ウインタブルック・ハウス通信

クリスティ・ファンクラブ機関誌

2002.9.15  NO.63

 63歳(1953年)のクリスティ。この年クリスティは『ポケットにライ麦を』を出版している。前年には長編ミステリーを二冊も上梓しているから、それに比べるといささか低調な活動の年といえそうだが、それは間違いだろう。
 クリスティの夫マックス・マローワンが1949年より始めたニムルドの発掘作業は、この年、悪天候続きで大幅に遅れていた。発掘は学問的にも、経済的にも大きな壁にぶつかった年であったが、クリスティは『ポケットにライ麦を』の印税を寄付したり、発掘隊の食料管理や環境整備に精を出して、隊員の士気を鼓舞し続けた。縁の下の力持ちとして発掘作業を支えながら、新作ミステリーやクリスティ戯曲の最高峰「検察側の証人」を完成させたわけだから、むしろ大活躍した年だったわけである(S)。


< 目  次 >

◎戯曲「見知らぬ人からの愛」(第一幕第一場)―――――――――――原作(短編「うぐいす荘」):アガサ・クリスティ
                                               脚色:フランク・ヴォスパー
                                               翻訳:小堀 久子
◎クリスティ・ファンのマイベスト<7>―――――――――――――――高木 康男・佐竹 剛・竹澤 融
◎クリスティ劇「蜘蛛の巣」を観て―――――――――――――――――安藤 靖子
◎ミセス鈴木のパン・お菓子教室  第13回 アールグレイのババロア――鈴木 千佳子
◎クリスティ症候群患者の告白(その32) ―――――――――――――数藤 康雄
◎ティー・ラウンジ
★表紙   高田 雄吉


戯曲「見知らぬ人からの愛」(第一幕第一場)

原作(短編「うぐいす荘」):アガサ・クリスティ
脚色:フランク・ヴォスパー
翻訳:小堀 久子

 クリスティの戯曲は、オリジナルなもの、自分の作品を本人が脚色したもの、自分の作品を他人が脚色したものの三種類に分類されます。本戯曲はその三番目に属するものですが、興味深い点は、短編「うぐいす荘」を全三幕に引き伸ばしたのではなく、第一幕と第二幕はほとんど脚色者の創作で、第三幕のみが短編の脚色になっていることです。事件の前段が説得力をもって描かれています。
 なお上演すれば二時間近くかかるような戯曲なので、残念ながら、小さなフォントで二段組にしても一挙掲載はできません。全部で五回(次回以降は第一幕第二場、第二幕第一場、第二幕第二場、第三幕の4回)の連載となります。長期間の分載で申し訳ありませんが……(S)。


第一幕

第一場

(背景;あるアパートメントの居間。ベイスウォーターにある建物の最上階である。ちょうどこれから家具付きの部屋として貸し出すための準備中で、個人的に特に大切なものを、部屋の中央に置いた小さなトランクに詰め込んでいるところである。)


(ルイーズ・ギャラード〔ルールーおばさん〕はそのトランクに覆い被さるようにして、堂々とした腰の曲線を観客に見せながら作業をしている。彼女はおせっかいにかけてはプロ級である。しばらくその優美とはいえないポーズを続けた後、体を起こす。)
ルールーおばさん:(トランクに向かって)さあ、済んだわ。踊り場に出しておきましょう。

(右手中央のドアを開けてトランクを踊り場に出し、戻ってくる。ドアを閉めマントルピースに向かって歩き、中央にあるテーブルの上からハタキを取り上げる。)
ルールー:さあて、次は何を片付けようかしら。(マントルピースの上から二本の燭台を手に取り、隣の部屋に声をかける。) 本当にこのきれいな燭台は残しておかないの、メイヴィス?(燭台を中央のテーブルに持っていき、ほこりを払い始める。)
メイヴィス:(声)何?
ルールー:燭台よ! これも片付けるのかしら?
メイヴィス:(声)どう思う?
ルールー:(テーブルの上の新聞紙で燭台を包みながら)そうね、この部屋を借りる人は召使を使うかどうかしらないけど、信用できない召使もいますからね。近頃のメイドときたら、気は利かないし、無器用なものよ。(二本目の燭台のほこりを払いながら)思い出すわ、私がよちよち歩きだった頃から家にいたメイドたち。母は、セシリーのおばあさんの事よ、よく言っていたものだわ。本当に役に立って重宝だって。(二本目の燭台を新聞紙で包み始める。) ギャラード家には本当に上品な良いものが揃っていたわ。たとえば、(その燭台を落とす。壊れる。)ま、なんてこと!
メイヴィス:(声)どうしたの?
ルールー:なんでもないのよ、なんでも。(二つに折れてしまった燭台を取り上げ、新聞紙を一枚つかむ。) どういうわけか、手元が滑って、燭台をひとつ落としてしまったのよ。(折れた燭台をさっと包む。)
メイヴィス:(声)傷は?
ルールー:(包みを見ながら)い、いいえ。わ、わからないくらいよ。

(左手にある小さなテーブルの上の電話が鳴る。ルールーおばさんは舞台を横切って、それを取る。)

ルールー:(大声で)はいはい、もしもし。……ええ、いえ、こちらは……あら? ちょっとお待ちを。(隣の部屋に向かって叫ぶ。) メイヴィス、ここの番号は? 全然覚えていないわ。
メイヴィス:(声)2383
ルールー:(受話器に向かって)あー、もしもし、こちらは2383番でございます。ええ、その通りですわ。……アパートをお貸しする……ええ、……それはメゾネット以上の価値はありましてよ。お風呂付きで、……天井が高くて……(憤然として)いいえ、とんでもない、メイドなんかじゃございませんよ。メイドは親知らずを抜くというので、暇を出してあります。私はハリントン嬢のおばです。

(メイヴィスは朗らかで穏やかな表情の三十歳ぐらいの女性で、無駄のない動作で中央左の寝室から、小さな引き出しやシーツなどを持って出てくる。それらを中央のテーブルに置き、寝室に戻る。再び現ると、今度はたくさんのリネンを抱え、後ろ手で寝室のドアを閉めて、リネン類を中央のテーブルに置く。右手前にある書き物机に向かっていき、鉛筆とノートを手にとり中央のテーブルに戻ると、リネン類のチェックを始める。その間、ルールーおばさんは電話に対応している。)

ルールー:私は姪とその友達のために、この部屋を貸し出す準備を手伝っているんですのよ。……ええ、そうです、家具付ですよ。とってもきれいになっていますわ。家具付がよろしいのでしょう? ……それなら、最高ではありません? ……あら、家具付がお望みではない? ……でも、どういうことかしら、ここは家具付きのアパートメントですよ。(よく通るささやき声でメイヴィスに)部屋の問い合わせなのよ。(受話器に)よくわかりませんわ。不動産屋がそう言ったとでも? ……いえ、いえ、こちらは家具付きなのです!

(メイヴィスはテーブルの右手から回ってソファーの前からルールーおばさんの左へ。)

ルールー:まあ、なんてことを! 怒鳴ってなんかいませんよ!……(受話器をメイヴィスに渡す。) さあ、メイヴィス、お願いだから代わって頂戴。とってもわからずやだわ! 頭がおかしい女よ! (電話のコードをくぐるために屈みながら)ばっかじゃないかしら!
メイヴィス:(穏やかに受話器に向かって)もしもし、ええ、そうですわ。……いいえ、家具付でお願いしていますの。ええ、残念ですが、……ごめんください。(電話を切る。) 不動産屋の方で、何か手違いがあったようね。
ルールー:(横切って、新聞紙に包まれた燭台を右手の戸棚にしまいながら)そのようね。それにしても、あの女の人は、あんなにも突っかからなくてもいいと思わない? ……その不動産会社は本当に信頼できるの?
メイヴィス:(ソファの上に膝をついて後ろにあるリネン類のチェックをしながら)不動産会社としてできうる限りの事をしてくれるわ、ミス・ギャラード。
ルールー:(戸棚から中央のテーブルに戻る。) そうね、あなたが見つけたのだし、私が口をはさむことではなかったわね。私はセシリーのおばで、ただ一人の身内だというだけですけど、言わせてもらえるなら、ハロッズの人材なら信頼できると信じていてよ。(メイヴィスが持ってきた小引き出しに新聞紙が入っている事に気がついて)あらま、メイヴィス、引き出しの底に敷くのなら、新聞紙よりましなものにしなさいよ!
メイヴィス:(テーブルとソファの間に立ち、引き出しの中をのぞきながら)蛾を防ぐのよ。
ルールー:ありきたり過ぎるでしょう! この恐ろしい殺人者の写真もそうよ、いかにもって感じ!(その新聞紙をメイヴィスに渡して、二本目の燭台を右手の戸棚に運ぶ。)
メイヴィス:(ちょっと驚いてみせながら)ホントね! 背が高くて、日焼けしていてハンサム!(テーブルの上にある引き出しの中に新聞を戻す。)
ルールー:(中央テーブルに戻ってハタキを手に取りながら)それにしても、セシリーのお買い物は長いわね。何かあったのではないでしょうね。
メイヴィス:大丈夫よ、たくさん買い物があるのよ。
ルールー:(ハタキを手にマントルピースへと歩く。愚痴っぽく)この頃の道路は面倒になって、あの赤と緑が点滅する交通信号。いつ変わるかなんて、わかりゃしないんだから。(マントルピースの上に小銭を見つけて)これは何のお金なの?
メイヴィス:(中央テーブル後ろに回わりながら)暖炉のガスがコイン式なのよ。
ルールー:あなた本当にこんな良い花瓶を、いろいろ置いていくつもり?
メイヴィス:(シーツを右手の戸棚に運びながら)牢獄みたいに何もないままで貸せないでしょう?(シーツを戸棚の近くにある椅子の上に置く。)
ルールー:そうね、もちろん、そうだわ。でもこの頃の人は信用できないから。
メイヴィス:身元は確認するわ。(戸棚から燭台を取り出して、窓際の椅子に置く。)
ルールー:そんなものはいくらでも偽ることができるのよ。ほんのちょっと前にソーホーについての記事を読んだけど、そこでは偽造パスポートを作っているんですって。それにソーホーと言えば、あのイタリア人たちよ。
メイヴィス:(ソファーの後ろに戻って)私たち、そんなに簡単にだまされないわ。
ルールー:(左前方の肘掛け椅子からクッションを集めて、ソファーの上に積み上げながら)ねえ、メイヴィス、あなた少し気を悪くしていない?
メイヴィス:気を悪くする?
ルールー:ええ、そうよ、ずっと二人で暮らしていたのですもの、セシリーが結婚することになって、複雑な気持ちだと思うの。でもね、人はいつまでも若くはいられないわ。
メイヴィス:(ソファーの後ろのテーブル・マットをチェックし、中央テーブルのノートに書き込みながら)わかっています! まだ歯はちゃんと揃っていますけど。
ルールー:セシリーの結婚式の後、すぐに旅行に出かけるのはいい考えだと思うわ。セシリーがいないと、この部屋では、とっても気が滅入るでしょうね。
メイヴィス:そうよ、三ヶ月かけて、ヨーロッパ中を回れるなんて、最高の気分。これまでに南アフリカで二週間過ごしたのが一番長い旅だったわ。なんて幸せなんでしょう。
ルールー:そうかしら。
メイヴィス:どういう意味?
ルールー:ねえ、メイヴィス、……実を言えば、私心配なの。セシリーの事が。(ソファーの右端に座って)二万ポンド当たった事で、セシリーは自分を見失っているのではないかと……。
メイヴィス:一万ポンドよ。私たち半分づつに分けたから。
ルールー:あら、じゃ一万ポンドね。そのお金のせいで、混乱しているようには思わない?
メイヴィス:まさか! お金が当たったことを素直に喜んでいたわ。彼女はただ……。
ルールー:違うの、あなた、わかっていないわ。私が言いたいのは、ナイジェルのことなの。

