邦題 『百万ドルをとり返せ!』
原作者 ジェフリー・アーチャー
原題 Not a Penny More Not a Penny Less(1976)
訳者 永井淳
出版社 新潮社
出版年 1977/8/30
面白度 ★★★★
主人公 信用詐欺(コーンゲーム)にひっかかった大学教授と貴族、医者、画商の4人。
事件 彼らは、北海油田にまつわる幽霊会社の株を買わされ、合計百万ドルをまきあげられた。そこで協力して、失っただけの金額を逆に詐欺師からだましとろうとした。
背景 いわば「スティング」のイギリス版であるが、被害者が上流階級に属する人たちであるだけに、その奪回作戦には悲壮感や緊迫感が乏しいという欠点がある。しかしいかにもイギリス人らしいスポーツマン・シップを失わない行動は、やはり本書の最大の魅力であり、「自由と規律」の国イギリスにさほど興味のない人もけっこう楽しめる、ユーモラスで知的な犯罪小説。著者は国会議員であったが、似たような詐欺にひっかかって失脚し、本書を書いたそうだ。

邦題 『レスカフの原人』
原作者 ハモンド・イネス
原題 Levkas Man(1971)
訳者 工藤政司
出版社 早川書房
出版年 1977/5/15
面白度 ★★★
主人公 ポール・ヴァン・デァ・ヴールト。船員だが、過去に誤って人殺しの罪を犯した。ポールを養子にした父親は人類学の学者。
事件 人類発祥の謎を追って発掘を続けていたポールの養父が行方不明になった。ポールは父を探すためギリシャに向かったが、学会での父の仇敵も彼の後を追ってきたのだ。
背景 原人を巡る冒険小説。考古学では有名な捏造事件「ピルトダウン人」を下敷きにし、当時発見されたギリシャの洞窟住居跡の見学などに刺激されて書かれた作品。考古学や人類学などの情報はわかりやすい形で取り入れられているものの、冒険小説とはうまく噛み合っていない。父と子の関係や父の秘書との恋愛も生きていない。素材に寄りかかりすぎてしまったようだ。

邦題 『新・私を愛したスパイ』
原作者 クリストファー・ウッド
原題 The Spy Who Loved Me(1977)
訳者 井上一夫
出版社 早川書房
出版年 1977/12/15
面白度 ★★★
主人公 映画から小説化された007号ジェイムズ・ボンド。
事件 今回の仕事は、1967年に建造された原潜が行方不明となった謎を解くことだった。ボンドは、世界制覇をもくろむストロンバーグが盗んだという情報を掴んだ。彼はカイロに飛び、そこで知り合ったソ連女性と夫妻になりすまし、海中基地に侵入するが……。
背景 題名だけを借用して映画化された「私を愛したスパイ」を小説化した作品。本家フレミングも同題の作品を書いているが、内容の共通点はない。007号のパロディとしては、”孫大佐”などよりも面白かった。特に前半が快調である。後半は、あまりに映画を意識し過ぎたか、活劇場面が多くなりすぎているのが残念。とはいえ007号は三度楽しめることになる?

邦題 『リヴァーサイドの殺人』
原作者 キングズリイ・エイミス
原題 The Riverside Villa Murder(1973)
訳者 小倉多加志
出版社 早川書房
出版年 1977/12/31
面白度 ★★
主人公 14歳の少年ピーター・ファーノウ。探偵役は郡警察署長代理のマントン大佐。
事件 舞台はロンドン郊外の住宅地リヴァーサイド。その地に住むピーターの家に、ある日重傷の男が転がり込んできて息途絶えた。その男は、住人の古傷を探し出しては脅迫するという小悪人で、ピーターの父親も隣人も脅されていたのだった。犯人は、脅迫された者の中の一人と考えられたが、なんとピーターの父親が逮捕されてしまったのだ!
背景 典型的なイギリスの村で起きた殺人で、設定自体は私のお気に入りだが、トリックはピンとこなかったし、物語には乗りにくかった。狂言回し役となるピーターが14歳という思春期の少年なので、共感できにくいのかもしれないが……。

邦題 『サラディン』
原作者 A・オズモンド
原題 Saladin!(1975)
訳者 武富義夫
出版社 角川書店
出版年 1977/4/22
面白度
主人公 アメリカ在住のアラブ人富豪(暗号名サラディン)に雇われた傭兵のスティーブン・ロスコー。元SASの将校で、爆発物の専門家である。
事件 サラディンは、ミュンヘン・オリンピック村で起きたイスラエル選手殺害事件後の中東情勢の悪化時期に、大胆な工作を開始した。新しいパレスチナ国家の建設である。その計画を実行するため傭兵をやとったが、これがイスラエルやアラブの過激派を刺激したのだ。
背景 書き方がノンフィクション風である。そのため情報小説として読むならば、それなりにまとまっているものの、小説としてはさっぱり面白くない。ジャーナリストとしての腕は確かだが、小説家としては明らかに力量不足である。フォーサイスの二匹目の泥鰌にはなりえなかったようだ。

