邦題 | 『ペーレンベルクの遺産』 |
原作者 | イヴリン・アンソニイ |
原題 | The Poellenberg Inheritance(1972) |
訳者 | 工藤政司 |
出版社 | 二見書房 |
出版年 | 1976/11/20 |
面白度 | ★★★ |
主人公 ドイツ生れの美貌の英国女性ポーラ・スタンリー。父親は元ナチスの将軍。 事件 ポーラのもとに、ある日死んだはずの父親からメッセージが届けられた。だがそのメッセージを運んだ人間は殺されてしまったのだ。一方、父親はドイツ軍時代にペーレンブルクの塩壷という高価な美術品を保管していたが、その元持ち主は私立探偵を雇ってその塩壷を探してるという。ポーラは、父親の消息を知らせてくれることを条件に、塩壷の権利を諦めることにしたが……。 背景 全体の1/3くらいまでは面白い。快調なテンポで物語が展開する。しかし中盤から物語がしぼんでしまう。塩壷の在り処も、父親の消息も簡単にわかってしまうからである。謎の興味で読ませるミステリーとはいえない。また父と娘の関係も、イマイチ説得力を欠いている。 |
邦題 | 『バルバドスの罠』 |
原作者 | イヴリン・アンソニイ |
原題 | The Tamarend Seed(1971) |
訳者 | 渡辺美里 |
出版社 | 早川書房 |
出版年 | 1976/ |
面白度 | ★★ |
主人公 国連事務局部長の秘書ジュディス・ファロウとKGBアメリカ支部長のスベルドロフ。 事件 ジュディスは休暇でカリブ海に浮かぶバルバドス島へ旅行した。そしてロシア人男性と親しくなった。だがその男とはスベルドロフだったのだ。ジュディスは機密情報にも関与できる地位にある。この事実に気づいた英国情報部は、すぐさま二人の周りに厳重な監視網を敷いた。だが同じ頃、ソ連もそのことに気づき、ソ連最強のスパイに密かに命令が発せられた。 背景 いかにも女性が書いたなあ、というスパイ小説。ル・カレのようにスパイ組織に精通していないためか、主に二人の恋愛関係を中心に物語が展開する。ドメスティックな話題が多く、終盤まで緊張感は不足気味だが、この結末は、エンタテインメントとしては納得できる出来だ。 |
邦題 | 『幻の金鉱』 |
原作者 | ハモンド・イネス |
原題 | Golden Soak(1973) |
訳者 | 池央耿 |
出版社 | 早川書房 |
出版年 | 1976/9/30 |
面白度 | ★★★ |
主人公 鉱山技師のアレック・フォールズ。30代。ゴールデン・ソークを再建しようとする。 事件 アレックはイギリスの鉱山会社重役であったが、会社は崩壊し、私生活でも妻との不和は決定的となっていた。このため義妹のいる豪州のジャラ・ジャラに行くことを決意し、事故死を偽装して、豪州に渡ることに成功した。だがジャラ・ジャラでも金鉱は廃坑になっており、牧場も旱魃で危機的な状況にあった。アレックは、義妹の父娘を助けることにしたが……。 背景 丁寧に書かれている冒険小説。いかにもベテラン作家の手になる作品と言えようか。特に後半の砂漠での追跡行や銅鉱山の発見などは巧みに語られている。問題があるとすれば、語り手のアレックがやや凡庸な点と、彼と一人娘との関係がいまひとつ説得力のないことか。 |
邦題 | 『堰の水音』 |
原作者 | メアリ・インゲイト |
原題 | The Sound of the Weir(1974) |
訳者 | 青木久恵 |
出版社 | 早川書房 |
出版年 | 1976/5/15 |
面白度 | ★★★ |
主人公 アン・フィールディング。事件当時は14歳。 事件 ミル・ハウスは、アンのいとこミランダとその夫モンタギューの住む田舎屋敷。堰の水音も聞こえる場所にあり、13歳のアンは素晴らしい夏を過すことができた。だが翌年の夏、再びミル・ハウスを訪れると、二人の関係はギクシャクしていた。そして帰宅翌日、モンタギューが殺されたことを知らされたのだ。数年後、偶然からアンはミル・ハウスに住むようになり、意外な真相が……。 背景 第一回イギリス女流犯罪小説賞受賞作。語り口、背景、登場人物などは、典型的な英国ミステリーといってよい。むしろ典型的過ぎて、新人らしい新鮮さがほとんど感じられないが、新人とはいえ若い人ではないらしいので、しかたないか。手堅くまとめていることは確か。 |
