ウインタブルック・ハウス通信

クリスティ・ファンクラブ機関誌

1997.9.15  NO.53

 クリスティの新しい短編集が米国では4月に出版され、英国では8月に発売されるそうです。ノンビリ派人間の故、まだ原書を入手していませんが、既訳の「クィン氏のティー・セット」を中心にして、それにパイク氏らが発掘した短編群、メダワー氏が見つけたマン島での宝探しを扱った懸賞小説などから構成されているようです。翻訳は、クリスマス頃なのでしょうか? (S)


< 目  次 >

◎クリスティ作品の映画化・TV化リスト―――永田健児
◎1996年英国クリスティ協会の総会報告――――スネル美枝子
◎エッセイ紹介(2) ジョン・マッカーティの「犯罪の女王クリスティ映画の傑作」――――安藤靖子
◎トロントの「ねずみとり」―――新谷里美
◎クリスティ症候群患者の告白(その22)―――数藤康雄
◎ティー・ラウンジ
★表紙   高田 雄吉

クリスティ作品の映画化・TV化リスト

永田健児

 著者の永田さんは、本文をお読みになればおわかりになるように、インターネット上でクリスティ関連の精密なリストを公開しているクリスティ・ファンです。データベースや電子出版を専門とする某出版社の編集者という仕事柄か、文系人間にもかかわらずデジタル情報の取り扱いはお手のものらしく、永田さんのホームページは見栄えがよいばかりか使いやすいものになっています。
 本稿の版下も、このページを除いてはすべて永田さんの手になるもので、私のパソコン・ソフトではとても処理できないほどの多くの情報量を含んでいます。パソコン世代のクリスティ・ファンならではの力作です(S)。


 本文はテキスト・ファイルでは残っていないので省略します。
 詳しいデータはここをクリックしてください。


1996年英国クリスティ協会の総会報告

スネル美枝子

 標題の総会は、7月6・7日にケンブリッジで開かれました。日本人では、イギリスで旅行会社を経営されているスネル美枝子さんが出席されるというので、無理を承知で総会の報告をお願いしました。
 原稿は、うまくすれば昨秋私が渡英したときにもらえるかもしれないと考えていたのですが、残念ながらイタリア出張中で、結局、総会の写真は送ってもらったものの、原稿までは無理でした。
 ところが英国クリスティ協会の機関誌(Christie Chronicle)の1996年夏号(no.15)には、総会の様子を紹介した会員(Stuart Foulkes)の投書が掲載されました。スネルさんの原稿を待っていては、せっかく送ってもらった写真の紹介がいつになるやらわからないと思い、その会員の投書と写真に同封されていたスネルさんのお手紙から、第3回総会の様子をごく簡単に紹介することにしました。
 まず2日間で約50人の会員が世界各地から参加したそうです。場所はケンブリッジのホリデイ・インで、総会は、6日の午後の主催者の挨拶から始まりました。最初に、これまで単行本未収録であった短編("The Edge"と"The House of Dreams")の朗読があり、その後お茶の時間になったそうです。ワインと肉料理の夕食後は、チームを組んでのクイズ大会。50問出題され、ミス・マープル組が優勝。かなり盛り上がっていたようです。7日の午前には、日本で言えば科学警察研究所の研究者となる”Forensic Science Service”のプランス博士の特別講演が行なわれ、その後ホテル中庭での記念写真撮影となりました(左隅の方にスネルさんがいます)。来年は、グリーンワェイ・ハウスでの開催とか。誰か参加してみませんか?(S)


エッセイ紹介(2)

ジョン・マッカーティの「犯罪の女王クリスティ映画の傑作」

安藤 靖子

 前号と同じく" The Fine Art of Murder-The Mystery Readers' Indispensable  Companion "(edited by Ed Gorman,,Martin H.Greenberg, Larry Segriff with Jon L. Breen, Carroll& Grof Pub. Inc.N.Y.(1993))に載ったエッセイ"Mistress of Mayhem: The Best of Agatha Christie on Film"(written by John McCarty)の紹介です。原文には映画化リストが掲載されているのですが、紙幅の関係でカットしています。永田さんのリストを参照してください(S)。


