邦題 『反逆者の財布』
原作者 マージェリー・アリンガム
原題 Traitor's Purse(1941)
訳者 中川龍一
出版社 東京創元社
出版年 1962/6/1
面白度 ★★★
主人公 シリーズ探偵のアルバート・キャンピオン(本書の表記はキャムピオン)。
事件 キャンピオンは病院で意識を回復した。だが自分が誰であるか、まったく記憶がなかった。しかし看護婦の応対などから、彼が監視下におかれていることがわかった。彼は防火服を着て、巧みに病院を脱出する。記憶も徐々に戻ってくるが、殺人事件に巻き込まれて……。
背景 著者の冒険スパイ大活劇風のミステリー。クリスティーも同じ年に『NかMか』という冒険スパイ小説を出しているが、やはり時代が要請していたのであろう。冒頭とラストは結構面白い。特に戦時中ならではの大陰謀の謎は、マンガチックながらも楽しめる。それに対して中盤は、まあいつものアリンガムらしく、サスペンス不足で退屈。世評ほどヒドイ作品ではないようだ。

邦題 『百万に一つの偶然』
原作者 ロイ・ヴィカーズ
原題 Murder Will Out(1950)
訳者 宇野利泰
出版社 早川書房
出版年 1962/10/15
面白度 ★★★★
主人公 倒叙物の短編9本を集めた短編集。迷宮課事件簿の第二作。
事件 題名を順に挙げると、「なかったはずのタイプライター」、「絹糸編みのスカーフ」、「百万に一つの偶然」、「ワニ皮の化粧ケース」、「けちんぼの殺人」、「相場に賭ける男」、「つぎはぎ細工の殺人」、「9ポンドの殺人」、「手のうちにある殺人」である。
背景 派手さはないものの読み応えのある短編集。まず驚かされるのは小道具の使い方の上手さだ。タイプライターを始めとして、スカーフ、つりざお、カップなど多彩なものを扱っている。もう一つ興味深いのは、偶然を積極的に利用していることだろう。松本清張が好きな作家だそうだが、リアリティに富む作風は似ているものの、ヴィカーズの作品にはユーモアもあり、より楽しめる。

邦題 『迷宮課事件簿』
原作者 ロイ・ヴィカーズ
原題 The Department of Dead Ends(1949)
訳者 村上啓夫
出版社 早川書房
出版年 1962/11/15
面白度 ★★★★
主人公 倒叙物の短編集。迷宮課事件簿の第一弾。ロンドン警視庁のカースレイク警視やレイスン警部が活躍する。10本の短編が収録されている。
事件 題名を順に挙げると、「ゴムのラッパ」(迷宮課の第一作)、「笑った夫人」、「ボートの青髭」、「失われた二個のダイヤ」、「オックスフォード街のカウボーイ」、「赤いカーネーション」、「黄色いジャンパー」、「社交界の野心家」、「恐妻家の殺人」、「盲人の妄執」である。
背景 迷宮課の誕生は、「ゴムのラッパ」が本国版EQ誌に載ったのが最初であった。この作品以後、ヴィカーズは一流ミステリー作家の仲間入りをしたことになる。そのあたりのことやヴィカーズの特徴などは、本書のエラリイ・クイーンの序に簡潔にまとめられている。

邦題 『老女の深情け』
原作者 ロイ・ヴィカーズ
原題 Eight Murders in the Suburbs(1954)
訳者 村上啓夫
出版社 早川書房
出版年 1962/11/30
面白度 ★★★
主人公 迷宮課事件簿の第3弾。倒叙物の短編8本が収録されている。
事件 題名を順に挙げると「猫と老嬢」、「ある男とその姑」、「そんなつまらぬこと」、「感傷的な周旋屋」、「老女の深情け」、「いつも嘲笑う男の事件」、「夜の完全殺人」、「髪の毛シャツ」である。
背景 相変わらず巧みな短編集であるが、さすがに3冊も立て続けに出ると、飽きてしまう。評価が少し低いのはそのせいもある。ヴィカーズの短編は出だしは地味そのもので読みにくい。登場人物には劣等感を持った平凡人が出てくるからでもあろう。だがその劣等感によって徐々に殺人という犯行が生れる過程が丹念に描かれているところに独特の魅力が感じられる。個人的には「ある男とその姑」、「感傷的な周旋屋」、「髪の毛シャツ」が好みだ。

