邦題 『不良少年』
原作者 グレアム・グリーン
原題 Brighton Rock(1938)
訳者 丸谷才一
出版社 筑摩書房
出版年 1952/
面白度 ★★
主人公 チンピラ・ギャングの<少年>ピンキー。一応カソリック。
事件 舞台は保養地のブライトン。この夏、大衆新聞がこの地で宝探しを企画したのだ。物語は、その一部を見つけた少女と、その少女と知り合った<少年>を中心にして語られる風俗小説か。
背景 後年同じ訳者によって『ブライトン・ロック』と改題された作品。訳者あとがきの受け売りになってしまうが、ここにはグリーンのすべてが入っていて、グリーンを語るには欠かせない作品であるそうだ。確かにミステリー的なプロットもあるし、カトリシズムも、映画の影響もあることがわかる。「ノヴェル」と「エンタテインメント」の両方の肩書きをもつ唯一の作品だが、ここではミステリーとしての評価しかしないので、やはり『拳銃売ります』の方が面白い。

邦題 『拳銃売ります』
原作者 グレアム・グリーン
原題 A Gun for Sale(1936)
訳者 飯島正、舟田敬一
出版社 早川書房
出版年 1952/
面白度 ★★★★
主人公 殺し屋のレイヴン。兎唇である。一度も恋人をもったことはないが、腕は一流の若者。
事件 レイヴンが頼まれた今回の仕事は、戦時体制内閣の大臣の暗殺。そして大きな問題もなく仕事をやり遂げた。依頼者からは報酬200ポンドを貰い、早速5ポンド札を使用した。だがこのお金は、盗まれたもので、すでにお札の番号が控えられていたのだ。彼は嵌められたことに気づき、ユーストン駅に逃げるが、そこには偶然ロンドン娘アンとアンの恋人で警部のマザーがおり……。
背景 グリーンがエンタテインメントと称している作品。いかにも映画的な小説。素材から各シーン、そしてクライマックスまで、すべてが映画的である。ミステリーとしては偶然が多過ぎるのが欠点だが、まあ許せる範囲か。主題は若い殺し屋の孤独感だそうだが、十分に読者の胸をうつ。

邦題 『山荘の秘密』
原作者 アガサ・クリスティー
原題 The Sittaford Mystery(1931)
訳者 田村隆一
出版社 早川書房
出版年 1952/1/
面白度 ★★★★
主人公 最終的に犯人を捕まえるのはナラコット警部だが、被害者の甥で容疑者となった青年の婚約者エミリー・トレフュシスと新聞記者チャールズ・エンダビーも活躍する。
事件 ダートムアの寒村にあるシタフォード山荘では、ひょんなことから客人たちが霊媒占いを始めた。霊が呼び出されると、そのメッセージは「トレヴェリアンは死んだ」、「殺された」であったのだ。不安になった彼らが、雪の中をトレヴェリアンの山荘に行くと、彼は本当に殺されていた。
背景 シリーズ・キャラクターは一人も登場しないが、手を抜いた作品ではない。きちんとした謎解きミステリー。あっと驚くようなトリックは使われていないものの、読者を間違った方向に導くテクニックが優れているので、ラストの意外性はたいしたものだ。小品なれど、あなどれない。なお1956年には同じ訳が『シタフォードの秘密』(早川書房刊)として、別訳は東京創元社より『シタフォードの謎』(鮎川信夫訳)として出版された。

邦題 『シャーロック・ホームズ全集 第1巻』(『緋色の研究』)
原作者 コナン・ドイル
原題 A Study in Scarlet(1887)
訳者 延原謙
出版社 月曜書房(文庫版は新潮社)
出版年 1952(文庫版は1953/6/10)
面白度 ★★(以下は文庫版に対するコメント)
主人公 シャーロック・ホームズ。最初の長編。
事件 本書のように有名なミステリーについて、シャーロキアンでない人間が何か書くのは正直言って大変だ。いまさら事件の梗概を書いてもしかたないし、といって何か書かないと、この空白が埋まらない。最初に読んだのは講談社の子供向けの本であったと思う(久米元一訳?)。延原謙訳は読まずに終ってしまったはずだ。
背景 エルキュール・ポアロとシャーロック・ホームズを比較するため、その後何回か、阿部知二訳(東京創元社)を拾い読みをしている(例えばシャーロック・ホームズの学力を開陳している章など)。でも第2部の終りまで読んだ記憶は一度しかない。情けない。

邦題 『シャーロック・ホームズ全集 第2巻』(『四人の署名』)
原作者 コナン・ドイル
原題 The Sign of the Four(1890)
訳者 延原謙
出版社 月曜書房(文庫版は新潮社)
出版年 1952(文庫版は1953/12/24)
面白度 ★★(以下は文庫版に対するコメント)
主人公 シャーロック・ホームズ。長編第ニ作。
事件 『緋色の研究』と同じく講談社(?)の子供向けの本で読んだのではないかと思われるが、初読時の記憶はほとんどない。再読してみると、冒頭に有名な”7パーセントのコカイン溶液”を注射する場面があった。これが本書にあることはまったく記憶になかった。やがてメアリ・モースタンがホームズの下宿を訪ねてくる。さすがにこのくだりは覚えていた。だがその相談が、毎年謎の贈り主が真珠を贈ってくるというものであることは忘れている。情けない。
背景 二部構成の話であったはずだが、完全な部別にはなっていなかった。ベイカー街イレギュラーズが活躍する。またワトスンの負傷の記述が前作と矛盾し、問題になっているそうだ。

