邦題 『十一番目の戒律』
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 The Eleventh Commandment(1998)
訳者 永井淳
出版社 新潮社
出版年 1999/2/1
面白度 ★★★
主人公 CIAに所属する暗殺者コナー。
事件 ”十一番目の戒律”とは「絶対に正体を見せることなかれ」を意味しているようだが、コナーは今回もその戒律どおり、コロンビアの大統領候補を暗殺して無事帰国できた。ところがCIAの上層部は、自国の大統領に相談せず、ロシアの有力な大統領候補に浮上した共産党候補の暗殺を命じたのだ。コナーは疑問を持つが……。
背景 平明な文章に加えて、達者な語り口は本書でも健在なので、読み出したら止まらない物語になっている。エリツィン亡き後のロシア大統領の戯画化が大げさ過ぎるなどの欠点もあるが、まあ、これも著者の特徴と考えれば見過ごせよう。

邦題 『グラブ街の殺人』
原作者 ブルース・アレグザンダー
原題 Murder in Grub Street(1995)
訳者 近藤麻里子
出版社 早川書房
出版年 1999/8/31
面白度 ★★
主人公 ジェレミー・プロクター。治安判事サー・ジョン・フィールディングの助手。13歳。グラブ街の出版業者に住み込みで就職するはずであった。
事件 ジェレミーが就職する前日にその出版業者一家が惨殺される事件が起き、屋根裏部屋からは斧を手にした錯乱状態の男が見つかった。男は詩人で、出版業者とは作品出版の支払いで争いをしていたらしい。サー・ジョンはその詩人を訊問するが、彼は三重人格者であったのだ!
背景 シリーズの第二作。第一作は盲目の治安判事が活躍するという目新しさで読ませたが、二作目にもなると、その設定に新鮮さは感じられなくなった。犯人の意外性といったような、ミステリーに特有な部分の出来が悪いのも残念な点。時代小説としてはそこそこ楽しめるが……。

邦題 『ステラの遺産』
原作者 バーバラ・ヴァイン
原題 The Brimstone Wedding(1995)
訳者 富永和子
出版社 早川書房
出版年 1999/3/31
面白度 ★★★★
主人公 語り手はジェネヴィーヴ・ワーナー。三十代前半の主婦で、老人ホームのケア・アシスタントをしている。不倫中。実質的な主人公はステラ・ニューランド。癌で余命いくばくもない老女。
事件 ジェネヴィーヴはステラの介護を担当している。ある日、ステラが誰にも秘密にしていた隠れ家の権利書が送られてきた。そしてステラは不倫をしていた過去を話し始めるが、何故かその家に話は収斂していくのだった。ステラにとって、その家はどんな意味をもつのか?
背景 前半は、ステラの過去の不倫とジェネヴィーヴの現在の不倫とが、似ているところ、異なる部分を含めて巧みに語られていく。心理描写が中心だが、後半ステラが冗談で殺人に触れるところから一気にミステリーらしくなる。作為的なトリックはないものの、やはり凄いミステリー。

邦題 『教師キャロルの記憶』
原作者 ティム・ウィルスン
原題 I Spy…(1996)
訳者 岡聖子
出版社 扶桑社
出版年 1999/12/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『推定相続人』
原作者 ヘンリー・ウエイド
原題 Heir Presumptive(1935)
訳者 岡照雄
出版社 国書刊行会
出版年 1999/3/20
面白度 ★★★
主人公 ユースタス・ヘンデル。35歳。医者であったが、今では仕事にはつかず賭け事と基金だけで気ままな生活している遊び人。恋人がいる。
事件 ユースタスは借金で危機に瀕していた。ところが上位相続人がいなくなれば、自分に一族の財産が転り込んでくることを知った。彼は相続人の殺害を決意する。折りもおり、狙った従兄から鹿狩りの招待をうけ、計画は動き出したのだ。
背景 一種の倒叙物。イギリスの爵位継続についてはまったくの無知だが、財産と爵位とは別の人が相続することもあるというのが興味深い。継嗣限定という仕組みもうまくプロットに取り入れられている。いかにも”英国風な”ミステリーで、貴族であるという著者の特徴が生きている。

邦題 『黄昏の北京』
原作者 クリストファー・ウエスト
原題 Death of a Bule Lantern(1994)
訳者 矢沢聖子
出版社 講談社
出版年 1999/2/15
面白度 ★★★
主人公 王安荘(ワン・アンヂュアン)。北京市公安局刑偵科の警部補。古典とシャーロック・ホームズ物を愛読し、京劇を愛し、気功に励む。
事件 街の京劇劇場で殺人事件が起きた。被害者はチンピラ。王警部補が担当することになった。たいした事件とは思えなかったが、古美術の盗掘・密輸出の事件と関係するようになり……。
背景 英国人作家が書いた、中国人を主人公にし、ほとんどの登場人物が中国人というミステリー。日本でも、かつてJ・メルヴィルが大谷警視シリーズを書いていたが、あの中国版と考えてよい。王の人物造形がいい。ミステリーとしては二つの事件の結び付け方はあまり上手ではないが、単なる東洋趣味が横溢した作品ではなく、天安門事件を遠景に取り入れるなどユニーク。

邦題 『フィルス』
原作者 アーヴィン・ウェルシュ
原題 Filth(1998)
訳者 渡辺佐智江
出版社 アーティストハウス
出版年 1999/6/26
面白度 ★★
主人公 ブルース・ロバートソン。スコットランド人刑事。鬼畜ポリ公といわれ、人種差別主義者で、女性・同性愛者。お腹にサナダムシをかかえている。
事件 メインの事件は黒人殺害事件であるが、その担当の合間に、同僚や友人を裏切ったり、アムステルダムに遊びにいったりのエピソードで読ませる。ケッタイナ小説。
背景 『トレイン・スポッティング』で一躍有名になった著者の第ニ作。一応主人公がエディンバラの警官で、殺人事件を扱っているのでリストに含めた。第一作よりはミステリー度はかなり高い。とはいえこの小説の面白さは、下品な主人公のキャラクターにある。独創的なのは、本文中にサナダムシの独白を入れて、ブルースの内なる敵にしていること。これが結末で生きている。

邦題 『昏い部屋』
原作者 ミネット・ウォルターズ
原題 The Dark Room(1995)
訳者 成川裕子
出版社 東京創元社
出版年 1999/9/30
面白度 ★★★★
主人公 写真家のジュイン・キングズリー(ジンクス)。34歳。父親は不動産業界の大立者。10年前に結婚したが、夫は殺された。
事件 ジンクスは自動車事故で、その前後の記憶を失った。血液にはアルコールが大量に検出され、自殺の疑いがあるという。彼女は友人に婚約者を奪われた直後だったのだ。そんなある日、警察が病室を訪れ、友人らは殺されたもので、彼女は第一の容疑者になっていると言われたのだ。
背景 主人公の性格設定がいかにもウォルターらしい。知的で繊細な神経をもっている。魅力的だが、近寄りがたい。単純なイイ女ではない。このジンクスが自分の謎を解くという話で、感情移入しにくいもどかしさが面白い点でもあり、ちょっと不満な点でもある。筆力は相変わらずスゴイ。

邦題 『マッターホルンの殺人』
原作者 グリン・カー
原題 Murder on the Matterhorn(1951)
訳者 真里ケイ
出版社 新樹社
出版年 1999/6/25
面白度 ★★★
主人公 シェイクスピア劇団の俳優兼監督のアバークロンビー・リューカー。戦時中は秘密諜報部員として活躍。太ってずんぐりした名優。
事件 リューカーは秘密情報部のチーフから、政界入りしたジャコが反共か、親共なのか調べてほしいと依頼された。彼は、ジャコが滞在するマッターホルンの地元ツェルマットのホテルに出向いた。そして調査を始めると、やがて首を締められたジャコの死体が氷河で見つかったのだ。
背景 本邦初登場のもう一人のカー。特徴のひとつは山岳地帯や登山をよく舞台背景につかうことであるが、この作ではそれほどの臨場感は感じられなかった。もうひとつの特徴はアリバイ崩しをよく用いることだが、本作のトリックは他愛ないもの。謎解き部分はれなりに迫力はあるが。

