている小説が事件に微妙に絡んでくる。いい意味でのペダンチックな(悪くいえばスノッブ臭い)文章が多くなっている。英国文学を知っているほど楽しめるという書き方で、さすがに嫌味を感じる。ラスト50頁はサスペンスフルだが。

邦題 『マネー・メイカーズ』上下
原作者 ハリー・ビンガム
原題 The Money Makers(2000)
訳者 山本光伸
出版社 産業編集センター
出版年 2001/4/15
面白度 ★★★
主人公 一代で大富豪になったグラッドリーの三人の息子。ジョージ(長男)は潰れかかった家具工場のオーナー。哲学好きのザック(次男)はコーポレート・フィナンシャー、マシュー(三男)は投資銀行業界のトレーダー。
事件 事故死したグラッドリーの遺言は、3年後に、自分の銀行口座に百万ポンドを残した者に全財産を与えるというもの。もちろん自分の力で稼ぐ必要がある。三人の競争が始まった。
背景 ちょっとアーチャーに似た雰囲気をもつ広い意味の経済ミステリー。あくどいことをしても、全面的に暗い話にはならない。著者は投資銀行に勤めていただけに、インサイダー取引などの細部描写はそれなりに読ませる。ご都合主義も多いが、心暖まる結末はやはり安心して楽しめる。

邦題 『自由の地を求めて』
原作者 ケン・フォレット
原題 A Place Called Freedom(1995)
訳者 矢野浩三郎
出版社 新潮社
出版年 2001/1/1
面白度 ★★★★
主人公 マック・マカッシュ。元はスコットランドの坑夫。20代の若者。ヒロインは領主の娘リジー。
事件 18世紀後半。マックは、冒険心旺盛なリジーに助けられて、苦しい炭坑からロンドンへ脱出した。しかしロンドンの生活もまた大変であった。荷役夫になったものの、搾取に反対してストライキを実行したため、流刑囚として植民地ヴァージニアに、奴隷として送られてしまったのだ。だが送られた農園はリジーの夫が経営するもので、再会したマックとリジーは……。
背景 新旧両大陸を舞台にした冒険小説。著者自身は歴史小説ではないといっているそうだが、確かに冒険小説的スリルに重点を措いている。リジーは現代的な考えを持った当時には存在しないような女性だが、好感がもてる。ちゃちな伏線も冒険小説ではがぜん生きてくる。

邦題 『勝利』
原作者 ディック・フランシス
原題 Shattered(2000)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 2001/5/15
面白度 ★★
主人公 ガラス工芸家のジェラード・ローガン。独身。
事件 障害レース中の事故で友人の騎手マーティンが亡くなった。ジェラードは、レース前にマーティンから一本のビデオテープを預かった。重大な秘密が隠されているという話だったが、やがてローガンは何者かに襲われ、ビデオテープもすでに盗まれていたことがわかったのだ。
背景 著者の最後と思われる作品。本作出版後、彼の妻メアリが亡くなったからである。フランシス作品は、妻がリサーチを担当していたとも、共作であったとも言われているが、いずれにしても二人とも健在でない限りレベルの高い作品にはならないのであろう。本作も十分な共作にならなかったのか、プロットは平凡。主人公の恋愛も安易で、ラストの活劇以外は見るべきものが少ない。

邦題 『英雄』上下
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 No Time for Heroes(1994)
訳者 松本剛史
出版社 新潮社
出版年 2001/1/1
面白度 ★★★★
主人公 モスクワ民警副本部長のディミトリー・ダニーロフとFBI本部ロシア課の課長ウィリアム・カウリー。シリーズのニ作目。今回はダニーロフの方が活躍する。
事件 ロシア大使館員が口中を銃で撃たれる事件がワシントンで起きた。カウリーはダニーロフの協力を頼んだ。カウリーはモスクワに飛んでいくが、そこで謎の女に引っかかり、それがマフィアの罠だったのである。一方ダニーロフも友人の妻と関係を持ち――。
背景 本作は警察小説といってよく、サイコ物の設定だった第一作より、個人的にはこちらの方が好き。ダニーロフの性格・状況設定が巧みに作られている。ピンチをいかにすり抜けるかというプロットは、マフィン物に似て読み応えがある。皮肉な結末も生きている。

