邦題 『ロスノフスキ家の娘』
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 The Prodigal Daughter(1982)
訳者 永井淳
出版社 新潮社
出版年 1983/2/25
面白度 ★★★
主人公 前作『ケインとアベル』の後半部分に登場したケインの一人娘フロレンティナ。彼女は、前作では現代版ロミオとジュリエットよろしく、アベルの息子と恋仲になったがゆえに家を追われるが、経営者として成功し、この作品では、初の女性大統領を狙っている。
事件 前作の続編だが、気になるのは本書が再びフロレンティナの誕生から始まっており、前半のストーリーがほぼ前作と重複していること(二度売りになる?)。物語の後半は、アメリカ史上初めての女性大統領が実現するかどうかに絞られる。
背景
 ポスト・ウーマン・リブ時代に、さっそくこのテーマを取り上げているとは、時代を先取りするベストセラー作家らしい設定。大統領選の内幕を知る情報小説としても、面白い。

邦題 『ソロモンの怒涛』
原作者 ハモンド・イネス
原題 Solomons Seal(1980)
訳者 池央耿
出版社 早川書房
出版年 1983/6/30
面白度 ★★★
主人公 不動産代理店に勤めるロイ。四十を越していながら、半生の証しと呼べるものは何もない平凡な男。
事件 ロイは資産売却の仕事を押しつけられた。つまらない仕事であったが、彼は古い切手帳に興味を持った。ヴィクトリア朝期の発行で、パプアやサモアといった島に関する切手ばかり集められていたからだ。そしてこの切手が彼の人生を決定的に変える引き金となり、物語の舞台は、英国からイネスが得意とする海(本作では南太平洋のブーゲンヴィル島周辺)に移っていく。
背景 デズモンド・バグリーが亡くなって、英国の伝統的な冒険小説も終わりかと感じていたが、イネスの最新作が翻訳された。巨匠はまだまだ健在であることがよくわかる。

邦題 『脱出せよ、ダブ!』
原作者 クリストファー・ウッド
原題 A Dove against Death(1983)
訳者 佐和誠
出版社 早川書房
出版年 1983/12/31
面白度 ★★★
主人公 英国陸軍のポインター中尉と同海軍のスミス水兵。敵地からの脱出に利用する独製の単葉飛行機<ダブ>が影の主役。
事件 捕虜のポインター中尉らは、アフリカのカメルーンに独軍が建設した巨大な無線局を目撃した。この情報を友軍にもたらせば戦局は一変する。彼らは<ダブ>を盗み、脱走を図った。しかし独軍の追撃にあい、<ダブ>は墜落するも<ダブ>のエンジンを利用し……。
背景 第一次世界大戦中のアフリカを舞台にした冒険小説。前半は単葉機で逃げるという単純な話だが、<ダブ>の部品を利用した後半の脱出行はスリルと変化に富んでいる。映画を観ているような楽しい展開だが、著者がボンド映画の脚本家とわかれば納得。

邦題 『死体は沈黙しない』
原作者 キャサリン・エアード
原題 Some Die Eloquent(1979)
訳者 高橋豊
出版社 早川書房
出版年 1983/1/31
面白度 ★★★
主人公 ケルシャー州(架空の州)のスローン警部。シリーズ物の第ニ弾。
事件 その日、スローンは身重の妻の付き添いとして、ベリバリー地区総合病院の待合室にいた(この導入部はユーモアもあって、実にうまい)。スローンは、この病院の病理学者のデープ医師とは、仕事の関係もあり懇意にしていた。ところが待合室にいた非番のスローンに、デープ医師が仕事を持ち込んできた。死体安置所にいる死体の検死に立ち会ってほしいと頼んだのだ。死者は糖尿病による自然死らしいのだが、つい最近大金が銀行に入金されていたからだった。
背景 というわけで、殺人事件の臭いを嗅ぎつけたスローンがめでたく犯人を捕らえる本格物だが、ユニークなトリックとユーモラスな会話が生きており、地味ながら楽しめる小品。

邦題 『聖女が死んだ』
原作者 キャサリン・エアード
原題 The Religious Body(1966)
訳者 高橋豊
出版社 早川書房
出版年 1983/5/31
面白度 ★★
主人公 スローン警部。翻訳は三作目だが、原書では本作が第一作。
事件 管内にある修道院でシスター・アンが殺された。彼女は撲殺であったが、スローンにはそれ以上のめぼしい情報は得られなかった。だがその夜、何者かの通報で出向いた修道院近くの農学校で、スローンは意外な物を見つけた。シスター・アンの眼鏡で、燃え続けていた修道女姿の人形にかかっていたのだ。そして数日後、それに係わっていた学生の一人が惨殺された。
背景 典型的な本格ミステリーだが、始めて書いたミステリーのためか、すでに紹介されているエアードの作品と比べるとトリックは平凡で、ミス・ディレクションもあまりうまくない。ただし作品に漂う明るいユーモアは第一作から健在であることがわかった。

邦題 『シャーロック・ホームズのライヴァルたち』
原作者 押川曠編
原題 独自の編集
訳者 押川曠・乾信一郎
出版社 早川書房
出版年 1983/6/30
面白度 ★★★
主人公 1891年(ホームズ初登場の年)から1914年(第一次世界大戦が勃発した年)の間に生まれたシリーズ探偵(怪盗やホームズのパロディ探偵も含む)が活躍する、埋もれた名作を集めたアンソロジーの第一弾。14本が収録されている。
事件 有名な探偵には、「ディクソン魚雷事件」(A・モリスン)のマーチン・ヒューイットや「教会で歌った男」(E・ウォレス)の”正義の3人”がいるが、菜食主義者で鉄道マニアのソープ・ヘイズル(V・L・ホワイトチャーチの「ドイツ外交文書箱事件」に登場)や名作「放心家組合」に出ているユージェーヌ・ヴァルモン(R・バーの「チズルリック卿の遺産」に登場)も含まれている。
背景 トリックより探偵のキャラクターの面白さで読ませる短編が多い。

