ブレナム宮殿(Blenheim Palace)とオックスフォード散策
(4日目)
 吉田明子

 今日の予定は、ミス・マーブルが三度訪れたOxford郊外のブレナム宮殿を見ることと、その後Oxford市街に戻り、昨日見学できなかったクライスト・チャーチ(Christ Church)を見ることである。
 「一行はある気持ちのいい河畔のホテルに昼食のため立ち寄って、午後はブレナム見物に出かけた。ミス・マープルは以前にもう二度もブレナムには来たことがあるので、屋内見物の量を減らして足を休め、早々に庭園と美しい風景を楽しむために出てきた」(乾信一郎訳)。これは『復讐の女神』の中で、マープルがブレナム宮殿を訪れる場面である。マープルは旧友ジェースン・ラフィール(『カリブ海の秘密』で事件の解決に協力した)の遺言で、ある犯罪の真相を明らかにするよう依頼される。そして捜査すべき犯罪が何なのかまったく知らされないまま、「大英国の著名邸宅と庭園めぐり」のバス旅行に参加する。ブレナム宮殿は、他の参加者15人と共にツアーの初日に訪れた場所なのである。
 ブレナム宮殿は、初代マールバラ公爵(チャーチル元首相やダイアナ妃の先祖に当たる)が1704年の「ブレナムの戦い」で優秀な戦果を収めた褒美に、当時のアン女王から土地と建築費用を賜ったのが始まりとされる。王室関連以外ではイギリス最大の邸宅で、英国随一のバロック建築の傑作として世界文化遺産にも登録されている。
 10時30分の開館に合わせ、9時20分にホテルを出発。St Margarets Road Eastの停留所からバスに乗る。約35分でブレナム宮殿のメイン・ゲート前に到着。ゲートを入ると正面に宮殿が見えるが、思いのほか遠くてなかなか辿り着かない。敷地内には広い駐車場が数か所あり、私たちが歩いていく脇を車がすり抜けていく。
 開館を待って切符(25£/人、約3500円)を購入し、正面の門を迂回して宮殿に入場。入口で日本語のオーディオ・ガイダンスとヘッドフォンを受け取る。グレート・ホール、大広間、客間などの豪華な絵画や調度品の数々を堪能した後、続いてチャーチル元首相の常設展へ。
 こちらは没後50周年を記念して2015年に公開されたもの。出生の部屋や結婚にまつわるエピソードの展示などを見る。奥さんのクレメンタインについては、「私の業績の中で最も輝かしいことは、妻を説得して私との結婚に同意させたことである」という言葉が残されており、その仲睦まじさがうかがわれる。
 1時間余り堪能したあと、宮殿内のウォーター・テラスに面したWater Terrace Caféで昼食をとりつつ、これからの予定を相談する。広大な庭園を全部巡るには半日はかかりそうであるが、45分から2時間までの4つの散策コースが用意されている。後ろが詰まっているため、14:30にショップ集合と決める。


ウォーターテラスから宮殿を望む
 2時間コースを選んだ数藤さんは、一足先に出発。ゆっくり楽しみたい女性4人は12:50頃出発。ウォーター・テラスからの宮殿の美観を楽しみ、勝利の柱を正面に見ながら湖にかかるヴァンプラの大橋を渡る。橋の上からクイーン・プールを望むと、水辺に映画「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」に登場した木のほこらを発見。近くで見るべく水辺に下りる。この木は「レバノン杉」といい、レバノンやシリアの高地が原産のマツ科の常緑樹。大規模な伐採により、現在は絶滅危惧植物に指定されている。野生動物が水を飲みにやってくるのか、あちこちに動物たちのフンが落ちている。
 水辺から見た宮殿の景色が美しく、しばらく堪能。庭園の好きなマープルが見たであろうイタリア式庭園やローズ・ガーデンに思いを馳せつつ、ショップに向かう。戻ってきた数藤さんと合流し、宮殿を後にする。

クイーン・プールからブレナム宮殿を望む
 14:46発のバスでOxfordに向かい、無事Christ Churchに入館。Oxford最大規模のカレッジで、1546年ヘンリー8世によって創設された。歴代10人以上の首相を輩出しており、『不思議の国のアリス』の著者ルイス・キャロルも卒業生である。
 まず、カレッジ・ホールを見学。中に入ると、木製の長テーブルが目を引く。ハリー・ポッターの映画で、ホグワーツ魔法魔術学校の大広間のモデルとなった所。現在も学生や教授の食堂として使われているらしい。壁には多数の肖像画が掛けられている。中庭に出て、中央に塔のある建物全体の景観を眺め、続いて大聖堂に入る。美しい祭壇やステンドグラスが目を引く。ちょうど説教が行われていて、しばし耳を傾ける。

クライスト・チャーチのカレッジ・ホール
 Christ Churchを16時15分に出て、令和天皇が留学されていたマートン・カレッジの前を通り、High St.に入って、テムズ川にかかるマグダレン橋まで足を延ばす。テムズ川にはパント船(船遊び用の平底の小さな船)がたくさん繋がれていた。残念ながら水はかなり汚い。明日のWallingford散策で目にするであろうきれいなテムズ川に期待する。足の疲れを感じつつ、10分ほど歩き、「Quod Restaurant & Bar」で夕食をいただく。ステーキやサバ料理などを各自注文。どれも美味しかった。店の前から5人乗りのタクシーでホテルへ。明日のテムズ川散策に向け英気を養うべく、早めに就寝する。

テムズ川に浮かぶパント船(マグダレン橋より)

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