邦題 『薔薇はもう贈るな』
原作者 エリック・アンブラー
原題 Send No More Roses (1977)
訳者 斎藤数衛
出版社 早川書房
出版年 1980/9/15
面白度 ★★
主人公 アルゼンチン生れのイギリス人ポール・ファーマン。戦後の闇物資の不正転売で大儲けした謎の人物。
事件 ポールは儲けたお金をもとに、各国に企業を設置し、合法的な租税回避を実施した。一方この種の知能犯こそ重大だとする”新犯罪学”説を唱えているオランダの教授は、理論を実践にうつすべくファーマンの追及を開始した。
背景 スパイ小説の巨匠アンブラーのこれまでの小説とはかなり異なっている。一種の経済情報小説だが、それは表面的で、著者は、主人公らと教授との知的な戦いを描きたかったようだ。その狙いは悪くないと思うのだが、内容がわかりにくいうえにサスペンスは希薄で、読みにくい。

邦題 『ダブルジャック』
原作者 ポール・ウィーラー
原題 Ransom (1975)
訳者 関口幸男
出版社 早川書房
出版年 1980/11/30
面白度 ★★★
主人公 北欧のノールラン(実際にはノルウェイ?)の国家保安部隊隊長タールヴィーク大佐。
事件 ノールランの英国大使館が乗っ取られた。悪名高いテロリスト・グループの仕業であったが、彼らは大使を人質にして仲間の釈放を求めたのだ。しかしタルヴィーク大佐は、彼らの逃亡ルートを密かに入手していたので、彼らの逮捕は間違いないと信じていた。ところが仲間の別グループがさらに飛行機をハイジャックし、彼らの逃亡を保障しろと要求した。ダブル・ジャックだ!
背景 ショーン・コネリー主演の映画「オスロ国際空港――ダブル・ハイジャック」を脚本家が自分で小説化したもの。単純なハイジャック物とは少し異なっていて、結構謎があって楽しめるが、いささか腑に落ちない点もある。

邦題 『ベリヤを売った男たち』
原作者 アラン・ウィリアム
原題 The Beria Papers(1973)
訳者 朝河伸英
出版社 早川書房
出版年 1980/10/31
面白度 ★★★★
主人公 亡命ロシア人のドロブノフと三流文士のマロリー。
事件 スターリン時代の血の粛清者ベリアが書いたとおぼしき日記が出版者に持ち込まれた。本物であれば、全世界に衝撃をもたらすのは間違いない。だがこの日記は贋作であったのだ。ドロブノフとマロリーの合作なのだが、やがて彼らは、CIAやKGBから狙われ始めたのだった。
背景 スパイ小説というよりはユーモアのある犯罪小説に近い。贋作する過程が詳しく書かれているし、ベリアに関する情報量も多くて、読み応えは十分。贋作日記とマロリーの一人称の文章、三人称の普通の文章が適当に混じりあっているが、このような構成が結末で生きている。著者の作品はこの一作しか紹介されていないが、これは隠れたる佳作。

邦題 『敵の選択』
原作者 テッド・オールビュリー
原題 A Choice of Enemies (1973)
訳者 二宮馨
出版社 集英社
出版年 1980/5/25
面白度 ★★★
主人公 元スパイで現在は広告会社社員のテッド・ベイリー。
事件 いまは平凡な生活を送っていたテッドは、再び英国情報部員として働くことになった。彼には第二次大戦後のドイツで知り合ったある”敵”がいたからである。しかしテッドは囚われの身となってポーランドに連れていかれて……。
背景 本邦初紹介の著者のスパイ小説。情報部員出身の作家だけに、地味ながら描写にリアリティがある。第二次大戦直後の話は面白いし、ポーランドからの脱出行もまあまあの出来。しかし”敵”そのものが宿敵とは思われないし、父と娘の関係もわかりにくい。物語の語り口がもう少し滑らかであったらよかったのに。

邦題 『大統領の心を持つ男』
原作者 テッド・オールビュリー
原題 The Man with the President's Mind (1977)
訳者 飯田隆昭
出版社 集英社
出版年 1980/8/25
面白度 ★★
主人公 五十代初めの精神分析学者レービン教授。経歴と特徴が米大統領に似ているため、レービンはKGBによって大統領の模写人間に仕立てあげられた。
事件 ソ連がそのような突飛な作戦を実施した背景には、1962年のミサイル危機事件の失敗があった。当時の米大統領の心理を読み取れなかったからであったが、今回はレプリカ人間を利用してアメリカの動向を先読みし、ベルリンへの進出を狙ったのだ。
背景 標題の男を作るという発想は、0011のようなマンガ・スパイ小説ならグッド・アイディアといえるが、オールビュリーのようなシリアスなスパイ小説を得意とする作家にはあまり向いていないのではないか。ただしそのような違和感を持たなければ、★はプラス1か。

邦題 『血に飢えた悪鬼』
原作者 ジョン・ディクスン・カー
原題 The Hungry Goblin (1972)
訳者 宇野利泰
出版社 東京創元社
出版年 1980/7/25
面白度 ★★
主人公 9年ぶりにニューヨークからロンドンに帰国した新聞記者のファレル。
事件 19世紀中葉のロンドンが舞台。帰国したファレルは、行方不明の恋人の目撃や、友人の謎めいた言動に困惑させられたが、その友人を訪ねてみると、彼は密室状態の温室で胸を撃たれていたのであった。
背景 本書は、不可能犯罪の巨匠カーの最後の長編で、死の5年前に発表されたもの。実在の作家W・コリンズ(ご存知『月長石』の著者)を探偵役に配して、前半はそれなりに楽しめるが、謎が割れはじめる中盤以降の物語展開は大時代的でサスペンスも不足。カーとしては19世紀のゴシック小説の雰囲気・面白さが出れば、よしと考えたのであろう。

邦題 『犯罪王モリアーティの復讐』上下
原作者 ジョン・ガードナー
原題 The Revenge of Moriarty (1976)
訳者 宮祐二
出版社 講談社
出版年 1980/6/15
面白度 ★★
主人公 ホームズの宿敵モリアーティ教授。そして彼を追うのがロンドン警視庁のクロウ警部。
事件 クロウ警部の努力によってアメリカに逃げざるをえなかったモリアーティは、再びイギリスに向かっていた。目的は復讐である。彼に非協力的であったヨーロッパ犯罪界の首領たちとクロウ警部やホームズが対象であった。「最後の事件」に続く二度目のホームズとの対決はいかに?
背景 一年ほど前に出版された『犯罪王モリアーティの生還』の続編。もちろん本編それ自体でも一編の小説として読めるが、本書の前書きや原注には、前作の粗筋やトリックがバラされているし、本編の主要登場人物の風貌や性格描写などは省略されているので、やはり第一作から読んだほうがよい。第一作で出番のなかったホームズが登場するのが注目点。