邦題 『隅の老人の事件簿』
原作者 オルツイ
原題 独自の編集
訳者 深町眞理子
出版社 東京創元社
出版年 1977/8/19
面白度 ★★★
主人公 ”隅の老人”。名前も経歴もいっさい不明。ABCショップの片隅に腰をおろして、難事件の発端から自分の推理した解決までを女性記者に語るというもの。
事件 13編を収録。昨年の早川書房版『隅の老人』と比べると、13編中、「ミス・エリオット事件」、「ペブマーシュ殺し」、「トレマーン事件」、「商船<アルテミス>号の危難」、「コリーニ伯爵の失踪」、「エイシャムの惨劇」、「≪バーンズデール荘園≫の悲劇」の7編は戦後では初出となる。
背景 ”隅の老人”は、一般には「安楽椅子探偵」の典型といわれているが、実際には検死法廷に出向いたりしており、そう簡単には断定できないようだ。『紅はこべ』で有名なオルツィ男爵夫人が、ホームズの対抗馬として創造したシリーズ探偵である。

邦題 『クリスティー傑作集』
原作者 各務三郎編
原題 独自の編集
訳者 深町眞理子
出版社 番町書房
出版年 1977/2/25
面白度 ★★★
主人公 クリスティーの短編を集めた文字通りの傑作集。11本が収録されている。
事件 ほとんど既訳のある短編だが、バランス良く集められている。すなわちポワロ物は「すずめばちの巣」、「二十四羽の黒つぐみ」、「バグダッドの櫃の秘密」、マープル物は「青いゼラニウム」と「風変わりな悪戯」、トミーとタペンス物は「鉄壁のアリバイ」、クィン物は「ハーリー・クィン登場」と「ヘレンの顔」、パーカー・パイン物は「明けの明星消失事件」、怪奇と幻想物は「ランプ」と「人形」。そして編者のクリスティー論と詳細な著作リストが付いている。
背景 「人形」のみ単行本未収録の短編。新訳でクリスティーの魅力(フォーミュラ・ノヴェルの楽しさ)が良く出ている。

邦題 『スリーピング・マーダー』
原作者 アガサ・クリスティー
原題 Sleeping Murder(1976)
訳者 綾川梓
出版社 早川書房
出版年 1977/1/31
面白度 ★★★
主人公 クリスティーのお馴染みの探偵であるミス・マープル。
事件 新婚のグエンダは、故国イギリスで家を探すために、ニュージーランドから夫より先に上陸した。やがて格好の家を見つけたが、その家を以前見たような気がしてしかたがなかった。そしてウェブスターの劇「マルフィ公爵夫人」を観ていたときに、忌まわしい事件を思い出したのだ!
背景 作品発表順からいえば”マープル最後の事件”となるが、内容的には最後の事件ではない。クリスティーが第二次大戦中に書いて(バントリー大佐が生きていることから明らか!)、死後の出版のためにとっておいたものである。その当時クリスティーが興味を持っていた回想の殺人を扱っている。途中ダレる部分はあるものの、導入部が実に快調で、安心して楽しめる。

邦題 『暗殺者のゲーム』
原作者 ジェラルド・シーモア
原題 Harry's Game(1975)
訳者 沢川進
出版社 早川書房
出版年 1977/11/30
面白度 ★★
主人公 英国の情報将校ハリー。
事件 物語は、IRAが英国政府首脳を暗殺するために、ガンマンをロンドンに送りこむところから始まる。男は指令どおり暗殺に成功し、密かにベルファーストへ舞い戻っていった。一方手掛かりのつかめない政府側は、ハリーをその地に潜入させて犯人をつきとめ、抹殺しようと企てたのだった。ハリーは貴重な情報を得るが、逆にIRAもハリーに気づき……。
背景 この手の小説に多い暗殺ゲームの楽しさはない。作者の狙いは、それぞれの組織にあやつられる二人の男(暗殺者とその男を追いつめる将校)の心理的苦闘を描くことにあり、極めてシリアスな小説になっているからだ。エンタテインメントとしては結末も暗すぎる。

