邦題 『チャタトン偽書』
原作者 ピーター・アクロイド
原題 Chatterton(1987)
訳者 真野明裕
出版社 文藝春秋
出版年 1990/11/15
面白度 ★★
主人公 売れない詩人のチャールズ。ゴーストライターの仕事も引き受けた経験がある。
事件 彼は骨董屋で一枚の絵に魅せられた。18歳で自殺した神童トマス・チャタトン(18世紀の中葉に生まれ、十代の半ばで中世詩の贋作を作った夭折の天才詩人)の中年期の肖像画らしい。また彼の告白文らしきものも見つかった。チャールズは贋作者チャタトンの謎に引き付けられた。
背景 著者は純文学系の作家で、本書は芸術の真贋をテーマにし、時にはユーモアを、時には皮肉を込めて書かれた一種の風刺小説である。ミステリーとして書かれたものではないから、ミステリーを読み慣れた読者には、最後の意外性はたいしたものではないが、過去と現在が巧妙に交錯するプロットはミステリー作家顔負けのうまさで、確かに一読に値する。

邦題 『女性情報部員ダビナ』
原作者 イーヴリン・アンソニー
原題 The Defector(1980)
訳者 食野雅子
出版社 新潮社
出版年 1990/2/23
面白度 ★★★
主人公 英国秘密情報部員のダビナ。美貌の妹に婚約者を奪われた過去をもつ。
事件 ダビナに任せられた仕事は、家族を残して亡命したKGB大佐ササノフの訊問であった。仕事第一主義のダビナであったが、訊問しているうちにササノフの誠実さに惹かれ、二人は結ばれた。そして家族を救出してくれるなら機密を明かしてもよいというササノフの約束を信じて、ダビナはソ連に潜入するが……。
背景 ダビナに魅力を感じるかどうかで評価が割れそうだが 原著は1980年の出版ということを考慮すれば、ダビナは目新しい女性といってよい。前半はちょっとモタモタするものの、ダビナがソ連に潜入する後半から話は面白くなる。もっとも脱出行はいささか肩透かし気味であるが。

邦題 『十年目の汚辱』
原作者 クライブ・イーグルトン
原題 Gone Missing(1988)
訳者 池本和夫
出版社 徳間書店
出版年 1990/6/10
面白度 ★★
主人公 主人公と呼べるほどの人物はいないが、強いて挙げれば元SIS特務隊員のサラ・カートライトとその夫の陸軍少佐トム・カートライトか。
事件 1975年のヴェトナム戦争の末期、サラは勤務中に数百万ポンドの金と米ドルを強奪された。そのためかサラは出世を絶たれ、10年後の今ではトムと幸せな家庭を築いていた。そのサラが夫に偽りの置手紙を書いて、突然失踪した。何故か? トムは香港に向かうが……。
背景 著者名がイグルトン表記の『ドラブル』に続く邦訳第2弾。物語には秘密情報部員が数多く登場するが、スパイ小説や冒険小説というより、犯罪小説に近い。面白さを狙ったプロットは平凡だし、カートライト夫妻の魅力も不足している。終盤の活劇が多少楽しめる程度。

邦題 『魔境降臨伝説』上下
原作者 ダニエル・イースターマン
原題 The Ninth Buddha(1988)
訳者 伏見威蕃
出版社 二見書房
出版年 1990/7/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『階段の家』
原作者 バーバラ・ヴァイン
原題 The House of Stairs(1988)
訳者 山本俊子
出版社 角川書店
出版年 1990/5/31
面白度 ★★★
主人公 40歳に近い作家のエリザベス。
事件 エリザベスは、15年前に刑務所に入ったベルが外を歩いているのを見た。そして1960年代のロンドンを思い出す。彼女は、叔母が住んでいた<階段の家>によく遊びにいっていたが、そこにはドラッグに夢中な若者が集っていた。魔性の女ベルもいたが、やがて悲劇が……。
背景 ヘンリー・ジェイムズの『鳩の翼』を下敷きにした作品。短編ネタと思われるものを、60年代の世相を背景にして、アアダ、コウダと引き延ばして長編にしているようだ。したがって前半は正直言って退屈なのだが(読者は物語に忍耐強くつきあう必要があるが)、後半は徐々にサスペンスが高まり、やはりレンデルだと(ヴァイン名義だが)納得がいくだろう。

邦題 『沈黙の向う側』
原作者 テッド・オールビュリー
原題 The Other Side of Silemce(1981)
訳者 仙名紀
出版社 東京創元社
出版年 1990/1/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『サンタマルグリータの遺産』
原作者 テッド・オールビュリー
原題 Italian Asets(1976)
訳者 成川裕子
出版社 東京創元社
出版年 1990/2/23
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『若きローマ人の死』
原作者 ジョーン・オヘイガン
原題 A Roman Death(1988)
訳者 加地美知子
出版社 早川書房
出版年 1990/4/15
面白度 ★★★★
主人公 特にいない。事件に関係する両家の人々だが、弁論家キケロも登場する。
事件 舞台は、シーザーが暗殺される前後のローマ。古い家柄を誇る貴族の息子と、裕福な事業家の娘が婚約した。良縁と思われたが、娘の母親は頑なに結婚に反対していた。花婿に良からぬ噂があるし、結婚の目的が娘の持参金と考えてしたからだ。そして宴会の後で花婿は毒殺され、容疑はその母親にかかってしまったのだ!
背景 風俗ミステリーとしては第一級の面白さといってよい。確かに登場人物名などが覚えにくく、冒頭は読みやすいとはいえないが、当時の風俗描写(例えば女奴隷が自由人になれるなど)は興味深い。もちろん、謎が唐突に解明されるなどの弱点はあるが。

邦題 『封じられた指紋』
原作者 アントニイ・オリバー
原題 The Elberg Collection(1985)
訳者 三宅真理
出版社 扶桑社
出版年 1990/3/25
面白度 ★★★★
主人公 五十代半ばの私立探偵(元スコットランド・ヤードの警部)ジョン・ウェバーと助手役を演ずる、大きな娘のいる同世代の女性リジー・トーマス。
事件 この作品はアンティークな陶人形の世界を背景にしている。つまり、物語は、世界有数な陶人形コレクターの義父が事故死した事件をウェバーとトーマスが再調査するところから始まる。そして二人のそれぞれの活躍が、冒険小説風な展開で語られていく。
背景 とはいえ、初老の二人の行動である。派手な活劇などは期待すべくもないが、地味な中にもサスペンスが溢れている。趣味の国、冒険好きの国、そして高齢者の国であるイギリスならではのミステリー。熟年世代の活躍に余裕をもって接すれば充分に楽しめるはずだが……。

