邦題 『原初の光』
原作者 ピーター・アクロイド
原題 First Light(1989)
訳者 井出弘之
出版社 新潮社
出版年 2000/5/30
面白度 ★★★★
主人公 これが主人公といえる人物はいないが、物語の中心軸にいるのは発掘を指揮する考古学者のマーク・クレア。その他、二十歳も歳下のマークの妻、天文学者、レスビアンの環境庁役人、農場主、自分のルーツを求めてきた元パントマイム役者など、ユニークな人々が登場する。
事件 英仏海峡に近い静かな谷間で古墳と列石が見つかった。四千年前の有力者を祀った墓と推理された。しかし発掘を始めると謎の文様が発見されたり、ミステリアスなことが起こった。
背景 発掘に関係するさまざまな人間模様が描かれている。「イギリスの伝統をしっかり踏まえた新しい小説」だが、これを読むと、P・D・ジェイムズが、イギリスの伝統を踏まえたミステリー作家であることがよくわかる。一言で言えば「宇宙とは何か」という謎を扱っているので入れている。

邦題 『リスボンの小さな死』上下
原作者 ロバート・ウィルスン
原題 A Small Death in Lisbon(1999)
訳者 田村義進
出版社 早川書房
出版年 2000/9/30
面白度 ★★★
主人公 リスボン司法警察の警部ジョゼー・コエーリョ。中年で太り気味。一人娘がいる。
事件 リスボンの浜辺で少女の絞殺死体が見つかった。15歳で、レイプされていた。コエーリョが事件を担当することになった。調べると少女の奔放な男性関係がわかってきた。一方第二次大戦中、ナチは大量のタングステンの買い付けに、ある実業家をポルトガルに送り込んだ。この歴史的秘事と現代の犯罪が、しだいに一つに結び付いていく。
背景 過去の事件の影が現在の事件に影響する、というよくあるプロット。また著者はミステリー専門作家ではないようで、謎の処理が手際良くない。それらの欠点を補って余りあるものは、著者の人物造形や描写の確かさだろう。コエーリョは魅力的だし、リスボンも魅力ある町だとわかる。

邦題 『月明かりの闇』
原作者 ジョン・ディクスン・カー
原題 Dark of the Moon(1967)
訳者 田口俊樹
出版社 原書房
出版年 2000/4/10
面白度 ★★
主人公 お馴染みのギデオン・フェル博士。登場する最後の作品。アッシュクロフト警部が協力。
事件 アメリカ南部のジェイムズ島にあるメイナード邸では、不可解な事件が頻発していた。案山子や武器室の斧がなくなっていたが、メイナードの言動も理解できなかった。そんなとき殺人が起きたのだ。しかも現場には被害者以外の足跡はなかったのだ。
背景 副題は、フェル博士最後の事件となっているが、これは結果的に最後の事件になったというだけで(以後カーがフェル物を書かなかっただけで)、この作品がフェル博士の退場のために作られたわけではない。足跡のない殺人トリックは機械的なものだが、この謎が前半の物語を面白くしている。結末の意外性はあるが、無理も目立つ。まあ、カーだから許されるプロットか?

邦題 『セカンド・エンジェル 血の黙示録』
原作者 フィリップ・カー
原題 The Second Angel(1998)
訳者 東江一紀
出版社 徳間書店
出版年 2000/9/30
面白度 ★★★
主人公 テロテクノロジー社の天才的設計者デーナ・ダラス。病身の一人娘がいる。
事件 時は2069年。人類は殺人ウィルスに侵され、唯一の治療法は健康な血液との総交換のみであった。このため血液は貴重品となり、厳重な警備の銀行に保管されていた。その防犯システムの設計者がダラスであったが、娘が重病を患ったこともあり、患者らと協力して、量子コンピュータが一元管理する月の血液銀行から血液を盗みだそうとしたのだ。
背景 ミステリー・ファンからみれば、これは完全なSFだと思う。著者がP・カーでなかったら、このリストには入れなかったであろう。ただケイパー小説でもあるので、それほどの違和感はなかった。もっともらしい話を作ってしまう才能は、確かに奇想の作家といえる。ラストの発想も面白い。

邦題 『冷酷』
原作者 ポール・カースン
原題 Scalpel(1997)
訳者 真野明裕
出版社 二見書房
出版年 2000/3/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ギャスケル短篇集』
原作者 エリザベス・ギャスケル
原題 独自の編集
訳者 松岡光治
出版社 岩波書店
出版年 2000/5/16
面白度 ★★
主人公 19世紀中葉の女性作家の短篇集。8本収録されているが、うち2本がミステリー。
事件 ミステリーというより、幽霊が出てくるクリスマス・ストーリーが「婆やの話」。「一度してしまったことは取り返しがつかない」という教訓的な話。結構面白い。もう1本は「終りよければ」。主人公の父が脅迫を受けるという話で、確かにミステリーの短編だが、ミステリーとしてはたいしたことはない。”正直は最善の策”という教訓話でもある。その他の短編は、「ジョン・ミドルトンの心」、「異父兄弟」、「墓掘り男が見た英雄」、「家庭の苦労」、「ペン・モーファの泉」、「リジー・リー」。
背景 ギャスケル夫人の名前を初めて知ったのは、クリスティーに関する評論の中で、クリスティーの源流を”クランフォード”に求めていたのを読んだからである。なかなかのストーリー・テラーだ。

邦題 『謎の蔵書票』
原作者 ロス・キング
原題 Ex-Libris(1998)
訳者 田村義進
出版社 早川書房
出版年 2000/4/30
面白度 ★★★
主人公 アイザック・インチボルド。ロンドン橋にある古書店<無類堂>主人。40歳になるかならぬ歳。妻を数年前に亡くした。近視で内反足。
事件 王政復古直後の1660年のロンドン。インチボルドは、アレシアと名乗る貴婦人から、行方不明となっている稀覯本を探してほしいと頼まれた。彼女の父親が遺した貴重な本だという。法外な報酬に惹かれて、インチボルドは彼女の屋敷にあった謎の暗号文を手掛かりに捜査を始めた。
背景 書物にまつわる歴史小説だが、暗号解読などもあり、ミステリー・タッチで物語が展開する。書物に関する薀蓄が鼻に付かないのは、作者の物語る技術が確かなためであろう。ただプロットには納得しにくい部分があった。主人公には魅力があるが、女性陣が弱いのが残念。

邦題 『トレイル・オブ・ティアズ』
原作者 A・J・クィネル
原題 The Trail of Tears(1999)
訳者 大熊栄
出版社 集英社
出版年 2000/5/31
面白度 ★★★
主人公 はっきりしていない。強いて挙げれば、FBI特別捜査官レッドバード・ギャレットか。というのも標題「トレイル・オブ・ティアズ」(涙の旅路)とはチェロキー族の大移動を意味するが、レッドバードはそのチェロキー族の末裔。被害者の脱出のために密かに活躍するからである。
事件 高名な脳外科医キーンが軽飛行機で海中に飛び込んだ。一見自殺のようで、100%自筆という遺書も見つかった。しかしキーンは拉致され、国立人間資源研究所で秘密に作られたクーロン人間の脳手術を依頼されたのだ。この陰謀に気づいた上院議員らは……。
背景 元傭兵クリーシィ・シリーズで有名なクィネルが2年の沈黙後に書いたハイテク・スリラー。冒険シーンの描写にはやはり目を見張るものがあるが、クリーシィ物の方が安心して楽しめる。

邦題 『淑やかな悪夢 英米女流怪談集』
原作者 倉阪鬼一郎・南條竹則・西崎憲編
原題 独自の編集
訳者 倉阪鬼一郎・南條竹則・西崎憲
出版社 東京創元社
出版年 2000/10/30
面白度 ★★★
主人公 ”英米女流”とあるが、収録された12本の作品のうち10本は英国女性作家の作品。やはり怪奇小説は英国が主流なのだろう。
事件 表題の短編はない。全体のイメージを現す題として採用されたようだ。こちらが面白いと感じた作品のみ記すと、パメラ・ジョンソンの「名誉の幽霊」。著者はC・P・スノウの妻だそうだが、ラストのオチがいい。マージョリー・ボウエンの「故障」は青春物、シンシア・アスキスの「追われる女」は精神分析物で、いずれも印象に残った。その他キャサリン・マンスフィールドの「郊外の妖精物語」やアメリア・エドワーズの「告解室にて」なども収録されている。
背景 読んでいるこちらの状況(精神的・物理的)によって、怖さ・面白さは変わってきてしまう。