邦題 『女の顔を覆え』
原作者 P・D・ジェイムズ
原題 Cover Her Face(1962)
訳者 山室まりや
出版社 早川書房
出版年 1977/4/30
面白度 ★★★
主人公 ダルグリッシュ警部。初登場である。
事件 園遊会は例年通りに行なわれた。当主は病気であったものの、妻や医師の長男、出戻りの長女たちには充実した一日であった。だが、最近雇い入れた小間使いが、長男と婚約したと言い出し、その翌朝には死体となって見つかったのだ。
背景 ジェイムズの第一作。とても初作品とは思えないほど、丹念に登場人物を描写している。後年のジェイムズを考えれば、当然のことではあるが。このように登場人物全員をじっくり描いているので、多少プロットが無理だなと感じつつも、結局は納得することになってしまう。つまり小説の作り方がしっかりしているので、後はミステリー的な面白さをどう付け加えるかにかかっている。

邦題 『ある殺意』
原作者 P・D・ジェイムズ
原題 A Mind to Murder(1963)
訳者 山室まりや
出版社 早川書房
出版年 1977/12/15
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁警視のアダム・ダルグリッシュ。40歳前後。詩人でもある。
事件 精神科が中心のロンドンの診療所で、殺人事件が起きた。被害者は事務長で、彼女は心臓をノミで一突きされ、木彫りの人形を胸に乗せた状態で発見されたのだ。さっそく出版社のパーティに出席していたダルグリッシュが呼ばれ、彼が調べると、死亡推定時には建物に出入りした人物はなく、内部犯行に間違いないことがわかった。彼は院長らに訊問を始めるが……。
背景 後年の作品のように事件関係者の性格・心理が執拗に描写されているわけではないが、それでも診療所の医師や職員は巧みに描かれている。プロットが平板なのが弱点だが、『原罪』や『正義』といった作品の原型のようだ。1998年に改訳(青木久恵訳)され、読みやすくなっている。

邦題 『星のかけら』
原作者 ジェフリー・ジェンキンズ
原題 A Cleft of Stars(1973)
訳者 森崎潤一郎
出版社 早川書房
出版年 1977/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『暴風海域』
原作者 ジェフリー・ジェンキンズ
原題 Send of the Sea()
訳者 白石佑光
出版社 早川書房
出版年 1977/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『わが愛しのローラ』
原作者 ジーン・スタッブス
原題 Dear Loura(1973)
訳者 青木久恵
出版社 早川書房
出版年 1977/1/31
面白度 ★★★
主人公 探偵役はリントット警部。
事件 ローラは美人だった。夫もそのことが密かな自慢で、妻ローラへの出費を惜しまなかった。他人から見れば彼女は幸福そのものであったが、ローラは、自由に活動している義弟に惹かれていた。そして二人の関係が噂になり始めたころに夫が死んだのだ……。
背景 翻訳は二作目だが、スタッブスの処女作。時代は後期ヴィクトリア時代で、典型的な美女が事件に巻き込まれるという話なので、一見するとゴシック・ロマンス的物語と誤解されそうだが、一番大きな違いは、ローラが自分の頭で考えて行動する女性に設定されていることだろう。探偵の影は薄いものの、時代設定をうまく生かして、ホモを重要な伏線として使っている。

邦題 『黒い霊気』
原作者 ジョン・スラデック
原題 Black Aura(1974)
訳者 風見潤
出版社 早川書房
出版年 1977/2/15
面白度  
主人公 

事件 



背景 




邦題 『切り札の男』
原作者 ハドリー・チェイス
原題 An Ace up My Sleeve(1971)
訳者 伊藤哲
出版社 東京創元社
出版年 1977/11/
面白度 ★★★
主人公 富豪の妻ヘルガとアメリカ人の若者、弁護士の三人。
事件 ヘルガは金銭的な不自由はまったくなかったが、唯一の不満は夫が性的に不能であることだった。このため一人旅の彼女は、巧みな言動でたくましい若者を寝室に誘いこむことに成功した。が、そこには罠が仕掛けられていて、現場写真を撮られてしまったのだ! 物語はこの写真を巡って目まぐるしいほどに二転、三転していく。
背景 歴史に残る独創的な傑作は書いていないが、多作にもかかわらず常に一定水準の作品を発表している作家がいる。いわば<プロ>の作家であり、チェイスもその一人。本作も、チェイス65歳時の作品だが、ストーリー・テラーとしての実力は、ほとんど衰えていない。