邦題 『グローリー』上下
原作者 ジャック・カーティス
原題 Glory(1988)
訳者 長野きよみ
出版社 早川書房
出版年 1990/6/10
面白度 ★★
主人公 明かな主人公はいないが、まあ元刑事で私立探偵のジョン・ディーコンと銀行の女性コンピューター・プログラマーのローラ・スコットの二人か。
事件 ローラの同僚のプログラマーが入浴中に溺死した。警察は自殺と断定したが、彼女は事件に疑問を抱き、ディーコンに調査を依頼した。やがて第二、第三の殺人が起きる一方、ディーコンは、銀行がプログラムに細工して不正な操作をしていたことに気付くが……。
背景 サイコ・サスペンスとポリティカル・スリラーを混ぜ合わせた物語。筆力のある著者らしく、前者のサイコ・サスペンスの語り口はそれなりに迫力があるが、後者のポリティカル・スリラーは平板なプロット。その上、両者の融合も上手くないので、小説としてはさほど楽しめなかった。

邦題 『悪魔の金脈』
原作者 A・カバル
原題 Bad Money(1986)
訳者 延原泰子
出版社 二見書房
出版年 1990/3/25
面白度 ★★
主人公 <エグザミナー>紙の元敏腕記者であったジョン・スタンディング。
事件 ローマ、パナマ、ロンドン、ポーランドで同時刻に4件の殺人事件が発生した。ローマの被害者は<エグザミナー>紙のイタリア駐在記者で、同紙の女性記者カロの前夫だった。カロは酒で身を持ち崩しかけたジョンの再生を願い、カロはジョンの手を借りて調査に乗り出したのだ。その結果、ヴァチカンの金が秘かに国外へ流出していることを知るが……。
背景 『聖ペテロの遺言』に続く著者の第2弾。プロローグから第一部にかけてはスケールの大きな陰謀を予感させるが、第二部に入ると物語に冗長な部分が多すぎで、サスペンス不足。現実の事件から構想を得たようだが、事実がフィクションの中に生かされていない。

邦題 『暴走貨物船オーラガイ号』
原作者 ブライアン・キャリスン
原題 The auriga Madness(1980)
訳者 伏見威蕃
出版社 早川書房
出版年 1990/1/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ハイランダー号の悪夢』
原作者 ブライアン・キャリスン
原題 The Sextant(1981)
訳者 田中晶太郎
出版社 早川書房
出版年 1990/6/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ルースを探して』
原作者 アンナ・クラーク
原題 My Search for Ruth(1975)
訳者 高橋豊
出版社 早川書房
出版年 1990/4/15
面白度 ★★★
主人公 孤児のルース。叔父の家で育てられる。
事件 7歳になったルースは、悪夢に悩まされていた。壁の中から生首が現れるという夢である。そのうえ彼女には幼い日の記憶も、両親の記憶もなかった。夢と関係があるのだろうか? 学校の生徒にも溶け込むことができなくなり、ついには家出までしてしまう。
背景 小品だが、それなりに面白い。ルース・レンデル風な物語展開であるが、レンデルほどニューロティックな描写は多くない。7歳の少女が18歳に成長するまでの間に、失われた記憶を自ら探り出そうという展開で、それほど深い謎があるわけではないものの、最後まで読まされてしまう。結末の意外性もまあまあ。欲をいえばルースをもっと魅力のある少女にしてほしかった。

邦題 『アフガンの「百合」』上下
原作者 ジョン・クルーズ
原題 The Hour of the Lily(1987)
訳者 池央耿
出版社 光文社
出版年 1990/1/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『叛逆の赤い星』上下
原作者 ジョン・クルーズ
原題 Red Omega(1982)
訳者 井口恵之
出版社 東京創元社
出版年 1990/5/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『フェアウエイの悩める警部』
原作者 バリー・コーク
原題 Dead Ball(1988)
訳者 山本やよい
出版社 早川書房
出版年 1990/11/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『殺意の海へ』
原作者 バーナード・コーンウェル
原題 Wildtrack(1988)
訳者 泉川紘雄
出版社 早川書房
出版年 1990/3/26
面白度 ★★★★
主人公 フォークランド紛争で重傷を負ったニック・サンドマン。医者には二度と歩けないといわれるものの、不屈の闘志で歩行障害を克服する。妻とは離婚。父は刑務所に入っている。
事件 ニックの夢は愛艇に乗って広大な海へ航海することだった。しかし愛艇は陸に上げられていて、整備にはさらに膨大な費用が必要であった。そのためTV人気キャスターの手を借りようとするが、そこからニックは謀略に巻き込まれていく。
背景 主人公の設定や物語の背景は興味深く、正統的な英国冒険小説。ただし恋愛がかなりの薬味になっているのが目新しい。クライマックスは北大西洋上にあるが、そこに至るまでの物語には謎もあり、単純な海洋冒険物ではない。主人公がマッチョすぎる気もするが。

邦題 『ボッティチェルリの遺産』
原作者 リチャード・コックス
原題 Auction(1979)
訳者 厚木淳
出版社 東京創元社
出版年 1990/1/19
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『策謀と欲望』
原作者 P・D・ジェイムス
原題 Devices and Desires(1989)
訳者 青木久恵
出版社 早川書房
出版年 1990/10/25
面白度 ★★★★★
主人公 お馴染みのダルグリシュ警視長。
事件 舞台はノーフォークの架空の岬。そこには原子力発電所があり、ダルグリシュは亡き叔母の遺産を整理するために、休暇をとって叔母の風車小屋を訪れた。ところが、ノーフォークでは連続絞殺魔が出没し、原発の女性職員が殺されたことから、彼も事件に巻き込まれる。
背景 派手な異常殺人は、物語に読者を引き込む一手段として利用しているだけ。この後は、各登場人物の心理、行動を丁寧に描きわけ、読みごたえのあるミステリーに仕上げている。原発がそびえ立つ海岸の風景描写も確か。難をいえば絞殺魔の事件も、メインの殺人事件も、ダグリッシュの解決とは言い難いことだが、これはまあ、彼の休暇中の事件なのだから、許すことにしよう。

邦題 『原潜サターンの作戦』
原作者 ピーター・シェパード
原題 The Saturn Experiment(1988)
訳者 小菅正夫
出版社 新潮社
出版年 1990/5/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『熱砂のシャドウゲーム』
原作者 ジェフリイ・ジェンキンズ
原題 (In Harm's Way(1986)
訳者 尾坂力、坂本憲一
出版社 早川書房
出版年 1990/4/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『F1−死への疾走』
原作者 ボブ・ジャッド
原題 Formula One(1989)
訳者 翔田朱美
出版社 講談社
出版年 1990/11/15
面白度 ★★
主人公 元F1レーサのフォレスト・エバーズ。本作では再びドライバーになる。
事件 鈴鹿サーキット。エバーズは放送席から、かつて彼が所属していたアランデル・チームのマシーンが大破するのを目撃した。そしてその事故が仕組まれたものであると確信した。チームのオーナーの要請で、エバーズはドライバーに復帰するも、今度は街で暴漢に襲われたのだ。物語はやがて日本から ロス、……、そしてシーズン最後のグランプリの行なわれるアデレードへ。
背景 一般に専門領域の情報がたくさん含まれていることは強みであるが、本作ではF1関係の情報が多すぎて、かえってミステリーの骨格を貧弱にしている。処女作なので、そのあたりの整理の仕方に慣れていないのだろう。あのフランシスでさえ、第一作ではとまどっていたのだから。