邦題 『シャーロック・ホームズのライヴァルたち2』
原作者 押川曠編
原題 独自の編集
訳者 乾信一郎
出版社 早川書房
出版年 1983/10/15
面白度 ★★★
主人公 文字どおりホームズのライヴァルたちのアンソロジー第2巻。創元版のライヴァルたちに比べると、比較的マイナーな探偵(悪漢)が多い。本書でも、ほとんど名を聞いたこともない探偵とか、セクストン・ブレイクやフー・マンチュー博士のように名前は有名だが、実際の活躍はさほど知られていない探偵の作品が収録されている(全13編)。
事件 注目すべき短編では、四十面相クリークが登場する「ライオンの微笑」。有名なトリックが使われている。またホームズ・パロディの古典ともいうべき「ペグラムの怪事件」も面白い。「絞首刑奇譚」(I・ザングウィル)は名探偵も怪盗も登場しないが、もっとも楽しめた。
背景 もう一巻出るが、そちらはアメリカのライヴァルたちなので、リストには入ていない。

邦題 『亡霊たちの真昼』
原作者 ジョン・ディクスン・カー
原題 The Ghost's High Noon(1969)
訳者 池央耿
出版社 東京創元社
出版年 1983/1/28
面白度
主人公 新進作家のブレイク。
事件 1912年10月のニューオーリンズ。アメリカは連邦下院選が行われようとしていた。この市ではJ・ブレイクが立候補していたが、何者かがブレイクを罠にはめる工作をしているという情報が入った。そのことを取材するため、同名のブレイクが派遣されたのだが、やがて彼の前に謎の女性が登場し、不可解な現象が起き――。
背景 ニュー・オーリンズ三部作の二作目。カーらしい雰囲気は散見されるが、饒舌な登場人物が多く(それが証拠に、会話体ばかりでも印刷が黒々としている!)、物語の展開が間延びしてしまった。当時のニュー・オーリンズが活写できればいいと思ったのだろうか?

邦題 『黒い塔の恐怖』
原作者 ジョン・ディクスン・カー
原題 The Door to Doom and Other Detections(1980)
訳者 宇野利泰・永井淳
出版社 東京創元社
出版年 1983/4/22
面白度 ★★★
主人公 カー研究家ダグラス・グリーンがパルプマガジンの中から発掘したカーの短編やラジオ・ドラマを集めた作品集の後半部分に相当するアンソロジー。
事件 詳しい内容は、『幽霊射手』に収録できなかったラジオ・ドラマ二編、怪奇小説三編、ホームズ物のパロディ一編、エッセイ二編(このうち「有り金残らず置いてゆけ!」はカーの最後の文章といってよい)、編者の書誌、そして付録の「カー問答」(江戸川乱歩)から構成されている。興味を引くのは、カーが「推理小説とは要するに、犯罪者と探偵との闘争の物語」と規定し、スリラーとは明確に一線を画していることだ(「地上最高のゲーム」)。
背景 もっとも貴重なのは、ペーパーバックの初版まで詳細に調べられている書誌であろう。

邦題 『スペクターの逆襲』
原作者 ジョン・ガードナー
原題 For Special Services(1982)
訳者 高見浩
出版社 文藝春秋
出版年 1983/7/20
面白度 ★★★
主人公 ジェイムズ・ボンド中佐。
事件 ロンドンへ向かっていたブリティッシュ航空のジャンボ機がハイジャックされそうになった。しかし90秒後には正常に戻った。007号のボンドが、予めハイジャックを予想して、飛行機に乗り込んでいたからである。そしてこの事件を実行した組織が、ボンドの旧敵スペクターであることがわかった。ボンドはMの要請で、旧友ライターの娘シーダーとともに、調査を開始した。
背景 ガードナーが引き継いだボンド・シリーズ物の邦訳第一作(原書では二作目)。本物に比べると、やや描写が軽く感じるものの、予想以上に似ていて感心した。以前出た『007号/孫大佐』(ロバート・マークハム)より面白い。

邦題 『亡霊機の帰還』
原作者 ジョン・ガードナー
原題 The Dancing Dodo(1978)
訳者 村社伸
出版社 早川書房
出版年 1983/8/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『メルトダウン作戦』
原作者 ジョン・ガードナー
原題 Licence Renewed(1981)
訳者 高見浩
出版社 文藝春秋
出版年 1983/12/20
面白度 ★★
主人公 新シリーズのジェイムズ・ボンド中佐。
事件 MI5の長官からの指令だった。彼がいうには、テロリストが最近英国に何回も入国しており、しかも行き先はスコットランドの寒村にあるミュリック城である。城主は原子物理学者だが、最近原子力調査委員会のメンバーを辞めた。どうも危険な匂いがする。すぐに調査しろ! という話。
背景 ガードナーが遺族の了承を得た上で書き出したボンド物のシリーズ第一作(邦訳は第二作『スペクターの逆襲』が先に出ている)。ボンド物のモノマネとしてはまあまあ。悪役としてミュリック博士の創造はいいが、物語には精彩がない。第一作なので人物像を模倣することに精力を使い果たして、プロットまでには手をまわせなかった?

邦題 『謀殺ポイントへ飛べ』
原作者 ダンカン・カイル
原題 Stalking Point(1981)
訳者 田村義進
出版社 早川書房
出版年 1983/8/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『14分の海難』
原作者 ブライアン・キャリスン
原題 A Ship Is Dying(1976)
訳者 村社伸
出版社 早川書房
出版年 1983/11/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『メッカを撃て』
原作者 A・J・クィネル
原題 The Mahdi(1981)
訳者 大熊栄
出版社 集英社
出版年 1983/8/25
面白度 ★★★
主人公 CIA作戦部長ホークとMI6作戦副部長ジンメル。
事件 大げさにいえば、石油をおさえれば世界を支配することも不可能ではない。そこである知恵者が途方もない計画を考え出した。聖地メッカで奇跡を演出し、イスラム教徒十億人に予言者の到来を信じ込ませ、その結果、イスラム国家を自由に操ろうというわけである。しかしこの奇跡の演出には莫大な費用がかかる。CIAとMI6は一致協力して、計画の推進を図るが……。
背景 このような国際陰謀にメロドラマを配した設定は、いかにもベストセラーを狙うにふさわしい構成だが(そして確かに面白いのだが)、フォーサイスやフォレットの亜流という気がしないでもない。これこそクィネル流だ、という個性がさほど出ていないのが残念。

