邦題 『諜報作戦/D13峰登頂』
原作者 アンドルー・ガーヴ
原題 The Ascent of D. 13(1969)
訳者 永井淳
出版社 東京創元社
出版年 1971/10/8
面白度 ★★★
主人公 英国の有名な登山家ウィリアム・ロイスと米国人大尉ブローガン。
事件 新兵器の試験中にソ連のスパイにハイジャックされそうになったNATOの実験機がミグ戦闘機に撃墜された。飛行機の墜落場所はソ連とトルコの国境にある未踏峰のD13頂上付近。新兵器の爆破を必要とするNATOは、トルコ側からロイスとブローガンを派遣した。一方新兵器の奪取を目指すソ連は自国側から登山パーティを送った。どちらが先に新兵器を見つけるか?
背景 久し振りのガーヴ作品(創元推理文庫では初)。相変わらずの職人芸は健在である。話は単純で、英国冒険小説の約束事を守って書かれている。主人公の性格設定も、結末のハッピー・エンドもしかりである。その意味では新味はないものの、当然安心して楽しめる。

邦題 『カリブ海の秘密』
原作者 アガサ・クリスティー
原題 A Caribbean Mystery(1964)
訳者 永井淳
出版社 早川書房
出版年 1971/3/15
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのミス・ジェーン・マープル。今回はカリブ海に浮かぶサン・トノレ島で活躍。
事件 前年の冬に肺炎を患ったマープルは、甥の勧めでこの島に滞在していた。一週間ほど過ぎ、マープルは、このホテル客の一人パレグレイヴ少佐のケニア時代の話を聞いていた。そして彼がある殺人者について語り始め、殺人者の写真を取り出したとき、突然顔色を変え、話題を変えてしまった。マープルは気になったが、翌朝少佐は死体となって発見されたのである。
背景 原書刊行から7年後にやっと翻訳されたが、当然(?)待ちきれなくて原書で読んだ。クリスティがよく用いていた”肩越しの視線”プロットである(代表例は『鏡は横にひび割れて』)。そして舞台の雰囲気は『白昼の悪魔』に似ている。誰でも犯人と思わせるテクニックも、衰えていない。

邦題 『ハロウィーン・パーティー』
原作者 アガサ・クリスティー
原題 Hallowe'en Party(1969)
訳者 中村能三
出版社 早川書房
出版年 1971/12/15
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの私立探偵エルキュール・ポアロ。シリーズ・キャラクターとしては、推理小説家アリアドネ・オリヴァー夫人やスペンス警視も登場する。
事件 オリヴァー夫人は、友達のハロウィーン・パーティに招待された。推理作家が出席するというので、子供たちは大喜び。その時、一人の少女が「殺人を見たことがある」と喋り出した。だがその少女はホラ話の名手だったため大人は気にしなかったところ、やがて死体で見つかったのだ!
背景 トリックは”木を隠すには森がよい”の応用編。さりげなく利用しているので上手く引っかかってしまった。出だしは平凡ながら、ポアロが過去の疑わしい事件を調査する中盤は巧みに語られている。終盤の殺人は余分な気もするが、殺人が多いからといって殺伐な物語ではない。

邦題 『北の脱走者』
原作者 チャールズ・コリングウッド
原題 ()
訳者 乾信一郎
出版社 早川書房
出版年 1971/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『さすらいの旅路』
原作者 ネビル・シュート
原題 Pied Piper(1942)
訳者 池央耿
出版社 角川書店
出版年 1971/
面白度 ★★★★
主人公 現役を退いた老弁護士のジョン・ハワード。休暇でフランスへ遊びに来ている。
事件 時は1940年夏。戦局は緊迫度を高め、ジョンは帰国を余儀なくされた。ところが英国人の子供二人を預かって帰る破目になったのだ。だが、途中で世話になったホテルのメイドの姪や孤児など、同行者は次々と増えていった。はたしてナチの目を盗んで英国に戻れるのか?
背景 『渚にて』というSFで有名な著者だが、1949年に豪州に移住している。本作はロード・ノヴェルといってよく、老人と子供だけでナチに占領されたフランスを横断しようとする。暴力も残虐描写もないが、緊迫感溢れる物語展開である。こんな解決があったかという結末だが、心温かくなる。なお2002年に『パイド・パイパー―自由への越境』と改題して東京創元社より刊行された。

