邦題 『新型核弾頭スカイダンサー』
原作者 G・アーチャー
原題 Skydancer(1987)
訳者 鎌田三平
出版社 新潮社
出版年 1993/6/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『盗まれた独立宣言』上下
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 Honour Among Thieves(1993)
訳者 永井淳
出版社 新潮社
出版年 1993/9/25
面白度 ★★
主人公 イェール大学憲法学教授で、CIA教官のスコット・ブラッドリー。
事件 イラクのフセイン大統領がクリントン大統領をギャフンと言わせようとワシントンの国立文書館にある独立宣言を盗んだ。だが、それにいち早く気づいたCIA側が奪回を期して……。
背景 アーチャーとしては『ロシア皇帝の密約』以来7年ぶりのミステリーらしい作品だが、残念ながら出来は芳しくない。独立宣言に綴りの間違いがあるという事実の発見に有頂天になり、他は深く考えずに作品を書き出したのであろうか。彼の作家としての資質には、ユーモアのある大人の童話的ミステリーが適しているはず。それが、リアリティのある描写が要求される現代を舞台にしたスパイ冒険小説を書いたばかりに、迫真性のない御都合主義が目立つ作品になっている。

邦題 『闇からきた刺客』上下
原作者 キャンベル・アームストロング
原題 Agents of Darkness(1991)
訳者 飯島宏
出版社 文藝春秋
出版年 1993/9/10
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『作者の死』
原作者 ギルバート・アデア
原題 The Death of the Author(1992)
訳者 高儀進
出版社 早川書房
出版年 1993/11/30
面白度 ★★★
主人公 ポール・ド・マン(1970年代に脱構築批評を推進したが、死後に新ナチ的文章を多数発表していたことがわかった人物)を彷彿させるスファックス教授
事件 スファックスはフランスからアメリカに移住し、やがて大学教授となるが、同僚の教授が鈍器で殴殺された事件に巻き込まれ……、という謎解き小説風の展開となる。
背景 ポスト構造主義やド・マン事件を知っているほど、ミステリーとしてもパロディとしてもより楽しめる重層的な構成となっている。私のような理工系人間には、正直いってその知的な面白さはさほど理解できないが(もう一度『文学部唯野教授』(筒井康隆著)の講義を受ける必要があるが)、単なるミステリーとしても、動機自体がユニークだし、一人称形式による語り口も鮮やかである。

邦題 『殺意のプログラム』
原作者 イーヴリン・アンソニー
原題 The Company of Saints(1983)
訳者 食野雅子
出版社 新潮社
出版年 1993/5/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『緋色の復讐』
原作者 イーヴリン・アンソニー
原題 The Scarlet Thread(1989)
訳者 食野雅子
出版社 新潮社
出版年 1993/12/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ある詩人への挽歌』
原作者 マイクル・イネス
原題 Lament for a Maker(1938)
訳者 桐藤ゆき子
出版社 社会思想社
出版年 1993/7/30
面白度 ★★★
主人公 村人や弁護士の手記や語りなどで構成された物語だが、謎解きはアプルビイ警部。
事件 物語は、スコットランドの古城に住む奇人の城主がクリスマス・イヴの夜に胸壁から墜落死した事件を扱っている。カーの初期作品を思い出させる設定だが、子供だましのようなオドロオドロしさは少ない。またカーのようなトリックの独創性もないが、確かに一級品といってよいだろう。
背景 江戸川乱歩は、昭和22年に「1935年以後の海外ミステリー・ベストテン」を発表した。そのリストの中で本書は唯一未訳であったもの。ミステリー・ファンを自認するあなたならば、驚喜して飛びつくのが当り前!?の作品。スコットランド方言のある第一部の翻訳は難しいと言われていたが、標準語で訳された今回の翻訳は読みやすく、その障壁を確実に越えたことがわかる。

邦題 『哀しきギャロウグラス』
原作者 バーバラ・ヴァイン
原題 Gallowglass(1990)
訳者 幸田敦子
出版社 角川書店
出版年 1993/11/10
面白度 ★★★
主人公 鬱の病を持つ27歳の青年ジョー。絶望して自殺を図る。
事件 前半の物語はジョーの一人称形式で語られる。ジョーは自殺を図るも、謎のインテリ青年シャンドーに助けられた。そしてこの時からジョーはシャンドーの服従者(ギャロウグラス)になろうと決めた。ところがシャンドーは大富豪夫人の誘拐を計画していたのだ。
背景 ジョーの一人称で語られる前半は、いかんせんショーに感情移入できないので、前半も半分を過ぎると退屈してしまう。後半は三人称の視点もありという目先を変えているが、いずれにしても面白さは不足している。誘拐計画もかなり穴のあるものだが、これは性格異常者たちの計画だから無理もないか。思いもしない結末が★一つを加えている。

邦題 『ウィンブルドンの毒殺魔』
原作者 ナイジェル・ウィリアムズ
原題 Wimbledon Poisoner(1990)
訳者 高儀進
出版社 早川書房
出版年 1993/4/30
面白度 ★★★
主人公 のどかな郊外地ウィンブルドンの住宅街に住む事務弁護士ヘンリー・ファー。冴えない中年男で妻と一人娘がいるが、太った醜悪な妻を殺したいと頭を巡らしている。
事件 そのヘンリーの結論は、無味無臭であるタリウムによる毒殺であった。タリウムを薬局から入手し、鶏料理に仕込んだまでは順調に進んだが、誤って妻の代わりに同地に住む友人の医者が食べてしまったのだ。そこで医者の葬式に出す飲物に別の仕掛けを……。
背景 フランシス・アイルズの『殺意』を思い出すような設定のコミック・ノベル。ただし『殺意』のようにあくまでもミステリーを意識した展開ではなく、コミック性の方を重視してミステリー味の薄いことが不満。思わず笑ってしまう会話やシーンは多く、その点では満足だ。

邦題 『左ききの名画』
原作者 ロジャー・オームロッド
原題 By Death Possessed(1988)
訳者 野中千恵子
出版社 社会思想社
出版年 1993/3/30
面白度 ★★★
主人公 写真家のトニー・ハイン。弁護士の妻とはあまりうまくいっていない。
事件 ひょんなことから、トニーは、家にあった「おばあちゃんの絵」を鑑定してもらった。その結果は有名な画家アッシュの作品だといわれた。絵の由来を探ると、確かに祖母はアッシュと恋人同士であった時代があり、二人は並んで座って同じ風景を描いていたことがわかった。そしてほぼ同じ絵が81枚見つかったのだ。どちらがアッシュの絵なのか?
背景 最初は謎解き小説のようで、後半は冒険小説になるという、英国ミステリーに多い(そして私の好きな)スタイルの作品。主人公はちょっと軽いが、それでもユーモアと機知を忘れない好人物。写真家という専門性もうまく生かしている。B級作品なれど十分楽しめる。

