ウインタブルック・ハウス通信

クリスティ・ファンクラブ機関誌

2002.12.24  NO.64

 64歳(1954年)のクリスティ。毎年、本を出すことが当然のノルマとなったクリスティだが、この年はどんなミステリーを書くべきか考えがまとまらず、担当者をかなりヤキモキさせたらしい。しかし実際に執筆を始めると書き上げるのは早い。無事に異色作『死への旅』が出版された。
 この長編についてメディアの評価は割れたが、この年の特筆すべきことは、クリスティの戯曲がロンドンで三本同時に公演されたことであろう。つまり1952年11月に初演された「ねずみとり」、1953年9月に幕を開けた「検察側の証人」、そして1954年12月に始まった「蜘蛛の巣」の三本である。さらに「検察側の証人」はニューヨークでも公演され、最優秀作品にも選ばれた。クリスティがミステリーの女王だけでなく、演劇の女王として認められた年であったのだ(S)。


< 目  次 >

◎アガサ・クリスティの原書コレクション ―――――――――― 林 克郎
◎私のW杯――――――――――――――――――――――阿部 純子
◎クリスティ関連本の紹介(その3) ――――――――――――数藤 康雄
◎忘れられないあの場面 ――――――――――――――――伊東 絹子
◎クリスティ・ファンのマイベスト<7> ―――――――――――田中 茂樹・浦川 恵子
◎前夫の不倫がクリスティに与えた影響はあるか? ―――――佐竹 剛
◎クリスティ症候群患者の告白(その33)――――――――――数藤 康雄
◎ティー・ラウンジ
★表紙   高田 雄吉


アガサ・クリスティの原書コレクション

林 克郎

 筆者の林さんは、インターネットの世界では有名な「私立本格推理小説 風読人(ふーだにっと)」というサイトを運営しているエンジニアですが、クリスティ・ファンでもあり、本誌にもたびたび書評などで登場してもらっています。海外出張が多く本職の仕事が忙しいにもかかわらず、この原稿も快く引き受けてくれました。感謝!感謝!
 ところでクリスティは有名になるにつれて、本のジャケットにはポアロやミス・マープルのイラストなどは描かせなかったようです。そのためか、原書のジャケットは文字ばかりのそっけないものが多いと信じていましたが、ここに掲載されているものを見ると、実際はいろいろなデザインのジャケットがあるのがわかります。カラーで紹介できないのが残念ですが、その点に不満のある人は、ぜひ森英俊編著の『ミステリ美術館』(国書刊行会)を手にとってみてください。時間を忘れてしまうこと確実!?(S)。


その魅力
 原書、特に初版本を集める魅力は、その本を作家が書いた言葉で読めることだけでなく、その作家が大きな期待と共にその本を世に送り出した時と擬似的に時間が共有できることや、絵画にも匹敵するような美しいジャケットを鑑賞できることなどがあります。原書は持つ人をノスタルジーにひたらせてくれるのです。
 世界中にはミステリの初版本コレクターがたくさんおり、ミステリの古書だけを専門に扱う書店も数多くあります。コレクターたちはたった数冊しか残されていない初版本を血眼になって探し回り、それを手に入れることで至上の喜びを感じているのです。

始まり
きっかけはニューヨークへ旅行した際、ある小さな書店に寄ったことでした。店の名はミステリアス・ブックショップ。セントラルパークのすぐ南に位置するその店は、世界的に名高いミステリ界の重鎮オットー・ペンズラー氏が経営するミス1階にはペーパーバックを中心とした新刊・古書が並び、小さな螺旋階段を上った2階にはハードカバーの稀覯本が壁一面に並んでいます。
ガイドブックに載っていたという理由だけで立ち寄った私でしたが、天井まで届く書棚に数え切れないほどの原書がずらっと並んだその光景は私を一瞬にして魅了してしまいました。日焼けを避けるためにわざと直射日光が当たらないようにした暗がりの部屋に、古書独特のカビくさい匂いが立ち込めるその空間は、私に時を忘れさせ、夢のなかに連れていってくれました。残念ながら全てを見て回る時間が無く、あわてて買ったのが『カーテン』の米初版本と『無実はさいなむ』の英初版本の2冊でした。これが私の原書収集の始まりです。


インターネットとホームページ
 集め始めた当時はインターネットが普及しだした頃で、パソコンを買った私は自分でホームページを作ろうとしていました。昔からミステリが好きだったので、それを題材にホームページを作ることとし、国内ミステリを扱ったページが既にいくつか存在していたので、海外ミステリをメインに据えることとしました。最初は作家別の作品リストばかり作っていたのですが、それだけでは物足りなかったので、再読を楽しみながら各作品のあらすじと感想を書き、本のジャケットも載せることにしました。そしてクリスティのページには原書ジャケットの絵も載せようと考え始めたのです。
 インターネットで調べるうちに、世界にはミステリアス・ブックショップのような古書ミステリを扱う書店がたくさん存在することを知りました。オリジナル・ホームページを作っていたり、古書専門検索サイトに登録していたりと、店によってその販売方法は様々ですが、日本の自宅からパソコンに向かうだけで簡単に本が手に入ることはどこも同じでした。同じ本でも状態が違ったりすると値段が変わるので、パソコンに店名、書名、値段、状態などのデータを入力し、相場を知った上で、少しずつクリスティの原書を買い集め始めました。戦後出版された作品のジャケットはタイトルを記しただけの平凡なものですが、戦中・戦前のジャケットとなると、その内容に即した美しい絵が描かれており、これが原書収集を病みつきにしたのです。
 それではクリスティのいくつかの原書初版本をそれにまつわる思い出とともに紹介します。

『五匹の子豚』英初版本  一度その絵を見てから、欲しくて欲しくてたまらなくなった一冊です。黄色い背景に赤文字でタイトルと著者名が書かれ、その名の通り、かわいい五匹の子豚が表紙に描かれています。背表紙に描かれたワンポイントの子豚の顔も最高です。

『オリエント急行の殺人』米初版本
 唯一、書店に直接国際電話をかけて注文した本です。今はありませんが、組合に加盟している書店の各在庫一覧をまとめて掲載するインターネット・サイトが当時存在し、そこでこの本を見つけました。昔は自分のパソコンを持たない書店がたくさんあり、サイトを見た客から電話や手紙で注文を受けていたのです。表紙、背表紙、裏表紙と三面で一体となったデザインが素敵です。表紙に丸がついているところが事件現場の車両で、裏表紙には各人がどのコンパートメントにいたか部屋割りが描かれています。

『死人の鏡』米初版本
 名門サザビーズのインターネット・オークションで落札した一冊です。実はこのインターネット・オークションに参加できるのは限られた国の人だけで、日本はそこに含まれていませんでした。どうしても手に入れたかった私は売主と過去に売買経験があったことから、後で何とかなるだろうと規則違反を承知で参加落札したのです。で、やっぱり何とかなりました。

『ひらいたトランプ』米初版本
 アメリカのミステリ専門店、Dunn and Powell Booksのホームページにその写真が掲載されており、そのページを見るたびに所有欲が沸いてきていた一冊です。トランプをする手の向こうに薄っすらと描かれた髑髏が印象的です。


