邦題 『しろうとスパイ』
原作者 マイクル・アンダーウッド
原題 The Unprofessional Spy(1964)
訳者 佐和誠
出版社 早川書房
出版年 1967/1/15
面白度 ★★★★
主人公 弁護士のマーチン・エインスワース。50代始めの独身だが、同じく独身の叔母と二人でロンドンで共同生活をしている。25年前の1935年にはベルリンに留学していた。
事件 戦前マーチンが留学生活を送っていた下宿先の夫は、反ナチ運動が元で収容所で亡くなった。マーチンは想いを寄せていた下宿先の妻エリとも別れ英国に戻った。そして今、英国秘密情報部員から、エリが共産側の第一級のスパイなので、調べて欲しいと言われたのだ。
背景 本邦初紹介の作家の作品。作者は1964年にCWAの会長を務めていた。地味な作風ながら、過去の恋人との再会を扱った前半は恋愛小説として楽しめる。後半の素人スパイの活躍も興味深いが、『寒い国から帰って来たスパイ』に比べてしまうと、リアリティ不足は否めないか。

邦題 『汚辱と怒り』
原作者 エリック・アンブラー
原題 A Kind of Anger(1964)
訳者 宇野利泰
出版社 早川書房
出版年 1967/9/15
面白度 ★★★
主人公 週刊誌≪ワールド・リポーター≫のパリ支局員ピート・マース。中年独身のオランダ人。以前高踏的雑誌の経営に失敗し、前パリ支局長に拾われて記者となった。
事件 そのピートに仕事が舞い込んだ。イラクからスイスに亡命し、ジュネーブで若い女と浮名を流していたアルビル大佐が殺され、事件後ビキニ姿の女が逃げていくのを目撃されていた。仕事とはその女を捜し出し、インタビューすることだったが……。
背景 早川ポケミス1000番の作品として記憶されるべきもの(著者の第12作め)。かつてのシリアスなスパイ小説と違い、前作『真昼の翳』のようにユーモアのある犯罪小説的雰囲気を持っている。結末の処理なども後味が良いが、その分サスペンスが不足がちなのは残念。

邦題 『中国の密使』
原作者 ジェームス・イーストウッド
原題 The Chinese Visitor(1965)
訳者 高橋豊
出版社 集英社
出版年 1967/11/10
面白度 ★★
主人公 アンナ・ゾーダン。ハンガリー人の血が混じっている。父は反ナチス派であった。
事件 アンナが公務執行妨害の刑を終えて刑務所から自宅に帰ると、見知らぬ男が彼女の部屋にいた。謎の男はウィーンで両親を殺した殺し屋だったのだ。ハンナは一瞬の隙をついて男を射殺したが、その後の処置に困惑した。そこで思い出したのが、ウィーンの事件で手助けをしてくれた男である。アンナはその男に電話をするが……、という展開で、事件に巻き込まれていく。
背景 やがてアンナは女スパイとして訓練を受けて、相手組織に一人で潜り込む。一見真面目な書き方をしているが、基本は女007といった設定で、面白いシーンはいくつかあるものの、スパイ小説としてより重要と思われる陰謀(プロット)が、あまりにチャチなのにはガッカリ。

邦題 『蒼い死闘』
原作者 ハモンド・イネス
原題 The Blue Ice(1948)
訳者 大門一男
出版社 講談社
出版年 1967/
面白度 ★★★★
主人公 英国最大の卑金属会社の退役重役ビル・ガンサート。
事件 ガンサートのところに、鋼鉄より強く、アルミニウムより軽く錆びない珪トリウム合金の基になる小石が送られてきた。送り主は、かつての同僚で、最近ノルウェーの氷河で死んだらしいファーネルであった。帆船で地中海旅行を計画していたガンサートは急遽ノルウェーに向かった。そしてノルウェーでは、ファーネルらしい人物をスキーで追跡することになったのである。
背景 前半が帆船による海洋冒険、後半はスキーの追跡による山岳冒険となる。さまざまな謎が簡単に割れてしまうのが欠点だが、冒険小説の第一人者らしく、アクション場面はやはり楽しめる。サスペンスも豊かだ。なお後年『蒼い氷壁』と改題されて早川書房より刊行された。

