邦題 『デルチェフ裁判』
原作者 エリック・アンブラー
原題 Judgement on Deltchev(1951)
訳者 森郁夫
出版社 早川書房
出版年 1960/3/31
面白度 ★★★
主人公 劇作家の英国人フォスター。バルカン半島の某小国で行なわれるヨルダン・デルチェフの反逆裁判を記事にするため、裁判の前日に異国の首都に到着した
事件 デルチェフは現政府の閣僚を務めながら、テロリストの秘密結社の一員だったという。フォスターは自分を雇った新聞社の現地通信員パシクからデルチェフの資料を受け取り、初日の裁判に臨んだ。そして大いに興味を引かれ、ついにはデルチェフの妻を訪れるが……。
背景 第二次世界大戦直前から10年近くのブランクを置いて書かれた東欧が舞台の作品。スパイ小説というより陰謀小説に近い。プロットは一種の巻き込まれ型だが、アクションは少ない。とはいえサスペンス豊かな語り口はサスガ。欲をいえばもう少し陰謀が複雑であってほしい。

邦題 『あるスパイの墓碑銘』
原作者 エリック・アンブラー
原題 Epitaph for a Spy(1938)
訳者 北村太郎
出版社 早川書房
出版年 1960/6/30
面白度 ★★★★★
主人公 語学教師のジョゼフ・バダシー。本編の語り手。32歳のハンガリア人。
事件 第二次世界大戦勃発の前夜、バダシーは休暇を利用して南フランスの避暑地に遊びに行った。彼は愛用のカメラで美しい風景を撮影しようと思っていた。そして三日後現像を依頼した薬屋にフィルムを取りにいったとき、彼はスパイ容疑で逮捕された。フィルムにはツーロン軍港が写っていたからだ。彼は真犯人を突き止めないと、国外に追放されてしまう!
背景 巻き込まれ型のスパイ小説。ハンガリアという小国の人物を主人公にしたのが独創的。平凡な青年が置かれた絶体絶命の苦境が、息詰まるようなサスペンスを生み出している。第二次大戦直前の雰囲気が活写されていることやフーダニットの謎があるのも面白さを増大させている。

邦題 『武器の道』
原作者 エリック・アンブラー
原題 Passage of Arms(1959)
訳者 宇野利泰
出版社 早川書房
出版年 1960/7/15
面白度 ★★★
主人公 特にいないが、一人挙げるならインド人青年のギリア・クリシュナンか。
事件 マラヤのゴム園で働くギリアは、イギリスの警備隊がテロリスト一団を掃討したときに、ジャングルに隠されていたテロリストたちの武器を偶然見つけた。ギリアは、これを売り払い、自分の夢であるバス会社の経営に乗りだそうとしたのだ。三年後、ギリアは会社を経営する中国人に接触したが、ここから武器密輸に関する陰謀に巻き込まれていく。
背景 1959年のCWAゴールド・ダガー賞の受賞作。期待したわりには楽しめなかった。初期作品のような巻き込まれ型スパイ小説ではなく、G・グリーンばりのスパイ小説に変化している。アメリカ人を皮肉っている部分は面白いが、経済オンチの私には経済を扱ってる部分が退屈だ。

邦題 『暗黒のまつり』
原作者 コリン・ウィルソン
原題 Ritual in the Dark(1960)
訳者 中村保男
出版社 新潮社
出版年 1960/11/
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『15人の推理小説』
原作者 英国探偵作家協会編
原題 Butcher's Dozen(1956)
訳者 井上勇他
出版社 東京創元社
出版年 1960/6/10
面白度 ★★★
主人公 CWAが初めて編んだ選集。15本が収録されている。
事件 題名を順に挙げると、R・ヴィカーズ「二人前の夜食」、M・ギルバート「お金は蜂蜜」、M・プロクター「百万ドルのダイヤモンド」、J・グリーン「世界一背の高い人間」、M・アラン「エリナーの肖像」(北村薫推奨!)、J・ベル「シンブル川の謎」、V・ステュアート「殺人者」、F・キング「奇妙な旅行」、B・ニューマン「打席に死す」、A・G・ストロング「ゴムの手袋」、J・シモンズ「かも」、C・M・ウィルズ「失われた村」、A・ケニングトン「遠隔操作」、N・モーランド「魔につかれて」である。
背景 もっとも面白かったのは「かも」で、次が「エリナーの肖像」、第三位が「二人前の夜食」。さまざまなタイプの作品があり、英国ミステリーの幅の広さが実感できる短編集。

邦題 『火よ燃えろ!』
原作者 J・D・カー
原題 Fire,Burn !(1957)
訳者 村崎敏郎
出版社 早川書房
出版年 1960/5/31
面白度 ★★
主人公 ロンドン警視庁の捜査課長ジョン(ジャック)・チェビオト。
事件 1957年10月の霧がかかったロンドンの夜、チェビオトは警視庁に行くためにユーストン通りでタクシーに乗りこんだ。だが車が停まり、降りようとドアを開けたとき、彼は驚いた。彼がかぶっていたいた帽子はシルクハットに似たものに、タクシーは二輪馬車に代わっていたのだ。さらに、その場所は百年前のスコットランド・ヤードだったのだ!
背景 冒頭はSF的で、主人公が1826年にタイムスリップした歴史ミステリー。当時はスコットランド・ヤード発足元年で、実在の内務大臣ピールなども登場する。著者得意の準不可能犯罪的な事件で、結末は面白いが、途中は退屈しすぎる。1980年に新訳(大社淑子訳)が出ている。

邦題 『ハイチムニー荘の醜聞』
原作者 J・D・カー
原題 Scandal at High Chimneys(1959)
訳者 村崎敏郎
出版社 早川書房
出版年 1960/6/10
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『雷鳴の中でも』
原作者 J・D・カー
原題 In Spite of Thunder(1960)
訳者 村崎敏郎
出版社 早川書房
出版年 1960/11/30
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『毒殺魔』
原作者 J・D・カー
原題 Till Death Do Us Part(1944)
訳者 守屋陽一
出版社 東京創元社
出版年 1960/8/12
面白度 ★★★
主人公 探偵役はお馴染みのギデオン・フェル博士だが、物語の主人公は、最近婚約したばかりの劇作家ディック。
事件 ある日、ディックの婚約者は何人もの男を殺している毒殺魔だと占い師が暴露した。だがその占い師は、それまでの男たちと同じような密室の状況下で毒殺されてしまったのだ。
背景 密室殺人の謎というカーの得意技は含まれているものの、それより恋愛を取り入れたサスペンス・タッチの語り口の方が物語を読み進める力になっている。改めてストーリー・テラーとしての才能に脱帽するが、ただし小品といった印象は拭いきれない。なお『死が二人をわかつまで』(仁賀克雄訳)という題で、1997年には国書刊行会からも出版されている。

