邦題 『ケインとアベル』上下
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 Kane and Abel(1979)
訳者 永井淳
出版社 新潮社
出版年 1981/5/25
面白度 ★★★
主人公 アメリカ、ボストン生れのケインとポーランドの片田舎で生れたアベル。二人は1906年の同月同日に生れた。
事件 アベルはアメリカに移住した後に苦労してホテル王になった。一方ケインは出世街道を順調に歩んで大銀行の頭取になる。物語は、この二人の成功と争いを、第一次世界大戦からベトナム戦争中のアメリカを背景にして、実に興味深く描いている。
背景 『百万ドルをとり返せ!』でデビューしたアーチャーの三作目。素人作家がプロ作家として認められるためには第三作が大切だと公言していただけに、著者の自信作といってよい。ミステリー色はいたって薄いが、ストーリイ・テリングの冴えには脱帽だ。

邦題 『スパイを捕えろ』
原作者 エリック・アンブラー編
原題 To Catch a Spy(1964)
訳者 北村太郎他
出版社 荒地出版社
出版年 1981/3/15
面白度 ★★★
主人公 スパイ小説の巨匠アンブラーの珍しいアンソロジー。
事件 収録された作品は7本、それにアンブラーの序文「ごく短いスパイ小説史」がついている。「いやな相手」(バカン)、「踊り子ジューリア・ラッツァーリ」(モーム)、「I Spy」(グリーン)、「ベオグラード、1926年」(アンブラー)、「バラと拳銃」(フレミング)、「殺しが丘」(ギルバート)と有名どころが多く、ほとんど雑誌または他のアンソロジーで読んだことがあった。唯一「最初の特使」(コンプトン・マッケンジー)だけは初見。ギリシャらしい中立国における情報活動を淡々と描いた中編で、リアリティはあるが、それほど面白くはなかった。
背景 編者によれば、スパイ小説はチャイルダーズの『砂州の謎』から始まるそうだ。

邦題 『チャーチル・コマンド』
原作者 テッド・ウィリス
原題 The Churchill Commando(1977)
訳者 菊池光
出版社 東京創元社
出版年 1981/5/1
面白度 ★★★
主人公 <チャーチル・コマンド>。暴走族やポルノ・ショップの元締めといった社会の悪者を襲う謎の右翼。
事件 「われわれの社会生活を脅かす危険についてイギリス国民の注意を喚起する」という声明文が新聞社に届けられ、<チャーチル・コマンド>という署名が記されていた。警察に代わって悪を糾してくれるため、大衆は共感を持ちはじめたが……。
背景 前半が面白い。社会的悪者をいじめる行為がいかにもイギリス的というか、ユーモアがあってなんとなく奥ゆかしい。それがやがて恐怖の右翼へと変化していく展開はユニーク。ファシズムの怖さをエンタテインメントとして扱った異色作だが、後半にはもう少し謎がほしい。

邦題 『贋金シンフォニー』
原作者 ポーリン・G・ウィンズロウ
原題 Copper Gold(1974)
訳者 浅羽莢子
出版社 早川書房
出版年 1981/8/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『リスボン、赤い夏』
原作者 マーティン・ウォーカー
原題 The Infiltrater(1978)
訳者 篠原慎
出版社 角川書店
出版年 1981/3/5
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『13の判決』
原作者 英国推理作家協会編
原題 Verdict of Thirteen(1979)
訳者 真野明裕他
出版社 講談社
出版年 1981/5/15
面白度 ★★★★
主人公 英国探偵作家クラブに所属する作家のアンソロジー。
事件 編者シモンズによれば「なんらかの形で陪審制度とかかわりのある内容を持った短編」を集めたもの。したがって陪審員団は必ずしも法廷にいる必要はなく、変化に富んだ短編集になっている。顔ぶれは一流作家ばかりが13人集っている(長編未紹介の作家はG・バトラー一人)。うち6人が女性作家で、英国ミステリー界においていかに女性が活躍しているかよくわかるが、内容的にもP・ハイスミスの「猫の獲物」やP・D・ジェイムズの「大伯母さんの蝿取り紙」はすばらしい。
背景 毎年出ていると誤解されそうだが、同クラブ編の本は1932年に設立されて以来、三冊目だそうだ。なおカバーには英国推理作家協会とあるが、これは英国探偵作家クラブの誤記。

邦題 『デスーザ警部と消された証人』
原作者 フレニイ・オルブリッチ
原題 Desouza Pays the Price(1978)
訳者 皆藤幸蔵
出版社 早川書房
出版年 1981/5/15
面白度 ★★★
主人公 ボンベイ警察の犯罪捜査部長デスーザ主任警部。9人の子持ちである。
事件 大実業家シャーの妻が死亡した。ところが彼女は殺されたのだという電話があり、デスーザは火葬場に駆けつけた。警察が死体を引き取って検視をすると、病死ではなく刺殺であることがわかったのだ。だが本格的な捜査を始めたデスーザは何者かに襲撃されたうえに、シャー邸の守衛やシャー夫人の乳母が殺されるなど、次々と不可解な事件が発生したのだ。
背景 ボンベイ警察の警部といえばキーティングのゴーテ警部が有名だが、デスーザはその後輩といってよく、本書はシリーズ第1作。本格的な謎解き小説や警察小説を期待すると、雑なプロットに失望するはずだが、風俗ミステリーと割り切ればそれなりに楽しめる。

邦題 『裏切りのノストラダムス』
原作者 ジョン・ガードナー
原題 The Nostradamus Traitor(1979)
訳者 後藤安彦
出版社 東京創元社
出版年 1981/7/24
面白度 ★★★
主人公 エバーハート(ハービー)・クルーガー。ドイツ生れの英国海外情報局職員で、公文書館記録管理課長補佐。体つきが人並みはずれて大きいため”ビッグ・ハービー”と呼ばれている。しかし鋭敏で繊細な神経の持ち主である。
事件 ある日、ロンドン塔にやってきたドイツ人女性が、1941年に夫がここで処刑されたと言い立てた。ハービーが調べてみるとそのような事実はみつからなかったが、ノストラダムスの大予言を利用したナチスの大戦中の陰謀が浮かび上がってきたのだ。
背景 過去の謀略と現在の話が適宜語られる。過去が明らかになると新しい現在が始まるというプロットは面白い。でも強引すぎるプロット? というわけで★一つ減らした。