邦題 『罪なき者を捜せ』
原作者 ロイ・ヴィカーズ
原題 Double Image and Other Stories(1955)
訳者 尾坂力
出版社 早川書房
出版年 1967/11/15
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁の迷宮課が直接事件を捜査してはいないが、課に所属(?)しているカーウェン警部とカイル警部が地方に出張して事件を解決に導いている。
事件 5本の短編(内2本は長めの短編)からなる短編集。「二重像」(双子は存在したのか?)「殺人者はいつも」(やり過ぎてしまうようだ)「女神の台座」(男2人対女の関係)「十二分の墓」(どちらの男が犯人なのか?)「罪なき者を捜せ」(設定の独創性はあるものの、現実味がない!)
背景 「二重像」は発表年のEQMM最優秀短編賞を受賞している。すべての短編が、容疑者は2人乃至3人と絞ったうえでの真犯人探しなので、犯人の意外性は無いに等しいが、それでも「十二分の墓」はフーダニットと倒叙物を巧みに組み合わせた成功例であろう。

邦題 『殺人を選んだ7人』
原作者 ロイ・ヴィカーズ
原題 Seven Chose Murder(1959)
訳者 井上一夫他
出版社 早川書房
出版年 1967/2/20
面白度 ★★★
主人公 表紙には<迷宮課シリーズ3>と書かれているが、すべての短編に迷宮課の警官(例えばレイスン警部など)が登場するわけではない。表題からわかるように7つの短編からなる。
事件 「デイジー家殺人事件」(デイジー夫妻が毒殺される)、「おきあがりこぼし」(おきあがりこぼしが小道具として巧みに使われている)、「かえれマリオン」(死体隠蔽方法が面白い)、「信念に生きる女」、「老嬢の証言」(普通のフーダニット)、「あわれなガートルード」(典型的な迷宮課物で、これが一番か)、「招かれぬ女」(船上での殺人を扱っていて、長めの短編)の7本
背景 容疑者を絞った段階でのフーダニット形式の短編が多く、完全な倒叙物は「あわれなガートルード」ぐらい。謎解き小説と考えると平凡で、犯罪小説として楽しむべきなのだろう。

邦題 『ガラスの檻』
原作者 コリン・ウィルスン
原題 The Glass Cage(1966)
訳者 中村保男
出版社 新潮社
出版年 1967/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『アンバー・ナイン』
原作者 ジョン・ガードナー
原題 Amber Nine(1966)
訳者 大庭忠男
出版社 早川書房
出版年 1967/2/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『パーフェクト殺人』
原作者 H・R・F・キーティング
原題 The Perfect Murder(1964)
訳者 尾坂力
出版社 早川書房
出版年 1967/8/20
面白度 ★★★★
主人公 インド、ボンベイ犯罪捜査課のガネシ・ゴーテ警部。
事件 パーフェクトは大富豪ヴァルデーの有能な秘書であったが、その秘書が殺されたという連絡がヴァルデーから入った。後日、新聞は”パーフェクト殺人”と大袈裟に囃し立てたが、単に被害者の名前がパーフェクトというだけだった。そのうえ実は被害者はまだ死んではいなかったのだ。さっそく駆け付けたゴーテが調査すると、犯人はヴァルデー家の住人の中にいることがわかった。
背景 異色の警察小説の誕生である。従来のミステリーを皮肉っている内容にもなっていて、好き嫌いで評価は大きく分かれそうな作品。言葉のトリックを利用ているが、題名そのものがトリックになっているのが新鮮だ。1964年CWA最優秀作品賞を受賞している。