邦題 『犯罪は詩人の楽しみ』
原作者 エラリー・クイーン編
原題 Ellery Queen's Poetic Justice(1967)
訳者 柳瀬尚紀
出版社 東京創元社
出版年 1980/12/19
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『モスクワ5000』
原作者 D・グラント
原題 Moscow 5000 (1979)
訳者 小菅正夫
出版社 早川書房
出版年 1980/7/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『毛沢東の刺客』
原作者 アンソニー・グレイ
原題 The Chinese Assasin (1978)
訳者 新庄哲夫
出版社 文藝春秋
出版年 1980/6/25
面白度 ★★★
主人公 英国人の中国研究家スコフィールド。彼のところに中国人ヤンが訪ねてきたことから事件に巻き込まれる。
事件 そのヤンは、モンゴルの大草原に墜落した飛行機から脱出したと述べた。そして彼は林彪元帥の死の真相を語っているという手記を持っていた。それは真実なのか?
背景 著者はロイター通信特派員として北京に赴き、67年にスパイ容疑で二年間の監禁生活を送ったという特異な経歴のジャーナリスト。本書はフィクションとして林彪事件の謎や毛沢東の死の謎に迫った作品であるが、著者の経歴が生きていて、描写にはかなりの説得力を持っている。中国現代史に興味があれば、さらに楽しめるはず。

邦題 『英国プリンス誘拐』
原作者 アンドルー・クロフツ
原題 Crown Kidnap (1979)
訳者 田中昌太郎
出版社 早川書房
出版年 1980/12/31
面白度 ★★
主人公 明らかな主人公はいないが、まあチャールズ皇太子と女優のティアラか。
事件 皇太子は、ティアラの主演映画を鑑賞後、映画館を出た直後にテロリストによって誘拐された。ただちに極秘の調査が始まったが、戴冠式は目前に迫っている。そこで皇太子のソックリさんコンテストで優勝した民間人を皇太子に仕立てるという奇策が実行にうつされたのだ。マスコミなどに知られる前に、皇太子を救出することはできるのか?
背景 文庫本で200頁少しの短めの長編。短いわりには物語の展開は目まぐるしく変化し、その意味では読みやすい。英国ミステリーの特徴の一つといってよい重厚さなど微塵もないが。またこの結末は、フェミニストではなくても、共感できないと思うが……。

邦題 『逃げるアヒル』
原作者 ポーラ・ゴズリング
原題 A Running Duck (1978)
訳者 山本俊子
出版社 早川書房
出版年 1980/3/31
面白度 ★★★
主人公 広告会社の製作部長を務めるクレア・ランデルと彼女を護衛する警部補マルチェック。
事件 クレアは突然左腕に痛みを感じた。撃たれていたのだ! 捜査を担当したマルチェックは、当初変質者の仕業と考えていたが、再びクレアが襲われたことにより、殺し屋エジソンの仕事であることを突きとめた。プロ対プロの死闘が繰り広げられる。
背景 1978年の英国推理作家協会(CWA)新人賞の受賞作。女性作家にしては異色のハードボイルド的な文体、迫力ある語り口で評判になった。追われる側が警察、追う側が殺し屋というが珍しかったが、いまいち成功しているとは言い難い。著者は本作出版時にすでにイギリスに移住していたどうかは不明だが、英国ミステリーとした。

邦題 『悪魔の審判』
原作者 スタンレイ・ジョンソン
原題 The Doomsday Deposit(1980)
訳者 竹村健一
出版社 実業之日本社
出版年 1980/7/30
面白度
主人公 主人公と呼ぶべき人物は特にいないが、まぁ、一番出番の多いのが水力学の専門技術者ジョン・マクグレイス。
事件 NASAは、地球資源探査衛星からの画像から、周りよりも数度の温度が高い地域を見つけた。そこは満州との国境部にあるソ連領で、分析の結果ウラン鉱床のあることがわかったのだ。アメリカは中国と秘密協定を結び、川の流れを変えてその土地が中国に帰属させようとする。
背景 国際陰謀小説風のパニック小説といったらよいのか。この川の流れを変えて国境そのものも変えてしまうというアイディアは面白いものの、そのための手段には唖然とさせられる。作者はパニック小説としてこれを書いたらしいが、無理が目立ちすぎる。

邦題 『浅すぎる墓』
原作者 ジャック・S・スコット
原題 The Shallow Grave(1977)
訳者 秋津知子
出版社 早川書房
出版年 11980/5/31
面白度 ★★
主人公 ロジャー警部。ドーヴァー警部の対抗馬といえるような、警察で一番の鼻つまみ者。
事件 美しい田園の村で殺人事件が発生した。死体の主は村の先生であった。犯行は素人的であるし、村人もそれほど多くない。ロジャー警部は、部下の尻を叩いて情報を集めれば、簡単に事件は解決すると思ったが……。
背景 ドーヴァー・シリーズをギャグ漫画に喩えるなら、こちらは風刺漫画にあたる、というのだが、たいした風刺はない。大きな不満は、犯罪が単純なこと。ほとんど謎と呼べるものがない。クロフツ警部のような真面目な警官がきちんと捜査すれば簡単に解決できてしまうのに、凡庸なロジャー警部だから、なかなか解決できないというだけのこと。作者の仕掛ける謎がない。

邦題 『解決はベッドの中で』
原作者 J・T・ストーリー
原題 Mix Me a Person(1959)
訳者 田中融二
出版社 文藝春秋
出版年 1980/5/25
面白度 ★★★
主人公 臨床心理学者のアン・ダイスン博士。青少年の環境不適合に関する問題の権威者だが、4インチのハイヒールをはき、プラウスをノーブラで着てもおかしくないという才色兼備の女性。
事件 無断で他人の車を使用したために事件に巻き込まれ、死刑を宣告された若者ハリー。アンはそのハリーを助けることにした。死刑執行日までに若者を救助できるか?
背景 著者は、ヒッチコック映画「ハリーの災難」の原作者として名を知られている。本書はストーリーの二作目の邦訳となる。一種の倒叙物で、期日までに若者を助けられるかというサスペンスが本書の魅力。この手のミステリーとしては『幻の女』が有名だが、直接比較するのはかわいそうというもので、小品ながら、これはこれで無難にまとまっている。