 生前クリスティは、自分の作品は大きな映画の画面よりもむしろ劇やテレビの方に向いていると考えていた。これはクリスティ・ファンにとっても異論のないところであろう。過去65年以上にわたり、彼女の作品から劇化されたり映画化されたりしたものは、百を超えるという。著者は、その中でも原作に最も忠実な作品はごく最近のものであるとし、その例としてテレビ用に映画化された作品をあげている。私たちクリスティ・ファンにとってなじみの深いグラナダTVのポアロ・シリーズ、ロンドン・ウイークエンドTVのトミーとタペンス・シリーズ,BBCのミス・マープル・シリーズである。その主役達の中でも、マープルを演じるジョーン・ヒクソンは、「犯罪の女王」の化身として長くそのイメージを残すだろうと著者は断言している。だが、残念なことにクリスティは彼らを見てはいない。
 1960年代のはじめ、クリスティはマープルものとポアロものの映画化権をいくつか「テレビ映画に使われることを期待して」(契約上の明記はなかったが)MGMに売った。だが、それらは彼女の期待に反してスクリーン向けの映画になり、クリスティを満足させるどころか失望させる結果になってしまったというのは有名な話である。以後1972年、ジョン・ブラボーンから「オリエント急行殺人事件」の映画化の話をもちかけられるまで、作品の映画化権を売ることには「ノー」と言いつづけた。「原作に忠実に」という条件のもとで作られたこの映画の出来には彼女もおおむね満足し、気を良くしてブラボーンと再度、数作品の映画化の契約を結んだが、「オリエント急行殺人事件」(1974年)が、映画化された自分の作品の中では最高の出来であり、今後もそうであろうと信じて1976年に他界した。
 著者は、クリスティ自身の意見はこの際脇へ置いて、過去に映画化されたものの中にはこれ以外にもとりあげるべきもの、もっと評価されてしかるべきものがあるはずだと主張している。ここでは主要なクリスティ映画8本を制作年代順にとりあげ、時には劇作との比較もおりまぜながら、批評を加えている。最後の1本はクリスティの失踪をテーマにした映画「アガサ」である。以下、ごく簡単に要点を紹介しよう。
(1)「血に笑ふ男」(1937年) 原作は短編集『リスタデール卿の謎』(1934年)の一作品「ナイチンゲール荘」。脚本フランセス・マリオン、監督ローランド・V・リー、音楽はかの有名なベンジャミン・ブリテンが担当したことは特筆に値する。俳優、脚本家にして監督のフランク・ボスパーによる同名の劇作(1936年)があるが、映画版ではコメディーとしての色合いが濃くなっている。結末はクリスティのお気に召さなかったというが、新妻役ハーディングのオーバーな演技と、「フランケン・シュタインの息子」やコカイン中毒のシャーロック・ホームズで見せた殺人鬼の夫役ラスボーンの独特の演技の対比が、終わりの30分の大詰めでのみどころである。ジョーン・ヒクソンが頭の弱いメイドの役で出演している。この監督には「モンテ・クリスト伯」、「三銃士」、「フランケン・シュタインの息子」などの作品があるが、彼への評価は低く、この作品も映画関係の文献ではほとんど忘れられているという。1947年に同じタイトルでリメイクされた作品がある。
(2)「そして誰もいなくなった」(1945年) 原作は『そして誰もいなくなった』(1939年)。脚本ルネ・クレールとダドリー・ニコルズ、監督ルネ・クレール。原作よりもむしろ1943年のクリスティ自身の劇作がもとになっている。室内での殺人事件の謎解きを扱う映画にとって、頭の痛い問題を解決してみせた点で著者の評価は高い。フラッシュバックの手法を用いることで殺人現場をいろんな角度から再現し、最後まで観客の目と心の緊張を持続させることに成功した。この映画は、原作のタイトルで以後三度リメイクされた。いずれもハリー・アラン・タワーズの制作で、彼がピーター・ウェルベックのペンネームで脚本を書いたり、共同執筆したりしている。1965年の作品はスイス・アルプスを舞台に、M・ラザフォードの「ミス・マープル」ものを手がけたジョージ・ポロックが監督した。1975年の作品は、前年にヒットした「オリエント急行殺人事件」に便乗しようとしたもので、ホメイニ体制前のイランを舞台に、ピーター・コリンソンが監督した。1989年の作品はアフリカのサファリを舞台に、アラン・バーキンショウが監督した。リメイク版ではポロックの作品が一番良いが、いずれもクレールの傑作にはおよばない。
(3)「検察側の証人」(1957年) 原作は短編集『死の猟犬』(1933年)のなかの同名の作品である。脚本ビリー・ワイルダーとハリー・カーニッツ。1953年、クリスティ自身による劇作がもとになっている。映画版では出演者の豪華な顔ぶれと、その演技が魅力的である。サー・ウィルフリッド・ロバーツ役のC・ロートンと、この映画のために特別に創られた看護婦ミス・プリムソル役のE・ランチェスターは夫婦で出演した。メイド役のU・オコナーの演技も笑いをさそう。前二作同様かなりコメディ的な要素もあるが、全体的には殺人事件への比重が多い点で趣を異にしている。ワイルダーとカーニッツの脚本では、戦後のベルリンで、ボール(タイロン・パワー)がローメイン(マリーネ・ディートリィヒ)と初めて出会う場面、またボールと被害者との関係を示すフラッシュバックの中で、ボールの有罪をにおわすヒントをいくつも出している。瞬きでもすればたちまち見逃してしまうヒントだが、ここはパワーの演技の見せ所でもある。この映画は、1982年、テレビ映画としてもリメイクされた。
(4)「オリエント急行殺人事件」(1974年) 原作は同名の小説(1934年)。脚本ポール・デーン、監督シドニー・ルメット、英国人俳優アルバート・フィニーがポアロを演じた。過去にポアロを演じたトレバーやランドールも及ばぬほどポアロを好演している。 今だにポアロものの中では一番出来の良い作品と見なされている。フィニーは原作のポアロには似ていないが、髭をのぞけばクリスティにも気にいられ、アカデミー賞最優秀男優賞候補になった。その他の出演者も一流どころをそろえたオールスターキャストである。ただしクレール、ワイルダー、リーもつかんでいたクリスティ作品に独特の心地よさには欠ける。その原因として著者があげるのは、ブラボーンが監督の選択を誤ったことだという。クリスティ・ファンでこの作品を傑作とする人は非常に多いが、映画版が高い評価を得た理由を、著者は、原作の良さにあるとし、ブラボーンが脚本、衣装及びキャストに関して原作のレベルを維持したからだと言う。
(5)「ナイル殺人事件」(1978年) 原作は『ナイルに死す』。脚本アンソニー・シェーファー、監督ジョン・ギラーミン。フィニ―に代わってピーター・ユスチノフがポアロ役として出演した。「オリエント急行殺人事件」ほどの評価は受けなかったものの、クリスティ作品全体に特有の心地よい雰囲気をとらえている点では、こちらの方が出来はよいとしている。
(6)「地中海殺人事件」(1982年) 原作は『白昼の悪魔』(1941年)。脚本アンソニー・シェーファー、監督ガイ・ハミルトン。ユスチノフがポアロを好演している。作品の構成、雰囲気、魅力の点からいえばまずまずの出来映えではあったが、批評家の受けはあまりよくなかった。前の二作品ほどの興行成績をあげられなかったため、ブラボーンとグドウィンはこれでポアロシリーズを打ち切ることに決めた。
(7)「死海殺人事件」(1988年) 原作は『死との約束』(クリスティ・ファンと批評家には傑作の一つとみなされる作品)。脚本マイケル・ウィナー、アンソニー・シェーファー、ピーター・バックマン、監督マイケル・ウィナー。クリスティ自身による劇作がある(1945年、ジョーン・ヒクソンが端役で出演している)。L・バコール、J・ギールグッドも加わるオールスター・キャスト。イスラエルでのロケと話題は多いものの、「ブラボーン、グドウィン映画の華麗さを再び」という試みには失敗している。残念ながら「謎解きをする気さえ起こさせない最低の出来」と著者の評価はてきびしい。
(8)「アガサ 愛の失踪事件」(1979年) マイケル・アプティッド監督作品。クリスティの作品でなく彼女の失踪を扱っている点で上記の7作品とは別のジャンルである。失踪事件の原因は今もって謎であるが、この謎に焦点を当て、コージー派ミステリー風に制作されている。失意の上流婦人アガサを生き生きと若々しく演じるV・レッドグレーブと、夫役で後のジェームズ・ボンド役者T・ダルトンの演技が良い。ただしアガサを追跡する現代風アメリカ人記者役のダスティン・ホフマンの演技はこの映画の雰囲気にはそぐわない、としている。
 A4版で約10ページに及ぶこのエッセイは、クリスティ映画ファンにはかなり読み応えがあるはずである。興味をもたれた方には是非原文でお読みになることを、おすすめしたい。



