バー島からサルコムまで(4日目後半)   木村仁

 午前中、我々の行く手をはばんでいたイギリス海峡(のほんの一部ですが)は、今や砂地と化しているのでありました。対岸まで歩くにはまだ早いかなと、頂上から少し降りたところでひと休みをする。
 正午はとっくに過ぎており、そろそろお腹がすいてきた。事前の計画では、昼食の選択肢は三つあった。一つはバー島唯一の食事処「Pilchard Inn」。ネットでの評判はすこぶる良くないし、トイレの件もあって、先ずここは除外。となると選択肢は対岸の駐車場にある「Venus Cafe」か、その上にある「The Bay View Cafe and Bistro」である。島に渡る前の印象から、眺めがよくてメニューも多い後者ということに決まる。
 島と本土との距離は約 200m。見る見るうちに、映画「十戒」のように潮が引いていくではないか。午前中、島と本土を隔てていた海水はほとんどなくなった。対岸から島に向かって歩き出した人たちもいる。さあ、そろそろ渡るとするか。海岸まで降りると、数藤さんは履いている靴のまま、さっさと対岸にむかって歩き始めた。数人がそれに続く。ちょと、待って。せっかく持参したビーチサンダルはどうする。ここで使わなくては、いつ使うのだ! ということで、ビーサン(ビーチサンダル略称)に履き替える。先行の"靴"組は、濡れないようにと4WD車の轍(わだち)の跡を黙々と歩いていく。"ビーサン"組は、海水をたっぷりふくんだ砂を踏みしめながら、素足にイギリス海峡と大ブリテン島の大地をしっかりと感じて、対岸を目指す(註:"靴"組は、数藤、中田、井口、野村、川本の5名。"ビーサン"組は永嶋、蓮田、清水、戸塚、竹村、木村の6名であった)。


バー島からビーサンで脱出する参加者たち

 そうこうして、無事に本土にたどり着く。早速、昼食。「The Bay View Cafe and Bistro」の外にあるテーブルに2つに分かれて座る。それぞれサンドイッチを2種類位注文して、シェアする。
 井口さんのコメントです。「チーズ・サンドイッチはシュレッド・チーズ(よくスーパーでピザ用チーズとして袋入りで売っている)を食パンにはさんだだけ。パン、チーズともに不味いわけではないが、調理途中としか思えない代もの。チーズは薄くスライスして塩コショウ、または軽くトーストして溶かしたら良かったのではと。マヨラーではないが、"Give me Q.P. mayonnaise, Please"と思いました」。


The Bay View Cafe and Bistro                ビストロからの眺め

 すっかり陸続きになったバー島を眺めながら、食事をしたのであった。食事が終わると、予定より1時間ほど早いがホテルに移動することに。駐車場で休憩中の運転手さんに交渉して、14時10分に出発。
 宿泊は日本のガイドブックには載っていないSalcombeという町である。 Salcombeはデヴォン州の南の海辺にある。『ゼロ時間へ』の舞台ソルトクリークのモデルと言われている。Kingsbridge河口をはさむ両側の小高い丘の中腹に、ホテルや家が建ち並ぶ美しい町である。入江にはヨットがたくさん浮かんでいる。15時15分、宿泊予定の「SALCOMBE HARBOUR HOTEL & SPA」に着く。河口の南側、『ゼロ時間へ』におけるガルズポイントの場所あたりである。ありがたいことにホテル側が二つ用意してくれた一人部屋を、チェックイン係の方のご厚意で中田さんと私がその恩恵にあずかることになった。部屋にはシェリーとジン、レモンとライム、ミネラルウォーターと氷が置いてあった(後で聞くと、これは全部の部屋にあったそうだ)。


Salcombeの入江

 16時15分、部屋に荷物を置き、全員で付近を散策する。狭い道路に観光客向けのお店がひしめきあっている。まずは夕食の場所の確保である。前もって候補として選んだ数件のレストランを実際に見て雰囲気などを確かめた結果、「Fortescue」というパブ風レストランに決める(『ポケットにライ麦を』に同じ名前の人物が登場する)。17時半に予約する。それまでは、散歩組とお土産組に分かれて時間をつぶす。散歩組は入江の奥の方に向かって歩く。ちょうど引き潮で海水がなく、ヨットが土の上で傾いている光景は、ちょっと哀しい。『ゼロ時間へ』の犯人はこの引き潮を利用したのだったかな? 帰ったら再読しなくてはいけないなと心に誓う(まだ実行していない)。入江の奥の手前にあるカニ工場(レストランも併設)まで歩いて、「Fortescue」に戻る。さて夕食である。食べた料理は、Salcombe Crab Salad、Seafood Chowder、Fresh Fish and Chips、Coleman's Pork Sausagesである。いずれも美味しく、にぎやかに食して、お腹いっぱいになったのであった(註:Fortescueとはその昔のデヴォン州長官の名前だそうで、古い州旗が店に掲げてあった)。
 夕食後ホテルに戻り、清水・戸塚組のお部屋に全員集合して、数藤さんから今回の旅行記作成計画のお話を拝聴する。解散後は部屋に備え付けのエスプレッソ・マシーンで、ジョージ・クルーニーになった気分を味わう。ただしシャワーには困った。蓮の花みたいなシャワーヘッドが頭上に固定されていて、取り外しができない。さらにシャワーは固定の椅子に座って浴びるのである。バスタブがないため湯が四方に飛び散り、おまけに仕切りカーテンが短いので周囲は水浸しになった(他の評価は良く、ホテル全体としての印象は上位です)。しかし、その他は万事問題なく、一人部屋で、"終りある夜に眠りつく"のであった。


元に戻る