邦題 『グッドホープ邸の殺人』
原作者 ブルース・アレグザンダー
原題 Blind Justice(1994)
訳者 近藤麻里子
出版社 早川書房
出版年 1998/2/15
面白度 ★★★
主人公 探偵は実在した全盲の治安判事ジョン・フィールディング。
事件 警察隊が最初に組織された18世紀後半のロンドンが舞台。長官ジョンは視覚障害者。そこでジョンの助手となった13歳の少年が、中年を過ぎてから語った思い出話が本書で、事件は、貴族が密室状態の部屋で死んでいたというもの。銃による自殺と考えられたが――。
背景 カドフェル・シリーズが大ヒットしたためか、近年の英国ミステリー界では歴史ミステリーが一大勢力になっているそうだ。本書もその範疇にはいる作品で、トリックは取り立てて論ずるほどのものではないが、サミュエル・ジョンソン博士が登場したりして、当時のロンドンの活気と猥雑さが巧みに描かれている。日本の捕物帳を読む楽しさと同じといってよいだろう。

邦題 『そして人類は沈黙する』
原作者 デヴィッド・アンブローズ
原題 Mother of God(1995)
訳者 鎌田三平
出版社 角川書店
出版年 1998/6/25
面白度 ★★
主人公 オックスフォードのケンダル研究所に所属する天才科学者テッサ・ランバート。29歳。
事件 ランバートはAIの研究者で、自ら成長する世界初の人工知能を開発し、密かにプログラムの成長を見守っていた。一方ロサンゼルスではネットワークを利用してデータを集め、美女ばかりを狙う連続殺人が発生していた。ところがその犯人が、テッサのAIプログラムが作動しているコンピュータに侵入したために……。
背景 AIが勝手に増殖するというSF的設定の話とネットワークを利用するシリアル・キラーというサイコ・スリラーを足した内容のサスペンス小説。二つの話はあまりうまく繋がってはいない。SF的な結末にしているが、この程度のセンス・オブ・ワンダーでは、SFとはいいにくいだろう。

邦題 『覚醒するアダム』
原作者 デヴィッド・アンブローズ
原題 Superstition(1997)
訳者 務台夏子
出版社 角川書店
出版年 1998/12/25
面白度 ★★★
主人公 雑誌記者のジョアンナ・クロスと実験を主宰する大学の実験心理学者サム・タウン。
事件 ジョアンナは、「幽霊は人間の想念が創り出す」というサムの説に興味を持った。そして幽霊を科学的に創り出すサムの実験に参加した。実験では参加者の意識の中に架空の人物「アダム」が埋め込まれたが、やがて参加者が一人づつ不可解な死を遂げ始めたのだ。
背景 モダン・ホラーだが、怪談的要素が多く含まれている。作者が英国作家だからだ(とはコジツケだが)。心理学実験を開始するまでは説明が多過ぎて平凡な出来だが、不可解な死が起きてからはノン・ストップ・サスペンス小説といったものになる。ジョアンナの次元が表から裏に切り換わるというアイディアが新鮮に感じた。ラストの捻りもまあまあ。

邦題 『長い夜の果てに』
原作者 バーバラ・ヴァイン
原題 No Night Is Too Long(1994)
訳者 榊優子
出版社 扶桑社
出版年 1998/3/30
面白度 ★★★
主人公 ”N”町の協会に勤める美男の青年ティム・コーニッシュ。ゲイである。5年前の事件を回想する。その手記が小説全体の八割を占める。
事件 ティムは、かつて古生物学者と知り合い、男同士の恋におちた。だが次第に彼から離れて、旅行先で魅力的な女性と出会ったことから同棲してしまう。ところがティムのもとへ匿名の手紙が舞い込みはじめた。それも絶海の孤島に置き去りにされた男の記事が入っているのだ。何故?
背景 全体が三人の手記で成り立っている。この場合、通常のミステリーなら叙述トリックが使われるところだが、そこはレンデル。小細工はあるものの、正攻法でゲイの恋愛、破局を描いていて、それで読者を納得させてしまう。やはりレンデルの語り口の上手さのなせる業か。

邦題 『ヴァンパイアの塔』
原作者 ディクスン・カー
原題 The Dead Sleep Lightly(1957/1983)
訳者 大村美根子他
出版社 東京創元社
出版年 1998/1/30
面白度 ★★★
主人公 ラジオ台本9本(内フェル博士の登場するものは9本)と『クリスマスに捧げるミステリー』にも収められている短編「刑事の休日」、松田道弘氏の「新カー問答」からなる短編集。
事件 1940年代のカー作品は、それまでの派手なトリックとオドロオドロしい語り口の作品から、単純なプロットと平明な語り口のミステリーに変っている。収録台本の多くはその時代に書かれただけに、その特徴がよく出ており、特に降霊会の殺人を扱った「暗黒の一瞬」や『死が二人をわかつまで』に似た設定の標題作は、単純ながら意外性十分な作品に仕上がっている。
背景 「新カー問答」の中では「物語がクライマックスに近づくと、きまったように急変する天候」と揶揄されているように、本書の台本でもやたらと雷鳴が轟く。ホント、雷鳴が好きな作家のようだ。

邦題 『悪魔のひじの家』
原作者 ジョン・ディクスン・カー
原題 The House at Satan's Elbow(1965)
訳者 白須清美
出版社 新樹社
出版年 1998/10/23
面白度 ★★★
主人公 お馴染みギデオン・フェル博士(本書ではギディオンと表記されている)
事件 晩年のカーの作品には歴史ミステリーが多いが、本書はフェル博士が登場する現代物。<悪魔のひじの家>と呼ばれる旧家で、幽霊が現われたり、密室でその家の主人が銃で重傷を負ったりする不可解な事件を、フェル博士や懐かしきエリオット警部が担当するという話。
背景 50歳後半のカーの作品は、体を壊したこともあり、完成度は急激に落ちている。しかし本書は、体調が一時的に回復した時期に書かれたためか、人間消失などといったカーお得意の謎の処理も無難で、その頃の歴史ミステリーなどと比較すると出来は良い。ただしあくまでも”晩年の作品の中では”という制限付きだが……

邦題 『殺人摩天楼』
原作者 フィリップ・カー
原題 Gridiron(1995)
訳者 東江一紀
出版社 新潮社
出版年 1998/8/1
面白度 ★★★★
主人公 <アブラハム>という名のスーパー・コンピュータ。高度の学習機能だけでなく、自己複製機能も備えている。人間側は、技術コーディネーターのミッチ・ブライアン。
事件 ロサンゼルスに完成間近の25階建てインテリジェント・ビルは、照明を始めとしたすべての制御は<アブラハム>で行なわれる予定だった。だがプログラムのミスで、ビルが人間を襲うようになった。警備員が連続して変死し、関係者全員が内部に閉じ込められてしまった!
背景 家が人間を襲うホラーは結構あるが、古風な家の代わりにコンピュータ制御のビルをもってきた点にオリジナリティを感じる。人間とゲーム感覚で戦うコンピュータという設定も面白い。語り口は、定評のあるカーだけに相変わらず上手い。理系人間にはリアリティに欠ける面はあるが。

邦題 『エサウ』
原作者 フィリップ・カー
原題 Esau(1996)
訳者 東江一紀・後藤由季子
出版社 徳間書店
出版年 1998/10/31
面白度 ★★★
主人公 世界的登山家のジャック・ファーニス。エベレストの無酸素登山を経験している。彼のかつての恋人だった古人類学者ステラ・スウィフトがヒロインとなる。
事件 「エサウ」とは旧約聖書の人物に因んで名付けられた化石。ヒマラヤで発見された原人の頭蓋骨の化石であった。ジャックとステラの一行はエサウの正体を求めてヒマラヤを探求するが、彼らが見つけたものは生きたイエティだったのだ。
背景 ミステリーというより、秘境冒険物をスパイ・スリラーで味付けしたエンタテインメント。M・クライトンの『黄金の都市』がこれに近いか。序盤は通常の冒険物だが、中盤イエティが見つかり、異郷が出現するあたりからオリジナリティが増してくる。良くも悪くも、カーは変わった。

