邦題 『魔の聖堂』
原作者 ピーター・アクロイド
原題 Hawksmoor(1985)
訳者 矢野浩三郎
出版社 新潮社
出版年 1997/3/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『少女が消えた小道』
原作者 ジェイン・アダムズ
原題 The Greenway(1995)
訳者 加地美知子
出版社 早川書房
出版年 1997/5/15
面白度 ★★★
主人公 キャシー。かつて叔母の家があったノーフォークの緑に覆われた小道で意識を失い、一緒にいた従妹が神隠しのように消えた事件を経験している。
事件 物語は、キャシーが20年ぶりにノーフォークに戻ってきたところから始まる。彼女はあの事件後、悪夢を見ることが多くなったが、彼女の夫が、過去の事件と真正面から向き合うべきだと説得して、この地を再訪したのである。ところが以前と同じ場所で再び少女が消え……。
背景 新人の心理サスペンス小説。冒頭の魅力的な謎に加えて、”少女が消えた小道”近辺の風景描写や登場人物の心理描写は新人とは思えない出来である。読み出したら止まらない小説になっているが、いささか小さくまとまり過ぎていることと、ラストの謎解きが平凡なことが残念だ。

邦題 『アスタの日記』上下
原作者 バーバラ・ヴァイン
原題 Asta's Book(1993)
訳者 榊優子
出版社 扶桑社
出版年 1997/2/28
面白度 ★★★
主人公 語り手アン・イーストブルック。ただし物語の中心人物は日記を書いたアスタ(祖母)。
事件 デンマークからイギリスに移住してきたアスタは膨大な日記を残した。死後日記は娘のスワニーの翻訳で出版され、ベストセラーとなった。そしてスワニーも世を去ると、姪のアンがすべてを引き継いだ。ところが最近日記の原本には、昔の未解決殺人事件の手掛かりが書かれているのではないかと指摘された。そのうえスワニーがアスタの実の娘ではないという匿名の手紙も――。
背景 ヴァインのうまさと弱点が、両方とも際立って目立つ作品。うまさは、アスタの日記、アンの語る物語、スワニーの視点からの物語、殺人事件の記録を巧みに配置し、80年ものスパンのある物語を澱みなく語っていること。これには脱帽。最大の弱点は、謎が唐突に解けてしまうことか。

邦題 『赤い髪の少女』
原作者 ティム・ウィルスン
原題 Freezing Point(1995)
訳者 岡聖子
出版社 扶桑社
出版年 1997/10/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『フロスト日和』
原作者 R・D・ウィングフィールド
原題 A Touch of Frost(1987)
訳者 芹澤恵
出版社 東京創元社
出版年 1997/10/17
面白度 ★★★★★
主人公 英国の架空の都市デントン市にあるデントン警察署のジャック・フロスト警部。40代で、一人で生活している。妻は病死した。仕事中毒でもある。シリーズ物の二作目。
事件 デントン市では連続婦女暴行魔が横行していた。夜勤のフロストの仕事は、降格したウェブスター警部とともに、まずは公衆便所で見つかった浮浪者の死体を捜査することであった。これだけでも大変なのに、少女の失踪が報告され、老人のひき逃げ事件が起こったのだ。
背景 フロストの魅力で読ませる。たいした文句をいわずに仕事を引き受け、人質救出のためには単身敵地に乗り込む。ドーヴァーとは大違い。少々下品だが、人情家でもある。短編ネタの話を巧みにリンクさせ長大なミステリーに仕立て上げた手腕はアッパレ。もっと長くてもいい!

邦題 『これが密室だ!』
原作者 ロバート・エイディー+森英俊編
原題 18 Locked Room Puzzles(1996)
訳者 森英俊
出版社 新樹社
出版年 1997/5/9
面白度 ★★★★
主人公 密室物の翻訳アンソロジー。最大の特徴は「これまでいかなるアンソロジーにも再録されていないもの」を収集していること。まずは編者らのその心意気に驚かされる。
事件 収録作品は18本。密室より不可能犯罪を扱った短編の方が多いが、名の知れた作家のものはホックの二本とカーのラジオドラマ「ささやく影」だけ。本格物ばかりでなく、ユーモラスなショート・ショートを入れたりして、編者らの不可能犯罪作品に対する目配りの幅広さがよくわかる。
背景 造本は丁寧な仕上がりで、編者らの解説もたっぷり。難をいえば収録作品の質がそれほど高くないことだが、裏を返せば、英米雑誌に掲載されただけで埋もれた作品の中には、残念ながらもはや傑作は存在しないということか。

邦題 『最後の娘』
原作者 ペネロピー・エヴァンズ
原題 The Last Girl(1995)
訳者 池田真紀子
出版社 東京創元社
出版年 1997/7/18
面白度 ★★
主人公 年金暮らしの72歳のローレンス(ラリー)。妻と娘がいたが、今は独り身。
事件 ラリーがいる下宿に、新しい娘がやってきた。これまで多かったインド人ではなくイギリス人。一目見て、この下宿が変わりそうな予感で震えた。彼女が下宿から追い出されないように守ることを決心する。そして彼女が喜ぶようにプレゼントをしたり、さまざまな点に気を配った。またこれだけ親切にしたのだから、彼女から感謝されたいと思い――。
背景 一種のサイコ・スリラー。確かにラリーはオカシイのだが、本人はいたって真面目に心配するので、このズレが恐ろしいというよりは、滑稽でさえある。ユーモア・サイコ(?)という新しい分野を開拓した作品か。とはいえ登場人物は少なく、短編ネタを引き延ばしたような出来映えだ。

邦題 『ポップコーン』
原作者 ベン・エルトン
原題 Popcorn(1996)
訳者 上田公子
出版社 早川書房
出版年 1997/9/30
面白度 ★★★
主人公 映画監督のブルース・デラミトリ。映画≪オーディナリー・アメリカンズ≫でオスカー賞の監督賞を受賞。離婚寸前の妻との間に、14歳の娘がいる。
事件 ブルースは、アカデミー賞授賞式で監督賞を貰い、意気揚揚と美人女優とともに帰宅した。ところが大変なことが待ち受けていた。彼の映画ファンという若い男女のギャングが家に侵入して、ブルースたちを人質にして、殺人劇を始めたのだ。
背景 1996年のCWAゴールド・ダガー賞受賞作。英国ミステリーにしては珍しく、きついギャグが多い。アメリカ人が好むような話だ。劇にしやすいような設定で(実際劇化されている)、それはそれでわかりやすいが、控え目なユーモアはなく、ファルスとしても少し下品だ。