邦題 『虐待者』上下
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 The Predators(1998)
訳者 幾野宏
出版社 新潮社
出版年 2001/4/1
面白度 ★★★
主人公 <ユーロポール>(FBI欧州連合版)の心理分析官クローディーン・カーク。
事件 10歳になる駐ベルギー米国大使令嬢が下校中に誘拐された。やがて電子メールによる犯行声明らしきものが送られてきて、クローディーンが交渉役を担当することになった。どうやら小児性愛者の仕業とわかったが、問題は捜査チーム内にも犯人グループの一人がいることだった。
背景 シリーズ物の3作目。これまでの中では一番楽しめた。小児虐待を扱っているものの、残酷場面は少なく、興味本位で描かれていないのが救いである。この小説では、捜査組織内の対立や密告者対策を描くことによってサスペンスを高めている。特にFBI人質交渉主任の行動は意外性に満ちており、この作品の山場になっている。クローディーンは段々好感度を増している。

邦題 『死の殻』
原作者 ニコラス・ブレイク
原題 Thou Shell of Death(1936)
訳者 大山誠一郎
出版社 東京創元社
出版年 2001/10/26
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁警視監の甥で、私立探偵のナイジェル・ストレンジウェイス。本作で知り合った女性探検家のジョージア・キャヴェンディッシュは後に妻になる。
事件 第一次世界大戦では英国飛行隊の花形であったオブライエンが脅迫状を受け取った。しかし警察には保護を受けたくないため、ナイジェルに調査を依頼した。彼はヘリコプターの改良を研究しているが、某国のスパイに狙われていた。そしてクリスマスの翌日、オブライエンは拳銃で死亡しるのが発見された。周りには足跡がなかったので、自殺のようにみえたが……。
背景 ブレイクの第2作。典型的な謎解き小説といってよく、意外性に満ちたプロットが優れている。ただ後年のブレイクらしさは、語り口に多少文学味がする程度。水準作か。

邦題 『墜落のある風景』
原作者 マイケル・フレイン
原題 Headlong(1999)
訳者 山本やよい
出版社 東京創元社
出版年 2001/9/28
面白度 ★★★★
主人公 マーティン・クレイ。哲学者にして図像解釈学者。15世紀のネーデルランド美術にノミナリズム(唯名論)が与えた影響をテーマにした本を書こうとしている。妻ケイトは美術史家。
事件 執筆のためクレイ夫妻は田舎にやってきた。近所の地主から夕食を招待され、ついでに絵を見てくれと頼まれた。退散しかけたが、大きな板絵を見て密かに驚いた。もしかしたら16世紀ネーデルランドの巨匠ブリューゲルの失われた作品ではないのか? 密かな調査が始まった。
背景 専門分野の薀蓄は多少鼻に付くものの、『時の娘』のような歴史ミステリーとして楽しめる。ブリューゲルの作品を詐欺まがいの手段で手に入れようと努力する話だが、不倫が絡んでいて、これがコメディのように面白い。ミステリーが「知的な読物」であることを改めて認識させてくれる。

邦題 『優しく殺して』
原作者 ニッキ・フレンチ
原題 Killing Me Softly(1999)
訳者 務台夏子
出版社 角川書店
出版年 2001/2/25
面白度 ★★★
主人公 製薬会社に勤める科学者アリス・ラウデン。一目惚れでアダムと結婚。30歳直前。
事件 アリスは、登山家のアダム・タリスと道ですれ違っただけで、人生が変わってしまった。このミステリアスな男の魅力に惹かれて、平穏な生活を投げ打って結婚した。だが、英雄的登山家であるアダムの過去を知るにつけ、妄想と恐怖が膨らんでいった。
背景 著者は夫婦作家だそうだ。英国作家には珍しく(?)エロティック雰囲気がた漂っているものの、優雅に処理している。プロットは典型的な”青髭”タイプの物語。終りも、まあ予定調和的なもので、その意味では新味はない。新味があるところは、主人公が自立した女性でありながら、いきなり性の虜になってしまったことか。筆力はたいしたもので、実に読みやすい。

邦題 『墜落事故調査官』
原作者 ビル・マーフィ
原題 Tin Kickers(2000)
訳者 伊達奎
出版社 二見書房
出版年 2001/3/25
面白度 ★★
主人公 国家運輸安全委員会の航空機事故調査官のロン・カーター。36歳。
事件 ロサンジェルスからメキシコ・シティに向かった旅客機が、シエラ・マードレ山脈の山肌に激突した。ただちにカーターらは現地に派遣された。機体の整備ミスなのか? 機長の判断ミスなのか? はたまた管制の指示ミスなのか? さまざまな圧力がかかり始めるが……。
背景 アイルランド在住の作家で英国で本を出版したので、リストに含めたが、舞台から判断すると間違いかもしれない。ただし内容はミステリーといってよい。科学的調査に関する情報小説として、それなりに興味深い。前半はまあまあだが、後半は尻つぼみ。終わり方も曖昧のままだ。フィクションなのだから、爽快な結末にしてほしい。実際の事故ではそうなのかもしれないが。

