邦題 『ロシア皇帝の密約』
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 A Matter of Honour(1986)
訳者 永井淳
出版社 新潮社
出版年 1986/10/25
面白度 ★★★★
主人公 失業中の青年アダム。時代は1966年に設定されている。
事件 このアダムが亡父あての手紙を読んだのが事件の発端。『三十九階段』(J・バカンの巻き込まれ型冒険小説の傑作!)のハネーが主としてイギリスの荒野なのに対して、こちらは中欧の山間地帯をKGB相手に駆け回る違いはあるものの、先輩作と同じく、機知あふれるご都合主義的逃亡劇は大いに楽しめる。
背景 このところのアーチャーは、政・経済界を背景にしたサクセス・ストーリーを書いていたが、本書は久しぶりの冒険小説ふうミステリー。政治家としてのアーチャーは再びミソを付けたようだが、これを機会に作家専業でもっとミステリーを書いてほしいところだ。

邦題 『とても私的な犯罪』
原作者 エリザベス・アイアンサイド
原題 A Very Private Enterprise(1984)
訳者 小泉喜美子
出版社 早川書房
出版年 1986/9/30
面白度 ★★★
主人公 イギリス人のシンクレア。
事件 物語の舞台はインド。彼は高等弁務官事務所代表の殺人事件を解決するために派遣されたのだ。彼は、前半は灼熱のデリーでの聞き込み捜査を中心に、後半は氷に閉ざされた山岳地帯を駆け巡って事件を解決する。
背景 1985年のCWA最優秀新人賞受賞作。前半は間延びした展開で退屈だが(イギリス・ミステリーによく見られる欠点!)、後半のスリラー部分は楽しめる。前半が推理、後半がアクション・スリラーという構成のミステリーは、故植草甚一氏によれば、1950年前後から現れてきたそうだ。本書を読むと、その後この形式はイギリス・ミステリー界に定着したのがわかる。

邦題 『恐怖の分身』
原作者 シンシア・アスキス選
原題 The Ghost Book(1927)
訳者 長井裕美子
出版社 朝日ソノラマ
出版年 1986/9/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『未亡人の小径殺人事件』
原作者 レズリー・G・アダムソン
原題 Patterns in the Dust(1985)
訳者 三宅真理
出版社 サンケイ出版
出版年 1986/10/10
面白度 ★★★
主人公 漫画家との同棲に疲れて、一時的に田舎に逃げ出したコラムニストのレイン・モーガン。いささか度胸は足りないが、フレイザーの主人公ジマイマ・ショアを彷彿させる。
事件 レインが移ってきた田舎は、セント・メアリ・ミード村のような静かな村。でもやはり殺人事件が起こり、彼女は事件に巻き込まれることになる。
背景 『○○殺人事件』というミステリーは、日本物の場合、この9月一ヶ月で9冊もあった。これでは本書も「ああ、またか」という溜息とともにパスされてしまいそうな題名だが、通俗的な題名に比べると、内容はずっとシャレている。田舎の風景描写は悪くないし、誠実な学者タイプの男性に惹かれるモーガンの心理も巧みに描かれている。英国産らしいコクのある小品。

邦題 『シャーロック・ホームズ殺人事件』
原作者 ジェームズ・アンダースン
原題 The Murder of Sherlock Holmes(1985)
訳者 高田恵子
出版社 東京創元社
出版年 1986/7/18
面白度 ★★
主人公 好奇心旺盛なおばさんジェシカ・フレッチャー。表題からはホームズ物のパロディーと思われそうだが、クリスティのパロディーといってよく、ミス・マープルに甥のレイモンドがいるように、ジェシカにも面倒見のよい甥がいる。
事件 ジェシカとミス・マープルは、多くの点で似ているが、大きな違いは、ジェシカがミステリーを密かに書いていたことだ。このためいつのまにか殺人事件の探偵役を演ずるはめになる。謎は小粒ながら、パズラーとしてきちんとまとまっている。
背景 本書はテレビ映画の小説化。ジェシカ役は、なんと映画「クリスタル殺人事件」でマープルに扮したアンジェラ・ランズベリーだそうだ。これぞマープル物のパロディーという動かぬ証拠?

邦題 『ハリウッド殺人事件』
原作者 ジェームズ・アンダースン
原題 Hooray for Homicide(1985)
訳者 高田恵子
出版社 東京創元社
出版年 1986/9/26
面白度  
主人公 好奇心旺盛なおばさんジェシカ・フレッチャー。

事件 



背景 


邦題 『魔の創造者』
原作者 H・ヴァン・サール編(ヴァーノン・ラウス他)
原題 The Black Creator(1960)
訳者 熱田遼子・松宮三知子
出版社 朝日ソノラマ
出版年 1986/1/31
面白度 ★★★
主人公 『魔の配剤』に続くイギリス恐怖小説のアンソロジー第二弾。
事件 6編が収録されている。表題作は、H・G・ウェルズの「モロー博士の島」を下敷きにしている。一言でいえばグロ。あまり好きになれない。ジェフリー・ハウスホールドの「タブー」は人狼を退治する話。世評が高いわりにはいまいちピンとこなかった。もっとも楽しめたのはカール・スティーヴンスンの「黒い絨毯」。蟻が集団で襲ってくる話で、いまでいうパニック物。中編と呼ぶべき長さだが、一気に読める迫力がある。チャールトン・ヘストン主演で映画化されている。その他「第三の生贄」(スティヴン・ホール)、「霧の夜の宿」(ガイ・プレストン)、「蝋人形館の恐怖」(ヒールド)。
背景 バラエティに富み、結構面白い。もっともB級の面白さであるが。