邦題 『グラン・ギニョール』
原作者 ジョン・ディクスン・カー
原題 Grand Guignol(1929)
訳者 白須清美・森英俊
出版社 翔泳社
出版年 1999/4/5
面白度 ★★
主人公 日本で独自に編集されたもの。中編1本、短編3本、評論1本を含む。
事件 中編は標題の『グラン・ギニョール』。カーの第一作『夜歩く』の原型で、基本的にはそれほど変わっていない。「悪魔の銃」は一種のホラー。「薄闇の女神」は歴史物の短編。以上の3本は”ハヴァフォーディアン”という大学の文芸誌に載ったものだそうだ。「ハーレム・スカーレム」はショート・ショートで新聞に載ったものだそうだ。ミステリー・ファンとして一番興味深いのは「地上最高のゲーム」で、これはクイーンが雑誌掲載時にカットした部分を復活させた完全版である。
背景 まあ、カー・マニアなら必読書というような本。最後の評論ははミステリー10選といった内容で、クリスティの『ナイルに死す』が選ばれているのが嬉しい。

邦題 『密送航路』
原作者 フィリップ・カー
原題 A Five Year Plan(1997)
訳者 後藤由季子
出版社 新潮社
出版年 1999/4/1
面白度 ★★★
主人公 マイアミ生れのデイヴ・デラノーとFBIマイアミ支局特別捜査官のケイト・フューリー。前者は5年の服役を経て刑務所を出たばかり。後者は麻薬捜査を担当している。
事件 デイヴは服役中ロシア人と親しくなり、出所後直ちに彼と共に現金強奪を計画した。マフィアの黒幕の助けを借りて大西洋を横断するヨット運搬船で運ばれる麻薬売上金を横取りするというもの。一方ケイトは、麻薬が同じ運搬船で運ばれる情報を得たが……。
背景 著者の8作目。その前後の作品はSF的設定の冒険ミステリーであったが、本書は現実的設定の犯罪小説。豪華ヨットを運搬する船は実際に大西洋で就航しているそうだ。この舞台設定が興味深い。相変わらずこの著者の軽口は冴えているが、ケイトの人物造形は平凡だ。

邦題 『仕事くれ。』
原作者 ダグラス・ケネディ
原題 The Job(1998)
訳者 中川聖
出版社 新潮社
出版年 1999/9/1
面白度 ★★★★
主人公 <コンピュワールド>地域セールスマンのネッド・アレン。妻がいる三十代の男で、人は良いが浪費癖があるのが欠点。
事件 ネッドは順調に出世していると思っていた。だが現実は違っていた。破滅は前触れもなく襲ってきて、彼は失業してしまったのだ。残されたのは巨大な負債と不信を募らせた妻だけ。だが救いの神が現れたと信じたネッドは、そのチャンスに賭けるが……。
背景 失業をテーマにしたちょっと変わったサスペンス小説。プロットは単純ながら、筆力がある著者だけに、迫力のある作品に仕上がっている。電話セールスの実態などは身につまされる。経済オンチの私のような人間には、最後の経済界のトリックはちょっとわかりにくいが……。

邦題 『惜別の賦』
原作者 ロバート・ゴダード
原題 Beyond Recall(1997)
訳者 越前敏弥
出版社 東京創元社
出版年 1999/1/29
面白度 ★★★★
主人公 クリス・ネイピア。物語の語り手。40代の離婚した男性。アルコール中毒の更生者。クラシック・カーの販売・修理をしている。父は大金持ち、姉は高級リゾート・ホテルの経営者。
事件 姪の結婚披露宴で、クリスは少年時代の親友に再会した。ところがその親友は、34年前に殺人の罪で絞首刑になった父親は無実だったと訴えながら、何故か自殺してしまったのだ。この死に対して罪悪感をもったクリスは、過去の死について執拗に調査を始めると――。
背景 これを読んだ時点でのゴダードの最新作。一人称で事件を語るテクニックの上手いこと。1947年の殺人事件と1981年の自殺を並行して語りながら、この二つの事件の時間差をつめていき、最後には混ぜん一体となって語り終える。不満をいえば主人公に感情移入できないことだ。

邦題 『日輪の果て』上下
原作者 ロバート・ゴダード
原題 Out of the Sun(1996)
訳者 成川裕子
出版社 文藝春秋
出版年 1999/4/10
面白度 ★★★
主人公 ハリー・バーネット。『蒼穹のかなたに』に続く二度目の登場。6年後の事件である。50代の独身男だが、若いときに誤ってできてしまった息子のいることがわかる。
事件 その息子とは将来を嘱望された数学者であるそうだ。しかし今は昏睡状態で病院にいるという電話があったのだ。自殺か、他殺なのか。早速調査を開始すると、確かに息子のいることは間違いなかった。それではどのように息子を助ければ良いのか?
背景 ゴダードにしてはプロットは比較的単純で、その点では物足りなさを感じる。ハリーの息子が天才的な数学者というのがいかにも嘘っぽく感じられるのを承知してか、話はコミカルに(あるいは軽く)展開する。まあ、これはこれで面白いが。

邦題 『鉄の絆』上下
原作者 ロバート・ゴダード
原題 Hand in Glove(1992)
訳者 越前敏哉
出版社 東京創元社
出版年 1999/4/23
面白度 ★★★
主人公 高名な詩人トリストラム・アブリーの異父娘シャーロット・ラドラム。30代の後半で独身。
事件 アブリーは3冊の詩集を出し、スペイン内戦では共和派の義勇兵として参加し、亡くなった。その彼の姉が殺されたという報告を受けたシャーロットは、謎の死の調査を始めた。すると、詩人が姉に宛てた手紙を死の直前に別の人に送っていたことがわかった。その手紙の持つ意義は?
背景 前半は快調。なぜ義姉が死を予期していたのか? 手紙の謎はなにか? ということで読ませる。後半はスパイン内戦と結び付いて、冒険小説的展開となるが、こちらはあまり上手く処理できていない。シャーロットも、彼女と知り合いになる会計士も、いまいち魅力が不足している。複雑なプロットの面白さと冒険小説の面白さを欲張り、かえって面白さが拡散してしまったようだ。

邦題 『閉じられた環』
原作者 ロバート・ゴダード
原題 Closed Circle(1993)
訳者 幸田敦子
出版社 講談社
出版年 1999/9/15
面白度 ★★
主人公 詐欺師のガイ・ホートン。30代の独身。マックスと一緒に結婚詐欺をしている。
事件 1931年、アメリカからイギリスへ向かう豪華客船の中で、ガイとマックスは絶好のカモを見つけた。有名な投資家を父に持つダイアナである。見事罠に掛かったが、まったくの誤算は、ダイアナが美女であるために二人ともが恋に落ちてしまったのだ。ところが破格の手切れ金を指示していたダイアナの父が殺されたのだ。マックスは容疑者になってしまった。
背景 ゴダードの他の作品に比べると、かなり落ちる。プロットの捻りがそれほどないからだ。最初の方のミイラ獲りがミイラになる展開は、あまりにスラスラと話が進むので、なにかあると予想出来てしまう。終盤の伝奇的な展開は珍しいが、ゴダードらしくなく、成功しているとは言い難い。

邦題 『闘う守護天使』
原作者 リザ・コディ
原題 Musclebound(1997)
訳者 堀内静子
出版社 早川書房
出版年 1999/2/15
面白度 ★★★
主人公 元女子プロレスラーのエヴァ・ワイリー。かつてはロンドンの女暗殺者といわれた悪役レスラー。自動車置場で犬三匹と暮している。姉シモーンがいる。
事件 レスラーをクビになり、仕事でもドジを踏んだエヴァだが、捨てる神あれば拾う神か。例によって勝手に乗り込んだ自動車の後部座席に、大金の入った鞄を見つけたのだ。早速持ち帰り、犬小屋の中に隠したまではよかったが、やがで奇妙な人々がエヴァの周りに現れた。
背景 エヴァ・シリーズの三冊め。ここには、悪役女子プロレスラーのライフ・スタイルがよく描かれており、エヴァの"Way of Life"も適度に書き込まれている。その意味ではハードボイルド物として楽しめるが、ミステリーとしてみると平凡なプロットで面白味に欠ける。