邦題 『チャーチルの陰謀』
原作者 テッド・オールビュリー
原題 A Time Without Shadows(1990)
訳者 久保田誠一
出版社 朝日新聞社
出版年 1993/4/30
面白度 ★★★
主人公 フランス育ちのイギリス人青年マクリーン。戦争勃発でSOE(英国特別諜報機関)に入隊し、フランスでのレジスタンス組織を指揮する。
事件 チャーチルの直接命令で、マクリーンは蜂起することになったが、簡単にドイツ軍に捕まり、アウシュビッツに送られた。誰かが組織を裏切ったのは明らかだった。後半はその犯人探しで、SIS(英国秘密情報部)の情報部員チャップマンが調査を始める。
背景 著者は実際にレジスタンス運動に参加していたそうだ。前半のレジスタンス運動を描写する迫真性は圧巻である。特別な活劇場面があるわけではなく、淡々と語られているにもかかわらず サスペンスも豊か。チャーチルの陰謀を調べる後半は、エンタテインメントとしては不満が残る。

邦題 『堕ちた工作員』
原作者 テッド・オールビュリー
原題 No Place To Hide(1984)
訳者 峰岸久
出版社 東京創元社
出版年 1993/10/22
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『砕かれた夜』
原作者 フィリップ・カー
原題 The Pale Criminal(1990)
訳者 東江一紀
出版社 新潮社
出版年 1993/10/25
面白度 ★★★
主人公 ベルリンの私立探偵ベルンハルト・グンター。シリーズ第ニ弾。ただし今回は警察の警部として臨時に活躍する。
事件 1938年の夏。前回『偽りの街』から2年後であるが、ベルリンはナチの独裁が一層強まっていた。グンターは富豪の未亡人が強請られる事件の解決を依頼されるが、犯人は何者かによって消されてしまう。一方アーリア人少女連続殺人事件の捜査を押しつけられたグンターは、二つの事件の奇妙な符合に気づいた。そして事件の背後にある陰謀を暴くことになる。
背景 文章が実に達者である。ただ達者すぎて軽い印象を与えてしまうので、重い主題であるナチのユダヤ人狩りとは、いささかミスマッチだ。ベルリンが”汚れた街”であることはよくわかる。

邦題 『オルレアン・ジグソー』上下
原作者 ジョン・ガードナー
原題 The Secret Houses(1987)
訳者 水上峰雄
出版社 新潮社
出版年 1993/5/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『戯れる死者』
原作者 スティーヴン・ギャラガー
原題 Down River(1989)
訳者 高橋健次
出版社 角川書店
出版年 1993/4/24
面白度
主人公 捜査課刑事のニック・フレイジャー。
事件 ニックは、20年後幼なじみのジョニーと再会した。そしてジョニーも刑事となり、二人はチームを組むことになったのだ。ジョニーは子供時代から偏執症的なところがあったが、その性格は変わっていないことがわかった。ところが捜査中にジョニーは消えてしまったのだ。
背景 角川ホラーの第一弾というので多少期待して読んだが、なんだかよくわからない小説だった。ホラーにもかかわらず、導入部や第一章は地味な展開で、いかにも英国小説らしい雰囲気がある。それはいいのだが、第二章に入ってもさっぱりホラーらしい怖さはなく、結局ストーリーもよくわからないままに終ってしまった。よくよく私の肌にあわない作品だ。

邦題 『童話が終わる時』
原作者 B・M・ギル
原題 The Fifth Rapunzel(1991)
訳者 猪俣美江子
出版社 早川書房
出版年 1993/6/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『狂気のざわめき』
原作者 マーティン・クラリッジ
原題 Nobody's Fool(1989)
訳者 山本やよい
出版社 新潮社
出版年 1993/6/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『うつろな男の死』
原作者 キャロライン・グレアム
原題 Death of a Hollow Man(1989)
訳者 浅羽莢子
出版社 東京創元社
出版年 1993/6/25
面白度 ★★★
主人公 『蘭の告発』で初登場したバーナビー首席警部とトロイ部長刑事のコンビ。
事件 「アマデウス」を公演するアマチュア劇団の団員(サリエリを演じる主演男性俳優)が劇の初日に観客の面前で死んだ。文字どおりの”劇的な死”を扱った演劇ミステリー。
背景 翻訳ミステリーを読んでいても、イギリス人の演劇好きは相当なものだと感じることがある。たとえば事件関係者のアリバイ尋問で、「私はその時間劇の練習で公民館にいっていた」という言葉が当り前のように言われ、当然のように受け止められる場面などにぶつかったときである。本作も英国人好みの演劇ミステリーだが、探偵役が地味で物足りない。しかし被害者を含む登場人物全員が個性豊かな人たちなので、謎解きだけでなく人間観察の楽しさも味わえる。

邦題 『レッド・スナイパー』
原作者 ジョナサン・ケップ
原題 The Armalite Maiden(1990)
訳者 石森康久
出版社 新潮社
出版年 1993/7/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ウェザースパイ追跡』
原作者 フィリップ・ケリガン
原題 Weatherspy(1990)
訳者 長野きよみ
出版社 早川書房
出版年 1993/7/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『嵐の絆』
原作者 バーナード・コーンウェル
原題 Stormchild(1991)
訳者 坂本憲一
出版社 早川書房
出版年 1993/10/31
面白度 ★★★★
主人公 造船所を経営するティム・ブラックバーン。50代の英国人男性。かつては大西洋横断ヨットレースの優勝などで名を馳せた。
事件 ティムの妻が乗った船が爆破された。家出した娘ニコルが関係しているらしい。彼女は双子の弟がテロで殺されてから精神的に不安定になり、過激な環境保護団体に入ったまま行方不明になっていたのだ。ところが新聞写真にニコルが写っていることをしり、パタゴニアに向かった。
背景 主人公らが対決する最大のものが自然の脅威だけに、前作よりも純粋な冒険小説になっている。ユーモアがあるのも嬉しい。逆に謎は単純で、ニコルもすぐに見つかる。著者の現代版物語第ニ作『ロゼンタール家の嵐』のような複雑なプロットではないが、これはこれで楽しめる。

邦題 『死の宣告』
原作者 ポーラ・ゴスリング
原題 Death Penalties(1991)
訳者 秋津知子
出版社 早川書房
出版年 1993/2/15
面白度 ★★★
主人公 テス・リーランド。夫を自動車事故で亡くし、インテリア・デザイナーとして自立している。探偵の主役は部長刑事のティム・ナイチンゲール。
事件 夫の死からやっと立ち直り始めたテスに謎の脅迫電話があった。そして数日後、ナイチンゲールはテスを訪れ、夫の死が単なる事故ではないと仄めかした。脅迫電話と夫の死は関係があるのか? 彼女は夫の過去を調べ始めるが……。
背景 現代的なゴシック・ロマンス。美人のテスの周りには、真っ当な男のようで、なんとなく胡散臭い男たちが集る。いろいろあって、怪しいと思われた男がやはり怪しいという展開で、まあ安心して読める。さすがに通俗の良さをよく心得ている。

