ウインタブルック・ハウス通信

クリスティ・ファンクラブ機関誌

2003.12.24  NO.66

 66歳(1956年)のクリスティ。この年の新年の叙勲で、クリスティは三等勲爵士(CBD)を授けられている。当時のイラクの新聞などではデイム(DBE)と間違えられたらしいが、クリスティはその授章を素直に喜んだ。またこの年、エクセター大学名誉博士号も授与している。
 ミステリーに関しては、前年に脱稿した『死者のあやまち』が出版された。この作品は、探偵作家のオリヴァー夫人がデヴォンシャーのナスコームから掛けてきた電話から話が始まる。ミステリーとしての面白さはイマイチだが、ファンに興味深い点は、舞台となるナス屋敷がクリスティの別荘であるグリーンウェイ・ハウスをモデルにしていることだ。小説に登場する砲台やボート小屋などは実在している。公開されている庭園グリーンウェイを訪問する人には必読書か(S)。


< 目  次 >

◎クイーン・ファンの選んだクリスティ・ベスト5―――――――――――――――斉藤 匡稔
◎戯曲「見知らぬ人からの愛」(第二幕第一場)――――――――――――――原作(短編「うぐいす荘」):アガサ・クリスティ
                                                     脚色:フランク・ヴォスパー
                                                     翻訳:小堀 久子
◎落ち穂ひろい(その3)――――――――――――――――――――――――鳥居 正弘
◎オリヴァー夫人の謎?――――――――――――――――――――――――山田 由美子
◎ミセス鈴木のパン・お菓子教室  第15回 紅茶ロール――鈴木 千佳子
◎クリスティ症候群患者の告白(その35) ―――――――――――――――――数藤 康雄
◎ティー・ラウンジ
★表紙   高田 雄吉


クイーン・ファンの選んだクリスティ・ベスト5

斉藤 匡稔

 A・クリスティとE・クイーン、J・D・カーは、翻訳ミステリー界の三大巨匠といってよいでしょうが、作品数も多く、そのすべてを読むのはなかなか大変です。私も二十代前半までは、三人の作家の作品を併行して読んでいましたが、クリスティ作品に熱中するようになってからは、論理を重視する(と思われる)クイーン作品はほとんど読まなくなってしまいました。皆さんはどうでしょうか?
 本稿は、クイーン・ファンクラブを主宰する斉藤さんが、クイーン作品とクリスティ作品の似ている部分に注目して選んだベスト5です。クリスティ・ファンとしては、文中に登場するクイーン作品はぜひ読まねば! と思っています。
 ところで返歌(?)として「クリスティ・ファンの選んだクイーン・ベスト5」を書こうと思ったのですが、恥かしながら既読のクイーン作品があまりに少ないのであきらめてしまいました。会員のなかで我こそはと思う人は、ぜひ立候補してください(S)。


 私はエラリー・クイーンのFCを主催している者です。本誌65号の「ティー・ラウンジ」でも書かせていただきましたが、クイーンについて考察していくと、クリスティが引っかかってくる場合が、けっこうあるのです。ただし、クイーンFCの会員は、必ずしもクリスティ作品を読んでいるわけではないので、会誌で扱いにくいネタも出て来てしまいます。そこで、数藤さんに頼んで、そういったネタを、クリスティFCの方に書かせてもらうことにしました。挙げられている五作の内、『親指のうずき』『アクロイド殺し』はネタばらしがあります。

【第一位】 『そして誰もいなくなった』
 「クイーンが執筆中のミステリが『そして誰もいなくなった』と同じプロットだったので破棄した」という話は、クリスティ・ファンもご存知でしょう。クイーン・ファンとしては、『インディアンインド倶楽部の謎』(クイーンがエッセイで挙げている破棄作品の題名。これがクイーン版『そして誰も―』だと思われます)も読んでみたかったですが……。そして、なぜクリスティとクイーンが同じアイデアを思いついたかというと、二作家ともに「パターンのある事件が好き」だからでしょう。見立て殺人とか童謡殺人とか……。
 ちなみに、クイーンの『九尾の猫』には、「連続殺人のパターン分析」が出てきますが、この時に挙げられている作例は、クリスティの『ABC殺人事件』でした。この作品も、クイーン・ファン好みのクリスティ作品と言えます。

【第二位】 『ヘラクレスの冒険』
 クイーンの短編集『犯罪カレンダー』には、題名通り、各月の行事に対応した十二の短編が収録されています。例えば、10月の「殺された猫」はハロウィン、12月の「クリスマスの人形」はクリスマス、といった具合ですね。そして、クイーンがどうしてこんな趣向の短編集を思いついたかというと、どうやら『ヘラクレスの冒険』にヒントを得たようなのです。『犯罪カレンダー』収録短編の連載が始まる前に『ヘラクレスの冒険』の短編がEQMM(エラリー・クイーンズ・ミステリマガジン)に掲載されているのですが、クイーンは、その短編に添えたコメントで、ヘラクレスの十の難行と各編のストーリーを重ね合わせた趣向を、絶賛しているのです。
 それにしても、クリスティの方は、デカスロン見立ての連作短編集を、どこから思いついたのでしょうか? このためにポワロの名前を決めたのだとすると、もっと早く使っていたと思うのですが……。ご存知の方は、教えてください。

【第三位】 『親指のうずき』
 エラリー・クイーンがこだわっていたテーマのひとつに「名探偵導入プロット」というものがあります。"犯人が名探偵を利用する計画を立てる"、"名探偵の介入が事件を変化させる"、といったものです。ただし、その究極の形式を書いたのは、クイーンではなくクリスティでした。ご存知の通り、この作品――『親指のうずき』――では、"名探偵の介入が事件自体を引き起こす"というアイデアが用いられていますから。もっとも、明らかにクリスティは、『鏡は横にひび割れて』などの「意外な殺人のきっかけ」テーマのバリエーションとして書いているのですが、藪をつつく役にシリーズ名探偵のタッペンスを配したために、クイーンのテーマと重なってしまったわけです。

【第四位】 『ゼロ時間へ』
 『ゼロ時間へ』で語られた「殺人というのは終局で、物語はずっと前から始まっている」というアイデアはとてもすばらしいものです。しかし、本作のプロットがそのアイデアをうまく使っているとは、とても思えません。普通のミステリーの中でこのアイデアが"語られているだけ"に見えるからです。(クリスティ・ファンの意見は違いますか?)
 そこで「このアイデアはもっとうまく料理できるぞ」とクイーンが考えて生み出したのが、『心地よく秘密めいた場所』という長編です(と、私は思っている)。こちらの作品では、殺人を出産になぞらえています。殺意が生まれた時点が受胎、犯人の計画の進行が妊娠期間、殺人は出産、というわけですね。かくして殺人(出産)の捜査に乗り出した名探偵エラリー・クイーンは、事件の背後(妊娠期間)をさかのぼり、殺意が生じた出来事(受胎)を突き止めようとするわけです。……と書くと、「『ゼロ時間へ』と同じく、普通のミステリーにおける事件の各段階の呼び方を変えただけじゃないか」と言われるかもしれません。しかし、それは違うのです。『心地よく―』では、この各段階が、犯人のトリックと名探偵の推理の双方において重要な役割を果たすのですよ。

【第五位】 『アクロイド殺し』
 デビュー当時のクイーンが、ヴァン・ダインの作品をお手本にしていたことは、有名です。しかし、大きな違いがひとつだけ。ヴァン・ダインの作品がワトソン役による一人称で書かれているのに対し、クイーンは三人称なのです。
 なぜクイーンは、そこだけ変えたのでしょうか? 最も大きな理由は、三年前に出た『アクロイド殺し』だと思われます。この作品のため、フェアプレイの犯人当てを銘打つ作品では、一人称を使えなくなってしまったのです。逆に言うと、当時、本格ミステリー作家を目指していたクイーンに、最も大きな衝撃を与えた作品だということになりますね。
 ところで、クイーンには、一人称を利用した叙述トリック作品がないか、といえば、実は『恐怖の研究』という長編があります。シャーロック・ホームズと切り裂きジャックが対決する同名映画のノヴェライゼーションなのですが、クイーンはこの作品に、映画にない、ユニークな叙述トリックを付け加えています。興味のある方は、ぜひ読んでください。