『カリブ海の秘密』米初版本
 クリスティの直筆サインが入った私のお宝本です。クリスティは世界的に有名なだけあって、サイン本は昔から数多く出回っています。しかしその値段たるやビックリするものばかりで、私の買えそうな値段の本はなかなか出ませんでした。何年も待ってやっと手に入れただけに感慨もひとしおです。

『邪悪の家』米初版本
 インターネット・オークションで初めて落札した初版本です。それまで再販本はいくつか安価で落札した経験を持っていたのですが、初版本となると初めてで、その値付けに緊張したのを今でも覚えています。その後、相場より安い値段を入札価格にしてインターネット・オークションで何冊もの初版本を手に入れました。


『Poetry of Today』
 クリスティが『スタイルズ荘の怪事件』でデビューする前、アマチュアの時に書いた詩が掲載された珍しい小冊子です。インターネットは便利なもので、作品名で検索すると決して出てこないこのような小冊子も、著者名で検索すると突然見つかります。発見することは決して簡単ではありませんが、見つけた時の喜びは尋常ではありません。


私のW杯

阿部 純子

 クリスティ・ファンの中でどのくらいサッカー・ファンがいるのか知りませんが、私のイイカゲンな勘によれば、そう多くはないでしょう。でも私は少数派と思われるサッカー・ファンです。今回のW杯では、地上波で放映された試合はほとんど生で見ましたし、日本チームの活躍にも満足しました。
 とはいえ、子供の頃からサッカーに親しんでいたわけではありません。興味を持ったのは、多くのマスコミがトルシエ・バッシングを始めた二年ほど前からで、つまり、にわかサッカー・ファン、トルシエ・ジャパンの即席ファンにすぎません。マスコミのトルシエ批判はホントなのだろうかと、インターネット上のトルシエ擁護派のサイトを覗き見しているうちに、ついついトルシエ・ジャパンの魅力にはまってしまったというわけです。
 でもクリスティ・ファンとしては阿部さんのようでなければ! と反省(S)。


 W杯一辺倒で騒がしい6月中を、我関せずとばかり普段どおりの番組を流しつづけるケーブルTVを頼りに、何とか生き延びた。グランドをピッチと言い、ボールボーイをボールキッズなんて言うサッカーは大嫌い。
 世の中がベルギー戦に沸き立っている6月9日、ダービーが終わっていささかの長閑さも漂う東京競馬場で一日遊んだ夕刻、府中駅前の居酒屋で仲間とわいわい騒いで7時頃、はっと気づけばさっきまで満杯だった店内はガラガラ。自分たちの一団しか残っていない。街に出ると心なしか人通りも少ない。家に帰り着いてTVを付けると、奇しくもミステリー・チャンネルの「名探偵ポアロ」が映る。世に逆らうへそ曲がりは、サッカーの代わりにベルギー人探偵の活躍を愉しんだ。だらしなくもさすがに勝敗は気になって、数回サッカーにチャンネルを合せてしまったが。
 ベルギー・チュニジア・ロシアの予選H組。そう言えば、かのロジャー・アクロイドを殺した歴史的な凶器は、美しい骨董品のチュニジアの短剣であった。ロシアといえばヴェラ・ロサコフ公爵夫人。名にし負う、ポアロの心の恋人。そして「H」はエルキュールの「H」でもあり、何と言っても思い浮かぶのは、ラチェット氏のコンパートメントに落ちていた白麻のハンカチの「H」のイニシャルの刺繍、パスポートから消された「H」の文字。
 あんまり世の中が騒がしいので、思わず久しく本棚に眠っていたクリスティの名作を引っ張り出して読み直してしまった。創元推理文庫『オリエント急行の殺人』150円。『アクロイド殺害事件』160円。こちらにはまだ薄紙の貼られた検印が押してある。それぞれを買った時のことが思い出されてひどく懐かしかった。


クリスティ関連本の紹介(その3)

数藤 康雄

  クリスティ協会の会誌"CHRISTIE CHRONICLE"が休刊して以来、クリスティに関する最新情報があまり入ってこなくなったのですが、これまでに未紹介の本が何冊か残っていたので、「その3」になりました。
 紹介する三冊のうち二冊は考古学関係の本です。英語が弱い上に考古学はまったくの素人なので、内容紹介はイイカゲンですが、興味がありましたら注文してみてください。いずれも特殊な本とはいえ、簡単にamazon.co.ukからネット注文できるはずです。
 なおクリスティ協会の機関誌が休刊したこともあり、最近はクリスティ関連書が見つからないのですが、なにか情報をお持ちの方はぜひお知らせ下さい(S)。


Modern Critical Views "Agatha Christie"(2002)

Edited by Harold Bloom

 

 本書は、昨年インターネット書店のamazon.comでテキトーに検索していてたまたま見つけたもの。近日発売予定というのでさっそく注文したのだが、実際の発売は予定からだいぶ遅れたようで、忘れた頃に我が家に届いた。amazon.comには詳しい紹介はなかったので、もしかすると斬新な評論が楽しめるのではと密かに期待したものの、中味をパラパラと見てガッカリ。既訳のエッセイ・評論が多くて、書き下ろしはなかったからだ。Modern Critical Viewsというシリーズの一冊で、どうやらこのシリーズは、作家の代表的な評論を集めるというのが基本的な編集方針となっているようだ。タイトルにクリスティとあれば、みずてんで注文してしまう癖をあらためないと、不必要な本がどんどん増えてしまうが、このシリーズの編集方針を考慮して本書を読み直してみると、まあ納得のいく内容といえようか。
 収録作品は以下のとおり。
(1)"The Career of Agatha Christie Mallowan"(by G.C.Ramsey)
(2)"The Case of the Escalating Sales(by Elizabeth Walter)
(3)"The Christie Nobody Knew"(by Dorothy Hughes)
(4)"Growing Up"(by Agatha Christie)
(5)"Foreword: A Portrait of Agatha Christie"(by Julian Symons)
(6)"The Impact of Gender on Agatha and Her Craft"(by Pam McAllister)
(7)"Counsel for the Defense"(by Robert Barnard)
(8)"Appearance and Disappearance"(by Charles Osborne)
(9)"Afterward: The Secret of Success"(by Gillian Gill)
(10)"The Curtain Rises"(by Anne Hart)
 以下に注釈を加える。(1)はラムゼイの"Agatha Christie Mistress of Mystery"(1967)の第二章。第三章は『名探偵読本、ポアロとミス・マープル』(パシフィカ)に翻訳されているが、第二章については記憶にない(もしかしたら早川ミステリ・マガジンに載っているかもしれないが、いずれにしても公式の伝記が出版されている今になってみると、内容に目新しい点はない)。(2)はキーティングが編集した『アガサ・クリスティー読本』(早川書房)の中の「売行き倍増事件」、(3)は同じ本の「誰も知らなかったクリスティー」で、いずれも訳出されている。(4)は『クリスティー自伝』(早川書房)の中の「第三部 成長する」。結構な長さで、本書の約30%を占めている。
 (5)は『ミステリ・ハンドブック アガサ・クリスティー』(原書房)の序文「アガサ・クリスティーの横顔」。(6)も同じ本の中の一編だが、訳書ではカットされている。(7)は『欺しの天才』(秀文インターナショナル)の中の第九章「被告側弁論」。やはり評論としては、これが一番のようだ。(8)はオズボーンの"The Life and Crimes of Agatha Christie"(1982)の第一章で未訳。(9)はギルの評伝"Agatha Christie The Woman and Her Mysteries"(1990)の後書きで、ごく短いものである。これも未訳。ラストの(10)は『名探偵ポワロの華麗なる生涯』(晶文社)の第一章「幕があがる」。
 つまり10編中6編は翻訳されている。書き下ろしのエッセイ・評論はゼロなので、私個人にとってはあまり価値のある本ではなかったが、ただしこれからクリスティをもっと深く知りたいという英文学専攻の学生さんなどには格好の入門書になっている。
 なお編者のHarold Bloomは、カバーに書かれている紹介文によると、Yale UniversityのSterling Professorだそうだ。アメリカの大学事情などトンと知らないのでSterling Professorとは何かわからないが、本をかなり書いているようなので、ひょっとしたら有名な学者なのかもしれない。