邦題 『ECスキャンダル』
原作者 スタンレー・ジョンソン
原題 The Commissioner(1987)
訳者 矢沢聖子
出版社 講談社
出版年 1990/2/15
面白度 ★★
主人公 イギリス首相からEC委員会の委員に任命された下院議院のジェームズ・モートン。
事件 モートンは、妻が院内幹事長と情事にふけっていることも知らずブリュッセルに飛ぶ。そこに、大手化学メーカの犯罪行為を暴露した匿名の手紙が送られてきて……。
背景 本書は、ECや環境問題を扱った国際情報小説。現在EC(欧州共同体)にはヨーロッパの12ヵ国が加盟し、1992年までには市場統合を完成させる予定だそうだし、ECにはEC委員会や閣僚理事会、欧州会議、欧州裁判所などが活発に活動しているそうだ。著者はもともとノンフィクション作家であっただけに、そのような情報部分の処理は無難な出来であるが、主人公や妻、愛人の描き方は平凡で魅力に欠ける。情報の面白さだけでは、読書の楽しみも半減してしまう。

邦題 『とべない飛行機』
原作者 ネヴィル・スティード
原題 Die-Cast(1987)
訳者 嵯峨静江
出版社 早川書房
出版年 1990/1/30
面白度 ★★★★
主人公 ピーター・マークリン。骨董玩具の専門店を開いている中年独身男性。元は広告業者であったが、骨董的な玩具収集の趣味が高じて今の職業に就いた。シリーズ第2作。
事件 前作の探偵手腕を見込まれて、麻薬密輸に絡む元レーサーが殺された事件の解明に乗り出す、というのがメインの物語で、サブ・ストーリーとして、幻の玩具の飛行機フラミンゴの複製を作りたい、というピーターの熱い計画が語られる。
背景 趣味ある人生を楽しむピーターの言動が本書のおもしろさの最大理由だか、彼を助ける恋人と飲み友達の漁師の二人の脇役も魅力的だ。謎解き小説より冒険小説の雰囲気をもち、適度のユーモアとサスペンスをもつ語り口は第一作より上達し、構成にも無理がなくなっている。

邦題 『スパーク幻想短編集 ポートベロー通り』
原作者 ミューリエル・スパーク
原題 The stories of Muriel Spark(1985)
訳者 小辻梅子
出版社 社会思想社
出版年 1990/4/30
面白度 ★★
主人公 幽霊物語と幻想味のある短編11本が収録されている。
事件 幽霊物語といってよいのが「もう一人の手」、「遺言執行人」、「落ち葉掃き」(クリスマス・ストーリーでもある)、「ポートベロー通り」の4編で、その他は「アリス・ロングのダックスフント」、「悲しき冬物語」、「わが生涯の最初の年」、「詩人の家」、「ザ・ドラゴン」、「熾天使(セラフ)とザンベジ河」、「リマーカブルという名の劇場」の7編。
背景 「ポートベロー通り」は犯罪小説に幽霊を結び付けたもので、ミステリーとしては単純であるが、干し草の殺人という設定が生きている。「もう一人の手」は奇妙な味の短編で、冒頭に置いたのもわかる佳作。幻想味のある作品は、私が良さを理解できないための減点にすぎない。

邦題 『ファーザーズの掟』
原作者 D・W・スミス
原題 Father's Law(1986)
訳者 安達昭雄
出版社 扶桑社
出版年 1990/6/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『虎の眼』
原作者 ウィルバー・スミス
原題 The Eye of the Tiger(1975)
訳者 飯島宏
出版社 文藝春秋
出版年 1990/7/31
面白度 ★★★★
主人公 モザンビーク沖の小さな島国セント・メアリーでチャーター船業を営むハリー・フレッチャー。しかしそれまでは南氷洋で捕鯨船に乗ったり、特殊部隊に入ってコンゴなどで実戦に参加している。冒険小説の主人公にふさわしいバックグランドを持っている。
事件 優雅な生活をしているハリーのところに、ある日怪しげな二人組みが現れた。そしてハリーを雇い、危険な岩礁の島へ行き、海中から何かを引き上げたのだ。
背景 一種の宝探しの冒険小説。冒頭から軽快に物語が展開する。スミスがこれほどテンポよく書ける人とは予想していなかった。山また山の展開であるが、後半のサメとの戦いが圧巻。ラストの意外性はあまり買わないが、それでもエンタテインメントとしては珍しい終わり方だ。

邦題 『王女マメーリア』
原作者 ロアルド・ダール
原題 New Roald Dahl's Collection of Short Stories(1974-88)
訳者 田口俊樹
出版社 早川書房
出版年 1990/1/25
面白度 ★★★
主人公 久しぶりのダールの短編集。
事件 以下の9本が収録されている。「ヒッチハイカー」、「アンブレラ・マン」、「”復讐するは我にあり”会社」、「執事」、「古本屋」、「外科医」、「王女と密猟者」、「王女マメーリア」。
背景 私の読書メモには、各短編についてのコメントがないので、内容についてはこれ以上触れることができない(残りのスペースが埋められるか?――陰の声です)。これまで未収録であった短編を強引に寄せ集めて一冊にしたような短編集。奇抜な発想から出発するダールの物語る力が衰えた、という気がしないでもないが、私には結構面白かった。ユーモラスな落ち、平明な文章、毒のある話などは、昔と変わらず、懐かしかったからである。★ひとつはオマケ気味。

邦題 『スパイ・フック』
原作者 レン・デイトン
原題 Spy Hook(1988)
訳者 田中融二
出版社 光文社
出版年 1990/3/20
面白度 ★★★
主人公 英国秘密情報局(SIS)特務部部員バーナード・サムスン。中年の有能な部員だが、妻フィオーナは3年前に二児を残して東側に亡命。現在はSISの若い女性部員と同棲。
事件 SIS内部で公金の横領が見つかった。かつて暗号課にいた男がワシントンで射殺されたという情報も入った。妻の亡命は、それらの事件に関係しているのであろうか?
背景 バーナード・サムスン物の三部作『ベルリン・ゲーム』、『メキシコ・セット』、『ロンドン・マッチ』に続く新しい三部作の第一作。フック(鉤)、ライン(糸)、シンク(錘)というタイトルになるそうだが、バーナードの一人称の語り口や主要な脇役陣はこれまでの作品と同じである。安心してつきあえるものの目新しさはない。大河小説の四番目の小説といったところ。