邦題 『魔の生命体』
原作者 H・ヴァン・サール編(レイモンド・フェラス・ブロード他)
原題 Doctor Fawcett's Experiment(1962)
訳者 小島恭子
出版社 朝日ソノラマ
出版年 1986/7/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『魔の誕生日』
原作者 H・ヴァン・サール編(ウィリアム・サムソン他)
原題 Various Temptation(1963)
訳者 小島恭子
出版社 朝日ソノラマ
出版年 1986/12/25
面白度 ★★
主人公 ヴァン・サール編の怪奇短編集の第4巻にして最終巻。朝日ソノラマ文庫の海外シリーズの最終巻(全30巻)でもある。
事件 14本収録されている(うち「エレファント・マン」のみノンフィクションである)。セブチマス・デールの「少女を食う男」は子供の残酷さをうまく生かしている。アレック・ハミルトンの「屋根裏の暴走」はモデル機関車に轢かれてしまう話。標題作(ウィリアム・サムソン作)は、孤独な女性が連続殺人鬼を好きになったばかりに……という話で、怪奇小説というよりはサスペンス小説に近い。エリオット・オドンネルの「過去からの電話」は幽霊物語。
背景 標題作は、まあ標準作程度。さすがに正統的な(古臭い?)ホラーは少ない。

邦題 『オデッサ狩り』
原作者 テッド・オールビュリー
原題 The Reaper(1980)
訳者 峰岸久
出版社 東京創元社
出版年 1986/2/28
面白度 ★★★
主人公 ユダヤ人の学者ポールと結婚したドイツ人女性のアンナ・ボルトマン。
事件 ポールは何者かが仕掛けた時限爆弾で殺された。天涯孤独の身になったアンナは、調べてみると、夫はナチ戦犯を追う組織の一員で、秘密組織オデッサの報復テロで殺されたことがわかったのだ。アンナは元CIA職員の手を借りて、復讐し始めた。
背景 一種の復讐物で、スパイ小説的要素は少ない。女性が復讐者になるのは比較的珍しいが、それでも単独での復讐ではない。ヒロインが最後まで独力で復讐してもらいたかった。もう一つ不満をいえば、殺されるオデッサ組織の悪役があまりにチャチというか、おじいさんで悪の魅力に乏しい人物であること。著者の作品では初期のスパイ小説より娯楽色が強く出ていて面白いが。

邦題 『独立戦争ゲーム』
原作者 ジョン・ガードナー
原題 Role of Honour(1984)
訳者 後藤安彦
出版社 文藝春秋
出版年 1986/6/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『殺意の海辺』
原作者 J・D・カー他
原題 Crime on the Coast(1954)
訳者 宇野利泰
出版社 早川書房
出版年 1986/2/15
面白度 ★★
主人公 英国探偵作家クラブのリレー・ミステリーだが、珍しいのは1950年代に作られたことと中編二本から構成されていること。
事件 表題の「殺意の浜辺」はカーを除くと、日本人には馴染みのない作家が参加している。典型的な巻き込まれ型ミステリーで、アクション・スリラー物に仕上がっている。それにくらべると「弔花はご辞退」は、いかにもセイヤーズ好みの導入部(未亡人が田舎屋敷に雇われるが、そこには邪悪な雰囲気が……という設定)を、ロラック、ミッチェル、ギルバート、ブランドがうまくまとめている。
背景 前者は、カーの設定した謎を生かしきれなかった凡作だが、後者はまあまあ読める。探偵作家クラブの女性作家ばかりなので、気が合うのも当然?

邦題 『革命の夜に来た男』
原作者 ダンカン・カイル
原題 The King's Commissar(1983)
訳者 工藤政司
出版社 早川書房
出版年 1986/1/31
面白度 ★★★★
主人公 ロンドンの大手銀行の顧問ホラス卿
事件 ホラス卿は、ある日自分の銀行から巨額の金が正体不明の口座に振り込まれていることを知った。調べてみると、謎を解き明かす手記が次々と見つかった。そして驚いたことに、イギリス国王の命を受けて、皇帝ニコライ2世を救出するためにロシアに潜入した英国軍人の活躍とそれに絡む陰謀が明らかになったのだ。1918年のロシアと現在の英国を結ぶものは?
背景 面白い。大風呂敷のプロットがいい。物語は、最初に魅力的な謎があり、一気に惹き込まれてしまう。もちろん不満もある。ご都合主義の極地ともいうべきほど手記が次から次に見つかるし、中盤の緊張がゆるんでいるからでもある。カイルはニ流の大家といった呼称がふさわしいか。

邦題 『QE2を盗め』
原作者 ヴィクター・カニング
原題 Queen's Paum(1969)
訳者 亀井文二
出版社 早川書房
出版年 1986/7/31
面白度 ★★★
主人公 詐欺師のレイクス。彼の夢は、貴族生れの父親が奪われた故郷の土地と館を買い戻し、名士にふさわしい妻を迎えることである。
事件 レイクスはそのためにさまざまな悪事を働いてきたが、それだけのお金が入手できたら足を洗うつもりでいた。ところが赤の他人に、過去の悪事の証拠を握られ、ある仕事を強要された。その仕事とは、クイーン・エリザベスニ世号から大金塊を盗めというものだった!
背景 久しぶりのカニング作品。作者はプロットよりも人物描写の方に重心を置いているようだ。主人公は、家を継ぐためにコンゲームをするという、いかにもイギリス人らしい人物。これに対してEQ2号から金塊を盗む話は、不可能興味が少ないので印象が弱くなる。

邦題 『スパイシップ』
原作者 トム・キーン&ブラウアン・ヘイズ
原題 Spyship(1980)
訳者 尾坂力・伏見威蕃
出版社 早川書房
出版年 1986/9/30
面白度 ★★★
主人公 フリーランス・ジャーナリストのマーティン・テイラー。父親は遭難船の機関士だった。
事件 英国のトロール漁船が悪天候のためノルウェー沖で遭難した。だが乗組員の死体は一体も見つからないうえに、船の遺留品さえ発見されなかった。そこに疑問を持ったマーティンは、調査を進めると、実はその船が、ソ連の通信傍受にたずさわるスパイ船だったことに気づいた。
背景 前半がスパイ小説的な話で、後半が冒険小説風の展開となる。後半は面白いのだが、問題は前半にある。英国情報部の行動がチャチであったり、海難審判がイイカゲンであったりして、プロットに魅力を感じない。あたり前ともいうべきスパイ船を驚くべき事実のように扱うのもいただけない。もっとフィクションに徹した方が面白くなったのに、と残念。

