邦題 『ダーティ・ストーリー』
原作者 エリック・アンブラー
原題 Dirty Story(1967)
訳者 宇野利泰
出版社 早川書房
出版年 1979/2/28
面白度 ★★★★
主人公 アーサー・シンプソン。英国軍人とエジプト女性との間にできた息子。小悪党でギリシャで生活している。この作品ではブルー・フィルム撮影隊に雇われている。
事件 数々の悪事のためパスポートの更新を禁じられていたシンプソンだが、アフリカの冶金公社が軍隊経験者を募集しているのに目を付けた。首尾良くその公社にもぐり込んだものの、その公社の狙いは武力で鉱床の利権を奪うことであったのだ。シンプソンは戦争ごっこに巻き込まれる。
背景 『真昼の翳』の続編。戦争ごっこもそれなりに面白いが、私には特に前半のシンプソンのドタバタ劇が楽しめた。アンブラーとしてはコミカルに主人公を描いていて、軽いといえば軽いのだが、最後にはミステリーらしい、ちょっとしたオチがあって終るのが楽しめる。

邦題 『北海の星』
原作者 ハモンド・イネス
原題 North Star(1974)
訳者 池央耿
出版社 早川書房
出版年 1979/5/31
面白度 ★★★
主人公 かつて共産主義を信奉しながらも、その過激な行動を許せず離党したマイク・ランドール。今は海底油田掘削装置<ノース・スター>の見張船の船長である。
事件 船長の職を得るため、マイクは父の故郷へ帰ってきた。だがそのマイクの元へ、警察が追ってきた。昔の同志が引き起こした事件の証言を求めたものであった。一方彼の口を封じるために共産主義者も来た。彼らは同時に<ノース・スター>の爆破も狙っていたのだ。
背景 主人公が故郷に戻ってくるところから物語が始まるのは、イネスの初期作品の『密輸鉱山』に似ているが、主人公の性格設定にしても、舞台のスケールにしても、格段に優れている。共産主義者は悪という単純な捉え方をしていないのもいい。途中少しダレルのが残念。

邦題 『密輸鉱山』
原作者 ハモンド・イネス
原題 The Killer Mine(1947)
訳者 仁賀克雄
出版社 早川書房
出版年 1979/7/31
面白度 ★★
主人公 ジム・プライス。4歳のときに、父とともにこの地を離れ、世界各地の鉱山で働く放浪者。
事件 そのジムが、密入国者として故郷のコーンウォール地方に舞い戻ってきた。直接の理由は、廃坑になっている錫鉱山に友人の依頼で密輸用の秘密ルートを開くためであったが、彼の心の中には、両親のいさかいの原因をはっきりさせたいという気持が潜んでいた。
背景 最近の冒険小説界では、ヒギンズの活躍は連続ホームランといえるほどすばらしい。逆にマクリーンは凡フライも多いが、イネスについていうならば、確実にヒットを打っている打者といってよいであろう。ただしこの作品は、廃坑内での爆発作業や脱出行などの描写はさすがだが、打球の鋭さはいまいち。ヒットとはいえ、ポテン・ヒット程度か。

邦題 『キャプテン・クック最後の航海』
原作者 ハモンド・イネス
原題 The Last Voyage(1978)
訳者 池央耿
出版社 パシフィカ
出版年 1979/10/5
面白度 ★★★
主人公 実在のキャプテン・ジェイムズ・クック。1728年生まれ。三回の大航海を行なう。
事件 本書は、三度目にして最後のクックの航海を、クックが日記体で書いたように模した作品。クックはイギリスから喜望峰を経由しニュージーランドへ。さらにそこから南太平洋を通過してベーリング海峡で回航し、ハワイ諸島まで航海している。そのハワイでは悲劇が待っていた。
背景 パシフィカ社の海洋冒険小説シリーズの第11巻。従来のイネスの正統的冒険小説とは明らかに異なる作品。クックの私的な航海日誌というスタイルに徹していて、ノンフィクションと間違えるほどである。最初はどうも読書欲が起きなかったが、すこし我慢していると、クックのスケールの大きな冒険に惹かれ始める。派手さはないものの、クックの不屈さに魅了されてしまう。

邦題 『水は静かに打ち寄せる』
原作者 メアリ・インゲイト
原題 This Water Laps Gently(1977)
訳者 青木久恵
出版社 早川書房
出版年 1979/2/28
面白度 ★★
主人公 かなり年上の考古学者の夫と結婚しているアン・へイルズ。
事件 イギリスでの悲劇的事件に係わったアンは夫バーナードとともにギリシャへ移住。そこはアンにとって新鮮な驚きの土地で、幸福な生活が約束されているようだった。村では隣人にバンクス卿夫妻がいるし、夫の発掘研究も順調だったからだ。だが、アンが40歳のとき、また悲劇が・・。アン家の使用人の妻が、発掘現場から墜落死したのだ。自殺・他殺・事故のいずれなのか?
背景 『堰の水音』でデビューした著者の第2作。再びアンが主人公の作品だが、内容的には独立したもの。女性作家らしくギリシャの風景・風俗描写は丁寧で興味深いが、肝心のミステリとしてのプロットは平凡。でもアンの生き方・考え方に魅力がないのが、最大の弱点か。

邦題 『007号とムーンレイカー』
原作者 クリストファー・ウッド
原題 James Bond and Moonraker(1978)
訳者 井上一夫
出版社 東京創元社
出版年 1979/11/9
面白度
主人公 007号ことジェームズ・ボンド。新ボンドである。
事件 映画「007/ムーンレイカー」は、いちおう20年以上も前の原作から題名や悪人の名前などを借りてはいるものの、内容的にはまったく異なるものといってよい。本書はその映画の小説化。映画台本と並行して書かれたという本書は、派手なアクションが次々に展開される。まず冒頭はパラシュートなしのスカイダイビング、中盤はゴンドラ船での撃ち合いや空中ケーブル上での格闘、そしてクライマックスは地球上を回るスペース・シャトル内での大活躍といったぐあい。
背景 フレミング原作にあったボンドとヒューゴ卿のトランプによる対決など、じっくりと楽しめる部分はなくなってしまった。原作が≪大人の童話≫なら、これは若者向け童話でしかない?