邦題 『ゴルゴダの迷路』
原作者 ジョン・ガードナー
原題 Golgotha(1980)
訳者 水上峰雄
出版社 新潮社
出版年 1981/12/25
面白度 ★★★
主人公 滞米中であった英国の秘密情報部員ポール・ファデン。
事件 199X年、ソ連は突然欧州に侵略した。イギリスも国内の混乱を鎮めるため、首相はソ連の勢力下に入ることを決断した。アメリカは孤立してしまったのだ。このためアメリカは、起死回生の秘密計画を実行することにした。”ゴルゴダ”というその計画とは、以前からイギリスに潜入させていたスパイの潜在意識に埋め込まれている情報をたどって、ある仕事をするというものであった。そして実行者としてポールがイギリスに送られたのだった。
背景 近未来を舞台にし、マインドコントロールを小道具に使ったスパイ小説。このアイディアは映画「影なき狙撃者」に利用されているそうだが、謎解き的興味もあり、それなりに読ませる。

邦題 『緑の地に眠れ』
原作者 ダンカン・カイル
原題 Green River High(1979)
訳者 田村義進
出版社 早川書房
出版年 1981/6/30
面白度 ★★★★
主人公 軍人あがりの銀行員トゥニクリフ。あるとき銀行強盗を撃退したことから、その名前がマスコミで大きく取り上げられた。
事件 その報道が契機となり、女宣教師と元英軍将校の二人がトゥニクリフに面会を求めた。二人は、第二次大戦直後にボルネオの密林に墜落した亡父の飛行機には巨額のルビーが隠されていたというのだ。彼らは、欲にかられたこともあり、宝捜しをすることにしたが……。
背景 アマチュア人間が、ふとしたことから宝捜しに巻き込まれるという典型的な英国風冒険小説。密林に不時着した飛行機が、大木の上に着地(着木?)していたという設定がユニークなうえに、筆の運びも軽快そのもので、一気に読める。小品なれど、オススメ品。

邦題 『顔役を撃て』
原作者 ダン・キャヴァナー
原題 Duffy(1980)
訳者 田村義進
出版社 早川書房
出版年 1981/7/10
面白度 ★★★
主人公 ニック・ダフィー。同僚にはめられて警察を追われ、警備コンサルタント業を始めている。バイセクシャルな探偵。結婚は断わられたが、キャロルという警官の恋人がいる。
事件 玩具などの輸入販売業者の妻が、突然何者かに襲われた。ただしレイプも暴力もなしで、背中を3インチ切られただけだったが、狙いはお金の要求であることがわかってきた。輸入販売業者は警察に頼むものの、出し抜かれることばかりで、ついにダフィーに事件を持ち込んだのだ。
背景 ロンドンの歓楽街ソーホーを舞台にした私立探偵小説。いくらでも残虐に、あるいは猥雑に書けるプロットなのだが、描写は意外とあっさりしている。死人も一人もでない。「知は力なり」というギャングの親分が登場したりして、いかにも英国ミステリーらしいシャレタ面を見せている。

邦題 『ケイティ殺人事件』
原作者 マイケル・ギルバート
原題 Death of a Favorite Girl(1980)
訳者 大熊栄
出版社 集英社
出版年 1981/9/25
面白度 ★★★★
主人公 特別な名探偵はいないが、強いていえば首都警察の警視正チャールズ・ノット。
事件 事件は平和な村(クリスティが好んだ舞台にそっくり!)で起きた。被害者の名はケイティといい、評判のTVタレント。その彼女が村のダンス・パーティーに出席後、撲殺死体で発見されたのである。さっそくケイティの過去が洗われ、容疑者には彼女のボーイフレンドが浮かびあがってきた。しかし彼にはアリバイが――。
背景 帯には『アクロイド殺害事件』、『ギリシャ棺の秘密』と比肩される傑作と書いてある。まさかこれを真に受ける人はいないだろうが、それでもフーダニットの本格ミステリーで、地味ながら伝統の重みを感じさせる秀作に仕上がっている。

邦題 『逃亡飛行』
原作者 ジョン・クライブ
原題 The Last Liberator(1980)
訳者 中山善之
出版社 文藝春秋
出版年 1981/8/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ジュネーヴのドクター・フィッシャーあるいは爆弾パーティ』
原作者 グレアム・グリーン
原題 Doctor Fischer of Geneva or the Bomb Party(1980)
訳者 宇野利泰
出版社 早川書房
出版年 1981/5/15
面白度 ★★★
主人公 二名。一人は、新しい歯磨を発明して莫大な資産を築き上げたあと、世間との接触を絶ちスイスのレマン湖畔の邸宅に孤独な生活を送っているドクター・フィッシャー。もう一人は、同じスイスのチョコレート会社に勤務する平凡な事務員のイギリス人アルフレッド・ジョーンズ。
事件 ジョーンズは初老に達しているものの、フィッシャーの一人娘と愛し合って結婚している。一方フィッシャーは、ときどき特定の友人を招いて奇妙なパーティーを開いていた。そして今回はジョーンズが呼ばれてみると……。
背景 比較的短い作品。人間性への深い洞察が含まれているはずなのだが、私のような単なるミステリー・ファンでも、プロットが面白いので、すらすらと読める。

邦題 『漂う提督』
原作者 アガサ・クリスティー他
原題 The Floating Admiral(1932)
訳者 中村保男
出版社 早川書房
出版年 1981/3/31
面白度 ★★★
主人公 英国探偵作家クラブの有志が書いたリレー長編ミステリーなので、単純に主人公を挙げることはできないが、捜査を主に担当するのはラッジ警部。
事件 海に近い小村が舞台。村を横切る川に浮かぶ平底船の中から、退役して少し前にこの村にきた提督の死体が見つかった。心臓が短剣で刺されており、明らかに他殺だったのだ。
背景 リレー長編の執筆には厳しいルールが課せられた。解決部をきちんと考えたうえで担当の章を執筆することと、前章の担当者が残した手掛かりはすべて忠実に取り扱うということである。つまりこの作品は、作家自身が推理ゲームを楽しむために書かれている。結果は、それなりにまとまっているが、作品そのものより、個人プレーを楽しむべきであろう。

邦題 『盗まれた夜』
原作者 ウィンストン・グレアム
原題 The Walking Stick(1967)
訳者 岡本浜江
出版社 早川書房
出版年 1981/2/15
面白度 ★★★
主人公 三人姉妹の真ん中のデボラ・デイトン。両親も姉妹も医者というエリート一家の中で、彼女だけはロンドン競売界の名門商社に勤める。もともと学級肌でないうえに、小児麻痺に罹って十分に勉強できなかったからである。
事件 デボラは障害者であるがゆえに、恋を半ばあきらめていた。だが、あるパーティーで若い画家と知り合った。彼は強引とも思える方法でデボラに接近してきたのである。二人はやがて結婚し、彼女は不本意ながらも宝石泥棒に巻き込まれるが……。
背景 「小説はとにかく面白くなくては」と豪語するだけに、デボラの心理・行動があざやかに描写されている。30枚の短篇にしかならない題材を長編に引き伸ばしたと言えなくもないが。