邦題 『ボンベイの毒薬』
原作者 H・R・F・キーティング
原題 Inspector Ghote's Good Crusade(1966)
訳者 乾信一郎
出版社 早川書房
出版年 1967/8/31
面白度 ★★★
主人公 インド、ボンベイ犯罪捜査課のガネシ・ゴーテ警部。
事件 アメリカの富豪で、浮浪児救済財団を主宰するマスターズが砒素によって毒殺されるという事件が起きた。ゴーテはその厄介な事件の担当を命じられた。財団に到着したゴーテは、すぐに財団の女医や浮浪児の証言から、毒薬の入手先を特定するが……。
背景 独特の世界を作りあげている。著者の特徴は、ちょっとノンビリした、とぼけたユーモアにあるが、そこに魅力を感じるかどうか。そのユーモアは、ボンベイを舞台にしインド人を主人公にしたから生じるのであろう。もし現在のロンドンを舞台にし、英国人を主人公にして同じ物語を展開していたら、現実的なお話になってしまい、凡作にしかなりえないはずだから。

邦題 『喜劇役者』
原作者 グレアム・グリーン
原題 The Comedians(1966)
訳者 田中西二郎
出版社 早川書房
出版年 1967/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『クリスチィ短編全集4』
原作者 アガサ・クリスティー
原題 The Regatta Mystery(1939)
訳者 宇野利泰
出版社 東京創元社
出版年 1967/5/19
面白度 ★★★
主人公 ポアロ物を中心とした短編13本を収録した短編集。
事件 題名を順に挙げると、「ヨット・レース事件」(パイン物)、「バグダッドの櫃の謎」、「あなたのお庭をどうする気?」、「ポレンサ入江の事件」(パイン物)、「黄色いアイリス」、「ミス・マープルは語る」(マープル物)、「夢」、「暗い鏡のなかに」(怪奇小説)、「海上の悲劇」、「砂に書かれた三角形」、「スズメ蜂の巣」、「二重の手がかり」、「二重の罪」である。カッコなしはポアロ物。
背景 好きな短編は「あなたのお庭をどうする気?」や「夢」であるが、謎解き短編を量産しながら「暗い鏡のなかに」のような作品も書ける点がクリスティのスゴイところか。なお後年『砂に書かれた三角形 クリスチィ短編全集4』と改題された。早川書房版の題名は『黄色いアイリス』である。

邦題 『クリスチィ短編全集2』
原作者 アガサ・クリスティー
原題 The Listerdale Mystery(1934)
訳者 厚木淳
出版社 東京創元社
出版年 1967/10/31
面白度 ★★★★
主人公 シリーズ・キャラクターは登場しない短編12本を収録した短編集。
事件 題名を順に挙げると、「イーストウッド氏の冒険」、「日曜日には果物を」、「事故」、「エドワード・ロビンソンは男でござる」、「うぐいす荘」、「ラジャーのエメラルド」、「六ペンスの唄」、「リスタデール卿の謎」、「車中の娘」、「ジェインの求職」、「黄金の玉」、「白鳥の歌」である。
背景 「うぐいす荘」や「事故」は、サスペンス溢れる傑作。特に前者は多くのアンソロジーに選ばれている。「ラジャーのエメラルド」は内容はたいしたことはないが、ジェイムズ・ボンドという名の青年が主人公として活躍する点において記憶に残る短編。なお後年『白鳥の歌 クリスチィ短編全集2』と改題された。早川書房版の題名は『リスタデール卿の謎』である。