邦題 『スパイ・ライン』
原作者 レン・デイトン
原題 Spy Line(1989)
訳者 田中融二
出版社 光文社
出版年 1990/10/4
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『宣戦布告』
原作者 レン・デイトン
原題 Declarations(1971)
訳者 後藤安彦
出版社 早川書房
出版年 1990/12/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『第二の深夜』
原作者 アンドルー・テイラー
原題 The Second Midnights(1988)
訳者 後藤安彦
出版社 文藝春秋
出版年 1990/3/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ゼロ・プラス・ワン』
原作者 ジョン・デニス
原題 Zero Plus One(1985)
訳者 井坂清
出版社 徳間書店
出版年 1990/7/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『偽装の罠』
原作者 マイケル・デラヘイ
原題 Stalking-Horse(1987)
訳者 鎌田三平
出版社 文藝春秋
出版年 1990/3/5
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ウィンターホーク』上下
原作者 クレイグ・トーマス
原題 Winter Hawk(1987)
訳者 矢島京子
出版社 扶桑社
出版年 1990/2/15
面白度 ★★★
主人公 かつてソ連の戦闘機<ファイアフォックス>を盗み出した天才パイロット、ミッチェル・ガント。『ファイアフォックス』、『ファイアフォックス・ダウン』に続く三度目の登場。
事件 ソ連にいる秘密スパイから思いもかけない情報が伝えられた。バイコヌール宇宙基地から打ち上げ予定のスペース・シャトルにレーザ砲が搭載されるというのだ。CIAはその真相を知る男を救出するため、ガントを派遣することにしたが、ガントはソ連内でKGBに捕まってしまったのだ。
背景 語り口や登場人物などはいつものトーマスと同じだが、いかにもペレストロイカを意識した物語設定になっている。つまりソ連にも強硬派と平和派があり、その強硬派の独走を阻止しようとするもの。陰謀はたいしたことはないものの、後半のガントの脱出行はやはり楽しめる。

邦題 『ハウス・オブ・カード』
原作者 マイケル・ドブス
原題 House of Cards(1989)
訳者 伏見威蕃
出版社 角川書店
出版年 1990/10/25
面白度 ★★★
主人公 デイリー・テレグラフ紙政治部の女性記者マティ・ストーリン。
事件 総選挙で保守党は多くの議席を失った。だがこの事態を密かに喜んでいた男がいた。元幹事長のアーカートである。彼は以前から手に入れていた党員の秘密を武器に陰謀を巡らしていたのだ。記者のマティは、その陰謀に気づき、社主や部長の圧力にもめげず、アーカートの陰謀をあばこうとするが……。
背景 典型的なポリティカル・サスペンス小説。内幕暴露の面白さで読ませるが、政治気質が日本とはかなり違うことがわかる。ミステリーとしては陰謀が単純なのが残念なのと、マティの謎解きが直感的すぎることだが、まだ作者がミステリーに慣れていないためでもあろう。

邦題 『検察官』
原作者 M・ナブ&P・ヴァゲッジ
原題 The Prosecutor(1986)
訳者 千種堅
出版社 早川書房
出版年 1990/5/30
面白度 ★★
主人公 中年の検事補ラーボ・バルディ。仕事熱心で、転向したテロリストから情報を引き出す点においては第一級の人間である。
事件 1978年、イタリアの元首相モロは、車で国会に向う途中、テロリスト集団「赤い旅団」に襲撃・誘拐された。しかし当時の政府は「赤い旅団」とは妥協せず、結局モロは銃殺された。本書のロータ誘拐はそのモロ事件をモデルしているのは間違いないだろう。そしてラーボがあるテロリストの尋問から、かってのロータ誘拐・殺人の背後の組織に肉薄していくという話。
背景 地味すぎる作風なうえに、警察小説にするか、陰謀小説にするか、絞り切れていない構成がこの小説の弱点だが、イタリアを舞台にした異色作であることは間違いない。

邦題 『真夜中の訪問客』
原作者 マグダレン・ナブ
原題 Death of an Englishman(1981)
訳者 千種堅
出版社 早川書房
出版年 1990/7/25
面白度 ★★
主人公 特にいないが、見習い将校のバッチ憲兵とその上司グアルナッチャ准尉。
事件 クリスマスを間近に控えたイタリアの古都フィレンツェ。その早朝にバッチは一人で犯罪現場に向かった。上司が風邪で外出できないためであったが、事件は殺人で、被害者はこの街に住んでいる英国人であった。さっそく英伊合同捜査が始まった。その捜査の過程で、被害者は事件当夜、訪問客を待っていたことがわかったのだ。
背景 徹底した風俗ミステリーといってよい。作者自身も「フィレンツェの街と人が描きたくて、そのための格好の手法としてミステリーを選んだ」といっている。英国人には南欧イタリアに憧れる人が多いのだろう。こちらはイタリアではなく英国に憧れているだけに、イマイチ楽しめない。

邦題 『天使の一撃』
原作者 ジャネット・ニール
原題 Death's Bright Angel(1988)
訳者 坂口玲子
出版社 早川書房
出版年 1990/8/30
面白度 ★★
主人公 エッジウェア・ロード警察署の警部ジョン・マクリーシュと貿易産業省事務官フランチェスカ・ウィルスン。ジョンは31歳のスコットランド人。フランチェスカは離婚歴のある28歳の美人。
事件 ロンドンの裏町で男が殴殺された。男は、倒産寸前の繊維会社に勤めていた仕入部長であった。一方、その繊維会社に資金援助を検討していた貿易産業省はフランチェスカを派遣し、経営状態の調査にあたらせた。二人は捜査・調査の過程で互いに惹かれあうが……。
背景 1988年度のCWA賞新人賞受賞作。二人の恋愛を絡めながら物語が展開していく警察・経済ミステリー。経済ミステリーの部分は結構面白いが、警察小説としての骨格は貧弱。ヒロインのフランチェスカは派手なエリート女性という設定で、魅力はイマイチ。