邦題 『殺人探求』
原作者 フィリップ・カー
原題 A Philosophical Investigation(1992)
訳者 東江一紀
出版社 新潮社
出版年 1997/6/1
面白度 ★★
主人公 ニュー・スコットランドヤード警部のジャコウィッツ(ジェイク)。37歳。警視庁に入って13年が経ち、連続殺人事件の捜査の専門家。フェミニストで、黒い髪の美人。
事件 時は2013年。ある特定の因子をもった人間だけが殺される連続殺人が起きた。いずれも後頭部をガス銃で撃たれていた。どうやらコンピュータ・システムの極秘情報が盗まれていたらしい。ジェイクは連続殺人犯<ウィトゲンシュタイン>と殺人哲学について議論する。
背景 近未来を舞台にした異色作。何故人を殺すかについて、連続殺人犯と捜査側との問答などは、エンタテインメントとしては異例としか言いようがない。作者が書きたいテーマと、読者が面白がれるテーマとがずれてしまった感がある。著者に筆力があることは、よくわかるが……。

邦題 『仮面劇場の殺人』
原作者 ジョン・ディクスン・カー
原題 Panic in Box C.(1966)
訳者 田口俊樹
出版社 原書房
出版年 1997/12/25
面白度 ★★
主人公 ギデオン・フェル博士。未訳の作品(フェル博士物三編と歴史ミステリー一編)の一つ。
事件 主舞台はニューヨーク郊外にある劇場。<仮面劇場>と呼ばれ、40年ほど前に主役が殺されたが、その主役の妻であった若き女性が、有名な女優となって戻ってきた。ところが準密室状態であった劇場内の”ボックス席C”で、その女優が石弓で背中を射殺されたのである。
背景 カー=不可能犯罪という公式が、59歳の時に執筆したこの作品にも当てはまるとはちょっとした驚きだし、”腐っても鯛”の部分(主人公の人物造形など)はあるものの、全般的には低調で、トリックも二番煎じ(『ヴァンパイアの塔』を先に読まないこと)。未訳作品が日の目を見るのは嬉しいが、一抹の寂しさも感じてしまう。

邦題 『謎の積荷を追え!』
原作者 サイモン・ガンドルフィ
原題 White Sands(1995)
訳者 嶋田洋一
出版社 扶桑社
出版年 1997/3/31
面白度 ★★★
主人公 13歳の黒人少年ジャケット。サウス・アンドロス島に住み、漁師をしている。
事件 ジャケットはロブスター獲りをしている途中、水上飛行機が墜落するのを目撃した。そしてその飛行機から、大事そうに見えた銀色の箱を運び出した。一方、遅れて現場に到着した男たちは、積荷を誰かが盗んだことを知った。ジャケットは追われる身となった。箱の中身は?
背景 キューバに住んでいるイギリス人の作品。確かにバハマ島海域の潮の香りが感じられる描写が圧巻である。プロットは単純で、物語もほぼ予想通りに進むが、それでも終盤はスパイ小説的な展開となり、意外性とそれなりの迫力はある。実はシリーズ物の一冊らしいが、日系の保険会社の調査員であるシリーズの主人公はいまいち精彩がない。ジャケットの活躍に救われている。

邦題 『薪小屋の秘密』
原作者 アントニイ・ギルバート
原題 Something Nasty in the Woodshed(1942)
訳者 高田朔
出版社 国書刊行会
出版年 1997/10/20
面白度 ★★★
主人公 中年女性のアガサと中年男性のエドマンド。探偵役は弁護士のアーサー・クルック。
事件 内容は典型的な青髭もの(クリスティでいえば傑作短編「うぐいす荘」に近い)。アガサは、新聞広告で知り合った田舎に住むエドマンドと深い交際なしで結婚したものの、やがて夫の行動に疑問を持った。単純なプロットのわりには、それなりの工夫が凝らされている。
背景 著者の作品は、40年以上も前に『黒い死』が訳出されただけだが、20年代から1973年に亡くなるまで、百冊近い作品を残している。彼女の活躍年代はアガサ・クリスティとほぼ重なっている。サスペンス・タッチの語り口に実力の片鱗を示しているが、クリスティとの違いは、解決部の切れ味が鈍いことか。あまりに目立たない伏線では結末の大きな驚きは得られない。

邦題 『地獄からのメッセージ』
原作者 A・J・クィネル
原題 Message from Hell(1996)
訳者 大熊栄
出版社 新潮社
出版年 1997/5/1
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みの元傭兵クリーシィ。シリーズ物の5作目。親友グィドーが協力する。
事件 クリーシィのもとに、ベトナムの戦友の父が訪ねてきて、息子は生きているかもしれない、と言い出した。最近息子の認識票が、クリーシィの名を記した紙片に包まれて送られてきたのだ。クリーシィは生死を確認するため現地に飛んだが、そこには復讐者の罠が……。
背景 いくつもの山のある物語が小気味よく展開し、予定調和的な結末を迎える。このシリーズ、これまではクリーシィ・ファミリーの誰かが戦いの度に亡くなっていたが、本作ではグィドーが重傷を負うものの、無駄な死はない。私が歳をとったためか、ハッピー・エンドの方がいい。地雷で囲まれた寺院を攻める方法も、いたって単純ながらサスペンスがあり楽しめた。

邦題 『凍った柩』
原作者 ポーラ・ゴズリング
原題 The Dead of Winter(1995)
訳者 山本俊子
出版社 早川書房
出版年 1997/2/28
面白度 ★★★
主人公 地元のマット・ゲイブリエル保安官。前作『ハロウィーンの死体』でも活躍。
事件 厚い氷に覆われたブラックウォータ湾から身元不明の死体が引き上げられた。警察の調査の結果、マフィアの殺し屋であった。静かなリゾート地は騒然となったが、マットらの捜査で、どうやら麻薬が関係していることが明らかになった。だが高校の女生徒が行方不明となり、家庭科の教師や物理の教師が、心ならずも事件に巻き込まれていく。
背景 事件の舞台はアメリカの5大湖を臨む土地だが、物語にはイギリス・ミステリーの雰囲気が漂っていて、基本的にはコージー派ミステリー。謎解きよりは、家庭科の女教師と物理の男教師との会話・行動の方に魅了される。初期作品のような迫力はないが、安心して楽しめる。