邦題 『ノー・ネーム』上中下
原作者 ウィルキー・コリンズ
原題 No Name(1862)
訳者 小池滋
出版社 臨川書店
出版年 1999/4/15 /6/15 8/15
面白度 ★★★★
主人公 マグダレン・ヴァンストン。ヴァンストン家の次女。登場時は18歳。美人で才気活発。隣人の男性と婚約する。姉はノラ。
事件 19世紀の英国南西部に住むヴァンストン一家は幸せそのものだった。だがアメリカからの一通の手紙がすべてを変えた。マグダレンは財産と姓を奪われ、婚約者とも別れた。彼女は復讐のため、詐欺師ラッグ大尉と手を組んで、宿敵である父の兄一家と対決する。
背景 なにがいいといって、ラッグ大尉の人物造形が素晴らしい。マグダレンより良い。小悪党ながら彼女を助けて大活躍する。対するレカウント夫人もユニーク。二人のコンゲームのような展開が面白いし、オリジナリティもある。結末はメデタシメデタシで、後味もいい。意外性も一応はある。

邦題 『毒婦の娘 ウィルキー・コリンズ傑作選12』
原作者 ウィルキー・コリンズ
原題 Jezebel's Daughter(1880)
訳者 北条文緒
出版社 臨川書店
出版年 1999/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『北海の女豹』
原作者 サイモン・コンウェイ
原題 Damaged(1998)
訳者 市来宏明
出版社 DHC
出版年 1999/4/30
面白度
主人公 カルム・ビーンとゼバスチャン・マッコイニーチ。前者は古代アカイア人の末裔で、農家の三男。後者はキュアル島の名門大地主の四男。
事件 カルムは朴訥で、誠実な常識人。だがゼバスチャンの異母妹マドレーヌと知り合い、足を踏み外してしまう。マドレーヌは男をダメにしてしまう女で、”ダメージ”(原題)と呼ばれていたのだ。だが、そこに女性の獣医が登場し……という展開で、物語は四人を軸にしながら進んでいく。
背景 基本的には若者の生態を描いた青春小説だが、背景には麻薬密輸、MI5、湾岸戦争、チェチェン紛争が登場し、第三部はサスペンス・タッチで書かれているので、ミステリーに含めてもいいだろう。肝心のマドレーヌはうまく描かれていない。もう少しプロットに工夫がほしい。

邦題 『テロリストのダンス』
原作者 ニコラス・シェイクスピア
原題 The Dancer Upstairs(1995)
訳者 新藤純子
出版社 新潮社
出版年 1999/6/1
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『モスクワ 2015』上下
原作者 ドナルド・ジェイムズ
原題 Monstrum(1997)
訳者 棚橋志行
出版社 扶桑社
出版年 1999/2/28
面白度 ★★★
主人公 モスクワ第13管区警察署殺人課警部のコンスタンチン・ヴァジム。元妻ユーリャ・ペトロワは無政府主義者軍の司令官となっている。
事件 2015年ロシアの内戦は終った。しかしヴァジムの幼い息子は行方不明になり、妻は地下に潜伏してしまった。ところがヴァジムには副大統領の影武者という任務が与えられたのだ。だが赴任先のモスクワには、若い女性ばかりを惨殺する連続殺人鬼<怪物>が登場していた。
背景 英国人作家が近未来のロシアを舞台にしているのがユニーク。著者は歴史家でもあるようで、ロシアを結構リアルに描写している。サイコ・スリラー的事件の扱いは普通だが、影武者の話は不可解。親子の愛や夫婦の愛はうまく描かれているが、ミステリーとしてはいささか寂しい。

邦題 『ホスト』上下
原作者 ピーター・ジェイムズ
原題 Host(1993)
訳者 南山宏
出版社 角川書店
出版年 1999/8/25
面白度 ★★★
主人公 アイザック・ニュートン大学教授のジョー・メッセンジャー。人工頭脳プロジェクトの責任者。生前の記憶をデータ化し、冷凍保存から蘇生後の体にダウンロードする研究をしている。
事件 ある日、彼の前に美人の研究者ジュリエットが現れた。彼女は偶然記憶のデータ化に成功したというのだ。しかし自らの命はあと半年なので、死後は必ずジョーの手で記憶をデータ化し、蘇生させて欲しいと頼まれた。データ化は順調に終ったが、冷凍保存には父親が反対し……。
背景 人工頭脳と人体冷凍保存というSFテーマを扱ったホラー小説。それぞれのテーマには先例があると思うが、両者を結び付けた点が、多少オリジナリティがあるということか。ホラーとしては人工頭脳が暴走する怖さであろう。通俗的ながら、一気に読ませる力は認められる。

邦題 『スキナーの追跡』
原作者 クィンティン・ジャーデン
原題 Skinner's Trail(1994)
訳者 安倍昭至
出版社 東京創元社
出版年 1999/2/19
面白度
主人公 エディンバラ警察の署長補佐のロバート・スキナー。妻のサラは警察医であるとともに法医学教室の最年少教授という才媛。息子が生まれる。シリーズ物の3作目。
事件 平穏な日々が続いていたスキナーは、スペインの別荘で休暇をとることになった。ところがスペインでチョットした問題が発生し、彼は休暇の合間に調べることを約束した。そしてその仕事も無事終ったと思ったとき、大規模な麻薬取引きの事件に巻き込まれたのだ。
背景 才色兼備の妻がいて、立派な子供が生まれ、金にも困ってはいない。個人的悩みなど一切ない。同じエディンバラの警官ながら、スキナーとリーバスでは天と地ほどの違いがある。これでは読者の共感は得られないだろう。冒頭の子供の生まれる場面からイヤな印象を持ってしまった。

邦題 『魔笛』
原作者 ディラン・ジョーンズ
原題 Unnatural Acts(1996)
訳者 金子浩
出版社 講談社
出版年 1999/5/15
面白度 ★★
主人公 シカゴ市警殺人課刑事のスーザン・マッキー。独身。
事件 シカゴで猟奇的な連続殺人が発生した。被害者の一人は、イギリスから出張してきた女性内科医カトリンであった。調べが進むと、どうやら医学コンベンション・ホールに出席していた女性が多く行方不明になっていたのだ。スーザンはカトリンの弟の手を借り、謎の解明に乗り出した。
背景 基本は警察小説で、シリアル・キラーの犯罪を扱っている。その意味では新味はない。オリジナリティがあると思えるのは、舞台が典型的なアメリカといえるシカゴでありながら、被害者がイギリス人で、捜査に協力するのもイギリス人ということ。イギリス人とアメリカ人の考え方・生き方の違いが面白い。前半はそれなりに読ませるが、肝心のミステリーとしての出来はよくない。

邦題 『ミステリアス・クリスマス』
原作者 ロバート・スウィンデルズ他
原題 Mysterious Christmas Tales(1993) (独自の編集)
訳者 安藤紀子
出版社 パロル舎
出版年 1999/10/25
面白度 ★★★
主人公 児童文学やヤング・アダルト物を数多く手掛けている英国人作家たちのクリスマス・ストーリーを集めた短編集。三冊の原書から独自の編集で7本が収録されている。
事件 収録作品はG・クロスの「スナップドラゴン」、D・ベルビンの「切ってやろうか?」(サイコ・ホラー的な設定の幽霊物語)、S・プライスの「果たされた約束」、R・スウィンデルズの「暗い雲におおわれて」、G・キルワースの「狩人の館」、J・エイキンの「ベッキーの人形」、A・ジェラスの「思い出は炎のなかに」(もっとも児童文学的クリスマス・ストーリーと呼べる作品で、心暖まる)。
背景 クリスマス・ストーリーはミステリー、と言ったのはクイーンではなかったか? ミステリー非専門の作家だからといってレベルが低いわけではない。私には全員知らない作家。裾野は広い?