邦題 『人狼を追え』
原作者 ジョン・ガードナー
原題 The Werewolf Trace(1977)
訳者 村社伸
出版社 早川書房
出版年 1979/1/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『犯罪王モリアーティの生還』上下
原作者 ジョン・ガードナー
原題 The Return of Moriarty(1974)
訳者 宮祐二
出版社 講談社
出版年 1979/2/15
面白度 ★★
主人公 ホームズの宿敵モリアーティ教授。
事件 正典ではモリアーティはライヘンバッハの滝に墜落死したことになっているが、実は生還していたらしい。この作品は新たに発見されたモリアーティ教授の日記を基にして書かれている。それによると、彼は1894年4月にはロンドンへ舞い戻っていたのだ。しかし3年間の不在中、彼の組織は新興組織に脅かされていた。モリアーティはそのボスを打倒するとともに、真の犯罪王としての実力を世界に示すために、英国皇太子の暗殺を企むのだった。
背景 設定はユニークで、19世紀末の猥雑なロンドンが巧みに活写されているが、肝心のホームズと教授の再度の対決はない。続編のためであろうが、出し惜しみの感あり。

邦題 『叛逆の密書』
原作者 ダンカン・カイル
原題 Black Camelot(1978)
訳者 佐和誠
出版社 早川書房
出版年 1979/11/30
面白度 ★★★★
主人公 武装親衛隊将校のラッシュとアイルランド人ジャーナリストのコンウェイ。
事件 時は第二次大戦末期。追いつめられたナチスは連合国側の堅い壁を裂くべき奇策を考え出した。それは戦争初期に作成していたナチスに協力的なイギリス人のリストを、ソ連に引き渡そうという計画であった。このリストにはイギリス人の大物が多数リストアップされており、ソ連の疑惑を引き起こすには十分な力を秘めていたからだ。そこでラッシュがリストを持って中立国スウェーデンに入国するが、偶然コンウェイに気づかれ……。
背景 読者の意表をつく波乱に満ちたストーリー展開が、文字どおりラストのページまで続くという出来映えで、マイナーな作家から一流の仲間入りを果たした記念碑的な作品といえよう。

邦題 『安楽椅子探偵傑作選』
原作者 各務三郎編
原題 独自の編集
訳者 各務三郎他
出版社 講談社
出版年 1979/7/15
面白度 ★★★
主人公 安楽椅子探偵の短編ミステリーを集めたアンソロジー。8本が収録されているが、そのうち4本が英国作家の手になる作品である。
事件 英国作家の作品は、M・P・シールの「ザレスキー公爵の復活」、オルツィ男爵夫人の「隅の老人」、G・K・チェスタートンの「折れた剣」、アガサ・クリスティーの「舗道の血痕」である。後の二作品の探偵、ブラウン神父とミス・マープルは、一般には安楽椅子探偵には分類されないが、確かにそれぞれの作品では、物語を聞きながら犯人を指摘するという設定になっている。
背景 残り4作品はアメリカ作家のもの。それらを含めても有名な探偵ばかりで、収録短編も定評のある短編が多く、その意味では入門書といったところ。もちろん再読に耐える作品ばかりだが。

邦題 『犯罪の中のレディたち』下
原作者 エラリー・クイーン編
原題 Ladies in Crime(1943,46)
訳者 厚木淳
出版社 東京創元社
出版年 1979/6/29
面白度 ★★★
主人公 女性の名探偵と大犯罪者を集めたアンソロジー。訳書のみ上下巻に分かれており、下巻には多くの英国作家の作品が入っているので(15本中11本)、本リストに含めた。
事件 英国作家の作品は「サントロペの悲劇」(G・フランカウ)「ロトの妻」(T・ジェス)「百匹の猫の事件」(G・ミッチェル)「銀行をゆすった男」(ヴァレンタイン)「フィレンツェ版の珍本」(F・ヒューム)「恐怖の一夜」(S・オーモニア)「インヴァネス・ケープの男」(B・オルツィ)「村の殺人」(A・クリスティ)「盗まれた名画」(E・ウォーレス)「グレート・カブール・ダイヤモンド」(R・ヴィーカーズ)「姿なき殺人者」(P・オッペンハイム)の11本で、残りは米国作家の作品4本。
背景 クリスティ作品「村の殺人」は短編集『愛の探偵たち』所収の「昔ながらの殺人」のこと。この時代までに、多くの女性探偵がいたという事実だけでも大きな驚きだ。

邦題 『犯人殺し』
原作者 ジョナサン・グッドマン
原題 The Last Sentence(1978)
訳者 真野明裕
出版社 文藝春秋
出版年 1979/10/25
面白度 ★★★
主人公 『ディーリア・ウィリス殺し』と題した犯罪研究書を出版したことのある犯罪研究家の私。
事件 ところが最近、その事件の真犯人と名乗る男が出現し、新聞ダネになるや、すぐさま殺されてしまったのだ。それも前回の殺人と同じ殺され方で――。
背景 久しい以前から本格物の衰退が予測されているが、本書は、新たな工夫をこらした本格ミステリー。トリックそのものは平板であるものの、事件の構成を工夫することで、極めてオリジナルな作品に仕上がっている。つまり、ニ度目の殺人が過去の≪コピー殺人≫であるという構成が独創的で、よく考えられているのだが、それでも結末にアンフェアな点が多少見られるから、本格物を書くのはやはり大変な仕事といえそうだ。

邦題 『ヒューマン・ファクター』
原作者 グレアム・グリーン
原題 The Human Factor(1978)
訳者 宇野利泰
出版社 早川書房
出版年 1979/7/31
面白度 ★★★★
主人公 英国情報部部員カースル。アフリカ関係の情報収集と分析を担当している。
事件 カースルは南アフリカで活動中、黒人の人妻と恋をし、彼女をイギリスへ脱出させた後に結婚した。ところが、この課で情報が漏れていることがわかったのだ。容疑者は課長を含めて三人。そしてカースルの部下に疑いがかかり、彼は殺されてしまったのだ。
背景 本作もキム・フィルビー事件が下敷きになっている。二重スパイをする理由が説得力をもって語られていく。物語は淡々と進んでいくものの、その中に巧みにサスペンスを盛り上げる要素を取り込んでいる。ミステリー的にも、ラストで一捻りを加えているうえ、サスペンスフルな脱出劇を用意していて、サスガはスパイ小説にも造詣が深いグリーンと感心してしまう。