邦題 『サムスン島の謎』
原作者 アンドリュウ・ガーヴ
原題 The Riddle of Samson(1954)
訳者 福島正実
出版社 早川書房
出版年 1960/3/31
面白度 ★★★
主人公 若い歴史学者のジョン・レイヴァリイ。
事件 ジョンは、中世の聖人の遺跡を発掘するためにシリイ諸島のサムスン島を訪れていた。諸島は所得税問題に沸き立ち、大勢の新聞記者が取材に来ていた。その記者たちの中の美しい妻オリヴィアに、ジョンは惹かれてしまったのだ。そして偶然、二人が無人島で一夜を過したことに嫉妬した夫はジョンに殴ろうとして転落し、彼は警察から殺人容疑者と見なされてしまった。
背景 『ギャラウェイ事件』と似たようなプロットであるが、原書では本書の方が先。最初に主人公が疑われ、次に妻が疑われるという展開は巧妙だし、サスペンスを盛り上げるテクニックも通俗的なものながら、上手いものである。ただ最後の意外性は拍子抜けの感ありだが。

邦題 『黄金の褒賞』
原作者 アンドリュウ・ガーヴ
原題 The Golden Deed(1960)
訳者 福島正実
出版社 早川書房
出版年 1960/12/15
面白度 ★★★★
主人公 サマーセット州の地方の名士で、歴史家のジョン・メランビイ。
事件 ジョンの妻と長男が海岸で溺れそうになった。二人を救助してくれたのはロスコオだった。彼は20余年も英国陸軍に勤務し、最近退役した元陸軍少佐と名乗った。身寄りのないロスコオを助けようと、メランビイ夫妻は彼を客として自宅に招いた。ところがやがてロスコオの正体を知ることになる。彼は勇気のある正義漢ではなく、悪質な山師であることがわかったのだ。
背景 善人と思えた人間が実は、という「銀仮面」風のプロットはありきたりだが、その後の展開は結構オリジナリティがある。語り口は職人芸といってよいほど、実に読みやすい。TVのヒッチコック劇場で放映されたそうだが、いかにも映画化しやすいプロットでもある。

邦題 『空高く』
原作者 マイクル・ギルバート
原題 Sky High(1955)
訳者 中川竜一
出版社 早川書房
出版年 1960/1/31
面白度 ★★★★
主人公 片田舎ブリンバレイの教会に所属する聖歌隊の指揮者の息子ティム・アートサイド。
事件 退役軍人マックモリス少佐は聖歌隊の中の謎の人物であったが、ある日彼はティムを訪ねて来て、何者かが自分を狙っていると告白したのだ。ところがその告白通り、少佐の家は爆薬で空高く舞い上がり、少佐はその犠牲になったのだ。実はティムの父親も爆死していたのである。この二つの爆死事件には絶対に関係があると確信したティムは、犯人を探し始める。
背景 謎解き小説というよりは冒険小説に近い構成だが、フーダニットの面白さもある。舞台は田舎、主人公らは冒険好きな青年とその母親という設定がいかにも英国ミステリーらしい。伏線などはあまり張られてはいないのが残念だが、渋いユーモアのある語り口はやはり楽しめる。

邦題 『スパイ入門』
原作者 グレアム・グリーン、ヒュー・グリーン編
原題 The Spy's Bedside Book(1957)
訳者 北村太郎
出版社 荒地出版社
出版年 1960/2/
面白度 ★★★
主人公 スパイに関する短編、戯曲、実話、公文書などを集めたアンソロジー。原書では73本収録されているが、本書ではそのうちの37本が訳出されている。
事件 短編小説は「I Spy」(グレアム・グリーン)と「盗まれた設計図」(アーサー・モリスン)ぐらいか。残りの小説は長編の一部を抜粋したもの。例えばモームの『アシェンデン』やバカンの長編(題名は不明)の冒頭部分などである。ル・キューの作品からは数多く採られている。
背景 新装版は1980年11月に出ている。著者紹介はまったくついていないが、ほとんどが英国人と思われる。本書は第二次大戦後に出版されながら、収録作品の多くは第一次大戦前後のスパイを扱っている。現在のスパイにはないノンビリした雰囲気があり、ユーモアもあって楽しめる。

邦題 『クリスティ短編集T』
原作者 アガサ・クリスティー
原題 The Mysterious Mr. Quin(1930)
訳者 井上宗次・石田英二
出版社 新潮社
出版年 1960/1/25
面白度 ★★★
主人公 現在出ている『謎のクィン氏』の前半部の短編6本を収録したもの。
事件 順に題名を挙げると、「クィン氏登場」、「窓ガラスに映る影」、「道化荘奇聞」、「大空に現れた兆」、「ルーレット係の魂」、「海から来た男」である。
背景 本書は、その後1963年に早川書房から『海から来た男』(訳者名は石田英士)として出版され、さらに後半部の『翼の折れた鳥』と合体され、全短編を含む『謎のクィン氏』となった。なお東京創元社版は『クィン氏の事件簿』(一ノ瀬直二訳)である。短編「海から来た男」は昔高校の副読本で読まされたが、面白さはわからなかった(勉強で読む限りは当然?)。後年、全短編は東京創元社版で読んだが、「ルーレット係の魂」や「海から来た男」は印象に残っている。

邦題 『無実はさいなむ』
原作者 アガサ・クリスティー
原題 Ordeal by Innocence(1958)
訳者 小笠原豊樹
出版社 早川書房
出版年 1960/2/28
面白度 ★★★
主人公 地理学者のアーサー・キャルガリ。最近まで南極探検に参加していた。
事件 ある秋の夕方、キャルガリはサニー・ポイントを訪れた。そこでは二年ほど前、莫大な財産を持つ老婦人が火掻き棒で殺される事件が起きた。老婦人が育てていたジャッコという青年が逮捕され、有罪となった。しかしジャッコは獄中でも無罪を主張し、6ヶ月後獄死した。キャルガリが訪問した理由は、そのジャッコのアリバイを証明することだった。すると犯人は誰だ?
背景 手慣れた出来映えの作品。冒頭から物語に引き込まれるし、誰が犯人かわからなくする書き方や伏線の張り方は上手いものである。キャルガリにあまり魅力のないのが残念。なおサニー・ポイントのモデルはグリーンウェイ・ハウス。「ドーバー海峡殺人事件」として映画化された。