"The Life of Max Mallowan"(2001)

"Archaeology and Agatha Christie"

By Henrietta McCall

 

 題名から明らかなように、クリスティの二番目の夫マックス・マローワンの伝記。ジャネット・モーガンの『アガサ・クリスティーの生涯』(早川書房)はクリスティの遺族が協力した公式なクリスティの伝記であったが、本書も同じく遺族公認のマローワンの伝記である。
 私はクリスティ・ファンとはいえ、考古学は無知もいいとこ。そんな人間がマローワンの伝記にまで手を出してしまった理由は、もちろんマローワンがクリスティの二度目の夫であったことと、ジャレッド・ケイドの『なぜアガサ・クリスティーは失踪したのか?』(早川書房)の中で暴露されたマローワンの不倫(?)に著者がどう反撃しいているかに興味があったからである(つまりはミーハー的興味です)。
 内容は、副題"考古学とアガサ・クリスティ"が示すように、マローワンの伝記とはいえ、マックスがアガサとの結婚後に行なった数々の遺跡発掘の成果を中心にしてまとめられている。資料にはマローワンの手紙や論文、新聞記事も使われているものの、多くはクリスティの自伝やジャネット・モーガンによるクリスティの伝記、そしてクリスティのノンフィクション『さあ、あなたの暮らしぶりを話して』(早川書房)を使用しているので、発掘の学問的成果を述べている部分を除くと、それほど目新しい事実が披露されているわけではない。つまりかなりの部分が、既出の本に書かれている事実をマローワンの視点から再構成しているだけといえなくもないが、それでもマローワンの業績はよくわかる内容になっている。
 肝心のマローワンの不倫(?)については、公式な伝記なので声高に反論しているのかと思ったが、それはなかった。ただし無視しているわけでもない。疑われるようなことも事実として淡々と述べているし、相手のバーバラ・パーカーに関しても、これまでのどの資料より詳しく書かれている。
 バーバーラがどのような女性であったかというと、若い頃より学者を目指したのではなく、最初はマネキンを仕事にしていた女性であったそうだ。なお余談だが、1984年に彼女は中近東文化センターの開館五周年記念に招かれて来日し、朝日新聞社の講堂で講演をしている。ミーハー人間の私としては顔を拝まなくてはと、メソポタミヤ考古学の学徒のような顔をして朝日ホールに潜り込んだことがあった。そして、背筋をきちんと延ばした講演時の彼女の姿勢だけはなぜかいまでも記憶に残っているが、あれは若い頃にマネキンをやっていたためであったかと納得がいった。
 しかしその後、バーバラは中国絵画に興味を持ち始めて古代文化に目覚め、メソポタミア文化を本格的に勉強するようになった。そしてデザインに強いこともあり、円筒印章についての論文をまとめるほどの専門家に成長した。学者としてはかなりの遅咲きで(年齢はマローワンより三、四歳下に過ぎない)、当然マローワンの教え子にはなるものの、年齢的には同僚と呼ぶほうがふさわしいといえようか。
 マローワンのもとで本格的に仕事をすることになったのは1949年のニムルド発掘から。この年に秘書/司書として雇われ、現地責任者として一年中イラクに滞在するようになった。バーバラはマローワンを学者として常に崇拝していたので、どんな仕事も厭わず、ときには明らかな雑用であっても嫌な顔ひとつ見せずに奉仕した。他人からみると奴隷のように働いていると思われることもあったようだ。また論文を書くためにたびたびマローワンと相談することがあった。そのうえ当時のクリスティと比べれば容姿も抜群(?)というわけで、それらが不倫していると誤解される一因となった。もちろんクリスティ亡きあと、一年半ほどでバーバラと再婚したのも、その誤解を増幅したようだ。
 本来ならば、パブリック・スクール時代のマローワンは、有名な作家イヴリン・ウォーと同級生だったというようなことをもっと紹介すべきなのだろうが、ミーハー的興味が優先してしまった。それでも言い足りないことがあるので、残りは「クリスティ症候群患者の告白」の方で……。


"Agatha Christie and Archaeology"(2001)

Edited by Charlotte Trümpler

 

  本書の元版は1999年にドイツで出版された。本書はその英訳版である。最初にドイツで出版されたのは、ウィーンで開催された「アガサ・クリスティとオリエント展」に合わせるためであったようだ(その催しは、WH通信の60号で安藤さんが詳しく報告している)。同じ催しは、昨年大英博物館でも行なわれたので、英訳版が出版されたというわけである。マローワンの伝記の副題と同じような題名で、ほぼ同時期に同じ出版社から刊行されたので紛らわしいが、こちらの方には珍しい写真が数多く含まれていて、見ているだけで楽しくなる本である。
 B5版ほどの大型ペイパーバックなので(しかも470頁を越えている!)、中味を詳しく読んでいるわけではないが、掲載されている文章のタイトルを訳すと以下のとおりである。
(1)まえがき(by Mathew Prichard) (2)序文(by Charlotte Trümpler)
伝記
(3)アガサ・クリスティ(1890-1976)(by Janet Morgan)
(4)マックス・マローワン(1904-1978)(by Henrietta McCall)
考古学:発掘
(5)古代セム人のウル(by Hans J. Nissen)     (6)ニネヴェ(by Renate Gut)
(7)アルパチーヤ(by Stuart Campbell)        (8)チャガー・バザール(by Augusta McMahon)
(9)テル・ブラーク(by David and Joan Oates)    (10)ニムルド(by John Curtis)
発掘現場の生活
(11)"キャンプが始まる":1930年代の考古学発掘現場の生活(by Charlotte Trümpler)
(12)アガサ・クリスティとニムルド、バグダッド(by Joan Oates)
(13)"暗室が私に割り当てられた……":現場でのクリスティの写真・映画(by Charlotte Trümpler)
旅行
(14)オリエント急行から砂漠のバスまで:中近東におけるクリスティの旅行(by Axel Heimsoth)
(15)シリアとトルコにおけるクリスティの足跡:70年後のオリエント旅行(by Tom Stern)
(16)アガサの知るアラブ:オリエント地方への英国旅行者が語るクリスティ(by Reinhold Schiffer)
探偵小説
(17)"東洋の魅力":『メソポタミアの殺人』に関する若干の考察(by Nadja Cholidis)
(18)クリスティと古代エジプトに関する史料の利用法(by Waltraud Gulielmi)
(19)探偵と考古学者(by Barbara Patzek,Regina Hauses and Andreas Dudde)
(20)ゲームのルール:クリスティの探偵小説の組立て方(by Ulrich Suerbaum)
(21)殺人の考古学(by Volker Neuhaus)
映像
(22)西洋人が東洋人を撮る:クリスティと映画と考古学(by Tom Stern)