 と、五作品を挙げてみましたが、いかがでしょうか? 純正クリスティ・ファンとは異なる切り口になっていると思います。みなさんの意見も聞かせてもらえると光栄です。


 クイーン・ファンが選んだベスト10(クイーンの傑作を何冊読んでいますか?)
 第1位『ギリシャ棺の秘密』(1932)
 第2位『Xの悲劇』(1932)
 第3位『エジプト十字架の秘密』(1932)
 第4位『オランダ靴の秘密』(1931)
 第5位『Yの悲劇』(1932)
 第6位『フランス白粉の秘密』(1930)
 第7位『途中の家』(1936)
 第8位『災厄の町』(1942)
 第9位『十日間の不思議』(1948)
 第10位『靴に棲む老婆』(別題:『生者と死者と』)(1943)
    (EQFCのHP http://www006.upp.so-net.ne.jp/eqfc/ より抜粋)


戯曲「見知らぬ人からの愛」(第二幕第一場)

原作(短編「うぐいす荘」):アガサ・クリスティ
脚色:フランク・ヴォスパー
翻訳:小堀 久子

 WH通信No.63とNo.65の続きで、五回連載の第三回となります。当然(?)内容を覚えている会員は少ないと思いますので、前回までの粗筋を紹介しておきます。
 二人の女性(セシリーとメイヴィス)はルームメイトであったが、セシリーが結婚することもあり、その部屋を三か月間貸すことにした。だが実はセシリーと婚約者ナイジェルの仲はうまくいっていなかった。そこに部屋を借りたいという男ブルースが現れ、セシリーとブルースは何故かお互いに好意を持ってしまう。そして帰国したナイジェルが登場し、ナイジェルとブルースは対立する。周囲はヤキモキするが、セシリーとブルースは、ナイジェルを置き去りにして、二人で植物園に出向き――(S)。


第二幕

第一場

登場人物
ブルース:部屋を借りに来た男。一目でセシリーに好意を持ってしまい、結婚する。
セシリー:ヒロイン。30歳ぐらい。ブルースと結婚。
ホッジソン:庭師。
エセル:庭師ホッジソンの姪。
ルールー:セシリーのおば。おせっかいだが、セシリーのことを心配している。


(しゃれた田舎の一軒家の室内。四月のある晴れた日。午前十一時頃。
 部屋の内装は丸木造りだが、いかにも、というような古ぼけた感じはなく、天井もそれほど低くないので、直立しても頭をぶつけたりはしない。フランス窓からは、見事な庭を垣間見ることができる。
 この家は、実は民宿を改築したものである。どこか古風で趣のある階段が、一方は地下室へと導き、他方は二階へと導く。左手の台所のドアまで、二段の階段がある。右手の正面ドアはすぐ庭へと通じている。
 部屋は、ちょうど二人が入居したばかりで、散らかったままの状態である。セシリーの部屋にあったトランクは、中央の暖炉脇に置いてあり、一つの窓辺には脚立がある。右手に低いソファがある。熱帯的な模様を施した漆塗りの箱が、左手中央のテーブル前にある。
幕が上がると、そこには誰もいない。ブルースとセシリーの話し声や笑い声が、玄関扉の外側から聞こえてくる。鍵を開ける音)

ブルース:できるかい。そんなに開けにくいはずはないんだが。
セシリー:大丈夫よ。

(セシリーは部屋に入り、鍵をドアの内側に差し込んでおく。ブルースは玄関口にいる)
セシリー:(左手へ)ちょっとこの包みを台所に置いてくるわね。(台所へと消える)

(ブルースはカーテンを引き、フランス窓を開ける。セシリーが戻ってくる)
セシリー:まあ、なんて素晴らしいのかしら! (二人は右手中央で情熱的に抱き合う)この安らぎ。
ブルース:(ソファの右ひじに腰掛ける)言っただろう?
セシリー:(ソファに掛けて、彼の膝もとに寄る)ええ、あなたの言ったとおりだわ。こんな素敵な家とは一生縁がないと思っていたのに。
ブルース:なかなかないだろう、鶏の声や、ラジオがうるさいご近所に関わらずにすむなんて。
セシリー:その通りね。でもタバコを買いに行くのに3マイルも歩かなければいけないって、文句が出なければいいけど。
ブルース:その不便さがまたいいのさ。
セシリー:少しの間も、そばを離れないでね。でも電話をつけなかったのは失敗だと思わない?
ブルース:そんなことはないさ。それが田舎に住むいいところなんだよ。電話もない、車もない、素朴な生活。 セシリー:そうね。とにかく、何かあれば、犬のドンが守ってくれるだろうし。
ブルース:それに僕だって。今日は何の日か知っているかい?
セシリー:火曜日よ。
ブルース:ふざけないでよ。わからないかなあ。
セシリー:ダーリン……もちろん、わかっていてよ。(またブルースにキスをする。二人、笑う)
ブルース:こんなこと、起こるはずがないと言ったのを覚えているかい。
セシリー:あれからたったの六週間しかたっていないなんて、信じられないわ。
ブルース:あれから僕たちは結婚した。素晴らしいハネムーンを過ごし、ぴったりのコテージを見つけて、今ここにいる。
セシリー:駆け落ちみたいにあなたのもとへ走ったこと、ルールおばさまに、はしたない、と叱られそうね。
ブルース:ルールーおばさんは全くわかっていないんだ。僕だってあの日の午後、キュー植物園になんか行かないで、すぐに君と結婚したかった。わかるだろう。
セシリー:そうね、わかるわ。
ブルース:もちろんそうさ。(漆塗りの箱に気がつく)あ、しまった! (立ち上って箱の方へ)昨日これをここに置いたままにしたとは、うっかりしていた。すぐに暗室に持っていこう。
セシリー:(立って)地下室でしょう。
ブルース:僕の暗室にするのさ。だからそう呼び慣れておかないと。
セシリー:何があるのかしら。
ブルース:(箱を地下室へと運ぶため階段に向かうところ)ただ、つまらない写真がたくさんあるだけさ。ちょっと待って、ここに君が好きそうな物があるぞ。
セシリー:つまらない写真の束の中に? その箱には何か秘密がありそうね。さあ見せて。
(ブルース、中国製のショールを取り出す)
セシリー:どこで、これを?
ブルース:(ショールをソファのそばにいるセシリーに渡す) ええと、中国の漢口で会った男から、だったかな。
セシリー:とっても素敵。ありがとう。
ブルース:(フランス窓から外を見て)ああ、「我が荘園」!
セシリー:(窓のそば、彼より上手に立つ)「荘園」だなんて。庭でしょ、ブルース。
ブルース:いいや、果樹園だってあるんだから、「荘園」と呼ぶにふさわしい。
セシリー:ねえ、ブルース、この家の値段の事を気にせずにいられないのだけど。1500ポンドは高すぎると思わない?(ショールをソファの後ろのテーブルに置く)
ブルース:(極めて自然に)そんなことないさ! 他にもこの家の二倍もする、とんでもない値段の家も見ただろう。
セシリー:家探しがハネムーン、というのも楽しかったわ。
ブルース:外国旅行をさせられなくてごめん。がっかりしただろう。
セシリー:いいえ、夏の後に出かける方が、いい考えだと思うわ。
ブルース:そうだね、冬になるとあの道は、かなり通り抜けにくくなると思う。ああ、君を連れて行きたい街は……おや、あれは管理会社が言っていた老人じゃないのか。今日は出て来る日なのか。
セシリー:ええ、そうだわ、ホッジソンよ。リューマチが治ったようね。一緒にいる女の子は誰かしら。
ブルース:庭師というのは、いつもガールフレンドを連れて仕事に来るものなのかい?
セシリー:そんなこと知らないわ。(窓から呼びかける)おはよう!ホッジソン。
ホッジソン:(声)奥様、おはようございます。
セシリー:(窓から離れて、慌てながら言う)来るわ。庭造りのこと、ご存知?
ブルース:(やや上手中央に寄る)あんまり。君は?
セシリー:全然。でも詳しいふりをしましょう。

(ホッジソンが窓辺に現れる。彼は快活な老人で、率直で素朴な人柄だ。彼の役は劇の上のただの通りすがりではなく、しっかりと性格付けられた登場人物である)
ホッジソン:おはようございます、奥様。おはようございます、旦那様。この前いらした時には、お会いできなくて、失礼いたしました。リュウマチが悪くなってしまって、グリブル先生に、二、三日仕事はよしたほうがいいって言われてたもんですから。
セシリー:ええ、代理人から聞いたわ。
ホッジソン:ですから、今日はその埋め合わせってことで働きたいんですが、お許しをいただけましたらと思いまして。ずっとこのお庭の世話を見させてもらっております。前にここにいらしたダニング様は、お屋敷が空き家の時でも、私に任せてくださっていました。
ブルース:ああ、これからも頼むよ。
ホッジソン:では、このまま雇って下さるんで?
セシリー:ええ、お願いするわ、ホッジソン。
ホッジソン:家のほうの仕事をする者も必要では?
セシリー:ええ、でも、実はまだ決めていないのよ。
ホッジソン:といいますのも、私に姪がおりまして、名はエセルというんです。エセルは奉公の経験はないですが、気の利く子なんですよ。もしかしてお会いになって下さるかと、一緒に連れてきた次第で。
セシリー:それはありがとう、ホッジソン。入るように言ってちょうだい。
ホッジソン:(窓から呼ぶ)エセル!こっちにおいで。(セシリーに)それほど頭のいい子じゃあないですが、教育はちゃんと受けています。ピアノだの、何だの……それに何でも嫌がらずにやりますし。
ブルース:(セシリーに)君なら、ええと、良いコーチになれるだろう。
セシリー:教えてあげられということかしら。ええ、なんとかね。