邦題 『おしどり探偵』
原作者 アガサ・クリスティー
原題 Partners in Crime(1929)
訳者 橋本福夫
出版社 早川書房
出版年 1960/4/30
面白度 ★★★
主人公 トミイとタペンスのベリズフォド夫妻。国際探偵局を開く。一種の名探偵物のパロディ。
事件 連作短編集で、順に題名を挙げると「桃色真珠事件」(ソーンダイク博士物)、「怪しい来訪者事件」(オークウッド兄弟物)、「キングで冒険」(マッカーティ物)、「婦人失踪事件」(ホームズ物)、「眼隠し遊び」(コルトン物)、「霧の中の男」(ブラウン神父物)、「ぱしぱし屋」(ウォーレスのまね)、「サニングデールの謎の事件」(隅の老人物)、「死のひそむ家」(アノー物)、「鉄壁のアリバイ」(フレンチ警部物)、「牧師の娘」(シェリンガム物)、「大使の靴」(フォーチュン物)、「十六号だった男」(ポアロ物)などである。ラストの意外性は二人に子供が出来ること。
背景 クリスティがこれほど器用だとは知らなかった。東京創元社版は『二人で探偵を』。

邦題 『秘密機関』
原作者 アガサ・クリスティー
原題 The Secret Adversary(1922)
訳者 田村隆一
出版社 早川書房
出版年 1960/7/31
面白度 ★★★
主人公 トミイ(トーマス)ベリズフォドとタペンス(プルデンス)・カウリイ。最後で二人は結婚する。
事件 第一次大戦が終わったとき、二人は恋人同志であったが、失業中でもあった。そこで二人は青年冒険家協会を作って、新聞広告を出してみた。するとさっそく二人の依頼人が現れたが、二人ともジェーン・フィンを探し出してくれというのだ。ジェーン・フィンとは、大戦中にドイツ潜水艦によって沈没した船に乗っていて、秘密書類をそれと知らずに持っている女性であったが……。
背景 クリスティの第二作で、トミイ=タペンス物の最初の作品。学生時代に楽しく読んだ記憶があるが、今ならどうであろうか。クリスティがまだ完全なプロ意識を持って書く以前の作品といってよく、プロットは通俗的過ぎるものの、本人が楽しみながら書いている感じは良く出ている。

邦題 『死人の鏡』
原作者 アガサ・クリスティー
原題 Murder in the Mews and Three Other Poirot Cases(1937)
訳者 小倉多加志
出版社 早川書房
出版年 1960/9/30
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのエルキュール・ポアロ。彼の登場する中編3本と短編1本からなる短編集。
事件 題名を順に挙げると、「厩舎街の殺人」(中編、ガイフォークス・デーの夜に起きた殺人事件を扱っている)「謎の盗難事件」(機密図面の盗難を扱っている)、「死人の鏡」(一種の密室事件)、「砂にかかれた三角形」(東京創元社版では『クリスチィ短編全集4』に収録されている)となる。
背景 きちんと調べていないが、中編3本は元になる短編を引き延ばしたものらしい。だが引き延ばしが、単なる水増しという印象を与えるのではなく、訊問などを多くすることで、複雑な謎を作り上げることに成功している。なお本書は東京創元社版『クリスチィ短編全集5』(1967年出版)に相当するが、東京創元社版では短編「砂にかかれた三角形」が「負け犬」に代わっている。

邦題 『パディントン発4時50分』
原作者 アガサ・クリスティー
原題 4:50 from Paddington(1957)
訳者 大門一男
出版社 早川書房
出版年 1960/12/15
面白度 ★★★★
主人公 素人探偵はお馴染みのミス・ジェーン・マープルだが、本書で活躍するのは、ルーシー・アイレスバロウ。オックスフォード大で数学を専攻した異色の家政婦。
事件 マープルの友人が平行して走る列車内で殺人事件を目撃した。だが死体が発見されなかったため警察は信じなかったが、マープルは信じた。彼女は種々の調査から、死体はクラッケンソープ家にあると結論した。そしてルーシーを密かにその家に派遣し、死体を探させたのだ。
背景 発端がうまい。いくらでも派手に描けるのをサラリと書いて、遺産にまつわる本筋のプロットに繋げている。いかにもクリスティーらしい独創性のある処理だ。冒険好きなルーシーも魅力的な女性として造形されている。平凡なトリックでこれだけ面白い作品が出来るとは驚きだ。

邦題 『鳩のなかの猫』
原作者 アガサ・クリスティー
原題 Cat Among the Pigeons(1959)
訳者 橋本福夫
出版社 早川書房
出版年 1960/12/31
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのエルキュール・ポアロ。
事件 イギリスの有名な女子学校メドウバンク校で、新任の体育教師が射殺される事件が起きた。生徒には外国の王族や英国の良家の娘たちばかりが集る学校で、犯人は学校関係者に絞られたから、大騒動になってしまった。一方中東の小国で革命が起こり、亡命途中で死亡した王族の従妹がメドウバンク校に入学することになった。二つの事件にはどんな関係があるのか?
背景 現時点のクリスティの最新作だが、69歳時の作品とは思えないほど瑞々しい出来映えだ。数年前の実際の事件をヒントにしているものの、描かれている世界はクリスティ独自のもの。物理的トリックはほとんどないのに、語り口の巧妙さで、意外な犯人の創造に成功している。

邦題 『フローテ公園殺人事件』
原作者 F・W・クロフツ
原題 The Groote Park Murder(1923)
訳者 橋本福夫
出版社 新潮社
出版年 1960/1/25
面白度 ★★★
主人公 南アフリカ連邦ミッデルドルプ市警察のファンダム警部とスコットランド警察のロス警部。
事件 南アフリカ連邦の鉄道トンネル内で死体が発見された。被害者はミッデルドルプ市のホープ兄弟商会の課長補佐。機関車の排障器に衝突した事故死と思われた。だがファンダム警部が詳しく調べると、他殺であることがわかったのだ。しかし容疑者は裁判で無罪となった。それから2年後スコットランドで起きた事件が、南アフリカ連邦で起きた事件と関係していたのだった。
背景 二つの事件が扱われている.似たようなトリックを使っていて、最初は成功するものの、最後には馬脚をあらわすという構成である。結構偶然があるものの、それを不自然と感じさせない語り口が上手いところ。男たちの女性に対する態度などには古さを感じてしまうが……。