邦題 『ナイトシェード』
原作者 レジ・ギャドニー
原題 Nightshade(1987)
訳者 高橋健次
出版社 講談社
出版年 1998/2/15
面白度 ★★★
主人公 SIS(英国秘密情報部)の幹部ジョン・マーン。同じ幹部のヘンリー・ニューイストンの妻カースティと不倫をしている。
事件 ジョンは親子二代にわたる情報部員であるが、父の老友から、ジョンの父の死の真相を究明するようにと言われた。ジョンは極秘ファイルを見つけるものの、これを巡って次々と殺人が起き、ジョンの恋人も殺されてしまったのだ。
背景 ル・カレ風なスパイ小説。血湧き肉躍る活劇はなく、主としてSIS内部のエリート幹部の言動が話の大半を占めているからである。日本の真珠湾奇襲をイギリス側がアメリカに知らせていたのか、というのがメインの謎。終盤はフーダニットで盛り上がり、結構面白い。

邦題 『ブラック・コーヒー(小説版)』
原作者 アガサ・クリスティー(チャールズ・オズボーン小説化)
原題 Agatha Christie's Black Coffee(1997)
訳者 中村妙子
出版社 早川書房
出版年 1998/4/30
面白度 ★★
主人公 エルキュール・ポアロ。元は1930年に初演された戯曲で、本書はその小説化。
事件 この戯曲は、クリスティが最初に手掛けた作品で、ポアロ登場の唯一のオリジナル劇。世評は好意的であったが、彼女は必ずしもその成果に満足していなかった。習作の域を多少越えた程度と自覚していたし、新爆弾の科学式を盗まれた科学者がコーヒーに入った毒で殺されるというプロットも、クリスティーのものとしては、月並みといえるからだ。
背景 本書の出来は、著者の独自性は認められず、第一章を除くと、劇のト書を地の文に代えた程度の変更で終っている。クリスティが最初から中編を書いたらこうなったであろう、という書き方だ。贋作と考えれば不満はないが、これなら本物(戯曲)を読むに越したことはない。

邦題 『マン島の黄金』
原作者 アガサ・クリスティー
原題 While the Light Lasts and Other Stories(1997)
訳者 中村妙子他
出版社 早川書房
出版年 1998/9/15
面白度 ★★★
主人公 クリスティの幻の短編を集めた短編集(収録短編は10本)。クリスティの伝記を書いたJ・モーガンや本書の各短編のあとがきを書いたT・メダウォーの努力に負うところが大きい。
事件 表題作は宝探し懸賞小説。謎は難しすぎて面白味に欠けるが、主人公らの言動だけでも楽しめる。ミステリーとは言い難いが「孤独な神様」は後味のよいロマンス小説に仕上がっている。さらに「崖っぷち」は有名な失踪事件の直前に書かれただけにワイドショー的な興味も尽きない。
背景 日本版の特徴は、英版を基本としながら、英版にない「クリスマスの冒険」や、ハードカバーには載っていない「マン島の黄金」の地図を追加したことで、英米版より完璧を期している。発行日がクリスティーの誕生日と同じなのも(単なる偶然?)、ファンには嬉しいことだ。

邦題 『ビッグ・ピクチャー』
原作者 ダグラス・ケネディ
原題 The Big Picture(1997)
訳者 中川聖
出版社 新潮社
出版年 1998/7/1
面白度 ★★★
主人公 弁護士のベン・ブラッドフォード。ニューヨーク大学法学大学院で博士号を収得。ウォール街の大手法律事務所に勤務の38歳。妻と二人の息子がいる。趣味はカメラ。
事件 表面的には勝ち組人生と思われていたベンだが、実際は違っていた。ある日、妻の不倫に気づき、激情に駆られて凶行に及んでしまったのだ。ベンは自分を抹殺することを決意し、ニューイングランドからモンタナへ秘かに脱出する。
背景 中年男の変身願望を実現した(?)冒険小説風作品。殺人を犯した後のブラック・ユーモア的雰囲気は楽しめる。第三部の展開はかなりご都合主義だが、まあ許せるか。残念なのは、主人公には同情するものの、感情移入しにくい点であろう。

邦題 『イエスの遺伝子』
原作者 マイクル・コーディ
原題 The Miracle Strain(1997)
訳者 内田昌之
出版社 徳間書店
出版年 1998/3/31
面白度 ★★★
主人公 遺伝子学者トム・カーター。ノーベル賞生理学医学賞受賞。たったひとつの体細胞から人間の遺伝子すべてを解読できる装置の開発者。8歳の長女がいる。
事件 2002年12月、ノーベル賞の授賞式でトムは暗殺されそうになった。トムは助かったが隣りにいた妻が死亡した。そして妻の遺体解剖から、妻は脳腫瘍に罹っており、遺伝子解読の結果、一人娘も間もなく発病し、一年の命であることがわかったのだ。残る手段はイエス・キリストの遺伝子の謎を解いて、治療に利用することだった。
背景 近未来が舞台。DNAが小道具。訳者がSF畑の人。当初はSFと思っていたが、これは国際陰謀小説といってよいだろう。キリストのDNAというアイディアには感心した。2005年8月に『メサイア・コード』と改題され、早川書房から出版されている。

邦題 『闇に浮かぶ絵』上下
原作者 ロバート・ゴダード
原題 Painting the Darkness(1989)
訳者 加地美知子
出版社 文藝春秋
出版年 1998/2/10
面白度 ★★★★
主人公 プロットの妙で読ませる作品なので、誰を挙げるべきか難しい。准男爵家の跡継ぎだった長男ジェイムズ・ダヴェノールか。消息を絶ってから11年後に戻ってくる。
事件 舞台は19世紀のロンドン。自殺したと思われていたジェイムズが帰ってきた。しかし現れた男は本当にジェイムズなのか? 彼の元婚約者は困惑し、その夫は激怒し、母や弟は頑なに彼をジェイムズとは認めなかった。やがて裁判に発展するが……。
背景 冒頭から一気に物語に引き込むプロット、語り口が見事。関係者がそれぞれに困惑する。特に元婚約者は本当のジェイムズと思い、夫は焦る、というあたりは上手い。問題は、後半の”事故”というべき謎が弱いことで、ミステリー的な驚きは『リオノーラの肖像』には及ばない。

邦題 『正義』上下
原作者 P・D・ジェイムズ
原題 A Certain Justice(1997)
訳者 青木久恵
出版社 早川書房
出版年 1998/10/31
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのダルグリッシュ警視長。シリーズ11作目。
事件 本書は”真の正義とはなにか”をテーマにした長大なミステリー。舞台は法曹界。流行りの法廷物に手を出したのかと眉をひそめる人もいよう。しかし彼女のテーマを展開する上で最良の舞台がたまたま法曹界であったということで、事件は、やり手の女性弁護士が法曹学院の自室で刺し殺されていたというもの。被害者の鬘の上から血が滴っているという奇妙な状態で!
背景 彼女の身辺調査が進むにつれて、動機を持っている人物が何人もいる、という展開はオーソドックスだが、旅行中の風景にしろ、チョイ役の登場人物にしろ、相変わらず実に丁寧に描写しているのには感心してしまう。欲をいえば、もう少しトリッキーなプロットであってほしかった。