邦題 『クッキーの崩れるとき』
原作者 ハドリー・チェイス
原題 The Way the Cookie Crumbles(1965)
訳者 菊池光
出版社 東京創元社
出版年 1971/3/19
面白度 ★★
主人公 シリーズ・キャラクターは、パラダイス・シティ警察署長のフランク・テレルだが、物語は犯罪者側から語られており、給仕のエドリスや詐欺師アルジャーの方が主役といってよい。
事件 マイアミのパラダイス・シティにある高級レストランでヘロイン中毒者の女性が死んだ。いまは銀行副頭取の元の妻で、自殺と思われたが、これはエドリスとアルジャーが仕組んだ犯罪の布石だったのだ。彼らは元妻の娘を拉致し、銀行の金庫を狙う計画に本格的に着手したが……。
背景 一種の倒叙物といってよい犯罪小説。B級の大家だけに筆力はそれなりに感心するものの、本作では犯罪者たちの魅力もイマイチ。でも問題は犯罪計画の杜撰さ、プロットの貧弱さであろう。特に砂に埋めた死体が、子供の遊びから簡単に見つかってしまう展開にはガッカリ。

邦題 『幸いなるかな、貧しき者』
原作者 ハドリー・チェイス
原題 I Would Rather Stay Poor(1962)
訳者 菊池光
出版社 東京創元社
出版年 1971/6/25
面白度 ★★
主人公 アメリカ西部の町ピッツヴィルにある銀行の支配人代理となったデイヴ・カルヴィン。独身の38歳だが、貯蓄はわずか。銀行家として成功する可能性は限りなくゼロに近い。
事件 デイヴが赴任した支店は、彼ともう一人女性行員がいるだけの小さな銀行であった。だがこの銀行は、地元の工場に支払われる給料30万ドルを毎週木曜日に保管する立場にあったのだ。デイヴはその金を盗もうと計画した。下宿の女主人キットを相棒にしたまではよかったが……。
背景 銀行を舞台にした犯罪小説。相棒のキットが、美貌を武器にするのではなくアルコール依存症という人物造形が珍しい。タイプライターの取り扱いや金の隠し場所など、相変わらず安易なプロットにはガッカリだが、さっと読めてしまう筆力は衰えていない。

邦題 『群がる鳥に網を張れ』
原作者 ハドリー・チェイス
原題 Tell It to the Bird(1963)
訳者 村上博基
出版社 東京創元社
出版年 1971/9/17
面白度 ★★★
主人公 謎を解くのはシリーズ探偵のナショナル・フィデリティ保険会社の主任調査員スティーヴ・ハーマスだが、物語の主人公は同じ会社の外交員ジョン・アンソン。
事件 アンソンは、園芸家バーロウの妻メグから保険の依頼を受けた。バーロウ家を訪ねると、メグは妖艶な人妻で、契約話の代わりに、今書いている保険金詐欺の小説のプロットを利用して保険金詐欺を持ちかけられたのだ。アンソンはメグの魅力に惹かれ……。
背景 典型的なB級犯罪小説。T部が主にアンソンらの犯罪者側の物語で、U部は探偵側の捜査物語に近く、倒叙ミステリーとしても楽しめる。短時間で読めるヒマ潰しに適した作品であるものの、残念なのは、犯人側の計画がかなり杜撰なことである。