邦題 『メサイア』
原作者 ボリス・スターリング
原題 Messiah(1999)
訳者 野沢佳織
出版社 アーティストハウス
出版年 1999/10/29
面白度 ★★★
主人公 スコットランド・ヤードの警視レッドファーン・メットカーフ(レッド)。弟は殺人刑で服役している。自身も轢き逃げ事故を起しているが秘密のまま警察に入る。妻とはすきま風が吹いている。
事件 ロンドンで連続猟奇殺人事件が発生した。共通するのは、目撃者がいないことと、口のなかに銀のスプーンが入れられていることだった。レッドは、高知能の犯人の挑戦を受ける。
背景 最近はイギリス人ミステリー作家がアメリカ風のミステリーを書くことが多くなった。グローバリゼーションの結果なのであろうが、本書は典型的なアメリカ風ミステリー。連続殺人のサイコ・スリラーだからだ。プロットは救世主と12使徒の関係がミッシング・リンクとなっている。『羊たちの沈黙』に心酔している著者らしい作品。新人とは思えない達者な文章にはビックリ。

邦題 『悪魔を呼び起こせ』
原作者 デレック・スミス
原題 Whistle Up the Devil(1953)
訳者 森英俊
出版社 国書刊行会
出版年 1999/11/10
面白度 ★★★
主人公 素人探偵アルジー・ローレンス。スコットランド・ヤードの主任警部キャッスルの友人。金髪で独身。長身で痩せぎす。20代半ばの運動家タイプ。
事件 フリスリー村の名家クウィリン家の当主ロジャーは、結婚を前に、秘密の儀式を受けることにした。そして幽霊が出るという伝説の部屋に閉じこもったが、深夜恐ろしい悲鳴を上げ、背中に短剣を突き立てられて死んでいた。アルジーが密室殺人の謎に挑戦する。
背景 欧米でも知られていないという幻の密室ミステリー。作者は密室ミステリーの研究家だそうで、本作一作のみらしい。カーを真似ている部分もあるが、オドロオドロしさは少なくて、それが私にはかえって好ましかった。密室トリックは、ああそうか、という程度の印象しか残っていない。

邦題 『誤審』
原作者 デクスター・ディアス
原題 Error of Judgement(1996)
訳者 伏見威蕃
出版社 角川書店
出版年 1999/2/25
面白度 ★★★
主人公 法廷弁護士のニコラス・ダウンズ。恋人サリーも弁護士で同棲していたが、結婚までいかずに一時別れてしまう。
事件 ニックは、男の供述どおり白骨死体が見つかった事件を引き受けることになった。しかし男は記憶喪失、心神喪失で、ろくに会話も成り立たない。しかし白骨から復元された顔は、加害者の顔にそっくりだったのだ。ニックは被告側弁護士、サリーは検察側弁護士として対決する。
背景 著者の第一作『夢で死んだ少女』と似た法廷ミステリーだが、ニ作目だけに語り口は格段に進歩している。裁判風景はのんびりしていてるが、著者は本職の弁護士だけに、こちらの方が本物に近いのだろう。裁判所での応酬もまあまあだが、主人公のユーモラスな言動が一番楽しい。

邦題 『青銅の翳り』
原作者 リンゼイ・デイヴィス
原題 Shadows in Bronze(1990)
訳者 酒井邦秀
出版社 光文社
出版年 1999/3/20
面白度 ★★★
主人公 マルクス・ディディウス・ファルコ。皇帝ウェスパシアヌスの密偵。30歳の独身。恋人はヘレナ・ユスティナ。シリーズ物の第ニ作。
事件 紀元70年のローマ。ファルコに与えられた仕事は、国内に潜伏する反対勢力を探し出して服従させることだった。そして家族旅行を装って向かった先はポンペイ。ベスビオ山の大噴火が起こる8年前である。人々は運命を知るよしもなく日常生活を楽しんでいたが……。
背景 第一作よりミステリー色は薄くなり、逆に歴史風俗小説としての面白さが増している。本作からはシリーズ化しようという意図は明白で、脇役陣を充実させている。ヘレナとの関係も一気に進めてはいない。活劇小説的設定が一番オイシイ。

邦題 『錆色の女神』
原作者 リンゼイ・デイヴィス
原題 Venus in Copper(1991)
訳者 矢沢聖子
出版社 光文社
出版年 1999/9/20
面白度 ★★★★
主人公 マルクス・ディディウス・ファルコ。皇帝ウェスパシアヌスの密偵。かけ馬で儲けたお金で、新しい住宅に引っ越す。シリーズ物の第三作。
事件 紀元71年のローマ。不動産業界の大物ホルテンシウス家の当主が婚約した。相手は赤毛の美女セヴェリナ。過去に結婚した三人の夫は、いずれも不審死を遂げていたのだ。今回も財産目当てではないかと、ファルコは調査を依頼されたのだ。セヴェリナの本当の狙いは?
背景 これまでほどプロットに無理が目立たない。無理がないだけに語り口も滑らかで、ファルコの軽口も好調。恋人へレナも一皮むけて、ファルコとの関係も半歩前進している。やはりセヴェリナが異彩を放っている。トリックはそれほどではなく、冒険小説、時代ミステリーとして楽しめる。

邦題 『九人と死で十人だ』
原作者 カーター・ディクスン
原題 Nine-And Death Makes Ten(1940)
訳者 駒月雅子
出版社 国書刊行会
出版年 1999/12/5
面白度 ★★★
主人公 ヘンリー・メルヴェール卿。アメリカに滞在してイギリスに帰る途中。
事件 エドウーディック号は軍需品を積んでイギリスに向かっていた。船客は8人。ところがこの船に時限爆弾が仕掛けられているという情報がはいった。調査が始まるが、やがてトルコ人女性がナイフで殺される事件も起きた。現場には指紋が残されていたが、乗客の指紋とは一致しなかったのだ! どうやら9人目の乗客がいるらしい。
背景 戦時中という状況を上手く生かしたミステリー。指紋トリックはそう面白いものではないが(実際の事件にあったそうだが)、一人二役のトリックは鮮やかで、ラストの謎解きはそれなりに読ませる。それまでは別冊宝石の『九人と死人で十人だ』でしか読めなかったカー・ファン待望の本。

邦題 『かくして殺人へ』
原作者 カーター・ディクスン
原題 And So to Murder(1940)
訳者 白須清美
出版社 新樹社
出版年 1999/12/20
面白度 ★★★
主人公 探偵はヘンリー・メルヴェール卿だが、物語の主人公は、ベストセラー小説『欲望』を書いた若い女性モニカ・スタントンと探偵作家のウィリアム・カートライト。
事件 舞台は第二次大戦中のイギリスの映画界。モニカは自作の映画化のために映画会社に呼ばれた。だが話を聞くと、彼女の小説の脚本はスタントンが担当し、スタントンの小説の脚本は彼女が担当するというもの。反感を持ってしまうが、やがて彼女は硫酸を浴びせられそうになった。
背景 『九人と死人で十人だ』と同じで、長らく別冊宝石でしか読めなかった作品の完訳版。カーが一時身をおいた映画界が舞台になっている。男女のロマンスを物語に取り入れ、手軽に読める作品に仕上がっている。煙草のトリックはちょっと気が利いていた。