 いずれの文章にも、これまで見たことのない写真が多数掲載されている。それらの写真はおそらく展覧会用に集められたものであろうが、写真を見ているだけでもかなり楽しめる。編者のトランプラーは、裏表紙の紹介によると、エッセンにあるルールランド博物館の学芸員のようだ。ドイツではモニカ・グリペンベルによるクリスティの伝記も出版されていて(邦訳は講談社選書メチエ『アガサ・クリスティー』)、クリスティの人気が高いことは間違いないのだが、名前から判断すると、かなりのドイツ人が本書の文章を書いているようだ。ドイツのクリスティ・ファン、恐るべしである。


クリスティと私

忘れられないあの場面

伊東 絹子

 この機関誌が出る頃にはすでに無価値な情報になっていますが、クリスティの傑作戯曲「検察側の証人」は9月20日から10月6日まで、銀座の<ル テアトル銀座>で上演されました。主演は元宝塚のスター麻実れいさんだそうで、会員の中には観た人も多いでしょう。
 伊東さんは8月末に予定外の海外旅行が入ったので、観るべきかどうか悩みながらこの文章を書いたそうです。なお本稿を読むと、「検察側の証人」を映画化した「情婦」のあの場面は、公開当時から評判だったのですね。知りませんでした。この映画は文春文庫の『ミステリー・サスペンス洋画ベスト150』(1991年)では第7位に、早川ミステリ・マガジンの「ミステリ映画ベスト10」(2001年11月号)では第3位にランクされています(S)。


 「検察側の証人」を観るかどうか、まだ決めかねています。 グエン.ロビンスの書かれた伝記『アガサ・クリスチィの秘密』によれば、この芝居は1950年代にノッテインガムで初日の幕を開けた、とあります。私は1958年ごろ「情婦」という題名の映画で観ました。主役のマレーネ・ディートリッヒやタイロン・パワーよりも、弁護士役のチャールズ・ロートンの素晴らしさに惹かれたのをストーリーとともにはっきりと覚えています。
 その後、職場であの「キラキラ眼鏡」が題名の代わりになってお茶汲み場を賑わしていたものです。あれから40数年過ぎたいまでも場面場面がくっきりと思いだされ、最後の場面なんか誰かに話したくて、話したくて、あの映画が話題になると、今でもうずうずしてしまいます。ちなみにC・ロートンは芝居「アリバイ」でポアロを演じて、クリスティを非常にがっかりさせたということです。彼の体型が、卵型の頭とか、小さな灰色の脳細胞を持つ小柄で活発なベルギー人とかのイメージに合わなかったのでしょうか。
 でも彼の"ポアロ"は、完璧なベルギー人ふうのセリフまわしと、犯人を告発する最後の場面では、観衆に痺れるような感動を与えた、と伝記には書かれています。それを読んだときは、やっぱりね!!! と、思わず喝采を送った記憶があります。「アリバイ」は当然観てないけど彼の声、手の動き、背中の芝居、そしてあの眼、なんて素晴らしいでしょう。まるで観たことでもあるように舞台上の彼が眼に浮かびます。
 「検察側の証人」の芝居を成功させた理由のひとつは、セットをできるだけ実物に近いものを作ったことだ、と云われています。そのため演出家と舞台装置家は機会を見ては、ロンドンの中央刑事裁判所(オールド・ベイリー)に足を運び、何から何まで調べて、最後は羽目板の色にいたるまでをそっくり写し取り、有名なオールド・ベイリーの第一法廷を正確に再現させた、ということです。
 このいきさつを知るにつけても、日本での「検察側の証人」の法廷場面の舞台装置が気になります。芝居を観る楽しみのひとつは、文章の行間から受ける数々の想像上の絵を、実際の物として観る喜びにあるのではないでしょうか、と思いますけど……。

 クリスティという方は、いつも私を夢の世界にいざなってくださいます。敗戦時、14歳だった私が初めて読んだ本が『牧師館の殺人』でした。イギリスから帰った伯父が持っていたもので、英語で小さなサイズだったと思います。大雑把に伯父が訳してくれての読書でしたが、読後感はなんとも云いようのない、ありったけの想像力をもっても埋めることの出来ない、つまり、衝撃的事件でした。
 懐かしいその本は防空壕のなかで燃えてしまって手元にはありませんが、その後、買う気にもならずにいたところ、ミステリ・チャンネルで「ミス・マープル」シリーズとして私の眼のまえに現れてくれました。
 その後、通勤時に読む程度のファンであっても、少女のころの文化に対する衝撃はいまだにとれず、彼女の本はいつも遥かな異国にたいする夢を奏でてくれます。わずかな蔵書しか持ち合わせておりませんが、これからもず〜っと豊かな時間を楽しみに繰り返し読むことでしょう。


クリスティ・ファンのマイベスト<7>(その5)

田中 茂樹  浦川 恵子

 今回は二人の会員から、マイベスト<7>が送られてきました。
 田中さんは古くからの会員で、インターネット上に自分のサイトを持っています。クリスティ・ファンクラブのホームページは、実はそのサイトに間借りしているのですが、田中さんのホームページを見ると、ジャズと翻訳ミステリーをこよなく愛しているのがよくわかります。ベスト7にもそのことが反映されているようです。
 一方の浦川さんは数年前に入会された長崎在住の方で、私とは「ミステリマガジンNo.515で、密かにニアミスしております」とのこと。はて、どんなニアミスだったのか?
 この欄はまだまだ続きますので、投稿をよろしく!!(S)


田中 茂樹

1 『料理人』(早川ミステリ文庫) ハリー・クレッシング
2 『シブミ』(早川ミステリ文庫) トレヴェニアン
3 『内なる殺人者』(河出文庫) ジム・トンプスン
4 『ホッグ連続殺人』(早川ミステリ文庫) ウィリアム・L・デアンドリア
5 『悪党パーカー/人狩り』(早川ミステリ文庫)リチャード・スターク(D・E・ウェストレイク)
6 『骨と沈黙』(早川ミステリ文庫) レジナルド・ヒル
7 『そして誰もいなくなった』(早川ミステリ文庫) アガサ・クリスティ

 ジャズを聴くことと翻訳ミステリを読むことを、日常生活の基盤としている。どちらもジャンルとして確立し、古典・名作・定番作品がある。同時に新しい作品も生み出されている。日常生活の一部とするためには、やはり今現在の作品が必要となる。立ち止まって分析的になる気分ではないので、経過する中で感覚的に残った(記憶に残った)作品を挙げていったら上記のようになった。この流れから選べば、クリスティはやはりこれになる。