邦題 『蒼穹のかなたへ』上下
原作者 ロバート・ゴダード
原題 Into the Blue(1990)
訳者 加地美知子
出版社 文藝春秋
出版年 1997/8/10
面白度 ★★★
主人公 ハリー・バーネット。ロードス島の別荘の管理人を9年間している。53歳。
事件 元の部下で現国防次官のダイサードの世話で現在の仕事を得ているハリーの元へ、ダイサードの秘書の妹へザーが静養に来た。そしてヘザーはハリーと一緒に山登りに出かけたまま行方不明になったのだ。ヘザーへの思いを断ち切れず、疑問を解くべくイギリスに帰国したが……。
背景 中年男ハリーの魅力と行動で読ませる。最初はダメ男と思われたハリーが、ヘザーは生きていると信じて諦めずに彼女を探し回るという設定。手掛かりはヘザーが写した数多くの写真。よく考えると偶然もあり、”幽霊の正体見たり枯れ尾花”式のオドカシもあるが、語り口の上手さで上下巻を一気に読めてしまう。難をいえば、犯人がだいたい予想される人物であることだ。

邦題 『夢の女・恐怖のベッド』
原作者 ウィルキー・コリンズ
原題 After Dark(1856)とThe Queen of Hearts(1859)を中心にして編まれた独自の短編集
訳者 中島賢二
出版社 岩波書店
出版年 1997/12/16
面白度 ★★★
主人公 ミステリー風味の短編7本を集めている日本独自に編集した短編集。
事件 収録作は「恐怖のベッド」(ベッドに仕掛けあり)、「盗まれた手紙」(ポーの同名作に似ているが、ユーモラスな語り口は上手い)、「クレンウィズ館の女主人」(脱獄囚の変身者と妹が結婚してしまったための悲劇)、「黒い小屋」(若い女性が主人公のストレートな冒険小説)、「夢の女」(怪奇小説風な作品)、「探偵志願」(ユーモラスな推理小説。書簡体で書かれた最初のミステリー)、「狂気の結婚」(一種の社会派ミステリー)の7本。
背景 大半の収録作は1956年に出た英宝社版と同じだが、新訳だけにさすがに読みやすい。いかにも小説家らしい、語り口の上手さには驚いてしまう。

邦題 『スキナーのルール』
原作者 クィンティン・ジャーディン
原題 Skinner's Rules(1993)
訳者 安倍昭至
出版社 東京創元社
出版年 1997/8/22
面白度 ★★
主人公 エディンバラ警察の警視正ロバート・スキナー。途中で署長補佐となる。43歳。妻を亡くして娘と暮らしている。女医のサラと恋仲になる。
事件 エディンバラ市で連続殺人が発生した。最初の犠牲者は弁護士だった。次いで浮浪者がガソリンで黒焦げにさせられた。パトロール中の巡査も犠牲者になった。スキナーは日本人容疑者を逮捕したが、政治的圧力もあり日本に送還させてしまったのだ。
背景 標題の”ルール”は、自分のルールで捜査をするというもの。英国の警察小説だが、アメリカのハードボイルド物のような設定・書き方だ。この違和感がマイナスに作用している。日本人の扱いも、日本人には弱点となっている。プロットも乱暴すぎる点もある。スキナーの魅力はまあまあ。

邦題 『殺人は広告する』
原作者 ドロシー・L・セイヤーズ
原題 Murder Must Advertise(1933)
訳者 浅羽莢子
出版社 東京創元社
出版年 1997/8/29
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのピーター・ウィムジイ卿。シリーズ8作目。
事件 広告代理店の社員が階段から転落死した事件を扱っている。セイヤーズお得意のハウダニットの謎は平凡だが、ピーター卿が偽名で勤める広告会社の人間模様は生き生きと描かれている。またピーター卿がコピライターとしての意外な(?)才能を発揮する場面も楽しめる。
背景 本書は謎解きより風俗描写に冴えを見せている作品。彼女の作風が謎解きから風俗ミステリーへ移行する時期に書かれたもの。巻末の解説によると『ナインテイラーズ』の執筆が一時行き詰まり、ほぼ並行して書いていた本書を先に完成させたらしい。トリック小説で終わっていないところが80年代以降の現代ミステリーに通じており、現在高く評価されている一因であろう。

邦題 『夢で死んだ少女』
原作者 デクスター・ディアス
原題 False Witness(1995)
訳者 伏見威蕃
出版社 角川書店
出版年 1997/4/2
面白度 ★★
主人公 中年の弁護士トーマス。
事件 17歳の少女を刺殺したとして告発されたポルノ作家の弁護をトーマスが担当する話だが、追訴側と弁護側の対立が明確でない。英国の裁判では珍しいことではないようだが(訳者あとがき)、本書では裁判中にトーマスが追訴側の女性弁護士とデートし、彼女を愛してしまうのである。
背景 これでは被告が有罪か無罪かといった緊迫した法廷ドラマはありえず、その期待は第一部の終了とともに萎んでしまうが、逆に妻との間がギクシャクしだした中年男の心情は巧みに描かれているし、警句も悪くない。裁判劇に主人公の生き方をうまく融合できなかったのは、第一作ゆえ小説作りに不慣れであったことも一因であろう。

邦題 『希望』
原作者 レン・デイトン
原題 Hope(1995)
訳者 田中融二
出版社 光文社
出版年 1997/12/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『救出』
原作者 クレイグ・トーマス
原題 Playing with Cobras(1993)
訳者 田村源二
出版社 新潮社
出版年 1997/6/1
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『追憶のローズマリー』
原作者 ジューン・トムスン
原題 Rosemary for Remembrance(1988)
訳者 藤村裕美
出版社 東京創元社
出版年 1997/5/23
面白度 ★★★
主人公 謎を解くのは首席警部のジャック・フィンチ。実質的な主人公は、創作講座の講師を勤める女性新進作家のハリエット・ウェイド。
事件 舞台は女子寄宿学校。学校の夏休みを利用して合宿制のカルチャー・スクールが開かれることになった。ハリエットの他にも、劇作家ノーランと作家のアーノットが講師として参加した。だが女性に手が早いノーランがプールで溺死体で発見された。回りにはローズマリーが漂っていた。
背景 日本流にいえば学園ミステリー。ただし大人向けの集中講座などで、さまざまな職業人が集ってくる。講師陣は、一癖も二癖もあるような人物ばかりなので、次第に殺意が芽生えてくる。堅実な書き方で、安心して読める。謎はそれほど複雑ではなく、人間関係の綾で読ませる作品。

邦題 『大誘拐』
原作者 ピーター・ドリスコル
原題 Pangolin(1979)
訳者 吉野美耶子
出版社 講談社
出版年 1997/2/15
面白度 ★★★
主人公 アラン・プリチャード。香港の地元紙の記者であったが、クビになった。ベトナム時代に恋人であった女性と再会し、彼女の夫でCIAの香港支局長の誘拐を思い付く。
事件 アランはベトナム報道で有名になった敏腕記者であったが、離婚したこともあり生活は荒れていた。そこで退職金を元手にして、誘拐を実行することにしたのだ。元映画俳優や脱走兵などを仲間に加えて、計画は順調に進んだかに見えたが……。
背景 主人公は悪人だがそれなりに魅力があり、前半は面白い。特に海底トンネルでの誘拐劇は、そのままで映画になりそうな巧妙さを備えている。ところが後半になると、それまでの冒険小説的物語展開が、陰謀小説に変わってしまいガッカリ。読者は冒険小説を期待しているのに……。