(メイヴィスはルールーおばさんが何を言いたいのかわかったが、セシリーと約束していることだったので、同意はしない。)

ルールー:セシリーにはちっとも、嫁ぐ前の喜びってものが感じられないのよ。
メイヴィス:じゃあ、どんな様子だったらいいわけ? 一日中花を活けていたり、ファウストのジュエルの歌をハミングしていたり……。
ルールー:(ばか丁寧に)ねえ、メイヴィス、時々あなたの話についていけなくなるのよね。
メイヴィス:(リネン類の山を戸棚にしまいながら)ごめんなさい。
ルールー:私はただ、宝くじに当たったことが、セシリーの結婚に対する考えを変えてしまったのではないかと思うの。

(メイヴィスは戸棚から中央テーブルに戻り、ルールーおばさんの脇にあるソファーの右ひじ掛けに腰を掛ける。)

ルールー:駅まで出迎えにすら行かないなんて!
メイヴィス:でも、ナイジェルが来ないでと言ったのよ。

(暖炉の火が消える)

ルールー:そりゃあ、駅なんて、人がゴチャゴチャいて、変な匂いはするし、ロマンティックな場所とはいえないわよ。そうそう、少女の頃、とっても仲良しのお友達とロンドン橋駅で待ち合わせをして。あら、リバプール通り駅だったかしら。橋が付く駅がたくさんあるから、違う橋に降ろされて、気がついたら、ブロード通り駅だったの。それでまた汽車に戻ったけど、友達とは結局会えなくて、心残りだったわ。ましてや、セシリーは恋する乙女よ! クラプハムの交差点だろうが、どこでだって……。あらま! 暖炉のガスの火が消えていてよ。小銭があったでしょう。(立ち上がって暖炉へ行く。電話が鳴る。) 今度はあなたが出て、侮辱を受ける番よ。

(メイヴィス、電話に出る。その間、ルールーおばさんはマントルピースから小銭を取ってコイン入れに入れる。マッチを擦ってガス栓に火をつけようとするが、なかなかうまく行かない。「ポン!」と大きな音。ルールーおばさんはその音と同時に飛び上がる。それから二本目のマッチを擦る。暖炉の火がつき、ルールー、立ち上がる)

メイヴィス:(ルールーおばさんがガスと格闘している間、電話をとり)もしもし、……そうです、2383番です。どちらの事務所からお聞きになりましたか。……ええ、そうです。四部屋あります。……三ヶ月間家具付きでお貸しします。ええ、四ギニーで……。もちろんですわ、いつでも見にいらしてください。
ルールー:(慌てて)今日の午前中はだめよ、ナイジェルが来るから。
メイヴィス:(受話器に)そうですねえ、今日の午後あたり……ちょっ、ちょっと、もしもし、ねえ、もしもし! もう!(受話器を置く。)
ルールー:(ほくそえんで)あら、どうしたの?
メイヴィス:男の人が部屋を見に来るわ。言いかけたのに、電話、切られてしまったわ! 「わかりました、今すぐ行きます」って、こうなのよ。
ルールー:ずいぶん衝動的な人ね。
メイヴィス:ちょっとアメリカ訛りがあったわ。(右手を戸棚に向かって横切る。)
ルールー:ああ、なるほどね。その人、名乗った?
メイヴィス:いえ。
ルールー:変わった人ねえ……しかし、まあ、アメリカ人なんて……。
メイヴィス:でもきっと大丈夫ね。ナイジェルの汽車が到着するのは一時間も後のことだし、それだって遅れるだろうし。イギリス海峡に霧が出ているって何かで読んだわ。
ルールー:(この話題に飛びつき)霧! そういえば、いとこが霧の中で衝突事故にあったことがあったわ。ちょうどラムスゲイトを出たところだったの。いとこはこう言っていたわ……。

(玄関ドアの閉まる音)

メイヴィス:セシリーだわ。
ルールー:ナイジェルを迎える時は、最も輝いて見せなきゃならないというのに、ショッピングで疲れ果てているのではないかしら。

(セシリー・ハリントンが右手中央に入ってくる。三十歳ぐらい。人目を引く容貌ではないが、とても親しみやすい感じ。だが今は外見のために費やせるお金に恵まれたため、以前より美しく装っていられる。たくさんの買い物の包みを中央テーブルの上に置く。)

ルールー:まあ、かわいそうに!
セシリー:(当惑して周りを見て)何? どうしたの?

(メイヴィスはリネン類を戸棚にしまい終える。)

ルールー:さぞ疲れたでしょう。あちこちのお店を歩き回って。
セシリー:あら、そんなこと!(帽子を取りながら)一つのお店にしか行かなかったから、そんなに歩き回らなかったわ。すてきな若い男性が案内してくれたのよ。本当にこんな魅力的な販売員がいるのかしらって。驚かない?
ルールー:それは運がいいわね。私はお目にかかったことが無いわ。
セシリー:あら、メイヴィス、全部かたずけてくれたのね。私の分を残しておいてくれれば良かったのに。(コートと帽子を戸棚の右手にある椅子の上に置く。)
メイヴィス:(笑いながら)いいのよ。(戸棚を閉めて、仕事を終える。)

(セシリーはソファの前を横切って、自分の腕時計と、マントルピースの上の置時計と比べる。)

セシリー:あの時計、あっている?
メイヴィス:ちょっと遅れていると思うわ。
ルールー:(冗談めかして)セシリーちゃんには進むのが遅すぎるって感じかしら?
セシリー:(マントルピースのところで)どうして? (気が付いて、はにかみながら)ああ、そういうこと……。
ルールー:(書き物机の椅子に置いてあるコート、バッグ、手袋を取りに行きながら)さあて、気配りの良いルールーおばさんは、二、三時間外出してくることにしましょうかね。(コートを身に着け始める。帽子はずっと被っていた。)
セシリー:あら、そんな必要は全く無いのに……。
ルールー:何を言っているの! ナイジェルが来たら、二人きりになりたいと思うでしょう。(手袋を着ける。ずっとしゃべり続ける。) それに私だって、やるべきことがたくさんありますからね。ハロッズに行って、ここの部屋を貸し物件リストに載せてもらうわ。あなた達が見つけた不動産屋は全く信用できませんからね。それからハロッズのレストランで、ランチをいただこうかしら。小ぶりのヒラメとか、いいえ、子牛の胸肉かしらね。それから、メレンゲよ。そうね、二時半ごろに戻るわ。そのころにはお二人とも気が静まっているでしょうしね。
セシリー:気が静まる?
ルールー:再会の喜びで取り乱してしまうでしょう! ええ、わかっているから、大丈夫ですよ……。(大げさな身振りで玄関に向かうが、手にしているハンドバッグから、また何か思いつく。) 玄関口には、守衛が立っているわね。まあ、大変、チップの小銭が足りるといいけど。(ハンドバッグの中を探る。)
セシリー:私持ってるわ、ルールーおばさん。(バッグから一ポンド紙幣を出してソファの背からル−ルーおばさんに差し出す。)
ルールー:(それを受け取りに行きながら)あら、そんなにいらないわ。……でもこれでシェリー酒でも一杯いただけるかしら。

(ルールーは戸口からメイヴィスにめちゃくちゃでわけのわからないサインを送ってから、右手中央ドアに消える。)
(沈黙。ドアが閉まる音。メイヴィスがこらえきれなくなって笑い出し、セシリーもそれに続く。メイヴィス、徐々に笑いを抑える。セシリーはクッションをソファから肘掛け椅子に戻す。)