邦題 『リオノーラの肖像』
原作者 ロバート・ゴダート
原題 In Pale Battalions(1988)
訳者 加地美知子
出版社 文藝春秋
出版年 1993/1/10
面白度 ★★★★
主人公 リオノーラ・ギャロウェイ。この小説の語り手。現在は70歳。
事件 リオノーラの父は、第一次大戦中のソンムの会戦で帰らぬ人となった。母は自分を産んだ直後に世を去った。そして館で起きた殺人事件。リオノーラは、さまざまな謎(父の墓はどこにあるのか? 自分の本当の父親は? 殺人事件の犯人は?)を解くことに情熱を捧げた。
背景 オビには『レベッカ』を思い出すミステリー・ロマンと書かれているが、ロマンは少し足りないものの、ゴシック的な面白さは十分。小説はストーリーだという著者の主張にはまったく同感。物語はどんどん進みながらも水増し感はない。最後の謎はまあ見当がつくものの、ニ転、三転するプロットやふとしたことから謎が解かれる設定は、やはり新鮮な驚きを与えてくれる。

邦題 『汚れた守護天使』
原作者 リザ・コディ
原題 Buchet Nut(1992)
訳者 堀内静子
出版社 早川書房
出版年 1993/12/15
面白度 ★★★★
主人公 新米女子プロレスラーのエヴァ・ウィリー。本職は自動車置場の警備員だが、空き時間には中国人ギャングの使い走りをして小遣いを稼いでいる。
事件 事件に巻き込まれたのは臨時にクラブの警備員をしていたときだった。警察の手入れがあり、混乱の中で、バックコーラスの若い女性を助けたまではよかったが……。
背景 1992年CWAのシルバー・ダガー賞受賞作。主人公のエヴァがいい。大女で力持ちだが、心優しい女性。一種のワルなことは間違いないものの、本質的な部分で心優しいのだ。そして失敗をとおして賢くなっていくというプロットもいい。終盤はアンナ(著者のこれまでのシリーズ・キャラクター)も登場するものの、謎がすべて解かれるわけではないのが少し残念。

邦題 『二つの世界のロマンス』
原作者 マリー・コレリ
原題 A Romance of Two Worlds(1886)
訳者 尾高樹良
出版社 東明社
出版年 1993/9/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『攻撃ヘリ ヘルハウンド』
原作者 J・J・サリヴァン
原題 Gunship(1985)
訳者 井坂清
出版社 新潮社
出版年 1993/10/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ポゼッション』
原作者 ピーター・ジェイムズ
原題 Possesion(1988)
訳者 南山宏
出版社 角川書店
出版年 1993/7/24
面白度 ★★
主人公 著作権代理店の経営者アレックス・ハイタワー。一人息子がおり夫とは別居している。
事件 旅行先の事故でその息子が死んだ。だがアレックスは事故死の直後に「お休み、母さん」と言う息子の霊をみた。そしてその後も息子の霊が何回も現れた。死んだ息子はなにか訴えたいのだと思った彼女は、霊媒を招いて降霊会を開き、息子の霊を安めようとするが……。
背景 プロットは単純。交通事故で死んだと思われた息子の霊が出るというもので、ホラーとしては正統的な(?)プロット。この手のものは、著者に筆力がないとバカバカしくて読めないものだが、筆力は結構あるようだ。一応それなりには読める。個人的には憑依現象やら悪魔払いなどの宗教がらみのホラーは好きではないので、評価が低くなっているかも。

邦題 『人類の子供たち』
原作者 P・D・ジェイムズ
原題 The Children of Men(1992)
訳者 青木久恵
出版社 早川書房
出版年 1993/10/31
面白度 ★★★
主人公 国守の従弟で、大学教授のセオ。
事件 時は2021年。人類には子供がまったく産まれなくなっていた。このため世間はこの人類最後の人間をオメガと呼び、特別扱いしていた。また英国社会は国守の独裁体制が確立していた。前半はセオの生い立ちと当時の英国の状況が淡々と語られ、後半は、主人公が国守と対立して、反体制派の人々とともに警察やオメガから逃げ回わるサスペンス小説となる。
背景 老人の集団自殺などという衝撃的な行為がP・D・ジェイムズの重厚な筆使いで描写されると暗澹たる気分になるが、ラストに一条の光が感じられるのは、彼女のもつ本質的な優しさが勝ったというべきなのだろう。SF小説だが、ジェイムズの小説なので敢えてリストに入れている。2006年の文庫化に際して、題名を映画と同じ『トゥモロー・ワールド』としている。

邦題 『クリスマスに捧げるミステリー』
原作者 ジョルジュ・シムノン他
原題 独自の編集
訳者 長島良三他
出版社 光文社
出版年 1993/12/20
面白度 ★★★
主人公 クリスマスを主題としたアンソロジー。最大の特徴は、EQ誌に掲載された作品のみから編まれていることである(短編7本と中編1本を収録)。
事件 なかで希少価値の高い作品はJ・D・カーの「刑事の休日」。カーの死後に編まれた短編集からも漏れた未収録短編であったからだ。もっとも楽しめたのは、シムノンの中編「メグレ警視のクリスマス」。サンタクロースから人形をもらった少女の話からメグレが犯罪を暴くというEQ創刊号の巻尾を飾った佳作。その他英国作家の作品は、「小列車強盗」(P・モイーズ)、「ランポールとクリスマスの精神」(J・モーティマー)、「シヴァーズ嬢の招待状」(P・ラヴゼイ)。
背景 御大クィーンの言葉(「すべてのミステリーはクリスマス・ストーリーである」)に納得。

邦題 『モンツァ 復讐のサーキット』
原作者 ボブ・ジャッド
原題 Monza(1991)
訳者 伊多波礼子
出版社 扶桑社
出版年 1993/12/30
面白度 ★★★
主人公 F1ドライバーのフォレスト・エヴァーズ。いかついハンサムな男で、すでにF1グランプリ4回の優勝経験をもつ。シリーズ物の第3作。
事件 チームメイトながらフォレストと反目するグィードの妻が惨殺された。フォレストは容疑者として逮捕されるが、やがて彼女の両親も殺されていることがわかり、背後にマフィアの影があることがわかった。彼はグィードとマフィアの関係を調べ始め、復讐を誓うが……。
背景 ちょっと変わった冒険小説。著者はF1の専門家であっただけに、フランシスが競馬場面を巧みに描くように、グランプリ・レースを迫真性を持って描いている。レースを山場にしているのがうまいところ。第二作は未読だが、第一作に比べると小説作りが長足に進歩している。

