ウインタブルック・ハウス通信

クリスティ・ファン・クラブ機関誌

1990.9.15  NO.39

クリスティの十二支(その7)

 「あなたのお友達は人生の希望のすべてを一人の人間にかけていたんです。あなたはそれを知っておられたし、一時はためらいもされたが、しかし、手を引っ込めようとはなさらなかった。そして、バイブルの中の金持の男のように、手をさしのばして、貧しい者のたった一匹の仔羊を奪ったのです」 (『ナイルに死す』、加島詳造訳)

< 目  次 >

◎クリスティのお墓を訪ねて・・・斎藤佐知子・白井節子

◎アガサ・クリスティの秘密?・・・・・・・マーガレット・M・オーソーバ、広田 あき訳

◎4度目の「そして誰もいなくなった」・・・・・・・ミズ映画狂

◎クリスティ症候群患者の告白(その12)・・・・数藤康雄

◎『ミステリー千夜一夜』(クリスティ編、その2)・・ビル・プロンジーニ、槙 千冬訳

◎ティー・ラウンジ


★表紙   高田 雄吉


クリスティのお墓を訪ねて

斎藤 佐知子・白井 節子

 クリスティのお墓を訪ねたファンクラブ員には、浅羽莢子さんや鈴木千佳子さんがいますが(お墓への行き方はよく質問されるので、まだいたかも知れませんが)、今回、また二人が加わりました。斎藤さんは2年前、白井さんは今年の7月というわけです。白井さんは、渡英直前にクリスティのお墓の場所を問い合わせてきたので、そのすこし前に届いた斎藤さんの手紙を直接白井さんに送ったわけですが(僕も忙しい時だったので)、それが次に掲載する手紙です。この手紙の説明の中に地図が入っていれば申し分ないのですが・・・。今後、クリスティのお墓を訪ねる人のために、誰か詳しい地図を描いてくれまさんか(S)。


 2年前の旅行は、一言でいって、推理小説に首までつかった10日間でした。出発前からできるだけそういう方向でと思い、準備はして行ったのですが、多くの偶然のおかげもあって充実して過ごすことができました。最大の目的はクリスティのお墓に行くことだったのですが、宿泊先のホテルがそこへ行くための列車の駅(パディントン)のすぐ近く。駅の見学をしつつ売店で「タイムアウト」(英国版”ぴあ”)を買い、チョルシーまでの時刻表をまず手に入れました。時刻表の見方に慣れていない私は、本数の少なさに驚いてあきらめかけたのですが、これも偶然ちょうどいい列車を見つけ、何とか間に合う時刻に駅へ。これも駅が近いおかげ。

 「この列車でいいの?」と聞いたおばさん二人連れに「ちがう」と言われ、不安を抱えつつも自分の目を信じて乗り込んだインターシティ(だったと思う)。最大の難関は途中の駅での乗り換え。ここでも偶然の女神が微笑んでくれて、たまたま声をかけた女性がチョルシーの人で、事情を説明すると親切に教会までの地図を描いてくれたのです。彼女のおかげで、噂には聞いていた手動式ドアもまごつかず、つたない英語力にもかかわらず、楽しい道中となりました。

 チョルシーまでの車窓は絵に描いたようなイギリスの田園風景。チョルシー駅は工事中のためか、日曜日のためか無人。『名探偵読本』によれば「30分も40分も歩く・・・」とかあったので覚悟していたのですが、途中で木の実の写真を撮ったり、風の音に耳をかたむけたりしながら歩いても、10−15分ほどで教会に着きました。その間、人にはほとんど会わない。聞こえるのは湿気を含んだ風の音と時おり通る車の音だけ。

 クリスティのお墓は、下調べのかいあってか、すぐに見つかり大感激。記念写真。日曜のため教会からは賛美歌が聞こえてきます。終るのを待って中に入ると、神父さん(牧師さん?)が声をかけてくれて、また記念撮影。その時シャッター押してくれたのが、ギター弾きのサイモンさん。しばらくして外に出てきたら、神父さん御夫婦が「今から町(村?)の学校で小さなパーティがあるから、一緒にどお?」と誘ってくれてビックリ! 何のパーティだったのか今だにはっきりわからないのだけど、行ってコーヒーとケーキをご馳走になりました。

 そこでまたラッキーな出来事があり、さっきのサイモンさんが、クリスティの住んでいた家に連れて行ってくれると言うんです! 車でなければ行けないところとあきらめていただけに、英語などブッ飛んでしまうほどの驚喜! もちろん外から見るだけでしたけど、どうお礼をいったらいいのか、わからないぐらいでした。そんなこんなで、大感動してホテルに帰って来たのでした(斎藤)。

*   *   *   *   *   *   *
 斎藤佐知子さんのお手紙をお借りして、住所を頼りに出発4日前に電話をした次第です。多分先方も、突然のことなのでビックリしたとは思いますが、数藤さんからのご好意で手紙をお借りしたこと、これからアガサのお墓参りにいく旨を伝えると、快くその場所を教えてくださいました。もちろん私にとってイギリスは未知の世界、”この駅をおりてこの道を左にいって・・・”などと教えていただいても、現地に着くまではなにかと不安でしたが、何の迷いもなく無事にたどり着くことができました。斎藤さんが2年前に見た風景そのままが、まるでそこだけ時間が止まってしまったように残っていました。

 路線図の写真はパディントン発ケンブリッジ行のインターシティ125に乗り、Readingで乗り換えた電車の中で撮りました(注:載せられませんが、この写真によればCholseyはReadingより4つ目です(S))。この路線の駅はすべて同じホームで統一されていました。Cholseyの駅も、なんとなくまだ建て直したばかり・・・という感じでした。

 日曜の午後だったので教会はとても静かで、私たち一行の他は誰もおらず、安らかな気持ちで、この一瞬を迎えることができました。アガサのお墓はとても立派で、見る人にやすらぎを与えるすばらしいものでした。そして今さらながら、アガサを愛した夫は14歳も年下なのに、アガサが亡くなってまもなく、追うようにこの世を去ったのだと、改めて痛感しました。

 また、墓標を見つめていると、”フッ”と感じるものがありました。なぜ再婚した時に、アガサのペンネームを改名しなかったのか。もちろん有名になりすぎて、途中で変えることができなかったのでしょうが、あれほど2度目の夫に、トリックや舞台も感化されていた彼女が・・・。そして”アガサ・クリスティ”という名前で、死ぬまで作家として生きてきた彼女を見守っていた夫は、非常に辛かったのではないかと・・・。とてもセンチメンタルな気分になりました。

 ロンドンを離れ、スコットランド、パリの旅は同行者にあわせての旅になりましたが、この旅行はとても思いで深いものでした(白井)。


アガサ・クリスティの秘密?