邦題 『エドウィン・ドルードの謎』
原作者 チャールズ・ディケンズ
原題 The Mystery of Edwin Drood(1870)
訳者 小池滋
出版社 講談社
出版年 1977/4/
面白度 ★★★
主人公 いない。謎を解く人間として著者は謎の紳士ディック・ダチェリーを考えていたらしいが、一方では犯人に牢獄で事件の告白をさせる結末を設定していたそうだ。
事件 エドウィン・ドルードとネヴィル・ランドレスは、嵐のクリスマス・イヴにエドウィンの叔父ジャスパーの家で仲直りの食事をしていた。だが翌朝甥の姿はなく、捜索の結果、河の堰でエドウィンの懐中時計が見つかったのだ。ネヴィルに容疑がかかるが……。
背景 19世紀の文豪ディケンズの未完となった推理小説(著者は推理・探偵小説とは一言も言ってないそうだが)。未完なので面白度は本来付けられないが、登場人物の造形が巧みなので、未完の長い物語にもかかわらず、興味深く読めてしまう。

邦題 『キドリントンから消えた娘』
原作者 コリン・デクスター
原題 Last Seen Wearing(1976)
訳者 大庭忠男
出版社 早川書房
出版年 1977/12/31
面白度 ★★★★
主人公 オックスフォード警察のモース主任警部。
事件 モースは、ニ年前に消息を断った女子学生の事件を引き継ぐことになった。この事件はすでに迷宮入りになっていたが、前任者が不慮の事故死を遂げた直後に、彼女が生きているという証拠が現れたからだ。事件の見直しを始めると、その証拠に疑惑がでてきたのだ。
背景 このミステリーの面白さは、女学生が生きているのか死んでいるのか、生きているならどこに? 死んでいるなら誰が? という謎に対するモースらの仮説が、発見される証拠によって次々に崩れていく過程であろう(イイカゲンに読んでいると混乱してくる!)。いかにも英国人好みの作風であるが、随所に<遊び>の精神が溢れていて、著者自ら楽しみながら書いていることがわかる。

邦題 『ファイアフォックス』
原作者 クレイグ・トーマス
原題 Firefox(1977)
訳者 中村定
出版社 パシフィカ
出版年 1977/12/20
面白度 ★★★
主人公 アメリカ空軍のパイロットのガント。
事件 ソ連がミグ25よりも高性能の戦闘機を試作していることが明らかになった。マッハ5の速度と脳波を利用した兵器システムをもつ。もちろんNATOには類似品はない。そこでイギリスはその飛行機を盗むことになり、ガントに白羽の矢が当ったのである。ガントは、ソ連内の協力者の手を借り、戦闘機に乗り込み、脱出するが……。
背景 後半の脱出劇は、単純だけれど迫力があり、冒険小説として読ませる。それに比べると前半のスパイ小説的な部分は、私には少し退屈だった。饒舌なわりには物語があまり動かないからである。なお著者は、ベレンコ中尉の亡命に触発されて本書を書いたそうだ。

邦題 『キャナンザの熱い風』
原作者 アントニイ・トルー
原題 Towards the Tamarind Trees(1970)
訳者 牛津二郎
出版社 早川書房
出版年 1977/3/31
面白度 ★★
主人公 主人公らしい主人公はいない。プロットで読ませる作家であるからであろう。強いて挙げればキャナンザ特別保留地の管理官代理のリチャーズ。
事件 野性動物の宝庫、南アのザンベジ渓谷には、さまざまな人たちが集っていた。鉱山会社の重役とその義理の息子、リチャーズ、ゲリラの若者、黄金にとりつかれた老人などなど。そして銃弾が発射された。殺されたのは誰で、犯人の目的は?
背景 物語の舞台は冒険小説にふさわしく、自然描写もそれなりに魅力的ではあるが、途中から誰が殺人者であるかという謎解き小説のような展開になってしまう。そして謎解き小説としては中途半端で終っている。トルーの作品は、純粋な意味での冒険小説とはいいがたい。

邦題 『タンゴ・ノヴェンバー』
原作者 ジョン・ハウレット
原題 Tango November(1976)
訳者 一ノ瀬直二
出版社 集英社
出版年 1977/11/25
面白度 ★★
主人公 コール・サインが”タンゴ・ノヴェンバー”の旅客機(G−FETN機)。人間の主人公は複数になるが、しいて挙げればイタリア地方紙の記者。
事件 イタリアのシチリア島をめざしていたG−FETN機には、機長を含めて二百名近い人間が乗っていた。しかしシチリアの滑走路の視程はわずか650メートル。機長は自信がもてなかったものの、着陸を決心した。そして着地態勢に入ったときに……。
背景 著者の狙いは、これまでの多くの墜落が単純なパイロット・ミスに起因していたことへの疑問を提示することにあるようだ。このため墜落機を巡るさまざまな人間関係をも執拗に描写していて、墜落の謎が徐々に解かれるという推理小説的な面白さは少ない。