浦川 恵子

1 『秘密機関』(早川ミステリ文庫他) アガサ・クリスティ
2 『七つの時計』(早川ミステリ文庫他) アガサ・クリスティ
3 『茶色い服を着た男』(早川ミステリ文庫他) アガサ・クリスティ
4 『最後の悲劇』(角川文庫他) エラリイ・クイーン(『レーン最後の事件』の別題)
5 『ホワイト・アウト』(新潮文庫) 真保裕一
6 『クロスファイア』(光文社文庫) 宮部みゆき
7 『千里眼』(小学館文庫) 松岡圭祐

 トミー&タペンスシリーズが大好きなので、無条件に全作入れたいところですが、ここはグッとがまんして……。基本的に女性が冒険して活躍するものが好きなので、@〜Bまではそういうタイプです。Aの秘密結社めいた会合をバンドルが覗き見しているシーンとか、ほんとにドキドキしますね。Cはカーテンより先に読んだから……というのが理由です(笑)。まさか? というショックが大きかったので忘れられません。D〜Fは日本の作品で映画化もされましたが、個人的にはE以外は失敗した(すみません)と思います。原作はすごく良いのに勿体無いです。それにしても、7つに絞るのは難しい!!!


前夫の不倫がクリスティに与えた影響はあるか?

佐竹 剛

 今号には不倫という言葉があちこちに登場していますが、これは偶然です。不倫特集号というわけではありません(念のため)。
 表題の不倫はクリスティ大佐についてのもので、私が「クリスティ症候群患者の告白」などで書いている不倫はマックスについてです。そして佐竹さんが文中で触れている不倫は、シャーロック・ホームズの産みの親ドイルの母親についてです。
 ドイルの母親の不倫については(日本シャーロック・ホームズ・クラブ内で議論が行なわれているにもかかわらず)私はそのことをほとんど知らなかったのですが、朝日新聞の夕刊(2002年10月1日付け)に詳しい内容が発表されていました。小林司・東山あかね両氏の"「ホームズ」はドイルの心情告白録"と題するエッセイです。併せてお読みください(S)。


 「日本シャーロック・ホームズ・クラブ」(JSHC)では、いま「コナン・ドイルの母メアリー・フォーリー(「ザ・マーム」)の不倫が『ホームズ物語』(聖典)に与えた影響」について熱い論争が繰り広げられています。
 同じような意味で、アガサ・クリスティの最初の夫クリスティ大佐の不倫と作品(ポアロ物、ミス・マープル物、ハーリ・クィン物、パーカー・パイン物など)の関係を研究している御仁はおられるのでしょうか?(クリスティ女史が離婚し、マローワン氏と再婚した後も、ペンネームを変えなかった――大佐の姓を使っている――これが最大の影響でしょうか?) そう言えばポアロのワトスン役ヘイスティングズは退役軍人だし、『ナイルに死す』のレイス大佐、『オリエント急行の殺人』のアームストロング大佐とアーバスノット大佐など、軍人が重要な役柄で出ている作品が少なくない(『そして誰もいなくなった』では二人の軍人が殺されている)のも、最初の夫が軍人だったせいでしょうか? かつて自衛隊員だった小生にとって、軍人がワトスン役だったり、犯人だったり、被害者だったりするのは、ちょっと同情したくなります(戯曲版『そして誰もいなくなった』では殺されたはずの青年将校が実は探偵役だった、とアレンジされていたのは、前夫クリスティ大佐への憎しみが薄らいだせい?)。
 再婚相手のマローワン氏も不倫していた、という説もあるそうですが、こちらの影響は作品にあったのでしょうか?

追伸
 「ドイルの母不倫」説の「証拠」の一つに、ドイルの妹ブライアン・メアリー・ジュリア・ジョゼフィン・ドイルの名が、母の不倫相手とされるブライアン・チャールズ・ウォーラー医師の名をとっている事があります。しかし、それなら、ドイルが幼い頃、親しくしていたジョン・ヒル・バートン博士の妹の名をとったドイルの妹キャロライン・メアリー・バートン・ドイルと、バートン博士の岳父コスモ・イネス教授の名をとったドイルの弟イネス・ドイル(第一次大戦で戦死している)も、バートン博士一族との不倫の子、ということになるのでしょうか? バートン氏は「御雇い外国人」、そして日本の上下水道改良に努めた人物であるとともにコナン・ドイルには幼なじみで、例の「バリツ」をドイルに教えたのは、このバートン氏だという説もあるくらいの親友です。もし本当に母がバートン一家と不倫していたら、いくらドイルが寛容な人柄だったとしても、友達付き合いが出来るでしょうか? だいたい友人・知人の名を子供につけるのは、欧米では普通です。まさか欧米人が皆、不倫しているのでしょうか? まあ「高名な依頼人」、で「ヒル・バートン博士」ことワトスンがグルーナー男爵の質問に、しどろもどろになるところが、ドイルのバートン博士一族への復讐、と解釈できるかもしれませんが……(まさか、ドイルが後で、そう読めるようにワトスンの偽名をつけたわけではないでしょうが)。


クリスティ症候群患者の告白(その33)