邦題 『裸のランナー』
原作者 フランシス・クリフォード
原題 The Naked Runner(1965)
訳者 永井淳
出版社 早川書房
出版年 1967/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ある殺人の肖像』
原作者 ジュリアン・シモンズ
原題 The Killing of Francie Lake(1962)
訳者 山口午良
出版社 早川書房
出版年 1967/6/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『殺人は血であがなえ』
原作者 ハドリー・チェイス
原題 The Guilty Are Afraid(1957)
訳者 田中小実昌
出版社 東京創元社
出版年 1967/2/24
面白度 ★★★
主人公 サンフランシスコの私立探偵ルウ・ブランダン。探偵社パートナーの私立探偵が殺されたことから、見知らぬ町で犯人探しを始める。
事件 舞台は、マイアミをしのぐ観光都市セント・ラファエル。ここは世界で一番金持ちの多い町として知られている。そこでブランダンの相棒がアイスピックで刺し殺されたのだ。ブランダンが調査を始めると、警察署長から横槍が入った。ここは財界の大物が君臨する悪徳都市だったのだ。
背景 シリーズ物ではないが、著者の私立探偵物の一冊。ブランダンは結構魅力的な人物に造形されている。プロットは単純で、登場人物もそう多くはないが、各場面はきちんと描かれているので、サスペンスフルな展開で楽しめる。著者の私立探偵物では上位に入るだろう。

邦題 『ソフト・センター』
原作者 ハドリー・チェイス
原題 The Soft Centre(1964)
訳者 中村保男
出版社 東京創元社
出版年 1967/12/1
面白度 ★★★
主人公 特にいないが、一人だけ挙げるとすれば富豪の令嬢ヴァレリー・バーネットか。事件捜査の主任はマイアミ警察の警察本部長フランク・ターレル。
事件 ヴァレリーと結婚したクリスは自動車事故で頭部に重傷を負い、療養のためマイアミの高級ホテルに滞在することになった。だがある日、一日中クリスは行方不明となり、その間にギャングと関係のある売春婦が刺殺される事件が起きた。クリスのライターと血染めの上着も見つかり……。
背景 クリスが本当に殺したのかと令嬢が調べる話と犯罪組織らの暴力を描いている。著者の得意な犯罪小説といってよいが、結末が多少異色。表題は人の心の中にある「弱い急所」の意で、自信や決意といった硬いしっかりした中核部分でも急に弱くなることを言いたいのだろう。

邦題 『ベルリンの葬送』
原作者 レン・デイトン
原題 The Funeral in Berlin(1965)
訳者 稲葉明雄
出版社 早川書房
出版年 1967/
面白度 ★★★
主人公 英国内閣直属の特務機関WOOC(P)の一員である「わたし」。
事件 ベルリンにいる連絡員から、ソ連の酵素学者セミッツァが西欧に脱出したい意向を持っているという情報が入った。わたしが脱出計画を練るが、交渉先のソ連国家保安部の担当者は多額の現金を要求するなど、その真意はよくわからなかった。だが脱出計画は中止にはならず、生きているセミッツァを乗せた霊柩車が東西の壁をぬって進んでくるが……。
背景 普通のスパイ小説のようにプロットで勝負する作品ではなく、シーン描写で読ませるスパイ小説。その意味では確かにチャンドラーの影響を受けているようだ。チャンドラーを好きでない私には不向きな作品だが、ブルーン収容所の挿話などは見事だし、結末の謎も面白い。

邦題 『愛と死の紋章』
原作者 デュ・モーリア
原題 The Flight of Falcon(1965)
訳者 大久保康雄
出版社 三笠書房 
出版年 1967/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『アフリカの女王』
原作者 C・S・フォレスター
原題 The Affrican Queen(1935)
訳者 伊藤礼
出版社 フジ出版社
出版年 1967/8/15
面白度 ★★★★
主人公 キリスト教布教に熱心な兄を助けるローズ・セイヤー(30代前半)とベルギーの金山に雇われている機械工の中年オールナット。
事件 時は第一次大戦が始まったばかり、所はドイツ領の中央アフリカ。ローズとオールナットは協力して、蒸気船<アフリカの女王>で川を下ってウイッテルバッハ湖に行き、船に爆薬を仕掛けてドイツの砲艦を爆破しようとした。平底の蒸気船での川下りは不可能と思われたが……。
背景 敵中横断三百哩的な話で、まずは自然の猛威(激流や薮蚊に蛭の来襲、水草の繁殖)にぶつかる。また一方ではドイツ兵(実質的にはドイツに雇われた現地兵)の監視所を通過しなければならない。物語はこの困難をいかに乗り越えるかである。同題の別訳が早川書房から出ている。