邦題 『古代のアラン』
原作者 H・R・ハガード
原題 The Ancient Allan(1920)
訳者 山下諭一
出版社 国書刊行会
出版年 1977/4/20
面白度
主人公 職業的冒険家のアラン・クォーターメン。
事件 この不思議な出来事は、ラグノル卿の夫人から城に招待されたことから始まった。そしてある夜、夫人からすすめられたタデュキという薬草を胸一杯吸うと、古代のエジプトへ――。アランはシャバカ将軍となり、小人のベスをつれて大冒険を開始したのだ。
背景 出だしは、少し変わっていて面白かったが、古代エジプトを舞台にした怪奇冒険小説としては平凡。なんといっても女性をきちんと描いていないのが、この作品をつまらなくしている主因である。。なお本作はクォーターメン・シリーズの13冊目にあたるが、シリーズ全体の時代配列からいえば、『ソロモン王の宝窟』の直後に位置する作品となる。

邦題 『タイトロープ・マン』
原作者 デズモンド・バグリー
原題 The Tightrope Men(1973)
訳者 矢野徹
出版社 早川書房
出版年 1977/4/
面白度 ★★★
主人公 ジャイルズ・デニスン。
事件 洗面所にある鏡をみて、デニスンは驚いた。自分の顔が見知らぬ人間の顔になっていたからだ。しかし体の中には、子供のときにうけた古傷が見つかった。やはり自分はデニスンだと確信したが、理由が思い付かなかった。過去の記憶も失せていた。
背景 この出だしが抜群に良い。目を覚ましたら、別人だったという発端は、前例はあるものの、やはり魅力的である。ついで自分の娘に偶然遭遇する際のサスペンスも素晴らしい。だがここを過ぎると、逆に辻褄合わせの無理が目立ってきてしまうのが残念。後半はスパイ小説になってしまうが、冒険小説にイデオロギーが入ってくると面白さが減じるようだ。

邦題 『墜落事故調査員』
原作者 デビッド・ビーティー
原題 The Temple Tree(1971)
訳者 石川好美
出版社 酣燈社
出版年 1977/12/10
面白度
主人公 航空事故調査員のジェミー・ハンネイカ。
事件 707航空機が、セイロンの第三空港付近で墜落した。尾部や翼、ドアの破片は、森の中で大幅に散ばっていた。ジェミーの調査が始まるが、驚いたことに1トンもの金の延べ棒が紛失していたのだ。
背景 墜落の謎はまあまあだが、それを調査する専門家が初めのうちはそのことにまったく気づかないのはいただけない。まあ舞台をセイロンに設定したのは、そのあたりを気づかせないためかもしれない。冒険小説的要素は少ないし。犯人の登場のさせ方もうまくない。恋愛描写も幼稚だ。著者はBOACの上級機長だそうだが、小説作りは上手くない。

邦題 『ハンター』
原作者 ピーター・ヒル
原題 The Hunters(1976)
訳者 吉野美恵子
出版社 早川書房
出版年 1977/5/15
面白度 ★★
主人公 ボブ・スタントン主任警視とレオ・ウインザー警部のコンビ。ボブは犯罪捜査部ナンバーワンのヴェテラン刑事、レオは女には弱いものの将来を嘱望されている若い刑事である。
事件 二人がコンビを組んでの初めての事件は、サフォーク州の小村で起きた暴行殺人事件であった。当初は単なる変質者の犯行と思われたが、ひょんなことから悪魔崇拝の集団が、この事件に係わりがあることがわかったのだ。
背景 このコンビは、ドーヴァーとマクレガーのコンビほどユニークではないが、ボブは古いイギリス人を、レオは新しいイギリス人の典型として、それなりに楽しめる。謎が単純なため、必然的に推理もあっさりしているのが大きなマイナスになっている。話そのものは読みやすい。

邦題 『灰色の部屋』
原作者 イーデン・フィルポッツ
原題 The Grey Room(1921)
訳者 橋本福夫
出版社 東京創元社
出版年 1977/6/10
面白度 ★★
主人公 ロンドン警視庁を辞め私立探偵になる予定の名探偵ピーター・ハードキャッスルと思いきや、すぐ殺される。謎を解くのはイタリア人の老人ヴェルジリオ・マンネッティ。
事件 ウォルター卿の屋敷チャドラン荘には「灰色の部屋」という閉ざされた部屋があり、そこでは過去に二人の人間が原因不明の死を遂げていた。そして部屋の謎に挑戦した卿の娘婿は翌朝、不可解な死体で見つかったのだ! 名探偵ハードキャッスルを呼ぶことにしたが……。
背景 有名な『赤毛のレドメイン家』の前年に出版されてミステリー。最大の謎「どのようにして殺されたのか」は、完全なアンフェアといってよく、つまらない。評価するとすれば、幽霊の存在を否定する理性派と霊魂を信じる宗教家とのディスカッション小説として興味深い点か。