数藤 康雄

×月×日 クリスティの夫マローワンに愛人(バーバラ・パーカー)ができ、晩年のクリスティはそのことに悩んでいたとは、ジャレッド・ケイドが『なぜアガサ・クリスティは失踪したのか?』(早川書房)の中で初めて暴露したことである。しかし、この暴露はたいした醜聞にはならず、もはや関心を持つ人はほとんどいないであろう。クリスティ・ファンとしてはこのまま静観しているのが正解なのかもしれないが、マッコールの書いたマローワンの伝記を読む限りでは、それほどの裏切りをマックスが行なっていたとは考えにくい。なぜかマッコールは声高な反論はしていないので、ここでは勝手ながら反論みたいなものを書くとしよう(要はクダラナイことを考えるヒマができたというわけですが……)。
 不実をしていたというケイドの証拠(?)は、まとめると以下のとおりであろう。
(1) バーバラはマックスに対して忠犬のように献身的に仕えた。
(2) マックスとバーバラが抱き合っているところが目撃されている。
(3) クリスティが亡くなってから、それほどの期間をおかずバーバラと再婚している。
 まず(1)は、二人を知る誰もが認めることのようだ。だがこの関係はバーバラが学問の師としてマックスを常に崇敬していたこととマックスのマザコン的性格のために続いていたと解釈すべきであろう。つまりマックスは長男であったこともあり若い頃より常に母親に溺愛されていたうえに、結婚後の私生活はほとんどクリスティに頼り切っていたので、バーバラの献身的な態度についても、感謝はしつつもそのような女性の行動を当然のように感じていたと考えられるからである。
 またバーバラとマックスが仕事上で特に緊密な関係になったのは1949年のニムルドの発掘以来だから、二人がその時期からから愛人関係になったとしたら、どう考えても途中で秘密がばれていたと思われる。というのもマックスの伝記を読むと、マックスは敵をまったくつくらない温厚円満な紳士というより、結構好き嫌いのはっきりした人物であったようで、マックスに反感を持った人もいたらしい。クリスティに必ずしも好意的でないグエン・ロビンズなら、『アガサ・クリスチィの秘密』の完成前に簡単に不倫の事実を掘り出していたはずだ。二人の関係が親密であったことは間違いないが、それは肉体関係を伴なう一線を超えたというものではなく、師弟愛に近い関係であったと考える方が自然であろう。
 (2)の目撃者は、例のクリスティの失踪がクリスティ自身の計画的行為であったと暴露した従姉ナンの娘婿だけである。したがってまず目撃者の信頼性に疑問をもってしまうが、そのうえ目撃場所が、ロンドンならまだしも、クリスティのお膝元グリーンウェイハウスの庭(やその近く)というのだから、なおさら信用できない。抱き合っていると誤解されるような動作が目撃された程度ではないか。なおケイドは目撃の話に続いて「ランチの後、マックスはテーブルから立ち上がって、二階で書き物をすると言うのがつねで、そんなときはバーバラが一緒に二階にあがり、アガサとナンは書斎でクロスワード・パズルをして過ごした」と書いている。なんだか、二人が暗にベッドインしたようにも受け取れる表現だが(私のみ?)、グリーンウェイ・ハウスには確かに二階に寝室はあるものの、書斎も二階にある。当時バーバラはロンドン大学の講師になったこともあり、学問的な問題で相談する必要があったのだ。二人がランチ後に長らく書斎にいたとしてもなんら不自然ではない。ケイドの記述は、読者をミスリードさせる余計な文章といってよい。
 というわけで、問題となるのは(3)だけであろう。ここで再婚に関する事実関係のおさらいをしておくと、クリスティが亡くなったのは1976年1月、マックスがバーバラと結婚したのは1977年9月、マックスが亡くなったのは1978年8月である。つまりクリスティの死後すぐに再婚したと非難されているが、実際の期間は一年半以上もあいているのに対して、二人の結婚生活は一年にも満たない。二人が以前からの愛人関係であったなら、もっと早く結婚してもっと長い結婚生活を送っても不思議ではない。
 マッコールによるマックスの自伝を参考にして男の私がマックスの精神状態・行動を勝手に推理してみると、以下のようになるのだが……。
クリスティの死期が近づくにつれ、マックスは途方にくれるようになったが、週末になるとバーバラはロンドンからウォリングフォードに通い、マローワン夫妻に献身的に仕えた。
マックスはクリスティの死後もウィンターブルック・ハウスに一人で住んでいたが、体力の衰えもあり、身の回りの世話を、週末に訪れてくるバーバラに頼ることが多くなった。クリスティの娘ロザリンドは、マックスにとっては血の繋がりのない遠方に住む娘にすぎなかったからだ。仕事と同じで、バーバラの方が頼みやすかったのだ。
一方バーバラは学問の世界に入ったのがかなり遅いこともあり(年金が少ない?)、経済的には豊かとはいえず、一人身の老後の心配があった。
体力が衰え、死期を感じ始めた(?)マックスは、これまでのバーバラへの感謝の気持を、遺産を間違いなく贈ることで具体的に現したかったようだ。このためには法律的観点からいえば結婚が一番トラブルが少ないと考えた。マックスの熱心な誘いに、経済的な問題を抱えていたバーバラも妥協し、結婚に踏み切った。
マックスとバーバラはウィンターブルック・ハウス(オックスフォード近くにある)に住み、バーバラは最後まで献身的な奉仕をした。マックスの死後、この家は問題なくバーバラのものになったが、女性が一人で住むには大き過ぎるうえに修理が必要であったため、売却してバーバラはロンドンに住むようになった。
バーバラは最終的には英国考古学研究所イラク研究所の所長を勤めたが、これもレディー・マローワンという称号がかなり(?)力を発揮したそうだ。
 というわけで、母親を始めとしてクリスティやバーバラといった女性から常に愛され、女性を頼り切っていたマックスが最晩年を一人では生きられずに結婚に踏み切り、また経済的な意味で老後の不安を感じていたバーバラも結婚を了承したというのが私の考えである。つまりこの結婚は、不倫の延長線上に生じたのではなく、老人問題、介護問題の結果としてであろう。
 以上のことは、当然、男の論理による身勝手な結論といわれそうだ。女性の論理では?
×月×日 シャーロッキアンとして著名な河村幹夫さんが企画された「イングリッシュ・ミステリーのルーツを訪ねる旅」の事前説明会に特別に参加した。ホームズに縁の土地ばかりではなく、トーキイとバー・アイランドに一泊する旅程を立てたので、参加者にクリスティについての簡単なレクチャーしてほしいと頼まれたからである。トーキイとバー・アイランドについての最新情報はインターネットで簡単に調べられるものの、私自身はトーキイにもバー・アイランドにも行ったことはないので多少困ったが、バー・アイランドをモデルにした『白昼の悪魔』や『そして誰もいなくなった』の話をしたり、例によって、実際に会ったクリスティの話をして、カンベンしてもらうことにした。
 ツアーとはいえ、いわゆる旅行業者が企画したものではなく、完全に河村さんの手作りのツアーだけに(そして参加される人も河村さんの友人を中心にして気心の知れた人ばかりのようなので)、大家族一家がイギリス旅行するという感じ。実にアットホームな雰囲気があった。
 河村さん一行が帰国された後数葉の写真を貰ったが、中の一枚を次頁(省略)に示す。おわかりの方はいるであろうか? 私はわからなかったが、これはエンドハウス(『邪悪の家』に登場)のモデルになった家だそうである。トーキイのインペリアル・ホテルから近いらしい。
 この旅行で残念であったことは、イギリス本島から200メートルほど離れた小島にあるバー・アイランド・ホテルへ行くための乗物(普通のトラクターを改造したシー・トラックという乗物で、このホテルの名物になっている)が直前に故障してしまって、乗り損ねたことだったそうだ。それにしても羨ましいツアーである。
 私は、ナショナル・トラストに寄贈されたグリーンウェイ・ハウスの庭が一般公開になったらぜひ再訪したいのだが、はて、いつになることやら。