邦題 『シャドウ・キラー』
原作者 ヴァル・マクダーミド
原題 Killing the Shadows(2000)
訳者 森沢麻里
出版社 集英社
出版年 2001/9/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『クライシス・フォア』
原作者 アンディ・マクナブ
原題 Crisis Four(1999)
訳者 伏見威蕃
出版社 角川書店
出版年 2001/9/25
面白度 ★★★
主人公 英国秘密情報部の工作員ニック・ストーン。元同僚の娘を引きとって育てている。
事件 今回のニックの任務は、行方不明となっている情報部員サラを捜索することだった。かつては同僚であり、愛人でもあった。すぐに潜伏先は突きとめたが、不可解なことに情報部の指令は、捜索から抹殺に変わった。ニックはサラの隠れ家を急襲するが……。
背景 プロットは単純。サラは、実はオサマ・ビン・ラディンの部下であり、米大統領を暗殺しようとするもの。普通の暗殺物であれば、暗殺の過程が詳細に語られるはずだが、この物語ではそのあたりは簡単に処理されている。逆に潜伏・襲撃活動などの細部はリアリティをもって描かれている。なお9.11直後に発売されたが、世界貿易センター・ビルの破壊まで予言しているわけではない。

邦題 『神の火を盗んで』
原作者 ピーター・ミラー
原題 Stealing Thunder(1999)
訳者 野村芳夫
出版社 徳間書店
出版年 2001/5/15
面白度 ★★
主人公 イギリス在住のフリー・ジャーナリスト、エイモン・バーク。ボスニアなどで活躍したが、妻とは破局している。ドイツの雑誌記者サビーナ・コーツキから仕事を依頼される。
事件 依頼された仕事は、原爆の秘密を盗んだ大物スパイ、クラウス・フックスの不審な死の調査であった。フックスはイギリスで刑を服して後東ドイツに渡って1988年に亡くなった。その死は自然死ではない? という謎の解明に二人が挑戦し、北の大氷河まで足を延ばすことになった。
背景 最近は珍しくなった(?)国際陰謀小説。史実を組み入れた物語は、そこそこ楽しめる。しかし謎に挑戦する二人のジャーナリストはさほど印象に残らない。二人とも外見は美男美女で、それぞれに陰があるのだが、魅力が感じられない。そのためか、真相も驚きは少ない。

邦題 『溺れゆく者たち』
原作者 リチャード・メイソン
原題 The Drowning People(1999)
訳者 那智かおり
出版社 アーティストハウス
出版年 2001/1/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『チューリップ熱』
原作者 デボラ・モガー
原題 Tulip Fever(1999)
訳者 立石光子
出版社 白水社
出版年 2001/6/15
面白度 ★★★★
主人公 四人。アムステルダムに住む年配の裕福な商人コルネリス・サンツフォールト。その若き後妻ソフィア。彼らの肖像画を描くために雇われた画家ヤン・ファン・ロース。女中のマリア。
事件 時は17世紀、舞台は未曾有の景気に湧く新興国オランダのアムステルダム。歳の離れた夫との生活に疲れたソフィアは、運命的な出会いをしたヤンとともに、逃亡を決意する。そこで望まぬ妊娠をしたマリアを利用して、大胆かつ無謀な計画を立てるが……。
背景 ミステリー専門の作家ではない人のミステリー的な作品。この時代の代表的画家フェルメールの≪窓辺で手紙を読む女≫をヒントに本書を書いたようだ。純文学かと思ったが、そういった堅苦しさはない。人物・時代の描写が巧みなので、ご都合主義的展開という欠点も気にならない。

邦題 『偽装殲滅』
原作者 クリス・ライアン
原題 The Kremlin Device(1998)
訳者 伏見威蕃
出版社 早川書房
出版年 2001/4/30
面白度 ★★★
主人公 SAS曹長のジョーディ・シャープ。シリーズ物の3作目。
事件 シャープらのSASチームは、ロシアの特殊部隊を訓練するためにモスクワに到着した。訓練後にはロシア・マフィアを壊滅させようというわけだ。だが彼らには、その目的以外にも、小型爆弾をロシア国内に密かに設置するという秘密任務もあった。だがちょっとした不注意から、隊員の一人と核爆弾の一つがマフィアに強奪されてしまったのだ。いかに奪回するのか?
背景 ノーテンキな戦争冒険小説。イギリス政府がロシア内に秘密裡に小型核爆弾を隠すというプロットにシラケなければ、それなりに楽しめる。訓練場面の描写はリアリティはあるし、人質救出作戦ではマフィアをバッタバッタと倒すのも結構爽快感がある。意外とユーモアもある。