邦題 『セーヌ湾の反乱』
原作者 C・S・フォレスター
原題 Load Hornblower(1946)
訳者 高橋泰邦
出版社 早川書房
出版年 1977/4/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『隠された栄光』
原作者 アントニイ・プライス
原題 Other Paths to Glory(1974)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1977/3/31
面白度 ★★★★
主人公 第一次世界大戦の戦史を研究しているミッチェルと謎の男オードリー。
事件 ある日、帰宅中のミッチェルは堰に投げ込まれた。ほうほうの体で家に帰りつくと、遺書があり、かえって警官に疑われる始末だった。しかしこれは、恩師エマスン教授の死から始まった陰謀に関係したことで、やがてオードリーに操られるままミッチェルはフランスの古戦場ソンムへと飛んでいった。そこにエマソンが解くべき謎があったのだ。
背景 最初の50頁が特筆ものである。緊迫感のある描写は、アンブラーに勝るとも劣らない出来で、物語に一気に引き込まれる。謎は多重構造になっていて独創性がある。1974年のCWAゴールド・ダガー賞受賞も当然と思える出来映えである。

邦題 『追込』
原作者 ディック・フランシス
原題 In the Frame(1976)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1977/12/31
面白度 ★★★
主人公 画家で独身のトッド。
事件 従兄の妻が惨殺され、オーストラリアで買ってきたマニングズの馬の絵が盗まれた。一方留守中に屋敷が全焼した女性から廃墟の絵を注文されたトッドは、その女性が偶然マニングズの絵を購入していたことを知った。二つの事件には関連があるのか? 手掛かりを追ってトッドはオーストラリア向かった。
背景 贋作を扱うシンジケートとの対決を描いたもので、前半はあまり山場がないが、後半トッドが三階から落とされ骨折し、ギプスをつけて闘うあたりから迫力が出てくる。最後の海岸を逃げ回るシーンもいい。協力すべき警官があまりに低脳であるのが、いささか残念だが。

邦題 『ソーンダイク博士の事件簿』
原作者 A・フリーマン
原題 独自の編集
訳者 大久保康雄
出版社 東京創元社
出版年 1977/8/19
面白度 ★★★
主人公 科学者探偵の始祖ソーンダイク博士。
事件 倒叙物の最初の作品集である『歌う白骨』から取られた4編を含む8編が収録されている。「計画殺人事件」、「おちぶれた紳士のロマンス」、「青いスパンコール」、「モアブ語の暗号」、「アルミニウムの短剣」、「砂丘の秘密」は戦後では初出の短編である。「歌う白骨」と「前科者」は世界推理小説全集の『ソーンダイク博士』と重複している。
背景 推理小説史の観点に立てば、著者の功績は、物理的証拠を重視する科学者探偵の創造よりも、犯人を冒頭から読者に示し、Howdunit(ハウダニット:犯人がいかにやったか)という謎を推理する倒叙推理小説を開拓したことであろう。いずれの短編もその特徴がよく表れている。

邦題 『フォーチュン氏の事件簿』
原作者 H・C・ベイリー
原題 独自の編集
訳者 永井淳
出版社 東京創元社
出版年 1977/9/23
面白度 ★★
主人公 レジナルド・フォーチュン。ロンドン警視庁の顧問格として事件の捜査にあたる。
事件 フォーチュン物の短編集は12冊あるが、その中から精選された以下の7編が収録されている。「知られざる殺人者」、「長い墓」、「小さい家」、「ゾディアックス」、「小指」、「羊皮紙の穴」、「聖なる泉」の7編。
背景 フォーチュン物の特色は、その登場が1920年であるためか、ホームズの影響は少なく、むしろブラウン神父と同じく直観的推理に頼っていること。また「フォーチュン氏は不思議なほど人間というものを知っている」と評されているように、物理的証拠よりも犯罪の心理面を重視しており、このため単なるトリック小説とは異なる面白さがある。時代遅れという印象をもたずに読める。

