生家アッシュフィールドの跡地に立って(6日目後半)   蓮田あき

 見学を終え入り口近くのショップ付近でおしゃべりをしていると、早々マイクロバスの運転手さんが現れ、予定の14時半前にはグリーンウェイを後にした。田舎の曲がりくねった細い道を下り、セント・メアリー教会に到着。グレーの自然石を積み上げたひなびた趣のある教会だ。クリスティが寄進したステンドグラスは裏口のすぐ目の前にあったが、平日のため中から見られないので裏側から確信のないまま見学した。正面入り口に、クリスティ週間には公開するというポスターが貼ってあった。その後、田園風景を垣間見ながらトーキーへ戻る。車窓から新婚旅行で泊まったグランド・ホテルを見て中心街で信号待ちをしていると、「アーまた」の声、目前の横断歩道をクリスティ・ファンのドイツ人が横切るのを発見。彼とは昨日の博物館から3回目の出会い。トーキーでのクリスティ繋がりの偶然に驚いた。


      チャーストンのセント・メアリ教会   クリスティが寄贈したステンドガラスのある窓


トーキーのグランド・ホテル

 車は坂を登り、アッシュフィールドのプラークを見に行く。その地点に近づくと道は二股に分かれ「この先……」と数藤さんのとっさの一言もドライバーには耳に入らず(日本語だった)反対の道へ。運転手は通りがかりの男性に聞き、やはり来た道を引き返した。
 なだらかな坂の頂点に一畳ぐらいの生け垣をバックに一抱えほどの石にはめ込んだプラークを確認。なんと教えてくれた男性が先にいて指をさしてくれていた。プラークの後ろには、木々がほとんどない広々としたなだらかな起伏の土地に、フラット3階建ての集合住宅と近代的な小振りな住宅が数軒あった。ロンドンのような古い建物はなく、伝記に出てくるアッシュフィールドでの暮らし振りはなかなか思い浮んでこないが、ここがクリスティの少女時代の世界だったと不思議な気がした。手前の道路はゆるやかに下り、道のかなり先を眺めていた数藤さんは海を発見し、「クリスティは海が見えると言っていました……」と感慨深げな様子だった。


アッシュ―フィールドの跡地に建つ石碑

 それからご近所だったフィルポッツの住居捜しを開始。十人が歩道を右往左往。通りがかりの黒ラブをつれた女性に聞き、坂を下って左に折れまっすぐ行った先にプラークらしきものがあるとの情報を得て、またドーっと十人集団のバタバタ捜索開始。車を待たせているので気が気でない。新興住宅地を「ない!ない!」コール連発中、数藤さんの「また次回にー」でバスに戻るが、通り過ぎた脇道のはるか先にゴミ箱に隠れたプラーク発見。家は博物館で見た写真とは異なり、これもプラークのみだった。


イーデン・フィルポッツのブルー・プラーク

 車はその後、坂下にあるオール・セインツ・トァ教会に向かう。やはり平日のため洗礼を受けた証書は見られず、外観を見学した。


トーキーのオール・セインツ・トァ教会

 中心街に戻り、ピアが何だかどこだか分からない運転手に、結局プリンセス・ガーデンで降ろしてもらい、海に向かって歩き、難なくピアに到着。お疲れ組はピア両サイドのある椅子にドッカと座って動かず、その他は「行ってらっしゃーい」に送られ、クリスティがローラスケートをしたピアの先端まで、遙か遠くにインペリア・ホテルを眺めながら、潮風に吹かれウォーキング。戻ってお疲れ組と合流し、埠頭のお土産店を散策しながらデボンシャー・アイスクリームで小休止した。夕食のレストラン捜しとショッピングのため集合場所を決め一時解散。


    プリンセス・ピア                     遠くに見えるインペリアル・ホテル


プリンセス・ガーデンの噴水


クリスティの胸像                 街で見かけたポアロさん

 夕食は「キャメロット」とシーフード・レストランの二候補だったが、入り口に甲冑が飾ってあり『ポケットにライ麦』のパーシバル、ランス(ロット)もクリスティ繋がりと言う発言で、「キャメロット」に決定した。円卓ならぬ、つなげてくれた分厚い長テーブルをみんなで囲み、グリーンウェイでの興奮を話し合って楽しんだ。


キャメロットの料理                     キャメロットの料理(その2)

 帰りはお土産いっぱいで20分後のバス待ち組と、20分強の登り坂歩き組の二手に分かれる。五人と五人で誰が言うともなく競争スタート。歩き組は例のごとくSutoWalk1)で軽快な足運び。「きっとバスは遅れる」「同時に着いてもこちらはホテル側の車道だからバス停から渡る分有利」などと言い、背後からの車の音を時折気にしながら勝利の歓喜と共にホテル到着。
 ところがフロントに306号室の鍵がなく、「朝、確かに返した」「ありません」の繰り返し。キーボックスをのぞき、バックの中を確かめたりしていると、フロントの男性はふと思い出したように「Another lady……」と。「どういうこっちゃ???」とポカンとした面々。疲れて灰色の脳細胞もイマイチだが、「はよ、言わんかい!」と気付いた同室者。もう一人が鍵をもらい帰っていたのだ。その瞬間一同「えーっ!」とのけ反る。奥の手のタクシーを使い、気付かないうちに我々はすでに抜かれていたのだ!
  翌朝、「追い越す時、『先行っちゃうよー』と手を振ったのを気が付かなかったの?」と得意げな勝ち組トーク。「みんな悔しがるよ」「ほら、見て、必死で歩いているよ」「まさか私たちがバス賃より安いタクシーを使うとは思っていないはず」などと、車中の会話をばんばんと話され、更に女性運転手とのどっと笑い声が満ちた会話(悔しいので割愛)を楽しそうに披露。アレレ?! 「英語は全くダメなの」と豪語していたはずなのに、またまた目が点になった。


1)SutoWalk:時速5qで腕を前後にまっすぐ規則正しく振って、肩も揺らさず滑るように軽快に歩く(ポアロ好みだ)。誰も追い抜けない。それをメンバーがSutoWalk(Greenwayのゲストブックのサインのふりがなに従い)と命名した。


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