(エセルが入ってくる。特に聡明な感じはしないし、服装もさえない。しかし清純そうで、満面に笑みをたたえている。舞台下手の窓際、ホッジソンのそばに立っている)
セシリー:おはよう、エセル。
エセル:おはようございます、ミス……えっと、(ブルースを見る)奥様。

(間。ホッジソンはエセルを中央に押し出す)
セシリー:あなたの叔父様に聞きましたけど、あなたは、なんていうか……奉公先を探しているそうね。
エセル:はい。姉のネリーが学校を出て家にいるもんだから、母があたしなんか要らないって。二人も娘が家にいても、役に立たないって言うものだから……。
セシリー:そう。ここに来て働く気はある?
エセル:はい、お願いします。奥様さえ気に入ってくだされば。いつも家のことはやってきてるから、どんなことだって……。
セシリー:料理は?
エセル:ミルクプリンをうまく作れるし、後はシチューとか、ダンプリングとか。気取ったものはできないけど。
(ブルースは暖炉のそばにあるトランクに腰掛けている)
セシリー:分かったわ。私たち仲良くやっていけそうね。じゃあ、お給金はどれくらい……。
ホッジソン:それは奥様にお任せします。
セシリー:いつから来られるかしら?
エセル:(すぐにコートを脱ぎながら)今すぐ! でもエプロンはありませんけど。
エセル:(すぐにコートを脱ぎながら)今すぐ! でもエプロンはありませんけど。
ホッジソン:そうだ、母ちゃんが言っていたことを奥様にお話ししたらどうだ。
セシリー:何かしら?
エセル:実は、お許しくださるなら、母が、住み込みは勘弁してもらえって。母を一人にするのは……。
ホッジソン:母親を残してはいけないのです。しかし、いくらでも遅くなってもかまわないので。
セシリー:よく分かりました。それで結構よ。そうね、まず、台所に行ってもらおうかしら。
エセル:はい、奥様。さっそく。(台所へと飛び込むように行く)
セシリー:この踏み台を持って行ってちょうだい。ここではもう使わないから。

(エセルはまた飛び込むような勢いで戻ってくる。踏み台は小窓と正面ドアとの間の壁にたて掛けてある。それを持ってまた台所に戻る)
ブルース:すごい元気だね。それは認める。
ホッジソン:はい、いい子です。このお屋敷では住み込みのメイドを置いたことはなかったですよ。私がここに来てからずっと、ダニングさまが戦争前に改築して以来……。
セシリー:前は何だったのかしら。
ホッジソン:はい、50年前は、民宿だったのですよ。
ブルース:そんな気がしていたよ。
ホッジソン:前は道路だった道が今では草に覆われてしまって。新しい道路が出来てからはとんと用無しになってしまい、草ぼうぼうですわ。でも少しくらいの草で、パブまで出かけていく気が失せやしないでしょう。

(一同、笑う)
ホッジソン:さあて、仕事にかかりますかな。この春の陽気で、雑草が茂ってきているのがお分かりでしょう。順調な天候だということですがね。(退場)
セシリー:ねえ、民宿だったなんて、おもしろいわね。(ホッジソンの背中に)ライラックを少し摘んで来てくれないかしら。白と、モーヴの。

(ブルースは立ち上り、左手中央のテーブルに移動して書類を取り上げ、自分のポケットから万年筆を出してテーブルに腰掛ける)
ホッジソン:(声)かしこまりました、奥様。
セシリー:トランクを片付けるわ。(トランクを開けて二個のクッションを取り出し、ソファの両端に置く)見て!  これで十分じゃない。すぐに旅行に行くんだから、今、新しいカバーを買う必要はないわ。来年新調すればいいんだから。
ブルース:要領がいいね。そうだ、仕事に取り掛かる前に、ニ、三の書類に君の署名が必要なんだけど。
セシリー:どんな書類?
ブルース:この家を買ったことについての、くだらない法的手続きがまだ残っているんだ。
セシリー:法律って、つまらない形式にこだわるものよね。
ブルース:そうなんだ。君には迷惑をかけて申し訳ないが。銀行が僕の為替手形を通してさえくれたら。どうしてこんなに遅れているんだろう。
セシリー:(ブルースの下手に来る)あら、そんなこといいのよ。気にしていないって言ったでしょ。(書類を手に取る)どこに? ここかしら?
ブルース:(万年筆を手渡す)そう。読まなくてもいいのかい?
セシリー:(万年筆を手に)……その点においては前述の通り…………読まなくてもいいかしら。
ブルース:君が読みたくないのならいいよ。ビジネスはだめだね。
セシリー:まぁ、ブルース。私だってお勤めしていた頃はてきぱきやっていたのよ。日付も書いたほうがいい?
ブルース:そうだね。
セシリー:(言われた通りにする)ややこしいものね。

(ブルースは一枚目の書類をどけて、二枚目をセシリーの前に置く。手の平で本文を隠すようにしている)
ブルース:それから、ここ。

(セシリーは上の空で署名する)
セシリー:さあ、もう全部忘れちゃいましょう。
ブルース:満足?
セシリー:あなたはどう?

(ブルース、立ち上る。必要な署名を全部得たのでほっとしている)
ブルース:(セシリーを抱きかかえる)僕の人生で一番素晴らしい瞬間だと思う。君と僕、二人だけで、僕たちの小さな家に……。

(ドアのあたりにルールーおばさんの頭が見える)
ルールー:あっ、見つけましたよ!

(二人は大変驚いて、離れる)
ブルース:ああ、なんてことだ!
セシリー:(おばに駆け寄る)ルールーおばさま!
ルールー:(中央まで歩いてきてセシリーと顔を合わす)ちょっとビックリさせたかっただけ。(セシリーにキスをする)鼻がちょっと冷えましたよ。あなたが小さな愛の巣を見つけたと手紙をくれてから、ずっと尋ねてみたいと思っていたところ、今日は割引き切符を見つけたものだから。セシリー!なんてきれいになって。輝いているわ。誇らしいでしょう、ええと、ブルース?
ブルース:あなたの人生は、安売り切符を探し出したり、賭け事のようだ!
ルールー:(ブルースの方へ)ええ、そうよ。往復たったの9シリングで、廊下がついている一等車で、そりゃあもう、快適な汽車の旅だったわ。でもこれだけは言わせて、駅からタクシーで7シリング6ペンスだなんて、とんでもないこと。ロンドンから乗ってくるのと変わらないじゃないの! 不正行為だわ! 誰に文句の手紙を書いたらいいのかしら?
ブルース:さあ。その運転手くらいしか。
ルールー:あら、でもその運転手は、迎えに来てくれるのだったわ。3時40分の汽車を逃したら、また8シリング10ペンスで切符を買わなければならないのよ。そんなこと、ごめんだわ。
セシリー:まあ、お座りになって。旅でお疲れになったでしょう。
ルールー:(中央の肘掛け椅子に座り、持参した園芸の本を脇のテーブルに置く)あら、全然疲れていませんよ。そうそう、あなたに、最高に素晴らしいメイドを見つけてきたわよ。プリマス教会の修道尼なのだけど、いやかしら。でもこの頃はそういうのも良いのじゃないかしら。少なくとも、あなたがそれを理解して何とか使っていけばいいわけだから。

(エセルが左手台所より登場)
エセル:見て下さいまし! こんな馬鹿でかい荷物が届きましたよ! 今、運送屋が置いていきました。本みたいですね。(大きな荷物を漆塗りの箱の上に置く)
セシリー:ご苦労様、エセル。そうね、その箱を地下室に運んでくれないかしら。

(エセルは本の箱をテーブルの上に移動する)
ブルース:いや、いいんだ、僕がやるから。地下は誰にも荒らされたくない。はっきりさせておこう、あそこは僕だけの部屋にするから、誰も干渉しないで欲しい。
セシリー:いいわ。

(エセルが口をあんぐり開けてルールーを見ているのに一同気がついて、沈黙)
セシリー:エセル! 気にしないで! 行っていいわよ。(エセルが聞いていないので)行きなさい!