邦題 『スキナーのフェスティヴァル』
原作者 クィンティン・ジャーディン
原題 Skinner's Festival(1994)
訳者 安倍昭至
出版社 東京創元社
出版年 1998/4/17
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『キリング・タイム』上下
原作者 マレー・スミス
原題 Killing Time(1995)
訳者 広瀬順弘
出版社 文藝春秋
出版年 1998/6/10
面白度 ★★★
主人公 シリーズ物の主人公はSIS工作管理本部長のデーヴィッド・ジャーディン。ただし本書の主人公は新人情報員のジェームズ・ガント。幼い頃テロを目撃したという心の傷を持っている。
事件 ある時、ガントは恐ろしいテロ計画の存在に気づいた。ジャーデンに報告したが、ジャーデンは困った。テロ組織を完全に壊滅させるために、当面はそのままにすべきではないかと。そのことを知らないガントは、単独でテロを阻止すべくニューヨークに向かったのだ。
背景 シリーズ3作目で一皮むけたようだ。語り口がスマートになったし、ガントの人物造形が良い。正義感があり腕力もあるが、冷静な判断力も持っている。ガントが一人前のスパイになる成長小説の要素をもっている。それに対してジャーデンは相変わらずパットしないのは残念。

邦題 『強襲』
原作者 マーク・ダニエル
原題 The Bold Thing(1990)
訳者 山田久美子
出版社 新潮社
出版年 1998/4/1
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ゲームに憑かれた男』
原作者 マーク・チスネル
原題 The Deliverty(1996)
訳者 小菅正夫
出版社 徳間書店
出版年 1998/12/15
面白度 ★★
主人公 マーティン・マーコック。為替ディーラーであったが、大穴をあけてロンドンの金融街から追放され、放浪の末タイに辿り着く。
事件 マーティンはそこで麻薬組織のボスと出会った。彼は偏執的なゲーム・マニアで、マーティンやマーティンの恋人をヨットに乗せ、全員に死のゲーム”囚人のゲーム”を課したのだ。
背景 ”囚人のゲーム”とは、二人がともに協力すれば1年の刑、いずれも離反すれば3年の刑、一方が協力し他方が離反すれば、離反した者は釈放、協力した者は5年の刑となる。黙秘した方がよいのか、裏切って密告した方がよいのかという心理的ディレンマがあるもの。ボスの特異な性格は面白いものの、いかにもゲームのためのプロットで、サスペンスが感じられない。

邦題 『死の誘い』
原作者 ケイト・チャールズ
原題 The Snares of Death(1992)
訳者 相原眞理子
出版社 東京創元社
出版年 1998/10/30
面白度 ★★★★
主人公 事務弁護士のデイヴィッド・ミドルトンブラウン。40代の独身。画家ルーシー・キングズリーという愛人がいる。シリーズ2作目。昔、同性愛者であったことが負い目になっている。
事件 ノーフォーク州の小さな村の教会に新しい司祭がやってきた。彼は過激な福音派の牧師で、偶像崇拝をやめようと改革に乗り出したのだ。だが聖母マリアを愛する会衆は驚き、反発し、ついに新任司祭は殺されてしまったのだ。中盤からはフーダニットの展開となる。
背景 一作目が好評につき、シリーズ化されたそうだ。物語の構成も、語り口も一段とうまくなっている。コージー派ミステリーだが、謎解きミステリーとしても楽しめる。人間関係を適確に描いているので、それがフーダニットの面白さを増している。中年男女の初心な(?)恋愛も微笑ましい。

邦題 『白銀の誓い』
原作者 リンゼイ・デイヴィス
原題 The Silver Pigs(1989)
訳者 伊藤和子
出版社 光文社
出版年 1998/8/20
面白度 ★★★★
主人公 ローマの密偵マルクス・ディディウス・ファルコ。27歳。シリーズ物の第一作。アウェンティヌス地区の貸家の7階のニ間に住む。母と姉がときどき訪れる。
事件 時は紀元70年のローマ。ある日ファルコは暴漢に襲われた少女を助けたが、翌日帰った少女は殺されてしまった。犯人は密輸された銀のインゴットを狙って、少女の持っていた倉庫の鍵をうばったのだ。ファルコは元老院議員の依頼を受けて、ブリタニアの鉱山奴隷に化けて、少女の敵討ちと密輸のからくりを暴くことになった。そしてかの地で最愛のヘレナと巡り合う。
背景 英国で大人気シリーズ。なんといってもファルコの魅力で読ませる作品。ファルコの軽口と冒険、ロマンス、謎解きから成っている。著者が女性だというのも驚き。★一つはオマケ。

邦題 『毒の神託』
原作者 ピーター・ディキンスン
原題 The Poison Oracle(1974)
訳者 浅羽莢子
出版社 原書房
出版年 1998/3/26
面白度 ★★★
主人公 心理言語学者のウェズリー・モリス。チンパンジーの意志伝達能力を研究している。
事件 奇異な舞台に風変りな人物が登場するミステリーを数多く書いている著者の十数年ぶりの翻訳。今回の舞台も、アラブの砂漠にそびえ立つ巨大な逆ピラミッド形の宮殿という変な所。近くの沼地には独特の言語・風俗をもつ沼族の人々が生活している。そのような宮殿で君主とボディガードが死んでいた。二人は互いに殺し合ったかに見えるが……。
背景 SFミステリーそのものと誤解されそうだが、そこはディキンスンというわけで、いかにも英国的といった細部に凝る文章が物語にリアリティを与えているばかりか、まともな謎解きミステリーにもなっているから不思議だ。著者の作品のなかでは、比較的楽しめた。

邦題 『死はわが隣人』
原作者 コリン・デクスター
原題 Death Is Now My Neighbour(1996)
訳者 大庭忠男
出版社 早川書房
出版年 1998/3/31
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みモース主任警部。シリーズの最新作
事件 モースが今回担当した事件は、オックスフォード大学ロンズデール学寮に近い住宅街で起きた若い女性の殺人事件。一方学寮では学寮長の選挙が始まり二人が立候補していたが、やがてモースは二人の候補者と殺人事件の接点に気づく。
背景 本シリーズの面白さは、二転三転するアクロバティクなプロットとモースやルイスの人間的魅力にあることは間違いない。本作のプロットは比較的単純でプロット重視派はがっかりするはずだが、逆にモース・ファンは思わずニヤリとする場面がいつもより多い。特筆すべきは、Eで始まるモースのファーストネームが完全に明らかになるが、これは、もちろん読んでのお楽しみ!

邦題 『化けて出てやる』
原作者 ダフネ・デュ・モーリア
原題 独自の編集
訳者 山内照子他
出版社 新風舎
出版年 1998/9/30
面白度 ★★★
主人公 英国作家の書いた怪奇小説を中心に編まれたアンソロジー。俗っぽい表題は興冷めだが、女性の幽霊が登場する長めの短編6本を集めていて、中味は楽しめるものが多い。
事件 トップバッターはデュ・モーリアの「林檎の木」。気にくわない林檎の老木を切り倒したら不可解な現象が起きて――という話で、本書の中では一番怖い。またF・ウェルドンの「壊れる!」やA・ルーリーの「イルゼの家」は比較的新しい作品だが、古色蒼然とした話になりやすい幽霊物語も、書き方によっては新鮮な印象を与えられることがよくわかる。
背景 いわゆる純文学系作家の手になるだけに、いずれの作品も、モダン・ホラーのような派手さはないものの、緻密な描写で恐怖感を徐々に盛り上げる技巧は冴えている。

邦題 『愚者の血』
原作者 サラ・デュナント
原題 Under My Skin(1995)
訳者 小西敦子
出版社 講談社
出版年 1998/4/15
面白度 ★★
主人公 女性探偵ハンナ・ウルフ。探偵事務所所長フランクの基で働いている。三十代半ば。シリーズ物の第3弾。
事件 高級ヘルスクラブで奇妙な事件が続発した。蛆の入った料理が出てきたり、ジャクージの中に鯉が投げ入れられたりした。単なる嫌がらせなのか? ハンナが調査を担当することになり、首尾よく犯人を突き止めるが、オーナーの夫で美容外科医が殺される事件が起きたのだ!
背景 ハンナの個性は、酷なことかもしれないが、キンジーやウォーショースキーに比べると、やはり魅力がイマイチ。これは導入部からすぐに事件の捜査に入ってしまう構成にも問題があろう。少し寄道してでも、ハンナの心情がもっと書かれていたら、読者の共感を得られたと思うが。

