★相続財産となるか(つまり、当然に遺産分割の対象となるのか)問題となりますが、
受給者が固有の権利として取得します。
つまり、相続財産にはなりません。
したがって、相続とは無関係であるので、相続放棄をしていても、受給者は受領する事が出来ます。
死亡退職金について・・・
遺族の誰に支給されるかについては、公務員の場合は、法律や条例で定められている。国家公務員等退職手当法11条によると、支給順位は、配偶者(内縁も含む)、子、父母、孫、祖父母の順になっている。このような定めのあるときは、遺族固有の財産であり相続財産に含まれない(特殊法人の死亡退職金につき、最判昭55.11.27 地方公務員につき、最判昭58・10・14)。
私企業・特殊法人等の法律によらず内部規定により退職金受給者が定まっている場合であっても相続財産に含まれない(最判昭60・1・31)。また、受給者を定める規定がない場合であっても、相続財産に含まれない(最判昭62・3・3裁集民150−305)。
以上のように、いずれの場合であっても、死亡退職金は受給者固有の権利であって、相続財産に含まれない。
遺族給付について・・・
法律により、これらの給付の受取人は、死亡したものと同じ生計で暮らしていた配偶者、子、父母などとその資格が決められており、給付を受ける順位も定められているのであるから、その受取人の固有の権利であり、相続財産ではない(遺族年金につき、東京高決昭55.9.10 、東家審昭55.2.12、大阪家審昭59.4.11 遺族年金の支給 厚生年金保険法58条59条、埋葬料の支給につき大阪地判平成3・8・29 国家公務員共済組合法63条)。
★相続財産とはなりませんが、相続に際して、死亡退職金・遺族給付を全く考慮する必要はないのでしょうか?
@受給者が共同相続人の1人である場合には、他の相続人との間で、不公平が生じてしまいます。
そのため、特別受益として扱い、平等を図るべきなのでしょうか?
死亡退職金について・・・特別受益としての持戻しについては、肯定(特別弔慰金につき、神戸家審昭43・10・9 家月21巻2号175頁、東京地判昭和55・9・19 家月34巻8号74頁)もあるが、否定(大阪家審昭和40・3・23 家月17巻4号64頁)の例が多い。
遺族給付について・・・特別受益としての持戻しについては、審判は、肯定(大阪家審昭51・11・25家月29−6−27、福島家審昭55・9・16家月33−1−78)、否定(東京家審昭55・2・12家月32−5−46)両例があるが、相続人間の実質的公平を検討しているようである。
私見・・・相続財産とは認められないが、死亡退職金・特別弔慰金には賃金の後払いとしての側面があるので、折衷説が妥当か。すなわち、原則として特別受益とはいえないが、例外的に具体的な事案を見て著しい不平等がある場合に限り、特別受益と考え持ち戻し計算により平等を図るべきか。
生命保険金請求権について、裁判所は「保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率,保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,特別受益に準じて持戻しの対象となる。」と判断しました最決平成16・10・29。
つまり、例えば、夫が死亡して、相続人として、妻・長男・長女がいる場合。
妻が受取人に指定されていて300万円の保険金を受け取る場合であっても、夫の財産として土地・建物・預金など合計1億円の遺産があり、妻が高齢で無職であり、他方、長男・長女は職に就き収入があり生活に困っていないという実態があれば、著しい不公平は認められないと思われます。この場合には特別受益の制度は考慮する必要はありません。
著しい不公平が認められるケースとしては、
例えば、夫が死亡して、相続人として、妻・長男・長女がいる場合。
長男が受取人に指定されていて300万円の保険金を受け取り、夫の財産は預金が合計100万円の遺産があるのみであり、妻が高齢で無職であり今後の生活が困難になることが予想されるが、他方、長男・長女は職に就き収入があり生活に困っていないという実態があれば、著しい不公平が認められると思われます。
この場合には特別受益の制度を考慮する必要があります。
特別受益については後のページで解説します。
特別受益財産として持戻べき金額は、受取人が取得した保険金金額×被相続人の払込保険料額÷保険料全額 として算定するのが通説です(大阪家審昭和51・11・25家月29・6・27)。また、遺留分の制度も問題なる可能性があります。
A受給者が相続人ではない場合には遺留分として考慮すべきか問題になります。
例・・・・夫が死亡して、相続人として、長男・長女がいる場合で、
相続人ではない夫の内縁配偶者が1000万円の死亡退職金を受け取った場合
遺留分の制度は問題にならないとする学説が多数説か