邦題 『フレッチャー絶体絶命』
原作者 サイモン・ショー
原題 Dead for a Ducat(1992)
訳者 富永和子
出版社 扶桑社
出版年 1993/6/28
面白度 ★★★★
主人公 かなりのワルだが、憎めない性格の舞台俳優フィリップ・フレッチャー。シリーズ第3弾。
事件 前作で俳優としての実力がやっと認められるようになったフレッチャーだが、今回の『マクベス』米国公演は完全な失敗。ところが意気消沈している彼に映画出演のオイシイ話が持ち込まれた。B級の時代劇映画だが、出演料が破格なのである。話がよすぎるので一抹の不安を胸に参加してみると、何故か馬車が暴走したり……。
背景 今回は、フレッチャーが命を狙われながらも、犯罪者を探す探偵を演ずるため、サスペンスに溢れた謎解き小説になっている。そのうえユーモアの味付けは相変わらず冴えており、気軽に一夜の読書の楽しみを求めるには格好の一冊。

邦題 『愛と憎しみの果て』上下
原作者 ダグラス・スコット
原題 The Disinherited(1990)
訳者 鴻巣友季子
出版社 東京創元社
出版年 1993/3/26
面白度 ★★★
主人公 アメリカの武器商人イングラムとイギリス人の女医ウェザビー。
事件 第一次世界大戦中の、小アジア半島の付け根の地では、アルメニア人がトルコ帝国からの独立を画してした。イングラムはその活動に巻き込まれ、そこの国際病院に勤めるウェザビーを知り、愛し合うようになった。二人はアルメニア人らとともにアメリカへの脱出を試みるが……。
背景 第一印象は、ケン・フォレットが真面目に書いたらこうなるのでは、という作品。ロマンスを主題にた陰謀小説という点が同じだからだが、フォレットよりエゲツなさというか、筆力は多少劣っているようだ。まわりの情況の説明(アルメニア人対トルコ人、クルド族、アラブ人など)はまあまあだが、何組もの恋愛を描いていて、かえって散漫になっている。絞った方が盛り上がったのに。

邦題 『密会』
原作者 マイケル・ディブディン
原題 The Tryst(1989)
訳者 成川裕子
出版社 新潮社
出版年 1993/7/25
面白度 ★★
主人公 精神病院に勤務する心理カウンセラーのエイリーン。
事件 エイリーンと夫との関係にはすきま風が吹いていた。そんなとき奇怪な行動を繰り返す少年が彼女の担当になった。そしてその少年を観察しているうちに、なぜか自分の子供のように思えてきたのだ。彼女には、かつて誤って胎児を死なせた過去があったからだが……。
背景 一種のサイコ・スリラーだが、性格異常者が登場するといったありきたりのものではない。幻想味の多いオリジナリティーの高い作品だ。部分的には惹き付けられるシーンはいくつかあるものの、全体としてみると山がなく物語が終っている。エイリーンがなぜ少年に惹かれるのかが一つの謎ではなるが、これも、あっそうか、という程度。好調のディブディンにしては期待はずれ。

邦題 『ダーティ・トリック』
原作者 マイクル・ディブディン
原題 Dirty Tricks(1991)
訳者 中原尚哉
出版社 扶桑社
出版年 1993/7/30
面白度 ★★★★
主人公 オックスフォード大卒でありながら、語学教師に甘んじている<私>。40歳過ぎの独身。
事件 物語は、<私>の供述書の形で語られていく。あるパーティで<私>は裕福な会計士デニスと知り合い、その妻カレンと不倫関係に陥った。そしてあろうことか、デニスの財産を合法的に奪うことを思い付いた。その計画は成功したが、その先には……。
背景 英国中産階級出の落ちぶれた人間(若い頃は反体制として生き、教養はあるが金はない男)と新興階級の人間との対比が鮮やかに描かれている。一人称の手記という形式も生きている。この作者は、ラストをあやふやなままで終らせるのが好みらしい。確かに新鮮な印象を受けるが、ミステリーとしての切れ味は鈍くなるので、痛し痒しだ。

邦題 『血と影』
原作者 マイクル・ディブディン
原題 Vendetta(1990)
訳者 高儀進
出版社 早川書房
出版年 1993/7/31
面白度 ★★★
主人公 内務省刑事警察の副警察本部長アウレーリオ・ゼン。前作で付き合っていたアメリカ人女性とは別れ、現在は母親と一緒に生活している。シリーズ物の二作目。
事件 ゼンが捜査を命じられた事件は、サルデーニャ島で起きた大富豪夫妻らが殺されたというもの。別荘には最新の警備システムが設置されており、現場は巨大な密室といえる状況だった。容疑者には国会議員に関係する男が浮かび上がってきたが……。
背景 一種の密室殺人だが、いかにもサルデーニャ島ならではの謎の解決で、意外に面白かった。とはいえ謎の面白さに寄りかかっているだけではなく、人物や風景の描写も巧みで、”小説”としても楽しめる。前半は退屈な部分もあるが、特に舞台が島に移ってからは圧巻。

邦題 『森を抜ける道』
原作者 コリン・デクスター
原題 The Way Through the Woods(1992)
訳者 大庭忠男
出版社 早川書房
出版年 1993/8/30
面白度 ★★★
主人公 モース主任警部。シリーズ10作目。CWAの2度目のゴールド・ダガー賞受賞作。
事件 モースは夏の休暇を楽しみたいと考えていたが、ホテルで見た新聞の記事に驚いた。一年前の事件(イギリス旅行中のスウェーデン娘がオックスフォード近郊で行方不明になった事件)を解く鍵となる謎の詩が警察に送られてきたというのだ。モースは再び事件の調査を命じられ……。
背景 この導入部から謎が深まる中盤までは、これまでのデクスター作品中一、二を争うほど面白い。モースの女性関係を中心にした私生活の描写もユーモラスで楽しい。確かに出来は悪くないが、犯罪者の心理を考えると行動に納得できないものがあるなど、プロットに無理も目立つ。論理のアクロバットに惹かれるというより、モースの人間的魅力で読ませるミステリーか。

邦題 『影の姉妹』
原作者 エマ・テナント
原題 The Bad Sister(1978)
訳者 浅羽莢子
出版社 筑摩書房
出版年 1993/9/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『高空の標的』上下
原作者 クレイグ・トーマス
原題 The Last Raven(1991)
訳者 田村源二
出版社 新潮社
出版年 1993/1/25
面白度 ★★
主人公 SIS工作員のパトリック・ハイド。オーブリーの元でしか働かない。
事件 『闇の奥へ』の続編。タジク共和国の山岳地帯から脱出を敢行したハイドは、ソ連軍用機の撃墜現場に出くわした。その飛行機にはソ連共産党書記長の妻が乗っていたのだ。さらにそこにCIA部員もいた。陰謀を目撃したハイドは追われることになった。一方オーブリーの姪も民間機墜落事故を目撃した。同じ陰謀に違いない。ハイドは追われながらも姪を助けるために戦う。
背景 この作者は、実現不可能なSF的ハイテク機器を扱うことが多いので、各務氏(EQ誌No93)が指摘する細部のリアリティ不足については気にならなかったが、プロット(というか陰謀)はヒドイ。ソ連と米国がグルになって実行するとは? 筆力はあるので、ついつい読んでしまうが。