邦題 『孤立突破』
原作者 クリス・ライアン
原題 Tenth Man Down(1999)
訳者 伏見威蕃
出版社 早川書房
出版年 2001/11/15
面白度 ★★★
主人公 SAS曹長のジョーディ・シャープ。シリーズ物の4作目。
事件 シャープらの今回の仕事は、モスクワから一転して、アフリカの新興国カマンガ。そこで政府軍コマンドウ部隊を訓練することであったが、反政府運動も活発で、きな臭い雰囲気が漂っていた。やがて彼らは反政府勢力が押えるダイアモンド鉱山を奪う作戦を実施するが、途中墜落した飛行機から女性を助けたことから状況が変わり、政府軍とも戦うことになり、孤立無援になったのだ。
背景 今回も冒頭の設定が気になる。内戦があるような場所に10人ばかりのSASを送り込むのであろうか? また反政府軍のトップが人間の生の肝臓を食べてしまうというのもアフリカ蔑視(?)でいただけない。とはいえ捕虜から逃げて復讐する展開は、アクション物としては高レベルだ。

邦題 『9ミリの挽歌』
原作者 ロブ・ライアン
原題 Nine Mil '00(2000)
訳者 鈴木恵
出版社 文藝春秋
出版年 2001/10/10
面白度 ★★
主人公 アトランティック・シティのタクシー運転手エド・ベア。同居人のレスターも活躍。
事件 エドはある日、客を見て驚いた。かつて仲間を裏切った男だったのだ。今では犯罪組織の幹部になっているという。エドは仲間を集めて、復讐することを誓った。
背景 舞台はニュージャージ州やニューヨークで、内容もアメリカ的な犯罪小説で、イギリス・ミステリーの香りはあまり感じられないが、著者はリヴァプール生れなので、一応リストに含めた。『クマのプーさん』を下敷きにしていることも英国ミステリーとした一因だが、恥かしながら、その有名な児童文学は未読なので、そのあたりについてはまったく楽しめなかった。ユーモアは感じられるし、銃社会の恐ろしさも出ているものの、著者の語り口は私の肌に合わないようだ。

邦題 『タイタス・クロウの事件簿』
原作者 ブライアン・ラムレイ
原題 The Compleat Crow(1987)
訳者 夏木健次
出版社 東京創元社
出版年 2001/3/16
面白度 ★★
主人公 タイタス・クロウ。オカルト界の探険者。若いときは英国軍本部に所属し、ナチス・ドイツの暗号を解読する。魔法の権威者で、魔道を悪用する人々と戦う。1916年12月生まれ。
事件 クロウ登場の中短編集。執筆順でなく事件の起きた順に編まれている。「誕生」(誕生秘話)、「妖蛆の王」(中編で、魔術による対決)、「黒の召喚者」(クロウ物の第一作)、「海賊の石」、「ニトクリスの鏡」、「魔物の証明」、「縛り首の木」、「呪医の人形」、「ド・マリニーの掛け時計」、「名数秘法」、「続・黒の召喚者」の11本が収録されている。著者の日本語版への序文が興味深い。
背景 著者はH・P・ラヴクラフトの衣鉢を継ぐ英国ホラー作家。デニス・ホイートリーの悪魔小説に似た冒険はそれなりに楽しめるが、所詮私の好みではない。クトゥルー神話も読んだことないし。

邦題 『蹲る骨』
原作者 イアン・ランキン
原題 Set in Darkness(2000)
訳者 延原泰子
出版社 早川書房
出版年 2001/4/30
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのセント・レナーズ署のジョン・リーバス警部。
事件 スコットランドでは300年振りに自治行政が再開されることになった。その中心となる建物クイーンズベリ・ハウスを保安のために見学中だったリーバスたちは、地下室の奥で古い人骨を発見した。その捜査を始めると、その中庭で、次期選挙の有力候補者が撲殺されたのだ。さらに50万ポンドの預金があった浮浪者が自殺した。この三つの事件が並行して捜査されるが……。
背景 各事件をどのように結び付けるかが作者の腕の見せ所だが、いまいち推理小説的意外性に欠けている。これまではリーバスの一匹狼的働きで読ませてきたが、本作では各事件は別の人間が捜査する。87分署物のような警察小説になっていて、それはそれで面白いが。