マーガレット・M・オーソーバ

広田 あき訳

 本文は、アメリカのミステリー研究誌"THE ARMCHAIR DETECTIVE"1989年秋季号に載った投書です。投書者はスコットランド、ソーンリーバンクに住む女性であることしかわかりませんが、古い雑誌を読むことが趣味らしいので、ミス・マープルのような女性なのかもしれません。

ポワロのモデルとしては、この他にも、クリスティの伝記にも書かれているように、G.K.チェスタトンが創造したエルキュール・フランボウやロバート・バーのウージェーヌ・ヴァルモンも指摘されているようです(S)。


 申し訳ありません。著作権の関係で全文は載せられません。

 要約すると以下のとおりです。

 著者が月刊雑誌「ザ・ニュー・マガジン」の1909年12月号をパラパラ見ていると、フランス警察を退職してイギリスに住む架空の探偵ポワレ氏ものの、あきらかにシリーズの一作とわかる小説に出会った。著者の名はフランク・ハウエル・エヴァンズで、読み進むうちに、ポワレ探偵が「頭脳を持っているかどうかが肝心なのです」という言い回しを用いていることもわかった。

 アガサ・クリスティのポアロは、このポワレ探偵に触発されて生まれたのではないか? というのが著者の仮説である。


4度目の「そして誰もいなくなった」*

ミズ映画狂

 年間100本以上も映画を観るミズ映画狂さんは、観るだけでは飽きたらず、ついに某芸能プロダクションのオーディションに応募して合格し、新たに俳優業にも意欲を燃やしています。まずは、もっぱら結婚式の司会業だそうですが、銀幕でデビューするのも、そう遠いことではないかもしれません。

 そのミズ映画狂さんの年内の楽しみは「ワーナーの試写室(デラックス!)で、「推定無罪」を観ることです。まだか、まだかと、一日千秋の思いで待っています」とのこと。『推定無罪』はクリスティ的な意外性のある作品です。どんなミステリー映画になるのでしょうか(S)。


 ところで、「そして誰もいなくなった」の4度目の映画化作品の試写を観てきました。「ミステリーの女王アガサ・クリスティー生誕100周年記念映画」と高らかにうたってはいるものの、舞台を無人島からアフリカ広野のサファリ・キャンプに移し、「サファリ殺人事件」という珍妙なタイトルで公開されるこの映画、もしかしたら前作、前々作を上回る駄作では?と、不吉な予感を胸に観にいったのですが、案に相違して地味でスケールには欠けるものの、B級映画としての一定の水準には達している本格ミステリーだったので安心しました。試写状には「豪華キャスト・10大スターの競演」なんて書かれていましたが、これは嘘。正しくは「10大脇役スターの競演」というべきですね。でも、B級ホラーの名脇役ドナルド・プレゼンス(判事ローレンス・ワーグレイヴ役)とか、「ピンク・パンサー」シリーズのハーバート・ロム(マッケンジー将軍役)など、芸達者を揃えているので、さほど失望はしません。特にラストシーンでの法服姿のドナルド・プレゼンスの怪演なんか、なかなかのものです。

 ただひとつの汚点は、フィリップ・ロンバート役を演じるフランク・スタローンが大根で魅力に乏しいこと。この人、なんとシルベスタ・スタローンの弟だそうで、兄さんの筋肉をそぎ取った体に、兄さんを貧相にした顔がのっかっていて、ストーリーが切迫してもニヤけた顔でウロつくだけなので白けます。ベラ・クレイソン役のサラ・モーア・ソープがキュートで好演しているだけに、ロンバート役にも、もう少しイキのいい人を用意して欲しかったなあ、と残念です。

 ストリーは原作にほぼ忠実で、結末は戯曲版と同じ。ちなみに、映画を観終えての試写室の反応は「みんな死んだほうがいい」でした。私も同感です。小説では、まさか、まさかと思ううちに全員が殺されてしまい、最期に残った奴が犯人だぞ、という読者の期待を裏切るところが、素晴らしくもあり不気味でもあるワケですが、戯曲版の結末では、そうした効果が薄められてしまっています。小説の最終章の謎解きを舞台で見せるのは難しいでしょうが、映画では可能な筈。5度目の映画化は、ぜひ小説の結末でやって欲しいですね。

 この映画の製作者は、前作、前々作と同じハリー・アラン・タワーズ。この人、企画にいきずまると「そして誰もいなくなった」のリメイクを思い付く癖があるみたいで、監督を変え、舞台を変えて、とうとう3作も製作してしまいました。考えてみると「そして誰もいなくなった」はクリスティーの戯曲というしっかりした土台があるので、脚本に苦心する必要がなく、出演者も10人だけ。人里離れたさみしい場所に舞台が固定しているのでロケやセットにはお金がかからず、短期間、低予算で撮りあげなばならないB級映画には、おあつらえむきの条件が揃っています。そこに目をつけたこの製作者はエライのかも。プレスシートに「そして誰もいなくなった/最後の映画化!」と書かれていますが、最後の論拠は、シートのスミからスミまで読んでも示されていないので、これから先も、舞台を宇宙船に移し変えた「銀河系殺人事件」、深海に移し変えた「アトランティス殺人事件」、隔離病棟に移し変えた「コレラ殺人事件」なんていう珍作が生産され続ける可能性も大です。