邦題 『フレンチ油田を掘りあてる』
原作者 F・W・クロフツ
原題 French Strikes Oil(1951)
訳者 井上勇
出版社 東京創元社
出版年 1960/2/19
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのロンドン警視庁のフレンチ警視。
事件 地方の大地主の長男の死体が踏み切りで見つかった。当初は事故死のようであったが、フレンチが出馬することで、他殺事件であることがわかった。どうやら油脈発見の秘密を守る一家の中に犯人がいることは間違いなかった。しかし各人の動機と機会などを考慮すると、フレンチは容疑者を絞れなかった。ところが容疑者の一人がさらに毒殺されてしまったのだ。
背景 クロフツ72歳時の作品。他のクロフツ作品と同様、淡々と捜査を語っているが、プロットの巧みさで読ませられる。初読時にはクロフツ作品をあまり読んでいなかったこともあり、いささか甘い評価になっている可能性はあるものの、円熟の書であることは間違いない。

邦題 『見えない敵』
原作者 F・W・クロフツ
原題 Enemy Unseen(1945)
訳者 井上勇
出版社 東京創元社
出版年 1960/7/8
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのロンドン警視庁のフレンチ警部。
事件 第二次世界大戦中、コーンウォールの海岸で、善良な老人が爆死した。敵の機雷のためと考えられたが、派遣されたフレンチが捜査をすると、盗まれた手榴弾に電線が接続されていて、そのために老人が爆死したことがわかった。容疑者は老人の親戚や昔の敵であったが、いずれの容疑者にもアリバイがあった。だが第2の爆死事件が起こり……。
背景 トリックがきわめて機械的である。あまりに専門的すぎて(?)、エンジニアの私にも理解できない部分があるものの、机上の空論としてはそうオカシナものではない。事件の展開は上記2作品と似たりよったりで新味はないが、ついつい読まされてしまう。飽きそうで飽きない作家だ。

邦題 『黄金の灰』
原作者 F・W・クロフツ
原題 Golden Ashes(1940)
訳者 井上勇
出版社 東京創元社
出版年 1960/9/2
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのロンドン警視庁のフレンチ警部。
事件 シカゴでしがないサラリーマンしていたジェフリーは、思いもよらない遺産相続で、英国の広大な荘園の持ち主になった。古今の名作を集めた画廊もある。ところがその画廊の絵を鑑定した画廊館長のバークがパリで行方不明となると、ジェフリーが旅行中に起きた火事で、邸と絵は焼失してしまったのだ。だが不審を抱いた保険会社調査員やフレンチが捜査を始めると……。
背景 保険金詐欺から殺人となる話。その事件の推移が、読者の方がフレンチより半歩早く推理できるのが、普通のミステリーとは違うところ。読者の自尊心をくすぐる上手い語り口といってよく、平凡なトリックも結構面白く読めてしまう。作者は一種の倒叙物として書いたのであろうが。

邦題 『フレンチ警部と賭博船』
原作者 F・W・クロフツ
原題 Fatal Venture(1939)
訳者 松原正
出版社 東京創元社
出版年 1960/11/25
面白度 ★★★
主人公 お馴染みのロンドン警視庁のフレンチ警部。
事件 旅行社の社員モリソンは、知り合った男からイギリス列島を巡航する観光船の計画を聞かされ、その事業に協力することになった。観光船は賭博室もあるという豪華なもので、完成するやアイルランド沿岸の名所巡りが始まった。だが巡航中に船主が殺されているのをモリスンが見つけ、たまたま乗り合わせていたフレンチが捜査を担当することになったのだ。
背景 写真フィルムを利用したアリバイ・トリックがユニーク。日本では松本清張や鮎川哲也がより洗練されたトリックに改良している。前半部の経済的な話は少々退屈だが、後半はいつもの地道な捜査が興味深く描かれている。なお後年『フレンチ警部の多忙な休暇』と改題された。

邦題 『英仏海峡の謎』
原作者 F・W・クロフツ
原題 Mystery in the Channel(1931)
訳者 井上勇
出版社 東京創元社
出版年 1960/12/23
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みのロンドン警視庁のフレンチ警部。
事件 英仏海峡で漂流しているヨットが発見された。中には二人の男の殺害死体と多量の血痕があった。調べると、死体はその日倒産した証券会社の社長と副社長で、会社の金庫からは150万ポンドの現金が紛失していた。犯人はどのようにしてヨットから脱出したのであろうか?
背景 後期のクロフツ作品では、フレンチの登場は後半に入ってからのことが多いが(しかもチョイ役で)、本書では前半から積極的に活動しているので、親しみやすい。また『スターベル事件』のように、終盤に迫力あるアクションがあるのも嬉しい。トリックは平凡なものであるが、うまく盲点を付いている。犯人は早い段階で予想できるので、一種の倒叙物としても楽しめる。

邦題 『殺人者はへまをする』
原作者 F・W・クロフツ
原題 Murderers Make Mistakes(1947)
訳者 井上勇
出版社 東京創元社
出版年 1960/12/30
面白度 ★★
主人公 お馴染みのフレンチ警視。ただし短編集で、23本の短編が収録されている。
事件 題名は省略する。第1部は二重の物語で、犯罪を神の視点から語った後、フレンチの解決が語られるという倒叙物の短編。犯人が犯したミスが強調されることになる(全12本)。第2部は単独の物語で、フレンチが事件とその解決を一気に語るという構成で、事件の語り手が第1部とは異なるだけで、基本的部分はまったく同じと考えてよい。こちらの短編は11本である。
背景 著者の前書きによれば、BBCで放送された番組が基になっている。文庫で20頁にも満たない短編ばかり。謎解き小説というより、謎解きパズルや謎解きコントのような内容。パズルとしてならそれなりに楽しめよう。連続して読むとさすがに途中で飽きてしまうが……。

邦題 『ブルクリン家の惨事』
原作者 G・D・H・コール
原題 The Brooklyn Murders(1923)
訳者 加島祥造
出版社 新潮社
出版年 1960/8/15
面白度 ★★
主人公 シリーズ探偵はロンドン警視庁のウィルスン警視だが、本作で活躍するのはジョアン・クーパ(ブルクリン卿の弟の義理の娘)とロバート・エラリ(彼女の婚約者で劇作家)の若い二人。
事件 演劇界の巨星ヴァーナン・ブルクリン卿は70歳を迎え、誕生会の集いが催された。だが翌朝卿の甥の一人が撲殺されているのが見つかり、やがてもう一人の甥も同じように殺されているのが発見された。お互いが殺し合った状況であるが、それは物理的に不可能だ!
背景 コール名義の第一作であるとともに、妻の名が記されていない唯一の作品(以後の作品はすべてG・D・H・&M・コール)。冒頭の交互殺人という不可能性の謎に挑戦したものではなく、クロフツばりのアリバイ・トリック小説。難攻不落性がないため、平凡な印象は拭えない。