(エセル、台所へと退場。ルールーはエセルが出て行くのをじっと目で追っている。なにか言いたげにセシリーの方へ向く)
セシリー:おばさまのご好意は大変嬉しいけれど、ご覧のように丁度あの子を雇ったところなの。

(ブルースはテーブルの左に立って、箱から本を取り出し始める)
ルールー:あなた、それが賢明な判断だと思っている? 身元は調べたの?
セシリー:それなら大丈夫よ。庭師の姪なの。
ルールー:そう言っているだけかも知れなくてよ。
ブルース:(荷物を開け始める)あの子がそれ以外の何者かだなんて、想像できないけれどね。
ルールー:(秘密めかして)わかりゃしませんよ、この頃の村の娘なんて。今はいいですよ。でもね、季節が変わって、夜が長くなり始めると……。
ブルース:(窓辺へ)ムディース書店から来た本だ。
セシリー:(一冊手にとって)なんて恐ろしい写真なの。ぞっとするわ。ブルース、どうしてこういう本が読めるの?(ルールーに写真を見せる)
ルールー:(読んでいる)"事件現場の実際の写真……"、まあー、なんて気色の悪いのこと。しかも昼食の前だというのに。他には?
セシリー:この家はどうかしら?
ルールー:(立ち上って、中央から階段、そして後方までぶらりと見て歩きながら)ええ、素敵だわ! 素晴らしい! 理想的ですよ。とても古風な趣があって、絵のように美しい。静かな、夢のコテージだわ。ちゃんと調査した上で決めたのでしょうね?
ブルース:その点は大丈夫です、ミス・ギャラード。僕は結構、見る目があるんですよ。こういう物件について、詳しいのです。
ルールー:そうそう、カナダでね。まあ、ここは確かに環境としては最高ですよ。
セシリー:言ったとおりでしょう。
ルールー:木材は腐っていないか、確認したの?
セシリー:そんなところ見えないわ。
ルールー:見えないといってもね、あなた、そういうものは、知らず知らずの内に進行して、最後に、建物全部が崩れ落ちてあなたの上に被いかぶさる。そういうものなのよ。
ブルース:それはきっと僕が入浴する日に起こるかもしれないな。
ルールー:あら、浴室があるのね。
ブルース:当然ですよ、水もたっぷり出ます。
ルールー:(セシリーの方へ)それは良かったわ。ちょっと文化的な感じがしてきましたよ。(セシリーへ、打ち明けるように)庭の端にあるのが見えたのだけど……雨の夜は不便じゃないかしら。
ブルース:(耳にはさんで)いいえ、あれは道具小屋です。

(セシリー、箱から本を取り出し、右手中央の本棚にしまう)
ルールー:(気まずくなって)ああ、そうね、ここで、何もしないわけにはいかないわ。昼食の分くらい、働きましょうかね。そのトランクを手伝いますよ。

(ルールーとブルースはトランクの方へ。エセルが台所から入ってくる)
エセル:あの食器棚はもういっぱいです、奥様。残りはどうしたらいいですか。
セシリー:行って手伝うわ。
ルールー:私も行きましょうか。
セシリー:いいえ、大丈夫よ、ルールーおばさま。エセルと私で、何とかできると思う。
ルールー:そうね、三人で入るには、ちょっと狭いようだし。

(セシリーは台所へと退場。エセルがそれに続く。ルールーはその後ろ姿を見ている。ブルースは『有名な裁判』シリーズを本棚から取り出して、暖炉の前でページをめくり始める)
ルールー:さあて、お次はなにを片付けましょうか。(漆塗りの箱を開けて、アルバムを取り出す)スナップ写真ね。

(ブルースは慌ててルールーのところへ行き、アルバムを奪い取る)
ブルース:失礼、ミス・ギャラード。
ルールー:あら! 見てはいけないものだったようね。
ブルース:いいえ、そういうわけではないんですよ。
ルールー:絶対そうよ。きれいな娘さんが、ショールを羽織っていたわ。あれは誰?
ブルース:妹ですよ。
ルールー:心配しなくてもいいのよ。私は心の広い女ですから。荷物を手伝いましょう。
ブルース:(急いで箱に手をかけると、地下の方へと持っていく)ありがたいですけど、自分でできますから。写真は、ただの趣味なんですよ。片付けてしまいましょう。(地下室へと退場)
ルールー:ゴキブリに気をつけなさい。

(ルールーは何気なくソファの後ろのテーブルまで行き、ショールを見つける。セシリーが入ってくる)
セシリー:ねえ、ブルース、エセルはあれでなかなか役に立つ子なの……。
ルールー:きれいなショールね。
セシリー:ああ、それ、とてもいいでしょう。ブルースがくれたのよ。
ルールー:あら、そう。
セシリー:残りの食器は食糧貯蔵庫の上の棚に入れなきゃならなかったのよ。
ルールー:よく調べもしないで、とんでもない物件を買ったのじゃなければいいけど。いくらしたの?
セシリー:1500ポンド。
ルールー:お高いわねえ。

(ブルース、地下室から戻る。セシリーはトランクの方へ行き、荷解きを続ける。本や写真などが出てくる)
ブルース:ここの地下室はこれまでで一番良い暗室になりそうだ。きれいに片付くまで、丸一日かかりそうだ。
ルールー:あなたがセシリーにあげたショールを褒めていたところですよ。
ブルース:(テーブルから園芸の本を取り上げる)これはあなたのですか、ミス・ギャラード。
ルールー:ええ、そうそう。とってもいい本よ。古本屋で買ったのよ。7シリング6ペンス、1シリングおまけしてくれたの。園芸の本よ。後で見てちょうだい。
セシリー:(荷解きをしている)あら、見て! 私の蜀台だわ。そしてもう片方。(包みを解いてみると、壊れている)まあ!
ルールー:(なんとか言い訳を考えて)あの運送業者はダメね!

(ホッジソンがライラックの花束を抱えて、フランス窓から入ってくる)
ホッジソン:奥様、ライラックです。
セシリー:(ホッジソンの方へ行き、ライラックを受け取る)ありがとう、ホッジソン。言葉にならない程きれいね。ルールーおばさま、見て、庭で咲いたのよ。
ルールー:素晴らしいわ!こんなきれいなものがタダで……。
セシリー:(台所に向かって)エセル! 水差しに水を入れて持ってきてくれるかしら。
ルールー:そして、こちらが庭師というわけね。
ホッジソン:さようで、奥様。

(エセル、花瓶を持ってきてセシリーに手渡し、退場する)
ルールー:(園芸の本を持って、ホッジソンの方へ)この本は彼の役に立つかもしれないわね。……これは『毎日の庭のお手入れ』という本ですのよ。ここにカレンダーがあって、一年間、毎日何をすればいいのか、教えてくれるの。さあて、四月は何をしたらいいのか、見てみましょうか。
ホッジソン:(出て行こうとする)私は三十年間、この庭を本なんか見ないで世話してきたんですから、いまさらそんな……。

(ルールーが次のせりふの中で、"根覆い"にさしかかる頃には、ホッジソンはジリジリと庭へと後ずさりしている)
ルールー:季節にそった作業をしなければならないのよ。なにしろ、この本は他とは違うのですから。(本をめくる)ええと、今日は何日?ああ、そうそう、ここよ。(読む)「鉢に百日草の種をまく。温度を摂氏十六度に保つ。さて、根覆いを施しましょう」ですって。"根覆い"? 面白い言葉ね。「新しく腐った」いえ、「肥料を……」(顔を上げる)いないわ。肥料のことを言わなければならなかったのに。(フランス窓の方へ)お待ちなさい、庭師の方!

