ウインタブルック・ハウス通信

クリスティ・ファンクラブ機関誌

1994.9.15  NO.47


 アガサ・クリスティ劇場1993については、WH通信に2回にわたって感想を載せましたが、ファン・クラブ員にはもちろん、一般の演劇ファンにも好評のようでした。そこで2匹目のどじょうを・・、というわけかどうかしりませんが、この小文を書いている現在、アガサ・クリスティ劇場1994(「蜘蛛の巣」)が東京は品川のでアートスフィアで再演されています。剣幸のクラリサはすばらしかっただけに、藤田朋子のクラリサは? (S)

< 目  次 >

◎ついに登場した世界初の公式なアガサ・クリスティ協会・・・・数藤 康雄
◎ペラパラスホテル再訪・・・・田中 弘
◎早川書房の方へ・・・・泉 淑枝
◎ミセス鈴木のパン・お菓子教室(第1回、スコーン)・・・・・鈴木 千佳子
◎クリスティ症候群患者の告白(その17)・・・・・・数藤 康雄
◎ティー・ラウンジ
★表紙   高田 雄吉

ついに登場した世界初の
公式なアガサ・クリスティ協会

数藤 康雄

 アメリカには"THE ARMCHAIR DETECTIVE"というミステリー研究誌があります。今年で27巻になる老舗の研究誌で、最初の頃はミステリー研究家のA・J・ヒュービンが家族と一緒に作っている素人っぽい雑誌でしたが、この15年程はミステリアス・プレス社から発行され、立派な商業誌に成長しています。
 日本以外のクリスティ関係の情報は、今も昔も私はこの研究誌から得ているだけですが、近頃はクリスティ関連の記事はあまり載らなくなったり、この研究誌の主要な論文やインタビュー記事は早川ミステリ・マガジンで翻訳されるようになったりで、熱心に読むことはなくなりました。最新号である1994年冬号も、文字通りパラパラと見ていたのですが、それでも"AGATHA CHRISTIE"という文字だけは、何故かすぐに目に留まります。
 今回その単語を見つけたのは"Murderous Affairs"という常設コラムでした。このコラムは"TheMystery Readers Journal"を主宰するJanet A.Rudolphという女性が書いているものです。掲載されている情報は、その年の各種のミステリー賞受賞作品リストや世界各地のミステリー同人誌・研究誌の内容紹介、さらにはバウチャー・コンなどのイベント予告です。つまりミステリーの雑学情報コーナーみたいなものですが、そこに久しぶりに"AGATHA CHRISTIE"の名前があったというわけです。
 しかし名前が載っていたといっても全体の文章はわずか7行で、「"The Laurel Lines"はアメリカのアガサ・クリスティ協会(Agatha Christie Society)のニューズレターである。問い合わせは・・」というものにすぎません。これまでも、クリスティ協会ができたという情報は一、二回見たことがあり、一度は実際に問い合わせの手紙を書いたことがあるのですが、梨のつぶてでした。クリスティ協会という名前を使おうとすると、なぜかどこかから横槍が入り、結局は幻となってしまうのでしょう。
 今回もあまり期待したわけではなく、暇になった3月中旬に一応念のため問い合わせておこうか、という程度の軽い気持ちで手紙を書いてみました。ところが2週間後に届いた手紙は結構詳しい内容のもので、そこには初めての公式なアガサ・クリスティ協会が設立された旨が記されていました。どのようにして公式なアガサ・クリスティ協会が誕生したのか、以下に紹介します。
 まず、協会の本部(?)はPennsylvania州のWilkes-Barreにあり、現在は3人の女性(Carolyn M. Burke, Dorothy M. Carr, Carol Czajkowski)によって運営されています。中でもD.M.カーさんはすでに仕事を引退しているそうで(他の二人ははっきりしませんが現役の先生らしい)、クリスティ協会の中心人物といってよいでしょう。返事を書いてくれたのもカーさんです。
 カーさんがクリスティ協会を設立しようと思い立ったのは、1988年に、シャーロック・ホームズ協会の地方支部に出席したときのことだそうです。若いときからのクリスティ・ファンであったカーさんは、そのような協会がクリスティについてもあるはずと思い、図書館などで調べ始めました。クリスティ作品の出版元であるコリンズ社やクリスティの遺族にも手紙を書きました。クリスティ協会が存在するなら教えてほしいし、もし存在しないのなら、クリスティ協会という名前を使用して設立してもよいかと。
 このような発想は、実は私がクリスティ・ファン・クラブを勝手に作ったときのものに似ています。ファンなら誰でも似たような行動を起こすのかもしれません。
 しかしカーさんのすごい点は、あくまでもクリスティという名前を正式に使用したいという熱意でしょう。ニューヨークにあるクリスティ(株)の代表者ハロルド・アソシエイツと何度も話合い、ついに名前使用の許可を得て、自分たちの協会を”世界初の公式なアガサ・クリスティ協会”と呼ぶことができたというわけです。
 話合いの詳細はよくわかりませんが、面白いことは、一定のガイドラインを満たす組織であるなら、カーさんたちがその組織に対してクリスティ協会という名前の使用を許すという権限をもっていることでしょう。つまり、表現はちょっと悪いかもしれませんが、”セブン・イレブン”や”養老の滝”といったフランチャイズ制のシステムに似ているようです。そして一定のガイドラインとは、クリスティという名前の入ったTシャツを作ってはいけないことと、クリスティの名前を商業主義的なことには一切使用してはいけないということのようです。
 カーさんたちが作っている本部(?)の名前は”POSTERN OF MURDER”(『運命の裏木戸』のもじりでです)で、問い合わせは、ロンドンやアフリカからもあったそうですが、今のところ支部として認められたのはバージニア州の高校生と先生らが作った”Partners in Crime”ひとつだけだそうです。ということで、日本にも許可を出しますから、ぜひ支部を作りなさいと忠告されています。
 ところでカーさんが中心となって発行しているニューズレターですが、年3回の発行です。最新号(1994年3月号)がVol.2 No.1ですので、去年の3月に創刊号が出たことがわかります。体裁はA4版4頁といういたって簡単なものです。印刷も両面コピーのようなもので、おせいじにも読みやすいとは言えないでしょう。デザイン、体裁とも、WH通信の方が数段上といえますが、それも商業主義的なことはしないという約束のためかもしれません。
 肝心の内容は、WH通信のティー・ラウンジのように編集者への手紙や細かな情報が半分で、これに短いエッセイが一本つくという程度のものです。同封されていたVol.No.3とVol.2 No.1から興味深い情報を抜き出しますと以下の通りです。