邦題 『早すぎた救難信号』
原作者 ブライアン・キャスリン
原題 A Web of Salvage(1973)
訳者 高沢次郎
出版社 早川書房
出版年 1986/2/28
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『殺人セミナー』
原作者 B・M・ギル
原題 Seminur for Murder(1985)
訳者 島田三蔵
出版社 サンケイ出版
出版年 1986/11/10
面白度 ★★★
主人公 ブリストル警察の主任警部メイブリッジ。
事件 メイブリッジはミステリー作家30人ほどの小さなクラブから講演を依頼された。そこで殺人が起きた。死体は、皆から憎まれていたクラブの会長。そして容疑者は、クラブの主宰するディナーに集ってきた人たち。いずれもミステリー作家ないしは作家志望者だけに、皆ひと筋縄ではいきそうもない。さらに警部への挑戦状が!
背景 設定は古臭いが、容疑者や被害者は適度に現代的だし、メイブリッジも凡人探偵になっている。そして凡人探偵であるがゆえの意外な結末も用意されている。この狙いはわからないでもないが、古典的パズラーには、やはり神のごとき名探偵のほうが相応しい。

邦題 『サン・カルロの対決』
原作者 A・J・クィネル
原題 Siege of Sileno(1986)
訳者 大熊栄
出版社 新潮社
出版年 1986/10/26
面白度 ★★
主人公 サン・カルロの米国大使のピーボディ。元キューバ専門家で初老の男。
事件 中米の小国サン・カルロで革命が起こり、米国大使館が占拠された。その革命を後押しするキューバ側は、人質となったピーボディから秘密情報を引き出そうとして、尋問の専門家を送り込む。一方米陸軍も、救出作戦を開始するが……。
背景 1979年のイラン革命時の米大使館人質事件がモデルになっている。キューバの尋問官の精神的拷問に、米大使がいかに耐えて応酬するかが読みどころであるが、この心理的な駆け引きが私には面白いと感じなかった。これを面白いと感じるかどうかが評価の分かれ目であろう。これまでと異なり、三人の視点から書かれているのはクィネルにしては珍しい。

邦題 『ラス・カナイの要塞』
原作者 ジェームズ・グレアム
原題 Bloody Passage(1974)
訳者 安達昭雄
出版社 角川書店
出版年 1986/1/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『キプロスに死す』
原作者 M・M・ケイ
原題 Death in Cyprus(1956)
訳者 山本俊子
出版社 早川書房
出版年 1986/1/15
面白度 ★★
主人公 若く美人のアマンダ。
事件 空襲で両親を失ったアマンダは、大富豪の伯父とともに世界旅行に旅立った。そしてその途上、単独でキプロス島の訪問を思い付いた。だが、キプロスへ向かう船上で毒殺事件が起きたのだ。彼女の周囲にはさまざまな男女が集っていたが、被害者はそのうちの一人だった。やがて彼女も狙われ、第ニの殺人が……。
背景 ロマンチック・ミステリーというキャッチフレーズがピッタリの作品。第一の殺人も第ニの殺人も、ミステリーのプロットとしてはヒドイといえるものだが、それをあまり気にしなければ、読み物としてはうまく雰囲気を出している。観光案内にもなっている。

邦題 『待ち伏せの森』
原作者 フィリップ・ケリガン
原題 Dead Ground(1985)
訳者 長野きよみ
出版社 早川書房
出版年 1986/6/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『黄泉の国へまっしぐら』
原作者 サラ・コードウェル
原題 The Shortest Way to Hades(1984)
訳者 加地美知子
出版社 早川書房
出版年 1986/5/31
面白度 ★★
主人公 法曹学院のテイラー教授。
事件 事件は富豪の孫の転落死である。警察は、酔いに伴なう事故または理由不明の自殺と断定したが、女弁護士ジュリアは、事件の二月後に疑問を持った。転落死した孫からの手紙をやっと読んだからである。内容は謎めいているし、フラットから誤って落ちるとは考えられないからだ。
背景 途中あまりの退屈さで一回読書が中断してしまった。推理する側が複数人いるのに、それらの登場人物の描き分けがあまりうまくないので、誰がしゃべっているのかわかりずらい。始終、登場人物表を見るはめになった。クリスティの『葬儀を終えて』を見習ってほしいものだ。とはいえ、ジュリアの個性は面白いし、ラスト50頁もまあまあ楽しめる。

邦題 『潜入、高度ゼロ』
原作者 リチャード・コックス
原題 Ground Zero(1985)
訳者 石川好美
出版社 朝日ソノラマ
出版年 1986/12/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『イリューシン18の脱出』
原作者 ジェラルド・シーモア
原題 Kingfisher(1977)
訳者 後藤安彦
出版社 早川書房
出版年 1986/6/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『最終工作員ロネイ』
原作者 トミー・スティール
原題 The Final Run(1983)
訳者 冬川亘
出版社 早川書房
出版年 1986/5/31
面白度 ★★
主人公 恋のために一度は英国情報部を追われたマーカス・ロネイ。第二次世界大戦初期、ダンケルクから英国軍を脱出させる秘密作戦”ファイナル・ラン”の立案者である。
事件 この”ファイナル・ラン”作戦の任務に当るのは、ロネイと二人の男。ドイツに潜入した彼らは、ロネイの恋人の協力で、軍の中枢部へ接近するが……。
背景 1940年5月の”ダンケルクの奇跡”を背景にしたスパイ小説。狙いは悪くないのだが、私には、この”ファイナル・ラン”計画がつまらなかった。ナチが単純に騙されてしまうのも、リアリティを感じさせない。とはいえ、ロネイと恋人マリアの男女の愛を描いた部分はそれなりに読ませる。ひょっとしたら作者は、陰謀よりの恋愛物語を書きたかったのかもしれない。