邦題 『最後の600万秒』
原作者 ジョン・バーデット
原題 The Last Six Million Seconds(1997)
訳者 高野裕美子
出版社 早川書房
出版年 1997/4/30
面白度 ★★★
主人公 皇家香港警察隊のチャン・シウカイ。チャーリー・チャンというニックネームを付けられている。西欧人と中国女性との間に生まれた。白人女性と離婚。美人の妹がいる。
事件 ビニール・バッグに詰められた人間の首が海上で見つかった。返還を約70日後に控えた香港に衝撃が走った。チャンが捜査を担当することになったが、英国政府からの圧力が加わり始めた。また事件の影には香港マフィアや中国人民軍も登場し――。
背景 警察小説というよりは国際陰謀小説に近いが、主人公チャンの生き方が興味深い。舞台となる香港もそれなりに興味深く語られている。欠点としては人民解放軍の将軍がステレオタイプすぎる点と、香港返還というデッドラインが物語の中に生かしきれていない点だ。

邦題 『砕けちる鏡』
原作者 ジョン・バーデット
原題 A Personal History of Thirst(1996)
訳者 高野裕美子
出版社 早川書房
出版年 1997/10/15
面白度 ★★
主人公 立身出世した法廷弁護士のジェームズ・ナイト。デイジー・スミスという恋人がいる。
事件 ナイトとスミスは相思相愛の関係であったが、ある日、二人の前にオリヴァーが現れた。彼はナイトの以前の依頼人の一人であったが、犯罪歴があるもののIQ140で独特の魅力を持つ若者である。二人は彼に惹かれて、三人の奇妙な友情が芽生えていった。だが11年後、心の葛藤から殺人が起きて――。
背景 弁護士が主人公で犯罪者が登場し、殺人が起こり裁判があるから、確かにミステリーといってもよいが、作者は男二人と女一人の三角関係を描いた心理恋愛小説を書きたかったのであろう。しかし殺人が起きるまでの語りが長過ぎていただけない。ラストの捻りもたいした驚きはない。

邦題 『体験のあと』
原作者 ガイ・バード
原題 After the Hole(1993)
訳者 矢野浩三郎
出版社 集英社
出版年 1997/3/17
面白度 ★★★
主人公 特にいないが、手記を書いた女子高校生のエリザベス(リザ)か。
事件 高校の片隅に使われない地下室が見つかった。そしていたずらの天才と呼ばれた高校生が、「人生の真実を知る実験」と呼んで、高校生5人を3日間閉じ込める”遊び”を提案した。5人が同意し、食料持参の秘密パーティーの雰囲気で楽しんでいた5人だが、やがて不安になってきた。もし鍵を開けてもらえなかったら、他にこの事を知っている人間はいない!
背景 狭い意味のミステリーではないが、手記で構成されている小説が、最後のエピローグで衝撃的な終わり方をする。その衝撃性は、私は『蜂工場』や『蝿の王』の方がスゴイと思ったが、それなりにあることは事実。それにしても英国人作家はミステリー的手法で小説を書くのが好きだね。

邦題 『五番目の秘密』
原作者 ジョアンナ・ハインズ
原題 The Fifth Secret(1995)
訳者 加地美知子
出版社 扶桑社
出版年 1997/2/28
面白度 ★★★
主人公 幼い子供が二人いる種苗園経営者の妻ジェイン。
事件 ジェインと夫との関係はぎくしゃくしていたが、そこに幼馴染みのエズミが何者かに襲われて重傷を負う事件の知らせが届いた。そのうえエズミと同棲している男から助けを求める謎の電話も入った。ジェインは夫に内緒で、かつての仲間の隠れ場所に足を運ぶことにしたが……。
背景 ジェインは、最初は不満の多い平凡な主婦として登場するので、すぐに感情移入できるわけではないが、しだいにジェインに共感を覚えてくるようになる。このあたりの語り口は巧妙で、登場人物の心理描写にも長けている。どうもミステリー専門の作家ではないようで謎の処理はそれほど上手とはいえないが、一件落着の後で前途に光明の見えるラストシーンには泣けてくる。

邦題 『修道士カドフェルの出現』
原作者 エリス・ピーターズ
原題 A Rare Benedictine(1979他)
訳者 岡本浜江
出版社 社会思想社
出版年 1997/2/28
面白度 ★★
主人公 修道士カドフェル・シリーズの長編は合計20冊だが、短編はたったの3本。本書はすべての短編と原書のイラストや長編各巻の粗筋紹介などを付け、文庫に仕上げた短編集。
事件 2編の時代背景は長編第一作より以前に設定されている。長編ではうかがい知れない若いカドフェルにお目にかかれて、それだけで興味津々の物語といえるが、特に冒頭の「ウッドストックへの道」は貴重である。イングランドに帰国したばかりの40代のカドフェル(傭兵で修道士ではない!)が、副院長の危機を助け、彼がなぜ修道士の道を選んだかがよく理解できるからである。
背景 カドフェル最初の事件を収録した短編集が、カドフェル・シリーズの最後の出版となったのは、いささか寂しい事実ではあるが。

邦題 『シバ 謀略の神殿』
原作者 ジャック・ヒギンズ
原題 Sheba(1994)
訳者 黒原敏行
出版社 早川書房
出版年 1997/3/15
面白度 ★★
主人公 アメリカ人船長のギャヴィン・ケイン。かつては考古学者であった。
事件 第二次大戦の勃発を直前にして、ヒトラーはスエズ運河の破壊を目論み、最近発見されたシバの神殿を破壊工作の拠点とする奇策を思いついた。一方港町ダーレインにいたケインのもとに、イギリス人女性が訪れ、神殿探しで行方不明の夫を探してくれと依頼された。多額の報酬を条件に探し始めたケインは、やがてナチス工作員と衝突することになる。
背景 あとがきによれば、初期作品(1963年のヒュー・マーロウ名義の作品)の改作だそうだ。それにしても話はトントン拍子に進み、上っ面をなぞったような展開。初期作品の欠点がそのまま出ている。ヒトラーの謀略も安易でガッカリ。ヒギンズという名前で読んでしまうが。