邦題 『間違われた男』
原作者 フランシス・クリフォード
原題 Another Way of Dying(1968)
訳者 中村能三
出版社 早川書房
出版年 1979/9/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『世界鉄道推理傑作選1』
原作者 小池滋編
原題 独自の編集
訳者 小池滋他
出版社 講談社
出版年 1979/4/15
面白度 ★★★
主人公 鉄道が極めて重要な役割を演じているミステリー短編を集めたアンソロジー。
事件 V・L・ホワイトチャーチ(走行中の貨物列車から一両だけを盗み出すという「ギルバート・マレル卿の絵」の作者。ただしこの作品はあまりに有名なためカットされている)の「ロンドン中北鉄道の惨劇」を始めとして、「オスカー・ブロズキー事件」(これもソーンダイク博士の有名な探偵譚)やセクトン・ブレイク物など6短編が収録されている。
背景 ”世界”と銘うっているにもかかわらず、この巻はすべてイギリス作家の作品ばかりであるが 、これは編者の好みというより、20世紀前半のイギリスは鉄道が世界一発達していた国(もちろんミステリーも最も愛好されていた国)であったのだから、当然のことといえよう。

邦題 『世界鉄道推理傑作選2』
原作者 小池滋編
原題 独自の編集
訳者 小池滋・中野康司
出版社 講談社
出版年 1979/10/15
面白度 ★★★
主人公 鉄道が極めて重要な役割を演じているミステリー短編を集めたアンソロジーの続巻。
事件 第一巻はすべてイギリス人作家の手になるイギリスの鉄道を舞台にした作品であったが、この巻ではアルゼンチンの鉄道が出てきたり(P・タボリの「とても静かな乗客」)、米国作家の作品(A・ダーレスの「消えた機関車の冒険」)が収録されていて、バラエティに富んでいる。その他の作品は怪奇小説の古典C・ディケンズの「信号手」、C・ドイルの「消えた機関車の冒険」、R・ヴィカーズの「八番目の明かり」、F・クロフツの「寝台急行列車の謎」と「機関士室の犯罪」、M・ギルバートの「ダックワース氏の夜の外出」の合計8本である。。
背景 特筆は編者の解説で、1では歴史や車両構造、2では地下鉄について詳述している。

邦題 『復讐クラブ』
原作者 ジェニイ・サヴェージ
原題 The Nemesis Club(1977)
訳者 山本俊子
出版社 早川書房
出版年 1979/3/31
面白度 ★★
主人公 FBIの捜査官ダンと三番目の犠牲者の母アイリーン。
事件 事件の舞台はイギリスの田園地帯。ここ数日のうちに二人の少女が誘拐・惨殺されたのだ。だが警察が厳戒態勢を敷いたにもかかわらず、三番目の犠牲者が出た。殺された娘の母親は、数年前に白血病で夫を亡くし、いま一人娘を失ったのだ。アイリーンは犯人への復讐を誓った。特捜本部に加わったダンはアイリーンに思い留まらせようとするが……。
背景 新人らしい新鮮な感覚と犯罪事件に恋愛を絡ませる巧みな語り口とによって、独特のサスペンスを生むもとに成功してるが、復讐譚としては物足りない。しかしいずれにしても、ミス・マープルの口癖ではないが、静かな田園地帯にも邪悪な心の持ち主はたくさんいるものだ。

邦題 『砂の渦』
原作者 ジェフリー・ジェンキンズ
原題 A Twist of Sand(1959)
訳者 新津一義
出版社 パシフィカ
出版年 1979/4/6
面白度 ★★★
主人公 英国海軍の潜水艦長ジェフリー・ピース。
事件 骸骨海岸――この奇妙な名前をもつ海岸は、砂州と暗礁がいたるところにある南ア連邦の海の難所で、ありとあらゆる難破船の残骸が打ち寄せられている船の巨大な墓場なのである。いわば船乗りからは忌み嫌われている海岸であるが、ピースはこの海岸を熟知している一人であった。ところがこの海岸に、世界的に珍しい昆虫を探しに行きたいという人物が登場したのである。ピースはなにかおかしいと直感するのだが……。
背景 去年紹介された同じ著者の『幽霊潜水艦』に似ているが、それは素材だけで、完成した料理は別個の味である。最後には山岳地帯での対決も味わえるという大盛り料理的趣向もある。

邦題 『ピーター卿の事件簿』
原作者 ドロシー・L・セイヤーズ
原題 独自の編集
訳者 宇野利泰
出版社 東京創元社
出版年 1979/3/2
面白度 ★★★
主人公 ≪貴族探偵≫のピーター・ウィムジー卿。
事件 独自の編集による短編集で、7本の短編が収録されている。それらの短編に共通していえることは、まず発端の面白さであろう。たとえば冒頭の「鏡の映像」では、主人公と生き写しの人物が登場するという謎であり、「幽霊に憑かれた巡査」では、死体の発見された家がわずかの時間のうちに、忽然と消えてしまう不可能興味であり、さらに「盗まれた胃袋」では、自己の消化器官を甥の子に贈るという遺言書の奇妙さである。
背景 発端ほどは解決部が面白くないのは、科学的事実に依存しすぎて、結末の意外性が不足しているからであろう。論理的解決の魅力と小説としての面白さは、必ずしも一致しないようだ。

邦題 『暗殺のデュエット』
原作者 オーウェン・セラ
原題 An Exchange of Eagles(1977)
訳者 倉谷直臣
出版社 徳間書店
出版年 1979/2/10
面白度 ★★
主人公 絞りにくいが、強いて挙げればドイツ国防軍防諜部のオステン中佐とアメリカ陸軍情報部のシュレーダー大佐、そしてヒトラーを暗殺するためにドイツに潜入するスタナード米陸軍中尉。
事件 1940年8月、ナチ・ドイツはポーランドに侵攻した。アメリカは参戦をめぐって緊迫の度を深めていた。オステンとシュレーダーは、世界が平和を取り戻すには、ヒトラーとルーズベルトを抹殺するしかないと決意したのだ。この「双頭の鷲」作戦は成功するのか?
背景 ノンフィクション的な書き方をしているナチ物の戦争冒険小説。独創的な点は両国のトップを同時に暗殺しようとするプロットにあるが、ヒトラー暗殺だけでも大長編になるのに、ルーズベルトまで手掛けている。これでは物語を端折らざるを得ず、サスペンスも盛り上がっていない。