 この映画、東京では晩秋公開の予定ですが、ちいさな劇場でひっそり公開され、あっという間に打ち切られてビデオ化されそう。地方は「エルム街の悪魔」のフレディ役で知られるロバート・イングランド主演の「オペラ座の怪人」との抱合せ公開だそうですが、この二本立を観るには相当な根性を必要としそう。なにしろイングランド扮する怪人は、劇団四季の怪人のような恋にもだえるロマンチストではなくて、人を殺すのが趣味で、夜な夜な人間の生皮を剥いでは、自分の醜い崩れた顔の修理に使っちゃうというとんでもない奴なので(ガストン・ルルーが観たら、何と言うだろう)、スプラッタ臭の強い作品が平気な人以外(私なんぞは平気な一人ですが)、つき合いきれないでしょう。「サファリ殺人事件」は1600円出して大画面で観なければ・・・、というほどの作品ではありませんから、お正月休みにお茶の間でビデオで楽しむなんていうのが、ちょうどよいかも知れません。


クリスティ症候群患者の告白(その12)

数藤 康雄

11月×日 今年はクリスティ生誕百年記念年なので、クリスティに関するさまざまな企画、催しが行われた。一部とはいえ、いくつかの企画に参加したので、忘れないうちに(つまりは、PRなのだが)、ここに書いておこう。

6月×日 『新版アガサ・クリスティー読本』の原稿をやっと早川書房の編集者に手渡したが、正直いって、まとめるのは厳しかった。時間が絶対的に足りなかったからである。

 まず、主要登場人物事典についていえば、会員の人から送られてきた原稿量が多すぎて、バッサバッサと切らなければならなかった。一応、7、8人の登場人物の原稿を百字ほどでお願いしたのだが、考えてみたら、長編だけでも66冊あるから、単純に計算しても、66×8×100/400=132枚になる。そのうえ、ポアロやミス・マープルといった主役級は、百字ではとうてい収めきれない。それを当初は60枚ぐらいに圧縮しようとしたから、無理もいいところ。結局80枚ぐらいに増やしてもらうことにした(もう細かいことは忘れてしまったが)。80枚とすると、短編集も入れてクリスティ作品を70冊とすると、400×80/100/70=4.6人となる。一冊に5人選ぶとし、原則として探偵役、助手、犯人、被害者を優先すると、容疑者(または脇役)は一名しか入らない計算になる。

 といったわけで、一作品4-5人の登場人物を選んだわけだが、困ったのは『オリエント急行の殺人』と『そして誰もいなくなった』だ。前者は容疑者ばかりが12人もいるし、後者は被害者ばかり10人もいる。最初の原稿担当者も困ったようであるが、僕も困った。結局、エイヤッーと半分ばかりを残したが、誰が生き残って、誰が無視されたかは、現物をご覧ください。

 一方、小百科のほうは、項目を一冊につき、20個程度選んでもらった。20×80=1600個である。これを200項目に絞って、各項目につき200字程度の説明を付けることにした(200×200/400=100枚となる)。こちらの方は1600の項目をまず分類し、クリスティ小百科にふさわしい項目を選ぶことから始めなければならない。

 つまり、毒薬とか童謡とかテーマを決めて、選ばれた項目を分類していくわけだが、分類テーマは最初から厳密に決めていたのではないから、分類途中で、もっといい分類テーマに変えた方がいいのではないか、いやそのままでいい、とか考えていると、予想外に時間をくってしまった。そのうえ、選択した項目をB5の原稿用紙に書いてもらったので、数十のテーマに分類するときには大きな部屋でやらないと、このテーマの項目は何処に置けばいいのか、わからなくなる。さらに、途中でやめたくても、そのままの状態で仕事にいくわけにもいかない(家人のくつろぐ場所がなくなる!)。

 このように、小百科の項目選びは大変だったが、なんとか5月の連休中に選択を終り、解説の執筆をファンクラブ員の専門家にお願いすることができた。

 解説は、人物事典とは異なり、一応、一項目200字でお願いしたが、単なる解説では、普通の百科事典と同じなので、必ずどこかにクリスティ作品との関連を書いて欲しいと注文した。例えば、チョコレートの解説には、どこかにポアロの好物といった説明を入れる、という注文である。

 こちらの原稿は、書くべき項目がはっきりしていて、字数も指定したので、大幅なカットはごく一部ですんだが、それでも、小百科の解説には誤りがあると大変なので、ざっと読んであやしい部分はカットし(こちらできちんと調べる時間は無し)、なんとか、締切一週間後に編集者に手渡したわけである。

 それからは、編集者の方が大変だったらしい。例えば、原則として文庫本を用いて主要人物を選択したのだが、文庫本が手近にないときは、ポケミスで代用してもかまわないことにした。ところが、編集者が厳密に調べた結果によれば、翻訳に用いた原書が文庫本とポケミスで違うと(アメリカ版とイギリス版の違い?)、名前の異なる登場人物がいたらしい。事典であるので、正確さが第一に優先する。そのため、改めて人物名の点検が行われたようだ。また、小百科についても、校正段階で、記述に疑問のある場合は、?マークがついて戻ってきた。縁の下の力持ちの仕事はなかなか大変であるのがよくわかった。 出来上がった本は、主要人物事典と小百科で約百頁(全体の1/4ほど)で、結構頑張ったことがわかった。小百科については、クリスティについてのキーワードを選びたいと思っていた。また、人物事典と小百科とも、読んで面白いものをと考えていたが、自画自賛すれば、その何割かは達成したのではないかと思っている。まあうまくいかなかった部分は、すべて時間のなかったため、と逃げることにしよう。

 ところで、発売一ケ月もしないうちに、一応二刷が決まったようである。何とか、赤字にはならなかったようで、まずはメデタシ、メデタシ。

×月×日 7月の「世界・ふしぎ発見」(TBSテレビ)、8月始めの「なるほどザ・ワールド」(フジテレビ)と似たようなクイズ番組で、クリスティを特集していた。前者にはまったく関与していないが、後者については、一応相談を受けた。ただし、テレビのクイズ番組は、「クイズダービー」を例外とすれば、まったく見たことはないので、最終的には何の援助もできなかった。

 7月の「世界・ふしぎ発見」で一点だけ興味深かったのは、1920年代のディクタフォンが登場したことだ。大きなラッパのある蓄音機にそっくりで、テープレコーダでないことはよくわかったが(なにしろ僕は、ディクタフォンをテープレコーダと勘違いしたために、人生を誤ったのだ?!)、どんな再生音が出るのだろうかと興味津々で見ていた。が、テレビに映されたディクタフォンは全然動かなかった。その後、この動かないディクタフォンの真相が偶然わかったのだが、何のことはない、梅田晴夫著『蓄音機の歴史』に載っている蓄音機の写真を見て、外見だけを日本で複製したものだそうだ。これも一種のヤラセか?