ティー・ラウンジ

■ずいぶん遅くなりましたが、今年の一月慌しくロンドンに行ってきましたので(いつも同じようなことばかり書いている気もしますが)、少しアガサに関して報告致します。
 暮に引越しをしたので家の中が混乱のうちに旅支度を整え、疲れを引きずって出かけました。そのせいかどうか、愛用のカメラが着いたとたんに壊れたりしてさんざんでしたが、大英博物館の「アガサ・クリスティと考古学」展と新しくかかげられたブルー・プレークは見学してまいりました。カメラはロンドンで使い捨てカメラを購入しました。思ったより撮れていたのでホッとしました。改めて思ったのですが、アガサは好奇心と冒険心を絶やさない勇気ある人ですね(新谷里美さん)。
 前ページの写真(省略)は、WH通信No.62で触れているSheffield Terrace 58番地の、かつてクリスティが住んでいた家です。左上にブルー・プレークが見えます(S)。
■「見知らぬ人からの愛」の連載はとても興味深く拝読しました。次回が楽しみというより、特別に臨時増刊で一挙掲載があればよいなと思います(遠藤知子さん)。
 おっしゃるとおりなのですが、訳者が多忙なのと私の怠慢とで、ついつい長期連載となりました。ご了承ください。ところで今号の掲載はどうしたのか? といわれそうですが、私の編集がイイカゲンなため(紙幅や訳者の進捗状況などのチェックが甘かったため)、本来なら今号に掲載予定の一場二幕が次号まわしになってしまいました。次回からは間違いなく連載する予定なので、ご容赦のほど、よろしく(S)。
■6月末に東京グローブ座へRSCの"The Merchant of Venice"を見に行ってきました。夜の公演でしたので、北千住の実家に一泊しましたが、実家の母もグローブ座が休館になることを知っていました。RSCの芝居は本当に素晴らしかったのですが、この小屋で見るのはこれが最後かも、と思うと寂しい気分でした。シェークスピアをやるのにあそこほどぴったりな小屋はなかったのに……。涙、涙……。
 最近はあまりミステリー・チャンネルを見ていなかったのですが、先日「リーバス警部のメイキング」という30分の番組にスコットランドの作家イアン・ランキンが出演していて、興味深く思いました。原作を買って読んでみるつもりでおります。クリスティの方は『マン島の黄金』を読んでからちょっとお休み中です。ポワロとマープル物は全部読んでしまったので、シリーズでない作品を、どれにしようか思案中です。クリスティは勿論ですけれど、ミステリー小説ではやはり英国作家の作品が大好きです。シェークスピアを現代風にわかりやすくしたような楽しみは尽きません(高橋顕子さん)。
■先ず目次からみて、すぐに自分のマイベストを読みました。うれしいものです。自分の書いたものが新聞雑誌の投稿欄に載ったのはもうずいぶん前のこと。また何かよろしく!って、気持ちになります。
 マイベストの追記、とでも言いますか――、『茶色―』は、カーがEQMMの「陪審席」で、そのトリックが後の『アクロイド―』で本格的に使われたと書いていました。ぼくはなぜか今でもヒロインの名前が忘れられません! 理想の女性になっているのでしょうか。『親指―』は、初めて買ったポケミスでした。これは小林信彦氏がクリスティの得意技トリックである記述トリックを使った晩年の傑作と書いておられたと記憶しています。『暁の―』は、短編の「バスで帰ろう」というのがありました。このタイトルの方が好きです。どうしても乗らなければならない最終バス、という設定が心に残っています。アメリカ大陸の大きさというか、ルートXXといったものを連想させて、あこがれてしまいます。レニー・エアースを思い出したのは、昨年末ごろに何十年ぶりかで新作が邦訳されたのを本屋で見たせい。次作を待っていたものでした。HMM3月号の「私のベスト3」で『赤ちゃん―』の訳者宇野輝雄氏が彼の新作をあげておられました。ぼくは裏表紙の紹介で、サイコスリラーとかあったので、パスしてしまいました。『クレア―』は一時、八十七分署ものを、特にバート・クリングを中心に読んでいた時期があって、ショックでした!『興奮』は最初に読んだフランシス。ヴァン・ダイン、クイーン、クリスティ、カーといった黄金時代の本格ミステリから他のジャンルに移っていく最初の一冊といった位置にある本でした(高木康男さん)。
■WHNo.63での小生の「マイベスト7」は拙文にあるように、「金田一少年」や「名探偵コナン」を外すかどうか悩みましたが、ともにマンガであることと、短編連作でドイルの「赤髪組合」のような単独でも面白い話があまりないので(しいて挙げれば金田一少年の「魔犬の森の殺人」でしょうか? なんとセミ・レギュラーの人物が犯人というヴァン・ダインやノックスから見るとアンフェアであろう結末なのが印象的でしたが)、外しました。セミ・レギュラーが犯人というと、『アクロイド殺し』のワトスン役が犯人以上にアンフェアかもしれません。レイス大佐やジャップ警部が犯人役というのに等しいからです(佐竹剛さん)。
■先日、頭がクラクラすることがありました。ある人がこう言ったのです。「クリスティって、ポアロを書いた人だっけ?」この人の職業は……編集者です! ただクリスティの名よりもポアロを覚えていてくれたので、ポアロも落ち込まずにすんでくれるでしょう(名声を気にする人ですからね)。
 今年の夏は毎日暑いですが、TVでもクリスティを放映していますし、近くのレンタルビデオ店もクリスティ・コーナーがあって、家の中にいるときも退屈しそうにありません。ましてクリスティ・ファンクラブというハク(?)がついたので、専門書も読み漁っています(山田由美子さん)。
■最近のテレビ12にて再放映されている「ニキータ」、これがなかなか。秘密特務機関の女性捜査官ニキータが愛とやさしさの中で葛藤する様が観るものを感動させる。ニキータに惚れています。映画は一日に二館ははしごで観ます。一日四本の時もあります。さすがにタクシーでの帰宅中、頭がぼんやりする事もありますね。宮部みゆきの「模倣犯」と『秘密の友人』原作の「サウンド・オブ・サイレンス」はどちらも話題作。やはり宮部ワールドには映画は負けておりました。主演の中居正広クンは、クールな感じでそれなりの雰囲気は出ていました。「サウンド・オブ・サイレンス」はなんだか作り急ぎのような感じでした。底の浅い作品と観てしまいました。観客は勝手なものです。
           雪降るやアガサに謎の十日間     ひろこ   (土居ノ内寛子さん)
■上連雀四丁目は妻の実家がありましてよく訪ねます。近くの八幡神社や禅林寺をよく歩きます。梅雨らしい梅雨のせいか、紫陽花の色が今年はいちだんと鮮やかですね。杉みき子さんの古いご本をたくさんまとめて読み返しています。二、三十年ぶりですが、どんなお話もすぐ思い出します。『白いとんねる』という小さなお話をたくさん集めてあるご本がとくに好きです。仁木悦子さんが解説を書かれている文庫もありました(佐々木健太さん)。
■高校時代は中央線沿線に住み、高校は都立国分寺だったので、三鷹は懐かしい響きとして記憶しております。降りる駅は国立で、いつぞや二階堂黎人さんにそのことで懐かしく(作品中に出てきたので)手紙を書いたら返事をいただきました。引退したポアロじゃないけど、家庭菜園でカボチャならぬズッキーニを収穫しています(小森佳子さん)。
■いろいろとツマラナイことに(プロ野球派の私の場合、ぜったいにW杯ではありません)かかずらっているうちに、きちんとWH通信夏号到着。いーかげん、だらしない我が身、我が生活にくらべて、なんという素晴らしさ。そして数藤さんの巻頭の辞で、クリスティが実に偉大であったことも改めて認識できました。新長大連載、楽しみです。私自身は、神宮球場でスワローズの応援に生きております(海保なをみさん)。