邦題 『ディファレント・ウォー』
原作者 クレイグ・トーマス
原題 A Different War(1997)
訳者 小林宏明
出版社 小学館
出版年 1998/1/1
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『運命の石』
原作者 ナイジェル・トランター
原題 The Stone(1958)
訳者 杉本優
出版社 大修館書店
出版年 1998/10/12
面白度 ★★★
主人公 スコットランドの貧乏な生年貴族で準男爵のパトリック・キンケイド。キンケイドに協力するのが密猟者マグレガーと近くの農場の娘ジーン・グレーアム。
事件 ”運命の石”とは、1296年にスコットランドを征服したイングランド王エドワード一世がスクーン修道院から奪った石。それが現在の石は贋物で、本物はキンケイド川の近くにあるというのだ。オックスフォード大の研究会が探し当てる前に、キンケイドらが発見したが……。
背景 「運命の石」をテーマにした冒険ユーモア小説。宝探しの物語ではなく(石は簡単に見つかってしまう)、一トン近い石を修道院に隠したり、放浪人に化けて脱出したりするところがクライマックスになっている。明るいユーモアがあり、殺人も暴力も起きない展開が安心して楽しめる。


邦題 『アルファベット・シティ』
原作者 スティーヴン・ナイト
原題 Alphabet City(1995)
訳者 小西敦子
出版社 角川書店
出版年 1998/2/25
面白度 ★★
主人公 作家のスティーヴン・ホーソン。ニューヨークの無法地帯を一年間取材してノンフィクションの『アルファベット・シティ』を発表した。別居中の妻がいる。
事件 スティーヴンはこの作品によって一躍有名になるが、実はこの小説はノンフィクションではなく、フィクションなのであった。ベストセラーになったためスティーヴンは苦境に立たされるが、やがて作中の記述が殺人事件の証拠とされたことから、事件に巻き込まれることになったのだ。
背景 かなり変わった小説。狭義の意味のミステリーとはいえないだろう。前半は普通だが、後半は戸惑ってしまう。嘘が真実(裁判の証拠)となる設定で、普通の意味のミステリーとしては唖然とする。カタルシスもない。一般小説なら許される展開であろうが……。

邦題 『記憶の闇の底から』
原作者 ジャック・ネヴィン
原題 Past Recall(1997)
訳者 岡聖子
出版社 扶桑社
出版年 1998/9/30
面白度 ★★★
主人公 児童文学者のマシュー・ステナー。40代後半。作家としての名声はアメリカでも高まり、その作品はディズニーでアニメ化されそうになっている。
事件 順風満帆といったマシューであったが、ある日二十歳の娘カミラが自殺を図った。一命はとりとめたものの、それが原因でうつ状態に陥った。そこでセラピストに預けたが、驚くべきことにカミラが性的虐待で父親を訴え、マシューは逮捕されてしまったのだ。映画化の契約も破棄された。
背景 いわゆる”記憶回復症候群”を主題としたミステリー。これを主題にするとサスペンス小説かサイコ・スリラーになりがちであるが、本書はリーガル・サスペンス風の展開で、意外な犯人も登場する。もっと謎解き小説に徹した方がよかった気もするが、どっちつかずになっているのが弱点。

邦題 『地下室の殺人』
原作者 アントニイ・バークリー
原題 Murder in the Basement(1932)
訳者 佐藤弓生
出版社 国書刊行会
出版年 1998/7/25
面白度 ★★★
主人公 作家ロジャー・シェリンガム。素人探偵だが、代用教員として働いてもいた。
事件 物語は、新婚旅行から帰ってきた夫が入居住宅の地下室の床下から、若い女性の死体を見つけたことから始まる。やがてその遺体の骨に残っていた骨折治療に使用したプレートから、被害者はさる私立学校の関係者であることがわかったのだ。
背景 第二部はシェリンガムの手記で、学園内の人間関係が詳しく語られている。被害者探しという設定は目新しいが、基本的には謎解き学園ミステリーの一種で、安心して楽しめる。これまでは、アイルズ名義の犯罪小説の方が評価は高かった。独創性や現代ミステリーへの影響などを考慮すればそれも当然だが、多少ともバークリーの”探偵小説”が紹介されるのは喜ばしい。

邦題 『ソフィー』
原作者 ガイ・バート
原題 Sophie(1994)
訳者 黒原敏行
出版社 読売新聞社
出版年 1998/3/12
面白度 ★★★
主人公 ソフィーとマシューの姉弟。イギリスの広大な敷地を持つ古い家に住む。両親はいるものの、父親は遠く離れ、母親は子供に無関心でいる。二人だけの生活を楽しんでいる。
事件 そのような環境の二人の5歳頃から十代前半までの話。ただし小説の現在は、主人公らが二十代になっている。頭のいいソフィーは全面的に弟の面倒をみていた。体の弱い弟には姉が神のように見えたが、徐々に成長していくにつれて異常的なものが出てきたのだ。
背景 冒頭に謎―何故かマシューがソフィーの両手首を縛りソフィーを非難している―が提出されている。これが上手い技巧で、やがて物語りはマシューの回想で語られる。サイコ・スリラーの雰囲気をもっている。十代前半の人間は残酷でもあり、純真でもあることが巧みに描かれている。

邦題 『殺す』
原作者 J・G・バラード
原題 Running Wild(1988)
訳者 山田順子
出版社 東京創元社
出版年 1998/9/25
面白度 ★★
主人公 首都警察精神医学副顧問で精神分析医のリチャード・クレヴィル。
事件 ロンドン郊外に新た作られた超高級住宅地で大量殺人事件が起きた。32人の大人全員が殺害され、13人の子供が誘拐された。手掛かりが少なく迷宮入りした事件の解決のためにクレヴィルが招聘された。そして心身喪失状態で発見された少女の証言から驚くべき真実が……。
背景 SF作家といってよいバラードのミステリー的な作品。20世紀最大の病理、無動機殺人について考察したもの。中編といった長さ。手記というか報告書の体裁で書かれている。確かに超管理社会ではこのような殺人が起きる可能性があるという指摘には肯くことができる。オリジナリティはあるが、魅力的な謎が徐々に解かれるという小説的な面白さはない。

邦題 『五輪の薔薇』上下
原作者 チャールズ・パリサー
原題 The Quincunx(1989)
訳者 甲斐萬里江
出版社 早川書房
出版年 1998/3/3
面白度 ★★★
主人公 メランフィー家の一人息子ジョン(ジョニー)。母メアリーと二人でひっそりと暮らしていた。1812年生れで、5−6歳から10代の終り頃までの話。
事件 ジョンは母親と散歩の途中、薔薇の意匠がほどこされた紋章のある馬車を見た。それは自宅の銀器にある”五輪の薔薇”の意匠と同じだったのだ。そこから父親がいない出生の秘密を探り始めた。だが途中で母は亡くなり、最下層の生活を経験しながらも、未来を見つめて――。
背景 5部、5章、5節、つまり全125節の長い物語。5に徹底的に拘っている構成はスゴイ。上下巻で1200頁を越す。落ちこぼれた少年が苦労して遺産相続できるという話。19世紀のロンドンが活写されている。冒険小説としては楽しめるが、ミステリーとしては不満も多い。