メイヴィス:(中央テーブルに来て)ルールーおばさんは、あなたに失望してるのよ。(テーブルの上の箱からタバコを一本とって火をつける。) あなたが思い通りに行動しないから。頬を赤らめるとか、目をキョロキョロ踊らせるとか、動悸がひどくなるとか。

(沈黙。セシリーは真剣な様子になる。)

セシリー:私もそう思っているわ。
メイヴィス:あら、そうなの?
セシリー:もう、しらばっくれるのはやめて。最近の私の気持ちの動きを、鋭く見抜いているくせに。
メイヴィス:(ソファの前面に回ってきて)気持ちって?
セシリー:とっても心配なの。
メイヴィス:ナイジェルに対して?
セシリー:そうよ。
メイヴィス:(ソファの右端に座りながら)でもセシリー、あなたったら、新たなスタートの日にそんなこと言うなんて、ちょっと遅すぎるわよ。
セシリー:どうしようもないの。もう自分をだませない。何もかもが単調過ぎる。
メイヴィス:単調?
セシリー:(ソファの左の肘掛に腰掛けて)そうよ、単調だわ。……もちろんナイジェルとは、互いに好意をもっているのよ。
メイヴィス:好意? なにそれ? 結婚しようって二人が使う言葉?
セシリー:古くからの知り合いなのよ。ロマンスというには冷め過ぎているわ。
メイヴィス:ロマンスが欲しかったの? ゴンドラに乗っていちゃつくとか?
セシリー:わくわくしたいのよ。これまでの人生は、変化が無さ過ぎたから。
メイヴィス:ナイジェルだって単調に過ごしてきたでしょうね。
セシリー:ええ、わかっているわ。でも彼は今イングランドに戻って来て、全く新しいスタートラインに立つの。大違いだわ。わたしにとって職場はスーダンの砂漠そのものだし、あなただってそうでしょう。
メイヴィス:言いたいことはわかるわ。でもね……。
セシリー:来る日も来る日も、何年も同じ。朝起きて時間までに出勤する。いつでも気のきいた有能な秘書であらねばならない。「わかりました、サー・ヘンリー」「いいえ、サー・ヘンリー」「もちろんですわ、サー・ヘンリー」ランチに行って、急いで戻って、終わったらバスで帰宅。もっと生きたいの。活き活きと。年を取って、白髪になって、死ぬ前に。そして……。
メイヴィス:言いたいこといったら、お水でもあげましょうか?
セシリー:(肘掛から降りてメイヴィスの隣に座って)こんな言い方ばかげているとは思うわ。でもね、私はいつだって心の底では冒険を求めていたの。それで、あの宝くじに当たって、いよいよチャンスがきたって思ったのよ。真っ先に私が何をしたか、わかる?
メイヴィス:わからないわ、言って。
セシリー:あなたには言うつもりだったのよ。ナイジェルに手紙を書いて、結婚を延期して欲しいって頼んだの。
メイヴィス:セシリー、嘘でしょう!
セシリー:ただ延期を頼んだだけだわ。
メイヴィス:どういう理由をつけたの?
セシリー:しばらく自分だけで、自由な時間を楽しみたいって。
メイヴィス:ナイジェルは何て?
セシリー:カンカンよ。
メイヴィス:でしょうね。
セシリー:彼は計画が乱されるのを凄く嫌がる人でしょう。彼の言葉で言えば、すべて丸く収まっていたわけなの。例えば彼の到着後一週間のうちに、彼の服を買って、こまごまとした事柄を片付けて、それから婚姻許可書をもらって、ちょっとした新婚旅行に出かけるという予定が立っているわ。行き先はイングランド。なぜって、彼が長い間行っていなって言うし、それから、そう、ゴルダー・グリーンへ行くわ。

(沈黙。)

メイヴィス:(立ち上がり、中央テーブルでタバコを消しながら)ええ、全部知っているわ。でも何がいけないの。全部あなたが立てた計画じゃないの。何度も何度も聞かされたわ……。
セシリー:わかってる。でも今は暖炉の前でナイジェルのスリッパを温めるようなことよりも、もっとなにか自分の世界が広がるようなことをやりたい気持ちなの。ほんのしばらくの間でいい。メイヴィス、それだけの事なの。
メイヴィス:(ソファの右の肘掛に腰かけて)でもセシリー、ナイジェルを愛しているのでしょう?
セシリー:それが問題ね。そうなのかしら? ナイジェルを愛したことがあったかしら? それともただ、彼が愛してくれるだろうから? 彼と結婚すれば仕事をやめられると思ったから? いやな考え方だけど、実際そうかもしれない。
メイヴィス:いいえ、自分を不当におとしめることはないわ。本気じゃないんだから。
セシリー:(急にまた沈痛な表情になり)そうだったらいいんだけど……。(立ち上がって書き物机に向かい、ステージ手前の小さな引き出しから、紙切れを取り出し書き物椅子の前に立つ。) 夕べこれをナイジェルに書いたの。
メイヴィス:まあ、セシリー、やめなさいって……。
セシリー:そうよ、婚約は解消するわ。
メイヴィス:(立ち上がりながら)これまでの月日を考えたら、そんなことはできないはずよ。
セシリー:ねえ、全部私のせいじゃないでしょう? 三年前私も一緒について行くって、彼に言ったわ。貧しくても平気だって言ったわ。でもナイジェルは私がここで待っているほうがいいと考えたのよ。今こんな気持ちで結婚することこそ、彼に対して不誠実だと思わない?
メイヴィス:そうとは限らないわ。でも、いったいどうしたいの?
セシリー:夕べ考えたのは、今朝の内にここを片付けて、彼がここに着いた時にはこの手紙だけを残して置くということ。
メイヴィス:でも今朝になって気が変わったのでしょう。
セシリー:ええ、そう。本当に最後にもう一度だけ、結婚の延期を頼んでみることにするわ。(紙切れを引き出しに戻す。)
メイヴィス:延期になったら、その間どうするつもりなの?
セシリー:あなたがやろうとしていることと同じよ。旅に出て、人と出会い……。
メイヴィス:ナイジェルが拒んだら、どうする?
セシリー:(静かに)おしまいだわね、確実に。

(長い沈黙。)

メイヴィス:(立ち上がりながら)あなたって、ばかよ!
セシリー:お願い、メイヴィス。あなたは応援してくれると思っていたわ。私達、いつだって気が合っていたじゃない。
メイヴィス:(セシリーに向かって一歩前に出ながら)このことは別よ。いやらしいお金のせいで、頭に来たのね。
セシリー:あなたわかっていない。それだけじゃなくって……。
メイヴィス:ナイジェルはあなたの言う通りに、良い夫になるようがんばっているじゃない。そんな彼を落ち込ませる権利はあなたにはないわよ。
セシリー:私はかまわないわ。たとえ……。
メイヴィス:そう、独身のままでも満足だなんて、わざわざ言わないでくれる? あなたの事はよくわかるわ。女学生気分なのよ。
セシリー:(書き物椅子に座わったままで、怒りながら)ひどいわ!
メイヴィス:自分を見失っているのよ、お嬢さん。それだけのこと。あなたは、まともで幸せな何かが得られるチャンスを、'世間を見る'という全く作り物の概念のために捨てようとしているの。それって、いったいどんな意味なのよ。
セシリー:(言葉を失って)それは……、そうね、たとえば……。
メイヴィス:パリに行ったとしましょう。地下のナイトクラブで顔色の悪い変質者たちに混じって、クリーム入りのハッカ水を飲むのよ。
セシリー:くだらないこと言わないで!
メイヴィス:(左中央の寝室のドアに向かって動きながら)それからモンテカルロに行き、カジノでパナマ帽をかぶった下品なおじ様に背中をつねられるのよ。
セシリー:メイヴィスったら!

(メイヴィスは自分の部屋に飛び込む。)

メイヴィス:(声)広大な大地を見るわ。きっと、荒れ狂う海もね。ワオ! ラム酒も飲むでしょう。春のパリも素敵よ。……ドゥドゥドゥ……ディーディディディ……(ハミングする)。大したものね! (帽子とコートを身に着けて現れる。)そして最後は船のデッキで、つめを噛む癖のある、にきび面の若い無線交換士に、ひどい目にあわされて終わるのよ。(窓辺の椅子から鞄と手袋を取り、身につける。)
セシリー:あなたって最悪! ルールーおばさんぐらい、ひどいわ!
メイヴィス:あら。まあ、いいわ。おば様の例にならって、'気配りがいいから'お邪魔虫はちょっと身を隠してきますわ。霧がひどくなければ、ナイジェルは今にもこちらに向かっているだろうし。
(セシリーは答えない。メイヴィスは態度を和らげる。)

メイヴィス:元気出しなさいよ。うまく収まるわよ。
セシリー:(力なく)そうかしら? (メイヴィスを見る。)
メイヴィス:(微笑んで)そうよ。

(メイヴィス、右中央ドアより出て行く。)

(一人取り残されたセシリーは、テーブルにおかれた箱の中のタバコを取り出そうとする。その箱は美しく装丁された本で、中にタバコを詰められるように加工がしてある。考えごとにふけって立ち尽くすセシリー。やがて遂に心を決めたかのように、コートと帽子を身につけて、書き物机に向かい、手紙を取り上げてそれをマントルピースの上に置き、ドアに向かう。ドアの取っ手を掴むが、迷いがよぎり苦悩する。引き返しながらゆっくり帽子とコートを脱ぎ、マントルピースへ行って、手紙を眺める。セシリーがそうやっている間に、ブルース・ロベルが静かに戸口に現れる。三十歳から三十五歳ぐらいで、身長は六フィート(183cm)ぐらいの体格のいい男である。健康そうな外見で、歯並びが美しい。髪は強く縮れた金髪だ。彼の態度はシャイでありながら、天衣無縫さが混ざり合った、不思議な雰囲気である。かすかにアメリカのアクセントで話すところは、柔和な雰囲気をかもし出して、十分に人をひきつける魅力がある。セシリーがマントルピースの上の手紙を立ったまま見つめ、帽子を脱いでいるところをブルースはしばらく見ている。そして話し掛ける。)

ブルース:さあて、がんばって早く来ましたよ。

(セシリー、驚いて振りかえる。)

セシリー:ナイ……! (勘違いに気づいて)ご、ごめんなさい。別の人と間違えました。
ブルース:がっかりさせて申し訳ない。(帽子とレインコートを右手戸棚の脇にある椅子の上に置く。)
セシリー:(面食らって)あの、ちょ、ちょっと、どうして?どうやって……?
ブルース:ドアが開いていたので、入って来ただけですよ。いけなかったかな?