邦題 『633爆撃中隊』
原作者 フレデリック・E・スミス
原題 633 Squadron(1956)
訳者 野村芳夫
出版社 徳間書店
出版年 1986/4/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『大空のエース』
原作者 スペンサー・ダンモア
原題 Ace(1985)
訳者 石川好美
出版社 朝日ソノラマ
出版年 1986/5/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ディケンズ短篇集』
原作者 チャールズ・ディケンズ
原題 Selected Short Stories(1837他)
訳者 小池滋・石塚裕子
出版社 岩波書店
出版年 1986/4/16
面白度 ★★★
主人公 日本独自の短篇集。11本の短編から構成されている。
事件 「墓掘り男をさらった鬼の話」「旅商人の話」「奇妙な依頼人の話」「狂人の話」「グロッグツヴィッヒの男爵」「チャールズ二世の時代に獄中で発見された告白書」「ある自虐者の物語」「追いつめられて」(エラリー・クリーンが絶賛したミステリー)「子守り女の話」「信号手」(怪奇小説の傑作)「ジョージ・シルヴァーマンの釈明」の11本。
背景 すべて既訳のある11本が収録されている。異常心理物やミステリー・ホラー的な作品を集めており、特に「追いつめられて」と「信号手」が含まれているので、本リストから抜かすわけにはいかない。著者の語り口の巧みさがよくわかるディケンズ入門に最適な書。

邦題 『ロンドン・マッチ』
原作者 レン・デイトン
原題 London Match(1985)
訳者 田中融二
出版社 光文社
出版年 1986/6/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『偽装亡命者キリル』
原作者 J・トレンヘイル
原題 Kyril(1981)
訳者 矢野浩三郎
出版社 新潮社
出版年 1986/1/25
面白度 ★★
主人公 ソ連KGBのスパイとなるブハレンスキー大佐。暗号名はキリル。
事件 KGB最高幹部議長は部内にスパイがいることを察知し、そのあぶり出しのためにキリルを偽装亡命させる。キリルは秘密書類を持ち出したとしてKGBや英国情報部から追われる身となる。殺し屋から逃げながらも、その背後にいる二重スパイを見つけ出そうとする。
背景 訳者あとがきには、ル・カレの『寒い国から帰って北スパイ』と比較して評価されているが、作風はラドラム流の冒険小説に近い。第一章は面白いが、以後は尻すぼみになっている。主人公の魅力もあまりない。新人なのでいろいろな要素を詰め込みすぎてしまったようだ。バカンの『三十九階段』程度に短ければ、もっとサスペンスが高まったであろう。

邦題 『霧の殺人鬼』
原作者 M・J・トロー
原題 The Adventure of Inspector Lestrade(1985)
訳者 斉藤数衛
出版社 早川書房
出版年 1986/8/31
面白度 ★★
主人公 ホームズ物語に登場するスコットランド・ヤードの警部レストレイド。ホームズに言わせると「へぼ刑事のなかでは目立った存在」で、「ブルドッグのように粘り強い」人物だそうだ。まあ、ホームズには遠く及ばないものの、当時の警視庁の中ではトップ級の警部か。
事件 舞台は<切り裂きジャック>事件が一段落した1891年の英国。レストレイドはワイト島で見つかった白骨死体の捜査を命じられたが、これが童謡連続殺人の幕開きで――という設定。
背景 主人公の他にも、ホームズ、ワトスンからドイル、ワイルドといった架空、実在の有名人がゾロゾロ登場するから、広い意味でのパロディと考えてよいだろう。ドイルまで出演させるというのは、いささか悪乗りしすぎているが、意外性に満ちた結末は悪くない。

邦題 『秘密の恋人』
原作者 ジョージ・ハーディング編
原題 Winter's Crime 17(1985)
訳者 中村保男他
出版社 早川書房
出版年 1986/10/31
面白度 ★★★
主人公 イギリス作家の書下ろし短編のアンソロジー。お馴染みの短編集で12巻目。
事件 表題作(P・ラヴゼイ)は、三角関係清算の話で、一歩誤ればパーティ・ジョークになってしまうのを、佳品に仕上げているユーモアのセンスがすばらしい。またウェインライトの「智恵のはたらく子」は、息子の父親殺しの物語だが、結末のひねりが新鮮。さらにT・ウィリスの「絞首台」は、妻を強姦された男の復讐譚だが、皮肉な結末が生きている。
背景 その他、J・シモンズやP・ゴズリング、J・マクルーアなど、これまでの選集でお馴染みの作家が”常連全員集合”の形で参加しており、平均点は高い。ついつい13巻目も読みたい、と思わせる巧みな編集である。

邦題 『爆走大陸』
原作者 デズモンド・バグリイ
原題 Juggernaut(1985)
訳者 田村義進
出版社 早川書房
出版年 1986/8/31
面白度 ★★★
主人公 一人に絞れば、ブリティッシュ・エレクトリック社の調停人ニール・マニックスか。
事件 舞台は西アフリカの新興国ニアラ。ニールたちの仕事は、奥地に建設中の発電所に、総重量300トンの変圧器を運ぶことであった。輸送手段は、重量550トン、全長240フィート、タイヤ数96個の巨大な輸送車である。だが、その途上で内乱が勃発。近くの病院が空襲され、橋も破壊されて、目的地に行くことは不可能になったのだ。そのうえ病人も移送することになり……。
背景 バグリイは1983年4月に亡くなった。本書は次の『南海の迷路』とともに、死後に出版された一冊。70年代に書かれたらしい。前半の輸送車の話が、後半になると反乱軍からの逃亡話に代わってしまっている。プロット再検討のため生前の出版をためらったのだろう。

邦題 『南海の迷路』
原作者 デズモンド・バグリイ
原題 Night of Error(1984)
訳者 井坂清
出版社 早川書房
出版年 1986/11/30
面白度 ★★
主人公 海洋学者のマイケル・トレヴェリアン。
事件 同じ海洋学者である弟は太平洋の孤島で病死したが、マイケルはその死因に疑問を持った。弟の遺品の中に特殊なマンガン団塊があったことが判ったからだ。真相の究明とマンガン団塊の探査を兼ね、昔なじみを集めて帆船で南の海に乗り出した。だが敵の罠が……。
背景 バグリイの処女作の前に書かれた作品。つまり習作といってよく、生前のバグリイは発表をためらったと思われる。作品の出来は、バグリイの作品と考えると、確かに謎が単純すぎるし、主人公が平凡すぎるという欠点もあるが、一般的な基準からいえば、読んで損はない。マンガン団塊がいまだ実用に供されていないのも、発表をためらった理由のひとつかも?