邦題 『スターリン暗殺への七日間』
原作者 ジェイムズ・バーウィック
原題 The Kremlin Contract(1987)
訳者 厚木淳
出版社 東京創元社
出版年 1990/7/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『チャイナ・ゲーム』上下
原作者 ロナルド・ハーディ
原題 Wings of the Wind(1987)
訳者 小林宏明
出版社 新潮社
出版年 1990/6/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『恐怖の国境線』
原作者 マイケル・ハートランド
原題 Frontier of Fear(1988)
訳者 佐和誠
出版社 二見書房
出版年 1990/1/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ポルノ・スタジオ殺人事件』
原作者 ロバート・バーナード
原題 Bodies(1986)
訳者 朝倉隆男
出版社 光文社
出版年 1990/3/20
面白度 ★★★
主人公 貴族階級出身の異色警視ペリー・トリソワン。シリーズの第ニ弾。
事件 舞台はロンドンの歓楽街ソーホーの貸しスタジオ。ボディービル専門誌のグラビア撮影中に、ボディビルダーやモデルの男女、カメラマンとその助手など、多くの人が殺されたのだ。スキャンダラスな事件の真相は? 犯人の動機はなにか?
背景 訳題だけで敬遠する人が多いかと思うが、そこは文学派(?)のバーナード。性風俗を巧みに取り入れているものの通俗的過ぎることはなく、普通の読者なら楽しめるよう工夫している。ただし謎解きの要素は少なく、犯人も唐突に割れる。典型的な風俗ミステリーといってよい。助手役となる黒人のチャーリーが異彩を放っている。

邦題 『芝居がかった死』
原作者 ロバート・バーナード
原題 At Death's Door(1988)
訳者 甲斐萬里江
出版社 早川書房
出版年 1990/1/19
面白度 ★★★
主人公 事件の担当はメレディス主任警部。
事件 小説家コトレルは作品ばかりでなく、女性遍歴でも有名であった。名女優のマイラが若い時に、私生児コーデリアを生ませていた。そのコーデリアが、コトレルの息子を訪ねてきた。母の昔の手紙が見たいという。母の伝記を書くことではなく、醜聞による母への復讐であった。母もそのことに気づき、追ってきた母娘は口論となるが、やがて銃声が聞こえ、マイラは殺されたのだ!
背景 バーナードらしい物語設定で前半は楽しめる。特にコーデリアの造形がうまいところ。しかし後半は平凡な謎解き小説で終ってしまった。設定は現代的ながら、謎解きは古風というので、どうも違和感を持ってしまう。現在の謎解き小説の難しさを浮き彫りにしているようだ。

邦題 『悪夢』
原作者 ジェイムズ・ハーバード
原題 Haunted(1988)
訳者 吉川正子
出版社 講談社
出版年 1990/8/10
面白度 ★★★
主人公 超常現象研究家のデイヴィッド・アッシュ。
事件 アッシュは心霊現象調査のため、風光明媚な田園地帯にある城館を訪れた。そこには父母を亡くした三人の兄妹が住んでいたが、アッシュはその夜、不審な人影を見たので追跡すると、池に落とされ、あやうく水死しそうになった。一方アッシュは幼いときに姉を誤って殺したことを密かに悩んでいた。この城館にいても、その姉の亡霊が現れたのだ。なにか関係があるのか?
背景 著者は英国モダン・ホラーの旗手と言われていたが、本作などは伝統的な怪奇小説といってよく、モダン的なのは幽霊が行動する理由付けぐらいか。伝統があるからこそ書けたのであろう。なお本作は1996年に映画化され(「月下の恋」)、同題の本も学習研究社から出ている。

邦題 『猫は跳ぶ -イギリス怪奇傑作集』
原作者 橋本槙矩編
原題 日本独自の編集(1990)
訳者 橋本槙矩
出版社 福武書店
出版年 1990/7/13
面白度 ★★★
主人公 『夜光死体 イギリス怪奇小説集』(1980年)から3本の短編を取りやめ、あらたに比較的新しい短編2本を追加した日本独自のアンソロジー。
事件 収録作品は「革の漏斗」(コナン・ドイル)「故エルヴィシャム氏の物語」(H・G・ウェルズ)「ある古衣の物語」(ヘンリー・ジェイムズ)「猫は跳ぶ」(エリザベス・ボウエン)「二人の魔女の宿」(J・コンラッド)「マダム・クロウルの幽霊」(J・S・レ・ファニュ)「蝿」(アントニー・ベルコー)「不吉な渡し舟」(ジョン・ゴルト)「夜光死体」(ディック・ドノバン)「月に撃たれて」(バーナード・ケイペス)の9本。
背景 追加作品は「猫は跳ぶ」と「蝿」。表題作に期待したが、猫は登場しないし恐怖度もイマイチ。「蝿」も平凡な作品だった。

邦題 『デリンジャー』
原作者 ハリー・パタースン
原題 Dillinger(1983)
訳者 小林理子
出版社 東京創元社
出版年 1990/11/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『聖女の遺骨求む』
原作者 エリス・ピータース
原題 A Morbid Taste for Bones(1977)
訳者 大出健
出版社 社会思想社
出版年 1990/11/30
面白度 ★★★
主人公 ベネディクト会シュルーズベリ大修道院に所属する修道士カドフェル。年齢は57歳。かつては十字軍に参加したが、現在はこの修道院の薬草園の世話をしている。シリーズ第一作。
事件 あるとき野心的な副修道院長は、奇蹟を起した聖女の遺骨をこの修道院の守護聖人にまつろうと提案し、遺骨探しが始まった。カドフェルもこの計画に巻き込まれ、通訳としてウェールズに出掛けることになった。しかし墓をあばかれることに反対した村人は抵抗続けたが、ついにそのリーダーが弓矢で射殺される事件が起こったのだ。
背景 本作ではシュルーズベリが事件の舞台になっていない。その点が珍しいといえば珍しいが、物語の作り方は後の作品の作り方とほとんど同じ。カドフェルの登場に拍手!

邦題 『ソ連に幽霊は存在しない』
原作者 レジナルド・ヒル
原題 There Are No Ghosts in the Soviet Union(1987)
訳者 嵯峨静江
出版社 早川書房
出版年 1990/9/7
面白度 ★★★★
主人公 中編1本と短編5本から構成されている短編集。
事件 表題となった中篇「ソ連に幽霊は存在しない」は、エレベータ内で突然消えた男を捜査する警察小説。不可能興味あふれた謎解き小説かと読み進むと、肩透かしをくうことになる。題名の付け方もうまいものである。逆に「踏みにじられて」や「子猫ちゃんを連れ戻して」などは、軽いユーモア・ミステリーの雰囲気を楽しんでいると、意外に重い結末を迎えることになる。その他の短編は「ブル・リング」、「かわいそうなエマ」、「混みいった時間」である。
背景 これまでのヒルの長編は、概して中盤に中だるみがあったが、中・短編では、その欠点は目立たない。今回の短編集をみるかぎり、短編も優れていることがよくわかる。