邦題 『白鳥の歌』
原作者 エドマンド・クリスピン
原題 Swan Song(1947)
訳者 滝口達也
出版社 国書刊行会
出版年 2000/5/20
面白度 ★★★★
主人公 オックスフォード大学の名物教授ジャーヴァス・フェン。40歳過ぎのすらりとした背の高い男。愛車は赤の小型スポーツ・カー、リリイ・クリスティン。
事件 歌手としては一流だが、人間としては最低な男ショートハウスが、初日が近づいたある夜、歌劇場の楽屋で首吊り死体で発見された。現場は密室状態であったが、周りには奇行の作曲家や恋敵の歌手、彼に虐げられていた新人指揮者など、容疑者はたくさんいたのだ。
背景 面白い。確かに1940年代後半のクリスピンの作品は良い。トリックは機械的なもので、これだけでは面白い作品にはなりえないが、会話がユーモラスでシャレていて(しかもスノビズムも感じられなくて)楽しい。ファースも、カーほど泥臭くないのは、やはり人柄・教養の故か。

邦題 『永久の別れのために』
原作者 エドマンド・クリスピン
原題 The Long Divorce(1951)
訳者 大山誠一郎
出版社 原書房
出版年 2000/10/5
面白度 ★★★
主人公 オックスフォード大学の教授ジャーヴァス・フェン。本作では警察署長バビントン大佐の要請により、偽名を名乗って村に入って調査をする。
事件 資産家の独身女性が、中傷の手紙を苦にして自殺した。その現場には手紙の燃えさしがあったが、封筒は見つからなかった。そして数日後、そのことを調査していた男の死体が発見された。犯行現場近くには、自殺した資産家の遺産相続人がいたため……。
背景 クリスピンは、この作品を最後に26年間の沈黙に入ってしまった。これまでに読んだクリスピン作品の中では一番出来が悪かった。フェンが前面に出て捜査するわけではないので、ユーモアがあまり冴えないのも一因であろう。それほど”トーンが暗い”わけではないが。

邦題 『救いの死』
原作者 ミルワード・ケネディ
原題 Death to the Rescue(1931)
訳者 横山啓明
出版社 国書刊行会
出版年 2000/10/5
面白度 ★★
主人公 いない。強いて挙げれば、第一部の手記の著者であるグレゴリー・エイマーか。裕福な地主。中年の独身男性。ただしサエない人物。
事件エイマーは、ある日、ひっそりと生活している隣人がかつて華麗なアクロバットで人気のあった映画俳優のビーヴァーによく似ていることに気づいた。そこで独自の調査を始めると、役者修業時代に殺人事件の裁判に関係していた、などという忌まわしい過去が明らかになったのだ。
背景 「アントニー・バークリー殿」という序文があるので有名な作品。明らかにバークリーの『第ニの銃声』を意識して書かれている。プロット重視派であるのはわかるが、本作では、本物の探偵がいないために、事件が勝手に解決している。残念ながらコクもキレもない平凡作。

邦題 『死者と影』
原作者 ポーラ・ゴズリング
原題 Death And Shadows(1998)
訳者 山本俊子
出版社 早川書房
出版年 2000/1/31
面白度 ★★★
主人公 理学療法士のローラ・ブランドン。一度結婚に失敗している。謎を解決するのは入院患者で元刑事のトム・ギリアム。ストライカー警部補の部下だった。
事件 ローラはブラックウォーター・ベイ郊外の病院に就職した。病院近くの森の中で殺された友人の理学療法士の死の真相を探ろうという魂胆があったからだ。病院内部には複雑な人間関係があったが、森の中を徘徊する謎の人物が噂に登っていた。内部の犯行なのか、外部なのか?
背景 サスペンス+ロマンス+謎解きからなる小説。誰が犯人であるかを隠すテクニックはさすがに上手い。主人公のローラは、明るくて活気があるものの、少し考えが足りなく、カッコイイ男性に憧れる女性として描写されている。話を面白くためであろうが、やはりちょっと不満。

邦題 『一瞬の光のなかで』
原作者 ロバート・ゴダード
原題 Caught in the Light(1998)
訳者 加地美知子
出版社 扶桑社
出版年 2000/2/29
面白度 ★★★
主人公 プロの英国人カメラマンのイアン・ジャレット。妻子がいる。
事件 イアンは仕事で真冬のウィーンを訪れた。そこで彼は、マリアン・エスガードと名乗る英国人女性と知り合い、一目惚れする。不倫であったが、二人は激しく愛し合った。二人は家庭を捨てる約束をし、マリアンは一足先に英国に帰った。帰国後のイアンは妻子に別れを告げるとともに、ウィーンの写真を現像したが、フィルムにはなにも写っていなかった。マリアンは実在したのか?
背景 一目惚れの話はよくある手とはいえ、語り口が上手いので、冒頭から物語に引き込まれてしまう。著者の実力がよくわかる設定ともいえる。やがて写真技術発達史の話が入るが、理系人間の私にはこれも面白かった。これで、イアンに魅力が感じられれば良かったのだが。

邦題 『夫と妻』上下
原作者 ウィルキー・コリンズ
原題 Man and Wife(1880)
訳者 松宮園子他
出版社 臨川書店
出版年 1999/12/15、2000/2/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ならず者の一生、幽霊ホテル ウィルキー・コリンズ傑作選第2巻』
原作者 ウィルキー・コリンズ
原題 A Rogue's Life & the Haunted Hotel(18 561 878)
訳者 甲斐清高・板倉厳一
出版社 臨川書店
出版年 2000/4/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『バジル ウィルキー・コリンズ傑作選第1巻』
原作者 ウィルキー・コリンズ
原題 Basil(1852)
訳者 北川依子・宮川美佐子
出版社 臨川書店
出版年 2000/6/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『法と淑女 ウィルキー・コリンズ傑作選第11巻』
原作者 ウィルキー・コリンズ
原題 The Law and The Lady(1875)
訳者 佐々木徹
出版社 臨川書店
出版年 2000/9/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『偽りの原子炉』
原作者 ガイ・スタンリー
原題 TOKIO-nuclear nightmare(1999)
訳者 中埜有理
出版社 毎日新聞社
出版年 2000/2/25
面白度 ★★★
主人公 フリーのジャーナリストのアダム・バックリー。三流週刊紙に記事を書いている。元は大新聞社の記者であったが、政府の秘密情報の漏洩に関係したとして辞めた。日本人妻とも離婚。
事件 バックリーは友人の斎藤をロンドンに訪ねた。彼は大企業の特別プロジェクトの主任で、バックリーに重要なファイルを手渡したいといっていた。その彼がバックリーと会う前に運河で水死した。警察は事故死と考えたが、バックリーは疑問視して調査を始めた。やがてこの事件には日本のヤクザが関係し、日本の原子力行政が係わっていることがわかったのだ。
背景 日本語が堪能な英国人の書いたミステリー。風俗描写などには違和感はない。社会派ミステリーだが、バックリーが派手な活躍をすることもあり、ちょっと通俗的すぎるのが残念。

邦題 『カーラのゲーム』上下
原作者 ゴードン・スティーヴンズ
原題 Kara's Game(1996)
訳者 藤倉秀彦
出版社 東京創元社
出版年 2000/1/28
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『箱ちがい』
原作者 ロバート・ルイス・スティーヴンスン&ロイド・オズボーン
原題 The Wrong Box(1889)
訳者 千葉康樹
出版社 国書刊行会
出版年 2000/9/5
面白度 ★★★★
主人公 特にいない。強いて挙げれば、叔父ジョゼフと甥マイケル(著名な事務弁護士)。
事件 最後に生き残った人が年金を受け取るトンチン年金組合。生き残りは二人になったが、その一人のジョゼフが鉄道事故に遭った。事故現場で死体を見つけた甥たちは、叔父が生きているように見せかけようと、死体を樽に詰めてロンドンに送るが……。
背景 ミステリーを扱ったミステリーということで、現代風に言えば”メタ・ミステリー”ということになるそうだ。確かにミステリーを茶化している部分がある。でも、死体をあっちに運んだり、こっちに送ったりするファースの部分がもっとも面白い。スティヴンスンの異色作であることは間違いない。ホームズ出現の2年後に、このようなスタイルの作品が書かれたという事実にはビックリする。