邦題 『ナヴァロンの風雲』
原作者 サム・ルウェリン
原題 Storm Force from Navarone(1996)
訳者 平井イサク
出版社 早川書房
出版年 2001/8/31
面白度 ★★
主人公 イギリス陸軍大尉のマロリー。有名な登山家でもある。アリステア・マクリーンの主人公そのものであるが、本作は別作者が書き続け始めた作品。
事件 マロリー、ミラー(イギリス陸軍伍長)、アンドレア(元ギリシャ陸軍大佐)の三人に、新たな任務が与えられた。フランス沿岸の秘密基地で修理中の巨大な潜水艦を破壊せよというものであった。ただし基地の場所は不明だというのだが、修理完了までに実施しなければならない!
背景 ガードナーが007号シリーズを書き続けたように、著者権者の了解の元で書かれた作品。三人は軽々と難関を突破していく。敵の弾は当らないし、マロリーはどんな絶壁でも登ってしまう。これではサスペンスは高まらずに終ってしまうのも当然だ。欲をいえば地図がほしかった。

邦題 『本末転倒の男たち』
原作者 ジェリー・レイン
原題 Frankie Bosser Comes Home(1999)
訳者 常田景子
出版社 扶桑社
出版年 2001/10/30
面白度 ★★★
主人公 強いて挙げれば、<マイクス・バー>のバーテン、フランキー・ボッサー。その他にボッサーの父親を死なせた元強盗犯フィル・ゲイターが凄みのある人物として印象に残る。
事件 酒の密輸がもとで警官を撃ち殺し、イタリアに潜伏していたフランキーが、父親急死の知らせに故郷に戻ってきた。危険は承知のうえだが、父親が死の直前に暴行されていたため、犯人に復讐しようと決心したからだった。
背景 フィルの話とフランキーの話が、前半は噛み合わないものの、ギターの個人教師を介して結び付くと、物語はがぜん面白くなる。またフィルが郵便局強盗を射殺してから、緊張が一気に高まる。ヘンナ人間を数多く創造できたのがこの小説の面白さであり、小品ながら出来は悪くない。

邦題 『シミソラ』
原作者 ルース・レンデル
原題 Simisola(1994)
訳者 宇佐川晶子
出版社 角川書店
出版年 2001/3/25
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのキングズマーカム警察の主任警部レジナルド・ウェクスフォード。彼の長女シルヴィアとシルヴィアの夫ニールは、二人とも失業中である。
事件 職業安定所へ出かけた黒人女性メラニーが行方不明になった。キングズマーカムには黒人は数えるほどしか住んでいないのに、手掛かりはない。ウェクスフォートドはメラニーの職業相談員へ聴取をしようとした矢先、彼女は自宅で殺されているのが発見されたのだ。
背景 ウェクスフォード警部シリーズの16作め。今回の小説のテーマは、黒人差別と失業に関するもの。実力派のベテランだけに、本作も安心して楽しめるが、作者の主張したいテーマがいささか前面に出すぎていて、謎解き部分とのバランスが悪いのが残念。

邦題 『誰もが戻れない』
原作者 ピーター・ロビンスン
原題 Innocent Graves(1996)
訳者 幸田敦子
出版社 講談社
出版年 2001/11
面白度  
主人公 

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邦題 『原潜救出』
原作者 ダグラス・リーマン
原題 The Deep Silence(1967)
訳者 大森洋子
出版社 早川書房
出版年 2001/1/31
面白度 ★★★
主人公 イギリス原子力潜水艦<テレメール>の艦長ジャメイン。
事件 ジャメインは、朝鮮半島沖で連絡を絶った米原潜を捜索せよ、という命令を受けた。中国側より先に見つけ、場合によっては破壊してもいいという。<テレメール>は当該水域を目指すが、そこにはすでに中国海軍の不穏な動きがあった。
背景 これは30年以上も前に出版されている。2000年8月にあったロシア原潜の沈没事故の関係で、急遽(?)出版されたのでは? とうがった見方ができる題名である。古い小説だけにメカニックな描写は少なく、人間ドラマ(艦長と副艦長の確執、下院議員の娘と艦長の恋愛、司令官親子の対立など)が中心。戦闘場面も悪くないが、中国人蔑視は相変わらず感じられる。

邦題 『特攻艇基地を撃破せよ』
原作者 ダグラス・リーマン
原題 Dust on the Sea(1999)
訳者 高津幸枝
出版社 早川書房
出版年 2001/3/31
面白度  
主人公 

事件 


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