トロントの「ねずみとり」

新谷 里美

 ミステリー劇「ねずみとり」といえば、ロンドンの「ねずみとり」は今年で44年めに入っていますが、カナダのトロントではどうかというと、これも驚きです。
 新谷さんより送られてきたこの劇のパンフレットによりますと、カナダで最長公演記録を更新中で、今年は20周年に当たるとか。しかもいたって安い料金の定員50人位の小劇場で実現されているそうです。
 これこそ、本当のミステリー? (S)


 昨年、11月に極寒のカナダ・トロントへ小旅行をしました。トロントといえばニューヨーク、ロンドンと並ぶ演劇の盛んな所ということで、トロントへ着いた早々、雑誌を捜して催し物をチェックしました。すると、何と”マウストラップ”があるではないですか。
 トロントの滞在がほんの2日だけなので、本当のところ”美女と野獣”のイルミネーションに大変心が引かれたのですが(日本では高くて、またなかなかチケットも手に入れにくいので)、すぐに”マウストラップ”のチケットを購入しました。前置きはこのくらいにして、この”マウストラップ”について、どうしても皆様にお話したいと思います。
 劇場の前に立って、まず建物の小ささに一瞬”えっ”と声を小さくあげました。注意深く捜さなければ通り過ぎて行くような普通の事務所のような建物です。しかし上を見ると、大きな看板があり、"Home of the Mousetrap"という案内も出ています。劇場の名前はトロント・トラック劇場といい、中に入ると、切符を切る女の人が1人座っていて、パンフレットはテーブルに置いてあるだけで、自由に取れます。全部で何人入るかなあと見回してみると、おそらく50人位かなあという感じです。その夜は15人位、年代層はいろいろ。私たちの前(主人同伴です)に中学生位の女の子4人、横には10歳位の女の子とその父親、その後ろにはアベック(若者)、アベック(中年)といった具合です。もちろん席には前から2列目、舞台とはほんの数メートルです。「これではいくら時差がきつくても、ちっとも寝られないね」と主人は言っていました。
 内容は、私は大変質が高いと思いました。個々の役者も大変うまく、小さな所だけに演技も言葉もより身近かにせまり、殺人の場面など圧巻でした(前の女の子たちが大きな声を出したせいもありますが……)。幕合いに地下にいくとセルフサービスのお茶の用意があり、役者の写真が飾られていました。カナダでは、やはりロンドン同様、最長の公演だそうです(20年)。
 後になりましたが、料金も日本円で1600円位です。どのようにしてこういう公演が成り立っているかは興味深いところですが、気軽に安く、しかも質の高い演劇が出来るということは、歴史と政府の文化芸術活動に対する認識の差でしょうか。私の少ない演劇鑑賞歴に珠玉の一ページとなりました。偶然とはいえ、アガサ・クリスティに関する物をいつも見つけられて、とても不思議な感じがします。
Production Staff
Producer: Peter Perroff     Directer: Jeff Round
The Cast
Mollie      Tanya Flemming       Giles     Evan Tsitsias
Christopher   Mark Allan          Boyle     Kathllen Wedge
Metcalf     Garnet Truax         Casewell   Deborah Shaw
Paravicini    Gerge Politzer        Trotter    Kevin Burnett