邦題 『逃亡空路』
原作者 スペンサー・ダンモア
原題 Means of Escape(1978)
訳者 工藤政司
出版社 早川書房
出版年 1980/7/1
面白度 ★★★
主人公 英国空軍軍曹のロン・ポラード.二十歳のがっしりした体格の若者。もう一人はドイツ軍将校のカール・フォン・アイスナー。ヒトラー暗殺に参加したため身を隠している。
事件 1944年12月ポラードらが乗った飛行機が撃墜され、ドイツ領内に落下傘降下した。ポラードは無傷だったが、上官は重傷を負ってしまい、二人はかろうじて一軒の民家に辿り着いた。しかしそこにはアイスナーも潜んでおり、アイスナーとポラードは協力して逃亡することに……。
背景 小味な戦争冒険小説。プロットは安易だが、著者は元パイロットであるだけに、ドイツの戦闘機を奪って逃亡するラストの場面はさすがに迫力はある。本文ではまったく言及されていないが、これはバルジ大作戦時の一挿話なので、そのあたりに触れた方が物語に厚みが出たはずだ。

邦題 『孔雀の羽根』
原作者 カーター・ディクスン
原題 The Peacock Feather Murders(1937)
訳者 厚木淳
出版社 東京創元社
出版年 1980/12/19
面白度 ★★
主人公 HM(ヘンリー・メルヴェール)卿。
事件 警察が厳重に監視する空家の中で銃声が鳴りひびいた。警察が空家に踏み込むと、空家に入っていくところを目撃された被害者が、髪が焦げるほどの至近距離から撃たれていたが、他には誰もいなかった(しかも自殺とは考えられなかった)。犯人はどこへ消えたのか!
背景 松田道弘氏はD・カーの特徴として、ロマンス(伝奇騎士物語)好み、奇術愛好癖による趣向だて、職人作家としてのサービス精神の三つを挙げている(『とりっくものがたり』)。本書では確かにその奇術的趣向を凝らしたトリックが魅力である。ただしHM卿らの尋問が始まると退屈してくるのが残念。良くも悪くも、冒頭の不可能興味がすべてといった一編。

邦題 『SS−GB』
原作者 レン・デイトン
原題 SS-GB(1978)
訳者 後藤安彦
出版社 早川書房
出版年 1980/9/30
面白度 未読
主人公 

事件 


背景 



邦題 『笑うカモには』
原作者 レン・デイトン
原題 Only When I Larf(1967)
訳者 沢川進
出版社 早川書房
出版年 1980/10/31
面白度 ★★
主人公 三人の詐欺師。つまり騎兵のような偵察と潜入が得意な美人のリズ、砲兵のように言葉の砲弾を落下させる若者ボブ、そして歩兵兼司令官の役割を務める中年のサイラスの三人。
事件 三人の詐欺師が狙った一人はアフリカ新興国の陸軍大臣。その彼に武器と称して鉄屑を押し付け、30万ポンドを儲けようという計画であった。
背景 デイトンのこれまでの5冊はいずれもスパイ小説であったが、本書は毛色の変わったコン・ゲーム小説。三人の詐欺師が一章ずつを順番に書くというユニークな一人称形式の小説構成になっている。ストーリーより細部が面白いというこれまでのデイトンの特徴はやはり認められるが、ストーリー重視で小説を読む私のような古い(?)人間には、デイトンはどうも波長が合わない。

邦題 『神の遺わせしもの』
原作者 バーナード・テイラー
原題 The Godsend(1976)
訳者 武富義夫
出版社 角川書店
出版年 1980/12/20
面白度 ★★★
主人公 語り手の私。三十代後半。本の挿絵を業としている。妻ケイトは元女優。三男一女の子沢山。
事件 不吉なことは、森の中で大きなお腹をした女性と出会ったときに始まった。その女性は翌日私たちの家で赤ん坊を産み、そのまま消えてしまったのだ。赤ん坊は私たちの五番目の子供として育てることにしたが、やがて三男、次男が事故で次々に亡くなっていった。何かおかしいと感じ始めた私だが、長男まで不可解な死に方をするにおよんで……。
背景 少ない登場人物、先が見えるプロットなのですぐに物語に入れるが、それが強みでもあり、弱点にもなっている。無難にまとまっているものの、結末にはもう一捻りがほしい。

邦題 『死者たちの礼拝』
原作者 コリン・デクスター
原題 Service of All the Dead(1979)
訳者 大庭忠男
出版社 早川書房
出版年 1980/11/30
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのモース主任警部。
事件 これまでの事件とは少し変わっていて、モースが休暇中に出くわしたもの。独身であるモースは、この休暇中にエーゲ海の浜辺で美人と恋を語ることを想像していたのだが、実際にはオックスフォード市の教会に立ち寄ったにすぎなかった。ところがその教会では、近年刺殺事件や墜落死が起きていたのだ。彼は直感で何か臭いと感じ、独力で調査を始めてみると――。
背景 モース・シリーズの四作目。この作品で1979年のCWAシルヴァー・ダガ―賞を受賞している。過去に実例がたくさんあるように、受賞作イコール最高傑作という公式は成立しないものの、巧みなプロットやユーモラスな文章などは、相変わらず素晴らしい。

邦題 『モスクワを占領せよ』
原作者 クレイグ・トーマス
原題 Snow Falcon(1979)
訳者 井上一夫
出版社 毎日新聞社
出版年 1980/10/5
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『坐礁』
原作者 アントニー・トルー
原題 The Zhukov Briefing(1975)
訳者 井坂清
出版社 パシフィカ
出版年 1980/7/28
面白度 ★★
主人公 最新鋭原潜ジューコフ(?)。
事件 ソ連の原潜ジューコフはノルウェー海を潜航中、突然魚雷室に爆発が起きた。沈没はまぬがれたものの、引き返すことは不可能。そこで艦長は修理のために近くのノルウェー領ヴラユイ島に、この原潜を坐礁させたのである。ところがイギリスは、それがソ連の最新鋭原潜であることに気づき、いち早く情報収集に乗り出した。また米仏もノルウェーに諜報員を送り込んだため……。
背景 このスパイ合戦でも派手なアクションを控えているため、物語全体が地味過ぎるきらいがあるが、最近沖縄沖でソ連原潜の火災事故が起きるという似たような事故起こっただけに、迫真性だけは保証できる。