邦題 『虎の潜む嶺』
原作者 ジャック・ヒギンズ
原題 Year of The Tiger(1996)
訳者 伏見威蕃
出版社 早川書房
出版年 1998/7/15
面白度 ★★
主人公 引退直前の英国情報部<ビューロー>局長のポール・シャヴァス。語学の天才。
事件 シャヴァスはある夜、チベット人僧侶の訪問を受ける。そして1962年に、チベットの奥地に住む天才的老数学者を西欧に脱出させたことを回顧する。数学者は原子物理学を根本から覆す新理論を完成させたが、それは米ソ間の宇宙開発競争にとって必要な科学者であったのだ。厳しい自然の中、中共軍の追跡を避けながらの脱出行となった。
背景 1963年にマーティン・ファロン名義で出版したものに、プロローグとエピローグを付けた作品。少しばかり冒険小説に陰謀小説的な味付けをした格好になっている。プロットはそれなりに面白いが、当時のヒギンズ作品と同じで表面をなぞるような書き方で、コクがない。

邦題 『悪魔と手を組め』
原作者 ジャック・ヒギンズ
原題 Drink with the Devil(1996)
訳者 黒原敏行
出版社 早川書房
出版年 1998/11/30
面白度 ★★
主人公 若かりし頃のショーン・ディロン。ファーガスン准将直下のトラブル解決要員。
事件 1985年のベルファスト。王党派のライアンは、軍資金獲得のため、湖水地方で五千万ポンドの金塊を略奪する計画を立てた。仲間に自分の姪と船員のキーオーを加えたが、キーオーはIRAのスパイだったのだ。計画は成功したかに見えたが、10年後――。
背景 この10年間ヒギンズ作品で良い印象をもったものはないが、この作品も評価は低い。面白い点は、ディロンの前歴が明らかになることぐらいで、プロットは平板。なにより熱っぽい語り口がほとんどなくなってしまった。シナリオのように会話が多くて、それに多少の地の文がある、という安易な小説作りになっている。ヒギンズは70歳を越えているから、多くを望むのは酷だろうが。

邦題 『完璧な絵画』
原作者 レジナルド・ヒル
原題 Pictures of Perfection(1994)
訳者 秋津知子
出版社 早川書房
出版年 1998/6/30
面白度 ★★★★★
主人公 ダルジール警視シリーズだが、ウィールド部長刑事とパスコー主任警部が捜査を担当。
事件 ヨークシャーの小村に駐在している若い巡査部長が行方不明となった。単に女性の家に無断外泊しただけの可能性もあるが、人の良いパスコーらが駆り出されたわけである。ところが一見平和なこの村にも、大地主一家の家督相続問題や小学校の存続問題が持ち上がっており――。
背景 なんといっても面白いのは、変人・奇人と呼びたいほどの村人や個性豊かな大地主一家が生き生きと描かれていること。ヒルが真骨頂を発揮していて、最後まで飽きさせない。結末には賛否両論がありそうだが、S・スミスの『午後の死』にも似た、英国ミステリーならではのシャレた作品に仕上がっている。おまけに好漢パスコーはクリスティー・ファンだったのだ。ウレシイ!

邦題 『幻の森』
原作者 レジナルド・ヒル
原題 The Wood Beyond(1996)
訳者 松下祥子
出版社 早川書房
出版年 1998/9/30
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのダルジール警視とパスコー主任警部。
事件 第一次大戦中に起きたパスコーの曽祖父の謎の死をパスコーが調査する話と、製薬会社の敷地から見つかった白骨死体の謎を捜査するダルジールらの話が並行して語られる。始めはわずかな接点しかなかった二つの事件が、やがて不思議な因縁で結ばれていることがわかる。
背景 前作の軽いファンタスティックなミステリーから一転して、動物虐待や反戦といった重いテーマを扱っている。そのような重いテーマをユーモアに包んで処理する語り口のうまさには、毎度のことながら脱帽してしまう。ただし聡明な女性と信じていたパスコーの妻が「くそ、くそ」を連発するのは興ざめ。もう少し上品な卑語(矛盾している?)はないものだろうか。

邦題 『汚れなき女』
原作者 フランセス・ファイフィールド
原題 A Clear Conscience(1994)
訳者 猪俣美江子
出版社 早川書房
出版年 1998/8/31
面白度 ★★★
主人公 弁護士で公訴官のヘレン・ウェスト。シリーズ物の第5作。恋人は主任警視ベイリー。
事件 公訴局で家庭内暴力事件を担当しているヘレンは、ある時、彼女の家の掃除人キャスの態度がおかしいことに気づいた。どうやら酒に酔った夫の暴力に耐えているらしい。ヘレンは救いの手を伸べるが、彼女は夫の元から離れなかった。一方ベイリーは酒場での喧嘩による殺人事件を担当していたが、この二つの事件が、やがて絡まってくる。
背景 レンデルに似ている部分もあるが、著者の独自性も出ている。ただしレンデルに比べると読者を物語に引き込む力は弱い。ヘレンは犯人を追及しないし、捜査物語ではない。汚れのない特異な女性の犯罪を描いた心理サスペンス小説といったところか。

邦題 『猿来たりなば』
原作者 エリザベス・フェラーズ
原題 Don't Monkey with Murder(1942)
訳者 中村有希
出版社 東京創元社
出版年 1998/9/25
面白度 ★★★
主人公 トビー・ダイクとジョージ。前者は犯罪ジャーナリストで探偵役だが、トビーの親友であるジョージの方が推理の閃きがある。
事件 二人は、南イングランドの片田舎イースト・リートにやってきた。この地に住む外国人から、娘が誘拐されそうになった事件を解決してほしいと依頼されたのだ。ところが迎えの女性の話をよく聞くと、娘とはチンパンジーだった。そのうえ依頼者の屋敷に着くと、そのチンパンジーが殺されていた。トビーとジョージはこの「殺猿事件」を解決しようと決心する。
背景 著者の初期作で、シリーズ物の一冊。このようなパズラーを書いているとは意外だった。何故チンパンジーが殺されたのかという謎はユニーク。中盤の語り口がかったるいのが弱点か。

邦題 『自殺の殺人』
原作者 エリザベス・フェラーズ
原題 Death in Botanist's Bay(1941)
訳者 中村有希
出版社 東京創元社
出版年 1998/12/25
面白度 ★★★
主人公 犯罪ジャーナリストのトビー・ダイクとジョージのコンビ。
事件 忘れられていた作家フェラーズは『猿来りなば』で注目されるようになったが、本書はその前作にあたる作品。彼らは、崖から飛び降り自殺をしようとした人間が、その翌日、拳銃自殺をしてしまった事件を捜査することになる。指紋の付き方から自殺は考えられないことがわかり――。
背景 訳題は謎めいた題名だが、米版の原題 "Murder of a Suicide"を直訳したもの。他殺か自殺かを推理するだけの単純なミステリーではなく、自殺に見せかけた殺人なのか、はたまた自殺に見せかけた殺人を装った自殺なのか、とプロットは二転、三転していく。中盤の展開が平凡なのが、前作同様、残念な点だ。とはいえ『猿来りなば』の出来がフロックでないことはよくわかる。

邦題 『騎乗』
原作者 ディック・フランシス
原題 10-1b Penalty(1997)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1998/10/15
面白度 ★★★
主人公 ベネディクト(ベン)・ジュリアード。17歳でアマチュア障害騎手。活躍するも、身に覚えのない麻薬常用という理由で突然解雇される。
事件 この解雇は裏で父親が画策していたものだった。というのも父親は立候補した下院議員の補欠選挙をベンに手伝ってもらいたかったのだ。選挙中には事務所は放火されたり、車に妨害工作されたりした。ベンは父親の警護役を買って出て、父の夢の実現を目指した。
背景 競馬シリーズの36冊め。ついに衰えたかと実感してしまう作品。もちろん文章力は衰えていないから水準作ではあるものの、構成力というかプロットの工夫が不足し、単純になっている。このため従来の作品に比べると翻訳で百頁近くも短い。ベンもカッコ良いだけで魅力がない。