邦題 『闇の天使』
原作者 ジャック・ヒギンズ
原題 Angel of Death(1995)
訳者 黒原敏行
出版社 早川書房
出版年 1997/11/15
面白度 ★★
主人公 ショーン・ディロン。IRAメンバー−>国際テロリスト−>ファーガスン准将の部下という経歴の超人男。しかし本作の主人公は題名からいって舞台女優のグレイス・ブラウニング。
事件 無差別な暗殺を重ねる謎のグループ<一月三十日>が出現した。英国首相はファーガスンに対処を求めた。ディロンは別の仕事でベルファストに潜入していたが、そこで知り合った人物がグループ<一月三十日>のメンバーとわかったのだ。その目的はなにか?
背景 一口で言ってしまえば、荒っぽいプロットの冒険スパイ小説。ヒギンズといえば、昔は一つのシーンをしっかり描いていたと思うのだが、本作ではいたって表面的に軽く、短く描くだけだ。まあ気軽に読めることは間違いないが、ご都合主義が目立ち過ぎて、たいして楽しめない。

邦題 『甦った女』
原作者 レジナルド・ヒル
原題 Recalled to Life(1992)
訳者 嵯峨静江
出版社 早川書房
出版年 1997/4/30
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの中部ヨークシャー警察のアンドルー・ダルジール警視。
事件 1963年、ヨークシャーの貴族の邸宅で外交官夫人が殺害された。捜査の結果乳母が逮捕され、終身刑となった。ところが27年後、新証拠を理由に無罪を主張し、釈放されることになったのだ。ダルジールは、かつて捜査を担当した上司の名誉を守るため再調査を始めるが……。
背景 過去の事件を再調査するプロット。『五匹の子豚』に代表されるようにクリスティが得意としたプロットだ。このプロットの欠点は、中盤以降古い資料を探すだけでは物語が単調になりがちなことであるが、そこはヒルの上手さで飽きさせない。問題は結末部分で、意外性も少ないうえに、ほころびが目についてしまった。スパイ小説的なまとめ方に無理があるからか。

邦題 『ダルジール警視と四つの謎』
原作者 レジナルド・ヒル
原題 Asking for the Moon(1994)
訳者 秋津知子他
出版社 早川書房
出版年 1997/10/31
面白度 ★★★
主人公 ダルジール警視の中編3本と短編1本を集めた短編集。
事件 トップは「最後の徴集兵」。パスコーは女性問題で中部ヨークシャー警察に配転されるが、そこで脱獄した囚人によってダルジールとともに誘拐されてしまう。囚人は最後の徴集兵であったが、これはパスコーのことも意味する。次の「パスコーの幽霊」と「ダルジールの幽霊」は『パスコーの幽霊』に収録されている。最後の「小さな一歩」は異色作。2010年5月14日の事件。月面で起きた殺人事件を解決するもの。パスコーはヨーロッパ連邦司法省の英国長官になっている。
背景 冒頭のダルジールとパスコーが出会う一編が、やはり一番面白い。最後の作品はパロディといってよい。アイディア倒れだが、さすがにヒルといった着眼点が素晴らしい。

邦題 『誰の罪でもなく』
原作者 レジナルド・ヒル
原題 Born Guilty(1995)
訳者 三川基好
出版社 早川書房
出版年 1997/11/30
面白度 ★★★
主人公 私立探偵ジョー・シックススミス。独身の中年黒人で、猫と一緒に生活している。現在は伯母に紹介されたベリル・ボディントンと交際中である。シリーズの二作目。
事件 事件に巻き込まれることの多いジョーだが、今回もそうだった。合唱団の夜の練習をこっそり抜け出したところ、ダンボール箱に入っていた死体を見つけてしまった。折り悪く容疑者にされそうになったが、さらにナチ疑惑の老人や女性教師のセクハラ騒動に巻き込まれ……。
背景 前作同様、ジョーの個性の魅力で読ませる作品。ジョーは暴力が苦手で頼りなさそうだが、女性に人気がないわけではない。第一作に比べるとユーモア度は多少落ちている点と、複数の事件の絡み方が少し雑な点が気になるが、それでも十分に楽しめる。

邦題 『翼を愛した男たち』
原作者 フレデリック・フォーサイス編
原題 Great Flying Stories(1991)
訳者 伏見威蕃他
出版社 原書房
出版年 1997/5/14
面白度 ★★★
主人公 飛行機を巡る短編を集めたアンソロジー。13本が収録されている。
事件 主な収録作品は、H・G・ウェルズの「わたしの初めての飛行機」と「大空の冒険者たち」、E・A・ポウの「ハンス・プファールという人物の無類の冒険」、C・ドイルの「高空の恐怖物体」、W・ジョンズの「スパッドとシュパンダウ」、H・E・ベイツの「世界でいちばんすばらしい人々」、R・ダールの「彼らは永らえず」、F・フォーサイスの「羊飼い」、L・デイトンの「ヴィンターの朝」、R・バックの「猫」、F・オースティンの「偵察飛行士」、J・バカンの「ミスター・スタンドファストは召される」など。
背景 飛行機とはいえ、ジェット機ではメカニックすぎて詩情がないためか、第一次大戦、第二次大戦に関係したプロペラ機を巡る話が多い。「羊飼い」はクルスマス・ストーリーで心暖まる。

邦題 『遠い女』
原作者 ブライアン・フォーブス
原題 The Twisted Playground(1993)
訳者 安原和見
出版社 二見書房
出版年 1997/7/25
面白度 ★★
主人公 英国のミステリー作家マーティン・ウィーヴァー。MWA賞も受賞している。
事件 マーティンは空港で、一年前にモスクワで自殺したという旧友ヘンリーの姿を目撃して驚いた。かてヘンリーは保守党の議員で、マーティンの昔の恋人と結婚していた。ヘンリーは自殺するような人間ではなかったので、あれは擬装自殺だったのか? 昔の恋人を忘れられないこともあり、好奇心からマーティンはモスクワに飛び、調査を開始したが……。
背景 この著者のスパイ小説『エンドレスゲーム』にはかなり感心したが、この作品はそれに遠く及ばないようだ。冒頭は面白い。やがてモスクワで殺人事件に直面する。そこからがスパイ小説ではなくなり、犯罪小説に変貌してしまう。それも平凡な犯罪小説なのでガッカリ。