邦題 『幽霊狩人カーナッキ』
原作者 W・H・ホジスン
原題 Carnacki Ghost Finder(1947)
訳者 田沢幸男他
出版社 国書刊行会
出版年 1977/1/1
面白度 ★★★
主人公 オカルト探偵トマス・カーナッキ。依頼人が持ち込んでくる幽霊事件を調査・解決するのが仕事。9本の短編が収録されている。
事件 カーナッキが経験した事件を四人の友人に語るというスタイルの連作怪短編集。「見えざるもの」「魔物の門口」「月桂樹に囲まれた館」「非響の部屋」「街はずれの家」「見えざる馬」「ジャーヴィー号の怪異」「発見」(ミステリーといってよい佳作)「妖豚」(もっとも怪奇小説らしい)。
背景 ドラキュラ叢書の一冊。1994年に角川文庫より再刊し(訳者は一部異なる)、2008年には東京創元社より新訳(夏来健次訳)が出た。その際エッセイ「探偵の回想」が追加されている。超自然的な話よりも合理的な解決のある作品が多く、私には取っ付きやすかった。

邦題 『女王館の秘密』
原作者 ビクトリア・ホルト
原題 The Secret Woman(1970)
訳者 小尾芙佐
出版社 角川書店
出版年 1977/8/25
面白度 ★★★
主人公 家庭教師のアンナ。
事件 かつてエリザベス女王も泊まられたという女王館に、アンナは叔母と二人で暮していた。だが、病床の叔母が事故死し、彼女は家庭教師として近くの城に住み込むことになった。しかし城主の息子は、彼女の初恋の人で今では妻子ある身。彼女はその許されぬ恋に苦しむが、やがて舞台はイギリスから南海の島に移り、叔母の死を始めとするさまざまな疑惑が解明する。
背景 典型的なゴシック・ロマンス。謎が論理的に解かれていく過程の面白さはないものの、文庫本にして五百頁を越える作品を一気に読ませてしまうストーリー・テラーとしての実力はすばらしく、彼女の作品が英米では毎年ベストセラーになるのも、納得がいくというものである。

邦題 『毒薬ミステリ傑作選』
原作者 レイモンド・ボンド編
原題 Handbook for Poisoners(1951)
訳者 宇野利泰他
出版社 東京創元社
出版年 1977/7/15
面白度 ★★★
主人公 毒薬ミステリー短編を中心にしたアンソロジー。12の短編を収録している。このうち8人は英国作家と思われる。
事件 英国ミステリー作品は有名なものばかり。列挙すると黄金の十二に入ったセイヤーズの「疑惑」とバークリーの「偶然の審判」。いずれも初読ならば、脱帽するのみ。クリスティの「動機」もいい。その他はウインの「キプロスの蜂」、ベントリーの「利口なおうむ」、キップリング「ラインゲルダーとドイツの旗」、フリーマンの「バーナビイ事件」、チェスタトンの「手早いやつ」。
背景 編者の序論「毒と毒薬について」は、毒殺に関する西洋の歴史を扱った長文のエッセイ。基本文献の一つになろう。ただし英国作家の作品はオーソドックスなものばかり選ばれている。

邦題 『世界暗号ミステリ傑作選』
原作者 レイモンド・ボンド編
原題 Famous Stories of Code and Ciper(1947)
訳者 田中海彦他
出版社 番町書房
出版年 1977/10/10
面白度 ★★★
主人公 原書からの6本の暗号ミステリー短編に江戸川乱歩の『二銭銅貨』と『暗号記法の種類』を付け加えたアンソロジー。
事件 短編は「ヒヤシンス伯父さん」(A・ノイエス)、「白象協会事件」(M・アリンガム)、「ミカエルの鍵」(E・ベーカー)、「救いの天使」(E・ベントリー)、「QL 696 C9」(A・バウチャー)、「キャロウェイの暗号」(O・ヘンリー)の6本。編者の暗号論によれば、戦争にまつわる暗号使用が圧倒的に多いそうだが、ここでは宝探しやダイイング・メッセージなどで使われる暗号物も含まれている。
背景 面白い暗号ミステリーとは、暗号を解く楽しさと小説自体の謎を解く楽しさという二重の楽しさが同時に得られるミステリーと定義できるが、その意味ではいずれも高水準か。