邦題 『報復』上下
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 Charlie's Apprentice(1993)
訳者 戸田裕之
出版社 新潮社
出版年 1998/2/1
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの英国諜報部員チャーリー・マフィン。シリーズの9作目。
事件 チャーリーは新人ガウアーの教育係を押しつけられた。そしてガウアーの初仕事は、北京のイエスズ会士を出国させることであったが、失敗して窮地に陥った。そこでチャーリーは北京に飛ぶが、一方ロシアでは、対外情報部門のトップに立ったナターリアがチャーリーの行方を追っていた。
背景 邦訳ではシリーズ9作目だが、原シリーズは本書の前に”Comrade Charlie”(1991)という作品があるようだ。突然チャーリーに娘がいたりしてビックリしてしまう。内容は、中国が対象という、冷戦後のスパイ小説らしい設定になっている。チャーリーは脇役で、最後にならないと活躍しない。KGBの話は添え物で、次作への伏線のような書き方で終っている。

邦題 『猟鬼』
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 The Button Man(1992)
訳者 松本剛史
出版社 新潮社
出版年 1998/10/1
面白度 ★★★
主人公 ロシアの民警ディミトリー・ダニーロフとFBI本部ロシア課の課長ウィリアム・カウリー。
事件 モスクワでは死体から髪の毛とボタンを奪うという猟奇的な連続殺人事件が起きていた。捜査を担当するダニーロフは犯人を性格異常者と考えた。一方被害者のひとりがアメリカ大使館員の女性だったことから、カウリーも捜査に参加することになった。しかしモスクワには離婚した妻が生活しており、再会せざるをえなかった。
背景 相変わらず語り口はうまい。主人公らの人物造形も悪くない。ダニーロフは不倫をし、カウリーは元妻と付き合わざるをえない。中年男の私生活が巧みに描かれている。逆に事件そのものはつまらない。猟奇殺人を謎解きとして処理しようとして、無理に意外性を作っているようだ。

邦題 『三人の名探偵のための事件』
原作者 レオ・ブルース
原題 Case for Three Detectives(1936)
訳者 小林晋
出版社 新樹社
出版年 1998/12/1
面白度 ★★★
主人公 探偵役は村の警官ウィリアム・ビーフ巡査部長。語り手はタウンゼント。その他、三人の探偵、ロード・サイモン・プリム(貴族探偵ウィムジイ卿のもじり)、ムッシュー・アメ・ピコン(私立探偵ポアロのもじり)、スミス師(神父探偵ブラウンのもじり)が登場する。
事件 サセックスの村にあるサーストン家でパーティが開かれていた。突然ニ階から悲鳴が三回も聞こえ、密室状態の部屋で、サーストン夫人が喉を掻き切られて死んでいた。そして翌朝3人の名探偵が登場し、それぞれが密室殺人の謎に挑戦する。
背景 パロディ的な謎解きミステリー。4つの謎解きがある。机上の空論としても厳しいトリックが多いが、パロディだから許せるか。私にはユーモアが感じられず、世評ほどは楽しめなかった。

邦題 『殺しにいたるメモ』
原作者 ニコラス・ブレイク
原題 Minute for Murder(1947)
訳者 森英俊
出版社 原書房
出版年 1998/3/26
面白度 ★★★
主人公 ナイジェル・ストレンジウェイズ。シリーズ探偵。
事件 舞台は、第二次世界大戦終了直後のイギリス戦意昴揚省という架空の政府機関。元職員で、ドイツで死亡したと思われていた男の帰国が事の始まりであった。彼の帰国を祝うパーティで彼の元婚約者が毒殺されたからだ。現場にいたナイジェルは、自ら捜査に乗り出すことになった。
背景 重要な小道具として利用されるのが、戦争中に自殺用に作られた、口中に隠せる青酸入りのカプセル。被害者は青酸で殺されたのに、なぜカプセルが現場になかったのか、なぜ犯人はカプセルを持ち出さねばならなかったのかを、徹底して論理的に推理するところが圧巻。クイーンも脱帽するような書き方だが、ブレイクにしてはあまりに古典的な、古典的なというわけで……。

邦題 『メモリー・ゲーム』
原作者 ニッキ・フレンチ
原題 The Memory Game(1997)
訳者 務台夏子
出版社 角川書店
出版年 1998/2/25
面白度 ★★★
主人公 女性建築家のジェイン・マルテロ。夫とは最近離婚した。40代前半。
事件 ジェインは、義父のために別棟を設計したが、その基礎工事をしているときに人骨が見つかった。なんと25年前にパーティーで行方不明となったマルテロ家の娘ナタリーだったのだ。ジェインの親友であったこともあり、彼女は情緒不安定となり催眠療法を受けることになった。青春時代を思い出したことはよかったが、やがて忌まわしいナタリーの死の原因も甦ってきたのだった。
背景 「偽りの記憶症候群」を主題にした小説。著者はジャーナリストだそうだが、この主題の怖さ、恐ろしさを訴えるためにミステリーを書いたと思われる。したがってミステリーとしては警察の初期捜査が杜撰といった欠点が目立つが、リーダビリティはかなり高く、テーマはよく理解できる。

邦題 『ドイルと、黒い塔の六人』上下
原作者 マーク・フロスト
原題 The 6 Messiahs(1995)
訳者 飛田野裕子
出版社 扶桑社
出版年 1998/12/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ワイン通の復讐』
原作者 ピーター・ヘイニング編
原題 Murder By the Glass(1994)
訳者 渡辺眞理
出版社 心交社
出版年 1998/1/30
面白度 ★★★★
主人公 酒にまつわるミステリーを集めた短編集。12本収録されているが、半分は英国産。
事件 短編を列挙する。R・ダールの「ワイン通の復讐」、E・A・ポーの「アモンティリャードの樽」、J・エイケンの「マーマレードワイン」、S・モームの「宴の前に」、M・ギルバートの「所得税の謎」、W・C・モローの「アブサンのボトルをめぐって」、C・ブラントの「未亡人に乾杯」、E・C・ベントリーの「失踪」、C・ライスの「ハイボールの罠」、G・シムノンの「競売前夜」、L・G・ブロックマンの「ワイン探偵ベリング」、S・エリンの「最後の一瞬」。
背景 ほとんど前に読んだことのある短編。さすがに良い作品は訳者にはあまり関係ないことがわかる。特にダールとモームとエリンの作品は何度読んでもうまいと感心してしまう。

邦題 『ディナーで殺人を』下
原作者 ピーター・へイニング編
原題 Murder on the Menu(1991)
訳者 田口俊樹他
出版社 東京創元社
出版年 1998/1/30
面白度 ★★★
主人公 食べ物と殺人がミックスした短編小説のアンソロジー。ミステリーからホラーまでの幅広い短編が27本収集され、上下巻に分冊されて翻訳出版されている。
事件 下巻の第3部”デザート”は探偵小説傑作選で、ここには多くの英国作家のミステリーが収録されている。収録作は、「二十四羽の黒ツグミ」(A・クリスティー)、「長いメニュー」(H・C・ベイリー)、「暗殺者クラブ」(N・ブレイク)、「二人で夕食を」(R・ヴィカーズ)、「ニシンのジャム事件」(M・ギルバート)、「ディナーにラム酒を」(R・G・ブロックマン)、「競売の前夜」(J・シムノン)、「オイズン・ア・ラ・カルト」(R・スタウト)、「おとなしい兇器」+2本の合計11本。
背景 比較的有名な作品が多く安心して読める。上巻は他国の作家が多いので外した。