邦題 『ホッグス・バックの怪事件』
原作者 フリーマン・ウィルス・クロフツ
原題 The Hog's Back Mystery(1933)
訳者 大庭忠男
出版社 東京創元社
出版年 1983/5/20
面白度 ★★★★
主人公 ロンドン警視庁のフレンチ警部。お馴染みの名探偵。
事件 引退していた医師が突然姿を消した。最後の目撃者である妻によれば、居間で新聞を読んでいて、その3分後にはいなくなっていたという。しかしフレンチが調査すると、その数日前、医師はロンドンで女性とあっており、その女性(看護婦)も行方不明になっていたのだ。
背景 クロフツのような作家は、フーダニット(誰が犯人か?)のミステリーは書きにくいはずだ。非天才型の探偵が謎を解くため、探偵と読者との推理の差が極端にひらくとは考えにくいからである。それにもかかわらず、本作ではフーダニットとしても楽しめるように工夫されている(犯人を指摘する章では、ほら、前もって伏線を張っているでしょうと証拠を示している)。

邦題 『死の鉄路』
原作者 フリーマン・ウィルス・クロフツ
原題 Death on the Way(1932)
訳者 中山善之
出版社 東京創元社
出版年 1983/11/25
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁のフレンチ警部。お馴染みの名探偵。
事件 鉄道会社の見習い技師パリーは複線化工事の一端を担っていた。ところがその現場で、轢死している上司が見つかった。誰からも好かれていた有能な上司であったため、検死審問では事故死の評決が下った。だが応援に借り出されたフレンチ警部が駆けつけると、下請け会社の社員が自殺するという事件がおきたのだ。
背景 トリックにいささか無理があるし、前半はかったるい。しかし著者は鉄道技師であっただけに、鉄道の話には引き込まれるし、いまでいう情報小説的な面白さがある。フーダニットとしては水準作だが、まだ未訳のクロフツ作品が残っていたというだけで嬉しくなってしまう。

邦題 『ザ・スクープ』
原作者 クロフツ、クリスティー、セイヤーズ他
原題 The Scoop and Behind the Screen(1930 31)
訳者 飛田茂雄・金塚貞文
出版社 中央公論社
出版年 1983/9/25
面白度 ★★★
主人公 英国探偵作家クラブによる二編の合作ミステリー。
事件 中編「屏風のかげに」は、婚約者の家を訪れた青年が客間におかれた屏風の陰に死体を発見する話。謎の設定は平凡だが、いささかトボケタ探偵が謎を解く結末(ノックスの担当)は鮮やかだ。短めの長編『ザ・スクープ』は合作ミステリーとしては珍しく、6人の作家が事前に相談して筋を練り、各人が2章ずつ執筆したもの。おかげで合作につきものの欠点(ある意味では楽しみともいえる筋の矛盾)は影を潜め、完成度はかなり高い。
背景 いずれの作品も、BBCが特別にミステリー作家6人に依頼したもので、毎週一章づつ朗読されたもののテキスト化だそうである。

邦題 『ジョン・コリア奇談集』
原作者 ジョン・コリア
原題 Bottle Party and Other Stories()
訳者 中西秀男
出版社 サンリオ
出版年 1983/6/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『不自然な死体』
原作者 P・D・ジェイムズ
原題 Unnatural Causes(1967)
訳者 青木久恵
出版社 早川書房
出版年 1983/3/15
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁のアダム・ダルグリッシュ警視。
事件 ダルグリッシュは10日間の休暇をとり、サフォークに住む叔母の家を訪れた。素朴な田舎生活を満喫したかったからである。彼女の家の近辺には、純文学作家や評論家など、一家言ありそうな人物たちが住んでいるが、なろうことか、休暇第一日めに、両手首を切断された推理小説家の死体が発見されたのだ。
背景 ダルグリッシュ警視シリーズの第二弾。この作者にしてはショッキングな出だしで成功しているが、以後は多少物語がダレル。何故手首を切断したのかという謎解きは面白い。後年の作品のような描写力がまだ作品の魅力にまではなっていない。過渡期の作品といったところ。

邦題 『皮膚の下の頭蓋骨』
原作者 P・D・ジェイムズ
原題 The Skull beneath the Skin(1982)
訳者 小泉喜美子
出版社 早川書房
出版年 1983/10/31
面白度 ★★★
主人公 プライド私立探偵局の局長コーデリア・グレイ。『女には向かない職業』に続く登場。
事件 ドーセット州沿岸2マイルの沖に浮かぶ小島。ここのヴィクトリア朝風の劇場で、人気女優クラリッサ主演の古典劇が行なわれようとしていた。コーデリアもその招待客の一人であったが、本当の目的は、脅迫されていたクラリッサの護衛と脅迫者を捕まえることであった。
背景 ポケミス始まって以来、ついに定価が千円を突破したという大作。孤島の古風な劇場、血なまぐさい伝説、一癖も二癖もある登場人物たちと、典型的な本格物の舞台設定で、装いはいいのだが、肝心の本格物としての骨格が少し貧弱なのが残念。ただし孤島での惨劇があるとはいえ、クリスティの『そして誰もいなくなった』のパロディではない。意欲は十分にかえるが……。

邦題 『午後の死』
原作者 シェリイ・スミス
原題 A Afternoon to Kill(1953)
訳者 山本俊子
出版社 早川書房
出版年 1983/6/15
面白度 ★★★★★
主人公 イラン台地の砂漠の一軒家に住む老嬢ブランシュ・ローズ。
事件 インドへの家庭教師として招かれた男が不時着して、老嬢の家で、彼女の昔話を聞くというだけの物語だが、作者の仕掛けが実にシャレている。題名の午後の死とは、ひまつぶしという意味もあり、これが伏線になっている。作者の仕掛けが成功するためには相当な話術の技量がないと不可能であろう。たいしたものである。
背景 英国コリンズ社のミステリー・シリーズ”クライム・クラブ”が1930年に始めてから50年目の1980年に、それを記念して、ジュリアン・シモンズが過去の作品から発掘して復刻した12点の一冊。小品といってよいが、「私の謎解き小説ベスト10」に選んだ私のお気に入り作品だ。

