クリストフォリはご存知の方も多いと思いますが、ピアノを発明した人です。 なので現代的な意味で「メーカー」ではないかもしれませんが、製作者であることは 個人でしようが、会社組織になっていようがかわらないので、やはり「メーカー」ということが いえると思いましたので、ここでとりあげてみました。
さてさて、クリストフォリは1655年にイタリアのパドヴァで生まれたようです。フィレンツェで
かの有名なメディチ家に仕えた楽器製作者、そしてメディチ家の楽器コレクションの管理者だったようです。
彼はおそらくチェンバロの弱点であった音量の変化ということに取り組んでいたのでしょう。
チェンバロの弦を引っ掻くということによって音を出すという機構から、ハンマーによって弦を叩くという
音の出し方へ変化させたのです。ピアノの特性を決定づける、このアクション機構が彼によって生み出されたので、ピアノ
の発明はクリストフォリということになっているのです。1709年のことでした。
1700年代のはじめといえば、まだバッハやヘンデルが20代のころです。バロック音楽が隆盛を極めて
いたころですね。ピアノはまだ300年の歴史しかもっていないのですね。
彼のピアノの特徴はいくつかありますが、僕も中をゆっくり見せていただいたことがないので
ものの本に書いてあったことを述べてみます。
まずハンマー。現代のピアノはフェルトをまいてありますが、彼のピアノは羊皮紙が7重に巻いた中が空洞のハンマー
をもっているようです。なので現代のピアノに較べると軽やかな典雅な響きがするようです。
そして、ハンマーアクション。おどろくことにほとんど現代のアクションの特性を全て備えているようです。
まずエスケープメント。これはハンマーが弦を叩いた後に響かせるためにすぐに弦からハンマーを離す機構です。
次にバックチェック。戻ってきたハンマーがはねかえって再度弦を打たないように次の打弦体制を整える機構です。
また、彼のピアノにはウナ・コルダまでついています。これは鍵盤を横にずらすことによって2本張られている弦の
片方のみ打弦するという機構です。考え方は現代のピアノとまったく一緒ですね。
側板は2重になっているようです。
外壁は弦を固定してその張力をささえる役目。中壁は響板を固定する役目をはたしているようです。これによって、
響板の振動を楽にしてあげる効果があるようです。
クリストフォリのピアノはその後、ジルバーマンやツンペなどへ引き継がれていきました。 そしてたった100年であのベートーヴェンやモーツァルトの美しいソナタが弾かれる楽器として 成長していくなんて誰が想像したでしょうね。
僕が急にクリストフォリについて書きたくなったのは、先日、クリストフォリの楽器のレプリカによる コンサートに行ったからです。昔の楽器のレプリカですから、やはり音が小さいだろうなと思い、 2列目で聴きました。もちろん音量は小さかったのですが、そのなんともいえない陰影のある響きが とっても美しかったのです。
音色はどちらかというとチェンバロ的でした。彼はこの楽器にクラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテと 名づけたわけですから、チェンバロの音が頭の中にイメージされていただろうことは想像できるところです。 しかし、チェンバロにはだせない何かがそのフレーズからは聴こえてきました。 そしてまた、現代のピアノが輝かしさのかわりに失ってしまったものをありました。
昔の楽器は総じて音が小さいです。現代のピアノは楽器の方からいやでも耳に入ってくるほどの 音量を発します。しかし昔の楽器は聴き手が向かっていかないと、そのメッセージを 受け取れない時が多いような気がします。聴き手が向かっていった結果、演奏者と聴衆が音楽を 共有していることをたしかに実感できる素敵な瞬間があります。そういった時、演奏者とは話したことがない場合でもなにか、とても 親近感がわきますよね。古典楽器の1つの楽しみはそういったところにあるような気がします。