邦題 『復讐×復習』
原作者 マーティン・ベッドフォード
原題 Acts of Revision(1996)
訳者 浜野アキオ
出版社 扶桑社
出版年 1998/11/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『詩篇殺人者』上下
原作者 クリス・ペティット
原題 The Psalm Killer(1996)
訳者 友枝康子
出版社 早川書房
出版年 1998/10/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『外人部隊』上下
原作者 ダグラス・ボイド
原題 The Eagle and the Snake(1992)
訳者 伊達奎
出版社 東京創元社
出版年 1998/7/24
面白度 ★★★
主人公 明確な主人公はいないが、強いて上げればフランス外人部隊大尉のラウル・デュヴァリエ。代々将軍を出している名門の出。本編の語り手でもある。
事件 インドシナ戦争末期の1954年、ラウルはディエン・ビエン・フーでの戦い中に、陸中突破して金貨箱を移送する命令を受けた。だがその使命に失敗し、ラウルは生き埋めとなって重傷。金貨箱の行方も一部不明となった。そして十数年後、ラウルは私設部隊を編成するが……。
背景 フランス外人部隊を背景にした冒険小説。よく調べて書かれている印象を持つが、第一作だからか、さまざまな要素を入れすぎて、小説としてはかえって散漫になっている。宝探しの冒険小説に絞れば、もう少し楽しめるはずだが、魅力的な登場人物がいないのが残念。

邦題 『心療室』
原作者 タム・ホスキンス
原題 The Talking Cure(1997)
訳者 小津薫
出版社 講談社
出版年 1998/12/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『殺しの幻想』
原作者 ヒラリー・ボナー
原題 A Fancy to Kill for(1997)
訳者 安藤由紀子
出版社 二見書房
出版年 1998/12/25
面白度 ★★
主人公 強いて挙げれば、事件を捜査するトッド・マレット主任警部か。
事件 英国で人気のTVドラマ「スパロー・ホーク」で殺し屋を演ずる人気俳優コリントンは、あるときその演技を酷評された。ところが酷評した女性ジャーナリストが惨殺された。容疑者には彼女の年下の愛人が浮かぶが、調べると犯行の手口が「スパロー・ホーク」の殺し屋にそっくりだったことがわかった。さらに同じ手口の殺人事件が他でも見つかったのだ。
背景 サイコ的雰囲気のあるサスペンス小説。著者(ショービジネス紙のジャーナリスト)は英国人だが、本作には英国風雰囲気は感じられない。出だしはまあまあだが、マレットの捜査物語はヒドイ。裁判の場面もたいしたことはない。最大の売りが女性のセックス場面とは少し悲しい。

邦題 『パンプルムース氏のおすすめ料理』
原作者 マイケル・ボンド
原題 Monsieur Pamplemousse(1998)
訳者 木村博江
出版社 東京創元社
出版年 1998/2/25
面白度 ★★
主人公 元パリ警視庁刑事で、現在は権威あるグルメ・ガイドブックの調査員パンプルムース。元警察犬ポムフリットと一緒に行動する。「女にかけては凄腕」の55歳くらい。
事件 二人(?)が向かった先は、パンプルムース氏お気に入りの有名なホテル・レストラン。星印ならぬ赤鍋印三つを狙っているレストランだが、出された料理からは人間の生首がでてきたり、オーナー・シェフの妻がパンプルムース氏を色仕掛けで襲ったり……。
背景 <熊のパディントン>の作者のミステリー第一作。どちらかというと期待はずれ。主人公がフランス人(しかもイギリス人からみた典型的なフランス人)なのがツマラナイ理由の一つで、いまいち魅力が感じられない。料理好きには、それなりに面白いとは思うが。

邦題 『大洪水』
原作者 マックス・マーロウ
原題 When the River Rises(1994)
訳者 鈴木恵
出版社 東京創元社
出版年 1998/5/22
面白度 ★★
主人公 パニック小説なので、主人公は大洪水をおこすアマゾン川やネグロ川の支流か。人間の主人公は、イギリスの古生物学者で調査隊の隊長ジェフリー・ライアン。
事件 アマゾンの奥地で、恐鳥モアの巨大な卵が発見された。ライアンを含む合同調査隊はすばやく現地に到着するが、現地は集中豪雨で危機が高まっていた。しかし功名心から卵の発見が優先されたため、ついに調査隊のいる村は孤立化した。そのうえ殺人事件が起きたのだ!
背景 読みやすいし、大洪水と秘境探検+殺人事件の発生というプロットをそつなくまとめている。ただしアマゾン流域の描写や登場人物に、あまり魅力が感じられない。イギリス人夫妻の合作であるが、舞台がアマゾン奥地ということもあり、”英国的”雰囲気が認められない。

邦題 『ロック・ビート・マンチェスター』
原作者 ヴァル・マクダーミド
原題 Dead Beat(1992)
訳者 森沢麻里
出版社 集英社
出版年 1998/4/20
面白度 ★★★
主人公 モーテンセン・アンド・ブラナガン探偵社の若くい私立探偵ケイト・ブラナガン。タイボクシングが趣味。音楽ジャーナリストのリチャード・バークレーが恋人。
事件 リチャードの紹介で知り合ったロックのスーパースター、ジェットから、ケイトは人探しを依頼された。探す相手は、彼のデビュー当時に恋人であったモイラ。やがて麻薬更生施設にいるモイラを発見し一件落着した。だがジェットの元に戻った6週間後、モイラは殺されてしまったのだ!
背景 女性私立探偵物の第一作。前半は人探しという典型的な私立探偵小説だが、後半は一建物内で殺人犯を探すというフーダニットの謎解き小説になっている。キンジー・ミルホーンと比較するとケイトの魅力はいま一つだが、ミステリーとしては無難な出来に仕上がっている。

邦題 『牧師館の死』
原作者 ジル・マゴーン
原題 Redemption(1988)
訳者 高橋なお子
出版社 東京創元社
出版年 1998/6/19
面白度 ★★★
主人公 首席警部のデイヴィッド・ロイド。妻とは離婚。ジュディ・ヒル部長刑事と恋仲。
事件 クリスマス・イブ、牧師館には牧師の娘である若妻が、夫の暴力に耐え切れずに帰ってきていた。そこに妻とのやり直しを期待する夫が訪ねてきたのである。しかし火かき棒による殺人が起きたのだ。若妻か、はたまた娘を守ろうとした牧師夫妻の犯行か? ロイドとヒルが捜査を担当するが、容疑者4人にはそれぞれアリバイがあったのだ。
背景 謎の作り方が上手い。第一作『パーフェクト・マッチ』ほどのキレ味はないものの、容疑者4人の中の誰が犯人であるかをわからなくする技巧はかなりのものがある。主人公らの不倫の描き方は、クロンビーのダンカン警視物に比べると平凡。謎解き小説だから、無理もないか。

邦題 『ミス・オイスター・ブラウンの犯罪』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 The Crime of Miss Oyster Brown(1994)
訳者 中村保男他
出版社 早川書房
出版年 1998/9/15
面白度 ★★★★
主人公 EQ誌に訳載された短編を中心にして編まれた彼の第2短編集(18本を収録)。
事件 表題作は、双子の独身姉妹の一人が怪しい行動を起こし――という”奇妙な隣人”テーマの短編(EQ誌1991年7月号)。また「ビックリ箱」は、強引な不動産鑑定士に手を焼く女主人が意外な結末を迎える話(EQ誌1997年3月号)。さらに「シヴァーズ嬢の招待状」は、幽霊が登場する典型的なクリスマス・ストーリー(EQ誌1993年1月号)。
背景 記憶力のよい読者は落ちまで覚えているかもしれないが、だからといって本書をパスすることは、あまりにもったいない。巧みな語り口で読者を引き込んでしまうラヴゼイの短編は、上手な噺家が演ずる古典落語のように、落ちを知っていても何度でも楽しめるからである。