邦題 『興奮』
原作者 ディック・フランシス
原題 for Kicks(1965)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1967/10/31
面白度 ★★★★★
主人公 オーストラリアで種馬牧場を経営するダニエル・ローク。英国では顔を知られていないため、英国の障害レース理事の依頼で障害レースでの不正事件を調べることになる。
事件 理事の話によると、番狂わせの馬の状態から興奮剤を与えられているのは明らかであるというものの、検査結果では薬物はなにも発見されなかったという。かくてロークは英国に旅立ち、徹底的な調査の結果、怪しい馬主のところに、馬丁に化けて潜り込むのであった。
背景 近来まれにみる傑作。主人公の性格設定、緊張感溢れる文章、トリック、倒叙物的なプロット、いずれも申し分なし。舞台背景が著者得意の競馬界であるため、語り口も説得力に溢れている。謎解きについても、きちんと伏線(ドッグレース)を張っているのには脱帽。本邦デビュー作。

邦題 『大穴』
原作者 ディック・フランシス
原題 Odds Against(1965)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1967/11/15
面白度 ★★★★★
主人公 元チャンピオン・ジョッキーのシッド・ハレー。大障碍で落馬して左手が麻痺し、その結果ジョッキーを諦めて、現在は探偵社の調査員をしている。
事件 そのハレーが、義父から競馬場の乗っ取りについての調査を要請された。どうやらクレイという人物が首謀者らしかった。彼らは硫酸の入ったタンクローリー車を芝の上に倒したり、反射鏡を取り付けて騎手の妨害をしたり、シーベリー競馬場にいやがらせをしていたのだ。
背景 『興奮』に並ぶ傑作。このようなレベルの作品が一年に二冊も読める年など稀であろう。恐ろしく意志の強い男が主人公。肉体的なコンプレックスを持っているだけに、前作のヨークより、陰のある男として描かれている。謎も前作より複雑。脇役も丁寧に描かれていて魅力一杯。

邦題 『ドーヴァー1』
原作者 ジョイス・ポーター
原題 Dover One(1964)
訳者 川口正吉
出版社 早川書房
出版年 1967/1/31
面白度 ★★★★
主人公 ロンドン警視庁主任警部ウィルフレッド・ドーヴァーと彼の部下の部長刑事マグレガー。
事件 100キロ余もある太ったジュリエットが失踪した。当初警察は駆け落ちと考えていたが、容姿から考えて不可能と判断し、誘拐説をとりだした。そこでドーヴァーらが、ロンドンからこの片田舎にやってきたわけである。マグレガーの捜査により、殺人ではないかと確信するのだが……。
背景 本邦初紹介の女性作家の第一作。面白い。ドタバタ的なユーモアとはちょっと違うが、これほどユーモアに溢れたミステリーは久しぶりだ。ドーヴァーの性格設定が実にユニーク。ただミステリーとしてはいささか迫力不足ではある。またトリックや犯人の設定については、それほど独創的というわけではない。とはいえドーヴァーの創造だけでも、十分に評価してよい作品だ。