邦題 『紅はこべ続編 復讐』
原作者 バロネス・オルツィ
原題 I Will Repay(1906)
訳者 松本恵子
出版社 東都書房
出版年 1962/10/20
面白度 ★★
主人公 成り上がり貴族デルレイドとそのデルレイドに決闘で敗れたモネエ子爵の妹ジュリエット。二人は表面上は敵対しながらも深く愛し合ってしまう。
事件 主舞台は1793年のパリ。ジロンド派は毎日ギロチンに送られるほど蒼然とした時代。デルレイドは人民委員でありながら、王党派のジュリエットを愛してしまったため、女王を死刑から救おうとする。紅はこべと連絡をとるものの、逆にジュリエットに密告され、窮地に!
背景 『紅はこべ』の続篇。本シリーズは全6冊だそうだが、その第二弾。第一作は紅はこべは誰かという謎と活劇的な面白さがあったが、本作は監獄やパリからの脱出描写は簡単。ほとんどが二人の愛憎問題を扱っているだけで、ミステリー的要素は少ない。人気に便乗した作品だ。

邦題 『盲目の理髪師』
原作者 J・D・カー
原題 The Blind Barber(1934)
訳者 井上一夫
出版社 東京創元社
出版年 1962/3/9
面白度 ★★
主人公 謎解きはお馴染みのギディオン・フェル博士(本書ではそう表記)だが、物語の語り手は船客で作家のヘンリー(ハンク)・モーガン。
事件 大西洋をイギリスへ向う豪華船クイーン・ヴィクトリア号のなかで、外交官ウォーレンが持っていた問題のフィルムが盗まれた。またスタートン卿のエメラルドも一時行方不明となり、さらには死体が見つからない奇怪な殺人事件が起きた。”盲目の理髪師”が犯人というが……。
背景 モーガンは船が接岸する前にフェル博士の元に行き、事件の全貌を話す。その話からフェル博士が犯人を指摘するという安楽椅子探偵の物語。初期のカーが得意としたファルス・ミステリーだが、個人的にはこのユーモアは買えない。犯人の意外性は十分だが。

邦題 『蒼ざめた馬』
原作者 アガサ・クリスティー
原題 The Pale House(1961)
訳者 橋本福夫
出版社 早川書房
出版年 1962/12/31
面白度 ★★★
主人公 語り手は学者のマーク・イースターブルック。謎を解くのは方面本部捜査課警部のルジュヌ。脇役としてお馴染みの推理作家アリアドニ・オリヴァ夫人も登場する。
事件 ロンドンで殺された神父のポケットから不思議な紙切れが見つかった。繋がりのない9人の名前が書かれていたのだが、実はその中の2人はすでに死んでいたのだ。マークは興味を持って調べ始めるが、その矢先彼は、旅篭屋”蒼ざめた馬”に住む3人の女性が魔法で遠隔地の人を殺すという噂を聞いた。この噂とリストの9人とは、なにか関係があるのだろうか?
背景 厳密に言えば謎解き小説のダブーを犯しているものの、それがズルイというマイナスの印象を与えることはない。タブーなど気にしないでもよい心地よいクリスティの世界が確立しているから。

邦題 『蜘蛛と蝿』
原作者 F・W・クロフツ
原題 A Losing Game(1941)
訳者 山口午良
出版社 東京創元社
出版年 1962/6/29
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのロンドン警視庁フレンチ首席警部。
事件 高利貸しのリーブは、表向きの商売とは別に、もう一つ裏の稼業を持っていた。それは他人の秘密を見つけては、それを強請りに利用することであった。推理作家ミドウズはリーブの餌食になっている一人だった。そしてミドウズは借金の期限を延期してもらおうとリーブの家を訪ねた。鍵は掛かっていたが鍵穴から覗くと、リーブが倒れている。だが彼はそのまま帰ってしまい、次の日リーブの家は焼けてしまったのを知ったのだ。
背景 どちらかというとフレンチはあまり活躍しない。それほど精密なアリバイ工作もないからである。とはいえそこはクロフツ。単なる凡作には終わらせずに、最後まで飽きさせないのはサスガ。

