邦題 『ビロードの悪魔』
原作者 J・D・カー
原題 The Devil in Velvet(1951)
訳者 吉田誠一
出版社 早川書房
出版年 1965/7/15
面白度 ★★★
主人公 ケンブリッジ大学の歴史学教授のニコラス・フェントン。悪魔に魂を売り渡し、17世紀後半のチャールズ二世治下の英国で生活するニコラス卿の体に乗り移る。
事件 フェントンの目的は、ニコラス卿の妻リディアが毒殺された事件を解明することであった。というのも当時の執事の手記には、事件の顛末は書かれているものの、解明の部分だけが欠落していたからだ。毒殺は阻止できるのか? 犯人は誰か?
背景 カーの歴史ミステリー。ミステリー・ファンにとっては、タイムトラベルというSF的趣向を用いたことで評価が分かれるはずだが、個人的には『喉切り隊長』のような純粋な歴史ミステリーにしてほしかった。本書の面白さは、何回かの活劇場面と毒殺犯人は誰か、という点にあるからだ。

邦題 『暗い燈台』
原作者 アンドリュウ・ガーヴ
原題 The Sea Monks(1963)
訳者 小倉多加志
出版社 早川書房
出版年 1965/12/15
面白度 ★★
主人公 特にいないが、事件に巻き込まれるのは燈台長やそこで働いている人々。
事件 不良少年グループが映画館を襲い、売上金を奪って逃亡した。しかしその事件をいち早く知った警察は付近に非常線を張った。彼らは小船で逃げようとしたが、あいにく霧が発生し始めた。船は座礁し、不良少年らはからくも燈台長らに助けられる始末。ところが彼らはピストルで脅して船を直させるも、荒波で大破し、ついに燈台に閉じ込められてしまったのだ。脱出できるのか?
背景 ガーヴの手慣れた作品といった印象。突然悪漢に襲われるが、そこは自然環境が悪化して脱出できない孤島という設定である。安易な設定だが、やはり読ませるだけの技術は披露している。でも感性を刺激するスリルだけでなく、もう少し知性に訴える謎がほしいところ。

邦題 『複数の時計』
原作者 アガサ・クリスティー
原題 The Clocks(1963)
訳者 橋本福夫
出版社 早川書房
出版年 1965/9/30
面白度 ★★★
主人公 シリーズ・キャラクターはお馴染みのエルキュール・ポアロだが、本書で活躍するのはディック・ハードキャスル警部と秘密情報部員のコリン・ラム(仮名)である。
事件 速記タイピストのシェイラは、仕事の依頼を受けた家に向かった。だが家主は不在で、中に入って待つことにした。居心地の良い居間であったが、やたらに時計が置いてあるのに気づいた。しかも四つの時計は1時間も早い4時13分を指して止まっていた。そして目の前には死体が!
背景 本作でクリスティが使ったトリックは「複雑な事件ほど単純である」というもの。特別に目新しいものではないが、この程度のトリックでも十分楽しめる作品に仕上げているのはサスガ。ポアロが既存ミステリー作家・作品を批評するという珍しい場面もある。ファンには興味が尽きない。

邦題 『二重の悲劇』
原作者 F・W・クロフツ
原題 The Affair at Little Wokeham(1943)
訳者 井上勇
出版社 東京創元社
出版年 1965/2/25
面白度 ★★
主人公 お馴染みのロンドン警視庁のフレンチ主任警部。
事件 ガイ・プラントは会社の金を使い込み、苦境に陥っていた。このため引退した裕福な義父を殺し、遺産を手に入れようとした。まずアリバイを作るために、会社で不正を働いている同僚を脅迫することによって部下とし、自分の身代りをさせたのだ。計画は成功したかにみえたが、ガイは万年筆を落としたことによって、アリバイが崩れ始めるのだった。
背景 アリバイに身代りを使うとは、さすがのクロフツもアイディアが枯渇したかと思わせるトリックを使用している。倒叙物としては平凡で、小道具として万年筆が扱われている点が、ちょっと気が利いている程度。フレンチの活躍も目立たない。クロフツ作品としては出来があまり良くない。

邦題 『クロフツ短編集1』
原作者 F・W・クロフツ
原題 Many a Slip(1955)
訳者 向後英一
出版社 東京創元社
出版年 1965/12/10
面白度 ★★
主人公 21本の短編からなる短編集。著者の前書きに書かれているように、読者と作者の智恵比べを目的としていて、小説としての面白さを第一に考えたものではない。
事件 一応題名を挙げておくと、「床板上の殺人」、「上げ潮」、「自署」、「シャンピニオン・パイ」、「スーツケース」、「薬壜」、「写真」、「ウォータールー、8時12分発」、「冷たい急流」、「人道橋」、「四時のお茶」、「新式セメント」、「最上階」、「フロントガラスこわし」、「山上の岩棚」、「かくれた目撃者」、「ブーメラン」、「アスピリン」、「ビング兄弟」、「かもめ岩」、「無人塔」である。
背景 推理クイズのような短編ばかりである。クロフツの作風では、切れ味鋭い短編が無理なのがよくわかる。内容はもうほとんど忘れたが、最初とラストの短編がなんとか印象に残る。