×月×日 上述のテレビ関係者と話しているときに質問されたのが、「クリスティ作品の七割には毒薬が登場するそうですが、本当ですか」というもの。これについての顛末は、HMMのクリスティ特集号(10月号)に書いたので繰り返さないが、その原典がわかった。ジュリアン・シモンズとトム・アダムズが書いた(描いた)『アガサ・クリスティー、イラストレーション』(早川書房)である。この本の16頁にシモンズが「アガサ・クリスティーの小説のうち54作で、毒薬が使われている」と書いてあるからだ。クリスティーの長編は66冊だから、長編だけで計算すると54/66=0.82と高すぎるが、短編集も入れると(短編集の短編にはひとつぐらいは、当然毒薬が使われていると考えると)、54/(66+13)=0.68となり、約7割となる。僕の調査では34冊だから、短編を入れて計算しなおすと(34+13)/(66+13)=0.59となり、シモンズの値より低いのだが、まあ、いいでしょう。学術論文ではないのだから。もっとも、僕は毒殺された被害者のいる作品を数えたのだが、シモンズは単に毒薬が登場する作品も含めたのかもしれない。

×月×日 早川ミステリ・マガジンの10月号でクリスティ特集を組むことになり、WH通信傑作選を編むことになる。なるべく多くのファンの原稿を載せて、クリスティ作品を楽しんでいる様子がわかるようにしてほしいとのこと。文章の選択はそれほど迷わなかったが、問題は、全体をどうまとめたらよいか、という点にあった。WH通信は文字通りの小冊子なので、短い文章でもそれなりの存在感があるのだが、HMMの大きさだと1頁に結構な枚数が入るので、小間切れな文章を寄せ集めただけ、という印象を与えてしまう可能性が高い。そこで、苦心の末に”雑誌中雑誌”というスタイルを思い付き、短い文章に適当に解説を入れて、全体をまとめることにした。

 ”たとえるなら、セント・メアリ・ミードやチッピング・クレグホーンの住人が、ロンドンへポッと出て来たのを見る感じ”(某会員の評)で、いささか場違いな雰囲気があったのは事実だが、マスコミ誌上でWH通信を復刻できたのだから、考えたらありがたいものである。新しく会員になられた人はぜひ読んでみてください。

×月×日 思いがけなく、この年末に早川書房からでるクリスティ生誕百年記念のブックレットの翻訳の一部を依頼される。僕のような英語のできない人間にはおかしな話なのだが、原書には写真が一杯載っていて、そのレイアウトは一切変えずに翻訳する必要があり(むこうの注文らしい)、日本文をきちんと計算して翻訳しないと、はみだしてしまう可能性がある。つまり、パソコンかワープロで翻訳している人でないと、無理な注文なのだそうである。そして、生誕百年記念の出版なので、今年中に刊行しないと都合が悪い。必然的に多数の翻訳者に頼まなければならなかったのであろう。誤訳があったら困るが・・・。

×月×日 NHKではこの秋から、大英博物館の展示品を、7回に分けてテレビで放映するという。それに伴って、NHK出版協会では全6巻の”大英博物館展”シリーズを出版するが、何かエッセイを書いて欲しいという依頼を受ける。考古学など全く知らないし、なんで僕などに依頼したのか聞いたところ、『メソポタミアの殺人』の解説を読んだからだという答であった。つまり、編集者の話によると、もともと展示品の解説がほとんどを占める堅い本なので、一本柔らかいエッセイを入れることにしたのだが、適当な人が見つからず、締切ギリギリになって、『メソポタミアの殺人』を読んで、これでいこうと決めたそうなのだ。

 何となく変な話であったが、毎度同じことを書いているので、まあいいか、というわけで、クリスティと2度目の夫マックス・マローワンとの関係を書く。本は10月中旬に発売されたが(第1巻『メソポタミア・文明の発祥』)、考古学者の解説文の中に、エンジニアの雑文が紛れ込んでいるのは、やはり変な感じであった。それにしても、この本といい、前に紹介した翻訳といい(ロンドン大学アッシリア学の名誉教授ワイズマンの文章を訳したので)、おかげで今年は、メソポタミア考古学を即席で、ずいぶん勉強したことになる。

×月×日 ティー・ラウンジに手紙が載っている斎藤さんは、今回のクリスティ生誕百年記念の催しに参加された唯一のクリスティ・ファンクラブ員だが、斎藤さんがトーキー滞在中に購入された"Tobey Herald & Express"を送ってくれた。トーキーの地方紙というか、PR紙のようだが、その9月5、6、8日号は、いずれもクリスティ生誕百年記念の旅行者用増補版で、クリスティやトーキーの古い写真が満載されている。しょせん、新聞の写真なので画質はあまりよくないが、写真そのものは大きいので、迫力は十分。なかなか楽しめる。特に9月8日号は40頁もあり、珍しい写真も多い。次号までには少しは暇になると思うので、もう少し詳しい紹介ができそうだ。

 本当は、斎藤さんにトーキーの催し物について書いてもらいたいのだが、極めて筆の遅い人なので(今号に載せたクリスティ墓参記も2年遅れなのである!)、いつになるのかは不明。斎藤さんを御存知の方は、書くようにと圧力をかけてください。