邦題 『勇者たちの島』
原作者 ジェイムズ・グレアム
原題 A Game for Heroes(1970)
訳者 安達昭雄
出版社 角川書店
出版年 1981/3/10
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ブルガリア特電』
原作者 アンソニー・グレイ
原題 The Bulgarian Exclusive(1976)
訳者 田中融二
出版社 文藝春秋
出版年 1981/10/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ミグ−25/フォックスバット』
原作者 ピーター・ケイブ
原題 Foxbat(1978)
訳者 信太英男
出版社 サンリオ
出版年 1981/8/10
面白度 ★★★
主人公 特にいないが、強いてあげれば、亡命を目論むソ連のボロウスキー中尉。
事件 ソ連の戦闘機(暗号名フォックスバット)が最近大幅に改良されたという情報がCIAにもたらされた。そこでCIAは、フォックスバットを国外に持ち出して性能をチェックすることにした。つまり戦闘機に搭乗しているボロウスキー大尉を、戦闘機ごと亡命させようとした。作戦はまさに成功と思われたとき、米ソはデタントになり、中止命令が出た!
背景 5年ほど前に実際に起こった、ソ連空軍のベレンコ中尉がミグ―25で函館に亡命した事件にヒントを得て書かれたもの。典型的な冒険スパイ小説といってよく、スパイ小説部分は面白くないものの、後半の脱出行は楽しめる。

邦題 『ゼロの罠』
原作者 ポーラ・ゴズリング
原題 The ZeroTrap(1979)
訳者 秋津知子
出版社 早川書房
出版年 1981/6/15
面白度 ★★★
主人公 天文学者のスキナー教授と米国将軍の娘ローラ。
事件 中東上空で貨客機が乗っ取られた。乗客は9人。全員薬で眠らされており、気づけば雪原に囲まれた邸宅にいるのだった。一方、犯人側の要求は、300万ドルのお金であったり、オランダの囚人の解放などであったりと奇妙なものであった。だが囚われていた乗客の中から死者がでたのだ。犯人側は誰なのか? 裏切者は誰なのか? さらになぜ誘拐されたのだ?
背景 犯人側や裏切者は誰かという謎は、それほど意外性があるわけではない。それよりも、一見冴えない中年男がすばらしい活躍をするという、いかにもイギリス冒険小説の主人公にふさわしいスキナーが魅力的である。また主人公らの恋愛物語も楽しめる。

邦題 『プリンス・ザレスキーの事件簿』
原作者 M・P・シール
原題 独自の編集
訳者 中村能三
出版社 東京創元社
出版年 1981/1/23
面白度
主人公 最初の安楽椅子探偵として名高いプリンス・ザレスキー。
事件 独自の編集によって編まれた短篇集。ザレスキーの登場する短篇4本、カミングス・キング・モンク物3本、J・ゴーズワースとの共作短篇1本から構成されている。つまり標題とは異なり、M・P・シールの全貌がわかる仕組みになっている。一読した限りでは、極端に個性の強い文体に唖然とさせられる。たとえば彼の代表作と呼べる「S・S」(題名からして奇妙!)には、聖書やギリシャ神話などの知識を盛り込んだ凝った文章が六頁にわたって改行なしで続くという具合。
背景 訳者の苦労は十分に推察できるが、私はさっぱり楽しめなかった。ヘンなミステリーが好きな人、クラシック・ミステリーが好きな人は、当然もっと★が多くなるはずだ。

邦題 『わが職業は死』
原作者 P・D・ジェイムズ
原題 Death of an Expert Witness(1977)
訳者 青木久恵
出版社 早川書房
出版年 1981/1/31
面白度 ★★★★★
主人公 お馴染みの詩人警官ダルグリッシュ警視長。
事件 英国の小村で起きた殺人事件。舞台設定は典型的なイギリス・ミステリーといってよい。殺されたのはこの村にある研究所の部長で、彼は実力はあるものの、性格の悪さが災いして、多くの敵がいることがわかった。
背景 ダルグリッシュの人柄も、作者自身の作風も地味なだけに、例によって最初はとっつきにくいが、登場人物の克明な描写によって、人間関係がはっきりしてくると、がぜん小説としての面白さが増してくる。そのうえ伏線や謎の設定も巧みに配慮されており、堂々たる本格ミステリーでもある。推理と小説の見事な融合に、酔わされるだろう。

邦題 『ザ・400 フォーハンドレッド』
原作者 スティーヴン・シェパード
原題 The Four Hundred(1979)
訳者 高見浩
出版社 角川書店
出版年 1981/9/30
面白度 ★★★★
主人公 アメリカの四人の若者。英国に渡り、イングランド銀行から大金を騙しとろうとする。
事件 イングランド銀行から信用詐欺をするには、まず信用を得るまでの資金が必要である。そこで彼らは南米で練習を兼ねた小手調べを行ない、めざすイングランド銀行に乗り込んだ。
背景 19世紀後半のヴィクトリア朝を背景にしたミステリー。この時期を背景にしたミステリーに共通の欠点はサスペンスが不足していることか。これはまあ、大英帝国がもっとも栄えた時期とはいえ、現代からみればのどかな時代であったから、物語がのんびり展開するのもやむをえないであろう。本書は、その時代を背景にしながらも、読み出したら巻を措くあたわず、といったサスペンスに溢れている。冒険小説風の物語展開がそれを後押ししているが、たいした新人が現れたものだ。

邦題 『ダイヤモンド・ハンター』
原作者 ウィルバー・スミス
原題 The Diamond Hunters(1971)
訳者 林太郎
出版社 立風書房
出版年 1981/8/10
面白度 ★★
主人公 ダイヤモンド会社の社長に育てられた孤児のランス。
事件 ランスは、社長の長男ベネディクトやその妹トレイシーと共に育てられたが、彼らより頭脳・肉体とも優秀であったため、父と長男は、いつしかランスを嫉妬するようになっていた。そのうえ、遊び半分でトレイシーと抱き合っているところを父に目撃されたから、たまらない。二人のいやがらせは、一層しつこくなった。耐えに耐えたランスであったが……。
背景 もともとイギリスの大衆小説には、サド=マゾヒスティックな傾向がかなりある、とは丸谷才一氏の指摘だが(昭和56年『別冊中央公論』推理小説特集)、アフリカを舞台にしたこの冒険小説などは、まさにその典型といえそうだ。