 以上が”世界初の公式なクリスティ協会”(正式な英語名はAgatha Christie Appreciation Societyのようです)の概要です。組織自体はたいして大きなものでなく会報などは正直いって貧弱ですが、公式なクリスティ協会として認めてもらうために、ロンドンに足を運んでマシュー氏と直接話し合ったり、ニューヨークのクリスティ(株)の代表者と何度も交渉したりする行動力には圧倒されてしまいます。アメリカの女性は、歳は幾つになっても精力的に活動するようです。
 話は変りますが、このWH通信の印刷を10年以上もお願いしてきた印刷屋さんが、軽印刷業の不況のためか、ついに昨年の12月末で廃業してしまいました。私などもいささか疲れてきたので、WH通信もきりのよい50号でやめにしようか、などど秘かに考え始めていたのですが、アメリカの女性が、引退後にクリスティ協会を設立したというのでは、現役の私としても当分やめるわけにはいきません。今後もよろしく! ということで一つお願いがあります。
 最近はどこでもそうでしょうが、私の職場でも”高齢化”と”情報化”と”国際化”が主要なテーマになっています。このうち”高齢化”と”情報化”はまあ何とかこなせますが、英語が苦手な人間にとっての”国際化”は結構大変です。苦し紛れに”英語帝国主義”を唯一の理論的武装(?)として、もっぱら韓国担当になっていますが、遊びとしてのWH通信にもこれらの波は確実に押し寄せてきています。
 今回、アメリカに世界初の公式なクリスティ協会が設立されたことがわかりました。一応こちらのファンクラブの現状を知らせる手紙を書きましたが、今後うまくいけば、いろいろな情報交換が進むと予想されます。つまりWH通信の”国際化”です。これに対しては、私の英語力では、手紙ひとつ書くにも時間が掛かりすぎて効率が悪すぎます。昔のように辞書を引きまくって書くという暇がありません。
 というわけでお願いとは、今後予想されるアメリカのクリスティ協会に出す手紙を英訳してほしいというものです。年2〜3通だと思いますし、複数の方が立候補していただければ、負担はより少なくなると思います。よろしく!
 なお、ニューズレター"The Laurel Lines"は定期購読を希望したので、その中の面白い記事はWH通信に掲載しようと思っています。でも直接クリスティ協会と連絡したいという会員もいるかと思いますので、問い合わせ先を書いておきます。
POSTERN OF MURDER,INC. C/O APT.206-61E.
NORTHAMPTON STREET,WILKES-BARRE,
PA 1701-3005 U.S.A.


ちょっといい話
ロンドン発ロイター・・演劇史上最長の代役俳優と目されるナンシー・シーブルックが退場する。彼女は15年にわたり、アガサ・クリスティの『ねずみとり』で殺人の被害者役の代役として待機しつづけた。引退するにあたって、79歳のシーブルックはこう語った。「楽しい劇団でした。毎年といっていいくらいにメンバーが入れ替わるので、いろんな人たちと知り合いになったわ」彼女が代役をつとめた女優は15人で、実際の舞台には75回しか上がらなかった。『ねずみとり』は1952年11月にロンドンでおけら落としをして以来、17,000回以上上演されている。
(1994.2.22、雨沢泰さんの提供)

 このベタ記事が載った正確な新聞は知りませんが、いかにもイギリスというか、イギリス人らしいというか、他の国では絶対に考えられないような記事です。なお、ナンシー・シーブルックが演じた被害者役とは、彼女の年齢から考えて、ボイル夫人のことでしょう(S)。


ペラパラスホテル再訪

田中 弘


 WH通信No.45でペラパラスホテルをめぐる謎(「アガサ失踪事件の謎を解く”鍵”」)に挑戦した田中さんの続報です。今回は実際にホテルまで出向き、ホテルのマネージャー氏と話されたようで、より興味深い事実を発見しています。
 鍵が見つかったホテル411号室の写真も掲載しましたが(田中さんの撮影)、壁には新聞や雑誌の切り抜き記事がたくさん展示されており、鍵が見つかった当時、かなりの評判になったことがわかります(S)。