×月×日 親がそうだからだが、我が娘もミーハーの性格を持っているようだ。ある日、アイドル歌手、工藤静香の絵(二科展に入選)を見たいというので、上野に連れていくことにした。でも念のため、家を出る直前に、美術館に問い合わせると、2週間も前に終了しているという。そこで何の関係もなく、こんどは僕の興味でロセッティ展(ラファエロ前派展)に変更してしまった。絵についてはまったくの素人だが、ロセッティがイギリス世紀末の画家と思っていたので、まあ、クリスティが生まれた頃の雰囲気が楽しめればいいと考えていたからだ。展覧会場の解説文を読むと、世紀末というよりは、19世紀中庸に活躍した画家だそうだが、会場はすいていたので、ゆっくり鑑賞できたのはよかった。娘はさっぱり面白くなかったようだが。

 なお、この他にも、今年はUK90ということで、イギリス芸術があちこちで公開、公演されたが、結局見たのは、この展覧会と大英博物館展、シャーロック・ホームズの部屋の一部(新宿の小田急百貨店)だけであった。

×月×日 ロスアンジェルスに住んでいる小堀さんから、アメリカで放映されたクリスティのドキュメント番組のVTRを送ってもらう。感謝、感激、早速観ることにする。百周年を記念して作られた特別番組である。英語はさっぱりなので、詳しいことはわからないが、内容は、クリスティの人となりを、ジャネット・モーガン、キーティング、グエン・ロビンズ、アン・ハートといった伝記作者や評論家が語ったものである。ただし、それだけでは絵にならないので、映像は、これまでの映画を巧みに組み合せて使用している。興味深いのは、日頃、文章でしか知らない評論家の顔を見たことと、クリスティのインタビューの一部(「ねずみとり」の記念祭)を映しているニュース映画とアマチュアが録音した(盗み録り?)クリスティの声が放映されたこと。この番組は、当初NHKの衛星放送で放映されると言われていたが、著作権の関係で、無理なような噂も聞いている。日本で放送されないと、これは貴重なので大切に保存しないと・・・。

×月×日 そのNHKから、一応の相談を受ける。11月下旬から、衛星放送でクリスティ特集を放映するという。主なものは、"MURDER BY BOOK"の放映らしいが、いかんせん衛星放送受信装置を持ってないので、どうしようもない。ファンの中で観た人は、しっかりレポートをしてください、とお願い。

×月×日 石川県の加賀市に、クリスティの永久展示場ができるそうだ。クリスティがかって住んでいた(今は持主が異なる)ウィンタブルック・ハウス(つまりこの通信の名前になっている家)を完全に複製して、その中にクリスティに関係した本や品物を展示するというもの。国定公園の片隅に建てられるので、風景は申し分のない所らしい。静かにこの企画を進めているクリスティ協会日本支部(という名前になるのかも、はっきりしていないらしいが)の人達とは、ちょっぴり顔合わせをしただけだが、むこうはプリチャード(クリスティの唯一の孫)公認の団体、こちらはプリチャード非公認、モグリのファンクラブ。はたしてどうなるやら・・・。

×月×日 西武系の百貨店でクリスティ展を開くという話を突然聞く(詳しくはティー・ラウンジを参照してください)。僕はその種の派手な催しは大の苦手で、以前の東武百貨店の「ミステリー展」も、たいしたお手伝いはしなかったが、今回も最初から謝ってしまって、相手から頼まれたクリスティの手紙の出展だけで勘弁してもらう。その手紙は、東武の展示会にも出展したものだが、前回見逃した人で、気が向いた人は観に入ってください。

×月×日 それほど期間をおかないで、2つの新聞社から似たようなテーマの原稿依頼がある(枚数もほぼ同じ)。素人評論家としては、似たようなテーマでは、似たようなことしか書けないので、似たようなことを書いたが、プロはどうするのだろう。まあ、こんなことは、あと百年後にしか起こらないので、心配することもないか。

11月×日 クリスティ生誕百年記念の英国のマスコミの扱いについては、英国通の八木谷さんがまとめる予定になっていたが、急な仕事が入り、無理になってしまった。代わりに10月14日号のニューヨーク・タイムズ・ブック・レビューに載った"AGATHA CHRISTIE The Woman and Mysteries"(By Gillian Gill, Free Press,$22.5)の書評のコピーを送ってくれた。評者は、ランポールという弁護士を主人公にしたミステリーを書いているジョン・モーティマー(短編が数編EQに訳されている)。

 その書評によれば(急いで斜め読みしただけなので誤読もありそうだが)、著者のミズ・ギルはハーバード大学で近代文学を教えているイギリス人の学者だが、フェミニストの理論家でもあるそうだ。したがって、この本では、クリスティーのミステリーを文学の観点から、そしてフェミニストの立場から批評しているようだ。

 なんだか、難しそうな本のようである。まだ現物は手元に届いていないのだが、我が英語力で読み切れるだろうか?


『ミステリー千夜一夜』(プロンジーニとミュラー編)に選ばれたクリスティ作品

『そして誰もいなくなった』

ビル・プロンジーニ、槙 千冬訳

 この『ミステリー千夜一夜』には、クリスティの作品が七作選ばれています(WH通信NO.38に8作と書いたのは誤り)。中には、なんで、こんな作品が!というものもありますが、NO.38に載せました『ABC殺人事件』や本作品などは異論の無いところでしょう。ただし、評価は*印一つなので(**が里程標的な作品、*は特に注目すべき作品)、こちらは異論はあると言うべきか?(S)。


 申し訳ありません。著作権の関係で訳文は載せられません。


ティー・ラウンジ

■とうとう念願だったTorqueyにやって来ました。観光地だけあって人はたくさんいますが、さすがに日本人は見かけません。今、クリスティー生誕百年記念フェスティバルの真っ最中で、毎日、映画やらお芝居やらが上演され、記念公演会が催され、明日(15日)はオリエント急行がやって来るそうです。できるものなら、そういった催しすべてに参加したいのですが、そうもいかないので、とりあえず明日の夕方"Spider's Web"というお芝居を見に行くことにしました。英語はわからないけど、どんな人達が英国のクリスティ・ファンなのか見てこようと思っています。また、Museumではクリスティ特別展をやっているそうなので、それも行く予定。今日はTorre AbbeyのChristie Memorial Roomを見てきましたので、いつかまた(いつかなぁ・・!?)内容などをお知らせします・・・なんて(斎藤佐知子さん)。