邦題 『オズワルド叔父さん』
原作者 ロアルド・ダール
原題 My Uncle Oswald(1979)
訳者 田村隆一
出版社 早川書房
出版年 1983/5/31
面白度 ★★★
主人公 オズワルド叔父さん。
事件 1912年、まだ学生だったオズワルドは媚薬を買い占めて、10万ポンドという大金を手に入れた。しかしこれだけでは満足しなかった。世界の天才や国王たちの精液を採取して冷凍保存し、大金持ちの夫人たちに売り付けようと計画したのだ。そのためケンブリッジの指導教官と淫らな女子学生を仲間に引き込み、ルノワール、ピカソ、プルースト、アインシュタインといった天才のもとへ向かった。
背景 ダールの珍しい長編。ある意味ではエロにしかならないものを、さすがはダールといえるほど、スマートにまとめている。でもかつてのダールを知っている者としては、ちょっと残念。

邦題 『探偵小説の世紀・上』
原作者 G・K・チェスタトン
原題 A Century od Detective Stories(1935)
訳者 宇野利泰
出版社 東京創元社
出版年 1983/12/2
面白度 ★★
主人公 大部な短編のアンソロジー。上巻には短編20本が収録されている。
事件 数多くの作品が収録されているわりには、印象に残っているものは少ない。レナード・グルブルの「ジグソー・パズル」、E・フィルポッツの「鉄のパイナップル」、トマス・バークの「金色の小鬼」などか。クリスティ・ファンとしては、ポアロの元型ではないかと言われるベロック・ローンズの「エルキュールの功績」が興味深いが、内容はたいしたことはない。
背景 二十世紀も終盤に入った現在から考えてみると、二十世紀は確かに「探偵小説の世紀」と呼ぶにふさわしい時代であったが、本作が編纂された頃には、短編ミステリーの黄金時代は去っていたからか、目を見張るような作品はほとんど収録されていない。

邦題 『真夜中の客』
原作者 コナン・ドイル
原題 The Unknown Conan Doyle;Uncollected Stories(1982)
訳者 小池滋監訳
出版社 中央公論社
出版年 1983/3/25
面白度 ★★
主人公 コナン・ドイル未紹介作品集の第ニ巻。
事件 1884年初出の「グレンマハウリー村の跡とり娘」から、「辻馬車屋の話」や「悲劇役者」、「ハンプシャー州の淋しい家」、「田園の恐怖」など、そして1891年の表題作までの10編が執筆年代順に収められている。つまりドイルがホームズ物を書き始める少し前から、爆発的な人気作家になる直前までに書かれた珍しい短編が集っている。
背景 多くの作品は、一人称形式の冒険奇談といってよい。百年間も埋もれた事実からもわかるように、スタイルは古臭いし、知られざる傑作が入っているわけでもない。だが、創作意欲が横溢したころの作品だけに、読者を物語に引き込むうまさには納得のいくものがある。

邦題 『最後の手段』
原作者 コナン・ドイル
原題 The Unknown Conan Doyle;Uncollected Stories(1982)
訳者 小池滋監訳
出版社 中央公論社
出版年 1983/8/25
面白度
主人公 コナン・ドイル未紹介作品集の第三巻。
事件 この巻では1891年から1930年(ドイルが死亡した年)までに書かれて、埋もれていた14編が収録されている。前ニ巻とは異なり冒険奇談的な話はほとんどなく、恋愛物、ミステリー、戦争物、歴史物といった実に種々雑多な作品が集められている。悪い表現を使えば、ゴミのような作品を無理してかき集めた短編集だが、「ウイルキー大尉の思い出話」の中には、ベル教授のエピソードが含まれているだけに、ドイル・ファンは見逃せない。
背景 40年間で14編だけとは、いかにも少ない気がするが、1891年は、ドイルが「ボヘミアの醜聞」で一躍有名になった年である。以後の作品が埋もれなかったのは当然か。

邦題 『レパードを取り戻せ』
原作者 クレイグ・トーマス
原題 Sea Leppard(1981)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1983/7/15
面白度 ★★★
主人公 英国情報局の工作員ハイドと米国海軍情報部の大佐クラーク。
事件 <レパ―ド>とは音波探知機から発信された信号を処理し、潜水艦の位置を不明にさせようとする装置。物語は、この装置を欲しがったソ連が罠を仕掛けて奪う話、装置の発明者が拉致されそうになるのをハイドが阻止しようとして英国内を駆け回る話、そして奪われた装置をクラークが奪回する話、の三つの話が併行して語られる。
背景 最初の話が一番面白く、ハイドの物語が一番つまらないが、三つの話は、適当に交差しながら語られるので、全体の物語は、結構な奥行きと広がりをもっている。これまでは直球一本槍といった感じのトーマスだったが、本作では変化球も身に付けつつあるようだ。

邦題 『パパとママに殺される』
原作者 ジョージ・ハーディング編
原題 Winter's Crimes 13(1981)
訳者 中村保男
出版社 早川書房
出版年 1983/2/28
面白度 ★★★
主人公 書下ろしの短編ばかりを集めた年刊のアンソロジーの8作目。さすがに8冊目も訳出されると、本邦初登場の作家は一人もいない。
事件 表題作は、南アを舞台にした警察小説の得意なJ・マクル―アの作品で、コミュニケーションもままならぬ重度障害者にまつわるサスペンス物。結末の皮肉が生きている。また「世間の奴は騙されやすい」(コン・ゲーム小説)のC・デクスターはさすがに安定した実力を見せてくれるが、いつも健闘している女性陣は今回は不作で、E・ピーターズの「目撃者」が注目される程度だ。
背景 もっとも楽しめたのは、J・ウェインライトの「勝負あり」。J・J・マリックばりの多作家で、警察小説を得意としているようだが、長編の代表作ぐらいは訳してほしいものである。