邦題 『モジリアーニ・スキャンダル』
原作者 ケン・フォレット
原題 The Modigliani Scandal(1976)
訳者 日暮雅通
出版社 新潮社
出版年 1997/2/1
面白度 ★★ 
主人公 特にいないが、強いて挙げれば美術専攻の女学生デリア(ディー)・スレインか。
事件 ディーは、夏のパリで怪しげな老人から、論文のヒントでも得ようと話を聞いているうちに、モジリアーニの幻の絵が存在していると確信した。そして恋人マイクとともに、イタリアに向かった。一方彼女の動向をいち早く察知した画商が彼女の跡を追い始めた。さらに前衛画家が現状の画壇に不満を募らせ、復讐のためにある計画を実施しようとした。
背景 フォレットの出世作『針の眼』の前に書かれた小品。表面的な特徴はかなり違っていて、『針の眼』以後の脂っこい作品ではなく、さらりと書いている。未発見の名画を見つける話に贋作の作り方とか、いろいろな要素が入り過ぎている。習作の域を出ていないが手軽に読める。

邦題 『第三双生児』
原作者 ケン・フォレット
原題 The Third Twin(1996)
訳者 佐々田雅子
出版社 新潮社
出版年 1997/9/1
面白度 ★★
主人公 29歳でジョーンズ・フォールズ大学心理学科の助教授に招聘されたジニー・フェラーミ。独身で大柄な美人。負けず嫌いで体力もある。
事件 ジニーは犯罪性と遺伝に関する研究者で、一卵性双生児を対象とした研究を始めようとしていた。その矢先に大学構内でレイプ事件が起きた。容疑者は、彼女の被験者であった一卵性双生児の片割れスティーヴであったが、もう片割れは殺人罪で服役中だった。彼女の考えでは、もう一人のスティーヴがいてもおかしくない。だが調査を進めると学長や上院議員から圧力が……。
背景 生命工学を取り入れたところが目新しい程度で、後は筆力だけで読ませられてしまう娯楽作品。それにしてもフォレットの主人公はアメリカ人好みのようだ。鼻ピアスはいただけないが。

邦題 『不屈』
原作者 ディック・フランシス
原題 To the Hilt(1996)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1997/10/15
面白度 ★★★★
主人公 貴族の血を継ぐ画家のアリグザンダー・キンロック。別居中の妻がいる。
事件 スコットランドの羊飼い小屋で生活していたキンロックは、ある日暴漢に襲われた。ビール会社を経営している義父が病に倒れたため母のところへ向かう矢先だった。そして父の会社は危なくて、経理部長は資産を横領して行方不明になっていることを知る。暴漢に襲われた事件と横領事件は関係あるのではないかと考えるが……。
背景 まだまだフランシスは衰えていなかった。冒頭と結末部分のテンションの高さは相当なものである。特にラストの拷問場面(人間バーベキュー!)は圧巻。隠し場所に関する謎もある。主人公は、少し真面目すぎるきらいがあるが、やはり魅力的。

邦題 『甘い毒』
原作者 ルーパート・ペニー
原題 Sweet Poison(1940)
訳者 好野理恵
出版社 国書刊行会
出版年 1997/1/20
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁犯罪捜査部主任警部のエドワード・ビール。中年。
事件 ビールは、私立予備学校の校長の甥が狙われた事件の調査を頼まれた。危険を感じた校長の依頼であったが、紛失していた青酸カリやチョコレートも見つかった。チョコレートはすべて無毒であった。一件落着となったが、1ヶ月後校長の甥が毒入り菓子を食べて死亡したのだ。
背景 1936年から1941年にかけて8作のミステリーを書いた後に突然消えた謎の作家の作品。読者への挑戦がはいったオーソドックスな謎解きミステリー。ビールは控え目な性格の探偵で好感が持てるため、挑戦状が入っていても嫌味を感じさせないのがいい。動機を考慮すれば、フーダニットの謎が比較的簡単に解けるのがちょっと残念だが、まあ水準作。

邦題 『大使の嘘』
原作者 サリー・ボウマン
原題 Lovers and Liars(1994)
訳者 公庄さつき
出版社 扶桑社
出版年 1997/7/30
面白度
主人公 ロンドンの新聞社に勤める女性記者ジニ・ハンター。20代後半。15歳のときに愛した写真家パスカルとともに謎を追う。再びパスカルを愛するようになる。
事件 ジニは、駐英アメリカ大使ホーソンのセックス・スキャンダルの調査を密かに命じられた。ホーソンは次期大統領候補にも挙がった上院議員だが、妻を愛する家庭的な男と思われていたのだ。ところがジニとパスカルが調査を始めると、手錠を入れた匿名の小包が届き……。
背景 プロローグから第一部にかけてはミステリーといってよいが、第ニ部になって謎の追及が始まると、ミステリー色が褪せてしまう。謎が自白や告白で解かれるのではガッカリ。大使の心理も説得力を欠く描き方だ。筆力は認められるが、ミステリーとしてはさっぱり面白くない。

邦題 『ベンツに乗って強盗に行こう』
原作者 ジェイムズ・ホーズ
原題 A White Merc with Fins(1996)
訳者 小林理子
出版社 角川書店
出版年 1997/2/25
面白度
主人公 名前不明の<ぼく>。ジョン・デンヴァーというあだ名がある、28歳。大学を卒業しても定職についていない。禿げ頭になりつつある。
事件 <ぼく>は気楽な臨時雇いの身。だが自分がちっぽけな小屋に住む額の後退し始めた30前の男と気づいたとき、幻想は破れた。豪華な車で個人銀行を襲うのだ。運転が上手いうえにセクシーなスージーと一緒に!
背景 著者の第一作。ミステリー作家ではないが、ミステリーの素材を使うのが好きらしい。本作は銀行強盗を扱っている。ただし小説の狙いは、青年から中年になる男の心情を軽いタッチで描写することになる。新鮮な驚きも多少あるものの、中盤は退屈。ミステリーとしての評価は低い。

邦題 『愛の回り道』
原作者 ヴィクトリア・ホルト
原題 Daughter of Deceit()
訳者 岸田正昭
出版社 日本図書刊行会
出版年 1997/9/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『吠える男』
原作者 エドワード・マーストン
原題 The Roaring Boy(1995)
訳者 大庭忠男
出版社 早川書房
出版年 1997/2/15
面白度 ★★★★
主人公 ウエストフィールド座の舞台進行係ニコラス・ブレースウェル。独身。腕っ節も強いし、容姿も悪くない。シリーズ物の7作目が最初に訳されたので、詳しいことはわからない。
事件 16世紀末のエリザベス朝のロンドン。ニコラスのもとに≪吠える男≫と題する匿名の脚本が持ち込まれた。最近死刑になった人間は冤罪で、真犯人は別にいるという大胆なプロットの脚本だった。ニコラスは上演を決意するが、何者かに襲われ……。
背景 いわゆる時代ミステリーであるが、ミステリー色はそれほど濃くない。匿名の作者は誰か? 動機は何か? という謎はあるが、本書の面白さは冒険とユーモア、時代背景、演劇界の内幕などにあろう。主人公にも魅せられる。このシリーズはもっと読みたいものだ。