邦題 『ポートワインを一杯』
原作者 ジョージ・ハーディング編
原題 Winter's Crimes 7(1975)
訳者 青木久恵他
出版社 早川書房
出版年 1980/6/30
面白度 ★★★★
主人公 イギリス人作家の書下ろし短編を集めた短編集。
事件 収録作品はA・ガーヴの表題作を含めて11編。しかしガーヴを除くと、C・フレムリンやD・コーリイ、R・レンデルといった中堅作家のものが多い。当然アメリカ作家の犯罪小説とはちょっと異なる味がするが、D・フレッチャーの「コラベア」を始めとして、その多くが秀作なのには驚かされる。
背景 アンソロジーには、ある主題にのっとって短編を集めるもの(最近出た例としてはクイーンの『悪党見本市』)と、ある期間内の秀作を集めるもの(同じく最近の例としてはホックの『風味豊かな犯罪』)がある。本書は一応後者に属するが、最大の特徴はその年に活躍したイギリス作家の書き下ろしの短編ばかりを集めている点である。この作品集はその1975年版。

邦題 『眼には眼を』
原作者 ジョージ・ハーディング編
原題 Winter's Crime 6(1974)
訳者 中村能三他
出版社 早川書房
出版年 1980/12/15
面白度 ★★★
主人公 『ポートワインを一杯』と同じ趣旨で編集された短編集。
事件 『ポートワインを一杯』に比べるとベテラン作家の短編が多く収録されている(全部で15本)。まず表題作は、『私が見たと蝿が言う』で知られるエリザベス・フェラーズの短編で、老婦人の遺産を狙う姪と監禁状態の老婦人の頭脳的な戦いの話。クリスチアナ・ブランドの「もう山査子摘みもおしまい」は期待したわりには平凡作。また「サーカス」は、『マーニイ』で有名なウインストン・グレアムの作品で、隣人がサーカス仲間の殺人を目撃する話。もっとも面白かったのはアイヴァー・ドラモンドの「椅子」で、偏屈な老人の殺人計画をユーモラスに描いている。
背景 邦訳はシリーズの三作目となるが、原書は編者が初めて編集した本。

邦題 『夜光死体 イギリス怪奇小説集』
原作者 橋本槇矩編
原題 日本独自の編集
訳者 橋本槇矩
出版社 旺文社
出版年 1980/4/20
面白度 ★★★
主人公 英国ヴィクトリア朝時代の怪奇小説10本を集めたアンソロジー。
事件 収録作品は「マダム・クロウルの幽霊」(J・S・レ・ファニュ)「獣の印」(R・キプリング)「死体盗人」(R・L・スティーヴンソン)「不吉な渡し舟」(ジョン・ゴルト)「二人の魔女の宿」(J・コンラッド)「夜光死体」(ディック・ドノバン)「月に撃たれて」(バーナード・ケイペス)「故エルヴィシャム氏の物語」(H・G・ウェルズ)「革の漏斗」(コナン・ドイル)「ある古衣の物語」(ヘンリー・ジェイムズ)。
背景 有名作家の作品から今では完全に忘れ去られている当時の通俗作家の短編を含む。マッケンらの怪奇小説専門の巨匠達は除かれている。H・ジェイムズのみが米国人で、彼の作品がもっとも怖かったのはいささか皮肉だが、怪奇小説入門書として楽しめる。

邦題 『裁きの日』
原作者 ジャック・ヒギンズ
原題 Day of Judgment(1978)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1980/3/31
面白度 ★★★
主人公 元イギリス陸軍情報部のヴォーン少佐。
事件 1963年6月、ケネディ大統領は西ベルリン訪問を予定していた。この訪問には、ベルリンに壁が作られて以来の東西緊張を緩和させようという重要な目的があったが、緩和を望まない人物もいた。東ドイツの国家評議会議長で、彼は密かにある計画に着手した。それは、西ドイツへの脱出を援助している組織の大物コンリン神父を誘拐して洗脳し、神父の行為はキリスト教的理念からではなくて、単にCIAの謀略活動を助けているにすぎないと告白させることであった。西側もこの謀略に気づき、誘拐された神父の救出を図ったのであるが……。
背景 ベルリンの壁を背景に利用した冒険スパイ小説。ヒギンズ作品としては水準作。

邦題 『殺人のすすめ』
原作者 レジナルド・ヒル
原題 A Advancement of Learning(1971)
訳者 秋津知子
出版社 早川書房
出版年 1980/8/31
面白度 ★★★
主人公 中部ヨークシャー警察のダルジール警視とパスコー部長刑事のコンビ。
事件 ホーム・コルトラム学芸大学は学園の拡張工事のため、前学長を記念して建てられたブロンズの裸婦象を移す作業を行なっていた。ところがその台座の下から頭蓋骨が見つかったのだ。そして驚いたことに、その死体は、5年前にオーストラリアで雪崩にあって行方不明になった前学長であったのだ。
背景 かなりの鳴り物入りで本邦初紹介となった作品。1990年代のヒルの活躍を考えれば、まあ、そのような紹介も納得がいくが、この作品ではまだそれだけの実力が発揮されていない。発端と終盤はともかく、中盤がモタモタしていてストーリーに乗りにくい。

邦題 『スイス・アレンジメント』
原作者 ウィリアム・フェアチャイルド
原題 Swiss Arrangement(1973)
訳者 社本雅信
出版社 早川書房
出版年 1980/7/31
面白度
主人公 元英国情報部員のサミュエル・ニューマン。
事件 ニューマンは敵の女スパイを逃がしたとして服役していたが、その彼のもとに幸運が舞い込んできた。それは、ナチス護衛隊がレジスタンスの襲撃を受けたとき、ニューマンの父を含む三人は、護衛隊が運んでいた40万ドル相当の現金を奪い、スイスの銀行に預けたが、その現金を相続人に譲渡する期日が近づいた、というものであった。彼は出所後、スイスに飛ぶが……。
背景 宝探しをする冒険小説というより、ナチ物のスパイスがほどこされたスパイ小説といった方がふさわしい。こんなうまい話はあるのか? という出だしは悪くなく、またラストもそれなりに迫力はあるものの、訳があまり上手でないこともあり、キビシイ評価になっている。