邦題 『Mr.クイン』
原作者 シェイマス・スミス
原題 Quinn(1999)
訳者 黒原敏行
出版社 早川書房
出版年 2000/8/31
面白度 ★★★★
主人公 ジェラード(ジャード)・クイン。犯罪プランナー。妻と息子二人がいるが、愛人もいる。妻の姉が新聞記者なので、尻尾をつかまれそうになる。
事件 クインは、麻薬王のブレーンとして計画を立てるのが仕事だった。しかし今回の仕事は大変。裕福な不動産業者の一家を事故死に見せかけて殺し、全財産を乗っ取ろうというのだ。
背景 究極のアンチ・ヒーローというふれこみだが、確かにそれに相応しい人物。まずかなり頭がいい。情報収集はもちろん、予防措置も怠りない。このあたりは伏線を張ることと似ていて、読んでいて楽しくなる。ただしコンゲームではなく人を殺してでも財産を乗っ取ろうとする話なので、オリジナリティは認めるものの、読後のカタルシスは、やはりちょっと不足している。

邦題 『キリング・フロアー』上下
原作者 リー・チャイルド
原題 Killing Floor(1997)
訳者 小林宏明
出版社 講談社
出版年 2000/7/15
面白度 ★★★
主人公 元陸軍軍人のジャック・リーチャー。36歳。半年前に軍人を辞めて自由な放浪の旅に出ていた。南部ジョージア州の小さな町で、兄ジョーの死体に遭遇する。
事件 その町を偶然訪れたリーチャーは、身に覚えのない殺人容疑で逮捕・監房に収監された。だが女性巡査ロスコーのおかげで釈放されると、彼女とともに殺人事件の調査を始める。ところが被害者は財務省で通貨偽造を調査していた兄で、恐るべき陰謀が進行していたのだ!
背景 リーチャー・シリーズの第一作。このシリーズは英米では評価が高く、本作も1998年度アンソニー賞の最優秀処女長編賞を受賞している。迫力ある活劇描写や偽札の謎などは確かに魅力あるものだが、ご都合主義が多発するプロットには、少し辟易する。

邦題 『黒い蘭の女』
原作者 ランキン・デイヴィス
原題 The Right to Silence(1996)
訳者 皆川孝子
出版社 徳間書店
出版年 2000/4/1
面白度 ★★
主人公 テレビ・ジャーナリストのベサニー(ベス)・ギャンブル。レイプされた経験がある。
事件 レイプの容疑者ばかりを狙った猟奇的な殺人事件がロンドンで起きた。現場には一輪の黒い蘭の花が残されていた。ベスは自ら事件捜査の囮になるものの、逆にレイプ犯殺害の容疑者になってしまう。真犯人を探すためギャンブルは一人で闘いを始めた。
背景 著者の第一作。二人の合作だそうだ。メッセージ性が強く出ている。そのうえプロットが優れていれば、ミステリーとしては強味になるが、残念ながらそこまでのテクニックは持っていないようだ。セカンド・レイプの残酷さ、裁判のあやふやさなどを訴える点においては、まあまあ成功といってよいかもしれないが、ベスに惹かれることもないし、プロットも平板。

邦題 『鋼鉄の軍神』
原作者 リンゼイ・デイヴィス
原題 The Iron Hand(1992)
訳者 田代泰子
出版社 光文社
出版年 2000/7/20
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのマルクス・ディディウス・ファルコ。シリーズ物の第4作。
事件 ローマ帝国は、イギリスから小アジアまで勢力を拡大していたが、ライン河を越えた地ゲルマニアには手を焼いていた。女司祭が支配していてローマに従わなかったのだ。愛するヘレナと暮らすには膨大なお金を必要とするファルコは、その女司祭が服従するよう説得する役目をお金のために引き受けたのだ。前途にはとんでもない難関が待ち受けていることも知らずに……。
背景 今回は歴史小説と冒険小説をミックスしたような構成で、ミステリー色はいたって少ない。著者は歴史を勝手に改変するのを嫌って史実に忠実に書いたそうなので、最初はちょっと不安があったが、冒険小説として楽しめた。ただかなり厚くなった分、面白さの密度は落ちている。

邦題 『悔恨の日』
原作者 コリン・デクスター
原題 The Remorseful Day(1999)
訳者 大庭忠男
出版社 早川書房
出版年 2000/10/31
面白度 ★★★★★
主人公 お馴染みのモース主任警部。糖尿病でインシュリンを射っている。
事件 退職を控えた上司のストレンジ主任警視は、病気療養中のモースを訪ねてきた。そして未解決事件にけりを付けたいので、看護婦が全裸死体で見つかった事件の担当を命じたのだ。最近匿名の情報提供があったための期待であったが、何故かモースは消極的だった。
背景 本のオビには「モース最後の事件」とある。この最後とは、モースが亡くなることを意味する。モースが亡くなるのだから、物語に特別な仕掛けが入っているかと予想したが、あまり凝った構成にはしていない。それがかえってモースの人間性を現しているようで共感を呼ぶし、終盤は、大袈裟にいえば、涙無くしては読み切れないだろう。哀悼の意を表して★をプラス1。

邦題 『鳥』
原作者 ダフネ・デュ・モーリア
原題 The Apple Tree(Kiss Me Again Stranger)(1952)
訳者 務台夏子
出版社 東京創元社
出版年 2000/11/17
面白度 ★★★★
主人公 本短編集は、すでに『林檎の木』(1953年、ダヴィッド社)や『鳥』(1963年、早川書房)として刊行されているが、今回は完訳版なので、本リストに含めた。8本が収録されている。
事件 冒頭の「恋人」は、真面目な青年が映画館の案内嬢に恋したがために、という展開で恐ろしい結末が用意されている。「鳥」はあまりに有名な短編。その他「写真家」、「モンテ・ヴェリタ」(ちょっと長いがファンタジックな話)、「林檎の木」、「番」(小品だが、ラストのツイストが絶品)、「裂けた時間」(冒頭の不可思議が面白い)、「動機」(ミステリーとして楽しめる)。
背景 デュ・モーリアはスゴイとしか言いようがない。怪奇小説からミステリーまで取り揃えているが、それぞれが実に完成度が高い。不足しているものがあるとすればユーモアぐらいか。

邦題 『ドイル傑作選Uホラー・SF篇』
原作者 コナン・ドイル
原題 Best Collection of Arthur Conan Doyle U(2000)
訳者 北原尚彦・西崎憲
出版社 翔泳社
出版年 2000/2/1
面白度 ★★
主人公 落ち葉拾いのように、ドイルの短編を集めたアンソロジーの第ニ弾。標題どおり、ホラーとSF的な作品を集めている。別のアンソロジーに入っている作品もある。14本収録されている。
事件 トップは「大空の恐怖」。大空に怪獣が飛んでいたという話で、かなり有名なもの。確かフォーサイスの『翼を愛した男たち』にも収録されている。大蛇の出てくる「樽工場の怪」も比較的名高い。その他ホラーは、「北極星号の船長」、「競売ナンバー249」、「銀の斧」。SF的な作品は、「地球の悲鳴」、「分解機」、「ロスアミゴスの大失策」、「危険!」、「火あそび」、「いかにしてそれは起こったか」、「ヴェールの向こう」、「トトの指環」、「ジョン・バリトン・カウルズ」。
背景 「銀の斧」は初訳。ストーリー・テラーであることは間違いないが、アイディアは平凡。

邦題 『シャーロック・ホームズのドキュメント』
原作者 ジューン・トムスン
原題 The Secret Documents of Sherlock Holmes(1997)
訳者 押田由紀
出版社 東京創元社
出版年 2000/2/25
面白度 ★★
主人公 偽のシャーロック・ホームズ。パロディではなく、贋作である。シリーズ化しており、本書はその4作目。贋作7本が収録されている。
事件 題名は以下のとおり。「エインズワース誘拐事件」、「並木通りの暗殺者」(ホームズの兄のマイクロフトが頼みにきた事件)、「ウインブルドンの惨劇」、「フェラーズ文書事件」、「ヴァチカンのカメオ」、「女家庭教師の謎」(謎は面白かった)、「赤い蛭」(復讐物)。
背景 本シリーズの特徴は、”語られざる事件”を扱っている点と、なぜ語られざる事件になったのか(つまり結末に問題があり公表できなくなった理由)が説得力をもって語られていることである。贋作としての雰囲気は悪くないのだが、謎の設定も結末も平凡。