邦題 『ペテログラード行封印列車』
原作者 オーエン・セラー
原題 The Petrograd Consignment(1979)
訳者 松田銑
出版社 文藝春秋
出版年 1981/8/25
面白度 ★★★
主人公 ドイツ外務省のスパイであるエーラーとそれに対立するロシアの秘密警察部長のクリャーキン。実在のレーニンは狂言回し的存在である。
事件 1917年2月ロシアに革命が起きたとき、チューリッヒにいたレーニンは帰国を決意した。しかし英仏の反対があり、簡単にはいかない。一方ドイツはレーニンの革命を歓迎していたので、エーラーを派遣し、ドイツ経由での帰国を提案した。だがドイツのスパイと非難されるのを嫌ったレーニンは列車を封印したままでドイツを通過したのだ。待ち受けるは、ロシアの秘密警察だが……。
背景 歴史的事実であるレーニンの封印列車を巧みにストーリーに取り入れたスパイ小説。そのうえサスペンス豊かなので一気に読ませるが、推小的な謎が少ないのが残念。

邦題 『キングとジョーカー』
原作者 ピーター・ディキンスン
原題 King and Joker(1976)
訳者 斉藤数衛
出版社 サンリオ
出版年 1981/3/5
面白度 ★★★
主人公 一筋縄ではいかない作者の小説なので主人公といっても困るが、まあ強いてあげれば王女ルイーズか。
事件 舞台は出版時より一年先のイギリス。そのイギリスではビクター二世が国王として君臨し、王室一家は表面的には幸福そのものであった。だが最近、彼らに対して”いたずら”(ジョーカー)が仕掛けられるようになった。初めは他愛ないものであったが、しだいに悪質になり、ついには殺人までに発展したのだ。”犯人”(ジョーカー)は誰か? その動機は?
背景 植草甚一氏はこの作者の著作を反スリラーと読んでいたが、本書もそう言ってよいか。クライマックスがないまま終っているものの、ヘンに印象に残る不思議な作品だ。

邦題 『生きる屍』
原作者 ピーター・ディキンスン
原題 Walking Dead(1979)
訳者 神鳥統夫
出版社 サンリオ
出版年 1981/11/15
面白度 ★★★★
主人公 医薬品会社の実験薬理学者デビッド・フォックス。
事件 デビッドはカリブ海にある島の研究所に派遣された。そこの研究所では、鼠の徳性を高める特殊な物質の実験を担当していたが、その島は秘密警察が支配し、魔法や呪術がはびこる狂気の島であったのだ。そしてある日、掃除婦殺害の容疑でデビッドは逮捕された。彼は、実験に使用していた物質を人体実験に適用するよう強要され……。
背景 サンリオSFから出た3冊目のディキンスンの作品。ある意味では一番ミステリー近い。途中までは謀略小説、冒険スパイ小説のような展開で読ませるが、ラストは謎解き小説にもなっているので驚いてしまう。私はこの作品が一番とっつきやすかった。

邦題 『スパイ・ストーリー』
原作者 レン・デイトン
原題 Spy Story(1974)
訳者 後藤安彦
出版社 早川書房
出版年 1981/9/30
面白度 ★★★
主人公 ロンドン軍事研究本部に出向し、研究職員となっている”わたし”。
事件 わたしの仕事はコンピュータを使った図上演習であるが、そのわたしの身辺に不思議な事件が起こりはじめた。私の分身と思われる人物が現れたり、謎の女性がソ連海軍の軍服を縫っていたりするのだ。知らぬまの陰謀があるのであろうか?
背景 デイトンの作品は物語がわかりにくい。細部に凝りすぎていて本筋が見えないことも多い。でも本作は比較的わかりやすく、最後は冒険活劇で終っている。私のようなストーリー重視の読書派にとっては、とっつきやすい作品だ。また細部でも、例えばクリスティーの本を焼くところなどは面白い。とはいえデイトンの他の作品と比べて、という条件つきである。

邦題 『インペリアル航空第109便』
原作者 リチャード・ドイル
原題 Imperial 109(1977)
訳者 小菅正夫
出版社 サンリオ
出版年 1981/2/10
面白度 ★★★
主人公 高級な乗客を運ぶ空飛ぶ宮殿という呼称がふさわしい飛行艇のインペリアル航空第109便とその乗客たち。
事件 第二次世界大戦が近づいた1939年3月、標題の飛行艇が南アフリカからカイロ、ローマ、サザンプトン経由で、ニューヨークに向けて出発した。乗客にはユダヤ人教授や外交官、詐欺師など12人。そして200万ドルの金塊も積んでいた。7日間の行程だが、その間に、恋あり、事故あり、陰謀ありと、さまざまな事件が起こるが……。
背景 一つの空間に集まっている人々のさまざまな人生を描くというグランド・ホテル形式の変形のような物語構成。まあまあ楽しめる。著者はコナン・ドイルの甥孫だそうだ。

邦題 『スーパータンカーの死』
原作者 アントニー・トルー
原題 Death of a Supertanker(1978)
訳者 尾坂力
出版社 早川書房
出版年 1981/3/31
面白度 ★★
主人公 一人には絞り切れない。妻の不貞に悩む一等航海士と眼病の船長だが、本当の主人公は全長150メートル、載貨重量32万トンのスーパー・タンカー、オーシャン・マモス号だろう。
事件 タンカー業界は不況の波に洗われていた。オーシャン・マモス号も、ペルシャ湾へ向かう途中で契約は破棄され、イギリスへの回航を命じられた。船内の空気は重苦しかったが、濃霧の南アフリカ沿岸で座礁してしまったのだ。しかも海図などの資料は何者かが持ち去ってしまった。
背景 そこそこ楽しめる。海を舞台にした陰謀小説なのだが、物語の構図が単純なので、ストーリーに入りやすい。とはいえこれほどの最新タンカーが簡単に座礁してしまう謎がチャチであるのが大きなマイナス点だ。訳者がいうように、霧が出なかったらどうしたのか?

邦題 『赤い偽装船アントノフ』
原作者 アントニー・トルー
原題 The Antonov Project(1979)
訳者 三木鮎郎
出版社 早川書房
出版年 1981/10/15
面白度 ★★
主人公 組織としての戦いを扱っているため個人的に大活躍する人物はいないが、主人公を強いて挙げれば、まあCIA情報員ベンジャミン・ガラガーとSIS情報員ジュディ・パドンか。
事件 ソ連が不審な新型貨物船を就航させた。目的は何なのか? その疑問を解くため、英米情報部は両国海軍の支援を得て、ある計画に着手した。そしてガラガーとパドンは偽装航空機事故を起し、新型貨物船アントノフに救助されて乗り込むことに成功したが……。
背景 スパイ冒険小説に近い物語設定ながら、007のように敵地に潜り込んで情報員が活躍する場面はほとんどないのは残念。ソ連情報部の対応も紋切り型でサスペンスは盛り上がらない。ただし飛行機事故の救難場面や船舶同士の衝突事故などの描写はそこそこ読ませる。