邦題 『氷島基地脱出!』
原作者 コリン・フォーブス
原題 Target Five(1973)
訳者 仁賀克雄
出版社 早川書房
出版年 1980/10/15
面白度 ★★★
主人公 北極調査実験所員のキース・ボーモント。
事件 ボーモントは休暇でマイアミへ向かう途中、国家安全保障局によって拉致された。ボーモントらの手を借りて、北極のアメリカ基地に亡命してくるはずのソ連の海洋学者を保護するためであった。ボーモントら三人はチームを組み、襲いかかるソ連の諜報局、酷寒とブリザードに立ち向かう。はたして目的は達成できるのか?
背景 ボーモントらの行くてに立ち塞がるあの手、この手の状況設定が非常に上手い。この作家の才能というべきなのだろう。冒頭の基地に辿り着くところから、最後の氷山との戦いまで、一気に読めてしまう。これで人物に魅力があったら、申し分なかったのだが。

邦題 『動く氷塊大陸』
原作者 J・フォーリット
原題 Ice(1978)
訳者 井上一夫
出版社 集英社
出版年 1980/4/25
面白度
主人公 南極から流れ出た大氷塊(?)。
事件 英国の潜水艦が南極海で突然消息を絶った。ソ連の原潜も同様であった。さらに豪華客船が原因不明のまま沈没した。国際緊張が高まったが、犯人は大氷塊であることがわかったのだ。しかしこの大氷塊はニューヨークに向かっていた。阻止する手段はあるのか?
背景 前半は第三次世界大戦の勃発か? というポリティカル・パニック小説で、後半は大自然相手の正統派パニック小説という構成。前半はつまらないが、後半はまあまあ。原爆を使用したり、津波が起こったりする描写は迫力がある。ただしニューヨークへの直撃を回避するための手段にはがっかり。あまりにまとも過ぎて面白味が欠けている。

邦題 『針の眼』
原作者 ケン・フォレット
原題 Storm Island(1978)
訳者 鷺村達也
出版社 早川書房
出版年 1980/7/31
面白度 ★★★★
主人公 <針>と呼ばれるドイツ・スパイのフェイバーと、フェイバーを追う側のゴドマン教授。
事件 フェイバーは大戦前から英国に潜入したスパイであるが、ある日重大な情報を入手した。それは連合軍が上陸するのはカレーではなくノルマンディであるというものだ。フェイバーはその情報をドイツに持ち帰るべく英国を脱出しようとして、ストーム島に流れ着いた。一方英国情報部も<針>の逃亡に気づき、彼を追いつめるが……。
背景 1979年のアメリカ探偵作家クラブ(AWM)最優秀長編賞を受賞。スパイ小説というよりは典型的な”逃走と追跡”テーマのスリラー小説。<針>の逃亡劇が障害物競争をみるように次々に展開していく面白さ。欲をいえば、追う側のゴドマン教授の魅力がイマイチ不足していることか。

邦題 『試走』
原作者 ディック・フランシス
原題 Trial Run(1978)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1980/1/31
面白度 ★★★
主人公 ランドル・ドルー。代々英国王室に侍従として仕える家柄に生れ、かつては障害騎手だったが、視力を悪くしてからレース出場をあきらめ、農園を経営している。独身。
事件 英国王子から突然の依頼がきた。オリンピックの馬術競技に出場予定の英国王家の伯爵がドイツ人騎手と同性愛の関係にあったらしいので調べてほしいというもの。しかもドイツ人騎手は、謎の言葉を残して死んでしまったのだ。ドルーはモスクワへ行くことにした。
背景 競馬シリーズの17作目で、モスクワ・オリンピックを背景にした作品。ダイイング・メッセージを利用したプロットがフランシスにしては目新しい。例によってストイックな主人公の設定は上手いが、モスクワ・オリンピックはもうひとつ生かしきれていないのが残念。

邦題 『ソーンダイク博士の事件簿U』
原作者 オースティン・フリーマン
原題 独自の編集
訳者 大久保康雄
出版社 東京創元社
出版年 1980/3/28
面白度 ★★★
主人公 科学者探偵ソーンダイク博士。
事件 ソーンダイク博士の短編集は、戦後何冊も出版されているが、すべて独自の編集になるもので、原著の短編集を直接訳したものはない。本書も種々の短編集から集めた短編9本からなっている。このうち「パージヴァル・ブランドの替玉」「消えた金融業者」「バラバラ死体は語る」の3本はこの短編集でしか読めない。面白さでいえば「パンドラの箱」や「フィリス・アネズリーの受難」などは、導入部から解決まで、実にあざやかに物語を展開させている。
背景 実例はネタバレになるので書かないが、これらの短編を読むと、20世紀初頭の法医学の水準がよくわかる。いまでは常識としかいえないことも知らない犯人が登場するから。

邦題 『明日を望んだ男』
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 The Man Who Wanted Tomorrow(1975)
訳者 稲葉明雄
出版社 新潮社
出版年 1980/11/25
面白度 ★★★
主人公 第二次世界大戦中にドイツでの生体実験の責任者であったH・ケルマン。ドイツが敗れることをいち早く見抜き、整形手術を受けて国外に逃亡する。
事件 ケルマン逃亡から三十年――。その当時のナチ高官の経歴を網羅した人名簿が新たに発見された。ケルマンも身の危険を感じて、この名簿を奪取すべく行動を開始したのだった。
背景 あまりに現実に似ているために、情報が漏れたのではないかとCIAが調査したと言う、いわくつきの作品。この現実感と巧みに張られた伏線のおかげで第一級のスパイ小説になっている。当時大流行りのナチ物で、フリーマントルの三作目となる。ただし一夜の楽しみを求めんがためのエンタテインメントとしては、その内容は暗く、かつ重い。

邦題 『死利私欲』
原作者 J・フレイザー
原題 The Cockpit of Roses(1969)
訳者 佐藤智樹
出版社 講談社
出版年 1980/1/15
面白度 ★★★
主人公 イングランド中部のバートン市警察のエイブヤード警部。原シリーズの二作目で、若さゆえの大失態を演じている。
事件 大失態の始まりは、領主館のパーティに招かれたエイブヤードがわずかな酒量で悪酔いしたこと。彼は近くの闘鶏場へ逃げ出し酔いをさまそうとするが、逆に意識を失った。ところが翌朝起されてみると、彼のズボンのチャックが開いているうえに、闘鶏場には乱れた服装の若い女性の死体が横たわっていたのだ。さあ大変、警部自身が強姦容疑者にされてしまったのである。
背景 捜査過程をブラック・ユーモア的手法で描いているのが本書の特徴といえるが、地味な作風の警察小説であるだけに、この味付けにはいささか違和感が伴なうようだ。