 数年前イスタンブールで収集した資料に基づき、WH通信45号でペラパラスホテルをご紹介したものの、いくつかの疑問を残したままであったが、昨年12月に久しぶりにイスタンブールに出張する機会を得た。もとより仕事で行ったわけだから、はやる心をおさえながら、日程を消化、そしてついに一時間だけのフリータイムを見つけた。かねて手紙のやりとりをしていたフロントマネジャーのエスベルジ氏に予め電話を入れ、ホテルに急いだ。
 ホテルの正面を入って数段の階段を上がると、そこはもうすでにご案内のアガサクリスティ・ホール。シャンデリアが下がり、床には年代物の絨毯。トルコらしい雰囲気のややカビくさいホールである。その左側の階段を上がった中二階のホテルのオフィス。エズベルジ氏が約束通り、にこやかに迎えてくれた。長身のジェントルマンである。
 まず411号室に案内してもらう。階段に囲まれるようにつくられた、手で開閉するクラシックなエレベーターは、古いヨーロッパの生き残りのようである。白い壁に囲まれた天井の高い廊下を歩き、右に曲るといわずとしれたアガサの部屋である。割と狭い部屋で、2つのベッドと小さい机のほかは、荷物を広げるといっぱいになりそうな大きさ。窓は広場に面し、この高台から金角湾を望む。壁には、例の鍵の写真や、それを発見したときの新聞記事などが、ガラスにはめられて飾られている。現在は客室としては使っていない由である。
 さて、エズベルジ氏に今度こそ確かめねばと質問。「自伝や小説には、トカトリアンホテルに泊まったとあるが、アガサが泊まったのはこのホテルではないのでは?」とまことに単刀直入である。氏はにこにこしながら、やはりペラパラスに泊まったと主張、トカトリアンにも泊まったのだろう、との回答。筆者は前に述べたように、トカトリアンの所在が納得いかない。さらに質問すると、結局、「トカトリアンはペラパラスとは別に存在し、ここから東方少し行ったところにある、トカトリアンパッサージという、アーケードの商店街の小路あたりに、それはあったのではないか」とのことである。さらにパーカーパインに出てくるペラ通りの話をすると、こことトカトリアンあたりに昔あったグランド・リュ・ペラと俗称された繁華街がそれではないか、と教えてくれた。やはり手紙ではなく、直接話してみると、疑問は少し解けるもの。
 次回はぜひこのホテルに投宿して、アガサ・クリスティホールのさらに奥にある古き良き時代の雰囲気あふれるレストランで、オリエントの旅の疲れを癒した人々を思い浮かべながら、のんびりと食事をしてみたいものである。
 ところでこのエズベルジ氏、日本で出ているESSEという雑誌の91年12月号に、奥様のトルコ料理紹介記事の中で、家族とともに写真入りで登場している。奥様はなかなかの美人だし、彼もやさしい父親ぶりである。
 一時間はあっという間に過ぎて、別れ際に、今世紀で閉鎖されるのは残念ですね、というと、氏はああその話かといわんばかりに、「日本ではそう報道されているそうですが、今のところその考えはありません。しかしその報道のおかげで、このところ日本の観光客がたくさんみえます」
 日本での報道を丸飲みにしてはならぬとの自戒を胸に、再開を約してホテルを辞した次第である。


早川書房の方へ……

身近な世界のクリスティ(その1)

泉 淑枝

 福永武彦・中村真一郎・丸谷才一共著による『深夜の散歩』(初版は1963年に早川書房より発行)は一種のミステリー評論集ですが、ミステリーにはパズル小説としての楽しみ方以外にも、さまざまな楽しみ方があることを教えてくれたS氏にとっては懐かしい本です。おそらく40代以上のミステリー・ファンなら、多かれ少なかれなんらかの影響を受けているのではないでしょうか。泉さんがどの世代に属しているかは知りませんが、『深夜の散歩』を楽しんだファンであることは確実です。なにしろ本エッセイの題が福永氏の題の付け方と同じなのですから(S)。


 クリスティーの作品の版元として、ファンにはお馴染みの早川書房。その早川書房に、ある日、ふらりと出かけてきました。どうして行く気になったのか?
 まず、その話から始めさせて下さい。

 第一のキッカケは生島治郎の『浪漫疾風録』(講談社刊)を読んだためです。生島治郎は本名、小泉太郎。ハードボイルド作家としてデビューした当時は早川の社員で、現在の「ミステリマガジン」の前身、「EQMM」の二代目編集長だったことは、皆様ご存じのとおり。
 「EQMM」に福永武彦、中村真一郎、丸谷才一の三氏が連載した、ミステリーを巡る好エッセイ、『深夜の散歩』の中に

 「今夜ぼくは酔っぱらっている。それなのに文章を書くなんてよくないことだ。しかし、やむを得ない。明日の朝、「EQMM」の小泉編集長は、うららかな顔で現れるはずだ。そのときもし原稿ができていなかったら、彼の温厚な美貌はたちまち険しい表情に変わるだろう。そして彼は極めて紳士的にいやみを言うだろう」

と紹介されている(丸谷才一「美女でないこと」)、美貌(?)の小泉編集長こそ、生島治郎のありし日の姿です。
 『浪漫疾風録』は、その早川時代のエピソードを綴った実録小説で、当時の早川書房の様子がイキイキと描写されています。
 まず、ウームと感嘆してしまうのが、当時の早川書房の社屋の描写。
「しゃれた都会的なセンスにあふれた出版社だから、きっとモダーンなビルかなんかに違いない」と思いながら、生島が初めて訪れた早川書房は、二階建ての古びた木造の仕舞た屋(しもたや)で、あまり流行っていない畳屋といった感じ。建てつけの悪いガラス戸を開けて中に入ると、暗い一階が営業部。みしみしと音のする古びた木の階段を登ると、二階が編集部で、畳を上げたあとにデスクを並べたとみえ、床はささくれだったまま。八畳ほどの狭いところにデスクがひしめきあっていた、というのです。
 どうです? 時代を感じさせるではありませんか。
 入社した生島の前に、いかにも俊敏な仕事師といった印象の長身の男が現れ、シブいバリトンで「田村隆一です」と名乗ります。クリスティー作品の名訳でお馴染みの田村隆一は当時、早川の編集部長。本書に紹介されている彼のエピソードは、社屋の描写よりさらに感動モノです。
 田村隆一は、新米社員の生島の肩をぽんと叩くと、「ここはな、月給だけで食えるところじゃないんだ。結婚なんてできやしないよ。結婚してるやつは別れることになっている」と言って、ケッケッケと怪鳥のような声を発して笑います。
 田村は着流し姿で出社することがあり、着流しといっても、たいていは垢じみた袷か浴衣姿。そばによるとぷぅんと酒くさく、編集室に入ってくると奥の三畳間で分厚い辞典を枕にごろりとひっくりかえり、再び酒の気にありつける夕刻までぐったりと横たわっていた、とか……。どうです、凄いでしょう。
 現在の早川書房は田村隆一も生島治郎もいないし、社屋も、こんなふうではないでしょう。でも、今はどんなふうかなのか見にいってみようかな……と思ったワケです。