邦題 『交戦空域』
原作者 ジョン・ニコル
原題 Exclusion Zone(1998)
訳者 村上和久
出版社 二見書房
出版年 2000/4/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ジョン・ランプリエールの辞書』
原作者 ローレンス・ノーフォーク
原題 Lampriere's Dictionary(1991)
訳者 青木純子
出版社 東京創元社
出版年 2000/3/25
面白度 ★★★
主人公 ジョン・ランプリエール。ジャージー島生まれで、神話を愛する青年。遺産の問題でロンドンに出向いたことにより、事件に巻き込まれる。病気の療養を兼ねて固有名詞辞典を執筆。
事件 18世紀のジャージー島。ジョンの父は、美少女の水浴姿を見たために猟犬に噛み殺されてしまった。ジョンは遺産相続のためロンドンに出た。そしてさまざまな経験を積んでいく。
背景 なんともスゴイ小説というのが第一印象。博覧強記な内容なのに、28歳頃に書き上げた作品というのだがら驚きだ。殺人事件も出てくるが、歴史ロマン(冒険)小説か。サー・ジョンに「エレメンタリー、……」と言わせるユーモアもある。ローマ・ギリシャ神話が当然のようにでてくるが、これが私にはコマッタ君だった。教養がないと、さすがにすべては楽しめない。

邦題 『サイロの死体』
原作者 ロナルド・A・ノックス
原題 The Body in the Silo(1933)
訳者 澄木柚
出版社 国書刊行会
出版年 2000/7/25
面白度 ★★★
主人公 保険会社の探偵マイルズ・ブリードン。妻はアンジェラで、マイルズを助ける。
事件 ブリードン夫妻は、ヘレンフォードシャーに住むハリフォードからパーティーの招待を受けた。サイロも農場のある屋敷であったが、到着した夜には車を使った追いかけっこ<駆け落ち>ゲームが行なわれた。ところが翌朝サイロで死体が見つかったのだ。窒息死で、一見事故のように見えたが、現場に居合わせたブリ―デンが捜査に協力することになった。
背景 ノックスは有名な「ノックスの十戒」を1929年に発表している。本書はその後に書かれた最初の作品であったからか、それに則ったガチガチの本格物である。死体移動トリックなどには感心したものの、プロットが複雑すぎるきらいがある(単に歳のせいで理解力が落ちただけ?)。

邦題 『国会議事堂の死体』
原作者 スタンリー・ハイランド
原題 Who Goes Hang ?(1958)
訳者 小林晋
出版社 国書刊行会
出版年 2000/1/20
面白度 ★★★★
主人公 ヒューバート・ブライ。国会議員で、30歳にも満たない少壮政治家。
事件 英国国会議事堂の時計塔ビッグ・ベンの改修工事中、壁の中からミイラ化した死体が見つかった。着衣などから百年前のものと推定されたが、残っていた時計蓋に描かれていた仮面の絵が、ブライの選挙区にある館の門柱の図案と一致したため、ブライは調査委員会を組織し、謎の解明を始めた。やがて議事堂建設時の秘話が明らかになるが、一枚の金貨によって……。
背景 委員会が作られるまでの導入部が巧み。その後は学術的な推理合戦となる。ビッグベンが建てられた当時の状況は興味深いが、サスペンスはあまりない。しかし、たった一枚の金貨からそれまでの推理が崩れていくプロットは、確かにミステリーの面白さを堪能させてくれる。

邦題 『大聖堂の悪霊』
原作者 チャールズ・パリサー
原題 The Unburied(1999)
訳者 浅羽莢子
出版社 早川書房
出版年 2000/9/30
面白度 ★★★
主人公 ケンブリッジ大学で歴史を教えているエドワード・コーティン。手記の著者で、40代。
事件 1880年代のイングランド。コーティンは旧友に招かれて、大聖堂のあるサーチェスターを訪れた。そして旧友から、250年前に殺人事件がここで起き、その被害者は幽霊となっていまでもさまよっているという話を聞く。ところが数日後、知り合ったばかりの老銀行家が殺されたのだ。過去の殺人となにか関係があるのだろうか? 『五輪の薔薇』の著者の翻訳第ニ作。
背景 雰囲気はいいのだが、やはり読みにくい。1880年代の手記で過去の事件を解決し、さらに編者のあとがきで、現在の事件を解決するという”はなれわざ”はいいのだが、本当にミステリーを書きたかったのか疑問が残るからだ。ミステリーなら、もっと読者を騙せると思うが……。

邦題 『アルハンゲリスクの亡霊』上下
原作者 ロバート・ハリス
原題 Archangel(1998)
訳者 後藤安彦
出版社 新潮社
出版年 2000/5/1
面白度 ★★
主人公 英国人歴史学者のクリストファー・ケルソー。オックスフォード大学の講師を辞めてニューヨークに移住した。三度結婚している。
事件 モスクワに滞在中のケルソーは、突然ベリアの警備員をしていた老人の訪問を受けた。そして彼は、スターリンが残した秘密文書があり、それを隠したと語った。興味を持ったケルソーは、老人の娘の協力を得て、その秘密ノートを見つけた。スターリンに仕えた少女の日記だった。
背景 著者の三作目の邦訳。一作目は奇想天外なパラレルワールド物、二作目はノンフィクション的な話であったが、今回はそれを足して2で割ったような作品。前半は迫真力があって読ませるが、後半は伝奇小説のような話の展開となり、どっちつかずな印象を持ってしまう。

邦題 『他言は無用』
原作者 リチャード・ハル
原題 Keep It Quiet(1935)
訳者 越前敏哉
出版社 東京創元社
出版年 2000/11/24
面白度 ★★★
主人公 特にいないが、挙げるとすれば、弁護士のカードネルかクラブ幹事のレナード・フォード。
事件 ロンドンのホワイトホール・クラブの料理長が、特製スフレを作っているときに誤って過酸化水銀を使ったかもしれないと幹事に報告した。なるほどそれを食べた会員は死亡していた。フォードは心臓障害で死亡という手を打ったが、まもなく奇妙な脅迫状が舞い込み始めたのだ。
背景 クラブが舞台というだけで、典型的な英国ミステリーということがわかる。登場人物がいかにもイギリス人といった人間ばかり。頑固な老人がいるかと思えば、やたら細部に拘る人もいる。ブラック・ユーモアを利かせた語り口は好調である。前半の脅迫者は誰かという展開が、後半倒叙物になってしまう。この転換はあまり成功していないし、ラストの捻りも意外性に欠けている。

邦題 『納骨堂の多すぎた死体』
原作者 エリス・ピーターズ
原題 A Nice Derangement of Epitaphs(1965)
訳者 武藤崇恵
出版社 原書房
出版年 2000/2/29
面白度 ★★★★
主人公 フェルス一家。父ジョージは犯罪捜査部の警部、母はバンティ、息子はドミニク。ただし本書でもっとも活躍するのはロサル夫妻の息子で、15歳のパディ。
事件 200年ぶりにトレヴェッラ家の納骨堂が開けられることになった。ところが石蓋の下には、領主夫妻の遺体ではなく、死後間もない庭師と数年前の死体が見つかったのだ。フェルス一家は休暇でこの地に来たが、ドミニクがパディと親しくなったことから、事件と係わることになった。
背景 シリーズ物としては『死と陽気な女』がすでに邦訳されている。無いはずの死体がニ体も見つかった謎は比較的簡単に解決している。犯人の意外性を含めて物足りなさを感じるが、著者はミステリーと同等にパディの成長物語を書きたかったのであろう。パディと実の親、育ての親との関係が、印象深く描かれている。いまやこのように素直な少年は存在しないだろうが。

邦題 『大統領の娘』
原作者 ジャック・ヒギンズ
原題 The President's Daughter(1997)
訳者 黒原敏行
出版社 角川書店
出版年 2000/9/25
面白度
主人公 お馴染みの英国情報部のトラブル解決要員のショーン・ディロン。シリーズの第6作。
事件 現在のアメリカ大統領はかつてベトナムで運命的な恋愛をした。20数年後、その別れた恋人との間に娘がいることを知らされた。だがこの秘密を知ったイスラエルの過激派は娘を誘拐し、娘の命の代わりに、中東三国を空爆せよと脅迫したのだ。このような絶対絶命の危機にいる大統領を救うべく、ディロンにある任務が与えられたというわけである。
背景 大統領には隠れたる娘がいた、という設定からして荒唐無稽だが、その娘を誘拐した脅迫者グループもチャチな組織。また秘密が漏れる過程も実に安易。プロットに捻りがほとんどない。山がなくて物語が終ってしまう。最初と最後のヒギンズ節が多少楽しめるだけである。

