快天気のお墓参り(4日目前半)  戸塚美砂子

 パディントンからFirst Great Western鉄道に乗り一時間ちょっとで閑静なチョルジー駅に着く。降りる人も少ないのどかな田舎の駅舎風景。駅前から道を左に折れて、教会へと向かう。スカイブルーの空には雲一つなく、気温も25℃以上はあろうか、カラリと晴れ渡っている。手間と愛情をかけた花いっぱいのガーデニングが目を楽しませてくれる住宅街を見ながら早足で歩く。小学校の前を通り過ぎ、線路を跨ぐ高架橋を過ぎた頃、目指すセント・メアリー教会が見えてきた。


出発のパディントン駅                       到着のチョルジー駅

 駅から約15分。牛がのんびり草をはんでいる牧草地の隣。門を開けた時に帰って行った老人たちを除けば人っ子一人いない、こじんまりとした静かな静かな墓地である。そこにクリスティは眠っている。敷地の中には十字架・長方形・半円系など形も位置もバラバラで、ほとんどが傾いてしまっている墓石ばかり。整然さなど微塵もなく、ポアロなら絶対眉をしかめる雑然さであった。クリスティの墓は赤い煉瓦塀のそばにひっそりと建っていた。


        チョルジーのセント・メアリー教会の正面                    教会の裏側


アガサとマックスのお墓

 近くにはお約束どおりのイチイの木。墓石は1m以上の大きなものだが、やはりかしいでいて、亡くなってからの年月の長さを物語るかのよう。スーパーで買ったダリアの花を手向け、皆で手を合わせる。お参りする人はたぶん多くはないと思われるが、生前「静かなところで眠りたい」と言っていたクリスティの願いはしっかり叶えられていて、ここを埋葬場所に選んでくれた夫のマローワンに感謝する。
 「マローワンもここに葬られているのよね」「マローワンと再婚したバーバラは同じ墓に入れないのよ」などとやかましくしゃべる日本人十人。死後約四十年も経とうというのに、遠い日本からイギリスのこんな片田舎までわざわざお墓参りにくる酔狂な日本人のことを、墓の下で苦笑いでもしてくれていたら……と、しばしの間しんみり。この思いはクリスティに伝わったはずと勝手に信じこむ。それでも晴れ渡った空の青さにそんな感傷はさらりと消え、壊れかけた木造ベンチにカメラを乗せ、セルフで記念撮影とあいなったのである。
 さて、ほどよくお腹もすいた。クリスティに別れを告げ、田舎道を戻る。途中若い女性が騎乗した二頭の馬とすれ違う。駅に戻る道をはずれて左に折れ、このあたりにあるたった一軒のパブ「Morning Star」へ直行。ここで昼食がとれるとリサーチ済み。どんな料理があるのかしらと期待は膨らんでいた。喜びいさんで入ってみると月曜日はno foodとか! 非常にがっかりするも、他にいくところはない。やむなく席に着き、それぞれビールやジュースを頼む。持ちよったキットカットやドライマンゴー、柿の種がどれほどありがたかったことか。


           パブMorning Star                       月曜日は食事なしの看板

 一息ついたところでテームズ川見学に。パブでビールを飲んでいた老夫婦からの「Have a nice day!」の声を背中に受け店を出る。川まであとどれ程歩くのか、ここで私を含めた二名は疲労のため断念し、駅への道を選ぶ。以下はテームズ川見学組から訊きだした情報をまとめたもの。
 ≪15分程で川が見えてきた。通りかかったクルーザーから若い女性が手を振ってくれ皆がそれに応える。川幅は20mくらいだろうか、ゆるやかに流れる水はきれいで小さな魚が群れ泳ぐ。生い茂った樹々と川面に反射する光は、まるでカミーユ・コローの風景画を見るようだ。歩いてきたかいがあった、今度来るときは、このままテームズの川辺を歩いていき、ウインタブルック・ハウスの裏手に辿り着きたいものだと話しながら、次回(?)の旅の構想まで生まれた有意義な川見学となったのである≫
 むむっ。体力がなく脱落した自分が悔しい! でもこの後は大事な「マウス・トラップ」観劇が控える。後から考えるとこの自重は正解だった!


チョルジーを流れるテームズ川

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