邦題 | 『隅の老人』 |
原作者 | バロネス・オルツイ |
原題 | The Old Man in the Corner(1909) |
訳者 | 山田辰夫・山本俊子 |
出版社 | 早川書房 |
出版年 | 1976/10/31 |
面白度 | ★★★ |
主人公 日本で独自に編まれた短編集。10本の短編が収録されている。探偵役は<ABCショップ>というティー・ショップの隅の席に座っている老人。 事件 題名を順に挙げると、「フェンチャーチ街の謎」(第一作)、「ヨーク事件」、「リヴァプールの謎」、「エジンバラ事件」、「地下鉄の殺人」、「リッスン・グローブの謎」、「ダートムアの悲劇」、「ブライトン暴行事件」、「リージェント・パークの殺人」、「パーシー街の怪死」である。 背景 新聞記事や検死審問の記録をもとに未解決の事件を解決するという安楽椅子探偵型のミステリー。とはいえ、まったく出歩かないというわけではない。アリバイ工作には杜撰なものもあるが、読みやすい。なお東京創元社の『隅の老人の事件簿』とは収録作が多少異なっている。 |
邦題 | 『海底の剣』 |
原作者 | ダンカン・カイル |
原題 | A Raft of Swords(1973) |
訳者 | 仁賀克雄 |
出版社 | 早川書房 |
出版年 | 1976/12/15 |
面白度 | ★★★ |
主人公 イギリス情報機関D16の諜報員コルダー。 事件 カナダ、バンクーバー付近の海底に固定されていたソ連のミサイル発射装置に異常事態が発生した。この地で開催される国際会議にはソ連のグロムイコ外相が出席するので、早急かつ秘密裏に装置を回収する必要がある。かくしてKGBの手により、小型潜水艇による作戦が始まったが、英国情報部もその動きを察知し、コルダーを派遣することにしたのだ。 背景 前作『氷の檻』よりは、リアリティのある設定になっている。したがってマンガ・スパイの活躍する余地は少なくなっている。本書でもコルダーは超人的な活躍をするわけではない。つまり冒険小説としての面白さは少なくなっているものの、逆に国際陰謀小説の楽しさが増えている。 |
邦題 | 『黒い塔』 |
原作者 | P・D・ジェイムズ |
原題 | The Black Tower(1975) |
訳者 | 小泉喜美子 |
出版社 | 早川書房 |
出版年 | 1976/9/30 |
面白度 | ★★★ |
主人公 悪性の白血病という診断が誤診であったロンドン警視庁のアダム・ダルグリッシュ警視。 事件 ダルグリッシュは休暇を利用して、ドーセット州の海ベリに建つ障害者療養所で教師をしているバドリイ神父を訪問した。彼から手紙を貰ったからであるが、神父はすでに亡くなっていた。驚いたダルグリッシュは非公式に捜査を始めると、意外な事実がわかってきた。猥褻な手紙が横行していたり、放火事件があったり、療養者が次々と死んでいたのだ。 背景 1975年のCWA賞シルバー・ダガー賞受賞作。死から解放されたダルグリッシュが遭遇したのは神父の死という出だしはすばらしい。だがその後の展開は快調とはいいがたい。登場人物の多くが療養者というのも一因か。その分、重厚さのある物語になっているといえるが……。 |
邦題 | 『シャーロック・ホームズの復活』 |
原作者 | ジュリアン・シモンズ |
原題 | A Three Pipe Problem(1974) |
訳者 | 新庄哲夫 |
出版社 | 新潮社 |
出版年 | 1976/10/30 |
面白度 | ★★★ |
主人公 ホームズに傾倒する初老のテレビ俳優シェリダン・ヘインズ。 事件 ロンドンで空手による殺人が相次いだ。迷宮入りかと噂されるなかで、シェリダンは独自の捜査を始めた。一方、プロのデヴニッシュ警視も着々と証拠を集めていた。ところが事件は思わぬ展開をし始め、シェリダンは”ホームズの復活”を思わせる活躍をするのであった。 背景 1974年はホームズ生誕120周年。それに便乗したわけではないだろうが、原題からも明らかなようにホームズのパロディである。この原題はナイオ・マーシュに勧められたというのが微笑ましい。犯罪小説の推進者が書くだけに、舞台となるTVや犯罪組織の世界が結構リアルに描かれているし、登場人物も個性的に表現されている。プロットはつまらないが。 |