邦題 『殺しの儀式』
原作者 ヴァル・マクダーミド
原題 The Marmaids Singing(1995)
訳者 森沢麻里
出版社 集英社
出版年 1997/4/20
面白度 ★★★★
主人公 心理分析官のトニー・ヒル。34歳の独身。
事件 イギリス中部の大都市で男性ばかりを狙った連続殺人が発生した。犠牲者は体をきれいに洗われていたが、拷問の跡があった。サイコ殺人と考えた警察はプロファイリングの専門家の応援を頼んだ。トニーが担当することになり、彼は女性警部補キャロルとチームを組むが……。
背景 1995年のCWAゴールド・ダガー賞受賞作。流行のサイコ・スリラー。拷問道具を詳述したり、連続殺人者の心理を真面目に描写したりして、他の多くのサイコ・スリラーと一線を画している。プロファイリングそのものには、安楽椅子探偵のような謎解き推理の冴えはないが、逆にいえば現実味を感じさせる。かなり筆力のある著者なのがわかる。

邦題 『パーフェクト・マッチ』
原作者 ジル・マゴーン
原題 A Perfect Match(1983)
訳者 高橋なお子
出版社 東京創元社
出版年 1997/6/27
面白度 ★★★★
主人公 デイヴィッド・ロイド警部とジュディ・ヒル部長刑事。ロイドは妻と離婚し、ジュディも夫とはうまくいっていない。二人は恋仲になっていく。
事件 スタンズフィールド市を襲った嵐の翌朝、絞殺された女性の死体が湖畔で見つかった。捜査を担当することになったロイドとジュディは捜査の結果、被害者は遺産を相続した未亡人で、容疑者はその未亡人を送ったまま行方不明の青年となった。しかし腑に落ちないこともあり……。
背景 登場人物は少なく、事件は単純なものであるが、登場人物それぞれに疑惑を持たせて、誰が犯人か、見当がつかないようにしている。その技巧はアッパレ。主人公らの恋愛もそれなりに上手く書かれている。小品なれどフーダニットの佳作。

邦題 『ハートの輪郭』
原作者 ジェシカ・マン
原題 A Private Inquiry(1996)
訳者 喜多元子
出版社 早川書房
出版年 1997/7/31
面白度 ★★★
主人公 心理学者のフィデリス・バーリンと建設計画検査官のバーバラ・ポメロイ。
事件 幼稚園建設計画の可否を審議する公聴会を主催するバーバラは脅迫電話を受けた。息子の身の安全と引き換えに建設を認めるよう強要されたのだ。そのうえ近くで起きた殺人事件の容疑者にまでされてしまう。一方幼稚園建設側証人として公聴会に出ていたフィデリスも、上司から妻の失踪事件の調査を頼まれていた。二人の女性が係わる事件はやがて交錯し……。
背景 二つの事件は上手く一つに結びついている。伏線は”言葉じり”なので、それほどの驚きではないものの、ミステリーとしては悪くない。主人公は二人とも中老年の女性で、主題は母性といってよいだろう。英国ミステリーの読者には中老年の女性が多いという証拠か?

邦題 『雪の狼』上下
原作者 グレン・ミード
原題 Snow Wolf(1995)
訳者 戸田裕之
出版社 二見書房
出版年 1997/10/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『四枚の羽』
原作者 A・E・W・・メースン
原題 The Four Feathers(1902)
訳者 吉住俊昭
出版社 小学館
出版年 1997/4/20
面白度 ★★★
主人公 青年士官のハリー・フィーバーシャム。婚約者エスネのことを思い、陸軍に辞表を出す。脇役には、エスネと一度は婚約した全盲のデュランス大佐がいる。
事件 ハリーの元には三枚の白い羽根が送りつけられた。続いて婚約者からも同じ白い羽根が届いたのだ。何を意味するのか? 軍務を解かれ、婚約も破棄されて打ちひしがれたハリーは、名誉回復のために戦乱で騒然とするエジプトへ命を賭けて赴くのだが……。
背景 『矢の家』で有名な著者の冒険ロマンス小説。戦前より映画が評判になっていた。三角関係を描いた古臭い設定ながら、物語は面白い。2003年に『サハラに舞う羽根』(古賀弥生訳、東京創元社)と『サハラに舞う羽根』(金原瑞人・杉田七恵訳、角川書店)という題で完訳が出ている。

邦題 『暗殺阻止』上下
原作者 デイヴィッド・メイスン
原題 Little Brother(1996)
訳者 山本光伸
出版社 早川書房
出版年 1997/8/31
面白度 ★★★
主人公 XF警備社のリーダ、エド・ハワードとXF社のメンバー。シリーズ物の二作目。
事件 ロンドンで起きたIRAの爆弾テロの現場から、偶然重要な書類が見つかった。そこには旧東ドイツの秘密組織<シュタージ>が、コンピュータ制御による自動狙撃装置で、ある要人を暗殺しようとしていることが書かれていた。狙いは誰なのか? MI5は民間の特殊傭兵会社(XF警備社)に調査を頼んだのだ。彼らは<シュタージ>の本拠地がある北朝鮮に潜入するが……。
背景 第一作はハワードらがフセイン暗殺を実行しようとする単純なプロットの作品であったが、本書は、誰が狙われているか不明のまま、敵側と味方の行動を並行して語るという構成の作品。プロットの巧妙さ、物語の語り口も一段と進歩している。自動狙撃装置に真実味は感じないが。

邦題 『猟犬クラブ』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 Bloodhounds(1996)
訳者 山本やよい
出版社 早川書房
出版年 1997/7/31
面白度 ★★★★★
主人公 お馴染みのピーター・ダイアモンド警視。シリーズの四冊目。
事件 密室殺人! バース市の運河に浮かぶ船の南京錠が掛かっていた船室で、他殺死体が見つかる。だが一本しかない鍵は船の持主が常に携帯し、その男がその鍵で南京錠を開けるのを警察官が確実に目撃していた。船室の他のドア・窓は内側から完全に密閉されていたのである。
背景 この密室の謎解きや登場人物たちのミステリー談義は楽しいが、それ以上に優れている点は、フーダニットという謎が巧妙に練られていること。このため密室の謎が解明された後にも、誰が犯人かという別の大きな謎が残されていて最後まで緊張感が緩むことがない。《黄色い部屋》がいかに改装されているか、そしてラヴゼイの伏線の張り方がいかに巧妙であるか、お楽しみに!