邦題 『熱い国からの侵入者』
原作者 ジョン・ソールズベリー
原題 The Baby Sitters(1978)
訳者 中矢一義
出版社 集英社
出版年 1979/4/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『アガサ 愛の失踪事件』
原作者 キャサリン・タイナン
原題 The Search For Agatha(1978)
訳者 夏木静子
出版社 サンリオ
出版年 1979/9/25
面白度 ★★
主人公 ジャーナリストのウォリイ・スタントン。40歳。現在はゴシップ・コラムを担当。
事件 クリスティーは1926年の12月3日に失踪し、11日後ヨークシャーの鉱泉療養地で発見された。原因は、彼女の心身の過労からくる記憶喪失のためという説明で決着がついたが、死後に出版された自伝の中でも、この点については言及されていない。この≪ミステリー作家自身のミステリー≫を解決しようとしたのが本書。つまり当時の新聞や生き残りの人たちの話から謎を解き、著者のフィクションとして発表したわけである。
背景 スキャンダラスな内容にならないよう、巧みに回避している点が最大の読みどころ。ただクリスティーのミステリーのような結末の意外性を期待しすぎると失望するだろう。

邦題 『爆撃機』
原作者 レン・デイトン
原題 Bomber(1970)
訳者 後藤安彦
出版社 早川書房
出版年 1979/11/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『チェルシー連続殺人』
原作者 ライオネル・デヴィッドソン
原題 The Chelsea Murders(1978)
訳者 海老根宏
出版社 集英社
出版年 1979/10/25
面白度 ★★★
主人公 探偵役は女性記者ムーニイとウォートン警視。
事件 連続殺人を扱った本格物。連続殺人には、大別すると『グリーン家殺人事件』のように、事件に関係する人間が次々に殺されていく型と、『ABC殺人事件』のように、一見無関係な人たちが殺される型(しかもこの場合には殺人の予告状が送られるものが多い)に分けられるが、この作品は典型的な後者のタイプ。ロンドンのチェルシー地区に住む住人が、詩の予告状どおりに殺されたり、襲われたりするのである。
背景 1978年のCWAゴールド・ダガー賞受賞作。本書の面白さは、絞られた容疑者の中の誰が犯人かという謎を巧みに展開している点にあるが、主人公に魅力がないのが残念。

邦題 『ニコラス・クインの静かな世界』
原作者 コリン・デクスター
原題 The Silent World of Nicholas Quinn(1977)
訳者 大庭忠男
出版社 早川書房
出版年 1979/1/31
面白度 ★★★★
主人公 モース主任警部とルイス巡査部長のコンビ。
事件 今回の事件は、海外学力試験委員ニコラス・クインの毒殺であった。クインには難聴という障害があったが、知性・人柄とも申し分なく、他人から狙われるとは予想もできない人物だったのだ。モースは、”なぜ?”、”いつ?”、”いかにして?”犯罪が行なわれ、犯人は”誰か?”という難題に立ち向かうのである。
背景 いかにもパズラーにふさわしい、””で囲まれた章の題名といい、細かい伏線を張りめぐらした中盤のストーリー展開や二転、三転する結末といい、本格派ファンならずとも、大いに楽しめるであろう。改装された≪黄色い部屋≫のなんたる住み心地のいいことか!

邦題 『狼殺し』
原作者 クレイグ・トーマス
原題 Wolfsbane(1978)
訳者 竹内泰之
出版社 パシフィカ
出版年 1979/7/16
面白度 ★★★
主人公 事務弁護士のガードナー。第二次大戦中はレジスタンス・グループのリーダーだった。
事件 ガードナーは終戦直前、誰かに密告されて逮捕されたものの、首尾良く脱獄。戦後は弁護士として平穏に暮していた。ところが1963年に家族旅行でフランスへ行ったことから、密告者の正体がわかったのだ。ガードナーは突然復讐を誓い、いまや英国情報部の中枢にいる謎の人物を一人で狙い始めたのだ。
背景 有名な二重スパイ事件であるキム・フィルビー事件を下敷きにしたスパイ小説。こんな複雑な手を使わなくてもいいのにと思ってしまうし、伏線があまり生きていない。したがって第一部は面白いのだが、第ニ部、第三部になるほど平板になっていく。

邦題 『仔犬になった男』
原作者 ジェームズ・ハーバート
原題 Fluke(1977)
訳者 関口幸男
出版社 サンケイ出版
出版年 1979/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ヴァルハラ最終指令』
原作者 ハリー・パタースン
原題 The Valhalla Exchange(1976)
訳者 井坂清
出版社 早川書房
出版年 1979/10/31
面白度 ★★★
主人公 アメリカ軍のハワード大尉。
事件 1945年4月末、ナチの高官マルチン・ボルマンは、フィンランド人傭兵部隊とともに、ババリア地方のアルルベルク城に急行していた。ボルマンの狙いは、その城に収容中の5人の有名人捕虜を人質にし、ナチス再興計画の取引材料にするためであった。一方、その城の守備隊は連合軍側に降伏し、ハワード大尉らが城に向かうが……。
背景 ヒギンズがパタースン名義で書いた作品。ボルマンは生きて南米に逃れたという伝説に則った戦争冒険小説。最後に城の中でドンパチやるところが山場。まあそれほど面白い作品とはいえないが、かといって貶すほどつまらない作品でもない。水準作。

邦題 『優雅な密猟者』
原作者 フランク・パリッシュ
原題 Fire in the Barley(1977)
訳者 上田公子
出版社 早川書房
出版年 1979/2/15
面白度 ★★★★
主人公 ダン・マレット。元は銀行員であったが、密猟者であった父親がなくなると、自由な生活ができる密猟者になった。表面的には便利屋として生きている。
事件 病気の母親の治療費を捻出することもあり、ダンはお屋敷から銀器を盗み出した。だが、医師の生け簀に毒が投げ込まれて魚が全滅したことを知った。また納屋が放火されることもあった。それらの事件はダンの与り知らないことであったが、警察から疑いの目で見られ始めたため……。
背景 1977年CWAの新人賞を受賞した作品。英国の田園生活が細かく描写されているなど、英国ミステリーの特徴がよく出ている。なんといっても面白いのは主人公の設定だが、個性が強過ぎて付き合いきれないと感じる人もいよう。プロットはそう複雑ではないがサスペンスはある。