邦題 | 『彩られた顔』 |
原作者 | ジーン・スタッブス |
原題 | The Painted Face(1974) |
訳者 | 北見麻里 |
出版社 | 早川書房 |
出版年 | 1976/8/15 |
面白度 | ★★ |
主人公 物語の主役は画家のニコラス・カラディーンだが、謎を解くのはスコットランド・ヤードの元警部のジョン・リントット。 事件 少年時代のニコラスは、申し分なく幸福だった。だが腹違いの妹の死から悲報が続いた。ショックで継母も父も亡くなったのだ。それから20年後、ニコラスは偶然継母の日記を読んで驚いた。妹は列車事故で亡くなったのだ。父はなぜ嘘をついたのか? リントットに調査を依頼した。 背景 19世紀末から20世紀初頭のロンドン、パリを舞台にした作品。時代の雰囲気は巧みに表現されている。だがミステリーとしては謎の扱いがお粗末すぎる。まあ、あまり謎解き小説を読まない女性向きの作品だろう。登場する女性はかなり自由に生きていて、面白いのだが……。 |
邦題 | 『来訪者』 |
原作者 | ロアルド・ダール |
原題 | Switch Bitch(1974) |
訳者 | 永井淳 |
出版社 | 早川書房 |
出版年 | 1976/ |
面白度 | ★★★ |
主人公 ミステリー短編というより艶笑譚のような内容の短編4本を集めている。 事件 題名を順に挙げると、「来訪者」、「すばらしきかな、夫婦交換」、「やり残した仕事」(女性に辛辣なダールの特徴がよく出ている?)、「雌犬」である。 背景 ダールが『キス・キス』で評判になった後、本国版プレイボーイ誌に1965年からときたま掲載された短編を集めた短編集。いかにもプレイボーイ誌読者にふさわしい内容である。私も2本ほど学生時代に密かに雑誌で読んだ記憶がある。結末の意外性も用意されているが、なんといってもダールの語り口の上手さに、ほとほと感心してしまう。原稿料が高いのでプレイボーイ誌に書くのであろうが、もう一度『あなたに似た人』の中にあるような短編を書いてほしい。無理か。 |
邦題 | 『ウッドストック行最終バス』 |
原作者 | コリン・デクスター |
原題 | Last Bus to Woodstock(1975) |
訳者 | 大庭忠男 |
出版社 | 早川書房 |
出版年 | 1976/11/15 |
面白度 | ★★★★ |
主人公 オックスフォード警察のモース主任警部とルイス巡査部長。 事件 夕暮れのオックスフォードの街外れのバス停留所では、二人の若い女性がバスを待っていたが、バスは来なかった。ついにしびれを切らしたシルビアという女性は歩き出し、もう一人の女性も後を追った。そしてシルビアはウッドストックの酒場の中庭で死体となって発見された。モースらは、名乗りをあげないもう一人の女性を探すことを始めたが……。 背景 新人の第一作。過去にクロスワード作りのチャンピオンになったこともあるそうで、安心して楽しめる謎解き小説になっている。魅力的なのは、なんといってもモース警部の性格設定であろう。独身で、多少独善的なところがあるが、ユーモア精神も持っている。たいした新人の登場だ。 |
邦題 | 『黒いアリス』 |
原作者 | トム・デミジョン |
原題 | Black Alice(1968) |
訳者 | 各務三郎 |
出版社 | 角川書店 |
出版年 | 1976/ |
面白度 | ★★ |
主人公 11歳のアリス。大好きな家庭教師のおかげで、優秀な子供となる。そして彼女のお祖父さんから遺産をそっくり継いでいる。 事件 だがそれがアリスの不幸の原因だった。何者かに誘拐され、身代金を要求されたのである。そして薬を飲まされて、皮膚の色が黒い子供に変えられてしまった! 背景 著者のデミジョンとは、ジョン・スラデックとSF作家トマス・M・ディッシュの合作時のペンネーム。二人とも米国人だが、英国在住時に本作を発表している。風変わりな風俗ミステリーといったらいいのか。主人公を子供にしたり、犯人を残酷な性格に設定したりする点などは上手いが、黒人暴動を舞台背景にしていて、英国ミステリー好きの私にはあまり食指が動かなかった。 |