邦題 『ペテン師まかり通る』
原作者 ヘンリ・セシル
原題 Much in Evidence(1957)
訳者 平井呈一
出版社 東京創元社
出版年 1960/3/18
面白度 ★★
主人公 裁判そのものが主人公だが、しいて挙げれば賭博師のウィリアム・リッチモンドか。
事件 リッチモンドは、ある夜サンタクロースに変装した二人組強盗に襲われ、その日銀行からおろした10万ポンドを奪われた。幸い24時間の期限付き損害保険に入っていたため、そのお金は賠償されたが、査定係は疑問をもち、調査の結果、詐欺事件としての裁判が始まった。ところが偶然があまりに多すぎて、裁判は混迷を深めていく――。
背景 裁判場面が面白い。おしゃべりな裁判長がいるかと思えば、すっとぼけた屑屋の証人が登場したり、大笑いするシーンもある。ただ犯罪のプロットはつまらない。まあ著者は、裁判は人間が裁くのだから、裁判に間違いはつきものであることをユーモラスに主張したかったのであろう。

邦題 『法廷外裁判』
原作者 ヘンリイ・セシル
原題 Settled Out of Court(1959)
訳者 吉田誠一
出版社 早川書房
出版年 1960/9/30
面白度 ★★★
主人公 特にいない。英国の裁判そのものが主人公と言えそうだが、強いて挙げれば、被告となる資本家のロンズデイル・ウォルシか。妻を若くして亡くした50代の独身男で、一人娘がいる。
事件 ある会社の問題でウォルシと対立していた資本家が轢死した。これで問題解決と思われたが、死亡した資本家の妻がウォルシを殺人罪で告訴したのだ。その裁判の結果、彼は終身刑を宣告される。だがウォルシは裁判に不正があったと信じて脱獄し、独自の裁判を始めた!
背景 著者の長編10作め。セシルの面白さは複雑な謎やプロットにあるわけではなく、裁判シーンにおける弁護士や判事と証人とのユーモラスなやりとりにあると言ってよいが、本書も例外ではない。読んでる最中は楽しめるものの、ミステリー特有の読後のカタルシスは少ない。

邦題 『キス・キス』
原作者 ロアルド・ダール
原題 Kiss Kiss(1960)
訳者 開高健
出版社 早川書房
出版年 1960/
面白度 ★★★★★
主人公 異色作家短編集の一冊。11本の短編が収録されている。
事件 順に挙げると、「女主人」、「ウィリアムとメアリイ」、「天国への登り道」、「牧師の楽しみ」、「ビク スビイ夫人と大佐のコート」、「ローヤル・ジェリイ」、「ジョージイ・ポーギイ」、「誕生と破局」(ヒトラーの誕生を巡る話)、「暴君エドワード」、「豚」、「ほしぶどう作戦」である。
背景 著者の第3短編集。異色作家短編集の中でもベストであろう。大いに楽しめる。特に前半の5編がミステリー味が濃い。もっとも好きな短編は「ビク スビイ夫人と大佐のコート」。ダール得意の女性に対するサディズム描写が見事に生きている。「牧師の楽しみ」は逆に男性に対する残酷さを描いているが、皮肉なユーモアには脱帽。この頃がダールの頂点であったのだろう。

邦題 『世界をおれのポケットに』
原作者 ハドリー・チェイス
原題 World in My Pocket(1958)
訳者 小笠原豊樹
出版社 東京創元社
出版年 1960/10/25
面白度 ★★★★
主人公 現金強奪を計画した5人。頭目はフランク・モーガンで、ジニー・ゴードンが唯一の女性。
事件 5人は現金輸送用の装甲トラックを狙うことにした。計画は、トラックが通ると道路標識を立てて、他の車をシャットアウト。前方ではジニーが血塗れで倒れている。トラックは止まり、護衛がチェックのために車を離れたところを襲う。首尾良く襲撃は成功したが、モーガンが死んだため……。
背景 映画になりそうな(なった?)犯罪小説。現金強奪計画はそれなりに考えられており、まずまず楽しめる。5人の性格もそれぞれ描き分けられている。後半は破滅への道が描かれているが、マッキバーンのような甘さはなくてかなりの迫力がある。プロット作りが上手いことはこれまでの作品からもわかるが、チェイスが一流のストーリー・テラーであることをよく示している。

邦題 『騎士の盃』
原作者 カーター・ディクスン
原題 The Cavalier's Cup(1953)
訳者 村崎敏郎
出版社 早川書房
出版年 1960/1/25
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『赤い鎧戸のかげで』
原作者 カーター・ディクスン
原題 Behind the Crimson Blind(1952)
訳者 恩地三保子
出版社 早川書房
出版年 1960/7/31
面白度  
主人公 

事件 


背景 



邦題 『ドイル傑作集Vボクシング編』
原作者 コナン・ドイル
原題 独自の編集
訳者 延原謙
出版社 新潮社
出版年 1960/1/15
面白度
主人公 ボクシングに関係する短編5本を集めた短編集。
事件 題名を順に挙げると、「クロクスリの王者」(医学書生が賞金を稼ぐためにクロクスリの王者と20ラウンドのボクシングをする話。中編)、「ファルコンブリッジ公」(賞金稼ぎのボクサーが、なぜか相手も場所も知らされずに、戦いを依頼される話)、「バリモア公の失脚」(社交界で張り合っている相手を侮辱させようという話)、「旅団長の罪」(狐狩りの話で、ボクシングとは無関係)、「ブローカスの暴れん坊」(暴れん坊と戦う話)となる。
背景 "Tales of the Ring"(1929)から5編を訳出したもの。最後の2編はボクシングに関係ない。最初の「クロクスリの王者」がまあまあという程度。今は絶版となっている。