邦題 『人質はロンドン!』
原作者 J・ハウスホールド
原題 Hostage! London(1977)
訳者 高儀進
出版社 角川書店
出版年 1981/5/20
面白度 ★★★
主人公 国際的なテロリスト集団マグマの中堅幹部。
事件 ストーリーは単純である。マグマが核物質を略奪し、それから作った原爆を密かにロンドンに隠して、英国政府を脅迫し始めた。しかしこのような残虐な計画に疑問を持った主人公は、マグマを裏切って原爆のありかを探し出すというもの。
背景 著者は第二次大戦以前からスリラー小説を書いている作家で、本国ではアンブラーと並ぶほどの存在である。『追われる男』、『影の監視者』に続く三度目の登場。似たようなアイデアの作品にラピエール&コリンズの『第5の騎手』があるが、著者の狙いは極限状態におかれた人間の行動・心理を描くことにあるようだ。物語の展開が単調になっているのが残念。

邦題 『敵』
原作者 デズモンド・バグリイ
原題 The Enemy(1977)
訳者 矢野徹
出版社 早川書房
出版年 1981/2/15
面白度 ★★★★
主人公 イギリス情報部に勤めるマルコム・ジャガード。遺伝子学を専攻する生物学者ペネロープと婚約している。
事件 マルコムは、経済コンサルタントと称して、ペネロープの父親に挨拶するため、彼の豪勢な邸に向かった。父親は成功した実業家だったが、マルコムは情報部が父親を監視しているという不思議な事実に気づいた。しかも彼の過去の情報は、部内での最高機密になっていたのである。謎は解明できなかったが、そのとき、父親は長年仕えてきた召使とともに突然姿を消していた。
背景 前半がいい。特に謎の提出が上手い。鉄道模型の大がかりなレイアウトの出現もうれしい。出だしが良すぎると、解決部が腰砕けになることが多いが、この作品はそうなってはいない。

邦題 『スノー・タイガー』
原作者 デズモンド・バグリイ
原題 The Snow Tiger(1975)
訳者 矢野徹
出版社 早川書房
出版年 1981/11/30
面白度 ★★★
主人公 鉱山会社の専務取締役のイアンだが、雪崩の方がふさわしい?
事件 ニュージーランド南島の小さな鉱山町を雪崩が襲った。巨大なもので、死者は50名を超えた。事態を重く見た政府は審査委員会を開き、調査に乗り出した。その聴聞会では、労働組合や会社の利益を第一とする弁護士からイアンは責任を追及される。雪崩専門家が指摘したとおりであるなら、事前に雪崩を防ぐことが出来たのか?
背景 イアンを巡る陰謀小説や冒険小説といえるが、陰謀は単純なもので、また主人公の魅力もイマイチ。むしろ雪崩の怖さ、恐ろしさを描いたパニック小説、情報小説として読んだほうが楽しい。雪崩発生に関するわかりやすい説明、発生直後の迫力ある描写など、上手いものである。

邦題 『ウィンザー公掠奪』
原作者 ハリー・パタースン
原題 To Catch a King(1979)
訳者 井坂清
出版社 早川書房
出版年 1981/3/15
面白度 ★★★
主人公 ユダヤ系女性歌手ハナ・ウィンター。
事件 ヒトラーは、リスボン滞在中のウィンザー公夫妻を誘拐することを思いついた。英国占領が実現したときに傀儡として王位につけようとしたからである。しかしこの計画を、ベルリンのクラブに出ていたハナが察知し、ウィンザー公に知らせようとベルリンを脱出したのだ。計画の実行者、SS少将、ワルター・シェレンベルグはすぐさまハナを追うが――。
背景 ナチスは確かにこのような計画を考えたふしがあるようだが、その事実から一編のスパイ小説を短時間で書いてしまうのがヒギンズの凄いところか(本作はパタースン名義だが)。ウィンザー公がカッコ良すぎるのが弱点か。

邦題 『暗殺のソロ』
原作者 ジャック・ヒギンズ
原題 Solo(1980)
訳者 井坂清
出版社 早川書房
出版年 1981/12/31
面白度 ★★
主人公 国際的に有名な若きピアニストでありながら、冷酷な殺し屋であるジョン・ミカリとそのミカリに誤って殺された少女の父親モーガン大佐。
事件 ロンドンの夕刻、ミカリは有力者ユダヤ人を抹殺したが、逃亡する際、自転車に乗っていた少女をひき殺してしまった。一方殺された少女の父親は、英国の空軍特殊部隊の猛者モーガン大佐であった。モーガンは復讐を誓い、犯人の捜索を始めた。そして偶然、二人の男を結び付けるのが美人の心理学博士という設定である。
背景 ヒンギス・ファンには、ミカリやモーガンのような人物造型だけで酔ってしまうのかもしれないが、ムードだけでプロットは脆弱で、底が浅いと感じてしまう。

邦題 『ダーティトリック』
原作者 チャップマン・ピンチャー
原題 Dirty Tricks(1980)
訳者 工藤政司
出版社 文藝春秋
出版年 1981/11/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『フィッシャーを殺せ』
原作者 C・フィッツサイモンズ
原題 Reflex Action(1980)
訳者 真野明裕
出版社 文藝春秋
出版年 1981/12/25
面白度 ★★★★
主人公 東欧某国の工作員であったフィッシャー。いまでは亡命してロンドンで平凡な会社員として働いている。妻子あり。
事件 某国の通商大臣が訪問することになった。フィッシャーは以前、その大臣に裏切られて亡命したのだ。大臣側にしてみればフィッシャーが生きていては何が暴露されるかわからない。某国のスパイたちが、大臣の滞在中(10日間)、フィッシャーの命を狙い出したのだ。生き延びられるか?
背景 逃亡と追跡という単純なパターンの古風な冒険小説。しかしそのパターンの中で、手を変え品を変えて危機を作り出すので、一気に読めてしまう面白さ。またあまり血を見ないのもいい(実際一人も死なない)。ラストの意外性もまあまあ。掘り出し物。

邦題 『黄金猿の年』
原作者 コリン・フォーブズ
原題 Year of Golden Ape(1974)
訳者 中野圭二
出版社 東京創元社
出版年 1981/3/20
面白度 ★★★
主人公 ロイド社の調査員サリヴァンとシージャックする英仏二人の殺しのプロフェッショナル。
事件 サウジアラビアの新大臣になった首長が驚くべきことを実行した。パレスチナを奪回するために、イスラエルへの支援を打ち切らなければ石油の供給を50%削減すると通告したのだ。そしてさらに追い撃ちをかけるため、二人の傭兵を雇い、アメリカへ向かう巨大石油タンカーに核爆弾を持ち込んでシー・ジャックしようとしたのだ。
背景 プロットの目新しさ、素早い展開の物語で読ませる。いわゆるストーリー・テラーというのだろう。ただし主役たちにはそれほど魅力はないし、相変わらずの反共主義はやはり鼻につく。なお後年『オイル・タンカー強奪!』に改題された。