(セシリーは戸惑ったまま、ブルースを見つめる。ブルースは戸口に立ったまま。)

セシリー:あ、あの、どういうご用件でしょう?
ブルース:(微笑んで)もうお忘れですか、たった今電話で話したじゃないですか。
セシリー:話した? ちょっと待っていただけます。何か手違いがあるようですわ。わたしは午前中ずっと出かけていました。今帰ったところですし、誰とも電話で話していません。
ブルース:この部屋はあなたが貸したいという部屋じゃないのかな?
セシリー:部屋のこと? そうですけど。わかりましたわ、きっと友人とお話になったのでしょう。彼女はちょうど出て行ったところなのです。きっと私に言うのを忘れたのね。(帽子とコートを左手の肘掛け椅子に置く。)
ブルース:ああ、なるほど。あなたの声は電話の声とどこか違うと思いました。
セシリー:私たちは話し声が良く似ているでしょう。
ブルース:あなたの声の方が好きだな。

(彼の態度は率直すぎて怒る気にもなれず、セシリーはあっけに取られるばかりである。しばしの間。)

セシリー:(自分を取り戻すが、やや、おどおどと)あ、あら、わたしったら。お入りになりません?
ブルース:どうも。
セシリー:(急いでソファを直しながら)お掛けになって。
ブルース:ありがとう。(左手にある書き物椅子に腰かける。やや中央に向いている。)
セシリー:ちょっと散らかっていてごめんなさい。荷造りをしていたものですから。お分かりでしょう、そういう時って……。
ブルース:誰かが来られるのですか。
セシリー:ええ、まあ、その、私の婚約者ですけど、スーダンから今日戻るのです。
ブルース:ほお、それは待ち遠しいでしょうね。
セシリー:(醒めた感じで)ええ。……さあ、部屋をお見せしましょう。ここが、その、居間です。もうお分かりですね。ここがそうです。
ブルース:立派なテーブルですね。本物ですか。
セシリー:そうです。二、三、良いものがありますわ。母から譲り受けたものです。
ブルース:とても雰囲気がいい。僕はとても雰囲気にこだわる方なのです。あなたはどうですか。 セシリー:どうでしょう?
ブルース:あなたもそうですよ。僕はすばやく人柄を見抜くのが得意なのです。生まれつきのようで、どうしてもわかってしまうのですよ。
セシリー:(好奇心をそそられて)本当ですか。私のことがもう分かってしまったって、おっしゃるの?
ブルース:いや、ほんの少しですよ。あなたはそんなに単純な方ではないようだ。

(ブルースはセシリーに微笑みかける。しばしの間。セシリーは少しきまりが悪くなり、左下手のドアへと舞台を横切る。)

セシリー:(そのドアを開けて)こちらがダイニング・ルームです。

(ブルース、立ち上がってその部屋に入る。)

ブルース:(声)とても居心地がよさそうだ。マントルピースの上の、あの絵が気に入った。(戻ってくる。)
セシリー:あれも母からの物です。ギリシャのどこかを描いたものだと思いますわ。
ブルース:(ドアより上手で)コリンス湾ですよ。どこだか、はっきりとわかります。
セシリー:(ドアより下手で)本当に?
ブルース:(また絵に見入りながら)夜明けを見るために早起きして甲板に出たことを思い出しました。あんなに美しいものは見たことがありません。雪を冠した山々。それから薄紫と深いモーヴに変わって行き、水面にもそれが映っている……。海は冷たく,波一つ無く、まるで水晶のようだった。
セシリー:なんてすてきなのでしょう!(ため息をつく。)旅行なんてしたことがないのです。(ドアを閉める。)
ブルース:(ゆっくりと中央まで歩を進め、振り返りながら)でも、興味はお持ちでしょう? セシリー:一番の望みですわ。
ブルース:旅行はするべきですよ。冒険心を失わないために、それに、いつも何か得る物があると僕は思います。広い世界の何を見るかは私たち次第なのです。人生を楽しむには、結婚祝の品を、役に立たないからと物置部屋に押し込むようなことをしていてはだめですよ。
セシリー:(彼に向かって一、ニ歩進みながら)同感だわ。でも、おかしいわ。あなたって、そんな人だとは、全然……。
ブルース:どんな人?
セシリー:そうね、意外にも、なんて言ったらいいかしら。気持ちを素直に表現できる方。 ブルース:かなりの無作法者だと思われたでしょう。
セシリー:(笑って)いいえ、違います。あなたのようなタイプの方って、誰かきれいな人の関心を引きたいときは、たいていは批判ばかり言って、パイプをぷかぷかふかしているような感じでしょう。でもあなたは、物事の良い面を見る能力をお持ちのようね。
ブルース:(セシリーをじっとっ見つめて)そうなんですよ。

(セシリー、見つめられて恥ずかしくなり、急いで寝室のドアの方へと横切る。)

セシリー:寝室をご覧になりますか。二つあります。互いに行き来できるようになっています。

(ブルースはセシリーに続いて部屋に入り、二人の会話だけが聞こえる。)

セシリー:(声)ここはウィルソン嬢の部屋です。私の部屋へはあそこを通って行かれます。散らかっていて恥ずかしいわ。
ブルース:(声)気になりませんよ。
セシリー:;(声)あの窓からの眺めはなかなかすてきですわ。
ブルース:(声)すごい!あそこは公園ですか。
セシリー:(声)本当に素晴らしいでしょう。特に春がいいんですよ。
ブルース:(声)きっとそうでしょうね。この部屋に住んでみたいものだ。
セシリー:召使はお使いになる? つまり、もしそうなら(二人は舞台に戻って)とてもよい通いのメイドをご紹介できますけど。(メイヴィスがテーブルの上に置いていったノートと鉛筆を取り、書き物机に向かう。)
ブルース:うーん、どうかな。これまで十八ヶ月間、なんでも自分でやっていましたしね、それに慣れてしまいましたよ。
セシリー:どれだけの期間、借りられますか。
ブルース:(寝室の扉を閉めながら)ああ、どれだけでも。どれくらい貸したいのですか。
セシリー:そうですね、友人のメイヴェスは、少なくとも三ヶ月は帰らないと思いますわ。
ブルース:それでかまいませんよ。(中央テーブルの上にある小引き出しに近づく。)
セシリー:(書き物机で〔家具、備品の明細書〕に注意がいっているので、ブルースに対し半ば背を向けた状態で)食器やリネン類は必要ですか。

(ブルースは小引き出しの中の新聞紙に気がつく。ややハッとする。それを読むことに集中して、セシリーの質問には、返事があいまいになる。)

ブルース:(戸惑って)食器とリネンですか。
セシリー:ええ。
ブルース:(気を取り直して中央に立ち)そうだなあ、食べるために食器は必要だが、自分で店に行って買うこともできる。
セシリー:いいえ、銀製品のことです。銀のナイフ、フォーク、スプーンなど。
ブルース:ああ、ではお願いします。
セシリー:それと、リネン類、シーツや枕カバーなどは。
ブルース:ええ、そうそう、それもお願いします。いや、そんなこと考えもしなかったな。(いきなり笑い出す。) 僕を救いようのない大まぬけだとお思いかもしれないけど、アパートを借りるのはこれが初めてなんですよ。
セシリー:(微笑みつつ)そうでしょうね。
ブルース:これまでいつも放浪していましたからね。この国を出たのは十七の時でした。最初に南アフリカに行きました。それから東へ、インド、中国。そこで迷子になって、未開の部落で六ヶ月過ごしたこともあります。そこの人たちは実にまじめで尊敬できる人たちでした。祭りの夜を除けばね。おっと、退屈させていなければいいけど。
セシリー:いいえ、続けてください。(左手へと横切る。) お座りになりませんか。

(ブルースはまずソファの右端に座るが、急に少年のような態度に変わって立ち上がり、まずセシリーを肘掛け椅子にかけさせる。'女性との社交生活に慣れていない野蛮な男'を演じている。そしてまた話し出す。)

ブルース:その後日本にしばらくいましたが、あまり好きではなかったな。
セシリー:なぜ?
ブルース:なぜだろう。日本人は僕が思っていたより、なんていうか、日本人らしくなかった。それから、サンフランシスコに行って、ユーコン(カナダ北西部)に行きました。
セシリー:知っているわ、男が男らしくとか、荒くれダン・マックグリゥだとか。
ブルース:そう、あのだましあいの話です。最後の二年間は、カナダで川沿いの小屋に住んでいました。
セシリー:とってもスリリングだわ!
ブルース:どうかな、ちょっと寂しいものですよ。話し相手といえばビーバーしかいない。しかし、やつらは良い話し相手になるには、落ち着きが無さ過ぎました。だからもし僕がしゃべり過ぎていたり、野蛮なそぶりを見せても、お許しいただきたい。
セシリー:社会的生活からちょっと外れてみるって、いい気分転換になりそうね。
ブルース:ほとんどの女性はそうは思わないですよ。
セシリー:そうですか?
ブルース:そうですよ、ほとんどの女性は穏やかな暮らしを好んでいます。パーマをかけたり、映画に行ったり、アイスクリームソーダを飲んだりしたいのです。冒険や不自由な暮らしは嫌いです。 セシリー:それは違うと思います。冒険をしたくても、そんなチャンスが女性には無いってことがあるんじゃないかしら。
ブルース:そんなチャンスがあっても、断りますよ。
セシリー:私は違うわ。私は断ったりしない。
ブルース:おや、そうですか。あなたはきっと他の女性とは違うのでしょう。わかりますよ。