邦題 『ドイル傑作集X恐怖編』
原作者 コナン・ドイル
原題 独自の編集
訳者 延原謙
出版社 新潮社
出版年 1960/7/25
面白度 ★★
主人公 怪奇小説の短編を6本集めた短編集。
事件 題名を順に挙げると、「大空の恐怖」(あちこちのアンソロジーに選ばれている好短編で、怪物物)、「革の漏斗」(水責めに使われた道具の話)、「新しい地下墓地」(ローマの地下墓地を扱った話で平凡)、「サノクス令夫人」(奇妙な味はあるが……)、「青の洞窟の怪」(洞窟に怪物がいたというありふれた話)、「ブラジル猫」(ピューマのような猫と同じ空間に閉じ込められる話)である。
背景 "Tales of Terror and Mystery"(1922)の前半部を訳出したもの。どちらかというと幽霊譚のような話ではなく、怪物が登場する話が多い。テーマはありふれたものだが、ストーリー・テラーの才で読まされてしまう。ミステリー好きとしては、「ブラジル猫」が一番楽しめた。

邦題 『ドイル傑作集W冒険編』
原作者 コナン・ドイル
原題 独自の編集
訳者 延原謙
出版社 新潮社
出版年 1960/8/15
面白度 ★★
主人公 冒険小説風の短編を6本集めた短編集。
事件 収録作は「ヒラリ・ジョイス中尉の初陣」(オアシスの警備についていると、一人の男が現れ……)「ガタス山の医師」(長めの短編だが、結末が安易)「借りものの情景」(ドイルには珍しいユーモア物)「アーケーンジェルから来た男」(難破船からロシア女性を助けたが、その夫と名乗る男が現れ……、主人公がいい)「ブラウン・ペリコード発動機」(新発明を巡る二人の男の戦いの話だが、平凡)「開かずの部屋」(開かずの部屋を開けてみると、という話でミステリー風作品)の6本。
背景 冒険編となっているものの、主人公が自然の脅威に打ち勝つような話はない。多少アクション場面がある程度だ。ドイルが物語作家であることはよくわかる。

邦題 『追われる男』
原作者 ジョフリー・ハウスホールド
原題 Rogue Male(1939)
訳者 宮本陽吉
出版社 東京創元社
出版年 1960/2/5
面白度 ★★★
主人公 名無しの<僕>。ある理由から、復讐者として独裁者の暗殺を試みる。
事件 僕は、550ヤードの距離から独裁者の胸を狙った。そして引き金を引こうとした瞬間、僕は逮捕された。拷問を受け、事故死と思われるように崖から突き落とされたが、奇蹟的に助かったのだ。僕は逃走を開始する。スパイと警察の目をのがれ、追われる男として――。
背景 追う者と追われる者との戦いを扱った単純なプロットだが、オッカケッコのサスペンスだけでもっているスパイ冒険小説ではない。主人公の異常なほどまでの生への執着、やむなく人殺しをする際の心理などが迫力をもって描かれている。謎的興味は少ないが、最後の終わり方も一風変わっている。なお2002年に新訳(村上博基訳)が出ている。<僕>ではなく<わたし>だが。

邦題 『誰が駒鳥を殺したか?』
原作者 イーデン・フィルポッツ
原題 Who Killed Cock Robin?(1924)
訳者 小山内徹
出版社 東京創元社
出版年 1960/3/4
面白度 ★★★
主人公 謎を解くのは私立探偵のニコル・ハート。
事件 医師ノートンは駒鳥と仇名される美貌のダイアナと結婚したが、このため伯父の財産が貰えないことになった。派手好きのダイアナはそれを知って落胆した。一方ダイアナの姉は結婚したものの、自動車事故で足を負傷した。さらにダイアナも原因不明の病気に罹り、亡くなってしまったのだ。それから一年半後、ノートンが再婚しようとすると、ダイアナの手紙が公になり……。
背景 トリックは単純なものでアンフェアな点も気になるが、前半の執拗な恋愛描写が生きていて、動機などは説得力をもっている。やはり筆力が十分な作家であることがよくわかる。なおヴァン・ダインが自選のベスト10に選んでいるが、それほどの出来ではないと思う。なお2015年に新訳『だれがコマドリを殺したのか?』(武藤崇恵訳)と『だれがダイアナ殺したの?』(鈴木景子訳)が出た。

邦題 『ビスマルク号を撃沈せよ』
原作者 C・S・フォレスター
原題 The Last Nine Days of the Bismark(1959)
訳者 実松譲
出版社 出版協同社
出版年 1960/6/30
面白度
主人公 ドイツの戦艦<ビスマルク>号。1941年2月に就航。4万2千トン。
事件 1941年5月19日、<ビスマルク>が出航した。そして5日後英国の巡洋艦<フッド>を初陣の血祭りにあげ、新鋭戦艦<プリンス・オブ・ウェールズ>に大損害を与えた。次はどうするか。進撃かそれとも本国に戻るべきか? 指揮官はフランスを目指すが……。
背景 個人的に好きな作家フォレスターのノンフィクション・ノベル。訳者も解説者も元海軍の軍人で、本書は明らかに戦記物の実話のように紹介されているが、戦争冒険物として読めないことはない。とはいえ心理描写は少ないし、フィクションとしてはたいして評価できるものではない。なお後年『決断 ビスマルク号最後の九日間』(フジ出版社)と改題された。

邦題 『ジュゼベルの死』
原作者 クリスチアナ・ブランド
原題 Death of Jezebel(1948)
訳者 恩地三保子
出版社 早川書房
出版年 1960/2/29
面白度 ★★★
主人公 コックリル(コッキー)。ケント署の鬼警部。
事件 帰還軍人のためのモデル・ハウス展の呼び物である演劇が開幕しようとしていた。だがコックリルは心配していた。劇に出演する素人役者のペピイや悪評高い中年女ジュゼベルらを公演中に殺すという脅迫状がペピイに届いていたからだ。そして舞台では11人の騎士らが城の塔の前に来たとき、女王に扮したジュゼベルがバルコニーから落ちてきたが……。
背景 観衆が見ている前に墜落した女性は絞殺されていた。まわりには騎士らがいる。容疑者は騎士らだけという設定で、密室風の不可能犯罪を扱っている。コージー派ミステリーのようにみせての大胆なトリックには正直驚いたが、そこまでの語り口にはイマイチ乗り切れない。

邦題 『血ぬられた報酬』
原作者 ニコラス・ブレイク
原題 A Penknife in My Heart(1958)
訳者 小倉多加志
出版社 早川書房
出版年 1960/2/29
面白度 ★★★
主人公 テレビ脚本家兼劇作家のネッド・ストウ。理解のない妻がいることもあり、離婚して愛人のローラと一緒になりたいと思っている。
事件 愛人との逢瀬を楽しむために来たノーフォークの漁港で、ネッドはチャールズと知りあった。チャールズは、富豪の商会社長の甥であったが、金に困っていた。そこで彼はある計画を持ちかけた。彼がネッドの妻を殺す代わりに、ネッドに社長を殺してほしいというのだ!
背景 本書が印刷中に、著者はP・ハイスミスの『見知らぬ乗客』と基本アイディアが同じと気づいたそうだ。確かに交換殺人というプロットは同じだが、読後の印象はかなり異なる。性格異常者の怖さは少なく、まともな人間が犯罪に巻き込まれる恐ろしさを巧に描いている。