邦題 『山師タラント』
原作者 F・W・クロフツ
原題 James Tarrant Adventurer(1941)
訳者 井上勇
出版社 東京創元社
出版年 1962/10/27
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのロンドン警視庁フレンチ首席警部。
事件 しがない薬局の店員ジェームズ・タラントは実は野心家で、詐欺に類する行為よって、一躍成功者に成り上がった。安価な薬を高価な薬として売り付けた結果であるが、そのタラントが殺されたのだ。フレンチが捜査を担当し、タラントに裏切られた女性を逮捕した。犯人は絞首刑確実と思われたが、フレンチは何故か自分の捜査に不満があった。やがて裁判が始まり……。
背景 中原弓彦氏はこの詐欺のテクニックを誉めていたが、特に優れているわけではない。またフレンチ物には珍しい裁判場面もあるが、これも『死は深い根を持つ』のような興奮は感じない。とはいえ地味な裏付け捜査はそれなりに読ませるし、ラストでのフレンチの反省は微笑ましい。

邦題 『チョールフォント荘の恐怖』
原作者 F・W・クロフツ
原題 Fear Comes to Chalfont(1942)
訳者 田中西二郎
出版社 東京創元社
出版年 1962/12/28
面白度 ★★
主人公 お馴染みのロンドン警視庁フレンチ首席警部。
事件 ロンドンで法律事務所を経営するリチャードは、外面的には成功者であったが人間的には失敗者であった。妻のジュリアは経済的理由から彼と結婚しただけで、今では歴史家と相愛の関係になっていた。そんな時リチャードはある仕事の関係から化学に興味を持ち、純水研究のため化学者を雇ったのだ。だがチョールフォント荘でのダンスパーティの席上、リチャードは殺された!
背景 アリバイ崩しの面白さではなく、誰が犯人かという謎で持たせている作品。トリックは機械的なもの。フレンチの訊問もさほど徹底されているわけでなく、犯人の意外性も少ない。謎解き小説としては平凡だが、ベテランらしく無難に書いているので、それほど失望することもない。

邦題 『フレンチ警視最初の事件』
原作者 F・W・クロフツ
原題 Silence for the Murderer(1948)
訳者 松原正
出版社 東京創元社
出版年 1962/12/28
面白度 ★★
主人公 お馴染みのロンドン警視庁のフレンチ。警視になって初めての事件である。
事件 ロンドン近郊に住む富豪ローランド卿は、ある日庭先で安楽椅子に座ったまま射殺されていた。銃声が聞こえたとき、その場にはローランド卿しかいなかったこともあり、検死裁判での評決は自殺となった。しかし複雑な事情が明らかになり、フレンチが再捜査を担当することになる。
背景 古本屋で探し回った本。クロフツ作品をほとんど読み終えた90年代に入って、やっと読むことができた。期待したわりには平凡な出来で、初版(?)で消え去ったのも納得できる。フレンチ警視が登場するのは物語が2/3を過ぎてからで、その点でも魅力に乏しい。銃声音のトリックはちょっと目新しいが、短編ネタのような簡単な矛盾から犯人を指摘する点もガッカリ。新訳(霜島義明訳)は2011.6に出版されている。

邦題 『ハリーの災難』
原作者 J・T・ストーリイ
原題 The Trouble with Harry(1949)
訳者 田中融二
出版社 早川書房
出版年 1962/2/15
面白度 ★★
主人公 特にいないが、強いて挙げれば死体のハリーか。
事件 荒地へ抜ける森の中の坂道で、エイビー坊やは死体を見つけた。その死体はエイビー坊やの母親の夫ハリーだったのだ。誰がハリーを殺したのか? ワイルス船長は狩猟中間違って射殺したと思い込んでいた。オールド・ミスは自分こそ下手人だと信じ込んでいた。かくしてハリーは埋められたり、再び掘り出されたりと、災難(?)の連続となる。
背景 ヒッチコックが監督した有名な映画の原作。死体が消えたり、現れたりというユーモラスな設定がユニーク。ちょっと生ぬるいユーモアと謎が少ないのが残念なところだが、小説としてはそこそこ楽しめる。でもこればかりは、紅葉が美しい映画を見る前に読んだ方がよい。