邦題 『蜜蜂の罠』
原作者 フランク・パリッシュ
原題 Sting of the Honeybee(1978)
訳者 浅羽莢子
出版社 早川書房
出版年 1979/11/15
面白度 ★★★★
主人公  密猟者のダン・マレット。『優雅な密猟者』に続く第ニ作。
事件 二作めも同じ英国田園地方を舞台にしているが、事件の内容はかなり異なっている。老姉妹が所有する農場の買い取りに男が村に現れた。しかし交渉はまったく進まなかった。業を煮やした男は卑劣な手段で姉妹に圧力をかけ始めたのだ。盗んだ馬を農場においているマレットも落ち着いてはいられない。悪党どもに包囲され、兵糧攻めにあいながらも、女性三人(うち老嬢二人)とマレットは、無事脱出できるのか?
背景 物語としては単純であるが、それだけにサスペンスは強烈である。主人公の性格になじめない人もいようが、その点さえ気にしなければ楽しめること請け合だ。

邦題 『廃墟の東』
原作者 ジャック・ヒギンズ
原題 East of Desolation(1968)
訳者 白石佑光
出版社 早川書房
出版年 1979/8/31
面白度 ★★
主人公 パイロットのジョウ・マーティン。アル中のために離婚。いまでは酒を断って、夏の間はグリーンランドでパイロットとして働いている。
事件 その彼に依頼された仕事とは、一年以上前にグリーンランドに墜落した輸送機の調査だった。マーティンは、保険会社の社員と死亡したパイロットの妻を乗せて墜落現場に向かった。そこへ狩猟に夢中な老優、その俳優を助けようとする若い女優などが登場し……。
背景 ヒギンズ名義での第一作。ただし、ハリー・パタースン名義で十年以上も前から小説を書いていたので、手慣れた出来という印象しか持てない。とてもマクリーンの第一作のような迫力はない。プロットはそう悪くないのだから、登場人物をきちんと描き分けてほしかった。

邦題 『闇の航路』
原作者 ジャック・ヒギンズ
原題 Passage by Night(1964)
訳者 竹内泰之
出版社 パシフィカ
出版年 1979/11/15
面白度 ★★★
主人公 キューバ革命で難民となったハリー・マニング。
事件 ハリーはバハマで無気力な生活をしていたが、恋人を飛行機爆破事件で失い、その復讐もあり、犯人を追ってキューバに潜行した。しかし捕らわれの身となってしまった。ところがロシア人ミサイル技術者と知り合い脱出に成功する。そしてそのときの協力者とともに、ナッソーでの爆破計画を阻止するために立ち上がったのだ。
背景 ヒュー・マーロウ名義の作品。ヒギンズ自身は、その頃の作品群をストーリー展開はいいが、主人公の設定に難があったと言っているが、本書はその言葉がぴったりの作品。物語はテンポよく展開し、適度な面白さがあるものの、主人公の性格設定が月並みなのである。

邦題 『早すぎた警告』
原作者 C・フィッツサイモンズ
原題 Early Warning(1978)
訳者 真野明裕
出版社 文藝春秋
出版年 1979/7/25
面白度 ★★★
主人公 特殊な修理会社の社長マーティン。
事件 マーティンが東ドイツで得た情報「英国で開かれる産油国会議の開会式をアラブゲリラが襲う」は、外務省や警察でさえも信じてくれなかった。しかしマーティンはこの情報を知ってしまった以上、命を狙われるのは確実だ。そして購入した戦闘機は爆破されてしまったので、第二次大戦中に活躍したスピッツファイヤーに乗って戦うことにしたのだ。
背景 いわゆる巻き込まれ型の冒険小説だが、主人公の愛国心には驚かされる。自費でジェット戦闘機まで購入してしまうのだ! これほどの活躍をしながらも何の栄誉も与えられないところなど、いかにも英国の冒険小説らしい。前半が長すぎるのがかなりの欠点だ。

邦題 『悪魔の選択』
原作者 フレデリック・フォーサイス
原題 The Devil's Alternative(1979)
訳者 篠原慎
出版社 角川書店
出版年 1979/12/20
面白度 ★★★★★
主人公 さまざま人物。ソ連の書記長から英米独蘭の世界の指導者と各国の秘密諜報機関、さらには超大型タンカーの乗組員など。
事件 1982年の近未来。穀物が不作なため、ソ連は米国から穀物を輸入。その見返りは軍縮条約の締結である。一方議長を暗殺した犯人が捕まった。また話は代わり、日本で作られた超大型タンカーが処女航海でシージャックにあった。要求は先に捕まった犯人の釈放だったのだ。
背景 さすがに上手い。これだけのスケールの大きな物語を作るだけでもたいしたものだが、それを最後まで飽きさせない。ラストも秀逸。ハイジャックで犠牲者が出ないのも読後感を良くしている。不満をいえば、悪魔の選択が難しいわりには、第3の道が簡単すぎることぐらいか。

邦題 『アバランチ・エクスプレス』
原作者 コリン・フォーブス
原題 Avalanche Express(1977)
訳者 田村義進
出版社 早川書房
出版年 1979/4/30
面白度 ★★★★
主人公 イギリス人のバリー・ウォーグレイブ(元英国情報部員)。数ヵ国語を話す。
事件 ミラノからスイスを通過してアムステルダムまで行くアトランティック急行。この列車には、ソ連の大物スパイが密かに乗り込んでいた。彼はアメリカへの脱出を希望し、猛吹雪の欧州を縦断してオランダに向かっていたのである。だがソ連側もこの情報をキャッチし、彼を抹殺するためのさまざまな計画がたてられていた。雪崩による列車転覆の試みは、ソ連側のもっとも強力な作戦であったのだ。バリーらは、その作戦を逃れて、大物スパイを無事脱出させることが出来るか?
背景 東側は悪で西側は正義という公式どおりの設定だが、これがほとんど気にならないほど物語の展開は快調で心地よい。いわば連続大活劇の現代版で、第一級の娯楽作品だ。

邦題 『パレルモ潜行作戦』
原作者 コリン・フォーブス
原題 The Palermo Affair(1972)
訳者 宮祐二
出版社 早川書房
出版年 1979/8/31
面白度 ★★★
主人公 英軍のジェイムズ・ペトリー少佐と米軍のエド・ジョンソン大尉。これにマフィアの首領シェルバが道案内人として加わる。
事件 1943年7月、連合軍はヨーロッパ再上陸を目指し、その前哨としてシシリー島進攻を計画していた。だがドイツもその計画を察知し、軍隊をイタリア南部に集めて、大型輸送船を準備していた。もし軍隊がシシリー島に渡ってしまったら連合軍の進攻は危険にさらされる。かくして大型輸送船を爆破させるために主人公らが密かにパレルモに上陸した。
背景 シシリ−島を縦断して船を爆破するまでを描く戦争冒険小説。この手の代表作『ナバロンの要塞』には遠く及ばないのはしかたがないが、プロットは変化に富んでいて楽しめた。

