遺言執行者がいる場合の相続人の処分行為等の制限

第千十二条  遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
と定めています。
このように包括的な権限を持っていますが、当然、「遺言の執行に必要な」行為に限定されます。
「遺言の執行に必要な」行為については遺言執行者の権限に属し、その反面、相続人の処分権はなくなるのです。
第千十三条  遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない
第千十四条  前三条の規定は、遺言が特定財産に関する場合には、その財産についてのみこれを適用する。





★何が遺言執行者の権限の範囲かは遺言事項によります。
以下では、特定物遺贈についての遺言執行者の権限について述べます。
特定物遺贈を執行するに際して、権利移転に関する、登記、登録、権利変動の通知などの法律行為を行なう必要があり、また、占有移転、引渡しその前提としての物の管理、保管などの事実行為を行なう必要があります。したがって、これらの行為は執行者が行い、その反面、相続人はその行為に反することができなくなる。
具体的には・・・・
・相続人は第三者に不動産を売買・抵当権設定などの処分をして登記を移転されることができない。
・相続人は目的物の賃料を受け取ることができなくなる。
・相続人が占有していてる場合、執行者に引き渡す必要がある。
・ただし、ここで問題になる相続人の処分行為等は、直接終局的な権利の変動を生ずるものに限り、債権的な行為は含まれないと解されています(我妻・唄297)。??????
・相続財産の管理としての性質をもつ事実行為(例えば家屋の改築など)も相続財産の現状を変えるものなので相続人は行えません(新注民28・補訂版・350)。



★問題点

@いつから相続人の処分権はなくなるのか?第千十三条の「遺言執行者がある場合」とは?
A・・・処分権がないのに、相続人が、処分した場合


@いつから相続人の処分権はなくなるのか


★遺言執行者が遺言で指定されていて就任を承諾した場合・・・・・・・・・・・・・
結論・・・・・・・・相続開始時にさかのぼって無効。
理由・・・・・・・・このように解さないと、遺言執行者が就任を承諾する以前に相続人が早々と相続財産を処分してしまって、遺言執行を無意味にするおそれがあるから。判例も同旨 遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前であつても、民法一〇一三条にいう「遺言執行者がある場合」に当たる。最判昭和62・4・23
なお、相続開始時と遺言執行者の就任時との間は、処分権者が存在しないと解されています(新注民28・補訂版・354)。催告権(民1008)がありますから、相続人が処分行為等を急ぐ時は、この催告権を行使すればよい。


★遺言執行者が遺言で指定されていても就任を承諾しなかった場合・・・・・・・・・・・
争いあり・・・・・・
@説・・・・・・「遺言執行者がある」ことになりませんから、相続人の処分行為等は初めから有効とする説。
A説・・・・・・遺言執行者の指定までした遺言者の意思は無視されてしまうことになるので、少なくとも遺言書に遺言執行者が指定されており、その人が就任を拒絶した後引続き遺言執行者選任の手続がとられたときは、遺言執行者が存在するとみて相続人の処分行為等は制限されるとみるべきであろう、との見解(新注民28・補訂版・354)。



★遺言執行者が家庭裁判所の選任にかかる場合・・・・・・・・・・
結論・・・・・・・・・民法1013条違反行為が無効となるのは、選任されたときから
遺言執行者が選任される前に相続人が行った処分行為は有効であり、さかのぼって無効とならない(最判昭和39・3・6
したがって、遺言で執行者を定めておく実益があります。

★遺言執行者が辞任・解任等で存在しなくなった場合・・・・・・・・・・・・・・・
相続人の管理処分権が復活し、特定物遺贈の目的物の処分以外の相続人の処分行為等は、以後完全に有効となります。名古屋高判昭和52年6月13日×判タ359・256は、上記の考え方に立つとみられる判例です(新注民28・補訂版・353)。



A制限違反行為の効果

絶対的無効(大審院からの判例の立場)

相続人が処分行為等の制限に反してなした行為は、「何人に対しても」無効を主張できる。最判昭和62・4・23
理由・・・・・・・・・・・「法は、遺言による財産処分と遺言執行者によるその公正な実現を優位においているものと解するのが相当であり、遺言執行者がある場合における相続人の処分行為は、無効なものとして取り扱うほかない」(魚中庸夫・最高裁判例解説<民事篇>昭和62年度276頁)


このように無効ですが・・・・・・・・・・・・
★動産の場合
即時取得の規定(民192以下)によって保護されます。
もっとも、何について、善意・無過失であればよいのか?
 第三者が目的動産が相続財産に属することを知らなかった場合・・・・・・や・・・・・・・・・属することを知っていても遺言執行者の存在を知らなかった場合・・・・・・・・・・・第三者が相続人の処分権に疑いを持つような状況があった場合を除いて過失があるとはいえず、即時取得を認めるべきと解されます。
 遺言執行者の存在を知っていた場合・・・・・・・・・・・・・・少なくとも過失はあるといわなければならず、即時取得の成立は否定されと解される(新注民28・補訂版・356以下)。

★遺産債務の弁済
遺産債務者が相続人に対して善意で弁済した場合には、478条の準占有者に対する弁済として保護されます(最判昭和43・12・20×判時546号)



★不動産の場合・・・・第三者については保護の規定がないので保護されません。(´・ω・`)ショボーン
「登記に公信力がなく、遺言及び遺言執行者があることの公示手段を欠き、遺言執行期間の制限もないわが国の法制のもとにおいては、相続人の処分行為の相手方である第三者が不測の不利益を被るおそれがあり、不動産取引の安全が害されかねない。」(魚住庸夫・前掲276頁)が止むを得ない。
したがって、相続人と取引しようとする第三者は、自分の側で遺言及び遺言執行者の存否、執行行為の終了の有無を慎重に調査しなければならない(新注民28・補訂版・355以下)。