私の愛器:1928年製のベヒシュタイン


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私が最初にベヒシュタインと出会ったのは、かれこれ20年くらい前に なります。当時20歳くらいだったのですが、都内大田区にベヒシュタインが 置いてあるサロンがありました。そこで行なわれたヴァイオリンとピアノのコンサートを 聴きにいく機会がありました。ベヒシュタインをサロン名に使っていたのですが、当時は 「ベヒシュタインってなに??」ぐらいでピアノの存在すら知らなかったです。 ただ、この時のピアノがすばらしく、なんとなく「ベヒシュタイン」という名前が 心の中に記憶されました。

ただ、私としてはやっぱりピアノはスタインウエイだなっていう気持ちがあって、 その後もいつかスタインウエイを持ちたいという気持ちをもっていました。 そして時が過ぎ、いままで使っていたヤマハを買い替えようということになったとき、 もう一度、「家で弾く」という前提でいろんなピアノを較べてみようと考えました。 アメリカやヨーロッパの一流メーカーのもので、日本にくるものはやはりスタインウエイが 圧倒的に多いのではないでしょうか。これは生産台数の関係もあると思います。 私も先程述べましたようにスタインウエイは大好きなピアノです。あの輝かしい音は スタインウエイしか出せないものなのでしょう。
ただ、いろいろなピアノを触っているうちに自宅で弾く(ウチはピアノの部屋は6畳しかありません) ということを考えると、スタインウエイは鳴りすぎるという感じがありました。 その時、記憶の底から「ベヒシュタイン」がよみがえってきました。 「そうだ、あの楽器なら自宅で弾くのにピッタリだ」ということに気づいたのです。 ただ、それからもザウターやプレイエル、ベーゼンドルファーなど魅力的なピアノを 弾きました。はっきりいってどれもこれもすばらしいピアノです。
しかし、どれか一つを決めなくてはならなくなったとき、私はやはりベヒシュタインを選びました。 なんといっても指先のほんの少しの圧力の掛け方で音色がかわり、そのまーるい音に魅了されてしまったのです。

ということで、私の愛器はベヒシュタインです。造られたのは1928年です。 よくいわれるベヒシュタインが世界大恐慌にあおられ苦境に立たされる少し前の黄金時代 最晩年のものです。
75年前のものなので現在のベヒシュタインとは弱冠設計が違うようです。

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外見的にはまず、今はみることができない6本脚です。当時はまだ3本脚にする 技術が難しいものとされていたようです。 また、譜面台もピアニストが音を良く聴くことができるようにとのことで 透かしになっています。たしかにこれは効果があります。特に高音部は よく聴こえるような気がします。ただ、強度的には弱いので 慎重に扱う必要があります。

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内部のつくりも現在とは少し違うようです。 例えばダンパー。私のピアノは現在のものよりダンパーが小さめです。 これはダンパーを小さくすることで消音する際に余韻を残すためだそうです。 弾いているとレガートとかはすごくやりやすいですが,歯切れのよさはありません。 勝手なイメージですがこれなんかは19世紀的な美意識な気がします。 現在のモダンなピアノは音の切れ味も重視されるので私のピアノよりもずっとダンパーが多きいです。 まぁなれてくるとベヒシュタインのもっている甘くて太い音がさらに堪能できるという感じはします。

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それと最近やめてしまった総アグラフの設計。現在のほとんどの ピアノはスタインウエイが考案したカポダストロバーで高音の弦をとめています。 このカポダストロバーは、鉄骨の部分で弦を押さえることによって弦の振動を 鉄骨につたえ、音量と華やかさをだすことを目的としているそうです。

ベヒシュタインは今まで、これをつかわずアグラフという音1つにたいして 1つの弦を止める部品(アグラフ)を高音まですべての音に対してつかっていました。 これによって余計な共鳴を防ぐことができ、ベヒシュタインの魅力の一つでる クリアーな音色を創ることができたといわれています。 ただ、現在は大ホールで大音量をだせなければというピアニストとニーズに 合わせて変わっていかざる得ないのかもしれませんね。

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古いピアノは現在のピアノよりも、より個性が強い気がします。私のベヒシュタインも派手では ありませんが、音がよくとおります。そしてかなりタッチに敏感です。ですのでレガートで弾く際は 本当に気をつけないと、すぐに意図したよりも大きな音が出てしまい、ガタガタになってしまいます。 ただ、うまく弾ければ非常に美しいのです。このへんがベヒシュタインは一部のピアニストからは 敬遠される原因かもしれません

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以前、1920年代に造られたスタインウエイを弾く機会がありました。これも本当にやわらかく、とろける ような音色を響かせていました。今のスタインウエイとは少し違う印象を受けました。 これらは調整の仕方もありますが、楽器のもっている個性も大きいと思います。

話がそれますが,日本のホールにもスタインウェイとヤマハ・カワイばかりでなくこういった 古い再調整されたピアノも含めていろいろな楽器を入れて欲しいですよね。 現在のスタインウェイももちろんすばらしい楽器で私も大好きです。
しかし、ヴァイオリンなどとのアンサンブルにはあまり向かないような気がするのは私だけでしょうか。 その輝かしく鳴り響く音はどちらかというとソロに合うような気がします。

日本人は右にならえが得意なのでスタインウェイを入れておけばとりあえずいいだろうという感じがしてしまいます。 ベヒシュタインやブリュートナー,ファツィオリ、イーバッハ,グロトリアン,プレイエルなどいろんな楽器が弾いたり, 聴けたりできたらなんてすばらしいでしょうか。そんな日を夢見ています。

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