クリスティ症候群患者の告白(その22)

数藤 康雄

9月×日 ロンドンのヒースロー空港からアムステルダムのスキポール空港に到着。昔読んだA・マクリーンの『麻薬運河』では、この空港での派手な銃撃戦で物語が始まったはずだが、現実にはなにも起らず(当り前か!)、空港の長い通路を淡々と進む。インドネシアといったかつての植民地からの入国はそれなりに厳しいようだが、我々のようにイギリスから到着した旅行者の入国はいたって簡単であった。
 ホテルでひと休み後、早速アムステルダム市街の探検に出かける。アムステルダムといえば、運河巡りか飾り窓の女かアンネ・フランクの家が手頃な見物先となるが、他の三人には運河巡りにいって貰い、私は通訳に教えてもらったダム(王宮)広場斜め前のデパートに向った。ここの4階に大きな本屋があるというのだ。
 オランダ語など初体験のため、このデパートの名前は残念ながら記憶に残っていないが、古い外観の建物にもかかわらず、中に入ると日本のデパートと似た雰囲気で結構混雑しているし、違和感はほとんどない。本屋もすぐに見つかった。
 しかし、クリスティの本はなかなか見つからなかった。どうやら最初に立ち寄った本柵が文学関係のもので、R・ダールとかG・グリーンの本が何冊か置いてあるため、その近辺にクリスティの本もあると勘違いしてしまったからだ。そのうえ、ちょっと先には輸入された(つまり英語版の)クリスティのペイパーバックが数多く置いてある。もしかしたらクリスティの英語はやさしいので、オランダ人は英語でクリスティ本を読むのかと思ったが、それは誤解であった。本屋の入口に近い場所にクリスティのオランダ語訳が棚一杯にあるにもかかわらず、あまりに目立ちすぎる場所のためかえって見落としていたというわけである。そしてクリスティのオランダ語訳はすべてペイパーバック化されているのが確認できた。オランダでもクリスティ作品は別格扱いであったという報告である。
 異国の本屋に入ってクリスティ作品の訳出が確認できたら、残る儀式は記念に本を二冊買うことだけである。英語以外の本はまったく読めないのだからどれを買っても同じなのだが、なるべく『アクロイド殺し』と『ABC殺人事件』を買うことにしている。題名に固有名詞が入っていれば、その国の言語はまったくわからなくても、まず間違いなく短時間で本を見つけ出せるし、同じ本であれば、なにかと比較するのに便利だからである(ハングルの本でも、”ABC”はそのまま題名に入っている)。
 ここでは『アクロイド殺し』の冒頭「ファラーズ夫人が死んだのは、九月十六日から十七日にかけての夜・・木曜日だった。私が呼び出されたのは、十七日、金曜日の朝。もう手のくだしようがなかった。すでに死後数時間たっていたのだ」を次に写しておく。(省略)
9月×日 この日はアムステルダムからドイツのハノーバに飛ぶ。あいにくの雨のうえに、飛行機が定員50人ぐらいの双発のプロペラ機である。初めての経験なのでヒヤヒヤしたものの、なぜか飛行機の揺れは少なく、無事ハノーバに着く。
 普通の旅行案内書にはハノーバは載っていないか、載っていても紹介文はわずかという都市で、通訳の人によれば各種メッセで有名だという。終日冷たい雨が降っていたため、夕食に外に出た以外はホテルに留まる。
9月×日 11時にホテルを出発して見学先に行くため、それまでの間、中央駅前の本屋を覗く。かなり大きな本屋で、ミステリー関係の棚も充実している。ドイツでもミステリーは、SFより倍以上の棚面積を占めていることがわかった。英米の本屋のように著者のABC順にきちんと並んでいるので、本を探すのには便利である。
 もっとも興味深かったのは、ミステリーの本棚をここでは Krimis(探偵小説)と Spannung(サスペンス小説)に分けていたこと。前者にはクリスティの本がかなり置かれているし、エリス・ピーターズ、サラ・パレツキーの訳本も目につく。後者はジョン・グリシャムやスティーヴン・キングといったベストセラー作家の作品が多い。英米ミステリーの進出ぶりは、いずこも同じ、といったところか。
 本屋独自の企画としては、ミステリーの女性作家特集を行っていたが、ここでもR・レンデルやM・グライムズ、P・D・ジャイムスといった日本でおなじみの作家ばかりであった。その年の夏に行なわれた出版社のブックフェア"Scherz Krimis"というパッフレットが残っていたので見ると、クリスティの本はすべて出版されていて、見開き2頁を使って最大限の広告を出している。ドイツでもクリスティは一番人気なのがよくわかった。ただしクリスティの次に大きな広告はエドガー・ウォーレスで、3番目がウルスラ・カーティスとドロシー・セイヤーズ、レックス・スタウトなどである。ウォーレスがドイツで人気があるとは意外そのものであった。