邦題 『ドーヴァー2』
原作者 ジョイス・ポーター
原題 Dover Two(1965)
訳者 尾坂力
出版社 早川書房
出版年 1967/1/31
面白度 ★★★
主人公 ロンドン警視庁主任警部ウィルフレッド・ドーヴァーと彼の部下の部長刑事マグレガー。
事件 カードリーの静かな通りでイザベルという女性が撃たれた。瀕死の重傷であったが、一命は取り止めた。だが意識は回復しなかった。地方新聞には”眠れる美女”と呼ばれて紙上を賑わしていたものの、結局8ヵ月後亡くなった。そのためドーヴァーらの出動となったわけである。
背景 著者独特の意地悪婆サン的なユーモアが相変わらず冴えている。ダールのような残酷な笑いではなく、ファースとも違うが、このユーモアが良い。トリックは一種の密室ものだが、それほどの出来ではない。犯人像もあたり前といってよい。ただし最後の数ページの見事さにはマイッタ。ここには従来のミステリーを皮肉る著者の独自の考えがユーモラスに表現されている。

邦題 『ドーヴァー3』
原作者 ジョイス・ポーター
原題 Dover Three(1965)
訳者 小倉多加志
出版社 早川書房
出版年 1967/5/15
面白度 ★★★★
主人公 ロンドン警視庁始まって以来の最低の主任警部ウィルフレッド・ドーヴァー。
事件 アリス夫人には、この一月の間に猥褻な内容の手紙が日をおかずに送られてきた。だが地元警察の対応はにぶかった。そこで業を煮やしたアリス夫人は、直接ロンドン警視庁に訴えたのだ。だが有能な刑事は出払っていた。かくてこの事件はドーヴァーに押しつけられたのだ。
背景 刊行されたドーヴァー物3冊の中では一番爆笑した。事件が小粒なので事件だけを語っていたのでは長編にはなりえない。そこで埋め合わせに、本筋には無関係なユーモラスな場面をたくさん用意したのであろうか(訳が良いとも言えるが)。冒頭のドーヴァーの描写ばかりでなく、途中(老いぼれ医者の行動)も、ラスト(アリス夫人の風呂場の場面)も吹き出してしまうこと確実!?

邦題 『第9指令』
原作者 アダム・ホール
原題 The 9th Directive(1966)
訳者 矢野徹
出版社 早川書房
出版年 1967/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『女王陛下のユリシーズ号』
原作者 アリステア・マクリーン
原題 H.M.S. Ulysses(1955)
訳者 村上博基
出版社 早川書房
出版年 1967/3/15
面白度 ★★★★★
主人公 一人というわけでなく、ヴァレリー艦長を始めとするユリシーズ号の乗組員全員。
事件 ユリシーズ号に下った命令は、ソ連へ物資を輸送する船団の護衛であった。だがムルマンスクまでの航路には、ドイツのUボートやら爆撃機が待ち受けていたのだ。そして事実、商船は次々とUボートに襲われ、さらに暴風雨にも曝された。はたして無事に到着できるか?
背景 著者の第一作。作家の処女作には、その作家のすべてが含まれているとは、よく言われる言葉だが、本書はその公式が見事に当てはまる。迫力ある文章、一難さってまた一難のプロット、過酷な自然との対決、あまり上手くない謎の設定などなど。後年の作品にあり、本作にないのはユーモアぐらいである。傑作だが、後の作品がついに本作を抜けなかったのがいささか寂しい。

邦題 『ベニスへの密使』
原作者 ヘレン・マッキネス
原題 The Venetian Affair(1963)
訳者 榊原晃三
出版社 講談社
出版年 1967/3/5
面白度 ★★
主人公 演劇関係の新聞記者ビル・フェナー。
事件 休暇でパリに降り立ったビルは、空港で茶色の上着を間違えてしまった。ところがその上着の中には10万ドルの大金が入っていたのだ。どうやら国際スパイ戦に巻き込まれてしまったらしい。ビルは女性英国情報部員とともに、謎の手掛かりを求めてベニスに向かったが……。
背景 マッキネスの本邦初紹介作品。近年活発に紹介されているマンガ・スパイとは一線を画したスパイ小説で、語り口は英国ミステリーらしく地味で好感がもてるが、いかんせんプロットが複雑で物語に入り込みにくいのが残念。なお著者は英国生まれでアメリカに移住したが、作風が英国的なので本リストに含めている。