邦題 『裏切りのキロス』
原作者 ジャック・ヒギンズ
原題 The Dark Side of the Island(1963)
訳者 伏見威蕃
出版社 二見書房
出版年 1986/12/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『マンティス』
原作者 ピーター・フォックス
原題 Mantis(1979)
訳者 太田正一
出版社 芸文社
出版年 1986/3/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『獅子とともに横たわれ』
原作者 ケン・フォレット
原題 Lie Down with Lions(1985)
訳者 矢野浩三郎
出版社 集英社
出版年 1986/9/25
面白度 ★★★
主人公 イギリス女性のジェーン・ランバート。パリでフランス人医師ピエールと結婚し、二人でアフガニスタンのゲリラ村で医療奉仕を始め、そこで長女を出産。
事件 ジェーンらの仕事場は、ソ連の侵攻に必死の抵抗をする村であったが、ある日ジェーンは、夫が密かにKGBのスパイと会っているのを目撃した。しかも夫のカバンを開けてみると、そこには無線機があった。ジェーンは、かつての恋人であったCIAの男とパキスタンへ脱出する。
背景 アフガニスタンの山奥<五獅子の谷>を舞台にする冒険小説。まあちょっと目新しい点は、女性が主人公の冒険小説で、恋愛もかなりの要素になっていること。ジェーンはいかにも男性が望むような女性で新鮮さはないが、後半の逃亡劇は、筆力があるだけに、さすがに面白い。

邦題 『迷宮のチェスゲーム』
原作者 アンソニイ・プライス
原題 The Labyrinth Makers(1980)
訳者 田村源二
出版社 サンケイ出版
出版年 1986/11/10
面白度 ★★★★
主人公 英国国防省の諜報機関で中東情勢の分析をするオードリー。
事件 ある夜オードリーは、終戦直後に墜落した空軍輸送機の残骸が見つかったので至急調査するよう指令を受けた。なぜかその飛行機は以前からソ連が異常な関心を示していたのだ。オードリーは部屋の中での分析は得意だが、現場で仕事をするタイプではないのだが……。
背景 見かけはスパイ小説のようだが、実際は冒険小説に近い。まず主人公が貴族ではないがエリートで、腕力はそう強くはないものの当然弱虫ではない。そして宝捜し(シュリーマン・コレクションがらみ)の物語なのである。伝統の強みをヒシヒシと感じてしまう。全体的には地味な話なのだが、これを新人が書いたというのが英国ミステリーの層の厚さを実感させられる。

邦題 『死を告げる白馬』
原作者 アルジャーナン・ブラックウッド
原題 The Tradition(1962)
訳者 樋口志津子
出版社 朝日ソノラマ
出版年 1986/6/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ナイト・スカイ』上下
原作者 クレア・フランシス
原題 Night Sky(1983)
訳者 永井淳
出版社 角川書店
出版年 1986/6/30
面白度 ★★★
主人公 イギリス女性(ただし父親はフランス人)のジュリー。19歳のときふとした過ちで妊娠し、フランスに渡って一児をもうける。第二次世界大戦が始まるとレジスタンス運動に加わり、という経歴からも明らかなように、当時としては珍しい自立した女性である。
事件 フランスからイギリスへ脱走兵を送る秘密ルートが潰された。たまたま難を逃れたジュリーは、一人息子とレーダーを研究していたユヤダ人技術者を乗せた漁船で英国へ向かう。ドイツ軍は重要機密を奪回するためUボートで追跡を開始し――。
背景 第二次大戦の史実にまつわる大作。主人公も著者も女性という珍しい組合せ。内容、構成は正統的な冒険小説で、伝統の強さをどうしても感じてしまう。

邦題 『侵入』
原作者 ディック・フランシス
原題 Break In(1985)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1986/12/31
面白度 ★★★★
主人公 障害競馬のチャンピオン騎手のキット・フィールディング。競馬界の名門に生れたが、両親がスキー事故で死亡。双子の妹ホリーとともに祖父に育てられた。独身の30歳。
事件 ホリーは先祖代々敵対している家の息子ボビーと結婚した。ところが彼らは心無い中傷記事に傷つけられ、調教所の経営が危うくなってしまった。だがボビーの父親は実業界の大物であるにもかかわらず助けようとしなかった。キットは義憤にかられてマスコミに立ち向かうが……。
背景 久しぶりに主人公が騎手というフランシス得意の設定。これだけで安心してしまう。メインストーリーとサブストーリーが適当に交錯していて、必ずしも一気に読める小説ではないが、途中でダレルことはなく、改めて語り口のうまさに感心してしまう。シャレタ結末もフランシスらしい。

邦題 『罠にかけられた男』
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 Charlie Muffin's Uncle Sam(1980)
訳者 稲葉明雄
出版社 新潮社
出版年 1986/2/25
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのチャーリー・マフィン。”窓際スパイ”の異名をもらったが、前作からは私立探偵もどきの活躍をしている。シリーズ第四弾。
事件 今回の舞台はアメリカのフロリダ。FBIは、切手に目のないマフィアの大物をひっかけるために、ロマノフ王朝切手のコレクションの展示を計画したのだ。一方、そのような陰謀があるとは露とも知らないチャーリーは、親友ルウパートの依頼で、展示会の監視を引き受けるが……。
背景 それほど緻密でもないFBIの計画にマフィアが簡単に乗ってしまうという設定が安易過ぎて興を削ぐが、ルウパートの美人の妻とよろしくやりながらも、大組織に多大な打撃を与えて生き延びるチャーリーのしたたかさは、我ら窓際族には相変わらずの大きな魅力である。

邦題 『追いつめられた男』
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 Madrigal for Charlie Muffin(1981)
訳者 大熊栄
出版社 新潮社
出版年 1986/5/25
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのチャーリー・マフィン。シリーズ物の第5弾。
事件 世界各地で英国のスパイが暗殺されるという事件が相次ぎ、英ソ情報部の対立は激化していた。その頃、チャーリーは親友ルウパートの依頼でローマに現れた。そして前作で親密になったルウパートの妻クラリッサもチャーリーの後を追ってきた。だが、ローマにはKGBの仕組んだ罠があったのだ。チャーリーは絶体絶命のピンチに陥ることになってしまった!
背景 前作はイギリス側が仕掛けた罠、今回はソ連側が仕掛けた罠だが、さすがにソ連が仕掛けるだけにキビシイ罠となっている。それをまたチャーリーが巧みに避けながらしぶとく生き延びる。前作より面白い。うっちゃりをくったソ連側の反撃は?