邦題 『続世界暗号ミステリ傑作選』
原作者 レイモンド・ボンド編
原題 Famous Stories of Code and Ciper(1947)
訳者 松村喜雄他
出版社 番町書房
出版年 1977/11/10
面白度 ★★★
主人公 『世界暗号ミステリ傑作選』の続編で、前回の出版からもれた残りの短編とポーの「暗号論」、監修者長田順行氏のエッセイ「暗号小説は袋小路だろうか」を収録している。
事件 収録短編は、「踊る人形」(C・ドイル)、「四人の容疑者」(A・クリスティ)、「奇妙な暗号の秘密」(F・ウェブスター)、「大暗号」(M・ポウスト)、「ドラゴン・ヘッドの知的冒険」(D・セイヤーズ)、「暗号錠」(A・フリーマン)、「トーマス僧正の秘密」(M・R・ジェイムズ)、「盗まれたクリスマス・プレゼント」(R・トーレ)の8本。
背景 長田氏のエッセイによれば「謎の設定に主眼をおくものと謎解きに主眼をおくもの」に大別されるそうだが、前者の短編(例えば「大暗号」)の方が謎解き以外の趣向も楽しめる。

邦題 『恐怖の風景画』
原作者 ナイオ・マーシュ
原題 Clutch of Constables(1968)
訳者 中村能三
出版社 光文社
出版年 1977/3/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『歪んだサーキット』
原作者 A・マクリーン
原題 The Way to Dusty Death(1973)
訳者 平井イサク
出版社 早川書房
出版年 1977/1/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『スティーム・ピッグ』
原作者 ジェイムズ・マクルーア
原題 The Steam Pig(1971)
訳者 高見浩
出版社 早川書房
出版年 1977/9/30
面白度 ★★★★
主人公 南ア警察の白人のクレイマー警部補と黒人のゾンディ刑事のコンビ。
事件 その日、葬儀屋には二つの死体、一つは病死した若い女の死体、もう一つは検死を受ける変死体が保存されていた。ところが、その葬儀屋のミスにより、若い女の死体が検死に送られてしまい、検死の結果、その死が他殺であることが判明したのだった。この事件を担当した二人は、「スティーム・ピッグ」という謎の言葉を手掛かりに解決に迫っていく。
背景 処女作ながら1971年CWAゴールド・ダガー賞を受賞した作品。謎が解明されていく捜査過程の面白さはもちろん、悪名高き人種隔離政策の批判を織り込んだ巧みなプロットやユーモラスで歯切れのよい文体もすばらしく、大いに注目すべき警察小説だ。

邦題 『オリオン・ライン』
原作者 ニコラス・ルアード
原題 The Orion Line(1976)
訳者 平井イサク
出版社 K・Kベストセラーズ
出版年 1977/10/25
面白度 ★★
主人公 英国の諜報部員オーエン。
事件 表題のオリオン・ラインとは、第ニ次大戦中にナチに捕まったパイロットたちを脱出させる秘密ルートであったが、戦争末期には潰されたと思われていた。ところが戦後になってもこのライン近くの隠れ家で、英国情報部の高官が殺害されたのだ。このためオーエンがその秘密を解くために、諜報部から派遣されたのだ。
背景 ジャーナリストの作品で、いかにも新聞ネタから構想したような作品。確かにオリオン・ラインという設定は魅力的であり、結末の意外性もそれなりにあるが、なにかオリジナルなものが感じられない。新聞記事のような無個性的な文章もその一因か。

邦題 『アーサー卿の犯罪』
原作者  オスカー・ワイルド
原題 (Lord Arthur Savile's Crime and Other Stories(1887他))独自の編集
訳者 福田恆存・福田逸
出版社 中央公論社
出版年 1977/5/10
面白度 ★★★
主人公 訳者独自の手になる、6本の短編から構成された短編集。
事件 「アーサー・サヴィル卿の犯罪」(手相見の一言で、アーサー卿は愛しい恋人との幸福を守るために殺人を決意するが……という話。ユーモラスな犯罪小説として楽しめる)「カンタヴィルの幽霊」(少しも怖くない幽霊が登場する爆笑ものの怪奇小説)「謎のないスフィンクス」(謎が現代的で奇妙な味がある)「模範的百万長者」(軽いユーモア小説)「W・H氏の肖像」(シェイクスピアの『ソネット集』に登場するW・H氏を探る歴史ミステリーに近いが、結末にうまい捻りを入れている)「散文詩」(短い文章を集めたもの)の6本が収録されている。
背景 昔ならミステリーに入らなかった作品集だが、時代は変わったというべきか。

邦題 『怪奇幻想の文学5』
原作者  
原題 独自の編集
訳者  
出版社 新人物往来社
出版年 1977/11/
面白度  
主人公 

事件 


背景 




邦題 『怪奇幻想の文学6』
原作者  
原題 独自の編集
訳者  
出版社 新人物往来社
出版年 1977/12/
面白度  
主人公 

事件 


背景 


戻る