邦題 『巡洋艦アルテミス』
原作者 C・S・フォレスター
原題 The Ship(1943)
訳者 高橋泰邦
出版社 パシフィカ
出版年 1979/2/8
面白度 ★★★
主人公 題名通りの巡洋艦アルテミス
事件 著者の作品は大別すると、帆船時代に題材をとったものと、第一・二次大戦を背景にしたものがあり、本書は後者に属する作品。話の筋はいたって単純で、地中海の要地マルタ島へ向かう輸送船団を護衛するアルテミスとそれを阻止しようとするイタリア艦隊との戦いの物語である。
背景 主役はあくまでも”艦”であり、この艦がいかに戦い、いかに傷ついたかを細密画を思わせる筆致で描きあげている点が最高の見所といえよう。国威高揚の意図がないとはいえないが、ヒッチコックの映画「海外特派員」程度で問題はない。それにしてもマクリーンの”ユリシーズ号”の先輩にこれほどの艦がいるのだから、創作上のイギリス海軍は強いはずだ。

邦題 『たった一人の海戦』
原作者 C・S・フォレスター
原題 Brown on Resolution(1929)
訳者 高橋泰邦
出版社 パシフィカ
出版年 1979/10/25
面白度 ★★★
主人公 アルバート・ブラウン。未婚の母の息子で、幼少より海軍に入れるように教育される。
事件 母亡き後、ブラウンは無事海軍に入った。そして第一次大戦が勃発。彼の乗った巡洋艦はあっけなく沈没し、彼は捕虜になった。ドイツ艦は修理のためガラパゴス諸島に浮かぶ無人島に停泊していたが、ある夜ブラウンはライフル銃だけで脱出し、ドイツ艦の修復工事を遅らせようと、たった一人で戦いを挑んだのだ。
背景 悲しい話を淡々と綴るフォレスターの語り部としての腕はたいしたものである。未婚の母や互いに知り合えずに終った父と子の設定などもうまい。ただし、ただしである。いかにも海軍バンザイという内容には、個人的ながらもう一つ物語にのめり込めない恨みがある。

邦題 『ウィンブルドン』
原作者 ラッセル・ブラッドン
原題 The Finalists(1977)
訳者 池央耿
出版社 新潮社
出版年 1979/5/15
面白度 ★★★★
主人公 ソ連のテニス選手ツァラプキンと豪州のテニス選手キング。
事件 新鋭のツァラプキンはキングと試合をし、二人は親友になるものの、ツァラプキンはソ連当局から嫌われ、亡命してしまった。そして一年半後、二人はウィンブルドンの決勝で対決することになったのだ。だが、この試合が始まった直後、女王のダイアモンドをよこさないと、この試合の勝者と女王を射ち殺すとの警告があった。二人は必死に試合を引き延ばすが――。
背景 前半は二人の友情やテニスを中心に話を進め、後半は犯人を捕まえられるかというサスペンスで盛り上がる。ミステリー的な面白さは後半部にある。動機は単純だし、犯人も簡単にわかるが、なによりも強烈なサスペンスを生み出す斬新なプロットには感心した。

邦題 『障害』
原作者 ディック・フランシス
原題 Risk(1977)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1979/1/31
面白度 ★★★
主人公 アマチュア騎手でもある公認会計士のブリトン。
事件 ブリトンは有名な障害レースで思いもかけぬ優勝を手にした。しかしレース直後、彼は誘拐された。だがやがて船の中に監禁されていることに気づき、脱出に成功した。ところがまたもや誘拐されてしまったのだ。生命までとるつもりはないようだが、何故なのか?
背景 競馬界の裏面を知っている会計士が主人公だけに、経済を扱った冒険小説。出だしがいい。三分の一くらいまでは傑作を予感させる出来である。だがその後はトーンダウンしてしまう。再び誘拐されるのは、フランシスの主人公にしては少しだらしないし、犯人も、その動機も、なんとなくわかってしまう。警察の行動も、イギリスの警察にしては迂闊でいただけない。

邦題 『ローマの白い午後』
原作者 ヒュー・フリードウット
原題 The Girl Who Passed for Normal(1973)
訳者 小沢瑞穂
出版社 早川書房
出版年 1979/4/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『消されかけた男』
原作者 ブライアン・フリーマントル
原題 Charlie Muffin(1977)
訳者 稲葉明雄
出版社 新潮社
出版年 1979/4/26
面白度 ★★★★
主人公 窓際族スパイといってよい英国情報部のチャーリー・マフィン。
事件 チャーリーは、かつてKBGの大物ベレンコフを逮捕したこともある敏腕部員であったが、上司の交代に伴ない、主流から外された。ところが新任の部員がベレンコフの親友の亡命を助ける仕事に失敗し、その任務がチャーリーに回ってきたのだ。彼は何かオカシイと感じていたが……。
背景 スパイ小説が、ジョン・ル・カレやレン・デイトンの出現で、ひところのマンガ・スパイが影をひそめてしまったが、これも一風変わったスパイ小説。組織からはみ出しそうな中年実力派スパイの話で、伏線も上手く張られていて、本格ミステリーのドンデン返しのような面白さが味わえる。英米の情報部部長やCIA長官が、あまりに俗物で低脳なのが、面白さを減じているが。

邦題 『野生の島』
原作者 アントニア・フレイザー
原題 The Wild Island(1978)
訳者 北見麻里
出版社 早川書房
出版年 1979/6/30
面白度 ★★★
主人公 TVの人気インタビュアー、ジマイマ・ショア。シリーズ物の第二作。
事件 著者の特徴は、もっとも現代的な女性を古風な舞台に登場させるという点にあるようだ。第一作では古い尼僧院の連続殺人に遭遇し、今回は、休暇を一人で静かに過ごす目的で行った、スコットランドの≪野生の島≫で、相続争いに巻き込まれるという設定である。
背景 この種の作品は、謎解きの面白さは当然のことながら、アマチュア探偵の性格・行動に、読者が共感できるかどうかで評価が大きく分かれるであろう。たとえばベージュのパンタロンにベージュの絹のブラウス(おまけに靴もベージュ色!)という彼女の服装のセンスの良さ。理知的で冒険心あふれる性格。「なんだ翔んでる女性か」と言うようでは、この作品は楽しめない。