邦題 『慈愛 最後のスパイ』
原作者 レン・デイトン
原題 Charity(1996)
訳者 田中融二・町田康子
出版社 光文社
出版年 1999/1/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『罪と過ちの夜』
原作者 アリソン・テイラー
原題 In Guilty Night(1996)
訳者 松下祥子
出版社 早川書房
出版年 1999/5/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『女性翻訳家』
原作者 サラ・デュナント
原題 Transgressions(1997)
訳者 小西敦子
出版社 講談社
出版年 1999/7/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ドイル傑作選T ミステリー篇』
原作者 コナン・ドイル
原題 Best Collection of Arthur Conan Doyle(1999)(独自の編集)
訳者 北原尚彦・西崎憲
出版社 翔泳社
出版年 1999/12/5
面白度 ★★
主人公 ミステリー的な短編を広く集めた短編集。13本収録されている。
事件 半数以上が初めて単行本に収録された。題名は「王冠のダイアモンド」、「まだらの紐」、「競技場(フィールド)バザー」、「ワトスンの推理法修業」、「消えた臨時列車」、「時計だらけの男」、「狐の王」、「血の石の秘儀」、「深き淵より(デ・ブロフンデイス)」、「シニョール・ランベルトの引退」、「昇降機」、「クロックスリーの王者」、「バリモア公の失脚」。
背景 比較的有名な「消えた臨時列車」や「時計だらけの男」といったホームズ外伝から、パロディ、ホラー、医学サスペンス、ボクシング小説まで幅広く収録されている。よく集めたものだと感心するが、傑作選というより珍品選のような作品。ストーリー・テラーなのはよくわかる。
なお本書を再編集した『まだらの紐』(本書から6本、『真夜中の客』(中公ノベルズ)から2本、初出の小品2本を含む)が2004/7に東京創元社より刊行された。

邦題 『無法の正義』
原作者 クレイグ・トーマス
原題 A Wild Justice(1995)
訳者 田村源二
出版社 新潮社
出版年 1999/5/1
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『高度6万フィートの毒殺』
原作者 ゴードン・トーマス
原題 Poisonned Sky(1996)
訳者 鎌田三平
出版社 新潮社
出版年 1999/3/1
面白度 ★★
主人公 ロシア生れのユヤダ人デイヴィッド・モートン。ジュネーブに本部がある緊急対応多国籍実力行使機関<ハンマー・フォース>の現場責任者。
事件 米国大統領が提唱した環境保護計画に対して、巨大多国籍企業が絶対に阻止しようと立ちあがった。J・F・ケネディの暗殺のようにというわけで、エアフォース・ワン(大統領専用機)に罠が仕掛けられた。それに気づいたハンマー・フォースは……。
背景 国際陰謀小説だが、悪役側と善玉側のいずれの登場人物もステレオタイプで魅力がない。情報に重点をおいているからであろう。また架空のエアフォース・ワンが簡単に攻撃されるような設定になっているのも安易。これでは緊迫感のある物語にはならないと思うが。

邦題 『メアリー最期の八日間』
原作者 ジュリー・パーソンズ
原題 Mary Mary(1998)
訳者 山本光伸
出版社 扶桑社
出版年 1999/11/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『双生の荒鷲』
原作者 ジャック・ヒギンズ
原題 Flight of Eagles(1998)
訳者 黒原敏行
出版社 角川書店
出版年 1999/5/25
面白度 ★★★
主人公 イギリス空軍の飛行士ハリー・ケルソーとドイツ空軍の飛行士マックス・フォン・ハルダー。二人は双子でマックスが兄という関係。
事件 嵐を避けるために避難してきた作家夫妻の妻が持っていた飛行服姿のテディ・ベアを見て、宿の老主人は驚いた。第二次大戦中にハリーが持っていたものだからだ。そして老主人は、秘話を語り出した。ハリーには双子の兄がドイツにいて、二人は対決することになるが……。
背景 『鷲は舞い降りた』を思い出すプロローグで、さすがに手慣れた語り口である。だが、謎解き小説で双子の登場が禁じ手になっているように、冒険小説でも双子は安易に使うべきではないだろう。この作品でもそれが物語のレベルを低くしている。確かにここ数作の作品よりは良いが。

邦題 『細工は流々』
原作者 エリザベス・フェラーズ
原題 Remove the Bodies(1940)
訳者 中村有希
出版社 東京創元社
出版年 1999/12/24
面白度 ★★
主人公 トビー・ダイク(犯罪ジャーナリスト)とジョージ(トビーの同居人)のコンビ。シリーズ物の翻訳第3弾だが、原シリーズの二作目に相当する。
事件 突然トビーを訪ねてきた娘は、理由を聞かずに15ポンド貸してくれないかと頼み込んだ。だが翌日、その女性が殺されたことを匿名の電話で知った。二人は現場となった屋敷を調べると、奇妙な仕掛けがしてあるのに気づいた。どうやらトリック・マニアがいるらしい。
背景 私見ではこのシリーズは、語り口はつまらないが、冒頭の謎の面白さと解決の意外性でもっている。本書ではその冒頭の謎が平凡。容疑者に奇妙な性格の人間が多いというのが特徴であるが、このファースもそれほど成功していない。犯人の意外性はある。

邦題 『瓦礫の都市』
原作者 ジョン・フラートン
原題 The Monkey House(1996)
訳者 真崎義博
出版社 早川書房
出版年 1999/7/31
面白度 ★★★
主人公 サラエボ市警察刑事部長のロッソ。妻との間には隙間風がふいている。
事件 ボスニアで内戦が勃発し、首都サラエボは戦場と化した。そのサラエボの一画にある高層アパートで腐乱した女性の他殺死体が発見された。だが戦闘地区で警察も近づくことはできない。警察組織も崩壊し、鑑識や写真班もなくなっていた。そんな中でロッソは活動を続けた。
背景 戦場を舞台としながら警察小説になっているという点がユニーク。サラエボの現状を訴える部分と警察小説としての部分が、それほど融合していないのが残念。真面目に書かれているだけになおさらであるが、どちらかというと警察小説としての方が面白い。主人公は家庭的に問題があるものの強い意志の持ち主で、それなりに存在感はあるが、魅力はいまいちか。

邦題 『哀しみの密告者』
原作者 トム・ブラッドビー
原題 Shadow Dancer(1998)
訳者 野口百合子
出版社 扶桑社
出版年 1999/4/30
面白度 ★★★
主人公 コレット・マグロー。30代前半の女性テロリスト。息子一人と娘一人がいる。MI5対テロ工作課員デイヴィッド・ライアンの説得で転向する。
事件 IRAテロリストのコレットは、ロンドンで逮捕された。だが子供を捨てて監獄に入ることはできない。彼女は密告者となったが、IRAを裏切った者には悲惨な死が待ち受けているのだ。この現実の前に、コレットはなんとか生きる道を探すが……。
背景 IRAを背景にした哀しい小説である。読んでいて暗くなるばかりである。少しはユーモアを入れてもらいたいが、これがまったくない。カタルシスもほとんどない。ミステリーとしての仕掛けもあまりない。でも筆力は確かなので、ついつい読まされてしまう罪な小説だ。

邦題 『出走』
原作者 ディック・フランシス
原題 Field of 13(1998)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1999/8/31
面白度 ★★★
主人公 フランシス初めての短編集。13本収録されている。書下ろし短編は5本。
事件 収録作品は、「キングダム・ヒル競馬場の略奪」(偽の爆弾をしかけたという電話で……、というもの)、「レッド」、「モナに捧げる歌」(ミステリーではなく、泣かせる話)、「ブラインド・ホワイト・スター」、「衝突」、「悪夢」、「強襲」(フランシスの最初の短編)、「特種」、「春の憂鬱」、「ブラインド・チャンス」(盲目の少年が活躍)、「迷路」、「敗者ばかりの日」(他のアンソロジーに載っている作品。はやり印象に残る)、「波紋」(「敗者――」に似た雰囲気の短編)。
背景 うまいことはうまいが、例えば詐欺を扱った軽い内容のものでも、真面目な書き方なので、少し重苦しい印象を与えてしまうのが欠点か。コクはあれど、キレがあまり良くないということか。