邦題 『シャーロック・ホームズ全集 第5、6巻』(『シャーロック・ホームズの思い出』)
原作者 コナン・ドイル
原題 The Memoirs of Sherlock Holmes(1894)
訳者 延原謙
出版社 月曜書房(文庫版は新潮社)
出版年 1952(文庫版は1953/3/10)
面白度 ★★★★(以下は文庫版に対するコメント)
主人公 シャーロック・ホームズ。10本の短編が収録されている(原書は11本であるが、本書では「ライゲートの大地主」が割愛されている)。
事件 「白銀号事件」から「海軍条約文書事件」を経て「最後の事件」に至るまでの有名な短編が含まれている。私は中学生時代に読んだが、「白銀号事件」の”犬があの夜何もしなかった”ことの理由と意外な犯人に驚いた当時の記憶が、この駄文を書きながら鮮やかに甦ってきた。モリアーティ教授とのライヘンバハの滝での決闘は、たいして感心しなかったが。
背景 中学生時代に購入した文庫本はもはや手許になく、出版年は『文庫中毒』(井狩春男編著、ブロンズ新社)に拠ったが、”冒険”より先に出ているというのが不思議である。

邦題 『シャーロック・ホームズ全集 第10巻』(『恐怖の谷』)
原作者 コナン・ドイル
原題 The Valley of Fear(1915)
訳者 延原謙
出版社 月曜書房(文庫版は新潮社)
出版年 1952(文庫版は1953/8/5)
面白度 ★★★★(以下は文庫版に対するコメント)
主人公 シャーロック・ホームズ。後半はジョン・マックマード。
事件 ホームズ物の第4長編にして、最後の長編。この作品は、講談社(?)の子供向けの本で最初に読んだもの。ホームズが活躍する前半はほとんど記憶にないが、後半の恐怖の谷における冒険物語はかなり記憶に残っている。結構インパクトを受けたようだ。実はこれを書くために、阿部知二訳を再読したが、やはり後半の方が面白い。
背景 J・D・カーがドイルの長編のベストに挙げている。珍しく私もカーの意見に賛成だ。『バスカヴィル家の犬』より面白いと思う。ここでは冒険小説家としてのドイル、ストーリー・テラーとしてのドイル、そして探偵小説家としてのドイルの良い面が出ている。

邦題 『シャーロック・ホームズ全集 第11巻』(『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』)
原作者 コナン・ドイル
原題 His Last Bow(1917)
訳者 延原謙
出版社 月曜書房(文庫版は新潮社)
出版年 1952(文庫版は1955/4/15)
面白度 ★★(以下は文庫版に対するコメント)
主人公 シャーロック・ホームズ。4作目の短編集で、8本の短編が収録されている。
事件 延原訳では読んだ記憶がない。おそらく阿部知二訳(東京創元社)で読んだと思うが、中味はほとんど覚えていなかった。それだけ印象に残る短編が含まれていないからであろう。だがシャーロッキアンにとっては重要な短編集であるのは間違いない。ホームズの生年は1854が定説らしいが、それは1914年の事件「最後の挨拶」の中で、ホームズが60がらみの男と描写されているところからきているからだ。それ以外では「瀕死の探偵」が記憶に残っている。
背景 ホームズは引退したが、亡くなったわけではない。サウス・ダウンズの農園で養蜂と読書の生活を送っている。そこにはいろいろな人が訪ねている。ほら、あの人も……。

邦題 『シャーロック・ホームズ全集 第12 13巻』(『シャーロック・ホームズの事件簿』)
原作者 コナン・ドイル
原題 The Case Book of Sherlock Holmes(1927)
訳者 延原謙
出版社 月曜書房(文庫版は新潮社)
出版年 1952(文庫版は1953/10/20)
面白度 ★★★(以下は文庫版に対するコメント)
主人公 シャーロック・ホームズ。10本の短編が収録されている(原書は12本であるが、本書では「ショスコム荘」と「隠居絵具師」が割愛されている)。
事件 ドイルの第5短編集にして最後の短編集。1920年代に書かれた短編が集められている。ということはクリスティが新進作家として活躍していた時期と重なるわけである。本書は、十代のときに延原訳で読んでいるが、「ソア橋」の印象が圧倒的に強く、その他の短編は「高名な依頼人」にしても「三人ガリデブ」にしても、ほとんど記憶にない。トホホ。
背景 トリック・メーカーではないドイルが「ソア橋」を書いたことが驚きである。このトリックはヴァン・ダインの某作品にも使われていた記憶がある。

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