邦題 | 『ムーンレイカー号の反乱』 |
原作者 | アントニイ・トルー |
原題 | The Moonraker Mutiny(1972) |
訳者 | 尾坂力 |
出版社 | 早川書房 |
出版年 | 1976/5/15 |
面白度 | ★★★ |
主人公 オリジナリティのあるプロットで読ませる冒険小説。明らかな主人公はいないのだが、強いて挙げれば、沿岸航路船の船長エヴァンズとカルビー一等航海士だろう。 事件 オーストラリアのフレマントルを出航した貨物船ムーンレイカー号は、南インド洋上で激しい暴風雨に巻き込まれた。船員たちは反乱して救命ボートで脱出した。船に残ったのは暗い過去をもつ船長ら4人であった。エヴァンズらは救助に駆けつけるが……。 背景 普通の冒険小説であれば、暴風雨と戦う男たちを誇らしげに描写するはずだが、本書は違う。エヴァンズ船長らは経済性を考慮して救助を行なうのだ。そのため救助金を独占しようとして、専門サルベージ船と戦うまでになる。カタストロフィはそれほど大きくないが。 |
邦題 | 『黄金の守護精霊』 |
原作者 | H・R・ハガード |
原題 | Benita(1906) |
訳者 | 菊池光 |
出版社 | 東京創元社 |
出版年 | 1976/9/24 |
面白度 | |
主人公 事件 背景 |
邦題 | 『ゴールデン・キール』 |
原作者 | デスモンド・バグリイ |
原題 | The Golden Keel(1963) |
訳者 | 宮祐二 |
出版社 | 早川書房 |
出版年 | 1976/11/30 |
面白度 | ★★★★ |
主人公 ピーター・ハローラン。イギリス人だが、1948年にケープタウンに移住し、ヨット設計者として成功。結婚するが妻が事故死。その心の痛手を癒すためもあり、金塊探しに挑戦する。 事件 第二次大戦中、パルチザンの手によって、4トンもの金塊や多額の宝石類がイタリアの山中に埋められた。この驚くべき事実をパルチザンの残党二人から聞いたピーターは、自分のヨットで二人とともにイタリアに向かった。だが情報が漏れて、彼らの前にはハイエナのような男たちが……。 背景 バグリイの第一作。翻訳が遅れ、文庫本で出版されたので駄作かと危惧していたが、杞憂であった。金塊の隠し方はそれなりに興味深いし、派手な乱闘がありながらも無駄な殺人は起きないという物語展開も好ましい。少し古典的な冒険小説という印象を受けてしまうが。 |
邦題 | 『原生林の追撃』 |
原作者 | デスモンド・バグリイ |
原題 | Landslide(1967) |
訳者 | 矢野徹 |
出版社 | 早川書房 |
出版年 | 1976/ |
面白度 | ★★★ |
主人公 地質学者のボイド。実は交通事故で記憶を喪失している。 事件 ボイドは、ダム工事に伴なう地質調査のためカナダ山中の小さな町を訪れた。ここはマターソン王国といってよいほどの土地であった。だが過去に不可解な交通事故があり、その生き残りが自分ではないか、と気づいたのだ。彼は自分の過去の謎を解くべく、調査に乗り出した。しかし、鬱蒼たる森林地帯に待ち受けるものは、マターソンの非情な罠だった! 背景 翻訳が遅れたこともあり、待ち切れずに原書で読んだ作品。プロットは相変わらず面白い。特にボイドの過去に疑問が起きて、その謎を解く過程でダム崩壊の危機が発生する展開がユニーク。最後の逃亡劇は平凡であったが、訳書で読んでいたら、もう少し評価は高かったかも? |
邦題 | 『鷲は舞い降りた』 |
原作者 | ジャック・ヒギンズ |
原題 | The Eagle Has Landed(1975) |
訳者 | 菊池光 |
出版社 | 早川書房 |
出版年 | 1976/ |
面白度 | ★★★★ |
