あこがれのグリーンウェイへ(6日目前半)   竹村モモ子

 当日は朝から晴れ。朝食は7時半から。広いダイニング・ルームに行くと、一番奥の二方が窓に面した明るい一角に10人分の席が用意された大きな丸テーブルの中央に「Reserved SCN Agatha Christie Fan Club Tour」と表示されていて、我々は一層浮き浮きした気分でイングリッシュ・ブレックファーストを楽しんだ。10時にマイクロバスでホテルを出発、予定通り10時半頃グリーンウェイのゲートに着いた。ところが手違いで駐車予約がされていず入場できないと言われ心配したが、我々を降ろしたマイクロバスが午後2時半に再び迎えに来ることで解決、無事入場できほっとした。
 グリーンウェイは、1938年にアガサ・クリスティのものとなった。クリスティはこの近くのトーキーで生まれ育ったので小さい時からこの家について知っていたそうである。グリーンウェイは、クリスティとその家族が休日を過ごすお気に入りの場所となり、クリスティのミステリー『死者のあやまち』や『五匹の子豚』に殺人現場として登場する。そして我らの数藤さんは1972年にクリスティに招待されここに一泊した。グリーンウェイは2000年にアガサ・クリスティの家族からナショナルトラストに寄贈され、改修されて2009年から一般公開されている。ゲートを入って受付棟の前で車を降り少し歩くと、ショップやレストランの棟があり見学の人々で賑わっていた。この建物は元厩舎だったとのこと。我々は本館やボートハウスの見学後ここでサンドイッチなどの昼食をとり、おみやげや記念品を買った。私はクリスティ作品のペーパーバックを二冊買ったところ記念のスタンプを押してもらえた。


グリーンウェイ・ハウスの正面

グリーンウェイ・ハウスの裏口

玄関前からダート川を見る

 私たちはショップからさらに進んでグリーンウェイ・ハウスの芝生の前庭に到着、決められた11時15分の入場まで前庭で写真を撮ったり、景色を楽しんだりして過ごした。グリーンウェイ・ハウスはダート河に突き出た岬の高いところにあり、前庭からも木立ち越しはるか下にダート河を望むことができる。邸内見学後、私たちは広大な庭の一部を散策したが、この9月初旬は思いがけず良い季節であった。色とりどりの花と色とりどりの実の両方を楽しむことができたのである。


 庭にあるマグノリア                          タイザンボク

イチイ                               金魚草

ダリア                               リンゴの木

 広い敷地に実に多くの植物(多分何百種か)、草、灌木、樹木、果樹が植えられ、自然な状態でよく手入れされていた。ごく一部を紹介すると――Magnolia数種(タイザンボク、白い花)、ダリア(色とりどりの花)、原種シクラメン(白、ピンクの花)、イチイ(赤い実)、バラの赤い実(ローズヒップ)、ヒぺリカム(赤い実と黒い実)、ガクアジサイ(黄色〜橙色の花)、シュウメイギク(Japanese Anemone、淡いピンクの花)、Elderberry(西洋ニワトコ、金属光沢の実)、キンギョソウ(濃いピンクの花)等々々々。
 グリーンウェイ・ハウスは外壁がクリーム色で緑の木立に良く映えていた。玄関ホールでスタッフから思いがけないことを聞いた。客間(Drawing room)のピアノは弾いてよいですよ、どうぞ弾いてください。
 確か玄関ホールから居間(Morning room) ⇒ 客間 ⇒ 書斎(Library)と進んだと思う。居間では、トップがガラスの嵌まった蓋になっている机に収められた沢山の時計や小箱など銀製品・陶器等小物のコレクションがすばらしく、見入ってしまった。沢山の銀製品……ひょっとして『アクロイド殺し』のシルバー・テーブル(銀卓)はこれではないか? 「英語で読む読書会」で銀製のテーブルと訳してしまったが、「silver(銀製品)を入れておくtable」ではなかったのかとの思いが湧いた。旅行の仲間が案内の方に聞いてくれたが、これはvitrine(陳列用ガラスケース)です、とのことでsilver tableという呼称に心当たりはないようであった。銀製品小物以外にも陶器やテーブルウェアなどのコレクションがガラス戸棚にぎっしりと詰め込まれていたのが印象に残っている。
 そして客間に到着。ソファーやテーブルは少し寄せられて見学者の通路スペースが設けられている。ピアノは装飾のある茶色のスタインウェイだった。クリスティが弾いたピアノである。まさかこのような機会があるとは思わず暗譜で弾ける曲もなく弾くべきでない、しかしこんな機会はない……と数秒の葛藤後、ピアノの上の数冊の楽譜からやさしそうなもの(チャイコフスキーの小品集)を選び厚かましくも弾いてみた。よく響くやわらかめの音色だったと思う。グリーンウェイで買ったガイドブックにクリスティの孫マシュー・プリチャードの言葉として、「クリスティは誰も聞いていないときにピアノを弾いた」とあるのをみつけ、私は彼女がシャイで本当にピアノを弾くのが好きだったのだと知りうれしかった。
 グリーンウェイは一日がかりで行ったのに、見落としたものが沢山あったのではないかと感じている。もう一度行って今度は二日くらいかけて家も庭もじっくり見てグリーンウェイ全体をじっくり味わいたい。


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