邦題 『汚名挽回』
原作者 J・フレーザー
原題 Who Steals My Name ?(1976)
訳者 佐藤智樹
出版社 講談社
出版年 1979/9/15
面白度 ★★★
主人公 イングランド中部のバートン警察に所属するビル・エイブヤード警視。初登場の警官。モース警部のように独身だが、スタントン主任警視なみの落着きがあり、ドーヴァー警部などとは比較にならないほどの部下思いなのである。
事件 事件は片田舎に起きた警官殺し。エイブヤードはこの事件の担当に任ぜられるが、賄賂を受けたという疑いをかけられ、そこで題名どおりの汚名挽回を期して、公務外の活動を始めた。
背景 著者は本名のA・ホワイト名義でも多くの作品を発表している(日本では『埋葬の土曜日』が翻訳されている)。本書はシリーズの最新作にあたる。全体に地味すぎるきらいはあるが、渋いユーモアと一捻りした結末は、玄人好みの作品といえよう。

邦題 『ベンスン怪奇小説集』
原作者 E・F・ベンスン
原題 Spook Stories(1928)
訳者 八十島薫
出版社 国書刊行会
出版年 1979/9/10
面白度 ★★★★
主人公 英国怪奇小説の黄金時代は1890年から1920年頃のようだが、著者もその時代に活躍した作家で、英国近代の三巨匠アーサー・マッケン、M・R・ジェイムズ、アルジャノン・ブラックウッドに次ぐ作家。10本が収録されている。
事件 トップの「和解」は、ラストの一行がユーモラスな幽霊物。「顔」は、何百年前に死んだ男の顔につきまとわれる女性の運命を描いている実に怖い話。その他「スピニッジ」、「バグネル・テラス」、「空き家の話」、「ナボテのぶどう園」、「ホーム・スイート・ホーム」、「鳥の啼かぬ森」、「コーストフィン」、「神殿」を含む。
背景 幽霊屋敷物が多いが、語り口が上手いからか、いずれも結末まで一気に読める。


邦題 『ドーヴァー9/楽勝』
原作者 ジョイス・ポーター
原題 Dead Easy for Dover(1978)
訳者 小倉多加志
出版社 早川書房
出版年 1979/9/15
面白度 ★★
主人公 お馴染みドーヴァー警部とマグレガー部長刑事のコンビ。
事件 今回の事件は、田舎町の高級住宅地で起きた殺人事件。被害者は18歳くらいのヒッピー風の女性で、その土地には不似合いな女性であったが、驚いたことに妊娠していたのだ。ところがマグレガーがもっと驚いたことは、ドーヴァーが転職すると宣言したのだ。そのためにはこの事件を見事に解決して箔を付ける必要がある。かくして殺人現場となった屋敷の持ち主を始めとして容疑者になりそうな人間を片っ端から小突いてみるが……。
背景 設定は面白いし、本格物としてはまあまあなのだが、私には中盤が読みにくくて閉口した。サスペンス不足が致命的か? ドーヴァーの評価が段々下がるのは残念だが。

邦題 『偽装』
原作者 マイケル・マクガイア
原題 Slaughter Horce(1975)
訳者 三枝祐士
出版社 立風書房
出版年 1979/6/1
面白度 ★★
主人公 競馬警備局のフリーランス調査員のサイモン・ドレイク。
事件 くず馬数頭が、最近になって異常なほど良い成績を挙げていた。薬物投与の疑いを持った警備局はドレイクに調査を依頼する。彼は記者になりすまして厩舎から情報を得ることにした。ところがこの調査中に、優秀な種馬を誘拐するという情報が入り、警備局は偽装した馬を用意するものの、ドレイクは頭をうたれ、種馬は盗まれてしまったのだ。
背景 競馬の臭いは確かに感じられるが、主人公の魅力というか、小説の上手さの比較では、圧倒的にフランシスに軍配が挙がってしまう。メイン・トリックは私は面白く感じたので、誘拐や名画盗難などはカットして、それ一本に絞った方が小説として散漫にならなかったはずだ。

邦題 『魔女の海域』
原作者 アリステア・マクリーン
原題 Seawitch(1977)
訳者 平井イサク
出版社 早川書房
出版年 1979/9/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ならず者の鷲』
原作者 ジェイムズ・マクルーア
原題 Rogue Eagle(1976)
訳者 小泉喜美子
出版社 早川書房
出版年 1979/2/28
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『南極海の死闘』
原作者 W・R・D・マクロクリン
原題 Antarctic Raider(1960)
訳者 尾坂力
出版社 パシフィカ
出版年 1979/12/10
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『夜を深く葬れ』
原作者 W・マッキルヴァニー
原題 Laid Law(1977)
訳者 田村義進
出版社 早川書房
出版年 1979/10/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ココナッツ殺人』
原作者 パトリシア・モイーズ
原題 To Kill a Coconut(1977)
訳者 皆藤幸蔵
出版社 早川書房
出版年 1979/4/15
面白度 ★★★
主人公 重要な手掛かりをつかんだなと直感すると、思わず鼻がむずむずするという癖の持ち主ヘンリ・ティベット警視。『第三の犬』に続く、4年ぶりの登場である。
事件 今回の事件も、カリブ海に浮かぶイギリス領セント・マシューズ島で起きたもの。この島のゴルフ場でアメリカ上院議員が、ココナッツ割りに使うナタで打ち殺されたのだ。決定的な証拠がないにもかかわらず、一人の黒人が逮捕されたため、過激派グループがこれを人種差別と憤慨し、暴動を起そうとしていた。そこで警視庁はティベットを送り込んだわけである。
背景 のんびりムードの小島での犯罪であるから、緊迫感が読者に充分には伝わってこないうらみがあるが、ベテラン警視の手慣れた捜査だけに、安心してつきあえる。

邦題 『破滅のプログラム』
原作者 デズモンド・ラウデン
原題 Bellman and True(1975)
訳者 尾坂力
出版社 早川書房
出版年 1979/3/31
面白度 ★★
主人公 元コンピュータ技師のヒラー。酒とクラシック・レコードに溺れて会社を解雇され、妻にも逃げられ、いまでは11歳の義理の息子と生活している。
事件 そのようにうらぶれた生活をしているヒラーに接触してきた男がいた。銀行強盗を計画していて、ヒラーの過去の知識と技術を買っての強要であった。息子を人質にされたヒラーは、やむなく一味に協力することになった。破滅の予感を感じながら――。
背景 前半がつまらない。主人公が陰々滅々な人間で面白味がないし、文体がハードボイルド的で魅力を感じなかったからである。このアメリカ的な文体によって、イギリス・ミステリーらしさがへんな形になっている。ただしラストは気がきいている。