邦題 『月曜日には絞首刑』
原作者 ジュリアン・シモンズ
原題 The End of Solomon Grundy(1964)
訳者 向後英一
出版社 早川書房
出版年 1965/4/30
面白度 ★★★
主人公 犯罪小説なので明確な主人公はいないが、強いて挙げれば容疑者の商業画家ソロモン・グランディ。捜査側はロンドン警視庁の警視ジェフリー・マナーズ。
事件 ロンドン郊外の高級団地デルには、優雅な文化的生活を送っている人が多く、グランディーもその一人。だが彼は、団地のパーティである女性と痴態を演じてしまい、後日その女性が、ロンドンの一室で、下着のまま絞殺されているのが見つかったのだ。犯人はグランディーか?
背景 著者の長編12作(邦訳6作)目の作品。原題はナーサリー・ライムから取られているが、童謡殺人テーマの作品ではない。シモンズらしい、スノッブ臭のある登場人物たちの造形は興味深いものの、謎解き小説ではないので、結末の意外性にも驚きは少ない。

邦題 『ダイヤを抱いて地獄へ行け』
原作者 ハドリー・チェイス
原題 You've Got It Coming(1955)
訳者 田中小実昌
出版社 東京創元社
出版年 1965/4/16
面白度 ★★
主人公 元民間航空パイロットのハリー。
事件 ハリーは金がないための惨めさを実感していた。そこで一攫千金の夢を実現する計画を思い付いた。サンフランシスコから東京へ空輸される工業用ダイヤモンドを強奪することである。ハリーは彼の情婦に相談し、彼女の元ヒモの支援を受けて、強奪計画は成功した。だがその過程でハリーはダイヤモンドを独占したくなったため……。
背景 読後の第一印象は安手な作品だ、というもの。たぶん思い付きだけで書かれたのであろう。まずハリーに魅力がない。またハリーの計画が全然冴えない。逃亡中に女に手を出したりと、イイカゲンもいいとこ。唯一の収穫は殺し屋の性格設定で、そこにチェイスの実力の片鱗が見える。

邦題 『ある晴れた朝突然に』
原作者 ハドリー・チェイス
原題 One Bright Summer Morning(1963)
訳者 田中小実昌
出版社 東京創元社
出版年 1965/6/4
面白度 ★★
主人公 隠退したギャングの大ボス、クラマー。
事件 ふとしたことから、クラマーは余生を送るために蓄えていた全財産を失った。そこでもう一度、最後の大博打を計画したのだった。それは、テキサスの石油王の娘を誘拐し、身代金400万ドルを獲ようとするものある。クラマーは、かつての部下を味方にし、誘拐は成功したが……。
背景 ジャン・ポール・ベルモント主演、ジェラルディン・チャップリン(喜劇王チャップリンの娘)助演で有名な映画の原作。音楽が効果的に使われていたこともあり、映画の方がずっと面白かった。愚作な原作でも、脚本がよく練られ演出が良ければ、楽しい娯楽映画に仕上がるという実例か。まあ本作は潜在的には優れたミステリーであるということを示しているのだろう。

邦題 『おんな対F.B.I.』
原作者 ピーター・チェイニイ
原題 Never a Dull Moment(1942)
訳者 田中小実昌
出版社 久保書店
出版年 1965/12/25
面白度
主人公 FBI捜査官のレミー・コミション。
事件 レミーは、結婚直前に行方不明になった女性ジューリアを探し出してほしいと依頼された。そこでジューリアと付き合っていたギャングのスクリブナーに接触することにした。だがレミーは殺されかかったため方向転換し、ギャングの娼婦タマラと仲良くなるが……。
背景 典型的な軽ハードボイルド物。第二次世界大戦中に書かれたという点では、確かに珍しい。訳文はよくこなれているが、田中氏の訳であるから当然か。プロットはわかりにくいが、本作はプロットの面白さで読ませる作品ではなく、主人公と女性たちの会話の面白さで支えられている作品。だがC・ブラウンの作品を読んでしまってから読むと、ちょっとツライところがある。