■さて、英国旅行中(7月中らしい(S))、半日だけトーキーに立ち寄りました。インフォメーション・センターやちょっとしたお店の中にもクリスティのペイパーバックのコーナーがあって、さすが、と思ったのですが、かんじんのフェスティバルに関しては、まだ時期が早すぎるせいか、例の「くもの巣」の舞台ポスター一枚を除いては、ほとんどなにも宣伝を見かけませんでした。

 トーキーの街自体も本当に現代風に変っているようで、例の数藤さんもご覧になった映画『サマーストーリー』のロケが、トーキーではできなかったというわけも納得できました。正直言って日本の熱海などの観光地とあまり大差ない気もします。もっともわたしがうろうろしたのは遊歩道と観光客用ショッピング街のあたりだけなので、本当のトーキーを知るには、もっと海から離れた住宅街の方を探検してみないといけないのかもしれませんが(八木谷涼子さん)

■先日(9月10日)新潮文化講演会「生誕100年のクリスティ」(都筑道夫氏)を聞きました。残念ながら余り新しいことはありませんでした。作品内容はほとんど覚えていない、『オリエント』にも『アクロイド』にも先例があるが、トリックの独創性は問題でない、人物にオリジナリティーがある、風景描写が少ないので「文字で絵を描く」氏のやり方とは違っているので、余り好きではない、というような点が印象に残りました(原岡望さん)

■今日『クリスティー読本』をいただきました。なかなかシブイこしらえですね。わがクリスティ・ファンクラブも晴れて(?)市民権を得たようで、めでたし、めでたし。人物事典、小百科とも、結構おもしろくて、読み始めたら全部読んでしまいました(杉みき子さん)

■”WHA”39号ありがとうございました。POSTCARDを中心に楽しいものができましたね。高田雄吉画伯は元気にしているのでしょうか。ずいぶん長く会っていないのです。イギリスのさる古本屋のカタログでクリスティの短編集"The Hound of Death"と"Murder at the Mews"を入手しました。古いハードカヴァー本ですが、Collinsではなくて、ODHAMS PRESS Limitedというところから出たもの。出版年が入っていません(青木零さん)

■新聞にハヤカワ文庫のアガサ・クリスティ生誕百年記念フェアの広告が載っていました。全85点の作品一つ一つ見ているうちに、にわかに青春がよみがえってきました。私とクリスティの出会いは高一の時ですから、15年位前になります。クリスティ・ファンの友人から『ビッグ4』を借りたのが始まりでした。担任(国語)の先生から、もっと日本の古典を読みなさいと注意をされつつ、クリスティに夢中でした。クラブの旅行で北海道へ行った時、電車の中で読んだ『オリエント急行の殺人』。文化祭では、3人の友達と『杉の柩』のパロディをビデオで作りました。クリスティの本を思い出す時、必ず楽しかった高校時代が重なります(金井裕子さん)。

■WH通信39号のP16のばらの騎士はリチャードではなく、リヒャルト・シュトラウスだと思いますが・・・(中村伸子さん)。音楽は苦手で・・(S)。

■毎週水曜日に「名探偵ポアロ」をNHKで放映しています。それなりに楽しんでいますが、映像化された推理物で、あまり満足できる作品に巡り合えたことがありません。特にクリスティ作品は期待しすぎるためか、良い作品が少ない気がします。私見ですが、松本清張の『砂の器』は原作を越えた最高傑作だと思います。清張の作品は映画の方が原作よりもはるかに面白いと思います(古河秀樹さん)。

■おそらく知ってらっしゃると思いますが、今月(10月)25日より、名古屋パルコにおいて「クリスティ展」が開催されます。中日新聞のコピーを同封いたします。名古屋パルコに電話して、「クリスティ・ファンクラブの会員」と申しましたら、割引券を送ってくれるとのことでした(旭京子さん)。

この展示会は、名古屋パルコでは10月25日より11月13日まで、東京(西武百貨店船橋店)では12月4日より12月27日まで、大阪(西武百貨店八尾店)では1月2日より2月3日まで開催されます。窓口で、クリスティ・ファンクラブの会員です、といっても絶対に(?)割引はありません。念のため!(S)。

■パルコでの展示会、さっそく見に行って来ました。作家の展示会は画家の展覧会と違って演出が非常に難しいのではと思っていました。案の定と言うべきか、感動を受けるほどのものは、ほとんどありませんでした。目を引いたのは、未公開写真、タイプライター、数藤さんへの手紙などです。人形造形、模型などは、あまり成功しているとは言えませんでした。

 でも僕が一番うれしく思った出来事があったんです。入場者の中の一人の女性が「少女の頃のアガサ」の写真を見て、こう言ったのです。「うゎぁ かわいい!! これクリスティなの? すごくかわいい!!」。僕は思わず、ほくそえんでしまいました。まるで自分の彼女をほめられたような気分でした。そのアガサの写真は、まさに芸術写真と言っていいほどすばらしい出来です。写真館で撮ったのでしょうか?僕も初めて見たときから(12年ぐらい前かな)すっかり惚れ込んでしまって、例のイラストにも描き込んだわけです。というわけで、この展示会では、アガサの写真の魅力を再確認することになりました(冨田哲さん)。

 今号に付録として同封しました絵はがきは、その冨田さんの力作です(S)。

■それにしても、「茶色の服の男」のビデオ、ひどいものですね。あんな物であるなら、作ってくれなかった方が良かった。それにひきかえ、英国のBBCビデオの「予告殺人」、「書斎の死体」、「ポケットにライ麦を」は大変楽しめました。高いビデオでしたが、その価値は充分あると思いました。ヒッチコックの「ハリーの災難」と「ロープ」も、何度も観ています。ヒッチコックって、老嬢の扱いがうまいと思いました。「ハリーの災難」のオールド・ミス、「ロープ」の家政婦、「裏窓」のミス・ロンリー・ハーツ、「知りすぎていた男」のドレイト夫人等々・・・。旅行に行きたい、行きたい病の私ですが、やっぱり今年の夏も、読書と映画とビデオで終りそうです(庵原直子さん)。