邦題 『屍泥棒』
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 The Mind Reader(1996)
訳者 真野明裕
出版社 新潮社
出版年 1999/1/1
面白度 ★★
主人公 EU版FBIユーロポールに所属する英国人の女性心理分析官クローディーン・カーター。ソルボンヌ出身の才媛だが、夫の自殺を止められなかったという心の傷を持っている。独身。
事件 クローディーンを中心にして、イタリア人法病理学者とドイツ人コンピュータ専門家が活躍する連作短編集。12本の短編は「最後の被害者」、「屍泥棒」、「猟奇殺人」、「天国への殺人」、「ロシアン・ルーレット」、「神と呼ばれた男」、「甦る切り裂きジャック」、「モルモット」、「秘宝」、「裁かれる者」、「人肉食い」。
背景 本国より先に出版された作品。ミステリー的色彩の濃い短編は面白いが、猟奇的なもの、犯罪小説的なものは、刺激は強いものの面白くない。主人公に魅力がないためであろう。

邦題 『流出』上下
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 Charlie's Chance(1996)
訳者 戸田裕之
出版社 新潮社
出版年 1999/9/1
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのチャーリー・マフィン。今回は部長の理解のもとで活躍する。
事件 ロシアが混乱をしている間に、ロシアのマフィアが活発に動き出した。チャーリーはそのマフィアの活動を阻止するために、ロシアに派遣されることになった。嬉しいことに、モスクワにはナターリャと娘(実はチャーリーの娘)サーシャがいたが、240キロを越えるプルトニウムが盗まれる事件が起きたのだ。マフィアの仕業なのか? まだ国内に残っているのか?
背景 ソ連は崩壊しても、ロシアのマフィアは生き残っている。それに対してロシアと英米独が協力するという設定は悪くない。チャーリーが囮捜査を開始するところから、サスペンスが高まる。ナターリャは凡庸な女性になってしまったが、相変わらずフリーマントルの語り口は達者の一言。

邦題 『娼婦殺し』
原作者 アン・ペリー
原題 Pentecost Alley(1996)
訳者 浅羽莢子
出版社 集英社
出版年 1999/8/25
面白度 ★★
主人公 ボウ街署の署長トーマス・ピットとトーマスの妻シャーロット・ピット。夫婦探偵物のシリーズ・キャラクターだが、本作ではシャーロットの妹エミリー・ラドリイも大活躍する。
事件 切り裂きジャック事件が発生してから2年後のロンドンの貧民街で、娼婦が絞殺された。現場には、大物銀行家の一人息子の名前を記したバッジとカフスボタンが残されていた。その息子が犯人なのか? ピットは慎重に捜査を進めるが……。
背景 トーマス&シャーロット・ピット・シリーズの第16作。途中からの初登場だが、本作がMWA賞の候補作となったからであろう。ヴィクトリア朝を舞台にした典型的なコージー・ミステリーといってよく、長いわりにはミステリー的興味の少ない作品だ。

邦題 『災いの黒衣』
原作者 アン・ペリー
原題 A Dangerous Mourning(1991)
訳者 吉澤康子
出版社 東京創元社
出版年 1999/10/22
面白度 ★★★★
主人公 首都警察の警部ウィリアム・モンク。シリーズ物の第ニ弾。しかし物語の2/3あたりで警察をクビになってしまう。事件の謎を解くのは看護婦のへスター・ラターリィ。
事件 捜査中の事故で記憶を失ったモンクが担当する事件は、高名な貴族の娘が強盗に殺されたというもの。政治的に圧力のかかる事件であったが、モンクが苦境に陥ったのは、調査の結果、犯人は強盗ではなく、家族の中の誰かだということが明らかになったからだ。
背景 看護婦へスターの人物造形がいい。モンクより魅力的である。ヴィクトリア朝時代の女性というより現代人に近い考え方を持っている。自立心旺盛で、この生き方には共感してしまう。人間と動物の血の区別が出来ない時代の捜査だが、謎解きと意外な犯人の設定はご立派!

邦題 『国境なき犯罪』
原作者 クリストファー・ベルトン
原題 Crime Sans Frontieres(1997)
訳者 浅村寿彦
出版社 DHC
出版年 1999/6/28
面白度 ★★★
主人公 アメリカ人のドナルド・ミッチェル(国際犯罪治安局のスタッフ)とイギリス人のフランク・ストックトン(国家犯罪諜報機関のスタッフ)。
事件 日本のヤクザが数々のコンピュータ犯罪を実施しているらしい。国際コンピュータ犯罪対策機関が入手した情報をもとに、二人の外国人が来日し、日本人警官とともに捜査を開始した。情報が漏れていたこともわかったが、苦心の末、黒幕がヤクザの大物であることを突きとめたのだ。
背景 ブッカー賞の候補作に挙がったので、純文学的な小説かと思ったが、ミステリー色の濃い作品であった。コンピュータ犯罪がリアルに描かれている。主人公二人の国柄の違いが、巧みに描写されている。欠点は、依然としてヤクザや日本人がステレオタイプな人間であることか。

邦題 『竜の咆哮』
原作者 ハンフリー・ホークスリー
原題 Ceremony of Innocence(1998)
訳者 山本光伸
出版社 二見書房
出版年 1999/1/29
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『腐ったアルミニウム』
原作者 ジェームズ・ホーズ
原題 Rancid Aluminium(1997)
訳者 宮家あゆみ
出版社 DHC
出版年 1999/3/4
面白度 ★★★
主人公 ピーター・トンプソン。35歳。妻はいるが、子供はいない。ビデオ製作会社を経営。
事件 ピーターは大いに悩んでいた。会社は倒産寸前だし、子供が出来ないので精液検査をしなければならない。そしてついに、自分が騙されていることに気づいたのだ。倒産は決定的! そんなとき、ロシアの億万長者が信用のみでお金を貸すというのだ。同意したものの……。
背景 主人公がユニーク。全体にブラック・ユーモア的雰囲気のある小説だが、主人公がロシアに旅してからはサスペンスが高まる。終盤の数十頁は立派なミステリーといってよい。いってみればクリスティの『ゼロ時間へ』に似た構成である(ただし狭義のミステリーではない)。”精子”を小道具に使っているのが珍しいが、なんとアリバイ・トリックに利用している。これには驚いた。

邦題 『孔雀のプライド』
原作者 ヴィクトリア・ホルト
原題 The Pride of the Peacock(1976)
訳者 岸田正昭
出版社 文芸社
出版年 1999/2/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『パンプルムース氏の秘密任務』
原作者 マイケル・ボンド
原題 Monsieur Pamplemousse and the Secret Mission(1984)
訳者 木村博江
出版社 東京創元社
出版年 1999/3/25
面白度 ★★★
主人公 グルメ・ガイドブックの覆面調査員パンプルムース。元はパリ警視庁刑事。同じく元は警察犬であったポムフリットと共に行動する。愛車はブリキ玩具のようなシトロエン2CV。
事件 パンプルムース氏は編集長から秘密任務を与えられた。編集長の親戚が経営する、固い肉やパンを出すレストランの立て直しに協力せよというものであった。だが彼らが現地に乗り込んでみると、媚薬のからんだ奇怪な事件に巻き込まれてしまった。
背景 シリーズ物の第ニ作。第一作では、この作者のユーモア感覚に慣れていなかったこともあり馴染めなかったが、この作品は結構楽しめた。大人の童話的雰囲気に慣れたためか。自動化された公衆トイレでの珍騒動が笑える。艶っぽい話も、さらっと流している方がシャレている。

邦題 『水底の死者の眠り』
原作者 J・ウォリス・マーティン
原題 A Likeness in Stone(1997)
訳者 神納照子
出版社 扶桑社
出版年 1999/4/30
面白度 ★★
主人公 事件の担当者は元テムズ・ヴァリー警察の部長刑事ドライヴァーだが、物語の主人公はイアン・ギルモアか。失踪した女子学生ヘレナ・ウォーナーの当時の恋人だった。
事件 20年前に水没した家から偶然死体が見つかった。失踪したと思われていたヘレナの死体であった。だが、当時の恋人で、ヘレナを殺したと疑われていたギルモアの人生は、その事件を契機にして次第に狂ってしまったのだ。だが、やっと真相が明らかになるのだ!
背景 小味なサスペンス小説。登場人物も少ないし、プロットも単純。結末の意外性も予想がつく。その意味ではつまらない。しかし水底にある死蝋化した死体を描写しても、グロテスクな感じを与えていないのが良い。このあたりがアメリカのサイコ・スリラーとの大きな違いか。