邦題 『石の豹』
原作者 コリン・フォーブズ
原題 The Stone Leopard(1975)
訳者 森崎潤一郎
出版社 早川書房
出版年 1981/4/30
面白度 ★★★
主人公 第二次世界大戦中レジスタンスの闘士であった<豹>、現在は政界中枢部に潜入している。その<豹>に対抗するようにパリ警視総監やイギリス人の元情報部員などが活躍する。
事件 ジスカール・デスタン後のフランスは、ミッテランが新大統領になったが、本書ではフロリアン大統領が就任し、西欧一の強国になっていた。だが大統領が訪ソを間近かに控えたパリには、不穏な噂が流れていた。<豹>がクーデターを起すらしいと。そして実際、大統領暗殺未遂事件が起きたのだ。<豹>とは誰なのか?
背景 前半が面白い。物語に一気に引き込まれる。冒険小説だが、<豹>とは誰なのかというパズル小説的な面白さもある。後半もこのレベルを維持したら傑作になっていたのに! 残念。

邦題 『トリプル』
原作者 ケン・フォレット
原題 Triple(1979)
訳者 一ノ瀬直二
出版社 集英社
出版年 1981/1/25
面白度 ★★★
主人公 ユダヤ人のディクスタイン、アラブ人のハッセン、ロシア人のロストフ、という人種の異なる三人の諜報員。
事件 ディクスタインは長年イスラエルのスパイとして働いてきたが、今回の任務は重大なものであった。それは原爆開発に必要なプルトニウムをどんな手段を用いてもよいから手に入れろ、というものであった。だが昔の学生仲間であったハッセン(実はアラブのスパイ)に嗅ぎつけられたり、同じ学生仲間であったロストフ(こちらはロシアのスパイ)に漏れたりして……。
背景 表題のトリプルとは、三人の諜報員が三つ巴となって戦うこと。おそらくウランの積載船が行方不明になった事実から、これだけの長編を書いたのだから、作家としての腕は確かなようだ。

邦題 『利腕』
原作者 ディック・フランシス
原題 Whip Hand(1979)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1981/1/31
面白度 ★★★★★
主人公 シッド・ハレー。騎手であったが落馬して左手が麻痺する。前作の最後では義手をつけることになった。現在は調査員として活躍。
事件 名門厩舎の本命馬が次々と原因不明の負け方をしていた。薬物テストではなにも検出されなかった。この調査を依頼される一方、競馬シンジケートがレースの不正工作をしているのではないかという調査も頼まれる。さらに別れた妻が巻き込まれた詐欺事件の調査にも乗り出し……。
背景 これまでは作品ごとに新しい主人公を創造してきたフランシスだが、本作品で初めて既存の主人公がニ度目の登場となった。1979年の英国推理小説作家協会のゴールド・ダガー賞を受賞した秀作。義手コンプレックスをもつ障害者探偵の心理も巧みに描かれている。

邦題 『再び消された男』
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 Clap Hands Here Comes Charlie(1978)
訳者 稲葉明雄
出版社 新潮社
出版年 1981/10/25
面白度 ★★★
主人公 チャーリー・マフィン。『消されかけた男』でデビューしたときは英国情報部員の窓際族スパイであったが、本作では辞めている。
事件 前作の2年後の事件。欧州でのんびり生活していたチャーリーが、上司の墓参りに再びイギリスに渡ることになった。旅券検査も無事パス、密かに上陸できたと思われた。ところが、前作でチャーリーに大打撃を受けた組織が、彼の入国を知り、大きな罠を仕掛けたのである。
背景 続編であることを当然のように書いているだけに、導入部に多少(初めての読者はかなり?)とまどいを感じるが、チャーリーの反撃が始まる中盤以後の物語展開は相変わらずうまいものである。ただし今回の結末は、悲劇性がぐっと強まっているだけに、前作のような爽快感がない。

邦題 『人形懐胎』
原作者 J・フレイザー
原題 Death in a Pheasant's Eye(1971)
訳者 佐藤智樹
出版社 講談社
出版年 1981/5/15
面白度 ★★
主人公 エイブヤード警視。シリーズの第4弾。
事件 物語はガイ・フォークス・デーに始まる。この日は、1605年英国の議事堂を爆破する陰謀を企て、その直前に逮捕・処刑されたガイ・フォークスに因んで、花火を打ち上げたり、等身大の奇怪な人形を焼くことが行なわれる。ポアロの親友ジャップ警部が「殺人にはもってこいの夜ですな(『厩舎街の殺人』)といっているほどミステリーに関係深い日であるが、エイブヤードが管轄する小村では、焼かれた人形の跡から人間の足が見つかったのだ。
背景 本筋の犯罪に関係がありそうな、なさそうな平凡な事件が同時に進行するというプロットは、前3作と同じ。工夫が足りないともいえるが、まあ、それなりには楽しめる。

邦題 『邪魔な役者は消えていく』
原作者 サイモン・ブレット
原題 Cast in Order of Disappearance(1975)
訳者 飯島宏
出版社 角川書店
出版年 1981/2/25
面白度 ★★★
主人公 チャールズ・パリス。47歳。売れない役者で、お酒と女には弱い。
事件 パリスは、最近ヒマであることもあり、ある女優の頼みを引き受けることにした。その頼みとは、冷たくなった愛人との仲を取り持ってほしいというのだ。しかし相手が問題であった。英国興行界の大物であったからだ。居所すら掴めなかったが、苦労の末、彼の別荘に忍び込んだところ、彼の死体を発見してしまったのだ。
背景 パリス物の第一作。この主人公が個性的で面白い。アル中気味なのだが、テキトーにベッドインしたりしている。遺産問題を核にした軽い謎解き物だが、作者のよく知っている演劇界を背景としているだけに、風俗小説的な面白さも楽しめる。

邦題 『ドーヴァー10/昇進』
原作者 ジョイス・ポーター
原題 Dover Beats the Bond(1980)
訳者 小倉多加志
出版社 早川書房
出版年 1981/10/31
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのドーヴァー主任警部。16年間も主任警部のままである。
事件 今回は、ゴミ集積場で発見された全裸死体の事件。死体は、頭部が焼かれており、そのうえ入れ歯まではずされていた。つまり身元を割り出す証拠がまったくないという難事件であったのだ。ところが死体解剖の結果、事件は意外にも急進展。被害者の胃の中から、特殊なビーズ玉(実はキャンプ場のみで通用する代用硬貨)が見つかり、容疑者はぐっと絞られたからである。
背景 ここまでは運にめぐまれたドーヴァーだが、ここからが大変。例によって捜査の大半はマグレガーにまかせて、珍・迷推理を披露している。果たして首尾よく事件を解決し、表題のように昇進できたのか? まあ、これは読んでのお楽しみ――。