邦題 『イプクレス・ファイル』
原作者 レン・デイトン
原題 The Ipcress File(1962)
訳者 井上一夫
出版社 早川書房
出版年 1965/11/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『悪の断面』
原作者 ニコラス・ブレイク
原題 The Sad Variety(1964)
訳者 小倉多加志
出版社 早川書房
出版年 1965/5/31
面白度 ★★
主人公 シリーズ探偵のナイジェル・ストレンジウェイズ。
事件 ストレンジウェイズが国の秘密探偵局から依頼されたのは、原子核専攻の物理学者として著名なラグビー教授の護衛であった。彼ら一家は休暇で山間部の保養地に出かけたのだが、敵方は教授の輝かしい研究成果を虎視眈々と狙っていたからだ。そしてストレンジウェイズが教授の娘の外出を追っていると、彼は鈍器で殴られて気絶し、娘は拉致されてしまったのだ!
背景 著者の晩年の作品(ナイジェル・シリーズ全17作中の第16作)。内容も謎解き小説というより、冒険・スパイ小説に近い。だが007シリーズに比べると、敵方の設定はあまりにも古い。文章力は認めるものの、第一次世界大戦前後の旧時代のスパイ小説のようなプロットだ。

邦題 『007号/黄金の銃をもつ男』
原作者 イアン・フレミング
原題 The Man with Golden Gun(1965)
訳者 井上一夫
出版社 早川書房
出版年 1965/4/15
面白度 ★★
主人公 お馴染みの英国秘密情報部員007号ことジェイムズ・ボンド。
事件 日本で消息を絶ったボンドは、1年ぶりに秘密情報部に帰ってきた。だがソ連に洗脳されていたのだ。そこでボンドを再洗脳し、Mはボンドに任務を与えた。ソ連の手先で黄金の銃を持って中米諸国を荒らしまわる殺し屋スカラマンガをやっつけることであった。ボンドはジャマイカに飛び、スカラマンガの部下になりすまし、昔の仲間レスターとともに彼と対決するが……。
背景 ボンド物の最後の作品。比較的短い作品だが、舞台が東京であった前作と比べると、本作では準本拠地であるジャマイカが舞台だけに、楽しみながら書いているようだ。オモチャの汽車が登場するシーンなど、まさに得意気なフレミングの顔が浮かぶようだ。他のシーンは平凡だが。

邦題 『ただひと突きの……』
原作者 シリル・ヘアー
原題 With a Bare Bodkin(1946)
訳者 和田一郎
出版社 早川書房
出版年 1965/6/15
面白度 ★★
主人公 弁護士のフランシス・ペティグルー。シリーズ探偵のマレット警部も登場する。
事件 ≪ファンリー宿舎クラブ≫には統制局に勤めている人たちが泊まっているが、彼らは、ウッドが探偵小説家であると知って活気づいた。戦時中の楽しみとして、探偵小説の筋書き作りに熱中しだしたのである。殺人現場は役所にし、兇器は統制局長の千枚通し、そして犯人は老嬢のミス・ダンビルと決めた。ところがミス・ダンビルは、本当に殺されてしまったのだ!
背景 トリックは例によって法律絡みというヘアーの特徴は出ているが、著者の作品の中では出来の悪い方であろう。事件があまりに作り事めいているし、得意の皮肉も生きていない。まあ破綻なくまとめてはいるが、一番注目すべきはペティグルーが彼の秘書エリナーと結婚することか。

邦題 『不死鳥を殪せ』
原作者 アダム・ホール
原題 The Berlin Memorandum(1965)
訳者 村上博基
出版社 早川書房
出版年 1965/10/31
面白度 ★★★
主人公 英国諜報局員のクィラー。
事件 クィラーは、ヒットラーの遺骨を戴きナチ再興を計画している組織≪不死鳥≫を潰すことを請われた。一度は断わるものの、そこが元親衛隊長ツォッセンが率いている組織であることを知ると、任務を承諾した。クィラーは故意に相手の術中に陥り、組織の中心部に入り込むが……。
背景 1966年のMWA最優秀長編賞を受賞。石川喬司氏がアタマ・スパイと呼んだクィラーの活躍するスパイ・スリラーの第一弾。クィラーが≪不死鳥≫に入り込むまでは軽快なテンポで展開されて興味深いが、クィラーが身元を隠しながら活躍する後半のプロットは、それほど感心しなかった。007号に代表されるマンガ・スパイに比べれば、確かに頭を使ってはいるが。

邦題 『Xに対する逮捕状』
原作者 フィリップ・マクドナルド
原題 Warrant for X(1938)
訳者 宮西豊逸
出版社 浪速書房
出版年 1965/9/25
面白度 ★★★
主人公 アントニー・ゲスリン大佐。
事件 アメリカ人の若い劇作家ギャレットは、ロンドンの喫茶店で、偶然二人の女性の会話を耳にした。なんと二人が子供を誘拐しようというのだ。彼は密かに二人を尾行するものの地下鉄で見失ってしまった。警察に話してもまったく信用されなかったが、ゲスリン大佐は話を聞いてくれ、喫茶店に残されていたバスの切符やメモから容疑者を絞っていくのだった。
背景 漠然とした状況から犯人の一人を割り出す前半は快調である。やがてメイド紹介所が浮かび上がり、次は誰が誘拐されるのかという謎が出てくるが、パズラーというより通俗的なサスペンス小説だ。なお1994年に同題で国書刊行会より新訳が出版されている。