邦題 『最低の犯罪』
原作者 レジナルド・ヒル
原題 The Worst Crime Known to Man and Other Stories(2000)
訳者 宮脇孝雄他
出版社 光文社
出版年 2000/5/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ベウラの頂』
原作者 レジナルド・ヒル
原題 On Beulah Height(1997)
訳者 秋津知子
出版社 早川書房
出版年 2000/6/30
面白度 ★★★
主人公 ダルジール・シリーズの一冊だが、活躍するのは、彼の部下である主任警部ピーター・パスコーや部長刑事エドガー・ウィールド、刑事シャーリー・イヴェロなど。
事件 15年前、ダム工事で湖底に沈む村で三人の少女が行方不明となった。そのうえ最有力容疑者と思われた青年ベニーも消えてしまった。事件は迷宮入りとなったのである。そして現在、村人たちが移り住んだ町で再び少女失踪事件が起きた。ダルジールは雪辱を期して捜査にあたる。
背景 早川ポケミス最長の作品。さすがに長さを感じてしまう。特に中盤(第二章と三章)はもっと刈り込める気がする。相変わらずユーモアをうまく使っているが、いつもより控え目である。悲劇性を強調したいためか。パスコー夫妻に比べて、ダルジールの影が薄くなったのが残念。

邦題 『スパンキイ』
原作者 クリストファー・ファウラー
原題 Spanky(1994)
訳者 田中一江
出版社 東京創元社
出版年 2000/12/22
面白度 ★★★
主人公 マーティン・ロス。23歳。家具屋の店員という平凡な男。
事件 マーティンは、ある夜奇妙な男に出会った。「守護精霊」のスパンキイと名乗り、マーティンの人生を軌道修正してあげるといった。誘いに乗ってみると、翌日には一流レストランでモデルとブランチできたり、昇進できたのだ。だがうま過ぎる話には裏があり――。
背景 英国カルト作家のモダン・ホラー小説。「フル・モンティ」や「トレイン・スポティング」の映画製作に係わった会社の社長だそうだ。アメリカ嫌いで、尊敬する作家はサキという。奇妙な味があるのはそのあたりからか。スパンキイが徐々に本性を現す過程は巧みに語られている。モダン・ホラーらしい血みどろ場面も登場する。ミステリー・ファンとしては結末にもう一捻りほしかったが。

邦題 『さまよえる未亡人』
原作者 エリザベス・フェラーズ
原題 The Wandering Widows(1962)
訳者 中村有希
出版社 東京創元社
出版年 2000/9/22
面白度 ★★
主人公 ロビン・ニコル。新しい会社に就職するまでの休暇をスコットランドで過すことにした。34歳の独身。謎の女性シャーロットに好意を持つ。
事件 ロビンは旅行中に個性的な有閑マダム4人と知り合いになった。ところがマル島で中の一人が殺され、ロビンは事件に巻き込まれた。謎の女性と事件との係わりは?
背景 著者の中期の作品。トビーとジョージが探偵役となる初期作品は、世評が高いわりには私は楽しめなかったが、中期のこの作品も、いまいち楽しめない。どうも語り口が私の肌に合わないようだ。容疑者でもあり被害者でもある中・老年女性群の描き分けができていないので、何回も登場人物表を見る始末。ロビンにもさして魅力が感じられない。トリックはまあまあだが。

邦題 『マンハッタンの怪人』
原作者 フレデリック・フォーサイス
原題 Hide and Seek(1996)
訳者 篠原慎
出版社 角川書店
出版年 2000/2/25
面白度 ★★
主人公 怪人のエリク・ムルハイム。パリからニューヨークに密入国。初めは盗みなどで金を貯め、遊園地の設計などで金を儲ける。やがて株に手を出し、巨万の富を得る。
事件 19世紀末、パリのオペラ座の地下で生活していた怪人がいた。彼はオペラ座の歌姫を恋したため人生が変わってしまったのだ。そして13年後、アメリカに脱出した怪人は、ニューヨークを支配する陰の実力者になっていた。そこに一通の手紙が届いたのだ。
背景 オペラ座の怪人がマンハッタンの怪人になるアイディアは面白いが、所詮それだけの作品。プリマドンナとの愛の物語であるが、ホラー的要素をなくし、立身出世という情報味を加えているのが、いかにもフォーサイスらしい。ミステリーらしい趣向はほとんどないのが残念。

邦題 『ハンマー・オブ・エデン』
原作者 ケン・フォレット
原題 The Hammer of Eden(1998)
訳者 矢野浩三郎
出版社 小学館
出版年 2000/12/1
面白度 ★★★
主人公 リチャード・グレインジャー。<プリースト(祭司)>と呼ばれる。シリコン・リバー・バレーに暮らすコミューンのリーダー。文盲だが、暗算は速く、記憶力も抜群。
事件 プリーストは、石油探査に用いられる振動機で地震を発生させることを考えた。そしてカリフォルニア州知事に脅迫状を送り、発電所開発中止をせまったのだ。自分のコミューンがダム建設により埋没するためであったが、FBIもプリーストの捜査を開始し……。
背景 ちょうどEQ誌で書評を始めた頃にデビューした作家だから、20年以上付き合っていたことになる。今回は初めて小学館から翻訳された。相変わらず筆力は衰えていない。展開はだいたい予想がつき、また無理な設定だと思うのだが、それでも一気に読まされてしまう。大したものだ。

邦題 『烈風』
原作者 ディック・フランシス
原題 Second Wind(1999)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 2000/7/15
面白度 ★★★
主人公 気象予報士のペリイ・ステュアート。31歳の独身。両親は事故死し身よりは祖母のみ。
事件 ペリイは、同僚とともにカリブ海でハリケーンの目を飛行機で横断することに成功した。だがその帰途、飛行機は海上に不時着し、ペリイはどうにか無人島に泳ぎついた。そして奇妙な服を着た人達に助けられイギリスに戻ることが出来たが……。
背景 この数作のフランシス作品の中では、比較的出来のよいプロット。核爆弾材料の取引きを巡る犯罪に、ハリケーンに挑む冒険飛行を結びつけた着想は悪くはない。ただし各シーンの描写は上手いのに、全体の物語はギクシャクした展開となっている。そのあたりのブラッシュ・アップが少し不足しているのは、やはり著者のエネルギーが枯渇しつつあるためか。

邦題 『屍人配達人』上下
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 The Profiler(1997)
訳者 真野明裕
出版社 新潮社
出版年 2000/9/1
面白度 ★★★
主人公 ユーロポール特捜班の心理分析官クローディーン・カーター。父(イギリス人)は亡くなり、母(フランス人)はレストランを経営しているが、癌に侵されている。
事件 若い女性の生首がセーヌ川の遊覧船の舳先にぶら下がっていた。やがて欧州各地でバラバラ死体の一部が発見された。クローディーンは、この猟奇事件に取り組んだ。だが似たような事件が続発したのだ。各事件の共通の特徴を調べ、クローディーンは犯人像を絞っていった。
背景 冒頭は典型的なサイコ・スリラーだが、以後はクローディーンを巡る人間劇、職場での権力争いといったテーマを扱っている。前作『屍泥棒』に比べると母親との関係などは詳しく書かれていて、クローディーンの人間味を出すよう工夫されているが、マフィンほどには魅力を感じない。

邦題 『マンチェスター・フラッシュバック』
原作者 ニコラス・ブリンコウ
原題 Manchester Slingback(1998)
訳者 玉木享
出版社 文藝春秋
出版年 2000/7/10
面白度 ★★
主人公 マンチェスターの不良少年であったジェイク・パウェル。現在はロンドンのカジノの支配人。バイセクシャルでもある。
事件 ジェイクは、マンチェスター警察のグリーン警部の訪問を受けた。15年前男娼が惨殺、その死体が郊外の荒地で発見されたという事件があったが、同じ手口の殺人事件が起きたので捜査の手伝いを頼まれたのである。なんと被害者二人は、彼が男娼をしていた時の仲間だったのだ!
背景 1998年のCWAシルヴァー・ダガー賞受賞作。マンチェスターの暗黒街で生きるドラッグ世代の若者やゲイの少年たちの生き様をリアルに描いているのにはビックリ。確かに風俗小説としては興味深いものの、ミステリ小説なら事件の捜査や謎についても相応に書いて欲しい。

邦題 『死体のない事件』
原作者 レオ・ブルース
原題 Case without a Corpse(1937)
訳者 小林晋
出版社 新樹社
出版年 2000/3/24
面白度 ★★★
主人公 ブラクサム署の巡査部長ウィリアム・ビーフ。ワトソン役はタウンゼント。
事件 タウンゼントはロンドン近郊の州にあるブラクサムという田舎町に滞在していた。ビーフがこの地の担当であったからだ。ところが<司教冠>亭のパブで二人が飲んでいると、この町に来て5年ぐらいの青年が入ってきた。そして大声で「自首しに来た。人を殺したんだ」言いながら、小さなビンの中身を飲み干して、痙攣しながら死んでしまったのだ。
背景 この出だしは面白いし、ユニークだ。そこから被害者を探すという謎が提示されるからである。そして被害者らしき人物が4人ほど俎上にのせられる。とぼけたユーモアや、スコットランド・ヤード警部との対比などは楽しめるが、謎解きはイタダケナイ。バカミスか?