邦題 『血の権利』
原作者 マイク・フィリップス
原題 Blood Rights(1989)
訳者 松下祥子
出版社 早川書房
出版年 1990/7/15
面白度 ★★
主人公 ロンドンで働く黒人のフリーランス・ジャーナリスト、サムソン・ディーン。
事件 サムスンに旧友から仕事の依頼があった。保守党の大物政治家の娘が行方不明になったので、探し出してほしいというもの。娘がつきあっていた青年が黒人であったからだが、金のために捜査を始めると、逆に中止してほしいと言われた。なぜなのか?
背景 英国産のハードボイルド。発端が人探しという典型的なハードボイルド物であるだけに、作者が英国人とはいえ目新しさは感じられないが、作者自身が黒人で、サムソンが黒人探偵というのが珍しい。作者と探偵の経歴も似ていて、その結果探偵の心理描写にも実感がこもって楽しめる。ただしプロットが少し安易な点と物語にメリハリがなく盛り上がりに欠けるのが残念。

邦題 『グリーク・キイ』上下
原作者 コリン・フォーブス
原題 The Greek Key(1989)
訳者 小西敦子
出版社 扶桑社
出版年 1990/11/20
面白度 ★★
主人公 英国情報部次長のツイード。彼の元に国際ジャーナリストのロバート・ニューマンや秘書のモニカ、部下のポーラなどがチームとして活躍する。シリーズ物の第5作。
事件 ツイードは、彼の部下がギリシャで殺されたとの情報を得た。どうやら第二次大戦中にカイロなどで起きた殺人事件を私的に調査していたことが原因らしい。そしてツイードらは、40年以上前の”グリーク・キイ”という組織がまだ活動していて、ゴルバチョフを狙っていることを知る。
背景 ゴルバチョフ政権時代が舞台背景になっているスパイ陰謀小説。一種のスリーパーを扱っている。筆力はあるので読まされてしまうが、プロット構成力は衰えているようだ。なお”グリーク・キイ”とは古代ギリシャの陶器に使われた鍵模様のこと。物語には直接関係ないけど。

邦題 『ナイトハンター5』
原作者 ロバート・フォールコン
原題 The Hexing(1984)
訳者 嶋田洋一
出版社 東京創元社
出版年 1990/3/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ナイトハンター6』
原作者 ロバート・フォールコン
原題 The Labyrinth(1987)
訳者 嶋田洋一
出版社 東京創元
出版年 1990/8/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『呼び戻されたスパイ』上下
原作者 アントニイ・プライス
原題 Soldier No More(1981)
訳者 関口幸男
出版社 扶桑社
出版年 1990/1/25
面白度 ★★
主人公 シリーズ・キャラクターの英国国防省諜報機関員のデイヴィッド・オードリー博士。情報部内のKGB要員デイヴィッド・ローチェも活躍する。
事件 1957年のパリ。ローチェは、情報部より大戦中情報部員であったオードリーを呼び戻す仕事があたえられる。実際はオードリーの持っている文書を手に入れたいためだったが、すでに元の持ち主に返されていた。その文書を巡る争奪戦が始まったのだ――。
背景 オードリー・シリーズの邦訳4冊目。設定は面白いし、オリジナリティもあるのだが、著者の最大の欠点である語り口のまわりくどさ、読みにくさには閉口させられる。上下巻があるという長さも、翻訳がイマイチこなれていないことも一因ではあるが。

邦題 『ケリイの告白』
原作者 アントニイ・プライス
原題 Gunner Kelly(1983)
訳者 米山菖子
出版社 扶桑社
出版年 1990/12/15
面白度 ★★★★
主人公 英国国防省の諜報機関員デイヴィッド・オードリー。シリーズ・キャラクターだが、今回は休暇中の事件を扱う。西ドイツ情報部員ベネディクト・シュナイダーも活躍する。
事件 マクスウェル将軍が暗殺された。公安部の調査ではIRAなどの影響は認められなかったが、将軍の孫娘は復讐を誓っているらしい。孫娘の親友(実はオードリーの上司になるバトラー大佐の娘)から助けを求められたオードリーは現地に赴き、背景を探ると……。
背景 オードリー・シリーズの邦訳5冊目(原シリーズは全19冊)。物語はシュナイダーの視点から語られる第二部がメイン。著者の他の作品と比べると比較的単純なプロットなので、事件背景のわかりにくさはあまりない。知的なスパイ小説として楽しめる。

邦題 『直線』
原作者 ディック・フランシス
原題 Straight(1989)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1990/11/15
面白度 ★★★★
主人公 足首を負傷した騎手デリック。フランシスの翻訳は毎年年末に出版されるので、正月休みの楽しみとなった感があるが、今年もきちんと暮れに出馬してくれた(シリーズ28作め)。
事件 物語は、騎手デリックが事故死した兄の遺言で、不慣れな会社経営を引き継いでいくとともに、兄の残した公私にわたる秘密を解き明かしていくいうもの。
背景 このところのフランシスの作品は、情報小説的傾向が強い(本書では宝石とハイテク・グッズが詳しく扱われている)。これがサスペンスを減じていることは否めないが、事件解決にいたる過程での主人公の成長をみると、今年も未来は明るいと、何日間は幸せな気分になれる。フランシスの作品はクリスマス季節の必需品!? フランシスはまだまだ健在だ。

邦題 『招かれざる客たちのビュッフェ』
原作者 クリスチアナ・ブランド
原題 Buffet for Unwelcome Guests(1983)
訳者 深町真理子他
出版社 東京創元社
出版年 1990/3/20
面白度 ★★★★
主人公 大部なアンソロジーで、料理のコースになぞらえて作品を配列するという趣向が新鮮。
事件 トップはコックリル・カクテル(名探偵コックリル警部が登場する短編)四杯。初短編「事件の後に」や世評の高い「婚姻飛翔」などは、意外性に満ちた結末が用意されている。クセのあるカクテルで、その味の辛さに投げ出す読者がいるかもしれない。アントレ三皿はボリュームいっぱいの肉料理で、「スケープゴート」などは、正直のところ胃にもたれる。口なおしの一品が「スコットランドの姪」。そしてプチ・フールやブラック・コーヒー八品がこの作品集のフルコースである。
背景 長めの短編は本格的なトリック小説。後半の小品は結末の切れ味で勝負する短編が多いが、いずれも素材は平凡なれど、腕は一級という料理に仕上がっている。

邦題 『エディ・フランクスの選択』上下
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 The Choice of Eddie Franks(1987)
訳者 村上博基
出版社 角川書店
出版年 1990/3/10
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『十二の秘密指令』
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 The Factory(1989)
訳者 新庄哲夫
出版社 朝日新聞社
出版年 1990/5/25
面白度 ★★
主人公 連作短編集。英国諜報機関(通称”ファクトリー”)のサミュエル・ベル本部長。
事件 全体を貫くプロットは、その組織内に”モグラ”(つまり二重スパイ)がいることを確信したベルが、”モグラ”を見つけだそうとして苦心する話で、「裏切り者」、「亡命者」、「救出」、「暗殺」、「もぐら」、「醜聞」、「マネー・チェンジャー」、「テロリスト・ルート」、「皇帝の密書」、「訊問」、「暗号破り」、「セカンド・チャンス」の12本を収録している。
背景 日本読者を対象にして雑誌に連載されたもの。一回分の分量がそう多くないので、表面をさっと撫でたような内容の話が多い。著者の病気からの再起第一作でもあるようだが、まだ本調子ではなかったのかもしれない。なかでは「皇帝の密書」はサスガだと感心。