邦題 『陰画応報』
原作者 J・フレイザー
原題 Deadly Nightshade(1980)
訳者 佐藤智樹
出版社 講談社
出版年 1980/5/15
面白度 ★★
主人公 エイブヤード警部(三十代の独身)。コンビを組むのはブルートン巡査部長。
事件 事件の発端は、五百人たらずの小村で、人骨をくわえている犬が見つかったこと。調べてみると、どうやら二歳前後の人間の顎の骨らしい。そこで、二人が死体捜索を始めると、この村に住む同じ年ごろの子供が母親とともに行方をくらましていることがわかったのだ。はたして事件に関係があるのか? という謎をエイブヤードは考えながらも、片方では村の製材所の娘とデートを楽しむという物語展開になっている。
背景 本筋(謎の解決)は、実にあっけない。むしろ村人の風俗・生活やエイブヤードの恋愛を描写している部分の方が面白い。ギデオン警視や八七分署シリーズの田舎版のようだ。

邦題 『さそりはモスクワに潜入した』
原作者 アダム・ホール
原題 The Scorpion Signal(1979)
訳者 朝河伸英
出版社 早川書房
出版年 1980/12/31
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのシリーズ・キャラクター、英国情報部員のクィラー。
事件 休暇中のクィラーに本部から緊急の呼び出しがかかった。モスクワにいる西側のスパイ、シュレンクが拉致されて、彼がスパイ組織の情報を漏らした可能性が高い。早急にシュレンクを救出しないと、西側のスパイ組織が崩壊してしまうというのだ。クィラーは彼を西側に脱出させるためモスクワに秘かに忍び込んだのである。
背景 シリーズ9作目。このシリーズは比較的プロットは単純で、クィラーの超人的な活躍を楽しむべきものだが、本作もその特徴がきちんと出ている。モスクワに侵入するまでの前半は平板だが、後半クィラーが危機に陥るあたりから緊迫感が高まる。

邦題 『悪の誘惑』
原作者 ジェイムズ・ホッグ
原題 The Private Memoirs and Confessions of a Justified Sinner(1824)
訳者 高橋和久
出版社 国書刊行会
出版年 1980/1/30
面白度 ★★★
主人公 スコットランドのダルカースル家の次男ロバート・ウリンギム(洗礼名)。母親は厳格なキリスト教徒であったため道楽者の夫とは別居。ロバートは養父となったウリンギム牧師の手によって兄とはまったく異なる教育を受けて成長した。
事件 このためロバートはジョージと対立し、ついにはジョージ殺人事件が発生した。当然ロバートは容疑者となったが無罪。ジョージを世話していたローガン夫人は真相調査に乗り出すのだった。
背景 ゴシック叢書の一冊だが、悪の力を見事に表現した古典と言ってよい。悪魔らしき人物が登場し、ロバートの手記と告白からなる第二部が中心だが、真犯人を捜査する第一部や第二部のラストの意外性などを考慮すると、確かに現在のミステリーに繋がる作品だ。

邦題 『血の臭跡』
原作者 ジェイムズ・マクヴェイン
原題 Bloodspoon(1977)
訳者 信太英男
出版社 サンリオ
出版年 1980/8/5
面白度 ★★★
主人公 有能なハンターであるジュリー・ヘイスン。割当を超える豹を射殺したため狩猟会社を首になり、ライセンスを剥奪されようとしていた。
事件 野性生物の権威アリスンという女性が黒人テロリストに誘拐された。ボツワナ共和国内のカラハリ砂漠で起きた事件である。ヘイスンは当局の依頼で、そのテロリストを追い、急襲し、アリスン奪回に成功したが、当局はもうひとつの罠を仕掛けていた。ヘイスンを抹殺しようとしたのである。彼はアリスンとともに逃げるが……。
背景 カラハリ砂漠を舞台にした新人作家の冒険小説。この舞台がいい。プロットがもう少し推理小説的であるなら、なお良かったのだが。

邦題 『さらばカリフォルニア』
原作者 アリステア・マクリーン
原題 Goodbye California(1977)
訳者 矢野徹
出版社 早川書房
出版年 1980/8/15
面白度 ★★
主人公 ジョン・ライダー。主任刑事。息子ジェフもカリフォルニア・ハイウェイ・パトロールの巡査。二人は職を辞して捜査を続行する。
事件 テロ集団がロサンゼルス近郊の原子力発電所を襲撃した。原子物理学者や職員も誘拐したが、その中にはジョンの妻も含まれていた。一方テロ集団側は核爆弾.を製造し、それを使用してカリフォルニア州を壊滅させると宣告してきたのだ!
背景 著者は1972年に初めて地震を経験したそうだ。その初体験の驚きからできた冒険小説でパニック小説ではないが、地震の恐ろしさが平易な文章で語られている。もっとも肝心なテロリストとの戦いの部分がかなりチャチなのが減点の大きな理由。

邦題 『サイモンは誰か?』
原作者 パトリシア・モイーズ
原題 Who Is Simon Warwick?(1978)
訳者 皆藤幸蔵
出版社 早川書房
出版年 1980/1/15
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのヘンリ・ティベット主任警視。
事件 物語は、余命いくばくもない大企業家が生死不明の彼の唯一の甥サイモンに、全財産を譲るという遺言書を作成するところから始まる。さっそくおかかえの弁護士がサイモン捜しを始めると、死後に二人の青年が、自分がサイモンであると名乗りをあげてきたのだ。はたしてどちらが本当のサイモンなのであろうか?
背景 遺産相続を巡る殺人事件という設定は、ミステリーではよくあるものだけに、中盤以降にさまざまな工夫がないと飽きられてしまう。その点で本作は、後半本物のサイモン捜しに殺人が絡むというユニークな筋立てになっている。モイーズとしては『死の贈物』以来のひさびさの快打だ。

邦題 『雪と罪の季節』
原作者 パトリシア・モイーズ
原題 Season of Snows and Sin(1971)
訳者 谷亀利一
出版社 早川書房
出版年 1980/9/15
面白度 ★★★
主人公 ヘンリ・ティベット主任警視と妻エミー。
事件 クリスマス休暇のために訪れたスイス・アルプスの観光地(第一作『死人はスキーをしない』の舞台はイタリア側アルプス)で、二人はスキー教師の刺殺事件に巻き込まれた。その事件は裁判の結果、二人の親友である彫刻家の証言が採用され、教師の妻の有罪が確定したが、ティベットはその証言に疑問をもった。エミーの援助を受けて、私的な捜査に乗り出したのだ。
背景 オビの惹き句には”アリバイ崩しの妙”とあるものの、このトリックは鮎川氏の比ではない。しかしそれにもかかわらず、本書が楽しいのは、サスペンスとユーモアが適度に混ざりあっていて、ちょうどクリスティのトミーとタペンス物のような雰囲気があるからであろう。