 ついでに思い出したのですが、早川の一階には、クリスティーという名の喫茶店があったはず。私が本誌の「日本のクリスティを訪ねて」に、原宿の喫茶店クリスティーを紹介させていただいたのは、今からちょうど10年前のこと。なんと、もう10年以上も、このファンクラブの会員をやらせていただいているわけで……。
 原宿のクリスティーを訪ねたのは、娘が中学受験を終えた春のことでした。その娘も今春、大学を卒業。つい先日から、早川書房からそう遠くないところにある会社に勤め始めたばかり。
 時は春。桜も咲いているいるし、ちょうどいい折りだから、神田のクリスティーにも行ってみよう……そう思い立ったのが、キッカケの第二です。

 神田多町(たちょう)2丁目にある現在の早川書房は、もちろん木造の仕舞た屋ではなく、NO.3・ハヤカワビルディングという名の堂々たる白亜のビル。その5階から9階までが早川書房、1階が喫茶クリスティ(早川の表記はクリスティーなのに、なぜかこの店はクリスティ)なのでした。
 店内は、オフィス街によくある喫茶店といった感じで、特にイギリス風な趣きとか、クリスティ風な趣向というのはこらしていないようです。2人席が6席と4人席が6席、あとはカウンターになっていて、コーヒーは400円、紅茶は450円。9時から5時迄は喫茶店で、夕方6時から10時まではパブになります。午前11時まで、サラダ、玉子、トーストがついて500円のモーニング・サービスもあるようですから、これはもう典型的な、ビジネスマン向きの喫茶店といってよいでしょう。
 店のマスターのような、バーテンのような方がいたので、ちょっと取材させていただきました。以下、その一問一答。

「あのー、この店は、原宿のクリスティーとは関係ないんですか?」
「ないね。この店は、早川書房の経営だからね。ここだけだよ」
「では、あなたも早川の社員?」
「そうだよ」(と胸をはる)
(どうりで愛想が悪いや、と内心思いながら)「クリスティーという店名にしたのは何故ですか?」
「早川でクリスティーの本をたくさん出しているからさ。それに因んでだね」 「お客さんはどんな人が多いのですか?」
「早川書房の編集者が、作家や翻訳者との打ち合わせにつかうことが多い。近くのオフィスの人たちもくるけど、不況で財布のヒモが固いね」
「クリスティーらしい趣向をこらした点とかはないんですか?」
「ないね。イギリス風に紅茶の店にすることも考えたんだけど、日本人は喫茶店では紅茶よりコーヒーを飲むからやめた。でも、壁に社長がイギリスで買い集めてきた風景画が飾ってあるから、そのへんがイギリス的かもしれない」
「社長って、この間亡くなった、ケチで有名な人ですか?」
「それは会長の清。社長は浩のほうだよ」
「もし、クリスティー・ファン・クラブの会員がお客できた場合、なにか特典はありませんか」
「きたついでに、本を買っていくことができる」
(そんなの特典とはいえない、と内心思いながら)「その本を8ガケで買えるとか、そういった特典はないのでしょうか?」
「8ガケ? とんでもない! そんな待遇を受けたかったら、相当通いつめてもらわないとね。とにかく、不況でお客がこない。一日中空いてるから、お客さんは大歓迎。来たついでに、ショー・ウィンドーの新刊を見て、欲しいのがあったら、買ってってくれると一番いい」

 帰りがけに、喫茶店の入口にあるそのショー・ウィンドーをのぞいてみたら、「ミステリマガジン」「SFマガジン」の最新号と一緒に、高村薫の『マークスの山』だの、マイケル・クライトンの『ジュラシック・パーク』だのが並んでいました。確かにベストセラーではあるけれど、これが新刊といえるでしょうか?
 でも、よく見ると、一番下の目立たないところに、キャロリン・G・ハートの『クリスティー記念祭の殺人』が置いてありました。この文庫本は、今年の3月31日発行ですから、これなら新刊といえるでしょう。記念に買って帰ることにして、喫茶室のハードボイルドなバーテン氏に「どこで買えますか?」と尋ねると、さっきとはうって変わったにこやかな笑顔で、「はい。奥のドアを開けると、そこが早川書房の受付けですから、そちらで買って下さい」と教えてくれたのでした。

 ま、そんなワケで、面白そうな本も買えたし、結構楽しい「真昼の散歩」を楽しむことが出来たのでした。

 ミステリーでも、映画でも、何でもいいから、クリスティーの雰囲気のある作者、作品などの紹介を……という、S氏の要望からはちょっとハズれた、散歩の話を書いてしまいました。これから読む『クリスティー記念祭の殺人』なんかが、多分、テーマにピッタリの作品ではないかと思うのですが、なにぶん、まだ買ったばかり。枕もとに積んであって、読むのは2,3冊先です。
 もう、お読みになった、あなた。ぜひ、連載の2回目をお願いします!