(ルールーは庭へと退場。セシリーとブルースは笑いをかみ殺すことに必死)
ブルース:ホッジソンはたまげただろうね。
セシリー:気の毒だけど、おばさまは親切のつもりなのよ。
ブルース:それは分かっているさ。でも、これから度々来るつもりじゃないだろうね。
セシリー:そんなことないと思うわ。
ブルース:君と二人きりでいたいんだから、邪魔しようとする者は誰であろうと許さない。もしルールーおばさんが……。
セシリー:黙って、おばさまが戻ってくるわ。(窓辺へ行って見るが、笑い出す)大丈夫。垣根のところで、上ったり降りたり、ホッジソンを追いかけているわ。

(ブルース、セシリーの後ろから、うなじにキスをする)
セシリー:ホッジソンは今に、鋤でおばさまの頭を殴るわよ。

(ブルース、地下室の階段の方へ)
セシリー:見て、あれだけ近づいても、ホッジソンはおばさまを無視しているわ。角に追い詰めたわ!(また笑う)いいからちょっと来て、見てご覧なさいな。おばさまったら……。

(セシリーがブルースを見ると、彼は階段の手すりにしがみつくようにもたれている。セシリー、ブルースのもとへ駆け寄る)
セシリー:ブルース! どうしたの?
ブルース:なんでもない、なんでもないんだ。もう大丈夫。
セシリー:でも、どこか悪いの?
ブルース:ちょっとめまいがしただけさ。なんでもないんだよ。きっとルールーおばさんのあんな姿を見たからかもしれない。
セシリー:こっちへ来て、座って。

(セシリーはブルースを肘掛け椅子へと導く)
セシリー:ここに掛けて、休んで。お医者様を呼びましょう。
ブルース:いや、だめだ、だめだ。医者は要らない。今はもう落ち着いた。
セシリー:でも、ブルース……。
ブルース:(きっぱりと)医者は要らない。
セシリー:(台所へと動く)お水を一杯……。
ブルース:いや、いいんだ。かまわないでくれ。
セシリー:じゃあ、何か他に持ってきましょうか。何か欲しいものはある?
ブルース:あるよ。
セシリー:なに?
ブルース:君だ。そばに座っていて欲しい。
セシリー:(言われたとおり、肘掛け椅子の左端に腰掛ける)本当にもう良くなったの?(彼に腕を回す)
ブルース:(セシリーの方に頭を預けて)もう完璧に大丈夫。君が行ってしまわない限りはね。
セシリー:行かないわ。
ブルース:(目を閉じて)ああ、極楽だ……少なくとも三時十五分までは。
セシリー:どうして三時十五分なの?
ブルース:ルールーおばさんの汽車の時間さ。

(二人、笑う)
セシリー:でも、本当ね。こうしていると、完璧、って気がするわね。
ブルース:完璧に近づいている。
セシリー:まだ完璧じゃないの?
ブルース:つまり、まだ進歩し続けているということさ。(完璧な英語を話し始めている)真の完璧に向かって進化し続けているのだよ。そして、その時……
セシリー:そして、その時?
ブルース:そして、その時……、ダーリン、君はなんて素敵なんだ。……その時どんなに素晴らしい世界が開けているか分かるだろう。
セシリー:ねえ、あなた今、ちゃんとした英国人みたいに喋っているわ。
ブルース:そう?


落ち穂ひろい(その3)

鳥居 正弘

 クリスティのミステリーには、シェイクスピア作品を始めとしたさまざまな古典の文章が引用されています。本稿はそれらを集めて注釈をほどこしたもので、WH通信No.60とNo.65に続く連載となりました。
 今回対象となるクリスティ作品は『忘られぬ死』です。早川ポケット・ミステリの中では最初に(昭和28年に)紹介された作品で、シリーズ・キャラクターはお馴染みのポアロやマープルではなく、レイス大佐です。そのためか、少し地味な作品といってよいでしょう。
 実は鳥居さんは『忘られぬ死』以外の作品も調べているのですが、紙幅の関係もあり、他の作品については次号まわしになりました。引用の多いミステリー作家といえば、ルース・レンデルやレジナルド・ヒルが有名です。同じような調査をすれば、この数倍はありそうですが(作品自体もかなり長いので)、クリスティ作品も、結構引用の多いことがわかります(S)。


1)"Sparkling Cyanide"(『忘られぬ死』)(米国版"Remembered Death")
@ Book 2.サブタイトル:There's Rosemary, that's for remembrance;
最後の頁:
   He touched the spring of fragrant green with his lips and threw it lightly out of the window.
   'Good-bye, Rosemary, thank you…….'
   Iris said softly:
   'That's for remembrance ……'
   And more softly still:
   'Pray love remember……'
Hamlet W,D,175-176参照:
   Ophelia There's rosemary, that's for remembrance; pray, love, remember:
注A rosemary:マンネンロウ又はローズマリーという名の花。その強い香りは追憶をよみがえらせると考えられ、花言葉は'remembrance'。結婚式、葬式の両方に用いられた。ここでは亡きOpheliaの父Poloniusに捧げる花であり、愛する人Hamletに捧げる花、つまりこの舞台上では狂ったOpheliaがHamletと思って兄Laertesに捧げる花であり、そしてこのシーンを最後に姿を消すOpheliaが愛する肉親の兄Laertesに最後に捧げる花である。
注B love:兄Laertesに向かってHamletに話しかけるように云っている。
          (上記注は大山俊一『注釈Hamlet』による)
A Book1, Chapter2
 'I don't know. You're different. I couldn't play up the usual technique to you. Those clear eyes of yours - you wouldn't fall for it. No, "More sinned against than sinning, poor fellow" wouldn't cut any ice with you. You're no pity in you.'
King Lear V,A,59-60 参照:
 I am a man more sinn'd against than sinning.
 荒野をさまようリアの耳には、風の雄叫び、雷の威嚇は審問官の前に罪人を呼び出す法廷役人のおそろしい声のように響く。思わず「わしは、罪を犯すというより罪を犯された人間なのだ」と叫ぶ。有名な句。なお岩波文庫、野島秀勝訳は「わしは人から罪を犯されこそすれ、自分から犯した覚えのない人間だ」。
B Book2, Chapter2:
 'No, I'd never been in love. I was a starved, sexless creature who prided himself - yes, I did - on the fastidious coldness of his nature! And then I did fall in love "across a room" - a silly violent puppy love. A thing like a midsummer thunderstorm, brief, unreal, quickly over. He added bitterly: 'Indeed a "tale told by an idiot, full of sound and fury, signifying nothing"'
Macbeth X,D,19-28 参照:
 To-morrow, and to-morrow, and to-morrow,
 Creeps in this petty pace from day to day
 To the last syllable of recorded time,
 And all our yesterdays have lighted fools
 The way to dusty death. Out, out, brief candle!
 Life's but a walking shadow, a poor player
 That struts and frets his hour upon the stage
 And then is heard no more: it is a tale
 Told by an idiot, full of sound and fury,
 Signifying nothing.
「Shakespeare Quarterly 誌によると上記の10行から、近代の作家15名がそれぞれ作品の題名をとっているといわれる(注:アンダーラインが作品の題名になったところ。複数の作者が同じ題名の作品を出している場合あり)。William FaulknerにThe Sound and Furyという作品あり」(元東京外国語大学学長小川芳夫著『巷の英語』)。なおNHKのテレビ「英語でしゃべらないと」の放映で、江守徹さんが後半部分の原文を、原稿を見ないで暗唱を披露していました。
 マクベスの邦訳本は多いが、この後半部、すなわちOut, out, brief candle! から終りまでの他の訳例:
   「消えろ、消えろ、束のまのともしび。
   一生は唯あるいている影だ。番が来れば
   舞台を横行闊歩するが、
   すぐに音もしなくなる哀れな役者に過ぎない。
   白痴がしゃべる作り話で、いくら騒ぎ立てても狂ひ廻っても、何ひとつ意味のないもんだ」
                       (斉藤勇著『シェイクスピア概観』(東京新月社))
  (注:この本は昭和23年に購入。何回もくり返し読みました懐かしい本です。)
C Book3, Chapter1
'Any evidence as to whether his wife knew what was going on. '
'As far as we could learn she knew nothing about it'.
'She may have, for all that, Kemp. Not the king of woman to wear her heart on her sleeve.'

なおThree Act Tragedy(『三幕の殺人』)(米国版Murder in Three Acts)のFirst Act, fiveも参照。
"Girls don't wear their hearts on their sleeves" thought Mr. Satterthwaite. "Egg makes a great parade of her feeling for Sir Charles.
She wouldn't if it really meant anything.
Young Manders is the one."
Othello T,@,61-65 参照:
For when my outward action doth demonstrate
The native act and figure of my heart
In compliment extern, 'tis not long after
But I will wear my heart upon my sleeve
For daws to peck at: I am not what I am.
なお研究社新英和大辞典"heart"の項の追記idiomを参照。
この句のallusionの例:
The polished hearts with which they fastened their aprons behind might have been their own, worn outside for general inspection and for Christmas daws to peck at if they chose.
C.Dickens, A Christmas Carol, stare three
            (研究社小英文双書、市河三喜注釈)


オリヴァー夫人の謎?