邦題 『第5の日に帰って行った男』
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 The Fifth Day of Every Month(1986)
訳者 新庄哲夫
出版社 TBSブリタニカ
出版年 1986/12/20
面白度 ★★
主人公 サントリークォータリー編集部の依頼で書いた短編5本を集めた短編集。
事件 このうち日本人を意識して書かれたのは「革命家」。日本赤軍の一人で、自分を本物の革命家と信じている男が登場する話で、皮肉なオチがついている。また表題作や「パメラの写真」、「二重亡命」などは、ソ連スパイを扱った著者得意の亡命物である。
背景 短編ミステリーにおける最後の一行の重要性は言うまでもないが、それだけが評価のすべてではないはずだ。しかしフリーマントルの短編作法はいささか”オチ”にこだわり過ぎている。”オチ”の面白さを狙い過ぎたため、テーマ自体は重いにもかかわらず、全体として薄っぺらな印象を与えていることが惜しまれる。フリーマントル初の短編集と思われる。

邦題 『死のようにロマンティック』
原作者 サイモン・ブレット
原題 Dead Romantic(1985)
訳者 嵯峨静江
出版社 早川書房
出版年 1986/2/15
面白度 ★★★
主人公 語学学校の美人教師セヴァンと新任教師ホプキンズ、生徒のポールの三人。
事件 セヴァンはすでに37歳になるにもかかわらず、理想の男性が現れるのを待っていた。そこに渋く教養もあるホプキンズが登場したのだ。結婚してはいたものの妻は病床にあるという。二人は急速に接近していくが、密かにセヴァンに思いを寄せていた彼女の教え子ポールは嫉妬に燃えた。ナイフを買って次なる行動にでようとしたのだ。
背景 売れない俳優チャールズ・パリス物でお馴染みのブレットの非シリーズ作品。作者が仕掛けた謎に引っかかるかどうかで評価はかなり異なるものになりそうだ。私は半分騙された口。全体的に作品の印象が軽くなってしまうのはブレットの限界か。

邦題 『殺意のシステム』
原作者 サイモン・ブレット
原題 A Shock to the System(1984)
訳者 加地美知子
出版社 早川書房
出版年 1986/10/31
面白度 ★★★★
主人公 超一流の石油会社の人事部部長補佐グレイアム・マーシャル。
事件 グレイアムの人生はバラ色であった。当然部長になれると信じていた。ところが年若い部下が部長に抜擢されたのだ。彼は初めて挫折を味わった。物乞いの老人を衝動的に殺してしまったのはその夜だった。だが何日たっても警察は現れない。グレイアムは再び自信を取り戻し、今度は彼の邪魔者を殺し始めたのだ。
背景 ブレットの非シリーズ物の佳作。主人公が単なるワルでないのが興味深いし、次々と殺人を成功させながら、意外なところで落し穴に落ちてしまうプロットも面白い。一種の倒叙物のスタイルながら、それぞれの犯罪行為に工夫が凝らされている。

邦題 『三たび敵地へ』
原作者 ダン・ブレナン
原題 Third Time Down(1961)
訳者 田村義進
出版社 徳間書店
出版年 1986/12/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『探偵をやってみたら』
原作者 ヒラリイ・ヘイル編
原題 Winter's Crime 16(1984)
訳者 中村保男
出版社 早川書房
出版年 1986/2/15
面白度 ★★★
主人公 書下ろし短編ばかりを集めた<イギリス・ミステリー傑作選>の1984年版。
事件 もっとも面白かったのはM・Z・リューインの表題作「探偵をやってみたら」。リューインといえば私立探偵サムスンで有名な作家で、現在はイギリスに定住しているから、この傑作選に選ばれても当然なのだろう。若い夫婦が税金対策のために探偵業を始める話で、事件そのものはたいしたことはないが、全体の仕上がりは実にシャレている。またドジな犯罪者を扱ったS・ブレットの「美術は苦手」や一種の復讐物であるD・ウィリアムズの「いじめ」などの結末も印象に残る。
背景 編者は変わったが、アンソロジーの編集方針は変わっていない。相変わらず中堅作家のレベルの高い、洗練された作品が数多く収録されている。

邦題 『海深く』
原作者 ウィリアム・ホジスン
原題 Deep Waters(1967)
訳者 小倉多加志
出版社 国書刊行会
出版年 1986/8/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『黄金虫』
原作者 リチャード・マージュ
原題 The Beetle(1897)
訳者 榊優子
出版社 東京創元社
出版年 1986/12/19
面白度 ★★
主人公 19世紀末のロンドンに住む失業者のロバート・ホルト。
事件 ホルトは、ひがな一日、職を求めて歩きまわったもののすべて徒労に終わり、貧民救済用施設からも閉め出されてしまった。そこで窮余の一策、ねぐらと食料を狙って窓の開いている建物に忍び込んだが――という展開で、後は表題から何となく内容がわかる怪奇小説である。
背景 ヴィクトリア朝時代の小説らしく、物語は登場人物の告白や手記を通して語られていく。その意味では古風で奥ゆかしく、あの時代(ホームズが大活躍した時代で、ロンドンが人口六百万人を超える世界最大の都市になった時代)の雰囲気に浸りたい読者にはうってつけの小説だが、逆にいえば古色蒼然たる物語でもある。