(「クリスティ・ランドの素敵な人」以外にも連載物を掲載したくて、「身近な世界のクリスティ」という題を考えてみました。この連載が「クリスティ・ランドの素敵な人」と同じく長く続くよう御協力のほど、よろしく。ちなみに「クリスティ・ランドの素敵な人」の連載第1回の担当も泉さんでした(S)。)


寄贈図書の紹介
著名なシャーロッキアンである河村幹夫さんから2冊の本が贈られてきました。
  『シャーロッキアンの冒険と回想』(東洋経済新報社、\1300)
  『われらロンドン・シャーロッキアン』(筑摩文庫、\780)
前者は、シャーロッキアンの研究書というより、「シャーロッキアンである前に一人のサラリーマンである私が、これまで歩んできた人生の中で思いついたり考えたりしたことを率直に文章にしたもの」で、後者は『われらロンドン・ホームズ協会員』(筑摩書房)を文庫化したもの(一部写真が追加されている)。私のようにエンジニアにしてクリスティ・ファンである人間からみると、前者の本の方が圧倒的に面白い(もっとも後者はかってEQ誌で書評したことがあるからだが)。学生の頃より、モノを作るのはエンジニア、単にモノを右から左に移すのが商社マンと、エンジニアの対極に位置する人間が商社マンと思っていたのに、これが違うんだなあ、というわけである。とはいえ、二次会を極力避け、接待ゴルフもしない著者が異色の商社マンなのかもしれない(S)。


ミセス鈴木のパン・お菓子教室

第1回 スコーン

鈴木 千佳子

 鈴木さんは静岡県豊田町にお住いのクリスティ・ファンですが、パン・お菓子教室を開いていることもあり、クリスティに関係のありそうなお菓子の作り方を紹介してもらうことになりました。「いつかイギリスへお菓子の勉強に行けたら……と思いつつ、いろんな本を読みあさったり、人に聞いたりして得た知識がもとになったレシピなので、もしかするとピントはずれのことが書いてあるかもしれません。ファンクラブの面々で、もっと詳しいことや正確なことを知っていらっしゃる方がいたら、ぜひ教えていただきたいと思います」とのこと。味の批評とともに作り方に対するコメントも、ぜひお知らせ下さい(S)。


はじめに
 スコーンは、イギリスではティータイムに欠かせないお菓子の一つです。プレーンなものはあまり甘くは作らないようで、これにジャムやクリームをたっぷりのせて、お茶と一緒にいただくのが一般的な食べ方のようです。
 パセリのみじん切りを10gくらい入れると、緑がきいてとてもきれいです(数藤家では好評を得ました!)。我が家では、子供向けのおやつにはチョコスプレーやレーズン、フルーツピールなどを刻んで入れることもあります。ただし、崩れやすいので、受け皿の上でいただかないと、テーブルの上といわず下といわず、食べカスだらけになってしまいます。そこで8、6、3歳の子供達のおやつがスコーンのときは、掃除機が必需品となる我が家です。

材料
薄力粉    320g3回ふるう
バター(無塩) 160g 1cm位の角切り
B.パウダー  16g
牛乳       40cc
砂糖      50g
卵(M玉)     1ヶ 一緒にする
塩      ひとつまみ
バニラ       少々

作り方

  1. ボールに粉類、砂糖、塩を入れ、よく混ぜる。
  2. バターを加えて粉類をまぶし、ドレッチやスケッパーで細かくなるまで切り混ぜる。
  3. バターが小豆粒より小さくなったら、水分を加え、へらでざっと混ぜ、ビニール袋に入れる。
  4. ビニール袋の上から手でひとまとめにし、麺棒で2cm厚くらいに伸ばして冷蔵庫で30分以上休ませる。
  5. ビニール袋をはずして、5cm直径くらいの型で抜くか、12等分して、手で丸めて円柱形にする。もしベタつくようなら打ち粉をする。
  6. 天板に並べ、温めておいたオーブンに入れ、180゜Cで約15分、きつね色になるまで焼く。

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クリスティ症候群患者の告白(その17)