邦題 『暗やみ男爵』
原作者 アントニー・モートン
原題 Meet the Baron(1937)
訳者 延原謙
出版社 早川書房(早川ミステリ・マガジン1980年5月号)
出版年 1980/5/1
面白度 ★★
主人公 ジョン・マナリング。身長は6フィートゆたか。三十代半ば。
事件 マナリングは社交界の花形であるが、ギャンブルで身を滅ぼしつつあった。実際収入は年千ポンド近くで、最近も貴族の娘への結婚申し込みを断わられる始末だった。そのような状況をなんとか打開しようとしていた矢先、マナリングはフォントリ家で豪華な宝石を見せられる。そこでピンとくるものがあった。宝石泥棒で身を立てようと。”暗やみ男爵”の誕生である。
背景 ジョン・クリ―シー(J・J・マリック)がモートン名義で6日間で書き上げ、”怪盗物”の懸賞小説当選作で、シリーズの第一作である。ヒッチコック映画「泥棒成金」に似た設定である。プロットはご都合主義もいいところだが、マナリングは憎めない性格だ。

邦題 『死者を鞭打て』
原作者 ギャビン・ライアン
原題 Blame the Dead(1972)
訳者 石田善彦
出版社 早川書房
出版年 1980/1/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『殺しはアブラカタブラ』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 Abracadaver(1972)
訳者 風見潤
出版社 早川書房
出版年 1980/6/30
面白度 ★★★
主人公 クリッブ巡査部長とサッカレイ巡査のコンビ。
事件 19世紀後半のヴィクトリア朝時代。ロンドンの有名なミュージック・ホールで事故があいついだ。空中ブランコのロープが短く切られていたり、剣飲み芸人の剣にからしが塗られていたり、怪力男がバーベルを挙げた瞬間に犬に脚をかみつかれたり、と散々なものだった。単なる偶然なのか、何か狙いはあるのか? そして事故を予告する手紙が警察に届けられたのだ。
背景 物語の発端は面白い。ただ、それぞれの事故の共通点が明らかになる中盤からは中弛みになっている。まあ、本書の特徴はなんといってもヴィクトリア朝のミュージック・ホールの内情をユーモラスに描いている点で、これだけで満足してしまう。

邦題 『探偵は絹のトランクスをはく』
原作者 ピーター・ラヴゼイ
原題 The Detective Wore Silk Drawers(1971)
訳者 三田村裕
出版社 早川書房
出版年 1980/11/15
面白度 ★★★
主人公 クリッブ巡査部長とサッカレイ巡査のコンビ。
事件 事件の発端は、テームズ川に浮かぶ首なし死体が見つかったことであった。検死を行なってみると、両手の拳に傷あとがあり、今では禁止されている素手の拳闘試合の選手であることがわかったのだ。賭けに関係した殺人なのであろうか?
背景 ガス燈と二輪馬車に象徴されるヴィクトリア朝後期(19世紀末)を舞台にした時代ミステリーのシリーズ物三作目(翻訳が前後しているが、原著ではシリーズの二冊目)。時代背景に慣れるまでに多少時間はかかるものの、ひとたび素手の拳闘の魅力に引かれると(ユーモアとサスペンスも適度にあるから)、最後まで一気に読めるであろう。ただしパズラー的要素は少ない。

邦題 『戦艦奪取大作戦』
原作者 アル・ラムラス&ジョン・シェイナー
原題 The Ludendorff Pirates(1978)
訳者 池澤夏樹
出版社 集英社
出版年 1980/3/25
面白度 ★★★
主人公 チームプレイで戦艦を乗っ取る話なのでチーム全員が主役だが、強いて挙げれば、指揮官となるイギリス特別高等作戦将校のヴィヴィアン・ビーティーか。
事件 ナチス・ドイツが開発した「ルーデンドルフ」は排水量5万トンの巨大戦艦。このままではバルト海域の制海権を掌握されると危惧した英国は、無謀ともいえる奇襲作戦で戦艦の奪取を試みた。15人の精鋭がUボートの乗組員を装い、ゴムボートで接近・乗船するのだが……。
背景 シナリオ・ライター二人の共著。著者らが本当に英国人であるかは不明だが、主人公らが英国人であるので一応イギリス・ミステリーとした。物語がいかにも映画的で、各エピソードの組合せは巧みだが、御都合主義も鼻に付く。訳者が若き日の池澤氏であるのが珍しい。

邦題 『ゴールデンガール』
原作者 ピーター・リアー
原題 Golden Girl(1977)
訳者 名谷一郎
出版社 講談社
出版年 1980/4/1
面白度
主人公 ゴールデンガール。身長は1m88cm。モスクワ五輪の百メートルで金メタルを狙う。
事件 ジュネーブ大学で医学を修め、生理学を専門とするウィリアム・セラフィンは、ゴールデンガールを養子にして訓練し、オリンピックでの優勝を狙っていた。計画は順調にいき、サンディエゴの競技会では、三種目ともオリンピック標準記録を突破したのだ。しかしオリンピックの前に突然誘拐されてしまい……。
背景 ピーター・ラヴゼイが別名義で書いたスポーツ小説。近未来のオリンピック(モスクワ)を舞台にしたもので、ミステリー的興味は途中で誘拐事件を扱っている程度。オリンピックの場面はそれなりの緊張感のある描写をしているが、推理小説としての面白さは極端に少ない。

邦題 『燃える魚雷艇』
原作者 ダグラス・リーマン
原題 A Player for the Ship(1958)
訳者 中根悠
出版社 パシフィカ
出版年 1980/7/10
面白度 ★★★
主人公 第二次大戦中に活躍するロイス中尉。
事件 二十歳のロイス中尉は小さな魚雷艇に乗り込むことになった。任務はイギリス東海岸やドーヴァー海峡を哨戒することであるが、ある日ドイツのEボートと戦闘し、艇は沈没、彼自身も重傷を負ってしまった。しかし大尉に昇進するとともに、再びドイツ海軍と対決することになったのである。
背景 愛国心あふれる若者が主人公で、戦争の悲惨さより戦闘場面のカッコよさが強調されている。これには多少ひっかかるものの、ロイス中尉の初々しい恋愛を描いているのは微笑ましい。つまり本書は戦争冒険小説であるとともに青春小説でもある。会ったとたんにベッドインという恋愛とは正反対のものだけに、その意味では現代の若者に大いに勧めるべきか?