邦題 『ストライカー破壊計画を追え』
原作者 アダム・ホール
原題 The Striker Portfolio(1968)
訳者 朝河伸英
出版社 早川書房
出版年 1981/5/31
面白度 ★★★
主人公 英国情報部員のクィラー。
事件 西ドイツ空軍は攻撃機SK−6を500機所有しているが、それがこの一年間に36機も謎の墜落を起こしていた。すべてが事故とは考えられない。NATOの一員である西ドイツ政府のため、クィラーは事故調査班員になりすまして、秘密裏に調査を始めたのだ。
背景 クィラーはメカにかなり強いし、理屈好きでもある。このクィラーの魅力で読ませるスパイ小説で、物語は平板。36機も墜落しているのに原因不明というのがまず解せない。また墜落地点を線で結ぶと円になるというトリックも、乱歩の某作品を思い出してしまい、驚きは少ない。墜落の真相もありきたりで、”泰山鳴動鼠一匹”な内容だ。ただしラストの拷問シーンは迫力がある。

邦題 『深き森は悪魔のにおい』
原作者 キリル・ボンフィリオリ
原題 Something Nasty in the Woodshed(1976)
訳者 藤真沙
出版社 サンリオ
出版年 1981/5/5
面白度 ★★★
主人公 盗品の美術品売買もする画商のチャーリー・モルデカイ。
事件 チャーリーは、美しき妻ジョハナや用心棒ともにジャージー島で暮らすことにした。ところがこの島で連続強姦事件が発生したのだ。犯人は凶暴で、ゴムのマスクを付け、ヤギのような嫌な臭いがする人間らしい。だが犯人は捕まらないうえに、友人の妻たちが犯され続けた。そしてレイプ野郎の魔の手がジョハナの身にもおよび……。
背景 サンリオSF文庫の一冊。著者はSF雑誌の編集長でもあったので、先入観でSFと勘違いしてしまった。悪魔崇拝シーンが多いのでホラーとしても読めるが、強いてジャンル分けすれば、SFではなくユーモア・ミステリーとなろう。『ジャージー島の悪魔』(角川文庫、三角和代訳)として2015年1月に新訳が出版された。

邦題 『裏切者と朝食を』
原作者 ジョージ・マクスタイン
原題 Traitor for a Cause(1979)
訳者 中山善之
出版社 文藝春秋
出版年 1981/1/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『探偵たちよスパイたちよ』
原作者 丸谷才一編
原題 独自の編集
訳者  
出版社 集英社
出版年 1981/10/25
面白度 ★★★★
主人公 丸谷才一氏の独自の編集によるアンソロジー。
事件 最大の特徴は実に多種多様な作品が含まれていること(リンカーン大統領の書いた探偵小説「トレーラー殺人事件の謎」からクイーンの名作表「ヘイクラフト=クイーンの決定的図書館」まで)。またウッドハウスのユーモア小説「スープの中のストリキニーネ」から始まって、田村隆一のライト・ヴァース「死体だって見おぼえがあるぞ」で締めくくられている構成が、また素晴らしい。
背景 人はなぜ推理小説を読むのかは不明だが、ミステリーのもつ「その不思議な作用、奇妙な情熱をわたしが知ってから、早いものですね、もう四十年も経ちました。とすれば、そのことの記念に本を一冊編んでもをかしくはないでせう」といって完成したものである。

邦題 『死の天使』
原作者 パトリシア・モイーズ
原題 Angel Death(1980)
訳者 山本俊子
出版社 早川書房
出版年 1981/11/30
面白度 ★★★
主人公 ヘンリー・ティベット主任警視とその妻エミー。
事件 事件の舞台は、カリブ海に浮かぶセント・マシューズ島(『ココナッツ殺人』にも登場した架空の島)。休暇を過ごすため三度この地を訪れたティベット夫妻は、一人の老婦人と知り合った。そして、この老嬢が行方不明になったのをきっかけに、夫妻が犯罪に巻き込まれる。
背景 クリスティが本格ミステリーと冒険・スパイ小説を適宜、書き分けていたように、モイーズもニ系統の作品を発表している。明らかに本書は後者に属し、妻のエミーが夫の重大な危機を見事に救うのであるが、謎が平凡すぎるのが難点。彼女の作品としては水準作だが、厳冬期であってもトロピカル・ムードは確実に味わえる。

邦題 『影の護衛』
原作者 ギャビン・ライアル
原題 The Secret Servant(1980)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1981/6/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『サーキットに眠れ』
原作者 デズモンド・ラウデン
原題 The Boonducks(1972)
訳者 河合裕
出版社 早川書房
出版年 1981/7/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『迷宮へ行った男』
原作者 マーティン・ラッセル
原題 Mr. T(1977)
訳者 竹内佳子
出版社 角川書店
出版年 1981/8/10
面白度 ★★★
主人公 ジョン・ティヴァント。国防省関連の研究所に勤めている。
事件 ジョンは、いつものように帰宅して、玄関の扉を開けた。今朝別れたばかりの妻がいる。しかし妻は、まるで彼を知らないような態度であった。「夫は半年前に事故で死にました」。そのうえ会社の同僚、友人、母親さえも、ジョンは死んだという。では私は誰なのか?
背景 まさに驚きの設定で、この出だしは先例があるものの、やはり物語に一気に引き込まれる。そしてスパイ小説のような替玉作戦かと思わせて、最後の大ドンデン返しとなる(これも先例があるが、詳しくは書かない)。それらの先例をまったく知らないで最後までいってしまった人は、あるいはインチキダ、アンフェアだと怒りだす?