邦題 『殺しの四重奏』
原作者 ヴァル・マクダーミド
原題 The Wire in the Blood(1997)
訳者 森沢麻里
出版社 集英社
出版年 1999/6/25
面白度 ★★★
主人公 イースト・ヨークシャー警察の女性警部キャロル・ジョーダンと心理分析官のトニー・ヒル。ヒルは全英犯罪者プロファイリング・プロジェクトの責任者になる。
事件 警部に昇進して新職場に異動したキャロルは、多発する不審火の事件を担当することになった。一方責任者となったトニーは研修生たちと、行方不明になった女子高生の事件を取り上げたが、意外なことに、二つの事件の犯人として有名なTVキャスターが浮かび上がってきたのだ。
背景 前作『殺しの儀式』が好評だったためか、シリーズ化されたようだ。サイコ・スリラーと警察小説をミックスさせたものだが、前作よりは警察小説寄りの作品。犯人は冒頭から明らかになっているので、倒叙物ともいえる。警察小説としてみると、主人公二人の魅力が少し不足している。

邦題 『リモート・コントロール』
原作者 アンディ・マクナブ
原題 Remote Control(1997)
訳者 伏見威蕃
出版社 角川書店
出版年 1999/5/15
面白度 ★★★
主人公 元SAS隊員で、英国秘密情報部の工作員ニック・ストーン。
事件 ニックは極秘任務でワシントンに飛んだ。だが到着後、不可解な作戦中止命令を受ける。帰国に先立ってかつての同僚を訪ねると、7歳の娘ケリーを除く一家全員が惨殺されていた。何故だ? そしてニックとケリーは正体不明の敵から追われるばかりか、警察からも逃げることになった。誰が敵で、誰が味方なのか? 真相が不明のまま二人の逃避行が続いた。
背景 元SASであった著者の小説第一作。細部のリアリティ(銃器や防犯設備、IRAや暴力についての描写)がスゴイので、それだけで物語に引き込まれてしまう。小気味よい文章で書かれている。問題はプロットだろう。冒頭の強烈な謎にたいして、結末がスッキリ終っていない。

邦題 『閉鎖病棟』
原作者 パトリック・マグラア
原題 Asylum(1996)
訳者 池央耿
出版社 河出書房新社
出版年 1999/6/25
面白度 ★★★★
主人公 語り手は精神科医のピータークリーヴだが、物語の中心人物は司法精神医の妻ステラ・ラファエル。年齢は30代で、色白、ブロンドの美人。一人息子がいる。
事件 1959年の夏、精神医ラファエルはロンドンからうらさびれた地の精神病院の副院長としてやってきた。そしてステラは彫刻家の入院患者スタークに運命的な出会いをする。二人はすぐに情事に走り、破局につき進んでいった。
背景 グロテスクな描写はなく、抑えた語り口で物語が展開する。それが静かな緊張感を生み、最後までその緊張感が緩むことはない。ミステリーとしては一種の倒叙物といえるが、後半の意外な展開や終盤の盛り上げもきちんと用意されている。マグラアの実力がよくわかる。

邦題 『サイレンス』
原作者 チャールズ・マクリーン
原題 The Silence(1996)
訳者 内田昌之
出版社 文藝春秋
出版年 1999/5/10
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ブランデンブルグの誓約』上下
原作者 グレン・ミード
原題 Brandenburg(1994)
訳者 戸田裕之
出版社 二見書房
出版年 1999/6/25
面白度 ★★★
主人公 ジョゼフ・フォルクマン。DSE(ヨーロッパ保安局)イギリス・セクションの職員。父は子供の頃ナチによって重傷を負わされた。
事件 南米で一人の老富豪が、自分の過去の記録をすべて焼却して自殺した。だが富豪の仲間たちが交わした謎の会話を聞いた新聞記者からの情報で、フォルクマンは調査に乗り出した。やがて謎の殺人があちこちで起こり、それらを解く鍵は昔のナチス・ドイツにあることに気づく。
背景 『雪の狼』の前に書かれた第一作。フォーサイス流の国際陰謀小説だが、フォーサイスを越えてはいない。現在の物語は、舞台は南米で密輸を扱っている。過去の話はナチ物で、この設定は(具体的には書かないが)、著者がいかに力をいれて書こうとも、リアリティが感じられない。

邦題 『扉の中』
原作者 デニーズ・ミーナ
原題 Garnethill(1998)
訳者 松下祥子
出版社 早川書房
出版年 1999/11/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『告発者』
原作者 ジョン・モーティマー
原題 Dunster(1992)
訳者 若島正
出版社 早川書房
出版年 1999/9/30
面白度 ★★★★
主人公 フィリップ・プログマイア。TV局の会計士であったが、本事件の進行につれて副プロデューサになる。ベサニーと結婚するが逃げられる。二人の間には娘が一人いる。
事件 第二次大戦中、ドイツ軍が行なったとされるイタリアでの虐殺事件は、実際は英国軍が行なったという告発状が届いた。しかもそれを指示したのがプログマイアの上司で、なんと告発者は、彼の妻を奪った男だったのだ。上司の無罪を信じてプログマイアは裁判で告発者と対決する。
背景 法廷弁護士ランポール物で有名な著者の単発物。本邦初紹介だが、ユーモラスな語り口、主役二人の人物造形の確かさ、単純ながらも巧みなプロット、いずれもたいしたものである。特に告発者の性格設定にオリジナリティを感じる。英国には、まだまだ大家がいるのがよくわかる。

邦題 『スパイの誇り』
原作者 ギャビン・ライアル
原題 Spy's Honour(1993)
訳者 石田善彦
出版社 早川書房
出版年 1999/10/31
面白度 ★★★
主人公 元砲兵大佐のマシュー・ランクリン。名家の出。落ちこぼれの傭兵としてギリシャ軍で戦っていたときに、設立されて間もない情報部に採用される。
事件 1912年、ヨーロッパは一触即発の時代だった。各国とも情報部は産声をあげたばかりだったが、英国情報部はランクリンに目を付けた。当時スパイの仕事は嫌悪や軽蔑の対象になっていたが、ランクリンは、アイルランド人オギルロイを助手にして任務をこなすことになったのだ。
背景 本書のアイディアの勝利は、第一次大戦直前の情報部を舞台にしたこと。つまりバカンのスパイ小説を今書くという行為が、歴史ミステリーの面白さを付加することになっている。構成は中編3本をオムニバス的に並べたものだが、当時のノンビリした雰囲気が意外に楽しめる。

邦題 『幽霊がいっぱい 古今英米幽霊事情2』
原作者 ペネロビ・ライヴリー他
原題 独自の編集
訳者 山内照子他
出版社 新風社
出版年  
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『地下墓地』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 The Vault(1999)
訳者 山本やよい
出版社 早川書房
出版年 1999/12/15
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのバース警察のダイヤモンド警視。シリーズ物の6冊目。
事件 物語は、白骨化した人間の手が警察に届けられるところから始まる。暇を持て余していたダイヤモンドがこの事件を扱うことになった。一方アメリカの大学教授夫妻は『フランケンシュタイン』を書いたメアリー・シェリーの住居をバースで探していたが、なんと白骨した謎の骨はその住居の地下室から見つかったものだった。そして教授の妻が行方不明となり、骨董品店主が殺された。
背景 中盤からは、誰が犯人かという謎と、冒頭の白骨化した手とをどう握手させるかという興味で読書を引っ張っていく。才人ラヴゼイにしては比較的まともなプロットではあるが、これはこれでよく考えられた謎解き小説。なおメアリーがバースに住んでいたのは歴史的事実だそうだ。