邦題 『結末のない事件』
原作者 レオ・ブルース
原題 Case with No Conclusion(1939)
訳者 小林晋
出版社 新樹社
出版年 2000/9/25
面白度 ★★
主人公 ウィリアム・ビーフ。警察を辞め、ロンドンのベイカー街の近くで私立探偵を開業した。ほつれた生姜色の口髭がある。
事件 医者殺しの容疑で逮捕された兄を救ってほしいという青年がビーフの事務所にやってきた。私立探偵ビーフの初めての事件だが、数々の証拠から容疑は動かしがたかった。調査をすると新しい手掛かりも見つかったものの、裁判では死刑が宣告され、なんと処刑されてしまったのだ。
背景 社会派ミステリーならともかく、謎解きミステリーでこの結末では、読後のカタルシスが少なくて不満が残る。”○○による殺人”という設定は魅力的なのだが。本当に優れた作品ならば、毀誉褒貶があろうとも、そのようなことには関係なく、生き続けるであろう。

邦題 『死ぬためのエチケット』
原作者 シーリア・フレムリン
原題 A Lovely Day to Die(1984)
訳者 田口俊樹
出版社 東京創元社
出版年 2000/10/20
面白度 ★★★
主人公 ドメスティック・スリラーが得意な著者の短編集。13本が収録されている。
事件 収録作は「死ぬにはもってこいの日」(母親を殺す夢を見たが……)「危険なスポーツ」「高飛び込み」(心臓が悪いのに高飛び込みし……)「逞しい肩に泣きついて」「悪魔のような強運」「博士論文」(幽霊話を研究対象とする女性と知り合い……)「夏休み」「ボーナス・イヤーズ」(老嬢が船旅に出るが……)「何より必要な場合には」「死ぬためのエチケット」(夫がディナーで倒れ……)「すべてを備えた女」「テスト・ケース」「奇跡」(最後の一行がやはり良い)の13本。
背景 夫と妻の物語や老嬢が主人公の物語が多い。切れ味鋭い幕切れや軽妙な語り口があるわけではなく、レンデルのような怖さもないが、手堅くまとめられていて安心して楽しめる。シニカルな視点で描かれているものの、後味は悪くない。

邦題 『記憶の家で眠る少女』
原作者 ニッキ・フレンチ
原題 The Safe House(1998)
訳者 務台夏子
出版社 角川書店
出版年 2000/5/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『自殺じゃない!』
原作者 シリル・ヘアー
原題 Suicide Excepted(1939)
訳者 富塚由美
出版社 国書刊行会
出版年 2000/3/30
面白度 ★★★★
主人公 謎を解くのはロンドン警視庁のマレット警部だが、物語の中心人物は、死んだ老人(レナード・ディキンスン)の息子スティーヴン。探偵団を結成する。
事件 マレットは旅先で、ある老人と知り合ったが、翌朝その老人は死亡した。検死審問では睡眠薬の飲み過ぎで自殺となったが、彼の子どもたちは、自殺は考えられないと、アマチュア探偵団を結成して調査を始めた。すると確かに不審な人物がホテルにいたことがわかったのだ。
背景 いかにもヘアーらしい作品。ユーモアがあり、動機が法律に関係している(今回は保険契約に関するもの)。軽快なテンポで物語が語られているが、きちんとした謎解きミステリーで、フーダニットでは見事に騙されてしまった。多少アンフェアでもある、と負け惜しみを書いておこう。

邦題 『死者の靴』
原作者 H・C・ベイリー
原題 Dead Man's Shoes(1942)
訳者 藤村裕美
出版社 東京創元社
出版年 2000/8/25
面白度 ★★
主人公 弁護士のジョジュア・クランク。小柄だがふくよか。信心深い。どちらかというと悪徳弁護士タイプだが、正義感もある。ヴィクターとポリーを助手にしている。
事件 州警察の警部と密会していた少年が行方不明となり、やがて海から死体となって見つかった。クランクはこの事件の容疑者から弁護を依頼された。だが不動産業者が亡くなり、その未亡人が再婚した地元の名士も殺された。各事件には土地が関与していることがわかったのだ。
背景 著者の「フォーチュン物」ではない、もう一つのシリーズ物の一冊。この主人公に魅力を感じるかどうかで、評価がかなり異なるであろう。事件の裏でいろいろな操作をし、悪く言えば闇の帝王のような人物。書かれた当時は少なかったので衝撃があったのであろうが、今ではあたり前?

邦題 『ジグザグ・ガール』
原作者 マーティン・ベッドフォード
原題 The Houdini Girl(1998)
訳者 高田恵子
出版社 東京創元社
出版年 2000/10/27
面白度 ★★★
主人公 奇術師のフレッチャー・ブランドン。ローザと同棲している。28歳。
事件 ローザとの出会いはパブの内であった。ブランドンにとっては一目惚れであった。それから数時間後に二人はベッドインして、翌日には同居することになったのだ。それから一年後、公演旅行中の楽屋に、ローザが不可解な死を遂げたという知らせが入った。彼女の過去を調べ始めた。
背景 前半がいい。ブランドンがローザをどれほど愛していたか、せつせつと読者に伝わってくる。謎もありそうだということで、サスペンスも高まる。しかし後半舞台がアムステルダムに移ると、物語が単調になってくる。ローザの過去は予想がついてしまうからだ。ミステリーとしては捻りが足りないという不満が残る。まあ青春小説と考えれば、それなりに楽しめることは確実だが。

邦題 『トレント乗り出す』
原作者 E・C・ベントリー
原題 Trent Intervenes(1938)
訳者 好野理恵
出版社 国書刊行会
出版年 2000/6/20
面白度 ★★★
主人公 フィリップ・トレント。画家だが、≪レコード≫紙の社主の誘いで、特別調査員を勤める。トレントの活躍する12本の短編が収録されている。初訳は4本。1910−30年代の作品。
事件 収録作品は、「ほんもののタバード」(改訳で、「ほんものの陣羽織」という題で有名な短編。”黄金の12”にも入っている)、「絶妙のショット」(ゴルフ・ミステリー)、「りこうな鸚鵡」(これも有名な短編。晩餐中にいつもおかしくなる女性の謎を解く)、「消えた弁護士」、「逆らえなかった大尉」、「安全なリフト」、「時代遅れの悪党」、「トレントと行儀の悪い犬」(アリバイ・トリックが注目)、「名のある篤志家」、「ちょっとしたミステリー」、「隠遁貴族」、「ありふれたヘアピン」。
背景 クイーンの定員に選ばれている。ちょっとインパクト不足を感じるが、それが特徴かも?