■この度、ホテル、センチュリーで行われたミステリアス・ナイトという催し物に行ってきました。推理小説好きの会の一員として特派員になったつもりで楽しんできました。どういう催しかといいますと、まず推理劇を観ます。あわや解決かというときに、劇は翌朝に持ち越されます。夜の間にホテル内のあちこちに散らばった手掛かり(ほとんど暗号文です)を元に犯人を当てて投書箱に書き入れます。見事犯人を当てた人には、すばらしい賞品が授与されるというわけです。マニアを自負する私は、簡単なことといい気になっていたのですが、結果は惨敗。本格推理に慣れすぎて、連続殺人イコール同一犯というパターンにとらわれ、共通の動機を見つけようとして苦労しました。お粗末な筋立てで(負け惜しみ?)、作者はこんなドラマを書いて恥ずかしくないのかしらと思い、アガサ・クリスティに対する尊敬の念がますます強くなりました。でも結構楽しめるので、生誕100年を記念してこんな企画ができるといいなと思います(粟田千和子さん)。

■こちら(ロスアンジェルス)で放映されたデビッド・スーシェのポアロでは、ダイアナ・リグがホステスとして登場し、ドラマの前後にクリスティに関するエピソードを話したり、関係者、例えば孫のマシュー・プリチャードがビデオで登場したりという部分がありましたが、日本での放送分ではいかかでしたか?(小堀久子さん)。

■『アガサ・クリスティー読本』は充実した内容で、あちこち拾い読みをしてゆっくりと楽しんでいます。人物事典、小百科事典の自分の担当箇所を探し出して、もう一度読み返したりしています。私個人にとりましても、クリスティー生誕百年に関わりを持つことができ、こうして立派な本になり、いい思い出となりました。ちょっと気になったのは、帯の「犯人以外はすべてわかる本」というコピーで、かっての会社の先輩、瀬戸川氏のエッセイを読むと『アクロイド殺し』の犯人はわかる仕組みになっています。もちろん『アガサ・クリスティー読本』を読むような人は、『アクロイド殺し』はとうに読んでいるでしょうが。まあ、他にも犯人をバラしている箇所がないか、大きな楽しみを持って読むつもりでおります(新坂純一さん)。

 犯人がわかる作品が何冊かあります 。オビは嘘つき?(S)。

■記念絵はがき、ありがとうございました。なかなかムードが出ていたんじゃありません? でも同居人は、こんなん、知ってる人(クリスティ・ファン)にしか送られへんで、知らん人が見たって何のことかわからん、とホザいておりますが、”ムシ”であります(川本敬子さん)。

■ポアロさんの絵はがきがとてもCUTEで気に入っています。ずいぶんと軽い言葉ですが、一番合っていると思ったので・・(谷津真理子さん)。

■絵はがき、すてきです。ポアロのまあ何とカワユイこと。キャラクター人形に作りたいようです(怒られるかな?)。風景の方は、クリスティとハンニバルでしょうか? なんともいえぬ30年代的情感が伝わってきます。右の木立がなんだか隠し絵的に見えたので、いろいろと角度を変えて見ましたが、これはどうやら深読みすぎたらしい(杉みき子さん)。

■絵葉書にはびっくりしましたが、早速使わせて頂いています。ポアロのデザインのほうは、特にもらった友人が一瞬「?」という顔になるところが眼に浮かぶようです。今年は十年来入れ込んでいるセイヤーズのピーター・ウィムジイ卿生誕百年とあって、イギリスに行きたし暇はなしの私は、セイヤーズ協会主催のさまざまな行事を横目で見ながら仕事にいそしむしかなかったのですが、クリスティ関連の行事もどれも行けそうもなく、口惜しさはつのるばかりです(浅羽莢子さん)。

■私には、いつか、クリスティの作品によるイメージアートを描きたいという夢があります。子供達が大きくなって、ヒマができたら絶対やりたい・・・。ま、当分は読み返したり、資料を集めをするのが精一杯ですが。作品にでてくる小物や風景、衣装など、参考文献(できたら絵か写真)を御存知でしたら、ぜひ教えて下さい(鈴木千佳子さん)。

 この辺りは、僕の弱いところで・・・(S)。

■NHK・TVのポアロ再登場篇を、今見たところです。杉みき子さんの言われるように熊倉一雄の声も慣れるとあれで結構と思いますが、体型も熊倉一雄は近いのではなかったでしょうか。体型が近いと声も似てくるというのは、実際そうだと思うのですが、皆さんにはやはり違和感があるのでしょうか。NHKも体型で人選したかもしれませんよ・・・というのはムリカナ?(大野義昌さん)。

■今までいろいろな役者さんがポアロ役をやってきましたけど(もちろん、みんな良かったです)、NHKで放送したTVシリーズのポアロさんが一番好きです。”モナミ、ヘイスティングズ”というセリフ、一番やさしく聞こえたような気がして。私、事件の内容はもちろん気になりますが、あのコンビの会話がとっても好きなものでして・・・。ぜひ、ゴルフ場殺人事件を作ってほしい! ヘイスティングズとポアロの親子のような関係が気に入っているのです(橋本弥佐さん)。

■過日、銀座イエナを久しぶりに覗いた時、H・R・F・キーティングのTHE BEDSIDE COMPANION TO CRIMEという本があり、内容を見たところ結構クリスティのことが書いてあったので、つい買ってしまいました。第10章から始まり、第1章まで減っていくという洒落た構成になっています。最初が「10 LITTLE-WELL,TEN LITTLE WHATS?」で、第1章の後には「AND THEN THERE WERE NONE」という章が続きます(田中茂樹さん)。