山田 由美子

 創刊時からの会員でも忘れているかもしれませんが、WH通信の創刊号(1971年9月に刊行!)には、三木杉子さんの「アリアドネ・オリヴァー夫人のすべて」が掲載されています。本稿は、それ以来のオリヴァー夫人に関する考察のはずです。
 三木さんのエッセイはかなりの長文で、1)オリヴァー夫人の風貌、2)その生活、3)その作家活動、4)その他、から構成されています。ただし三木さんは原稿を出してから「オリヴァー夫人がパーカー・パインの嘱託をつとめていたことを失念していたのに気づいた」そうで、その点については触れられていませんでした。
 本稿は、偶然とはいえ、主としてその穴を埋めるものになっています。オリヴァー夫人がパーカー・パインの嘱託をつとめていた1934年から、すでに関係を絶っていた1936年までの間になにがあったのか? 興味深い謎解きをしています(S)。


 ミセス・オリヴァーが突然ポアロ物に現れたのは、1936年の『ひらいたトランプ』である。だがそのとき彼女はすでにポアロと「ある文学者の晩餐会」で面識があった。そして1952年『マギンティ夫人は死んだ』から1972年の『象は忘れない』まで、ポアロに「アリアドニ」とファーストネームでよばれるほど、長い親交を持つのである。
 この愛すべき女流探偵小説作家の著作を読んでみたいと思う。特に『森の中の婦人』や、『白いオウム』などを。日本語にも訳されているそうだから。彼女が登場すると、なぜか私は元気になるのだ。そしてむしょうにリンゴが食べたくなる(だからいつも絶やさないようにしている)。これはマープルを読むと紅茶を飲みたくなるのと同じだ。
 1934年ごろ、ミセス・オリヴァーはリッチモンド街17番地で小説を書きながら、パーカー・パイン事務所のスタッフとして働いていた。このころミス・レモンと面識があってもよさそうなのだが、この二人はなぜかポアロの前では知らんぷり。後にミス・レモンはミセス・オリヴァーからの電話を切った後、「彼女はでたらめ」で「調和の観念がない」とずいぶん手厳しく、ポアロに話している。こう言ったらなんだが、どうもこの二人はポアロに「パーカー・パインのところにいた」ことを隠しているようだ。話せないわけでもあるのか? それともポアロの知らぬところで「あの節は」などと話したりしたのだろうか? まあ、それはないと思う。このふたりほど、水と油な性格はないのだから。
 ただ一つ言えることは、地球上に(!)ポアロ以外にも「灰色の脳細胞が活発」な探偵がいるなどと、ポアロの前ではその性格を考えるととても話せない、というところではないか……。
 前出の1936年、アリアドニはもうパーカー・パインとは関係ないようだ、ということは、1934年から1936年の二年間で何かがあったのか、などと思っていたら、変なことに思い当たった。
 『そして誰もいなくなった』(1939)の被害者の一人、エミリー・ブレントが言っていたではないか。自分をインディアン島へ呼んだ手紙の人物を。
「何年か前……たしかオリヴァーというのだった」「ミスだったか、ミセスだったか……」
 この「オリヴァー」はアリアドニなのか? ああ、どうしても知りたい。これもアガサが残した小さな謎なのか。


――埋め草情報――

 先号の「クリスティ症候群患者の告白」欄で紹介したクリスティ作品の翻訳権の噂についての続報です。そこでは『オリエント急行の殺人』と『三幕の殺人』が、翻訳権十年留保の関係で早川書房以外からは翻訳できなくなるかもしれないと書きましたが、最終的にはこれまでと同じく、どの社でも出版できることになったようです。一読者としては、無事解決して安心しました。
 なお10月15日には文庫版のクリスティ全集が早川書房から刊行されました。『スタイルズ荘の怪事件』の解説は私が書いています。目新しいことは書いていませんが、ぜひ読んでみてください。


ミセス鈴木のパン・お菓子教室

第15回 紅茶ロール

鈴木 千佳子

はじめに
 今回は、私独自のレシピの中から選んだものを紹介したいと思います。私の個人的趣味(イギリスをイメージしたパンをつくってみようという)に沿って考えたもので、紅茶(アールグレイ)の風味とレモンピールの香りがなんとも言えず、家族にも、生徒さんたちにも好評でした。自分が思い描いたものに近いお菓子やパンが出来て、しかも皆さんに喜んでいただける時は、本当に教室をやっていて良かったと思います。ファンクラブの皆さんの口にも合うといいのですが。


材料

 強力粉・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・300g
 イースト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6g
 キビ砂糖・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30g(どんな砂糖でも良い)
 あら塩・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4.5g(精製塩の場合は6g)
 アールグレイ(粉末)・・・・・・・・・・・・・・3g(ベルガモットの香りが良いが、なしでも良い)
 アールグレイ(茶葉)・・・・・・・・・・・・・・3g(ティー・パックが使いやすい)
 卵・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60グラム
 水またはぬるま湯・・・・・・・・・・・・・・・120g(夏は水道水、冬は40度くらいのお湯)
 バター・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30g(室温に戻しておくと使いよい)
 レモンピール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30g(あらみじん)
 ピーカンナッツ・・・・・・・・・・・・・・・・・・30g(あらみじん)(胡桃でも良い)
 照り卵・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・適量

作り方

  1. 材料を量る。
  2. ボールに強力粉からアールグレイまでを入れて、よく混ぜる。
  3. 卵と水を加え、木べらでしっかり混ぜ、水分がなじんだら、手でこねていく。テーブルの上でたたいても良い。
  4. ひとまとまりになったら、バターを練りこんでいく。バターが生地になじんで塊が見えなくなったら、再びこねたりたたいたりしていく。(生地を薄く延ばすと、千切れたりしないで、向こう側が透けて見えるくらいまでしっかりした生地を作る。この間だいたい、20分から15分。)
  5. 出来た生地を油脂をぬったボールにいれ、ラップをして暖かいところに置き、30分ほど休ませる。(乾燥させないこと。生地温度が28から30度を越さないように気をつける。温度計があると便利)
  6. ガス抜きをして、8に分割し、丸めてキャンバスなどしっかりした布の間にはさんで20分ほど休ませる。(乾燥しないように、キャンバスの上に絞ったぬれぶきんをかけると良い。)……ベンチタイム
  7. 生地を丸めなおしてガスを抜き、油脂をぬった21cmのエンゼル型に並べ、20分ほど仕上げ発酵をさせる。(湿度と温度が必要なので,発泡スチロールの箱か,ビニール袋にお湯をいれたマグカップなどと入れておくと良い。)
  8. 刷毛で卵を塗り、余熱をしておいたオーブンにいれ、180度で20分ほど焼く。焼きあがったら、網の上でさます。エンゼル型がなければ、天板にクックシートを敷いたり、バターを縫って、丸く並べるだけでかまいません。

クリスティ症候群患者の告白(その35)