邦題 『クレムリン・キス』
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 The Kremlin Kiss(1984)
訳者 池央耿
出版社 新潮社
出版年 1990/10/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『連続殺人ドラマ』
原作者 サイモン・ブレット
原題 A Series of Murders(1989)
訳者 堀内静子
出版社 早川書房
出版年 1990/5/10
面白度 ★★★
主人公  売れない役者チャールズ・パリス。シリーズ物の翻訳第6弾。
事件 チャールズの本職は舞台俳優であるが、申し込まれた仕事はなんでも引き受けることにしている。今回の仕事は、テレビ・ドラマのシリーズ物の端役。しかし第一作から難航していた。探偵の娘役を演ずる新進女優が大根役者で、探偵役のラッセルはこの女優には反対していたからである。そこへ都合よく(?)その女優が事故死したのだが、チャールズはその死に疑問を持った。
背景 例によって、チャールズの言動やテレビ界の裏話には、苦微笑を誘うものが多く、安心して楽しめるが、前作『あの血まみれの男は誰だ?』ほどではない。やはりチャールズは、テレビ界より舞台の世界の方が生き生きとしている。

邦題 『我が手で裁く』
原作者 ヒラリイ・ヘイル
原題 Winter's Crimes 20(1988)
訳者 中村保男他
出版社 早川書房
出版年 1990/6/15
面白度 ★★★
主人公 書下ろしの英国短編ミステリーを集めたお馴染みの短編集。9本収録している。
事件 表題作(E・フェラーズ)は、大叔母を殺したらしい義妹を我が手で……、という作品で、うまい。また「ファミリー・ビジネス」(M・Z・リューイン)は、一家で探偵業を始めるというだけの話を軽く書いている。「死のひと刺しはいずこに」は才人ラヴゼイにしては平凡作。「ほかの女」(D・ウィリアムズ)は悪女物だが、結末のひねりがまともなのが残念。その他「話しづらい死」(S・ブレット)、「石母像」(J・スタッブス)、「ジャッカルと虎」(M・ギルバート)、「妖精と置きみやげ」(D・W・スミス)、「芸術としての殺人」(J・マクガウン)を含む。
背景 はやり表題作が一番の出来であるが、リューインの短編も捨てがたい。

邦題 『死のアリア』
原作者 ポール・マイヤーズ
原題 Deadly Aria(1987)
訳者 田中昌太郎
出版社 東京創元社
出版年 1990/11/15
面白度 ★★
主人公 元イギリス情報部員で、今はスイスで音楽エージェントをしているマーク・ホランド。
事件 物語の発端は、マークに贈られてきた毒入りチョコレートを、たまたま居合わせた女性ピアニストが口に入れたこと。そしてこの事件の背後にはマークの過去が――。
背景 本書の著者の前職は音楽プロデューサ。競馬の騎手からミステリー作家になったフランシスにならって、音楽界のフランシスと呼ばれているようだが、本書はその彼の邦訳第2弾。この作品の大きな不満は、女性に対するマークの態度だ。不運なピアニストやマークを助けてくれたチェコの女性に対して、誠実さが不足している。また描かれている諜報活動も、”外套と短剣”時代の活動のようで、古くさい。音楽関係の情報部分はそれなりに楽しめるが。

邦題 『全英オープン殺人事件』
原作者 キース・マイルズ
原題 Bullet Hole(1986)
訳者 永井淳
出版社 徳間書店
出版年 1990/12/1
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『アフガン空域を脱出せよ』
原作者 ジェイムズ・マギー
原題 Crow's War(1989)
訳者 冬川亘
出版社 二見書房
出版年 1990/11/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『イギリス怪談集』
原作者 由良君美編
原題 独自の編集
訳者 由良君美他
出版社 河出書房
出版年 1990/3/2
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『砂漠の標的』
原作者 ギャビン・ライアル
原題 Uncle Target(1988)
訳者 村上博基
出版社 早川書房
出版年 1990/1/31
面白度 ★★★
主人公 英国陸軍少佐のハリイ・マクシム。シリーズ物の4作目。
事件 ヨルダンの大佐が密かにロンドンを訪れていた。英国の新型主力戦車の工場を見学するためであったが、テロリスト集団に拉致されて、殺されてしまった。一方ヨルダンでは反乱軍がアカバ地区を占領し、テスト中の新型戦車が行方不明になった。反乱軍の手に落ちれば、軍事機密が東側に渡ってしまう。マクシムはその前に戦車を探し出し、爆破するようにいわれたのだ。
背景 第二次大戦ではないのに、砂漠で戦車戦をするという設定は珍しい。それはいいのだが、後半はプロットが複雑になってしまい、かえって迫力が減じている。単に戦車を爆破できるか、というプロットに徹すべきだった。プロット作りが上手くないというライアルの弱点が出ている。

邦題 『クメールからの帰還』
原作者 ウィルバー・ライト
原題 Carter's Castle(1983)
訳者 染田屋茂
出版社 角川書店
出版年 1990/4/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『煙草屋の密室』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 Butchers and Other stories of Crime(1985)
訳者 中村保男他
出版社 早川書房
出版年 1990/2/2
面白度 ★★★
主人公 著者の初短編集。その大半はEQ誌や『イギリス・ミステリ傑作選』に載ったものだが、何度でも楽しく読めるのは、読者を物語に乗せる語り口のうまさが際立っているからであろう。
事件 16編を収録。共通点は、19世紀から20世紀前半の風俗や事件を小道具として巧みに利用していること。例えば表題作の「煙草屋の密室」ではヴィクトリア朝の新聞広告が、「あなたの殺人犯」では19世紀の殺人者の陶器像が鮮やかに使われている。また「浴槽」や「我が名はスミス」、「見つめている男」は、直接的にも、間接的にも”浴槽の花嫁”事件に結び付いている。
背景 とはいえ、結末のひねりやオチは甘い、辛い、軽い、重い、とそれぞれ異なっており、才人の名がふさわしい出来映えだ。