邦題 『メリー・ウィドウの航海』
原作者 ニコラス・ブレイク
原題 The Widow's Cruise(1959)
訳者 中村能三
出版社 早川書房
出版年 1960/4/30
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みの素人探偵ナイジェル・ストレンジウェイズ。
事件 9月のある日、ギリシャ周遊の観光船がアテネを出航した。乗客には”メリー・ウィドウ”と呼ばれる金持ちの未亡人ブレイドン夫人を始め、彼女の妹、有名なギリシャ愛好家、ナイジェルと彼の恋人である彫刻家クレアなどがいた。だがなんとなく不吉な雰囲気があった。そして実際”メリー・ウィドウ”の妹が海に落ちて行方不明となり、少女が船のプールで殺されたのだ!
背景 ブレイク作品はあまり読んでいないのだが、意外な拾い物。船の中での殺人事件で、容疑者は限られるという黄金時代の構成だが、伏線はかなり張ってあるし、意外な犯人も用意されている。前半百頁はとっつきにくいが、それを越えるとジワジワとサスペンスが高まっていく。

邦題 『闇のささやき』
原作者 ニコラス・ブレイク
原題 The Whisper in the Gloom(1954)
訳者 村崎敏郎
出版社 早川書房
出版年 1960/9/15
面白度 ★★
主人公 シリーズ・キャラクターはお馴染みの探偵ナイジェル・ストレンジウェイズだが、本作でもっとも輝いているのは12歳の少年バート・へールとその仲間キツネとオマワリの三人。
事件 8月の暑い日、バートはケンジントン公園の池で遊んでいた。そのとき男が千鳥足で近づき、小舟に小さな紙片を突っ込んだ後、絶命した。殺人だった。どうやら紙片に書かれた文章は暗号で、殺された男は警察のスパイらしい。三人は何者かに追われ始め……。
背景 ナイジェルが登場するが、謎解き小説ではなくスリラーに近い。昔の映画「39階段」や「知りすぎた男」を思い出す既視感のある物語展開だ。少年三人の活躍は結構面白いが、このあたりは児童文学(『オタバリの名探偵たち』)を書いた経験が生きているからか。

邦題 『ビール工場殺人事件』
原作者 ニコラス・ブレイク
原題 There's Trouble Brewing(1937)
訳者 永井淳
出版社 宝石社
出版年 1960/9/15
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの詩人で素人探偵のナイジェル・ストレンジウェイズ。今回はドーセット州にあるハーディの故郷の町の文学研究会から講演会を頼まれ、殺人事件に巻き込まれる。
事件 依頼は未知の女性からであったが、その女性の夫がオックスフォード在学当時、ナイジェルと面識があるという点に興味を惹かれた。当日はビール工場経営者など町の有力者がほとんど出席していたが、翌日その経営者らしき死体が工場の圧力がまの中から見つかったのだ!
背景 著者の第三作。ブレイクの初期作は、登場人物などの性格描写に秀でているという特徴はあるものの、基本的には探偵小説らしいフーダニットといってよい。本作では、まあ犯人だけは予想がつくものの、謎は作り過ぎの感じで、欠点の方が目立っている。

邦題 『旅人の首』
原作者 ニコラス・ブレイク
原題 Head of a Traveller(1949)
訳者 小倉多加志
出版社 早川書房
出版年 1960/12/31
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの詩人で素人探偵のナイジェル・ストレンジウェイズ。
事件 ストレンジウェイズは友人に誘われて、英国の寒村に建つ絵のように美しいプラッシュ・メドー館を訪れた。当主シートンは高名な詩人なので、ストレンジウェイズは以前から興味を持っていたのである。そして2ヵ月後、近くのテームズ河から男の首なし死体が発見された。ロンドン警視庁の要請で彼も捜査に協力をするが、その後被害者の首はプラッシュ・メドーで見つかったのだ。
背景 著者9作目の作品。寒村の館で起こる殺人事件で、クリスティの世界で起こる事件のようだが、やはり中盤の語り口はブレイク流そのもの。よく言えばハイブロウ、悪く言えばサスペンス不足で退屈な謎解き小説だが、最後の一行で★を一つ増やしてしまった。

邦題 『ロシアから愛をこめて』
原作者 イアン・フレミング
原題 From Russia With Love(1957)
訳者 井上一夫
出版社 東京創元社
出版年 1960/10/25
面白度 ★★★★
主人公 お馴染みの英国海外秘密情報部の007号ことジェイムズ・ボンド。
事件 最近多くのソ連のスパイが検挙された。ソ連情報部はその報復として、ボンドを捕まえ「辱めて殺すべし」という計画を考え、その実行をスメルッシュのクロスティーンに任せたのだ。彼女は、暗号機を持って逃げたいという女性をボンドに接触させようとした。その女性がイスタンブールでボンドに会い、彼女はボンドと一緒にオリエント急行に乗り込んだが……。
背景 原シリーズ5冊目。個人的には本書がシリーズの最高作。敵はソ連情報部。ボンドは退屈のため事件に引き込まれる。これぞ英国冒険小説の主人公にふさわしい設定だ。イスタンブールやオリエント急行という舞台もいい。物語もテンポよく展開され、サスペンスにも富んでいる。

邦題 『ダイヤモンドは永遠に』
原作者 イアン・フレミング
原題 Diamonds Are Forever(1956)
訳者 井上一夫
出版社 東京創元社
出版年 1960/7/22
面白度 ★★
主人公 お馴染みの英国海外秘密情報部の007号ことジェイムズ・ボンド。
事件 アフリカのダイヤモンド鉱山から、ロンドン経由でアメリカに大量のダイヤが密輸さているらしい。しかも密輸の元締めはアメリカ最大の組織的ギャング団であるという。その情報をキャッチした英国秘密情報部はボンドを密輸ルートの一員に化けさせて潜入させるが……。
背景 原シリーズの4冊目。チャンドラーは本シリーズを「大人の童話」と言ったそうだが、そのとおりであろう。ボンドが「現代版シャーロック・ホームズ」という評もあるようだが、これはいただけない。まあスパイ小説というより、冒険小説に近い作品。初読時は『あるスパイへの墓碑銘』の次に読んだので、印象はあまり良くない。汽車などでの活劇がさほど痛快に感じられなかった。