 記念のクリスティ本は例によって『アクロイド殺し』他一冊にしたが、ドイツ訳では題名が『アリバイ』になっており、探すのに多少時間がかかってしまった。冒頭の文章は以下のとおり。(省略)
9月×日 この日は、今回の調査旅行でもっともハードなスケジュールの日である。まずホテルを朝の5時に起き、ハノーバ空港を7時前に出発し、フランクフルト空港に向う。そしてアウトバーンで”たったの2時間(!)”ほどにある養護学校を見学、再び”たったの2時間”をかけてフランクフルト空港に戻り、夜にはミラノに到着するという強行日程なのだ。あいにく一日中雨で同行3人はたいてし面白くないといった顔をしていたが、私だけは心秘かにうきうきしていた。なにしろ「フランクフルトへの乗客」なのだから。
10月×日 ミラノといえば、ダビンチの「最後の晩餐」であり、デュオーモ(大聖堂)である。通訳によれば、イタリア人は本好きで、本屋などはデュオーモ近辺に何軒もあるという。旅行最後の日の午後は空き時間となっていたため、その時間帯にデュオーモを見物後、皆と別れて本屋探検を行なう。
 デュオーモ近辺には特に大きな本屋はなく、クリスティの本をまったく置いてないところもあったが、オランダ、ドイツと同じくクリスティの本はペイパーバックでほとんど発売されていた。ちょっと珍しかったのは、ハードカバーで探偵小説全集のようなものが出版されていて、それにはクリスティばかりでなく、カーもクイーンも入っていた。しょせん読めないので、重いハードカバーは今回の旅行では買わないことにしていたが、表紙にポアロのイラストがあったのでつい購入してしまった。最後の日という解放感の結果であろうか。
 例によってイタリア語の『アクロイド殺し』の書き出しは以下のとおり。(省略)
 伝言ゲームのように、英語からはだんだん離れていくようだ。
10月×日 ミラノからロンドンのヒースロー空港乗り換えで成田に向う。この旅行では本など読む余裕はないと文庫本一冊しか持っていかなかったが、なぜか簡単に読み終ってしまった。そこで帰りの読書用に評判の"The Greenway"(by Jane Adams)を空港売店で買う。クリスティの別荘と同名の大きな屋敷で起きた神隠しのような事件を扱っていて、前半は特に面白い。今号が届く前に翻訳が出ているはずであるが、クリスティ・ファンなら楽しめると思う。英語力の弱い私でも成田に着く前に読み終ったのだから、やさしい英語という点でもクリスティに似ている?
 帰国後1カ月ぐらいして、厚生省の厚生事務次官が逮捕された。もう少し前に発覚していれば、その後の自粛を考えると、このような旅行は中止になっていた可能性が高い。今回の海外出張は、私にとって最後までツイていなかったというべきか、ツイていたというべきか。
×月×日 『アガサ・クリスティーと訪れる南西イギリス』(津野志摩子著、PHP研究所)を読む。以前に「アエラ」や「創元推理」に掲載したものを中心にまとめたエッセイで、残念ながらクリスティに関する情報は雑誌掲載のものとあまり変わっていない。トットネスやダーティングトンといったあまり知られていない町に関する話の方が面白い。メアリー・ウェズリー(70歳で処女作『満潮』を書いた作家)がその近くに住んでいるのも初めて知った。著者はデボン州に移住し、1990年のクリスティ生誕百年記念フェスティバルの取材を通してクリスティに係わるようになったフリーライター。ちょっと変わった旅行案内書として優れていて、写真が美しい。
×月×日 今年は、クリスティ関連本の当たり年らしく、『アガサ・クリスティー』(モニカ・グルベンベルク著、岩坂彰訳、講談社選書メチエ)が出る。ドイツで出版されたクリスティの伝記。既存情報を巧みに組み合せて作り上げた作品だが(引用文だけでも400以上になる!)、その場にふさわしい文章を巧みに切り貼りしているので、最終的には絶好のクリスティ入門書になっている。以前に出た『アガサ・クリスティの贈物』(ファインマン、諸岡訳、晶文社)の拡大版みたいな作品だ。
 ドイツでのクリスティ人気を考えれば、この種の本がドイツで出版されていても、なんの不思議もないか。