■確かに凄い乱丁、過激な誤植。まるで初期のポケミスみたい。でも、ちゃんと読めますよ。私の通信の「ハロー・ムービー」が「パー・ムービー」になっているのには笑ってしまった。かなりパーな番組ですから、「パー・ムービー」でも構わないみたい。この号で一番楽しめたのは、阿部純子さんの「ミステリマガジン閑話二題」。同感だなと。年2回機関誌を発行するだけで、会うこともなく、静かに老いていく私たちのまるで「バベットの晩餐会」(いい映画です。機会があったら、ぜひご覧を・・)の世界だ。私もこのクラブの清らかさに誇りを感じています(泉淑枝さん)。

■高田さん、八木谷さんのせっかくのイラストで、レターセットも作りませんか? といっても誰かが作ってくれたら、ワシャ嬉しいですけど。確か東急ハンズあたりなら、ちょっと割高だけど、絵をもっていって字を指定すれば、個人名の入ったのが作れたような気がします。あるいは便箋とかシールとか。

 また、個人ラベルのワインを入手する方法があります。中味は白、赤一種ずつ。1本1300円で、ずいぶんお徳と思いました。<生誕百年記念ワイン>をファンクラブ会員だけ用に作りませんか? ラベルの絵柄は、もちろん赤は高田さんの、白は八木谷さんの、という手もありますね(海保なをみさん)。

■早川書房で出している文庫本を全部読んでしまうと、今度は二度、三度と読み返しました。子供には、犯人のわかっている推理小説をよう読むなあ、と呆れられています。本屋さんのご主人にも顔を覚えられてしまい、これで揃いましたかといわれ、なんだかいい年をしてと思うと、気恥ずかしいところでした。でも、ウィンタブルック・ハウス通信を読んで、私なぞまだまだと思いました(関根由紀子さん)。

■本の雑誌1990年11月号は「翻訳の特集」になっています。ちょっと面白かったのは、その中で、読者アンケートがあり(あなたの好きな外国作家3人の名前を好きな順に順位をつけて書いて下さい、というアンケート)、その結果です。集計は1位9点、2位6点、3位4点というポイント制で行われ、約800通のはがきが届いたそうです。なんと、1位はL・M・モンゴメリ(『赤毛のアン』シリーズでお馴染み)で630点。2位は堂々の我がクリスティ、456点。3位はJ・D・サリンジャー、414点、4位はD・フランシス、391点、5位はJ・アーヴィング、378点。この雑誌は本好きの若者に人気があるので、さすがに若者に好まれる作家が上位にいますが、クリスティも予想以上に頑張っていて、うれしくなります(S)。

■今回同封しました絵はがきは、このティー・ラウンジにも登場しています冨田さんの寄付によるものです。したがって、前回のように不要の場合は送り返してください、などどいうことはありません。冨田さんは、前回の生誕百年記念の絵はがきに触発されて、今回の絵はがきを作ったそうです。

 このファンクラブの活動は、年2回機関誌を送ることだけです。したがって、ファンクラブ員のお名前と住所は知っていますが、それ以上の情報は、封筒から推理できることを除くと、すべて自己申告によります。冨田さんはフリーのイラストレータだそうで、なるほど、素晴らしい絵はがきが出来るわけだと納得しました(S)。

■『クリスティー読本』の原稿整理が大変で、前号は、大急ぎの編集、版下作りとなり、結果として校正ミスが多く、この校正ミスの悪影響か、製本も乱丁になってしまいました。印刷屋さんはやり直すといってくれましたが、一応読めるので(多少とも資源の節約になる?)、そのままで発送しました。送られた冊子だけではなく、すべてが乱丁本ですので、変更はできません。ご了承下さい。

■今期は、僕の告白をお読みいただければわかりますように、いろいろと雑用が入ってしまい、区切りのいい40号なのに、特別の編集などできませんでした。幸い、前回は絵はがきを付録に付けたので、その反響が大きく、多くのお手紙をもらいました。そのお手紙で、久しぶりにティー・ラウンジのスペースをたっぷりとってみました(陰の声によれば、大急ぎで紙面を埋めるには、これ以上の有効な手段が思い浮かばなかったわけだが・・・)(S)。

■まだこのティー・ラウンジが埋まりません。そこで、「クリスティ症候群患者の告白」で書き漏らしたことをひとつ付け加えておきます。『新版クリスティー読本』の中には、僕の「中近東のクリスティー」という文庫本の解説が再録されたのですが、かなり昔に書いた文章なので、古い情報しか入っていません。手直ししようかなと思ったのですが、手直しを始めるときりがなくなりそうなので、結局、一箇所だけの訂正でやめました。訂正した箇所は、クリスティとマローワンが再婚した時の年齢差を13歳から14歳に変えたことです。文庫本の解説を書いた時は、マローワンは1903年生まれだと勘違いしていましたが、改めてチェックしてみると、1904年5月6日生まれでした。ただし、クリスティとマローワンの結婚は1930年9月11日で、厳密にいえばクリスティの年齢は39歳11カ月26日となり、二人の年齢差は、純数学的には13歳となります。というわけで、そのまま13歳にしようかとも思ったのですが、世間の常識では、このような場合は14歳とするそうなので、秘かに訂正しました。数字をたった一つ直すだけでも、結構悩むものです(S)。

■最初の頁に載せていますクリスティの十二支は、今号で羊まできました。やっと半分を過ぎたところですが、福間多満さんのお手紙を参考にして、文章を選んでいます。こういう文章は、急いで探そうとしても見つかるものではありません。

 この12月には、東京地区では千葉の船橋でクリスティ展が開かれますし、年間ベスト・ミステリーを選ぶために読み残しの作品を読まねばならないし、さらに家族サービス旅行もあるというわけで、今号の発送は、早ければ12月28日頃、遅いと大晦日になりそうです。クリスマスに間に合わせるのは無理かと思いますが、代わりに今回のクリスマスは、クリスティ生誕百年記念本でお祝いをしてください(と最後までしぶとくPR)。では、謹賀新年。


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☆編集者:数藤康雄  〒188      ☆ 発行日 :1990.12.24
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