主人公 ドイツ落下傘部隊のシュタイナ中佐。IRA兵士リーアム・デヴリンが脇役として登場。 事件 ヒットラーの密命を帯びて、シュタイナ中佐らはノーフォークの寒村に降り立った。この地で週末を過すチャーチル首相を誘拐しようというのだ。味方は軍情報局の女スパイとIRAのリーアム。イギリス兵になりすましたシュタイナらは着々と計画を進めたが……。 背景 世評の高い作品。確かに面白いが、ベストテン級の作品とはいえない。シュタイナ中佐の造形は巧みで、ドイツ兵を殺人機械としては描いていないのも良い。むしろカッコ良過ぎるほどである。しかし伏線の張り方や最後の捻りなどは、冒険小説としてもそれほど優れているわけではない。なお、原書の初版は一部カットされており、完全版の訳書は1992年に出版されている。 |
邦題 | 『こわい話・気味のわるい話第3輯』 |
原作者 | 平井呈一編 |
原題 | 独自の編集 |
訳者 | 平井呈一 |
出版社 | 牧神社出版 |
出版年 | 1976/ |
面白度 | ★★★ |
主人公 平井氏編集の怪奇小説アンソロジーの第3弾。10本の短編が収録されている。 事件 題名を列挙すると、「壁画のなかの顔」(アーノルド・スミス)、「一対の手――ある老嬢の怪談――」(アーサー・キラ=クーチ)、「徴税所」(W・W・ジェイコブズ)、「角店」(シンシア・アスキス)、「誰が呼んだ?」(ジェイムズ・レイヴァー)、「二人提督」(ジョン・メトカーフ)、「シャーロットの鏡」(ロバート・H・ベンスン)、「ジャーミン街奇譚」(A・J・アラン)、「幽霊駅馬車」(アメリア・B・エドワーズ)、「南西の部屋」(メアリ・E・ウイルキンズ=フリーマン:唯一の米国人作家)である。 背景 ユーモラスな怪奇小説、心暖まる怪奇小説が含まれており、著者の好みがよくわかるし、新鮮であった。なお全10巻の予定であったが、著者が亡くなったため、中断されてしまった。 |
邦題 | 『ぼくはお城の王様だ』 |
原作者 | スーザン・ヒル |
原題 | I'm the King of the Castle(1970) |
訳者 | 高儀進 |
出版社 | 角川書店 |
出版年 | 1976/4/10 |
面白度 | ★★★★ |
主人公 ロンドンを遠く離れた屋敷に家政婦として雇われた女性の一人息子チャールズ・キングショー少年とその屋敷の寡夫の一人息子エドマンド・フーパー少年。二人とも11歳。 事件 エドマンドは屋敷には誰も来てほしくなかった。ここは「ぼくの城」と考えていたからだ。そこにチャールズが現れた。エドマンドの憎悪と敵意は、執拗ないやがらせとなってチャールズに向けられた。双方の親はそのことを知らなかったため、チャールズは心理的に追い詰められるが……。 背景 1971年度のサマセット・モーム賞受賞作。著者が20代の後半に書いた作品。昨今流行っているイヤミスの源流のような小説だが、チャールズを追い詰める少年や大人たちも普通人であるだけに、ラストの衝撃度は大きい。英国田園地帯の魔性も巧みに描かれている。 なお2002年に講談社から幸田敦子訳の新訳が出た(2015.11.20) |
邦題 | 『狼男卿の秘密』 |
原作者 | イーデン・フィルポッツ |
原題 | The Mystery of Sir William Wolf(1937) |
訳者 | 桂千穂 |
出版社 | 国書刊行会 |
出版年 | 1976/11/15 |
面白度 | ★★★ |
主人公 ウィリアム・ウルフ卿。 事件 ウィリアムはギリシャを旅行中、彼の父親は死亡し、彼はウルフ卿となって父の土地を継いだ。土地の管理は幼馴染みにまかせ、婚約者にも恵まれ、まずは幸福な出だしであった。だがある時、ウルフ卿が古い本を読んでいると、自分の行動を予言しているような詩にぶつかり愕然とした。そしてその詩のとおりに、不思議な出来事が続々と起こってきたのだ! 背景 ”ドラキュア叢書”の一冊であることと、題名から人狼物と考えていたが、意外なことに怪奇小説ではなく、普通のミステリーに近かった。手掛かりがフェアでないところもあるものの、合理的な謎の解決が示されている。ただサスペンスのない前半の語り口には閉口した。 |
邦題 | 『決戦! バルト海』 |
原作者 | C・F・フォレスター |