邦題 『ゴールド・フィンガー』
原作者 イアン・フレミング
原題 Goldfinger(1959)
訳者 井上一夫
出版社 早川書房
出版年 1960/12/15
面白度 ★★★
主人公 お馴染みの英国海外秘密情報部の007号ことジェイムズ・ボンド。
事件 マイアミ空港で足止めを食っていたボンドは、アメリカ人実業家からゴールド・フィンガーと名乗る男にポーカーで大金を巻き上げられた話を聞かされた。そして、そのインチキを暴いて貰いたいと依頼されたのだ。英国に戻ったボンドは、そのゴールド・フィンガーこそ、世界最強の犯罪組織を牛耳る怪物であることを知った。ボンドは部下になりすまして潜入するが……。
背景 原シリーズの7冊目。シリーズ最高傑作と呼ばれる作品。悪役の造形にしても、ゴルフやポーカーの描写にしても、奇想天外なノックス砦への攻撃にしても、確かに大人の紙芝居にふさわしい雰囲気がある。ただあまりに紙芝居過ぎる気がするが。映画も大ヒットした。

邦題 『殺人者はまだ捕まらない』
原作者 モーリス・プロクター
原題 Killer at Large(1959)
訳者 中桐雅夫
出版社 早川書房
出版年 1960/10/31
面白度 ★★
主人公 グランチェスター市警察のハリイ・マーティノー。助演は同警察の首席警視クレイや部長刑事ディヴェリイ、刑事キャシディの面々。
事件 レイナーは、彼の恋人が裏で別の男と付き合っているのに逆上してその男を殺し、6年の刑を受けた。そのレイナーが脱獄した。警察はすぐに非常線を張るものの、町を熟知しているレイナーは捕まらない。さらに小学生が行方不明になった。二つの事件に関連はあるのか?
背景 『この街のどこかで』が第一作のマーティノー物の第四作(このシリーズは全14作)。第一作同様、脱獄から話が始まるのはご愛嬌だが、その後は脱獄と少女行方不明が併行に語られる。二事件の関連性はあまり上手く処理されていないし、脱獄の動機も弱く、平凡な出来だ。

邦題 『法の悲劇』
原作者 シリル・ヘアー
原題 Tragedy at Law(1942)
訳者 宇野利泰
出版社 早川書房
出版年 1960/4/15
面白度 ★★★★★
主人公 シリーズ探偵はロンドン警視庁のマレット警部と法廷弁護士のフランシス・ペティグルウ。
事件 高等法院の判事バーバーは、巡回裁判の地で大失態を演じた。地元のレストランで開かれた晩餐会の後、バーバー自ら運転する車が高名なピアニストを轢いて、彼の小指を使いものにならなくしたからだ。そのうえバーバーの運転免許証は期限が切れたままになっていた。やがて判事には脅迫状が舞込み、醜聞として暴露され、ついにバーバーは自殺を図るが……。
背景 評論家S・スコットが1940年代の最高傑作といっているが、まさにその言葉通りの作品。渋いユーモアもいいが、殺人が最後の方で起きるというプロットを始め、犯人も謎の解決も意外性に満ちている。人が人を裁くという盲点を巧みに突いた法廷ミステリー。再読しなくては!

邦題 『叛乱』
原作者 エリオット・リード
原題 The Maras Affair(1953)
訳者 村崎敏郎
出版社 早川書房
出版年 1960/7/15
面白度 ★★★
主人公 オーストリアの東に接する某国に派遣された米国の新聞「スター・ディスパッチ」の新聞記者チャールズ・バートン。彼の秘書アンナ・マラスがヒロイン。
事件 バートンは遠からずこの国に叛乱が勃発すると考えていた。そんな時、首都の警察庁長官から、同新聞への寄稿者が国外脱出を図ったと言われた。彼の関知しないことだが、アンナの不審な態度を見ると不安になった。そしてついに現大統領が暗殺されたのだ!
背景 アンブラ―がリード名義で発表した5作品の4冊目。アンブラ―名義の作品に比べると通俗味が多いが、前半は警察庁長官との心理的戦いのスパイ小説として、後半は列車による脱出劇の冒険小説として、そこそこ楽しめる。なお本書は『世界ミステリ全集7 エリック・アンブラ―』(早川書房、1972年)の中で、『反乱』(宇野輝雄訳)として新訳された。

邦題 『恐怖のパスポート』
原作者 エリオット・リード
原題 Passport to Panic(1958)
訳者 加島祥造
出版社 早川書房
出版年 1960/10/31
面白度 ★★
主人公 実業家のルイス・ペイジ。妻を若くして亡くし、娘アンを一人で育て上げた。だが最近会社の業績が悪化し、資金繰りに苦しんでいた。
事件 そこでルイスは、考古学者であるとともに南米に近い島でコーヒー園を営んでいる兄に援助を頼むことにした。だが返事がこない。独り身の兄になにか起こったのか。ルイスは現地に飛ぶと、兄は衰弱しきった病人であったが、わずか一週間前に結婚したというのだ!
背景 アンブラーがリード名義で書いた5冊目にして最後の作品。このシリーズはエンタテイメントを目指して書かれており、確かに巻き込まれ型の前半はサスペンスに溢れているものの、謎は単純で捻りなし。アンブラーには重厚な作風の方が適しているようだ。

邦題 『スカイティップ』
原作者 エリオット・リード
原題 Skytip(1950)
訳者 村崎敏郎
出版社 早川書房
出版年 1960/12/31
面白度 ★★★
主人公 建築家のピーター・アクランド。離婚歴ありの青年だが、過労のため神経衰弱になりかけて、医者の忠告でコーンウォールに転地静養する。
事件 ピーターがコーンウォールのボスベラン駅に着いたとき、予定していた迎えが来ていなかった。彼は夜道を一人で歩き始め、目的の農場の田舎家らしき二階建ての家を見つけたが、出てきたのは、ポケットに拳銃を隠していた政治評論家のブラドックだったのだ。
背景 スパイ小説の雄アンブラーがリード名義で書いた第一作(邦訳は遅れて四番目)。プロットは単純で、スパイ小説というより冒険小説に近い。アンブラー作品でいえば『あるスパイの墓碑銘』の系列か。なお原題は「空にそびえる陶器用粘土の廃石山」というのようだ。

戻る