今年もこんな季節になったんだね。
一面に広がる真っ赤な景色に目を細めながら雲雀は呟いた。
群れをなして咲く花ではあるが、嫌いではない。
鮮やかなまでの赤は飛び散る鮮血に似ているから。
麗しくも赤い光景に心を躍らせながら歩いていれば、見慣れた姿が目に入る。

赤い赤い中に紛れ込んだ、鮮やかな黄金色。

「あんな所で何をしてるの、あの人?」
あんな土手際に独りで足っているなんて危険すぎる。
驚異的な迂闊さで、あっという間に下まで転げ落ちてしまうだろうに。
世話が焼けると思いながら傍へと向かえば、いつもと様子が違う。
陽気さは成りを潜め、何かに思いを馳せているそんな姿…
そう、まるで夢の狭間に立っているかの様で…

声を掛けるのが憚れて、黙って見ていると、すっと足が動いた。
それは確信だった。
この人を行かせたら奪われてしまう!
誰にかは知らない。知る必要もない。
何にせよ、手放すつもりなんてないのだから。
手を伸ばし、その腕を強く掴む。
「何処に行くつもり?」
「恭弥…」
名を呼ぶ姿は未だに何かに囚われたままだ。
「そっちは駄目だよ」
「だけど…」

冗談じゃない。
僕が傍にいるのに、他のものに現を抜かすな。
僕から離れるなんて絶対に許さないから。
「転んだらどうするつもり?」
内心に吹き荒れる激しい思いとは裏腹に、(雲雀にしては)殊更優しい口調で促せば、漸くディーノの意識が戻ってきた。
「手間を掛けさせないで。ほら、行くよ」
その事に安堵しながら、そんな事はおくびにも出さずに腕を引っ張る。
一刻も早く、ここから離れなくては。
これ以上、ディーノが余計なものに引っかからないように。
「すまねーな、恭弥」
「謝るくらいなら、あんな所に立たないで」
「…Grazie」
「何か言う時は日本語使えって言ってると思うけど?」
今回は許してあげる。
あなたの事も―
あなたを連れて行こうとしたものの事も―
でも、次はないよ。
赤い華が諦めたように風に揺れるのが、目の端に入った。


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