数藤 康雄


1月×日 NHKTVで「カリブ海殺人事件」が放映された。この作品は、ミス・マープル役をアメリカの女優ヘレン・ヘイズが演じていることと、スー・グラフトン(女性私立探偵の第一人者キンジー・ミルホーンの産みの親)が脚本を担当していることの2点において、クリスティ・ファンには特に注目すべき作品といってよいが、お正月中なのでつい見逃してしまった。
 ところでニューヨーク市郊外には、ヘレン・ヘイズの名を冠した病院(ヘレン・ヘイズ病院)がある。病院紹介のパンフレットをちらりと見ただけなので詳しいことは忘れたが、リハビリテーション工学の臨床部門をもち積極的に活動している病院と思われる。”風が吹けば桶屋が儲かる”式に理由をつければ、趣味と本職とはどこかで必ず結び付くようだ。
1月×日 例によって年末にWH通信NO.46を発送したが、腑に落ちないことが一つあった。それは会費切れの人が予想外に多いことである。これまで会費の払いこみが一度も遅れたことのない人も、パソコン処理の結果では「前号で会費切れ」になっていた。どうもおかしいという気がしたが、なにしろWH通信の年内発送を最優先としている関係上、まあいいか、とそのままで再チェックはしなかった。しかし年が明けてから、間違いに気づいた。自作プログラムの操作を間違えて、WH通信No.47のときの会費状況を出力してしまったのである。つまり一号分早く会費を請求したのだから、会費切れの会員が多くなったのも当然か。
 間違えた原因は私が作った自作プログラムにある。一般に市販されているソフトはプログラム内容の8割は例外処理に費やされるといわれているが、私のソフトは自分だけが操作するものなので例外処理はほとんど行なっていない。したがって実に簡単なプログラムなのだが、例外処理をしていないため操作を間違えてもエラーを出力しないオソマツなもので、結果として間違ったものが出力されたわけである。なにしろ年2回しか操作しないから、バグが見つかるのも数年かかってしまう。
 会員のほとんどは今回の一号早めの請求を疑問に思わなかったようだが、別にロバート・バーの短編「放心家組合」のトリックを真似して会費請求をしたわけではない。申し訳ありませんでした。深謝。
×月×日 社会思想社から翻訳出版されたD・M・ディヴァインの『兄の殺人者』を読む。この作品はすでにWH通信No.41で小林晋さんが紹介している。クリスティが審査員となった珍しい探偵小説コンクールで、受賞はできなかったもののクリスティが強く推した作品である。1961年の作品なのでまさか翻訳されるとは思いもしなかった。嬉しいことである。
 クリスティが推しただけに謎解きミステリーとして優れているだけでなく、小説としてもサスペンスに溢れていて読みやすい。ここではあることを書きたいのだが、それを書いてしまうと未読の人には失礼となる。でも書きたい。まだ読んでいない人はぜひ、すぐ読んでほしいものである。
×月×日 C・G・ハートの『クリスティー記念祭の殺人』(早川ミステリアス・プレス文庫)を読む。これは前号の本欄で取り上げた『ミステリ講座の殺人』に続くシリーズ物の第四弾である。この作品は、クリスティ生誕百年を記念して、ミステリー専門店の店主アニーがクリスティー記念祭を催すが、そこに”コージー派”嫌いのミステリー評論家が参加したことから殺人が起こる、というもの。
 このシリーズは作品の中に絵クイズを入れたりと、ミステリー・ファンは本筋ばかりでなく、遊びの部分も大いに楽しめるという特徴があるが、今回は絵クイズはもちろん、その他の遊びにもクリスティ関係のことがたくさん含まれている。そのうえ、謎解きミステリーとしてもなかなかのもので、クリスティ・ファンには二重に楽しめる構造になっている。おすすめの一冊。
×月×日 "The Poisonous Pen of AGATHA CHRISTIE"(by Michael C. Gerald, University of Texas Press,1993)が届く。クリスティ作品に登場する毒薬や薬品について論評した本である。著者はオハイオ州立大学の薬学部の教授という専門家だけに、クリスティ作品に登場する毒薬や薬品を徹底的に調べている。この本の第2部はそれらの毒薬や薬品、化学物質のリストとその解説にあてらているが、そこには150種類以上の名前がある。我がクラブ編の「クリスティ小百科」(『アガサ・クリスティー読本』に収録)にも21の毒薬名を載せて、クラブ員の加藤さんに解説を書いてもらったが、その5倍というわけである。いかに徹底的に調べてあるか、おわかりいただけるであろう。
 第1部は、それらのデータを基にして書かれた文章を集めたもの。まだほとんど読んでいないので内容は紹介できないが、それほどユニークな説を唱えているとも思えないものの、結構真面目なことを言っているようである。まあ、大学の出版局から出版された本だから、当然であろうが……。
×月×日 各務三郎編著の『チャンドラー人物事典』をいただく。クリスティの人物事典("The Agatha Christie WHO'S WHO")はすでにアメリカで出版されているが、それはクリスティ・ランドの住人の1/4程度しか収録されていない。それに対してこの『チャンドラー人物事典』は架空の人物ばかりでなく実在の人物までも収録するという完全主義を貫いている。チャンドラーとクリスティとの関係といえば、チャンドラーが「単純な殺人芸術」の中で旧来の探偵小説を批判している部分でクリスティ作品も槍玉にあげているのを思いだすが、この『チャンドラー人物事典』にクリスティの名前は載っていないようだ。
5月×日 アガサ・クリスティ劇場1994で「蜘蛛の巣」が再演される。剣幸の前回の公演は4公演の中でも一番出来がよかったので、今回も大いに期待したいものだ。