邦題 『シャーロック・ホームズのクロニクル』
原作者 ジューン・トムスン
原題 The Secret Chronicles of Sherlock Holmes(1992)
訳者 押田由起
出版社 東京創元社
出版年 1993/6/25
面白度 ★★
主人公 ホームズとワトスン。1990年にワトスン名義の文書箱が見つかり、そこから『シャーロック・ホームズの秘密ファイル』が刊行された。本書は同じ文書箱の別の原稿から編まれた続編
事件 収録作品は7編。いかにもワトソンが書き残した作品のような体裁、内容となっている。たとえば、事件はすべて正典の中で多少とも言及されている物ばかり(贋作「パラドールの部屋」は「五個のオレンジの種」の中に、贋作「スマトラの大鼠」は「サセックスの吸血鬼」の中に出てくる)。
背景 聖典との類似度はかなり高いといってよく、ホームズ・ファンなら確実に楽しめるであろう。単なる読者としては、既視感のある平凡な作品ばかりを読まされているような不満が残るが、なぜ当時公表できなかったかについて、きちんと説明する細部へのこだわりには脱帽!

邦題 『クリサリス』上下
原作者 ジョン・トレンヘイル
原題 Krysalis(1989)
訳者 関口幸男
出版社 扶桑社
出版年 1993/9/30
面白度 ★★
主人公 イギリス外務省職員デイヴィッド・レスクームとその妻で法廷弁護士のアナ・レスクーム。
事件 ヨーロッパでの戦争を想定し、英米両国は対ソ連の基本戦略を検討するため<クリサリス>委員会を設置した。だがデイヴィッドの自宅から極秘ファイルと妻アナが消えたのだ。東独のスパイが組織を裏切って拉致したのだが、デイヴィッドは独自にアナの行方を追及した。
背景 各シーンの描写力はそれなりにあるものの、プロットがヒドイ。英米情報部の策略なら、どう考えてももう少し緻密な作戦を考えただろう。おそらく著者の狙いは、組織に翻弄される中年男女の行動・心理を描きたかった点にあるようだが、それにしても作戦そのものが杜撰すぎては、元も子もない。1989年にこのようなプロットを考えるようでは世界情勢への読みがオソマツだ。

邦題 『怪奇小説の世紀第二巻 がらんどうの男』
原作者 西崎憲編
原題 独自の編集
訳者 西崎憲
出版社 国書刊行会
出版年 1993/2/25
面白度 ★★★
主人公 多くの英国作家の怪奇短編小説が12本収録されている。
事件 ミステリー・ファンの私が楽しめたのは、表題の「がらんどうの男」(T・バーク)、ショートショートといってよい「ボルドー行の乗合馬車」(R・ハリファックス)、兄弟で生活していたのに弟が行方不明になる「閉ざされた部屋」(E・F・ベンスン)、海岸に流れ着いたフランデーを飲んだばかりにという「エニスモア氏の最期」(J・H・リドル)、「事故」(O・オニオンズ)など。その他「茶色の手」(C・ドイル)、「妖精にさらわれた子供」(レ・ファニュ)、「チャレルの谷」(H・R・ウェイクフィールド)、「遭難」(A・ブリッジ)、「時計」(N・ガン)、「死神の霊廟」(ディルク)、「ウエッソー」(N・バーカー)。
背景 やはり表題作が飛びぬけて面白い。怖いのに奇妙なユーモアがあるのだ。

邦題 『怪奇小説の世紀第三巻 夜の怪』
原作者 西崎憲編
原題 独自の編集
訳者 西崎憲
出版社 国書刊行会
出版年 1993/6/15
面白度 ★★★
主人公  多くの英国作家の怪奇短編小説が10本収録されている。シリーズの完結編。
事件 表題作「夜の怪」(L・ハートリー)は小品だが、ラストがいい。一番面白かったのは「猿の手」が有名なW・W・ジェイコブスの「失われた船」。町を出た船の船員一人が何年後かに帰ってきたら次の日にはベッドで死んでいたというもので、印象深い小品。逆にエイクマンの「列車」は中編だが、会話が多くて読みやすい。1951年作で、怪奇小説の世紀の最後の怪談といってよい。その他正統的な怪奇小説の「ターンヘルム」(H・ウォルポール)や「砂歩き」(F・ヒューム)など。
背景 一般的にいえば、怪奇小説というと大学教授や宗教家の書いたものが多いが、そちらの作品は私には肌があわない。やはりミステリー系作家の作品の方だ好きだ。あたり前だけど。

邦題 『カッティング・エッジ』
原作者 ジョン・ハーヴェイ
原題 Cutting Edge(1991)
訳者 夏来健次
出版社 社会思想
出版年 1993/11/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『北京の紅いさそり』
原作者 マイケル・ハートランド
原題 The Year of the Scorpion(1991)
訳者 佐和誠
出版社 二見書房
出版年 1993/4/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『わが愛しのホームズ』
原作者 ロハイズ・ピアシー
原題 My Dearest Holmes(1988)
訳者 柿沼瑛子
出版社 白泉社
出版年 1993/3/25
面白度 ★★
主人公 ホームズとワトスン。最初の事件(1877年)から百年後に開封されたもの。生きている間は公に出来なかったからである。つまりホームズとワトスンはホモの関係であったから。
事件 ということは、ワイルダーの映画などでも仄めかされていたが、本書はそれを嫌味なく正面から取り上げたもので、贋作として一定水準に達している。中編が二作で、最初の「極秘捜査」は『四つの書名』で触れられている「フォレスター夫人の小さな内輪のもめごと」を下敷きに書かれたもの。もうひとつの「最後の事件」は正典の「最後の事件」をより詳細に語ったもので、最後にホームズとワトスンはパリで再会する。
背景 ミステリーの贋作ではないので、謎解きの面白さはない。時代の雰囲気を楽しむべきもの。

邦題 『死者の身代金』
原作者 エリス・ピーターズ
原題 Dead Man's Ransom(1984)
訳者 岡本浜江
出版社 社会思想社
出版年 1993/1/30
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの修道士カドフェル。シリーズの第9作。
事件 王権争いが激しくなり、州執行長官プレスコートもウェールズの捕虜となった。ところが運がよい(?)ことに、ウェールズの良家の若者がシュルーズベリ修道院に連れてこられた。捕虜交換が可能である。ウェールズ語が話せるカドフェルはウェールズに出かけ、交渉は首尾よくまとまり、長官は修道院に戻ってきた。しかし何者かに殺されてしまったのだ!
背景 脇役のプレスコートが殺されるという設定がユニーク。フーダニットの本格物になっているが、この犯人は簡単にわかるだろう。若者たちの恋愛は、今回は四角関係であるが、すべて丸く収まっている。プレスコートの悲劇があったので、恋愛の方は大甘にしたのだろうか。