邦題 『ローマの北へ急行せよ』
原作者 ヘレン・マッキネス
原題 North from Rome(1958)
訳者 梶竜雄
出版社 講談社
出版年 1967/5/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ダブル・イメージ』
原作者 ヘレン・マッキネス
原題 The Double Image(1965)
訳者 宇野利泰
出版社 早川書房
出版年 1967/
面白度 ★★★
主人公 古代経済史を研究するジョン・クレイグ。
事件 クレイグは研究のためにギリシャに行く途中、姉が住んでいるパリに立ち寄った。だがパリの街頭で大学時代のサスマン教授と出会って雑談中、教授は意外なことを言ったのだ。ナチス戦犯の一人ハインリッヒ・ベルグに今日会った、と。そして翌日、教授は何者かによって、階上から突き落とされてしまったのだ!
背景 一種の巻き込まれ型スパイ・冒険小説。この著者の特徴か、この手のジャンルの作品としては地味で、物語はゆったりと進んでいく。中盤まではサスペンスが希薄で読みにくいのは事実だが、終盤の巧みさは著者の実力の片鱗を示している。

邦題 『死を売りつけた男』
原作者 ジェイムズ・マンロー
原題 The Man Who Sold Death(1964)
訳者 伊藤守男
出版社 早川書房
出版年 1967/6/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『深夜プラス1』
原作者 ギャビン・ライアル
原題 Midnight Plus One(1965)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1967/2/15
面白度 ★★★★
主人公 元英国情報部員のルイス・ケイン。いまではもめごと屋になっている。脇役としてはアル中のガンマン、ハーヴェイ・ロベルが異彩を放っている。
事件 ケインは、ブルターニュからリヒテンシュタインへ実業家を車で送る仕事を依頼された。実業家は定刻までに到着する必要があるが、それを阻止したい組織があった。またその実業家は婦女暴行事件でフランス警察からも追われていた。彼らは無事に辿り着けるのか?
背景 プロットは逃亡劇、突破劇であり、それなりに面白いが、本書の魅力は登場人物たちの個性的な造形に尽きよう。プロという言葉が実によく似合う主人公のケイン。殺し屋ロベルも単なる非情な男ではない。実業家も欲張りだけの人間ではない。少しだけ恋愛を入れているのも上手い。

邦題 『本番台本』
原作者 ギャビン・ライアル
原題 Shooting Script(1966)
訳者 菊池光
出版社 早川書房
出版年 1967/7/15
面白度 ★★★
主人公 元英国空軍パイロットのキース・カー。朝鮮戦争にも参加していたが、現在は西インド諸島で民間パイロットとして様々な人・物を輸送している。
事件 キースは保有機の定期検査などで多額の費用を必要としていた。そんな時ハリウッド映画のロケのために、パイロットとして雇われる幸運が舞い込んた。B25という古い爆撃機を使った空中撮影が主な仕事なのだが、実は別の台本があったのだ!
背景 著者の邦訳3冊目(原作は4作目)。主人公が魅力的で、架空の小国の革命を背景にした物語は、冒険・スパイ小説として楽しめる。ただ同世代のフランシス作品との比較をすれば、私の好みからいって、正義感の強い主人公が登場し、謎解きもあるフランシス作品になってしまう。

邦題 『ちがった空』
原作者 ギャビン・ライアル
原題 The Wrong Side of Falcon(1961)
訳者 松谷健二
出版社 早川書房
出版年 1967/12/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『空飛ぶスラッシュ』
原作者 ピーター・レスリー
原題 The Finger in the Sky Affair(1966)
訳者 青木秀夫
出版社 早川書房
出版年 1967/8/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 


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