邦題 『スマイリーと仲間たち』
原作者 ジョン・ル・カレ
原題 Smiley's People(1980)
訳者 村上博基
出版社 早川書房
出版年 1981/5/31
面白度 ★★★
主人公 英国情報部(サーカス)のエリート・スパイ官僚のスマイリー。本作ではすでに引退して年金生活を始めていたのだが、再びひっぱり出される。
事件 パリに住むロシア人亡命者にある情報が舞い込んだ。亡命者の娘がソ連から亡命したいというもの。しかしどうも怪しいと感じた亡命者は、イギリスに住む亡命者仲間の相談すると、その仲間がスマイリーに報告する直前に、何者かによって殺されてしまったのだ。スマイリーは再び行動に出るが、この事件の裏には宿敵”カーラ”がいたのであった。
背景 スマイリー三部作の完結編。確かに面白いが、私にはル・カレの文章にはイマイチ乗れない。『スクールボーイ閣下』に比べるとストレートな物語構成で話はわかりやすいのだが。

邦題 『螺旋階段の闇』
原作者 エリザベス・ルマーチャンド
原題 Step in the Dark(1976)
訳者 吉田誠一
出版社 講談社
出版年 1981/2/15
面白度 ★★
主人公 ロンドン警視庁のトーイ警部とポラード警視。
事件 ラムズデン文芸科学協会の職員が、協会の螺旋階段から落ちて死亡した。事故死かと思われたが、協会の物が盗まれているなど不審な点が多かった。このため地元の警察はロンドン警視庁に捜査を依頼し、トーイとポラードの二人が事件を担当することになった。やがて数人の容疑者が浮かび上がってきたが……。
背景 小品ながら、それなりにまとまっている謎解き小説。一番の驚きは、本邦初紹介の作者の略歴。1906年生れで、長らく女学校の校長を務め、引退後の61歳からミステリーを書き出したという遅咲き作家。古風な雰囲気があるのは当然か。

邦題 『ワイルダーの手』上下
原作者 ジョセフ・シェリダン・レ・ファニュ
原題 Wylder's Hand(1864)
訳者 日夏響
出版社 国書刊行会
出版年 1981/10/25
面白度 ★★★
主人公 物語の語り手は、ワイルダーの幼なじみチャールズ・クレスロン。
事件 わたし(チャールズ)は、駅馬車にゆられながら、ジリンデン村に向かっていた。ここでマーク・ワイルダーと従妹のドーカスとが結婚式を挙げるというので、その立会人になったからである。二人が一緒になれば財産相続上、大変都合がよいこともあった。ところがワイルダーはロンドンに行ったまま行方不明となってしまったのだ。
背景 世界幻想文学大系の中の一冊。瀬戸川猛資氏が『夜明けの睡魔』で激賞したため、ミステリー・ファンから注目された(と思われる)作品。確かに身代りトリックや時間差トリックなどを使っていて、ミステリーとして読めるが、私は『アンクル・サイラス』の方が面白かった。

邦題 『薔薇の殺意』
原作者 ルース・レンデル
原題 From Doom with Death(1964)
訳者 深町眞理子
出版社 角川書店
出版年 1981/12/15
面白度 ★★★
主人公 キングズマーカム警察主任警部のレジ・ウェクスフォード。原書はウェクスフォード初登場となる記念碑的作品。邦訳は2冊目。
事件 物語は地方都市キングズマーカムで起きた扼殺事件を扱っている。被害者は中年の妻。平凡な事件と思われたが、現場近くに残されていた口紅から、意外な展開を見せ始める。
背景 処女作らしい初々しさや熱気がさっぱり感じられないのが不満といえなくもないが、逆にいえばデビュー時から、新人らしからぬ豊かな描写力、確かな構成力を持っていたことがよくわかる。
レンデルは、最初からミステリー作家を目指したのではなく、デビューしやすい作品としてミステリーを選んだようだ。うれしい選択!!

邦題 『暗号名ウッドカッター』
原作者 ケネス・ロイス
原題 The Woodcutter Operation(1975)
訳者 羽村泰
出版社 文藝春秋
出版年 1981/5/25
面白度 ★★
主人公 ロンドンにある世界的に有名な病院の乗っ取りを図る5人の男とそれを阻止する警察。
事件 彼らの計画は、入院中の英国貴族を人質にして、大金を脅し取ろうというもの。病院の乗っ取りは成功したものの、驚いたことに、人質として貴族以上の大物(国際政治通は表題からすぐにピンとくるそうだが、別にモデルが思い浮かばなくてもサスペンスが減じることはない)が、密かに入院していたのだ。
背景 食傷気味の乗っ取り物だが、病院をハイジャックするということと、予期せざる人質というアイデアが目新しい。とはいえ、本書の面白さは、基本どおりに犯人側と警察側の行動を交互にじっくりと描いている点にある。あまりに正統的な、といえなくもないが……。

邦題 『わが指揮艦スパロー号』
原作者 アレクザンダー・ケント
原題 Sloop of War(1972)
訳者 高橋泰邦
出版社 早川書房
出版年 1981/6/15
面白度 ★★
主人公 ≪海の勇士ボライソー・シリーズ≫の第3弾。リチャード・ボライソーは23歳となり、海尉艦長(コマンダー)に任命された。
事件 昇進したボライソーへの待望の贈物は、スループ艦(大砲18門搭載の小型艦)スパロー号なのであった。時に1778年、イギリスはアメリカの独立を阻止すべく、苦しい戦いを強いられていた。彼の任務は輸送船の護送や米国沿岸海域の哨戒であったが、この海域には、米仏の私掠船や艦船が出没しており、スパロー号との間に、激しい戦いが繰り広げられた。
背景 本書は実は二部構成(1978年とその3年後の物語)になっており、81年の物語においても似たような戦いが続く。この数度の海戦が物語のハイライトになっている。

邦題 『憧れのセールを展翻せよ』
原作者 アダム・ハーディー
原題 Fox5:Powder Monkey(1973)
訳者 高橋泰邦・高津幸枝
出版社 三崎書房
出版年 1981/7/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『カリブの磯波 ラミジ艦長物語4』
原作者 ダドリ・ポープ
原題 Ramagi and the Free-boaters(1973)
訳者 小牧大介
出版社 至誠堂
出版年 1981/2/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ラミジ艦長物語5、6 ハリケーン 謎の五行詩』
原作者 ダドリ・ポープ
原題 Governor Ramage R.N.(1973)
訳者 小牧大介
出版社 至誠堂
出版年 1981/2/20
面白度 ★★
主人公 22歳になった海軍将校ニコラス・ラミジ。
事件 今回のラミジ艦長の航海の目的は、ジャマイカ島に向かう商船団の護衛であった。そしてこの航海中、私掠船やハリケーンと戦い、座礁のために上陸した島で宝探しをし、最後には軍法会議で身の潔白を証明するというのが粗筋である。
背景 いわば海洋冒険物に必要な設定をほとんど取り入れた一編で、これが典型的な形式小説であること最初から承知で読むならば、それなりに楽しめるであろう。なお、五巻と六巻には独立した訳題がついているが、これは原書を分冊にし、日本語題を勝手に付けたものにすぎない。第六巻だけ読もうとすると(そうする人はいないと思うが)、余計な混乱を招くことになる。

邦題 『ラミジ艦長物語7、8 消えた郵便船 裏切りの証明』
原作者 ダドリ・ポープ
原題 Ramage's Prize(1974)
訳者 出光宏
出版社 至誠堂
出版年 1981/6/208/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ラミジ艦長物語9 Xデー』
原作者 ダドリ・ポープ
原題 Ramage and the Guillotine(1975)
訳者 田中航
出版社 至誠堂
出版年 1981/10/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 


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