邦題 『サン・アンドレアス号の脱出』
原作者 アリステア・マクリーン
原題 San Andreas(1984)
訳者 後藤安彦
出版社 早川書房
出版年 1986/10/31
面白度 ★★★
主人公 ソ連から英国へ向かう病院船サン・アンドレアス号。
事件 第二次大戦中、ソ連へ物資を輸送する船団を護衛するために、アイルランド沖から北海を通ってムルマンスクに向かったのは、ご存知”女王陛下のユリシーズ号”である。この作品のサン・アンドレアス号は、そのユリシーズ号の航跡をほぼ逆に進んでいく。ただし処女作との大きな違いは、謎解き小説風色彩をかなり強めたこと。つまり病院船にすぎないサン・アンドレアス号に、誰が何の目的で破壊工作をするのか、という設定である。
背景 この謎自体は悪くないものの、謎の処理の仕方が下手で趣向を生かしきれなかった。一時の不調は脱しつつあるものの、カムバック賞はまだあげられない。

邦題 『死への夜行フェリー』
原作者 パトリシア・モイーズ
原題 Night Ferry to Death(1985)
訳者 嵯峨静江
出版社 早川書房
出版年 1986/9/15
面白度 ★★★
主人公 ヘンリーとエミーのティベット警視夫妻。
事件 二人は旅行好きである。イタリアのスキー場からカリブ海の小島まで足をのばしている。今回の休暇旅行は『死とやさしい伯父』で知り合ったアムステルダムに住む友人宅を訪問することであった。事件は、その帰途のフェリー内で起きた。盗品の運び屋が殺され、持っていた宝石が見つからなかった。夫妻は自然と事件に巻き込まれていく。
背景 残忍な殺人物語であるにもかかわらず、読み進んでいくと、かえって心の安らぎを覚えてくる。これは夫妻が実に心温まる人物である上に、モイーズの作風が古典的なミステリーの枠内にきちんと納まっているからであろう。ミステリー界の保守本流は大いに歓迎したい。

邦題 『クロッカスの反乱』
原作者 ギャビン・ライアル
原題 The Crocus List(1985)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1986/3/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『黒の召喚者』
原作者 ブライアン・ラムレイ
原題 The Caller of the Black( )
訳者 朝松健
出版社 国書刊行会
出版年 1986/7/18
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『消えた女』
原作者 マイクル・Z・リューイン
原題 Missing Woman(1981)
訳者 石田善彦
出版社 早川書房
出版年 1986/9/30
面白度 ★★★★
主人公 インディアナポリス市に住む私立探偵アルバート・サムスン。シリーズ物の一冊。
事件 サムスンへの依頼は大学時代の同級生を探しだしてほしいというものであった。調べると、同級生の女性は、町のプレイボーイと一緒に失踪していて、夫からは警察に捜索願いが出ていたのだ。そこで調査は打ち切りとなったが、数ヶ月後プレイボーイの死体だけが見つかり、警察は失踪した女性を犯人と考えたが……。
背景 本リストには珍しいアメリカを舞台にしたハードボイルドのミステリー。歯切れのいいシャレタ会話はいかにもハードボイルドにふさわしいが、”消えた女”の謎を中心にして、ニ転、三転するプロットは、本格ミステリーとしても十分楽しめる。

邦題 『指に傷のある女』
原作者 ルース・レンデル
原題 Shake Hands for Ever(1975)
訳者 深町眞理子
出版社 角川書店
出版年 1986/1/10
面白度 ★★★★★
主人公 お馴染みウェクスフォード主任警部。
事件 物語は再婚した息子の嫁に会うために、その息子に連れられて母親がキングズマーカム(ウェクスフォードの本拠地)を訪れるところから始まる。ところが嫁が駅に出迎えにも来ていない。それどころか自宅のベッドの中で絞殺されていたのだ。当然夫のアリバイは完璧に近い。だが、ウェクスフォードは落ち着き過ぎる夫に疑問を持った。
背景 パズラー味の濃い展開で、伏線は巧みに張られているし、容疑者の心理面を重視するウェクスフォードの推理も冴えている。トリックが無理という説もあるようだが、私は完全にひっかかってしまった。ウェクスフォード物ではもっとも好きな作品である。

邦題 『絵に描いた悪魔』
原作者 ルース・レンデル
原題 To Fear a Painted Devil(1965)
訳者 小泉喜美子
出版社 角川書店
出版年 1986/2/25
面白度 ★★
主人公 ハロウズ荘の主人を巡る人々。
事件 ロンドン近郊の荘園で女主人の誕生パーティが開かれた。しかし夫は蜂の巣をとろうとして蜂に刺され、梯子から落ち、翌朝亡くなってしまったのだ。ところがこの死亡が他殺とわかり――という設定で、典型的なフーダニットになっている(物理的トリックもちゃんと含まれている)。
背景 レンデルの第ニ作で、非シリーズものの一冊目。非シリーズ物とはいえ、『ロウフィールド館の惨劇』や『我が目の悪魔』のような明らかな性格異常者が登場するわけではない。とはいえ、サロメの絵を小道具に使ううまさや、犯人が暴露されるときの迫力などは、後年のレンデルを予測させる十分な証拠。まあレンデルらしさは七分咲き程度の作品だ。

邦題 『身代りの樹』
原作者 ルース・レンデル
原題 The Tree of Hands(1984)
訳者 秋津知子
出版社 早川書房
出版年 1986/4/15
面白度 ★★★★
主人公 未婚の母であった女性作家のベネット。
事件 ベネットは愛児を病で失った。そのショックから立ち直ったのは母モプサのおかげであったが、その母も精神を病んでいた。見知らぬ子供を娘のためにさらってきてしまったのだ。その子は家で虐待されていたので、ベネットの心は複雑に揺れ動くが……。
背景 著者の非シリーズ物で、1984年CWAシルヴァー・ダガー賞受賞作。前半、特にモプサの描写が抜群にうまい。自分では良いと思って悪いことをするという行為は、ちょうど子供の無邪気な犯罪に似た恐ろしさがある。そしてこの話と、誘拐された子供の母親の話、ベネットの元亭主の話の三つの話が併行して語られて、最後に奇妙な結び付き方をする。このあたりもうまいものだ。