邦題 『内なる敵』
原作者 マイクル・Z・リューイン
原題 The Enemies Within(1974)
訳者 島田三蔵
出版社 早川書房
出版年 1980/2/15
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのインディアナポリスの私立探偵アルバート・サムスン。
事件 サムスンは、骨董商ウィルスンから、彼につきまとっている男を脅して、追い払ってほしいと依頼された。ところが追い払うべき男はシカゴの私立探偵で、サムスンは逆に事件の背景を教えてもらう始末。それによれば私立探偵は、狂信的なカソリックの夫から逃げて5年前に失踪したメラニーという女性を追っており、ウィルスンが彼女の居場所を知っているというのだ。サムスンが秘かに調べると、確かにウィルスンは女性を匿っており、なんと二人は異母兄妹だった!
背景 シリーズ3作目。事件は小粒で、犯人の意外性も少ない。そのためか終盤になるまで迫力不足気味なのが欠点だが、ラストの盛り上げ方とその後の余韻はサスガといえる出来。

邦題 『アンクル・サイラス』上下
原作者 ジョーゼフ・シェリダン・レ・ファニュ
原題 Uncle Silas(1865)
訳者 榊優子
出版社 創土社
出版年 1980/8/6、1980/10/7
面白度 ★★★★
主人公 大資産家の一人娘モード。
事件 モードは父の死後、後見人となった叔父サイラスの館に住むことになった。ところがサイラスは、暗い過去を持つ評判の悪い人間であった。モードの周りにも恐怖の影が……。
背景 レ・ファニュといえば19世紀後半に活躍した近代イギリス幻想小説の祖といわれる作家で、彼の短編(「緑茶」などの怪奇小説)は、ミステリー・ファンにも比較的知られている。本書は怪奇小説ではなく、ゴシック・ロマンスに近い作品で読みやすい(刊行はコリンズの『白衣の女』の5年後)。ミステリー・ファンとして見逃せない点は、喉をかき切られた死体が密室で発見された事件を扱っていることで、カー・ファンならずとも楽しめる。

邦題 『ひとたび人を殺さば』
原作者 ルース・レンデル
原題 Murder Being Once Done(1972)
訳者 深町眞理子
出版社 角川書店
出版年 1980/9/30
面白度 ★★★★
主人公 サセックス州キングズマーカム警察のウェクスフォード主任警部。
事件 ウェクスフォードは、病気の療養を兼ねてロンドンの甥の家を訪れた。しかし近くの墓地で女性の絞殺死体が見つかったのだ。ロンドンでの生活に退屈してきたこともあり、ウェクスフォードは自ら事件の解決にひと肌脱ごうと決心する。
背景 最近のように英米の話題作が次々に翻訳されてくると、実力がありながら長らく紹介されないという作家は、さすがに少なくなったが、レンデルはその数少ない未紹介作家の一人であった(英国に遅れること16年後のデビュー)。P・モイーズとP・D・ジェイムズの作風を足して二で割った感じで、今後が大いに期待できる。

邦題 『コンコルド緊急指令』
原作者 K・ロイス
原題 The Third Arm(1980)
訳者 羽村泰
出版社 文藝春秋
出版年 1980/8/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『木苺狩り』
原作者 ヒラリイ・ワトソン編
原題 Winter's Crimes 10(1978)
訳者 中村保男
出版社 早川書房
出版年 1980/7/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ある魔術師の物語』
原作者 ヒラリイ・ワトスン
原題 Winter's Crime 8(1976)
訳者 中村保男他
出版社 早川書房
出版年 1980/12/31
面白度 ★★★
主人公 お馴染みとなった英国ミステリー傑作選の四冊目(1976年版)。日本人には比較的名の知られていない中堅作家の作品が中心で、10本が収録されている。
事件 D・コーリイの標題作は中編と呼ぶべき分量で、本編中最大の異色作。大昔、魔術を三年間修業した三人の魔術師が、養成期間の終わりの最終試験に、宮廷で起きた王子殺害事件の解決を任されるという話。その他K・ボンフィグリオリ(「風邪を引かないで」)や、脂の乗り切っているP・D・ジェイムズ(「豪華美邸売ります」)、D・バグリイ(「ジェイスン・Dの秘密」)も楽しめる。
背景 標題作は一種のパロディで、英国紳士なみの文学の素養があればあるほど、楽しめる設定になっている。われら無学派には、いささかシャクにさわるところであるが……。

邦題 『イタリアの海 ラミジ艦長物語1』
原作者 ダドリー・ホープ
原題 Ramage(1965)
訳者 山形欣哉・田中航
出版社 至誠堂
出版年 1980/7/10
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『岬に吹く風 ラミジ艦長物語2』
原作者 ダドリー・ホープ
原題 Ramage and the Drum Beat(1967)
訳者 出光宏
出版社 至誠堂
出版年 1980/11/10
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『若き獅子の船出』
原作者 アレグザンダー・ケント
原題 Richard Bolitho-Midshipman(1975)
訳者 高橋泰邦
出版社 早川書房
出版年 1980/1/31
面白度 ★★
主人公 英国海軍士官候補生リチャード・ボライソー。16歳。
事件 海軍士官候補生になりたてのボライソーが戦列艦ゴルゴン号に乗艦し、アフリカ西岸にある海賊の基地を襲って大活躍する1772年の話。
背景 ボライソー・シリーズは、本国イギリスではホーンブロワー・シリーズを意識して生れたもの。ホーンブロワー・シリーズと同様、主人公の年譜順に作品が発表されたわけではないが、訳書は年譜順に出版することになったようだ。したがって本邦では本書がボライソーの初登場作品となったが、本国では本シリーズが評判になったために、途中でジュニア向けに書かれた一冊。細かい描写は避け、戦闘場面が多くて、比較的短いのはそのためであろう。

邦題 『革命の海』
原作者 アレグザンダー・ケント
原題 In Gallant Company(1977)
訳者 高橋泰邦
出版社 早川書房
出版年 1980/8/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『マリアの秘宝を奪取せよ』
原作者 アダム・ハーディ
原題 Fox4:Treasure Map(1973)
訳者 高橋泰邦・高永徳子
出版社 三崎書房
出版年 1980/3/26
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ちぎれ雲 ラミジ艦長物語3』
原作者 ダドリー・ホープ
原題 Ramagi and the Free-boaters(1969)
訳者 田中清太郎
出版社 至誠堂
出版年 1980/12/20
面白度  
主人公 

事件 


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