数藤 康雄

×月×日 "日常の謎"が見つかった。"50円玉20枚の謎"のような魅力的なものではないが、会員のなかには郵政公社の関係者がいるかもしれないので、一応書いてみよう。
 二、三年に一度ほどだが、六月に発送した機関誌が「転居先不明」で戻ってくることがある。三月は卒業や転勤の多い時期だから、機関誌が戻ってくること自体は驚かないが、今回戻ってきた理由は「転居先不明」ではなく、「あて所に尋ねあたりありません」という目新しいものであった。
 まず思い付いたのは、パソコンへの住所入力ミスである。ところが調べてみると間違いはなかった。それどころか、この会員は、継続希望ということで今年の二月に継続の会費を払ったばかりであったのだ。その時の郵便振替に記載されている住所は、もちろんパソコンに入力した住所と同じである。つまりその住所に、それまでは五回以上も機関誌が届いていたのに、突然届かなくなったというわけである。
 プライバシーの関係もあり住所を全面的に明らかにするのは避けるが、その会員の住所は、名古屋市××区××町×−×、宝堀田ハイツB−1006である。以前はこの住所で届いたのだから、「あて所に尋ねあたりありません」はオカシイのではないかと、再度の調査を郵便局にお願いした。一週間後にハガキできた回答はさらに不思議なものであった。「××町×−×には宝堀田ハイツは存在していません。○○様はママ違いされたと思われますので、お知らせ致します」なのである。
 しかしこの説明は納得しがたい。すでに五回はその住所で機関誌が届いているはずだし(届いているからこそ、継続のための会費が振替で送られてきたわけで)、これは○○様ではなく、郵便局員の勘違いの方が確率は高いであろう。とはいえ、こちらもメンドウになってしまい(そしてあまりしつこく調査するのはストーカーのような気分になるので)、調査はここで中断してしまった。でも、ハイツBという表示からは、当然ハイツAもあり、1006という数字からは10階建て以上のマンションが想像できる。つまり、調査結果を日常の謎として勝手に解釈するなら、それまで存在していた十数階建てのツインの高層マンションが、今年の春に忽然と消えてしまったことになる。不況の時代とはいえ、そんなことが起こるのか? 誰か灰色の脳細胞を駆使して、謎を解いてくれないだろうか。
×月×日 ついにジュリアン・シモンズの『ブラッディ・マーダー』が翻訳された。原書は30年近くも前に入手していたが、当時の私の英語力では歯が立たず、読むのを途中で放棄してしまった本であり、この本に関しては実に恥かしい体験もしている。でも本欄は"告白"を旨とするところであるから、その恥を告白しておこう。
 私はこれまで職場を二回変えている。最初の職場は某電機メーカーで、前後左右どちらを向いてもすべてエンジニアという世界であった。それはそれで刺激的な職場であったが、さまざまな理由から転職したくなった。そしてどうせ転職するなら、無謀にもまったく異なる研究に手を出したくなったのである。当時そのような言葉があったかどうか忘れたが、専門分野の異なる人々が協力してひとつの研究を行うという、今でいう学際的な研究をしたくなったのである。
 で、転職した新しい職場がどのようなところかというと、そこは、右を向けば心理学者、左を向けば社会学者、前を向けば医学博士、後ろを向けば補装具士という世界である。それが『ブラッディ・マーダー』とどういう関係があるかというと、この本は、「探偵小説から犯罪小説への歴史」という副題からも明らかなように、ミステリーの歴史を真面目に、学術的に論じたもので、第一章「推理小説とは何か、なぜ推理小説を読むか」の中に、「推理小説はなぜ読まれるのか――その心理学的考察」という文章があるからだ。
 その原文に歯が立たなかった。導入部にはかつての米国大統領にはミステリー好きが多かった、などというわかりやすいことが書いてあり、そのあたりは理解できるのだが、心理学の学会誌に載った論文の要約が書かれている部分になるとお手上げ状態となってしまった。そこである日の昼休み、右にいる女性の心理学者に教えを乞うたわけである。そのようなことが出来るのが、学際的研究環境のよいところ。以前のエンジニアばかりの職場では不可能なことである。
 というわけで、原文の一部をコピーして読んでもらった。そして心理学者の感想は、「これはフロイト流の解釈だと思いますよ」というものであった。ところがフロイト流解釈といわれても、昔は(今でもあまり変わらないが)、フロイトが精神分析の第一人者という程度の知識しか持っていない。とてもそのような簡単な説明だけでは原文の意味が理解できないのだ。そこで逐語訳でいくかと考え直して、文章中のこの単語(intercourse)の意味がどうしてもわからない、と執拗に質問したのだった。
 ところが不思議なことに、その心理学者は口篭もり、なんと頬がうっすら赤くなっていくではないか! シマッタ!? どうやら若き女性には不適切な質問をしたようだと気づいたとき、私の鈍感な頭にも原文の意味が突然理解できるようになった、というしだいである。あー、恥かしかった。
 おそらく今ならセクハラになっていたかもしれない。危ない、危ない。救いはその女性心理学者が既婚者であったことか。それにしても「聞くは一時の恥、聞かぬは末代の恥」という諺は間違いですね。「聞くは末代の恥」となることもあるのだ。おかげで、知らない英単語の意味を辞書で引くときには、最初の方だけでなく、必ず最後まで説明文を読むという習慣は身についたが……。
×月×日 新しい文庫版クリスティ全集が10月15日に早川書房から刊行された。最初から第3回までは毎回10冊配本し、一年ちょっとでこれまでの真鍋氏装丁の文庫本を一新させるようだ。『ベツレヘムの星』といったクリスマス・ストーリーも文庫化するらしい。もちろんウェスト・マコット名義で書かれたロマンス物も対象に入っている。全100点の大全集になるが、それに関連して私もクリスティのPRに一役買うことになった。私のEメール・アドレス帳に登録されている会員にはすでに通知した情報ばかりだが、登録会員はそう多くないので、以下にあらためて書いておこう。
 まずは早川書房のHPでエッセイの連載を始めた。題は「クリスティー三昧の日々」で、千字程度の短いものであるが、毎月15日には更新されるはずだ(14回ほどの連載予定)。インターネット上のアドレスはhttp://www.hayakawa-online.co.jp/christie/。機会があれば、ぜひ接続してみてください。
 次は残念ながら、会誌が届くころにはとっくに終了している展示会の情報である。ただ単に記録として書いているのだが、池袋三越と新宿伊勢丹で早川書房主催の<クリスティー文庫>創刊記念写真展が開かれた(前者は10月14日(火)〜20日(月)まで、後者は11月19日(水)〜25日(火)まで)。そこでは、写真の展示だけでは平凡なものになってしまうという早川書房の担当者の判断で、私の持っているクリスティの手紙とマローワン教授の手紙も一緒に展示させて貰えることになった。私としては、クリスティがいかに未知の読者に対しても誠実であったかという証拠を展示できるので喜んで承諾したのだが、なにしろ急な話だったので、このWH通信で予告できなかったのが、多少残念なところ。でも前半の池袋三越での展示だけで、入会会員が二名も増えたのだから、かなりの成果か。
 そして最後は、CS放送のミステリチャンネルにちょっとだけ出演したこと。ミステリチャンネルでは、この11月からスーシェ主演のポワロ物短編全36本が完全独占による放送開始となるので、そのPRの一環というわけである。番組名は「名探偵ポワロって!?」で、15分物二本という構成。翻訳家の矢野浩三郎さんや作家の若竹七海さんも出演している。ポワロ・シリーズの放映は来年の1月以降も続くので、「名探偵ポワロって!?」も引き続き放映されるかもしれない。機会があれば、よろしく!
 あっ、恥かしいので書きそびれていたが、私の着ているシャツはもちろんユニクロ製である。