邦題 『地獄の湖』
原作者 ルース・レンデル
原題 The Lake of Darkness(1980)
訳者 小尾芙佐
出版社 角川書店
出版年 1986/5/25
面白度 ★★★
主人公 サッカーくじで10万4千ポンドをあてた会計士のマーティン・アーバン。独身。
事件 幸運にも、マーティンはサッカーくじで大金を手にした。友人のいうままに買ったものでもあり、住居問題で悩む知人にその半分を寄付することにした。だが花屋の店員フランチェスカに一目惚れしたことから、彼の人生が狂ってきた。
背景 本書は、比較的まともな青年が事件に巻き込まれる犯罪小説で、性格異常者が主人公というわけではない(確かにその種の人も登場するが)。ただ主人公は謎の女性に深入りしたり、ホモ的な男とつきあったりする一方で、大金を貧しい人にあげようとする。この奇妙な青年の存在感が説得力に欠けるのが欠点だが、ラストはさすがにレンデルらしい捻り方をしている。

邦題 『クリプト・マン』
原作者 ケネス・ロイス
原題 The Crypto Man(1984)
訳者 関口幸男
出版社 サンケイ出版
出版年 1986/6/10
面白度 ★★★
主人公 染色体異常の(XYYの男性)ウィリー・スコット。別名スパイダー・マンといわれるように、蜘蛛のごとくビルの壁をよじのぼってしまう犯罪者であったが、今はまともな生活をおくっている。
事件 シリーズ・キャラクターで、今回の頼まれ仕事は、刑務所で謎の自殺をした男の真の死因を調査してほしいというもの。基本的にはサスペンス小説だが、ナチやKGBを薬味に使ってスパイ小説風の味付けにしている。
背景 ノンシリーズの既訳書と同様、まじめにじっくり書き込まれていて、それなりに楽しめるが、逆にいえばもっと短くできたはずだし、もう少し華やかさがほしい。なお染色体異常の男は攻撃的、低知能で、犯罪を犯す性癖を潜在的に持っているらしいが、ほとんど物語には関係ない。

邦題 『ノーブルロード』
原作者 ピーター・ローダー
原題 Noble Lord(1986)
訳者 東江一紀
出版社 集英社
出版年 1986/7/25
面白度 ★★★
主人公 主人公といえるほど大活躍する人物はいないが、強いて挙げるなら、カリブ海東部に位置する島国アンティグア・バルブダ(英連邦の一つ)の警視庁に所属するホープ巡査部長。
事件 ホープは麻薬事件の調査のためニューヨークに派遣されたが、彼はそこで恐るべき情報を入手した。英国の女王暗殺が予定されているというのだ! 英国当局も捜査を開始し、ダービー当日のエプソム競馬場でIRAが暗殺を計画しているとの情報を得た。いかに阻止するか?
背景 『ジャッカルの日』に代表される要人暗殺物のスリラー。ただし暗殺計画が安易なので、知的な面白さ・重厚さに欠けるが、語り口にスピード感があり、そこそこ楽しめる。なおピーター・カニンガム名義で『女王陛下を撃て』(原書房)と改題のうえ、1996年に再出版されている。

邦題 『皇帝の密謀』
原作者 リチャード・ウッドマン
原題 The Bomb Vessel(1984)
訳者 高永洋子
出版社 二見書房
出版年 1986/5/10
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『背後から一刺し スミス艦長物語2』
原作者 アラン・エバンズ
原題 Ship of Force(1979)
訳者 影山栄一
出版社 至誠堂
出版年 1986/4/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『アフリカ軍団の影 スミス艦長物語3』
原作者 アラン・エバンズ
原題 Dauntless(1980)
訳者 影山栄一
出版社 至誠堂
出版年 1986/9/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『海神の馬が走る スミス艦長物語4』
原作者 アラン・エバンズ
原題 ()
訳者 小牧大介
出版社 至誠堂
出版年 1986/11/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『黒い略奪船』
原作者 ヴィクトール・シュトラン
原題 A King's Ransom(1980)
訳者 高水香
出版社 二見書房
出版年 1986/8/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『黒海の野望』
原作者 V・A・スチュアート
原題 Hazard of Huntress(1971)
訳者 海津正彦
出版社 光人社
出版年 1986/1/5
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『黒海の密使』
原作者 V・A・スチュアート
原題 Hazard in Circassia(1971)
訳者 海津正彦
出版社 光人社
出版年 1986/7/12
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ツーロンの砲声』
原作者 ロバータ・チャロナー
原題 Run Out the Guns(1984)
訳者 高永洋子
出版社 早川書房
出版年 1986/5/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ボンベイ・マリーン出帆せよ』
原作者 ポーター・ヒル
原題 The Bombay Marines(1985)
訳者 高岬沙世
出版社 早川書房
出版年 1986/1/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『フランス軍用金を奪え』
原作者 ポーター・ヒル
原題 The War Chest(1986)
訳者 高岬沙世
出版社 早川書房
出版年 1986/10/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ユトランド大海戦』
原作者 A・フラートン
原題 The Blooding of the Guns(1976)
訳者 高津幸枝
出版社 光人社
出版年 1986/6/7
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『奇襲Uボート基地』
原作者 アレグザンダー・フラートン
原題 Sixty Minutes for Saint George(1977)
訳者 高津幸枝
出版社 光人社
出版年 1986/10/18
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『狂気の目撃者 ラミジ艦長物語19』
原作者 ダドリ・ポープ
原題 Ramage's Trial(1984)
訳者 小牧大介
出版社 至誠堂
出版年 1986/1/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『悪魔島 ラミジ艦長物語18』
原作者 ダドリ・ポープ
原題 Ramage's Devil(1982)
訳者 小牧大介
出版社 至誠堂
出版年 1986/2/1
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ナポレオンの隠し札 ラミジ艦長物語20』
原作者 ダドリ・ポープ
原題 Ramage's Challenge(1985)
訳者 小牧大介
出版社 至誠堂
出版年 1986/5/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 


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