邦題 『眠れぬ家』
原作者 タム・ホスキンス
原題 Peculiar Things(1999)
訳者 小津薫
出版社 講談社
出版年 2000/6/14
面白度
主人公 写真家の妻アンナ・スタッブス。養子なので実母を知らない。夫は首を吊って自殺。
事件 子供を授けられ幸福感に浸っていたアンナに、突然悲報が襲った。夫が自殺してしまったのだ。謎の死であったが、ショックを受け入れるため自然の中にある夫の実家に移り住んだ。だが誰もいないはずの屋敷には夫の兄弟が出入りし、夜中には奇妙な物音が……。
背景 ロマンス小説にサスペンスとサイコ味を混ぜた作品。まあ、読みやすいことだけが取り柄の作品。ミステリー的には、警察がほとんどなんの捜査もしないのがヒドイし、死んだと思われていた人物が生きていたというプロットもヒドイ。主人公が夫の実家に一人で住むというのも理解しにくい。この種の作品は、ただ単に若い女性を窮地に落とせばいいのであろうが……。

邦題 『鳥だけが見ていた』
原作者 J・ウォリス・マーティン
原題 The Bird Yard(1998)
訳者 布施由紀子
出版社 角川書店
出版年 2000/12/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『処刑の方程式』
原作者 ヴァル・マクダーミド
原題 A Place of Execution(1999)
訳者 森沢麻里
出版社 集英社
出版年 2000/12/20
面白度 ★★★★
主人公 バクストン署の警部ジョージ・ベネット。事件当時は30歳にもなっていなかった。
事件 1963年の冬、ダービーシャー州の寒村から13歳の少女が行方不明となった。ジョージは殺人事件と考え、死体がないまま、状況証拠から容疑者を逮捕し、裁判で死刑となった。そして30年後、その事件をノンフィクション作品として完成させたいという理由で、ジョージは面会を求められた。ジョージは活発に話をし、原稿はほぼ完成した。だが突然ジョージはその原稿の破棄を求めて、病に倒れてしまったのだ。何が状況を変えてしまったのか?
背景 基本的には警察小説であるが、物語構成に捻りがあり、これが意外性と謎解きの面白さを作り出している。長い作品だが、筆力があるので途中で飽きることはない。お勧め作品。

邦題 『迷路』
原作者 フィリップ・マクドナルド
原題 The Maze(1932)(米版はPersons Unknown)
訳者 田村義進
出版社 早川書房
出版年 2000/2/15
面白度 ★★★
主人公 退役軍人のアントニー・ゲスリン大佐。193X年7月、休暇で英国を離れている。
事件 ロンドンの高級住宅地にある屋敷で、当主のブラントンが殺されているのを秘書が発見した。午前2時半頃であり、屋敷の鍵はきちんと掛かっていた。犯人は、屋敷内に泊まっていた10人の中にいるのは確実だった。CID副総監は、検視官の訊問と証言の逐語的報告書をゲスリン大佐に送り、犯人を見つけてほしいと依頼したのだ。
背景 証言だけで物語を構成した作品。これは読者と作者の推理合戦をするには最適な形式(パズル小説)といってよい。作者の仕掛けは最後の方にあるので、そこまで集中力を維持できるかどうか。不満をいえば、名探偵が悩むことなく、あっさり謎を解いてしまうことだろう。

邦題 『騙し絵の檻』
原作者 ジル・マゴーン
原題 The Stalking Horse(1987)
訳者 中村有希
出版社 東京創元社
出版年 2000/12/15
面白度 ★★★★
主人公 ビル・ホルト。幼なじみを殺したとして投獄された。≪グレイストン≫社の株を持っているので、出所しても生活に困ることはない。
事件 状況証拠は完璧に近かったが、ビルは無実だった。事件から16年後、ホルトは仮釈放を認められて出所した。彼の目的は復讐であり、真犯人を探し始めた。自分を陥れたのは誰か?
背景 物語は、主人公が自らの汚名を晴らそうというハードボイルド・タッチで展開するが、謎解きミステリーなので主人公にやすやすと感情移入はできない。これは痛し痒しの問題であろう。発想を逆転させるというメインのトリックは面白いし、アリバイ・トリックもまあまあ。現在の謎解きミステリーとしては、確かに高い水準を誇っている。

邦題 『ウィーンの血』
原作者 エイドリアン・マシューズ
原題 Vienna Blood(1999)
訳者 嶋田洋一
出版社 早川書房
出版年 2000/7/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『熱砂の絆』上下
原作者 グレン・ミード
原題 The Sand of Sakkara(1999)
訳者 戸田裕之
出版社 二見書房
出版年 2000/11/25
面白度 ★★★★
主人公 ドイツ軍情報部少佐のジャック(ヨハン)・ハルダーとドイツ人の女性考古学者ラーエル・シュターン。語り手がアメリカ軍情報部中佐のハリー・ウィーヴァー。
事件 1939年、ウィーヴァーと彼の幼馴染みハルダーは、ユダヤ人の血を引くラーエルらとともにカイロ近郊で遺跡の発掘に参加し、愛と友情を育んでいた。だが戦争が彼らを別ち、4年後ハルダーはラーエルとともに、ルーズベルト米大統領暗殺の任務を命じられたのだ。
背景 ナチスがルーズベルト暗殺を狙った<スフィンクス>作戦は歴史的事実らしいが、本書はそれを基にしたフィクション。第二次世界大戦が舞台ということもあり、構成・語り口とも多少古臭い感じがするが、それが逆に正統的な冒険小説にうまくマッチしている。

邦題 『乱歩の選んだベスト・ホラー』
原作者 森英俊・野村宏平編
原題 独自の編集
訳者  
出版社 筑摩書房
出版年 2000/3/8
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『誇りへの決別』
原作者 ギャビン・ライアル
原題 Flight from Honour(1996)
訳者 中村保男・遠藤宏昭
出版社 早川書房
出版年 2000/4/15
面白度 ★★★
主人公 英国情報局エージェントのマシュー・ランクリン大尉。シリーズ第ニ作。ただし単独での活躍ではなく、助手コノール・オギルロイや恋人コリナ・シェリング(フィン夫人)とともに仕事をする。
事件 1913年表面上は平穏なヨーロッパだが、イタリアは危険な状態にあった。イタリアの上院議員で急進派のファルコーネはイタリア軍の兵器調達のために活動しており、近隣諸国との摩擦が問題になっていた。ランクリンらはファルコーネの警護を命じられたのだ。
背景 第一作より読みやすいが、”外套と短剣”時代のスパイ小説なので、しょせんノンビリ・ムードが支配している。それを楽しめるか、飽きてしまうかで本書の評価も大きく異なることになろう。飛行機を題材にしているプロットは面白いと思うが、私にはそれほど楽しめなかった。

邦題 『襲撃待機』
原作者 クリス・ライアン
原題 Stand By Stand By (1996)
訳者 伏見威蕃
出版社 早川書房
出版年 2000/1/31
面白度 ★★★
主人公 SAS軍曹のジューディ・シャープ。妻がIRAに殺される。
事件 湾岸戦争から帰還後、悪夢になやまされていたシャープに、本当の悪夢が襲った。妻がIRAの爆弾テロに巻き込まれて死亡したのだ。彼はテロの首謀者を自らの手で処刑することを決め、IRA幹部を追って北アイルランドから南米のコロンビアまで足を延ばした。
背景 著者は元SAS隊員。湾岸戦争でイラクから脱出して有名になったらしい。当然のことながら、物語の細部のリアリティが凄い。訓練場面にしろ、人質救出作戦にしろ、これは体験者でなければ、ここまでは書けないであろう。ノンフィクションと間違えるほど、その点に重点をおいている。逆にミステリー的には弱く、たいした復讐譚にはなっていない。ラストも肩透かしだ。

邦題 『弾道衝撃』
原作者 クリス・ライアン
原題 Zero Option(1987)
訳者 伏見威蕃
出版社 早川書房
出版年 2000/12/15
面白度 ★★★★
主人公 SAS軍曹のジューディ・シャープ。シリーズの二作目。
事件 シャープは南米で成果を挙げて帰国したが、家には一人息子も恋人トレイシーもいなかった。二人は誘拐されたのだ。犯人の要求は、刑務所に収監されているIRA幹部の釈放であった。シャープは人質の安全を確かめながら、解決策を模索するが……。
背景 前作の続編というより、前作は上下巻の上巻に相当し、本作は下巻といったほうが正確かもしれない。銃器や組織についての細部への拘りは似たようなものだが、プロットはこちらの方が面白い。シャープは典型的なマッチョだが、英国人らしいユーモアを忘れず、好感がもてる。でもリアリティ溢れる描写が最大のウリである作品だ。

邦題 『アンダードッグス』
原作者 ロブ・ライアン
原題 Underdogs(1999)
訳者 伏見威蕃
出版社 文藝春秋
出版年 2000/10/10
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『服用量に注意のこと』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 Do Not Exceed the Stated Dose(1998)
訳者 中村保男他
出版社 早川書房
出版年 2000/8/31
面白度 ★★★★
主人公 16本の中・短編を収録。その内ダイヤモンド警視物(*)は3本、殿下物は2本。
事件 「そこに山があるから」「殿下とボートレース」「殿下と消防隊」「イースター・ボンネット事件」*「クロンク夫人始末記」「勇敢な狩人」「大売り出し殺人」「おしどり夫婦」「オドストックの呪い」「オウムは永遠に」「興醒まし」「プディングの真価」「空軍仲間」(本書の中では一番の出来)「一攫千金」「ウェイズグース」(唯一の中編。*)「クリスマス・ツリーの殺人」(密室もの。*)。
背景 著者の第3短編集。最大の特徴は読みやすい、ということ。どの短編も冒頭の一行を読み出したら、つい最後まで読み切ってしまう。また犯罪物語やホラー短編でも、読後感は爽やか。すべてEQやHMMに訳載された作品だが、再読しても内容を忘れていたのはその特徴の故か。