邦題 『帽子屋の休暇』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 Mad Hatter's Holiday(1973)
訳者 中村保男
出版社 早川書房
出版年 1998/10/15
面白度 ★★★
主人公 クリッブ部長刑事とサッカレイ巡査。シリーズ物の4作目。ただし本書では光学器械店を営むモスクロップが一番出番が多い。
事件 舞台は避暑地ブライトン。その海岸でモスクロップは、覗き見からゼナという女性に一目惚れした。だが、ある日突然見かけなくなった。一方水族館では女性の片手が発見された。クリッブらが捜査に借り出されたが、モスクロップはゼナが殺されたと思い警察に出向いたのだ。
背景 最近のラヴゼイの好調さで、旧作が見直されたのは嬉しい限りだ。モスクロップはストーカーのようであり、彼に感情移入していいのかどうか迷ってしまう。しかし50頁を越えるころから、がぜん面白くなる。19世紀末の事件だが、いかにも現代に通じる事件であるのにはビックリ。

邦題 『暗い迷宮』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 Upon a Dark Night(1997)
訳者 山本やよい
出版社 早川書房
出版年 1998/12/31
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのダイヤモンド警視。シリーズ物の第5作
事件 物語の幕開けは、若い女性が目覚めると彼女は完全に記憶を喪失していた、というもの。何故なのか? と考える間もなく、すぐに物語に引き込まれてしまう。一方ダイヤモンド警視は、働かなさすぎが原因の高血圧症に悩みながらも、若い女性の自殺事件を担当することになった。中盤は謎解きミステリー風になるが、無関係だった二つの事件には意外な接点があり……。
背景 このような物語構成は、すでに謎解きミステリーやサスペンス小説を何冊も書き上げ、両方のミステリー・スタイルを自家薬籠中の物にしているラヴゼイでなければ出来ない芸当であろう。相変わらずの技巧の冴えと読者サービスには脱帽!

邦題 『黒と青』
原作者 イアン・ランキン
原題 Black and Blue(1997)
訳者 延原泰子
出版社 早川書房
出版年 1998/7/31
面白度 ★★★★
主人公 エジンバラのクレイグミラー署犯罪捜査部の警部ジョン・リーバス。50歳で一人娘がいるが、離婚している。本邦初登場。原シリーズの8作目。
事件 1960年代にスコットランドを震撼させた猟奇事件と同様な事件が起きた。前回の事件は迷宮入りとなっていた。同じ犯人か、模倣犯か、リーバスは捜査を開始した。一方、リーバスが昔担当した事件で服役中の囚人が自殺した。冤罪を訴えていたので、内部委員会の調査が始まった。
背景 1997年のCWAゴールド・ダガー賞受賞作。いくつかの事件が並行して語られ、それぞれが何らかの繋がりがあるという物語構成。リーバスの個性・生き方はそれなりに魅力があるが、いささか破滅型。ハードボイルド探偵と英国流刑事の中間を狙っているが、多少不満も残る。

邦題 『ニュース・キャスター』
原作者 ボブ・ラングレー
原題 Prime Force(1995)
訳者 渡辺庸子
出版社 東京創元社
出版年 1998/2/27
面白度 ★★
主人公 新進女性キャスターのキャロライン・フォース。当初は英国ローカル局のゲスト出演者にすぎなかったが、美貌と知性と真摯な人柄で、一気に全米の人気キャスターとなる。
事件 キャロラインの成功は、しかし彼女自身の実力だけではなかった。裏では極右組織<ムーブメント>が行動していたのだ。彼らはメディアを利用して、腐敗した現在の政府を支配下に収めようとしていた。そのための最適手段としてキャロラインが選ばれたのだ。
背景 初期の正統的な冒険小説に比べると、最近の著者の作品は陰謀小説に傾いている。本作でも後半は、キャロラインが単なる陰謀計画の駒に過ぎないことがわかってくる。陰謀小説だから悪いというわけではないが、陰謀小説にふさわしい魅力あるプロットを組み立ててほしいものだ。

邦題 『疑惑の薬』
原作者 マシュー・リン
原題 Insecuruty(1997)
訳者 広津倫子
出版社 徳間書店
出版年 1998/8/15
面白度 ★★★
主人公 製薬会社のエリート社員ジャック・ボロディンと生化学者タラ・リング
事件 ボロディンはイギリス屈指の製薬会社会長の特別補佐に抜擢された。一方タラは新しいワクチン開発を任せられた。二人は仕事に励むが、やがて会社は生物兵器研究や薬品偽造に関わっており、二人は単なるスケープゴートにすぎないことを知ったのだ。
背景 大企業の陰謀に社員二人が気づき、逃亡しながらも反撃して倒すという、それなりにカタルシスのある面白い作品。ジャックの魅力はいまひとつだが、ヴェトナム人とアメリカ人の混血というタラに存在感がある。二人が何故スケープゴートなのかという謎を追及する中盤過ぎから大いに盛り上がる。企業の陰謀がチャチでなければ、もっとサスペンスが高まったはずなのに、残念。

邦題 『石の微笑』
原作者 ルース・レンデル
原題 The Bridesmaid(1989)
訳者 羽田詩津子
出版社 角川書店
出版年 1998/9/25
面白度 ★★★
主人公 インテリア・デザイナーの卵フィリップ。二十代の男で、未亡人の母と姉妹がいる。
事件 フィリップはナイーブな青年で、愛するのは美しいものだけ。その彼が、姉の結婚式で花嫁付添い人(原題のブライズメイド)をしたゼンダに一目惚れしたのだ。彼の家の庭に置かれていて、彼が愛してやまない彫像フローラに似ていたからだ。ゼンダもフィリップに好感を持ち、二人は情熱的に愛し合った。だがゼンダが愛の証明としてあることを要求したことから、運命が狂い出した。
背景 やはりレンデル、といった小説。単純なボーイ・ミーツ・ガール風の小説なのに、サイコ・スリラーに仕上げてしまう。また若い二人ということで性愛が大きな比重を占めているが、節度を持って扱われている。原書刊行直後に翻訳されていれば、より衝撃が大きかったのにと残念。

邦題 『女を脅した男 ミステリー名人選集1』
原作者 ルース・レンデル
原題 The Man Who Frightened Woman(1998)
訳者 酒匂真理子他
出版社 光文社
出版年 1998/10/20
面白度 ★★★
主人公 EQ誌に訳載された短編を中心にして編まれた短編集。11本が収録されている。
事件 ノン・シリーズ物7本で残りの4本がウェクスフォード物。題名は以下の通り。「女ともだち」、「女を脅した男」、「父の日」、「時計は苛つ」、「雑草」、「愛の神」、「カーテンが降りて」、「ウェクスフォードの休日」、「藁をもつかむ」、「もとめられぬ女」、「追いつめられて」。冒頭の「女ともだち」は、女装好きな男と不倫を楽しむが、という話で、それほど切れ味が鋭いものではない。標題作は、一人で外出している女性を脅かすことで快感を得る男の話で、オチは皮肉がきいている。
背景 「女ともだち」と「カーテンが降りて」はMWAの短編賞を受賞している。また「ウェクスフォードの休日」と「藁をもつかむ」は中編といってよい分量である。

邦題 『水曜日の子供』
原作者 ピーター・ロビンスン
原題 Wednesday's Child(1992)
訳者 幸田敦子
出版社 東京創元社
出版年 1998/8/
面白度  
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邦題 『エクスカバリー 最後の閃光』上下
原作者 バーナード・コーンウェル
原題 Excalibur(1997)
訳者 木原悦子
出版社 原書房
出版年 1998/12/31
面白度  
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邦題 『巡洋戦艦リライアント』
原作者 ダグラス・リーマン
原題 Battlecruiser(1997)
訳者 大森洋子
出版社 早川書房
出版年 1998/5/31
面白度  
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