クリスティのお墓からウィンタブルック・ハウスを経てテムズ川散策へ(8日目:チョルジー班)   蓮田あき

 Paddington駅を定刻9時27分に出発。途中Readingで列車の切り離しを乗客から知らされ、大慌てで車両を移動したり、車掌が下車駅まではあと2駅と言っていたのに、その直後に下車駅Cholseyに停車。またまた大慌てで声を掛け合い、列車の開いたドアを脚で押さえて飛び降りる……などドタバタがあったものの、全員無事にホームに降り立つ(10:45)。
 準備万端でクリスティのお墓のあるSt. Mary's Churchに向けて出発した(10:55)。天気もよく、道のりは前回より近く感じて到着(11:15)。墓石はきれいになって、文字が読みやすい。犬の散歩の方にカメラのシャッターをお願いする。


教会の案内板                       訪れた時のお墓

 一路ウィンタブルック・ハウスへ(11:30)。読むと行ってみたくなるように、詳しく書いてみる。
 まず駅から来たChurch Roadを戻って3差路をWallingford Roadに入り、住宅街とパブRed Lionを過ぎると(11:38)、両側に農地が広がり、とげのあるブラックベリーやローズヒップの付いたバラの2メートルほどの高さの生け垣が続く。車が高速道路のようなスピードで通り過ぎるのを気にしながら、生垣沿いの長い直線の歩道を歩いた。Winterbrook Roundabout(環状交差路) (12:02)で、右から左へ回り込みながらReading Roadに入り直進(12:03)、右側に渡って進んで、横にブルー・プラークが付いた白いドアの上にWinterbrook Houseの文字を発見した(12:13)。


ウィンタブルックの標識                  ウィンタブルック・ハウスの全景


ウィンタブルック・ハウスの玄関(右側はブルー・プラーク)

 建物の左翼の工事中の足場と木々に邪魔されて、全体が見渡せない。鉄の門扉は人が出入りするだけの片開きで、数藤さんは「マローワンが車を使っていたはずなのに」と別の入り口を捜していらした。写真でよく見る大屋根のイメージを求めてそのまま真っ直ぐ進み、テムズ川側に回る。フットパスの看板Thames Pathを右折し(12:22)、木立をぬけテムズ川に到着した(12:29)。
 船着き場のテーブルベンチで、行き交うボートを眺めながら昼食(12:35)。対岸には馬が放牧され、10〜15分間隔で小振りなクルーザーが通る。そのほとんどが優雅なリタイア生活の高齢者カップルのようだ。そこからは川に沿って歩く(12:51)。フットパスは川沿いの1メートル幅の芝道で、ところどころに設置されたアルミの1枚扉やU字型の囲いの付いたキッシング・ゲートのラッチを開け閉めしながら進む。途中これぞWinterbrook Houseかと思われる建物が右手遠くに見え(12:58)ワクワクしたものの、向かいから来る男性に尋ねるともっと手前だと言われ、通り過ぎた幅広の横道まで引き返す。入ってみたかったが、先にチェーンが張ってあり諦めた。
 帰国後グーグルで調べた方によると、この道がWinterbrook Houseに通じる可能性が高いとのこと。クリスティがマローワンとテムズ川の散歩に利用した道だったのだろうか。さらに進むと川幅も広くなり、荒れた牧草地が広がる(13:03)。対岸に古ぼけた大きなボート小屋が見え、「主任警部モース」の一場面を思い出す。巨大な柳の木も点在し、対岸は絵になる風景が続く (13:15)。