邦題 『毒入りチョコレート事件』
原作者 アントニイ・バークリー
原題 The Poisoned Chocolate Case(1926)
訳者 高橋泰邦
出版社 東都書房
出版年 1962/11/20
面白度 ★★★★
主人公 シリーズ探偵は作家のロジャー・シェリンガムと中年男のアンブローズ・チタウィック。
事件 シェリンガムはチタウィックとともに6人で「犯罪研究サークル」を作り、最近起きたベンディクス夫人毒殺事件の犯人当てをしていた。事件は、ペネファザー卿に送られたチョコレートをもらったベンディクスが昼食時に家に持ち帰り、そのチョコレートを食べた夫人が死んだというもの。6人は、それぞれが得意とする帰納的、演繹的、心理的などの方法で犯人を指摘する。
背景 短編「偶然はさばく」の長編版。ミステリーとしては短編版の方が切れ味鋭いが、まあこの長編の狙いは、作者の筆のいかんによって犯人は変わり得るものだということを皮肉を込めて語りたかったのであろう。この狙いは成功しているが、小説としては緊張感が不足がちである。

邦題 『ミドル・テンプルの殺人』
原作者 J・S・フレッチャー
原題 The Middle Temple Murders(1919)
訳者 井上一夫
出版社 東都書房
出版年 1962/
面白度 ★★
主人公 新聞社の副主幹スパーゴと若い弁護士ブレトン。
事件 帰宅途中のスパーゴは、ミドル・テンプルで老人の死体を発見した。老人はメモしか持っていなかったが、そのメモには何故かスパーゴの友人ブレトンの住所が記してあった。二人は事件を担当することになったが、やがて被害者は20年以上前の事件に関係していることがわかった。
背景 東都書房版世界推理小説大系の第11巻に含まれている。おそらく編集委員の一人松本清張が推薦したのであろう。1920年代にはエドガー・ウォーレス並の作家であったが、本書を読む限りはガッカリの一言。プロットの面白さで読ませる作風のようだが、あまりに偶然を利用しているのでしらけてしまう。まあ歴史的意義は多少認められるが。(注:2017年に論創社より新訳(友田葉子訳)が出た)

邦題 『サンダーボール作戦』
原作者 イアン・フレミング
原題 Thunderball(1961)
訳者 井上一夫
出版社 早川書房
出版年 1962/11/30
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの英国秘密情報部員007号ことジェイムズ・ボンド。
事件 原爆を積んだNATOの飛行機が、実戦訓練中に「スペクトル」と名乗る国際秘密組織に奪われた。そして原爆と交換に一億ドルの金塊がほしいという脅迫状が米英首脳に届いた。もし拒否するようであれば、アメリカの町に原爆を落とすと。かくして療養所生活から解放されたばかりのボンドが呼ばれたのだ。ボンドはバハマ諸島のナッソーに向かった。
背景 ボンドの派手な立ち回りは最後の水中戦だけだし、濡れ場も少ないものの、冒頭の療養所生活やスペクトルの細部はよく描かれていて、結構面白い。熱帯地方の風俗も巧みに取り入れられている。『ゴールド・フィンガー』同様、話のスケールが大きな冒険紙芝居といえようか。

邦題 『ギデオン警視と暗殺者』
原作者 J・J・マリック
原題 Gideon's March(1962)
訳者 丸本聡明
出版社 早川書房
出版年 1962/11/30
面白度 ★★
主人公 ロンドン警視庁犯罪捜査部長のギデオン警視。本事件の時は53歳と思われる。
事件 ギデオンは、ロンドンで開催される頂上会談の警備を担当することになった。各国首脳の身辺の警戒であったが、米仏の大統領を狙う暗殺者がいるという情報が入った。一方、それ以前からギデオンは、犯人は明らかなのに証拠がないため犯人を逮捕できない事件に苦慮していた。
背景 大統領暗殺事件とアリバイを破れない事件が扱われている。いわゆるモジュラー型の警察小説だが、いつものように数々の事件を扱うのではなく、今回はこの二つの事件に絞っている。前者は暗殺者の工作が誰でも簡単に思いつく平凡なもので、後者は結末の処理が安易過ぎでガッカリ。プロットの面白さで読ませる作品ではない。短いのでさっと読めるのが最大の利点か。

邦題 『ギデオン警視の一ヶ月』
原作者 J・J・マリック
原題 Gideon's Month(1958)
訳者 般若敏郎
出版社 東京創元社
出版年 1962/8/31
面白度  
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