邦題 『作家の妻の死』
原作者 ロバート・バーナード
原題 Posthumous Papers(1979)
訳者 水野谷とおる
出版社 早川書房
出版年 1983/5/31
面白度 ★★★
主人公 カレッジの教師グレッグ・ホッキング。
事件 他人からは奇妙に見えるが、ヒルダとヴァイオラは二人とも作家ウォルターの未亡人で、同じ家で生活していた。ところが、ウォルターが急に脚光を浴び始めたのだ。代表作の再刊はもとより、未発表原稿さえ次々と出版されるようになった。当然、二人の未亡人やそれぞれの子供たちの思惑が入り乱れ緊張が高まったが、その時、屋敷で火災が発生し、ヒルダの死体が焼け跡から見つかったのだ。二人の友達であったグレッグが謎に挑戦する。
背景 最初の異常な設定が成功しているが、登場人物の性格や背景を丹念に描いていて読ませる。本格物としては途中で謎がある程度わかる弱点はあるものの、意外性はある。

邦題 『神の最後の土地』
原作者 ジャック・ヒギンズ
原題 The Last Place God Made(1971)
訳者 沢川進
出版社 早川書房
出版年 1983/8/31
面白度 ★★
主人公 英国中流階級をドロップアウトした若きパイロットのニール・マロリーと第一次大戦当時の撃墜王で、現在は郵便飛行を請け負っている中年男のサム・ハナ。
事件 マロリーはハナの助手を務めていた。ところがアマゾン上流の伝道本部がインディオに襲われ、尼僧たちが虐殺されたという情報が届いた。マロリーは、政府軍に雇われたハナや、尼僧の妹を気遣う女優ジョアンナとともに、インディオとの戦いに巻き込まれるが……。
背景 主人公たちが女性の言う通りに危険地帯に入って、原住民と戦うプロットは、かなり安易なもの。かつてのB級西部劇で、インディアンを次々に殺すという話と同じようなものである。ただし相変わらず冒険小説愛好家を泣かせるコツはきちんと抑えている。

邦題 『パスコーの幽霊』
原作者 レジナルド・ヒル
原題 Pascoe's Ghost(1979)
訳者 秋津知子
出版社 早川書房
出版年 1983/4/15
面白度 ★★★★
主人公 長めの中編「パスコーの幽霊」と6本の短編からなる短編集。すべてにダルジール警視とパスコー警部が登場するわけではないが、冒頭と掉尾を飾る作品に二人が活躍する。
事件 表題作は、失踪した女性のイヤリングが一年後に警察に送られてきて――、という本格物の作品。その他「屋根裏のトランク」、「リオデジャネイロの講演」、「女権拡張論者の災難」、「スノウボール」、「脱出経路」、「ダルジールの幽霊」を含む。ラストの短編を除くとアイディア・ストーリーだが、軽くないのがこの人の特徴だろう。
背景 短編集として構成の妙が冴えている。ダルジール・ファンとしては、彼の魅力がよく出ている、やはりラストの「ダルジールの幽霊」が面白い。

邦題 『氷雪のゼルヴォス』
原作者 コリン・フォーヴズ
原題 The Nights of Zervos(1980)
訳者 黒岩俊一
出版社 東京創元社
出版年 1983/2/25
面白度 ★★
主人公 破壊工作のために東欧に潜入したイギリス人マコーマー。
事件 1941年4月、マコーリーはギリシャ本土へ向かう客船に乗り込んだ。当時のギリシャはイタリアとだけ戦争状態にあったので、三人のドイツ人がその船にいたとしても不思議ではないのだが、彼らの真の目的は、戦略上の要地であるゼルヴォス半島の占拠であったのだ。偶然その秘密を知ったマコーマーは阻止すべく――。
背景 多くの冒険小説作家は、現代物ばかりでなく、時代を第二次世界中に設定した戦争物にも手を染めている。ただ一風変わっているのは、ヒトラーが宣戦布告する直前のギリシャを舞台にしていること。この状況設定はうまいのだが、マコーリーの人間的魅力はイマイチ。

邦題 『ペテルブルグから来た男』
原作者 ケン・フォレット
原題 The Man from St.Petersburg(1982)
訳者 矢野浩三郎
出版社 集英社
出版年 1983/1/25
面白度 ★★★
主人公 一匹狼のテロリスト、フェリクス。
事件 第一次世界大戦が勃発しそうな1914年、フェリクスは密かにロンドンへ潜入した。彼の目的は、英露同盟を阻止し、露側使節の代表者を暗殺することだった。というのも、英露同盟が成立すると、ロシア人民を戦争に巻き込むと信じていたからだ。ところが同盟を希望する英側代表のウォールデン伯の妻が、フェリクスのかつての恋人だとわかったのである。
背景 フォレットの筆力は相当なものだ。したがって不自然さのあるプロットでも(恋人が伯爵の妻であったり、妻の娘がXXであったりするものの)、ついつい読まされてしまう。冒険小説というよりは男性向けゴシック・ロマンのような小説。適度な甘さがよい。

邦題 『配当』
原作者 ディック・フランシス
原題 Twice Shy(1981)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1983/1/31
面白度 ★★★
主人公 物理の先生ジョナサンとその弟。
事件 ジョナサンは、ある日友人からコンピュータのテープを渡された。調べてもらうと、競馬の勝ち馬を予想するシステムの入ったプログラム・テープであることがわかったのだ。しかも極めて当たる確率の高いもの。ところがこのテープを狙ったギャングに襲われ……。
背景 前作『反射』は、二つの事件が並列に語られていたが、この作品は、珍しく直列に語られている。つまりジョナサンの事件(Basicのプログラムが登場するので現在)が最初で、その14年後に弟の事件が扱われている。主人公らの性格、事件の内容などは、どうしても似てしまうので、盛り上がりに欠ける。Basicのプログラムでは、たいした予想も出来ないはずだし。