ティー・ラウンジ

■私はポアロ物が好きで、何十冊も読んでいた頃、数藤さんの編集されたパシフィカ社「ポアロとミス・マープル」を見つけ、その後いつか『カーテン』を読むという夢を抱き、数藤さんのおつけになった事件発生順に読み漁りました。『カーテン』を読み終え、ついにポアロを全作品読んだときは感無量だったのを、今でも覚えています。ちなみに二年位かかったはずです。
 これほどクリスティが好きになった理由は二つあります。一つは多くの人がそうだと思いますが、本の中の世界がとても暖かく、すごく幸せな感じがするからです。殺人物に幸せなんて変ですが、殺人目的に「愛のため」があるのも、そう思うからかもしれません。もう一つは映画「ナイル殺人事件」がとても気に入ったからです。それまでエジプト文明になんて興味が無かったのに、それ以来興味を示し、クリスティの他のエジプト物を楽しく読めるようになりました。クリスティの「ナイル」に見られるようなトリック、犯人はさることながら、その背景(人物像や場所)に細心の注意がほどこされている点がファンになった要因とも言えるでしょう(林克郎さん)。
■私はずっと昔、講談社が募集した「十一番目の椅子」という公募に四百枚書いて応募し、もうまっ先にふるい落とされました。ちなみにこのときの入選が鮎川哲也さんの『黒いトランク』です。その公募に際し、私のつけたペンネームが赤沢栗介でした。はじめ阿賀佐来栖亭としたのですが、高名な江戸川乱歩氏ならともかく、吹けば飛ぶような新米がクリスティと100%同じ”呼び方”の名をつけるなんて、余りにおそれ多い……というわけで、アカザワクリスケで我慢しました。というほどに、彼女の作品の愛好者です(斉藤信也さん)。
■小生、晴れの日は、冬木立のスケッチを楽しみ、家では専ら乱読中です。ただいまも、未読だったバトル警視物『ゼロ時間へ』をやっと読み終ったところです(都甲宰弌さん)。
■もうとっくに終ってしまった大阪のクリスティ劇「検察側の証人」なんですが、芝居の仕上がりとしては、3回目にして最後ということで、企画会社も根性入れて頑張ったそうで、確かに力の入った良い舞台だったと思います。やはり演出の釜さんの色なのだと思いますが、視覚的効果やライティングのうまさが光りました。前号で新谷さんも書いていましたが、村井国夫の検事役はよかったですよぉ。実によどみなく検事の役にはまってうまいのだけど、型にはまってるとか検事然としているとかいうのではなくて、その場その場をそのセリフを初めて言うみたいに話し、動くから、活きてる感じがするんですね。またレナード役の大沢健は、こずるいくせに妙に純情に見える役をうまくこなしていたと思います。ローマイン役の安寿ミラが重い演技をするんで、このカップルはどう考えたってバランス悪いんですが、それをとにかくガンガン進めて、勢いと視覚の面白さと展開の早さで最後まで引っ張っていっちゃうのは、総合的な舞台の力の魅力みたいなものだと思います。絶対これ、観てよかったと思う舞台でした。東京でやらないのが残念です(ひらいたかこさん)。
 うーん、公演してほしいものです(S)。
■クリスティの作品を暗記する程何度も読み返しておりますが、その度に新しい発見をして嬉しくなります。私は庭いじりも大好きなので、ミス・マープルのお話に出てくる花の名前などには特に目がいってしまいます。中でもヘリオトロープを”チェリーパイ”と呼んでいたのは、あまりにもピッタリで、感激してしまいました。小学校6年生の息子は、私と好みが似ていて、D・スーシェのポアロが大好きです(千葉真佐子さん)。
■ホームページ拝見しましたよ。私自身はほとんどインターネットに親しんでいないのでよくわかりませんが、会の紹介ということで、なかなかよくまとまっていて、良かったように思いました。これを見て、また新たに会員が増えるのではないでしょうか。また余裕があったら(夫が暇なときにということですが)、他のミステリー関連のHPも見てみたいものです。私もそのうちワザを覚えて自分で操作できるようになりたいです。NYの杉下さんのHPも拝見しましたが、がんばっている様子、感心しました(小堀久子さん)。
■やっぱ、ネットサーフィンにハマってましたね。本号でもインターネット関連の情報(「蜘蛛の巣の中のクリスティ」)に10頁を費やし、日頃は寡黙な印象のS氏が珍しく饒舌で、ウワずっている感じが見てとれますゾ! 齢四十を過ぎてからの火遊びならぬネット遊びは、これだから怖い(!?)。でも、それにしては本号は早く届いたじゃないの、と思いつつ拝読しましたところ、な〜るほど、薄味仕立てですネ。ま、いっか。コンピュータについては何だかワケが分からん(分かる予定もない)私としては、S氏がこれ以上道を踏み外さず、早く古風で秘密めかしたミステリーの王道、活字の世界へ回帰されることを願うばかりです。
 私はTVを見ない生活をしているので、テレビ映画でポアロを演じているらしいD・スーシェには、映画「エグゼクティブ・デジション」で初見参。なるほど、ハゲ頭ね。ポアロ=ハゲ頭説をとる方には好まれそうなポアロ役者ですね。眼光鋭く精悍な感じが「エグゼクティブ……」のテロリスト役にピッタリで、彼の切れ味の良い演技が作品全体を引き締めていたと思います。でも、同じ英国出身のデビット・シューリスと名前も風貌も似ているので、私は時々どっちがどっちだか分からなくなる。お二人には本年度外国映画クセモノ役者のソックリ大賞をあげたい(泉淑子さん)。