邦題 『最終兵器登場』
原作者 ボブ・ラングレー
原題 Message from Baghdad(1993)
訳者 赤井照久
出版社 東京創元社
出版年 1997/12/19
面白度 ★★
主人公 プロットの面白さで読ませる作品なので、主人公は特にいない。強いてあげればイラクの英雄的テロリスト、サレ・ジョクタンと電磁衝撃専門の技師エレン・コンウェイら。
事件 フセイン後の近未来のイラクが舞台。イラクは、石油に代わるエネルギーを開発しているイスラエルへの侵攻を決意する。そのため最終兵器<タロン・ブルー>の開発に着手したのだ。しかし技術者が足りない。エレンをアメリカから密かに拉致したが……。
背景 主人公はジョクタン一人に絞った方が悲劇性が際立ったと思う。実際は準主役が多過ぎて、感情移入しにくくなっている。また最終兵器はチャチなものだし、アメリカ人技師を騙してイラクのために働かせるという設定はリアリティを感じさせない。軽く読ませる技術は確かにあるが。

邦題 『トータル・エクリプス』
原作者 リズ・リグリー
原題 Total Eclipse(1995)
訳者 松本みどり
出版社 扶桑社
出版年 1997/2/28
面白度 ★★★★
主人公 天文学者のロウマックス。未亡人のジュリアに一目惚れしてしまう。
事件 ところがジュリアは夫と義理の娘を射殺したという疑いで逮捕されたのだ。ロウマックスは天文台を休職し、弁護士たちの手伝いをかって出ては、ジュリアの夫の過去を調べ始めるが……。
背景 本書は、サスペンス小説風でも私立探偵小説的でもありながら、ラストは法廷ミステリーとなる。分類者泣かせの作品だ。驚くべき結末には無理があるものの、ロウマックスが一途な態度で調査を続ける過程は読ませるし、ミステリーとかけ離れたような原題(皆既日食のこと)も、最後には納得できる設定になっている。文庫上下で九百頁を越えるだけに事件と直接関係ない場面も結構描かれているが、長丁場を飽きさせない達者な語り口は新人離れしている。

邦題 『ヴァーチャル・ゲーム』
原作者 マイケル・リドパス
原題 Trading Reality(1996)
訳者 玉木亨
出版社 NHK出版
出版年 1997/4/25
面白度 ★★★
主人公 債権トレーダーのマーク。
事件 経済界を背景にしたミステリー『架空取引』でデビューした著者の第ニ作。主人公は同じ職業で、似たような出だしだが、やがてヴァーチャル・リアリティ(VR)の会社を経営している兄が殺されたことから、マークは経営危機に瀕した兄の会社を引き継ぐとともに、犯人探しに乗り出す。
背景 著者はD・フランシスを意識して本書を書いたらしい。三人称一視点による物語展開、専門知識のわかりやすい説明、冒険心溢れる主人公の設定などは、”第二のフランシス”となる資格十分だが、VRの説明はクドいし、女性に対するマークの甘さもいただけない。とはいえ著者は人生経験の少ない若い作家である。現在のフランシスと比較するのは酷すぎるか。

邦題 『探偵家族』
原作者 マイクル・Z・リューイン
原題 Family Business(1995)
訳者 田口俊樹
出版社 早川書房
出版年 1997/10/15
面白度 ★★★
主人公 英国の古都バースに住むルンギ一家だが、強いて一人に絞れば次男アンジェロか。
事件 ルンギ一家は、三代にわたって探偵事務所を営む”探偵家族”。お爺さんが事務所を興し、アンジェロは妻とともに事務所を切り回し、長女は経理を担当している。長男は画家で放蕩息子だが、二人の孫は立派な一員である。そんな探偵事務所に、ある日近所の主婦が来て、台所の洗剤がいつもの場所になかったので調べてほしいといわれたのだ。
背景 ハードボイルド物を手掛けていたリューインのコージー・ミステリー。英国に20年以上住んでいれば、必然的な流れか。訳者はそうではないと力説しているが、確かに「あくまで客観描写に徹している」スタイルはハードボイルドに近いかもしれない。多少違和感はあるが。

邦題 『ニミッツ・クラス』
原作者 パトリック・ロビンソン
原題 Nimitz Class(1997)
訳者 伏見威蕃
出版社 角川書店
出版年 1997/11/30
面白度
主人公 特にいないが、強いて挙げれば海軍情報部のビル・ボールドリッジ少佐と海軍作戦本部長のスコット・F・ダンズモー大将の二人か。
事件 ニミッツ級の巨大原子力航空母艦がアラビア海で突然消えてしまった。事故とは考えられない。何故、どのようにして沈没したのか? ダンズモーの依頼でビルは調査を開始した。
背景 事件は2002年7月8日に起きるので、近未来を舞台にした軍事シミュレイション小説。ただし犯人探しなどの部分はミステリー、潜水艦との戦いの部分は冒険小説と言えないこともない。とはいえミステリーとしても冒険小説としても、プロットはお粗末の一言。潜水艦や空母についての軍事情報小説と考えれば、まあ、それなりに読めるが。

邦題 『ジョン・ブラウンの死体』
原作者 E・C・R・ロラック
原題 John Brown's Body(1938)
訳者 桐藤ゆきこ
出版社 国書刊行会
出版年 1997/2/20
面白度 ★★★
主人公 犯罪捜査課主任警部のロバート・マクドナルド
事件 奇妙な事件を目撃した浮浪者ブラウンは、翌朝意識不明の状態で見つかった。この事実に興味をもった警部が調査をすると、本の盗作事件などと関係していた。二つの事件の結び付きや結末の意外性はそれほどではないが、ブリストル海峡側のデボンの風景描写は印象に残る。
背景 ロラックは1930年代初めから50年代末まで活躍した謎解き派の英国女性作家(『ウィーンの殺人』が40年前に邦訳されている)。クリスティと同格の存在と評されることもあるが、クリスティよりも地味な作風である。本書はデボンを舞台にしているが、クリスティは温暖なイギリス海峡側を好んで舞台にしている。この違いは二人の作風を象徴的に表しているようだ。

邦題 『大暗礁の彼方』
原作者 アレクザンダー・ケント
原題 Beyond the Reef(1992)
訳者 高橋泰邦
出版社 早川書房
出版年 1997/2/28
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『エクスカリバーの宝剣』
原作者 バーナード・コーンウェル
原題 The Winter King(1995)
訳者 木原悦子
出版社 原書房
出版年 1997/4/21
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『神の敵アーサー』上下
原作者 バーナード・コーンウェル
原題 Enemy of God(1996)
訳者 木原悦子
出版社 原書房
出版年 1997/10/16
面白度  
主人公 

事件 


背景 


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