邦題 『赤い絵は見ている』
原作者 アントニア・フレイザー
原題 A Splash of Red(1981)
訳者 北見麻里
出版社 早川書房
出版年 1983/2/28
面白度 ★★★
主人公 <調査員>ジマイマ・ショア。美人ニュース・キャスター。
事件 ジマイマは、雑誌取材でしばらく留守にするという友人から、彼女のフラットを借りた。休日を一人で過ごしたいからであったが、その夜いやがらせの電話があるなど、不吉な兆候があった。そして友人は行方不明となり、ついには寝室で友人が殺されているのが見つかったのだ。
背景 シリーズ物の三作目。ジマイマの個性的な魅力で持っているミステリー。プロットはロンドン市街の再開発に絡むもの。ロンドンとはいえ、主人公以外は住む人がいない建物が舞台となっているので、現代版ゴシック・ロマンスのようなサスペンスを出すことに成功している。謎はそう独創的ではないものの、うまく処理されている。前半がいささか冗長なのが惜しい。

邦題 『赤い国境線』
原作者 エドワード・ベア
原題 Getting Even(1980)
訳者 朝河伸英
出版社 早川書房
出版年 1983/10/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『誰がロバート・プレンティスを殺したか』
原作者 デニス・ホイートリー&ジョー・リンクス
原題 Qho Killed Robert Prrentice ?(1937)
訳者 土屋政雄
出版社 中央公論社
出版年 1983/1/25
面白度 ★★★★
主人公 見かけ上はシュワップ警部補だが、本当は読者であるあなた。
事件 実物の証拠品が本に付いているミステリーの第ニ弾。昨年出た『マイアミ沖殺人事件』に比べて一段と凝っており、第一作の二番煎じといった安易な作り方はしていない。どこがどう違うかというと、トリックに触れない範囲で書くならば、前作がいわゆる捜査ファイルそのものといった、まともな構成なのに対して、今回はシュワップ警部補に夫の毒殺事件の調査を依頼した私信や、実物大の新聞などを集め、要するに推理のための小道具に変化をもたせていることだ。また表題どおりの”誰が犯人か”の謎ばかりではなく、”何故したのか”という動機も深く追及しているのもいい。
背景 古本で読むと、手掛かりが得られないかもしれない(理由はいわないが)。

邦題 『マリンゼー島連続殺人事件』
原作者 デニス・ホイートリー&ジョー・リンクス
原題 The Malinsay Massacre(1938)
訳者 土屋政雄
出版社 中央公論社
出版年 1983/4/25
面白度 ★★★
主人公 読者であるあなたが探偵という捜査ファイル・ミステリーの三作目。これまでの見かけ上の探偵、シュワッブ警部補は、今回は事件をホイートリーに紹介するだけである。
事件 第五代マリンゼー伯爵の怪死が報じられた。密室の中でのガス中毒死であったが、どのような方法で殺されたのか不明であった。第六代マリンゼー伯爵には、第五代マリンゼー伯爵の弟ヘンリーがすぐに就任したが、彼は犯人を捕まえる必要があった。そこで彼の息子ウィリアムが島へ呼ばれたが、そのウィリアムも殺された。そのうえ、ヘンリーの娘も、ヘンリー自身も殺されてしまったのだ。犯人は誰だ? そして犯行の目的は?
背景 第三作ということで、かなり難しい問題になっている。謎の設定にも無理があるが。

邦題 『新・黒魔団』
原作者 デニス・ホイートリー
原題 Strange Conflict(1941)
訳者 片岡しのぶ
出版社 国書刊行会
出版年 1983/5/25
面白度 ★★★
主人公 ド・リシュロー公爵。白魔術師でもある。
事件 ド・リシュロー公爵とキュスト卿は午後8時に晩餐を始めた。戦争は始まっており、ロンドンは数週間空襲に見舞われていた。二人の話題は、ナチスが黒魔術を使って、輸送船のルート情報を盗んでいるらしいということであった。リシュローはさっそく調査を開始し、<ハイチの大魔術師>と対決する。後半はハイチが舞台となる。
背景 黒魔術シリーズの第二弾で、『黒魔団』の続編。作者が「私が書きたいと思うものが大衆の望んでいるものだ」というだけあって、通俗的ながら英国人好みの内容。つまり冒険小説+スリラーにオカルト的色彩を施しており、私のような常識的人間でも予想外に楽しめた。

邦題 『娘を悪魔に』
原作者 デニス・ホイートリー
原題 To the Devil - A Daughter(1953)
訳者 根元政信
出版社 国書刊行会
出版年 1983/6/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『手掛かりはここにあり』
原作者 デニス・ホイートリー&ジョー・リンクス
原題 Herewith the Clue!(1939)
訳者 土屋政雄
出版社 中央公論社
出版年 1983/7/20
面白度
主人公 捜査ファイル・シリーズの4作目であるが、シリーズ最後の作品でもある。これまでと同じく謎を解く探偵役は読者である。
事件 舞台はロンドン市内のミルキーウェイ・クラブ。IRAテロリストの巣窟といわれ警察が手を入れようとした矢先、クラブは爆破され経営者は射殺された。だが秘密の部屋には数々の証拠が残されていた。証拠から消去法により、犯人を追いつめていく。
背景 プロットが極めて単純になっている。つまり容疑者14人のうち、秘密の部屋に残っていた物的証拠から犯人を絞っていくというもの。限りなくパズルに近く、物語はほとんどない。いわゆるタネ切れというもので、最後の作品になったのもむべなるかな、である。

邦題 『悪魔主義者』上下
原作者 デニス・ホイートリー
原題 The Satanist(1960)
訳者 小林勇次
出版社 国書刊行会
出版年 1983/7/25、8/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ナチス黒魔団上』上下
原作者 デニス・ホイートリー
原題 They Used Dark Forces(1964)
訳者 根元政信
出版社 国書刊行会
出版年 1983/10/25、11/25
面白度 ★★
主人公 諜報活動家のグレゴリー・サリュースト。
事件 グレゴリーは、第二次大戦中ナチス・ドイツが開発中のロケットに関する情報を得るため、北ドイツに潜入した。ドイツの秘密仲間との接触には成功するが、グレゴリーは事故にあい……。
背景 黒魔術小説を得意とした著者のナチス物。ただし『新・黒魔団』などのように、ナチスが黒魔術を戦争に利用するというプロットを持つ小説ではない。解説に書かれているように「魔術がおよそ戦争向きではない」ということで、魔術の要素は少ないし、かといって冒険スパイ小説の要素もあまりない。メインの内容は、軍人でもある著者がナチをどのように見たかにあり、ナチの内幕をゲーリングを介して語っている。その部分は興味深く、軍事小説というべきか。