(間。)

セシリー:(立ち上がり、話題を変えようとして)ええと、この部屋を借りますか。あの……。
ブルース:ああ、まだ名乗っていなかった。ロベルです。ブルース・ロベル。
セシリー:ありがとうございます。
ブルース:ええと、その、おかしくないですか。僕はあなたの名前を知らない。
セシリー:ハリントンです。セシリー・ハリントン。ええと、何かに……。
ブルース:(ノートを取り出して)いや、このノートに書いておいてもかまいませんか。
セシリー:(微笑みつつ)とても几帳面なのね。
ブルース:(書き込みながら)セシリー・ハリントン嬢。H―A―R―R―……これが習慣なのですよ。見かけより、細かいことにこだわる方でしてね。ひとり暮らしが長かったせいでしょうか。つまり、物事をきちんと順序だてて行えない者は、未開地ではだらしない暮らしを余儀なくされます。ディナーには正装をしましょう、などと言っているわけではないですよ。自分をしっかりと持たなければと言いたいのです。
セシリー:わかります。
ブルース:このノーめば退屈しませんよ。例えば二週間に一度書いておくことがあるのです。何だと思いますか。
セシリー:わからないわ。

(ブルースは座ったまま。セシリーはノートを覗き込もうと、身を乗り出している。)

セシリー:"床屋に行くこと。"

(二人とも笑う。)

セシリー:じゃあ、そろそろ、本題に入りましょうか。この部屋を借りられるのですね。
ブルース:確かに。全く僕にぴったりの物件です。僕は特に目的は無くて、どこかに小さな部屋を借りようと思っていただけでした。でもあれこれ見ているうちに、ちゃんと思っている通りに事が運ぶのです。
セシリー:なるほど。
ブルース:何年かぶりで再びロンドンに暮らせる、このうれしさはお分かりにならないでしょうね。こんな日が来るなんて想像すらできない時期もありましたからね。でも、実現した。ラッキーだと思います。お金に不自由せずに、ロンドンで暮らせるなんて。
セシリー:これもまた、スリリングですわね。
ブルース:あなたにもわかるでしょう。何かを心待ちにしている時、何かを計画している時。
セシリー:実をいえば、今がそう。何年間も温めてきた計画がありますの。いつもうんざりなほど仕事に縛られていて、そんな時はもしもお金があったら、と計画を練ったものだわ。実現するとは夢にも思っていなかったのだけど、いきなりでした。まるでお伽噺のよう。友達のメイヴェスと私は、宝くじの二等賞に当たったのです。
ブルース:いくら当たったのですか。
セシリー:二万ポンドです。一万づつ分けました。
ブルース:なんてこった。顔をよく見せて下さい。宝くじに大当たりした人に会ったのは初めてだ。本当にそんな人がいるなんて、信じていなかった。いつもあれは新聞社が適当な名前を作っているのだと思っていた。
セシリー:私もそう。
ブルース:実にたいしたものだ。もし差し支えなければ、これからそのお金で何をするのか教えてくれませんか。つまり、旅行に出るとか、いろいろ。
セシリー:結婚するところでした。
ブルース:結婚? ああ、そう、そう。お待ちかねの婚約者ですね。(立ち上がる振りをする。) ではさっさと失礼しますか。
セシリー:あら、かまいません。あと三十分以内に着くことはありませんから。
ブルース:べらべらしゃべり過ぎて、ご迷惑だったでしょう。でも面白いものだな。どうしてだか、あなたとは特に話しやすい。
セシリー:そうね。不思議だけど私もです。あなたには何でも話したくなってしまうわ。
ブルース:(あおるように)そうですか? 本当に?

(電話が鳴る。セシリー、それに応じるために動く。)

セシリー:失礼します。(電話に)もしもし、……ええ、そうですが……申し訳ありません。もう……ごめんなさい。では……(電話を切る。)
ブルース:ちょっと聞いてもいいですか。
セシリー:ええ、どうぞ。(舞台前方の肘掛け椅子の左肩に腰をかける。)
ブルース:どうして、結婚をするところだった、と言ったのですか。
セシリー:どうしてって、迷っているのです。色々と変化があったし。
ブルース:(簡潔に)つまり、例の宝くじに当たってから、落ち着く前に少しの自由が欲しくなった、ということですか。
セシリー:(驚いてポカンとし)でもどうしてわかるのですか。
ブルース:言ったでしょう。僕は人を見抜くのが早いですよ。
セシリー:(まだ驚いたまま)ええ、だからといって……。
ブルース:それに、一番初めに会った瞬間から、あなたにとても興味を持ちました。

(再び沈黙。セシリーは立ち上がってテーブルに行き、タバコ入れを手に取る。)

セシリー:タバコはいかが?(ブルースにタバコ入れを渡す。)
ブルース:おや、これは良いアイディアだな。本をタバコ入れにするなんて、面白い。
セシリー:(マントルピースから、マッチを取り)数年前にはそういうのが流行していたのです。装丁もちゃんとしているでしょう。婚約者から贈られたものです。
ブルース:はじめて見るなあ。(タバコを手にし、本のタイトルを見ている。)『アラビアン・ナイト』……おやおや、子供の頃の記憶がよみがえります。スルタンにあんなにたくさんの物語を語らなければならないなんて、女の子がとてもかわいそうだと思ったものです。
セシリー:(ブルースのタバコに火を点けてやりながら)シェラザード、といったかしら。
ブルース:そう、その名前だ。(タバコ入れをテーブルに戻す。)
セシリー:毎晩新しい物語を考え出さなきゃならないなんて、ぞっとするわ。
ブルース:連載小説家の方がまだましですね。その、彼とはいつから婚約を?
セシリー:五年ぐらい前からです。
ブルース:最後に会ったのはいつですか。
セシリー:三年前。帰国休暇が出たときに……。
ブルース:つまり彼はそんなに長い間、婚約だけで、満足していたということですか。
セシリー:そうね、もちろん、そういうことだわ。
ブルース:当たり前のように言ってはいけない。彼は君をすぐにスーダンに連れて行くべきだったのだ。
セシリー:(左手の肘掛け椅子に座わりながら)でも、できなかったのです。収入が十分じゃなかったし。それに彼の仕事というのは……。
ブルース:そんなもの! 他に仕事を見つければいい。
セシリー:最近では難しいようよ。
ブルース:しっかりした志があるのなら、なんとでもなるものだ。いったん心を決めてそれに取り組めば、この世で不可能なことなんて無い。五年間もほったらかしにしていただなんて。参ったな。もし僕だったら……、そういうことを心無い、と言うのです。
セシリー:そんなことはないわ。……なんていうか、彼の事はよくわかっているから……。

(外では日が翳ってくる。これ以降のシーンでは、外が曇っていることがわかるように。)

ブルース:自分に正直になることです。それが彼に対しても正直だということだ。
セシリー:そうですね……。
ブルース:なにか、力になれるなら……。
セシリー:いいえ。(顔をそむけたまま。)

(ブルースはタバコをソファの前の小テーブルで消す。)

ブルース:ちょっと僕を見て。

(セシリー、彼の方を向く。)

ブルース:彼の帰国がものすごくうれしくて、胸がときめいていますか。(セシリーは答えない。) そうじゃないね。それで彼を愛しているといえますか。あなたは今間違いを犯して、本当の恋愛が訪れた時には、もう遅いかも知れない。
セシリー:(顔を上げつつ)でも、これが本当の愛ではないと、どうやってわかるの。
ブルース:(催眠術をかけるようなまなざしで)本物ではない。自分でもわかっているはずです。そうでしょう。

(セシリー、立ち上がる。)

ブルース:もちろん、あなたがどんな気持ちで過ごしてきたのか、よくわかる。僕だって、同じような経験があるから。
セシリー:あなたも?
ブルース:何人かの女の子に出会った。とても好きだったし、すべてがしっくりしていた。何の問題も無かった。それでも、ずっとわかっていた。いつかある日、何の前触れもなく、例えば彼女がいる部屋に入り、全てがすぐに終わってしまうというような事が起こると。こういう風にね。(指をぱちんと鳴らす。)
セシリー:そんな風に何かが始まることもあるかしら?
ブルース:今日、もう始まっています。

(長い間。)

セシリー:あなた、おかしい。
ブルース:(立ち上がりながら)そう見えるでしょうね。普通の手順を踏んでいないのだから。あなたはあなたの立場で、態度を決めてくれればいい。僕は言ってしまわないと気がすまない。あなたに気違いと思われる危険を冒してでも。
セシリー:でも……、三十分前に初めてお会いしたばかりなのに。
ブルース:(さらりと)そう、そこが素晴らしいところです。
セシリー:(必死で)そんなこと、ありえません。
ブルース:ある。あなたも僕に一目ぼれしたはずだ。そうなんでしょう。(しばしの間。) そうなのでしょう?
セシリー:(やや正面に体を開いて、マントルピースに向かいつつ)ありえない。
ブルース:(セシリーの腕をつかみ、とてもやさしく体を向けさせて)一番初めに、あなたがマントルピースから振り向いた時、その姿を見た瞬間、ぼくはわかった。あなたの眼がすべてを語っていた。ほんの一瞬、僕を婚約者だと思ったでしょう。あなたの気持ちは、ここから逃げ出したい欲求、愛してくれる誰かを傷つけてしまうという悲しみ、そしてその下に隠れているのは自分自身の人生を生きたい、僕のように冒険に身を投じたいという強い欲求だ。