邦題 『ガラス箱の蟻』
原作者 ピーター・ディキンスン
原題 Skin Deep(1968)
訳者 皆藤幸蔵
出版社 早川書房
出版年 1971/5/15
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁のピブル警視。
事件 太平洋戦争で日本軍の襲撃を受けたクー族(ニューギニアの谷間で生活していた)の生き残りがロンドンの一郭のアパートで暮らしている。ほとんど外出せずにテレビを見、古い部族の儀式
を守って生きている。そんな奇妙な環境でも、殺人事件が起きたのだ。クー族の酋長が不思議な銅貨を手に持ったまま殺されたのである。この事件はピブル警視の担当になった。
背景 著者の第一作ながら1968年のCWAゴールド・ダガー賞を受賞した。一風変わったユーモアが楽しめ、ミステリー的には伏線が巧みに張られているが、小説としては乗り切れなかった。奇妙奇天烈な設定を伝統的な手法で料理したミステリーで、英国だからこそ生れた作品か。

邦題 『英雄の誇り』
原作者 ピーター・ディキンスン
原題 A Pride of Heroes(1969)
訳者 工藤政司
出版社 早川書房
出版年 1971/5/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『混戦』
原作者 ディック・フランシス
原題 Rat Race(1970)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1971/1/15
面白度 ★★★
主人公 リイダウン・スカイ・タクシイ社パイロットのマット・ショウ。
事件 マットの操縦する、競馬関係者4人の乗客を乗せたチェロキー機は順調に飛んでいたが、突然マットは操縦桿を引くたびに摩擦を感じるようになった。特別に鋭い彼の安全本能がわずかな異常を知らせている。マットは予定外の着陸を敢行し、無事空港に着いた。だがチェロキー機を離れ空港事務所に向かって歩いているとき、背後で鋭い音が聞こえ、機は燃え上がったのだ!
背景 著者の9冊目。相変わらず巧みな物語構成と語り口で、一気に読めてしまう。強いて特徴を挙げるなら、ここ数作に比べると謎があることと、主人公が中年ということで派手な立ち回りがないこと、などであろう。でももう完全なプロの手慣れた作品で、新鮮な驚きはないようだ。

邦題 『秘められた傷』
原作者 ニコラス・ブレイク
原題 The Private Wound(1968)
訳者 小倉多加志
出版社 早川書房
出版年 1971/4/30
面白度 ★★★
主人公 若い作家ドミニック・エア。
事件 第二次世界大戦直前、アイルランドを旅行していたエアは、偶然見つけた小さな町に落ちついて、小説を書こうとした。典型的なアイルランドの町であったが、エアは町外れで暮らすうち、町の牧場主の妻の誘惑に負け、彼女に恋してしまったのだ。だが夏も終わる頃には、その熱も冷めてきた。ついに別れる決心をしたとき、全裸の彼女の死体が川岸で発見されたのだ!
背景 ブレイクは1972年に亡くなった。著者の遺作であり、内容は自伝的色彩が強いと言われている。謎解きよりもメロドラマに主眼を置いたサスペンス小説。論理的な解決がないのがミステリーとしての面白さを減じているものの、ブレイク独特の説得力ある描写には感心。

邦題 『流砂』
原作者 ヴィクトリア・ホルト
原題 The Shivering Sands(1970)
訳者 小尾芙佐
出版社 角川書店
出版年 1971/
面白度 ★★★★
主人公 物語の語り手である「わたし」のキャロ。
事件 キャロの姉が、ケント州の砂州をまじかに望む村での発掘中に行方不明になった。その謎を解こうとして、キャロはその村にある貴族の館にピアノ教師として職をもった。その家には半身不随の頑迷な当主や幼いとき誤って兄を射殺したという当主の息子がいたが、キャロはその息子に惹かれていく。だが夫人は自殺しており、この家庭には複雑な事情が存在していた――。
背景 典型的なゴシック・ロマンスの一冊。当時アメリカではこの手の作品がかなり流行っていた。通俗的な内容ながら、500頁を一気に読ませる力業はなかなかのものがる。本書が好評のためその後何冊か訳されたが、本書ほどミステリー色の濃い作品はなかった。お勧め。