ティー・ラウンジ

■私もとうとうアガサ墓参の仲間入り。先日ロンドン出張の際、帰国便が土曜日のゆえ、仕事を終えた金曜日の夜は郊外で一泊、としゃれこんで、テムズを遡った小さな町に宿をとった。翌朝、さてヒースローへ行くまでの間どうしようかと、町の観光センターをのぞいたところ、壁に貼られた地図をみて驚いた。何と今、かのチョルシーに車で数十分のところに来ているではないか。早速同僚をけしかけて、これでなければイギリスではないというほどの、曇天と霧の中を一目散に走り、ウォリングフォードも一気に通り抜けて、チョルシーに向う。かねてWH通信のおかげで、町の様子が頭に入っていたので、駅で一応確かめたうえで、セントメリー教会へ迷わず到着。
 教会は、数年前の嵐で被害を受け、今は閉鎖しているとか。亡夫の墓参か、花を片手にタイミングよくやってきた赤いコートの婦人が、教会の右手奥を指さして、あの樹の下の方、と教えてくれた。おかげでこれも迷わず、白い墓標に一直線。感激の対面である。お墓の様子はご承知のとうりで省略。そばの石塀に、生誕百年を記念して貼られた、小さなプレートがあるが、ロザリンド、マシュー・プリチャードのほかいろいろな名前がある。これらの人々が、アガサとどういう関係か、また新たな興味がわく。
 ともかくも、老後の旅の楽しみにとっておいたアガサ墓参が、キツネにつままれたようなあっという間の数時間で実現して、いまだにあれは夢だったか、という気分である(田中弘さん)。
■ところでキャロリン・ハート、私も”私設図書室アガサ”の庵原さんに肩のこらないのを、とお願いしたら『舞台裏の殺人』が入っていて楽しく読みました。女流作家のものを愛用の私は、それこそ我が意を得たりの面々が次から次へ出てくるので、そちらの方に興味が盛り上りました。その中に昔から憧れてやまないビクトリア・ホルトの名前も出ておりましたが、巻末の紹介は2行で私の知識の中。私が読んだのはリーダース・ダイジェスト社のそれこそダイジェスト版でしたが、デュ・モーリアばりのぞくぞくする所があってとても面白かったのです。以来ビクトリア・ホルト、ビクトリア・ホルトと思いつつ今日まできました。ティー・ラウンジで彼女のことを御存知の方いらっしゃらないかしら。
 もうひとつ。P.G.ウッドハウス、なつかしい。ちょっとオーバーな表現ですが、母と私、畳をころげまわって笑ったのを思い出します。EQMM1958年7月号の”名探偵マリーナ”。結婚のとき道具の中に母に内緒でこの一冊をもって参りました。ウッドハウスという名前は、この一作で私には不動のものとなりました(大森朋子さん)。
 S氏も『流砂』(これは傑作!、角川文庫)以来のビクトリア・ホルトのファンですが、その後は『女王館の秘密』と『愛の輪舞』(いずれも角川文庫)、『狩猟月のころ』(サンリオ)と合計4冊訳されています。すべて絶版と思われますが(S)。
■マルタの鷹協会のほうが忙しくてクリスティにはすっかりご無沙汰してますが、実はあの会にもちゃ〜〜んと本格ファンがいるのです。会報の編集部なんかTVのホームズやポアロが大好きで、一時期一人が何か言うと「ノンノン!ちがいますョ、モ・ナ・ミ!」なんて言う”ポアロごっこ”がはやりました。マーサ・グライムスのパブ・シリーズやレジナルド・ヒルも私達のお気に入りです(岩田清美さん)。
■アガサ・クリスティ関係の情報を3つ送ります。
@衛星で放映した「未完のポートレート」の中で、デヴィット・スーシェがラベンダー水を愛用していましたね。ポアロが灰色の脳細胞を活性化させると言っていたそうですが、どの物語でしょうか? 私もヤードリー社のラベンダー水を買って帰ったことがありますが(『時をかける少女』の影響がなかったとは言わない)、匂いがきつくてちょっと……。「花と雑貨のイギリス便り」という本を読んでいたら、英国にもラベンダー畑があると知ってちょっとびっくり。
Aなんとクリスティが失踪中、テレサ・ニールの名でタイムズに出したアゴニー・コラム(三行広告)が日本で見られる!……といってもマイクロ・フィルムでですが。本郷の東京大学の新聞研究所に行って(身分証明書が必要です)、1926年12月のマイクロ・フィルムを借りましょう。あたりまえですが、ホントにありました。コピーを取ることもできます。
BBBCのミス・マープルのTVシリーズのサントラ盤(ORIGINAL MUSIC FROM THE BBC TELEVISION SERIES: AGATHA CHRISTIE MISS MARPLE \2250 (1993 UKEMI)を見つけました。マープル・ファンにはうれしいこの一枚! 日本では出ていないのでHMVなどで捜しましょう。
 内容は1.ミス・マープル・メイン・テーマ、2.パディントン発4時50分、3.バートラム・ホテルにて、4.ポケットにライ麦を、5.動く指、6.カリブ海の秘密、7.復讐の女神、8.書斎の死体、9.予告殺人、10.鏡は横にひび割れて、11.スリーピング・マーダー、12.魔術の殺人です(とおのはるみさん)。
■昨年末(12/27)、リードさんとトーキー自然史協会会長に郵送したWH通信が届いたという手紙を受け取りました。とてもよろこんで頂けたようで、私もうれしく思っております。会長さんへお渡ししてほしいとお願いした分は、トーキー博物館の公文書室に、他のA.C.関係の記録等と保管されているとのことです。いずれ時がきたら、『シタフォードの秘密』のロシア語版やヨーロッパ数カ国語に翻訳されたウェストマコットもののペーパーバックと共に展示場の方へ納めて展示するとのことでした。
 昨年の手紙には「A.C.展」が当初予定していた一時的な展示から、永久展示になりそうだ……と書かれていましたが、現在の展示場の一部に新たにA.C.のものとは関連のない農具のコレクションを展示することになったため、ゆくゆくは病室と海水浴の場面を取り払い、多少展示の仕方を変えて、今までのものを展示したいとのことです。その際、何か新しいものを展示に加えられないか、リードさんは目下考慮中のようですが、その一つに「世界各国でのクリスティの読まれ方」というのがあり、イギリス国外での反応にスポットを当てたら……と考えているようです。「いずれ時が来たら」私達のWH通信もその一つとして展示品の仲間入りするかも知れないというありがたいお話なのです。とにかく公文書室入りしたというだけでもありがたいことですね。
 昨秋(11/16)友人がトーキー博物館を訪ね「A.C.展」を見てきました。トァ・アビーの「A.C.ルーム」の方は改装中で休館していたため見られなかったとのことでした。この話を早速リードさんにしたところ、「あそこよりは博物館の方が良いと思う」とお膳立てをした張本人らしく手紙に書いてきました。12/16付けの手紙には「ミス・マープルの衣装」をBBCへ返す時がきたとあり、「展示ケースが空になってしまうから返さなくてもいいですよ……とプロデューサ氏が言ってくれるといいんだけど」とも書いてありました。ヒクソンさんは現在(何と!)87歳なのでミス・マープルものを新しく作ることはないだろうとのこと。息子さんと話したところによると、目下彼女はビアトリス・ポターの本の朗読の録音で多忙とのことでした。