邦題 『憎しみの巡礼』
原作者 エリス・ピーターズ
原題 The Pilgrim of Hate(1984)
訳者 岡達子
出版社 社会思想社
出版年 1993/3/30
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの修道士カドフェル。シリーズの第10作。
事件 1141年5月の事件。第一作『聖女の遺骨求む』が1137年5月の事件であるから、カドフェル初登場から4年後のこと。修道院は遺骨の移葬祭で賑わっていた。各地から巡礼者が訪れていたからだ。カドフェルは彼らのなかに奇妙な若者たちを見つけた。足の悪い少年と美しい姉、十字架を首につけて裸足で歩く若者と同行する二人組の若者など。なにか起こりそうだと察した。
背景 いくつかの事件が語られている。最初は騎士が殺された事件で、これに裸足で歩きつづける若者が結び付き、さらにその若者たちが障害者の姉との恋に結び付く。その他にも小さなエピソードが絡まる。ミステリーとしてはたいした話ではない。

邦題 『秘跡』
原作者 エリス・ピーターズ
原題 An Excellent Mystery(1985)
訳者 大出健
出版社 社会思想社
出版年 1993/5/30
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みの修道士カドフェル。シリーズの第11作。
事件 今回の物語は、二人の修道士がシュルーズベリの修道院を訪ねてくるところから始まる。一人はこの近くの荘園生まれで十字軍に参加、負傷して修道士になった中年男で、もう一人はその彼を献身的に看護する若い修道士であった。そしてその中年修道士(死期が近づいている)が十字軍に参加する前に婚約した6歳の娘の行方を探すというもの。
背景 これまでのシリーズ作品とは違って、行方不明者を捜し出すサスペンス豊かな時代小説で、物語性の面白さが全面に出ている。もちろん心温まる結末は、これまでのシリーズ同様である。原題を直訳すると<優れたミステリー>になるが、その題名に恥じない出来映えだ。

邦題 『門前通りのカラス』
原作者 エリス・ピーターズ
原題 The Raven in the Foregate(1986)
訳者 岡達子
出版社 社会思想社
出版年 1993/7/30
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みの修道士カドフェル。シリーズの第12作。
事件 新任の門前通りの教区司祭は、学識は高いものの、厳格な人間で、謙虚さと人への思いやりが欠けていた。いつも黒い僧衣を着て歩いているので、”門前通りのカラス”と仇名が付けられ、嫌われていたが、やがて水車池で溺死しているのが発見された。住民は密かに喜んだものの、真実を愛するカドフェルは調査を始めるのだった。
背景 被害者の教区司祭のキャラクターがユニーク。殺されて当然という人間である。容疑者は多く、意外な犯人には少し驚いた。フーダニットとして優れている。前作『秘跡』が異色作なら、本作は正統的な謎解き小説だが、これまでのシリーズ作品では上の部に入る佳作。

邦題 『代価はバラ一輪』
原作者 エリス・ピーターズ
原題 The Rose Rent(1986)
訳者 大出健
出版社 社会思想社
出版年 1993/9/30
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの修道士カドフェル。シリーズの第13作。
事件 町一番の服地屋の跡取り娘ジュディスは、夫が亡くなったとき、門前通りの家を修道院に寄付した。代価は、その家の庭に咲く白バラを毎年一輪届けてもらうという約束をして。ところがある日、バラを届けるはずの若い修道士が殺された。バラの木も切り倒されていた。ジュディスは若く美人の資産家だったので求婚者が多かったが、そのジュディスも誘拐されたのだ。
背景 今回は偶然が多すぎて、いろいろな事件が都合よく進行する。いささか安易なプロット作りだ。またシリーズ13作ともなると、著者のクセ(?)もわかり、犯人も簡単にわかってしまう。ただし類型だからこそ安心して読み進められるし、最後も「あぁ、面白かった」で終ることができる。

邦題 『アイトン・フォレストの隠者』
原作者 エリス・ピーターズ
原題 The Hermit of Eyton Forest(1987)
訳者 大出健
出版社 社会思想社
出版年 1993/11/30
面白度 ★★★
主人公  お馴染みの修道士カドフェル。シリーズの第14作。
事件 修道院に隣接するイートンの荘園主が亡くなった。遺産は修道院に預けられていた10歳のリチャードにいくのだが、彼の祖母は野心家で、イートンの両隣りの荘園主の娘と強引に結婚させようとしたのだ。一方隠者がアイトンの森に草庵を構えて住み始めたが、それ以来修道院の森では災難が続き、ついには森の中で、隠者を尋ねてきた男の死体が発見された。
背景 今回の事件の舞台は修道院ではなく、修道院から10マイル離れたアイトンの森である。個人的にはこの舞台設定が興味深かった。二つの物語がどのように結び付くかが最大の関心事となるが、これがちょっと強引という印象を受ける。いつもどおり安心して読めますが。

邦題 『鏡のなかの影』
原作者 フランシス・ファイフィールド
原題 Shadows on the Mirror(1991)
訳者 松下祥子
出版社 早川書房
出版年 1993/3/31
面白度 ★★
主人公 事務弁護士のサラ・フォーチューン。ただしそれは表の顔で、裏の顔は、さえない男と付き合って相手に自信と希望を与えることに喜びを感じる美女である。
事件 サラがそのような生活をするようになったのは、亡くなった夫が自分の妹と浮気していたからだったが、裏のサラが助けた男たちは、簡単にはサラをあきらめずに懸命にサラを探すことになった。一方表のサラにも、上司が執拗に関心を持ち始めたのだ。
背景 確かにサラという女性の造形はユニークで、魅力的ではあるものの、その設定の面白さだけでは長編をもたせることはできない。中盤はサスペンスが希薄で読書欲が減退してしまった。終盤までまでガマンすれば、最後は、最初と同じく面白くなるのだが、かなりの忍耐力が必要だ。

邦題 『目覚めない女』
原作者 フランセス・ファイフィールド
原題 Deep Sleep(1991)
訳者 猪俣美江子
出版社 早川書房
出版年 1993/11/30
面白度 ★★★
主人公 公訴官で弁護士のヘレン・ウェスト。シリーズ第三弾。まだ主任警視ベイリーと同棲しているが、卵巣を切除した。1991年CWAシルバー・ダガー賞受賞作。
事件 薬局を営む男の妻が、就眠中に突然亡くなった。検死では毒物は発見されず、夫の態度にも不審な点はなかった。しかしヘレンは報告書を読んで直感的に疑問を持った。ヘレンは入院中に知り合った麻酔医に相談し、クロロフォルムについて調べ始めた。
背景 比較的短い作品。登場人物は少なく犯人と動機はほぼ明らかで、ハウダニットで読ませるサスペンス小説といってよい。犯人の人物造形も確かで、描写力もある。でも読む気が起こりにくいのは、真面目な描写が多いことも一因か。もうすこしユーモアがほしいのだが。