邦題 『フィナーレは念入りに』
原作者 レイモンド・マーシャル
原題 The Wary Transgressor(1952)
訳者 岡村孝一
出版社 早川書房
出版年 1971/8/31
面白度 ★★
主人公 ニューヨークの元建築家であったが、6年前のある事件のため警察に追われる身となり、今ではイタリアでモグリの案内人をするデイビッド・チショルム。
事件 ディビッドは偶然ローラと知り合った。彼女の夫は自動車事故で全身麻痺となり、ローラはデイビッドを夫の看護人として雇おうと、彼女の屋敷に来るように勧めた。だが本当の彼女の狙いは、デイビッドの手助けで夫を密かに殺害することだったのだ。
背景 J・H・チェイスが別名で書いた作品。なぜ別名を使用したかは不明であるが、雰囲気はこれまでのチェイスの作品とよく似ている。例えば主人公は小悪人ながら、まだ正義感を持っている人物に創造されているし、安易なプロットも、そしていささか皮肉なオチがつくのも同じである。

邦題 『シンガポール脱出』
原作者 アリステア・マクリーン
原題 South by Java Head(1958)
訳者 伊藤礼
出版社 早川書房
出版年 1971/
面白度 ★★★
主人公 ヴィローマ号の一等航海士ニコルソン。危機に陥っても沈着冷静な男。
事件 1942年2月、日本軍はマレー半島からシンガポール島へと破竹の進撃をしていた。シンガポール陥落は必至で、多くの人間が島を脱出していた。ニコルソンらの船が最後の出航となったが、途中で日本軍に襲撃されたファーンホルム准将ら(日本軍の重要機密情報を保持していた)を救出した。だがその船もゼロ戦に襲われ、乗り換えたボートは潜水艦に狙われ……。
背景 著者の三作目。著者の第一作は北海を、第二作は地中海の島を舞台にした第二次世界大戦中の戦争冒険物であった。本書の舞台はジャワ海ということで、似たような作品。ただし前二作に比べると迫力が不足しているのは、主人公が地味すぎるのも一因か。

邦題 『巡礼のキャラバン隊』
原作者 アリステア・マクリーン
原題 Caravan to Vaccares(1970)
訳者 高橋豊
出版社 早川書房
出版年 1971/
面白度 ★★
主人公 英国諜報部員のボーマン。
事件 プロヴァンスの曲がりくねった山道のわきの草原で露営しているジプシーの一隊があった。彼らは夕食の支度を始めていたが、しかし彼らは何か不思議な物を持っていた。ボーマンは、ジプシーを研究している民俗学者である公爵らとともに、このジプシーのキャラバン隊を監視していたのである。ジプシー一隊の秘密は何か? ボーマンの戦いが始まった。
背景 いくつか面白いシーンはあるものの、基本的な話の筋がわかりにくい。たいして厚くはないものの、読むのに苦労した作品。マクリーンはもうイイヤという気になった。ただ、『ナヴァロンの要塞』にもあったが、本書にもユーモアが含まれている。やはり英国人作家だなあ、と感心。

邦題 『北海の墓場』
原作者 アリステア・マクリーン
原題 Bear Island(1971)
訳者 平井イサク
出版社 早川書房
出版年 1971/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『死の贈物』
原作者 パトリシア・モイーズ
原題 Who Saw Her Die ?(1970)
訳者 皆藤幸蔵
出版社 早川書房
出版年 1971/12/15
面白度 ★★★★
主人公 ロンドン警視庁上級警視のヘンリ・ティベット。
事件 クリスタル未亡人は被害妄想なところがある。占いの結果、誕生パーティで殺されると出たために、ヘンリに保護を依頼してきたからだ。だがヘンリは手を抜かずに警備し、パーティの席では毒味役もかって出た。それを見た未亡人は初めて安心した。娘らから贈られたケーキを食べ、シャンペンを飲み、バラの香りを嗅いだ。だが次の瞬間、未亡人は喘いで床に倒れたのだ。
背景 被害者の死因はなにかという謎が面白い。中盤は、ヘンリの苦心の捜査がユーモラスに描写されている。謎の解明には医学的な専門的知識が必要だが、著者あとがきでことわりを入れていることもあり、私は気にならなかった。クリスティ後継者争いでは本書で一歩リードか。

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