邦題 『ダイナマイト・パーティへの招待』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 Invitation to a Dynamite Party(1974)
訳者 中村保男
出版社 早川書房
出版年 2000/11/15
面白度 ★★★★
主人公 スコットランド・ヤードの部長刑事クリッブ。時限爆弾の専門家に化ける。
事件 ヴィクトリア朝のロンドン。爆弾テロが続発していた。それらの事件を追っていたクリッブは、警察内部に密通者がいて、それが長年の相棒サッカレイ巡査ではないかと気づいた。クリッブはサッカレイの行動に注意を払いながらも、怪しいテロ組織に潜入するが……。
背景 このシリーズは19世紀のスポーツを背景にした謎解き歴史ミステリーと思っていたが、本作はスリラー小説のスタイルで書かれている。著者の特徴であるサスペンス色の濃い語り口(ただしユーモアは忘れない)が初めて試された作品といってよい。プロットは単純。デッド・リミットまでに潜水艇から脱出できるかという終盤のサスペンスには感心。小品なれど十分楽しめる。

邦題 『もうひとりの私』
原作者 シャーロット・ラム
原題 Walking in Darkness(1996)
訳者 中村三千恵
出版社 二見書房
出版年 2000/5/25
面白度
主人公 チェコの中央ヨーロッパ通信の記者ソフィー・ナロドゥニ。独身。
事件 次期アメリカ大統領の有力候補ガウリ上院議員は記者会見でソフィーからの質問に当惑した。そして、その後ソフィーは何者かに付け狙われることになった。質問が関係しているのかわからないまま、ソフィーはガウリの欧州遊説に同行するが、やがてガウリの秘密が明らかに――。
背景 ロマンス小説の女王が書いたミステリー・タッチ作品の3冊目。3冊の中ではミステリー度は一番低いが、それでも殺人未遂もあり、ミステリアスな雰囲気はある。いろいろご都合主義的な設定が目立つが、狙いは家庭の悲劇を描きたかったのであろう。すらすら読めてしまうが、忍耐強い(?)私でも、この結末の意外性にはブーイングだ!

邦題 『死せる魂』
原作者 イアン・ランキン
原題 Dead Souls(1999)
訳者 延原泰子
出版社 早川書房
出版年 2000/9/30
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのセント・レナーズ署の警部ジョン・リーバス。ペイシェンスという恋人が出来た。本作では、交通事故の後遺症で(前作参照)娘が車いす生活を余儀なくされている。
事件 リーバスの周りには、いくつかの厄介事が起きていた。公園の崖から同僚刑事が墜落死した事件、刑期を終えた性犯罪者がまたうろつきだした事など。だが最大の関心事は、アメリカでの連続殺人犯が刑期を終えてエディンバラに戻ってきたのだ。警察は監視を強めるが……。
背景 いくつかの事件が絡まりながらも並行して語られる。物語は、フロスト警部シリーズ作品を真面目でリアルに描いたものと喩えればわかりやすいか。当然(?)500頁を越える大作になっているが、語り口はしっかりしてるので読みやすいし、終盤のサスペンスの盛り上げ方もうまい。

邦題 『表と裏』
原作者 マイクル・Z・リューイン
原題 Outside in(1980)
訳者 田口俊樹
出版社 早川書房
出版年 2000/3/15
面白度 ★★
主人公 ハードボイルド小説を書いている作家ウィリー・ワース。友人を殺した犯人を探し回る。
事件 ウィリーは小説書きに行き詰まっていた。タイプライターの前に座ったまま、一つの単語も打てなかった。妻にまで当り散らし始めた。そのようなとき友人が失踪した事件が起き、やがて他殺死体で発見された。ウィリーは、ここぞとばかり仕事そっちのけで事件の調査を開始した。
背景 リューインの異色作と呼びたいが、これは失敗作であろう。20年間も翻訳されなかった理由がわかるというものだ。主人公の設定は悪くないし、作中作を取り入れているプロットも工夫が認められるが、メインの事件が平凡なうえに、作中作と有機的に結び付いていない。またこの種の作品にとってもっとも重要なユーモアが、ほとんど生きていないのが致命傷になっている。

邦題 『シングル&シングル』
原作者 ジョン・ル・カレ
原題 Single & Single(1999)
訳者 田口俊樹
出版社 集英社
出版年 2000/12/20
面白度 ★★★
主人公 オリバー。事件発生当時はマジシャン。離婚して、一人娘がいる。
事件 英国商社シングル&シングル社の重役がトルコで殺された。また同社社長の孫娘の口座に謎の大金が振り込まれた。社長である父は身の危険を感じて失踪した。過去のトラブルから父とは疎遠になっていたオリバーだが、父の行方を追い始めた。
背景 久しぶりに読んだカレの作品。書評が義務でなくなってからは、どうも手を出しにくい。私の肌に合わない作家なのだ。まず独特の文体が、うまいと言えばうまいのだが、私の読書リズムに合わないことが多い。ただ本作ではオリバーの造形が秀逸で、すんなり物語に入り込めた。経済陰謀小説のような話だが、父子の確執が巧みに処理されている。

邦題 『霊応ゲーム』
原作者 パトリック・レドモンド
原題 The Wishing Game(1999)
訳者 広瀬順弘
出版社 早川書房
出版年 2000/2/29
面白度 ★★★★
主人公 全寮制パブリック・スクールの生徒ジョナサンとリチャード。リチャードにとっては実母が亡くなったことがトラウマになっている。物語の語り手はジョナサンの親友ニコラス。
事件 14歳のジョナサンは同級生や先生にいじめられていたが、リチャードという新しい友人ができた。リチャードは頭がよく一匹狼的な少年で、やがてジョナサンをいじめて、クラスを支配する生徒たちと対立するようなった。そして奇怪な事件が起きたのだ。
背景 モダン・ホラーというより、レンデル流のサイコ・スリラー。出だしは学園物。パブリック・スクールが舞台なのでイギリス独特の香りを嗅ぐことができる。中盤、アメリカ作家ならグロテスクさを強調するであろう部分も控え目。神秘性を前面に出さない書き方は個人的には好感を持つ。

邦題 『墓地に建つ館』
原作者 シェリダン・レ・ファニュ
原題 The House by the Churchyard(1863)
訳者 榊優子
出版社 河出書房新社
出版年 2000/8/25
面白度 ★★★
主人公 村の上層階級を描いた風俗小説で、特別の主人公はいないが、強いて挙げれば、ロード・キャッスルマラードの領地管理官のポール・デンジャーフィールド。
事件 舞台はダブリン近郊の村チャペリゾット。時は18世紀後半。王立アイルランド砲兵隊の将校たちと牧師や医師が村の上層階級を形成し、のどかな日々が続いていた。そこに二人のよそ者が住みついたことからさまざまな事件が発生し、医師が瀕死の重傷を負う事件も起きたのだ。
背景 題からは怪奇小説だと思ったが、それは間違い。殺害事件を中心にフーダニットの面白さで物語を引っ張っていく風俗小説。長大な作品ながら、ミステリー・ファンでもそこそこ楽しめる。著者の三大傑作の一冊。『ワイルダーの手』よりは面白いが、『アンクル―』よりはおちるか。

邦題 『眠れる森の惨劇』
原作者 ルース・レンデル
原題 Kissing the Gunner's Daughter(1992)
訳者 宇佐川晶子
出版社 角川書店
出版年 2000/4/25
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのレジ・ウェクスフォード主任警部。
事件 銀行強盗の事件捜査中、彼の部下が殺された。そして10ヶ月後、高名な人類学者が住む森の中の豪華な館から緊急通報が入った。警察が現地に赴くと、人類学者とその妻や娘が殺されており、孫娘だけが重傷ながら助けることができたのだ。動機はなになのか? ウェクスフォードは、二つの事件が関係していることを確信して捜査を進めるのだった。
背景 レンデルにとっては久ぶりに、謎解きを盛り込んだ警察小説である。事件は陰惨で、一家4人のうち3人が銃殺されているというもの。二つの事件の結び付け方は面白い。問題はフーダニットの構成に拘り過ぎた点で、この結果、あちこちに無理が目立っている、といえようか。

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