■とうとうインターネットですか。当方は依然としてワープロどまりです。映画のミニコミ誌でも紙からインターネットになったところもあります。「エグゼクティブ・デジション」見ました。本当に良く出来てました。それにしてもD・スーシェはTV「ルコナ号……」でも悪役でしたね(今朝丸真一さん)。
■このところ眼の状態があまりよくなくて、時勢に逆行して横書きがますます読みにくくなってしまいました。おまけにインターネットとは無縁の生活をしているので、ますますWH通信にも取り残されていくなあと慨嘆していますが、まあ創世期からの愛読に免じてもう少し会員のはしっこに加えておいてください。年末NHK恒例のポアロ、しかし歳末の5時台とは全く主婦泣かせの時間帯です。D・スーシェのポアロ、見なれたせいか、一番ポアロらしい気がしてきました(杉みき子さん)。
■送っていただいたWH通信、会社の昼休みに読んでいて、ふと思い付いたのが、出向で我社に来ているN氏です。彼は社内一のパソコン通。加えて音楽から絵画までなんでもござれの知性と教養の人。ま、知性と教養の人が推理小説を好むかという不安はちょっとあったのですが、思い切って声をかけてみました。すると、予想以上に話に乗ってきてくれて、それからしばらくは二人で推理小説談義。彼はWH通信の12、13頁をコピーしていましたから、この正月休みにはインターネットにかじりついているかもしれません(藤野陽子さん)。
■感想1.クリスティの会だから当然かと思いますが、やっぱり女性ばっかりみたいな感じですね(書く人がでしょうけど)。感想2.国際化の波をひしひしと感じますネ。英国へ行くことなど、ミステリー・ファンにとってはもう日常茶飯事なんですね。こういうことを長くやっているとよく分かりますね(加瀬義雄さん)。
■会員として26年間読ませていただきましたが、若い人が増えたのですね。創刊当時のベストテンの投票のことを覚えていますが、『終りなき夜に生まれつく』を上位にランクした人は他にいないのに、クリスティ自身がベストに入れているので嬉しく感じたことがあります(ミステリーとしては、たしかに傑出しているというわけではありませんね)(佐々木建造さん)。
■このお正月にNHKでやったポアロ物を見ました。『ゴルフ場……』を見るのは初めてだったのですが、ショックでした。ヘイスティングスの相手役の女性があまりにフツーの人だったので! 原作のような「アクロバット芸人の姉妹」にはできなかったにせよ、彼女が一人だなんて! しかもあーんなに落ち着いた女性になっちゃったなんて!!!(ジャックの恋人=シンデレラも納得できない!) 私は若さ溢れ、溌剌としたダルシーに会いたかった。あの役者さん……、歌手の方なのでしょうか? とにかくショックでした(橋本弥佐さん)。
■いろんなミステリーを読みましたが、必ずクリスティに帰ってきてしまいます。人から「面白いミステリーは?」と聞かれて、クリスティほど自信をもって勧められる作家もいませんね。どの作品でも「きっとウケる」と確信をもてますし、実際気に入られるから、ホントにうれしいです。会員であることも自慢の種にしてます(松原優子さん)。
■『創元推理』(No15)の若島さんの『そして誰もいなくなった』論、圧巻でしたね。清水訳は前々から気になっていたのですが、これで納得がいきました。それにしても、クリスティは文章があんなに簡単なのに、なぜに誤訳が多いんでしょうか。これが、セイヤーズかマーシュなら、まだわかりますが。それから数藤さんが書評でいってらしたP・D・ジェイムズの重厚さですが、これは実は必ずしも正しくないかもしれません。というのも、英米人にとってはデクスターにしろ、ヒルにしろ、このP・D・ジェイムズにしろ我々ととらえ方が違うからで、翻訳が下手で重厚な感じがしてしまうということもある(セイヤーズやマーシュの旧訳がいい例)からです。たとえばジェイムズも、小泉喜美子氏の訳した『女に向かない職業』その他には、必ずしも重厚感が伴っていません(森英俊さん)。
■年末にNHKでアガサ・クリスティのミステリーを何本か放映していました。何とはなしに娘(中1)と見ておりましたら、彼女、「あ、これ知ってる」とスラスラ筋を話し、犯人も動機も説明し、それが正解だったので、思わず「何で知ってたの?」と問うと、「ママの本棚から時々借りて読んでる。5、6冊読んだかな……」とのこと。彼女はホームズのファンで、クリスティ物は興味を示さなかったので、敢えて勧めませんでしたのに……。で、感想は! 「うん、面白い!!」 ひょっとして親子二代でファンクラブのお世話になるかもしれません(相良麻理子さん)。
■おお! なんと今(3月6日午後)12チャンネルでクリスティ映画をやっているではありませんか。「ポケットにライ麦を」です。こういう時は在宅怠惰のありがた味、しみじみ……(なにしろウチのベータのビデオ、まだ動くもんで貸ビデオが使えない!!)。山岡久乃のミス・マープル(声)、うまいもんだと思いますが、もうちょっとシャープとも……。でも周りの若い者たちには、ぼ〜っとしたおばあさんと思われてるんでしたっけ? そういえば久しくクリスティを読んでないのでした(海保なをみさん)。
■最近はコリン・デクスターのファンになってしまいました。イギリスでテレビドラマ化され世界各国で放映されているというのに、日本では全くなし。遅れてますよね(大江美代子さん)。