邦題 『仮面の天使』
原作者 シャーロット・ラム
原題 Deep and Silent Water(1998)
訳者 酒井裕美
出版社 二見書房
出版年 1999/3/25
面白度 ★★
主人公 モデル出身の新進女優のローラ・アースキン。
事件 ローラは、映画祭出席のため、真夏のヴェネツィアに向かった。ところがそこで、かつて恋焦がれた映画監督のセバスチャンと再会したのだ。セバスチャンの妻は大スターだったが、数年前に謎の死をとげていた。しかしセバスチャンとの再会で心の揺れるローラに脅迫状が届いたのだ。
背景 いわゆるロマンス小説にミステリー的味付けをした作品。作者は<英国ロマンス小説の女王>といわれ、数多くの作品が日本でもハーレ・クインから翻訳されている。しかしミステリーを書くと宣言して作られたのが本書らしいので、二見書房から出た作品はリストに含めた。犯人はまあ、うまく隠しているといえるが、ミステリーとしてはそれだけ。ロマンス小説は初体験でした。

邦題 『薔薇の殺意』
原作者 シャーロット・ラム
原題 In the Still of the Night(1995)
訳者 中村三千恵
出版社 二見書房
出版年 1999/5/25
面白度
主人公 TVの人気女優アニー・ラング。20代後半の独身。十代のころ子供を堕したことがある。事件 アニーが名門ドラマスクールで学んでいたころ、指導教官が淫らな行為を強要した。その話を聞いたアニーの恋人は激怒して謎の失踪をし、教官は解雇された。だがこの事件の後、脅迫めいたバレンタイン・カードが毎年送られてくるようになってきた。そして7年後、人気爆発したアニーの前に、かつての恋人が雑誌記者として登場した。だが殺人事件も起こり……。
背景 ロマンス小説の女王が初めて書いたミステリーという作品。まあ、こんなもんか。殺人事件があり、サイコ・スリラー的展開であるが、ミステリーの骨格がいかにも弱い。犯人は、教官か元恋人かのいずれしか考えられない。主人公も、人気女優にしては魅力がないのでガッカリ。

邦題 『血の流れるままに』
原作者 イアン・ランキン
原題 Let It Bleed(1995)
訳者 延原泰子
出版社 早川書房
出版年 1999/4/30
面白度 ★★★
主人公 エジンバラのセント・レナーズ署の警部ジョン・リーバス。離婚したが、娘が一人。40代後半。シリーズ物で、原書ではシリーズ7冊目。翻訳はシリーズ2冊目で、『青と黒』の前作。
事件 エジンバラ市長の娘が誘拐された。リーバスらは、容疑者の二人の少年を追いつめるが、川に飛び込んで自殺した。一方元受刑者が自殺する事件も起きた。一匹狼のリーバスは、捜査中止の圧力に負けないでそれらの自殺事件を調べると、やがて大きな汚職事件が……。
背景 日本流に言えば社会派ミステリーといってよく、政治家、官僚といったエリートたちの悪を暴いていく。警察小説としては前作よりまとまっている。自殺事件が本命の事件とあまり巧みに絡まっていないのが弱点だが、いかに事件を無難に収めるかに焦点を合わせているのがユニーク。

邦題 『首吊りの庭』
原作者 イアン・ランキン
原題 The Hanging Garden(1998)
訳者 延原泰子
出版社 早川書房
出版年 1999/12/15
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みとなったセント・レナーズ署の警部ジョン・リーバス。
事件 エジンバラの新興ギャングの動きが活発化した。警察は連日監視を続けていたが、そんなときリーバスは、第二次大戦末期フランスの村で起きたナチスによる虐殺事件の指揮官が、この地に潜伏しているので調べて欲しい、と上司から言われた。リーバスは問題の老人の身辺調査を始めると、ジョンの一人娘が轢き逃げされて意識不明の重態となったのだ!
背景 ギャング間の覇権争いの事件に、ナチの虐殺に関係した戦争犯罪人の話、自分の娘の轢き逃げ事件、サラエボの売春婦の話という、一見関係のない話を並行して語りながら、最後に一つにまとめている。そのまとめ方がうまい。またリーバスの怒りで、胸が締め付けられる場面もある。

邦題 『パナマの仕立屋』
原作者 ジョン・ル・カレ
原題 The Tailor of Panama(1996)
訳者 田口俊樹
出版社 集英社
出版年 1999/10/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『殺意を呼ぶ館』上下
原作者 ルース・レンデル
原題 The Crocodile Bird(1993)
訳者 小尾芙佐
出版社 扶桑社
出版年 1999/4/30
面白度 ★★★
主人公 英国南西部の僻地にあるシュローブ館の管理人イヴとその娘ライザ。
事件 シュローブ館に警官が来る夜、ライザは母の指示でロンドンへ行くよう命じられた。だがその指示に反して、庭師のトレーラーに逃げ込んだ。そしてさまざまな出来事(母と当主の関係や自分の教育など)について語り始める。二人の特異な関係とは?
背景 著者のノン・シリーズ物。物語は、主としてライザの視点をとおして、記憶のある4歳から17歳の現在までの出来事が語られる。ホラー・サスペンス的雰囲気もあるが、物語構成からもわかるように、一風変わった家庭に育った少女の成長小説として楽しめる。ミステリーとしての弱点は、母の犯罪についての捜査が確信犯的にあまり触れられていないことだろう。

邦題 『聖なる森』
原作者 ルース・レンデル
原題 Road Rage(1997)
訳者 吉野美恵子
出版社 早川書房
出版年 1999/7/15
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのキングズマーカム警察主任警部のレジナルド・ウェクスフォード。
事件 田舎町キングズマーカムに、バイパス道路建設計画がもちあがった。環境保護団体が反対運動で工事を妨害したため、町は騒然としていた。そんな中、ウェクスフォードの妻を含む数人が誘拐された。そして後日、<セイクリッド・グローブ>という団体から、建設計画が白紙撤回になるなら、誘拐した人質を解放するというメッセージが送られてきたのだ。
背景 久しぶりのウェクスフォード物。しかも、最近のノン・シリーズとは異なり、警察小説としてのミステリー色は褪せてはいない。安心して楽しめた。また環境破壊に反対する姿勢も、ストレートではないものの、明確に伝わってくる。物語る技術は大したものだ。今後も続けてほしい!

邦題 『キロ・クラス』
原作者 パトリック・ロビンソン
原題 Kilo Class(1998)
訳者 伏見威蕃
出版社 角川書店
出版年 1999/7/31
面白度  
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邦題 『幻の巨大戦艦』
原作者 ジョン・ワトソン
原題 The Iron Man(1998)
訳者 結城山和夫
出版社 二見書房
出版年 1999/9/25
面白度 ★★
主人公 ロシア海軍大佐ヤーコフ・ゾラ。だが本当の主人公は戦艦<スターリン>。排水量7万5千トン。最高速力35ノット。ハニカム防水構造。22インチ砲9門を搭載。
事件 第二次大戦末期、ソ連は戦艦<大和>に対抗して、密かに世界最大の戦艦<スターリン>を建造していた。だが完成を待たずに戦争は終り、以後現在までウラジオストックに係留されたままだった。突如、その戦艦を使って金塊を奪おうという計画が、ゾラのもとに持ち込まれたのだ。
背景 戦艦マニアのみが楽しめる作品。もちろんサスペンスが盛り上がるような書き方をしているので、まあそれなりには読めるが、最大の欠点は、この小説のプロットそのもの。50年以上も使われていない戦艦を海賊船に利用するというのでは、アクチュアリティがまったく感じられない。

邦題 『海軍大将ボライソー』
原作者 アレグザンダー・ケント
原題 For My Country's Freedom(1995)
訳者 高橋泰邦
出版社 早川書房
出版年 1999/
面白度  
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邦題 『聖十字旗のもとに』
原作者 アレクザンダー・ケント
原題 Cross of St.George(1996)
訳者 高橋泰邦
出版社 早川書房
出版年 1999/12/15
面白度  
主人公 

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