 また先日受け取った手紙には、5月7日から一週間トーキーで開かれる「ミステリー・フェスティバル」の切り抜きが同封されていました(HERALD EXPRESS 25/1/94)。世界各国、そして日本からも大勢の観光客を予想しているようです。博物館としてもきっと何か一役かうことになるだろうとのことです。10月にはマラソンもあったりで……。トーキーがあまりに観光化されすぎるのではないかと心配でもあります。
 この記事にある"Agatha Christie Society"というのは、昨年3/21付けの手紙によると、ヒックス夫人、孫のマシューの後援によって"Agatha Christie Appreciation Society"という新しい会が発足するようだというニュースがありましたので、その団体のことを言っているのでしょうか? いろいろなクラブが出来るのに続かず、いつもつぶれてきたようです。そこへゆくと日本のファンクラブはそろそろ25周年でしょうか。立派です!(安藤靖子さん)。
 HERALD EXPRESSの記事に出ている"Agatha Christie Society"は、クリスティ生誕百年記念年に作られた百年記念委員会のようなものではないでしょうか。また"Agatha Christie Appreciation Society"の方は、実はこのティー・ラウンジを編集していて気づいたのですが、これこそまさに本号の冒頭に記したカーさんらの世界初の公式なクリスティ協会そのもののようです(S)。
■最近の私のお気に入りのミステリー作家はサラ・ファイフィールド(『別れない女』など)とポーラ・ゴズリングなのです。たまたま図書館で手にしたら好みだった!というわけなのですが、ゴズリングの『殺意のバックラッシュ』の中にクリスティの『ABC殺人事件』についての会話が出てきて、とてもうれしくなってしまいました。でも、これって、'91年に出ていましたから、私が知らなかっただけでしょうけれど。年末の忙しいときにカゼをひいて、ダウンしたおかげで三食昼寝付き+ミステリー付きになり、HAPPYでした!?(小野裕子さん)
■今年は8月から少しづつ読めるようになって12月中旬までに16冊読みました。私の個人的な点の付け方で(評価項目は5つで各2点、合計10点満点。各項目は@ストーリーが見えるか、A起伏に富むか、B面白いことが書き込まれているか(自分にとって個人的に)、C納得のいく結末が、D読了後残るか)、ご報告してみたいと思いつきました。今のところ『死が最後にやってくる』と『青列車の秘密』、『開いたトランプ』が9点でした(小沢一豊さん)。
■ところで『燐寸文学全集』(安野光雅・池内紀編、筑摩書房)にクリスティが載っていましたので同封しました(今朝丸真一さん)。
 本のオビによりますと「アイリッシュ、芥川龍之介から若山牧水、和田芳恵まで、無数の文学作品から蒐集した<マッチ>をめぐる名場面集」ということで、クリスティ作品では『アクロイド殺し』と『ABC殺人事件』が取り上げられていました(S)。
■ところで、やっとBSを導入し、「アガサ・クリスティの世界」を楽しむことができました。NHKでもポアロ・シリーズを土曜日にやってるし(2/5,2/12)、うれしいかぎりです(池葉須明子さん)。
 今年の正月に「カリブ海殺人事件」が放映され、その後もいろいろなポアロ物が放送されたようです。記録をとっていないし、BSはいまだ受信できないので、もうお手上げです。誰か放映リストを記録していたらお知らせ下さい(S)。
■ティー・ラウンジでのブラックコーヒーは不粋でしょうか。といってもこれはアガサ・クリスティのオリジナル戯曲「ブラック・コーヒー」のお話です。何故か戯曲というものを敬遠しがちな私ですが、「ブラック・コーヒー」という題名と文庫本のカバーに描かれた真鍋博のかわいい絵に心を惹かれました。コーヒーに仕掛けた毒殺事件をめぐって夜8時半から翌朝にかけて展開するドラマです。スリルとサスペンスに主役のカップルの献身的な愛情が彩りを添え、そして例によってポアロとヘイスティングスのユーモラスなやりとりが笑いをさそいます。
 少し気どってコーヒーカップ片手に読むのも一興だったのに、と後で思いました。蛇足ですが私は砂糖もクリームもたっぷり入ったまろやかな味のコーヒーが好みです(日名美千子さん)。
■会報をうれしく読ませて頂いています。私も「ねずみとり」を観ました。新参者の私はただ皆様の文章を読むのみですが、同じお考えの方がいらしてうれしくなります。今年も頑張って会報発行、お願いします(浦このみさん)。
■実は、1月に主人の里に戻りまして、(例えがちょっと何ですが)ジェイムズ・シェパードと同業の父のところに、4月からヘンリイ・モーリイと同業の主人が(私にとってはゲイル・ノーマン以上のハンサムです!?)開業し、私は昨年4月に生まれた娘を背中に、グラディス・ネビル兼シーリア・オースティンと同業で、何とかやっておりましたが、父が6月に他界し、何かあっという間に12月という気がいたします。
 ところで、2月に特集された衛星放送の「死者のあやまち」をGWにやっと楽しみに見たのですが、ヘイスティングズとオリバー夫人のキャスティングは、P.ユスチノフのポアロ同様、想像とはまるっきり違いました。キャスティングされたのは、アガサのファンでない方か、あるいは独特のユーモアの持主なのか、判別しかねるところです(中嶋千寿子さん)。
■婦人誌を見ていて、クリスティの名前をくっつけた高価そうな万年筆があるらしいことが分ったので、その関係の切り抜きを同封致しました(泉淑枝さん)。
 切り抜きは”SOPHIA”3月号と5月号で、3月号には特別限定品としてモンブランの「アガサ・クリスティ」という万年筆(8万5千円)とボールペン(4万5千円)が、5月号にはウォーターマンの「レディ・アガサ」という万年筆(3万円)が紹介されています。ウーン、高いなあ(S)。
■4月創刊の”ダ・ヴィンチ”という雑誌があります。創刊2号の”文学カルトクロス”はアガサ・クリスティーでした(旭京子さん)。
 ファンならば答はわかりますが、普通の人にはかなりの難問です(S)。
■それにしても趣味がよく、知的な香りと行動力、エスプリの感じられる女の方が増えたものですね。投稿を拝読してつくづく今昔の感にひたってしまいます(島内三秀さん)。
■大切な事務連絡を。郵便振替の口座番号が変更になりました。今年の5月からですので、今後の会費の振込は新しい口座番号でお願いいたします。新しい口座番号は00190−7−66325です。名称はクリスティ・ファン・クラブで変りません。
■例によりまして今年の正月も映画を観に行きました。当初は「めぐり逢えたら」を予定していたのですが、いまさら恋愛映画でもないし最近は韓国づいているので、結局「月はどっちに出ている」に変更してしまいました。本当に久しぶりの日本映画にもかかわらず、出来がよいので満足できました。特に主演女優ルビー・モレノの関西弁には圧倒されましたが、「噂の真相」(私はこの雑誌が大好きなのです!)によれば、経歴詐称とか。あのような演技も納得!
 「蜘蛛の巣」をご覧になった人は、ぜひ感想をお寄せください。よろしく(S)。

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