(セシリーはブルースから離れ、再びマントルピースに。)

ブルース:当たっている?
セシリー:ええ、あなたの言うとおりだわ。

(ブルースは体の向きを変えて、ほっとしたため息をつく。ダイニングルームのドアを開けおそらく絵の前に立ち、それを見ている。)

ブルース:このまま別れたくない、そうでしょう?
セシリー:いいえ。
ブルース:だめだ。またすぐに会いたい……今日中に。
セシリー:とんでもないこと。
ブルース:今から一緒に昼食に行きましょう。
セシリー:やめましょう、こんな会話。
ブルース:婚約者には手紙を書けばいい。
セシリー:もう書きました。
ブルース:そう? それなら……。
セシリー:残酷なこと。
ブルース:その場しのぎは命取りになる。
セシリー:覚悟の上です。

(また沈黙。ブルース、腹を決める。右手の椅子に行き、帽子とレインコートを取る。)

ブルース:わかった。今は、譲っておこう。でも聞いて欲しい。今からサヴォイ・グリルに行く。入り口で待っています。今は何時だろう。一時十分前。では、三時まで待っています。
セシリー:ぶらぶらして営業妨害だと、追い出されるわ。
ブルース:そうかも知れない。そうだ、もし婚約者とうまく行かなかった時は、後から来てくれると約束してくれませんか。
セシリー:何のために?
ブルース:僕のことが嫌いというわけではないでしょう?

(戸惑うセシリー。ブルースの率直さに屈服する。)

セシリー:(半ば笑いながら)嫌いではないわ。
ブルース:もし他に誰もいなかったら、僕にも、つまり、チャンスはあるわけかな?
セシリー:さあ、どうかしら。とても衝動的な方ね。
ブルース:あなただって、心の底ではそうですよ。でもこれまで、それを隠している殻を破るチャンスが無かっただけ。
セシリー:(右手の方へ何気なく動きながら)いいえ、そんなことは無いわ。
ブルース:とにかく、あなたに僕のことをよく知ってほしい。昼食を一緒にとるのは結構いい方法ですよ。僕が豆をナイフで食べたりしないこととか、ウェイターに失礼な態度を取ったりしないことがわかるでしょう。その後、公園を散歩できる。とてもいい天気だ。
セシリー:(窓の外を見て)すっかり曇っているわ。
ブルース:降っても小降りでしょう。
セシリー:(笑って)説得するのが特技なのね。

(ブルース、ため息をつく。)

ブルース:さあ、この辺で。後はあなた次第だ。もしその彼とうまく行かなかったら、来てくれますか。
セシリー:だめ、だめです! 少なくとも約束はできません。
ブルース:(ドアへと横切りながら、静かな口調で)あなたはきっと来る。
セシリー:(頑なに)さようなら。
ブルース:(笑顔で首を振り)オルボワール。

(ブルースは向きを変え、さっさと出て行く。)
(セシリーは彼の後姿を見つめたまま。彼が出て行って、その影も失せた頃、小さくため息をつく。)

セシリー:ああ、全く!

(セシリーは考え込んだように向きを変え、開いている食堂のドアへと無意識に歩いていく。顔をあげると絵が目に入り、考え深げに微笑む。振り向いて、ブルースが出て行ったドアを見て、また絵に視線を戻す。食堂のドアを、きっぱりとした態度で閉める。)

セシリー:ああ、ダメ、ダメ、ダメ! 馬鹿げているわ!

(マントルピースに行き、手紙を取ると、細かくちぎってしまう。)

(電話が鳴る。)

セシリー:(左手の肘掛け椅子の上にひざまずいて、電話に応じる)もしもし、はい。どなた? ……ナイジェル! どこからかけているの? ……ティルブリーから? ただ、何なの? ……あら、税関を通ったのね。よかったわ。どれくらいかかるのかしら。……一時間ぐらい。わかったわ。いいんじゃない。……ではね。……何? どうかしたのかですって? ……いいえ、気分が悪いわけじやないの。つまり、……結婚を延期して欲しいの。お願い。いいえ、今はっきりとさせましょう。電話の方が話しやすいかも知れない。……あなたと面と向かうまで待っていたら、私はもう……、ナイジェル、私考えていたの。この前の手紙で全部打ち明けたわ。それが私の気持ちです。(声が震えてくる。) ええ、ひどい仕打ちだって、わかっているわ。……でも全く私のわがままというわけではないと思うの。……あなたが向こうで苦労をしていたことはわかるわ。でもわたしのほうもいろいろ仕事が大変だったわ。私は……でもね、ネイジェル、私はただ延期して欲しいと言っているだけだわ。(彼が何かを言い、セシリーの声は平坦で抑揚がなくなる。) ああ、悪かったわ。……あなたがそんな風に思っていただなんて。……それが最後の言葉なの? ……ナイジェル、どうしてそんなことが言えるの! ……(泣いている。) ちょっと待って、ナイジェル、聞いて、お願い。……きっと私たち……(彼は電話を切った。)ナイジェル? もしもし? ナイジェルったら!


クリスティ・ファンのマイベスト<7>(その4)

高木 康男・佐竹 剛・竹澤 融

 クリスティ・ファンとはいえ、ミステリーの好みはそれぞれ異なるのは当然ですが、今回のマイベストはかなり個性的なものになっています。例えば竹澤さんが選んでいる『アマゲドン・メッセージ』はほとんどの会員が聞いたことも、目にしたこともない作品ではないかと思いますが、1978年8月に邦訳されたF・フォーサイス流の犯罪サスペンスで、一部では評判になりました。
 なお私が知っている範囲で投稿者を簡単に紹介しますと、竹澤さんはSRの会(老舗のミステリー・ファンクラブ)の会員で数年前に入会された方、佐竹さんは日本シャーロック・ホームズクラブの会員で最近入会された方、高木さんはかつて「左利き」についてのミニコミを発行していた以前からの会員です。
 この欄はまだまだ続きますので、投稿をよろしく!!(S)


高木 康男

1 『秘密機関』(早川ミステリ文庫他) アガサ・クリスティ
2 『茶色の服を着た男』(早川ミステリ文庫他) アガサ・クリスティ
3 『親指のうずき』(早川ミステリ文庫) アガサ・クリスティ
4 『暁の死線』(創元推理文庫) ウィリアム・アイリッシュ
5 『興奮』(早川ミステリ文庫) ディック・フランシス
6 『クレアが死んでいる』(早川ミステリ文庫) エド・マクベイン
7 『赤ちゃんはプロフェッショナル』(早川書房) レニー・エアース

 なにこれ? って感じですか。たぶんそうでしょう。『秘密機関』で二人あわせても45にならなかったトミーとタペンスを越えて48になったぼくのマイベスト。それは甘くて苦くて酸っぱいわが懐かしの青春冒険ミステリです。クリスティのファンになったのはこれらの冒険物から。『親指のうずき』は老境に入ったトミーとタペンスの冒険、クリスティ晩年の傑作。『暁の死線』、『興奮』は名作。『クレアが死んでいる』はバートの恋人クレアが、という一作。『赤ちゃんはプロフェッショナル』は知る人ぞ知る誘拐物の愉快な一冊。


佐竹 剛

1 『獄門島』(角川文庫他)  横溝正史
2 『緋色の研究』(新潮文庫他) コナン・ドイル
3 『オリエント急行の殺人』(新潮文庫他) アガサ・クリスティ
4 『バスカヴィル家の犬』(新潮文庫他) コナン・ドイル
5 「赤髪組合」(『シャーロック・ホームズの冒険』)(新潮文庫他) コナン・ドイル
6 「唇の捩れた男」(『シャーロック・ホームズの冒険』)(新潮文庫他) コナン・ドイル
7 『八つ墓村』(角川文庫他)  横溝正史

 いかに小生がドイル(ホームズ)と正史(金田一耕助)に毒されているかが判るラインナップですね。SF・ホラーなどの広義のミステリーとしてはスティーヴンスンの『ジキル博士とハイド氏』を入れたかったし、コミックとしては『金田一少年の事件簿』(金成陽三郎・天樹征丸原作、さとうふみや画)と『名探偵コナン』(青山剛昌作画)を挙げたいところです。『緋色の研究』以外は大なり小なり映画やTVで見たものばかりと言うのも偏ってますね。角川春樹氏とグラナダTVに因縁をつけたいです。


竹澤 融

1 『アマゲドン・メッセージ』(立風書房)  ディヴィッド・リッピンコット
2 『レーン最後の事件』(創元推理文庫他) エラリー・クィーン
3 『カーテン』(早川ミステリ文庫) アガサ・クリスティ
4 『Yの悲劇』(創元推理文庫他) エラリー・クィーン
5 『喪服のランデブー』(早川ミステリ文庫) コーネル・ウールリッチ
6 『心ひき裂かれて』(角川文庫) リチャード・ニーリィ
7 『バスク真夏の死』(角川文庫) トレヴェニアン

 1を除くとみんな読後放心状態だった。巨匠がみないなくなって、秀作はあっても傑作が読めないのが淋しい。
 『レーン最後の事件』の紫カバーが目に焼きついて死ぬまで忘れられない。『カーテン』はクリスティの天才ぶりが窺えて傑作だと思う。『喪服のランデブー』、『心ひき裂かれて』、『バスク真夏の死』は何度読んでも涙。『アマゲドン・メッセージ』は十回以上読んでいる。アラン・ドロンの映画が観たい。