邦題 『北京暗殺団をつぶせ』
原作者 アダム・ホール
原題 The Pekin Target(1981)
訳者 朝河伸英
出版社 早川書房
出版年 1983/7/31
面白度 ★★
主人公 英国情報部員のクィラー。
事件 クィラーは北京へ飛んだ。見掛けは中国首相の葬儀に出席するためだが、本当の目的は、英国情報部員をロンドンまで追跡してきて殺しを実行した暗殺者を北京で探すためであった。ところが外相が爆死し、クィラーも中国人に狙われた。彼はからくも脱出し、韓国に潜入するが……。
背景 原書ではシリーズ11冊目(邦訳は7冊目)。著者は1965年にクィラー・シリーズの第一作『不死鳥を殪せ』を書き、本書まではコリンズ社から出していたが、次作からは他社に代わっている。米ソがデタント時代になり、シリーズの性格を変える必然性が増したのであろう。クィラーは本作では相変わらずハードな仕事をこなしているが。

邦題 『ゲスリン最後の事件』
原作者 フィリップ・マクドナルド
原題 The List of Adrian Messenger(1959)
訳者 真野明裕
出版社 東京創元社
出版年 1983/5/20
面白度 ★★★
主人公 アントニー・ゲスリン大佐。
事件 アドリアン・メッセンジャーは、一枚の紙切れを持ってロンドン警視庁の友達を訪れ、そのリストに書かれている十人の生死を調べてくれと頼んだ。ところがアドリアン自身が飛行機墜落で死んでしまったのだ。友人が調べてみると、ほとんどの人が事故死になっていることがわかった。彼はゲスリンに相談する。十人を結ぶものは何か? 犯人の動機はなにか?
背景 典型的なミッシング・リンク・テーマの作品で、前半が本格物、後半がスリラーという設定。原書が出た当初、作家の都筑氏がほめていた。著者の最後の作品なので訳題は表題のようになったが、後年原書と同じ『エイドリアン・メッセンジャーのリスト』と改題された。

邦題 『雪原の炎』
原作者 アリステア・マクリーン
原題 A Thabasca(1980)
訳者 小倉多加士
出版社 早川書房
出版年 1983/2/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『智勝寺殺人事件』
原作者 ジェイムズ・メルヴィル
原題 The Wages of Zen(1979)
訳者 田中昌太郎
出版社 中央公論社
出版年 1983/8/25
面白度 ★★★
主人公 兵庫県警の大谷本部長。
事件 事件は、智勝寺という禅寺で、禅の修行をしている外国人五人の中の一人、イギリス人のオールド・ミスが殺されるというもの。著者(ブリティッシュ・カウンシルの元館長で、滞在11年のイギリス人)の名が記されていなければ、まず日本人作家の作品と間違えるほど、1970年代初めの日本や日本人が適確に描写されている。
背景 というわけで、本書は、単なる異国趣味から書かれた、日本を舞台にした怪しげな翻訳ミステリーではない。英国小説の伝統にのっとった典型的な風俗ミステリーであり、この点では確かに楽しめるが、反面、謎はほとんど無きに等しい。もう少しトリッキーな作品であってほしかった。

邦題 『マクシム少佐の指揮』
原作者 ギャビン・ライアル
原題 The Conduct of Major Maxim(1982)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1983/9/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『マダム・タッソーがお待ちかね』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 Waxwork(1978)
訳者 真野明裕
出版社 早川書房
出版年 1983/6/30
面白度 ★★★★
主人公 クリッブ巡査部長
事件 1888年6月のロンドン。高級写真館主の妻ミリアムが、同写真館の助手を毒殺したかどで裁かれていた。ミリアムは助手から脅迫されており、かつミリアムも罪を自白していたため、絞首刑に決定した。しかし一枚の写真が内務大臣に届いた。そこにはミリアムの犯行ではありえない証拠が写っていたのだ!
背景 これまでの作品とは異なり、今回はスポーツを扱っていないが、例によって後期ヴィクトリア朝の雰囲気はうまく出ている。常套手段ながら、死刑執行日までに事件が解決するかというプロットはサスペンスを高めている。マダム・タッソー館が薬味としてきいている。

邦題 『偽のデュー警部』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 The False Inspector Dew(1982)
訳者 中村保男
出版社 早川書房
出版年 1983/10/31
面白度 ★★★★
主人公 偽のデュー警部(本当は歯科医のウォルター)。
事件 デュー警部とは、殺人鬼クリッペン博士を1910年に逮捕した実在の有名な人物。ウォルターは女優の妻を密かに殺害する目的で、大西洋上に浮かぶ豪華客船に乗り込んだが、ふとしたはずみでデューと名乗ってしまった。ところがこの船中で実際に怪死事件が起こり、船長の要請で、偽のデュー元警部が調査を行なうことになってしまったのだ。
背景 このような倒叙形式(ウォルターによる妻殺害計画)ミステリーが、途中から謎解き小説に変わっていく構成がユニークだが、それ以上に感心したのは、風俗ミステリーとパズラーの面白さが、巧みに混ざりあったいることだ(たとえばチャップリンの扱いの見事なこと!)。

邦題 『サバイバル・ゲーム』
原作者 ジェイムズ・リー
原題 The Ludi Victor(1980)
訳者 島田三蔵
出版社 早川書房
出版年 1983/7/31
面白度 ★★★★
主人公 ビジネス・コンサルタントの”わたし”。
事件 保険会社がコンピュータを駆使して、ここ数年の不審な死を調査したところ、意外な事実がわかってきた。契約者はすべて加入から一年以内の若者で、欧州各国の山野で死亡しているのだ。陰謀ではないか? と気づいた保険会社の社長から、わたしは調査を依頼されたのである。
背景 1980年のCWA最優秀新人賞受賞作。この冒頭の謎がまず魅力的である。そして中盤に入ると早々とこの謎を解き明かすが、このあたりの語り口もうまいものである。その後はゲームの勝者は誰であるかを探すことになる。最後にはドンデン返しもあるが、これはなくもなが。第一作ということもあり、少し詰め込み過ぎの気味がある。