邦題 『マレンゴ作戦発動す』
原作者 コリン・フォーブス
原題 Cross of Fire(1992)
訳者 小西敦子
出版社 扶桑社
出版年 1993/5/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『飛行艇クリッパーの客』上下
原作者 ケン・フォレット
原題 Night Ove Water(1991)
訳者 田中融二
出版社 新潮社
出版年 1993/1/25
面白度 ★★
主人公 いわゆるグランド・ホテル形式の物語(もともとは無関係な人々が一堂に集って一夜を過ごすことによって、さまざまなドラマが起き、それがだいたいは丸く収まって希望をもって再出発していくという物語)なので、特に主人公はいない。
事件 時は1939年の英独開戦の直後、所は大西洋横断飛行艇<クリッパー>の機内。そこには妻を誘拐された機関士、ファシスト政治家、宝石泥棒、駆け落ちの人妻、FBIの捜査官と護送中の容疑者などなど、二十数名の人々が乗っていた。
背景 作者は特定の人物に肩入れすることなく、物語を語っているが、逆に読者は自分に近い登場人物に感情移入して楽しめばいい。ただしいずれも類型的な人物ばかりなのが弱点。

邦題 『密輸』
原作者 ディック・フランシス
原題 Driving Force(1992)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1993/11/15
面白度 ★★★
主人公 競走馬運搬会社の経営者フレディ・クロフト。離婚経験者で現在は独身。三十代半ば。
事件 ある日、馬輸送車の一台がヒッチハイカーを乗せて会社に帰ってきたが、すでにその男は死んでいた。そしてこれが事件の発端だった。翌日には不審な携帯用金庫が車体から見つかり、やがて発見者は殺された。フレディ自身も何者かに襲われ、海に投げ込まれたのだ。
背景 緊迫感溢れる語り口は少なくなったが、まだまだ語りのうまさは健在である。従来の作品のようにエピソードから入るのではなく、一行目からメインの物語を語っている。一気に読者を物語りに引き込もうとする書き方だが、珍しく(?)調教師らの描き分けが十分でなく、中盤の迫力不足の一因になっている。密輸品の謎などはユニークで楽しめる。

邦題 『殺人狂躁曲』
原作者 パメラ・ブランチ
原題 The Wooden Overcoat(1951)
訳者 小林晋
出版社 ハッピー・フュー・プレス/レオ・ブルース・ファン・クラブ
出版年 1993/12/25
面白度 ★★★★
主人公 特にいないが、強いて挙げれば、アスタリスク・クラブの隣家の住人、写真家のヒルフォード夫妻と彫刻家のバーコ夫妻か。
事件 アスタリスク・クラブとは、無罪放免された殺人犯が入会資格を持つというクラブである。そのクラブをカンという男が訪れるが、結局隣家に下宿することになった。ところがその日にカンは殺されてしまったのだ。死体を発見した写真家の妻は死体を捨てようとするが……。
背景 ユーモア・ミステリー。死体を捨てにいくがうまくいかない行為をブラック・ユーモア風に語っている。死体が二つ、三つと増えていくのがユニーク。『ハリーの災難』をよりミステリーらしくしている。文字通りの掘り出し物だが、少部数の発行なので、古本屋での掘り出しは困難か?

邦題 『暗殺者オファレルの原則』
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 O'farrel's Law(1990)
訳者 飯島宏
出版社 新潮社
出版年 1993/5/25
面白度 ★★★
主人公 CIAの暗殺工作員チャールズ・オファレル。46歳で、妻と一男一女の子どもがいる。
事件 オファレルは妻にも現在の仕事を偽り、他人に目立つことは極力避けた。家庭を愛し平凡な日常生活を好んだ。だが彼のこの原則が崩れ始めた。娘の離婚騒動、仕事への疑問などのためだが、最後の仕事、つまり駐英キューバ大使の暗殺だけはやり遂げようとしたものの……。
背景 オファレルの人物造形が面白い。優秀な暗殺工作員には見えない人間というのは、チャーリー・マフィンと同じで、いかにもフリーマントルらしい設定である。そのオファレルが仕事に失敗して苦境に陥ってからは、マフィンのように鮮やかに切り抜けられない。このため終盤に意外性はあるものの、後味はあまりよろしくない。

邦題 『狙撃』
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 The Run Around(1988)
訳者 稲葉明雄
出版社 新潮社
出版年 1993/11/25
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのチャーリー・マフィン。MI6の上級職員として職場に復帰。シリーズ8作目。
事件 英国に亡命したあるロシア人から、要人暗殺計画が明らかとなった。しかし場所も日時も、相手もわからない。情報部長からの命令でその仕事をすることになったマフィンは、得意の第六感でジュネーブで開かれる中東和平会議と当りをつけたが……。
背景 著者が『ジャッカルの日』で有名なフォーサイスの向こうをはって書いたという暗殺物。フリーマントルの自慢ほどには面白くない。暗殺者対阻止者の対決というパターンに固執したプロットではなく、謀略小説としての面白さを付け加えようとしているが、これがかえって中途半端な印象を与えているからだ。ただし導入部は相変らずうまい。水準作であることは確かだが。

邦題 『怒れる老婦人』
原作者 レオ・ブルース
原題 Furious Old Women(1960)
訳者 小林晋
出版社 レオ・ブルース・ファン・クラブ(機関誌Aunt Aurora Vo.6)
出版年 1993/5/
面白度 ★★★
主人公 ニューミンスター・クィーンズ・スクールの上級歴史教師キャロラス・ディーン。素人探偵。原シリーズの8作目。シリーズ7作目『ジャックは絞首台に!』は社会思想社から刊行された。
事件 クロスウェイズに住む老婦人ボビン夫人は、ディーンに事件の捜査を依頼した。三姉妹の姉が、他人の墓穴に埋まっていた事件である。姉は教会活動に熱心だったが、敵も多かった。だがその敵と思われた相手も何者かに殺され、あろうことか妹も死んでしまった。関連はあるのか?
背景 例によって少部数の機関誌に訳載された。欧米では比較的評価が高い作品。老婦人が怒る冒頭はうまいが、第2章からは事件関係者への訊問が長々と続いて、意外な解決を迎える。本作の趣向には見事にひっかかった。もちろん無理だなあ、と感じる部分も多いが。