邦題 『つなわたり』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 On the Edge(1989)
訳者 山本やよい
出版社 早川書房
出版年 1990/4/10
面白度 ★★★
主人公 第二次大戦中は空軍に勤めていた二人の女性ローズとアントニア
事件 まだ爆撃された廃墟が残っている戦争直後のロンドンが舞台。二人がリージェント街で再会するところから物語が始まる。ローズは夫に不満を持っていたが、アントニアがローズの夫を殺してしまったために――という展開で、冒頭から最後まで、文字どおり一気に読める。
背景 時代を20世紀に設定した『偽のデュー警部』あたりからは、ストーリー・テラーとしての才が目立ってきた。本書は、語り口のうまさだけでもたせてしまったような作品。軽く口当りのいい会話、サスペンス溢れる描写はますます快調である。もう赤川次郎もビックリという読みやすさ。ただし二人の女性主人公のいずれにも、感情移入できないのがこの小説の大きな弱点だ。

邦題 『オータム・タイガー』
原作者 ボブ・ラングレー
原題 Autumn Tiger(1981)
訳者 東江一紀
出版社 東京創元社
出版年 1990/8/22
面白度 ★★★
主人公 退官を4日後に控えたCIA本部長のタリー。60歳である。
事件 そのタリーに、大仕事が舞い込んできた。東独諜報部の大物が、タリーと会って亡命したいというのだ。しかし彼にはその大物の心当りがなかったし、退官直前の身である。なぜだろうと考えていたタリーに古ぼけたライターが示されたが、その結果彼は第二次大戦末期にアメリカの米軍捕虜収容所で起きた極秘作戦を思い出したのだ。
背景 表題の”オータム・タイガー”とは初老の虎のことで、これが小説のラストで生きることになる。出だしも興味を引くものの、この作品の弱点は、途中の収容所の話があまり面白くないことか。前作『北壁の死闘』と同じく読者を泣かせる技術は確か。西洋浪花節は冴えている。

邦題 『最終的解決』
原作者 エマニュエル・リトヴィノフ
原題 Falls the Shadow(1983)
訳者 渋谷比佐子
出版社 扶桑社
出版年 1990/6/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『そして赤ん坊が落ちる』
原作者 マイクル・Z・リューイン
原題 And Baby Will Fall(1988)
訳者 石田善彦
出版社 早川書房
出版年 1990/6/30
面白度 ★★★★
主人公 インディアナポリスでソーシャル・ワーカーをしている中年の女性アデル・バフィントン。友達にアルバート・サムスンがいる。
事件 ある日、アデルの事務所に強盗が押し入り、ファイルのコピーを持ち去っていった。一方若い母親が幼い女の子二人と一緒に失踪したという問題も持ち込まれた。二つの事件は無関係と思われたが……。
背景 著者の他の作品と同じく丁寧に書かれていて好感が持てる。まずはアデルの紹介に筆を費やしてから、メインの事件に入っていく。やや冗長なところもあるが、そこにそれとなく伏線を張ってあるのはサスガ。この犯罪がそれほど儲かるとは信じがたいが……。

邦題 『ロシア・ハウス』上下
原作者 ジョン・ル・カレ
原題 The Russia House(1989)
訳者 村上博基
出版社 早川書房
出版年 1990/4/30
面白度 ★★★★
主人公 老舗出版社の社主スコット・ブレア。テナー・サックスの腕は玄人はだし。ひょんなことからロシア・ハウス(英国情報部のソ連担当部門)よりスパイ活動を依頼される。
事件 モスクワで催された英国オーディオ・フェアの最終日、ソ連の女性編集者カーチャはブレアを訪ね、隣のブースにいた男に密かに三冊のノートを託した。ところがそのノートには、ソ連のミサイル・システムに関する重要情報が含まれていたのである。はたして正しい情報なのか、KGBの仕掛けた罠なのか? ブレアはモスクワに飛ぶ。
背景 ペレストロイカとグラスノスチ時代のソ連を二回も訪問して書き上げたル・カレの最新作。優れたスパイ小説というだけでなく、プレアとカーチャの恋愛小説としても楽しめる。

邦題 『ゴールデン・フライヤーズ奇談』
原作者 シェリダン・レ・ファニュ
原題 The Haunted Baronet(1871)
訳者 室谷洋三
出版社 福武書店
出版年 1990/7/13
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『スペクター』
原作者 スティーブン・ローズ
原題 Spectre(1986)
訳者 吉沢嘉通
出版社 東京創元社
出版年 1990/2/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『栄光のチャリオット』
原作者 アラン・エバンズ
原題 Deed of Glory(1984)
訳者 小牧大介
出版社 至誠堂
出版年 1990/5/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『大統領の密使』
原作者 アラン・エバンズ
原題 Night Action(1988)
訳者 小牧大介
出版社 至誠堂
出版年 1990/6/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『タラントの鷲』
原作者 アラン・エバンズ
原題 Eagle at Taranto(1987)
訳者 小牧大介
出版社 至誠堂
出版年 1990/8/24
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『失われた名誉』
原作者 バーナード・コーンウェル
原題 Sharpe's Honour(1985)
訳者 高井千帆
出版社 光人社
出版年 1990/6/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『栄光の星条旗』
原作者 クリストファ・ニコール
原題  
訳者 高島陽子
出版社 光人社
出版年 1990/3/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『大いなる野望』
原作者 クリストファ・ニコール
原題  
訳者 高出直子
出版社 光人社
出版年 1990/5/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『還らざる英雄』
原作者 クリストファ・ニコール
原題 Iron ships Iron Men(1987)
訳者 高川俊誠
出版社 光人社
出版年 1990/7/5
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『失われた楽園』
原作者 クリストファ・ニコール
原題  
訳者 高島陽子
出版社 光人社
出版年 1990/12/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『氷雪の特命隊』
原作者 アレキザンダー・フラートン
原題 Special Dynamic(1987)
訳者 伏見威蕃
出版社 早川書房
出版年 1990/9/10
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『マルタ潜航作戦』
原作者 アレキザンダー・フラートン
原題 A Share of Honour(1982)
訳者 高津幸枝
出版社 光人社
出版年 1990/9/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『マルチニク島の新月 ラミジ艦長物語23』
原作者 ダドリ・ポープ
原題 Ramage and the Dido(1989)
訳者 小牧大介
出版社 至誠堂
出版年 1990/1/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『暴虐の武装商船』
原作者 P・マカッチャン
原題 Lieutenant Cameron RNVR(1981)
訳者 佐和誠
出版社 早川書房
出版年 1990/11/10
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ベニン湾の戦雲』
原作者 フィリップ・マカッチャン
原題 Beware Beware the Bight of Benin(1974)
訳者 高岬沙世
出版社 早川書房
出版年  
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『海の勇者たち1』
原作者 ニコラス・モンサラット
原題 The Master Mariner(1978)
訳者 関口篤
出版社 徳間書店
出版年 1990/3/10
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『志願者たちの海軍』
原作者 ダグラス・リーマン
原題 The Volunteers(1985)
訳者 高永洋子
出版社 早川書房
出版年 1990/4/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 


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