邦題 『リトル・ドラマー・ガール』
原作者 ジョン・ル・カレ
原題 The Little Drummer Girl(1983)
訳者 村上博基
出版社 早川書房
出版年 1983/11/15
面白度 ★★★★
主人公 英国人女優のチャーリイ。
事件 プロットは単純。イスラエル秘密情報部は、パレスチナの爆弾テロの英雄ハリールを誘き出すため、ひとつの計画を実施した。それは、チャーリーをスパイに仕立て、ハリールの弟の恋人役を演じさせようとするもの。ハリールはこの計画に引っかかるか?
背景 話の筋がわかりやすいため、最近のル・カレの作品としては、かなり読みやすい。特に導入部の50頁は快調である。だがそこからの400頁は、チャーリーをスパイに仕立て、敵地に送り込むという話が延々と続くので、さすがに飽きることもある。パレスチナも被害者であるという認識は常識的なものだと思えるが、ル・カレがそう考えるようになったのは喜ばしい。

邦題 『レ・ファニュ傑作集』
原作者 ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ
原題 独自の編集
訳者 小池滋・斎藤重信
出版社 国書刊行会
出版年 1983/6/30
面白度 ★★
主人公 3本の短編を収録している。
事件 「アイルランドのある伯爵夫人の秘めたる体験」は同じ著者の長編『アンクル・サイラス』の元になった短編。密室トリックが使われている。一気に読めるが、長編を読んでいたからか、長編の方が出来が良い。次の短編は「タイローン州のある名家の物語」で、『ジェイン・エア』と共通のプロット。秘密の妻を屋敷の中に隠しておいて、若い妻と結婚生活を続ける男の話。最後が「夢」。死んだと思っていた男が生き返り……、という展開の短編だが、つまらなかった。
背景 傑作集と表題にあるものの、出来は物足りないが、それでも中編に近い最初の2本はそれなりに面白い。もっと面白い短編があるらしいが……。

邦題 『乙女の悲劇』
原作者 ルース・レンデル
原題 A Sleeping Life(1978)
訳者 深町眞理子
出版社 角川書店
出版年 1983/3/25
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのウェクスフォード警部。
事件 今回の事件は、女性の刺殺死体が潅木の茂みで見つかったというもの。被害者は20年前にこの町を出た女性で、ロンドン住まいまではすぐにわかったが、それ以外の情報はさっぱり集らなかった。正確な住所も、職業も、まったくわからなかった。どうやら偽名を用いていたらしい。
背景 語り口がやはりうまい。平凡な導入部のはずなのに、一頁めからついつい読まされてしまう。途中、捜査が停滞すると、警部の娘の離婚騒動などをも持ち込んできて、読者を飽きさせない。実際この情報社会においては、冷静に考えるとかなり無理な物語設定なのだが、それでも許せる気になってしまう。

邦題 『若者は恐れずに歌った上 マーカム家の海の物語1』
原作者 ジョン・ウィリアムズ
原題 The Privateer(1981)
訳者 出光宏
出版社 至誠堂
出版年 1983/12/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『南海に祖国の旗を』
原作者 アレグザンダー・ケント
原題 Command a King's Ship(1973)
訳者 高橋泰邦
出版社 早川書房
出版年 1983/2/15
面白度 ★★
主人公 海の勇士ボライソー。シリーズの5作目。
事件 今回のボライソーの活躍は大西洋ではなく、インド洋や南シナ海である。アメリカ独立(1783年)の翌年、ボライソーはアンディーン号の艦長に任命された。この艦は以前指揮したファラロープ号と同じフリゲート艦であり、彼の任務はインドのマラドスに急使を送るとともに、かの地で英国の権益を守ることであった。
背景 このシリーズの特徴である激しい戦闘場面は、今回も盛りだくさんであるが、ひとつ珍しい点は、ヒロインとはいえないものの、ボライソーにさる女性が絡むことである。時はアメリカ独立戦争とフランス革命との間であり、ボライソーにとっても平和な時代であったというべきか。

邦題 『コーンウォールの若獅子』
原作者 アレグザンダー・ケント
原題 Midshipman Bolitho and the 'Auen-ger'(1978)
訳者 高橋泰邦
出版社 早川書房
出版年 1983/12/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『漂流航海・死闘の41日』
原作者 C・ノードホフ&J・N・ホール
原題 Men against the Sea(1934)
訳者 海津正彦
出版社 三崎書房
出版年 1983/12/25
面白度 ★★★
主人公 帆船バウンティ号の船長ブライ。物語は同乗の軍医の手記という形式で語られる。
事件 イギリス帆船バウンティ号の反乱は今日まで本や映画でたびたび取り上げられている。その理由は、反乱の原因はいまだによくわからないうえに、反乱の首謀者クリスチャンや追放された艦長ブライのその後の行動が、波乱万丈のロマンに満ちているためであろう。例えばブライはわずか7メートルたらずのランチに乗り込み、18名の乗組員を指揮して3600マイルも漂流しながら、無事オランダ領チモール島にたどり着いている。本書はその漂流を小説として描いたものである。
背景 フィクションとしては心理描写の面で物足りなさもあるが、生け捕った鳥や魚を生のまますべて食べてしまうエピソード一つとっても、その事実の凄惨さに圧倒されてしまう。

邦題 『財宝輸送団を拿捕せよ』
原作者 アダム・ハーディ
原題 Fox7:Court Martial(1973)
訳者 高永洋子
出版社 三崎書房
出版年 1983/9/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『遠い船影 ラミジ艦長物語16』
原作者 ダドリ・ポープ
原題 Ramage's Signal(1980)
訳者 出光宏
出版社 至誠堂
出版年 1983/3/10
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『孤島の人質 ラミジ艦長物語17』
原作者 ダドリ・ポープ
原題 Ramage and the Ranegade(1980)
訳者 影山栄一
出版社 至誠堂
出版年 1983/7/1
面白度  
主人公 

事件 


背景 


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