■今年2月ごろからやっとポアロの研究書にとりかかれそうです(深町眞理子さん)。
■ミス・マープルを拙訳で出すことになりました。苦しんでいます(雨沢泰さん)。
 今年はクリスティ関連書のあたり年のようですが、まだまだ何冊か出るようです。お楽しみに!(S)
■最近イタリア語にも興味をもち、早速とりあげましたのが『スタイルズ』『オリエント』『アクロイド』『セブンダイヤルズ』の伊訳文庫でした(鳥居正弘さん)。
■非常に気持ちの良い小冊子で楽しく拝見しています。御高承と存じますが、1998年は英国祭の年になります。英国文化の紹介も当然あるはずで、ドイル、クリスティも陽の目を浴びるかも知れません(河村幹夫さん)。
■イギリス在住のいとこが帰国した際、紅茶をお土産にくれました。ティーバッグ(ポット用)ですが、とても香りがよくて家族で楽しんでいます。私は紅茶には何も入れずにいただくのが好きです(池葉須明子さん)。
■待ってました!! 私のクリスマス・プレゼント。この機関誌を手にしないと年末は来ないような気分です。それにしても皆様あいも変わらずお元気印!! うれしい限りですね。お顔も住所も知らずにこんな長い間心が通じ合うなんて、ほんと会長のおかげです。私めはあいも変わらず夜行高速バスにのり、旅ばかりしております。もっぱら私の読書室となっております。作品の土地へ出かけて、その場で持参した作品を読む。これすなわち至福なり……。そんなわけで、クリスティの作品には遠ざかっておりますが、それはそれ、これはこれ……。
  炉火盛ん片辺にアガサ・クリスティー   寛子    (土居ノ内寛子さん)
■クリスティはその自伝や小説の中で、ジョージアン期のデザインには並々ならぬ愛着を示していますが、それはイギリスのデザインの歴史の中でもジョージアンのものが、建築や家具に最もバランスの取れた品位の高いものが多くあるということと思われます。そのため登場人物の、昔ながらの貴族にはジョージアンの趣味を持たせることが多く、逆に産業革命以降、ヴィクトリア時代のものは、安っぽい工業製品の装飾が多用された趣味の悪いものが多くあり、新興貴族や資本家の象徴として描いているように思います。今更のごとくクリスティのデザインに対する造詣の深さに感心しております(安永一典さん)。
 「アガサ・クリスティとヴィクトリア朝のデザイン−小説の中にみるイギリスのデザイン−PARTU 家具」(宝塚造形芸術大学紀要NO10,1966)に、その持論が詳しく展開されています(S)。
■先日、リードさん(トーキー博物館の学芸員)から切り抜きが送られてきました。一つはトーキー博物館に掲げられたプラーク(飾り板)の除幕式の様子を伝えるものです。写真(Weekender1997.17)の中の右はロザリンドさん、左はツーリスト・ボードの広報担当ブラッドリーさんで、昨年の暮れ、イギリスのクリスティ協会の会員に郵送されてきた”Agatha Christie Country”のパンフレットに同封された手紙を書いた方です。もう一枚はトーキー博物館でリードさんが手掛けているミステリー・コンテストの記事です。すでに7回を迎えたこのコンテストも毎回どういう趣向を凝らすかで、苦労も多いようです。写真に写っている方は館長さんで、犯人役を演じています(安藤靖子さん)。
■ちょっと面白い資料が集まりました。
@"Old Swan Hotel"の広告(高橋裕子さん提供、出所不明)。クリスティが1926年の失踪時に滞在していたハロゲイトのホテル。現在でも営業していて、136のベッドルームのある★4つのホテルだそうです。
A「アガサ・クリスティー、オリエントに導かれた運命」(安藤靖子さん提供、日航国際線機内誌JAL”ウィンズ”1997.4)。横山三四郎という人が書いている"Great Journey"という連載の第1回目に登場。目新しい内容ではないが、中年のマローワン夫妻の大きな写真が珍しい。
Bアガサ・クリスティ・カントリー(日本語版・英語版)。南西イングランドのクリスティ名所旧跡案内のようなパンフレットだが、かなりよくまとまっている。英国政府観光庁で貰えるはずで、イギリスに行かれる方は見ておいて損はないと思う。
■今年の正月映画は「秘密と嘘」を観に行くつもりが「月下の恋」に変更してしまいました。劇場が空いていたこともありますが(もっともらしい理由!)、主演女優ケイト・ベッキンセールの妖しい魅力に惹かれたというわけです。1920年代のウエスト・サッセクスのマナー・ハウスが舞台の幽霊物語で楽しめました。モダンホラーやスプラッター映画は喰わず嫌いなのですが、怪談は嫌いではありません。フランシス・コッポラが製作なので、現代的な雰囲気が多少強すぎましたが……。
 今号も6月末には届くと思います。次号も、よろしく!
 ・・・・・・・・・・ウインタブルック・ハウス通信・・・・・・・・・・・・
 ・☆ 編集者:数藤康雄 〒188      ☆ 発行日 :1997.9.15 ・
 ・ 田無市南町6ー6ー16ー304        ☆ 会 費 :年 500 円 ・
 ・☆ 発行所:KS社             ☆ 振替番号:00190-7-66325・
 ・ 品川区小山2ー11ー2           ☆ 名 称 :クリスティ・ファン・クラブ ・
 


ファンクラブのHPに戻る