原題 | Commodore Hornblower(1945) |
訳者 | 高橋泰邦 |
出版社 | 早川書房 |
出版年 | 1976/10/31 |
面白度 | |
主人公 事件 背景 |
邦題 | 『妖怪博士ジョン・サイレンス』 |
原作者 | アルジャノン・ブラックウッド |
原題 | John Silence Physician Extraordinary(1908) |
訳者 | 紀田順一郎・桂千穂 |
出版社 | 国書刊行会 |
出版年 | 1976/9/ |
面白度 | ★★ |
主人公 変わり者として有名なロンドンの医師ジョン・サイレンス。精神科学者で、神秘学にも詳しく、心霊医師と呼ばれている。40歳過ぎの痩せ型。腹心の秘書はハーバード。 事件 中編ともいってよい長めの短編6本から構成されている。「いにしえの魔術」(フランスの小駅で途中下車した旅人が経験したものは? 編中で一番面白い)、「霊魂の侵略者」(作家が突然書けなくなったが……)、「炎魔」(心霊探偵らしく、幽霊屋敷の謎に挑戦)、「邪悪な祈り」(30年ぶりに母校を訪れると……)、「犬のキャンプ」(無人島での出来事)、「四次元空間の囚」(題名通り)。 背景 サイキック探偵物ではあるが、サイレンスが心霊的な謎を解くのは「炎魔」「犬のキャンプ」「四次元……」の3編で、残りは普通のホラー。序盤が長いのが著者の特徴か。なお新訳『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』(植松靖夫訳、東京創元社)が2009.1に出た。 |
邦題 | 『重賞』 |
原作者 | ディック・フランシス |
原題 | High Stakes(1975) |
訳者 | 菊池光 |
出版社 | 早川書房 |
出版年 | 1976/4/30 |
面白度 | ★★★ |
主人公 玩具製造業者のスティーヴン・スコット。素人の馬主でもある。 事件 スコットの雇っていた調教師ジョディが背信していることがわかった。このため彼は調教師の解雇を言い渡した。しかし怒り狂って復讐鬼と化したジョディは、スコットの持ち馬を他の駄馬とすり替えてしまったのだ。スコットは愛馬の奪回と真相を究明するため行動を開始した。 背景 シリーズ第14作。これまではすべて早川ポケミスから刊行されていたが、本書は珍しく早川ミステリ文庫から出た(余談ながら次作からはハードカバーに変更された)。スコットは、フランシスの他の主人公と同じように、腕力はそう強くはないものの、ストイックな性格の持ち主。そのイギリス魂による反撃が本書の読み所となっている。女性関係の描写はいささか甘いが……。 |
邦題 | 『亡命者』 |
原作者 | ブライアン・フリーマントル |
原題 | Goodbye to an Old Friend(1973) |
訳者 | 中村能三 |
出版社 | 二見書房 |
出版年 | 1976/6/ |
面白度 | ★★★★ |
主人公 取調官のエイドリアン・ドッズ。 事件 ソ連から大物科学者が亡命して間もなく、宇宙開発の指導的立場にある、より重要な科学者パーヴェルが亡命を希望した。政府首脳は喜んだが、取り調べをしたドッズは、なにか釈然としないものを感じた。亡命の動機を巡って、パーヴェルとドッズとの心理的な駆け引きが続く。 背景 著者の第一作。本書が出たときは、ほとんど無視されていた気がする(かくいう私も、1979年に『別れを告げに来た男』と改題されて、新潮社より出版された文庫本を読んでの評価である)。主人公のドッズがユニーク。家庭は崩壊直前だが、首相に反撥するなどの気骨ある人物に設定されている。ソ連科学者との心理的な騙し合いも、ミステリーとしての面白さに溢れている。 |
邦題 | 『ドーヴァー7/撲殺』 |
原作者 | ジョイス・ポーター |
原題 | It's Murder with Dover(1973) |
訳者 | 乾信一郎 |
出版社 | 早川書房 |
出版年 | 1976/3/15 |
面白度 | ★★★ |