テムズ川側への標識                      テムズ川沿いの柳


テムズ川の光景

 Suto ウォーク隊にだいぶ遅れを取っていたが、岸辺のベンチで小休止をとった(13:30)。来た道から現れた飼い主と一緒に歩いていた2頭の犬が目の前の川に飛び込みさっと水浴びをして先に行ってしまった飼い主をすばやく追いかけていった。
 さて出発と歩き出し、牧草が広がる道を進むと、体格の良い女性二人が前方で何か摘んでいる。布ナフキンを敷いた大きなカゴ(ガーデントラップ)には今日、何度となく見かけた2センチほど紫の実が一杯入っている。「シロップ漬けやジンにつけるdamsonよ、ちょっとsourだけど」と言いながら一粒くれたが、渋が口いっぱい広がって吐き出してしまい、大笑いされた。写真を撮らせて貰い、お礼を言って先に進んだが(13:46)、何故か「damsonとgin」の響きが頭から離れない。
 川幅もさらに広がり背丈程の枯れかかった草地を進んでいくと、一段低い位置からこちらを向いている数藤さんの姿。2年前はお墓参りから直接来たテムズ川のほとりだ (13:58)。写真を撮り休憩し、帰りはテムズ川を背にしてFerry LaneをCholsey駅に向けて歩く(14:05)。Reading Roadを横切りPapist Wayを暫く進むと見覚えのある緑の蒸気機関車の絵の看板が目に入る。


パブThe Morning Star

 2年前に寄ったパブThe Morning Starだ。「ここでしたね」と数藤さんが常連客の足取りで扉を開け(14:17)、さっさとビールの注文をすると店の主人は前回も聞いた「No food on Monday」といいながらビールをグラスに注いでいる。メンバーの一人が「前来たときも月曜日だったので知っているわよ」と言うと、パブの主人がニコニコしながら「君たちのこと覚えているよ」と言ったのでビックリ仰天。覚えていてくれていた嬉しさで疲れも何処かへ飛んでいってしまった……。アップル・ソーダや炭酸飲料で喉を潤した後、パブの主人も一緒に記念の1枚。1パイントのビールを飲み始めたばかりの男性客にカメラを渡すと、体は揺れカメラは斜め、シャッターを押す指先は細かく上下に揺れ、いつシャッターを押したかも分からない。その客に頼んでよいかと聞いたとき、店主がちょっとためらった理由が分った。
 Cholsey駅に着くと(14:56)、15時08分の電車は信号トラブルで遅れるとの表示。幸い4分の遅れで発車、ほぼ定刻で終点Paddington駅に着いた。車中での"本日のトレッキング万歩計クイズ"の正解は、誰も予想しなかった「21000歩!」。前回はクリスティの生まれたトーキー訪問、そして今回は亡くなったウィンタブルック・ハウスを見て、感動の旅の締めくくりが出来た。
 テムズ川パスで出会った人8名、犬5頭、牛2頭、馬2頭(対岸)、白鳥1羽、クルーザー多数、ナローボート2艘、レガッタ用エイト1艘、植物はオニナベナ、マツムシソウ、西洋オオバコ、センノウ、ノコギリソウ、シラヤマギク、アカバナ、スノーベリー、ミソハギなど。「damson とgin」は帰宅して調べたら『牧師館の殺人』13章でプライスリドレイ夫人が気付けに飲み、14章でデニスが笑いのネタにしたdamson ginだった。道端で何度も見た実がdamsonと教えて貰えた奇跡的な出会いはクリスティの演出? いやプレゼントかもしれない。
 夕食はホテルで一休みした後、3名でPaddington 駅そばのレバノン料理Ya Halaへ(トリップ・アドバイサーで星4.5)。役割分担の夕食の検索中に見つけたが、一般的でないと却下したお店だ。豆ペーストを薄いピタにつけて食べるフムス。レンズ豆のスープ。そして肉のトマトとにんにくあっさり煮込み、細かく切った山盛りのサラダ、ほんのり味のついた長粒米のご飯とポテトが一皿に盛られ、さらにオススメのミントと生姜のドリンク。当然アルコールはない。「オイシイ」「オイシイ」を連発し、胃に優しく、今までのこってりしたイギリス料理をすっかり中和してくれたC級グルメだった。


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