邦題 『ダイヤに最後の挨拶を』
原作者 デレク・ランバート
原題 Touch the Lion's Paw(1975)
訳者 武富義夫
出版社 文藝春秋
出版年 1979/6/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ベンガル特攻隊』
原作者 ジェームズ・リーザー
原題 Boarding party(1978)
訳者 村社伸
出版社 サンケイ出版
出版年 1979/11/5
面白度 ★★
主人公 民間人のみで組織されたカルカッタ軽騎兵連隊の隊員。頭が禿げかけて腹が突き出た中年男ばかりである。
事件 舞台はまだイギリスに支配されていた1942年のインド。当時のインドには、中立国ポルトガルの植民地もあり、枢軸側のスパイはこの地で活躍していた。イギリスはそのスパイ網を壊滅させたいが、中立国であるポルトガル領に正式な軍隊を派遣するわけにはいかない。万一失敗した場合には、両国の関係が悪化してしまうからである。そこで、この任務のために選ばれたのが主人公らの特攻隊員というわけである。
背景 渋いユーモアが光る。一風変わった戦争秘話である。

邦題 『スクールボーイ閣下』
原作者 ジョン・ル・カレ
原題 The Honourable Schoolboy(1977)
訳者 村上博基
出版社 早川書房
出版年 1979/7/31
面白度 ★★★
主人公 毎度お馴染みのジョージ・スマイリーと今回の事件で活躍する<スクールボーイ閣下>と呼ばれる末端スパイのウェブスター。
事件 前作で崩壊した英国情報部(サーカス)は、ジョージ・スマイリーを復活させることで立ち直った。そして調査の過程で、フランスの会社からインドの会社を経由して、香港のある人物に大金が毎月支払われていることがわかったのだ。その目的はなにか?ウェブスターがその謎を解くために香港に派遣された。ウェブスターの活躍とスマイリーを中心にした話が交互に語られていく。
背景 権力機構を描いている点は目新しいが、末端スパイの話の方が冒険小説的であり、ミステリー的であって面白い。大作だが、長すぎるうえに、重すぎるというのが欠点か。

邦題 『激闘インド洋』
原作者 D・A・レイナー
原題 The Long Fight(1958)
訳者 鎌田三平
出版社 パシフィカ
出版年 1979/10/5
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『サタンタッチ』
原作者 ケネス・ロイス
原題 The Satan Touch(1978)
訳者 上村巖
出版社 文藝春秋
出版年 1979/11/25
面白度 ★★★
主人公 小さな工場主のジャック・ハイデンとその息子マット。
事件 裸一貫から、世界的な大企業を支配する大物に成り上がったアシュレーは、故郷に工場を新設すべくアイルランドに滞在していた。彼は地元の財界人との宥和をはかるためパーティを催したが、集った人々の中に、アシュレーの過去――第二次大戦中の悪行――を知っている男ハイデンがいた。ハイデンもアシュレーの顔色からそれに気づき……という展開で、帝王のような人物と一介の庶民との対決が始まる。
背景 昨年から刊行された文春文庫はほとんど本邦初紹介の作家の作品であるが、本書も日本初お目見得作家の作品。独創的な展開はないが、サスペンスは十分ある水準作。

邦題 『眠れる犬たち』
原作者 フランク・ロス
原題 Sleeping Dogs(1978)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1979/7/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『闘う帆船ソフィー』
原作者 パトリック・オブライアン
原題 Master and Commander(1970)
訳者 高橋泰邦
出版社 パシフィカ
出版年 1979/5/8
面白度
主人公 英国海軍スプール艦ソフィー号の艦長ジョン・オーブリー。
事件 19世紀始めにおけるオーブリーとその乗組員による海戦の数々を記述したもの。著者は本邦初紹介の作家で、海洋小説に詳しい訳者は恐ろしい作家と評しているが、この作品は確かに”恐ろしい”作品である。まず分量だけでも四六版八ポニ段組で三百頁を超す大作だ。そして帆船に関する該博な知識がびっしりと詰め込まれている。なにしろ前半百頁ぐらいまでは、”闘う帆船”といいながらも小競り合い一つ起きないのである。
背景 冒頭に興味を引く話がないと、つい読書をやめてしまう人向きの作品ではないが、冒険小説の主人公のようにそれに耐え抜いた人は、雄大な構想の物語を楽しめることになる。

邦題 『火の船』
原作者 C・N・パーキンス
原題 The Fireship(1975)
訳者 出光宏
出版社 至誠堂
出版年 1979/2/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『インド洋の落日』
原作者 C・N・パーキンス
原題 Dead Reckoning(1978)
訳者 出光宏
出版社 至誠堂
出版年 1979/12/20
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『地中海の黒い雲』
原作者 C・N・パーキンス
原題 Touch and Go()
訳者 出光宏
出版社 至誠堂
出版年 1979/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『南海の秘密基地』
原作者 C・N・パーキンス
原題 Dead Reckoning()
訳者 出光宏
出版社 至誠堂
出版年 1979/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『レバント要塞を死守せよ』
原作者 アダム・ハーディ
原題 Fox3:Savage Siege()
訳者 高橋泰邦・高沢次郎
出版社 三崎書房
出版年 1979/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『砲艦ワグテイル』
原作者 ダグラス・リーマン
原題 Send a Gunboat(1960)
訳者 高橋泰邦
出版社 パシフィカ
出版年 1979/4/6
面白度 ★★
主人公 オンボロ小型砲艦ワグテイルの艦長ロルフ。
事件 ロルフは、左遷されてワグテイルの艦長に任命されたのだが、その彼に、サンツ島にいる英国人を救出するという任務が与えられた。中共軍の進攻が迫っていたのだ。ところが現地の英国人は説得になかなか応じなかったのである。彼らをなんとか艦に送りこんだものの、医師とその妹が乗艦していないことに気づいたロルフは再びサンツ島に向かうが……。
背景 本邦初紹介の作家。暗い過去を持つ主人公、難しい仕事、恋愛、中共の駆逐艦との対決など、冒険小説にふさわしい要素はまんべんなく盛り込まれていて、そつなく作られてはいるものの、この作者の独自な面白さといったものが感じられない。

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