邦題 『海狼の巣』
原作者 ジェームズ・マギー
原題 Wolf's Lair(1990)
訳者 出光宏
出版社 至誠堂
出版年 1993/8/10
面白度 ★★★
主人公 英国海兵隊の元コマンド隊員マイケル・ローガン。傭兵をしたり密輸にかかわったりしたが、麻薬組織の罠にかかれ、今はトルコの監獄に収監されている。
事件 屋外作業の日、警備艇が爆発し、ローガンはかつての密輸仲間に助け出された。そしてUボートの捜索に誘われた。そのUボートは、敗戦直前に金塊を積み込んで南米に向かっていたのだという。彼らは地中海へ向かうが……。
背景 典型的なB級冒険小説で、それなりに面白い。物語は一種のナチ物だが、核となるのは宝捜し(Uボート捜し)の冒険である。Uボートの隠れ場所はまあまあ。悪人側が謎についてどんどんしゃべってしまうなどご都合主義も目につくが、主人公の魅力でそれなりに読ませる。

邦題 『裏切りの暗殺契約』
原作者 ポール・マン
原題 The Traitor's Contract(1991)
訳者 山根和郎
出版社 二見書房
出版年 1993/12/25
面白度 ★★★
主人公 一応、英国海軍特殊部隊の元大尉コリン・リンチ。フォークランド紛争で活躍。現在は巨大企業STCの社長ハロランの部下となっている。
事件 マンハッタンにあるSTCの本社ビルが武装ヘリに攻撃された。たまたまハロランは不在だったため難を逃れたが、死者は二百人近かった。実はハロランは政府の依頼で秘密裏に暗殺商売をしていたので敵は多かったのだ。さっそくリンチに調査を命じたが……。
背景 活劇場面の描写には迫力がある。特に冒頭の襲撃場面とラストの船上での一騎打ちは圧巻で、これだけで十分読む価値はあると思う。ただし悪役になるIRAの陰謀はたわいないものでガッカリ。IRAもパレスチナ、キューバも、これほど単純な頭の持ち主はいないと思うが。

邦題 『最後の刑事』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 The Last Detective(1991)
訳者 山本やよい
出版社 早川書房
出版年 1993/4/15
面白度 ★★★★
主人公 昔気質のピーター・ダイアモンド警視。最新技術を信頼せず”最後の刑事”と呼ばれる。
事件 バース近郊の湖で女性の全裸死体が浮かんだ。ダイアモンド警視が事件の担当になったが、捜査は難航した。そんなとき、バース大学の教授が妻の失踪を届けたのだ。関係があるのか? この事件に、教授が溺れそうになった少年を助けた話と、その少年の母親が見つけたジェーン・オースティンの手紙の話が絡まることになる。
背景 面白くて 一気に読める。警察小説としても(ピーターの生き方がきちんと描かれている)、謎解き小説としても(優れたフーダニット)、サスペンス小説としても(各章ごとに語り手を変えて緊張をゆるめない)、楽しめる。おかげで、偶然が多すぎる解決部も、まあ許そう、となってしまう。

邦題 『豹の呼ぶ声』
原作者 マイクル・Z・リューイン
原題 Called By a Panther(1991)
訳者 石田善彦
出版社 早川書房
出版年 1993/8/31
面白度 ★★★
主人公 私立探偵アルバート・サムスン。
事件 サムスンはパーティの余興で私立探偵を演じたりとPRに余念がなかったが、地元TVに流したコマーシャルも好調で、なんとテロリスト・グループから仕事の依頼があったのだ。その仕事とは 爆発しないようにセットした爆弾が盗まれてしまったので、死傷者が出る前に回収してほしいというもの。警察に届けるわけにもいかないサムスンはしかたなく調査を始めたが……。
背景 章の長さが短くなり、会話が増えてユーモアもあるからか、一段と読みやすくなった。ハードボイルドからソフトボイルドへ、確かにリューインは変身しつつある。最初に俳優のマネをすることが伏線になっていて、これは上手い伏線だが、このためにソフトボイルドになってしまったようだ。

邦題 『エドウィン・ドルードの失踪』
原作者 ピーター・ローランド
原題 The Disappearance of Edwin Drood(1991)
訳者 押田由起
出版社 東京創元社
出版年 1993/12/17
面白度 ★★
主人公 贋作のシャーロック・ホームズ。
事件 傷んだブリキ製文書箱にあった原稿からの一冊であるが、目新しい点は、未完のC・ディケンズの『エドウィン・ドルードの謎』をホームズが解くという複雑な贋作構成になっていること。多くのホームズ物語と同様、まずは依頼人の手紙が披露され、やがて初老の男が登場する。その彼の頼みとは、クリスマス・イブに行方不明になった甥を探してほしいというものであった。
背景 つまり、この事件の謎は『エドウィン・ドルードの謎』そのもの。19世紀の文学に興味があれば、一粒で二度おいしい作品だが、ディケンズなんて知らないよ、というファンにも楽しめる贋作で、ホームズの遠縁の聖職者(誰かおわかりかな?)の言を引用したりする遊び心も生きている。

邦題 『激闘!地中海 ソフィー号新任艦長J・オーブリー』
原作者 パトリック・オブライアン
原題 Master and Commander(1970)
訳者 高橋泰邦
出版社 徳間書店
出版年 1993/10/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 

2002年早川書房より『新鋭艦長、戦乱の海へ』上として出版。

邦題 『燃えるバルセロナ沖』
原作者 パトリック・オブライアン
原題 Master and Commander(1970)
訳者 高橋泰邦
出版社 徳間書店
出版年 1993/11/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 

2002年早川書房より『新鋭艦長、戦乱の海へ』下として出版。

邦題 『死闘! 私椋船対貿易船』
原作者 パトリック・オブライアン
原題 Post Captain(1972)
訳者 高沢次郎
出版社 徳間書店
出版年 1993/12/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 

2003年早川書房より『勅任艦長への航海』上として出版。

邦題 『危うし、わが祖国』
原作者 アレグザンダー・ケント
原題 A Tradition of Victory(1981)
訳者 高橋泰邦
出版社 早川書房
出版年 1993/10/1
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『奇襲ティルピッツ』
原作者 アレグザンダー・フラートン
原題 The Gatecrashers(1984)
訳者 高津幸枝
出版社 光人社
出版年 1993/3/2
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ビスマルクの野望』
原作者 フィリップ・マカッチャン
原題 The Guns of Arrest(1976)
訳者 高岬沙世
出版社 早川書房
出版年 1993/7/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『日本艦隊、出撃す』
原作者 フィリップ・マカッチャン
原題 Cameron in Command()
訳者 佐和誠
出版社 早川書房
出版年 1993/11/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『掃海艇の戦争』
原作者 ダグラス・リーマン
原題 In Danger's Hour(1988)
訳者 大森洋子
出版社 早川書房
出版年 1993/5/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 


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