ティー・ラウンジ

■先日(3月22日)、神戸で"マウストラップ(ねずみとり)"が公演されましたので観劇に行ってきました。この1月にロンドンで観たばかりで、日本ではどんな風になるのかな、と少し楽しみにして行きました。さすがに日本語(!?)はわかりやすく、今まで大雑把に聞いていた台詞が、こんなことを話していたのか、と思うような場面もありました(恥かしながら……)。演出は大和田伸也で主なキャスとは以下のとおりです。
トロッター刑事   戸井勝海   ジャイルズ     内海光司   ボイル夫人  淡路恵子
ミス・ケースウェル 高汐巴    メカトーフ少佐   入川保則   パラビチーニ 団時朗
モリー       勝野雅奈恵  クリストファ・レン 岩田翼
 全般的に良く演じられていたと思いましたが、アクセントになるパラビチーニとクリストファ・レンは、どちらも少し違和感がありました。特にパラビチーニは、独特のしゃべり方が日本語になると、一層変な異国人(イタリア人?)に感じられました。体も大きくて威圧的……、もう少し軽やかですよね(原作のイメージは)。クリストファ・レンは演じていた役者が軽く演じすぎて、一人ではしゃいでいて、バタバタしすぎの感じでした(難しい役柄ではありますが……)。
 舞台の装置は手前の観客側が窓の外という設定で、窓を開ける場面やカーテンを引く場面は、パントマイムのように演じられていました。私は最後の場面で、窓の外がほんのり明るくなって雪もやみ、事件が解決した様子が象徴的だと思っているのですが、この場面ははっきりせず、なんとなく今回は終ってしまいました。何はともあれ、また神戸で他の演目が公演されますことを希望してやみません(新谷里美さん)。
■秋に「そして誰もいなくなった」が上演されるようです。でも主役が元宝塚トップの匠ひびきさんと劇団四季出身の山口祐一郎さんとの人気がある二人で、JCBカードの先行予約は受付と同時に完売だそうです。JCBも、あまりの速さにもう一日貸切の日を追加しましたが、そちらも即完売だそうです(栗原陽一さん)。
 インターネットで調べたところ、新宿のシアターアプルで2003年10月31日(金)〜11月16日(日)に公演されるそうです。観た人は感想をぜひお寄せ下さい(S)。
■今週末Agatha Christie Societyなきあとに出来たPartners in Crimeの主催で、Agatha Christie Birthday Celebration WeekendがTorquayで今日から三日間あります。今夜のMurder Mystery Dinnerから始まり、明日のChristie MileのWalk、そしてまたMurder Mystery Dinner、日曜日のGrand HotelでのLunch――何か食べてばっかり!? Official Christie GuideのJoan Nottと一緒に参加します。
 Partners in CrimeのWebsiteはhttp://www.partnersincrime.uk.comです。運営しているJill Robertsという女性は体が弱い人らしくTorquayでのWeekend Get-togetherにも来られませんでした。参加者が20人というのもちょっと寂しい感じでしたが、Intimateという点ではとても楽しい集いでした(スネル美枝子さん)。
■宮城県沖地震の前日、岩手県の北上・遠野より帰って来たばかりでした。地方に行きますと人の数の少なさ、車の数の少なさには、本当に感動します。同じ空気を吸っている東京人には、もうたまらなく美味な空気に出会えます。植物の豊かさ、人情の細やかさ、そして光の美しさ、旅に出かけることの幸せを、本当に心から感謝している私の人生です。5月末日に東北より帰り、6月始めに徳島へ旅立ちました。四国は今回で四度目。いつの季節も私に喜びを与えてくれます。四国三郎(吉野川)の雄大さ、鳴門の渦潮の豪快さ、祖谷渓のふところの深さ、旅を通して自然と語り会えた時の大いなる感動!! 私の生きる喜びです。旅の合い間の映画は「たそがれ清兵衛」、「壬生義士伝」、「戦場のピアニスト」、「レッド・ドラゴン」(こわー)。いずれも心に残る名作と思いました。
     謎解きの佳境ポワロの冬帽子        ひろこ         (土居ノ内寛子さん)
■前号の斉藤氏の文章を拝読致しました。細かいところは三者三様でしょうが、クリスティ、クイーン、カー(とヴァン・ダイン)は大戦間本格ミステリ黄金期を語る時、外せないですね(とエラソウに言ってますが、小生はクイーンの作品は『恐怖の研究』と『シャーロック・ホームズの災難』というホームズ繋がりしか読んでいません。クリスティにしても原作を読んだのは『オリエント急行の殺人』と『アクロイド殺し』くらいで、あとは映画やTVの知識だけです(佐竹剛さん)。
■相良麻里子さんが書いてらした映画「マイノリティ・レポート」は、私も観ました.超能力者3人の名前がアガサ、アーサー、ダシェルというので、何かミステリがらみの伏線かとワクワクして観ていたら、ただそういう名前というだけでした。ストーリーは、原作の不条理さが薄まってて、単なるアクション(プラス愛情のもつれ?)映画になってました。「A.I.」のときも感じたのですが、スピルバーグってSFが好きなようでいて、SFを判ってないようなところがありますね(岩田清美さん)
■最近ジョーン・ヒックソンの「ミス・マープル」DVD全巻、やっと入手しました。とても幸せです。昔の文庫本は、すでに紙も変色し、まったく古びてはいますが、内容はいつ読んでも、本当にドキドキ、ワクワクします。古びた感じがまったくしないクリスティの作品は、やはり私の生涯で一番好きなものの一つになると思います(田中裕子さん)。
■今回DVD版(ミス・マープルの方)のことが載っていましたが、私もポアロの方を買い始めました。ただし財布と相談しつつになるので、全巻揃えるのに何年もかかりそうです(植木清美さん)。
■アガサ・クリスティの本は20年ほど前から読み始め虜になりました。1985、6年頃だったと思います。石川県小松地方の海辺の町がクリスティ村(?)になるという話を本で知り訪ねて行ったことがありました。結局見つからなかったのですが、小雪がちらつくなか、ぬかるみの雑木林を通り抜けると、眼下には日本海が広がり、何か想像をかきたてるものがありました。クリスティ村(?)の話をご存知でしたら教えて頂けませんでしょうか(福井小夜子さん)。
 クリスティが住んでいたウィンタブルック・ハウスのコピーが加賀市橋立に建つ予定でしたが、残念ながらバブルが崩壊したためか、計画半ばで終ってしまったようです(S)。
■さて「ここでも見つけたクリスティ!」のコーナーですが(一体いつそんなコーナーが出来たんでしょう?!)、今回見つけたクリスティは、本屋さんの猫でもなく、素人探偵の愛犬でもなく、少年探偵の生みの親ヒゲもじゃ博士のおばさんでもなく、とびきり素敵な女性です。寝る前に料理の本を読むほどの料理好きで、カロリーもコレステロールも超越した、ご馳走を作る笑みを絶やさぬ話好きのでっぷりした家政婦アガサ・Jを見つけました。この晩年のアガサを思わせるような彼女に出遭いたい方は、ハヤカワ文庫ロビン・ハサウェイの『フェニモア先生、宝に出くわす』をどうぞ。ワトスン役の看護婦さんの名が「ドイル夫人」だったりして、ミステリー好きの人なんだなあと楽しくなりますし、この夫人、好きな作家について尋ねられて「わたしなら、いつ読んでもいいアガサ・クリスティーとか」なんて答えてくれて、すっかり嬉しくなりました(中嶋千寿子さん)。
■なかなか体調をbestな状態に保ってやれず、親として責任も感じ沈みがちな気分が、WH通信でとても晴れました。特に「見知らぬ人からの愛」をすごく楽しみにしておりましたので、前号から読み返し、ワクワクしながら読みました。次号も心から楽しみにしております(吉永玲子さん)。
■毎号校正ミスがありますが、前号(No.65)にも以下のミスがありました。
@P.18の"Julius Cesar"は" "Julius Caesar"の間違い。
AP.45の"ミス・レモン スフレのような春帽子"は"ミス・レモン スフレのやうな春帽子"の間違い。
BP.47の"泉淑子"は"泉淑枝"の間違い。
 この前、某週刊誌を見ていたら、『お言葉ですが…』の著者高島俊男氏が、校正紙面で"駆逐艦"が"駆遂艦"になっているのに気づかなかったと書いていました。言葉にうるさい(と思われる)高島氏にしてもミスが出るのですから、私のようなイイカゲンな人間にはミスをなくすのは不可能なようです(と権威者を引き合いに出して言い逃れるのはズルイ手ですが、ご容赦のほどよろしく)。(S)
■会はますます御発展のようで何よりです。多士済々で、新しい人たちが(老若を問わず)会誌をいろいろな方向に発展させていっているようで、老骨もうれしい限りです。特に今はメールやインターネットという新しい世界が広がっていますので、ファンクラブの前途はますます希望に満ちているという感じ。毎号新しい関心事を呼び起こしておられる数藤さんの御活動に敬服しています。ところでシニア料金で映画が御覧になれるおトシになられた由、おめでとーございまーす! 先輩として(ハハ……)このシニア料金というのは、トシと引き換えの唯一のメリットみたい。まあ昨今の映画って、千円でやっと見てもいいか位のものしかない。息子が面白いというので「マトリックス」を見ましたが、まぁコンセプトとしてはいいけど、夢中で見るような画面ではなかった。「マイノリティ・リポート」はまだ面白かった方です。少し古いところでは「アザース」とか「八人の女」とか。「八人の女」は渋谷ですごい行列でしたね。ウレシイ。こういうの、当ってほしいです(菅野敦子さん)。
■シニア料金、羨ましい。大阪のシネコンでは証明が必要みたいですよ(今朝丸真一さん)。
 なるほど「梅田ブルク7」では、独自に「シニア・カード」を発行していることがわかりました。大阪人の方が合理的なのかな?(S)
■今年の秋にシニア料金で観た映画は、結局チャン・イーモウ監督の「HERO」になりました。このところはケン・ローチ監督の映画か、チャン・イーモウ監督(またはチャン・ツィイー出演)の映画を観るというパターンが定着しています。「HERO」は基本的には武侠映画ですが、アクション場面ばかりでなく、様式美を生かした映像も、ミステリー的ストーリーも楽しめました(S)。
■クリスティ全集の刊行とは直接の関係はないのですが、光文社文庫の『ドロシーとアガサ』(前号のティー・ラウンジで村上さんが紹介していた作品)にはエッセイを、講談社青い鳥文庫の『ゴルフ場殺人事件』には解説を書きました。年末に本屋で目についたときはよろしく! とPR(S)。
■早川書房からの新しいクリスティ全集は、12月末までには30冊が刊行されるはずです。新装のクリスティ作品で年末年始を過すのもいいのでは? 今号も無事完成。メリー・クリスマス & 謹賀新年!


 ・・・・・・・・・・ウインタブルック・ハウス通信・・・・・・・・・・・・
☆ 編集者:数藤康雄           ☆ 発行日 :2003.12.24
  三鷹市XX町XーXーX          ☆ 会 費 :年 500 円
☆ 発行所:KS社              ☆ 振替番号:00190-7-66325
                        ☆ 名 称 :クリスティ・ファン・クラブ


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