邦題 『沈んだ船員』
原作者 パトリシア・モイーズ
原題 The Sunken Sailor(1961)
訳者 皆河宗一
出版社 早川書房
出版年 1965/1/20
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのロンドン警視庁主任警部ヘンリ・ティベット。
事件 二週間の休暇を過すためヘンリは妻とともにベリイブリッジにやってきた。そこで生れて初めてヨット遊びを楽しむことにしたのだ。だがヨット航海中に、2年前にヨットで事故死した青年の話を聞き、ふとその死に疑問を持った。そんな時、やはりその死の謎を解いたと言っていた青年が殺される事件が起きた。好奇心旺盛なヘンリは事件解決に乗り出すことになったのだ。
背景 前半はノンビリムードの物語展開だが、ヘンリと同じでヨットなど未経験の私には、ヨットに関する描写は結構興味深かいし、会話にほどよいユーモアが感じられて、面白かった。問題はトリックで、ゴチャゴチャした感じでわかりにくい。確かに伏線などは一応張られてはいるが……。

邦題 『流れる星』
原作者 パトリシア・モイーズ
原題 Falling Star(1964)
訳者 山崎昴一
出版社 早川書房
出版年 1965/9/30
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのロンドン警視庁主任警部ヘンリ・ティベット。
事件 独立プロの映画プロデューサーは、有り金をはたいて映画製作に乗り出していた。だがヒロインを老俳優が追いかけるシーンで、その俳優がプラットフォームから足を踏み外し、電車の下敷きになるという事件が起きたのだ。不安を感じた映画プロデューサーはヘンリに相談するが……。
背景 著者は映画製作に係わった経験があるだけに、映画の撮影現場が生き生きと描かれていて風俗ミステリーとして楽しめる。トリックも、プロバビリティの犯罪や不可能興味の犯罪があり、謎解き小説としても水準を越えている。サスペンスも、これまでのモイーズ作品の中では一番で、この作品によって、クリスティの後継者争いでは完全に一歩リードしたといってよい。

邦題 『忘却へのパスポート』
原作者 ジェイムズ・リーサー
原題 Passport to Oblivion(1964)
訳者 向後英一
出版社 早川書房
出版年 1965/8/15
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『死者にかかってきた電話』
原作者 ル・カレ
原題 Call for the Dead(1962)
訳者 宇野利泰
出版社 早川書房
出版年 1965/
面白度 ★★★★
主人公 ジョン・スマイリー。中世ドイツ文学を研究していたが秘密諜報部員となる。
事件 スマイリーは、彼が取り調べた外務省の役人フェナンが自殺したという知らせを受けた。だが彼は信じられなかった。取り調べは友好的な雰囲気で行われたからだった。スマイリーはフェナンの妻を訪ね事情を聞いた。ところがそこにフェナンが頼んだ朝のサービス電話が掛かってきたのだ。自殺を決意した人間がサービス電話を依頼するだろうか? スマイリーは疑問をもち……。
背景 著者の第一作。スパイ小説ではあるものの、謎解き小説としても面白く、個人的には好きな作品。自殺か他殺かを探るあたりは本格味豊か。スマイリーを読者に紹介する第一章も上手い。ただル・カレ独自のスタイルは確立されておらず、従来のミステリーの枠内に留まっている。

邦題 『鏡の国の戦争』
原作者 ル・カレ
原題 The Looking Glass War(1965)
訳者 宇野利泰
出版社 早川書房
出版年 1965/5/31
面白度 ★★★
主人公 3人の潜行員テイラーとエイヴリー、ライザー。スパイ組織には軍所属の情報部と内閣直属の情報部があるが、3人は前者に属する。お馴染みのスマイリーは後者の人間。
事件 テイラーは東ドイツ内の軍事基地を秘かに写したフィルムを機長から手渡されたものの、その夜謎の交通事故死をし、フィルムは行方不明に。そのフィルムを探すためエイヴリーが現地に赴くも、発見出来ずに帰国。ついにライザーが東ドイツに潜入することになり……。
背景 著者の第4作だが、本格的なスパイ小説としては第2作になる。主プロットは、東ドイツへの潜入行にあるのではなく、英国内の2つのスパイ組織の駆け引きにある。それなりの独創性があり興味深いが、地味過ぎてサスペンス不足。スマイリーはチョイ役ながら存在感は抜群。

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