主人公 お馴染みのロンドン警視庁の悪評高いドーヴァー主任警部。 事件 今回の事件は、没落貴族であるクラウチ卿の執事の娘と婚約していた男が撲殺されたというもの。彼の豪邸<ベルツア邸>の会計係が、妹の子として連れてきた男だった。地元の警察で処理できる平凡な事件であったが、<ベルツア邸>を宣伝する絶好の機会と考えたクラウチ卿は、ロンドンから警部を呼べと主張したのだ。かくして事件はドーヴァーの担当することとなった。 背景 ドーヴァー物としては平均作。それほどアクは強くなく、事件そのものも平凡なものであるからだ。今回のドーヴァーはわりと頭は活発に働いていて、その分、不平も減っている。とはいえ食事に関するユーモラスなやり取りなどは、相変わらず笑える。安心して楽しめる。 |
邦題 | 『おせっかいな殺人』 |
原作者 | ジョイス・ポーター |
原題 | A Meddler and Her Murder(1972) |
訳者 | 山本俊子 |
出版社 | 早川書房 |
出版年 | 1976/11/30 |
面白度 | ★★★ |
主人公 お馴染みのホン・コン(オノラブル・コンスタンス・エセル・モリソン=バーク)。 事件 静かな朝であるべきその日、外は異様にざわめいていた。早速寝室の窓から双眼鏡で覗いたホン・コンは、通りの向かい端の警官の多さに驚いた。ホン・コンは大事件と確信し、雨の大通りへ飛び出した。その事件とは、ヘロン家に住み込みのメイドが深夜ベッド上で惨殺されたというもの。しかも外部から侵入した形跡はないという。ホン・コンおばさんの自主的な活動が始まった。 背景 200頁にも満たない小品。例によって、ホン・コンは頭が悪いのか良いのかわからない活躍で、事件を解決してしまう。ポーター作品では、殺人の動機は性に関するものが多いが、下ネタをある一線より落とさないでユーモラスに語るのが、女性作家にしては抜群に上手い。 |
邦題 | 『暗号指令タンゴ』 |
原作者 | アダム・ホール |
原題 | Tango Briefing(1973) |
訳者 | 大庭忠男 |
出版社 | 早川書房 |
出版年 | 1976/ |
面白度 | ★★★★ |
主人公 英国の腕利き諜報員クィラー。 事件 今回のクィラーの任務は、サハラ砂漠に不時着した輸送機<タンゴ・ヴィクター>に接近し、積荷を調査することだった。彼は早速チュニスへ飛んだ。だが謎の敵はすでに行動を開始していた。しかし本当の敵は<タンゴ・ヴィクター>自体の中に潜んでいたのだ。 背景 世評高い『不死鳥を倒せ』(シリーズ第一作)はあまり楽しめなかったが、本作でクィラーを少し見直した。物語の筋は単純で、途中ダレル部分もあるが、結末の処理に感心したからだ。おそらく日本人なら玉砕、アメリカ人なら派手なアクションとなるところを、ここでは忍耐強く行動し、自分の命を大事にしつつ任務を完遂する。いかにも英国人らしい行動・判断で、カッコ良い! |
邦題 | 『地獄の綱渡り』 |
原作者 | アリステア・マクリーン |
原題 | Circus(1975) |
訳者 | 矢野徹 |
出版社 | 早川書房 |
出版年 | 1976/ |
面白度 | |
主人公 事件 背景 |
邦題 | 『エルマコフ特急』 |
原作者 | デレク・ランバート |
原題 | The Yermakov Transfer(1974) |
訳者 | 武富義夫 |
出版社 | 立風書房 |
出版年 | 1976/5/15 |
面白度 | ★★★ |
主人公 ソ連におけるコンピュータの権威者パブロフ。 事件 ソ連邦最高首脳エルマコフは、シベリア横断特急で反ユダヤ主義、反中国の遊説旅行に出発した。パブロフも彼の演説に花を添えるため同行を許された。だがパブロフはユダヤ人の血をひいており、彼はソ連当局の苛酷なユダヤ人政策に反対する決死の計画を考えていた。それはエルマコフを誘拐し、その見返りに10人の核物理学者をイスラエルに送るというものだったが……。 背景 いかにもジャーナリストが書いたという作品。シオニズムやシベリア鉄道の歴史を取材し、背景にわかりやすい形で取り入れている。ただし魅力的な謎がない。また登場人物の個性もいま一つ光っていない。情報の方が前面に出てしまい、小説が多少おざなりになっている。 |