戯曲「蜘蛛の巣」を観て

安藤 靖子

 クリスティのオリジナル戯曲「蜘蛛の巣」は2001年11月30日−12月9日に東京グローブ座で公演されました。日本での公演は3回目だと思いますが、今回の公演の主要スタッフを書いておきますと、企画・製作はポイント東京(株)、演出は山田和也(筒井康隆が出ていた「そして誰もいなくなった」を手掛けた人)、配役は久世星佳や嵯川哲郎などです。
 なおクリスティ劇は、同じポイント東京(株)がこの秋(9月20日〜10月6日)に「検察側の証人」の公演を予定していて、本号が出る頃にはチケットが発売されるようです。また事後報告になりますが、4月下旬に武蔵野芸能劇場で「ねずみとり」が上演されました。私のマンションから徒歩10分ぐらいで行ける小劇場なのですが、「ねずみとり」はさすがに食傷気味なのでパスしてしまいました。クリスティ・ファン失格か? (S)


 昨年12月1日、午後5時から始まる「蜘蛛の巣」を見に東京グローブ座を目指して新大久保駅へ降りてみて驚いた。駅周辺から車道を越えて劇場へ通じる道が、駅の方へ向かう人波でかなり混みあっていたからである。この人波は、私が想像した通り、この日の一時からの公演(マチネー)を見終えた人たちであった。一見したところ圧倒的に女性が多く、年齢層も母親に連れられた十代はじめくらいの女子から熟年まで幅広かった。クリスティ人気の高さを改めて見る思いであった。この人気は興行する側にとっても魅力なのであろう。
 私が「蜘蛛の巣」を見るのは、1993年3月のサンシャイン劇場での公演、翌1994年5月のアートスフィアでの公演に次いで今回が三度目である。劇場の規模では今回が一番こぢんまりしている。ロンドンにある同名の劇場(シェイクスピア劇専門)を模して造られているので、客席が舞台を囲む形になっている。土曜日とあって5時からの公演もほぼ満席であった。フルボリュームの音楽とともに客席の照明が消され、幕が開いて「コップルストーン邸」の客間が現れた。隠しドアのはめ込まれた書棚が舞台の正面に見えたとたんがっかりしてしまった。いかにも舞台装置然としていて重厚感に欠けていたからからである。前の公演のときのほうが良かった。三回目ともなると、演じる人たちによって劇の雰囲気が違ってくるものだということもよくわかった。三回の公演のうち1994年の藤田朋子を除けばクラリサ役は宝塚出身の女優である。久世星佳という女優は名前も顔も知らなかったのだが、今までの中では一番クラリサらしかった。ピーク役の寿ひずるは長いせりふを歯切れよく、自然に聞かせていてよかった。前回の榛名由梨や前々回の左時枝より若くて、アクの強さには欠けていたと思うが。ローランド卿は細川俊之でなく入川保則になっていた。出番が多かったわりには印象が薄かった。残念ながら若手の男優についてはほとんどが知らない人たちだったのでなんとなく見ていたのだが、クラリサの夫・ヘンリー役の増沢望はピパのような娘の父親というには若すぎる気がしたし、クラリサとの年齢的なつりあいからいっても物足りなかった。しかし、何といってもこの舞台で一番存在感があったのはロード警部役の嵯川哲朗ではなかったろうか。ともするとせりふが早かったり、声が小さかったりでハッキリと聞き取れない役者さんたちの中にあって、彼のせりふだけは実にはっきりと耳に届いた。ただ、長髪を後ろで束ねたヘアスタイルはクリスティ劇にはそぐわないと思った。毎回安心してコミカルな筋の運びに身を任せていられるのはクリスティの脚本の好さに負う所が多いのだろうが、久世さんの演技にもユーモアのセンスが感じられて、見終わったときには思わず大きな拍手を送っていた。
 余談だが、新聞の報道によると東京グローブ座は「不況のあおり」で本年7月末をもって休館になるそうだ。最近ではチケット代も高いのでクリスティ劇でもなければ劇場に足をはこぶこともない。電話予約のときに「ファン・クラブのものですが・・・」と申し出た私に一割引で「蜘蛛の巣」観劇の機会を与えてくださったポイント東京の「あそうさん」、有難うございました。秋の「検察側の証人」もぜひ見たい。三月に95歳の高齢で亡くなったビリー・ワイルダー監督の「情婦」を見たものにとって、山田和也氏がどんな演出をなさるのか、主役を演じる宝塚出身の麻実れいの演技ともども今から楽しみである。


ミセス鈴木のパン・お菓子教室

第13回 アールグレイのババロア

鈴木 千佳子

 このレシピは、当初前号のWH通信(No.62)に掲載しようとしたのですが、夏向きなので今号に残しておいたものです。鈴木さんによれば、「少し手間がかかりますが、その分、とてもおいしいババロアになります。この夏、ぜひ挑戦してみて下さい」とのことです。私もガンバラなくては。
 なお最近の鈴木さんはハリーポッターにはまってしまい、「こんなに夢中になって本の中にひたれたのは何十年(?)ぶりかと思うほど、幸せなひとときでした」とのことなので、近いうちにハリポタ関係のお菓子も登場するかも?(S)


はじめに
 イギリス好きが高じて、紅茶好き(ミステリー好き?)になった私が、普段飲んでいるのはストレートのダージリンです。でも、お菓子作りに登場するのは、アールグレイがダントツ。中国茶にベルガモット(柑橘系の香油)をプラスしたフレーバーティーの代表格で、かつて、中国からこの紅茶を持ち帰ったグレイ伯爵にちなんで命名されたとか。
 独特の香りを嫌う人もいますが、ホットでもアイスでも、ストレートでもミルク入りでも楽しめて、私は大好きです。クッキーやバターケーキはもちろん、ゼリーやババロアにもよく使います。生クリームやハーブの類いはあまり得意でない我が家の次男も、これならパクパク……。

材料(プリンカップ12ヶ分)
ゼリー 170g  
アールグレイ 7g ティーバックでないほうがよい
板ゼラチン 6g 十分に浸る水に浸け、引き上げて使う
(なければなしで可) りんごの蜜煮 2ヶ なければ、生のりんごを砂糖と煮たアップルレザーブでも可
カルヴァドス 15 りんごのブランデー
ババロア 牛乳 200  
アールグレイ 20g  
卵黄 2ヶ  
砂糖 50g  
   牛乳 180g  
砂糖 50g  
  板ゼラチン 12g ゼリーと同じ
カルヴァドス 15g  
生クリーム 250g  
  砂糖 10g  
生クリーム 100g  
バニラ 適量  

作り方

  1. りんごの蜜煮を薄くスライスし、カルヴァドスに漬けておく。
  2. なべに水とアールグレイを入れ、軽く沸騰させ、ストレーナーでしっかり漉す。
  3. ふやかしておいた板ゼラチンを加えて余熱で溶かし、冷めたら型に流す。
  4. なべに牛乳とアールグレイを入れ、火にかける。沸騰したら、弱火で3分ほど煮る。ストレーナーで漉し、しっかりエキスを絞っておく。
  5. くずした卵黄に砂糖を加え、白っぽくもったりするまで、泡立て器ですりたてる。
  6. なべに牛乳と砂糖を入れ、沸騰直前まで温めたら、少しずつ5.を加える(この時、5.はホイッパーでかき混ぜ続けること。そうしないと、卵が煮えてしまう)。なべに移し替えて、弱火にかけ、焦げないようにへらで絶えずかき回している。トロミがつき始めたら、火からおろし、ふやかしておいた板ゼラチンを余熱で溶かす。4.に加え、ストレーナーで漉してから冷やす。
  7. 荒熱がとれたら、りんごを引き上げたあとのカルバドスも加える。
  8. 生クリームを七分に立て、7.を加えてすばやく混ぜる。3.の型の1/3に注ぎ、りんごを少しのせて、上からまた注ぎ、表面を平らにならして冷やす。
  9. 生クリームをホイップし、砂糖、バニラも加える。絞り袋に入れて、皿にかえしたババロアを飾る。

クリスティ症候群患者の告白(その32)

数藤 康雄

×月×日 浜松で私設図書室「アガサ」を主宰されている庵原さんから質問の手紙を貰う。簡単にまとめて紹介すると、「早川ミステリ文庫の『予告殺人』(田村隆一訳)29頁は「心配してるんじゃないのレティー?」となっていて、同じく199頁は「――それから、レティーが……」となっているが、それらはレティーではなく、ロティーではないか?」というものである。
 そうなのです! 確かに間違いなのである。この間違いはトリックに関係するので、これ以上の説明は省くが、早川書房の校正者(?)が、ミステリ文庫に入れるときにうっかりして勘違いしたようである(なお、現在の版では直っている)。こんな小さな誤植にも鋭く反応する庵原さんは、いかに熱心なクリスティ・ファンであるかがよくわかる。
 実は私は、そのような誤植が存在するとは全く知らなかった。自信を持って間違いだと断言できるのは、タネを明かせば、昨年出た『北村薫の本格ミステリ・ライブラリ』(角川文庫)の中の「田中潤司語る、昭和30年代本格ミステリ事情」を読んだからである。そこでは田中氏が誤植を見つけ、編集部に電話し、現在の版では直っていることが語られている。ミステリーの誤植は命取りになりかねないから大変だ。
×月×日 急な電話だったので困ったが、CS放送ミステリ・チャンネルからTV取材を頼まれる。番組は「こちらミステリ探偵社」で、探偵(実際はディレクターで、伊集院光のような人でした)が視聴者のミステリに関する質問の回答を探し回るというもの。そしてシナリオによれば、今回の質問は「ビンゴという犬が登場するクリスティ作品はなにか?」で、探偵が最初に早川書房を訪れ、最終的には「ビンゴはクリスティが飼っていた愛犬の名前で、本の中ではハンニバルという名前になっているが、『運命の裏木戸』に登場する」という私の回答に辿り着くということになっていた。
 さすがにこの歳になると、私にとってTVは見るだけが望ましいメディアなのだが、私が関係する部分はたかだか数分の予定だったので、密かに交換条件を出して妥協することにした。その条件とは、私の出番をなるべく減らして、その代わりに我が家の家宝三点(@クリスティの手紙各種、A桜井一さん製作のインディアン島の模型、B「白鳥の歌」をモチーフにしたひらいさんの版画)を紹介してほしいというもの。家宝の映像をプロの手によって残すことはそれなりに意義があると考えたからである。
 放映は今年の2月中に何回か行われたようだ。こちらは特にPRはしなかったが、悪いことは(?)できないもので、やはり会員に目撃されてしまった。ミステリ・チャンネルなので、またいつか再放送がありそうだが、機会があったら、我が家の家宝を見てください。なお前回は私の着たセーターが大不評だったので、今回は急遽、近くのユニクロに走り大枚二千円をはたいてセーターを購入した。部屋も大掃除したし、TVに出るとなると、ホントお恥かしい苦労が多い。トホホ……。