■なさけないことに老来ますます横書きが読みにくくなり、今回もわりと字の大きな後半だけをやっとこさ、という有様です。書家の石川九楊氏が日本語はタテに書くのが本当であると論じてますが、一人二人の力ではどうにもなりませんしね……。朝日新聞の「いわせてもらお」欄を愛読してましたが、今年横書きになったら面白さが全く感じられなくなりガクゼンとしました。どうも世界が狭くなり困ったものです。「ヨコ書き殺人事件」なんてのが起こりかねないかも。でも被害者が多すぎる! 昔、徳川夢声のユーモア探偵小説に、父の遺恨で英語に恨みを持つ犯人が英文学者を殺す話がありましたけどね(杉みき子さん)。
■「検察側の証人」(9月21日、6時から)を見てきました。おどろおどろしいフレンチ殺害現場の遠景で幕を開けた舞台にぐいぐいと引き込まれ、最後まで緊張して見ました。
 この法廷劇は私達観客を殺人事件の陪審員にみたてて進められていくので、全身を耳にしていないと陪審員としての役目を誠実に果たせなくなってしまいます。だから、緊張して当然なのです。それでも映画「情婦」とはまったく違って、限られた空間の中で物語が繰り広げられる舞台の魅力に浸ることも出来ました。印象に残ったのはやはり主役二人の演技でした。麻実れいは終始一貫して冷徹で一途なローマインを演じましたし、古谷一行はあのロートンよりも英国紳士ふうに弁護士ウィルフリッド卿を演じて見せました。筒井康隆(判事)、松金よね子(マッケンジー)両人の少々コミカルな演技には客席から笑いがおこり、緊張の合間で場内の空気が和みました。また、今回の演出ではクライマックスで使われた凶器がナイフではなく銃になっていたのも見逃せません。自動的に移動する舞台装置のあるこの劇場が「テアトル銀座」という映画館だった時代を懐かしく思い出しました(安藤靖子さん)。
■WH通信はいつも印象深い出来事のあった日に届きますが、今号は映画「蜘蛛女」(監督/P・メダック、主演/レナ・オリン、ゲーリー・オールドマン)12CHAN「午後のロードショー」で観ている時に届きました。フィルムノワールの名作には忘れ難いセリフや語りがつきものですが、この映画も最初のモノローグと終わりのモノローグがいい。「その男は必ず毎年、半年ごとにやってくる。5月1日と、12月1日に。不幸な男の物語を語るために……」というのが最初のモノローグ。どうです、半年に一度届く会誌を手に聞くのにぴったしのモノローグではありませんか! あんまり似合い過ぎて、しばし呆然。会誌の中身は不幸な男の物語ではなく、楽しい読み物に巡り合うことの出来た幸福な読者からの便りですから、その点は合致しませんが。
 「蜘蛛女」は私のお気に入りの映画で何回も観ているので、今回は会誌を読むことを優先、時々画面にも目を走らせながら読み終えました。そして読み終わった時映画も終わり、その終わりの場面に流れたモノローグ。「どうやら今日は来ないようだ。でもまだ、半年後があるさ。12月1日が……」。こうまでドンピシャにキメられると、偶然とは思いにくい。しかし偶然じゃなかったら、何なのだ……。「蜘蛛女」のモノローグの主は、来る筈のない女(多分、死んでしまった)を待ち続けているのですが、会誌は「必ず毎年、半年ごとにやってくる」。これは凄いこと、読者・投稿者にとっては大変幸せなことで、商業雑誌でさえ続きにくいこのご時世に4半世紀以上も会誌を提供し続けて下さっているS氏の努力とご厚意には感謝あるのみ。「必ず毎年、半年ごとにやってくる」会誌を、とても楽しみにしています(泉淑枝さん)。
■追伸。ご報告を忘れたことが一件。スピルバーグの新作SF映画「マイノリティ・リポート」にアガサ、ダシェル、アーサーという名の3人の予知能力者が登場します。彼らは"プリコグ"と呼ばれ、2054年のワシントンDCでその特殊な能力を犯罪予防局の捜査のため利用されています。  "アガサ"という名前に「おやっ」と思いながら見ていたのですが、後でプレスシートを読んだら、プリコグの名前は3人の天才推理作家、アガサ・クリスティ、ダシェル・ハメット、アーサー・コナン・ドイルにちなんだのだそうです。フィリップ・K・ディックの原作でもそうだったのか、それとも映画化に際して思いついたアイデアなのか、原作本が積み上げたダンボールのどれかの中に埋没してしまっているので確認できませんが、記憶力のいいS氏や会員の皆様はお分かりでしょうね。私の場合は記憶力減退というより、もともと記憶しようという意欲に欠けるところがあり(威張ることはないか)読んでは忘れ見ては忘れ、原作本のディテールも、読み終えて片付けた場所も忘れてしまった。これはまさに「メメント」状態。
 プリコグの"アガサ"は3人の中で最も能力が高く、知性と温かい感情を併せ持っています。こんなところにも、原作者かそれともスピルバーグか分からないけれど着想した人のクリスティに対する理解というか敬意が感じられて、ファンとしては嬉しいです。一見の価値のある映画ですので詳細は劇場でご確認下さい。ちなみに、宣伝担当のお名前は早川さん。そんなことまで何となく嬉しくなってしまう会員・泉です。キンジー・ミルホーンの真似をして、「以上報告いたします」(泉淑枝さん)。
■あってはならないことですが、一人制手工業で機関誌を作っている関係上、どうしても数年に一回会費を管理しているソフト(Excel)への入力ミスが起きてしまいます。前回会費を払ったのに連続して会費の請求がきたなどといったオカシイことが起きましたら、お気軽に(というのも実にヘンですが)ご連絡ください。証拠となる郵便振替用紙のコピーなどは一切不要です。まず確実にこちらが間違えていますので。またこれは確率的には少ないのですが、郵送中の事故で会誌が届かない場合もあります。その場合バックナンバーがあれば(ホームページで確認してください)、会誌を再送しますので、この場合もご連絡下さい。以上、よろしく!
■この秋の映画は「ブレッド&ローズ」にしました。数年前に公開された「マイ・ネーム・イズ・ジョウ」を観て、ケン・ローチ監督作品が好きになってしまったからです。もちろん英国の監督です。今回の舞台はイギリスではなくロサンゼルスなのですが、相変わらず労働者階級の生活を丹念に描いています。思わず涙! というシーンもありました。来年もケン・ローチの映画がくるとか。楽しみです(S)。
■申し訳ありませんが、戯曲「見知らぬ人からの愛」と「ミセス鈴木のパン・お菓子教室」は休載となりました。次号には必ず載りますので、ご容赦のほど、よろしく(S)。
■この4月からやっと"毎日が日曜日"の身になったということもあり、W杯が終わり、残暑も気にならなくなった9月頃から自分のサイトを作り始めました。主夫と読書の合間に作っている関係で今年中の公開は無理ですが、2003年4月には工事中を残したままでも公開しようと考えていますので、その頃に接続してみてください。毎日更新の日記も掲示板もない、半年に一回の接続で十分な内容ですが、こう書いておけば自分へのプレッシャーになるので。
■64号も間違いなくクリスマス前に発送できるはずです。メリー・クリスマス & 謹賀新年!!


 ・・・・・・・・・・ウインタブルック・ハウス通信・・・・・・・・・・・・
☆ 編集者:数藤康雄 〒181      ☆ 発行日 :2002.12.24
  三鷹市XX町XーXーX          ☆ 会 費 :年 500 円
☆ 発行所:KS社              ☆ 振替番号:00190-7-66325
                        ☆ 名 称 :クリスティ・ファン・クラブ


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