ティー・ラウンジ

■さて、この年末・年始は久しぶりにまとまった休暇がとれたものですからヨーロッパ(フランス、イタリア、イギリス)に行ってきました。ロンドンは久しぶりです。ブラウンズホテルに二泊しましたが、行く度に系列が変わっているのには、ホテル業界の立たされている状況を思えばしかたないことなのかもしれませんが残念です。前回行ったときには無かったと思うのですが、今回ブラウンズホテルのアフタヌーンティでアガサ・クリスティのアフタヌーンティなるメニューが出来ていて驚きでした。内容は名前を語呂合わせしたような How Done It Doughnutsや Chocolate Mouse TrapやMiss Marple Tart などありますが、私の知識ではどこまでが作品に関連しているかはわかりませんでした(北見一裕さん)。
■泉さんが書いておられましたが、翻訳者の使用される言葉遣いの古さには、初めてクリスティを読んだ高校生(昭和40年代後半です)のときも、おどろきながら読んだものです。「兎に角」だの、「遥か」だの副詞や接続詞に漢字を用いてあることに、かえって「新鮮さ」を感じながら読んだものです。およそ30年後、まさかこんなことにこだわざるを得ない国語の教員になるとはなあ、という感じです(薄正文さん)。
■今年は個人的にはミステリーの世界を取り戻せたような年でした。思い切ってCSチュナーとパラボラを購入し、10月末にミステリーCh.に加入しました。11月にはまだ見たことのなかったミス・マープルのTVドラマを3本見ることができましたし、「秘密機関」もしっかりビデオ録画いたしました。年末は忙しく、ゆっくりTVの前に坐れませんので、オーディオCDかカセットでポワロものやマープルものを耳から楽しんでおります(高橋顕子さん)。
■こちらは読ませていただくだけの楽な一会員ですが、見るたびに印刷もよくなり、字も読み易くなり、数藤さんは引っ越され、月日の流れを感じています。私は34歳のバリバリ・ワーキングママ(のつもり)でしたが、体調を崩し、仕事を9月で辞め、現在は二人の子育てと夫の体調維持(過酷な労働ですので)に努めています(神戸治子さん)。
■「初恋の来た道」には私も泣いてしまいました。ああいう、純粋に人を愛することを描く映画が減ってきているいま、ヒロインの姿が新鮮でした。それと現在いま、エリザベス・フェラーズにはまっています。古き良きイギリスと毎回出てくる作者の作り上げる奇妙な人々がたまりません。イギリス好きのクリスティ・ファンクラブの方々にも、この作者が好きな人が多いのでは?(向笠聡子さん)
■今日(2月17日)、あるビデオを観終わってTVに切り替えたとたんに、数藤さんが画面に出てらっしゃるんです。吃驚しました。え! なに? ま、落ち着いて……11時だし、明日は仕事だから、もう寝なくちゃ……なんて思いながら、つい拝見しました。ミステリーChの探偵社の石川さんが、視聴者の質問に応えて奔走しているうちに、数藤さんに教えを請うことになったわけですね。犬のビンゴのお話、とっても面白かったです。たまたま今夜の8時からの同じChで、BBC制作のシリーズ特集で、アガサ.クリステイをとりあげていたんです。ナイジェル・ウイリアムズの案内で1時間ものを観たあとでしたので、今夜はついてるなあ……と嬉しくなって早速メールしたわけです。このなかでおかしかったのは、ストリキニーネを飲まされるとどんな症状がでるか? まず、顎が動かなくなって、身体が弓なりにそって、激しく痙攣して、これが死ぬまで繰り返される……とかですね。他にもっと何か云ってましたね。N.ウイリアムズでなくてもごめん蒙りたいですね。は、は、は……(伊東絹子さん)。
■「お手伝いさんが読む本」の文章、私は大好きです。いつも心豊かで温かく、その心が文字の行間からも私には感じられます。お会いしたこともない者同志が楽しく心の交流ができる、私はこのやさしさをいつまでも心の宝としたいと思っております。
      薔薇に棘 ミス・マープルに好奇心      ひろこ      (土居ノ内寛子さん)
■最近楽しいことがないなーと思いながら書店で雑誌を物色していたら、目に飛び込んできた[アガサ・クリスティー]という文字。ミステリマガジン1月号でクリスティの特集をしているではありませんか! 早速購入し、大事に大事に少しずつ読み始めたところに届いたWINTERBROOK HOUSE通信。マン島の黄金も文庫化されたし、思いがけずクリスティづくしのクリスマスになりました。ありがとう!(坂元ゆかりさん)。
■ウワサでは、お正月にテレビでポワロさんに会えそうなのでそれも楽しみにしています。ほとんどビデオに撮ってはあるのですが、テレビ放送で見るのはまた格別な思いですね(三村幸代さん)。
■実は、ほんの二ヶ月前まではアガサの小説は、お恥ずかしいことながら全く一冊も読んだことがなかったのです。『……殺人事件』というタイトルだけで食わず嫌いでした。ところが2月から一ヶ月娘がイギリスにホームステイすることになり、その先がなんとトーキーで、初めて聞く地名を調べるとクリスティの生れ育った土地とか。ついては、まぁ一冊くらいこれを御縁に読んでみようかと、タイトル名は聞いたことのある『オリエント急行殺人事件』を読んでみたところ、こんな面白いものだったのか、と目からウロコで、続けさまに三、四冊、アガサの自伝などとアガサ漬けの毎日でした。娘も無事帰国し、聞きますとステイ先の家ではあまり関心なかったようですが、今も売り上げNO.1ということで、この人気の秘密は一体何なのかと思っています(中村智子さん)。
■スカパーでスーシェ主演のポア口映画を立て続けに見ました。TVを持たない生活を10年続けてきた私は、最近TVを買いスカパーに加入してようやくこの作品群を見ることが出来たのです。1月14日のスーパーチャンネルは朝から晩までスーシェ主演の「名探偵ポアロ/ザ・ムービー」のオンパレードで、さながらポアロ・デー。「スタイルズ荘の怪事件」「ヒッコリー・ロードの殺人」「ゴルフ場殺人事件」「ABC殺人事件」「雲をつかむ死」「もの言えぬ証人」「ポアロのクリスマス」「愛国殺人」の8作品が一挙放映されました。会誌53号掲載、永田健児氏の「クリスティ作品の映画化・TV化リスト」を見るとスーシェ主演のポアロ・シリーズはまだまだあるので、全作品を見るのは容易ではなさそう。でも8作品を見ただけで、このシリーズのレベルは大体分かります。どの作品も本格ミステリーとしては破綻が多く上出来とはいえませんが、まっ、私は批評家ではありませんし、三文小説やB・C級映画に親しむうちにすっかり心が鍛えられ寛く(緩く?)なっているので、アホらしいところには目をつむり、衣装とか時代色・風俗描写など見るべきところだけ見て、気楽に楽しみました。8作品の中で一番良かったのは「ABC殺人事件」。A・B・カスト氏を演じた役者の演技・風貌が絶妙で溜息が出るほど堪能しました。カスト氏のようなリアリティたっぷりの哀愁漂う小人物が登場すると、小説も映画も俄然生き生きとして面白くなりますね。エンターテイメントの世界は、主役より脇役命です(泉淑枝さん)。
■映画では「メメント」でしょう。実は小生もまだみてないのですが。関西では12月22日封切り。東京の映画の友人の話では、ものすごく混んでいるらしいです(今朝丸真一さん)。
■といわれれば観ないわけにはいきません。インターネットで予約までしてシネクイント渋谷に行ったのですが、予想外に空いていました。10分しか記憶を保てないという男が主人公の実に変わった映画でしたが、こちらの記憶力も減退が著しいので、観ているうちに私の方が混乱してしまいました。イマイチ。
■今号は戯曲「見知らぬ人からの愛」の翻訳が頁をとり過ぎたこともあり、ティー・ラウンジのスペースが減りました。でも次号は元に戻りますので、いつものように投稿をよろしく!(S)


 ・・・・・・・・・・ウインタブルック・ハウス通信・・・・・・・・・・・・
☆ 編集者:数藤康雄 〒181      ☆ 発行日 :2002.9.15
  三鷹市XX町XーXーX          ☆ 会 費 :年 500 円
☆ 発行所:KS社              ☆ 振替番号:00190-7-66325
                        ☆ 名 称 :クリスティ・ファン・クラブ


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